説明

微生物を用いる水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システム

【課題】
微生物を用いる水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムを用いて、水素を含むガスが連続的に安定して発生する水素生産装置の反応容器および燃料電池システムを提供することにある。
【解決手段】
微生物を用いる水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムにおいて、排出される水素を含むガスが燃料電池へ安定的に供給するための装置が具備されていることを特徴とする水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いる水素生産装置、それを用いる燃料電池システム、および微生物を用いて水素を生産し、その水素を安定的に燃料電池に供給する水素供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は化石燃料と異なり、燃焼しても炭酸ガスや硫黄酸化物など環境問題より懸念される物質を発生しない究極のクリーンエネルギー源として注目され、単位質量当たりの熱量は石油の3倍以上あり、燃料電池に供給すれば電気エネルギーおよび熱エネルギーに高い効率で変換できる。ここ数年、研究開発が加速し、先行していた燃料電池自動車に続き、天然ガス改質の家庭用定置形燃料電池や携帯機器向けマイクロ燃料電池が次々と実用化されているが、製造コストの低減、耐久性の向上、高効率な水素の製造・供給方法など燃料電池の実用・普及には取り組むべき課題が多い。
【0003】
水素の生産は、従来から化学的製法として、天然ガスやナフサの熱分解水蒸気改質法などの技術が提案されている。この方法は高温高圧の反応条件を必要とすること、そして製造される合成ガスにはCO(一酸化炭素)が含まれる。燃料電池用燃料として使用する場合には燃料電池電極触媒劣化防止のため、技術的課題解決難度の高いCO除去を行うことが必要となる。一方、微生物による生物的水素生産方法は常温常圧の反応条件であること、そして発生するガスにはCOが含まれないためその除去も不要である。このような観点から、微生物による生物的水素生産は燃料電池用燃料供給方法のより好ましい方法として、注目されている。
【0004】
生物的水素生産方法には大別して光合成微生物を使用する方法と非光合成微生物(主に嫌気性微生物)を使用する方法に分けられる。前者の方法は水素発生に光エネルギーを用いる方法であり、後者の方法は有機性物質を発酵させて水素を製造する方法である。
【0005】
本発明者らは、微生物を用いて水素を生産する際には、ガス発生が激しい場合に、反応溶液や反応培地中の固体成分や液体成分が発生するガスに飛沫同伴し、燃料電池に水素ガスを含む燃料ガスを安定的に供給できない問題があり、これが燃料電池の発電能力を不安定にし、実用化への障害の一つになっていることに着目し、この課題の工業的に有利な解決手段を提供する。
【0006】
微生物が飛沫同伴する問題に関しては、細胞培養装置の通気方法および通気装置に関する工程において、気泡を発生させる場合に、気泡捕集手段で気泡を1ヶ所に密集させ、この気泡密集部分に外部の新しい細胞培養液を徐々に滴下して添加することにより、気泡に含まれる培養細胞を、再び培養槽内に洗い落とす方法が示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−292940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、微生物を用いる水素生産の反応の方法に関しては、反応容器内の微生物濃度や反応液組成を定常濃度に制御する必要があることにより、上記公知技術で実施されているような外部より新しい細胞培養液滴下する方法を使用することは好ましくない。
【0008】
また、本発明者らは、発生ガスを含む気体と飛沫同伴する固体成分および液体成分に関する問題として、反応容器の排出口付近から燃料電池のガス供給部に至る配管部分で反応培地中の固体成分の蓄積、および配管部分での液体凝縮の蓄積により、水素ガスの供給量の経時的な変化が大きくなり、発生ガスの安定供給の妨げとなっている問題点があることを知見した。
【0009】
