説明

微生物培地

【課題】発色または蛍光酵素基質を用いて大腸菌群と腸内細菌科の食中毒菌を容易に判定できる微生物培地を提供すること。
【解決手段】下記の成分を含む微生物培地。
下記の成分を含む微生物培地。
(A)微生物の生育栄養成分、
(B)胆汁末、胆汁酸塩、デオキシコール酸、デオキシコール酸塩、およびラウリル硫酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分、
(C)α−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質、および
(D)β−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物を培養検出分離するための培地に関する。さらに詳しくは食品や環境中の微生物による汚染度合いを判断するための大腸菌群および腸内細菌科の汚染指標菌および/または食中毒菌を測定するのに好適な微生物培地、およびこれを使用した汚染指標菌および/または食中毒菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の衛生指標菌検査はおもに一般生菌数と大腸菌群数を測定することによりなされている。しかし、腸内細菌科の重要な食中毒菌であるサルモネラのほとんどは大腸菌群に該当しないため、大腸菌群陰性でも腸内細菌科の細菌による食中毒が起こりうる。そこで、大腸菌群に代わり腸内細菌科を指標菌として検査する方法を採用する場合もある。
【0003】
従来の腸内細菌科の検査方法は、まず食品等を滅菌生理食塩水またはペプトン加滅菌生理食塩水で懸濁し、滅菌生理食塩水またはペプトン加滅菌生理食塩水で10倍希釈列を作製し、この希釈液1mLを滅菌ペトリ皿に加えた後、あらかじめ溶解滅菌して約45℃に保っておいた乳糖の代わりにグルコースを加えたバイオレットレッドバイル寒天培地を加えて混釈して、35℃で培養し赤色のコロニーを計数する方法である。しかしこの検査方法は、前もって培地を調製し滅菌した後、寒天培地が固化しない温度に保っておく必要があるなど手間と時間がかかり、また腸内細菌科に属するか否かの判定に迷うコロニーがしばしば形成される。また、腸内細菌科には環境由来の非病原性菌も多数存在する。大腸菌群検査が食中毒菌汚染の可能性の指標であることを考慮すると、腸内細菌科全体を検査するより大腸菌群と腸内細菌科の食中毒菌を検査することはより合理的である。
一方、サルモネラ菌の検査方法として、サルモネラ菌陽性のα−D−ガラクトシダーゼの発色酵素基質とサルモネラ菌陰性のβ−D−ガラクトシダーゼの発色酵素基質を含む培地を使用してサルモネラ菌を選択的に検出する方法も提案されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】WO98/55644
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、例えば、発色または蛍光酵素基質を用いて大腸菌群と腸内細菌科の食中毒菌を容易に判定できる培地を提供することであり、本発明者らがWO97/24432において提案した、多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層からなるシートまたはフィルム状の培養器または培地を応用し、例えば、食品や環境中の大腸菌群および腸内細菌科の汚染指標菌および/または食中毒菌を測定するための従来の微生物培地に関する前述の問題点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の培地は、大腸菌群および腸内細菌科の汚染指標菌および/または食中毒菌を簡易に測定するのに好適な培地、およびこの培地を使用して汚染指標菌および/または食中毒菌を検出する方法を提供するものである。
1.下記の成分を含む微生物培地。
(A)微生物の生育栄養成分、
(B)胆汁末、胆汁酸塩、デオキシコール酸、デオキシコール酸塩、およびラウリル硫酸塩からなる群から選ばれる1種以上、
(C)α−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質、および
(D)β−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質。
2.微生物の生育栄養成分が、肉エキス、ペプトン類、および酵母エキスからなる群から選ばれる1種以上を含む、上記1に記載の微生物培地。
3.成分(A)の含有量が2〜20g/L、成分(B)の含有量が0.05〜2g/L、成分(C)の含有量が0.005〜1.0g/L、成分(D)の含有量が0.005〜1.0g/Lの範囲である上記1または2に記載の微生物培地。
4.pH調整剤を含む、上記1から3のいずれか1項に記載の微生物培地。
