微物採取用具及びこれを用いる微物の採取・鑑定方法
【課題】微物の採取箇所の形態に左右されず十分な採取量の微物を異物が混入するのを防止して簡易で容易かつ迅速に採取できる微物採取用具及びこれを用いる微物の採取・鑑定方法を提供すること。
【解決手段】粘着樹脂のゲルシート13が一方の面に着脱自在に取り付けられる平板15の採取部10と、少なくとも上部が開放した箱状体25の保護部20と、把持が可能な操作部30とを備え、前記保護部20に前記採取部10を着脱自在に取り付けることができ、前記採取部10を前記ゲルシート13が取り付けられる面側を下側にして前記保護部20に取り付けた際、前記保護部20はその内底面と前記ゲルシート13の上面との間に隙間Sができ、前記操作部30に前記保護部20を着脱自在取り付けることができ、前記採取部10が取り付けられた前記保護部20が前記操作部30に取り付けられ、微物を前記ゲルシート13の上面で粘着する微物採取用具100。
【解決手段】粘着樹脂のゲルシート13が一方の面に着脱自在に取り付けられる平板15の採取部10と、少なくとも上部が開放した箱状体25の保護部20と、把持が可能な操作部30とを備え、前記保護部20に前記採取部10を着脱自在に取り付けることができ、前記採取部10を前記ゲルシート13が取り付けられる面側を下側にして前記保護部20に取り付けた際、前記保護部20はその内底面と前記ゲルシート13の上面との間に隙間Sができ、前記操作部30に前記保護部20を着脱自在取り付けることができ、前記採取部10が取り付けられた前記保護部20が前記操作部30に取り付けられ、微物を前記ゲルシート13の上面で粘着する微物採取用具100。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犯罪現場等に存在する繊維くず、塗膜片、DNA型鑑定の資料等の微物を採取するための微物採取用具及びこれを用いる微物の採取・鑑定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、犯罪は悪質化、巧妙化してきており、犯罪現場等に存在する微物を採取し、これを鑑定する微物鑑識は犯人の特定や犯罪を立証する上で重要な鑑識活動と位置づけられる。また、個々人のDNAに異なる部分があることを利用し、DNA多型領域を検査するDNA型鑑定は技術の進歩により高い精度で個人鑑別が可能となった。そのため、犯罪を解決する証拠としてますますその重要性が増し、実施状況も年々増加の状況にあり、犯罪現場等におけるDNA型鑑定の資料の採取は重要である。
ところが、微物鑑識を行う場合、微物の採取量が十分でないと鑑定が困難となることがある。また、微物を採取する際に異物が混ざると正しい鑑定結果が得られないことや鑑定が困難となることがある。特に、DNA型鑑定は、採取対象の資料に他人の資料が混入すると判定が困難となる。したがって、微物の採取は十分な採取量の微物を採取し、また異物が混ざることを防止して行うことが求められる。
【0003】
従来、微物の採取は、市販の接着テープやリタックシートを用いて行われている。また、微物を採取するための提案がある。例えば、繊維片や毛髪や土砂等の微物を静電気により吸着して採取する微物吸着採取装置がある(特許文献1参照)。また、静電気が発生及び滞電し易い透明な合成樹脂シートの裏面に微弱な粘着力を有する粘着層を設け、粘着層に離型紙を重合させた微物採取用フィルムがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−240101号公報
【特許文献2】実開平1−137452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、市販の接着テープやリタックシートで微物を採取する場合、粘着性が低いため十分な採取量の微物を採取できないことや、微物の採取箇所の凹凸面への追随性が低いため採取箇所の形態によっては十分な採取量の微物を採取できないことがあった。また、粘着面に異物が混入することがあり、特にDNA型鑑定の資料の採取には、細心の注意を払っても他人の資料が混入することがあった。接着テープやリタックシートに粘着した微物は剥離しにくいため、微物を剥離させ顕微鏡等の鑑定機器で鑑定をする場合、煩雑な作業が必要であった。一方、特許文献1に記載の微物吸着採取装置及び特許文献2に記載の微物採取用フイルムは、静電気で微物を採取するため、微物の採取箇所の形態に左右されず微物を採取できても、異物が混入しやすいということがあった。特許文献1に記載の微物吸着採取装置及び特許文献2に記載の微物採取用フイルムは、微物としてDNA型鑑定の資料を採取することは困難であった。特許文献1に記載の微物吸着採取装置は、装置の面倒なセッティングが必要であり、また、特許文献2に記載の微物採取用フイルムは剥離紙を剥離し静電気を発生させシートに滞電させることが必要であるため、いずれも専門家の鑑識担当者でないと取り扱いが難しいということがあった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたもので、微物の採取箇所の形態に左右されず十分な採取量の微物を異物が混入するのを防止して簡易で容易かつ迅速に採取できる微物採取用具及びこれを用いて簡易で容易かつ迅速に微物の採取・鑑定ができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、犯罪現場等に存在する微物やDNA型鑑定の資料を粘着して採取するための微物採取用具であって、保護シートが被覆される粘着樹脂のゲルシートが一方の面に着脱自在に取り付けられる平板から構成される採取部と、少なくとも上部が開放した箱状体から構成される保護部と、把持が可能な操作部とを備え、前記採取部と前記保護部との間に設けられる取付手段により前記保護部に前記採取部を着脱自在に取り付けることができ、前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付けた際、前記保護部はその内底面と前記ゲルシートの上面との間に隙間ができるように形成され、また前記保護部と前記操作部との間に設けられる取付手段により前記操作部に前記保護部を着脱自在取り付けることができ、微物の採取は前記採取部が取り付けられた前記保護部が前記操作部に取り付けられ、前記操作部を把持して操作し、採取箇所の微物を前記ゲルシートの上面で粘着することを特徴とする微物採取用具を要旨とする。この構成により、微物の採取箇所の形態に左右されず十分な採取量の微物を異物の混入を防止しつつ簡易で容易かつ迅速に採取できる。ここで、微物とは、犯罪現場、その他犯罪に関連すると認められる場所、人及び物等に存在する微少、微細、微量なもので、例えば、繊維くず、塗膜片、ガラス片、土壌、花粉、種子等の資料や唾液、血液、血痕、体液、骨、組織片、爪、毛髪等のDNA型鑑定の資料となるものをいう。
