説明

微粒子の均一化処理機構を有する吸入試験装置

【課題】粉砕により均一化した粒径の微細な微粒子を得ることができる粒子粉砕装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る粒子粉砕装置1は、筒状のドラム11を備えており、ドラム11内に入れられた粉砕ビーズ51および重合している微粒子52を攪拌することにより重合している微粒子52を微細な微粒子53に粉砕する粒子粉砕装置であって、ドラム11は、ドラム11内に浮遊する微細な微粒子53をドラム11の外部へ送り出す送風入口12および送風出口13を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被粉砕粒子を微細粒子に粉砕する粒子粉砕装置および粒子粉砕方法、ならびにこの粒子粉砕装置を備えた吸入試験装置に関する。具体的には、筒状容器内で粉砕用粒子とともに攪拌することにより被粉砕粒子を微細粒子に粉砕する粒子粉砕装置および粒子粉砕方法、ならびにこの粒子粉砕装置を備えており被験動物に微細粒子を曝露させる吸入試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、農薬または医薬品として利用される新規化学物質については、その安全性および効果を調査し、生体への影響を評価することが求められている。この安全性等の評価方法としては、新規化学物質をマウス、ラットおよびモルモット等の実験動物に対して呼吸器経由で新規化学物質の微粒子を与え、その生体への影響を評価する方法が実施されている。新規化学物質を実験動物に吸入させて、効率よく試験物質の評価を実施し得る装置がこれまで開発されており、例えば、特許文献1および2に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されている吸入試験装置では、試験物質が含まれたエアーを実験動物に供給するラインと、呼気の排気ラインとが別々なものとなっている。これにより、実験動物がスムーズに呼吸を行えるようになり、自然呼吸状態における正確なデータの取得が可能になっている。特許文献2に開示されている吸入毒性試験装置では、試験物質のダストまたはミストを吸入曝露チャンバー内の被試験動物に供給しており、さらにチャンバー内の環境を検出、表示している。これにより、試験実施状況を常にリアルタイムで把握できるものとしている。
【0004】
ところで、近年、工業製品およびドラッグデリバリーシステム等への用途として、ナノサイズの微細微粒子の利用価値が高まってきている。このため、粒子原料を微細微粒子に粉砕し、微粒子を分離する装置の開発がなされている。例えば特許文献3に開示されている粉砕装置では、粉砕媒体からの剪断作用により粒子が粉砕され、遠心力を利用して粒子を分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−187192号公報(1997年7月22日公開)
【特許文献2】特開2007−232453号公報(2007年9月13日公開)
【特許文献3】特開2007−83241号公報(2007年4月5日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、近年、ナノサイズの微細粒子の利用価値が高まってきていることから、微細微粒子が生体へ与える影響を評価するための手段および装置が求められている。ここで特許文献1および2に開示されている試験装置には、微粒子を粉砕または細分化する機構が備わっていない。そのため、これらの試験装置を利用して、微細微粒子および重合しやすい微粒子の正確な吸入試験をおこなうことは困難である。
【0007】
なお、微粒子の重合が正確な吸入試験を妨げる理由として、以下の点が挙げられる。
(i)粒子は重合すると表面積が変化し、粒子表面での化学的性質が変化する。
(ii)曝露される粒子の数が変化する。
(iii)粒子は生体内において粒径依存的な挙動を示す。例えばミリサイズの粒子は鼻から侵入すると、気管通過中にトラップされる。一方、マイクロサイズ、ナノサイズの粒子は肺まで到達する。さらにナノサイズの粒子は肺から全身血液に循環される。
【0008】
また、粒子を粉砕した後に、得られた微粒子を気相中に散布するためには、微粒子が乾燥した状態でなければならない。気相中または真空中で粒子を粉砕、細分化する従来の乾式法により微粒子を得れば、微粒子はすでに乾燥した状態であるため、直ちに吸入試験に用いることができる。しかしながら従来の乾式法においては、均一化した粒径の微粒子が得られるものの、ナノサイズまで粉砕できないといった問題がある。
【0009】
スラリー中で粒子を粉砕、細分化する湿式法では、乾式法に比べてより微小な微粒子を得ることができ、粒子をナノサイズまで粉砕できるものの、均一化した粒径の微粒子を得ることが困難であるという問題がある。また、湿式法により微粒子を得た場合には、微粒子を乾燥させるための手間と時間とが必要となる。特許文献3に開示された粉砕装置は、スラリー中の被粉砕粒子を粉砕する湿式法に適した装置である。そのため、この従来の粉砕装置を用いた場合には、上述の通り微粒子を乾燥させるための手間と時間とが必要となる。
【0010】
仮に特許文献3に開示された粉砕装置を乾式法に適用した場合には、以下の理由から微粒子を細かく分離することが難しい。この粉砕装置は、遠心分離により微粒子をサイズ分離する構造となっている。遠心分離とは、移動相の粘度および密度に依存する沈降速度の差を利用して粒子を分離する方法である。移動相が液体であると、その粘度および密度が大きくなり沈降速度が遅くなる。この場合には、粒子を細かく分離することが可能となる。一方、移動相が空気などの気体であると、その粘度および密度が非常に小さくなり沈降速度が非常に速くなる。この場合には、粒子をサイズごとに細かく分離することが困難となる。このため、遠心分離を利用した上記粉砕装置を乾式に適用すると、微粒子の沈降速度が速くなり、微粒子を細分化して分離することが困難となる。
