説明

微小試料片採取方法

【課題】 マイクロダイセクション装置により、生体成分を正確に保持した微小試料片を採取する方法を提供する。
【解決手段】 レーザ光を射出する光源と前記レーザ光源からのレーザ光を試料に照射するレーザ光照射用光源系を備えたマイクロダイセクション装置のレーザ光により容易に切断できる極めて薄い粘着性プラスチックフィルムを用いて、未固定非脱灰の新鮮試料から作製した凍結包埋試料ブロックから粘着性プラスチックフィルムに貼り付いた状態の薄切片を作製し、薄切片が貼り付いた粘着性プラスチックフィルムをガラス板に固定し、次いで、その薄切片が固定されたガラス板をマイクロダイセクション装置の試料台に固定し、マイクロダイセクション装置のレーザ光により目的部位の周囲を切断し、粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体の状態で目的微小試料片を採取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生命科学の分野に属し、レーザ光を射出する光源と前記レーザ光源からのレーザ光を照射するレーザ光照射用光源系を備えたマイクロダイセクション装置を用いて、生物試料から微小試料片を採取する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生命科学の研究では、特定細胞の遺伝子解析、微小領域の成分分析などを行うために、できるだけ生体内情報を保持した薄切片から目的とする細胞、組織のみの試料を採取する技術が重要になり、以下に述べるような方法により目的試料が採取されている。
【0003】
粘着処理を施していない薄いプラスチックフィルムに薄切片を密着させ、レーザ光を射出する光源と前記レーザ光源からのレーザ光を試料に照射するレーザ光照射用光源系を備えたマイクロダイセクション装置のレーザ光で、目的部位の周囲をなぞることでプラスチックフィルムごと薄切片を切断し、切断した領域にフォーカスをずらしたUVレーザ光を照射して、切断した試料片を弾き飛ばし、試料上方に配置した試料回収用粘着キャップに切断した微小試料片を貼り付けて回収する方法がある。
【0004】
また、IRレーザ光を照射した領域のみが接着するような接着フィルムのついた試料回収用接着キャップを薄切片上に載置し、目的部位にIRレーザ光を照射し、接着フィルム面に薄切片上の必要な領域のみを接着させることにより微小試料片を回収する方法がある。
【0005】
さらに、粘着処理を施していない薄いプラスチックフィルムをスライドガラス上に固定し、そのプラスチックフィルム上に薄切片を付着させ、スライドグラスのプラスチックフィルムを固定した面を下方に向け、レーザ光で薄切片上の目的部位の周囲をなぞることにより切断し、プラスチックフィルムと試料片が一体の状態でスライドグラスの下方に配置した試料回収チューブに落下させ、微小試料片を回収する方法がある。
【0006】
【特許文献1】特許公開2004−170930
【特許文献2】特許公開2003−161893
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、以上の微小試料片を採取する方法によれば、まずパラフィン包埋あるいは凍結試料から薄切片を作製し、次いで、マイクロダイセクション装置のレーザ光により薄切片の目的部位のみを切断し、切断した微小試料片を前述の方法で回収している。遺伝子解析あるいは成分分析用の試料採取用の薄切片としては、生体内情報を正確に保持した新鮮試料から作製した薄切片(例えば、凍結切片や凍結乾燥薄切片)が望ましいが、組織形状が保持された凍結切片を作製することが困難な試料(例えば、骨などの硬組織を含む試料、植物等)が多々ある。更に、マイクロダイセクション装置のレーザ光による切断に適した状態の凍結乾燥薄切片については作製することができない。結果として生体内情報を正確に保持した微小試料片を採取することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、生体内情報を正確に保持した微小試料片を安定的に採取できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、本発明は、レーザ光を射出する光源と前記レーザ光源からのレーザ光を試料に照射するレーザ光照射用光源系を備えたマイクロダイセクション装置のレーザ光により容易に切断できる粘着性プラスチックフィルムを、未固定非脱灰の新鮮試料を凍結包埋して作製した凍結試料の薄切面に貼り付けて、凍結ミクロトームにより組織の形状が保たれた凍結薄切片を作製する。
【0010】
次いで、前記凍結薄切片を凍結乾燥し、凍結乾燥した薄切片が貼り付いた前記粘着性プラスチックフィルムの両端をガラス板に固定し、次いで、ガラス板の粘着性プラスチックフィルムを固定した面を下方に向けた状態で、ガラス板をマイクロダイセクション装置の試料台に固定し、マイクロダイセクション装置のレーザ光により目的部位の周囲を切断し、粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体の状態で落下させ、目的試料片を回収する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、生体内情報を正確に保持した微小試料片を容易に採取することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
