説明

微生物検出方法および検出装置

【課題】体液中に含まれる微生物を効率よく分離し、回収する方法、ならびにこれを高感度に検出することを目的とする。
【解決手段】体液成分と微生物の溶解度の違いを利用し、脱イオン剤による細胞膜あるいはタンパク質からのイオン除去、界面活性剤による細胞膜溶解、酵素によるタンパク質の分解を経て、体液成分を微細化し、微生物と区別化する。区別化した微生物をメンブレンフィルタ2で回収、染色し、検査台6に設置する。設置後、光源3から励起光を照射し、発光した微生物をCCD11で読み込み、微生物を認識するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液成分中に含まれる微生物を分離するために脱イオン剤、界面活性剤、酵素等を利用し、体液成分中に含まれる微生物と微生物以外の成分とを溶解性の違いを利用し、体液成分中に含まれる微生物と微生物の成分を区別化し、微生物を検出する微生物検出方法および検出に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の微生物検査方法は、体液検体が血液検体の場合、動物細胞を含む血液中に含まれる微生物を検出する必要があるため、その沈降速度の違いから遠心分離や、血液中に含まれる細胞ならびにその他成分の中から微生物を特異的に吸着させ、それを培養法や免疫法などで検出する方法が開発されてきた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、大きさの違いを利用して微生物を含んだ血液を、ヌクレオポアフィルタなどのメンブレンフィルタでろ過して、フィルタ上に微生物を捕捉した後、蛍光染色を行った微生物を、顕微鏡を利用し、目視で観察や計数を実施して微生物を検出するものが存在したが、血液などのように微細な細胞を大量に含む検体の場合、血液成分中に含まれる細胞ならびにその他成分が判断や測定を妨害したり、ろ過を阻害したりしていた。これらを解決するために希釈により血液成分中に含まれる細胞ならびにその他成分の影響を低減化し、微生物を検出してきた。
【特許文献1】特開2002−125695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の体液中に含まれる微生物の検出方法は、計測検体量が微量な場合、計測感度が低下する可能性があり、また、遠心分離など体液成分中に含まれる細胞ならびにその他成分と微生物の沈降速度の違いを利用した分離の場合、微生物種の密度のわずかな違いに影響されやすく、そのため精度・再現性に課題がある。そこで、安定した前処理方法でかつ、計測誤差が少ない一定量の検体を計測することが要求されている。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、体液検体の中でも特に血液検体のように血液成分中に微生物以外の細胞を多種、多量に含み、ろ過等の分離手段により計測を阻害する物質を除去し、細胞と微生物を分離、計測する手段であり、検体全量を回収し、計測することで高い精度を保ち、安定した計測と再現性があり、計測誤差の少ない計量をすることのできる微生物検出方法ならびに検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は上記課題解決を達成するために、溶解性の違いを利用し、体液中に存在する微生物以外の物質、細胞等、含まれる成分を微細化することで微生物と細胞の大きさを区別化し、その差を検出することで微生物を検出できるようにしたことを特徴とする。
【0007】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、細胞に含まれるタンパク質や膜構造を軟化あるいは解離させるため、脱イオン処理し、膜剛性を低下させることを特徴とする。
【0008】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、脱イオン処理剤としてキレート剤を使用することを特徴とする。
【0009】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、体液中に存在する微生物と微生物以外の成分とを微細化することで区別化し、分離することを特徴とする。
【0010】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、体液中に存在する微生物と微生物以外の成分とを界面活性剤処理することで溶解させ、断片化することを特徴とする。
【0011】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、前記界面活性剤をアミド系非イオン性活性剤とすることで細胞膜の断片化を促進し、その他添加物への影響を低減化することで安定した溶解性を保持することを特徴とする。