【0011】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、粉砕により均一化した微細な微粒子を得ることができる粒子粉砕装置およびこれを備えた吸入試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る粒子粉砕装置は、上記課題を解決するために、筒状の容器を備えており、該容器内に入れられた粉砕用粒子および被粉砕粒子を攪拌することにより該被粉砕粒子を微細粒子に粉砕する粒子粉砕装置であって、上記容器は、上記容器内に浮遊する上記微細粒子を上記容器の外部へ送り出す送風手段または上記容器から吸引する吸気手段を有している。
【0013】
上記構成によれば、筒状の容器内に粉砕用粒子および被粉砕粒子を入れ、被粉砕粒子を粉砕用粒子とともに容器内で攪拌することによって、被粉砕粒子を微細粒子に粉砕することができる。また、送風手段または吸気手段が容器に設けられているため、攪拌を停止した後、送風手段を用いて容器内に送風し、容器の内部に浮遊している微細粒子を容器の外部へ送り出すことができ、これにより粉砕により生じた微細粒子を回収することができ、粉砕により粒径が均一となった微細粒子を得ることができる。または、吸気手段を用いて容器内の気体を吸引することにより、容器内に浮遊している粉砕により生じた微細粒子を回収することができ、粉砕により粒径が均一となった微細粒子を得ることができる。
【0014】
ここで、容器内への送風または容器内からの吸気により、微細粒子を選択的に回収できることについて説明する。攪拌装置による攪拌を停止すると、粉砕用粒子、粉砕により生じた微細粒子および残存する被粉砕粒子は、容器内で鉛直下方に自由落下する。このときの各粒子における自由落下の速度は、ストークスの法則に従い、粒子の粒径により異なる。すなわち、粒径が大きい粒子ほど落下速度が大きく、早く容器底部に落下し終わる。一方、粒径が小さい粉砕後の微粒子は落下速度が小さく、粒径が大きい粒子が落下し終わった後も、容器内に浮遊し続ける。そこで、粒径が大きい粒子が落下した後に、送風または吸気をおこなうことにより、容器の内部に浮遊し続ける粒径の小さい微粒子を回収することができる。すなわち、粉砕により生じた微細粒子を選択的に得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る粒子粉砕装置において、上記容器は、筒状構造の中心軸を回転軸として上記容器を回転させる回転手段を有していることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、回転手段を用いて、筒状構造の中心軸を回転軸として容器を回転させることができ、これにより、粉砕用粒子および被粉砕粒子を攪拌することができる。また、回転軸をほぼ水平にして容器を回転させるとことができ、これにより容器に入れられた粉砕用粒子および被粉砕粒子ならびに攪拌により生じた微粒子は容器内壁との摩擦力によって鉛直上方に移動し、その後落下する。したがって、効率的に攪拌をおこなうことができ、さらに、攪拌により生じた微細粒子を容器内部に浮遊させることができる。
【0017】
また、本発明に係る粒子粉砕装置においては、上記容器の内壁に、上記回転軸と平行に延伸する羽根が設けられていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、容器が回転することにより、容器底部に溜まる粉砕用粒子、被粉砕粒子および粉砕により生じた微細粒子が羽根によりすくい上げられ、回転の途中で落下する。これにより、粉砕用粒子および被粉砕粒子を効率よく攪拌することができる。また、粉砕により生じた微細粒子を容器内のより上方から落下させることができるので、微細粒子をより長い時間浮遊させることができ、より微小な微細粒子を回収することができる。
【0019】
本発明に係る吸入試験装置は、上記課題を解決するために、被験動物に試験物質を吸入曝露させる吸入試験装置において、上述した粒子粉砕装置の何れかと、曝露チャンバーと、上記粒子粉砕装置から回収された上記微細粒子を上記曝露チャンバー内に供給する供給手段とを備えている構成である。
【0020】
上記構成によれば、本発明に係る粒子粉砕装置により得られた均一な微細粒子を、供給手段により粒子粉砕装置の容器から直接曝露チャンバーに供給することができる。これにより、粉砕により生じた粒径の小さい微細粒子を選択的に曝露チャンバーに供給することができる。したがって、微細な粒子についての吸入試験を実施することができる。また、回収された微細粒子は供給手段によりそのまま曝露チャンバーに供給されるため、微細粒子が再び重合する前に、微細粒子を曝露チャンバーに供給することができる。これにより、微細な粒子について正確な吸入試験を実施することができる。
【0021】
また、本発明に係る吸入試験装置において、上記粒子粉砕装置は、上記送風手段を備えており、上記供給手段は、送風により上記微細粒子を供給するものであることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、仮に筒状の容器に構造上の隙間があったとしても、外気中の粒子が吸い込まれることはなく、外部粒子の混入が抑えられる。これにより、実験結果に悪影響を及ぼす、外気中の粒子による不要なノイズの発生を防ぐことができ、正確な吸入試験を実施することができる。
【0023】
また、本発明に係る吸入試験装置において、上記容器は、筒状構造の中心軸を回転軸として上記容器を回転させる回転手段を有しており、上記粒子粉砕装置は、上記回転軸が略水平となるように配設されていることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、容器の筒状構造の中心軸を回転軸とし、かつ、この回転軸が略水平となるように容器が回転することになる。これにより、粉砕用粒子および被粉砕粒子の攪拌がより効率よく行われる。したがって、より均一な微細粒子を曝露チャンバーに供給することができる。これにより、より正確な吸入試験を実施することができる。
【0025】
また、本発明に係る吸入試験装置は、上記粒子粉砕装置を複数個備えており、複数の上記粒子粉砕装置の各は互いに独立して設けられていることが好ましい。
