説明

微小径ワイヤボンディングの良否判定方法及び判定装置

【課題】従来の画像検査方法等では判定できなかった半導体デバイスやLEDデバイス等の微小径ワイヤボンディングの良否判定を、非接触で高精度に行うことができる方法及び装置を提供することを課題とする。
【解決手段】微小径ワイヤの接合部をスポット的に加熱する加熱用レーザー1と、微小径ワイヤの被加熱部より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度測定を行う2波長赤外放射温度計2と、2波長赤外放射温度計2による測定結果を基準となる加熱パワーにおける温度変移に補正した後、補正後の温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値とを比較することにより行うボンディングの良否を判定する補正演算判定手段4とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金素材等の微小径ワイヤボンディングの良否判定方法及び判定装置に関するものであり、より詳細には、半導体デバイスやLEDデバイスのような電子部品の製造に際して行われる、素子とリードフレーム間を接続する微小径ワイヤボンディングの良否を、その接合面積測定から判定するための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に金属間の接合方法は、接合材料同士が溶融して接合される融接と、接合材料は固体のままで、金属原子の拡散により接合される圧接と、接合材料は固体のままで、別のろう材を介して接合されるろう接、並びに、接着剤を介して接合される接着とに分類される。
【0003】
電子部品製造の際の微小径ワイヤボンディングについて考えてみると、電子機器の高性能小型化に伴い、電子部品の小型化と高密度実装が進み、それに伴って信頼性の高い高度な接合技術が要求されているが、この電子部品のような小物部品の接合には、主にハンダ付け(ろう接に属する)、超音波溶接ないし抵抗溶接(共に圧接に属する)、あるいは、接着が用いられている。
【0004】
従来、かかる微小な金属接合部位の良、不良を接合後に試験によって判断する方法としては、目視(特開平7−190992号公報等)、画像処理(特開2001−60605号公報等)、X線透過等による評価を行なう外観観察による方法(特開平9−80000号公報等)や、通電試験(特開2006−35237号公報等)、引張試験(特開平7−235576号公報等)、熱分布等による評価を行なう非外観観察による方法(特開2001−215187号公報等)等が知られている。
【0005】
しかるに、上記目視による評価法は、顕微鏡観察による方法であるため、熟練者による職人芸的な検査が期待できるが、個人差が大きく、品質の安定度や人員確保の点で問題があり、また、画像処理による評価法は、コンピュータ画像処理により位置や外観形状から良否を判断する方法であって、自動化することはできるが、接合状態の良否を外観で評価することはかなり難しいという問題がある。
【0006】
更に、X線透過による評価法は、X線透過により接合状態の良否を判断する方法であって、接合部位を直接観察することができるが、接合部位の良否を評価するためには、更に高い分解能が必要となる等の問題があり、また、通電試験による評価法は、実際に通電動作試験を行なう方法で、信頼性は高いが、接合状態の良否を判断するには、原理的に大電流を流さないと評価できないので、現実的な方法とはいえない。
【0007】
また更に、引張試験による評価法は、引張強度を試験する方法で、信頼性が高いが、破壊検査のため、全数検査ができないという問題があり、熱分布による評価法は、非破壊で検査できるが、熱分布と接合状態の相関性についての問題や、実用的な二次元熱センサが高コストである等、多くの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−190992号公報
【特許文献2】特開2001−60605号公報
【特許文献3】特開平9−80000号公報
【特許文献4】特開2006−35237号公報
【特許文献5】特開平7−235576号公報
【特許文献6】特開2001−215187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、上記従来の接合された微小な金属接合部の良否判定のための各種方法には、品質安定性や信頼性に欠ける、評価が困難、全数検査が困難、コスト高となりがち、といった問題があった。そこで、本発明はこのような問題のない、即ち、評価信頼性が高くて比較的低コストにて提供でき、従来の画像検査方法等では評価不可能であった微小径ワイヤの接合状態の良否判定が可能な、微小径ワイヤボンディングの良否判定方法及び判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、熱伝導量は接合部材間の接合密度や接合面積に比例することから、接合部位において、一方の接合部材から他方の接合部材へ移動する熱伝導量を測定し、その測定結果を分析すれば、微小径ワイヤボンディングにおける接合面積が得られ、その接合面積の如何により、当該接合状態の良否判定ができるであろうとの知見に基づき、本発明を完成させたものである。
