説明

微生物検出用培地

【課題】微生物の発育抑制がなく、微生物を色原体化合物の発色団部分に依存した発色コロニーとして検出できる微生物検出用培地及び微生物の検出方法の提供。
【解決手段】(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物並びに(B)ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン縮合物から選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤を含有する微生物検出用培地、並びにこれに被検試料を接種して培養することを特徴とする微生物の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品や環境中の微生物汚染を正確に検出するための微生物検出用培地及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水、飲料、食品等や環境中の微生物の生菌数の検出は、当該飲食品等の汚染を正確に検出し、無菌性を保障するうえで極めて重要である。
生菌数は標準寒天培地などの非選択培地にて発育した全ての微生物数を示す。一般に、生菌数測定には、トリプトソイ寒天培地や標準寒天培地が用いられ、真菌数測定にはポテトデキストロース寒天培地やサブロー寒天培地が用いられる。
【0003】
一方、従属栄養細菌とは有機栄養物を比較的低濃度に含む培地を用いて低温で長時間培養したとき、培地に集落を形成するすべての菌をいう。本来水中には、自然の水環境を生息場所としている多数の細菌が存在し、これらは有機炭素濃度が数mg/L以下といった低栄養環境下で生息しているため、それらの環境に適応して微量の有機物を利用できる能力を獲得している。従って、このような従属栄養細菌は、一般細菌試験で用いられる標準寒天培地のような高濃度の有機栄養を含む培地では増殖できないか、あるいは増殖できたとしても集落を形成するほど増殖できないものが多い(非特許文献1参照)。
従属栄養細菌を検出する培地としては、R2A培地やPGY培地が用いられているが、実際の培養は、混釈培養または寒天平板を作成しその上にメンブレンフィルターを乗せた上で行なうが、この調製は非常に煩雑である。
そこで、メッシュを有する繊維状吸水シートに担持させた構造を利用することにより、被検液を滴下するだけで培養できる方法が見出された(特許文献1参照)。
【0004】
一方、非選択培地においてコロニーの鑑別を容易にするためにトリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)のような酸化還元指示薬を単独で用いると、菌が発色コロニーとして発育する。
しかしTTCでは一部発色しないコロニーが出現する。
【特許文献1】特開2000−325072号公報
【非特許文献1】日本水道協会、「上水試験方法2001年度版」、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、微生物の発育抑制がなく、微生物を色原体化合物の発色団部分に依存した発色コロニーとして検出できる微生物検出用培地及び微生物の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる実情に鑑み本発明者は、TTCの代替として色原体化合物である、エステラーゼの基質となる5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-3-アセテートや5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-3-アセテート等の発色酵素基質を用いれば微生物を色原体化合物の発色団部分に依存した発色コロニーとして検出できることを見いだした。
しかし、これら色原体化合物を単独で加えると主にグラム陽性菌の発育抑制が認められた。
そこでさらに鋭意研究を重ねた結果、特定の非イオン性界面活性剤を色原体化合物と併用することにより、微生物の発育抑制がなく、より多くの微生物を色原体化合物の発色部分に依存した発色コロニーとして検出できること見出し本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物並びに(B)ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン縮合物から選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤を含有する微生物検出用培地を提供するものである。
また、本発明は、(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物並びに(B)ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン縮合物から選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤を含有する培地に被検試料を接種して培養することを特徴とする微生物の検出方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エステラーゼの基質となる色原体化合物による微生物の発育の抑制がなく、微生物を色原体化合物の発色団部分に依存した発色コロニーとして検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、(B)ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン縮合物から選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤は、エステラーゼの基質となる色原体化合物による微生物の発育の抑制を防止する。本発明に用いられるポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンマンニタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸部分は炭素数8〜24の脂肪酸が好ましい。このうち、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80の名でAtlas Powder社から市販されている)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Tween60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(Tween40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、オキシアルキレンがオキシエチレン又はオキシプロピレンであるものが好ましく、アルキル部分は、炭素数8〜24のアルキル基が好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられる。ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン縮合物としては、たとえば、プルロニックの商品名で市販されているものが好ましい。
