説明

微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置

【課題】製造コストを低減することのできる微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を提供する。
【解決手段】微小物質検出センサは、光リング共振器を用いて微小物質を検出する。より具体的には、同一チップ内に、光リング共振器に加えて、光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる波長変化検出用手段が実装される。この波長変化検出用手段の典型例としては、分光手段が採用される。このような波長変化検出用手段をチップ上に配置することで、比較的高価な波長可変光源や分光装置を不要とすることができる。それにより、コストを抑制した、微小物質検出センサおよび当該微小物質検出センサを備えた微小物質検出装置を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物質を検出するための微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学デバイスを用いて微生物などの微小物質を検出するための微小物質検出センサが実用化されている。このような微小物質検出センサは、バイオセンサとも称されており、このセンサを用いることで、各種の微小物質の有無、その量、その種類などを検出することができる。このような微小物質検出センサの動作原理としては、光学デバイスの周囲に検出対象の微小物質(被検出物質)が付着することで、当該光学デバイスが示す光学特性が変化することを利用している。
【0003】
例えば、特開2008−304216号公報(特許文献1)には、光学デバイスとして光リング共振器を用いた物質検知装置が開示されている。このような光リング共振器を用いる場合には、その光リング共振器の周囲に微小物質が付着するように構成するとともに、光リング共振器での共振波長の変化を検出できるように構成される。この光リング共振器での共振波長の変化は、微小物質の付着によって光リング共振器の屈折率が変化することに起因している。特に、特開2008−304216号公報(特許文献1)には、波長選択性を有しない第1の光導波路と共振結合する位置に第2の光導波路を配置してマイクロリング共振器を形成するとともに、第2の光導波路に、検出対象の物質が入り得る孔を設ける構成が開示されている。
【0004】
また、特表2003−515737号公報(特許文献2)には、平坦な円筒状共鳴式光キャビティを有する共鳴式光学的検定構造体を有する高感度で高スループットの生物学的センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−304216号公報
【特許文献2】特表2003−515737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1および2に開示される装置では、被検出物質が付着することにより共振波長が変化するという光学的な特性を利用している。このような共振波長の変化は、入射する光波の波長を変化させたり、共振器を通過した後の光波を分光することでその中に含まれる波長成分を観測したりすることで検出される。
【0007】
しかしながら、照射される波長を変化することのできる光源(波長可変光源)や、光波を各波長に分離するための分光装置などは比較的高価であり、上述の特許文献1および2に開示されるようなセンサを用いた場合には、装置全体としてのコストが上昇するといった課題があった。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、製造コストを低減することのできる微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある局面に従う微小物質検出センサは、基板と、基板上に形成された、光源からの光波を伝搬する第1の導波路と、基板上に第1の導波路と近接して形成された、リング状の第2の導波路からなる光リング共振器と、被検出物質が光リング共振器と接触することによって生じる光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる、基板上に形成された波長変化検出用手段とを含む。
【0010】
好ましくは、波長変化検出用手段は、第2の導波路と近接して形成された第3の導波路と、第3の導波路と接続された波長分離手段とを含む。
【0011】
さらに好ましくは、波長分離手段は、第3の導波路と接続された入力ポートと、入力ポートから入力された光波を波長について分離して得られるそれぞれの光波を出力するための複数の出力ポートとを含む。
【0012】
好ましくは、微小物質検出センサは、波長変化検出用手段としても機能する光リング共振器を複数有しており、複数の光リング共振器は、互いに共振波長を異ならせるように設計されている。波長変化検出用手段は、複数の第2の導波路とそれぞれ近接して形成されるとともに、基板の外部に光波を導く複数の第3の導波路を含む。
【0013】
好ましくは、光リング共振器は、第2の導波路の周辺のみを生体修飾される。
好ましくは、光リング共振器は、被検出物質を含む物質が流れるための流路が第2の導波路に接触するように構成される。
【0014】