【0008】
上記の発明において、前記保護部に対する前記採取部の着脱方向と前記操作部に対する前記保護部の着脱方向が互いに直交するように前記採取部と前記保護部との間に設けられる前記取付手段及び前記保護部と前記操作部との間に設けられる前記取付手段をそれぞれ設けてもよい。この構成により、保護部から採取部を取り外す場合、採取部の取り外しに伴い操作部から保護部が離脱することがなく、採取部の保護部からの取り外しを容易に行うことができる。
【0009】
上記の各発明において、ゲルシートをゴム硬度30以下のポリウレタンゲルシートとしてもよい。この構成により、粘着部の採取箇所の凹凸面への追随性が高まる。ここで、粘着部の採取箇所の凹凸面への追随性とは、採取箇所の凹凸のある面の形態に応じて押圧により粘着部が変形する性状をいう。
【0010】
上記の各発明において、微物をDNA型鑑定の資料又は繊維くずとしてもよい。この構成により、犯罪を立証する有力な証拠を得ることができる。
【0011】
本発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微物採取用具を用いる微物の採取・鑑定方法であって、(1)微物を前記採取部の前記ゲルシートの上面で採取する過程と、(2)前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す過程又は前記操作部から前記保護部を取り外し、前記採取部を前記保護部から取り外す過程と、(3)前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付ける過程と、(4)前記(2)の過程で前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す場合、前記採取部が取り付けられた前記保護部を前記操作部から取り外す過程と、(5)前記採取部が取り付けられた前記保護部を密閉ができる入れ物に収容して保管する過程と、(6)前記保護部から前記採取部を取り外し、前記採取部を被検体として顕微鏡観察する過程又は前記採取部から前記ゲルシートを取り外しDNA鑑定する過程とを備えることを特徴とする微物の採取・鑑定方法を要旨とする。この発明において、微物をDNA型鑑定の資料又は繊維くずとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の効果を奏する。
(1)本発明の微物採取用具は、ゲルシートが粘着性及び微物の採取箇所の凹凸面への追随性に優れるので、微物の採取箇所の形態に左右されず、従来、微物の採取が困難であった箇所からも十分な採取量の微物の採取が容易となる。例えば、痴漢事件において、従来、DNA型鑑定の資料の採取が困難であった着衣からも組織片の採取が可能となるので、被害者の着衣から被疑者の組織片を採取し、DNA型鑑定を行うことにより犯罪を立証することも可能となり、犯罪の解決に多大な貢献を期待できる。
(2)本発明の微物採取用具は、異物が混ざることを防止して微物を採取できるので、鑑定の精度を高めることができ、特にDNA型鑑定には有用で、犯罪の解決に多大な貢献を期待できる。
(3)本発明の微物採取用具は、微物の採取を簡易で容易かつ迅速に行え、専門家の鑑識担当者以外の事件現場に出向いた警察官等が採取することも可能であるため、円滑な微物鑑識に資することができ、ひいては犯罪の早期解決に資することを期待できる。
(4)本発明の微物採取用具は、微物の採取後、採取部をゲルシートが取り付けられる面側を下側にして保護部に取り付け収容するだけでゲルシートに異物が混ざることを簡易で容易かつ迅速に防止できる。
【0013】
本発明は、以下の効果を奏する。
本発明の微物の採取・鑑定方法は、微物を簡易で容易かつ迅速に採取でき、採取後の微物に異物が混入するのを簡易で容易かつ迅速に防止して保管でき、また採取部が平板から構成され、ゲルシートをいちいち取り外してスライドグラスに載せる必要がなく、採取部を被検体として顕微鏡に載せ直接顕微鏡観察ができるので、微物の採取から微物の鑑定に至る微物鑑識を簡易で容易かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】採取部の正面図である。
【図2】採取部の平面図である。
【図3】保護部の正面図である。
【図4】保護部の平面図である。
【図5】保護部の側面図である。
【図6】操作部の側面図である。
【図7】操作部の平面図である。
【図8】操作部の底面図である。
【図9】採取部が取り付けられた保護部の平面図である。
【図10】採取部が取り付けられた保護部が操作部に取り付けられた微物採取用具の正面図である。
【図11】採取部が取り付けられた保護部が操作部に取り付けられた微物採取用具の側面図である。
【図12】採取部が取り付けられた保護部が操作部に取り付けられた微物採取用具の斜視図である。
【図13】採取部がゲルシートが取り付けられる面側を下側にして取り付けられた保護部の正面図である。
【図14】採取部をゲルシートが取り付けられる面側を下側にして取り付けられた保護部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次いで、本発明を実施形態により説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
本実施形態に係る微物採取用具100は、図10〜図12に示すように、採取部10と、保護部20と、操作部30とを備えている。
【0017】
図1及び図2に示すように、採取部10はポリスチレンで形成された略長方形の平板15から構成される。平板15の側面の対向位置に突起11が各々形成されている。また、平板15に段部12が形成され、段部12には透明の粘着樹脂のゲルシート13(ポリウレタンゲルシート、株式会社エクシールコーポレーション社製(ゲルタックシート))が粘着により取り付けられている。ゲルシート13の上面は、透明のポリエチレンフィルムで形成された保護シート14が被覆されている。保護シート14は、ゲルシート13の上面の面積より大きなサイズで形成され、ゲルシート13からはみ出す箇所を利用してゲルシート13からの取り外しが容易である。保護シート14は、ゲルシート13の上面に被覆でき、微物を採取する際に取り外しができる限り上記のポリエチレンフイルムに限定されない。他の素材の保護シートとして、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等の各種樹脂フイルム、ポリエチレンラミネート紙、クレコート紙、グラシン紙等の各種紙材を例示できる。
【0018】