そのために、これまでの技術では、微生物を用いる水素生産を行う場合に、安定して発生ガスを燃料電池のガス供給部に送出することができず、実用化に向けての研究開発が加速している中、重大な課題である燃料電池の発電能力を安定させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記の課題を解決することを主たる目的として、鋭意検討を行った結果、微生物を用いる水素生産装置に水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスが燃料電池へ安定的に供給する装置を具備させ、該ガス安定供給装置を燃料電池に連結させることによって上記課題が工業的に有利に解決されることを見出すとともに、長期的で安定な発電能力を有し、実用的なレベルで稼働することが可能である燃料電池システムを提供することに成功した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給するための装置が具備されていることを特徴とする水素生産装置、
(2)上記微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給するための装置が、水素生産装置の反応容器から水素を含むガスが排出される排出口部分において、当該ガスに同伴する固液成分を水素生産装置の反応容器に還流する還流装置を備えることを特徴とする、(1)に記載の水素生産装置、
(3)上記微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給するための装置が、水素生産装置の反応容器の排出口から燃料電池ガス供給部までの配管部分を、反応容器の内部の温度以上に加温する装置を備えることを特徴とする、(1)または(2)に記載の水素生産装置、
(4)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の水素生産装置を備えることを特徴とする、燃料電池システム、
(5)上記微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給することを特徴とする水素供給方法、
(6)反応容器から排出される水素を含むガスの燃料電池への安定的な供給が、反応容器から水素を含むガスが排出される排出口部分において、当該ガスに同伴する固液成分を水素生産装置の反応容器に還流を行う工程を包含することを特徴とする、(5)に記載の水素供給方法、および
(7)反応容器から排出される水素を含むガスの燃料電池への安定的な供給が、反応容器の排出口から燃料電池ガス供給部までの配管部分を、反応容器の内部の温度以上に加温する工程を包含することを特徴とする、(5)に記載の水素供給方法、
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水素生産の方法に用いられる微生物は、主に光合成微生物と非光合成微生物(主に嫌気性微生物)に分けられる。光合成微生物としては、光合成を行う微生物であれば特に限定されず、例えば、藍色細菌、プロクロロン、紅藻植物、渦鞭毛藻類、クリプト藻類、真眼点藻類、ラフィド藻類、黄緑色藻類、プリムネシオ藻類、珪藻類、黄金褐色藻類、褐藻植物、ユーグレナ植物、プラシノ藻類、緑藻、シャジクモ類、培養高等植物のカルスまたは細胞等が挙げられ、硫黄化合物、有機酸などを電子供与体として光合成を行うため、光エネルギーを用いて有機物を資化する過程で水素を発生することが可能であり、好ましく用いることができる。また、非光合成微生物である嫌気性微生物は、光エネルギー無しで利用できるために、さらに好ましく用いられる。
【0013】
後者の嫌気性微生物による水素発生に関する代謝経路として色々な経路が知られている。例えば、グルコースのピルビン酸への分解経路における代謝産物としての水素発生、ピルビン酸がアセチルCoAをへて酢酸を生成する経路での代謝産物としての水素発生そしてピルビン酸由来の蟻酸より水素が発生する経路等である。
【0014】
上記の代表的な微生物による水素発生の反応式を示す。
(1)グルコースのピルビン酸への分解経路
C6H12O6(グルコース)→2CH3COCOOH(ピルビン酸)+2H2(水素)
(2)ピルビン酸がアセチルCoAをへて酢酸が生成する経路
CH3COCOOH+H2O→CH3COOH(酢酸)+CO2(二酸化炭素)+ H2
(3)蟻酸より水素が発生する経路
HCOOH(蟻酸)→H2+CO2
(1)の経路は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)およびフェレドキシン(Fd)が関与する方法である。
(2)の経路は、還元型フェレドキシンおよびヒドロゲナーゼが関与する方法である。
(3)の経路は、蟻酸脱水素酵素およびヒドロゲナーゼが関与する方法である。
微生物による水素生産の方法の中でも、蟻酸から水素を生産する(3)の経路は、副生成物の点からも、連続的な水素生産が比較的容易であるために好ましく用いることができる。
【0015】