【0011】
即ち、上記課題を解決するための本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定方法は、微小径ワイヤボンディングの良否を接合面積から判定する方法であって、微小スポット径のレーザーで微小径ワイヤの接合部を加熱する加熱工程と、前記微小径ワイヤの接合部における被加熱部より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度測定を行う温度測定工程と、前記温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する補正工程と、前記補正工程において補正された測定温度を基に、その補正後の温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値を演算し、これを、予め同様の工程によって得て記憶されている良品の温度変移ないし数値と比較することにより、前記微小径ワイヤボンディングの良否を判定する良否判定工程とから成るものである。
【0012】
そして、前記温度測定工程における温度測定は、前記被加熱部に大きな温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を測定するものであり、前記補正工程における補正は、前記温度測定工程において測定した温度変移を、レーザーの吸収率に関して補正する目的の基準となる加熱パワーでの温度変移に補正するものであり、前記良否判定工程における良否判定は、前記補正工程における補正後の温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、予め同様の工程によって得て記憶されている、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移ないしその温度変移から得られた接合面積と相関のある数値とを比較することにより行うものである。
【0013】
好ましい実施形態においては、前記加熱工程における加熱は、ワイヤ径以下の、例えばΦ20μmスポット径の加熱用レーザーによって行い、また、前記温度測定工程における温度変移の測定は、放射率を補正して微小領域の温度測定ができる2波長放射温度計により行う。一実施形態においては、画像処理による外観検査が併用される。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定装置は、微小径ワイヤボンディングの良否を接合面積から判定する装置であって、前記微小径ワイヤの接合部をスポット的に加熱する加熱用レーザーと、前記微小径ワイヤの被加熱部から放射される微少量の赤外線から放射率を補正して高速に温度測定を行う2波長赤外放射温度計と、前記2波長赤外放射温度計による測定結果をレーザーの吸収率に関して補正した後、その補正後の温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、予め同様の工程によって得て記憶される、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移ないしその温度変移から得られた接合面積と相関のある数値とを比較することにより、微小径ワイヤボンディングの良否を判定する良否判定手段とを備えて成る。
【0015】
好ましい実施形態においては、前記加熱用レーザーは、スポット径がワイヤ径以下のものとされ、前記2波長赤外放射温度計は、前記微小径ワイヤのウェッジボンド部及びボールボンド部を測定するための首振り機能を有する測定ヘッド部に担持される。
【0016】
更に、前記微小径ワイヤの接合部を測定位置に位置決めする移動手段を含んで構成されることがあり、また、画像処理による外観検査を行う画像処理装置を更に含むことがある。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定方法及び判定装置は上記のとおりのものであって、簡易な構成で取り扱いやすく、レーザー加熱時の吸収率の影響や赤外線放射量測定時の放射率の影響を無視できる方法であるため、接合部位の表面状態の影響を受けることなく、微小径ワイヤの接合部のボンディング状態の良否判定を高精度に行うことが可能であり、以て、半導体やLED等の微小径ワイヤの接合部のボンディングの評価及び信頼性の大幅な向上に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定装置の一部の構成を示す図である。
【図3】赤外線の波長と強さの関係を示すグラフである。
