説明

微生物共生型水耕プラント及び水耕栽培方法

【課題】 本発明は、水耕栽培にて植物を生産するための設備一式(以下、水耕プラントと言う。)において、従来の温室と水耕装置に簡易な設備・装置を付加し、無機肥料の水耕養液中で有益微生物を制御しながら繁殖させることにより、有機栽培に近い植物の生育を提供することを目的とする。
【解決手段】 従来の養液完全循環型水耕装置を有する水耕プラントに、通水性シートを敷いた床面土壌(2)に散水設備(3)と、植物に水滴がかからないように水を霧状に噴霧する加湿器(4)と、養液還流部位ベンチュリー管(6)からの養液落下による曝気、バーチカルポンプ式による送水ポンプ(8)からの養液の吸上げと落下による曝気、エアレーションホース(11)を使用した分散気式曝気の3種類の方式の異なる曝気を組み合わせた装置と、微生物の異常増殖防止装置(12)を付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の働きを植物栽培に利用する技術は、土耕栽培では、有機栽培として確立されている。しかし、水耕栽培では、微生物のエサとなる根の分泌有機物が水耕養液に溶解して根圏域外へ流出するため、土耕栽培に比べその濃度が低く微生物の繁殖が少ない(非特許文献1参照。)。また、水耕養液中のフザリウム、ピシウム等の病原性糸状菌が甚大な被害を発生させるため、生産者の病害への警戒から、水耕生産現場での微生物の利用が限定されているのが現状である。
【0003】
従来の水耕栽培における微生物利用においては、微生物を付加した有機物のみを含んだ液を水耕養液として使用する方法がとられている。例えば、有機性廃棄物で有益微生物を培養した液や、微生物を含んだ腐食質を抽出した液、有益菌を付加した発酵汚泥や堆肥を含んだ液を水耕養液として使用するなどである(例えば、特許文献1〜3参照。)。これらの技術においては、養液循環型水耕装置を有し、有機物を含んだ液の作成または循環のための独自の装置をそなえている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−123067号
【特許文献2】特許第2831308号
【特許文献3】特開2006−6301号
【非特許文献1】小林達治(1986)“根の活力と根圏微生物”、農山漁村文化協会 p.19
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べた従来の技術においては、微生物を付加した有機物のみを含んだ液を水耕養液としてもちいるため、植物の生育に必要な肥料分が不足しやすいこと、常時微生物のエサとなる有機物が養液中に過剰に存在するため、微生物の異常増殖を引き起こす可能性があること、有機物を含んだ液の作成または循環のための専用の装置を必要とすることなどの問題がある。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたるもので、水耕栽培にて植物を生産するための設備一式(以下、水耕プラントと言う。)において、従来の温室・水耕装置に簡易な設備・装置を付加して、無機肥料の水耕養液中で有益微生物を制御しながら繁殖させることにより、有機栽培に近い植物の生育を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、従来の養液完全循環型水耕装置を有する水耕プラントに、通水性シートを敷いた床面土壌に散水する設備と、植物にかからないように水を霧状に噴霧する加湿器と、3種類(ベンチュリー管式、バーチカルポンプ式、分散気式)の方式の異なる曝気装置と、微生物の異常増殖防止装置を付加することにより、有益微生物を繁殖させる環境をつくることができることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1の水耕プラントにおいて、水耕プラントの設備全体に光合成細菌を繁殖させたうえで、無機肥料の水耕養液中で微生物を増殖させることにより、光合成細菌及びそれと共生する有益微生物を水耕プラント内の微生物分布で多数を占めさせ、栽培植物と有益微生物及び有益微生物間で共生をおこなわせることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項2の水耕プラント設備全体に光合成細菌を繁殖させることにおいて、紅色非硫黄細菌主体の光合成細菌培養液を、植物・床面土壌に散布、養液タンクに投与した後、加湿器の連続運転下で、床面土壌へ毎日定期的に散水して温室内を常時過湿状態に保つことにより、光合成細菌を水耕プラント施設内の広範囲に定着・繁殖させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項2の無機肥料の水耕養液中で微生物を増殖させることにおいて、精製ブドウ糖を養液タンクに投与することにより、水耕養液中にて有益微生物を安定的に繁殖させることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に記載した発明は、請求項4の精製ブドウ糖を養液タンクに投与することにおいて、精製ブドウ糖の量と投与間隔を変えることにより、微生物の活動量を増減させて、植物根の無機肥料要素ならびに微生物の放出する代謝栄養物の吸収を調節し、植物の生育を制御することを特徴とするものである。
【0012】