まず、前記マイクロダイセクション装置のレーザ光により切断できる極めて薄い粘着性プラスチックフィルムを凍結薄切片の支持材として用いて、凍結試料から凍結薄切片を作製する方法について順に説明する。
i)図1と図2に示すように、凍結ミクロトームの使用温度(例えば、−10℃〜−35℃)においても強い粘着力を有する粘着剤2(例えば、アクリル系粘着剤あるいはゴム系粘着剤等)を、極めて薄いプラスチックフィルム5(例えば、厚さ2μmのポリエステルフィルム)上に塗布して薄い粘着層(例えば、厚さ1〜3μm)を形成し、その上に粘着性プラスチックフィルム6を掴むための第二のプラスチックフィルム1を密着させて、粘着域3と非粘着域4を設けた粘着性プラスチックフィルム6の粘着域3を、図3に示す凍結ミクロトームの試料台に固定した凍結包埋試料ブロック7の薄切面に密着する。
ii)次いで、図4に示すように、その状態で所定の刃物10で薄切を実施することにより、図5に示すように、凍結した薄切片11を粘着性プラスチックフィルム6に貼り付いた状態で作製する。
【0014】
作製された粘着性プラスチックフィルム6に貼り付いた薄切片から、レーザ光を射出する光源と前記レーザ光源からのレーザ光12を試料に照射するレーザ光照射用光源系を備えたマイクロダイセクション装置により、次の第1実施例又は第2実施例により微小試料片を採取する。
【0015】
・第1実施例
第1実施例における、前記マイクロダイセクション装置による微小試料片の採取手順について、図6〜9を参照して順に説明する。
i)前述の手順で作製した凍結した薄切片11を凍結ミクロトームを設置している冷凍庫内で凍結乾燥し、次いで、凍結乾燥した薄切片を密閉容器に入れて前記冷凍庫から取り出す。
ii)冷凍庫から取り出した薄切片11が貼り付いた粘着性プラスチックフィルム6は、図6あるいは図9に示すように、薄切片11が貼り付いた面をガラス板13あるいはプラスチック板15に向けた状態で、ガラス板13あるいはプラスチック板15に粘着テープで固定する(但し、前述の方法が望ましいが、その半対側に向けて固定しても問題はない)。穴あきプラスチック板15に、薄切片11が貼り付いた粘着性プラスチックフィルム6を固定する場合は、図9に示すように、切断部位が穴の位置にくるように固定する。
iii)薄切片11が貼り付いた粘着性プラスチックフィルム6を固定したガラス板13又はプラスチック板15を、図6と図9に示すように粘着性プラスチックフィルム6が下側になるようにマイクロダイセクション装置の試料台に固定する。
iv)マイクロダイセクション装置のレーザ光12で、薄切片の目的部位の周囲をなぞることにより、薄切片の目的部位と粘着性プラスチックフィルムを切断し、試料片を粘着性プラスチックフィルムと一体となった状態で落下させ、目的試料片を回収する。
【0016】
・第2実施例
第2実施例における、前記マイクロダイセクション装置による微小試料片の採取手順について、図6〜9を参照して順に説明する。
i)前述の手順で作製した凍結した薄切片11を、薄切後直ちに凍結ミクロトームを設置している冷凍庫から取り出して解凍し、乾燥する。
ii)目的部位を同定するために、乾燥した薄切片に組織学的染色(例えば、トルイジンブルー染色等)、組織化学的染色、酵素組織化学的染色、あるいは免疫組織化学的染色等を行う。
iii)染色後、第1実施例のii)〜iv)と同じ手順で、薄切片11が貼り付いた粘着性プラスチックフィルム6をガラス板13又は穴あきプラスチック板15に固定し、マイクロダイセクション装置のレーザ光12で薄切片の目的部位の周囲をなぞることにより、薄切片11と粘着性プラスチックフィルム6を切断し、粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体となった状態で落下させ、目的試料片を回収する。
【0017】
上記の手順により、化学薬品(例えば、ホルムアルデヒド等)で固定されず、且つ脱灰液(例えば、酢酸、蟻酸等)により脱灰されていない新鮮な試料から作製した凍結包埋試料(例えば、未固定非脱灰の硬組織、脳、実験動物の全身、植物)から作製した粘着性プラスチックフィルム6に貼り付いた薄切片11から、前記マイクロダイセクション装置により微小試料片を採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 凍結薄切片を粘着支持するために使用する粘着性プラスチックフィルムの平面図。
【図2】 図1のI−I線に沿う断面図。
【図3】 凍結包埋試料ブロックの薄切面に粘着性プラスチックフィルムを貼り付けた状態の斜視図。
【図4】 薄切片作製中における薄切用ナイフ、凍結包埋試料ブロック、粘着性プラスチックフィルムの位置関係を示す断面図。
【図5】 薄切片が粘着性プラスチックフィルムに粘着支持された状態を示す断面図。
【図6】 薄切片が貼り付いた粘着性プラスチックフィルムをガラス板に固定した状態を示す断面図。
【図7】 粘着性プラスチックフィルムに粘着支持された薄切片を固定するために使用する穴をあけたプラスチック板の平面図。
