説明

微生物によるビタミンCの製造

本発明は、グルコノバクターオキシダンス(Gluconobacter oxydans)DSM4025(FERM BP−3812)、グルコノバクター(Gluconobacter)属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異株よりなる群から選択される微生物を用いる、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースのような種々の基質からのビタミンCの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物によるL−アスコルビン酸(ビタミンC)の製造に関する。
【0002】
人間にとって非常に重要で必須の栄養因子の一つであるビタミンCは、技術的に確立された方法として周知である、いわゆる「ライヒシュタイン法(Reichstein method)」により商業的に製造されている。しかし、この方法は、多数の複雑な工程を含んでおり、全体としての収率を向上させることは全く困難である。したがって、工程数の削減および/または全体としての収率の向上を意図して、多くの提案がなされてきた。
【0003】
本発明は、グルコノバクターオキシダンス(Gluconobacter oxydans)DSM4025(FERM BP−3812)株、グルコノバクター(Gluconobacter)属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体よりなる群から選択される微生物を、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースを含有する水性栄養培地中で培養し、発酵培地からビタミンCを単離そして精製することによる、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法を提供する。
【0004】
より特定的には、本発明は、
(a)微生物を、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースを含有する水性栄養培地中で培養する工程であり、該工程中、該微生物がグルコノバクターオキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)、グルコノバクター属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体よりなる群から選択される工程と、
(b)発酵培地からビタミンCを単離そして精製する工程とを含む、
D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法を提供する。
【0005】
好ましい実施態様においては、ビタミンCは、上記の方法により、L−グロースまたはL−ソルボソンから製造される。より好ましい実施態様は、
(a)微生物を、L−グロースを含有する水性栄養培地中で培養する工程であり、該工程中、該微生物がグルコノバクターオキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)、グルコノバクター属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物およびそれらの変異体よりなる群から選択される工程と、
(b)発酵培地からビタミンCを単離そして精製する工程とを含む、
L−グロースからのビタミンCの製造方法である。
【0006】
本発明は、また、G.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)株、グルコノバクター属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体から選択される微生物を、反応混合物中でD−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースと接触させ、反応混合物からビタミンCを単離そして精製することを含む、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法を提供する。
【0007】
より特定的には、本発明は、グルコノバクターオキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)株、グルコノバクター属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体から選択される微生物を、反応混合物中でD−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースと接触させ、反応混合物からビタミンCを単離そして精製することを含む、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法に関する。
【0008】
G.オキシダンスDSM4025は、ブタペスト条約の規定に基づいて、1987年3月17日にDSM番号4025で、ゲッチンゲン(ドイツ)の微生物および細胞培養物のドイツ収集機関(Deutsche Sammlung Mikroorganismen und Zellkulturen, DSMZ)に寄託された。寄託者は、The Oriental Scientific Instruments Import and Export Corporation for Institute of Microbiology, Academia Sinica,(52 San−Li−He Rd.,北京、中華人民共和国)であった。実際上の寄託者は、上記の研究機関であり、その完全な宛名は、The Institute of Microbiology, Academy of Sciences of China,(Haidian, Zhongguancun,北京100080、中華人民共和国)である。
【0009】
また、その株の継代培養株は、また、ブタペスト条約の規定に基づいて、1992年3月30日に受託番号FERM BP−3812で、産業技術総合研究所(AIST)(日本国、305−8566 茨城県つくば市東1−1−1、つくば中央第6)に寄託された。寄託者は、日本ロッシュ(株)(日本国、105−8532 東京都港区芝2丁目6−1)である。この継代培養株も、本発明において使用することができる。
【0010】
G.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)またはグルコノバクター属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物の変異株は、例えば、紫外線もしくはX線照射またはナイトロジェンマスタードもしくはN−メチル−n−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の化学的突然変異原で細胞を処理することにより得ることができる。
【0011】
「グルコノバクターオキシダンス」は、また、原核生物命名国際コードにより定義されるように、同じ物理化学特性を有するそのような種の同義語またはバソニムを包含すると解される。
【0012】
