説明

微生物検出培地

【課題】ポリフェノール類を含有する試料であっても、微生物を精度良く検出できる手段を提供する。
【解決手段】ポリフェノールオキシダーゼを含有することを特徴とする、ポリフェノール類含有試料用微生物検出培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテキン等のポリフェノール類を含有する試料中の微生物を正確に検出することができる培地及び微生物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品や飲料の衛生管理のために種々の微生物検査が行われており、当該微生物検査には、微生物検出培地が広く用いられている。
近年、カテキン等のポリフェノール類が体脂肪の増加抑制効果や血中コレステロール低下効果等の生理活性を有することが明らかになり、緑茶飲料やカテキン含有食品等が注目され、広く使用されている。
【非特許文献1】Kansenshogaku Zasshi. 1994 Dec;68(12):1518-22.
【非特許文献2】Nippon Saikingaku Zasshi. 1991 Sep;46(5):839-45. Japanese
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
カテキン等のポリフェノール類には微生物の発育阻止活性を有する(非特許文献1、2)ことから、ポリフェノール類を含有する試料からの微生物の検出感度が低下するという問題があった。
従って、本発明の目的は、ポリフェノール類を含有する試料であっても、微生物を精度良く検出できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明者は、培地成分について種々検討したところ、全く意外にも、ポリフェノールオキシダーゼを培地に加えることにより、ポリフェノール類を含有する試料から微生物を精度良く検出できることを見出した。
【0005】
すなわち、本発明は、ポリフェノールオキシダーゼを含有することを特徴とする、ポリフェノール類含有試料用微生物検出培地を提供するものである。
また本発明は、ポリフェノールオキシダーゼを含有する培地に、ポリフェノール類含有試料を接種して培養することを特徴とするポリフェノール類含有試料からの微生物の検出方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の微生物検出培地を用いれば、ポリフェノール類を多量含有する飲料や食品を試料とした場合であっても、当該試料中の微生物を精度良く検出できる。従って、ポリフェノール類の存在により、微生物陰性とされていた飲料や食品の微生物汚染を未然に正確に把握でき、本発明方法は食品衛生管理上極めて重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の微生物検出培地はポリフェノールオキシダーゼを含有する。ポリフェノールオキシダーゼとしては、ポリフェノールを酸化する酵素であれば特に制限されないが培地成分の殺菌処理に耐える点から、耐熱性ポリフェノールオキシダーゼが好ましい。より具体的には、耐熱性ラッカーゼ、例えばラッカーゼダイワY120(大和化成(株))、特開2006−158252号公報記載のサーマス属由来のラッカーゼ等が挙げられる。
【0008】
ポリフェノールオキシダーゼの培地中の含有量は、微生物検出の精度の点から、使用時の濃度として50,000POU/L以上、さらには80,000POU/L以上、特に100,000POU/L以上が好ましい。含有量の上限は特に制限されないが1,000,000POU/Lが好ましい。ここで、POUはポリフェノールオキシダーゼの力価であり、4−アミノアンチピリンとフェノールにpH4.5、30℃で作用するとき、ポリフェノールオキシダーゼが触媒する酸化縮合反応により生成するキノンイミン色素の505nmにおける吸光度を反応初期1分間に0.1増加させるのに必要な酵素量を1POUとする。本発明において、使用時の濃度とは、被検試料添加後の濃度である。例えば、培地が乾燥培地の場合、乾燥培地に被検試料液を添加した後の濃度である。
【0009】
本発明の培地には、ポリフェノールオキシダーゼ以外に、微生物栄養成分、無機塩類、糖類、pH調整剤、抗生物質等の他、特定の微生物特有の検出試薬を配合することができる。微生物栄養成分としては、ペプトン、酵母エキス、獣肉エキス、魚肉エキス等が挙げられる。
【0010】
ここで無機塩類としては、塩化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の無機酸金属塩;クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸ナトリウム等の有機酸金属塩等が挙げられる。また、他の無機塩類は、胆汁末、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。糖類としては、単糖類及びオリゴ糖類が使用でき、例えばラクトース、シュークロース(白糖)、キシロース、セロビオース、マルトース等が挙げられる。
【0011】
微生物特有の検出試薬としては、一般生菌数であれば2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロライドなどのテトラゾリウム塩、大腸菌群であれば5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−GAL)などのβ−ガラクトシダーゼの基質となりうる色原体化合物等のように特定の微生物が特有に保有する酵素の基質となりうる色原体化合物等、色素、pH指示薬等が挙げられる。