【0012】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、体液中に存在する微生物と微生物以外の成分とを酵素処理により分解、除去することを特徴とする。
【0013】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、断片処理をタンパク質に絞り、タンパク質分解酵素を利用することにより分解することを特徴とする。
【0014】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、前記、脱イオン手段、アミド系非イオン性界面活性剤、タンパク質分解酵素を複合させ、利用することでより安定した分解効率を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、各種微細化手段により、高まった粘性を下げるものであり、ろ過効率を上げることを特徴とする。
【0016】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、微細化処理後、残存した断片を除去するための前ろ過手段であり、微生物をより判別し易くする手段を利用したことを特徴とする。
【0017】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置はろ過分離を利用することで体液中に存在する微生物と微生物以外とを区別化し、微生物を回収できるようにしたことを特徴とする。
【0018】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、上記課題解決を達成するために、体液中に存在する細胞ならびにその他成分を0.2μm以下にして、微粒子と微生物を区別化することで0.2μm以上の微生物を回収することを特徴とする。
【0019】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、含まれる微生物を高感度に検出するため染色手段を利用することで、色で判別が可能となり、安定した検出することを特徴とする。
【0020】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、染色試薬を蛍光試薬とすることでより高感度に検出することができることを特徴とする。
【0021】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、赤色に励起する励起光ならびに赤色蛍光を発する蛍光試薬を除いた染色試薬を利用することで体液検体が血液検体の場合、血液の色に影響を受け難く、感度の向上が可能となることを特徴とする。
【0022】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、体液検体が白血球検体の場合、白血球細胞中に混在する微生物を回収、検出する手段であり、白血球細胞を特異的に溶解することで白血球細胞中に取り込まれた微生物を検出することを特徴とする。
【0023】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、白血球細胞中の微生物区別化をフィルタで行うことで、簡便かつ、白血球細胞由来の微生物を特異的に検出することが可能となることを特徴とする。
【0024】
本発明の微生物検出方法ならびに検出装置は、フィルタで区別化した微生物をフィルタ上で検出することでより簡便に、かつ迅速に検出することが可能となることを特徴とする。
【0025】
本発明の微生物検出装置は、前記血液中の微生物検出方法を利用し、区別化した微生物を、形状、発色、発光、代謝、輝度、大きさ、細胞壁成分の情報の内、少なくとも一種の情報を認識することで高感度に微生物を検出することができる装置であることを特徴とする。
【0026】
本発明の微生物検出装置は、形状、発色、発光、代謝、輝度、大きさ、細胞壁成分の情報の内、少なくとも一種の情報を蛍光とすることで高感度に微生物を検出することができる装置であることを特徴とする。
【0027】
本発明の微生物検出装置は、ろ過回収を行い、回収した微生物の形状、発色、発光、代謝、輝度、大きさ、細胞壁成分の情報の内、少なくとも一種の情報を認識することで簡便、迅速、かつ直接的に微生物を検出することができる装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、体液中に存在する細胞ならびにその他成分を含む検体において、これら成分を脱イオン剤、界面活性剤、酵素のいずれか、若しくは複数種を組み合わせることで体液中に存在する微生物以外の成分を細分化し、微生物と区別化することで微生物を回収でき、それを検出することで計測精度が高く、再現性のある安定した微生物検出が可能となる、体液中の微生物回収方法、検出方法ならびに検出装置を提供できる。
