説明

微生物送達システム

【課題】アレルゲンに対してアレルギーであり又はアレルギーを起こし易い患者において、アレルギー応答特にアナフィラキシー性アレルギー応答を治療し又は予防するための方法及び組成物を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、患者への微生物の投与を利用し、それらの微生物は、アレルゲンを生成し、抗原提示細胞により貪食作用を受けるまで患者がそれらのアレルゲンにさらされるのを防ぐ。特に好適な微生物は、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌及び酵母である。特に好適なアレルゲンは、食物、毒液、薬物及びゴムにおいて見出されるタンパク質であって、これらは、これらのタンパク質に対してアレルギー性の又はアレルギーを起こしやすい個人においてアレルギー応答及びアナフィラキシー性アレルギー応答を誘出する。これらのタンパク質を改変して、IgE抗体に結合して架橋する能力を減じ、それにより、T細胞媒介のTh1型免疫に影響を与えることなくアナフィラキシーを誘出する危険を減じることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー反応は、世界的に重大な公衆衛生上の問題を提出している。花粉アレルギー(アレルギー鼻炎又は枯草熱)だけで、人口の約10〜15%が影響を受け、莫大な経済的コストを生じている。例えば、報告は、1990年に米国において、180万ドルの直接的及び間接的出費を生じたと見積もっている(Fact Sheet, National Institute of Allergy and Infectious Diseases; McMenamin, Annals of Allergy 73:35, 1994)。抗原にさらされることで引き金が引かれうる喘息も又、重大な公衆衛生上の問題であり、アナフィラキシー性アレルギーと同様に、極端な場合には死に至りうる。現在、喘息は、年間数百万人が病院を訪れる原因となっており、その頻度は増加している。現在可能な唯一の治療は、症状の緩和(例えば、気道の狭窄の除去)のためのものである。花粉及び他の吸入されるアレルゲン(例えば、カビ、塵ダニ、動物の鱗屑)に関連する経済的コストよりも一層重大なのは、食物アレルゲン、昆虫毒、薬物及びラテックスなどのアレルゲンについて認められるアナフィラキシー性のアレルギー反応の危険である。
【0003】
アレルギー反応は、個体の免疫系が出会った抗原に対して過剰反応し又は不適当に反応する場合に生じる。典型的には、個体が初めて特定の抗原にさらされたときにはアレルギー反応はない。しかしながら、それは、抗原に対する初期応答であり、その後のアレルギー反応のためのシステムを準備する。特に、抗原は、抗原提示細胞(APC;例えば、マクロファージ及び樹状細胞)により取り込まれ、該細胞は、その抗原を分解してから抗原断片をT細胞に提示する。T細胞特にCD4+「ヘルパー」T細胞は、他の免疫系細胞に対する効果を有するサイトカインのコレクションを分泌することにより応答する。応答性CD4+T細胞により分泌されたサイトカインのプロフィルは、その後にその抗原にさらされたときにアレルギー反応が誘発されるか否かを決定する。2つのクラスのCD4+T細胞(Th1及びTh2)が、抗原に対して高まる免疫応答の種類に影響を及ぼす。
【0004】
Th2細胞は、様々なサイトカイン及びインターロイキン(IL−4、IL−5、IL−6、IL−10及びIL−13を含む)を分泌することができる。IL−4の一つの効果は、B細胞の成熟を刺激することであり、該細胞は、抗原に特異的なIgE抗体を生成する。アレルゲンに対するアレルギー応答は、抗原特異的なIgE抗体の生成により特徴付けられ、それらはIL−4分泌性CD4+T細胞の助成に依存している。これらの抗原特異的IgE抗体は、マスト細胞、好塩基球及び好酸球の表面のレセプターに結合し、そこにおいて、それらは、次に抗原にさらされたときに引き金として作用して、急性アレルギー反応を開始する。その個体が、その抗原に2度目に出会った場合に、その抗原は、これらの表面結合したIgE分子によって迅速に結合される。各抗原は、典型的には、1つより多くのIgE結合部位を有し、それにより、表面結合した複数のIgE分子が同時に抗原に結合する(直接又は間接的に)ことにより互いに迅速に架橋される。かかる架橋は、マスト細胞の脱顆粒を誘導し、それは、ヒスタミンその他の物質の放出を生じ、これらがアレルギー反応の引き金を引く。高レベルのIgE抗体を有する個体は、特にアレルギーの傾向があることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アレルギーの現在の治療は、特定のアレルゲンに感受性の個体に周期的注射によって「ワクチン接種」を試みること又はその個体を生アレルゲンの租懸濁液で処置することを含んでいる。既知量の抗原の制御された投与によるゴールは、その個体で開始されたIgE応答を調節することである。もしこの治療が成功すれば、その個体のIgE応答は減少し、又は消失さえしうる。しかしながら、この治療は、数回のワクチン接種を長期間(3〜5年)にわたって必要とし、非常にしばしば所望の結果を生じない。その上、ある個体は、内包的な制御された投与にもかかわらず、これらのワクチンに対するアナフィラキシー反応を被る。
【0006】
明らかに、アナフィラキシーを含む重篤なアレルギー応答を誘出するアレルゲンに対するアレルギーの患者を治療する方法及び予防する方法に対する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、患者における免疫応答を調節する方法及び組成物を提供する。患者における望ましくないアレルギー反応及びアナフィラキシー性アレルギー反応を治療し又は予防する方法を提供することは、本発明の一つの面である。本発明の方法は、患者に、関心あるアレルゲンを発現し又は生成する微生物を投与することを含んでいる。提示する作用の機構に限定はされないが、投与の後に、これらの微生物は、患者内の抗原提示細胞により取り込まれ、そこで発現された抗原は放出される。抗原提示細胞内で処理されてその細胞表面に提示された後に、それらの処理された抗原は、T細胞媒介の免疫応答を活性化する。それ故、アレルゲンを発現して患者に送達するように遺伝子改変された微生物の利用は、それらのアレルゲンが患者のIgE抗体にさらされてアレルギー反応をそしてひょっとしたらアナフィラキシーを生じるのを減少させる。それ故、本発明は、免疫療法中のアナフィラキシーの危険を低下させる。その上、これらの微生物は、天然のアジュバントとして作用して、望ましいTh1型の免疫応答を増強する。
【0008】
好適具体例において、微生物は、本発明によって、選択したポリペプチド又はタンパク質を発現するように遺伝子改変されて、送達用ビヒクルとして利用される。かかる微生物には、細菌、ウイルス、カビ(酵母を含む)、藻類及び原生動物が含まれるが、これらに限らない。一般に、本発明によって利用するのに好適な微生物は、単細胞、単一胞子又は単一ビリオン生物体である。加えて、本発明の範囲内に含まれるのは、関心あるポリペプチドを生成するように改変された多細胞生物体に由来する細胞である。
【0009】
特に好適な具体例において、細菌又は酵母を、アレルゲン性蛋白質を発現して個体に送達し、それらのアレルゲンに対するアレルギー応答(アナフィラキシー性のアレルギー応答を含む)を治療し又は予防するための微生物として利用する。グラム陽性及びグラム陰性細菌を本発明において利用することができ、送達用ビヒクルを有する。これらの細菌により発現された抗原は、分泌可能であっても分泌されなくてもよい。タンパク質の分泌は、細胞培地への分泌を含むことができる。グラム陽性細菌及び酵母について、分泌は、ペリプラズムへの分泌を含みうる。ポリペプチドの分泌は、分泌シグナルペプチドにより促進されうる。
ある好適具体例において、アレルゲン性化合物を発現する微生物を、弱毒化微生物、非病原性微生物、非感染性微生物又は殺菌された微生物として、組成物にて、患者に投与することができる。好ましくは、これらの殺菌された微生物は、これらのポリペプチドの抗原性を低下させることなく殺菌される。
【0010】
他の好適具体例において、利用するアレルゲンは、食物、毒、薬物及びゴムベースの製品において見出されるアレルゲンである。特に好ましいタンパク質アレルゲンは、食物及び毒液の中に見出され、これらは、これらのアレルゲンに対してアレルギーである患者においてアナフィラキシー性のアレルギー応答を誘出する。本発明に含まれるのは、アミノ酸配列が自然においてタンパク質中で見出されるペプチド及びポリペプチドである。やはり本発明に含まれるのは、これらのペプチド、ポリペプチド及びタンパク質のIgE抗体に結合して架橋する能力を減じる改変を有するアレルゲンである。やはり本発明に含まれるのは、微生物により生成される非ペプチド性アレルゲンであって、例えば、ペニシリンなどの抗生物質が含まれる。
【0011】
この発明の他の面において、患者におけるアレルギー及びアナフィラキシー性アレルギー応答の治療又は予防において使用するための組成物は、人の手によって処理された微生物、好ましくは、本発明によるアレルゲンを生成するように導入される核酸の導入により処理された微生物を含む。ある好適具体例において、生成されるアレルゲンは、導入された核酸によりコードされるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質である。
【0012】
定義
「アレルゲン」:「アレルゲン」は、(i)個体においてIgE応答を誘出し;且つ/又は(ii)喘息反応(例えば、好酸球により特徴付けられる慢性の気道炎症、気道の過敏性、及び過剰な粘液産生)かかる反応は、検出可能なIgE応答を含んでも含まなくてもよい)を誘出する抗原である。本発明の目的につき好適なアレルゲンは、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質アレルゲンである。タンパク質アレルゲンの典型的なリストを、付表として与える。このリストは、公知のアレルゲンのリストを提供しているftp://biobase.dk/pub/who-iuis/allergen.list(2000年3月1日更新)から改作したものである。他の好適アレルゲンは、タンパク質により生成される小分子などの化学化合物である。
【0013】
「アレルギー反応」:アレルギー反応は、アレルゲンに対する個体の臨床的応答である。アレルギー反応の症状は、皮膚(例えば、蕁麻疹、血管浮腫、そう痒症)、呼吸器系(例えば、あえぎ、咳、喉頭浮腫、鼻漏、なみだ眼/かゆい眼)、胃腸(例えば、嘔吐、腹痛、下痢)、及び/又は心臓血管系(全身反応が起きた場合)に影響しうる。本発明の目的につき、喘息反応は、アレルギー反応の一形態であると考えられる。
【0014】