【0026】
なお、ここで「互いに独立」とは、ある粒子粉砕装置から微細粒子が供給される際に、別の粒子粉砕装置の微細粒子および被粉砕粒子が影響を及ぼさないことをいい、より具体的には、複数の粒子粉砕装置のそれぞれが互いに直列にはつながっていないことを意味する。
【0027】
上記構成によれば、供給手段により、複数ある粒子粉砕装置のうちの1つから被験動物に対して微細粒子が供給されている間、別の粒子粉砕装置において被粉砕粒子の粉砕をおこなうことができる。また、別の粒子粉砕装置において粒子粉砕装置の静置による微小な微細粒子の分離をおこなうことができる。すなわち、被粉砕粒子の粉砕およびサイズによる分離をおこなっている間、別の粒子粉砕装置を用いて微細粒子の供給をおこなうことができる。また、各粒子粉砕装置は独立して設けられているため、何れか1つから微細粒子が供給される際に、他の粒子粉砕装置内の被粉砕粒子および微細粒子の影響を受けることはない。そのため、常時、均一な微細粒子を一定量供給し続けることができる。
【0028】
本発明に係る粒子粉砕方法は、上記課題を解決するために、筒状の容器内に入れられた粉砕用粒子および被粉砕粒子を攪拌することにより、該被粉砕粒子を微細粒子に粉砕する粉砕工程と、上記粉砕工程の後に、上記容器内に送風をおこなうか、または上記容器内に対して吸気をおこなうことにより、上記容器内に浮遊する上記微細粒子を回収する回収工程とを含んでいる。
【0029】
上記構成によれば、粉砕工程では、筒状の容器内に粉砕用粒子および被粉砕粒子を入れ、被粉砕粒子を粉砕用粒子とともに容器内で攪拌することによって、被粉砕粒子を微細粒子に粉砕することができる。また、粉砕が終了した後の回収工程では、容器内に送風をおこなうことで、容器の内部に浮遊している微細粒子を容器の外部へ送り出すことができ、これにより微細粒子を回収することができる。または、容器内に対して吸気をおこなう、すなわち容器内の気体を吸引することにより、容器内に浮遊している微細粒子を回収することができる。粉砕終了後に容器内に浮遊している微細粒子は、上述の通り、粉砕により生じた粒径の小さい微細粒子である。したがって、本発明に係る粒子粉砕方法によれば、粉砕により生じた微細粒子を選択的に回収することができ、均一な微細粒子を得ることができる。
【0030】
また、本発明に係る粒子粉砕方法において、上記粉砕工程では、回転軸を略水平にして上記容器を回転させることにより、上記粉砕用粒子および上記被粉砕粒子の攪拌をおこなうことが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、粉砕用粒子および被粉砕粒子が入れられている容器は回転軸を略水平にして回転する。これにより、容器に入れられた粉砕用粒子および被粉砕粒子ならびに攪拌により生じた微粒子は容器内壁との摩擦力によって鉛直上方に移動し、その後落下する。したがって、効率的に攪拌をおこなうことができ、攪拌により生じた微細粒子を容器内部に浮遊させることができる。
【0032】
また、本発明に係る粒子粉砕方法では、上記粉砕工程と上記回収工程との間に、回収する上記微細粒子の大きさに基づいて予め設定した時間、上記容器を静置させることが好ましい。
【0033】
上述のように、攪拌を停止した後、微細粒子が容器内に浮遊し続ける時間は、微細粒子の粒径に依存する。そのため、回収すべき大きさの粒子が浮遊し続ける時間、およびその大きさよりも大きい粒子が落下し終わる時間を予め算出することができる。したがって、攪拌を停止した後、微細粒子を回収するまでの時間を、予め算出した時間に設定することにより、所望の粒径の微細粒子を選択的に回収することができる。
【0034】
また、本発明に係る粒子粉砕方法において、上記粉砕工程では、粒径が互いに異なる2種類以上の上記粉砕用粒子を混合して用いることが好ましい。
【0035】
粒径が大きい粉砕用粒子は、被粉砕粒子に対して強い粉砕力または剪断力を加えることができる。一方、粒径が小さい粉砕用粒子は、被粉砕粒子をきめ細かく粉砕できる。
【0036】
したがって、上記構成によれば、相対的に粒径が大きい粉砕用粒子および相対的に粒径が小さい粉砕用粒子を混合して粉砕をおこなうので、粉砕力ときめ細かさを兼ね備えた効率的な粉砕を実現することができる。
【0037】
本発明に係る吸入試験方法は、上記容器を複数個使用し、複数の上記容器の各における上記回収工程の時期が互いにずれており、上記複数の容器のうち何れか1つの容器が上記回収工程にあり、上記何れか1つにおける上記回収工程では、上記回収工程にない上記複数の容器のうちの他の容器を介さずに、上記微細粒子を回収することが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、複数ある容器における回収工程の時期がそれぞれ互いにずれているため、複数ある容器のうちの1つから被験動物に対して微細粒子を供給している間、別の容器において被粉砕粒子の粉砕をおこなうことができる。あるいは別の容器において容器の静置による微小な微細粒子の分離をおこなうことができる。すなわち、複数の容器のうちの少なくとも1つの容器において被粉砕粒子の粉砕およびサイズによる分離をおこなっている間、別の容器から微細粒子の供給をおこなうことができる。そのため、常時一定量の微細粒子を供給し続けることができる。また、粉砕粒子を回収する際、粉砕工程にある容器および静置状態にある容器を介さずに回収するため、均一な粒子を回収することができる。これにより、常時、均一な微細粒子を一定量供給し続けることができる。
【0039】
本発明に係る吸入試験方法は、上記課題を解決するために、上述の粒子粉砕方法の何れかにより粉砕した上記微細粒子を、非ヒト被験動物に曝露する構成である。
【0040】
上記構成によれば、粒径の小さな均一な微細粒子を非ヒト被験動物に吸入曝露させることができるため、微細粒子についてより正確な吸入試験および評価をおこなうことができる。
【発明の効果】
【0041】