【0012】
本発明培地の形態は特に限定されず、通常の寒天培地の他、シート状簡易培地(特開昭57−502200号、特開平6−181741号及び例えばメッシュを有する繊維状吸水シートに担持させた構造(特開平9−19282号、特開2000−325072))とすることもできる。
【0013】
本発明培地の測定対象としては、緑茶飲料、カテキン含有食品等のポリフェノール類を含有する食品、飲料等のポリフェノール類含有試料が挙げられる。また、これらの検体を予めトリプトソーヤブイヨン培地で培養した培養液やこれを増菌用培地で培養した培養液も試料とすることができる。ここでポリフェノール類とは、カテキン、フラボノール、イソフラボン、タンニン、ケルセチン、アントシアニン等を含む総称である。
【0014】
本発明培地を用いて微生物を検出するには、ポリフェノール含有試料を培地に接種して培養し、コロニーの着色、蛍光等の特性を観察することにより行われる。培養は通常25〜35℃で24〜72時間行うのが好ましい。ここで、コロニーの検出は、前記微生物特有の検出、試薬により色などが相違する。
【実施例】
【0015】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0016】
実施例1
(1)培地の作製
標準寒天培地(SPC)(ペプトン5g、酵母エキス2.5g、ブドウ糖1g、寒天15g:日水製薬社製)1リットル使用量を1リットルの精製水に加え、121℃、15分間、高圧蒸気滅菌する。これを2本作製した。滅菌後培地を50℃に保温し、一方のSPCにはろ過滅菌したラッカーゼ(ラッカーゼダイワY120)を108,000POU/Lになるように加え酵素加標準寒天培地(ESPC)とした。
但し、1POUは4−アミノアンチピリンとフェノールにpH4.5、30℃で作用するとき、ラッカーゼが触媒する酸化縮合反応により生成するキノンイミン色素の505nmにおける吸光度を反応初期1分間に0.1増加させるのに必要な酵素量とする。
【0017】
(2)希釈液の作製
カテキン含有緑茶飲料を無菌的に9mLずつ、滅菌試験管に分注した。対照として、9mLの滅菌生理食塩水を準備した。
【0018】
(3)菌株の供試
供試菌株はトリプトソイブイヨンで24時間前培養したものを用い、これを滅菌生理食塩水及びカテキン含有緑茶飲料で10-1〜10-8まで希釈した。希釈したそれぞれの菌液を滅菌空シャーレに1mLずつ接種し、予め滅菌保温したSPC及びESPCそれぞれにて混釈培養を行った。35℃、48時間培養後、発育したコロニー数を計測した。
【0019】
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
SPCにおいては緑茶飲料で希釈した場合、カテキンの抗菌作用により菌数が滅菌生理食塩水で希釈した菌数より少なくなっている。一方、本発明培地(ESPC)においてはカテキンの抗菌作用を中和する事から緑茶飲料と滅菌生理食塩水でほぼ同等の菌数となっている。
【0022】
実施例2
(1)培地の作製
標準寒天培地(SPC)(ペプトン5g、酵母エキス2.5g、ブドウ糖1g、寒天15g:日水製薬社製)1リットル使用量を1リットルの精製水に加え、121℃、15分間、高圧蒸気滅菌する。滅菌後培地を50℃に保温し、これにろ過滅菌したラッカーゼを108,000POU/L(1g/L)、10,800POU/L(0.1g/L)、1,080POU/L(0.01g/L)、0 POU/L(0g/L)になるようにそれぞれ加え使用した。
(2)希釈液の作製
カテキン含有緑茶飲料を無菌的に9mLずつ、滅菌試験管に分注した。対照として、9mLの滅菌生理食塩水を準備した。
(3)菌株の供試
供試菌株はトリプトソイブイヨンで24時間前培養したものを用い、これを滅菌生理食塩水及びカテキン含有緑茶飲料で10-1〜10-8まで希釈した。希釈したそれぞれの菌液を滅菌空シャーレに1mLずつ接種し、予め滅菌保温したそれぞれの培地にて混釈培養を行った。35℃、48時間培養後、発育したコロニー数を計測した。
結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
標準寒天培地に加え混釈培養するとき、酵素濃度は10,800POU/L以上で良く、108,000POU/L(1g/L)以上添加することがより好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールオキシダーゼを含有することを特徴とする、ポリフェノール類含有試料用微生物検出培地。
【請求項2】
ポリフェノールオキシダーゼ含有量が使用時の濃度として50,000POU/L以上である請求項1記載の培地。
【請求項3】
ポリフェノールオキシダーゼを含有する培地に、ポリフェノール類含有試料を接種して培養することを特徴とするポリフェノール類含有試料からの微生物の検出方法。
【請求項4】
培地中のポリフェノールオキシダーゼ含有量が使用時の濃度として50,000POU/L以上である請求項3記載の検出方法。

【公開番号】特開2008−131896(P2008−131896A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320597(P2006−320597)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)
【Fターム(参考)】