「アナフィラキシー性抗原」:本発明による「アナフィラキシー性抗原」は、アレルギーの個体において、自然条件下で、自然状態において遭遇したときに、アナフィラキシー反応の危険を与えると認められる抗原(又は、アレルゲン)である。例えば、本発明の目的につき、花粉及び動物の鱗屑又は排泄物(例えば、唾液、尿)は、アナフィラキシー性抗原であるとは考えられない。他方、食物抗原、昆虫抗原、薬物及びゴム(例えば、ラテックス)抗原ラテックスは、一般に、アナフィラキシー性抗原であると考えられる。食物抗原は、本発明の実施における利用に特に好適なアナフィラキシー性抗原である。特に興味深いアナフィラキシー性抗原は、それに対する反応が一般に死亡の危険を生じるほど激しいものである(例えば、堅果、種子及び魚)。
【0015】
「アナフィラキシー」又は「アナフィラキシー反応」は、ここで用いる場合、マスト細胞及び好塩基球上の高親和性のIgEレセプターの抗原に誘導された架橋に続くマスト細胞の脱顆粒とその後のメディエーターの放出及び標的器官例えば気道、皮膚消化管及び心臓血管系における病理学的応答の生成により特徴付けられる免疫応答をいう。当分野で知られているように、アナフィラキシー反応の激しさは、例えば、皮膚の反応、眼及び口の周りのはれ、及び/又は下痢、及びその後の呼吸の反応例えばあえぎ及び呼吸困難をアッセイすることによりモニターすることができる。最も激しいアナフィラキシー反応は、意識の喪失及び/又は死に至りうる。
【0016】
「抗原」:「抗原」は、(i)免疫応答を誘出する任意の化合物又は組成物;及び/又は(ii)T細胞レセプターに結合し(例えば、MHC分子により提示された場合に)若しくはB細胞により産生された抗体に結合する任意の化合物である。当業者は、一の抗原は、種々の化学化合物の集合(例えば、租抽出物又は調製物)であっても単一の化合物(例えば、タンパク質)であってもよいということを認めるであろう。好適な抗原は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質抗原である。
【0017】
「抗原提示細胞」:「抗原提示細胞」又はAPCには、公知のAPC例えばランゲルハンス細胞、輸入リンパ管のベール細胞、樹状細胞及びリンパ器官の鉗合細胞が含まれる。この用語は又、この発明によるポリペプチド及びタンパク質を取り込む単核細胞例えばリンパ球及びマクロファージをも包含する。
【0018】
「減弱」:微生物の「減弱」は、ここで用いる場合、微生物が個体又は実験室の試験動物において有意の毒性反応を誘発しないように該微生物を操作することをいう。これらの操作は、遺伝的方法を包含し、当分野で周知である。
【0019】
「IgE結合部位」:IgE結合部位は、抗抗原性IgE分子により認識される抗原の一領域である。かかる領域は、(i)抗原のIgEへの結合;(ii)抗抗原性IgEの架橋;(iii)表面に結合した抗抗原性IgEを含むマスト細胞の脱顆粒;及び/又は(iv)アレルギー症状の発生(例えば、ヒスタミンの放出)を生じるのに必要且つ/又は十分なものである。一般に、IgE結合部位は、特定の抗原又は抗原断片につき、その抗原又は断片をアレルギーの個体(好ましくは、発明の組成物を投与される種の個体)に由来する血清にさらすことによって規定される。種々の個体は、同じ抗原上の種々のエピトープを認識するIgEを生成することができるということは認められよう。従って、抗原又は断片を血清試料の代表的プールにさらすことは、典型的に、望ましいことである。例えば、ヒトのIgEにより認識される部位が所定の抗原又は断片において同定されることが望ましい場合には、血清を、好ましくは、その抗原に対して示されたアレルギーを有する少なくとも5〜10の好ましくは少なくとも15の個体からプールする。当業者は、他のコンテキストにおける有用なプールストラテジーをよく知っている。
【0020】
「免疫学的誘導剤」:用語「免疫学的誘導剤」は、ここでは、T細胞によるTh1刺激サイトカインの発現を促進する薬剤として用いられ、CD40、CD40リガンド、CpGモチーフ含有オリゴヌクレオチド、TNF及び微生物抽出物例えば黄色ブドウ球菌調製物、熱殺菌したリステリア菌及び改変コレラ毒素などの因子を包含する。
【0021】
「誘導性プロモーター」:用語「誘導性プロモーター」は、ここで用いる場合、化学剤の存否によって直接活性化され又は温度変化などの環境刺激によって間接的に活性化されるプロモーター部位を意味する。プロモーターは、酵素RNAポリメラーゼが結合して遺伝子転写プロセスを開始するDNAの領域である。
【0022】
「マスト細胞」:文脈から明らかなように、用語「マスト細胞」は、ここでは、しばしば、マスト細胞、好塩基球、及びIgEレセプターを有し、結合されたIgE分子の架橋によって活性化されたときにヒスタミン、血管拡張物質及び/若しくは他のアレルギー応答メディエーターを放出する他の細胞の少なくとも一つを指すために用いられる。
【0023】
「微生物」:「微生物」は、ここで用いる場合、細胞、細菌、カビ、ウイルス、藻類及び原生動物である。好適な微生物は、遺伝子操作をして所望のポリペプチドを生成させることのできるものである。
【0024】
「ペプチド」:本発明によれば、「ペプチド」は、ペプチド結合により一緒に結合された少なくとも3つのアミノ酸のストリングを含む。発明のペプチドは、非天然アミノ酸(即ち、自然に存在しないがポリペプチド鎖に組み込むことのできる化合物;例えば、機能的イオンチャンネルに上首尾に組み込まれた非天然アミノ酸の構造を表示しているhttp://www.cco.caltech.edu/~dadgrp/Unnatstruct.gif参照)及び/又はアミノ酸類似体(当業者に公知)を代わりに用いることはできるが、好ましくは、天然のアミノ酸のみを含む。発明のペプチド中の少なくとも1つのアミノ酸を、例えば、化学的存在物例えば炭水化物基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、結合体形成、官能化又は他の改変のためのリンカーなどの付加によって改変することもできる。
【0025】
ペプチド又はポリペプチドは、もしそのペプチド又はポリペプチドのアミノ酸配列がタンパク質のアミノ酸配列中に見出されるならば、そのタンパク質から導かれる。これらの配列は、好ましくは、同一であるが、約80〜100%の配列相同性を有してよい。アミノ酸残基が、他の類似の物理的特性(例えば、疎水性、親水性、電荷、芳香族的構造及び極性)を有するアミノ酸残基で置換されうるということも又、認められる。
【0026】
「減少したIgE結合」:発明の組成物又は薬剤は、任意の利用可能なアッセイにおいて、未改変の抗原と比較して、IgEとの低レベルの相互作用を示すならば、「減少したIgE結合」を有すると考えられる。例えば、改変した抗原は、もし(i)抗抗原IgEに対する親和性(例えば、直接結合の研究又は間接的競争の研究を用いてアッセイしたもの)が、完全な抗原と比較して、少なくとも約2〜5倍、好ましくは少なくとも約10、20、50若しくは100倍減少し;(ii)改変した抗原の、抗抗原IgEの架橋を支持する能力が、完全な抗原と比較して、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5、10、20、50若しくは100倍減少し;(iii)表面結合した抗抗原IgEを含むマスト細胞が、改変した抗原と接触した際に、未改変抗原と比較して、脱顆粒が一層少なく(少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約3、5、10、20、50若しくは100倍少ない);及び/又は(iv)改変抗原と接触した個体が、未改変抗原と比較して一層少ない(少なくとも約2倍、好ましくは約3、5、10、20、50若しくは100倍少ない)アレルギー症状を起こし若しくは改変抗原にさらされた際に起きた症状の程度が未改変抗原と比較して低いならば、減少したIgE結合を有すると考えられる。
【0027】
「分泌シグナル」:分泌シグナルは、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に結合された場合に、その結合体融合タンパク質の細胞膜を横切る輸送を促進する任意のアミノ酸配列である。微生物における分泌シグナルの利用に関して、融合タンパク質の輸送は、ペリプラスムへの内膜の横断を包含する。分泌シグナルが、融合タンパク質の外膜を横切る細胞外培地への輸送をも促進することは好ましい。タンパク質の細胞外培地への分泌は、「排出」と考えられる。
【0028】
「感作されたマスト細胞」:「感作された」マスト細胞は、表面結合した抗原特異的なIgE分子を有するマスト細胞である。この用語は、必然的に、抗原特異的である。即ち、任意所定の時間において、特定のマスト細胞は、ある種の抗原(その表面上のIgEにより認識されるもの)に対しては「感作される」が、他の抗原に対しては感作されない。
【0029】
「小さい分子」:ここで用いる場合、用語「小さい分子」は、実験室で合成された化合物又は自然界で見出された化合物をいう。典型的には、小さい分子は、有機分子であって、幾つかの炭素−炭素結合を含み、そして1500ダルトン未満の分子量を有することを特徴とする(もっとも、この特性表示は、本発明のために制限することを意図するものではない)。アレルゲンである「小さい分子」の例には、制限はしないが、ペニシリン、アルコール及びアスピリンが含まれる。非有機の小さい分子のアレルゲンには、例えば、ワイン中に存在する亜硫酸塩が含まれる。
【0030】
「影響を受けやすい個体」:本発明によって、個人は、もし(i)所定の抗原にさらされた後にアレルギーの症状を示したことがあり;(ii)その個人の遺伝的な家族のメンバーが、その抗原に対するアレルギーの症状を示しており(特に、もしそのアレルギーが遺伝的要素を有することが知られているならば);及び/又は(iii)抗原特異的なIgEがその個人において、血清中又はマスト細胞において見出されているのであるならば、アレルギー反応に影響を受けやすい。
【0031】
「Th1応答」及び「Th2応答」:本発明のある種の好適なペプチド、ポリペプチド、タンパク質及び組成物は、それらの、Th2応答を抑制し及び/又はTh1応答を刺激する能力によって特徴付けられる(好ましくは、Th2応答を刺激するそれらの能力と比較して)。Th1及びTh2応答は、サイトカイン及び/又は補因子の種々のコレクションの生成により特徴付けられるよく確立された択一的免疫系応答である。例えば、Th1応答は、一般に、IL−1β、IL−2、IL−12、IL−18、IFNα、IFNγ、TNFβなどのサイトカインの生成と関係しており;Th2応答は、一般に、IL−4、IL−5、IL−10などのサイトカインの生成と関係している。T細胞サブセットの抑制又は刺激の程度は、例えば細胞質内サイトカイン測定法を含む任意の利用可能な手段によって測定することができる。この発明の好適具体例において、Th2抑制は、例えば、刺激されたT細胞培養上清におけるIL−4、IL−5及び/又はIL−13の定量又はT細胞の細胞質内IL−4、IL−5及び/又はIL−13の評価(例えば、タンパク質染色又はmRNAの分析による)によってアッセイされ;Th1刺激は、例えば、活性化T細胞培養上清におけるIFNα、IFNγ、IL−2、IL−12及び/又はIL−18の定量又はこれらのサイトカインの細胞質内レベルの評価によってアッセイされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】細菌(大腸菌)を殺菌するのに最適な温度を決定するためにデザインされた実験をグラフ形態で描いた図である。試料のアリコート中の生存コロニーの数を、温度(摂氏)の関数として示してある。
