説明

微粒子の製造方法及び製造装置

【課題】 高融点原料を用いても容易に微粒化でき、先に開発した技術では容易には実現できなかったサブμmオーダーの微粒子も比較的容易に得ることができ、微粒化及び冷却固化条件を調整することにより、微粒子を非晶質とし、又は、得られる微粒子を所望の結晶粒径を有する多結晶とする微粒子の製造方法並びに装置を提供する。
【解決手段】 微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料1を液体冷媒3の中に液滴1a又はジェット流として供給し、当該液体冷媒3に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させ、微粒化すると共に冷却固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の製造方法及び製造装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、微粒化しようとする原料を溶融してから冷媒にて冷却して微細化すると共に固化する微粒子の製造方法及び製造装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属粉末を製造する方法として、溶融材料の流れに高圧の水ジェットを噴射して金属粉末を得る水アトマイズ法、この水アトマイズ法の水ジェットに変えてNガスやArガスを噴霧するガスアトマイズ法、高速回転する回転ドラム内の冷却水中に溶融材料ジェットを噴射させる遠心法がある。また、ミルなどを用いた機械的粉砕などのブレークダウン法によっても、更には沈殿法やゾルゲル法などのビルドアップ法によっても微粒子は製造される。
【0003】
しかしながら、水アトマイズ法やガスアトマイズ法では、高圧の冷却水や冷却ガスの流れによって溶融材料を粉末状にするので、ノズルの構造が複雑になると共に、ノズルに負担がかかり耐久性に劣っていた。一方、遠心法では、回転ドラムを高速回転させることから装置の構造が複雑になる。しかも、これら製造方法は、いずれも衝突エネルギを利用して粉砕するため、微粒化にばらつきが生じ、歩留まりが悪くなる。また、機械的粉砕などによるブレークダウン法では、大きな粒子、例えば100μm程度のものまでしかできず、沈殿法などのビルドアップ法では1μm程度までの微粒子でそれよりも大きな粒子は得られなかった。したがって、従来の微粒子製造方法並びに装置では、数μmから10μmオーダー、特に3μm程度の大きさの微粒子を得ることが困難であった。更に、ブレークダウン法によると、微粒化できずに大きな固まりとして残る割合が多いので、歩留まりが悪くなる。しかも、粒径分布が分散して、所望とする径の微粒子が大量に得られないという問題がある。
【0004】
一方、従来の非晶質金属の製造方法としては液体急冷法が知られている。この方法は溶融させて液体となった金属を冷媒中に噴出させること等により溶融材料を冷却凝固させて非晶質金属を製造するものであるが、この中で冷却速度を比較的大きくできる遠心法によっても、通常の沸騰冷却若しくは対流冷却による熱伝達では溶融材料と冷媒との二液間の熱流速が最大でも限界熱流束に限定されてしまうので、冷却速度は10〜10K/sが限界となり、非晶質化できる金属が限定されてしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本出願人は先に、微粒化又は非晶質化させる原料を溶融した溶融材料を液状の冷媒中に小さい速度差で供給して自発核生成による沸騰を起こさせ、圧力波を利用して溶融材料を微粒化及び非晶質化する製法を出願した(特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】WO01/81033
【特許文献2】WO01/81032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、先に出願した方法によると、例えば、800℃以上の融点を有する高融点原料を用いた場合、蒸気膜が凝縮によっては十分に崩壊できず、十分な微粒化又は非晶質化ができなかった。
【0008】
本発明は、先に開発した技術をさらに改良し、高融点原料を用いても容易に微粒化でき、先に開発した技術では容易には実現できなかったサブμmオーダーの微粒子も比較的容易に得ることができる微粒子の製造方法並びに装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために検討を重ねた結果、凝縮によらないと崩壊できないと考えられていた蒸気膜は所定の条件で強制的に壊すことができ、これによって蒸気爆発を促進させれば、サブμmオーダーの微粒子も比較的容易に得ることができ、高融点の原料であっても、水を冷媒として用いて容易に微粒化できることを知見し、本発明を完成した。
【0010】
かかる本発明の第1の態様は、微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料を液体冷媒の中に液滴又はジェット流として供給し、当該液体冷媒に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させ、微粒化すると共に冷却固化することを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0011】
かかる第1の態様では、液体冷媒中に供給された溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊することにより蒸気爆発を促進するので、サブμmオーダーの微粒子も比較的容易に得ることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記溶融材料を前記液体冷媒の流れの中に供給して当該液体冷媒の流れに入った前記溶融材料の速度と当該液体冷媒の流れの速度との相対速度差を生じさせることによって蒸気膜を強制的に崩壊させることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0013】
かかる第2の態様では、溶融材料の速度と液体冷媒の流れの速度との相対速度差を生じさせることによって蒸気膜を強制的に崩壊させ、これによりサブμmオーダーの微粒子を比較的容易に得ることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記液体冷媒の流れを、一つの高速ジェット流とし、当該高速ジェット流内に前記溶融材料を供給することを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0015】
かかる第3の態様では、高速ジェット流内に入った溶融材料は相対速度差により剪断力を受け、蒸気膜が崩壊される。
【0016】
本発明の第4の態様は、第2の態様において、前記液体冷媒の流れを、複数の高速ジェット流を衝突させて形成し、前記溶融材料を前記高速ジェット流の衝突領域に供給することを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0017】