【0029】
また、蛍光染色法を用いることで、高感度化が可能となるため、より微生物とその他微生物以外の物質との区別が容易になり、高精度でバラツキが少ない測定結果を得ることができる、体液中に存在する細胞ならびにその他成分を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の請求項1記載の発明は、体液中に含まれる細胞ならびにその他成分を微細化することで、微生物以外の成分の大きさを微生物以下にまで下げることで、微生物と体液中に含まれる微生物以外の成分を区別化できるため、体液中の微生物回収ができるという作用を有する。
【0031】
また、請求項2記載の発明は、体液中に存在する細胞の膜剛性を取り除くため、細胞膜あるいは細胞膜を構成するタンパク質よりイオンを除去する手段を利用することで細胞膜を軟化させ、細胞膜の溶解を促進し、分解を加速させることができるため、迅速かつ高精度な分離および回収が可能という作用を有する。
【0032】
また、請求項3記載の発明は、イオンを除去する手段をキレート剤とすることで高い性能で脱イオン処理が可能となり、反応させやすいという作用を有する。
【0033】
また、請求項4記載の発明は、体液中に存在する細胞を加熱、超音波処理などで微細化することで断片化することで細胞膜を除去することができるため、高精度な分離および回収が可能という作用を有する。
【0034】
また、請求項5記載の発明は、体液中に存在する微生物以外の成分を微細化するために界面活性剤を添加することで細胞膜を溶解し、検体中に含まれる微生物以外の成分を区別化することができるため、高精度な分離および回収が可能という作用を有する。
【0035】
また、請求項6記載の発明は、界面活性剤をアミド系非イオン性界面活性剤とすることで、効率の高い分解性能を有し、また、分解成分を混合した際、他分解成分への影響を低減化することができるため、高精度な分離および回収が可能であるという作用を有する。
【0036】
また、請求項7記載の発明は、体液中に存在する微生物以外の成分を溶解するための酵素を添加することで細胞内外に存在するタンパク質、脂質などを分解し、ろ過性の向上を図ることができるため、高精度な分離および回収が可能という作用を有する。
【0037】
また、請求項8記載の発明は、酵素をタンパク質分解酵素とすることで細胞内外に存在するタンパク質を効率よく分解し、ろ過性の向上を図ることができるため、高精度な分離および回収が可能という作用を有する。
【0038】
また、請求項9記載の発明は、脱イオン手段、界面活性剤と分解酵素の少なくとも二種類を組み合わせて用いることで相乗効果が得られ、検体の分解を加速化することができるため、高精度な分離および回収が可能という作用を有する。
【0039】
また、請求項10記載の発明は、区別化処理後の検体の粘性を下げ、ろ過性を向上するため、水、イオン系界面活性剤など、微細化処理後の検体に比べ粘性の低い液体を添加することで粘性が低下するため、ろ過性を向上させることが可能となり、簡便化でき、再現性が得やすくなるという作用を有する。
【0040】
また、請求項11記載の発明は、微細化処理後、大きな断片を除去するため、断片と微生物の大きさの違いを利用し、これらを前ろ過する前ろ過手段を利用することで、溶解し切らずに残存している断片などを物理的に除去し、判別をし易くすることができるため、高感度な検出が可能となる作用を有する。
【0041】
また、請求項12記載の発明は、前記区別化手段の一つとして、微細化した体液成分中に含まれる微生物と微生物以外とを、ろ過手段を利用することで通過性の違いを利用し、分離することで区別化できるため、高精度な分離および回収ができ、再現性が得やすくなるという作用を有する。
【0042】
また、請求項13記載の発明は、0.2μm以下に微細化することで体液成分中に含まれる微生物と微生物以外の大きさを区別化することで多くの微生物の大きさが含まれる0.2μm以下のものを除去することができるため、微生物を特異的に認識することができるため、高精度な分離および回収ができ、再現性が得やすくなるという作用を有する。
【0043】
また、請求項14記載の発明は、血液中に存在する微生物以外の成分を溶解処理後、微生物を回収し、それを染色することで微生物と微生物以外を目視で区別化をし易くすることができるため、高感度な検出が可能となる作用を有する。
【0044】
また、請求項15記載の発明は、染色試薬を蛍光試薬とすることで発光を確認できるため、より高感度な検出方法が可能となる作用を有する。