【図2】細胞当たりのタンパク質生成の測定を示す図である。HISタグを付けたAra h2アレルゲンの光学密度(O.D.)を、種々の濃度の大腸菌抽出物をSDS−PAGEゲル上で電気泳動したイムノブロットから測定した。このアレルゲンO.D.を用いて、該抽出物により生成されたタンパク質の量を評価した。
【図3】Ara h2を生成する大腸菌の注射後に、マウスにおいて生成されたAra h2特異的IgG抗体のELISA分析の結果を示す図である。IgG1は、左側に、IgG2aは、右側にある。
【図4】Ara h3を生成する大腸菌の注射後に、マウスにおいて生成されたAra h3特異的IgG抗体のELISA分析の結果を示す図である。IgG1は、左側に、IgG2aは、右側にある。
【発明を実施するための形態】
【0033】
ある好適具体例の説明
本発明は、患者における免疫応答を調節するための組成物及び方法を提供する。患者における抗原に対する望ましくないアレルギー性免疫応答を、関心あるアレルゲンを発現する改変した細胞、ウイルス又は胞子(「微生物」)を投与することによって治療することは、本発明の一つの面である。アレルゲンを発現して送達するように遺伝的に改変した微生物を利用することにより、それらのアレルゲンを患者のIgEにさらすことにより媒介されるアレルギー応答は、減少し又は排除される。提示する機構に限定はされないが、本発明の改変した微生物は抗原提示細胞(APC)例えばマクロファージ及び樹状細胞に取り込まれ、アレルゲンがIgE抗体にさらされることがないということが予想される。一度APCに入ったならば、発現されたアレルゲンは、それらの微生物の溶解により又はそれらの微生物による抗原の分泌によって放出される。これらのアレルゲンは、次いで、例えば、APCによる部分消化によって処理されてその細胞の表面に提示される。
【0034】
一度処理された抗原は、細胞表面に提示され、細胞傷害性T細胞応答及びヘルパーT細胞応答の活性化が、タンパク質アレルゲンに対する細胞性免疫応答及びTh1媒介のB細胞応答を促進する。加えて、処理された抗原は、マスト細胞及び好塩基球の表面に位置するIgE抗体と結合してそれらを架橋して、アレルギー性の及びときには致命的なアナフィラキシー応答の原因となるヒスタミン及び他の血管拡張物質の放出へと導く能力が減少している(又は、能力を有しない)。
【0035】
宿主微生物
アレルゲンを発現する(例えば、ポリペプチド若しくはタンパク質アレルゲンの発現により又は小さい分子のアレルゲンの合成に関与するポリペプチド若しくはタンパク質酵素の発現によって)ことのできる任意の微生物を、本発明による送達用ビヒクルとして利用することができる。かかる微生物には、細菌、ウイルス、カビ(酵母を含む)、藻類及び原生動物が含まれるが、これらに限らない。一般に、微生物は、単細胞であり、単一胞子又は単一ビリオン生物体である。加えて、本発明の範囲内に含まれるのは、関心あるポリペプチドを生成するように改変された多細胞生物である。遺伝的に操作して所望のポリペプチドを生成させることのできる微生物が、好適である。(Ausubel等、Current Protocols in Molecular Biology. Wiley and Sons, Inc. 1999, 参考として、本明細書中に援用する)遺伝的操作には、宿主ゲノムの突然変異、遺伝物質の宿主ゲノムへの挿入、宿主ゲノムの遺伝物質の欠失、宿主の染色体外遺伝物質による形質転換、線状プラスミドによる形質転換、環状プラスミドによる形質転換、遺伝物質の宿主への挿入(例えば、mRNAの注入)、トランスポゾンの挿入及び遺伝物質の化学的改変が含まれる。核酸(発現可能な遺伝子を含むもの)の構築方法及びかかる核酸を発現系に導入してコードされたタンパク質を発現させる方法は、当分野で十分に確立されている(例えば、Sambrook等、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 第二版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989 参照、参考として本明細書中に援用する)。
【0036】
本発明によるアレルゲン送達のための微生物例えば細菌及び酵母の利用は、免疫療法のための微生物内にカプセル封入されてないアレルゲンの送達を超える多くの利点を提供する。一般に、細菌などの微生物は、アジュバントとして作用することが知られている(総説としては、例えば、Freytag等、Curr Top Microbiol Immunol 236:215-36, 1999を参照されたい)。それ故、微生物の、アレルゲンを患者及び患者のAPCに送達するための利用は、アレルゲンのIgE媒介のアレルギー応答からの防護を与え且つアジュバント効果をも与える(これは、Th1型免疫応答をアレルギー応答の影響を受けやすい個体から誘出する)。加えて、非病原性、非感染性の減弱化及び/又は殺菌した微生物の利用は、アレルゲン送達用ビヒクルに結合しうる毒性を低減し又は排除する。
【0037】
好適具体例において、細菌を、タンパク質送達用ビヒクルとして利用する。一般に、細菌は、細胞壁の構造に依って、グラム陰性又はグラム陽性に分類される。当業者は、本発明によるタンパク質を発現するのに利用できるグラム陰性及びグラム陽性細菌を同定することができる。グラム陰性細菌の属及び種の非制限的例には、大腸菌、コレラ菌、サルモネラ属、リステリア属、レジオネラ属、志賀赤痢菌属、イェルセニア属、シトロバクター属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、モルガネラ属、プロテウス属、プロビデンシア属、セラチア属、プレシオモナス属、アエロモナス属が含まれる。本発明で利用することのできるグラム陽性細菌の属及び種の非制限的例には、枯草菌、スポロラクトバチルス属、クロストリジウム属、アルスロバクター属、ミクロコッカス属、ミコバクテリウム属、ペプトコッカス属、ペプトストレプトコッカス属及びラクトコッカス属が含まれる。
【0038】
送達ビヒクルとして利用するためのグラム陰性細菌システムは公知であり、本発明で利用することができる。例えば、大腸菌は、よく研究された細菌であり、大腸菌におけるタンパク質発現方法は、十分確立されている。大腸菌の殆どの株は、該菌は自然に消化管内で見出されるものであるので、非病原性である利点を有している。それ故、大腸菌は、本発明における送達用ヒビクルとして好適である。加えて、Calderwood等(米国特許第5,747,028号)は、感染性微生物に対する生ワクチンとして利用するための抗原の製造のためにコレラ菌を送達用ビヒクルとして利用している。Miller及びMekalanos(米国特許第5,731,196号)は、感染性微生物に対する生ワクチンとして利用するための抗原の製造のためにサルモネラ属を送達用ビヒクルとして利用している。Hess等(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:1458-1463,1996)は、リステリアの抗原決定基を分泌する組換え減弱サルモネラを、リステリア症に対する防護のための生ワクチンとして利用している。Donner等(WO98/50067)は、減弱化ネズミチフス菌を、受精率を制御するためのポリペプチドの分泌のためのグラム陰性宿主として利用しており、イェルシニアを含む他の減弱化グラム陰性株を利用してかかるポリペプチドを発現させて分泌させることができることも教示している。
【0039】
グラム陽性細菌も又、患者における免疫応答を調節するためのタンパク質送達用ビヒクルとして研究されてきた。WO97/14806は、ポリペプチドに対する免疫応答を増進するためにそれらのポリペプチドを身体内に送達するためのラクトコッカス属の利用を記載している。しかしながら、WO97/14806は、アナフィラキシーを生じうる食物アレルギー及び毒液アレルギーを有する患者を治療するためのラクトコッカスの利用を教示していない。
【0040】
他の好適具体例においては、酵母が、タンパク質送達用微生物として利用される。酵母は、選択したタンパク質を発現させるために遺伝的操作をしやすいということは周知である(Ausubel等、前出)。その上、一般に、殆どの酵母は、非病原性である。2つのよく特性決定された酵母の種は、出芽酵母のサッカロミセス・セレビシエと、分裂酵母のシゾサッカロミセス・ポンベである(これらの種に限定はしないが)。その上、免疫応答を変えるためのタンパク質抗原を発現する酵母の投与は、研究されてきている。Duke等(米国特許第5,830,463号;「Duke」)は、哺乳動物への酵母の投与後にタンパク質を発現させるための酵母の利用を記載している。しかしながら、Dukeは、アナフィラキシーを生じうる食物アレルギー及び毒液アレルギーを有する患者を治療するための酵母の利用を教示していない。
【0041】
本発明の微生物は、生微生物又は死滅微生物として患者に投与することができる。好ましくは、もし微生物を生微生物として投与するならば、それらは、非病原性であるか又は減弱された病原性のものである。この発明の生微生物を個体に投与する適用のために、好ましくは、これらの微生物は、減弱され且つ/又は適当なカプセル封入用物質にて且つ/又は微生物及び/若しくはアレルゲン性化合物に対する個々の免疫応答を減少させるためのワクチンとしての医薬組成物として投与される。一般に、減弱は、感染性の病原性微生物を遺伝的に改変してその微生物の感染能力を減じ又は除去することを含む。好ましくは、この微生物を、その微生物が接種された個体がその微生物の存在により何らの細胞傷害性効果をも受けないように減弱させる。特に好適な減弱化微生物は、感染性の細胞内病原体であり、それらは、その微生物にさらされた個体の抗原提示細胞により貪食される。細胞内病原体である微生物の例には、サルモネラ、ミコバクテリウム、リーシュマニア、レジオネラ、リステリア及び志賀赤痢菌属が含まれる。
【0042】
本発明の微生物は、それらの微生物を殺菌してから患者に投与することができる。これらの微生物の殺菌には、発現されたポリペプチドの抗原性を大きく変えない任意の方法を利用することができる。微生物の殺菌方法には、熱、抗生物質、化学薬品例えばヨウ素、漂白剤及びアルコール、放射能(即ち、照射)、UV光、電気及び圧力の利用が含まれるが、これらに限らない。微生物殺菌の好適方法は、再現可能で、少なくとも99%の微生物を殺菌するものである。特に好適なのは、99%より多くの好ましくは100%の細胞が死滅する時間にわたる、セ氏50度を超える熱の利用である。
【0043】
誘導システム
他の好適な具体例においては、この発明の微生物によるアレルゲンの発現を、生微生物を個体に投与した後に合成が制御された時間に起きるように調節する。好ましくは、タンパク質合成の誘導を、微生物が抗原提示細胞(APC)によって取り込まれて貪食によりエンドソームに入った後に活性化が起きるように調節する。この調節の望ましい結果は、関心あるアレルゲンの生成がAPC内で起き、それ故、そのアレルゲンが、ヒスタミン放出性マスト細胞及び好塩基球の表面に結合したIgE分子にさらされるのを減じ又は排除することである。これは、アナフィラキシー抗原を生成する微生物の投与中のアナフィラキシーの危険を減じ又は排除する。