上記のゲルシート13は、アルコール成分と有機ポリイソシアネートとを混合させたポリウレタン組成物であって、前記アルコール成分の合計量を100重量部とした時、官能基数2.4〜3.0、分子量3,000〜6,000のポリオールを99.5〜90重量部と、二級若しくは三級の高級モノアルコールを0.5〜10重量部含有するポリウレタン組成物のゴム硬度30以下の粘着性を有するポリウレタンゲルシートで、入手が容易である。このゲルシート13は、微物を採取する際の粘着性、採取後の微物の剥離性に優れ、また、柔軟であるので微物の採取箇所の凹凸面への追随性に優れている。また、当該ゲルシート13は可塑剤が添加されていないので、特にDNA型鑑定において可塑剤が鑑定に及ぼす影響を回避できる。
【0019】
ゲルシート13を検査液に浸してDNAを抽出するDNA型鑑定の場合、ゲルシート13を段部12から取り外す必要がある。この場合、ゲルシート13の段部12からの取り外しが容易であれば鑑定の迅速化に資することができるので、ゲルシート13の下面の粘着力を微物を採取するゲルシート13の上面の粘着力より減弱させてもよい。粘着力を減弱させる方法として、例えば、ゲルシート13の下面に予め樹脂フィルムを貼着し、当該樹脂フイルムに粘着力の弱い接着剤を塗布することにより行うことができる。
【0020】
ゲルシート13は、粘着樹脂のゲルシートである限り、上記のポリウレタンゲルシートに限定されない。他の粘着樹脂のゲルシートとして、シリコンゲルシート、ポリスチレンゲルシート、アクリルゲルシート、ポリ塩化ビニルゲルシートを例示できる。
【0021】
図3〜図5に示すように、保護部20は、上部と前部が開放したポリスチレンにより形成された平面視で略正方形の箱状体25から構成される。保護部20の上縁には、取付溝21が周設されている。また、取付溝21の両側の対向位置に貫通孔22が各々形成されている。採取部10は平板15により構成されるので、採取部10を保護部20の取付溝21に挿入することにより保護部20に採取部10を着脱自在に取り付けることができ、また、採取部10を取り付けた場合、採取部10の突起11が保護部20の貫通孔22に嵌合するので採取部10が容易に離脱することを防止できる。保護部20の下部には、取付段部23が形成されている。また、取付段部23の下面には、突起24が形成されている。図13に示すように、採取部10をゲルシート13が取り付けられる面側を下側にして保護部20に取り付けた際、保護部20はその内底面とゲルシート13の上面との間に隙間Sができるように形成されている。
【0022】
図6〜図8に示すように、操作部30はポリプロピレンで形成され、上部に取付台31を有する中空の楕円柱状体36から構成される。楕円柱状体36の外側には、滑り止めの多数の突条32が周設されている。また、楕円柱状体36の内側には、多数の補強リブ33が周設されている。取付台31には、取付溝34が周設されている。また、取付台31の一端近傍には、貫通孔35が形成されている。図9に示すように、取付溝34に保護部20の取付段部23を挿入することにより操作部30に保護部20を着脱自在に取り付けることができ、また、保護部20を取り付けた場合、保護部20の突起24が操作部30の貫通孔35に嵌合するので保護部20が容易に離脱することを防止できる。
【0023】
図3〜図6、図11に示すように、保護部20に対する採取部10の着脱方向と操作部30に対する保護部20の着脱方向が互いに直交するように保護部20の取付溝21、保護部20の取付段部23及び操作部30の取付溝34が形成されている。
【0024】
採取部10、保護部20及び操作部30の素材は、上記の素材に限定されず、樹脂以外の素材を用いることもできる。樹脂の場合、種々の樹脂を用いることができ、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル等を例示できる。
【0025】
本実施形態に係る微物採取用具100は、図10〜図12に示すように、採取部10が取り付けられた保護部20が操作部30に取り付けられ、採取部10と保護部20と操作部30が一体となり、操作部30の楕円柱状体36を把持して操作し、採取部10のゲルシート13を採取箇所の微物に押しつけることにより微物の採取を簡易で容易かつ迅速に行うことができる。微物採取用具100は、異物が混ざらないよう予め保管袋(図示省略)に収容される。また、保管袋には、採取部10と保護部20と操作部30を一体にすることなく個々をバラバラに収容することもできる。ゲルシート13に異物が混ざるのを防止するため、採取部10にゲルシート13を取り付ける作業及びゲルシート13の上面に保護シート14を被覆する作業はエアーシャワー付きのクリーンルーム内で行われる。
【0026】
以下、本実施形態に係る微物採取用具100を用いる微物の採取・鑑定方法を説明する。採取現場において上記の保管袋から採取部10と保護部20と操作部30とが一体となった微物採取用具100を取り出す。保管袋に採取部10と保護部20と操作部30を一体にすることなく個々がバラバラで収容される場合、採取現場で採取部10の取り付けと保護部20の取り付けが行われる。次いで、保護シート14をゲルシート13から取り外し、操作部20を把持して採取箇所の微物に押し付けゲルシート13で粘着して微物を採取する。微物の採取後、保護部20から採取部10を取り外し、図13及び図14に示すように、採取部10をゲルシート13が取り付けられる面側を下側にして保護部20に取り付ける。保護部20に対する採取部10の着脱方向と操作部30に対する保護部20の着脱方向が互いに直交するので、保護部20から採取部10を取り外す場合、採取部10の取り外しに伴い操作部30から保護部20が離脱することがなく、採取部10の保護部20からの取り外しを容易に行うことができる。保護部20の内底面とゲルシート13の上面との間に隙間Sがあり、また、採取部10は微物が粘着するゲルシート13の上面を下方向にして収容されるので、保護部20で微物が粘着されたゲルシート13の上面が保護され、ゲルシート13の上面に異物が混ざることを防止できる。また、保護部20からの採取部10の取り外しは、操作部30から保護部20を取り外してから行ってもよい。
次いで、採取部10が取り付けられた保護部20は操作部30から取り外される。採取部10が取り付けられた保護部20は保管袋(図示省略)に収容され、保管袋は封緘後、保管袋の取り出し口にシールを貼り、微物の鑑定まで開封されないことを担保する。保管袋に形成された記載欄に立会人の署名等の立証措置をとり、当該保管袋は鑑識担当者に渡される。鑑識担当者は保管袋から採取部10が取り付けられた保護部20を取り出し、さらに保護部20から採取部10を取り外した上、採取部10を被検体として顕微鏡観察を行い、あるいは採取部10からゲルシートを取り外しDNA鑑定を行う。
