説明

微生物のプロテアーゼ分泌欠損突然変異体を特定するスクリーニング方法

【解決手段】本発明は、微生物のプロテアーゼ分泌欠損株の特定方法であって:
・繊毛虫類の突然変異体をゲルに加え;
・繊毛虫類の突然変異体がタンパク質を分泌する条件下でインキュベートし;
・前記の繊毛虫類の突然変異体をゲルから分離し;
・ここで、繊毛虫類の少なくとも1つの分泌プロテアーゼの少なくとも1つの基質が前記のゲルに含有され、および/または、前記のゲル自身が基質であり、および/または、基質が後で加えられて、少なくとも一部はゲルに拡散し;
かつ、基質に作用したプロテアーゼ活性を測定する、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物のプロテアーゼ分泌欠損株の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーにおいて、タンパク質を大量にかつ生理学的に発生する形態で産生することができる発現系は、必要性が高い。多くの可能性のうちの1つは、タンパク質を産生し、任意にそれらを翻訳後修飾し、次いでそれらを分泌する微生物における異種発現である。その原理は、異種タンパクを産生するような方法で微生物を遺伝子的に修飾することである。異種発現およびその後に分泌が行われる微生物には、テトラヒメナ(Tetrahymena)等の繊毛虫類およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母類がある。
【0003】
このような異種発現系の使用は、多くの利点を供する。例えば、テトラヒメナ好熱菌(T. thermophila)を低コストで短時間に細胞濃度を高く培養することが可能である(サリバ(SALIBA)ら、1983年;キイ(KIY)およびティデュケ(TIEDTKE)、1992年)。さらに、生物を遺伝子的に設計する方法が確立され、それによって異種タンパクを大量に産生することができる(トンドラヴィ(TONDRAVI)およびヤオ(YAO)、1986年;ユー(YU)ら、1990年;ゲルティッヒ(GAERTIG)およびゴロフスキ(GOROVSKY)、1992年;ゲルティッヒ(GAERTIG)ら、1994年;カシディ−ハンリー(CASSIDY-HANLEY)ら;1997年)。これらのタンパク質は、ヒトのタンパク質と類似の形態にグリコシル化されるため、医薬用途に興味がもたれる(タニグチら;1985年)。この発現系の本質的な利点の1つは、テトラヒメナ好熱菌によって合成されるタンパク質が培地中に分泌され、タンパク質の精製が容易になることである(キイ(KIY)、1993年)。
【0004】
しかしながら、このような異種発現系の使用において頻出する問題は、プロテアーゼの自然分泌である。このように、例えば、テトラヒメナ好熱菌(T. thermophila)が培地中に多量のプロテアーゼを自然分泌することが知られている(バンノおよびノザワ、1982年;バンノら、1982年;バンノら、1983年)。これらのプロテアーゼは特性が明らかにされていないことから、さらに得られる情報は殆どない。内因性タンパク質と比較すると、異種発現したタンパク質は、タンパク質分解をかなり受けやすい。対照的に、テトラヒメナ好熱菌の細胞外酵素の機能活性は、本質的には分泌されるプロテアーゼに制限されない(キイ(KIY)、1993b)。タンパク質分解活性の結果、異種発現したタンパク質の収率が著しく低下する。
【0005】
分解を防ぐため、プロテアーゼ阻害剤またはカゼイン等の競合物質の添加、またはタンパク質分解活性のより低い株の産生等の、様々なアプローチが可能である。しかしながら、例えばテトラヒメナ好熱菌(Tetrahymena thermophila)に使用可能なプロテアーゼ分泌欠損株は、現在は存在しない。概して分泌が制限される突然変異体は記載されている(ヒュンゼラー(HUENSELER)ら;1987年)。しかしながら、そのような突然変異体は、プロテアーゼが分泌されない一方で、所望の標的タンパク質もまた分泌されないため、タンパク質の異種発現には適当ではない。
【0006】
ヒュンゼラー(HUENSELER)ら、1992年によれば、分泌欠損変異体は、スクリーニング法により構築された。このように、寒天プレートにウェルをパンチし、ピペットで吸い取った。次に、細胞培養液をこれらのウェルに加える。この方法は比較的単調で退屈であり、自動化できない。薄い寒天層が傷つくと、交差汚染のリスクもある。また、この方法は大規模での使用または自動化はできない。
【0007】
概して、発現系を分泌するためには、タンパク質分解活性が低いか全くない株の必要性が大きい。
【0008】