【0044】
微生物におけるタンパク質合成を制御する任意の方法を、本発明に従って利用することができる。好ましくは、タンパク質合成を制御する方法は、関心ある遺伝子(例えば、単一のペプチド及びタンパク質抗原をコードする遺伝子)に機能的に結合された誘導性プロモーターを利用する。誘導性プロモーターを利用して遺伝子の転写を制御するための多くの系が知られている(Ausubel等、Current Protocols in Molecular Biology. Wiley and Sons. New York. 1999)。一般に、誘導性の系は、遺伝子の活性化を利用するか又は遺伝子の抑制解除を利用する。本発明が遺伝子の活性化を利用して転写を誘導するということは好適である。しかしながら、遺伝子の抑制解除を利用する誘導性の系も又、本発明において利用することができる。活性化を利用する系は、これらの系は、抑制解除はもしその抑制解除がきつくないと低レベルの転写を生じうるので、不活性化を(従って、基底レベルの合成を)きつく制御することができるので好ましい。
【0045】
転写を誘導する方法には、化学剤の存否による誘導、栄養窮乏誘導性プロモーターを利用する誘導、ホスフェート窮乏誘導性プロモーターを利用する誘導及び温度感受性の誘導性プロモーターを利用する誘導が含まれるが、これらに限らない。遺伝子発現を調節するのに特に好適な系は、テトラサイクリン制御可能な発現系を利用するものである。テトラサイクリン制御可能な系を利用する系は、市販されている(例えば、Clontech, Palo Alto, CAを参照されたい)。
【0046】
他の遺伝子発現を調節するための特に好適な系は、やはり市販されているエクジソン誘導性発現系(Invitrogen, Carlsbad CA)を利用するものである。このエクジソン誘導性発現系は、昆虫ホルモンのエクジソンの、エクジソンレセプターに結合することによって遺伝子発現を活性化する能力に基づいている。この発現系は、エクジソンレセプターを含む改変された異種タンパク質、ウイルス性活性化ドメイン(VP16由来)及び、リガンド例えばエクジソン又は類似体(例えば、ムリステロンA、ポナステロンA)の存在下で改変エクジソンレセプターエレメントに結合する哺乳動物細胞から得られたレチノイドXレセプターを利用する。
【0047】
本発明で利用するための誘導性の系がヒトを含む哺乳動物細胞に対して非毒性である誘導剤を利用することは好ましいことである。その上、転写誘導剤が細胞膜を透過することは、好ましいことである。特に、APCによる貪食作用の後の微生物内でのタンパク質合成の活性化については、転写誘導剤は、APCの細胞膜及びその微生物の細胞膜を通過して、本発明によるタンパク質アレルゲンをコードしている遺伝子の発現を活性化することができなくてはならない。テトラサイクリン及びエクジソンの両方共が細胞膜を通過できて且つ非毒性なので、テトラサイクリン誘導性系及びエクジソン誘導性系は、本発明での利用に理想的に適している。しかしながら、本発明における誘導性の系の利用は、これらの系に限らない。
【0048】
貪食されなかった細菌が、関心あるポリペプチドアレルゲンを発現する遺伝子の誘導前に殺菌されることも又、好適である。細菌を殺菌する好適な方法は、哺乳動物細胞膜を透過できない抗生物質を利用し、それにより、貪食されなかった細菌だけが殺菌されるようにすることである。この具体例による抗生物質の利用は、抗原提示細胞の外側の細菌によるポリペプチドの生成を減らし又は排除する。アレルゲン生成細菌特に個体における潜在的に致死的なアナフィラキシー反応を誘出することのできるであろうポリペプチドを分泌する細菌が免疫系にさらされるのを減らし又は排除することは、重要である。当業者は、容易に、利用できる抗生物質を知る。かかる抗生物質には、ペニシリン、アンピシリン、セファロスポリン、グリセオフルビン、バシトラシン、ポリミキシンb、アンホテリシンb、エリスロマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、バンコマイシン、ゲンタマイシン及びリファマイシンが含まれるが、これらに限らない。
【0049】
分泌シグナル
本発明の他の具体例において、発現されたアレルゲン(及び/又は免疫調節分子例えばサイトカイン;下記参照)は、微生物によって分泌される。好ましくは、これらのアレルゲンの分泌は、哺乳動物細胞内で起きて、アレルゲンが宿主のアレルギー性免疫応答にさらされるのを減らし又は排除する。ポリペプチドの分泌は、細胞外培地への分泌並びにグラム陰性細菌及び酵母などの微生物のペリプラスムへの分泌を含む。アレルゲンのペリプラスムへの分泌の利点には、微生物の貪食の前のアレルゲンの漏出の減少が含まれる。この利点は、非誘導性の系において、最も利用可能である。誘導性の系における細胞外培地へのアレルゲンの分泌の利点には、本発明の微生物の貪食後の抗原提示細胞によるプロセッシングに利用可能なアレルゲンの量の最大化が含まれる。
【0050】
選択したポリペプチドを細菌において発現させるために、当分野で公知の様々な細菌性分泌シグナルを利用することができる。例えば、大腸菌におけるSec−依存性プロセスは、周知のものである(総説としては、Driessen等、Curr.Opin.Microbiology 1:216-22を参照されたい)。加えて、大腸菌におけるOmpAシグナルペプチドが、Wong及びSutherland(米国特許第5,223,407号)により記載されている。これらの分泌シグナルペプチドの何れかを含む融合タンパク質は、その細菌によって完全には分泌されないで、グラム陰性細菌の内膜を超えてペリプラスム内へ輸送される。これらの分泌シグナルを本発明において利用して、アレルゲン性ポリペプチド又は免疫調節性ポリペプチドを細菌のペリプラスム中に輸送することができる。これらの遺伝的に加工された細菌の個体への投与及びその後のAPCによる貪食の後に、ペリプラスム中のこれらのアレルゲン性又は免疫調節性ポリペプチドは、APCのエンドソーム内の酵素による外膜の分解後に放出される。好ましくは、細菌は、投与前に、これらのポリペプチドを合成してペリプラスム中へ分泌し、且つ熱殺菌される。しかしながら、減弱化細菌を用いて、発明のアレルゲンをペリプラスム中に分泌させて、個体に投与することができるということは認められる。
【0051】
分泌性タンパク質及びポリペプチドの他の好適具体例において、分泌シグナル配列とアレルゲン性又は免疫調節性配列を含む融合タンパク質は、そのタンパク質の合成後に微生物によって完全に細胞外培地中へ分泌される。かかる分泌シグナルには、溶血素及びリステリオリシンにおいて見出されるものが含まれる。特に好適な具体例においては、大腸菌の溶血素複合体を利用して、アレルゲン性又は免疫調節性ポリペプチドを微生物(例えば、大腸菌、サルモネラ菌属、志賀赤痢菌属、ビブリオ属、イェルシニア属、シトロバクター属、セラチア属、シュードモナス属)の内膜及び外膜を超えて細胞外の培地中へ輸送する(Spreng等、Mol.Microbiol.31:1589-1601,1999及びその中の引用文献、これらのすべてを参考として本明細書中に援用する)。HlyAsのタンパク質及びポリペプチドへの融合は、溶血素分泌系を利用してこれらの融合タンパク質の分泌を生じることが示されている(Blight及びHolland, Trends Biotechnol.1994 Nov;12(11):450-5;Gentschev等、Behring Inst Mitt.1994 Dec;(95):57-66)。
【0052】
溶血素タンパク質(HlyA)は、約50〜60アミノ酸長のC末端輸送シグナル(HlyAs)を含む(Hess等、Mol Gen Genet.1990 Nov;224(2):201-8;Jarchau等、Mol Gen Gene.1994 Oct 17;245(1):53-60)。HlyAタンパク質は、溶血素分泌系によって内外の細胞膜を超えて分泌される。この複合体は、3つの膜タンパク質を含んでいる。これらのタンパク質の内の2つのHlyB及びHlyDは、内膜に位置し、第三のTolCは、外膜に位置している。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、4つの遺伝子hlyC、hlyA、hlyB及びhlyDよりなる溶血素オペロンの部分である(Wagner等、J Bacteriol.1983 Apr;154(1):200-10;Gentschev.Gene.1996 Nov 7;179(1):1333-40)。
【0053】
Hly分泌系の利用の好適具体例においては、DNAプラスミド(ベクター)を用いて、HlyAsシグナルペプチドとアレルゲン性又は免疫調節性ポリペプチドを含む融合タンパク質を発現させる。この輸送複合体をコードする遺伝子(hlyB及びhlyD)は、同じベクターによりコードされる。複数のベクターを用いて、これらの遺伝子をコードして発現させることができるということ、又はこれらの遺伝子をコードする配列を発現用の宿主ゲノムに挿入することができるということは認められる。好ましくは、単一ベクターが、hly特異的プロモーター及びエンハンサー型レギュレーターhlyRを含む完全な溶血素オペロン;融合タンパク質の輸送に必要な最小ポリペプチド配列のみが存在するHlyA遺伝子;及び関心ある抗原を含む。TolCタンパク質は、一般に、宿主の大腸菌の系により生成される。しかしながら、tolCDNAが宿主生物によってコードされていない系においては、tolCは、ベクターによってコードすることができる。
【0054】
特に好適な具体例においては、WO98/50067(「Donner」)に記載された分泌用プラスミドpMOhly1を用いて、分泌シグナル配列及び個体におけるアナフィラキシーの誘導に関係するポリペプチドを含む融合タンパク質を発現させることができる。分泌用ベクターpMOhly1は、hly特異的プロモーター及びエンハンサー型レギュレーターhlyRを含む完全な溶血素オペロンを含む。hlyA遺伝子の大部分は、HlyAがアミノ末端の34アミノ酸とカルボキシル末端の61アミノ酸(HlyAs)のみをコードするように欠失している。HlyAのアミノ末端残基とカルボキシル末端残基との間のユニークなNsi制限酵素部位は、異種遺伝子又は遺伝子断片のHlyAsのリーディングフレーム内への挿入を容易にする。10〜1000アミノ酸の大きさの抗原についての遺伝情報を、この分泌用ベクターpMOhly1内に挿入することができ、これは、これらの抗原の減弱化サルモネラ属及び他のグラム陰性の減弱化した接種用の株(例えば、大腸菌、コレラ菌、エンテロコリチカ菌)における分泌を容易にする。他の分泌系と対照して、単一プラスミドを用いる融合タンパク質の分泌が、Donnerにより記載されている。溶血素分泌系の、慣用の輸送系と比較しての利点は、Donnerにおいて教示された方法によって合成されて分泌される融合タンパク質の大きい寸法である。抗原提示のための慣用の分泌系は、比較的短いペプチドを細菌細胞の外側部分に分泌することができるだけである(Cardenas及びClements, Clin Microbiol Rev.1992 Jul;5(3):328-42)。
