説明

微小液滴吐出装置

【課題】常温または低温下で高粘度の液体を吐出させることが可能で、さらに分解・洗浄が容易な微小液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】吐出口が形成されているノズルプレート11と、一方を前記吐出口と液密に連結され、他方が開口端となる貫通孔を有し、外部から前記貫通孔に向かって液供給路が形成されているボディー部13と、前記開口端上に覆設されたダイヤフラム16と、前記ダイヤフラムの開口端側に前記吐出口に向かって連結されたポペット17と、前記開口端側の前記ポペットの反対側から前記ダイヤフラムに連結された駆動シャフト19と、前記ボディー部との間で前記ダイヤフラムを狭持すると共に、前記駆動シャフトを保持する駆動クランプを18有する微小液滴吐出装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗液や溶液等の流体を吐出する装置に関し、特に微小量の高粘性流体を常温若しくは低温状態のままで吐出する微小液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小量の液体の吐出は、精細な印刷といった表示技術や、マイクロカプセルといった医薬技術に有用である。従来微小液滴の吐出技術としては、インクジェットに関する技術が良く知られている。インクジェットは、インク供給管と吐出口を有する変形可能なインク室と、インク室の壁の外側に接着させたピエゾ素子を有する構成を有している。
【0003】
上記の構成でピエゾ素子を駆動させると、インク室の壁が高速で変形する。するとインク室の体積が縮小し、吐出口から変形量に応じたインクが吐出する(特許文献1参照)。
【0004】
また、バブルジェット(登録商標)に関する技術もよく知られている。バブルジェット(登録商標)は、インク供給管と吐出口を有するインク室の壁面の一部をヒーターで構成する(例えば特許文献2参照)。ヒーターで瞬間的に熱を与え、インク室中のインクを沸騰させる。沸騰したインク中に発生した気泡が吐出口から発生した気泡の体積分のインクを吐出させる。
【0005】
また、ディスペンサーと呼ばれる技術も知られている。ディスペンサーは、吐出口を有するシリンダと、シリンダ内側から吐出口を開閉する弁体から構成される。シリンダ内には吐出液が充填させられ加圧する。この状態で、弁体を開閉すると、液体は吐出口から押し出され、吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−045951号
【特許文献2】特開昭62−240558号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット技術に用いるインク室は、ピエゾ素子の駆動によって液滴を吐出する。しかし、ピエゾ素子の変形量は微小であり、変形時に発生する力も小さい。そのため、高粘度の液体の吐出は困難となる。つまり、使用できる液体の性状に制限が多い。また、インク室とピエゾ素子は接着等で一体的に形成されるため、使用中に分解洗浄ができない。またインクが吐出口に詰まった際の解消は困難である。さらに、インク室は変形可能で微小な構造体であるので、構成材料が限定されている。従って、医薬品などのようにpHの取りえる範囲が広い溶液は使用できないといった課題があった。
【0008】
バブルジェット(登録商標)技術では、インク室に瞬間的に与えられた熱によって、溶液が沸騰する。そしてその際に生じる微小な気泡で液滴を吐出させる。しかし、微小な気泡では、高粘度の溶液を吐出させるのに必要な運動エネルギーを得ることはできない。結果高粘度の溶液を吐出させることはできない。また、吐出させる溶液中にたんぱく質といった炭化水素系の物質が含まれる場合は熱で分解してしまう。また、熱硬化性の樹脂にも使用できない。もちろん、バブルジェット(登録商標)のインク室も、分解、洗浄、詰まりの解消は困難である。
【0009】
また、ディスペンサー技術に用いる吐出機構は、シリンダ内への加圧が溶液吐出の駆動力である。従って、吐出口が微小な場合は、高粘度溶液の吐出は困難である。また、内部の構造も入り組んでいるため液の滞留部も多く洗浄も容易ではない。さらに、微小かつ高精度、高繰り返し動作(高周期動作)も不得手である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みて想到されたものであり、常温または低温下で高粘度の液体を吐出させることが可能であり、さらに分解・洗浄が容易な微小液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【0011】
