説明

微生物の検出方法

【課題】動物細胞のみを除去して、動物細胞を含む試料中から生きている微生物を高感度かつ高精度に検出する方法、該方法に供するキット、及び微生物濃縮方法の提供。
【解決手段】動物細胞を含む試料を微生物を通さないフィルターに通す工程と、前記フィルターを低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、前記フィルターに残存する微生物を検出する工程と、を有する、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物検出方法、前記試料を低濃度のトリス緩衝液で処理する工程と、前記処理済み試料溶液を微生物を通さないフィルターに通す工程と、前記フィルターに残存する微生物を検出する工程と、を有する微生物検出方法、該検出方法に供するキット、及び、動物細胞を含む試料を、微生物を通さないフィルターに通す工程と低濃度のトリス緩衝液で処理する工程と、を有する微生物濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の検出方法、該方法に用いるキット、及び動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの進歩により、今日では、培養細胞や実験動物等の動物細胞を含む試料は、研究・開発を進める上で重要な手段となっている。一方で、動物細胞を含む試料は、細菌等の微生物により汚染されやすい。汚染された試料を使用すると、研究成果の信頼性が著しく損なわれることになる。このため、培養細胞や実験動物等の微生物による汚染を速やかに検出する必要がある。
また、医療現場においても、血液製剤に含まれる細菌等の微生物を速やかに検出することが強く望まれている。微生物に汚染された血液製剤の投与により、重篤な感染症が引き起こされるためである。
【0003】
典型的な汚染微生物の検出方法として、動物細胞を含む試料を培養して行う培養法がある。該方法は、精密な検査が可能であるという利点があるが、培養に時間がかかるため、リアルタイムの検出が困難であり、検出感度が得られない、という欠点がある。
一方、汚染微生物をリアルタイムに検出する方法についても、種々の方法が開示されている。例えば、ATP生物発光を利用した方法として、a)哺乳動物細胞調製物中の哺乳動物細胞を洗剤又は浸透圧ショックによって区別して溶解させて、b)溶解により抽出された哺乳動物ATP(アデノシン三リン酸)を加水分解酵素処理により低減させ、c)そしてこの哺乳細胞調製物を微小区画化親水性/疎水性膜により濾過することにより微生物を固定化し、d)微生物ATPを抽出用試薬を用いて抽出し、及びe)抽出されたATPを生物発光用試薬により検出して計数する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。その他、近年、蛍光染色技術と画像認識技術を組み合わせた方法が注目されている。
【特許文献1】特表2003−500045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ATP生物発光を利用した方法は、多くの段階からなるため、検出に多大な手間と時間がかかる。洗剤は最終的なATP検出反応を阻害するため、哺乳動物細胞を溶解させるために洗剤を用いる場合には、特に入念な洗浄操作を要することになる。
また、哺乳動物細胞由来のATPを十分に低減できるかどうかは、検出毎の洗浄操作に左右されるため、結果の安定性・信頼性が問題となるおそれもある。
【0005】
一方、蛍光染色技術と画像認識技術を組み合わせた方法では、動物細胞と微生物は、形状やサイズは異なるものの、同様に染色されてしまうため、蛍光染色された動物細胞がノイズ・バックグラウンドとして検出されてしまい、微生物の検出感度が低く、検出精度にも問題がある。また、酸アルカリ処理、若しくは熱や有機溶媒等による処理をして、動物細胞を破壊した場合には、蛍光染色時のノイズ・バックグラウンドが低減される場合もあるが、そのような処理は検出したい微生物にも影響を及ぼす、という問題がある。
【0006】
本発明は、簡便に動物細胞のみを除去することにより、動物細胞を含む試料中から生きている微生物を高感度かつ高精度に検出する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、該方法に用いるためのキットを提供することを目的とする。
また、本発明は、簡便に動物細胞のみを除去することにより、動物細胞を含む試料中から生きている微生物を迅速かつ高精度に濃縮する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、動物細胞を含む試料を、低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理することにより、微生物に影響を与えることなく、簡便かつ迅速に動物細胞を除去し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の検出方法であって、前記試料を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、前記フィルターを低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、前記フィルターに残存する微生物を検出する工程と、を有することを特徴とする微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