(3)に関する微生物細胞内の蟻酸より水素が生成する代謝経路を有する嫌気性微生物としては、蟻酸脱水素酵素遺伝子(F.Zinoni,et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.83, pp4650-4654, July 1986 Biochemistry)およびヒドロゲナーゼ遺伝子(R.Boehm, et al., Molecular Microbiology (1990) 4(2), 231-243)を有する微生物が好ましく用いられる。
【0016】
上記の水素生産で使用される具体的な嫌気性微生物の例としては、エシェリキア(Escherichia)属微生物―例えばエシェリキア コリ(Escherichia coli ATCC9637、ATCC11775、ATCC4157等)、クレブシェラ(Klebsiella)属微生物―例えばクレブシェラ ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae ATCC13883、ATCC8044等)、エンテロバクター(Enterobacter)属微生物―例えばエンテロバクター アエロギネス(Enterobacter aerogenes ATCC13048、ATCC29007等)そしてクロストリジウム(Clostridium)属微生物―例えばクロストリジウム ベイエリンキイ(Clostridium beijerinckii ATCC25752、ATCC17795等)等が挙げられる。
【0017】
しかしながら、上記の微生物は、本発明の水素生産方法に供する前に、下記する前処理によって、十分な水素発生能力を微生物に与えるのが好ましい。上記前処理は、下記する第1工程(上記微生物の好気的条件における培養)と第2工程(水素発生能力付与)からなる。
【0018】
第1工程における好気的条件による培養は、炭素源、窒素源、無機塩等を含む通常の栄養培地を用いて行うことができる。培養には、炭素源として、例えばグルコース、廃糖蜜等を、そして窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。また、無機塩として、例えばリン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等を使用することができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン、チアミン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に適宜添加することもできる。
【0019】
培養は、通常、通気攪拌、振盪等の好気的条件下、約20℃〜約40℃、好ましくは約25℃〜約40℃の温度で行うことができる。培養時のpHは5〜10、好ましくは6〜8付近の範囲がよく、培養中のpH調整は酸またはアルカリを添加することにより行うことができる。培養開始時の炭素源濃度は、0.1〜20%(W/V)好ましくは1〜5%(W/V)である。また、培養期間は通常半日〜5日間である。第1工程により得られる菌体は、菌数は増加しているが、水素発生能力を有しない。
【0020】
次に第2工程について、このように第1工程で培養された菌体は好ましくは培養液から一旦分離して回収し第2工程に使用される。好気的条件で増殖させた菌を水素発生の阻害になる成分(例えば、エタノール、酢酸、乳酸など)を含む培養液から菌体を分離することが好ましい。好気的条件で増殖させた菌体は水素発生能力を有しないからである。分離には例えば遠心分離、ろ過等が挙げられる。回収された菌体は、嫌気的条件で蟻酸類含有培養液(水素発生能力誘導培地)中に懸濁して培養して、菌体に水素発生能力を付与する。すなわち、水素発生能力が第2工程によって菌体に付与される。菌体細胞数が、通常少なくとも2倍以上に増加後回収するのが好ましい。ここに誘導培地に含ませる蟻酸類とは、蟻酸、蟻酸塩(例えば蟻酸ナトリウム)が挙げられ、培養液1Lあたり、一般に約1mM〜50mM(ミリモル)含ませるのが好ましい。
【0021】
本操作は嫌気的条件で使用微生物細胞内に蟻酸脱水素酵素およびヒドロゲナーゼからなるユニット機能を誘導発現させることを目的にして実施される。このためには、好ましくは蟻酸類を含む、培養液中で厳密な嫌気条件の管理の下に実施することが好ましい要件である。好ましい分裂増殖の程度、つまり、その細胞数が2倍以上程度増加していることが確認できればよい。この分裂増殖の程度は通常の菌体光学密度測定、例えば、Beckman Coulter社製 spectrophotometer DU-800による測定を行う事により容易に知ることができる。
【0022】