かかる第4の態様では、複数の高速ジェット流を衝突させて形成された流れの中に入った溶融材料は剪断力を受け、蒸気膜が崩壊される。
【0018】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記高速ジェット流を衝突させて形成した流れを、ガイド部材の中に形成させて流れを分散させないようにすることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0019】
かかる第5の態様では、複数の高速ジェット流を衝突させて形成された流れは、蒸気膜が崩壊されて微粒子となった溶融材料と共にガイド部材の中に流れ込み、且つ生成される圧力波をガイド部材で拘束および反射させて微粒化効率を高めることができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第4又は5の態様において、前記複数の高速ジェット流を、液体冷媒の溜まりの液面近傍で衝突させ、前記溶融材料を前記高速ジェット流の衝突領域に供給することを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0021】
かかる第6の態様では、複数の高速ジェット流を衝突領域に供給された溶融材料は剪断力を受け、蒸気膜が崩壊された状態で液体冷媒の溜まりの中に回収される。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記液体冷媒の溜まりが、前記溶融材料の流れに対向して噴出する噴流であることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0023】
かかる第7の態様では、複数の高速ジェット流を衝突領域に供給された溶融材料は剪断力を受け、蒸気膜が崩壊された状態で液体冷媒の噴流と共に回収される。
【0024】
本発明の第8の態様は、第4〜7の何れかの態様において、前記高速ジェット流を、衝突後に形成される流れの方向に対して4°以上80°以下に傾斜させて衝突させることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0025】
かかる第8の態様では、高速ジェット流は衝突によって飛び散らずに一つの流れとして供給される。
【0026】
本発明の第9の態様は、第2の態様において、前記液体冷媒の流れを移動部材上に液体冷媒を供給することにより形成し、当該液体冷媒内へ前記溶融材料を供給することを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0027】
かかる第9の態様では、液体冷媒が固体である移動部材上に存在するので、液体冷媒の変形が抑制され、溶融材料との相対速度差による蒸気膜崩壊が効率よく促進される。
【0028】
本発明の第10の態様は、第9の態様において、前記移動部材が、円盤状又は円錐状の回転体であることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0029】
かかる第10の態様では、回転体上に供給された液体冷媒上に供給された溶融材料は、回転体上の液体冷媒との相対速度差により、蒸気膜が確実に崩壊される。
【0030】
本発明の第11の態様は、第2〜10の何れかの態様において、前記液体冷媒の流れと前記溶融材料との速度差を1m/sより大きくしたことを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0031】
かかる第11の態様では、液体冷媒の流れの中に入った溶融材料は1m/sより大きい速度差により剪断力を受け、蒸気膜が崩壊され、微粒化される。
【0032】
本発明の第12の態様は、第1の態様において、前記液体冷媒の蒸気を前記液体冷媒中に供給し、当該蒸気の凝縮による圧力波により前記蒸気膜を強制的に崩壊させることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0033】
かかる第12の態様では、液体冷媒の蒸気を凝縮させることによって圧力波を形成し、これにより溶融材料の蒸気膜を崩壊させ、微粒化する。
【0034】
本発明の第13の態様は、第12の態様において、前記液体冷媒の蒸気と共に前記溶融材料を前記液体冷媒の流れの中に供給することを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0035】
かかる第13の態様では、液体冷媒の蒸気と共に液体冷媒の流れの中に供給された溶融材料は、蒸気の凝縮による圧力波を受け、蒸気膜が崩壊され、微粒化される。
【0036】
本発明の第14の態様は、第13の態様において、前記液体冷媒の流れをガイド部材の中に形成させて流れを分散させないようにすることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0037】
かかる第14の態様では、液体冷媒の流れは、蒸気膜が崩壊されて微粒子となった溶融材料と共にガイド部材の中に流れ込む。
【0038】
本発明の第15の態様は、第12の態様において、前記溶融材料を液体冷媒の溜まりの中に供給し、供給された溶融材料に向かって前記液体冷媒の蒸気を供給することにより前記蒸気膜を強制的に崩壊させることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0039】
かかる第15の態様では、蒸気の凝縮によって蒸気膜が強制的に崩壊される。
【0040】
本発明の第16の態様は、第1〜15の何れかの態様において、前記微粒化しようとする原料が、溶融灰、高炉スラグ、セラミックス材、及び金属から選択される一種であることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0041】
かかる第16の態様では、溶融灰、高炉スラグ、セラミックス材、及び金属から選択される一種からなる溶融材料が微粒化される。
【0042】
本発明の第17の態様は、第16の態様において、前記微粒化しようとする原料が、融点800℃以上のものであることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0043】
かかる第17の態様では、融点800℃以上の溶融材料も比較的容易に微粒化される。
【0044】
本発明の第18の態様は、第1〜17の何れかの態様において、前記微粒化及び冷却固化条件を調整することにより、得られる微粒子を非晶質とすることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0045】
かかる第18の態様では、微粒化及び冷却固化条件を調整することにより、溶融材料が微粒化した後の冷却状態を調整し、微粒子を非晶質とする。
【0046】
本発明の第19の態様は、第1〜17の何れかの態様において、前記微粒化及び冷却固化条件を調整することにより、得られる微粒子を所望の結晶粒径を有する多結晶とすることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0047】