5.pH調整剤の含有量が0.1〜10g/Lの範囲である、上記4に記載の微生物培地。
6.ゲル化剤を含む、上記1から5のいずれか1項に記載の微生物培地。
7.多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層を含む、上記1から6のいずれか1項に記載の微生物培地。
8.水溶性高分子化合物層が1〜4層である、上記7記載の微生物培地。
9.多孔質マトリックス層と2または3層の水溶性高分子化合物層とを含み、多孔質マトリックス層から最も離れた側の水溶性高分子化合物層に接して台紙を含んでもよい積層物が、その積層物より大きな粘着シートの中心部に多孔質マトリックス層が上になるように接着され、その上に前記積層物より大きな透明フィルムが多孔質マトリックス層に接しかつ前記積層物と中心部を合わせるように被せられ、この透明フィルムの前記積層物からはみ出している部分が粘着シートの前記積層物が接着されていない部分と接着されている上記7または8に記載の微生物培地。
10.水溶性高分子化合物層全体に対する各成分の合計含有量の範囲を培地に対する目付で表すとき、成分(A)が2〜10g/m2、成分(B)が0.3〜3g/m2、成分(C)が0.02〜1.2g/m2、成分(D)が0.02〜1.2g/m2、pH調整剤が0.1〜10g/m2である、上記7から9のいずれか1項に記載の微生物培地。
11.水溶性高分子化合物層に含まれる水溶性高分子化合物が、鹸化度75〜95%、分子量25000〜250000のポリビニルアルコールである、上記7から10のいずれか1項に記載の微生物培地。
12.多孔質マトリックス層が目付40〜100g/m2、通気度70〜240L/m2・secのナイロンメルトブロー不織布である、上記7から11のいずれか1項に記載の微生物培地。
13.粘着シートがアクリル系粘着剤またはゴム系粘着剤を塗布した、ポリエステルフィルム、白色ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリオレフィン系合成紙またはポリオレフィンラミネート紙であり、透明フィルムがポリオレフィンフィルムまたは剥離処理ポリオレフィンフィルムである、上記9から12のいずれか1項に記載の微生物培地。
14.粘着シートの厚さが0.07〜0.5mmであり、透明フィルムの厚さが20〜80μmである、上記9から13のいずれか1項に記載の微生物培地。
15.粘着シートと透明フィルムとの接着部分の一部をこの粘着シートの粘着力により接着している、上記9から14のいずれか1項に記載の微生物培地。
16.上記1から15のいずれか1項に記載の微生物培地を使用することを特徴とする汚染指標菌および/または食中毒菌の検出方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の微生物培地を用いれば、例えば、食品や環境中の大腸菌群と腸内細菌科の汚染指標菌および/または食中毒菌が容易に検出できる。また、本発明の微生物培地をシート状培地としたものを用いれば、(i)培地調製の手間がいらず、大腸菌群と腸内細菌科の汚染指標菌および/または食中毒菌の検査が簡便に行える、(ii)通常の食品や環境検査に加え、例えば、曲面や多少の凹凸のある面でも直接検査対象をスタンプまたはふき取って検査することもできる、(iii)シート状であるため培養に場所をとらず、廃棄物も通常の検査に比べ大幅に減少するといった効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は下記の成分を必須成分として含む微生物培地である。
(A)微生物の生育栄養成分、
(B)胆汁末、胆汁酸塩、デオキシコール酸、デオキシコール酸塩、およびラウリル硫酸塩からなる群から選ばれる1種以上、
(C)α−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質、および
(D)β−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質。
微生物の生育栄養成分(A)の具体例としては、肉エキス、ペプトン類、および酵母エキス等が挙げられる。肉エキスには獣肉エキス及び魚肉エキス等がある。ペプトン類としては、ペプトン、ポリペプトン、トリプトン、ソイトン、大豆ぺプトンなどの名称で市販されているものが挙げられる。
胆汁末、胆汁酸塩、デオキシコール酸(塩)およびラウリル硫酸塩からなる群から選ばれる成分(B)は、サルモネラと大腸菌群の生育を促進させ、他の微生物の生育を抑制する選択剤としての機能を有する。従って、この明細書において成分(B)を「選択剤」ということもある。より選択性を高くするために2種以上含むことはより好ましい。また、選択性を上げるために抗生物質(例えば、マクロライド系抗生物質、リンコマイシン、グリンダマイシン、バシトラシン)などを加えても良い。