蟻酸類含有培養液の誘導培地組成に関しては、用いる微生物菌体細胞が少なくとも1回程度分裂しうる条件が満足されることが好ましいが、菌体の分裂増殖は必ずしも必須ではなく、培養誘導により菌体に水素発生能力を付与することが必須である。さらに付言すれば、蟻酸脱水素酵素およびヒドロゲナーゼの誘導発現に必要な微量金属成分(用いる微生物種により必要な金属成分は異なるが鉄、モリブテン等が一般的である)を含むことが好ましい条件である。なお、この微量金属成分は通常微生物培養成分に用いられる天然栄養源(例えば酵母エキス、コーンスチープリカー、牛肉エキス、魚肉エキス等)に相当程度含まれることから必ずしも別途添加を必要としない場合もある。
【0023】
微生物菌体細胞が分裂するには炭素源も必要な成分である。これにはグルコース等の糖類、有機酸、アルコール類が通常用いられる。この場合留意すべきは用いる微生物種によっては培養培地中に存在するグルコース等の炭素源により水素発生能力が抑制される所謂グルコース抑制効果が見られる場合があり、この場合には、用いる微生物菌体の一回程度の分裂に必要な量のグルコース等の炭素源を用いるのが好ましい。その量は当業者には容易に定めることができる。炭素源以外には窒素源(硫安、硝安、リン安等)や、リン、カリ等が必要に応じて添加される。
【0024】
さらに、第2工程は、還元条件下で行われることが好ましく、還元条件は、所望により適切な還元剤(例えば、チオグリコール酸、アスコルビン酸、システィン塩酸塩、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオンそして硫化ソーダ等)を水溶液に添加して調整することができる。誘導培地の嫌気状態は簡便にはレサズリン指示薬(青色から無色への脱色)である程度推定できるが、酸化還元電位差計(例えば、BROADLEY JAMES 社製、ORP Electrodes)で測定される酸化還元電位で特定される。嫌気状態が維持されている誘導培地の酸化還元電位は、好ましくは約−200mV〜−500mV、より好ましくは約−250mV〜−500mVである。
【0025】
本発明の水素生産の方法に用いられる有機性基質や培地成分としては、上記したような微生物を用いて水素を発生させるために使用される公知の有機性基質や培地成分を用いることができる。
【0026】
図1および図2に、微生物を用いる水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムの概略図を例として示す。
【0027】
図1に示す水素生産装置の反応容器1の中に、微生物と培地成分からなる反応溶液があり、その反応溶液に有機性基質の入ったタンク2から有機性基質供給ポンプ3により制御された速度で有機性基質を反応容器1へ供給する。供給と同じくして、微生物により、有機性基質から生成される水素を含むガス(以下、「発生ガス」ともいう。)を発生する。その発生したガスは、反応容器の排出口から、図中に実線で示している配管部分、ガス分離装置8を通過し、燃料電池9にて水素ガスと空気中の酸素ガスを吸入し発電する。上記の有機性基質の供給から水素を含むガスを発生する段階は、恒温槽10内にて一定温度の雰囲気で行われる。
【0028】
ここで、本明細書中における「水素生産装置」とは、上記微生物を用いて水素を発生する装置であり、燃料電池に水素を含むガスを供給する配管部分を備えるものであれば、特に限定されない。また、「燃料電池」とは、水素ガスと酸素ガスを用いて発電するものであれば、特に限定されない。さらに、「燃料電池システム」とは、水素生産装置と燃料電池からなるものをいう。
【0029】
本発明の微生物を用いる水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムにおいて、図1に示すように、水素生産装置の反応容器1の排出口部分に還流装置4を具備する反応容器を用いることにより、水素生産装置の反応容器から燃料電池に発生ガスを安定的に供給することが可能になる。
【0030】
また図2に示すように、水素生産装置の反応容器1の排出口から水素を含むガスが供給されるガス供給部までの配管部分(図2に示す反応容器1の排出口から燃料電池9ガス供給口までの部分)を加温し、水素を含むガスに含まれる成分が液化凝縮されることを防止するための装置が具備されている燃料電池システムを用いることにより、水素生産装置の反応容器から燃料電池に発生ガスを安定的に供給することが可能になる。
【0031】
ガスを安定的に供給できなくなる要因の一つである配管内に生じる液体凝縮は、発生ガス中に含まれる水蒸気が反応容器と配管周辺部分との温度差で配管部分が冷却されることにより発生し、液体凝縮物の蓄積により配管内の一部が閉塞することが度々発生し、発生ガスの安定供給の妨げとなる。
【0032】