上記非イオン性界面活性剤の培地中の使用時の濃度は0.01〜10g/Lが好ましく、さらに0.05〜5.0g/L、よりさらに0.1〜1.0g/Lが好ましい。
【0010】
本発明に用いる(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物としては、特に限定されないがオキシインドール誘導体、ハロゲン化オキシインドール誘導体が好ましく、例えば、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-3-アセテート、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-3-アセテート(マゼンタ-3-アセテート)、3-インドキシル-3-アセテート、6-クロロ-3-インドキシル-3-アセテート、5-ヨード-3-インドキシル-3-アセテート、N-メチルインドキシル-3-アセテート、4-メチルウンベリフェリルアセテート等が挙げられる。(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物の培地中の使用時の濃度は、0.01〜1.0g/Lが好ましく、さらに0.05〜0.5g/L、よりさらに0.05〜0.3g/Lが好ましい。
【0011】
本発明の培地の形態も特に限定されず、従来の寒天培地であってもよい。
一般的に生菌数測定に用いられている培地としては、トリプトソイ寒天培地や標準寒天培地が用いられており、真菌数測定にはポテトデキストロース寒天培地やサブロー寒天培地が挙げられるが本発明でもこれらの培地を使用することができる。また、従属栄養細菌を検出する培地としてはR2A培地やPGY培地を使用することができるが、実際には混釈培養又は寒天平板を作製し、その上にメンブレンフィルターを培地に密着させなくてはならず、操作が煩雑である。
そこで、メッシュを有する繊維状吸水シート担持されたもの(例えば、特開2000−325072号公報記載のもの)等の簡易培地を用いれば、被検液を滴下するだけで培養でき、便利である。
【0012】
本発明の培地にはさらに、これらの非選択培地に各種微生物に対する選択剤を適宜加えることにより発育したコロニーを発色コロニーとして検出できる特定微生物に対する選択培地として使用可能である。
各特定微生物に対する選択剤を以下に示す。
【0013】
[大腸菌群]
コール酸ナトリウム
デオキシコール酸ナトリウム
SDS
クリスタルバイオレット
その他、目的菌以外の菌を区別(排除)するための、目的菌が特異的に利用する発色酵素基質または糖およびpH指示薬、色素、抗生物質
【0014】
[S.aureus(黄色ブドウ球菌) ]
EDTA・2Na
塩化リチウム、硫酸リチウム
Deferoxamine
コリスチン硫酸塩(抗生物質)
アズトレオナム(抗生物質)
亜テルル酸カリウム
食塩
グリシン
卵黄
その他、目的菌以外の菌を区別(排除)するための、目的菌が特異的に利用する発色酵素基質または糖およびpH指示薬、色素、抗生物質
【0015】
[セレウス菌(Bacillus cereus)]
ポリミキシンB(抗生物質)
グリシン
卵黄
その他、目的菌以外の菌を区別(排除)するための、目的菌が特異的に利用する発色酵素基質または糖およびpH指示薬、色素、抗生物質
【0016】
[腸球菌]
アジ化ナトリウム
胆汁酸塩
ゲンタマイシン
酢酸タリウム
ナリジクス酸
クエン酸ナトリウム
プロタミン硫酸塩
その他、目的菌以外の菌を区別(排除)するための、目的菌が特異的に利用する発色酵素基質または糖およびpH指示薬、色素、抗生物質
【0017】
[ビブリオ]
白糖
チオ硫酸ナトリウム
クエン酸ナトリウム
クエン酸鉄
コール酸ナトリウム
胆汁末
食塩
ポリミキシンB
SDS
その他、目的菌以外の菌を区別(排除)するための、目的菌が特異的に利用する発色酵素基質または糖およびpH指示薬、色素、抗生物質
【0018】
[サルモネラ]
マラカイトグリーン
塩化マグネシウム
胆汁酸塩
ブリリアントグリーン
チオ硫酸ナトリウム
クエン酸ナトリウム
クエン酸鉄
L-リジン塩酸塩
Tergitol 4
スルファピリジン(抗生物質)
ノボビオシン(抗生物質)
その他、目的菌以外の菌を区別(排除)するための、目的菌が特異的に利用する発色酵素基質または糖およびpH指示薬、色素、抗生物質
【0019】
本発明培地を用いて、被検体中の微生物を検出するには、当該培地に検体を添加して25〜37℃、24〜48時間培養した後に、コロニーの着色を肉眼観察すればよい。
【実施例】
【0020】
以下の実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
培地の作製
表1に示した、トリプトソイ寒天(TSA)、標準寒天培地(SPC)、R2A寒天培地のそれぞれ1リットル使用量を1リットルの精製水に加え、121℃、15分間加温溶解する。溶解後培地が冷めたことを確認し、一方にはろ過滅菌した5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-3-アセテート(X−acetate)のみを0.1g/Lになるように加え良く撹拌した後、プラスチックシャーレ(90φmm)に20mlずつ分注して培地が固まるまで静置した。
一方、トリプトソイ寒天(TSA)、標準寒天培地(SPC)、R2A寒天培地のそれぞれ1リットル使用量およびポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)を0.5g/Lを1リットルの精製水に加え、121℃、15分間加温溶解する。溶解後培地が冷めたことを確認し、ろ過滅菌した5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-3-アセテートのみを0.1g /Lになるように加え良く撹拌した後、プラスチックシャーレ(90φmm)に20mlずつ分注して培地が固まるまで静置し本発明の微生物検出用培地を作製した。
【0021】
菌株の供試、培養
供試菌株はトリプトソイブイヨンで24時間前培養したものを用い、これを生理食塩水で希釈し、ミクロプランターを用いて供試し、25℃、2日間培養した。結果を表2、3に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
ミクロプランターを用いて各菌株を供試し、25℃、2日間培養したところ、エステラーゼの基質となる発色剤を添加しない本発明培地上(非選択培地)では全ての菌株は無色のコロニーを形成した(1)。またそれぞれの培地に発色剤単独で加えるとほとんどのグラム陽性菌は発育が阻害され、Tween80と併用することにより全ての菌株が青色の発色コロニーを形成した。
【0025】
【表3】