任意のタイプの微生物、例えば、静止細胞、アセトン処理細胞、凍結乾燥細胞、固定化細胞等を、基質に直接作用させるために用いることができる。インキュベーションに関連する方法としてそれ自体公知の任意の手段を、通気の使用によって採用することができ、攪拌下の液中発酵槽が特に好ましい。反応を行うための好ましい細胞濃度範囲は、1ml当たりに湿潤細胞重量約0.01〜約0.7g、好ましくは1ml当たりに湿潤細胞重量約0.03〜約0.5gである。
【0013】
培養は、pH4.0〜9.0で行うことができ、約5.0〜8.0のpH値が好ましい。培養時間は、使用されるpH、温度、および栄養培地により変化するが、好ましくは約1〜5日間、最も好ましくは約1〜3日間である。培養を行うのに好ましい温度範囲は、約13〜約36℃、最も好ましくは18〜33℃である。好ましい結果は、液体ブロス培地を利用するインキュベーションから得られる。
【0014】
そこで、本発明の一つの態様は、
(a)微生物を、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースを含有する水性栄養培地中で培養する工程であり、該工程中、該微生物がグルコノバクターオキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)、グルコノバクター属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体よりなる群から選択される工程と、
(b)発酵培地からビタミンCを単離そして精製する工程とを含む、
D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法であって;
約4.0〜約9.0の範囲のpHで、かつ約13℃〜約36℃の温度範囲で1〜5日間行うものである、
方法を提供することである。
【0015】
好ましい実施態様においては、前記方法は、約5.0〜約8.0の範囲のpHで、かつ約18℃〜約33℃の温度範囲で1〜3日間行われる。
【0016】
微生物のインキュベーションのための栄養培地として、炭素源、窒素源、他の無機塩類、少量の他の栄養素などを含み、微生物により利用されうる無機物およびビタミンを含む任意の水性栄養培地を使用することができる。微生物のより良好な増殖のために一般的に使用される種々の適切な栄養物質を培地中に含むことができる。
【0017】
培養培地が、資化しうる炭素源、例えば、ビタミンCに変換される炭素源の他に、グリセリン、D−マンニトール、エリスリトール、リビトール、キシリトール、アラビトール、イノシトール、ズルシトール、D−リボース、D−フルクトース、D−グルコース、およびスクロース;有機物質等の消化しうる窒素源、例えば、ペプトン、酵母エキス、パン酵母、尿素、アミノ酸、およびコーンスティープ液のような栄養素を含有することが、通常求められる。種々の無機物質、例えば、硝酸塩およびアンモニウム塩を、同様に、窒素源として使用することができる。更に、培養培地は、通常、無機塩、例えば、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、および炭酸カルシウムを含有する。
【0018】
インキュベーションを有利に行うために、最終生産物の生成を促進できる任意の適切な要素を培地に添加してもよい。そのような要素として、溶媒、洗浄剤、消泡剤、通気条件(例えば反応に適用される酸素濃度)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0019】
D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースの濃度はまた、培養条件により変わりうるが、約2〜120g/Lの濃度が一般に適用可能である。4〜100g/Lの濃度が好ましい。
【0020】
培地または反応混合物中でこのようにして生産され蓄積されたビタミンCは、生産物の特性を適切に利用したそれ自体公知の任意の慣用の方法により分離、精製することができ、遊離酸として、またはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム等の塩として分離することができる。
【0021】
具体的には、分離は以下の工程:塩の生成による工程、溶解度、吸収能および溶媒間の分配係数等の、生産物とその周りの不純物との間の特性の違いを用いることによる工程、吸着、例えばイオン交換樹脂上への吸着による工程、の任意の適切な組合せまたは繰返しにより行うことができる。これらの方法のいずれかの単独または組合せが、生産物を単離するための好都合な手段を構成する。このようにして得られた生産物は、慣用の方法、例えば、再結晶またはクロマトグラフィーにより、更に精製することができる。
【0022】
本発明の方法により得られるビタミンCの同定は、例えば、元素分析ならびに赤外吸収スペクトル、マススペクトル、NMR等の物理化学的特性の測定により行うことができる。
【0023】
本発明によれば、それは、基質D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースのいずれか一つからのビタミンCの製造を目ざした一工程経路をもたらしているため、工程数削減の観点から、改善は極めて大きな意義を有するものである。
【0024】
以下の実施例において、本発明の方法をより詳細に説明する。
【0025】
実施例1: D−ソルビトールのビタミンCへの変換
5.0%D−マンニトール、0.25%MgSO・7HO、1.75%コーンスティープ液、5.0%パン酵母、0.5%尿素、0.5%CaCOおよび2.0%寒天を含有する寒天培地上で、27℃で4日間培養されて増殖したG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の一白金耳を、8.0%D−ソルビトール、5.0%パン酵母、0.05%グリセリン、0.25%MgSO・7HO、1.75%コーンスティープ液、0.5%尿素、1.5%CaCOおよび消泡剤1滴を含有する試験管中の種培養培地5mlに接種し、次いで、往復振盪器上で30℃、240rpmで20時間培養した。
【0026】
種培養物3mlを、8.0%D−ソルビトール、5.0%パン酵母、0.05%グリセリン、0.25%MgSO・7HO、3.0%コーンスティープ液、1.5%CaCOおよび0.15%消泡剤を含有する生産培地50mlを含有する500mlのエーレンマイヤーフラスコに移した。培養は、回転振盪器上で30℃、180rpmで45時間行った。次いで、生産されたビタミンCの濃度を、UV検出器(東ソーUV8000;東ソー株式会社、日本国東京都中央区京橋3−2−4)、デュアルポンプ(東ソーCCPE;東ソー株式会社)、積算計(島津C−R6A;島津製作所、日本国京都市中京区西ノ京桑原町1)およびカラム(YMC−パックポリアミドII;YMC社、3233 Burnt Mill Drive Wilimington, NC28403, USA)で構成されたシステムを有する、HPLC(波長264nmで)で測定した。その結果、ビタミンC118.1mg/Lが生産された。
【0027】
実施例2: L−ソルボースのビタミンCへの変換