より具体的には、
吐出口が形成されているノズルプレートと、
一方を前記吐出口と液密に連結され、他方が開口端となる貫通孔を有し、外部から前記貫通孔に向かって液供給路が形成されているボディー部と、前記開口端上に覆設されたダイヤフラムと、前記ダイヤフラムの開口端側に前記吐出口に向かって連結されたポペットと、前記開口端側の前記ポペットの反対側から前記ダイヤフラムに連結された駆動シャフトと、前記ボディー部との間で前記ダイヤフラムを狭持すると共に、前記駆動シャフトを保持する駆動クランプを有する微小液滴吐出装置を提供する。
【0012】
また、前記ダイヤフラムと前記駆動シャフトはネジ構造で連結されており、前記ダイヤフラムには同心円上には、前記駆動クランプと固定されるための複数の固定用孔が形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、吐出口を有するインク室内で微小振動するポペットによって高粘度の溶液も見かけ粘度が低下して高粘度の溶液も吐出可能となる。また、吐出された溶液による陰圧でインク室が溶液を吸引するので、インク室に対して溶液を加圧する必要がない。また、加熱される部分がないため、高温で分解する溶液も使用することができる。また、駆動部とダイヤフラムとインク室を組み上げて構成するので、分解は容易にできる。また、インク室と駆動部分が分離されているので、洗浄も容易にすることが出来る。
【0014】
また、ダイヤフラムは駆動シャフトとネジ構造で連結されており、ダイヤフラム上に同心円状に配置された固定孔の留め付け位置を変えることによってネジ構造との間でピッチ調整ができ、ダイヤフラムのインク室側に突設されたポペットの位置調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の微小液滴吐出装置の全体構成図である。
【図2】ダイヤフラムの平面図である。
【図3】微小液滴装置の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、本発明の微小液滴吐出装置の断面構成を示す。本発明の微小液滴吐出装置1は、ノズルプレート11と、ボディー部13と、ダイヤフラム16と、ポペット17と、駆動クランプ18と、駆動シャフト19を含む。
【0017】
ノズルプレート11は、吐出口12が形成されている。吐出口の径は、利用する目的で適宜決めることができる。しかし、本発明は微小量の液滴の吐出が目的であるので、0.001乃至1.0mmの内径を有する吐出口12を設けるのが望ましい。図1では、吐出口12は1つの場合を示しているが、複数個設けられていても良い。
【0018】
また、ノズルプレート11の形状は、図1では、円形平板を想定しているが、これに限定されるものではない。ノズルプレート11は、溶液室20を形成する壁の一部を形成するので、液密性を確保できるように、硬度が高く、表面を鏡面に加工できる材質が望ましい。例えば、SUS材が好適に用いられるが、真鍮やエンジニアプラスチックを利用することもできる。
【0019】
ボディー部13は、溶液室20を構成する基本となる部材である。ボディー部13は、円筒形の上面と底面の間に、貫通孔が形成されている。貫通孔の内径は数mm程度が好適である。ノズルプレート11と液密に固定される底面側には、液密を確保するために、Oリング溝が形成されている。Oリング溝にはOリング14を配置し、ノズルプレート11が液密に連結される。なお、高粘度の溶液や、ノズルプレート11とボディー部13の底面の仕上げ状態では、Oリング溝およびOリングがなくてもよい場合もある。Oリングがなくても、液密が確保できるからである。
【0020】
貫通孔には、円筒側面側から溶液供給路15が形成されている。溶液供給路15の内径は1mm程度の大きさで形成される。溶液供給路15の外部には、溶液供給口21が形成される。溶液供給口21には、溶液供給タンク(図示せず)からの供給パイプ等が連結される。なお、貫通孔には、溶液供給路15の他に溶液排出路(図示せず)を設けても良い。吐出する溶液の滞留を回避するためである。
【0021】
ボディー部13にはダイヤフラム16が、貫通孔に蓋をするように配置される。貫通孔上に覆設されたダイヤフラムと、ボディー部13の貫通孔の内壁と、ノズルプレート11で囲まれる空間が溶液室20となる。