【0055】
抗原及びアレルゲン
一般に、任意のアレルゲンを、本発明に従って、微生物により生成することができる。好適なアレルゲンは、ある種の食物、毒液、薬物又はゴム中に見出され且つ個体においてアレルギー応答特にアナフィラキシー性のアレルギー応答を誘出することができる。特に好適なアレルゲンは、タンパク質又はポリペプチドアレルゲンである。
【0056】
好適具体例において、本発明の微生物は、アレルギーを(ひょっとしたらアナフィラキシーを)誘出し、食物、毒液、薬物及びゴムベースの製品中に見出されるアレルゲン性タンパク質を生成する。アナフィラキシーを誘導する特に好適なアレルゲン性タンパク質例えば食物(南京豆、ミルク、卵、小麦)、昆虫毒液(即ち、蜜蜂、爬虫類)、薬物及びゴムにおいて見出される幾つかのタンパク質アレルゲン。食物中に見出されるタンパク質アレルゲンの非制限的例には、堅果(例えば、南京豆クルミ、アーモンド、ペカン、カシュー、ヘーゼルナッツ、ピスタシオ、松果、ブラジルナッツ)、海産食物(例えば、エビ、カニ、ロブスター、二枚貝)、果物(例えば、スモモ、モモ、ズバイモモ;Ann Allergy Asthma Immunol 7(6):504-8(1996);サクランボ、Allergy 51(10):756-7(1996))、種子(胡麻、ケシ、芥子)及び大豆並びに酪農品(例えば、卵、ミルク)が含まれる。
【0057】
堅果中に見出される幾つかのタンパク質アレルゲンは、豆果アレルギーと関係し、豆果タンパク質の代わりに用いることができる(例えば、南京豆、大豆、レンズマメ;Ann Allergy Asthma Immunol 77(6):480-2(1996)。やはり、花粉関連食物アレルギーにおいて見出されるタンパク質抗原も又、利用することができる(例えば、リンゴアレルギーに関係するカバノキの花粉)。他の食物中に見出されるタンパク質アレルゲンは、若いニンニク(Allergy 54(6):626-9(1999)において見出されるもの及び室内塵ダニに対してアレルギー性の子供に対するもの、カタツムリにおいて見出されるアレルゲン(Arch Pediatr 4(8):767-9(1997))を包含する。小麦中のタンパク質アレルゲンは、運動誘発性アレルギーを引き起こすことが知られている(J Allergy Clin Immunol 1999 May;103(5 Pt 1):912-7)。
【0058】
毒液を注入する生物に(例えば、昆虫の毒針で)刺されることは、その毒液に対してアレルギーの個体においてアナフィラキシーを引き起こすことは公知である。一般に、昆虫の毒液には、膜翅目例えば蜜蜂、スズメバチ、ジガバチ、キイロスズメバチ、アリバチ及びフシアリの毒液が含まれる。特に、例えば、アピス属の蜜蜂の毒液は、毒針で刺されてアレルギーの者にアナフィラキシーを引き起こしうる(Weber等、Allergy 42:464-470)。蜜蜂の毒液は、広く研究されて特性決定されている多くの成分を含んでいる(参考として、Banks及びShipolini. Chemistry and Pharmacology of Honey-bee Venom. T.Piek 編、Academic Press. London. 1986 Venoms of the Hymenopteraの第7章を参照されたい)。蜜蜂毒液の2つの主要成分は、ホスホリパーゼA2及びメリチンであり、これらは、蜜蜂毒液に対するアレルギーを治療し、予防するために、本発明において利用するのに好適なタンパク質アレルゲンである。
【0059】
本発明のある種の利用において、単一化合物(例えば、単一タンパク質)が殆どの認められるアレルギーの原因である系において研究することは望ましいことであろう。他の場合には、この発明を、一層複雑なアレルゲンに適用することができる。それ故、一つより多くのアレルゲンのコレクションを、複数の抗原に対する免疫応答が同時に調節されうるように利用することができる。
【0060】
付表Aは、ある種の公知のタンパク質アレルゲンの代表的な一覧を与えるものである。示したように、これらのタンパク質の多くの又はすべてのアミノ酸配列は、それらの同源遺伝子の配列の知識により若しくはタンパク質配列の直接的な知識によって、又は両方によって知られている。特に興味深いのは、アナフィラキシー性抗原である。
【0061】
アレルゲン性抗原の他の具体例においては、微生物を遺伝子工学的に加工して、アナフィラキシーショックを受けやすい個体にさらしたときにアナフィラキシーを誘出する改変されたアレルゲン性ポリペプチドを合成させ且つ分泌させる。好ましくは、これらのアレルゲンを、アナフィラキシーを誘出する能力を減じ又は排除するように改変する。前に論じたように、アレルゲンは、アレルギー応答を誘出し、それらは、時には、マスト細胞及び好塩基球の表面に結合したIgE抗体を架橋することによりアナフィラキシーショックを誘発するだけ十分に重いものである。このIgE架橋は、アレルギー及びアナフィラキシーショックと関連する症状を引き起こす化合物例えばヒスタミンを放出させる。本発明により、微生物を利用して、抗原性又は免疫調節活性を保持しつつIgE結合部位を減じ又は排除するように改変された抗原(U.S.S.N.09/141,220号、参考として本明細書中に援用する)を合成させて分泌させる。これは、これらの加工された微生物を含むワクチンで処置された個体におけるアレルギー応答又はアナフィラキシー応答の危険を減じる。
【0062】
任意の特定の組成物又は適用に用いるべき抗原の量は、その特定の抗原及びそれを用いる適用の性質に依存するが、これは、当業者によって容易に評価されるであろう。実施例1〜4に記載した実験は、多量のポリペプチドがTh1応答の誘導に有用であるということを示唆する。抗原の量は、発現系、誘導性発現系、分泌及び排出のレベル、送達前の殺菌方法を含む様々な因子(これらに限らない)によって制御することができる。当業者は、細菌により生成して、個体に送達すべき抗原の望ましいレベルを決定することができる。
【0063】
本発明の方法によって、同時に複数の抗原性分子を細菌から送達することができるということは認められる。制限はしないが、一つの抗原性タンパク質について種々の抗原決定基が送達されうる。種々の抗原性タンパク質からも種々の抗原決定基が送達されうる。更に、複数の抗原性ポリペプチド及びタンパク質が、本発明によって送達されうる。単一又は複数の抗原性ポリペプチド及び単一又は複数のサイトカインが、本発明により、細菌によって個体に送達されうるということも又、認識される。例えば、制限はしないが、本発明のアレルゲン性抗原及び免疫調節性分子例えばインターロイキンを、本発明による分泌され又はされない方法を用いて、細菌によって送達することができる。
【0064】
アジュバント及び免疫調節剤
本発明の組成物及び方法は、個体の免疫応答を調節するためのアジュバント及び免疫調節性ポリペプチド又は免疫刺激因子の利用を含む。免疫学的アジュバントは、ワクチンに対する特異的な免疫応答を増強する薬剤である。強力なアジュバントを有するワクチンの配合は、抗原からなるワクチンの性能を改善するために望ましい。アジュバントは、種々の作用機構を有することができ、投与経路及び特定のワクチンに望まれる免疫応答の種類(抗体、細胞媒介又は粘膜性免疫)に基づいて利用のために選択すべきである。
【0065】
一般に、免疫調節性ポリペプチドには、小さいタンパク質又は生物学的因子であるサイトカイン(5〜20kDの範囲)が含まれ、これらは、細胞により放出されて、細胞−細胞相互作用、コミュニケーション及び他の細胞の挙動に特異的な効果を有する。前に記載の通り、本発明によるサイトカインは、T細胞に対して分泌されるタンパク質であり、Th1又はTh2応答を誘導する。好ましくは、投与すべきサイトカインは、アナフィラキシーと関係する抗原に対するTh2応答の生成を減少させるように選択する。Th2応答を減らす一つの好適な方法は、別の応答を誘導することによるものである。抗原の細胞への送達中に発現されるサイトカインは、T細胞においてTh1応答を誘導し(即ち、「Th1刺激性サイトカイン」)IL−12、IL−2、I−18、IL−1又はこれらの断片、IFN及び/又はINFγを含む。
【0066】
他の免疫調節性の化合物には、免疫学的誘導剤が含まれる。これらの誘導剤は、T細胞によるTh1刺激性サイトカインの発現を促進し、CD40、CD40リガンド、CpGモチーフ含有オリゴヌクレオチド、TNF及び微生物抽出物(例えば、黄色ブドウ球菌、熱殺菌したリステリア及び改変したコレラ毒素など)などの因子が含まれる。
【0067】
当業者は、特定の抗原組成物と共に用いるのに好適な種類のアジュバントを容易に認める。一般に、免疫学的アジュバントには、ゲル型アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム/リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム)、微生物アジュバント(例えば、CpGモチーフなどのDNA;モノホスホリルリピッドAなどの内毒素;コレラトキシン、大腸菌の熱不安定性毒素及び百日咳毒素などの外毒素;及びムラミルジペプチド)、油エマルジョン及び乳化剤ベースのアジュバント(例えば、フロイントの不完全アジュバント、MF59及びSAF)、特殊なアジュバント(例えば、リポソーム、生物分解性ミクロスフェア及びサポニン)及び合成アジュバント(例えば、非イオン性ブロックコポリマー、ムラミルペプチド類似体、ポリホスファジン及び合成ポリヌクレオチド)が含まれる。
【0068】
好ましくは、Th2応答を刺激することが知られたアジュバントは、避ける。特に好適なアジュバントには、例えば、リステリア菌又は他の微生物(例えば、カルメット・ゲランウシ型結核菌[BCG]、コリネバクテリウム種、ミコバクテリウム種、ロドコッカス種、ユーバクテリア種、ボルタデラ種及びノカルジア種)などの微生物の任意の他の調製物、及びメチル化してないCpGモチーフを含む核酸の調製物が含まれる(例えば、米国特許第5,830,877号;及び発行されたPCT出願WO96/02555、WO98/18810、WO98/16247及びWO98/40100(これらの各々を参考として本明細書中に援用する)を参照されたい)。他のTh1型応答を誘導するがTh2型応答は誘導しないと報告された好適なアジュバントには、例えば、アビリジン(N,N−ジオクタデシル−N’,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロパンジアミン)及びCRL1005が含まれる。特に好適なのは、IL−12生成を誘導するものであり、固定した黄色ブドウ球菌、連鎖球菌標品、ヒト型結核菌、リポ多糖(LPS)、グラム陰性細菌のリポ多糖由来のモノホスホリルリピッドA(MPLA)(Richards等、Infect Immun 1998 Jun;66(6):2859-65)、リステリア・モノサイトゲネス、トキソプラズマ、メジャーリーシュマニアなどの微生物抽出物が含まれる。幾らかのポリマーも又、アジュバントである。例えば、ポリホスファジンが、Andriavnovの米国特許第5,500,161号に記載されている。これらは、微生物をカプセル封入するだけでなく、抗原に対する免疫応答を増強するためにも利用することができる。