【0009】
大腸菌群は乳糖から酸とガスを産生するグラム陰性桿菌として定義され、β−D−ガラクトシダーゼ活性を指標として測定できる。サルモネラのほとんどはβ−D−ガラクトシダーゼ活性を有していないが、強いα−D−ガラクトシダーゼ活性を有していることが知られている。α−D−ガラクトシダーゼ活性はサルモネラの他クレブシエラ属、エンテロバクター属、大腸菌なども有している。α−D−ガラクトシダーゼ活性とβ−D−ガラクトシダーゼ活性を指標とすれば大腸菌群と腸内細菌科の食中毒菌を同時に測定できる。
【0010】
また、WO97/24432の多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層からなるシートまたはフィルム状の培養器または培地に応用すれば、省スペースで、培地調製の手間もいらず、より簡易に大腸菌群と腸内細菌科の食中毒菌を測定できる。
【0011】
α−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質(以下「発色または蛍光酵素基質」を「発色基質」または「発色剤」ということがある。)およびβ−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質は、寒天培地のようなゲル化剤を用いた培地または多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層からなるシートまたはフィルム状培地上で発色が観察できるものであればどのようなものでもよい。例えば、オキシインドール、ハロゲン置換オキシインドール、アルキル置換オキシインドールの誘導体等が好ましく用いられる。
【0012】
異なる色の発色団を有するα−D−ガラクトシダーゼの発色基質とβ−D−ガラクトシダーゼの発色基質の組み合わせを用いれば、サルモネラと大腸菌群を異なった色に発色させることもできる。例えば、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトシド(X−β−Gal)と5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−α−D−ガラクトシド(Magenta−α−Gal)の組み合わせでは大腸菌群は青〜紫のコロニーとなり、サルモネラは赤いコロニーとなる。
【0013】
多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層からなるシートまたはフィルム状の培地とするときには、α-D−ガラクトシダーゼの発色基質として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−α−D−ガラクトシド(X−α−Gal)、インドキシル−α−D−ガラクトシド、5−ブロモ−3−インドキシル−α−D−ガラクトシドなど青色系の発色団を有する発色基質を用い、β−D−ガラクトシダーゼの発色基質として6−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトシド(Salmon-β−Gal)、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトシド(Magenta−β−Gal)など赤色系の発色団を有する発色基質を用いるとサルモネラと大腸菌群の発色を区別しやすい。
【0014】
ゲル状の固体培地とするときの本発明の培地を構成する成分は、好ましくは肉エキス、ペプトン類および酵母エキスから選ばれる1種以上の栄養成分(A)の合計が2〜20g/L、胆汁末、胆汁酸塩、デオキシコール酸、デオキシコール酸塩(例えば、ナトリウム塩)およびラウリル硫酸塩(例えば、ナトリウム塩)からなる群から選ばれる1種以上の成分(B)の合計が0.05〜2g/L、α−D−ガラクトシダーゼの発色基質(C)が0.005〜1.0g/Lおよびβ−D−ガラクトシダーゼの発色基質(D)が0.005〜1.0g/Lであることが好ましい。
成分(A)および(B)の含有量が上記範囲内にあると生育が良好であり、24時間程度の培養で汚染指標菌および/または食中毒菌の測定が可能になるので好ましい。
成分(C)および(D)の発色基質の含有量が上記範囲内にあると発色が明瞭で、観察が容易であり、好ましい。
これら以外にβ−D−ガラクトシダーゼの誘導効果のある乳糖やIPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド)などを加えることはより好ましい。これらのβ−D−ガラクトシダーゼの誘導効果剤の添加量は、好ましくは乳糖は0.5〜10g/L、IPTGは1〜100mg/Lである、