【図4】接合部の被加熱部における時間と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定方法は、その良否を微小径ワイヤの接合部の接合面積から判定するものであって、微小スポット径のレーザーで微小径ワイヤの接合部を加熱する加熱工程と、前記微小径ワイヤの接合部の被加熱部より放射される微少量の赤外線から放射率を補正して高速に温度測定を行う温度測定工程と、前記温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する補正工程と、前記補正工程において補正された測定温度を基に、その補正後の温度変移や、その温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移や、その温度変移から得られた接合面積と相関のある数値とを比較することによりボンディングの良否を判定する良否判定工程とから成る。
【0020】
また、本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定装置は、上記方法を実施するためのものであり、微小径ワイヤボンディングの良否をその接合部の接合面積から判定する装置であって、前記微小径ワイヤの接合部をスポット的に加熱する加熱用レーザーと、前記微小径ワイヤの接合部の被加熱部より放射される微少量の赤外線から放射率を補正して高速に温度測定を行う2波長赤外放射温度計と、前記2波長赤外放射温度計による測定結果をレーザーの吸収率に関して補正した後、その補正した測定温度を基に、その補正後の温度変移や、その温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移や、その温度変移から得られた接合面積と相関のある数値とを比較することによりボンディングの良否を判定する補正演算判定手段とで構成されることを特徴とする。
【0021】
以下に、本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定方法及び装置につき、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定装置の概略構成を示す図であり、該装置は、加熱用レーザー1と、2波長赤外放射温度計2と、好ましくは首振り機能を有していて光学系を含む測定ヘッド部3と、ボンディング状態の良否を判定する補正演算判定手段4とで構成される。好ましい実施形態においては、更に、ステージ5上に載置された半導体やLED等のデバイス30の微小径ワイヤ31における被検査部である接合部32を、正しく測定ヘッド部3の下に位置決めするためにステージ5をX−Y−Z軸方向に移動させる、図示せぬステージ移動手段を備える。
【0023】
加熱用レーザー1は、半導体やLED等のデバイス30における微小径ワイヤ31の接合部32をスポット的に加熱するためのもので、非接触で高速にパワー可変とオンオフ制御とを行い得る半導体レーザーを用いることが推奨される。この加熱用レーザー1からのレーザー光は、後述する測定ヘッド部3の光学系を経て集光されて、例えば、Φ20μmのスポット径となるようにされる。加熱用レーザー1は、微小径ワイヤ31の接合部32を、温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまで同一パワーで連続加熱する。
【0024】
温度変移測定手段としては、好ましくは2波長赤外放射温度計2が用いられ、2波長赤外放射温度計2は、加熱用レーザー1による接合部32上のスポット径部分、即ち、被加熱部より放射される微少量の赤外線から、非接触で高速に温度測定を行うものであり、その接合部32における被加熱部分に温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を測定する。この2波長赤外放射温度計2は、レーザー照射に伴う接合部32の被加熱部における温度変移を、接合部32における放射温度測定時の放射率の影響に起因する温度測定誤差を、実質的に無視し得る方法で測定するものである。
【0025】
この点について詳細に説明すると、図3に示すように、所定温度から発せられる赤外線の各波長とその強さが描く放物線状のカーブは、その温度が上昇するに従って、その最高強度を生じる点が短波長側にずれることは知られている。しかるに、従来技術において用いられていた放射温度計における測定は、全波長や特定の単波長を対象にし、この放物線が描く強度を赤外線の量としているため、放射率の影響を顕著に受け、結果的に正確な温度測定ができず、正しい良否判定を行うことができなかった。
【0026】
そこで本発明では、従来の放射温度計とは異なる2波長放射温度計2を用いることとする。この2波長放射温度計2は、特定の2波長(図3におけるλ1及びλ2)についての赤外線量のみを検出してそれらの比率を求め、その比率に対応する温度を検査部である接合部32の表面の温度として出力するものである。そのため、この2波長放射温度計2の場合は、接合部32における放射率の影響を受けるものの、2波長比率においてはそれが相殺されるので、その接合部32における放射率の影響を無視することができ、以て、正確な温度の測定が可能となるのである。