【0027】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々形態を変更して実施することができる。
(1)採取部と保護部との間に設けられる取付手段は、保護部に採取部を着脱自在に取り付けることができる限り上記の実施形態の構成に限定されず、種々の構成とすることができる。例えば、採取部の平板の両側に1又は2以上の取付突起を形成し、当該取付突起と嵌合する取付孔を保護部の上縁の内側に形成し、採取部を上から嵌め込む構成とすることができる。また、保護部と操作部との間に設けられる取付手段も操作部に保護部を着脱自在に取り付けることができる限り上記の実施形態の構成に限定されず、種々の構成とすることができる。例えば、保護部の両側に1又は2以上の取付突起を形成し、当該取付突起と嵌合する取付孔を操作部の取付台の内側に形成し、保護部を上から嵌め込む構成とすることができる。
(2)採取部の平板の形状は上記の実施形態の略長方形に限定されず、略正方形等種々の形状とできる。例えば、取付手段を上記(1)で構成する場合、平板を略台形としてもよい。また、保護部の箱状体の平面視の形状は上記の実施形態の略正方形に限定されず、略台形等種々の形状とできる。例えば、取付手段を上記(1)で構成し、平板を略台形にする場合、箱状体を略台形としてもよい。
(3)保護部の箱状体は、上記の実施形態のように上部と前部が開放する構成に限られず、上部のみが開放する構成としてもよい。例えば、取付手段を上記(1)で構成する場合、箱状体の前部も開放しない構成としてもよい。
(4)操作部は、把持して微物の採取を簡易で容易かつ迅速に行える形状である限り、上記の形状に限定されず、例えば、角柱体や円柱体等種々の形状で形成することができる。
(5)採取部は、段部を形成することなく、平板に直接ゲルシートを取り付ける構成としてもよい。
【実施例】
【0028】
次いで、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0029】
痴漢犯罪の場合、被害者の着衣の繊維くずが被疑者の手に付着するので、被害者の着衣の繊維くずを微物として採取すると共に、被疑者の手から繊維くずを採取し、両者が同一か否かを鑑定することにより痴漢犯罪の解決を図れることがある。そこで、綿の繊維くずとポリエステル繊維の繊維くずをそれぞれ手で触れ、手に付着した繊維くずを上記の微物採取用具100(以下の実施例)と市販の接着テープ(以下の比較例)で採取を試み、両者で鑑定が可能な程度まで微物を採取できるか否かの試験を行った。試験結果は、表1及び表2に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表1に示すように、綿の繊維くずの場合、実施例では1秒の接触でも手に付着した繊維くずを鑑定ができる程度に採取できたが、比較例では30秒以上の接触がないと鑑定ができる程度に採取できなかった。したがって、実施例の微物採取用具100は、被疑者の痴漢行為に及ぶ時間の長短に拘わらず、犯罪の立証が可能である。また、表2に示すように、ポリエステル繊維の繊維くずの場合、実施例では1秒の接触でも手に付着した繊維くずを鑑定ができる程度に採取できたが、比較例では60秒の接触でも鑑定ができる程度に採取できなかった。したがって、実施例の微物採取用具100は、被害者の着衣の素材の種類を問わず、犯罪の立証が可能である。また、手のような凹凸面のある採取箇所からも微物を十分に採取できるという結果から、微物採取用具100は、粘着性及び微物の採取箇所の凹凸面への追随性に優れ、微物鑑識に極めて有用であることが分かった。
【符号の説明】
【0033】
10 採取部
13 ゲルシート
14 保護シート
15 平板
20 保護部
21 取付溝
23 取付段部
25 箱状体
30 操作部
31 取付台
34 取付溝
36 楕円柱状体
100 微物採取用具
【技術分野】
【0001】
本発明は、犯罪現場等に存在する繊維くず、塗膜片、DNA型鑑定の資料等の微物を採取するための微物採取用具及びこれを用いる微物の採取・鑑定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、犯罪は悪質化、巧妙化してきており、犯罪現場等に存在する微物を採取し、これを鑑定する微物鑑識は犯人の特定や犯罪を立証する上で重要な鑑識活動と位置づけられる。また、個々人のDNAに異なる部分があることを利用し、DNA多型領域を検査するDNA型鑑定は技術の進歩により高い精度で個人鑑別が可能となった。そのため、犯罪を解決する証拠としてますますその重要性が増し、実施状況も年々増加の状況にあり、犯罪現場等におけるDNA型鑑定の資料の採取は重要である。
ところが、微物鑑識を行う場合、微物の採取量が十分でないと鑑定が困難となることがある。また、微物を採取する際に異物が混ざると正しい鑑定結果が得られないことや鑑定が困難となることがある。特に、DNA型鑑定は、採取対象の資料に他人の資料が混入すると判定が困難となる。したがって、微物の採取は十分な採取量の微物を採取し、また異物が混ざることを防止して行うことが求められる。
【0003】
従来、微物の採取は、市販の接着テープやリタックシートを用いて行われている。また、微物を採取するための提案がある。例えば、繊維片や毛髪や土砂等の微物を静電気により吸着して採取する微物吸着採取装置がある(特許文献1参照)。また、静電気が発生及び滞電し易い透明な合成樹脂シートの裏面に微弱な粘着力を有する粘着層を設け、粘着層に離型紙を重合させた微物採取用フィルムがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−240101号公報