5.0%D−マンニトール、0.25%MgSO・7HO、1.75%コーンスティープ液、5.0%パン酵母、0.5%尿素、0.5%CaCOおよび2.0%寒天を含有する寒天培地上で、27℃で4日間培養されて増殖したG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の一白金耳を、8.0%L−ソルボース、5.0%パン酵母、0.05%グリセリン、0.25%MgSO・7HO、1.75%コーンスティープ液、0.5%尿素、1.5%CaCOおよび消泡剤1滴を含有する試験管中の種培養培地5mlに接種し、次いで、往復振盪器上で30℃、240rpmで20時間培養した。
【0028】
種培養物3mlを、8.0%L−ソルボース、5.0%パン酵母、0.05%グリセリン、0.25%MgSO・7HO、3.0%コーンスティープ液、1.5%CaCOおよび0.15%消泡剤を含有する生産培地50mlを含有する500mlのエーレンマイヤーフラスコに移した。培養は、回転振盪器上で30℃、180rpmで20時間行った。その結果、ビタミンC407.1mg/Lが生産された。
【0029】
実施例3: 静止細胞系でのD−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの生産
G.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)を、8.0%L−ソルボース、0.25%MgSO・7HO、1.75%コーンスティープ液、5.0%パン酵母、0.5%尿素、0.5%CaCOおよび2.0%寒天を含有する寒天培地上で27℃で4日間培養した。上記の培地で増殖したG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の細胞を50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に移し、同じ緩衝液で2回洗浄した。600nmでの細胞懸濁液の光学濃度は21.9であった。それは、1ml当たり0.057gの湿潤細胞重量を含有していた。
【0030】
反応混合物(試験管中5ml)は、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中に細胞懸濁液ならびに8.0%D−ソルビトール、8.0%L−ソルボース、0.5%L−ソルボソン、または1.0%L−グロースを含有していた。反応は、細胞懸濁液の接種により開始され、30℃で、往復振盪器上で180rpmで行った。ビタミンC含有量は、反応時間4,20および24時間において、HPLCで測定した。表1は、各々の基質からG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)により生産されたビタミンCの量を示す。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)微生物を、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースを含有する水性栄養培地中で培養する工程であり、該微生物がグルコノバクターオキシダンス(Gluconobacter oxydans)DSM4025(FERM BP−3812)、グルコノバクター(Gluconobacter)属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体よりなる群から選択される工程と、
(b)発酵培地からビタミンCを単離そして精製する工程とを含む、
D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法。
【請求項2】
ビタミンCがL−グロースから製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
約4.0〜約9.0の範囲のpHで、かつ約13〜約36℃の温度範囲で1〜5日間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
約5.0〜約8.0の範囲のpHで、かつ約18〜約33℃の温度範囲で1〜3日間行う、請求項1に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)微生物を、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースを含有する水性栄養培地中で培養する工程であり、該微生物がグルコノバクターオキシダンス(Gluconobacter oxydans)DSM4025(FERM BP−3812)、グルコノバクター(Gluconobacter)属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体よりなる群から選択される工程と、
(b)発酵培地から微生物により生産されたビタミンCを直接単離しそして精製する工程とを含む、
D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法。
【請求項2】
微生物を、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースを含有する水性栄養培地中で培養し、微生物により生産されたビタミンCを、発酵ブロスから直接単離し、そして慣用の方法で精製する、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、またはL−グロースからのビタミンCの製造方法であって、
前記微生物が、グルコノバクターオキシダンス(Gluconobacter oxydans)DSM4025(FERM BP−3812)、グルコノバクター(Gluconobacter)属に属し、かつG.オキシダンスDSM4025(FERM BP−3812)の同定特性を有する微生物、およびそれらの変異体よりなる群から選択される方法。
【請求項3】
微生物が、グルコノバクターオキシダンス(Gluconobacter oxydans)DSM4025(FERM BP−3812)である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ビタミンCがL−グロースから製造される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
約4.0〜約9.0の範囲のpHで、かつ約13〜約36℃の温度範囲で1〜5日間行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
約5.0〜約8.0の範囲のpHで、かつ約18〜約33℃の温度範囲で1〜3日間行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2006−500050(P2006−500050A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538967(P2004−538967)
【出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010494
【国際公開番号】WO2004/029268
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】