請求項6に記載した発明は、請求項1の3種類の方式の異なる曝気装置にかんし、養液還流部位ベンチュリー管からの水耕養液の落下による全量曝気、バーチカルポンプ式の養液の落下による曝気撹拌、エアレーションホースを使用して微細な気泡を発生させ、対流をおこさせる分散器式曝気という3種類の異なる曝気方法を組み合わせるとともに、分散器式曝気装置のブロワーの出力・空気吐出量を調整することにより、栽培ベッドにて好気性・嫌気性の両方の微生物が生育し、根の酸素補給も十分おこなうことができるような溶存酸素を水耕養液に補給することを特徴とするものである。
【0013】
請求項7に記載した発明は、請求項1の微生物の異常増殖防止装置にかんし、養液タンク内底部に設置した接触する養液の流速を弱める格納容器に入れたループ状繊維を編んだ水処理用接触材に、水耕養液中の浮遊有機物および微生物を常時ろ過・吸着させ、水処理用接触材中の微生物が、ろ過した有機物をエサとして分解し有機物(エサ)の減少が微生物を減らすという静菌機能を常時はたらかせることにより、特定の微生物が異常増殖しないようにすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載した発明によれば、従来の水耕プラントに、簡易な設備を付加するだけで、微生物が施設全体で繁殖する環境をつくることができる。
【0015】
請求項2に記載した発明によれば、光合成細菌と共生しない有益でない微生物が増殖することができなくなるとともに、有益微生物のうち、特に光合成細菌をエサとして好む放線菌が繁殖し、拮抗する水耕栽培で甚大な被害を引き起こす病原性糸状菌(ピシウム・フザリウム等)を抑制するため、栽培ベッドの一部で病害が発生しても時間の経過とともに静菌し、治癒するという自然治癒機能を水耕プラントがもつことができる。
【0016】
請求項3に記載した発明によれば、水界で生育し乾燥に弱い光合成細菌を水耕プラント内全体で容易に繁殖させることができる
【0017】
請求項4及び5に記載した発明によれば、秋〜冬季の生育停滞期においても、精製ブドウ糖の量と投与間隔を調整することにより、植物に、春〜夏季と変わらない生育をさせることができる。
【0018】
請求項6に記載した発明によれば、3種類の曝気装置は、植物生育の生命線の機能を有していて、組み合わせることにより、自然で均一な曝気をおこない、水耕養液中の好気性微生物(放線菌、アゾトバクター等)の繁殖を安定的に維持するとともに、嫌気性菌も生育でき、栽培ベッド内で植物根が微生物から酸素を奪われないような溶存酸素量を補給することができる。
【0019】
請求項7に記載した発明によれば、微生物の異常増殖防止装置は、3種類の曝気装置に次いで植物生育の重要な機能を有し、常時水耕養液中の浮遊有機物及び微生物を物理化学的にろ過・吸着していて、微生物の繁殖の安定化と水耕養液中の余剰有機物の分解という機能を担うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本プラントの構造を示した模式図である。
【0021】
面積1000平方メートル、有効栽培ベッド面積600平方メートル、養液タンク5トン、総養液量推定約16トンのNFT式水耕装置(養液完全循環型)主体の水耕プラント例を示す。
【0022】
温室(1)内には、床面土壌(2)と散水設備(3)と栽培ベッド(14)と加湿器(4)が設置されている。
【0023】
散水設備(3)は、床面土壌(2)に通水性防草シートを敷き、全面を散水できるように、点滴、小型スプリンクラー等を水源に取り付け、電磁弁、タイマー等で制御するか、散水ホースをセットする。
【0024】
加湿器(4)は、菌床きのこ類の生産設備に使用される、植物に水滴がかからないように水を霧状噴霧する加湿器(例えば、毎時4リットル)を使用し、温室1000平方メートルあたり3台設置する。
【0025】
養液タンク(5)内に養液還流部位ベンチュリー管(6)を取り付け、養液タンクへ戻る水耕養液をプラスチック網(7)上に落下させ全量曝気する。
【0026】
送水ポンプによるバーチカルポンプ式の曝気・撹拌装置については、養液タンク(5)の底部に0.15キロワット・口径32ミリメートル・揚程2メートルにて吐出量100リットル/分の性能をもつ送水ポンプ(8)1〜2台を設置し、養液を吸い上げプラスチック網(7)上に落下するよう配管し、先端には、ベンチュリー管(9)を取り付ける。
【0027】
エアレーションホース(11)を使用した分散器式曝気装置については、養液タンク外に定格出力0.011mpa・吐出空気量29〜38リットル/分の性能をもつブロワー(10)4台を設置し、耐圧ホースにて各ブロワーと直結させた、直径25〜40センチメートルの円形に成形した、口径25ミリメートルのエアレーションホース(11)を養液タンク(5)の底部に置く。ブロワー出力は0.011mpa〜0.015mpa、空気吐出量の合計は120〜160リットル/分の範囲とする。
【0028】
微生物の異常増殖防止用装置(12)は、口径45ミリメートルのループ状繊維を編んだ水処理用接触材15メートルを、ナイロン網袋に入れ、口を閉じたものを1セットとする。プラスチックコンテナ(格子10ミリ目・650ミリメートル×350ミリメートル×高さ250ミリメートル)の底面中央部に石重り(2.5キログラム)を取り付け、前記水処理用接触材2セットを入れ、ステンレス網(50ミリメートル目)でフタをしたもの4セットを、養液タンク(5)の底部に上下2段2列に置く。
【0029】
上記した実施形態における各部の構成は一例であり、本発明の技術思想の範囲で種々の変形が可能である。以下、本発明プラントの運転方法に関する実施例を示す。
【実施例】
【0030】