【0015】
本発明の微生物培地のpHは、試料液を加えた状態で好ましくは4.5〜9.0、さらに好ましくは5〜8.5の範囲であることが望ましい。本発明の培地のpH調整に使用するpH調整剤としては、リン酸塩、炭酸塩、これらの混合物が挙げられ、その使用量は0.1〜10g/L程度であることが好ましい。pH調整剤の具体例としては、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
【0016】
シートまたはフィルム状培地とするときの本発明の培地を構成する成分は、水溶性高分子化合物層全体に対する各成分の合計含有量の範囲を培地に対する目付で表すとき、成分(A)が2〜10g/m2、成分(B)が0.3〜3g/m2、成分(C)のα−D−ガラクトシダーゼの発色基質が0.02〜1.2g/m2、および成分(D)のβ−D−ガラクトシダーゼの発色基質が0.02〜1.2g/m2であることが好ましい。
ゲル状の固体培地と同様に、成分(A)および(B)の含有量が上記範囲内にあると生育が良好であり、24時間程度の培養で汚染指標菌および/または食中毒菌の測定が可能になるので好ましい。
成分(C)および(D)の発色基質の含有量が上記範囲内にあると発色が明瞭で、観察が容易であり、好ましい。
pH調整剤の量は、好ましくは0.1〜10g/m2である。
成分(B)の選択剤は、より選択性を高くするために2種以上含むことはより好ましい。また、選択性を上げるために抗生物質などを加えても良い。塩類はpH調整に役立ち上記範囲であれば十分にpH調整効果をもつ。これら以外にβ−D−ガラクトシダーゼの誘導効果のある乳糖やIPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド)などを加えることはより好ましい。
【0017】
本発明のシートまたはフィルム状培地の水溶性高分子化合物層を形成するための材料としては、試料液を加えたときに、水に溶解して10cps(40℃で測定した粘度)以上の高粘度を示し、微生物の生育を阻害しないものが好ましく用いられる。例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアクリル酸誘導体、でんぷん誘導体、蛋白質、蛋白質誘導体、及び多糖類等が使用できる。この中でもポリビニルアルコールがより好ましく、鹸化度が75〜95%、分子量が25000〜250000のポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0018】
本発明のシートまたはフィルム状培地に使用する多孔質マトリックス層を形成するための材料としては、ナイロン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、エチレン酢酸ビニル共重合体繊維、ポリエステル繊維(親水化処理したポリエステル繊維がより好ましい)、ポリオレフィン繊維(親水化処理したポリオレフィン繊維がより好ましい)、及びポリウレタン繊維等の合成繊維、レーヨン繊維等の半合成繊維、羊毛(獣毛)、絹、コットン繊維、セルロース繊維、及びパルプ繊維等の天然繊維、ガラス繊維等の無機繊維等が例示でき、これらの繊維を用いて作られた編織布及び不織布等の布帛や、上記繊維の構成素材で作られた多孔質フィルムやスポンジなどが使用できる。
【0019】
これらの中で好ましいのはナイロン繊維、コットン繊維、セルロース繊維、及びレーヨン繊維であるが、目付、通気度の調整が容易な編織布、不織布等の布帛を用いることが好ましい。不織布の中でも、さらに比較的容易に細繊維が得られるメルトブロー製法で作製した不織布や、分割繊維から製造した極細繊維不織布を特に好ましく用いることができる。従って、メルトブロー製法で作製したナイロン不織布が特に好ましい。そして、多孔質マトリックス層は、目付40〜100g/m2、通気度70〜240L/m2・secであることが好ましい。
【0020】
本発明のシートまたはフィルム状培地に用いる多孔質マトリックス層は撥水性であってもよいが、親水性または親水化処理した多孔質マトリックス層を用いることにより、撥水性の多孔質マトリックス層よりも吸水速度が速くなり作業の能率が高くなる。さらに、これら多孔質マトリックス層の表面に水溶性物質を塗布しておくことが、微生物の分散をさらに向上できるため好ましい。水溶性物質としては、検査目的の微生物の生育を妨げないものであればどのようなものでも構わないが、水溶性高分子化合物層に添加した栄養成分や塩類が好ましい。界面活性剤や発色基質を塗布してもよい。
【0021】