以上のように本発明に係る粒子粉砕装置は、内部に入れられた粉砕用粒子および被粉砕粒子を攪拌させるための筒状の容器を備えており、容器内に浮遊する微細粒子を容器の外部へ送り出す送風手段または容器から吸引する吸気手段が容器に設けられているので、均一な微細粒子を得ることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る粒子粉砕装置の一実施形態における概略図である。
【図2】図1に示す粒子粉砕装置の使用時におけるドラムの回転軸に垂直な面でのドラムの断面図である。
【図3】図1に示す粒子粉砕装置のドラムの回転軸を含む面でのドラムの断面図である。
【図4】本発明に係る吸入試験装置の一実施形態において一部を分解して示す部分分解概略図である。
【図5】本発明に係る吸入試験装置により得られた微粒子の走査型電子顕微鏡写真の図である。
【図6】粉砕前の二酸化チタン粒子の粒径と存在頻度との関係を表す図である。
【図7】粉砕後の二酸化チタン粒子の粒径と存在頻度との関係を表す図である。
【図8】本発明に係る吸入試験装置の別の実施形態において一部を分解して示す部分分解概略図である。
【図9】図8に示す吸入試験装置における各ドラムの送風を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の一実施形態について、図1〜図4、図8および図9に基づいて説明すれば以下の通りである。
【0044】
〔実施の形態1〕
(粒子粉砕装置の構成)
図1は本発明に係る粒子粉砕装置の一実施形態の構成を表す概略図である。説明の便宜上、一部を透明に表し、内部を見せて表している。また、図1では、粉砕を行っている状態を表している。図1に示すように粒子粉砕装置1は、ドラム(容器)11より構成されている。粒子粉砕装置1は、後述する回転用部材20を介して回転装置(不図示)と連結しており、また後述する送風入口12を介して送風装置(不図示)と連結している。
【0045】
ドラム11は、中空の円筒状の容器であり、攪拌および粉砕させる粒子を入れるための容器である。ドラム11は、円筒の曲面を挟み込む二つの平面の一方の平面の中心部に送風入口(送風手段、吸気手段)12を有しており、他方の平面の中心部に送風出口(送風手段、吸気手段)13を有している。また、円筒形状の中心軸を回転軸としてドラム11を回転させるための回転用部材20を有している。ドラム11の内壁には、後述する内羽根(羽根)16が、回転軸と平行に延伸して設けられている。また、ドラム11の側面には、攪拌および粉砕させる粒子を入れるための扉(図示せず)が設けられている。
【0046】
送風入口12は、送風装置からの送風をドラム11内部に送り込むための部材であり、本実施形態では、排出口部分および筒状構造部分からなる。送風出口13は、送風により生じた気流の出口であり、本実施の形態では、送風入口12と同じ構造となっている。気流にのった粒子も送風出口13から排出される。図1では、紙面右側から左側に向かう気流が生じている。
【0047】
回転用部材20は、ドラム11を回転装置と連結させるための部材である。ドラム11は、回転用部材20を介して回転装置から回転動力が伝えられ、円筒形状の中心軸を回転軸として、その周りをドラム11のみが回転するような構造になっている。
【0048】
図2は、使用時におけるドラム11の回転軸に垂直面での断面図である。図2では、回転軸を水平にして粒子粉砕装置1を使用している状態である。矢印gは重力方向を示し、矢印rはドラム11の回転方向を示している。図1および図2に示すように、ドラム11の内部の壁面には、ドラム11内に入れられた粉砕ビーズ(粉砕用粒子)51、重合した微粒子(被粉砕粒子)52および粉砕後の微細な微粒子53(微細粒子)をドラム11自身の回転によりすくい上げるための内羽根(羽根)16が設けられている。内羽根16は効率的に攪拌をおこなうため、かつ粉砕により生じた微細な微粒子53を浮遊させるための部材である。本実施の形態において内羽根16の数は一つであるが、複数の内羽根16がドラム11の内部に設けられていてもよい。ドラム11の回転により内羽根16が上方にくると、すくい上げられていた粉砕ビーズ51、微粒子52、53が内羽根16から落下する。
【0049】
本実施形態においてドラム11の直径は10cm以上50cm以下であり、望ましくは30cm以上40cm以下である。またドラム11の幅は5cm以上50cm以下であり、望ましくは、20cm以上30cm以下の範囲内である。また、内羽根16の高さ(ドラム11の内壁との接触部分から回転軸に向かう方向の長さ)は3cmである。ドラム11の素材は、ドラム11の内部の微粒子52、53が静電気を帯びないステンレスなどの素材が望ましい。ドラム11の側面に設けられた扉の大きさは、5cm×5cmである。
【0050】
図3は、ドラム11の別の実施形態であるドラム11’の回転軸を含む或る面における断面図である。図中の矢印は、気流の方向を示している。図3に示すように、ドラム11’内における送風入口12の排出口18および送風出口13の排出口19の向きが、図1に示すドラム11の送風入口12および送風出口13とは異なるものとなっている。具体的には、ドラム11の内部で回転軸と垂直な方向に気体が送り込まれるように隔壁17および送風入口12の排出口18が設けられており、送風入口12とは反対の方向に面するように送風出口13の排出口19が設けられている。送風入口12からドラム内に送風をおこなうと、ドラム11では、主として、送風入口12から送風出口13に向かう直進的な気流が生じる。これに対し、ドラム11’では、ドラム11’の内部を循環する気流が生じる。これにより、ドラム内に浮遊するより多くの微粒子53が気流にのり、その結果、より多くの微粒子53を排出させることができる。
【0051】
送風装置は、ドラム11の送風入口12からドラム11の内部に送風するための装置である。送風装置が生じさせる気流によりドラム11内部に浮遊している微粒子53をドラム11の外部に送り出すことができる。送風装置では、送風の強さ、時間などが制御可能となっている。送風装置としては、例えば、送風ファンを用いることができる。この場合、送風入口12を介してドラム11の反対側に送風ファンを設置すればよい。
【0052】