テトラヒメナ好熱菌(T. thermophila)の過分泌性変異体のスクリーニング法は、開発されている(ハートマン(HARTMANN)、2000年)。この方法では、変異体は96穴マイクロタイタープレートで培養する。次に細胞を超遠心分離法によって異なる濃度の領域に分ける。ポリマー層(Ficoll)を各培地の下に置き、細胞をこのFicoll中に遠心分離する。上澄をピペットで除去した。酵素試験において、β−ヘキサミニダーゼ(hexaminidase)および酸フォスファターゼ等の分泌タンパク質活性が上昇した変異体を定量した。
【0009】
この方法は、長時間を要する。さらに、細胞溶解が起こり、非分泌タンパク質が放出されて結果が変わるのを排除することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、タンパク質の異種発現のための改良された分泌系のスクリーニング法を提供することである。特に、本方法は、分泌される異種発現タンパク質の収率が改良された微生物の変異体のスクリーニングを可能にするであろう。
【0011】
本方法は、多数の突然変異体の短時間かつ安価な試験を可能にするであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、本発明の目的は、請求項1〜15のいずれかによる方法および微生物によって達成される。
【0013】
概して、本方法は、プロテアーゼを分泌し、異種発現した標的タンパク質の分泌に好適な微生物の突然変異体を用いて実施することができる。「分泌プロテアーゼ」という用語は、野生型の微生物が周囲に分泌するプロテアーゼを意味する。本発明の方法は、インビボでのプロテアーゼ活性の測定を可能にする。
【0014】
微生物は、好ましくは、繊毛虫類および酵母より成る群から選択される。このような微生物は、プロテアーゼ等の酵素活性を有する内因性タンパク質を発現する。特に好ましい酵母には、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)がある。また、本方法は、単細胞藻類、特にクラミドモナス(Chlamydomonas)、ウルヴァ属(Ulva)およびユーグレナ属(Euglena)、および原核生物、特にバチルス属(Bacillus)およびエシェリキア属(Escherichia)のスクリーニングにも好適である。特に好適な繊毛虫類は、テトラヒメナ属(Tetrahymena)のもの、特にテトラヒメナ(Tetrahymena)好熱菌(thermophila)、マラッセンシス(malaccensis)、エリオッティ(elliotti)、アルファエリオッティ(alphaeliotti)、ピリフォミス(pyriformis)、セトーサ(setosa)、アルファピリフォミス(alphapyriformis)、ベータピリフォミス(betapyriformis)、ロイコフリス(leucophrys)、シルヴァニ(silvani)、ヴォラックス(vorax)、トロピカリス(tropicalis)、アルファトロピカリス(alphatropicalis)、ベータトロピカリス(betatropicalis)、ガンマトロピカリス(gammatropicalis)、デルタトロピカリス(deltatropicalis)、ボレアリス(borealis)、カナデンシス(Canadensis)、ロストラータ(rostrata)、アルファカナデンシス(alphacanadensis)、ベータカナデンシス(betacanadensis)、ミムブレス(mimbres)、アメリカニス(americanis)アメリカニス(americanis)、パラアメリカニス(paraamericanis)、オーストラリス(australis)、ヘゲウィスキ(hegewischi)、ヒペラングラリス(hyperangularis)、ナンネイ(nanneyi)、ニッピシンギ(nippisingi)、ピグメントサ(pigmentosa)、ピグメントサ・オリアシ(pigmentosa oriasi)、ピグメントサ・ユーロピグメントサ(pigmentosa europigmentosa)、ソンネボルニ(sonneborni)、アジアティカ(asiatica)、カプリコルニス(capricornis)、パテュラ(patula)、アレンサエ(allensae)、コスモポリタニス(cosmopolitanis)またはシャンハイエンシス(shanghaiensis)である。
【0015】
微生物の突然変異体は、ランダム突然変異誘発または定方向突然変異誘発等の、知られている方法によって産生することができる。本方法は、プロテアーゼ分泌欠損株が入手できないか、技術的理由または遺伝情報の不足のため、困難を伴う微生物に、特に有利である。交差遺伝子(cross-genetic)法は特に好ましい。
【0016】
突然変異体を産生する特に好ましい方法は、単為生殖の細胞質融合である。これは交差遺遺伝子法であり、好ましくは、コール(Cole)およびブランズ(Bruns)によって記載(1992年)されたように実施する。そこに記載された方法は、参照することにより本書に組み込まれる。この方法は、例えば、ヒュンゼラー(Huenseler)らが用いた短絡ゲノム除去法(1987年)と同等に、最大20回の突然変異の発現を可能にする。従って、突然変異の収率は、20倍より高い。