かかる第19の態様では、微粒化及び冷却固化条件を調整することにより、溶融材料が微粒化した後の冷却状態を調整し、微粒子を所望の結晶粒径を有する多結晶とする。
【0048】
本発明の第20の態様は、第1〜19の何れかの態様において、前記液体冷媒は塩が添加されたものであることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0049】
かかる第20の態様では、液体冷媒への塩の添加により溶融材料の蒸気膜の崩壊がより促進される。
【0050】
本発明の第21の態様は、第1〜20の何れかの態様において、前記液体冷媒は当該液体冷媒と前記蒸気膜との気液界面を乱す無機微粒子が添加されたものであることを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0051】
かかる第21の態様では、液体冷媒へ、溶融材料と蒸気膜との気液界面を乱す無機微粒子を添加することにより、蒸気膜の崩壊がより促進される。
【0052】
本発明の第22の態様は、第1〜21の何れかの態様において、前記溶融材料の酸化を防止しながら前記液体冷媒中に供給することを特徴とする微粒子の製造方法にある。
【0053】
かかる第22の態様では、溶融材料の酸化による変質を防止すると共に酸化による蒸気爆発の抑制を防止し、微粒化を促進する。
【0054】
本発明の第23の態様は、微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料をその供給量を制御しながら供給する材料供給手段と、溶融材料を冷却固化させる液体冷媒を含む冷却部と、当該液体冷媒に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させて微粒化すると共に冷却固化する蒸気膜崩壊手段と、液体冷媒中から微粒子を回収する回収手段とを備えることを特徴とする微粒子の製造装置にある。
【0055】
かかる第23の態様では、液体冷媒中に供給された溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊することにより蒸気爆発を促進するので、サブμmオーダーの微粒子も比較的容易に得ることができる。
【0056】
本発明の微粒子の製造方法は、微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料を液状の冷媒中に供給し、当該液体冷媒に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させ、微粒化すると共に冷却固化することにより、高融点原料を用いても容易に微粒化でき、先に開発した技術では容易には実現できなかったサブμmオーダーの微粒子も比較的容易に得ることができるという効果を奏するものである。なお、本発明の微粒子の製造方法は、金属に限られず、溶融灰や高炉スラグその他のセラミック材など、溶融しかつ冷却により固化するすべての材料を対象にすることができる。
【0057】
また、本発明で、液体冷媒中に供給された溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させる手段としては、詳細は後述するが、第一に、溶融材料を液体冷媒の流れの中に供給して当該液体冷媒の流れに入った溶融材料の速度と液体冷媒の流れの速度との相対速度差を生じさせて蒸気膜を崩壊させるという手段、第二に、液体冷媒の蒸気を前記液体冷媒中に供給し、当該蒸気の凝縮による圧力波により蒸気膜を強制的に崩壊させるという手段、などを挙げることができる。
【0058】
微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料を液体冷媒の中に液滴又はジェット流として供給すると、液体冷媒中に供給された溶融材料の周りには、溶融材料の熱を受けて液体冷媒が蒸発することによって蒸気膜が形成される。この蒸気膜は、溶融材料からの熱を受けて進行する蒸気と冷媒による冷却との熱収支がバランスすることによって形成される。本発明では、このように形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させる。すなわち、蒸気膜を強制的に崩壊させると、自発核生成による沸騰が生じ、溶融材料は微粒化される。
【0059】
この自発核生成による沸騰は冷媒の内部から沸騰を開始する。核沸騰が水中で発生するには、水・冷媒の表面張力に打ち勝ち気泡核を生成することが必要であり、そのときの開始温度条件が自発核生成温度であり、例えば水であれば1気圧下で313℃である。したがって、蒸気膜が崩壊して溶融材料と冷媒とが直接接触するときのその界面温度が自発核生成温度以上であれば、冷媒中に気泡核が生成され、そして、一旦気泡核が形成されると、100℃で蒸発できるので、次々にそこに蒸気が集まって爆発的な沸騰となる。そして自発核生成による蒸気生成は急速であり圧力波の発生を伴うので、この圧力波によって溶融材料滴が引きちぎられるように砕かれて微粒化される。特に、強制的に蒸気膜を崩壊させるので、溶融材料の粒子の全体に高い圧力波を一様に受けるため、大きな固まりを残すことなく、効率的に微粒化できる。同時に、微粒化された溶融材料は、その比表面積が大きくなることから更に冷却が早くなる。そして潜熱移行により冷却凝固される。この溶融材料の微粒化は、さらにその比表面積を大きくして冷却速度が高まることから、それが更に冷媒からの蒸発を増やして更なる圧力波を生み出すという正のフィードバックがかかり、微粒化が促進されると同時に急速に冷却される。このときの冷却速度は、例えば10K/sを大きく上回る速度で溶融材料を急速に冷却凝固することができる。
【0060】
本発明では、このような微粒化及び冷却固化条件を適宜調整することにより、得られる微粒子を非晶質、又は多結晶とすることができる。すなわち、液体冷媒中に供給される溶融材料の粒径、強制的に崩壊させる圧力等の条件、微粒化された粒子の粒径、溶融材料と液体冷媒の一連の接触状態におけるそれぞれの温度等の条件を調整することにより、冷却速度が決定され、これにより、製造される微粒子が非晶質か、又は多結晶か、さらには、多結晶の場合にはその結晶粒径のサイズを適宜調整することができる。
【0061】
本発明の微粒子の製造方法は、溶融材料を数珠状に滴下又はジェット流として液体冷媒中に供給し、供給された溶融材料の周りに形成された蒸気膜を強制的に崩壊させるものである。この場合、滴下された溶融材料の殆どの体積が冷却材の自発核生成に関与することになり、溶融材料滴の微粒化を促進して微粒子回収率が一段と向上する。高い効率(微粒化と冷却速度)を得たい場合には、溶融材料の液滴径又はジェット径が小さいことが好ましい。
【0062】
また、液体冷媒中に供給される溶融材料の液滴径又はジェット径を小さくするために、溶融材料が冷媒に触れる前に超音波を照射するようにしてもよい。この場合、ある程度細かくなった溶融材料の滴として液体冷媒中に供給することができるため、溶融材料の液滴の表比面積を大きくして全体的に蒸気爆発に関与するため微粒化がより一層促進されると共に、その冷却速度をより一層向上させることができる。また微粒子粒径分布は狭くなり、所望の粒径のみを得ることができる。