【特許文献2】実開平1−137452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、市販の接着テープやリタックシートで微物を採取する場合、粘着性が低いため十分な採取量の微物を採取できないことや、微物の採取箇所の凹凸面への追随性が低いため採取箇所の形態によっては十分な採取量の微物を採取できないことがあった。また、粘着面に異物が混入することがあり、特にDNA型鑑定の資料の採取には、細心の注意を払っても他人の資料が混入することがあった。接着テープやリタックシートに粘着した微物は剥離しにくいため、微物を剥離させ顕微鏡等の鑑定機器で鑑定をする場合、煩雑な作業が必要であった。一方、特許文献1に記載の微物吸着採取装置及び特許文献2に記載の微物採取用フイルムは、静電気で微物を採取するため、微物の採取箇所の形態に左右されず微物を採取できても、異物が混入しやすいということがあった。特許文献1に記載の微物吸着採取装置及び特許文献2に記載の微物採取用フイルムは、微物としてDNA型鑑定の資料を採取することは困難であった。特許文献1に記載の微物吸着採取装置は、装置の面倒なセッティングが必要であり、また、特許文献2に記載の微物採取用フイルムは剥離紙を剥離し静電気を発生させシートに滞電させることが必要であるため、いずれも専門家の鑑識担当者でないと取り扱いが難しいということがあった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたもので、微物の採取箇所の形態に左右されず十分な採取量の微物を異物が混入するのを防止して簡易で容易かつ迅速に採取できる微物採取用具及びこれを用いて簡易で容易かつ迅速に微物の採取・鑑定ができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、犯罪現場等に存在する微物やDNA型鑑定の資料を粘着して採取するための微物採取用具であって、保護シートが被覆される粘着樹脂のゲルシートが一方の面に着脱自在に取り付けられる平板から構成される採取部と、少なくとも上部が開放した箱状体から構成される保護部と、把持が可能な操作部とを備え、前記採取部と前記保護部との間に設けられる取付手段により前記保護部に前記採取部を着脱自在に取り付けることができ、前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付けた際、前記保護部はその内底面と前記ゲルシートの上面との間に隙間ができるように形成され、また前記保護部と前記操作部との間に設けられる取付手段により前記操作部に前記保護部を着脱自在取り付けることができ、微物の採取は前記採取部が取り付けられた前記保護部が前記操作部に取り付けられ、前記操作部を把持して操作し、採取箇所の微物を前記ゲルシートの上面で粘着することを特徴とする微物採取用具を要旨とする。この構成により、微物の採取箇所の形態に左右されず十分な採取量の微物を異物の混入を防止しつつ簡易で容易かつ迅速に採取できる。ここで、微物とは、犯罪現場、その他犯罪に関連すると認められる場所、人及び物等に存在する微少、微細、微量なもので、例えば、繊維くず、塗膜片、ガラス片、土壌、花粉、種子等の資料や唾液、血液、血痕、体液、骨、組織片、爪、毛髪等のDNA型鑑定の資料となるものをいう。
【0008】
上記の発明において、前記保護部に対する前記採取部の着脱方向と前記操作部に対する前記保護部の着脱方向が互いに直交するように前記採取部と前記保護部との間に設けられる前記取付手段及び前記保護部と前記操作部との間に設けられる前記取付手段をそれぞれ設けてもよい。この構成により、保護部から採取部を取り外す場合、採取部の取り外しに伴い操作部から保護部が離脱することがなく、採取部の保護部からの取り外しを容易に行うことができる。
【0009】
上記の各発明において、ゲルシートをゴム硬度30以下のポリウレタンゲルシートとしてもよい。この構成により、粘着部の採取箇所の凹凸面への追随性が高まる。ここで、粘着部の採取箇所の凹凸面への追随性とは、採取箇所の凹凸のある面の形態に応じて押圧により粘着部が変形する性状をいう。
【0010】
上記の各発明において、微物をDNA型鑑定の資料又は繊維くずとしてもよい。この構成により、犯罪を立証する有力な証拠を得ることができる。
【0011】
本発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微物採取用具を用いる微物の採取・鑑定方法であって、(1)微物を前記採取部の前記ゲルシートの上面で採取する過程と、(2)前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す過程又は前記操作部から前記保護部を取り外し、前記採取部を前記保護部から取り外す過程と、(3)前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付ける過程と、(4)前記(2)の過程で前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す場合、前記採取部が取り付けられた前記保護部を前記操作部から取り外す過程と、(5)前記採取部が取り付けられた前記保護部を密閉ができる入れ物に収容して保管する過程と、(6)前記保護部から前記採取部を取り外し、前記採取部を被検体として顕微鏡観察する過程又は前記採取部から前記ゲルシートを取り外しDNA鑑定する過程とを備えることを特徴とする微物の採取・鑑定方法を要旨とする。この発明において、微物をDNA型鑑定の資料又は繊維くずとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の効果を奏する。
(1)本発明の微物採取用具は、ゲルシートが粘着性及び微物の採取箇所の凹凸面への追随性に優れるので、微物の採取箇所の形態に左右されず、従来、微物の採取が困難であった箇所からも十分な採取量の微物の採取が容易となる。例えば、痴漢事件において、従来、DNA型鑑定の資料の採取が困難であった着衣からも組織片の採取が可能となるので、被害者の着衣から被疑者の組織片を採取し、DNA型鑑定を行うことにより犯罪を立証することも可能となり、犯罪の解決に多大な貢献を期待できる。
(2)本発明の微物採取用具は、異物が混ざることを防止して微物を採取できるので、鑑定の精度を高めることができ、特にDNA型鑑定には有用で、犯罪の解決に多大な貢献を期待できる。
(3)本発明の微物採取用具は、微物の採取を簡易で容易かつ迅速に行え、専門家の鑑識担当者以外の事件現場に出向いた警察官等が採取することも可能であるため、円滑な微物鑑識に資することができ、ひいては犯罪の早期解決に資することを期待できる。
(4)本発明の微物採取用具は、微物の採取後、採取部をゲルシートが取り付けられる面側を下側にして保護部に取り付け収容するだけでゲルシートに異物が混ざることを簡易で容易かつ迅速に防止できる。
【0013】
本発明は、以下の効果を奏する。
本発明の微物の採取・鑑定方法は、微物を簡易で容易かつ迅速に採取でき、採取後の微物に異物が混入するのを簡易で容易かつ迅速に防止して保管でき、また採取部が平板から構成され、ゲルシートをいちいち取り外してスライドグラスに載せる必要がなく、採取部を被検体として顕微鏡に載せ直接顕微鏡観察ができるので、微物の採取から微物の鑑定に至る微物鑑識を簡易で容易かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】採取部の正面図である。
【図2】採取部の平面図である。
【図3】保護部の正面図である。
【図4】保護部の平面図である。
【図5】保護部の側面図である。