この発明の別の局面に従う微小物質検出装置は、基板と、基板上に形成された、光源からの光波を伝搬する第1の導波路と、基板上に第1の導波路と近接して形成された、リング状の第2の導波路からなる光リング共振器と、被検出物質が光リング共振器と接触することによって生じる光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる、基板上に形成された波長変化検出用手段と、第1の導波路の一方端に接続され、光波を発生する光源と、波長変化検出用手段から出力される光波を波長別に検出する検出部とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造コストを低減することのできる微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサに実装される波長分離部の実現例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置において光リング共振器を生体修飾するための構成を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置において光リング共振器の部分に被検出物質を含む液体を流すための流路を設けた構成を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサに含まれる光リング共振器における共振波長について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサに含まれる光リング共振器における共振波長の変化(シフト)の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサに用いられる垂直カップリング構造の光リング共振器を示す模式図である。
【図8】本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサに用いられる水平カップリング構造の光リング共振器を示す模式図である。
【図9】本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサに用いられる立体カップリング構造の光リング共振器を示す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態の第1変形例に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。
【図11】本発明の実施の形態の第3変形例に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態の第3変形例に従う微小物質検出センサに含まれる光リング共振器における共振波長について説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態の第4変形例に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。
【図14】本発明の実施の形態の第5変形例に従う光リング共振器の断面構造を示す模式図である。
【図15】本発明の実施の形態の第6変形例に従う光リング共振器の断面構造を示す模式図である。
【図16】本発明の実施の形態の第7変形例に従う光リング共振器の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
[A.概要]
本実施の形態に従う微小物質検出センサは、光リング共振器を用いて微小物質を検出する。特に、本実施の形態においては、同一チップ内に、光リング共振器に加えて、光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる波長変化検出用手段が実装される。この波長変化検出用手段の典型例としては、分光手段が採用される。このような波長変化検出用手段をチップ上に配置することで、比較的高価な波長可変光源や分光装置を不要とすることができる。それにより、コストを抑制した、微小物質検出センサおよび当該微小物質検出センサを備えた微小物質検出装置を実現できる。
【0019】
[B.装置構成]
図1は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。図1を参照して、微小物質検出装置は、微小物質検出センサ100と、微小物質検出センサ100に検出用の光を供給する光源110と、微小物質検出センサ100を通過した後の光を検出する検出部120とを含む。
【0020】
本実施の形態に従う微小物質検出装置は、微小物質検出センサ100に含まれる光リング共振器に被検出物質を接触/近接させることで、光リング共振器における共振波長の変化を観測することで、被検出物質を検出する。
【0021】
光源110は、微小物質検出センサ100における設計上の共振波長を含む所定の波長範囲を発生するように構成される。微小物質検出センサ100における設計バラツキなどを考慮して、ある程度のマージンをもった波長範囲を有する光源110を用いることが好ましい。一例として、光源110は、(ハロゲン)ランプ、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)、スーパールミネッセントダイオード(SLD:Super Luminescent Diode)、スーパーコンティニュアム光源などの広帯域光源が好ましい。
【0022】
本実施の形態に従う微小物質検出センサ100は、後述するように、波長別に光波を出力するので、それぞれの光波を波長別に検出するための検出部120が採用される。検出部120の一例として、フォトダイオード(PD)を含む複数の光検出器を用いて構成される。あるいは、複数のフォトダイオードが所定規則で配列されたフォトダイオードアレイや、CCD(Charged Coupled Device)などを検出部120として用いることができる。
【0023】
微小物質検出センサ100は、光リング共振器を含む。この光リング共振器は、基板10と、基板10上に形成された、光源110からの光波を伝搬する1次導波路12(第1の導波路)と、基板10上に1次導波路12と近接して形成された、リング状に形成されたリング導波路14(第2の導波路)とから構成される。
【0024】
被検出物質は、この光リング共振器(厳密に言えば、リング導波路14)の表面などに接触/近接するように構成される。すなわち、光源110が1次導波路12の一方端に接続され、この光源110が発生する光波をリング導波路14に導いて共振を生じさせるとともに、その共振波長の変化を検出する。
【0025】
微小物質検出センサ100は、さらに、被検出物質が光リング共振器と接触することによって生じる光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる、基板10上に形成された波長変化検出用手段を有する。本実施の形態においては、波長変化検出用手段として、リング導波路14と近接して形成された2次導波路16(第3の導波路)と、2次導波路16と接続された波長分離部18とを含む。