【0045】
また、請求項16記載の発明は、体液検体が血液検体の場合、赤色蛍光ならびに赤色蛍光を誘導する励起光に感受性のある染色試薬を除くことで、血液の色に近い発光、染色の影響を低減化し、目視での区別化をし易くできるため、より安定した検出が可能となる作用を有する。
【0046】
また、請求項17記載の発明は、体液検体が白血球検体の場合、白血球細胞中に存在する微生物を回収、検出する手段において、白血球細胞中に含まれる微生物を回収し、計測することで、白血球細胞中に存在していた微生物の検出が可能となることから、精度の高い計測が可能となる作用を有する。
【0047】
また、請求項18記載の発明は、白血球細胞中に存在する微生物の回収をメンブレンフィルタ上で行うことで、操作が簡便になり、また、溶解前後の状況を観察することで白血球細胞由来の微生物を特異的に回収することが可能となることから、精度の高く、再現性を得ることが可能という作用を有する。
【0048】
また、請求項19記載の発明は、白血球細胞中から回収した微生物をメンブレンフィルタ上で検出することで、より操作が簡便になり、より直接的な検出が可能となるため、高精度で再現性を得ることが可能という作用を有する。
【0049】
また、請求項20記載の発明は、回収した体液中に存在する微生物の形状、色、輝度、代謝状態、大きさ、細胞壁成分などの情報の少なくとも一種類の情報を認識する装置を提供することで、簡便、迅速な検出が可能となり、安定した計測をすることが可能となる作用を有する。
【0050】
また、請求項21記載の発明は、回収した体液中に存在する微生物の形状、色、輝度、代謝状態、大きさ、細胞壁成分などの情報を蛍光とすることで高感度な計測が可能となる作用を有する。
【0051】
また、請求項22記載の発明は、ろ過回収後、回収した体液中に存在する微生物の形状、色、輝度、代謝状態、大きさ、細胞壁成分などの情報の内、少なくとも一種の情報を認識することで、フィルタ上で微生物を検出することができることから、簡便、迅速、高感度な計測が可能となる作用を有する。
【0052】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0053】
(実施の形態1)
体液中に微生物が含まれた場合、これらが健康障害を引き起こす要因となり得る。中でも体液検体が血液検体の場合、慢性的に影響する場合が考えられるため、迅速かつ簡便なチェックが必要である。また、血液中に含まれる微生物を常時、連続モニタリングすることは健康障害の予防や輸血用の血液の安全性を監視することに繋がるものと期待される。しかしながら、血液中に含まれる細胞、ならびにその他成分と微生物とは構成が類似しており、これらを遠心分離で完全に分離することは難しく、また、血液中に含まれる細胞ならびにその他成分を希釈して用いた場合、検出感度の低下が懸念される。また、培養法での微生物検出では時間が掛かることや、培養が難しい菌が存在する場合検出できないなどの欠点があり、検査が長期間に渡った場合など、検査対象者に対し、大きな負担が生じる。そのため、迅速、高感度かつ、簡便な検出手段の開発が期待されている。例えば、血液中に含まれる細胞の細胞膜と微生物の細胞膜あるいは細胞壁との溶解性の違いを利用し、血液中に含まれる細胞ならびにその他成分を微細化し、ろ過による除去を実施し、残存した微生物をメンブレンフィルタ上に捕集し、回収するものである。
【0054】
細胞膜の軟化には、その剛性に関わっている金属イオンやタンパク質のフォールディングを形成する金属イオンを除去する脱イオン手段として脱イオン剤などがある。脱イオン剤として考えられる例として、キレート剤が挙げられる。具体的には、エチレンジアミン四酢酸二水素ナトリウム溶液、ヘキサメタリン酸などが適している。また、バッファーのイオン調整や加熱なども膜の軟化に有効な手段として考えられる。このように脱イオン化された細胞ではあるが、状態により、細胞を溶解し得るには至らない場合も考えられる。そこで、界面活性剤により、菌体の脂質二重膜が溶解され、細胞を破壊する作用により、血液中に含まれる細胞ならびにその他成分を溶解、あるいは断片化させ、血液中に含まれる細胞ならびにその他成分を除去するものである。界面活性剤によって、溶解された細胞膜は細分化されているため、ろ過回収などが容易となる。界面活性剤の種類は陰・陽イオン性界面活性剤なども効果を示すが、濃度によっては微生物への影響も懸念される。また、その他細胞細分化手段に対し、影響を与える場合も考えられる。一方、アミド系非イオン性界面活性剤では、微生物への影響が低減化され、より安定した分離・計測に繋がるものと考えられる。また、血液中に含まれる細胞ならびにその他成分を溶解するために酵素の利用が考えられる。