【0022】
ダイヤフラム16のインク室側(貫通孔側)には、ポペット17が設置されている。すなわち、ポペット17は、溶液室20内に突設されている。従って、ポペット17の先端はノズルプイレート11に対向する位置に配置される。ポペット17の先端とノズルプレート11との間の間隔は、用いる溶液の粘度で適宜調節される。本発明の微小液滴吐出装置1では、このポペットが溶液室20を構成する貫通孔の長さ方向に振動する。
【0023】
ポペット17に振動を与えるのはダイヤフラム16である。従って、ダイヤフラム16は、曲げ応力につよいエンジニアリングプラスチックであるPTFEやSUS、シリコン等が好適に用いられる。
【0024】
ボディー部13の貫通孔の内径は、ダイヤフラム16に連結されたポペット17の外径より大きく形成されている。貫通孔の内径とポペットの外径の隙間部分は実質的な溶液室20の容量になる。この部分の容量は用いられる溶液の粘度に応じて適宜変更されてよい。
【0025】
ポペット17はダイヤフラム16とは異なり、質量があり硬度を有する材質が用いられる。ポペット17の質量が小さい、若しくは柔らかい材質であると、高粘度の液を押し出す時にポペットが負けてしまい変形する場合がある。そうするとPZTから得たエネルギーが減衰してしまい、液を吐出できなくなる場合もあるからである。より具体的にはポペット17の比重は、液供給路から供給される吐出液の比重より重いことが好ましい。しかし、吐出液の粘度が低い場合は、液の比重より軽くてもよい。
【0026】
また、ポペット17は、吐出する液と相性のよい材質を用いるのがよい。例えば、吐出する液との親和性のよい材質であれば、液が高粘度であっても、溶液室20に液を引き込む作用が高くなるからである。吐出する液と親和性の高い材料が比重の小さい材料であった場合は、ポペット17の中心部と表面部で材質を変えてもよい。例えば、中心を鉄材で形成し、その周囲を樹脂でモールドすることでポペットを形成する等である。
【0027】
以上のように、ポペット17は、吐出液の種類によって様々な材質を選択することができる。そこで、ポペット17はダイヤフラム16とは別体で構成され、着脱可能にダイヤフラムに連結されるのが好ましい。吐出液の種類と性状によって適切なポペットを装着できるようにするためである。また、ポペット17は、吐出する液に直接触れ、しかも高速振動を行うので、液との磨耗が生じる場合もあり、容易に交換が可能であるのが好ましいからである。ただし、ダイヤフラム16とポペット17を一体的に成形することを排除するものではない。
【0028】
ポペット17を単一の材料で作製する場合は、磨耗しにくく、また対候性(対薬品性)に優れた材質が用いられる。具体的には、SUS材やTi、PTFE等が例示できる。モールド構造でポペット17を形成する場合は、中心材として、アルミニウム、銅、鉄、鉛といった金属材を吐出液に対して選択された樹脂やゴム等でモールドすることができる。
【0029】
ダイヤフラム16のポペット17が連結された反対側には駆動シャフト19が連結される。駆動シャフト19は、ダイヤフラム16を介してポペット17を溶液室20の貫通孔方向に振動させる。駆動シャフト19は、積層型圧電素子(PZT)によって駆動される。強い駆動力を得るためである。この場合、駆動シャフト19自体をPZTで構成してもよいし、駆動シャフト19をSUS材等の剛性体で構成し、そのシャフトをPZTで駆動してもよい。
【0030】
駆動シャフト19は、駆動クランプ18で保持される。駆動クランプ18は、駆動シャフト19が駆動していない状態で静止するように保持されている。また、駆動シャフト19の駆動方向には駆動の自由度がある。また、駆動クランプ18と、ダイヤフラム16とボディー部13と、ノズルプレート11は、組み上げられボルト等で固定される。
【0031】
この構成により、溶液室20と、駆動シャフト19が配置される部分はダイヤフラム16で分離されている。従って、駆動クランプ18と、ダイヤフラム16とボディー部13と、ノズルプレート11は分解容易であり、また、それぞれは単純な形状の組み合わせであるので、洗浄も容易である。
【0032】