【0026】
後述するように、光リング共振器(リング導波路14)を循環する光波の一部は、2次導波路16を通じて、波長分離部18へ導かれる。波長分離部18は、2次導波路16を通じて入力された光波を各波長成分λ1,λ2,λ3,λ4,λ5に分離するとともに、それぞれの波長成分を複数の3次導波路21,22,23,24,25を通じて、それぞれ検出部120へ出力する。なお、図1には、一例として、5つの波長成分のみを図示するが、この波長成分の数は適宜設計することができる。分離する波長成分の数は、検出部120の仕様に応じて設計することができるが、フォトダイオードアレイの場合などには、16〜1024個の波長成分に分離するような構成を採用できる。
【0027】
各導波路は、波長選択性がなく、測定波長範囲の光波をなるべく低損失で伝搬することのできる導波路を用いることが好ましい。このような導波路は、主として、基板10の上に形成されたコア(相対的に屈折率の高い部分)と、コアの周囲に配置されたクラッド(相対的に屈折率の低い部分)とからなる。より具体的には、このような導波路を構成する材質としては、ガラス、サファイア、石英、光学樹脂といった光学的に透明な材料や、Si,GaAs,GaNといった半導体材料を用いることができる。なお、測定に用いる光の波長は、導波路の波長透過性能に応じて決定することもできる。すなわち、各導波路が透明である波長範囲内を測定波長に設定すればよい。
【0028】
[C.波長分離手段]
次に、図1に示す波長分離部18の構成について説明する。
【0029】
本実施の形態に従う波長分離部18は、基板10の上に実装可能な光デバイスであれば、どのような種類のものを採用してもよい。典型的には、光通信の波長分波/合波の用途として利用・提案されている光デバイスを用いることができる。
【0030】
一例として、波長分離部18としては、アレイ導波路回折格子(Arrayed Waveguide Grating:以下「AWG」とも称す。)、マッハツェンダ光干渉計を利用する構成、マルチモード干渉型(Multi-Mode Interference;MMI)導波路を利用する構成、フォトニック結晶を利用する構成、リング共振器を利用する構成などを採用することができる。以下の説明では、波長分離部18の実現例として、AWGを用いた構成について説明する。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサ100に実装される波長分離部18の実現例を示す模式図である。
【0032】
図2を参照して、波長分離部18は、2次導波路16と接続された入力ポートと、入力ポートから入力された光波を波長について分離して得られるそれぞれの光波を出力するための複数の出力ポートとを含む。より具体的には、波長分離部18は、2次導波路16を伝搬する光波を所定数に分割してそれぞれの光波を伝搬する入力側導波路群181と、入力側スラブ導波路182と、入力側スラブ導波路182と出力側スラブ導波路184とを接続する中間導波路群183と、出力側スラブ導波路184と、3次導波路21,22,23,24,25にそれぞれの光波を伝搬する出力側導波路群185とを含む。
【0033】
[D.光リング共振器による検出原理]
次に、光リング共振器を用いて微小物質を検出するための原理について説明する。光リング共振器では、所定波長を有する光波について、光導波路をリング形状として光波がそのリングを一周した後に位相が重なるように光路長を設定することで光共振を生じさせる。リング形状の共振器は、光導波路内での反射構造が必要ないため、構成を簡素化できるとともに、反射による光路損失が小さく効率の高い共振が得られるというメリットがある。
【0034】
光リング共振器を微小物質検出センサとして用いる場合には、光リング共振器へ光のエネルギーが集中する効果と、共振器近傍にある物質によって光リング共振器の共振条件がずれる効果とを利用することになる。光リング共振器において、光波は、光導波路の屈折率に幾何行路長を乗じた光路長(実効行路長)がその波長の整数倍と一致している場合のみに存在できる。この条件を満たさない場合には急激に光リング共振器内での光量が減衰する。
【0035】
そこで、光リング共振器の周囲に微小物質が付着した場合には、光リング共振器の共振条件がずれるため、この共振条件のずれを観測することで、周囲の媒質の屈折率変化を高感度に検出できる。言い換えれば、光リング共振器の周囲に微小物質が付着した場合には、光リング共振器における共振波長が変化することになる。
【0036】
次に、光リング共振器の周囲に微小物質を付着させる方法について説明する。たとえば、タンパク質といった生物学的な微小物質を被検出物質とする場合には、光リング共振器の周辺を生体修飾する方法、あるいは、光リング共振器の部分に被検出物質を含む液体を流すための流路を設ける方法などがある。これらの方法について、図3および図4を参照して説明する。
【0037】
図3は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置において光リング共振器を生体修飾するための構成を示す模式図である。図4は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置において光リング共振器の部分に被検出物質を含む液体を流すための流路を設けた構成を示す模式図である。
【0038】
図3を参照して、光リング共振器は、コア141およびクラッド142からなり、基本的には、コア141の表面に、被検出物質であるバイオマーカが選択的に吸着するように生体修飾しておく。すなわち、コア141の表面に生体修飾部143を設ける。この生体修飾部143は、典型的には、抗原抗体反応を利用して実現され、特定の種類のタンパク質のみを特異的に吸着する。
【0039】
図3に示すような構成に対して、被検出物質を含む検体を生体修飾部143の滴下すると、検体中の被検出物質のみが選択的にコア141の表面に吸着することになる。光リング共振器の光導波路であるコア141の表面に吸着した物質に向けて、光導波路を伝搬する光波(電磁波)の一部がしみ出ることによって、光導波路における透過屈折率がわずかに変化し、それによって、光リング共振器における共振波長も変化(シフト)する。