本発明のシートまたはフィルム状培地に用いる粘着シートの材質は、検査目的の微生物の生育を阻害しないものであればどのようなもので良いが、透明フィルムを剥がしやすくするためにはある程度の腰が必要であり、曲面などをふき取るためには柔軟であることが好ましい。例えば、厚さ0.07〜0.5mmのポリエステルフィルム、白色ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリオレフィン系合成紙またはポリオレフィンラミネート紙であれば、この条件を満たしている。粘着シートに使用する粘着剤も大腸菌の生育を阻害しないものであればどのようなものでも良いが、作業性を考えると粘着シートと透明フィルムとを再接着できさえすれば、粘着力は弱いほど好ましい。ゴム系およびアクリル系粘着剤が好ましく、再剥離タイプおよび微粘着タイプアクリル系粘着剤が特に好ましい。
【0022】
透明フィルムも検査目的の微生物の生育を阻害しないものであればどのようなものでも良いが、厚みをもった積層物が粘着シートとの間にはいるため、柔軟性は必要である。ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルムなどが使用でき、剥がしやすくするために剥離剤処理を施したものでも良い。透明フィルムの開け閉めなど作業性からはポリオレフィンフィルムが好ましく、厚さ20〜100μmのポリプロピレンフィルムが特に好ましい。
【0023】
本発明の微生物培地の好ましい実施態様は、少なくとも1層の水溶性高分子化合物層を有する。このとき、水溶性高分子化合物層は1層であってもよいが、2層以上の多層であってもよく、本発明においては2層または3層であることが好ましい。水溶性高分子化合物層を多層とする場合には、水溶性高分子化合物溶液を塗り重ねて作製することができる。また、数層に分けて作製した水溶性高分子化合物層を貼り合わせることで、多層とすることもできる。
【0024】
仮に水溶性高分子化合物層を多孔質マトリックス層に近い順にアルファベット順の記号を付けるとする。水溶性高分子化合物層が、A層、及びB層の2層から構成されている場合、A層は、微生物の生育栄養成分、発色剤、及び選択剤を含むことが好ましく、B層は、微生物の生育栄養成分、発色剤、および選択剤を含んでいてもよいが、水溶性高分子化合物のみから構成されていてもよい。
【0025】
また、水溶性高分子化合物層が、A層、B層、及びC層の3層から構成されている場合、少なくともA層、B層のいずれか一方またはその両方に、微生物の生育栄養成分、発色剤、および選択剤が含まれることが好ましく、C層は水溶性高分子化合物のみから構成されることが好ましい。多孔質マトリックス層から最も離れた水溶性高分子化合物層であるC層を、水溶性高分子化合物のみから構成することで、水溶性高分子化合物層に添加する微生物の生育栄養成分を減量でき、生育栄養成分の利用効率が高くできるため好ましい。
【0026】
なお、発色剤や選択剤の組み合わせによっては、混合することで反応を起こす場合がある。そのような場合には、反応しやすい成分を別々の層に分けて加えることが好ましい。また、水溶性高分子化合物層を多層構造にする場合には、各層が密着していることが好ましい。また、あまりに多くの層を形成しても製造工程の増加に伴うコストアップに見合う効果が得られないので、5層を越えた多層とすることにはあまり意味はない。
【0027】
多孔質マトリックス層から最も離れた水溶性高分子化合物層のさらに下層に樹脂フィルムが積層されていてもよい。この樹脂フィルムは、例えば、水溶性高分子化合物層を製造する際に台紙フィルムとして用いたフィルムなどである。使用する際、必要に応じて水溶性高分子化合物層から取り除いてもよい。この樹脂フィルムの原料としては、ポリエステル、ポリオレフィン、及びナイロンから選ばれた少なくとも1種の樹脂が用いられる。これらの樹脂からなる樹脂フィルムを用いることで、粘着シートとの接着性が良好となるため好ましい。また、微生物培養器または微生物培地は、どのような形に切断して利用してもよい。
【0028】
以下に、シート状の微生物培地の作製方法について説明する。
ポリエステル等のフィルムを台紙として、その上に、微生物の生育栄養成分、発色剤、選択剤等を含有する水溶性高分子化合物の水溶液を塗布し、乾燥または半乾燥状態の水溶性高分子化合物層とする。なお、この水溶性高分子化合物層は2層以上の多層構造であっても良い。多層構造の場合、いずれかの層に微生物の生育栄養成分、発色剤、選択剤等が含有されていればよい。さらに水溶性高分子化合物層上に、多孔質マトリックス層を積層して乾燥する。なお、水溶性高分子化合物層を多層構造とするときは多孔質マトリックス層と接する最上層の水溶性高分子化合物の目付は、1〜20g/m2とすることが好ましい。
【0029】