【0063】
ここで、本発明では、溶融材料に形成された蒸気膜を、蒸気膜の凝縮を待たず、強制的に崩壊させるので、微粒化しようとする原料の融点が比較的高いものでもよく、例えば、融点800℃以上の原料も容易に微粒化することができる。
【0064】
また、本発明の微粒子の製造方法において、液体冷媒に塩を添加してもよい。この場合、塩は溶解して溶融材料を覆う蒸気膜の周りに存在して気液界面の状態を乱すので、蒸気膜が崩壊されやすくなる。塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウムの使用が可能である。勿論、溶融材料と反応しない種類の塩を選択して使用することが望まれることは言うまでもない。
【0065】
同様に気液界面の状態を乱す目的で、液体冷媒中に無機微粒子を混在させてもよい。このような無機微粒子は蒸気膜の周りに存在して気液界面を乱すように作用し、蒸気膜の崩壊を促進する。無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ダイヤモンド粉末などを挙げることができる。
【0066】
更に、溶融材料が金属のように酸化し易い材質の場合、冷媒中に供給される前に空気に触れると酸化される虞がある。溶融金属の酸化は金属の性質を変化させてしまう上に、酸化膜が一様につかないため、全体で同時に微粒化・冷却が行えない虞があり、このため、蒸気爆発をうまく利用できずに微粒化の効率が落ちる虞がある。そこで、本発明の微粒子の製造方法では、溶融材料、特に溶融金属の酸化を防止しながら液体冷媒中に供給するようにしてもよい。
【0067】
ここで、本発明の製造方法を実施する微粒子の製造装置は、微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料をその供給量を制御しながら供給する材料供給手段と、溶融材料を冷却固化させる液体冷媒を含む冷却部と、当該液体冷媒に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させて微粒化すると共に冷却固化する蒸気膜崩壊手段と、液体冷媒中から微粒子を回収する回収手段とを備える。
【0068】
この装置の場合、溶融材料を液滴として供給し、当該液体冷媒に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させ、微粒化すると共に冷却固化する。そして、凝固した微粒子を冷媒から分離するだけで回収することができる。したがって、複雑な構造のアトマイズノズルや高速回転駆動機構あるいはそれらに付帯する動力部分を必要とせず、設備費用が安価であると共に耐久性に優れかつ故障の虞が少ないものである。
【0069】
ここで、供給する溶融材料と液体冷媒の量を少量とすることにより、自発核生成による沸騰を、冷媒中に滴下した溶融材料を微粒化させる程度の大きさの圧力波を生じさせる規模のものにすることで、自発核生成による沸騰で生じる圧力波が必要以上に大きくなるのを防止でき、大規模な蒸気爆発の発生を防止することができる。また、冷却部に留まる冷媒の量を材料供給手段における制御を失って溶融材料が一度に供給されても大規模な蒸気爆発を起こさない量とすることにより、材料供給手段が壊れて大量の溶融材料が流出したとしても、事故につながる大規模な蒸気爆発を招くことはない。さらに鋭意研究を行った結果、むしろ少量ずつ蒸気爆発させる方が、蒸気爆発に関与する比表面積が増大するために、冷却および微粒化効率を向上させることができることが分かった。
【0070】
また、本発明の微粒子の製造装置は、材料供給手段が、液体冷媒中に溶融材料を数珠状に滴下又はジェット流として供給するものである。したがって、供給された溶融材料の殆どの体積が自発核生成に関与し、溶融材料滴の微粒化を促進することができる。
【0071】
また、本発明の微粒子の製造装置は、材料供給手段と冷媒の間に溶融材料に対して超音波を照射する手段を備えるようにしている。したがって、微細化手段である超音波照射手段によってある程度細かくした溶融材料の滴を冷媒中に供給することができる。このため、冷媒中における溶融材料の微粒化をより一層促進することができると共に、その冷却速度をより一層向上させることができる。しかも、超音波照射による微細化技術は既に確立されているので、安全かつ簡単に溶融材料の一次微粒化は実現される。
【0072】
また、本発明の微粒子の製造装置は、材料供給手段から冷却部に供給される溶融材料の酸化を防ぐ手段を備えるようにしている。したがって、溶融材料を酸化させずに冷媒に接触させることができ、自発核生成による沸騰を生じさせ易くすることができる。また、溶融材料の液滴が冷却部の周りに飛散することを防ぐこともできる。
【発明の効果】
【0073】
以上説明したように、本発明の製造方法及び装置を用いて溶融材料を微粒化させる場合、従来の方法では粉末を得ることが困難又は非晶質化が困難な物質でも、容易に微粒化又は非晶質化でき、また、融点が800℃以上と高融点の材料でも最も安価で取り扱い易い水を冷媒として用いて容易に微粒化できる。また、微粒化条件を適宜調整できることから、非晶質化又は多結晶の結晶粒径の調整を行うこともでき、用途に応じた微粒子を得ることができる。しかも、従来では実現不可能だった材料でサブμmオーダーの微粒子が製造できることから、従来は実現困難であった新たな材料が提供できるという効果を奏する。
【0074】
さらに、例えば、従来実現できない材料から非晶質微粒子を得て、メカニカルアローイング(合金化)、焼結、HIP(熱間等方圧加工法)などを用いてバルク形状を製造することができ、各種用途、例えば、軟磁性などの特長を有する磁性材料、超寿命の形状記憶合金、水素吸蔵合金、強靱性金属、高耐食性金属、超伝導材料、触媒材料などへの応用が期待でき、材料の強靱化などの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下、本発明の構造を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0076】
図1に本発明の微粒子製造方法を実施する一製造装置を概念的に示し、図2に一製造装置の要部拡大図を示す。この製造装置は、溶融材料1をその供給量を制御しながら供給する材料供給手段10と、溶融材料1を冷却固化させる液体冷媒3を導入して材料供給手段10から供給された溶融材料1と混合させ、溶融材料1の液滴1aと液体冷媒3との間に速度差を生じさせて液滴1aの周りに形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて自発核生成による沸騰を利用して微粒化させると同時に冷却する冷却部20と、液体冷媒3から固化した溶融材料微粒子を回収する回収手段30を備えており、材料供給手段10及び冷却部20が蒸気膜崩壊手段を兼ねている。
【0077】