【0040】
また、図4(a)および図4(b)を参照して、光リング共振器のコア141に近接した部分に、被検出物質148が含まれる液体147を流すための流路146を設けてもよい。この場合においても、被検出物質148が存在することで、光導波路を伝搬する光波(電磁波)の一部がしみ出し、それによって、光リング共振器における共振波長が変化(シフト)する。
【0041】
なお、図4(a)に示すように、流路146の幅がコア141の幅に比較して狭くなるように構成してもよいし、図4(b)に示すように、流路146の幅がコア141の幅に比較して広くなるように(コア141の全体を覆うように)構成してもよい。
【0042】
さらに、コア141の表面に被検出物質であるバイオマーカが選択的に吸着するように生体修飾した上で、これらの生体修飾された部分に、被検出物質148が含まれる液体147を通過させるための流路を設けてもよい。
【0043】
本実施の形態に従う微小物質検出センサ100においては、光リング共振器を透過した光を上述したような波長分離部18で分光することで、光リング共振器の共振波長(共振スペクトル)を検出する。
【0044】
なお、光リング共振器以外の部分、特に、波長分離部18の部分に検体(被検出物質)を滴下または流すと、光リング共振器において共振波長が変化(シフト)するのと同様に、分光性能が変化する可能性がある。また、滴下した検体に含まれるバイオマーかのうち、波長シフト(波長変化)に寄与するのは、光リング共振器の表面に付着した成分のみであるから、生体修飾する部分や検体(被検出物質を含む液体)を滴下または流す部分を光リング共振器の周辺部分のみとすることが望ましい。
【0045】
このような方法の具体例としては、光リング共振器の部分のみを生体修飾する、被検出物質を含む検体は光リング共振器周辺のみに滴下する、光リング共振器の周辺に流路を設けてそこに検体を流す、光リング共振器以外はクラッドで保護し、検体を滴下しても波長分離部18における波長分光特性が変化しないようにする、といった方法を採用できる。
【0046】
このように、光リング共振器は、被検出物質がリング導波路14のリング形状に対応する一方の環状面の全部または一部に接触するように構成される。あるいは、光リング共振器は、被検出物質を含むがリング導波路14のリング形状に対応する内径面または外形面の全部または一部に接触するように構成される。あるいは、光リング共振器は、被検出物質を含む検体が流れるための流路がリング導波路14に接触するように構成される。
【0047】
図5は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサ100に含まれる光リング共振器における共振波長について説明するための図である。図5(a)に示すように、隣接して配置されている1次導波路12とリング導波路14との間の電磁的な相互作用によって、1次導波路12に入射した光波Iinの一部(κ1)は、リング導波路14に入射し、残りの光波(τ1)は、1次導波路12をそのまま透過した後に出力される(光波Itrans)。リング導波路14に入射した光波κ1は、その導波路内を循環する。さらに、リング導波路14に入射した光波κ1の一部は、リング導波路14と2次導波路16との間の電磁的な相互作用によって、光波Idropとして2次導波路16へ伝搬する。なお、リング導波路14と2次導波路16との間の相互作用によって、2次導波路16を伝搬する光波があれば、その一部(κ2)は、リング導波路14に入射する。
【0048】
1次導波路12に入射される光波Iinの光強度と、2次導波路16から出射される光波Idropの光強度との比(スペクトル)は、図5(b)に示すようになる。すなわち、図5(b)は、1次導波路12に白色光(広帯域光)を入射し(光波Iin)、2次導波路16から出力された光(光波Idrop)のスペクトルを観測したものである。この図5(b)においては、共振波長において、より強度の強い光波Idropが2次導波路16から出射される。このピーク波長は、FSR(Free spectral range)毎に生じる。すなわち、白色光のうち、光リング共振器の共振波長に対応する波長のみが、1次導波路12→リング導波路14→2次導波路16の順に伝搬して、光波Idropとして観測される。
【0049】
本実施の形態に従う微小物質検出センサ100では、これらのピーク波長の変化(シフト)を観測する。観測対象のピーク波長は、1つでもよいし、より精度を高めるために、複数のピークシフトの各々についてそのシフト量を観測してもよい。
【0050】
図6は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサ100に含まれる光リング共振器における共振波長の変化(シフト)の一例を示す図である。図6に示すように、被検出物質が光リング共振器と接触することによって、観測されるピーク波長は、Δλだけ変化する。変化量Δλは、検出対象の被検出物質の量や種類などに依存する。そのため、この変化量Δλの大きさを評価することで、被検出物質がどの程度の濃度(量)で存在するのか、および/または、どのような種類の被検出物質が存在するのかを測定することができる。
【0051】
上述したように、本実施の形態に従う微小物質検出センサ100においては、光リング共振器を透過した光波Idropを波長別に分離して得られた各成分を個別に取得できる。そのため、比較的高価な波長可変光源や分光装置を用いることなく、被検出物質が光リング共振器と接触することによって生じる光リング共振器における共振波長の変化を検出することができる。そのため、よりコストを低減した構成を用いて、被検出物質の濃度などを測定することができる。
【0052】
[E.光リング共振器の構造]
次に、光リング共振器の構造について説明する。
【0053】
上述したように、本実施の形態に従う微小物質検出センサ100において用いられる光リング共振器は、2つの光導波路をそれぞれリング導波路14と近接させた構造を基板10上に形成したものである。典型的には、以下のような構造を採用することができる。
【0054】
(e1:垂直カップリング構造)