多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層とを積層して乾燥する工程において、水溶性高分子化合物層が1層の場合、水溶性高分子化合物の水溶液が半乾燥状態で、多孔質マトリックス層を積層するか、または、乾燥状態であれば水または微生物の生育栄養成分を含んだ水を加えて湿らせた多孔質マトリックス層を積層する。水溶性高分子化合物層を2層以上とする場合、既に形成された水溶性高分子化合物層の上に水溶性高分子化合物の水溶液を塗布して、そのまま、または半乾燥状態で多孔質マトリックス層を積層するか、または、乾燥後、水または微生物の生育栄養成分等を含んだ水を加えて湿らせた多孔質マトリックス層を積層すればよい。
【0030】
また、乾燥後、さらに必要に応じて多孔質マトリックス層上に水溶性高分子化合物の水溶液を塗布し乾燥する工程を加えてもよい。なお、得られたシート状微生物培地から、必要に応じて台紙を剥がしてもよい。次に、得られたシート状微生物培地を必要に応じて適当な大きさに切断し、粘着剤を塗布したシートまたはフィルムに接着し、透明フィルムを被せ、袋やシャーレに入れる等の措置を施し、エチレンオキサイドガス等により滅菌を施してもよい。
【0031】
具体的に、本発明の微生物培地が、3層の水溶性高分子化合物層から構成される場合の作製方法について以下に説明する。
ポリエステル等の樹脂フィルム上に、水溶性高分子化合物の水溶液を塗布・乾燥し、水溶性高分子化合物層(C層)を作製する。この層上に微生物の生育栄養成分、発色剤、選択剤等を含んだ水溶性高分子化合物の水溶液を塗布・乾燥し、水溶性高分子化合物層(B層)を作製する。さらにこの層上に微生物の生育栄養成分、選択剤、発色剤等を含んだ水溶性高分子化合物の水溶液を塗布し、水溶性高分子化合物層(A層)を作製し、C層、B層、A層からなる水溶性高分子化合物層の積層体とする。さらに、この積層体上に生育栄養成分、発色剤、選択剤等を含まない多孔質マトリックス層、またはそれらを含む多孔質マトリックス層を積層して乾燥することにより、3層の水溶性高分子化合物層から構成される本発明の微生物培地が得られる。多孔質マトリックス層に接する水溶性高分子化合物層中の水溶性高分子化合物の目付は1〜20g/m2であることが好ましい。
【0032】
多孔質マトリックス層の乾燥後、その表面にペプトン、酵母エキス、肉エキス、アミノ酸混合物、糖類等の微生物の生育栄養成分または塩化ナトリウム、リン酸塩、炭酸塩等の塩類の水溶液または栄養成分と塩類の混合水溶液を多孔質マトリックス層表面に塗布し乾燥してもよい。なお、必要に応じて、台紙フィルムとして用いた樹脂フィルムを乾燥後に取り除いてもよい。
【0033】
本発明においては、得られた微生物培地を適当な大きさに切断し、これをより大きな粘着シートに接着する。このとき、樹脂フィルムを付着したままで使用する場合には、微生物培地の樹脂フィルム側に粘着シートを接着し、また樹脂フィルムを取り除いた場合には、水溶性高分子化合物層側に粘着シートを接着する。更に、この上から透明フィルムを被せ、微生物培地の周りの微生物培地が接着されていない粘着シート部分に透明フィルムを接着してもよい。このとき、またはこの後、(1)透明フィルムと粘着シートの一端をずらし、粘着シートと透明フィルムとの間の粘着力よりさらに強い粘着力を有する粘着テープで接着する方法、(2)透明フィルムと粘着シートの一端を粘着シートと透明フィルムとの間の粘着力よりさらに強い粘着力を有する両面テープで接着する方法、または、(3)透明フィルムまたは粘着シートまたは両者の一端に、残りの部分よりさらに強い接着力を有する粘着剤を塗布するなどの方法、によって粘着シートと透明フィルムとの間の粘着力をさらに強くしてもよく、さらに、エチレンオキサイドガス滅菌等の滅菌を施してもよい。
【0034】
他の実施態様として、本発明の微生物培地が、2層の水溶性高分子化合物層から構成される場合の作製方法について以下に説明する。
ポリエステル等の樹脂フィルム上に、微生物の生育栄養成分、発色剤、選択剤等を含む水溶性高分子化合物の水溶液または水溶性高分子化合物のみからなる水溶液を塗布し・乾燥し、水溶性高分子化合物層(B層)を作製する。さらに、この層上に微生物の生育栄養成分、発色剤、選択剤等を含む水溶性高分子化合物の水溶液または水溶性高分子化合物のみからなる水溶液を塗布することで、水溶性高分子化合物層(A層)を作製し、B層、A層からなる水溶性高分子化合物層の積層体とする。この積層体上に多孔質マトリックス層または微生物の生育栄養成分等を含ませた多孔質マトリックス層を積層して乾燥することにより、2層の水溶性高分子化合物層から構成される本発明の微生物培地が得られる。なお、A層に使用する微生物の生育栄養成分は、必要に応じ、熱変性または熱分解しやすいものであってもよい。なお、多孔質マトリックス層に接する水溶性高分子化合物層(A層)中の水溶性高分子化合物の目付は、1〜20g/m2の範囲であることが非常に好ましい。