材料供給手段10は、例えば、保温用ヒータ11を備えたるつぼ12によって構成されている。このるつぼ12は、底面に設けられた出湯口12aを開閉するストッパ13と、るつぼ12内の溶融材料1の温度を計測する熱電対14とを備えている。ストッパ13は図示しないアクチュエータによって上下動することによって、出湯口12aから落下する溶融材料1の量を制御し、あるいは完全に停止させる。溶融材料1の供給は、微粒化効率を上げると共に事故に繋がる大規模な蒸気爆発を起こさないようにする上で、できるだけ少量としかつ比表面積を大きくした状態であることが好ましい。そこで、本実施形態では、例えば数g程度の液滴にして1滴ずつ数珠状に滴下させるようにしている。しかし、これに特に限定されるものではなく、高い微粒化効率を得たい場合には溶融液滴径よりも小さくすることが好ましく、例えば数100μm、最も好ましくは霧状にして液体冷媒3と接触させる。また、ジェット流として供給してもよい。
【0078】
冷却部20は、本実施形態の場合、冷たい液体冷媒3を高速ジェット流であるの噴流3aとして供給し、この噴流3aの中に溶融材料1の液滴1aを混合させて通過させる複数のノズル(以下噴流ノズルと呼ぶ)21と、この噴流ノズル21からの液体冷媒3の噴流3aの流れを案内するガイド部材22とによって構成されている。ガイド部材22は、噴流ノズル21からの液体冷媒3の噴流3aが衝突した後の分散を防止すると共に、生成される圧力波を拘束および反射させて微粒化効率を高めるという作用を具備する。なお、ガイド部材22は必ずしも設ける必要ない。
【0079】
噴流ノズル21は、液体冷媒3を所定の速度で所定の角度で噴出するものであり、図では2本図示しているが、3本以上の複数本が放射状に配置されていてもよい。勿論、1本の噴流ノズル21であってもよい。本発明では、このような噴流ノズル21からの高速の噴流中に溶融材料1の液滴1aを自由落下に近い速度で供給し、混合された際に液滴1aが大きな速度差による剪断力を受けるようにしている。これにより、液滴1aの周りに形成された蒸気膜が強制的に崩壊され、蒸気爆発を促進させ、微粒化すると共に冷却固化する。
【0080】
この噴流ノズル21は、複数の噴流が衝突した後、一つの下方への安定した流れになり且つ上方に溶融材料1の液滴1aを供給する空間が存在するような角度に設置されている。すなわち、鉛直方向に対して4°以上80°以下とするのが好ましい。なお、噴流ノズル21からの噴流3aの方向は下方に向かう必要はなく、鉛直方向下方から傾斜した方向、水平方向、あるいは上方への方向でもよく、また、これらの場合において、液滴1aの供給方向も特に限定されず、噴流ノズル21により形成される噴流の中に有効に混合される方向であればよい。
【0081】
このような噴流ノズル21からの噴流3aに対して液滴1aを供給する場合、液滴1aは複数の噴流3aの衝突領域に供給するのが好ましい。液滴1aに形成された蒸気膜に効率的に剪断力を与えて効率よく崩壊させるためである。
【0082】
ここで、噴流3aの中に溶融材料1の液滴1aを供給し、相対速度差で蒸気膜を崩壊させるためには、相対速度差が1m/s以上、好ましくは、10m/s以上であるのが好ましい。したがって、液滴1aを自然落下に近い状態で100mm鉛直下方の噴流に供給する場合には、噴流の速度を2.4m/s以上、好ましくは、12m/s以上、溶融材料1を速度0.1〜3m/s程度のジェット流として供給する場合には、3.3m/s以上、好ましくは、13m/s以上とする。
【0083】
ここで、液滴1aの周りの蒸気膜を崩壊させて溶融材料1に液体冷媒3を接触させるための条件を求めてみる。液体冷媒3とその蒸気膜との界面がKelvin−Helmholtz型の不安定現象を生じるとし、界面の代表長さ、この場合に溶融材料1の液滴1aの径が1mmであるとし、1気圧の水の物性値を参照してKelvin−Helmholtz不安定波長が1mmになる相対速度を求めると、25m/sと求まる。この仮定に基づけば、直径1mmの溶融材料1の液滴1aの蒸気膜を崩壊させるためには、液滴1aに対して相対速度25m/sの水噴流を接触させればよいことになり、直径が500μmの場合には、相対速度35m/sの水噴流を接触させればよい。
【0084】
液体冷媒3としては、溶融金属などの微粒化しようとする溶融材料と接触して自発核生成による沸騰を起こし得る液体であれば良く、例えば水や液体窒素、並びにメタノールやエタノール等の有機溶媒やその他の液体を使用することができるが、一般的には経済性並びに安全性に優れる水が使用される。液体冷媒3の選定は溶融材料1の材質に応じて決定されるが、本発明方法では、蒸気膜の崩壊を強制的に行うので、溶融材料1が高融点であっても水を使用することができる。すなわち、先に開発した技術のように蒸気膜の凝縮を待つ場合には、フロン系溶媒、または代替フロン系溶媒などを用いる必要があったが、本発明方法の場合には、水を使用することができる。
【0085】
また、溶融材料1として融点の高いものを使用する場合にも、液体冷媒3に塩を添加してもよい。この場合の添加する塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウムの使用が可能である。勿論、溶融材料と反応しない種類の塩を選択して使用することが望まれることは言うまでもない。また、塩を含む液体冷媒3とする場合には、海水を利用することが好ましい。
【0086】
液体冷媒3への塩の添加は、塩が溶解して溶融材料を覆う蒸気膜の周りに存在するため、その中に存在する水分子が相対的に少なくなり、イオンが邪魔をして冷媒側からの蒸発が起こり難くなるにも拘わらず、凝縮は通常に起こるため、全体として凝縮の方向に向かうものと思われる。したがって蒸気膜崩壊を促進できる。
【0087】
回収手段30は、例えばフィルタである。本実施形態では、2段のフィルタ31,32を使用して、所定粒径の溶融材料微粒子を回収するようにしている。1段目のフィルタ31には目的とする粒径よりも目の粗いものを、2段目のフィルタ32には目的とする粒径よりも目の細かいものを使用する。そして、1段目のフィルタ31を通過して2段目のフィルタ32によって捕捉された溶融材料微粒子を製品として回収する。また、1段目のフィルタ31によって集められた微粒子は、るつぼ12に戻されて再度溶融されてから微細化処理に供するようにしてもよい。なお、フィルタ31,32を通過した液体冷媒3は回収容器33に回収される。
【0088】
この製造装置では、事故に繋がらない程度の小規模な自発核生成による沸騰を起こさせ、それによって生じる圧力波を利用して液体冷媒3中に滴下した溶融材料1を微粒化させるようにしている。
【0089】
また、この製造装置には、少なくとも材料供給手段10から混合ノズル2に供給される溶融材料1の酸化を防ぐ酸化防止手段40が備えられている。また、場合によっては、るつぼ12を含めて製造装置全体を不活性雰囲気で覆う酸化防止手段を設けて、るつぼ12に貯留されている間に溶融材料1が酸化されないように設けられる。この酸化防止手段40は、例えば不活性ガスを利用したものであり、少なくともるつぼ12の出湯口12aと噴流ノズル21との間の空間を外部から遮蔽するケーシング41を設けてその中に不活性ガスを充填したもので、溶融材料1の液滴が不活性雰囲気中を滴下するように設けられている。不活性ガスとしては例えばアルゴン等が使用される。
【0090】