【0027】
測定ヘッド部3は、加熱用レーザー1から照射されたレーザーの光軸上にあって、例えば、そのレーザーを接合部32の表面で所定径に集光する集光レンズ11と、そのレーザーが照射された接合部32から発せられる赤外線を2波長赤外放射温度計2に向かわせるダイクロイックフィルタ12と、その赤外線を集光する集光レンズ13とから成る光学系を含む。また、測定ヘッド部3には、ボールボンド部(図2(A)参照)とウェッジボンド部(図2(B)参照)の双方の測定を可能にするために、適宜構成の首振り機能が組み込まれる。なお、通例、加熱用レーザー1と2波長放射温度計2は、この測定ヘッド部3に搭載される。
【0028】
制御コンピュータである補正演算判定手段4は、測定ヘッド部3における測定結果からレーザーの吸収率を補正して、その補正後の温度変移や、その温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移や、その温度変移から得られた接合面積と相関のある数値とを比較することにより、ボンディングの良否を判定する。この補正演算判定手段4は、接合部32の被加熱部において測定した温度変移を、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正する温度変移補正手段14と、基準となる加熱パワーが吸収されたとする良品が示す温度変移や、その温度変移から得られた接合面積と相関のある数値が記憶されたメモリ15と、補正後の温度変移と基準となる良品が示す温度変移や接合面積と相関のある数値を比較選別することにより、接合部32のボンディング状態の良否を判断する良否判定手段16とを備える。
【0029】
この補正演算判定手段4において、2波長放射温度計2により得られた温度変移が、熱容量の関係式から補正される。即ち、補正演算判定手段4においては、同じ構造で同じ材質の接合部32に同じ熱量を加えた場合には同じ温度になる、という熱容量の関係式に基づいての補正がなされる。そして、比較の対象である良品の基準となる加熱パワーと同量のレーザーによる加熱パワーが、接合部32に吸収された場合における温度変移を得る。これにより、接合部32と、比較の対象である良品との温度変移における基準が一致し、レーザー加熱時の吸収率の影響が除去された接合部32における温度変移が得られることになる。
【0030】
そして、良否判定手段16は、補正後の温度変移と、同様に基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移とを、温度変移の相違が接合部32の接合面積の相違に強い相関があるとの観点から比較選別し、その比較選別結果に基づいて、接合部32のボンディング状態の良否を判定する。
【0031】
次に、本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定方法を、その工程順に、より詳細に説明する。
【0032】
上述したように、本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定方法は、好ましくは、スポット径がワイヤ径以下の、例えばΦ20μmの微小スポット径のレーザーで微小径ワイヤの接合部を加熱する加熱工程と、その被加熱部より放射される微少量の赤外線から放射率を補正して高速に温度測定を行う温度測定工程と、温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する補正工程と、その補正した測定温度を基に、その補正後の温度変移や、その温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移や、その温度変移から得られた接合面積と相関のある数値とを比較することによりボンディングの良否を判定する良否判定工程とから成る。
【0033】
〈加熱工程〉
この工程は、接合部32を温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまで、同一パワーで連続加熱する工程である。この実施の形態における接合部32の加熱は、補正演算判定手段4からの指令に基づく、加熱用レーザー1によるレーザー照射により行われる。照射された所定波長のレーザーは、集光レンズ11によりスポット径がワイヤ径以下の、例えばΦ20μmとなるように集光されて、接合部32の表面に照射される。
【0034】
照射されたレーザーは、接合部32の表面において吸収され、熱に変換されることで接合部32の表面温度が上昇する。接合部32の表面温度が上昇すると、その熱が裏面側の接合面32aを通し、当該微小径ワイヤ31がボンディングされるリードフレーム33や回路パターン等に熱伝導される。その際、接合部32の温度は時間と共に上昇していくが、レーザーによる加熱量と熱伝導量が同一になった時点で、接合部32の温度上昇が停止する。加熱用レーザー1による加熱は、このように温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまで、同一パワーにて連続的に行われる。