図7は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサ100に用いられる垂直カップリング構造の光リング共振器を示す模式図である。
【0055】
図7(a)を参照して、垂直カップリング構造の光リング共振器では、リング導波路14の軸方向に沿って、1次導波路12および2次導波路16をそれぞれ近接配置したものである。この場合、図7(b)に示すように、リング導波路14の軸方向において、1次導波路12および2次導波路16の位置がリング導波路14のリングの位置と一致することが好ましい。
【0056】
なお、リング導波路14と、1次導波路12および2次導波路16との間の間隔gapは、導波路間の電磁的な結合量を考慮して、適切な値に設計される。
【0057】
(e2:水平カップリング構造)
図8は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサ100に用いられる水平カップリング構造の光リング共振器を示す模式図である。
【0058】
図8(a)を参照して、垂直カップリング構造の光リング共振器では、リング導波路14の半径方向に沿って、1次導波路12および2次導波路16をそれぞれ近接配置したものである。この場合、図8(b)に示すように、リング導波路14の半径方向において、1次導波路12および2次導波路16の高さがリング導波路14のリングの高さと一致することが好ましい。すなわち、1次導波路12、リング導波路14および2次導波路16は、同一平面上に隣接して配置される。
【0059】
なお、リング導波路14と、1次導波路12および2次導波路16との間の間隔gapは、導波路間の電磁的な結合量を考慮して、適切な値に設計される。
【0060】
(e3:立体カップリング構造)
図9は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出センサ100に用いられる立体カップリング構造の光リング共振器を示す模式図である。
【0061】
図9に示すように、1次導波路12と2次導波路16とが延伸する向きを非平行(典型的には、直交)とすることもできる。この場合には、1次導波路12が配置される平面と、2次導波路16が配置される平面とを互いに一致しないように構成することができる。但し、これらの導波路が同一平面上に形成されてもよい。
【0062】
[F.変形例]
(f1:複数の光リング共振器)
上述の実施の形態においては、1つの光リング共振器に対して、1つの波長分離部18が接続されている構成を例示した。本変形例においては、複数の光リング共振器が1つの波長分離部18を共有する構成について例示する。
【0063】
図10は、本発明の実施の形態の第1変形例に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。図10を参照して、本変形例に従う微小物質検出装置は、微小物質検出センサ100Aと、微小物質検出センサ100Aに検出用の光をそれぞれ供給する光源110_1および110_2と、微小物質検出センサ100Aを通過した後の光を検出する検出部120とを含む。
【0064】
微小物質検出センサ100Aは、複数の光リング共振器(図10の例では、2個)を含む。これらの光リング共振器は、基板10Aと、基板10A上に形成された、1次導波路12_1および12_2(第1の導波路)と、基板10A上に1次導波路12_1および12_2とそれぞれ近接して形成されたリング導波路14_1および14_2(第2の導波路)とから構成される。さらに、微小物質検出センサ100Aは、リング導波路14_1および14_2とそれぞれ近接して形成された2次導波路16_1および16_2(第3の導波路)を含む。
【0065】
図10に示す構成においては、それぞれの光リング共振器から出力される光波は、2次導波路16_1および16_2を通じて、波長分離部18へ入力される。
【0066】
図10に示す微小物質検出装置では、典型的には、被検出物質を含む検体が流れるための流路が複数の光リング共振器に亘って形成される。このように構成することで、それぞれの光リング共振器において実質的に同じ被検出物質を応じた共振波長の変化が生じる。そのため、波長分離部18に入射される光波の強度は、1つの光リング共振器を用いた場合に比較して、その個数倍となる。
【0067】
したがって、被検出物質に対する検出感度を高めることができる。
代替の構成として、共振波長の異なる複数の光リング共振器を設けることで、複数種類の被検出物質を含む検体であっても同時に検出することができる。
【0068】
なお、図10に示す構成において、各光リング共振器からの光を伝搬する2次導波路16_1および16_2と波長分離部18との間に、スイッチ機能をさらに設けて、いずれか1つの光リング共振器からの光波のみを波長分離部18へ導くようにしてもよい。
【0069】
その他の構成については、上述の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0070】
(f2:トラック型)
上述の実施の形態においては、光リング共振器を構成するリング導波路14(第2の導波路)として、円形のものを例示したが、これに限られない。たとえば、楕円(横長円)や真円と楕円との複合型といったものを採用することができる。
【0071】
(f3:透過光検出型)
上述の実施の形態においては、光源110から、1次導波路12、リング導波路14、2次導波路16の順に伝搬して出力される光波Idropを観測する構成について例示した。これに対して、光源110から1次導波路12を透過して出力される光波Itransを観測してもよい。
【0072】
図11は、本発明の実施の形態の第3変形例に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。図11を参照して、本変形例に従う微小物質検出装置は、微小物質検出センサ100Bと、微小物質検出センサ100Bに検出用の光をそれぞれ供給する光源110と、微小物質検出センサ100Bを通過した後の光を検出する検出部120とを含む。
【0073】