【0069】
もしアジュバントが本発明によって微生物により合成されたのでないならば、サイトカインであるアジュバントは、不純な調製物として供給されうるが(例えば、内因性の又は外因性のサイトカイン遺伝子を発現している細胞の分離株)、好ましくは純粋な形態で供給される。精製された調製物は、好ましくは、少なくとも約90%の純度であり、一層好ましくは少なくとも約95%の純度であり、最も好ましくは少なくとも約99%の純度である。或は、サイトカイン又は免疫学的誘導剤をコードする遺伝子を、遺伝子発現が、治療される個体又は他の発現系(例えば、イン・ビトロ転写/翻訳系又は宿主細胞)において、サイトカイン又は免疫学的誘導剤の生成を生じるように供給することができる(該発現系からは、発現されたサイトカイン又は免疫学的誘導剤を、該個体に投与するために得ることができる)。本発明によるアレルゲン性及び/又は免疫調節性タンパク質の合成及び送達に利用される微生物がアジュバントとして作用しうること及び好適な微生物が免疫刺激性アジュバントであるということは認められる。
【0070】
この発明のサイトカイン及び/又はアレルゲンを発現する微生物の投与を、適宜、他の所望の免疫系調節因子例えばアジュバント又は他の免疫調節性化合物の投与と組合わせることができるということは、当業者により認められよう。
【0071】
投与方法
配合物は、例えば腸内投与、非経口投与、局所投与(鼻、肺又は他の粘膜経路を含む)、口内投与又は局所的投与を含む任意の利用可能な経路によって患者に送達することができる。これらの組成物は、好ましくは、細胞性免疫及びTh1関連IgGの生成を誘出するのに十分な量であって同時にIgE媒介の応答を最小にする量で投与する。やはり好ましいのは、活性T細胞応答好ましくはTh1型応答に有効な量で投与する組成物である。細菌を含む本発明の組成物について、投与は、好ましくは、非経口的に送達する。
【0072】
医薬組成物
本発明による利用のための医薬組成物は、製薬上許容しうる賦形剤又はキャリアーを含むことができる。ここで用いる場合、用語「製薬上許容しうるキャリアー」は、非毒性の、不活性の固体、半固体若しくは液体充填剤、希釈剤、カプセル封入材又は任意の種類の補助的配合物を意味する。製薬上許容しうるキャリアーとして役立ちうる物質の幾つかの例は、糖例えばラクトース、グルコース及びシュークロース;澱粉例えばトウモロコシ澱粉及びジャガイモ澱粉;セルロース及びその誘導体例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース及びセルロースアセテート;粉末トラガント;ゼラチン;タルク;賦形剤例えばココアバター及び坐薬ワックス;油例えば南京豆油、綿実油;紅花油;胡麻油;オリーブ油;トウモロコシ油及び大豆油;グリコール;例えばプロピレングリコール;エステル例えばエチルオレエート及びエチルラウレート;寒天;緩衝剤例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張塩溶液;リンゲル溶液;エチルアルコール及びリン酸緩衝溶液であり、並びに他の非毒性の適合性潤滑剤例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム並びに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、調味剤及び芳香剤、防腐剤及び抗酸化剤も又、配合者の判断によって、組成物中に存在してよい。この発明の医薬組成物は、ヒト及び/又は他の動物に、経口投与により、直腸投与により、非経口投与により、大槽投与により、膣内投与により、腹腔内投与により、局所投与により(粉末、軟膏又は滴剤などにより)、頬内投与により、又は経口若しくは鼻スプレーによって投与することができる。
【0073】
経口投与のための液体投薬形態は、製薬上許容しうる乳液、ミクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルを含む。活性な化合物に加えて、これらの液体投薬形態は、当分野で普通に使用される不活性な希釈剤例えば水又は他の溶液、可溶化剤及び乳化剤例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、落花生、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ひまし油及び胡麻油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル並びにこれらの混合物を含むことができる。不活性希釈剤以外に、経口用組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味剤、調味剤及び芳香剤などの薬剤をも含むことができる。
【0074】
注射用調製物例えば無菌の注射用水性又は油性の懸濁液を、適当な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて、公知の技術によって配合することができる。無菌の注射用調製物は、非毒性の、非経口投与用に許容しうる希釈剤又は溶剤例えば1,3−ブタンジオール中の溶液としての、無菌の注射用溶液、懸濁液又は乳液であってもよい。用いることのできる許容しうるビヒクル及び溶剤には、リンゲル溶液、U.S.P.及び塩化ナトリウム等張溶液がある。加えて、無菌の、固定油は、慣用的に、溶剤又は懸濁用媒質として用いられている。この目的のためには、合成のモノ又はジグリセリドを含む任意の低刺激性の固定油を用いることができる。加えて、脂肪酸例えばオレイン酸が、注射用剤の調製に用いられる。
【0075】
薬剤の効果を長引かせるために、皮下注射又は筋肉内注射からの薬物の吸収を遅くすることは、しばしば望ましい。これは、水溶性の乏しい結晶性又は非晶質の物質の液体懸濁液を利用することによって達成することができる。そうすれば、薬剤の吸収速度は、その溶解速度に依存し、該速度は、更に、結晶サイズ及び結晶型に依存しうる。或は、非経口投与された薬物形態の遅延された吸収は、薬物を油性ビヒクルに溶解させ又は懸濁させることにより達成される。注射用デポー剤形態は、生物分解性ポリマー例えばポリラクチド−ポリグリコリド中に薬物のマイクロカプセル化材料を形成することにより生成される。薬剤のポリマーに対する比及び用いた特定のポリマーの性質に依存して、薬剤の放出速度を制御することができる。他の生物分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が含まれる。デポー剤用の注射可能な配合物は又、薬物を、身体組織に適合性のリポソーム又はミクロエマルジョン中に閉じ込めることによっても製造することができる。
【0076】
直腸又は膣内投与用の組成物は、好ましくは、この発明の化合物を適当な非刺激性賦形剤又はキャリアー例えばココアバター、ポリエチレングリコール又は坐薬ワックス(周囲温度では固体であるが体温では液体であり、それ故、直腸又は膣内腔で融けて活性化合物を放出する)と混合することによって製造することのできる坐薬である。
【0077】
経口投与用の固体投薬形態には、カプセル、錠剤、丸薬、粉末及び顆粒が含まれる。かかる固体投薬形態においては、活性化合物を、少なくとも一種の不活性な、製薬上許容しうる賦形剤又はキャリアー例えばクエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム及び/又はa)充填剤若しくは増量剤例えば澱粉、ラクトース、シュークロース、グルコース、マンニトール及び珪酸、b)バインダー例えばカルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、シュークロース及びアラビアゴム、c)湿潤剤例えばグリセロール、d)崩壊剤例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ若しくはクズ澱粉、アルギン酸、ある種の珪酸塩及び炭酸ナトリウム、e)溶解遅延剤例えばパラフィン、f)吸収促進剤例えば第四アンモニウム化合物、g)湿潤剤例えばセチルアルコール及びグリセロールモノステアレート、h)吸収剤例えばカオリン及びベントナイト粘土、並びにi)潤滑剤例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム並びにこれらの混合物と混合する。カプセル、錠剤及び丸薬の場合には、この投薬形態は、緩衝剤をも含むことができる。
【0078】
類似の型の固体組成物は又、ラクトース又は乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を用いて、ソフト及びハード充填ゼラチンカプセルにおいて充填剤としても利用することができる。
【0079】
錠剤、糖衣錠、丸薬及び顆粒の固体投薬形態は、製薬分野で周知のコーティング及びシェル例えば腸溶性コーティング及び他のコーティングを用いて製造することができる。それらは、適宜、乳白剤を含むことができ、適宜遅延した様式で腸管のある部分でのみ又は該部分で優先的に活性成分を放出する組成物であってもよい。利用できる包埋用組成物の例には、高分子物質及びワックスが含まれる。
【0080】
類似の型の固体組成物は又、ラクトース又は乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を用いて、ソフト及びハード充填ゼラチンカプセルにおいて充填剤としても利用することができる。
【0081】
これらの化合物は又、上記の一種以上の賦形剤を用いてマイクロカプセル封入した形態であってもよい。錠剤、糖衣錠、カプセル、丸薬及び顆粒の固体投薬形態は、製薬分野で周知のコーティング及びシェル例えば腸溶性コーティング、放出制御用コーティング及び他のコーティングを用いて製造することができる。かかる固体投薬形態において、活性化合物は、少なくとも一種の不活性な希釈剤例えばシュークロース、ラクトース又は澱粉と混合することができる。かかる投薬形態は又、通常の実施であるが、不活性希釈剤以外の追加の物質例えば錠剤化用潤滑剤及び他の錠剤化助剤例えばステアリン酸マグネシウム及び微晶質セルロースをも含むことができる。カプセル、錠剤及び丸薬の場合には、これらの投薬形態は、緩衝剤をも含むことができる。それらは、適宜、乳白剤を含むことができ、適宜遅延した様式で腸管のある部分でのみ又は該部分で優先的に活性成分を放出する組成物であってもよい。利用できる包埋用組成物の例には、高分子物質及びワックスが含まれる。
【0082】
発明の医薬組成物の局所投与又は経皮的投与のための投薬形態には、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液、スプレー、吸入薬又はパッチが含まれる。活性成分は、無菌条件下で、製薬上許容しうるキャリアー及び任意の必要な防腐剤又は緩衝剤と混合される。眼科用配合物、点耳剤、目薬も又、この発明の範囲内にあるとして企図される。
【0083】