以上のように構成された装置を用いて、以下のようにして、例えば、溶融材料の微粒子を製造することができる。
【0091】
まず、複数本の噴流ノズル21から所定量の液体冷媒3を噴出し、ガイド部材22内に液体冷媒3の高速流を形成する。また、るつぼ12内の溶融材料1を、液体冷媒3と直接接触した場合の溶融材料1と液体冷媒3との界面温度が自発核生成温度よりも十分高くなるような温度まで加熱保温しておく。ここで、加温温度は、強制的に蒸気爆発を起こさせるまでの対流や放射による冷却を考慮し、蒸気爆発発生時において溶融材料1の融点より十分に大きくなるように決定する。
【0092】
この状態で、材料供給手段10のストッパ13を上昇させて、るつぼ12内の溶融材料1を1滴ずつ数珠状に自由落下させる。溶融材料1は、噴流ノズル21の衝突領域で液体冷媒3内に供給され、高速流内に入る。溶融材料1の液滴1aの温度が高いため膜沸騰で発生した蒸気膜で覆われた粗混合状態になる。このとき、蒸気膜は、溶融材料1の熱を受けて冷媒・水が蒸発することによって溶融材料1の液滴1aの周りに発生する。この蒸気膜は、溶融材料1からの熱を受けて進行する蒸発と冷媒による冷却との熱収支がバランスすることによって定在するが、液体冷媒3の高速流と液滴1aの速度との速度差により蒸気膜が強制的に崩壊される。そして、溶融材料1の液滴1aの全面で同時に液体冷媒3と接触して、その界面温度が自発核生成温度以上となることから、溶融材料1の粒子の周りの低温側の液体である液体冷媒3中に自発核生成による沸騰が起こる。自発核生成による沸騰は急速な蒸発を生じ、蒸気泡を急膨張させて高い圧力波を発生させる。この圧力波は極めて高速で伝播し、溶融材料1の粒子の全体に一様に作用することから、粒子は圧力波でひきちぎられるように砕かれて微粒化する。同時に、微粒化により、比表面積が大きくなり、冷却速度を更に高める。それは更に冷媒からの蒸発を増やして、蒸気膜形成、蒸気膜崩壊、自発核生成による沸騰と発展して更なる圧力波を生み出す。
【0093】
そこで、分散したどこかの粒子で蒸気膜が破れると、そこで発生した圧力波が他の粒子に及んで次々に自発核生成による沸騰を引き起こさせる。そしてこの溶融材料1の微粒化は、その比表面積を大きくして冷却を速めることから、それが更に冷媒からの蒸発が増やして更なる圧力波を生み出すという正のフィードバックがかかり、微粒化が促進されると同時に急速に冷却される。したがって、大きな固まりを残すことなく、効率的に微粒化できる。
【0094】
ここで、溶融材料1は、数μmの自発核生成気泡から発生する圧力波を利用して微粒化するので、容易にサブμmオーダーから100μmオーダーまで製造できる。しかも、従来の微粒子製造方法並びに装置では実現困難であった、800℃という高融点の原料を用いても、液体冷媒として水を用いて、容易に、数μm、特に3μm程度の従来方法では得られなかった大きさ、さらには、サブμmオーダーの微粒子の製造を実現できる。しかも、全体が同時に微粒化することによって大きな固まりが残らないので、収率が大きく、歩留まりが良い。更に、粒径分布が集中するので、所望とする径の微粒子が大量に得られる。そして、この場合、単位質量当たりの微粒化効率(微粒化割合)を良くできる。しかも、微粒化が進むと比表面積が大きくなって更に冷却速度も高まる。
【0095】
尚、微細化された微粒子と液体冷媒3はガイド部材22内を落下し、液体冷媒3は1段目のフィルタ31と2段目のフィルタ32を通過して回収タンク33内に戻される。そして、微粒子はフィルタ31あるいはフィルタ32に捕捉される。
【0096】
ここで、図3〜図8を用いて本発明の一実施形態の他の例を示す。
【0097】
図3には、8本の噴流ノズル21をガイド部材22の周囲に均等に配置し、高速噴流を噴出する装置構成を示す。このように8本の噴流ノズル21を設けることにより、120m/s以上の高速で、且つ128L/min以上の流量を確保することができ、微粒子の製造効率を向上させることができる。
【0098】
また、上述の実施形態では、噴流ノズル21によって構成された噴流をガイド部材22の中に流すようにしたが、これに限るものではない。例えば、図4に示すように、冷媒受け23の中に湛えられた液体冷媒3の液面近傍で噴流ノズル21から噴出される噴流3aが衝突するようにしてもよい。この場合、微粒子は冷媒受け23の液体冷媒3の中に製造され、回収部23aから回収される。なお、冷媒受け23中には、液面をほぼ均一にするように常に新しい液体冷媒3が供給され、また、底部には全体の温度を均一にするための攪拌装置24が設けられている。勿論、攪拌装置24は必ずしも設ける必要はない。
【0099】
更には、図5に示すように、噴流ノズル21からの噴流3aを噴流に対向する液体冷媒3の流れ、この場合には、上方に向かう流れで受け止めるようにしてもよい。すなわち、ガイド部材22内に、冷媒噴出管25を設け、この冷媒噴出管25からの噴流25aに向かって噴流3aを噴出するようにしてもよい。なお、噴流25aの方向は上方に向かうものに限定されず、斜め上に向けて(あるいは図示していないが水平方向に向けて)放出させるように冷媒噴出管25を設けてもよい。
【0100】
図6には、移動部材上に液体冷媒3を供給して流れを形成し、ここに溶融材料1の液滴1aを供給することにより液体冷媒3と液滴1aとの相対速度差を形成し、蒸気爆発させる実施形態を示す。
【0101】
図6に示す実施形態では、移動部材として、回転自在に設けられた円錐状のコーン40を採用した。コーン40は、円錐状のコーン本体41と、この上部に設けられた円錐蓋部材42とを具備し、両者は一体的に中心軸を中心に回転駆動されるようになっている。また、コーン本体41の中心部には、下部から上部に向かって液体冷媒3を供給する供給路43を具備し、供給路43はコーン本体41の頂点の供給口44へ連通している。従って、供給路43から供給された液体冷媒3は供給口44から吹き出して円錐蓋部42の内壁で折り返されて回転するコーン本体41の表面を流れ落ちる。
【0102】
本実施形態では、コーン本体41の表面に流れ落ちる液体冷媒3の流れの中へ溶融材料1の液滴1aを滴下する。これにより、液滴1aは、回転するコーン本体41上を流れ落ちる液体冷媒3中に供給される。
【0103】
この場合、液体冷媒3の流れの下に固体であるコーン本体41が存在するので、液体冷媒3の変形が抑えられ、コーン本体41が回転することにより、コーン本体41表面近傍での液体冷媒3と液滴1aとの相対速度差による蒸気膜崩壊が促進される。
【0104】
このようなベーストリガーを利用した実施形態においては、液滴1aを比較的小さくしても容易に強制的に蒸気膜を崩壊できるので、液滴1aの滴下経路に超音波を利用した微細化手段や高圧ガスを利用したガスアトマイズ法などの微細化手段を介在させてもよく、これにより急冷効率を著しく向上させることができる。
【0105】
また、回転部材は円錐形状の他、円盤状でもよい。また、例えば、回転駆動される無端ベルトなど、一方向に移動する部材上に液体冷媒3を供給してもよく、その形態は限定されない。
【0106】