の検出方法であって、前記試料を、低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、前記処理済み試料溶液を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、前記フィルターに残存する微生物を検出する工程と、を有することを特徴とする微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記動物細胞を含む試料が血液製剤である微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記動物細胞を含む試料が血小板製剤である微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記低濃度のトリス緩衝液の濃度が、1μM〜50mMである微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記前記微生物を検出する方法が、生きている微生物が有する活性の測定によるものである微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記前記微生物を検出する方法が、蛍光染色試薬を用いて検出する方法である微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、前記微生物を検出する方法が、エステラーゼ活性を、蛍光染色試薬を用いて検出するものである微生物検出方法を提供するものである。
また、本発明は、動物細胞を含む試料中の微生物を検出するためのキットであって、低濃度のトリス緩衝液と、微生物を検出するための試薬とを有することを特徴とする微生物検出キットを提供するものである。
また、本発明は、前記微生物を検出するための試薬が、蛍光染色試薬である微生物検出キットを提供するものである。
また、本発明は、前記微生物を検出するための試薬が、生きている微生物が有する活性を測定するための試薬である微生物検出キットを提供するものである。
また、本発明は、前記微生物を検出するための試薬が、CFDA(カルボキシフルオレセインジアセテート)である微生物検出キットを提供するものである。
また、本発明は、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の濃縮方法であって、前記試料を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、前記フィルターを低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、を有することを特徴とする微生物濃縮方法を提供するものである。
また、本発明は、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の濃縮方法であって、前記試料を、低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、前記処理済み試料溶液を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、を有することを特徴とする微生物濃縮方法を提供するものである。
また、本発明は、前記動物細胞を含む試料が血液製剤である微生物濃縮方法を提供するものである。
また、本発明は、前記動物細胞を含む試料が血小板製剤である微生物濃縮方法を提供するものである。
また、本発明は、前記低濃度のトリス緩衝液の濃度が、1μM〜50mMである微生物濃縮方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、一段階の簡単な操作で動物細胞のみを効果的に除去し、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物を高感度かつ高精度に検出することが可能となる。微生物検出時のノイズ・バックグラウンドが有意に低減されるため、例えば、血液製剤中の細菌検出や、培養細胞中のマイコプラズマ検出に有効である。また、操作が簡便なため、検出間の誤差が非常に低く抑えられ、再現性の良い安定した検出結果が得られることが期待できる。酵素等の高価な試薬も要しないため、実験動物施設の汚染等、広範囲の汚染検査における費用も低減できる。
また、本発明に係るキットにより、簡便に微生物を検出することが可能となる。
さらに、本発明により、迅速かつ高精度に微生物を濃縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において用いられる動物細胞を含む試料とは、動物由来の細胞を含む試料であれば、特に限定されるものではない。したがって、動物細胞を含む試料には、動物培養細胞溶液、血液等の体液、血液製剤等が含まれる。なお、動物培養細胞は、哺乳細胞に限られず、昆虫細胞等も含まれる。このうち、血液製剤が好ましい。
【0011】
本発明において用いられる血液製剤とは、血液及び血液から作り出される医療用製剤を意味する。したがって、血液製剤には、全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿分画製剤等が含まれる。このうち、血小板製剤が好ましい。
【0012】