本発明は、配管内において凝縮した液体成分、又はこの液体成分と反応液に由来する固体成分(以下、固液成分ともいう)が可能な限り存在しないようにするためには、反応容器の排出口付近での凝縮物を、その後の燃料電池へ供給している配管部分に移動させないように反応容器に戻す方法、すなわち還流させる方法、あるいは、発生ガス中の水蒸気圧を配管部分温度での飽和水蒸気圧より低くする方法等を採用する。
【0033】
前者の方法としては、図1に示すように、反応容器の排出口部分に還流装置4が具備されている反応容器を用いることにより、発生するガスに含まれる水蒸気圧を低減することが出来ると同時に、排出口からの発生ガス中の固液成分の同伴を防ぐことができる。還流の方法としては、特に限定されないが、還流装置4には冷却水を循環させる方法が、好ましく用いることができる。還流装置の設置の構造は排出ガスに飛沫同伴される固液成分がその重力等により反応容器に還流できるように設計されていれば、適時定めることができる。
【0034】
後者の方法としては、図2に示すように、反応容器の排出口から燃料電池のガス供給部までの配管の周辺部分の温度を反応容器の内部の温度以上にすることにより、配管中での液化凝縮による配管内の閉塞が生じにくくなり、水素を含む発生ガスが燃料電池へ安定的に供給できることが可能になる。反応容器の排出口から燃料電池のガス供給部までの配管部分(図2に示す反応容器1の排出口から燃料電池9ガス供給口までの部分)に、加温装置7が具備されているシステムを用いることにより、飽和水蒸気圧値を高めることが出来るので、発生ガス中の水蒸気圧はその付近の飽和水蒸気圧よりも低くすることができる。
【0035】
加温装置は、配管部分を反応容器の内部の温度以上にすることができるものであれば用いることができ、具体的には、例えば、電熱器、高温水蒸気による加熱等が挙げられる。このとき、反応容器から燃料電池のガス供給部までの加温装置7の熱源として、燃料電池からの排熱を用いることもでき、システム全体のエネルギー効率の面から好ましい。
【0036】
ガス分離装置8は反応容器1で発生した水素を含むガス(主として、HおよびCOを含み、その含有割合は1:1である)から、水素ガスを分離することが出来る。分離する方法としては、膜分離法、吸着法、吸収法など、公知の手段が用いられる。また、有機性基質は有機性基質供給口15から、補給することが可能である。
【0037】
水素を含むガスを連続的発生させるために、培地成分の入ったタンク13、培地成分供給ポンプ14、培地成分供給口16、反応溶液排出バルブ17を設置することが好ましい。ここで水素連続生産とは、培地成分を連続的あるいは半連続的に培地成分供給ポンプ14より加える方法を用いる。反応容器へ培地を供給することで、反応容器内の微生物の活性を維持することができるために好ましい。培地成分の入ったタンク13の培地成分は培地成分供給口16から、補給することができる。培地成分は、前記第2工程に使用されている成分と同様の成分が使用できる。
【0038】
有機性基質の供給方法としては、連続的あるいは間欠的に蟻酸類を供給する方法(直接的供給方法)、あるいは菌体内代謝経路において蟻酸に変換される糖類の化合物を供給する方法(間接的供給方法)が挙げられる。同時に直接的供給方法と間接的供給方法の併用も可能である。
【0039】
ここで有機性基質とは、微生物により水素を発生することができるものであれば特に限定されないが、グルコース、ピルビン酸、蟻酸類が挙げられる。蟻酸類とは、HCOOを有する物質であり、具体的には、蟻酸又は蟻酸塩であり、中でも蟻酸、蟻酸亜鉛、蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、蟻酸セシウム、蟻酸ニッケル、蟻酸バリウム、蟻酸カルシウム、蟻酸マンガン、蟻酸アンモニウムなどが挙げられる。中でも、水に対する溶解度の面から蟻酸、蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、蟻酸カルシウム、および蟻酸アンモニウムが好ましい。さらに、コストの面から蟻酸、蟻酸ナトリウムおよび蟻酸アンモニウムが好ましい。蟻酸類に変換される糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース等が挙げられる。
【0040】
反応容器の内部の温度は、用いる微生物種にもよるが、一般的に常温微生物を用いる場合、20℃〜45℃の条件が好ましく、さらに好ましくは30℃〜40℃の範囲が微生物のライフの面からも好ましい。また、微生物と有機性基質と培地成分を含む反応系における反応は、還元条件下で行われるのが好ましく、還元条件は、具体的には、上記第2工程における還元条件と同一であってよい。
【0041】