酵素の種類としては、プロテアーゼ、トリプシン、パパインなどのタンパク質分解酵素、リパーゼなどの脂質分解酵素が適している。また、これらは複合して使用することも可能である。複合することでそれぞれの効果を発揮することができる。また、これらの酵素を利用する場合は、相互作用なども考えられるため、単独での使用も効果を高める手段に繋がる。また、脱イオン剤、界面活性剤と併用することで、相乗効果を得ることができ、より高い分解効率や分解速度を得るものである。この際、脱イオン剤、界面活性剤は、酵素に影響を与えない物質や条件で使用する必要がある。具体的な順序としては、脱イオン剤処理により膜剛性を低減化し、界面活性剤により膜を断片化させ、断片化した細胞ならびに細胞内のタンパク質、脂質などを酵素処理により除去することが相乗効果を発揮しやすく有効であるが、順序はこれには限るものではない。
【0055】
一方、微生物は細胞膜外に細胞壁を有し、その主成分がβ−グルカン、糖鎖など、脱イオン剤、界面活性剤、酵素などに影響を受け難いものであり、前述の処理に対し、血液中に含まれる細胞ならびにその他成分と微生物の区別化が可能となる。
【0056】
これら微細化処理を経た血液中に含まれる細胞ならびにその他成分はろ過により回収することが手段の一つとして考えられる。ろ過にはメンブレンフィルタなどが有効である。ろ過は0.2μmから0.8μmなど一般的に微生物回収手段に利用されるものが望ましい。ろ過により、膜上に回収した微生物はそのまま顕微鏡観察も可能であるが、より高い感度での検出をする場合は、蛍光染色、着色などの手段も有効である。
【0057】
この場合で表す、血液成分中に含まれる微生物と微生物以外とは、前者が黄色ブドウ球菌、セラチア、緑膿菌、エルシニア、カンジダなど直接感染源となり得る微生物に限らず、枯草菌、大腸菌、酵母、糸状菌など血液自体の劣化に繋がる菌も含む。
【0058】
また、グラム陰性、陽性の区別によるものではない。
【0059】
また、後者の微生物以外の成分とは、赤血球、血小板、白血球などの血液成分や血漿、イオン、水など血液を構成する成分も含み、これらの濃度に影響されるものではない。また、前記記載の体液とは全血、部分血、濃縮血、リンパ液、髄液、骨髄、精液などの生体由来の体液を含む。
【0060】
また、膜剛性とは、細胞膜の形状維持状態の強さを意味する。
【0061】
また、前ろ過とは、メンブレンフィルタ上に微生物を捕集する操作の前に行うろ過を指し、プレフィルタとして利用するものである。前ろ過手段としては、プレフィルタなどがある。
【0062】
また、微細化とは、検体を断片化することを示すだけでなく、溶解も含む。
【0063】
(実施例1)
以下、本発明の実施例について説明する。
【0064】
血液成分中の微生物と微生物以外とを区別化する区別化手段として、血液成分中の微生物以外の成分を微細化させる微細化手段が挙げられる。試験管に血液中に存在する細胞の膜剛性を低下させるために脱イオン剤0.1mlを添加し、その上から検体0.1mlを添加する。脱イオン手段としてキレート剤が挙げられるが具体的には、エチレンジアミン四酢酸二水素ナトリウム溶液、ヘキサメタリン酸などが適している。添加後、ボルテックスミキサー、振とう、ピペッティングなどを利用し、十分に攪拌する。攪拌後、血液成分中の微生物以外の成分を微細化する微細化手段として、0.5mlの界面活性剤を添加し、さらに十分に混合するまで攪拌する。界面活性剤は、菌体の脂質二重膜を溶解し、細胞を破壊する作用を有する。界面活性剤には、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤やツイーン80やトライトンX−100、アミド系非イオン性界面活性剤などの非イオン性界面活性剤など、グアニジンチオシアネートのようなカチオン性界面活性剤が有効である。攪拌後、含まれるタンパク質や脂質成分を除去するためにタンパク質分解酵素を1.0ml添加し、揺らぎがなくなるまで攪拌する。酵素は、血液成分の残存状態により調整し、タンパク質分解酵素、脂質分解酵素などが有効である。攪拌後、酵素活性を維持するためにウォーターバス、恒温槽、ヒートブロックなど加熱温度を維持できる装置を利用し、インキュベートする。温度は50℃で保持するが、酵素の至適温度に合わせることで分解を促進できる。15分後、回収し、大きな断片や操作途中で混入したごみ成分などをプレフィルタで前ろ過する。回収する際、溶解液の粘性が高く、ろ過に時間が掛かる場合があるが、粘性低下手段として、蒸留水、適した界面活性剤などを混合し、粘性を低下させることでろ過性を向上することも有効である。この場合、適した界面活性剤とは事前に添加しておいた脱イオン剤、界面活性剤、酵素などに影響を及ぼさないものである。