本発明において用いられる微生物を通さないフィルターの孔径は、0.1μm〜5μmが好ましい。より好ましくは0.1μm〜1μmである。かかるフィルターとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステルを基材としたフィルターであり、特開2006−129722で開示されている、厚さが10μm〜500μmのポリマー層と、前記ポリマー層上に厚さが0.1nm〜1μmの金属層とを有する微生物検出用メンブランフィルターがより好ましい。捕集した微生物を検出する際に、様々な波長の蛍光色素の組合せにおいて蛍光バックグラウンドを低く抑えることができ、また、操作性に優れているためである。
【0013】
本発明において用いられる低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液の濃度は、1μM〜50mMが好ましい。1μM未満のトリス緩衝液処理では、超純水による浸透圧ショックよりも優位な効果が得られず、50mM超になると、動物細胞除去効果が十分ではない。より好ましくは10μM〜10mMである。なお、浸透圧の原理上最も効果が高いと考えられる超純水よりも効果的に動物細胞を除去すること、及び、トリス緩衝液の濃度を高くすると動物細胞除去効果が薄まる傾向にあることから、低濃度トリス緩衝液の動物細胞除去効果は、単なる浸透圧ショックによるだけのものではなく、低張作用とトリスによる細胞膜への作用の相乗効果によるものではないかと推測される。
【0014】
採取後、一定期間保存後の細胞は、採取直後の細胞に比較し、超純水処理により除去されにくい傾向がある。保存により、動物細胞の細胞膜の性質が若干変化し、超純水処理による影響を受けにくくなるためと推測される。一方、低濃度のトリス緩衝液処理は、保存後の動物細胞も、十分に除去し得る。したがって、血液製剤等、製造後一定期間経過したような動物細胞に対して、低濃度のトリス緩衝液処理は特に有効であると考えられる。
具体的には、採取後間もない動物細胞に対しては、トリス緩衝液の濃度は1μM〜10μMが好ましい。一定期間保存後の動物細胞に対しては、トリス緩衝液の濃度は10μM〜10mMが好ましい。
なお、採取後間もない動物細胞とは、採取後、0時間〜96時間程度の細胞であり、一定期間保存後の動物細胞とは、採取後、96時間〜10日程度の細胞である。
【0015】
低濃度のトリス緩衝液のpHは、通常中性付近であるが、本発明に係る方法において微生物に影響を与えないものであれば、特に限定されるものではない。検出すべき微生物が明らかであれば、該微生物に最も適したpHのトリス緩衝液を用いることが好ましい。また、トリス緩衝液は、通常用いられるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、トリス−塩酸緩衝液、トリス−酢酸緩衝液、トリス−ほう酸緩衝液、トリス−クエン酸緩衝液等がある。
【0016】
本発明に係る微生物検出法では、まず、動物細胞を含む試料を、微生物を通さないフィルターを用いて濾過することにより、微生物をフィルター上に捕集する。試料溶液中の遊離蛋白質等の、微生物よりも小さな物質はフィルターを通るが、動物細胞は、微生物と同様にフィルター上に残留する。
【0017】
次に、微生物を捕集したフィルターを低濃度のトリス緩衝液で処理する。具体的には、フィルターを低濃度のトリス緩衝液で洗浄する。洗浄時間は特に限定されないが、好ましくは0.5分〜30分である。低濃度のトリス緩衝液の温度は特に限定されないが、室温以下の温度が好ましい。微生物に対する影響が抑えられるためである。
【0018】
微生物をフィルター上に捕集する工程と、低濃度のトリス緩衝液で処理する工程の順番を入れ替えてもよい。すなわち、まず、動物細胞を含む試料を低濃度のトリス緩衝液で処理し、その後、トリス緩衝液処理済み溶液を、微生物を通さないフィルターを用いて濾過することにより、微生物をフィルター上に捕集する。はじめにトリス緩衝液で処理することにより、より効果的に動物細胞を除去することができる。
【0019】
最後に、フィルターに残存する微生物を検出する。該微生物を検出する方法は、特に限定されるものではない。例えば、核酸染色や、生きている微生物が有する活性の測定、抗体による免疫染色がある。生きている微生物を精度よく検出することができるため、生きている微生物が有する活性の測定が好ましい。このような活性には、例えば、エステラーゼ活性や呼吸活性がある。
【0020】
また、いずれの検出方法を用いて検出する場合でも、蛍光染色試薬を用いて検出する方法が好ましい。検出感度が高いためである。本発明において用いられる蛍光染色試薬は、蛍光物質のみならず、無蛍光物質であって、微生物が有する酵素や微生物の行う種々の生命活動による化学反応の結果、蛍光物質となる物質も含まれる。
【0021】
核酸染色に用いる蛍光染色試薬には、ヘキスト33342やDAPI(4’,6 - diamidino - 2 - phenylindole)等がある。エステラーゼ活性測定に用いる蛍光染色試薬には、CFDA(carboxy fluorescein diacetate)やカルセインAMエステル等がある。呼吸活性測定に用いる蛍光染色試薬には、CTC(5 - Cyano - 2,3 - ditolyl - 2H - tetrazolium chloride)がある。
【0022】
検出装置は、蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー等の様々な装置を用いることができるが、異なる波長の蛍光染色像を簡便に得ることができるため、WO2003/008634で開示された検出方法を採用したマイクロファインダーが、より好ましい。