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、この発明の活性成分に加えて、賦形剤例えば動物及び植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、珪酸、タルク及び酸化亜鉛又はこれらの混合物を含むことができる。
【0084】
粉末及びスプレーは、この発明の化合物に加えて、賦形剤例えばラクトース、タルク、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム及びポリアミドポリマー又はこれらの物質の混合物を含むことができる。スプレーは、更に、通例の噴射剤例えばクロロフルオロハイドロカーボンを含むことができる。
【0085】
経皮用パッチは、身体への化合物の制御された送達を与える追加的利点を有する。かかる投薬形態は、化合物を適当な媒質に溶解し又は分配することによって生成することができる。吸収促進剤を利用して、化合物の皮膚を超える流れを増大させることもできる。この速度は、速度制御用膜を用意するか又は化合物を高分子マトリクス若しくはゲル中に分散させることによって制御することができる。
【0086】
カプセル封入
好適具体例において、生きた微生物を含む発明の組成物を、カプセル封入装置と共に与える(例えば、U.S.S.N.60/169,330、表題「Controlled Delivery of Antigens」(1999年12月6日出願)(参考として本明細書中に援用する)を参照されたい)。好適なカプセル封入装置は、生体適合性であり、カプセル封入装置が意図する目的地点(例えば、消化管の粘膜内層、抗原提示細胞(APC)によるエンドサイトーシス)に到達するまで微生物が放出されないように身体内で安定である。例えば、カプセル封入の好適なシステムは生理的pHで安定であり且つ消化管内又はAPCのエンドソーム内で見出されるのに匹敵する酸性のpHレベルで分解する。特に好適なカプセル封入用組成物には、リポソーム、ポリラクチド−コグリコリド(PLGA)、キトサン、合成の生物分解性ポリマー、環境応答性ヒドロゲル及びゼラチンPLGAナノ粒子を含むものが含まれるが、これらに限らない。発明の組成物は、少なくとも一種のアジュバント、ターゲティング実体、希釈剤、賦形剤、油などと共にカプセル封入することができる。別法として又は加えて、このカプセル封入装置自体をターゲティング実体及び/又はアジュバントと結合することができる。
【0087】
生きた細胞をカプセル封入する方法は公知であり、本発明によって抗原分泌性微生物を個体に送達するために利用することもできる。下記の参考文献は、生きた細胞のカプセル封入の例として与えるものである。しかしながら、生きた細胞をカプセル封入する如何なる方法でも、本発明において利用することができる。米国特許第5,084,350号;第4,680,174号;及び第4,352,883号(これらのすべてを参考として本明細書中に援用する)は、原核又は真核細胞又は細胞培養物のマイクロカプセル内へのカプセル封入を記載している。簡単にいえば、米国特許第5,084,350号;第4,680,174号;及び第4,352,883号は、カプセル封入すべき組織試料、細胞又は細胞培養物を先ず周知の技術に従って細かく分割された形態に調製し、そして維持管理及び含まれる特定の細胞の進行中の代謝プロセスを支持するのに適した水性媒質中に懸濁することを記載している。この目的に適した媒質は、一般に、市販されている。その後、生理的に細胞と適合性で且つ水不溶性となって形状維持する凝集性の球状マス(又は他の形状)を形成することのできる水溶性物質をこの媒質に加える。次いで、この溶液を、細胞をそれらの維持又は増殖のための媒質と共に含む液滴に形成して、直ちに、水溶性としそしてゲル化させて形状維持する、典型的には球状のマスを形成させる。
【0088】
培養培地のゲル化を誘導するのに用いられる物質は、周囲の温度、pH、イオン環境又は濃度の変化によって形状を維持するマスに変換されうる任意の非毒性の水溶性物質であってよい。好ましくは、この物質は、イオン化して反対の電荷の種を形成する複数の基を含むポリマーとの塩形成によって反応しうる複数の容易にイオン化される基例えばカルボキシル基又はアミノ基を含むものでもある。この型の物質の利用は、選択した多孔度の範囲の膜を不安定な細胞にダメージを与えずに付着させることを可能にする。現在ゲル化マスの形成に好適な物質は、水溶性の天然又は合成の多糖類である。多くのかかる市販の物質は、典型的には、植物物質から抽出され、しばしば、様々な食品への添加物として使用される。アルギン酸ナトリウムは、現在好適な水溶性多糖類である。他の利用可能なアルギン酸塩には、グアーガムの酸性画分、アラビアゴム、カラギーナン、ペクチン、トラガカントゴム又はキサンタンガムが含まれる。これらの物質は、多価イオンが酸性水素又はアルカリ金属イオン(通常、カルボキシル基と結合している)と交換されたときにゲル化する。
【0089】
利用
本発明の組成物を用いて、患者におけるアレルギー反応を治療し又は予防することができる。患者は、アレルギーの治療の必要のある動物及びヒトの患者である。好ましくは、この動物は、家畜である(例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシなど)。動物は又、実験室用の動物例えばマウス、ラット、ハムスター、サル及びウサギをも包含する。アレルギーを患っているか又はアレルギーを起こし易い任意の個体を治療することができる。特定の問題の抗原に対するアレルギー反応に悩まされることなく個体がアレルギーを起こし易いと判断することができるということは、高く評価されよう。例えば、もし個体が、関連抗原(例えば、同じ起源に由来するもの又は共有するアレルギーが共通であるもの)に対するアレルギー反応を受けるならば、その個体は、その関連抗原に対するアレルギーを受け易いと考えられる。同様に、個体の家族のメンバーが、特定の抗原に対してアレルギーであるならば、その個体は、その抗原に対するアレルギーを受け易いと考えられる。一層好ましくは、食物アレルゲン、毒液アレルゲン又はゴムアレルゲンにさらされた際にアナフィラキシーショックを受け易い任意の個体を、本発明によって治療することができる。
【0090】
本発明の組成物は、如何なる経路による送達用にも配合することができる。好ましくは、これらの組成物は、注射用、経口摂取用、又は吸入用に配合する。
【0091】
これらのここに記載の方法及び組成物の改変及び変法は、後記の請求の範囲の範囲内に入るものである。
【0092】
他の具体例
当業者は、容易に、前記のものは、単にこの発明のある特定の好適具体例を示したものであるということを認めるであろう。上記の手順及び組成物の様々な変化及び改変が、後記の請求の範囲に示した本発明の精神又は範囲から離れることなく為されうる。
【実施例】
【0093】
材料及び方法
微生物中でタンパク質を発現させるために用いられる一般的方法については、Ausubel等(前出)及びSambrook等(前出)(これら両者を参考として本明細書中に援用する)を参照されたい。加えて、本発明において利用するための発現ベクターは、広く商業的供給者(例えば、Clontech, Palo Alto, CA;Invitrogen, Carlsbad, CA;Promega Corporation, Madison, WI;New England Biolabs, Beverly、 MA)から入手可能である。
【0094】
下記の実験は、本発明の教示による、アレルゲンの、免疫療法における送達用ビヒクル及び/又はアジュバントとして利用するための細菌内へのカプセル封入を記載するものである。組換え南京豆アレルゲンタンパク質(Ara h1、Ara h2及びAra h2;Burk等、J Allergy Clin Immunol.88(2):172-9,1991;Burks等、J Allergy Clin Immunol.90(6 Pt 1):962-9,1992;Rabjohn等、J Clin Invest.103(4):535-42,1999;参考として本明細書中に援用する)を、大腸菌BL21細胞内で、該細菌細胞を該タンパク質をコードするcDNAでトランスフォームすることにより生成した(付表B;pET24、Novagen, Madison, WI中にクローン化した配列参照)。これらのトランスフォームされた細胞を、次いで、C3H/HEJマウスに注射して、このアレルゲンを発現する大腸菌が免疫応答を誘出するかどうかを測定した。
【0095】
実施例1.アレルゲンを生成する大腸菌の殺菌方法
アレルゲンを生成する大腸菌を殺菌する幾つかの方法を試験した。好ましくは、細菌を殺菌する方法は、それらの細菌により生成される組換えアレルゲンを変性したり分解したりしない。非制限的な例として、大腸菌を、熱(37〜95℃の温度)により殺菌し、エタノール(0.1〜10%)を用いて殺菌しそしてヨウ素を含む溶液(0.1〜10%)を用いて殺菌した。生存菌を、100μlの細胞を適当な寒天プレート上にプレートし、次いで、生成したコロニーをカウントすることにより測定した。最も再現性の高い方法は、熱殺菌であった。それ故、アレルゲンを生成する大腸菌を殺菌する好適な方法は、それらの細胞を60℃で、20分間インキュベートすることであり、これで100%の死滅を生じる(即ち、コロニーが全く形成されない;図#参照)。
【0096】
実施例2.細菌の増殖
マウスに接種するためのアレルゲンを生成する大腸菌細胞の調製のために下記のプロトコールを開発した。
【0097】
第一日
5ミリリットル(ml)のカナマイシン含有(用いる各細胞株ごとに30マイクログラム/ml)LB(Luria-Bertaniブロス)の液体培養物を、50mlの無菌チューブ又はフラスコ内に調製した。所望の発現ベクターを含む所望の細菌細胞株の解凍したストックからの培養物を、約10マイクロリットルを用いて接種した。接種した培養物を、振盪しながら37℃で一晩インキュベートした。
【0098】
第二日
次の朝に、カナマイシン(30マイクログラム/ml)を含む100mlの液体LB(500ml三角フラスコ中)に、前日からの5mlの生育した培養物からの1mlのアリコートを用いて接種した。(培養物の残りの4mlは、凍結させた。適宜、残りの4ミリリットルの培養物を、その後の培養物接種のために、4℃で数週間保存することができる) これらの接種した培養物を、振盪しながら37℃で、600nMで測定した溶液の光学密度(OD660)が約0.6〜0.9に達するまでインキュベートした。
【0099】
第三日
組換えタンパク質の生成を誘導するために、前日からの培養物を、OD660が約0.6〜0.9に達したときにイソプロピル−ベータ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG;Sigma-Aldrich, St.Louis, MO)を1Mストック液から終濃度1mMまで(培養物100ml当たり100マイクロリットルの1M IPTG)加えることにより誘導した。これらの誘導した培養物を、一晩培養した。
【0100】
第四日