以上説明した実施形態では、溶融材料1の液滴1aと噴流3aとの相対速度差によって液滴1aの蒸気膜を強制的に崩壊させるものを説明したが、蒸気の凝縮による圧力波によって蒸気膜を強制的に崩壊してもよい。
【0107】
このような実施形態の一例を図7に示す。この実施形態では、液体供給部51と蒸気供給部52とを具備する流体ノズル50を用い、液体供給部51からの液体冷媒3の流れに冷媒蒸気5を溶融材料1の液滴1aと共に混合するようにしたものである。すなわち、このような流体ノズル50を用いると、冷媒蒸気5は液体冷媒3に混合されると、急激に冷却されて凝縮するが、このとき冷媒蒸気5と共に供給される液滴1aは凝縮による圧力波を受けて、蒸気膜が強制的に崩壊され、微粒化される。
【0108】
このように蒸気膜を崩壊させるような圧力波が発生するような凝縮を生じさせるためには、液体冷媒3と冷媒飽和温度との温度差は10℃以上必要であり、望ましくは30℃以上である。また、供給される冷媒蒸気5の量は1L/min〜300L/min程度必要である。なお、このとき、液体冷媒3の流速、冷媒蒸気5の流速は特に限定されず、上述したような高速である必要はないが、0.5m/s以上とするのが好ましい。
【0109】
なお、冷媒蒸気5は、液体冷媒3と同一である必要はないが、本発明では、液体冷媒3として水、冷媒蒸気5として水蒸気を用いるのが好ましい。
【0110】
また、蒸気の凝縮力で、液滴1aの蒸気膜を強制的に崩壊させる方法はこれに限定されず、例えば、図8に示すように、冷媒溜55に液体冷媒3を湛えておき、これに液滴1aを供給し、液体冷媒3中に供給された液滴1aの周囲に冷媒蒸気5を蒸気供給管56から供給するようにしてもよい。これにより、蒸気供給管56から供給された蒸気5は凝縮し、この凝縮による圧力波により液滴1aの周りに形成された蒸気膜が強制的に破壊される。そして、この場合、微粒子は冷媒溜55の液体冷媒3の中に製造され、回収部55aから回収される。なお、冷媒溜55中には、液面をほぼ均一にするように常に新しい液体冷媒3が供給され、また、底部には全体の温度を均一にするための攪拌装置57が設けられている。勿論、攪拌装置57は必ずしも設ける必要はない。
【0111】
なお、以上説明した実施形態では、酸化防止手段40としてケーシング41内を不活性ガス雰囲気にしていたが、不活性ガス雰囲気にすることに代えて、水素や一酸化炭素等の還元ガス雰囲気にしたり、あるいはケーシング41内を減圧して酸素濃度の低い真空状態にするようにしても良い。なお、ケーシング41内を減圧することで自発核生成による沸騰を激しくすることができ、液滴1aをより微粒化し易くなる。また、装置全体を不活性ガス雰囲気や還元ガス雰囲気中に設置したり、減圧したケーシング内に設置しても良い。
【0112】
さらに、溶融材料1をあらかじめ外力を加えて微細化して液体冷媒3中に供給するようにしても良い。例えば、材料供給手段10と液体冷媒3の間に溶融材料を微細化する手段を設けることによって、溶融材料1の液滴1aをある程度細かくした後に液体冷媒3中に供給することができる。この場合、微細化手段によって溶融材料1をある程度細かくしてから液体冷媒3中へ供給するため、比表面積が大きくなって蒸気膜の生成と冷却がより効率的となる。その後、液体冷媒3中で蒸気膜が強制的に崩壊され、自発核生成による沸騰を生じさせてこの沸騰で発生する圧力波によって溶融材料1をさらに微粒化することができる。このため、液体冷媒3中における溶融材料1の微粒化をより一層促進することができると共に、その冷却速度をより一層向上させることができる。溶融材料1を微細化する微細化手段としては、例えば該に微細化技術として確立している超音波照射技術の応用が好ましく、材料供給手段10と液体冷媒3の噴流3aとの間に超音波照射装置を設置し、材料供給手段10から滴下される溶融材料1の液滴1aに10kHz〜10MHz程度の超音波を照射するようにしても良い。また、溶融材料1の液滴1aが通過する空間に電場を形成して液滴1aを微細化する装置の使用も可能である。なお、溶融材料1の液滴1aを微細化するのは、材料供給手段10から溶融材料1が放出された直後であることが適切であると考えられる。
【0113】
また、上述の説明では、るつぼ12の出湯口12aから溶融材料1を滴下させることで噴流3aの衝突領域に供給していたが、出湯口12aから溶融材料1をジェット状に噴出させるようにしても良い。この場合には、糸状に細く量が少ないことが必要である。
【0114】
(実施例)
軟磁性材料であるFe78Si13原料(融点985℃)とし、図3に示した装置を用い、8方向に配置した噴流ノズル21から、流量32L/min、噴流速度84m/sの水噴流(水温17℃)を衝突させ、原料を約1.6mmの粒径で滴下し、微粒化した。
【0115】
図9に得られた微粉末の電子顕微鏡写真を示す。この結果、中心粒径37μmの微粒子が得られたことが確認された。また、急冷されているために、いわゆる「蒸気爆発により引きちぎられた」状態のまま凝固していることが判明した。勿論、本装置でも、冷却流量を減少させる、または冷却材温度を上昇させるに伴い、冷却速度が減少するため、より球形に近い粉末を得ることができる。
【0116】
さらに、微粒化前と微粒化後のX線回折分析をした結果、微粒化前の原料ではFeBとα-Fe(Si)のピークがいくつか観察されたが、急冷した粉末からは顕著なピークが存在せず、極めて高い非晶質化度が得られたことが確認された。
【0117】
このように、本発明によると、従来、非晶質化が不可能とされていた鉄系合金の非晶質化が可能であることが確認された。
【0118】
(比較例)
速度差を1m/s未満と小さくして、Fe78Si13を水の中に滴下したところ、蒸気爆発に至らしめることができず、直径1.6mmの液滴のまま、球状に凝固した。
【0119】
実施例及び比較例で得られたものについてX線回折を行った結果を図10に示す。実施例で得られた急冷した粉末では、顕著なピークが観察されず、極めて高い非晶質化度が得られたことが確認された。一方、比較例では、徐冷で得られたものについてFeBとα-Fe(Si)のピークがいくつか観察され、原材料とほぼ同じ強度分布を示し、非晶質化が不可能であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の一実施形態に係る微粒子の製造装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る微粒子の製造装置の要部拡大図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る微粒子の製造装置の要部拡大図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る微粒子の製造装置の要部拡大図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る微粒子の製造装置の要部拡大図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る微粒子の製造装置の要部拡大図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る微粒子の製造装置の要部拡大図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る微粒子の製造装置の要部拡大図である。