なお、粒子粉砕装置1では、ドラム11の内部に浮遊する微粒子53をドラム11の外部に送り出すために送風装置を使用しているが、気流を生じさせるものであればよく、気体を吸引する吸引装置を使用してもよい。送風装置が作り出す気流と同方向の気流を作り出すように送風出口13側に送風ファンを設けることにより、送風ファンを吸引装置として使用できる。例えば、後述する吸入試験装置の排気口34より下流に送風ファンを設置することにより、吸引装置として使用できる。この場合、空気圧の調整のために送風入口をフィルター等を設けて開放しておくことが好ましい。
【0053】
回転装置は、ドラム11の回転用部材20を介してドラム11を回転させる装置である。回転装置は、ドラム11の円筒形状の中心軸を回転軸として、この回転軸が水平になるようにドラム11を回転させている。回転装置では、回転の速度、時間などが調節可能である。
【0054】
ドラム11では、超音波破砕機のプローブをドラム内の中心軸にぶら下がるような形で設置してもよい。これにより粉砕効率を上げることができる。なお、プローブへの電源コードは中心軸の排出口18を介して送気管内を通し、送風入口12から外部に出せばよい。
【0055】
(吸入試験装置の構成)
図4は本発明に係る吸入試験装置の一実施形態の構成を表す部分分解概略図である。図4に示すように吸入試験装置3は、粒子粉砕装置1と、飼育ユニット(曝露チャンバー)31と、粒子粉砕装置1のドラム11に連結されている供給管(供給手段)32とを備えている。すなわち、吸入試験装置3は、微粒子の均一化処理機構を有する吸入試験装置である。粒子粉砕装置1は、ドラム11の回転軸が略水平になるように吸入試験装置3に備え付けられている。さらに吸入試験装置3には、供給口33から送り出された気体および微粒子53を排出するための排気管39および排気口34、ならびに排水溝35が設けられている。排気管39には、吸気口42が形成されている。図中の矢印f1は、微細な微粒子53を含む気体の流れを示している。
【0056】
粒子粉砕装置1は、ドラム11の回転軸が水平となるように、吸入試験装置3に配設されている。なお、粒子粉砕装置1は、回転用部材20を介して回転装置と連結しており、送風入口を介して送風装置と連結している。
【0057】
飼育ユニット31は、マウス、ラットおよびモルモットなどの被験動物に微粒子53を吸入曝露するためのチャンバーである。飼育ユニット31には、マウスなどの被験動物を留めておくための複数のマウスケージ36がケージ固定棚板38に固定され入れられている。
【0058】
マウスケージ36は、底がフィルター37で構成されており、微粒子53が上から下へ通り抜ける構造となっている。これにより、微粒子53がマウスケージ36内に堆積すること、飼育ユニット31内に滞留することを防ぐことができる。したがって、常に一定の濃度の微粒子53を被験動物に曝露することができる。この効果が得られる点、およびマウスの居住に適している点から、フィルター37は目の粗いスポンジおよび厚手の空調用フィルター部材等が好ましい。
【0059】
飼育ユニット31はパンチング棚板40で覆われている。図4では、説明のため、飼育ユニット31内にあるマウスケージ36などを吸入試験装置3の外に図示している。気流中の微粒子53を飼育ユニット31内に送り込むことにより、飼育ユニット31内に入れられた被験動物に微粒子53を吸入曝露させている。
【0060】
供給管32は、ドラム11から送風により送り出される微粒子53を飼育ユニット31の近傍まで運搬し、微粒子53を飼育ユニット31に供給するための管である。供給管32は、飼育ユニット31の近い側の先端部に、運搬された微粒子53を飼育ユニット31に供給するための供給口(供給手段)33を有している。
【0061】
吸入試験装置3では、飼育ユニット31の上部に供給口33が設けられ、かつ飼育ユニット31の下部に排気口34が設けられている。したがって、鉛直方向上部から下部に向かう気体の流れが生じる構成となっている。しかしながら、飼育ユニット31と、供給口33と、排気口34との位置関係は、飼育ユニット31の内部に対して気体の流れが生じるものであれば、本実施形態に限定されるものではない。
【0062】
吸入試験装置3において、ドラム11から送り出された微粒子53の運搬は、粒子粉砕装置1に連結している送風装置の送風によりなされている。しかしながら、別に吸引装置を設け、排気口34が設けられている側から、吸引装置により微粒子53とともに気体を吸引することによって気体および微粒子53の流れを作り出すものであってもよい。この場合には、送風装置の代わりに吸引装置と連結している粒子粉砕装置1を使用することが好ましい。粒子粉砕装置1と連結させる吸引装置を吸入試験装置3の排気口34側に設けることにより、この吸引装置を用いて、微粒子53の運搬および供給を同時におこなうことが可能となる。
【0063】
(粉砕後の微細な微粒子の回収方法)
粒子粉砕装置1を用いて微粒子52を粉砕し、ドラム11から粉砕後の微細な微粒子53を選択的に回収する本発明に係る方法について、以下に説明する。
【0064】
<粉砕工程>
まず、粉砕ビーズ51および粉砕すべき微粒子52を、ドラム11の側面に設けられた扉(図示せず)からドラム11内に導入する。
【0065】
導入後、回転装置を駆動させてドラム11を回転させることにより、ドラム11の内部で、粉砕ビーズ51と重合している微粒子52とを攪拌する。このときのドラム11の回転速度は、1秒/1回転〜20秒/1回転程度であることが望ましい。この速度においては、ドラム11内部の微粒子52および粉砕ビーズ51を十分に攪拌することができる。重合している微粒子52が粉砕ビーズ51と接触しながら攪拌されることにより、重合している微粒子52が粉砕され、微細な微粒子53が生じる。ドラム11の内壁には回転軸に平行な内羽根16が設けられているため、ドラム11の回転により、ドラム11の底部にある粉砕ビーズ51と重合している微粒子52とがすくい上げられる。そして、ある程度の高さまですくい上げられると、粉砕ビーズ51、重合している微粒子52および粉砕された微細な微粒子53が内羽根16から落下する。これにより、粉砕ビーズ51および微粒子52の攪拌が効率よく行われる。