この際、蒸留水や適した界面活性剤などの粘性は溶解液よりも低いものを使用する必要がある。プレフィルタには8μm径のものを利用し、分解しきらない8μm以上の断片を捕集し、除去する。除去されたプレフィルタは生理食塩水で適当量洗浄し、付着した微生物を取り除く。洗浄には蒸留水や界面活性剤なども有効である。洗浄後、プレフィルタを通過した液を回収し、メンブレンフィルタ上でろ過することにより微生物を回収する。ろ過に使用するメンブレンフィルタはヌクレオポアのように通過穴をフィルタ上に直接開けた物が使用しやすいが、セルロースフィルタのように繊維を重ねて径を調整したフィルタも有効である。この際のフィルタの径は0.2μmから0.8μmのものが微生物には有効であるが、検査対象により、径を合わせたフィルタを利用することが可能である。回収後、メンブレンフィルタ上に気泡などが生じている場合は、生理食塩水や蒸留水などで洗浄する。また、アルコールや消泡剤などで洗浄すると泡の除去が早い。洗浄後、フィルタ上に直接、染色試薬を滴下し、染色する。染色された微生物を、検出手段として顕微鏡観察などを用いて観察し、血液成分中の微生物汚染度を確認するものである。染色試薬は感度を向上するために蛍光試薬を使用することも有効である。蛍光試薬を使用の際、染色後、検出する際の色が赤色の場合、赤血球の色と類似しており、取得画像のバックグランドが上昇する場合がある。また、蛍光試薬の場合、感度が高いため、励起光を備えた自動計測装置での検出が可能となる。自動計測装置にはLEDを光源とした励起光やメンブレンフィルタを定置させるステージなどを備えることでより安定した検出ができる。計測の対象として、微生物の形状、発色、発光、代謝、輝度、大きさ、細胞壁成分などが挙げられる。具体的には、形状の場合、細菌特有の桿菌、球菌、分裂直後の繋がり、塊などである。発色の場合、メチレンブルー染色やグラム染色など細胞膜を染色する試薬による発色が挙げられる。発光の場合、核酸染色試薬、代謝、呼吸活性、栄養素取り込み活性、ルシフェラーゼ活性などを指標とする手段であり、一定の条件下の元、蛍光を発するものである。代謝の場合、エステラーゼなど細胞内酵素活性が挙げられる。輝度の場合、微生物と微生物以外が示す発光強度の違いを利用したものである。大きさの場合、微生物が0.5μmから5.0μm程度のものが主を占めるのに対し、生物ではない物質や、血液中に含まれる細胞の大きさは数十μmの場合が多く、区別化しやすい。細胞壁成分の検出としては、カブトガニ血液成分を利用したバクテリア由来細胞壁成分であるβ―グルカンを検出する手段などが挙げられる。
【0065】
血液中の微生物回収方法および微生物検出方法を好適に実施するための微生物検出装置の一態様を示す概念図を図1に示す。
【0066】
微生物検出装置で計測した画像を図2に示した。また、添加菌数の変化に対する微生物検出装置による計測値の変化について図3に示した。
【0067】
図1に示すように、上記前処理手段で、区別化され、メンブレンフィルタ2上に回収された微生物は染色後、微生物検出装置1の中の検査台6に設置される。設置後、計測を開始すると光源3より励起光が照射される。照射された励起光は励起光分光フィルタ4を経て特定の波長に制限される。励起光はダイクロイックミラー7を経て下方向へ移動、レンズ5を経てメンブレンフィルタ2の特定領域に照射される。この場合の特定領域とは観察領域を指す。発光した微生物はレンズ5を経てダイクロイックミラー7を垂直に通過し、蛍光分光フィルタ8を経て光電変換素子9で変換され、CCD11に取り込まれる。CCD11に取り込まれた画像は画像処理の後、PC上で解析されるものである。解析された微生物添加濃縮赤血球の計測画像を図2に示した。
【0068】
微生物を添加していない濃縮赤血球Aでは微生物が検出されなかったのに対し、添加した濃縮赤血球Bでは添加した微生物が検出された。添加した微生物は黄色ブドウ球菌を使用した。また、図3に血液中に添加した微生物数を変化させた際の微生物検出装置による菌数計測結果と培養法による菌数計測結果の比較を示した。その結果、添加した微生物数の変化に伴い検出された微生物の増減が確認され、相関性が確認された。相関係数はr=0.96であった。
【0069】
なお、脱イオン剤、界面活性剤、酵素は、全て、あるいは一部混合して用いることも可能である。
【0070】
なお、本作業時に使用する脱イオン剤、界面活性剤、酵素は前もって加熱しておくことも反応を促進する。加熱温度は酵素の至適温度が望ましい。
【0071】
なお、界面活性剤を添加した時点で加熱することでより安定した分解が可能となる。加熱温度は酵素の至適温度が望ましい。
【0072】
なお、酵素処理時間は、長時間の処理になると微生物自体に影響を及ぼす可能性も考えられるため、15から30分程度が望ましい。