【図6】操作部の側面図である。
【図7】操作部の平面図である。
【図8】操作部の底面図である。
【図9】採取部が取り付けられた保護部の平面図である。
【図10】採取部が取り付けられた保護部が操作部に取り付けられた微物採取用具の正面図である。
【図11】採取部が取り付けられた保護部が操作部に取り付けられた微物採取用具の側面図である。
【図12】採取部が取り付けられた保護部が操作部に取り付けられた微物採取用具の斜視図である。
【図13】採取部がゲルシートが取り付けられる面側を下側にして取り付けられた保護部の正面図である。
【図14】採取部をゲルシートが取り付けられる面側を下側にして取り付けられた保護部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次いで、本発明を実施形態により説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
本実施形態に係る微物採取用具100は、図10〜図12に示すように、採取部10と、保護部20と、操作部30とを備えている。
【0017】
図1及び図2に示すように、採取部10はポリスチレンで形成された略長方形の平板15から構成される。平板15の側面の対向位置に突起11が各々形成されている。また、平板15に段部12が形成され、段部12には透明の粘着樹脂のゲルシート13(ポリウレタンゲルシート、株式会社エクシールコーポレーション社製(ゲルタックシート))が粘着により取り付けられている。ゲルシート13の上面は、透明のポリエチレンフィルムで形成された保護シート14が被覆されている。保護シート14は、ゲルシート13の上面の面積より大きなサイズで形成され、ゲルシート13からはみ出す箇所を利用してゲルシート13からの取り外しが容易である。保護シート14は、ゲルシート13の上面に被覆でき、微物を採取する際に取り外しができる限り上記のポリエチレンフイルムに限定されない。他の素材の保護シートとして、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等の各種樹脂フイルム、ポリエチレンラミネート紙、クレコート紙、グラシン紙等の各種紙材を例示できる。
【0018】
上記のゲルシート13は、アルコール成分と有機ポリイソシアネートとを混合させたポリウレタン組成物であって、前記アルコール成分の合計量を100重量部とした時、官能基数2.4〜3.0、分子量3,000〜6,000のポリオールを99.5〜90重量部と、二級若しくは三級の高級モノアルコールを0.5〜10重量部含有するポリウレタン組成物のゴム硬度30以下の粘着性を有するポリウレタンゲルシートで、入手が容易である。このゲルシート13は、微物を採取する際の粘着性、採取後の微物の剥離性に優れ、また、柔軟であるので微物の採取箇所の凹凸面への追随性に優れている。また、当該ゲルシート13は可塑剤が添加されていないので、特にDNA型鑑定において可塑剤が鑑定に及ぼす影響を回避できる。
【0019】
ゲルシート13を検査液に浸してDNAを抽出するDNA型鑑定の場合、ゲルシート13を段部12から取り外す必要がある。この場合、ゲルシート13の段部12からの取り外しが容易であれば鑑定の迅速化に資することができるので、ゲルシート13の下面の粘着力を微物を採取するゲルシート13の上面の粘着力より減弱させてもよい。粘着力を減弱させる方法として、例えば、ゲルシート13の下面に予め樹脂フィルムを貼着し、当該樹脂フイルムに粘着力の弱い接着剤を塗布することにより行うことができる。
【0020】
ゲルシート13は、粘着樹脂のゲルシートである限り、上記のポリウレタンゲルシートに限定されない。他の粘着樹脂のゲルシートとして、シリコンゲルシート、ポリスチレンゲルシート、アクリルゲルシート、ポリ塩化ビニルゲルシートを例示できる。
【0021】
図3〜図5に示すように、保護部20は、上部と前部が開放したポリスチレンにより形成された平面視で略正方形の箱状体25から構成される。保護部20の上縁には、取付溝21が周設されている。また、取付溝21の両側の対向位置に貫通孔22が各々形成されている。採取部10は平板15により構成されるので、採取部10を保護部20の取付溝21に挿入することにより保護部20に採取部10を着脱自在に取り付けることができ、また、採取部10を取り付けた場合、採取部10の突起11が保護部20の貫通孔22に嵌合するので採取部10が容易に離脱することを防止できる。保護部20の下部には、取付段部23が形成されている。また、取付段部23の下面には、突起24が形成されている。図13に示すように、採取部10をゲルシート13が取り付けられる面側を下側にして保護部20に取り付けた際、保護部20はその内底面とゲルシート13の上面との間に隙間Sができるように形成されている。
【0022】
図6〜図8に示すように、操作部30はポリプロピレンで形成され、上部に取付台31を有する中空の楕円柱状体36から構成される。楕円柱状体36の外側には、滑り止めの多数の突条32が周設されている。また、楕円柱状体36の内側には、多数の補強リブ33が周設されている。取付台31には、取付溝34が周設されている。また、取付台31の一端近傍には、貫通孔35が形成されている。図9に示すように、取付溝34に保護部20の取付段部23を挿入することにより操作部30に保護部20を着脱自在に取り付けることができ、また、保護部20を取り付けた場合、保護部20の突起24が操作部30の貫通孔35に嵌合するので保護部20が容易に離脱することを防止できる。
【0023】
図3〜図6、図11に示すように、保護部20に対する採取部10の着脱方向と操作部30に対する保護部20の着脱方向が互いに直交するように保護部20の取付溝21、保護部20の取付段部23及び操作部30の取付溝34が形成されている。
【0024】
採取部10、保護部20及び操作部30の素材は、上記の素材に限定されず、樹脂以外の素材を用いることもできる。樹脂の場合、種々の樹脂を用いることができ、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル等を例示できる。
【0025】
本実施形態に係る微物採取用具100は、図10〜図12に示すように、採取部10が取り付けられた保護部20が操作部30に取り付けられ、採取部10と保護部20と操作部30が一体となり、操作部30の楕円柱状体36を把持して操作し、採取部10のゲルシート13を採取箇所の微物に押しつけることにより微物の採取を簡易で容易かつ迅速に行うことができる。微物採取用具100は、異物が混ざらないよう予め保管袋(図示省略)に収容される。また、保管袋には、採取部10と保護部20と操作部30を一体にすることなく個々をバラバラに収容することもできる。ゲルシート13に異物が混ざるのを防止するため、採取部10にゲルシート13を取り付ける作業及びゲルシート13の上面に保護シート14を被覆する作業はエアーシャワー付きのクリーンルーム内で行われる。