【0066】
粉砕に用いられる粉砕ビーズ51に、特に制限はないが、攪拌により粉砕されることのない硬い材質、攪拌停止後に浮遊することのない粒径、重合している微粒子52を効率よく粉砕できる粒径が望ましい。粉砕ビーズ51の粒径が微粒子52に対して大きすぎると、粉砕のパワーは大きいものの粉砕ビーズ51と粉砕ビーズ51との隙間に微粒子52が入り込んでしまい、効率よく粉砕を行えない。一方、粉砕ビーズ51の粒径が微粒子52に対して小さすぎると、きめ細かな粉砕を行えるものの粉砕のパワーが小さくなってしまう。このような観点から、粉砕ビーズ51の粒径は、0.1mm以上20mm以下であることが望ましい。より望ましくは、1mm以上5mm以下である。
【0067】
また、粉砕には、粒径が互いに異なる複数種類の粉砕ビーズ51を混合して用いることができる。これにより、粉砕のパワーと、粉砕のきめ細かさ(ムラの無さ)とを兼ね備えた効率的な粉砕を達成することができる。たとえば、粒径1mmの粉砕ビーズ51および粒径5mmの粉砕ビーズ51を混合することによって、粉砕の効果をより高めることができる。
【0068】
粉砕ビーズ51の材質としては、硬度の観点から、ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、トレセラム(酸化イットリウムを添加した酸化ジルコニウム)、アルミナ、天然ケイ石、窒化珪素およびダイヤモンドなどを用いることが望ましく、中でもジルコニウムが望ましい。互いに硬度が異なる粉砕ビーズ51を混合して利用した場合、粉砕ビーズ51同士で粉砕し合って、微細化してしまい、微細化した粉砕ビーズ51が実験に影響を与えてしまう可能性がある。そのため、上記何れかの材質からなる粉砕ビーズ51を単独で用いることが好ましい。
【0069】
<回収工程>
攪拌が終了したら、ドラム11の回転を停止し、ドラム11を静置させる。ドラム11の回転が停止すると、ドラム11の内部の粉砕ビーズ51、重合している微粒子52および粉砕により生じた微細な微粒子53が鉛直下方に落下する。このときの落下は、自由落下であり、その速度は、ストークスの法則に従う。
【0070】
ここで、それぞれの粒子の落下速度について説明する。各落下速度は、ストークスの法則に従うため、それぞれの粒径に依存する。すなわち、粒径が大きい粒子は落下速度が速く、早く落下し終わる。一方、粒径が小さい微粒子は、落下速度が小さく、粒径が非常に小さい微粒子では、実質上浮遊し続けることになる。表1は、ストークスの式によって求められる、直系40cmの回転ドラム中の微粒子の浮遊時間(落下時間)と粒径との関係を示す表である。表1に示すように、粒径が1μmの粒子では、落下速度が極めて小さく、長時間、ドラムの内部を浮遊し続ける。
【0071】
【表1】

【0072】
本実施の形態において、粒径が大きい粉砕ビーズ51および重合している微粒子52の落下速度は速く、粉砕ビーズ51および微粒子52は、ドラム11の静置後、早い時間で落下し終わる。一方、粉砕により生じた微細な微粒子51の粒径は、粉砕ビーズ51および重合している微粒子52の粒径よりも小さく、落下速度は、重合している微粒子52の落下速度よりも遅い。したがって、ドラム11の回転を停止した後、ドラム11を静置することにより、粒径の大きい粉砕ビーズ51および重合している微粒子52はドラム11の底部に落下させ、微細な微粒子53のみをドラム11の内部を浮遊させることができる。
【0073】
所定の時間、静置させた後、送風装置を稼動させ、送風入口12からドラム11の内部に送風する。これにより、ドラム11の内部を浮遊している微細な微粒子53が送風出口13から排出される。これにより、粉砕された微細な微粒子53を選択的に回収することができる。
【0074】
上述の通り、ドラム11の内部における微細な微粒子53の浮遊時間は、微粒子53の粒径に依存する。そのため、ドラム11を静置する時間を長くするほど、粒径がより大きい微粒子53はドラム11の底部に落下し終わり、粒径がより小さい微細な微粒子53が浮遊することになる。したがって、ドラム11の回転を停止してから、送風を開始するまでの時間を調節することにより、より微細な微粒子53を選択的に回収することができる。
【0075】
微粒子53の回収は、吸引よりも送風によりおこなうことが好ましい。吸引、すなわちドラム11内を一時的に外気と比して陰圧にする場合、ドラム11に構造上の隙間があると、微粒子53だけでなく、隙間から外気中の粒子(実験に不要な、ノイズとして悪影響を及ぼす)を吸い込んでしまう可能性がある。一方、送風の場合、仮に隙間があっても、外気中の粒子が吸い込まれることはない。
【0076】
以上のように、本発明に係る粒子粉砕装置1を用いる方法では、微粒子の落下時間の違いを利用して粒径の異なる微粒子を選択的に回収している。また、粉砕から回収までの時間を長くおくだけで、より粒径の小さい微粒子53を回収することが可能となる。したがって、粒子粉砕装置1によれば、より簡易な機構で、より粒径の小さな微粒子を得ることができる。
【0077】
(吸入試験方法)
本発明に係る吸入試験方法は、本発明に係る粒子粉砕処理方法により調製した微粒子53を被験動物に吸入曝露させるものであれば、他の工程および具体的手段は特に限定されない。しかしながら、本発明に係る吸入試験装置を用いて実施することが好ましい。これにより、より微細な微粒子について吸入試験を実施することができ、さらに、微粒子53が再び合成する前に被験動物に吸入曝露させることができるため、より正確な評価をおこなうことができる。
【0078】
なお、非ヒト被験動物としては、非ヒト哺乳動物を用いることができ、マウス、ラットおよびモルモットなど試験物質の毒性吸入試験に一般的に用いられている非ヒト哺乳動物を用いることが好ましい。
【0079】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0080】
〔実施の形態2〕