駆動シャフト19とダイヤフラム16の間は、ネジ止め25されている。このネジ部分のピッチでポペット17とノズルプレート11の間隔を調整することができる。図2は、ダイヤフラム16の平面図である。中央にはネジ部25が設けられ、取り付け用の孔26が同心円上に配置されている。例えば、図2には、16個の孔25が形成されている。ネジのピッチを0.5mm/回とすると、この取付用孔26を1つずらすことで、31.25μmだけポペットの位置を変更することができる。なお、細目ネジを使うことで、より微調整が可能となる。
【0033】
次に本発明の微小液滴吐出装置の動作について説明する。図3には、本発明の微小液滴吐出装置のポペット17の静置位置の場合(図3(a))と、ポペット17が駆動シャフト19によって突き出た位置にある場合(図3(b))を示す。駆動シャフト19は、積層型圧電素子によって上下に数μm〜百数十μmの幅で振動する。振動の周波数は数百kHzである。このインク室の中でのポペット17の比較的振幅長の長い高周波振動によって溶液は見かけ粘度が低下する。そして、ポペット17が振動している際に、静置位置になった時(図3(a))に、溶液供給口から溶液が供給され(31)、ポペット17が下方に突き出した位置になった時(図3(b))に、ノズルプレート11の吐出口12から溶液32が吐出される。
【0034】
再びポペット17が上昇した時には、溶液室20内が負圧となり供給されるインクに圧力をかけていなくても溶液室20に吸引される。そして、再びポペット17が降下し、溶液32が吐出される。
【0035】
以上のように、本発明は、駆動力のある積層型PZTでポペット17を溶液室20内で数μmから百数十μmという比較的大きな幅で振動させるので、溶液の粘度を見掛け上低くでき、高粘度の溶液であっても塗布することができる。また、溶液が沸騰するような温度を与えないので、高温で分解するような物質を含有する溶液であっても、吐出することができる。
【0036】
さらに、単純な形状をした部品を組み上げたものであるので、分解して調節等を行うのが容易である。また、溶液が吸引されるインク室と駆動する駆動シャフトは、ダイヤフラム16によって分離されているので、洗浄が容易にできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、印刷技術におけるインクジェットとして利用できるほか、溶液を加熱することなく、高粘度溶液の吐出が可能であるので、医療用の薬剤等の作製、配線パターンニング、不良チップのチェック用インカー、ICチップのアンダーフィルや樹脂モールド等に利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 微小液滴吐出装置
11 ノズルプレート
12 吐出口
13 ボディー部
14 Oリング
15 溶液供給路
16 ダイヤフラム
17 ポペット
18 駆動クランプ
19 駆動シャフト
20 溶液室
21 溶液供給口
25 ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口が形成されているノズルプレートと、
一方を前記吐出口と液密に連結され、他方が開口端となる貫通孔を有し、外部から前記貫通孔に向かって液供給路が形成されているボディー部と、
前記開口端上に覆設されたダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムの開口端側に前記吐出口に向かって設置されたポペットと、
前記開口端側の前記ポペットの反対側から前記ダイヤフラムに連結された駆動シャフトと、
前記ボディー部との間で前記ダイヤフラムを狭持すると共に、前記駆動シャフトを保持する駆動クランプを有する微小液滴吐出装置。
【請求項2】
前記ポペットは、前記ダイヤフラムに着脱可能に連結された請求項1に記載された微小液滴吐出装置。
【請求項3】
前記ポペットは、前記液供給路から供給される溶液より比重が重い請求項1または2のいずれかの請求項に記載された微小液滴吐出装置。
【請求項4】
前記ポペットは、内部と表面が異なる材質で構成された請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載された微小液滴吐出装置。
【請求項5】
前記ダイヤフラムと前記駆動シャフトはネジ構造で連結されており、
前記ダイヤフラムには同心円上には、前記駆動クランプと固定されるための複数の固定用孔が形成された請求項1乃至4のいずれか1の請求項に記載された微小液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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