【0026】
以下、本実施形態に係る微物採取用具100を用いる微物の採取・鑑定方法を説明する。採取現場において上記の保管袋から採取部10と保護部20と操作部30とが一体となった微物採取用具100を取り出す。保管袋に採取部10と保護部20と操作部30を一体にすることなく個々がバラバラで収容される場合、採取現場で採取部10の取り付けと保護部20の取り付けが行われる。次いで、保護シート14をゲルシート13から取り外し、操作部20を把持して採取箇所の微物に押し付けゲルシート13で粘着して微物を採取する。微物の採取後、保護部20から採取部10を取り外し、図13及び図14に示すように、採取部10をゲルシート13が取り付けられる面側を下側にして保護部20に取り付ける。保護部20に対する採取部10の着脱方向と操作部30に対する保護部20の着脱方向が互いに直交するので、保護部20から採取部10を取り外す場合、採取部10の取り外しに伴い操作部30から保護部20が離脱することがなく、採取部10の保護部20からの取り外しを容易に行うことができる。保護部20の内底面とゲルシート13の上面との間に隙間Sがあり、また、採取部10は微物が粘着するゲルシート13の上面を下方向にして収容されるので、保護部20で微物が粘着されたゲルシート13の上面が保護され、ゲルシート13の上面に異物が混ざることを防止できる。また、保護部20からの採取部10の取り外しは、操作部30から保護部20を取り外してから行ってもよい。
次いで、採取部10が取り付けられた保護部20は操作部30から取り外される。採取部10が取り付けられた保護部20は保管袋(図示省略)に収容され、保管袋は封緘後、保管袋の取り出し口にシールを貼り、微物の鑑定まで開封されないことを担保する。保管袋に形成された記載欄に立会人の署名等の立証措置をとり、当該保管袋は鑑識担当者に渡される。鑑識担当者は保管袋から採取部10が取り付けられた保護部20を取り出し、さらに保護部20から採取部10を取り外した上、採取部10を被検体として顕微鏡観察を行い、あるいは採取部10からゲルシートを取り外しDNA鑑定を行う。
【0027】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々形態を変更して実施することができる。
(1)採取部と保護部との間に設けられる取付手段は、保護部に採取部を着脱自在に取り付けることができる限り上記の実施形態の構成に限定されず、種々の構成とすることができる。例えば、採取部の平板の両側に1又は2以上の取付突起を形成し、当該取付突起と嵌合する取付孔を保護部の上縁の内側に形成し、採取部を上から嵌め込む構成とすることができる。また、保護部と操作部との間に設けられる取付手段も操作部に保護部を着脱自在に取り付けることができる限り上記の実施形態の構成に限定されず、種々の構成とすることができる。例えば、保護部の両側に1又は2以上の取付突起を形成し、当該取付突起と嵌合する取付孔を操作部の取付台の内側に形成し、保護部を上から嵌め込む構成とすることができる。
(2)採取部の平板の形状は上記の実施形態の略長方形に限定されず、略正方形等種々の形状とできる。例えば、取付手段を上記(1)で構成する場合、平板を略台形としてもよい。また、保護部の箱状体の平面視の形状は上記の実施形態の略正方形に限定されず、略台形等種々の形状とできる。例えば、取付手段を上記(1)で構成し、平板を略台形にする場合、箱状体を略台形としてもよい。
(3)保護部の箱状体は、上記の実施形態のように上部と前部が開放する構成に限られず、上部のみが開放する構成としてもよい。例えば、取付手段を上記(1)で構成する場合、箱状体の前部も開放しない構成としてもよい。
(4)操作部は、把持して微物の採取を簡易で容易かつ迅速に行える形状である限り、上記の形状に限定されず、例えば、角柱体や円柱体等種々の形状で形成することができる。
(5)採取部は、段部を形成することなく、平板に直接ゲルシートを取り付ける構成としてもよい。
【実施例】
【0028】
次いで、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0029】
痴漢犯罪の場合、被害者の着衣の繊維くずが被疑者の手に付着するので、被害者の着衣の繊維くずを微物として採取すると共に、被疑者の手から繊維くずを採取し、両者が同一か否かを鑑定することにより痴漢犯罪の解決を図れることがある。そこで、綿の繊維くずとポリエステル繊維の繊維くずをそれぞれ手で触れ、手に付着した繊維くずを上記の微物採取用具100(以下の実施例)と市販の接着テープ(以下の比較例)で採取を試み、両者で鑑定が可能な程度まで微物を採取できるか否かの試験を行った。試験結果は、表1及び表2に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表1に示すように、綿の繊維くずの場合、実施例では1秒の接触でも手に付着した繊維くずを鑑定ができる程度に採取できたが、比較例では30秒以上の接触がないと鑑定ができる程度に採取できなかった。したがって、実施例の微物採取用具100は、被疑者の痴漢行為に及ぶ時間の長短に拘わらず、犯罪の立証が可能である。また、表2に示すように、ポリエステル繊維の繊維くずの場合、実施例では1秒の接触でも手に付着した繊維くずを鑑定ができる程度に採取できたが、比較例では60秒の接触でも鑑定ができる程度に採取できなかった。したがって、実施例の微物採取用具100は、被害者の着衣の素材の種類を問わず、犯罪の立証が可能である。また、手のような凹凸面のある採取箇所からも微物を十分に採取できるという結果から、微物採取用具100は、粘着性及び微物の採取箇所の凹凸面への追随性に優れ、微物鑑識に極めて有用であることが分かった。
【符号の説明】
【0033】
10 採取部
13 ゲルシート
14 保護シート
15 平板
20 保護部
21 取付溝
23 取付段部
25 箱状体
30 操作部
31 取付台
34 取付溝
36 楕円柱状体
100 微物採取用具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