【0023】
また、本発明に係る微生物検出キットにより、動物細胞を含む試料をフィルターで濾過し、該フィルターを、キットの低濃度のトリス緩衝液で洗浄後、キットの微生物を検出するための試薬で処理するだけで、簡便に微生物を検出することが可能となる。
【0024】
また、本発明に係る微生物検出法の、微生物をフィルター上に捕集する工程と、低濃度のトリス緩衝液で処理する工程により、動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物を迅速かつ高精度に濃縮することができる。
【0025】
次に試験例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0026】
(試験例1)
PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)で100倍に希釈した採血後4日の濃厚血小板製剤100μlを、孔径0.4μmのフィルターを用いて濾過した。フィルター上の残留物を、PBS、超純水、1mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、100mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)のそれぞれで洗浄した後、CFDAを用いたエステラーゼ活性測定を行い、蛍光顕微鏡システムで血小板数を計測した。
【0027】
試験例1の結果を図1に示す。縦軸はフィルター上に残留した血小板数を対数目盛で表示したものである。100mMのトリス−塩酸緩衝液の動物細胞除去作用は必ずしも十分ではないが、1mM及び10mMのトリス−塩酸緩衝液では動物細胞除去作用が顕著であることがわかる。特に1mM以下のトリス−塩酸緩衝液では、超純水よりも強い動物細胞除去作用があることが明らかである。
【0028】
(試験例2)
採血後4日の濃厚血小板製剤を、PBS、超純水、1mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)でそれぞれ100倍希釈し、5分間インキュベートした。その後、それぞれの溶液100μlを、孔径0.4μmのフィルターを用いて濾過した。フィルター上の残留物に、CFDAを用いたエステラーゼ活性測定を行い、蛍光顕微鏡システムで血小板数を計測した。
【0029】
試験例2の結果を図2に示す。縦軸はフィルター上に残留した血小板数を対数目盛で表示したものである。フィルター濾過前に低濃度のトリス緩衝液処理を行った場合でも、強い動物細胞除去作用があることが明らかである。
【0030】
(試験例3)
PBSで100倍に希釈した採血後間もない濃厚血小板製剤100μlを、孔径0.4μmのフィルターを用いて濾過した。フィルター上の残留物を、PBS、超純水、1μMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、10μMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)のそれぞれで洗浄した後、CFDAを用いたエステラーゼ活性測定を行い、蛍光顕微鏡システムで血小板数を計測した。
【0031】
試験例3の結果を図3に示す。縦軸はフィルター上に残留した血小板数を対数目盛で表示したものである。採血後間もない濃厚血小板製剤であっても、10μMのトリス−塩酸緩衝液では動物細胞除去作用が強いことがわかる。
【0032】
(試験例4)
PBSで1000倍に希釈したヒト新鮮全血1μlを、孔径0.4μmのフィルターを用いて濾過した。フィルター上の残留物を、PBS又は1mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)で洗浄した後、CFDAを用いたエステラーゼ活性測定を行い、蛍光顕微鏡システムで赤血球数を計測した。
【0033】
試験例4の結果を図4に示す。縦軸はフィルター上に残留した赤血球数である。低濃度のトリス−塩酸緩衝液により効率よく赤血球が除去されることがわかる。
【0034】
(試験例5)
大腸菌(Escherichia coli、E.coli)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、S.aureus)を用いた。37℃で16時間前培養した菌培養液をPBSで100倍に希釈し、菌懸濁液を作成した。該菌懸濁液100μlを、孔径0.4μmのフィルターを用いて濾過した。フィルター上の残留物を、PBS又は1mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)で洗浄した後、CFDAを用いたエステラーゼ活性測定を行い、蛍光顕微鏡システムで菌数を計測した。
【0035】
試験例5の結果を図5及び6に示す。縦軸はフィルター上に残留した菌数を、PBS洗浄による結果を100とした場合の百分率である。図5は、大腸菌を用いた、独立した4回の実験結果を示し、図6は、黄色ブドウ球菌を用いた、独立した2回の実験結果を示したものである。大腸菌と黄色ブドウ球菌は、動物細胞と異なり、低濃度のトリス−塩酸緩衝液によって除去されないことがわかる。すなわち、低濃度のトリス緩衝液処理によって、動物細胞は効果的に除去されるが、微生物への影響はほとんどないことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る微生物の検出方法は、培養細胞や実験動物等の汚染検査や、血液製剤の病原性検査の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】低濃度のトリス−塩酸緩衝液処理(図中:トリス処理)により、採血後4日の濃厚血小板製剤から血小板が除去されることを示す。各処理は、PBSによる希釈後の処理を示す。