【0035】
〈温度測定工程〉
この工程は、接合部32の被加熱部に温度変化がみられなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を、2波長放射温度計2によって測定する工程である。上述したようにこの2波長放射温度計2は、接合部32から放射される赤外線の測定を特定の2波長についてのみ行うもので、その特定の2波長についての赤外線量の比率を求め、その比率に対応する温度を接合部32表面の被加熱部の温度として出力する。
【0036】
赤外線量の測定時には、その赤外線が放射される部位の放射率の影響は避けられないが、この放射率はある温度の物体が赤外線を発するとき、その物体と同じ温度の黒体放射との比で表される。従って、従来の赤外線量を測定してその温度を求めていた赤外線放射温度計においては、その放射率を考慮しなければ、測定対象の正確な温度を測定することが困難であった。これに対して、2波長放射温度計2を用いる本発明では、特定の2波長における赤外線量を測定し、その比率から接合部32の表面の温度を求めるので、そのレーザー加熱された部位における放射率を相殺することができ、以て、その被加熱部の正確な温度を測定することが可能となるのである。
【0037】
〈補正工程〉
この工程では、接合部32の被加熱部において測定した温度変移を、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正する。即ち、2波長放射温度計2により得られた温度変移を、熱容量の関係式に基づき、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正する。このように補正することで、接合部32におけるレーザー加熱時の吸収率の影響に起因する加熱パワーの差を無視することが可能となるのである。
【0038】
本発明に係る方法は、接合部32のボンディング状態の良否を判定するものであるので、その前提として接合部が存在することが必要とされ、金属同士が接合されずに離間して接合部が存在しない、所謂断線の場合は対象外となる。この接合部を有するか又は断線しているかの判断は、2波長放射温度計2が測定する温度に基づいて判断することができ、その測定された温度が、熱容量の関係式により推測される所定温度以上の場合は断線であると判定し、測定を終了する。この断線か否かの判定は、レーザーが照射されている間に行われ、断線と判定された場合は、その時点でレーザー照射が停止するように設定される。
【0039】
レーザーの照射によって接合部32が熱せられるに伴い、微小径ワイヤ31側からその接合面32a側の、例えば、リードフレーム33へと多くの熱が伝導するため、適正に接合されている被加熱点の温度は低めになる。これに対して、その接合が十分ではない、例えば、微小径ワイヤ31とリードフレーム33とが離間して断線状態となっているような場合は、微小径ワイヤ31側からリードフレーム33側への熱の伝導がないために、接合部32の温度が急激に高くなる。このように接合部32の温度が急激に高くなると、その表面から放射される赤外線の量も急激に上昇する。従って、2波長放射温度計2により測定される温度が所定値以上の場合は、熱容量の関係式より断線であると判断できるのである。
【0040】
一方、2波長放射温度計2により測定された温度が所定値未満の場合は、微小径ワイヤ31とリードフレーム33とは離間しておらず、少なくとも両者は接合されているものとして、その2波長放射温度計2により得られた温度変移を熱容量の関係式に基づいて補正する。この補正は、レーザーを照射した結果として生じる温度変移は、接合部32の吸収率の影響が大きいという欠点を是正するために行うものである。即ち、この吸収率は、接合部32の表面状態が平坦だと小さく、粗いと大きくなり、その表面状態や形状によって大きく影響される。そのため、この補正が必要となるのである。
【0041】
この補正工程においては、その飽和温度は、同じ構造で同じ材質の被検査部に同じ熱量を加えた場合には同じ温度になるという熱容量の関係式から、接合部32と比較対象となる良品とにおいて、その基準を同一にする。即ち、比較対象となる良品の基準となる加熱パワーと同一の加熱パワーが吸収された場合における補正後の温度変移を求めることにより、レーザー加熱時の吸収率の影響が補正された温度変移が得られる。
【0042】
この補正手順としては、種々の手順が考えられる。例えば、レーザーによる加熱パワーの全てが基準となる加熱パワーとされた場合においては、接合部32の吸収率を求めた後に、温度変移をその吸収率で割ることが考えられる。具体的には、この場合の補正は2段階に分けて行い、第1段階において、熱容量の関係式から接合部32の吸収率αを求める。その吸収率αは、加熱量Qと吸収率αの積を接合部32の飽和温度Tで除した値が熱容量Cと等しくなる、という熱容量の関係式(C=αQ/T)から求めることができる。