本発明の微生物を用いる水素生産方法では、基本的には一酸化炭素を生成しない。一般的に、現在の固体高分子型燃料電池の燃料として用いる場合には、一酸化炭素を除去するシステム(CO変成器、CO除去器等)を用いて、COは10ppm(ピーピーエム)以下に維持する必要がある。本発明の水素生産方法により発生した水素を含むガスを燃料電池の燃料として用いるシステムでは、CO変成もしくは除去を必要としないので、装置を簡易化することができるために好ましい。
【0042】
反応容器の温度制御に関しても、従来の天然ガスを用いた改質方法では、600℃以上の改質温度が必要となるのに対して、本発明の反応容器の温度は常温で用いることが可能である。
【0043】
これらの点からも、本発明の水素生産方法を用いる燃料電池システムが、燃料電池の劣化に対しても問題が少なく、水素の供給方法としても、高温のシステムを必要としないために優れていることがわかる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により具体的に本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
エシェリキア コリ株(Escherichia coli W strain;ATCC9637)による生物的水素生産方法。
本菌株を下表1で示される組成の培養液500ml(ミリリットル)に加え、好気的条件下、37℃で一晩、好気条件下での通気攪拌培養を行った。
【0046】
【表1】

【0047】
次に嫌気的条件下、一晩培養を行った培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を除去し、下表2で示される組成の培養液に加え、37℃で12時間の振盪培養を行った。
【0048】
【表2】

【0049】
ついで、本培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を除去し、水素発生機能を有する微生物を得た。
本微生物を遠心分離により分離後、下表3の組成で示される還元状態下の水素発生用溶液200ml(ミリリットル)に懸濁調製した(微生物濃度約40% 湿潤状態菌体質量基準)。
【0050】
【表3】

【0051】
上記で作成した微生物の存在している水素発生溶液を図1に示した反応容器1へ注液した。また有機性基質の入ったタンク2には10mol/L濃度の蟻酸を準備した。
【0052】
攪拌装置12のモーター11を回転させ、反応溶液を攪拌させ、この反応容器1、有機性基質の入ったタンク2、培地成分の入ったタンク13は37℃の恒温槽に載置されている。また、反応容器1のガスの排出口部分に還流装置4に冷却水(10℃設定)を循環させた。恒温槽外の温度は20℃であった。
【0053】
有機性基質供給ポンプ3を用いて22.3ml/hrのフィード速度で有機性基質を連続的に反応容器に供給して発生するガス量を測定した。ガス発生速度の測定はマスフローメータ(MODEL3810 コフロック製)を用いて行った。いずれの反応容器を用いた場合でも、蟻酸の供給と同時にガス発生が起こった。捕集されたガスをガスクロマトグラフィー(GC14B島津製作所製)により分析したところ、発生ガス中には50%(v/v)の水素と残余の炭酸ガス等を含んでいた。
【0054】
発生ガスの流量(5.0L/hr)は、実験時間の間(約12時間)、反応容器1の排出口のガス流量と燃料電池のガス供給口のガス流量とを比較したところ、その流量の変動幅は±15%程度であり、安定的に発生ガスを供給することができることが可能であった。
【0055】
〔実施例2〕
図2に示した水素生産装置を用いる燃料電池システムを用いて行い、この装置では図1における還流装置4が使用されておらず、反応容器1の排出口から燃料電池9のガス供給部までの部分を加温装置7により加温する設定以外は実施例1と同様の方法で行った。
【0056】
その結果、実験時間の間(約12時間)、反応容器1の排出口のガス流量(5.0L/hr)と燃料電池のガス供給口のガス流量とを比較したところ、その流量の変動幅は±12%程度であり、安定的に発生ガスを供給することができることが可能であった。
【0057】
〔実施例3〕
図3に示した水素生産装置を用いる燃料電池システムを用いて、反応容器1の排出口から燃料電池9のガス供給部までの部分を加温装置7により加温する設定以外は実施例1と同様の方法で行った。
【0058】
その結果、実験時間の間(約12時間)、反応容器1の排出口のガス流量(5.0L/hr)と燃料電池のガス供給口のガス流量とを比較したところ、その流量の変動幅は±8%程度であり、安定的に発生ガスを供給することができることが可能であった。
【0059】
〔比較例1〕