精製ブドウ糖の投与基準量は、1回あたり150〜450グラムとする。通常は、毎朝1回、ブドウ糖300グラムを温水8リットルに溶かして養液タンクに投与する。生育を促進させる場合は、1回あたりの量を増やすとともに、1日当たり3回までの範囲で投与回数を増やす。
【0031】
栽培開始当初及び栽培植物の生育低下傾向が認められた時のみ、2〜3日おきに効果が現れるまで、1回あたり、培養した光合成細菌20リットルを養液タンクに投与するとともに、植物、床面上壌(2)に180リットル程度を動力噴霧機にて散布する。
光合成細菌の培養方法は、水耕養液200リットルを薬液タンクに入れ、紅色非硫黄細菌50ミリリットル、ブドウ糖150グラムを加え、撹拌し、小型観賞魚用バブリング装置をセットして、温室内の日光のあたる場所に24時間〜48時間放置する。
【0032】
本発明プラントにて、熱帯アジア(中国南部)原産の最低生育温度18度を必要とする空心菜を栽培した例を示す。
空心菜は越年し、成株となったものを使用し、面積1000平方メートル、有効栽培ベッド面積600平方メートル、養液タンク5トンのNFT式水耕装置(養液完全循環型)を使用し、本発明の方法で4月〜11月までの8ヶ月間栽培し、1年間普通栽培した比較例と空心菜の月間生産量の変化を比較した。
図2は、その結果をグラフにしたものである。比較例では、春〜夏季にかけて収量が増加し、秋〜冬季にかけて収量が減少する通常の水耕栽培の生育パターンを示しているのに対し、本発明では、春〜秋季の全栽培期間中収量が変わらないという結果となった。空心菜は、気温の低下に弱く、特に11月以降は、例年収量が大幅に落ち込むのが普通だが、本発明では収量の低下が見られなかった。それとは逆に、空心菜の生育適期の夏季高温時においても、本発明では収量の増加が見られなかった。これは、比較例が気温・日照等の気象条件の影響を受けて、光合成量に比例した肥料吸収をし、光合成生産物をもとに生長するのに対し、本発明では、微生物活動の影響を受けて、微生物の運動量に比例した肥料吸収をし、光合成生産物と微生物の代謝栄養物の両方をもとに生育することが原因と思われる。このように、本発明で生産した場合、植物の生育・収量が周年変化しない傾向があり、秋〜冬季の低温時に肥料消費量が大幅に増加する(普通栽培の1.5〜2倍)。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明水耕プラント構造の模式図である。
【図2】空心菜を本発明と比較例で栽培し、月間生産量の変化を比較したものである。
【符号の説明】
【0034】
1 温室
2 床面土壌
3 散水設備
4 加湿器
5 養液タンク
6 養液還流部位ベンチュリー管
7 プラスチック網
8 送水ポンプ
9 ベンチュリー管
10 ブロワー
11 エアレーションホース
12 微生物の異常増殖防止装置
13 水耕養液
14 栽培ベッド
15 給液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液完全循環型水耕装置を有する水耕プラントにおいて、通水性シートを敷いた床面土壌に散水する設備と、植物にかからないように水を霧状に噴霧する加湿器と、3種類(ベンチュリー管式、バーチカルポンプ式、分散気式)の方式の異なる曝気装置と、微生物の異常増殖防止装置を付加することを特徴とする水耕プラント。
【請求項2】
請求項1に記載の水耕プラントにおいて、前記水耕プラントの設備全体に光合成細菌を繁殖させることを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項3】
紅色非硫黄細菌主体の光合成細菌培養液を、植物・床面土壌に散布、養液タンクに投与した後、加湿器の連続運転下で床面土壌へ毎日定期的に散水して、温室内を常時過湿状態に保つことを特徴とした請求項2に記載の水耕栽培方法。
【請求項4】
精製ブドウ糖を養液タンクに投与することを特徴とする請求項2に記載の水耕栽培方法。
【請求項5】
精製ブドウ糖の量と投与間隔を変え、微生物の活動量を増減させて、植物根の無機肥料要素ならびに微生物の放出する代謝栄養物の吸収を調節して、植物の生育を制御することを特徴とする請求項4に記載の水耕栽培方法。
【請求項6】
請求項1に記載の水耕プラントにおいて、養液還流部位ベンチュリー管からの水耕養液の落下による全量曝気、バーチカルポンプ式の養液の落下による曝気撹拌、エアレーションホースを使用して微細な気泡を発生させ、対流をおこさせる分散器式曝気という3種類の曝気方法を組み合わせることを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項7】
ループ状繊維を編んだ水処理用接触材をもちいた微生物の異常増殖防止装置をそなえることを特徴とする請求項1に記載の水耕プラント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−148683(P2008−148683A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357332(P2006−357332)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【特許番号】特許第4019330号(P4019330)
【特許公報発行日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(507021816)有限会社グリーンコム (3)
【Fターム(参考)】