【0043】
即ち、飽和温度Tは2波長放射温度計2により得られ、加熱量Qもレーザーの照射量であるので既知の値とできる。熱容量Cは接合部32の固有の値であり、微小径ワイヤ31とその接合部から成る被検査部における熱容量Cの値は、予め良品等を測定することにより求めておくこともできる。これらを上記式(C=αQ/T)に代入することにより、接合部32の吸収率αを求めることができる。そして、第2段階において、2波長放射温度計2により得られた温度変移をその求められた吸収率αで割る。このようにすることにより、良品と同様に、良品と同一のレーザーによる基準となる加熱パワーの全てが吸収された場合の補正後の温度変移を求めることができる。
【0044】
また、同じ構造で同じ材質の被検査部に同じ熱量を加えた場合、その飽和温度は同じになるという熱容量の関係式からすると、比較の対象となる良品と接合部32は同一構造であるので、比較の対象となる良品における吸収率が接合部32における吸収率と一致しない場合には、接合部32における飽和温度は良品のものと異なることになる。
【0045】
このことから、接合部32における飽和温度と良品における飽和温度との比を求め、その比を被加熱部の温度変移に乗じることにより、良品と同一の飽和温度を生じさせる接合部32における補正後の温度変移を求めることとしてもよい。即ち、良品における飽和温度を1とし、2波長放射温度計2により測定された飽和温度がその1になるように温度変移を補正するのである。
【0046】
2波長放射温度計2により得られた温度は、レーザーにより照射された全加熱パワーQに吸収率αを乗じた一部のエネルギーが吸収された結果生じた変化であるといえる。また、熱容量の関係式からすると、同一熱容量の被検査部に同一の熱量を加えた場合は同一温度になるのであるから、接合部32における飽和温度を、比較対象の良品における飽和温度と同一にすることにより、2波長放射温度計2により得られた飽和温度を比較対象の良品と同じにスケーリングすることになる。このことは、両者の吸収率を同一にすることにより、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正することと考えることができる。
【0047】
このような補正を行う補正工程により、比較対象の良品が示す温度変移とその基準を同一にし、レーザー加熱時の吸収率と赤外線放射温度測定時の放射率の影響のない補正後の温度変移を得ることができるのである。そして、この補正後の温度変移は、例えば、図4に示すように、時間の経過と共に温度が上昇し、レーザーによる加熱量と熱伝導量が同一になった時点で接合部32の温度上昇は飽和し、その変化が見られない状態となる。
【0048】
〈良否判定工程〉
この工程では、補正後の温度変移と、同様に基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移が比較選別され、その比較選別結果により、接合部32におけるボンディング状態の良否が判定される。この良否の判定は、接合部32における温度変移の相違が、接合部32における接合面積の相違に強い相関があるとの知見に基づいて行うものである。
【0049】
この点につき、図1における拡大部分を参照して説明すると、レーザーは接合部32を構成する微小径ワイヤ31のみを加熱しており、その加熱された微小径ワイヤ31と加熱されていない接合面32a側との間に温度勾配が生じ、破線矢印で示すように、微小径ワイヤ31から接合面32aを介してリードフレーム33に向かう熱の流れが生じる。このように、温度差のある物体間を流れる熱量は、熱伝導路の断面積である接合部32の接合面積と、温度勾配の積に比例する。
【0050】
即ち、微小径ワイヤ31から接合面32aを介してリードフレーム33に流れる熱量qは、その接合面32aの面積Sと、微小径ワイヤ31とリードフレーム33の温度勾配gradTとの積に比例する。因みに、このときの比例定数が所謂熱伝導率Kと呼ばれるもので、それは、物質の種類とその状態によって決まる物性値である。
【0051】
してみると、接合面32aの面積が微小径ワイヤ31からリードフレーム33に向かう熱量に影響を及ぼすことは明白であり、その熱量が異なれば加熱部位における温度変移も異なる。よって、レーザーにより接合部32に吸収された加熱パワーQが、比較の対象である良品の基準となる加熱パワーと同一であると補正された補正後の温度変移に基づいてその良否を判定するようにすることで、接合面32aの面積が既定値に達しない接合部32、あるいは、接合面32aの面積が規定値を超える接合部32を、ボンディング状態不良として分別することが可能となる。
【0052】
ここで、本発明では、接合部32の接合面積が適正な範囲のものを良品とする考え方を採るが、これは、接合部32の面積がそのまま、微小径ワイヤ31とリードフレーム33との接合強度や良質な電気伝導路を表すに外ならないからである。