【0035】
いかなる方法で作製したシート状またはフィルム状の微生物培地であっても、水溶性高分子化合物層間、あるいは、樹脂フィルムを取り除かない場合における水溶性高分子化合物層と樹脂フィルムとの間は密着していることが好ましく、水溶性高分子化合物層と多孔質マトリックス層は少なくともその一部が接着していればよい。また、透明フィルムと粘着シートとの接着された部分には隙間のないことが好ましい。
【実施例】
【0036】
次に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
水125mlに鹸化度89%、分子量83000のポリビニルアルコール15gを加えて加熱溶解後、厚さ20μm、サイズ0.5m×0.5mのポリエステルフィルム上に塗布し、120℃で5分間加熱して乾燥し、第1の水溶性高分子化合物層とした。この層に、前記のポリビニルアルコール7.5g、肉エキス1g、ペプトン0.125g、胆汁末0.18g、リン酸二カリウム0.063g、硝酸カリウム0.125g、乳糖1gを水63mlに溶解して得た水溶液を塗布し、110℃で7分間乾燥して第2の水溶性高分子化合物層とした。この第2の水溶性高分子化合物層の上に、前記のポリビニルアルコール2.5g、乳糖・1水和物0.025g、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトピラノシド0.05g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−α−D−ガラクトピラノシド0.05gを水50mLに溶解して塗布し、この上に目付65g/m2、通気度110L/(m2・sec)のナイロンメルトブロー不織布を張り合わせ、100℃で30秒間乾燥した。最後に、ペプトン2g、デオキシコール酸ナトリウム2g、ラウリル硫酸ナトリウム0.2gを水0.5Lに溶解した水溶液を、60メッシュ四角錐グラビアロールを用いて不織布上に塗布して、100℃で20秒間乾燥し培地積層物を作製した。この積層物を45×45mmに切断し、厚さ0.1mm、80×85mmに切断した(株)共和製アクリル系微粘着タイプ粘着剤塗布100μm厚白色ポリエステル粘着シートの中央部に接着した後、0.06mm厚、80×85mmポリプロピレンフィルムを85mm方向が5mmずれるように粘着シートに接着し、(株)共和製9mm巾バックシーリングテープをずらした部分を覆うように接着して、エチレンオキサイドガス滅菌を行ってシート状の微生物培地を作製した。
【0037】
実施例2
表1に示す菌株を、普通ブイヨンで一夜培養し、滅菌生理食塩水で数十cfu/mLとなるように希釈した菌懸濁液1mLを実施例1で作製した微生物培地に加え、35℃24時間培養した。表1に示すようにサルモネラは青緑、大腸菌群は紫色のスポットとして観察され、サルモネラおよび大腸菌群以外の株による発色は認められなかった。
【0038】
実施例3
鶏肉25gを緩衝ペプトン水225mLに入れ、35℃16時間培養した。
あらかじめ滅菌生理食塩水1mLを加えておいた実施例1で作製した微生物培地に上記培養液1白金耳を画線した。35℃24時間培養すると紫色に加え、青色のスポットの観察される微生物培地があった。青色スポットを釣菌し、普通寒天培地で培養後、普通寒天培地上に生育した1コロニーを1本ずつのTSI半高層培地、LIM培地に移植し、35℃24時間培養した。TSI半高層培地、LIM培地はサルモネラ属と判定される結果を示した。
【0039】
実施例4
ペプトン10g、ピルビン酸ナトリウム1g、塩化ナトリウム1g、リン酸一カリウム5g、リン酸二カリウム2.2g、硝酸カリウム2.5g、ラウリル硫酸ナトリウム0.05g、デオキシコール酸ナトリウム0.2g、乳糖5g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−α−D−ガラクトピラノシド0.1g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトピラノシド0.1g、寒天15gに水1Lを加え懸濁後、121℃15分オートクレーブ処理し、よく混合後、滅菌シャーレに分注固化した。
表2に示す菌株を、普通ブイヨンで一夜培養し、滅菌生理食塩水で数百cfu/mLとなるように希釈した菌懸濁液0.1mLを上記培地に加え、コーンラージ棒を用いて培地全体に塗布した。35℃24時間培養した結果、表2に示すようにサルモネラおよび大腸菌群は青色のスポットとして観察され、サルモネラおよび大腸菌群以外の株による発色は認められなかった。
【0040】
【表1】






