【0017】
微生物の突然変異体のゲルとのインキュベーションは、好ましくは、好適な水性媒体、好ましくは培養液中で行われる。いずれにせよ、生理学的条件と類似の条件(pH値、イオン濃度等)を実施すべきであり、その結果、微生物の死滅および溶解が抑制される。
【0018】
好ましい態様において、微生物のゲルとのインキュベーションは、2時間〜2週間、特に1〜5日間実施される。
【0019】
好適な培養液は、脱脂粉乳、プロテオースペプトン、酵母抽出物、大豆ペプトン、硫酸鉄/キレート溶液(100X、シグマ)および/またはグルコース一水和物であるか、または、それらを含有する。また、個々の成分の正確な組成に従った既知組成培地(CDM)を使用してもよい。
【0020】
好ましい態様において、ゲルとして、ゼラチン、アガロース、寒天および/またはポリアクリルアミドゲルが使用される。細孔の大きさまたは架橋度は、プロテアーゼ等の分泌タンパク質がゲル中に拡散でき、一方で微生物が実質的にゲルから除かれるように選択される。
【0021】
好ましい態様において、プロテアーゼの基質は、カゼイン、カゼイン誘導体、蛍光標識したカゼインおよび/またはゼラチンよりなる群から選択される。特に好適なものは、BODIPY FLカゼインおよびBODIPY TR-Xカゼイン(モレキュラー・プローブス社(Molecular Probes Inc.)、米国)または同様に蛍光標識したペプチドまたはタンパク質である。
【0022】
インキュベーションは、好ましくは、微生物がプロテアーゼを分泌し、かつ、分泌されたプロテアーゼがゲル中に拡散することができる条件下で行われる。
【0023】
微生物のゲルからの分離は、好ましくは、注ぎ出し(デカンテーション)、ピペッティング、吸引および/または洗浄によって行われる。
【0024】
好ましい態様において、基質のタンパク質分解は、強度が測定される蛍光または吸収シグナルを産生し、その結果からプロテアーゼ活性が定量される。
【0025】
さらに好ましい態様において、ゲルの層はフィルム、特にX線フィルムに適用される。プロテアーゼが基質と反応した後、フィルムの変化を測定し、その変化からプロテアーゼ活性を定量する。
【0026】
本発明の方法は、マイクロタイタープレートを用いて実施される。ゲルは、プレートの各ウェルにおいて製造される。これは、通常、溶液、例えばアガロース溶液をウェル中に注ぎ、その後冷却することによって行われる。通常の96穴のマイクロタイタープレートが好ましい。本発明の方法は、自動化することができ、かつ/または、試験する多数の突然変異体を用いて実施することができる。1つの突然変異体をマイクロタイタープレートの各ウェルに加える。このことは、細胞を1つだけ加えることを意味する必要はない。また、同一のDNAを有する多数の細胞を加えてもよい。このような多数の細胞は、1つの細胞を単離し、続いてそれを増殖することによって製造される。
【0027】
本発明の方法は、非活性または活性が弱いプロテアーゼを培地中に特異的に分泌し、一方、他のタンパク質および少なくとも異種発現したタンパク質の分泌は好ましくは制限されないか、わずかだけ制限される突然変異体の選択的スクリーニングを可能にする。アッセイの機能には、プロテアーゼが不活性な形態で分泌されるか、全く分泌されないかは無関係である。要点は、プロテアーゼ活性の低下により、標的タンパク質の収率が増加することである。
【0028】
ランダム突然変異誘発による繊毛虫類の突然変異体の産生方法は確立されている(クルーガー(CRUEGER)およびクルーガー(CRUEGER)、1989年)。また、突然変異が発現され得る交差遺伝子手法が記載されている(コール(COLE)およびブランズ(BRUNS)、1989年)。これらの方法は、テトラヒメナ好熱菌(T. thermophila)の核二形性の故に、必要である。さらに、分配装置およびポワソン分布(Poisson lottery)を用いて、96穴マイクロタイタープレートに突然変異体を分配することが可能である。
【0029】
本発明の方法は、知られている方法を越える、幾多の有利点を有する:
【0030】
分泌系が概して悪い影響を受け、ゆえに他のタンパク質の異種分泌に好適でない突然変異体が確立されないため、本方法は固有のものである。
【0031】
培地中に分泌されたプロテアーゼの活性によって、シグナルが単独で生成される。アッセイ条件が穏やかであるため、スクリーニングの間、細胞溶解は起こらず、従って細胞内プロテアーゼによって結果がバイアスされない。
【0032】
種々の非特異的プロテアーゼ基質を使用することができる。このことは、例えば繊毛虫類において、分泌されるプロテアーゼの基質特異性について殆ど知られていないことから、有利である。従って、スクリーニング収率は、全体のプロテアーゼ活性に影響する。