【0073】
なお、プレフィルタの径は微生物を捕捉しない径のものが望まれる。対象の微生物にもよるが、具体的には5μmから10μm程度のものが望ましい。
【0074】
なお、洗浄用の界面活性剤は血液中に含まれる細胞ならびにその他成分を溶解する界面活性剤に相互作用を示さないものが望ましい。具体的にはツイーン80、ツイーン20、トライトンX−100などが挙げられる。
【0075】
なお、ろ過する手段を利用しない場合は、フローサイトメトリなど染色した微生物検体をそのまま通過させ、区別する手段も可能である。
【0076】
なお、ろ過する手段を利用しない場合は、石英セルなどを利用し、総発光輝度の相違を利用し区別化する手段も可能である。
【0077】
なお、蛍光試薬は、菌が溶解手段で死滅している場合、死細胞を染色する試薬などを利用することも可能である。
【0078】
なお、蛍光試薬はインターカレーターが有効であるが、菌が死滅していない場合、代謝をモニタリングすることができるカルボキシフルオレセイン系の試薬や、呼吸活性をモニタリングできるCTC系の試薬なども有効である。
【0079】
なお、染色手段を菌の種類を特異的に染色させる手段を利用することで特定菌検出手段として利用することも可能である。
【0080】
なお、液体培養を併用し、微生物を増菌させた後、前記手段で回収、検出することでより感度が高い検出が可能となる。その際、微生物をメンブレンフィルタなどで回収・濃縮することで従来の培養法に比べ、短時間に検出が可能となる効果がある。ただし、この際、微生物は液体培地中を移動できるため、個数をカウントできるものではない。
【0081】
なお、微生物を回収後、メンブレンフィルタ2上で培養し、コロニーを形成させ、その数を数えることができる。
【0082】
(実施例2)
白血球細胞内に含まれる微生物を検出するために、白血球細胞を回収後、メンブレンフィルタ2でろ過し、メンブレンフィルタ2上に白血球細胞を保持させる。保持後、メンブレンフィルタ2上で細胞を溶解させ、その中に含まれる微生物を回収するため、メンブレンフィルタ2上に直接、脱イオン剤、界面活性剤、酵素を順次滴下する。滴下後、ウォーターバス、恒温槽、ヒートブロックなど加熱温度を維持できる装置を利用し、15分程度インキュベートする。温度は50℃で保持する。インキュベート後、ろ過し、溶解した細胞ならびに反応液を除去する。除去後、蛍光試薬を滴下し、染色する。染色した微生物を、蛍光顕微鏡などを利用して観察し、その微生物汚染を判断する。顕微鏡観察を利用しない場合、蛍光試薬を利用し染色した微生物を、励起光を備えた自動計測装置で検出する。自動計測装置にはLEDを光源3とした励起光やメンブレンフィルタ2を定置させるステージなどを備えることでより安定した検出ができる。
【0083】
なお、反応液がメンブレンフィルタ2上に一定量保持されるようにするために、フィルタ2上に反応液を保つことができる筒などの手段を利用することも有効である。この場合、筒は、メンブレンフィルタ2上に設置され、その周辺から漏れることを防止したものが必要である。具体的には、テーパーやスクリュー式ではめ込むことが可能な構造であること、あるいは、ゴムパッキンなどを利用するなどである。
【0084】
なお、脱イオン剤、界面活性剤、酵素は、全て、あるいは一部混合して用いることも可能である。
【0085】
なお、本作業時に使用する脱イオン剤、界面活性剤、酵素は前もって加熱しておくことも反応を促進する。加熱温度は酵素の至適温度が望ましい。
【0086】
なお、界面活性剤を添加した時点で加熱することでより安定した分解が可能となる。加熱温度は酵素の至適温度が望ましい。
【0087】
なお、加熱は細胞を保持させた場所のみでも可能である。この場合、メンブレンフィルタ2のみを加熱するものである。メンブレンフィルタ2の加熱は表面、全体、裏面のいずれか一つで可能である。
【0088】
なお、酵素処理時間は、15から30分程度が望ましい。これ以上になると微生物自体に影響を及ぼす可能性も考えられる。
【0089】
なお、白血球細胞溶解前に事前に白血球を観察し、その位置を特定することでどの白血球に微生物が存在していたかを把握することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の血液中に含まれる微生物を回収、検出する方法ならびに装置を用いることで、血液中の微生物を迅速、高感度かつ、簡便に確認・計測することが可能となる。微生物の血液中への汚染の高感度検査は、人体への微生物感染の判断を早め、また、汚染血液の排除ならびに選択が可能となり、早期対策に繋がる。現状、分離、濃縮技術は培養を併用するものが主体であるため、時間が掛かるが、本方法を利用することで血液中に微生物が混在した場合の、微生物回収方法ならびに検出方法としては非常に有効な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施例1の血液中の微生物回収方法および微生物検出方法を好適に実施するための微生物検出装置の一態様を示す概念図