犯罪現場等に存在する微物やDNA型鑑定の資料を粘着して採取するための微物採取用具であって、保護シートが被覆される粘着樹脂のゲルシートが一方の面に着脱自在に取り付けられる平板から構成される採取部と、少なくとも上部が開放した箱状体から構成される保護部と、把持が可能な操作部とを備え、前記採取部と前記保護部との間に設けられる取付手段により前記保護部に前記採取部を着脱自在に取り付けることができ、前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付けた際、前記保護部はその内底面と前記ゲルシートの上面との間に隙間ができるように形成され、また前記保護部と前記操作部との間に設けられる取付手段により前記操作部に前記保護部を着脱自在取り付けることができ、微物の採取は前記採取部が取り付けられた前記保護部が前記操作部に取り付けられ、前記操作部を把持して操作し、採取箇所の微物を前記ゲルシートの上面で粘着することを特徴とする微物採取用具。
【請求項2】
前記保護部に対する前記採取部の着脱方向と前記操作部に対する前記保護部の着脱方向が互いに直交するように前記採取部と前記保護部との間に設けられる前記取付手段及び前記保護部と前記操作部との間に設けられる前記取付手段がそれぞれ設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の微物採取用具。
【請求項3】
前記ゲルシートがゴム硬度30以下のポリウレタンゲルシートであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の微物採取用具。
【請求項4】
微物がDNA型鑑定の資料又は繊維くずであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微物採取用具。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微物採取用具を用いる微物の採取・鑑定方法であって、(1)微物を前記採取部の前記ゲルシートの上面で採取する過程と、(2)前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す過程又は前記操作部から前記保護部を取り外し、前記採取部を前記保護部から取り外す過程と、(3)前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付ける過程と、(4)前記(2)の過程で前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す場合、前記採取部が取り付けられた前記保護部を前記操作部から取り外す過程と、(5)前記採取部が取り付けられた前記保護部を密閉ができる入れ物に収容して保管する過程と、(6)前記保護部から前記採取部を取り外し、前記採取部を被検体として顕微鏡観察する過程又は前記採取部から前記ゲルシートを取り外しDNA鑑定する過程とを備えることを特徴とする微物の採取・鑑定方法。
【請求項6】
微物がDNA型鑑定の資料又は繊維くずであることを特徴とする請求項5に記載の微物の採取・鑑定方法。
【請求項1】
犯罪現場等に存在する微物やDNA型鑑定の資料を粘着して採取するための微物採取用具であって、保護シートが被覆される粘着樹脂のゲルシートが一方の面に着脱自在に取り付けられる平板から構成される採取部と、少なくとも上部が開放した箱状体から構成される保護部と、把持が可能な操作部とを備え、前記採取部と前記保護部との間に設けられる取付手段により前記保護部に前記採取部を着脱自在に取り付けることができ、前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付けた際、前記保護部はその内底面と前記ゲルシートの上面との間に隙間ができるように形成され、また前記保護部と前記操作部との間に設けられる取付手段により前記操作部に前記保護部を着脱自在取り付けることができ、微物の採取は前記採取部が取り付けられた前記保護部が前記操作部に取り付けられ、前記操作部を把持して操作し、採取箇所の微物を前記ゲルシートの上面で粘着することを特徴とする微物採取用具。
【請求項2】
前記保護部に対する前記採取部の着脱方向と前記操作部に対する前記保護部の着脱方向が互いに直交するように前記採取部と前記保護部との間に設けられる前記取付手段及び前記保護部と前記操作部との間に設けられる前記取付手段がそれぞれ設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の微物採取用具。
【請求項3】
前記ゲルシートがゴム硬度30以下のポリウレタンゲルシートであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の微物採取用具。
【請求項4】
微物がDNA型鑑定の資料又は繊維くずであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微物採取用具。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微物採取用具を用いる微物の採取・鑑定方法であって、(1)微物を前記採取部の前記ゲルシートの上面で採取する過程と、(2)前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す過程又は前記操作部から前記保護部を取り外し、前記採取部を前記保護部から取り外す過程と、(3)前記採取部を前記ゲルシートが取り付けられる面側を下側にして前記保護部に取り付ける過程と、(4)前記(2)の過程で前記操作部に前記保護部を取り付けたまま微物が採取された前記採取部を前記保護部から取り外す場合、前記採取部が取り付けられた前記保護部を前記操作部から取り外す過程と、(5)前記採取部が取り付けられた前記保護部を密閉ができる入れ物に収容して保管する過程と、(6)前記保護部から前記採取部を取り外し、前記採取部を被検体として顕微鏡観察する過程又は前記採取部から前記ゲルシートを取り外しDNA鑑定する過程とを備えることを特徴とする微物の採取・鑑定方法。
【請求項6】
微物がDNA型鑑定の資料又は繊維くずであることを特徴とする請求項5に記載の微物の採取・鑑定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−202797(P2012−202797A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67149(P2011−67149)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(594206244)株式会社エクシールコーポレーション (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(594206244)株式会社エクシールコーポレーション (5)
【Fターム(参考)】
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