【0033】
本発明の方法は、簡単かつ迅速に実施することができ、繊毛虫類培養物をその培養液中で試験することができる。従って、ハートマン(Hartmann)らの方法(2000年)における遠心分離等の生成工程は省略される。この単純な方法により、例えば96穴スケールで、多量の突然変異体の細胞外プロテアーゼ活性試験が可能になる。
【0034】
特に多数の突然変異体が単為生殖の細胞質融合(UPC)によって産生される場合、非常に高い効率が達成される。
【0035】
本方法は、後にそれらの分泌特性をより厳密に分析できる突然変異体をもたらす。得られる菌株は、その後、異種発現系として利用することができる。
【0036】
本方法は、発現されたプロテアーゼのゲル中への拡散を利用する。プロテアーゼがゲルに移動する、プロテアーゼの検出方法は、例えばパーチ(Paech)ら(1993年)の先行技術において既に知られていた。これらは、プロテアーゼが、一方では、ゲルに入る前に精製され、他方では、ゲル中の電気泳動によって分離される方法である。本発明の方法は、プロテアーゼの精製が不要であり、かつ、電気泳動または電界の適用が行われないことから、完全に異なる。
【0037】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、以下の通り実施することができる:
【0038】
突然変異体を、96穴マイクロタイタープレートのウェル中で生育させる。培養物は、アガロース層の下の、液体培養液中である。インキュベーションの間、プロテアーゼを含む細胞外酵素は、部分的にアガロース中に拡散する。細胞を含む培養液を取り出した後、カゼイン誘導体をアガロースに加えるが、これももまた部分的にアガロース中に拡散する。このカゼイン誘導体がタンパク分解活性によって開裂する場合、プロテアーゼ活性に比例する蛍光シグナルが生ずる。シグナルの強度は、例えば、終点決定の範囲内でのマイクロタイタープレート蛍光リーダーによって、または、反応動態(the kinetics)を記録することによって、検出することができる。蛍光シグナルの弱いものが、プロテアーゼ分泌欠損株を示す。
【0039】
さらなる態様において、本発明のスクリーニング方法は以下の通り実施することができる:
【0040】
マイクロタイタープレートにおいて既に暫時培養した培養物を、完全に露光し現像したX線フィルムのゼラチンでコートした側に、8チャネルピペットで所々に適用する。滴は培養液から成り、その中には細胞外酵素がインキュベーションの間に既に分泌されていた。さらに、細胞は培地中に存在する。細胞溶解を防ぐため、滴が乾固しないよう注意を払うべきである。滴は暫時ゼラチン上に残るので、後者は存在するプロテアーゼによって加水分解され得る。次いで滴がフィルムから洗い落とされ、その後フィルムを特別な緩衝液中に入れる際に、ゼラチンが加水分解された場所で洗浄ハロゲン化物が形成される。従って、このような洗浄ハロゲン化物は、細胞外プロテアーゼの高活性を示す。
【0041】
本発明の方法は、細胞を含まない上澄を得るための複雑な方法を必要とせずに、プロテアーゼの活性を上澄中で選択的に検出するという特徴がある。さらに、非特異的基質(カゼイン誘導体、ゼラチン)を使用するため、さらなる特徴がない菌株のプロテアーゼ活性を試験することが可能である。両方法は、迅速に実施され、低コストであるという特徴があり、従って、多数の突然変異体を試験することができる。
【実施例】
【0042】
方法1:
化学的ランダム突然変異誘発によって突然変異を起こし、その後、コール(COLE)およびブランズ(BRUNS)(1992年)による単為生殖の細胞質融合(簡単に:UPC)の交差遺伝子法によって発現させる。このように、突然変異体を産生した。突然変異体を調製した後、スクリーニングのためのマイクロタイタープレートを以下の通り調製した:
【0043】
96穴マイクロタイタープレートのウェルに、無菌条件下でアガロース(1%;w/v)を注ぐ。凝固させた後、アガロースを培養液層で覆う。ウェルのテトラヒメナ(Tetrahymena)の突然変異株とのインキュベーションを、以前に調製した、クローンを育成したマイクロタイタープレート由来の、自己調製した96スタンプによって実施する。30℃で3日間インキュベーションした後、細胞を含む培養液を取り出し(デカントし)、ウェルを緩衝液(トリス-HCl; 50mM; pH7.4)で2回洗浄する。酵素反応の基質として、ウェル中に、それぞれ100μlの蛍光色素を入れる。基質として、エンズチェック・プロテアーゼ・アッセイ・キット(EnzChek Protease Assay Kit)E−6638(モレキュラー・プローブス社(Molecular Probes Inc)、米国)に含まれるものを使用する。色素は、製造元の使用説明書に従って使用し、使用する溶液は同梱の緩衝液で1:2に希釈する。希釈により、試験の感受性に影響することなく、試料数を有意に増やすことができる(図1)。