【0041】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含む微生物培地。
(A)微生物の生育栄養成分、
(B)胆汁末、胆汁酸塩、デオキシコール酸、デオキシコール酸塩、およびラウリル硫酸塩からなる群から選ばれる1種以上、
(C)α−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質、および
(D)β−D−ガラクトシダーゼの発色または蛍光酵素基質。
【請求項2】
微生物の生育栄養成分が、肉エキス、ペプトン類、および酵母エキスからなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の微生物培地。
【請求項3】
成分(A)の含有量が2〜20g/L、成分(B)の含有量が0.05〜2g/L、成分(C)の含有量が0.005〜1.0g/L、成分(D)の含有量が0.005〜1.0g/Lの範囲である、請求項1または2に記載の微生物培地。
【請求項4】
pH調整剤を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項5】
pH調整剤の含有量が0.1〜10g/Lの範囲である、請求項4に記載の微生物培地。
【請求項6】
ゲル化剤を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項7】
多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項8】
水溶性高分子化合物層が1〜4層である、請求項7に記載の微生物培地。
【請求項9】
多孔質マトリックス層と2または3層の水溶性高分子化合物層とを含み、多孔質マトリックス層から最も離れた側の水溶性高分子化合物層に接して台紙を含んでもよい積層物が、その積層物より大きな粘着シートの中心部に多孔質マトリックス層が上になるように接着され、その上に前記積層物より大きな透明フィルムが多孔質マトリックス層に接しかつ前記積層物と中心部を合わせるように被せられ、この透明フィルムの前記積層物からはみ出している部分が粘着シートの前記積層物が接着されていない部分と接着されている請求項7または8に記載の微生物培地。
【請求項10】
水溶性高分子化合物層全体に対する各成分の合計含有量の範囲を培地に対する目付で表すとき、成分(A)が2〜10g/m2、成分(B)が0.3〜3g/m2、成分(C)が0.02〜1.2g/m2、成分(D)が0.02〜1.2g/m2、pH調整剤が0.1〜10g/m2である、請求項7から9のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項11】
水溶性高分子化合物層に含まれる水溶性高分子化合物が、鹸化度75〜95%、分子量25000〜250000のポリビニルアルコールである、請求項7から10のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項12】
多孔質マトリックス層が目付40〜100g/m2、通気度70〜240L/m2・secのナイロンメルトブロー不織布である、請求項7から11のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項13】
粘着シートがアクリル系粘着剤またはゴム系粘着剤を塗布した、ポリエステルフィルム、白色ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリオレフィン系合成紙またはポリオレフィンラミネート紙であり、透明フィルムがポリオレフィンフィルムまたは剥離処理ポリオレフィンフィルムである、請求項9から12のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項14】
粘着シートの厚さが0.07〜0.5mmであり、透明フィルムの厚さが20〜80μmである、請求項9から13のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項15】
粘着シートと透明フィルムとの接着部分の一部をこの粘着シートの粘着力により接着している、請求項9から14のいずれか1項に記載の微生物培地。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の微生物培地を使用することを特徴とする汚染指標菌および/または食中毒菌の検出方法。

【公開番号】特開2008−17712(P2008−17712A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189598(P2006−189598)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】