【図9】本発明の実施例で製造した微粒子の顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例で製造した微粒子及び比較例で得られたもののX線回折分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料を液体冷媒の中に液滴又はジェット流として供給し、当該液体冷媒に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させ、微粒化すると共に冷却固化することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記溶融材料を前記液体冷媒の流れの中に供給して当該液体冷媒の流れに入った前記溶融材料の速度と当該液体冷媒の流れの速度との相対速度差を生じさせることによって蒸気膜を強制的に崩壊させることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記液体冷媒の流れを、一つの高速ジェット流とし、当該高速ジェット流内に前記溶融材料を供給することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、前記液体冷媒の流れを、複数の高速ジェット流を衝突させて形成し、前記溶融材料を前記高速ジェット流の衝突領域に供給することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記高速ジェット流を衝突させて形成した流れを、ガイド部材の中に形成させて流れを分散させないようにすることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記複数の高速ジェット流を、液体冷媒の溜まりの液面近傍で衝突させ、前記溶融材料を前記高速ジェット流の衝突領域に供給することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、前記液体冷媒の溜まりが、前記溶融材料の流れに対向して噴出する噴流であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7の何れかにおいて、前記高速ジェット流を、衝突後に形成される流れの方向に対して4°以上80°以下に傾斜させて衝突させることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項2において、前記液体冷媒の流れを移動部材上に液体冷媒を供給することにより形成し、当該液体冷媒内へ前記溶融材料を供給することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、前記移動部材が、円盤状又は円錐状の回転体であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項2〜10の何れかにおいて、前記液体冷媒の流れと前記溶融材料との速度差を1m/sより大きくしたことを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1において、前記液体冷媒の蒸気を前記液体冷媒中に供給し、当該蒸気の凝縮による圧力波により前記蒸気膜を強制的に崩壊させることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、前記液体冷媒の蒸気と共に前記溶融材料を前記液体冷媒の流れの中に供給することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項13において、前記液体冷媒の流れをガイド部材の中に形成させて流れを分散させないようにすることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項12において、前記溶融材料を液体冷媒の溜まりの中に供給し、供給された溶融材料に向かって前記液体冷媒の蒸気を供給することにより前記蒸気膜を強制的に崩壊させることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15の何れかにおいて、前記微粒化しようとする原料が、溶融灰、高炉スラグ、セラミックス材、及び金属から選択される一種であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項16において、前記微粒化しようとする原料が、融点800℃以上のものであることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜17の何れかにおいて、前記微粒化及び冷却固化条件を調整することにより、得られる微粒子を非晶質とすることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜17の何れかにおいて、前記微粒化及び冷却固化条件を調整することにより、得られる微粒子を所望の結晶粒径を有する多結晶とすることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜19の何れかにおいて、前記液体冷媒は塩が添加されたものであることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜20の何れかにおいて、前記液体冷媒は当該液体冷媒と前記蒸気膜との気液界面を乱す無機微粒子が添加されたものであることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項22】
請求項1〜21の何れかにおいて、前記溶融材料の酸化を防止しながら前記液体冷媒中に供給することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項23】
微粒化しようとする原料を溶融した溶融材料をその供給量を制御しながら供給する材料供給手段と、溶融材料を冷却固化させる液体冷媒を含む冷却部と、当該液体冷媒に供給された前記溶融材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて蒸気爆発を促進させて微粒化すると共に冷却固化する蒸気膜崩壊手段と、液体冷媒中から微粒子を回収する回収手段とを備えることを特徴とする微粒子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−519099(P2006−519099A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502686(P2006−502686)
【出願日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002501
【国際公開番号】WO2004/076050
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】