本発明に係る他の実施形態について、図8および図9に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施の形態では、上記実施の形態1との相違点について説明するため、説明の便宜上、実施の形態1において説明した部材と同一の機能を有する部材には同一の部材番号を付し、その説明を省略する。
【0081】
まず本実施の形態における吸入試験装置の構成について図8を用いて説明する。
【0082】
実施の形態1と異なり、吸入試験装置3は、2つの粒子粉砕装置1aおよび1bが設けられている。粒子粉砕装置1aはドラム11a、送風入口12aおよび送風出口13aを含む部分であり、粒子粉砕装置1bはドラム11b、送風入口12bおよび送風出口13bを含む部分である。粒子粉砕装置1aと粒子粉砕装置1bとは、直列にはつながっておらず、切り替え器41を介して並列につながっている。また、切り替え器41を介して供給管32とつながっている。
【0083】
切り替え器41は、粒子粉砕装置1aおよび粒子粉砕装置1bの何れか一方からの微粒子53を供給管32へと送るように切り替えるものであり、かつ粒子粉砕装置1aからの微粒子53が粒子粉砕装置1bへ向かうこと、およびその逆が起こることを防止するための部材である。
【0084】
次に、吸入試験装置を2つ備えている吸入試験装置3の送風方法について図9を参照して説明する。
【0085】
微粒子52の粉砕および各ドラム11aおよび11bからの微粒子53の回収は、上記実施の形態1における方法と同様である。図9(a)は、粒子粉砕装置1aのドラム11aに対して送風f2がおこなわれ、微粒子53を含む気流f3が供給管32に送られている状態を表している。この間、ドラム11bに対しては送風をおこなわない。ドラム11bでは回転による攪拌および粉砕がおこなわれ、次いで静置状態となり、微細な微粒子53がドラム11b内を浮遊している状態となる。これにより、粒子粉砕装置1aから微粒子53を供給している間に、粒子粉砕装置1bのドラム11b内に、供給用の微粒子53を準備できる。
【0086】
次いで、切り替え器41を切り替えるとともに、送風先をドラム11aからドラム11bに替える。これにより、図9(b)に示すように、粒子粉砕装置1bのドラム11bに対して送風f2がおこなわれ、微粒子53を含む気流f3が供給管32に送られる状態となる。この間、ドラム11aに対しては送風をおこなわない。ドラム11aでは回転による攪拌および粉砕がおこなわれ、次いで静置状態となり、微細な微粒子53がドラム11a内を浮遊している状態となる。これにより、今度は、粒子粉砕装置1bから微粒子53を供給している間に、粒子粉砕装置1aのドラム11a内に、供給用の微粒子53を準備できる。したがって、再び、切り替え器41を切り替えて図9(a)の状態にすることにより、微粒子53の供給を続けることができる。
【0087】
すなわち、各ドラムからの微粒子53の回収・供給の時期が互いにずれており、一方が微粒子53を回収・供給している間、他方は、粉砕および静止の状態にある。また、一方のドラムから微粒子53を回収・供給する際、他方のドラムを介さずに回収・供給される。
【0088】
本発明に係る吸入試験方法は、(1)ドラムの回転、(2)ドラムの静止、および(3)ドラムに対する送風、により微粒子53を被験動物に曝露するものである。そのため、被験動物へ常時、微粒子53を暴露する実験を計画したとき、(1)ドラムの回転、(2)ドラムの静止、および(3)ドラムに対する送風、を繰り返さなければならない。ドラムの回転および静止中は、被験動物に微粒子53を暴露することができないため、ドラムを1個のみ含む吸入試験装置を用いた場合、被験動物に常時微粒子53を暴露するということができない。
【0089】
本実施の形態に示す吸入試験装置3では、2つのドラム11a、11bについて交互に「送風」と「回転、静止」とを進めれば、飼育ユニット31には常時、微粒子53を暴露することができる。
【0090】
なお、本実施の形態では粒子粉砕装置が2つ設けられた吸入試験装置3について説明したが、粒子粉砕装置の数は2つに限られるものではなく、3つ以上であってもよい。
【実施例】
【0091】
次に、上述した第1の実施形態に係る吸入試験装置3の具体的な数値実施例について図5〜図7に基づき説明する。なお本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではない。
【0092】
粒子粉砕装置1のドラム11として、直径40cmおよび幅20cmのステンレス製のドラムを使用した。粉砕ビーズ51には、2種類の粉砕用ジルコニウムビーズ(直径5mm、重量300g、および直径1mm、重量218g)を使用した。ドラム11内部にこれら粉砕用ジルコニウムビーズを入れ、粉砕する微粒子として二酸化チタンをドラム11内部に入れた。
【0093】
ドラム11を10秒/1回転の回転スピードで15分間回転させた。次いで回転を止め、2分間静止させた。2分経過後、送風入口12から送風出口13に向けてドラム11内部への送風を開始した。送風出口13から排出され、飼育ユニット31に供給される微粒子を回収した。
【0094】
図5は、送風出口13から排出された微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した様子を示す図である。図中右側は、図中左側の四角枠で囲んだ部分の拡大図である。図5に示すように、飼育ユニット31において被験動物に曝露する微粒子の粒径が1000nm未満であることが確認された。
【0095】
また、粉砕をおこなう前および粉砕後に二酸化チタン粒子を散布し、飼育ユニット31のマウスケージ36に堆積した微粒子を光学顕微鏡下で観察し、粒径の分布を測定した。図6および7は、測定された粒子直径とその出現頻度の関係を示すグラフであり、横軸は粒径(μm)、縦軸は出現頻度(%)を表す。図6は、粉砕前の散布粒子での結果を示すグラフであり、図7は、粉砕後の散布粒子での結果を示すグラフである。表2は、測定された微粒子の直径の範囲と測定された粒子の平均粒子直径をまとめた表である。図7に示すように、粉砕後では、粒径が5μm以上である粒子がカウントされる頻度が粉砕前と比較して減少していることが分かる。また表2に示すように、粉砕処理後では全体的に粒子の直径が小さくなり、粒径のばらつきが小さくなっている。すなわち、微粒子が均一化されている。