図12は、本発明の実施の形態の第3変形例に従う微小物質検出センサ100Bに含まれる光リング共振器における共振波長について説明するための図である。図12(a)に示すように、隣接して配置されている1次導波路12とリング導波路14との間の電磁的な相互作用によって、1次導波路12に入射した光波Iinの一部(κ)は、リング導波路14に入射し、残りの光波(τ)は、1次導波路12をそのまま透過した後に出力される(光波Itrans)。
【0074】
1次導波路12に入射される光波Iinの光強度と、2次導波路16から出射される光波Idropの光強度との比(スペクトル)は、図12(b)に示すようになる。すなわち、図12(b)は、1次導波路12に白色光(広帯域光)を入射し(光波Iin)、1次導波路12を透過した光(光波Itrans)のスペクトルを観測したものである。この図12(b)においては、共振波長において、入射光は光リング共振器(リング導波路14)と共振して、その中に取り込まれる。そのため、1次導波路12についての透過率が低下する。そのため、図12(b)に示すように、光リング共振器の共振波長に対応する波長において逆ピークが生じている。
【0075】
本変形例の形態に従う微小物質検出センサ100Bでは、これらの逆ピーク波長の変化(シフト)を観測する。観測対象のピーク波長は、1つでもよいし、より精度を高めるために、複数のピークシフトの各々についてそのシフト量を観測してもよい。
【0076】
その他の構成については、上述の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0077】
(f4:複数の光リング共振器)
上述の実施の形態においては、特定の共振波長を有する光リング共振器と波長分離部とを用いる構成について例示したが、互いに共振波長を異ならせるように設計された複数の光リング共振器を用いる構成を採用することもできる。
【0078】
図13は、本発明の実施の形態の第4変形例に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。図13を参照して、微小物質検出装置は、微小物質検出センサ100Cと、微小物質検出センサ100Cに検出用の光を供給する光源110Cと、微小物質検出センサ100を通過した後の光を検出する検出部120Cとを含む。光源110Cは、上述の実施の形態において説明したような、(ハロゲン)ランプ、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)、スーパールミネッセントダイオード(SLD:Super Luminescent Diode)、スーパーコンティニュアム光源などの広帯域光源ではなく、特定の波長成分を有するレーザ光が好ましい。
【0079】
微小物質検出センサ100Cは、設計された共振波長の異なる複数の光リング共振器を含む。共振波長を異ならせるためには、光導波路の屈折率を異ならせることもできるが、リング半径を異ならせることで実現するのが現実的である。
【0080】
これらの光リング共振器は、基板10と、基板10上に形成された、光源110Cからの光波を伝搬する1次導波路12(第1の導波路)と、基板10上に1次導波路12と近接して形成された、リング状に形成された複数のリング導波路141,142,143,144,145,146(第2の導波路)とから構成される。さらに、微小物質検出センサ100Cは、複数のリング導波路141,142,143,144,145,146とそれぞれ近接して形成された2次導波路161,162,163,164,165,166(第3の導波路)を含む。なお、光リング共振器の数については、多いほどその検出精度が高まるので好ましいが、コストおよびセンサのサイズなどから、適切な値が設定される。
【0081】
本変形例に従う微小物質検出装置においては、微小物質検出センサ100Cに含まれる複数の光リング共振器に被検出物質を接触/近接させることで、それぞれの光リング共振器における共振波長の変化を観測することで、被検出物質を検出する。
【0082】
被検出物質を含む検体が複数の光リング共振器のいずれにも共通的に付着されることが好ましい。たとえば、複数の光リング共振器に亘って、被検出物質を含む液体を流すための流路を近接配置する構成などを採用することが好ましい。
【0083】
上述したように、被検出物質が光リング共振器の表面または周辺に付着することで、当該光リング共振器の共振波長が異なるが、被検出物質の付着によって、その共振波長が変化(シフト)する。本変形例に従う微小物質検出装置においては、光源110Cとして、特定の光リング共振器における(設計上の)共振波長と実質的に同一の波長を有する光波を、1次導波路12を通じて入射し、いずれの光リング共振器において共振が生じているのかを観測する。以下、具体例について説明する。
【0084】
たとえば、光リング共振器(リング導波路141,142,143,144,145,146)が(設計上の)共振波長として、λ1,λ2,λ3,λ4,λ5,λ6をそれぞれ有しているとする。ここで、光源110Cから波長λ4(リング導波路144における共振波長と同じ)のレーザ光を入射することを考える。
【0085】
複数の光リング共振器の周辺に何らの被検出物質も存在しない場合には、この光源110Cからの光波(波長λ4)は、4番目の光リング共振器において共振を生じる。言い換えれば、光源110Cからの光波が1次導波路12を伝搬したとしても、4番目の光リング共振器以外の光リング共振器では共振を生じない。
【0086】
次に、複数の光リング共振器に対して検体(被検出物質)を滴下または流すと、それぞれの光リング共振器における共振波長が設計値から変化(シフト)する。そのため、4番目の光リング共振器の共振波長も変化し、光源110Cからの光波(波長λ4)では共振を生じなくなる。
【0087】
ここで、複数の光リング共振器の(設計上の)共振波長の間隔を被検出物質によって生じる変化量Δλと同程度に設計しておけば、すなわち、λ5=λ4+Δλと設計しておけば、この被検出物質の付着によって、5番目の光リング共振器において共振が生じる。すなわち、被検出物質が存在しない場合には、4番目の光リング共振器と接続されている2次導波路164を通じて光波が出力され、被検出物質が存在する場合には、5番目の光リング共振器と接続されている2次導波路165を通じて光波が出力されることになる。