【図2】同、微生物添加濃縮赤血球の計測画像を示す図
【図3】同、血液中に添加した微生物数を変化させた際の、微生物検出装置による血液中の計測菌数と培養法による計測菌数の比較グラフ
【符号の説明】
【0092】
1 微生物検出装置
2 メンブレンフィルタ
3 光源
4 励起光分光フィルタ
5 レンズ
6 検査台
7 ダイクロイックミラー
8 蛍光分光フィルタ
9 光電変換素子
10 受光部
11 CCD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体である体液中に存在する微生物を検出する方法において、体液中に含まれる微生物と微生物以外の成分との溶解性の違いを利用し、区別化を行うことを特徴とする微生物検出方法。
【請求項2】
検体に含まれる微生物以外の成分に対し、脱イオン化を行うことを特徴とする請求項1記載の微生物検出方法。
【請求項3】
脱イオン化をキレート剤を用いて行うことを特徴とする請求項2記載の微生物検出方法。
【請求項4】
検体中に含まれる微生物以外の成分に対し、微細化を行う請求項1乃至3いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項5】
微細化を界面活性剤を用いて行う請求項4記載の微生物検出方法。
【請求項6】
界面活性剤をアミド系非イオン性界面活性剤とした請求項5記載の微生物検出方法。
【請求項7】
検体に含まれる微生物以外の成分を溶解するための酵素を添加した請求項1乃至6いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項8】
酵素をタンパク質分解酵素とした請求項7記載の微生物検出方法。
【請求項9】
区別化を脱イオン、微細化、酵素添加の少なくとも二種類を行う請求項1乃至8いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項10】
区別化を行った検体の粘性を下げることを行う請求項1乃至9いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項11】
区別化を行った後、前ろ過する請求項1乃至10いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項12】
区別化をろ過分離手段として微生物を回収する請求項1乃至11いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項13】
検体に含まれる微生物以外の成分を0.2μm以下にする請求項1乃至12いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項14】
検体中の微生物以外の成分を区別化後、染色試薬を利用して微生物を染色する請求項1乃至13記載の微生物検出方法。
【請求項15】
染色手段を蛍光試薬とした請求項14記載の微生物検出方法。
【請求項16】
染色手段を赤色蛍光を発する蛍光試薬および着色試薬を除いた染色試薬とした請求項15記載の微生物検出方法。
【請求項17】
白血球細胞中に存在する微生物の検出において、白血球細胞を溶解後、白血球細胞内に存在する微生物を回収し、検出する請求項1乃至16のいずれか記載の微生物検出方法。
【請求項18】
白血球細胞をフィルタ上で溶解し、微生物を回収する請求項1乃至17いずれか記載の微生物検出方法。
【請求項19】
回収した微生物をフィルタ上で検出する請求項17または18記載の微生物検出方法。
【請求項20】
請求項1乃至11記載の区別化を行い、区別化した微生物の形状、発色、発光、代謝、輝度、大きさ、細胞壁成分の情報の内、少なくとも一種の情報を認識する微生物検出装置。
【請求項21】
請求項20記載の情報を蛍光染色とした微生物検出装置。
【請求項22】
請求項12乃至19について区別化をろ過で行い、ろ過した微生物の形状、発色、発光、代謝、輝度、大きさ、細胞壁成分の情報の内、少なくとも一種の情報を認識する微生物検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−14239(P2007−14239A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197161(P2005−197161)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】