【0096】
【表2】

【0097】
(付記事項)
なお、本発明を以下のように表現することも可能である。
(第1の構成)
微粒子と微粒子を粉砕する粉砕用粒子を攪拌することによって微粒子を細分化する手段を備えた微粒子処理装置。
(第2の構成)
攪拌する動力が回転装置を利用した回転力によることを特徴とする第1の構成に記載の微粒子処理装置。
(第3の構成)
粉砕用粒子が二つ以上の粒径を有することを特徴とする第1の構成または第2の構成に記載の微粒子処理装置。
(第4の構成)
粉砕用粒子が二つ以上の材質からなることを特徴とする第1の構成から第4の構成の何れかに記載の微粒子処理装置。
(第5の構成)
第1の構成から第5の構成の何れかの微粒子処理装置を備え、微粒子処理装置で生成した微粒子を送風によって動物に曝露する吸入試験装置であって、送風に静止時間を設けることにより細分化できていない微粒子を落下させた後、浮遊する微粒子を送風によって運搬する吸入試験装置。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、均一なナノサイズ微粒子を得ることができ、ナノサイズ微粒子の安全性評価に必要な吸入試験をより正確に実施することができる。したがって、本発明は、製薬業界、医療業界および農薬製造業界などに好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0099】
1 粒子粉砕装置
3 吸入試験装置
11,11’,11a,11b ドラム(容器)
12,12a,12b 送風入口(送風手段、吸気手段)
13,13a,13b 送風出口(送風手段、吸気手段)
16 内羽根(羽根)
18 排出口(送風手段、吸気手段)
19 排出口(送風手段、吸気手段)
20,20a,20b 回転用部材(回転手段)
31 飼育ユニット(曝露チャンバー)
32 供給管(供給手段)
33 供給口(供給手段)
34 排出口
36 マウスケージ
41 切り替え器
51 粉砕ビーズ(粉砕用粒子)
52 微粒子(被粉砕粒子)
53 微粒子(微細粒子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の容器を備えており、該容器内に入れられた粉砕用粒子および被粉砕粒子を攪拌することにより該被粉砕粒子を微細粒子に粉砕する粒子粉砕装置であって、
上記容器は、上記容器内に浮遊する上記微細粒子を上記容器の外部へ送り出す送風手段または上記容器から吸引する吸気手段を有していることを特徴とする粒子粉砕装置。
【請求項2】
上記容器は、筒状構造の中心軸を回転軸として上記容器を回転させる回転手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の粒子粉砕装置。
【請求項3】
上記容器の内壁に、上記回転軸と平行に延伸する羽根が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の粒子粉砕装置。
【請求項4】
被験動物に試験物質を吸入曝露させる吸入試験装置において、
請求項1から3までの何れか1項に記載の粒子粉砕装置と、
曝露チャンバーと、
上記粒子粉砕装置から回収された上記微細粒子を上記曝露チャンバー内に供給する供給手段とを備えていることを特徴とする吸入試験装置。
【請求項5】
上記粒子粉砕装置は、上記送風手段を備えており、
上記供給手段では、送風により上記微細粒子を供給することを特徴とする請求項4に記載の吸入試験装置。
【請求項6】
上記容器は、筒状構造の中心軸を回転軸として上記容器を回転させる回転手段を有しており、
上記粒子粉砕装置は、上記回転軸が略水平となるように配設されていることを特徴とする請求項4または5に記載の吸入試験装置。
【請求項7】
上記粒子粉砕装置を複数個備えており、複数の上記粒子粉砕装置の各は互いに独立して設けられていることを特徴とする請求項4から6までの何れか1項に記載の吸入試験装置。
【請求項8】
筒状の容器内に入れられた粉砕用粒子および被粉砕粒子を攪拌することにより、該被粉砕粒子を微細粒子に粉砕する粉砕工程と、
上記粉砕工程の後に、上記容器内に送風をおこなうか、または上記容器内に対して吸気をおこなうことにより、上記容器内に浮遊する上記微細粒子を回収する回収工程とを含むことを特徴とする粒子粉砕方法。
【請求項9】
上記粉砕工程では、回転軸を略水平にして上記容器を回転させることにより、上記粉砕用粒子および上記被粉砕粒子の攪拌をおこなうことを特徴とする請求項8に記載の粒子粉砕方法。
【請求項10】
上記粉砕工程と上記回収工程との間に、回収する上記微細粒子の大きさに基づいて予め設定した時間、上記容器を静置させることを特徴とする請求項9に記載の粒子粉砕方法。
【請求項11】
上記粉砕工程では、粒径が互いに異なる2種類以上の上記粉砕用粒子を混合して用いることを特徴とする請求項9または10に記載の粒子粉砕方法。
【請求項12】
上記容器を複数個使用し、複数の上記容器の各における上記回収工程の時期が互いにずれており、上記複数の容器のうち何れか1つの容器が上記回収工程にあり、
上記何れか1つの容器における上記回収工程では、上記回収工程にない上記複数の容器のうちの他の容器を介さずに、上記微細粒子を回収することを特徴とする請求項8から11までの何れか1項に記載の粒子粉砕方法。
【請求項13】
請求項8から12までの何れか1項に記載の粒子粉砕方法により粉砕した上記微細粒子を、非ヒト被験動物に曝露することを特徴とする吸入試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−203913(P2010−203913A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49614(P2009−49614)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】