1.4mlの前日からの培養物から、それぞれにつき、アリコートを1.5mlのミクロ遠沈管に分取して、水浴中で60℃で20分間殺菌した。これらの管を16,000×gで5分間室温で遠心分離して、上清を捨てた。ペレットを1×リン酸緩衝塩溶液(PBS)で洗い、16,000×gで5分間室温で遠心分離した。再び、上清を捨てて、ペレットを250マイクロリットルの1×PBS中に再懸濁させた。同起源の試料からの再懸濁ペレットを合わせた。各試料につきOD660を測定し、1×PBSを用いて所望のOD660まで希釈した。
【0101】
実施例3.アレルゲンの生成及び放出
熱殺菌した細菌によるアレルゲンの放出
細胞が熱殺菌後に維持されているかどうかを測定するために、我々は、培地に放出されたアレルゲンの量を測定した。対照としてのフィルターに既知濃度で適用した精製組換えアレルゲン及び南京豆感受性の患者由来の血清IgEを利用するドットブロットアッセイを開発した。このアッセイは、熱殺菌した細菌のペレット化後の上清100マイクロリットル中に存在するアレルゲンを検出してその量を定量した。放出されるアレルゲンのレベルは、発現ベクター及び試験したタンパク質に依って変化した。一般に、Ara h2は、Ara h1及びAra h3より一層放出された(Ara h2>>Ara h1>Ara h3)。
【0102】
アレルゲンの生成
大腸菌におけるアレルゲンの量を測定するために、我々は、我々の精製組換えアレルゲンのすべてに存在する6ヒスチジンタグ(HISタグ)を利用するイムノブロットアッセイ及びHISタグ抗体を開発して標準曲線を作った(これは、生成されたアレルゲンの量の評価に利用することができる)。細胞当たり生成されたアレルゲンの量は、何れのクローンを試験したかに依って変化した。一般に、Ara h2及びAra h1より一層Ara3が生成された(Ara h3>Ara h2>>Ara h1)。
【0103】
大腸菌の2.0のO.D.の接種物100μlにおいて送達されたアレルゲンの量についての我々の最大の評価は、Ara h1の約1μlからAra h3の約20μlまで変化する。
【0104】
図2は、Ara h2について生成した標準曲線の例である。HISタグ付きAra h2アレルゲンの光学密度(O.D.)を、次いで、イムノブロットから決定する(種々の濃度の大腸菌抽出物をSDS−PAGEゲル上で電気泳動した)。次いで、アレルゲンのO.D.を利用して、その抽出物により生成されたタンパク質の量を評価する。
【0105】
実施例4.マウスの免疫応答
以下のプロトコールを用いて、アレルゲンを生成する細菌を注射したマウスの免疫応答を測定した。最初の注射の前に、各マウスの尾の静脈から血液を集めた。各アレルゲン及び大腸菌タンパク質についての抗体ELISAのために十分な血液を集めた。0日目に、各マウスに、殺菌した大腸菌試料100マイクロリットルを左後部脇腹に皮下注射した。これらのマウスに、14日目に2回目に、0日目と同じ手順を用いて注射をした。21日目に、第2の血液試料を、各マウスから集めた。0日目と21日目の血液試料を、Ara h1、Ara h2又はAra h3の何れかに対するIgG1及びIgG2a抗体につきELISAアッセイによってアッセイした。
【0106】
Ara h1を生成する大腸菌を注射したマウスは、検出可能なレベルのAra h1アレルゲンに対する如何なる免疫グロブリンをも与えなかったので、そのデータは示してない。理論に制限されはしないが、我々は、これは、これらの細胞に依り生成された比較的少量のAra h1のためでありうると推測している(前の議論を参照されたい)。Ara h2を生成する大腸菌を注射したマウスは、比較的高レベルのIgG1及びIgG2aを含んだ。やはり、原因に制限されはしないが、我々は、これは、これらの細胞から放出されたAra h2の量のためでありうると推測した(上記の議論を参照されたい)。Ara h3を生成する大腸菌を注射したマウスは、比較的高レベルのIgG2a(Th1型応答を示す)を含み且つ比較的低レベルのIgG1(Th2型応答を示す)を誘出した。
【0107】
結果の解釈
本願のデータは、注意深く解釈すべきである。図中のデータは、O.D.レベルを表すだけであって、免疫グロブリンの絶対量を表すものではない。それ故、グループ間の比較は、O.D.として与えられたデータを考慮に入れるべきである。しかしながら、一般的傾向は、例えば、Ara h3に対するIgG1応答を示すマウスよりも一層多くのマウスがAra h3に対するIgG2a応答を示したことを示唆している。
【0108】

















【0109】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質アレルゲンを生成した死滅した大腸菌を含み、更に製薬上許容しうるキャリアーをも含む直腸送達用に形成された医薬組成物であって、該医薬組成物が、該タンパク質アレルゲンに対してアレルギーである患者におけるアレルギー性免疫応答を低減させ且つ該タンパク質アレルゲンが該微生物内にカプセル封入されている、当該医薬組成物。
【請求項2】
タンパク質アレルゲンが、アナフィラキシー性アレルゲンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
タンパク質アレルゲンが、食物、昆虫毒液又はゴム中に見出される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
タンパク質アレルゲンが、南京豆、ミルク、卵、海産食物、堅果、酪農製品及び果物よりなる群から選択する食物中で見出される、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
タンパク質アレルゲンが、蜜蜂毒液中に見出される、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
タンパク質アレルゲンが、Arah1、Arah2又はArah3である請求項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
タンパク質アレルゲンが、IgE抗体に結合し又は架橋する減少した能力を有するように改変されている、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
改変タンパク質アレルゲンが、未改変タンパク質アレルゲンと比較して、減少した数のIgE結合部位を有する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
改変タンパク質アレルゲンの配列が、野生型タンパク質アレルゲンの配列と、該野生型タンパク質アレルゲンのIgE結合部位内で、1つ以上のアミノ酸の欠失、置換又は付加によって異なる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
タンパク質アレルゲンが、分泌されない、請求項1〜9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
タンパク質アレルゲンが、ペリプラスム中に分泌される、請求項1〜10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
タンパク質アレルゲンを生成した死滅した大腸菌微生物を含む組成物の、該タンパク質アレルゲンに感受性の患者におけるアレルギーを治療するための直腸送達用に形成された医薬の製造における利用であって、該タンパク質アレルゲンが、微生物内にカプセル封入されている、当該利用。
【請求項13】
タンパク質アレルゲンを生成した死滅した大腸菌微生物を含み、更に製薬上許容しうるキャリアーをも含む直腸送達用に形成された医薬組成物であって、タンパク質アレルゲンが、IgE抗体に結合し又は架橋する減少した能力を有するように改変されており且つ該タンパク質アレルゲンが、微生物内にカプセル封入されている、当該医薬組成物。
【請求項14】
タンパク質アレルゲンが、アナフィラキシー性アレルゲンである、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
タンパク質アレルゲンが、食物、昆虫毒液又はゴム中に見出される、請求項13又は14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
タンパク質アレルゲンが、南京豆、ミルク、卵、海産食物、堅果、酪農製品及び果物よりなる群から選択する食物中で見出される、請求項13〜15のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項17】
タンパク質アレルゲンが、蜜蜂毒液中に見出される、請求項13〜16のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項18】
タンパク質アレルゲンが、Arah1、Arah2又はArah3である、請求項13〜16のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項19】
改変タンパク質アレルゲンが、未改変タンパク質アレルゲンと比較して、減少した数のIgE結合部位を有する、請求項13〜18のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項20】
改変タンパク質アレルゲンの配列が、野生型タンパク質アレルゲンの配列と、該野生型タンパク質アレルゲンのIgE結合部位内で、1つ以上のアミノ酸の欠失、置換又は付加によって異なる、請求項13〜19のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項21】
タンパク質アレルゲンが、分泌されない、請求項13〜20のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項22】
タンパク質アレルゲンが、ペリプラスム中に分泌される、請求項13〜20のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項23】
タンパク質アレルゲンを生成し又は生成した死滅した大腸菌微生物を含む組成物の、該タンパク質アレルゲンに感受性の患者におけるアレルギーを治療するための直腸送達用に形成された医薬の製造における利用であって、該タンパク質アレルゲンが、IgE抗体に結合し又は架橋する減少した能力を有するように改変されており且つ該タンパク質アレルゲンが、微生物内にカプセル封入されている、当該利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−242427(P2009−242427A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166724(P2009−166724)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【分割の表示】特願2001−564788(P2001−564788)の分割
【原出願日】平成12年12月6日(2000.12.6)
【出願人】(509109039)アラーテイン・セラピューティクス・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】