【0088】
したがって、いずれの光リング共振器から光波が出力されるのかを観測することで、被検出物質がどの程度の濃度(量)で存在するのか、および/または、どのような種類の被検出物質が存在するのかを測定することができる。
【0089】
なお、光リング共振器の共振波長λ1(最小値)と共振波長λ6(最大値)との差が被検出物質を検出するべきレンジに対応するように、複数の光リング共振器の共振波長を設計することが好ましい。
【0090】
本変形例においては、被検出物質が光リング共振器と接触することによって生じる光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる波長変化検出用手段として、設計された共振波長の異なる複数の光リング共振器と、複数の光リング共振器を構成するリング導波路141,142,143,144,145とそれぞれ近接して形成されるとともに、基板10の外部に光波を導く複数の2次導波路161,162,163,164,165を含む。これらは、いずれも基板10上に形成されている。すなわち、本変形例においては、複数の光リング共振器は、波長変化検出用手段としても機能する。
【0091】
その他の構成については、上述の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0092】
(f5:しみ出し光波(電磁波)を増大させる構造1)
上述の実施の形態においては、一般的な光導波路を用いた光リング共振器について例示したが、以下のような特徴的な構造を有する光リング共振器を用いることで、より検出感度を高めることができる。
【0093】
図14は、本発明の実施の形態の第5変形例に従う光リング共振器の断面構造を示す模式図である。図14を参照して、本変形例に従う光リング共振器を構成するリング導波路14Aは、コア141とクラッド142とに加えて、コア141に隣接し、かつ、被検出物質を付着させる側に、その値がクラッド142の屈折率(クラッド材料の屈折率nclad)より高く、かつ、コア141の屈折率(コア材料の屈折率ncore)より低い屈折率を有する低屈折率層149(屈折率nLowN)が設けられている。
すなわち、以下に示す関係が成り立つ。
【0094】
core<nLowN<nclad
このような低屈折率層149を設けることで、コア141を伝搬する光波の電磁界成分を被検出物質が付着する側へしみ出させ、これにより、光リング共振器の共振条件をより大きく変化させる。
【0095】
なお、本変形例に従う光リング共振器では、コア141を伝搬する光波の電界振動方向が、コア141と低屈折率層149とを結ぶ方向と一致するように構成されることが好ましい。これにより、コア141から被検出物質へ向かう電界強度をより高めることができる。また、本変形例に従う光リング共振器では、シングルモード条件を満たすように、リング導波路14Aを設計することが好ましい。
【0096】
その他の構成については、上述の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0097】
(f6:しみ出し光波(電磁波)を増大させる構造2)
図15は、本発明の実施の形態の第6変形例に従う光リング共振器の断面構造を示す模式図である。図15を参照して、本変形例に従う光リング共振器を構成するリング導波路14Bは、コア141とクラッド142とから構成される。特に、本変形例に従う光リング共振器のリング導波路14Bのコア141は、光リング共振器のリング導波路14Bについてシングルモード条件を満たしつつ、コア141の断面形状を被検出物質が付着する側に薄くするように設計される。すなわち、コア141の断面形状は、コア141から被検出物質へ向かう方向と平行な方向の長さ(高さH)が、コア141から被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の長さ(幅W)と比較して、より短くなるように構成される。言い換えると、コアの高さHは、コアの幅Wよりも薄くなるように構成される。
【0098】
言い換えれば、コア141の断面形状は、(1)シングルモード条件、および、(2)高さH<幅Wとの条件のいずれをも満足するように設計される。
【0099】
このような構造を採用することで、光リング共振器の光導波路(コア141)による、光波の閉じ込め作用は、被検出物質が存在する側に相対的に弱くなり、電磁界漏れ成分を大きくできる。すなわち、光リング共振器を伝搬する光波の一部が被検出物質の側により多く「しみ出す」ことになる。このような「しみ出す」効果によって、被検出物質との間の相互作用が生じて、光リング共振器にける共振条件の変化量が増大し、その結果、検出感度を高めることができる。
【0100】
なお、コア141の断面形状は、上記の2つの条件に加えて、結合効率の観点から、アスペクト比(高さHと幅Wとの比)の大きさが所定範囲に制限されることが好ましい。
【0101】
その他の構成については、上述の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0102】
(f7:しみ出し光波(電磁波)を増大させる構造3)
図16は、本発明の実施の形態の第7変形例に従う光リング共振器の断面構造を示す模式図である。図16を参照して、本変形例に従う光リング共振器を構成するリング導波路14Cは、コア141とクラッド142とから構成される。特に、本変形例に従うリング導波路14Cのコア141は、光リング共振器のリング導波路14Cについてマルチモード条件を満たしつつ、コア141の断面形状を被検出物質が付着する側に厚くするように設計される。すなわち、コア141の断面形状は、コア141から被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の長さ(幅W)が、コア141から被検出物質へ向かう方向と平行な方向の長さ(高さH)と比較して、より短くなるように構成される。言い換えると、コアの幅Wは、コアの高さHよりも薄くなるように構成される。
【0103】
言い換えれば、コア141の断面形状は、(1)マルチモード条件、および、(2)高さH>幅Wとの条件のいずれをも満足するように設計される。