【0044】
蛍光強度の検出には、励起波長および検出波長に合わせた一対のフィルターを有する、リーダー(Reader)FLx800(バイオテック・インストルメンツ社(BIO-TEK INSTRUMENTS, INC.))を使用する。プロテアーゼ活性の測定として、基質を加えた後に反応動態を直接的に記録することができ、ここで勾配は蛍光シグナルに比例し、従ってプロテアーゼ活性にも比例する。
【0045】
あるいは、室温で1時間インキュベーションした後、終点測定を実施することが可能である。このようにして得られた絶対値もまた、蛍光強度またはプロテアーゼ活性を反映する。
【0046】
実施例2:
化学的ランダム突然変異誘発によって突然変異を起こし、その後、コール(COLE)およびブランズ(BRUNS)(1992年)による単為生殖の細胞質融合(簡単に:UPC)の交差遺伝子法によって発現させる。このように、突然変異体を産生した。突然変異体を調製した後、スクリーニングのためのマイクロタイタープレートを以下の通り調製した:
【0047】
ゼラチンでコートしたX線フィルム(フェラニア(Ferrania))を露光し、現像して固定する。使用に先立ち、フィルムを緩衝液(トリス−HCl;50mM;pH7.5)で10分間湿らせる。この前処理の後、緩衝液の残部を濾紙で慎重に除去しなければならない。ゼラチンでコートした側に、30μlの3日齢のテトラヒメナ(Tetrahymena)培養物を、8チャネルピペットで適用する。滴が他に滲み出ないよう、注意すべきである。滴を適用したフィルムを30℃で1時間インキュベートする間に、培地中に存在するプロテアーゼがゼラチンを加水分解するが、ここで滴中の細胞は生存する。インキュベーション時間の経過後、蒸留水で滴をフィルムからすすぎ落とす。グリシン緩衝液(0.1M; pH10.0; 50℃)中でフィルムをもう1分間インキュベーションする際に、ゼラチンが分解した場所で洗浄ハロゲン化物を観察することができる。ゼラチン層がない場合は、黒く染色される銀化合物を洗い流す。従って、洗い流すか否かは、分泌されるプロテアーゼの活性レベルに依存する。また、ゼラチンの分解は、パラメータのインキュベーション時間およびインキュベーション温度に影響されるため、試験はそれぞれに広く行われている条件に適合させなければならない。
【0048】
これらの新規なスクリーニング法を用いて、テトラヒメナ(Tetrahymena)の突然変異体であって、培養液中に明らかに活性のより低いプロテアーゼを分泌し、一方で、β−ヘキサミニダーゼおよび酸フォスファターゼ等の他の酵素の分泌が実質的に低下しないものを単離することができた。
【0049】
従って、新規なスクリーニング法を用いて、プロテアーゼについて排他的に分泌が欠損するが、周囲の培地中にタンパク質を放出する能力は概して制限されない突然変異体を調製することができる。このことは、新規なスクリーニング法で得られる代表的な突然変異体の分泌動態を、野生型菌株の分泌動態と比較すると明確になる。
【0050】
図3および4は、突然変異体の分泌動態を、野生型菌株(野生型菌株Xおよび野生型菌株CU438.1)と比較して示す。突然変異体について2つの代表的な分泌リソソーム酵素である、β−ヘキソサミニダーゼおよび酸ホスファターゼの容量活性は、野生型の容量活性と同等である。図5は、1つの突然変異体と2つの野生型のプロテアーゼについての分泌動態を示す。野性型菌株と比較して、突然変異体は、培養期間中に周囲の培地中に放出するプロテアーゼが明らかにより少ないことが明確になる。
【0051】
参照文献
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【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の蛍光スクリーニング法の概略図を示す。
【図2】図2は、スクリーニングを実施した後のX線フィルムを示す。
【図3】図3は、1つの突然変異体および2つの野生型菌株XおよびCu438.1の、細胞を含まない上澄中のβ−ヘキソサミニダーゼの分泌動態を、容量活性で示す。
【図4】図4は、1つの突然変異体および2つの野生型菌株XおよびCu438.1の、細胞を含まない上澄中の酸ホスファターゼの分泌動態を、容量活性で示す。
【図5】図5は、1つの突然変異体および2つの野生型菌株XおよびCu438.1の、細胞を含まない上澄中のプロテアーゼの分泌動態を、容量活性で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物のプロテアーゼ分泌欠損株の特定方法であって:
・微生物の突然変異体を産生し;
・マイクロタイタープレートのウェルにおいてゲルを製造し;