【0026】
ミクロプランターを用いて各菌株を供試し、25℃、2日間培養したところ、エステラーゼの基質となる発色剤を添加しない本発明培地上(非選択培地)では全ての菌株は無色のコロニーを形成した(1)。またそれぞれの培地に発色剤単独で加えるとほとんどのグラム陽性菌は発育が阻害され(2)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル又はポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン縮合物と併用することにより多くの菌株を青色の発色コロニー形成することを示している(3)〜(5)、(12)、(14)。一方、イオン性界面活性剤(8)〜(11)や非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(6)は発育の阻害が抑制されていないことが判る。
【0027】
実施例2
R2A培地組成をメッシュを有する繊維状吸水シートに担持させた構造(特開2000−325072号公報の実施例、段落「00025」)を利用した簡易培地に適用した場合のコロニーの性状及び発育菌数を観察した。培養条件は、25℃、5日間とした。
【0028】
【表4】

【0029】
発色剤にテトラゾリウム塩(2-3-5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド)を0.025g/L加えたものでは供試した全ての菌株は赤色コロニー、エステラーゼの基質となる発色剤5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-3-アセテート(X−acetate)0.1g/LとTween80 0.5g/Lとを併用したものでは全ての菌株は青色コロニーとして検出することができた。発色剤を加えないものでは一部の色素産生性の菌株(表4中の下の3株)でのみ赤色コロニーとして検出することができた。
【0030】
実施例3
非選択培地にエステラーゼの基質となる発色剤(X−acetate)0.1g/LとTween80 0.5g/Lとを併用し、さらにブドウ球菌に対する選択剤を適宜加えることによりブドウ球菌を発色コロニーとして検出可能な選択培地(表5)とした。この培地を用いた発育動態を表6及び7に示す。培養条件は、35℃、24時間とした。
【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
上記の培地はブドウ球菌を発色コロニーとして検出可能な選択培地として使用可能であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物並びに(B)ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン縮合物から選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤を含有する微生物検出用培地。
【請求項2】
(B)非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項1記載の微生物検出用培地。
【請求項3】
(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物が、オキシインドール誘導体又はハロゲン化オキシインドール誘導体である請求項1又は2記載の微生物検出用培地。
【請求項4】
(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物並びに(B)ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン縮合物から選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤を含有する培地に被検試料を接種して培養することを特徴とする微生物の検出方法。
【請求項5】
(B)非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項4記載の微生物の検出方法。
【請求項6】
(A)エステラーゼの基質となる色原体化合物が、オキシインドール誘導体又はハロゲン化オキシインドール誘導体である請求項4又は5記載の微生物の検出方法。

【公開番号】特開2009−2(P2009−2A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160832(P2007−160832)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)
【Fターム(参考)】