【図2】フィルター濾過前の低濃度のトリス−塩酸緩衝液処理(図中:トリス処理)により、採血後4日の濃厚血小板製剤から血小板が除去されることを示す。
【図3】低濃度のトリス−塩酸緩衝液処理(図中:トリス処理)により、採血後間もない濃厚血小板製剤から血小板が除去されることを示す。各処理は、PBSによる希釈後の処理を示す。
【図4】低濃度のトリス−塩酸緩衝液処理(図中:トリス処理)により、希釈したヒト新鮮全血から赤血球が除去されることを示す。各処理は、PBSによる希釈後の処理を示す。
【図5】低濃度のトリス−塩酸緩衝液処理(図中:トリス処理)により、大腸菌(E.coli)が除去されないことを示す。各処理は、PBSによる希釈後の処理を示す。
【図6】低濃度のトリス−塩酸緩衝液処理(図中:トリス処理)により、黄色ブドウ球菌(S.aureus)が除去されないことを示す。各処理は、PBSによる希釈後の処理を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の検出方法であって、
前記試料を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、
前記フィルターを低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、
前記フィルターに残存する微生物を検出する工程と、
を有することを特徴とする微生物検出方法。
【請求項2】
動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の検出方法であって、
前記試料を、低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、
前記処理済み試料溶液を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、
前記フィルターに残存する微生物を検出する工程と、
を有することを特徴とする微生物検出方法。
【請求項3】
前記動物細胞を含む試料が血液製剤である、請求項1又は2記載の微生物検出方法。
【請求項4】
前記動物細胞を含む試料が血小板製剤である、請求項1又は2記載の微生物検出方法。
【請求項5】
前記低濃度のトリス緩衝液の濃度が、1μM〜50mMである、請求項1〜4のいずれか記載の微生物検出方法。
【請求項6】
前記微生物を検出する方法が、生きている微生物が有する活性の測定によるものである、請求項1〜5のいずれか記載の微生物検出方法。
【請求項7】
前記微生物を検出する方法が、蛍光染色試薬を用いて検出する方法である、請求項1〜6のいずれか記載の微生物検出方法。
【請求項8】
前記微生物を検出する方法が、エステラーゼ活性を、蛍光染色試薬を用いて検出するものである、請求項1〜7のいずれか記載の微生物検出方法。
【請求項9】
動物細胞を含む試料中の微生物を検出するためのキットであって、低濃度のトリス緩衝液と、微生物を検出するための試薬と、を有することを特徴とする微生物検出キット。
【請求項10】
前記微生物を検出するための試薬が、蛍光染色試薬である、請求項9記載の微生物検出キット。
【請求項11】
前記微生物を検出するための試薬が、生きている微生物が有する活性を測定するための試薬である、請求項9又は10記載の微生物検出キット。
【請求項12】
前記微生物を検出するための試薬が、CFDA(カルボキシフルオレセインジアセテート)である、請求項9記載の微生物検出キット。
【請求項13】
動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の濃縮方法であって、
前記試料を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、
前記フィルターを低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、
を有することを特徴とする微生物濃縮方法。
【請求項14】
動物細胞を含む試料中に場合により存在する微生物の濃縮方法であって、
前記試料を、低濃度のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝液で処理する工程と、
前記処理済み試料溶液を、微生物を通さないフィルターに通す工程と、
を有することを特徴とする微生物濃縮方法
【請求項15】
前記動物細胞を含む試料が血液製剤である、請求項13又は14記載の微生物濃縮方法。
【請求項16】
前記動物細胞を含む試料が血小板製剤である、請求項13又は14記載の微生物濃縮方法。
【請求項17】
前記低濃度のトリス緩衝液の濃度が、1μM〜50mMである、請求項13〜16のいずれか記載の微生物濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−125457(P2008−125457A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315358(P2006−315358)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】