・微生物の突然変異体を各ウェルのゲル上に加え;
・微生物の突然変異体がタンパク質を分泌する条件下でインキュベーションを行い;
・前記の微生物の突然変異体をゲルから分離し;
ここで、微生物の少なくとも1つの分泌プロテアーゼの少なくとも1つの基質が前記のゲルに含有され、および/または、前記のゲル自身が基質であり、および/または、基質が後で加えられて、少なくとも一部はゲルに拡散し;
かつ、基質に作用したプロテアーゼ活性を測定する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記の微生物が、繊毛虫類、特にテトラヒメナ(Tetrahymena)、酵母、特にピキア・パストリス(Pichia pastoris)、単細胞藻類、特にクラミドモナス(Chlamydomonas)、ウルヴァ属(Ulva)およびユーグレナ属(Euglena)、および原核生物、特にバチルス属(Bacillus)およびエシェリキア属(Escherichia)よりなる群から選択される、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記の微生物の突然変異体が、ランダム突然変異誘発または定方向突然変異誘発によって産生される、方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法であって、前記の微生物の突然変異体が、単為生殖の細胞質融合(UPC)によって産生される、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法であって、前記の微生物の突然変異体のゲルとのインキュベーションが、培養液中で行われる、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記の培養液が、脱脂粉乳、プロテオースペプトン、酵母抽出物、大豆ペプトン、硫酸鉄/キレート溶液および/またはグルコース一水和物を含有するか、または、合成培地である、方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法であって、前記のゲルがゼラチン、アガロース、寒天および/またはポリアクリルアミドゲルである、方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法であって、前記のプロテアーゼの基質が、カゼイン、カゼイン誘導体、蛍光標識したカゼインおよび/またはゼラチンよりなる群から選択される、方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法であって、前記のインキュベーションが、前記の微生物がプロテアーゼを分泌し、かつ、分泌されたプロテアーゼがゲル中に拡散することができる条件下で行われる、方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法であって、前記の微生物が、注ぎ出し(デカンテーション)、ピペッティング、吸引および/または洗浄によってゲルから分離される、方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法であって、基質のタンパク質分解により強度が測定される蛍光シグナルまたは吸収シグナルを産生され、その結果からプロテアーゼ活性を定量する、方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法であって、ゲルの層をフィルムに適用し、フィルムの変化を測定し、これらの変化からプロテアーゼ活性を定量する、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記のフィルムがX線フィルムである、方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法であって、前記の方法が自動化されたフォーマットにおいて実施される、方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法によって得られる、プロテアーゼ分泌欠損微生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−529545(P2008−529545A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555618(P2007−555618)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060034
【国際公開番号】WO2006/087366
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(502210459)シリアン アクチェンゲゼルシャフト (4)
【Fターム(参考)】