【0053】
即ち、ハンダ付けのようなろう付けにしても、あるいは、ワイヤボンディングのような拡散接合にしても、熱伝導性の良い、即ち金属イオンの間を自由電子が行き交う一体化の状態(当然電気抵抗も小さい)になると、高い接合強度や良質な電気伝導路が得られる。しかし、接合面32aの一部にボイドや異物混入等のような一体化していない部分が存在する場合には、その分だけ接合強度や電気伝導路が弱いものとなる。従って、一体化している接合部32の接合面積を比較することにより、接合強度や電気抵抗の大小の検査が可能となるのである。
【0054】
なお、補正演算判定手段4のメモリ15には、予め、基準となる加熱パワーが吸収された良品が示す温度変移が記憶される。即ち、複数の正常なサンプルの接合部32に所定出力のレーザを照射し、その良品であるサンプルの温度変移を、同様に基準となる加熱パワーでの温度変移に補正し、得られた温度変移を基準となる加熱パワーでの良品が示す温度変移としてメモリ15に記憶させておくのである。ここで、基準となる加熱パワーは、全工程における温度変移補正工程における比較の対象となる良品におけるものとして、接合部32における温度変移を補正する際にも利用される。
【0055】
そして、この工程では、補正後の温度変移と、同様に基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移とが比較される。この温度変移の比較は、基準となる加熱パワーでの良品が示す温度変移の上限と下限をメモリ15に記憶し、接合部32における補正後の温度変移がこの上限と下限の間に存在するか否かによって行われ、補正後の温度変移がこの間に存在するとして選別されたものを良品とし、この間に存在しないとして選別されたものを不良品として、接合部32の良否を判定する。
【0056】
次いで、この判定方法の具体的な手順を説明するに、先ず、接合部32に必要最小限の接合面積を有しているサンプルの接合部32に、上記加熱工程と温度測定工程と補正工程とを実施し、図4に示すように、その温度変移を一方の限界カーブとしてメモリ15に記憶する。同様に、接合部32に必要最大限の接合面積を有しているサンプルの接合部32に、上記加熱工程と温度測定工程と補正工程とを実施し、その温度変移を他方の限界カーブとしてメモリ15に記憶する。
【0057】
その後の検査において、各検体の接合部32に対し、上記同様に上記加熱工程と温度測定工程と補正工程とを実施し、補正後の温度変移を得る。そして、これらの温度変移量の所定時間の積を比較選別し、補正後の温度変移量の所定時間の積が、図4における上側の限界カーブが示す温度変移量の所定時間の積と下限の限界カーブが示す温度変移量の所定時間の積との間に存在する場合には良品と判定し、この範囲から外れる場合には不良品と判定する。即ち、補正後の温度変移が、図4に示す限界カーブの間を通過する場合には良品と判定し、通過しないものを不良品と判定するのである。
【0058】
ここで、積を求める所定時間は、加熱し始めた時点から接合部32が飽和温度に達するまでの時間の全部又は一部であるが、いずれの場合も基準を同一にしているため、同一の時間的範囲である。そして、この所定時間は、温度変移の差が明確になる飽和温度に達して、図4の斜線が総て含まれることが好ましい。また、温度範囲は、飽和温度の半値以上であることが好ましい。というのは、背景温度ノイズの多い加熱当初の温度測定値を除くことにより、良否の判定精度を向上させることができるからである。
【0059】
以上説明したように、本発明に係る方法においては、接合部32の加熱された部分から測定した温度変移を、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正するので、被検査部と比較の対象となる良品との間に生じる吸収率の相違に起因する温度変移の相違を解消することができる。そして、その補正後の温度変移と、良品が示す温度変移を比較選別することにより、被検査部の良否を比較的高い精度で判定することが可能となるのである。
【0060】
また、レーザーを照射して接合部32を加熱し、そのレーザー照射部分の温度変移を2波長放射温度計2により測定することより、接合部32の表面状態や形状に関わらず、そのレーザー照射部分の正確な温度を測定することが可能となる。また更に、この正確に測定された温度変移を基準となる加熱パワーでの温度変移に補正することにより、レーザー加熱時の吸収率と赤外線放射温度測定時の放射率に影響されない補正後の温度変移が得られ、以て、その補正後の温度変移と、良品が示す温度変移を比較選別することにより、接合部32の良否判定精度の更なる向上が期待できる。
【0061】