図1に示した反応容器1のガスの排出口部分に還流装置4を取り外した状態で反応容器1からの配管を接続させたこと以外は実施例1と同様の方法で行った。
【0060】
その結果、実験時間の間(約12時間)、反応容器1の排出口のガス流量(5.0L/hr)と燃料電池のガス供給口のガス流量とを比較したところ、実験開始から6時間程度までは、同じレベルで安定的に発生ガスを燃料電池のガス供給部に供給することが可能であったものの、それ以降は、ガス流量の変動幅が±48%程度となり、安定的な発生ガスの供給ができない状態となった。
【0061】
実施例1〜3、比較例1の結果により、微生物を用いる水素生産装置を用いる燃料電池システムにおいて、反応容器1から排出される水素を含むガスが燃料電池へ安定的に供給するための装置を具備することで、燃料電池への発生ガスの供給を安定的に行えることが可能であることが明らかとなった。また、同時に燃料電池発電を安定的に行えることも確認出来た。
【産業上の利用可能性】
【0062】
微生物を用いる水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムにおいて、発生ガスを長期的に安定して供給することが可能な水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムを提供出来、燃料電池の発電能力が安定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムの概略構成図(その1)。
【図2】本発明の水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムの概略構成図(その2)。
【図3】本発明の水素生産装置、およびそれを用いる燃料電池システムの概略構成図(その3)。
【符号の説明】
【0064】
1:反応容器
2:有機性基質の入ったタンク
3:有機性基質供給ポンプ
4:還流装置
5:冷却水入口
6:冷却水排出口
7:反応容器から燃料電池のガス供給部までの加温装置
8:ガス分離装置
9:燃料電池
10:恒温槽
11:モーター
12:攪拌装置
13:培地成分の入ったタンク
14:培地成分供給ポンプ
15:有機性基質供給口
16:培地成分供給口
17:反応溶液排出バルブ
18:微生物供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給するための装置が具備されていることを特徴とする水素生産装置。
【請求項2】
上記微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給するための装置が、水素生産装置の反応容器から水素を含むガスが排出される排出口部分において、当該ガスに飛沫同伴する固液成分を水素生産装置の反応容器に還流する還流装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の水素生産装置。
【請求項3】
上記微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給するための装置が、水素生産装置の反応容器の排出口から燃料電池ガス供給部までの配管部分を、反応容器の内部の温度以上に加温する装置を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の水素生産装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素生産装置を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
上記微生物を用いる水素生産装置の反応容器から排出される水素を含むガスを燃料電池へ安定的に供給することを特徴とする水素供給方法。
【請求項6】
反応容器から排出される水素を含むガスの燃料電池への安定的な供給が、反応容器から水素を含むガスが排出される排出口部分において、当該ガスに同伴する固液成分を水素生産装置の反応容器に還流を行う工程を包含することを特徴とする請求項5に記載の水素供給方法。
【請求項7】
反応容器から排出される水素を含むガスの燃料電池への安定的な供給が、反応容器の排出口から燃料電池ガス供給部までの配管部分を、反応容器の内部の温度以上に加温する工程を包含することを特徴とする請求項5に記載の水素供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−217829(P2006−217829A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32107(P2005−32107)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】