【図8】 図7のII−II線に沿う断面図。
【図9】 図7のプラスチック板に、薄切片が貼り付いた粘着性プラスチックフィルムを固定した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0019】
1…第2のプラスチックフィルム、2…粘着剤、3…粘着性プラスチックフィルムの粘着域、4…粘着性プラスチックフィルムの非粘着域、5…第1のプラスチックフィルム、6…粘着性プラスチックフィルム、7…凍結包埋試料ブロック、8…凍結包埋試料ブロックの縦(薄切方向)の長さ、9…凍結包埋試料ブロックの横の長さ、10…薄切用ナイフ、11…薄切片、12…レーザ光の入射方向、13…ガラス板、14…粘着テープ、15…穴あきプラスチック板、16…粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極めて薄い粘着性プラスチックフィルムを薄切片の支持材として用いて、凍結試料から作製した粘着性プラスチックフィルムに貼り付いた薄切片に、レーザ光を射出する光源と前記レーザ光源からのレーザ光を薄切片に照射するレーザ光照射用光源系を備えたマイクロダイセクション装置のレーザ光を照射し、前記薄切片の目的部位の周囲をなぞることにより目的部位を切断し、薄切片から粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体となった状態で、目的微小試料片を採取することを特徴とする微小試料片採取方法。
【請求項2】
請求項1記載の粘着性プラスチックフィルムを薄切片の支持材として用いて、凍結試料から作製した粘着性プラスチックフィルムに貼り付いた薄切片に、請求項1記載のマイクロダイセクション装置のレーザ光を照射し、前記薄切片の目的部位の周囲をなぞることにより、目的部位を切断して落下させ、粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体となった状態で、薄切片から微小試料片を採取することを特徴とする微小試料片採取方法。
【請求項3】
請求項1記載の微小試料片採取方法において、
凍結ミクロトームの使用温度(例えば、−10℃〜−35℃)において薄切片を粘着支持できる粘着力を有する透明な粘着剤(例えば、アクリル系粘着剤あるいはゴム系粘着剤等)を、極めて薄いプラスチックフィルム(例えば、厚さ2μmのポリエステルフィルム)上に塗布して極めて薄い粘着層(例えば、厚さ1〜3μm)を形成した粘着性プラスチックフィルムを薄切片の支持材として用いて、凍結試料(例えば、動物、植物、昆虫などの生物組織)から粘着性プラスチックフィルムに貼り付いた状態で薄切片を作製し、前記薄切片が前記粘着性プラスチックフィルムに貼り付いた状態で凍結乾燥し、次いで、凍結乾燥した前記薄切片が貼り付いた前記粘着性プラスチックフィルムの両端を粘着テープ等でガラス板に固定し、前記ガラス板の粘着性プラスチックフィルムが固定された面を下方に向け、請求項1記載のマイクロダイセクション装置のレーザ光で、前記薄切片の目的部位の周囲をなぞることにより、目的部位を切断して、粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体となった状態で、薄切片から微小試料片を採取することを特徴とする微小試料片採取方法。
【請求項4】
請求項3記載の微小試料片採取方法において、
ガラス板に代わり、穴(例えば、直径1cm)をあけたプラスチック板の穴の位置に、請求項3記載の粘着性プラスチックフィルムに貼り付いた薄切片の切断部位が位置するように粘着テープ等で固定し、請求項1記載のマイクロダイセクション装置のレーザ光で薄切片の目的部位の周囲をなぞることにより、目的部位を切断して、粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体となった状態で、薄切片から微小試料片を採取することを特徴とする微小試料片採取方法。
【請求項5】
請求項1記載の微小試料片採取方法において、
凍結ミクロトームの使用温度(例えば、−10℃〜−35℃)において薄切片を粘着支持できる粘着力を有する透明な粘着剤(例えば、アクリル系粘着剤あるいはゴム系粘着剤)を、薄くて透明なプラスチックフィルム(例えば、厚さ1〜3μmのポリエステルフィルム)に塗布して、薄い粘着層(例えば、粘着層の厚みが1〜3μm程度)を形成した粘着性プラスチックフィルムを薄切片の支持材として用いて凍結試料から作製した薄切片を、前記粘着性プラスチックフィルムに貼り付いた状態で染色(例えば、組織学的染色、組織化学的染色、酵素組織化学的染色、免疫組織化学的染色等)した後、薄切片が貼り付いている前記粘着性プラスチックフィルムを、ガラス板あるいは請求項4記載の穴あきプラスチック板に粘着テープ等で固定し、請求項1記載のマイクロダイセクション装置のレーザ光で薄切片の目的部位の周囲をなぞることにより、目的部位を切断して、粘着性プラスチックフィルムと試料片が一体となった状態で、薄切片から微小試料片を採取することを特徴とする微小試料片採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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