上述した本発明に係る微小径ワイヤボンディングの良否判定方法は、単独で実施可能であるが、この方法を、画像処理による外観検査と組み合わせて実施することとしてもよい。その場合、本発明に係る方法は、画像処理による外観検査に先立って実施することとしてもよいし、画像処理による外観検査をした後に実施することとしてもよい。このように両検査方法を併用すれば、より信頼性のある半導体やLED等の製品を供給することが可能となる。
【0062】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。
【符号の説明】
【0063】
1 加熱用レーザー
2 2波長赤外放射温度計
3 測定ヘッド部
4 補正演算判定手段
5 ステージ
11 集光レンズ
12 ダイクロイックフィルター
13 集光レンズ
14 温度変移補正手段
15 メモリ
16 良否判定手段
31 微小径ワイヤ
32 ボンディング部
32a 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小径ワイヤボンディングの良否を、その接合部の接合面積から判定する方法であって、
微小スポット径のレーザーで微小径ワイヤを加熱する加熱工程と、前記微小径ワイヤの接合部における被加熱部より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度変移測定を行う温度測定工程と、前記温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する補正工程と、前記補正工程において補正された測定温度を基に、その補正後の温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、レーザーの吸収率に関して補正した基準となる良品が示す温度変移ないしその温度変移から得られた接合面積と相関のある数値とを比較選別することによりボンディングの良否を判定する良否判定工程とから成り、
前記温度測定工程における温度測定は、前記被加熱部に温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を測定するものであり、前記補正工程における補正は、前記温度測定工程において測定した温度変移を、レーザーの吸収率に関して補正する目的の基準となる加熱パワーでの温度変移に補正するものであり、前記良否判定工程における良否判定は、前記補正工程における補正後の温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値とを比較選別することにより行うものであることを特徴とする微小径ワイヤボンディングの良否判定方法。
【請求項2】
前記加熱工程における加熱は、スポット径がワイヤ径以下の加熱用レーザーによって行う、請求項1に記載の微小径ワイヤボンディングの良否判定方法。
【請求項3】
前記温度測定工程における温度変移の測定は、2波長放射温度計により行う、請求項1に記載の微小径ワイヤボンディングの良否判定方法。
【請求項4】
画像処理による外観検査を併用する、請求項1乃至3のいずれかに記載の微小径ワイヤボンディングの良否判定方法。
【請求項5】
微小径ワイヤボンディングの良否を、その接合部の接合面積から判定する装置であって、
前記微小径ワイヤの接合部をスポット的に加熱する加熱用レーザーと、前記微小径ワイヤの被加熱部より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度測定を行う2波長赤外放射温度計と、前記2波長赤外放射温度計による測定結果を基準となる加熱パワーにおける温度変移に補正した後、前記補正後の温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値と、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正した基準となる良品が示す温度変移ないしその温度変移から得られる接合面積と相関のある数値とを比較することにより行うボンディングの良否を判定する補正演算判定手段とで構成されることを特徴とする、微小径ワイヤボンディングの良否判定装置。
【請求項6】
前記加熱用レーザーは、スポット径がワイヤ径以下である、請求項5に記載の微小径ワイヤのボンディングの良否判定装置。
【請求項7】
前記加熱レーザーや前記2波長赤外放射温度計は、前記微小径ワイヤのウェッジボンド部及びボールボンド部を測定するための首振り機能を有する測定ヘッド部に担持される、請求項5又は6に記載の微小径ワイヤボンディングの良否判定装置。
【請求項8】
前記微小径ワイヤの接合部を測定位置に位置決めする移動手段を更に含む、請求項5乃至7のいずれかに記載の微小径ワイヤボンディングの良否判定装置。
【請求項9】
画像処理による外観検査を行う画像処理装置を更に含む、請求項5乃至8のいずれかに記載の微小径ワイヤボンディングの良否判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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