【0104】
このような構造を採用することで、光リング共振器の光導波路(コア141)による、光波の閉じ込め作用は、被検出物質が存在する側に相対的に弱くなり、電磁界漏れ成分を大きくできる。すなわち、光リング共振器を伝搬する光波の一部が被検出物質の側により多く「しみ出す」ことになる。このような「しみ出す」効果によって、被検出物質との間の相互作用が生じて、光リング共振器にける共振条件の変化量が増大し、その結果、検出感度を高めることができる。
【0105】
なお、コア141の断面形状は、上記の2つの条件に加えて、結合効率の観点から、アスペクト比(高さHと幅Wとの比)の大きさが所定範囲に制限されることが好ましい。
【0106】
その他の構成については、上述の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
[G.作用効果]
本実施の形態に従う微小物質検出センサによれば、同一チップ内に、光リング共振器に加えて、光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる波長変化検出用手段が実装される。この波長変化検出用手段の典型例としては、分光手段が採用される。このような波長変化検出用手段をチップ上に配置することで、比較的高価な波長可変光源や分光装置を不要とすることができる。それにより、コストを抑制した、微小物質検出センサおよび当該微小物質検出センサを備えた微小物質検出装置を実現できる。
【0107】
また、本実施の形態に従う微小物質検出センサによれば、リング共振器を通過した光波を外部の分光装置に入射させる必要がない。従来のように、外部に設けられた分光装置に光波を入射させる際には、光学アライメントが必要である。光学アライメントは非常に手間と時間を要する作業であるので、この光学アライメントの処理を省略できることは、コスト的に非常に有利となる。さらに、光学アライメントの不具合による、結合ロスに起因する信号強度(S/N比)の低下を回避できる。
【0108】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
10,10A 基板、12 1次導波路、14,14A,14B,14C,141,142,143,144,145,146,141,142,143,144,145,144 リング導波路、16,161,162,163,164,165,161,162,163,164,165,166,164,165 2次導波路、18 波長分離部、21,22,23,24,25 3次導波路、100,100A,100B,100C 微小物質検出センサ、110,110C 光源、120,120C 検出部、141 コア、142 クラッド、143 生体修飾部、146 流路、147 液体、148 被検出物質、149 低屈折率層、181 入力側導波路群、182 入力側スラブ導波路、183 中間導波路群、184 出力側スラブ導波路、185 出力側導波路群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された、光源からの光波を伝搬する第1の導波路と、
前記基板上に前記第1の導波路と近接して形成された、リング状の第2の導波路からなる光リング共振器と、
被検出物質が前記光リング共振器と接触することによって生じる前記光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる、前記基板上に形成された波長変化検出用手段とを備える、微小物質検出センサ。
【請求項2】
前記波長変化検出用手段は、
前記第2の導波路と近接して形成された第3の導波路と、
前記第3の導波路と接続された波長分離手段とを含む、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項3】
前記波長分離手段は、前記第3の導波路と接続された入力ポートと、前記入力ポートから入力された光波を波長について分離して得られるそれぞれの光波を出力するための複数の出力ポートとを含む、請求項2に記載の微小物質検出センサ。
【請求項4】
前記微小物質検出センサは、前記波長変化検出用手段としても機能する前記光リング共振器を複数備え、複数の前記光リング共振器は、互いに共振波長を異ならせるように設計されており、
前記波長変化検出用手段は、複数の前記第2の導波路とそれぞれ近接して形成されるとともに、前記基板の外部に光波を導く複数の第3の導波路を含む、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項5】
前記光リング共振器は、前記第2の導波路の周辺のみを生体修飾される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の微小物質検出センサ。
【請求項6】
前記光リング共振器は、前記被検出物質を含む物質が流れるための流路が前記第2の導波路に接触するように構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の微小物質検出センサ。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に形成された、光源からの光波を伝搬する第1の導波路と、
前記基板上に前記第1の導波路と近接して形成された、リング状の第2の導波路からなる光リング共振器と、
被検出物質が前記光リング共振器と接触することによって生じる前記光リング共振器における共振波長の変化を検出するために用いられる、前記基板上に形成された波長変化検出用手段と、
前記第1の導波路の一方端に接続され、光波を発生する光源と、
前記波長変化検出用手段から出力される光波を波長別に検出する検出部とを備える、微小物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−93165(P2012−93165A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239522(P2010−239522)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】