説明

微粒子の製造方法

【課題】製造する微粒子への粗大粒子の混入を抑制する。
【解決手段】微粒子の製造方法は、原料液体を噴霧槽20内の気相に噴霧することにより液滴を形成すると共に、それを冷却固化させて微粒子を得る工程と、得られた微粒子を、噴霧槽20内に設置された攪拌手段10を用いて攪拌した後、又は攪拌条件下で、噴霧槽20内から排出する工程とを有する。攪拌手段10は、上方から垂下する部材を有さない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
噴霧液を噴霧して形成された液滴を固化させることにより微粒子を得る技術が工業的に採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゲル化点が30℃以上である非架橋型ハイドロゲルのゲル形成剤を溶解させた水性成分水溶液に油性成分を分散させた分散液を気相中に噴霧し、それによって形成された液滴を冷却固化させるハイドロゲル粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−160277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、噴霧槽内において、噴霧液を噴霧して形成された液滴を固化させることにより微粒子を製造する場合、製品に粗大粒子が混入してしまう場合がある。
【0006】
本発明の課題は、製造する微粒子への粗大粒子の混入を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、原料液体を噴霧槽内の気相に噴霧することにより液滴を形成すると共に、それを冷却固化させて微粒子を得る工程と、その得られた微粒子を、噴霧槽内に設置された攪拌手段を用いて攪拌した後、又は攪拌条件下で、噴霧槽内から排出する工程とを有する微粒子の製造方法であって、上記攪拌手段は、上方から垂下する部材を有さない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、噴霧槽内に設置された攪拌手段が上方から垂下する部材を有さないことにより、製造する微粒子への粗大粒子の混入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】上方から垂下する部材を有さない攪拌機が設けられた噴霧槽の一例を示す縦断面図である。
【図2】上方から垂下する部材を有さない攪拌機が設けられた噴霧槽の他の一例を示す縦断面図である。
【図3】上方から垂下する攪拌軸を有する攪拌機が設けられた噴霧槽を示す縦断面図である。
【図4】実施例1で製造した微粒子の光学顕微鏡による観察写真である。
【図5】比較例1で製造した微粒子の光学顕微鏡による観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係る微粒子の製造方法は、原料液体を噴霧槽内の気相に噴霧することにより液滴を形成すると共に、それを冷却固化させて微粒子を得る工程と、その得られた微粒子を、噴霧槽内に設置された攪拌手段を用いて攪拌した後、又は攪拌条件下で、噴霧槽内から排出する工程とを有する。そして、このとき用いる攪拌手段は、上方から垂下する部材を有さない。
【0012】
<原料液体>
本実施形態に係る微粒子の製造方法では、噴霧剤として用いる原料液体として、例えば、ゲル形成剤含有液体、固体脂含有液体が挙げられる。
【0013】
−ゲル形成剤含有液体−
ゲル形成剤含有液体は、ゲル形成剤を含み、少なくともそのゲル化点(凝固点)以上の温度に調温した液体である。ゲル形成剤含有液体としては、例えば、非架橋型ハイドロゲルを生じるゲル形成剤を溶解させた水性成分水溶液が挙げられる。そして、かかる水性成分水溶液のゲル形成剤含有液体からはハイドロゲル粒子が製造される。
【0014】
非架橋型ハイドロゲルを生じるゲル形成剤としては、例えば、寒天、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ハイメトキシルペクチン等の水溶性高分子が挙げられる。これらのうち寒天が好ましく、製造されるハイドロゲル粒子を例えば化粧品等に適用した場合の使用時の感触がよいという観点からは、ゼリー強度が147kPa(1500g/cm)以下である寒天が好ましく、19.6kPa(200g/cm)〜127kPa(1300g/cm)である寒天がより好ましい。なお、ここで、本出願における「寒天」とは、ガラクトースの1,3結合及び1,4結合からなるガラクターンを含むヘミセルロースをいう。また、ゼリー強度は、日寒水式法により求めることができる。具体的には、ゼリー強度は、ゲル形成剤の1.5質量%水性成分水溶液を調製し、その水性成分水溶液を20℃で15時間放置して凝固させたゲルに、日寒水式ゼリー強度測定器((株)木屋製作所製)により荷重をかけ、20℃においてゲルが20秒間その荷重に耐えるときの表面積1cm あたりの最大質量(g)として求めることができる。
【0015】
非架橋型ハイドロゲルを生じるゲル形成剤は、室温で冷却固化してハイドロゲル粒子を製造することができるという観点から、ゲル化点(凝固点)が30℃以上であることが好ましく、30〜50℃であることがより好ましく、30〜45℃であることがさらに好ましい。ここで、ゲル化点(凝固点)は、ゲルが溶解した水性成分水溶液約10mlを中型試験管(径1.5cm×16cm)にとり、温度計を挿入し、時々試験管を斜めに傾け、その表面が固定して動かないようになったときの温度として求めることができる。
【0016】
ゲル形成剤含有液体には、ゲル形成剤が単一種含まれていてもよく、また、複数種含まれていてもよい。ゲル形成剤含有液体は、ゲル形成剤の濃度が0.1〜8.0質量%であることが好ましく、0.3〜7.0質量%であることがより好ましい。ゲル形成剤を溶解させるときの温度は、ゲル形成剤の溶解温度以上且つ水の沸点以下に昇温保持する必要があるが、ゲル形成剤が寒天の場合、75〜100℃とすることが好ましく、80〜100℃とすることがより好ましい。なお、溶解を促進するために加圧して100℃以上に昇温してもよい。
【0017】
ゲル形成剤含有液体には、ゲル形成剤以外にカテキン等の水溶性成分が含まれていてもよい。
【0018】
ゲル形成剤含有液体には、ゲル形成剤以外に酸化チタンや酸化亜鉛などの無機固体や、カテキンとPVP(ポリビニルピロリドン)からなる水不溶性の複合体などの有機固体が分散されて含まれていてもよい。
【0019】
ゲル形成剤含有液体には、水性成分水溶液に油性成分が分散していてもよい。つまり、ゲル形成剤含有液体はO/W型分散液であってもよい。
【0020】
油性成分には、固体脂及び液体油がある。ここで、本出願における「固体脂」とは、融点が35℃以上である油性成分をいい、「液体油」とは、融点が35℃未満である油性成分をいう。固体脂としては、特開2007−160277号公報の段落[0037]〜[0044]に記載されたものを使用することができ、例えば、固体のセラミド、固体のスフィンゴ脂質、固形パラフィン、固体の高級アルコール、ワセリン、固体のシリコーン、固体の油剤、固体の香料等が挙げられる。液体油としては、特開2007−160277号公報の段落[0045]〜[0047]に記載されたものを使用することができ、例えば、液体の皮膚保護剤、液体の油剤、液体の香料等が挙げられる。なお、固体脂及び液体油の具体例としては、後述の固体脂含有液体についての説明で列挙するものが挙げられる。
【0021】
油性成分は、各種固体脂及び液体油のうち単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0022】
油性成分は、製造されるハイドロゲル粒子から油性成分が漏出するのを抑制する観点から、融点が35℃以上のものを用いることが好ましく、40〜90℃のものを用いることがより好ましく、45〜90℃のものを用いることがさらに好ましく、50〜80℃のものを用いることが特に好ましい。同様の観点からは、油性成分に固体脂を含める場合、固体脂は、融点が40〜120℃のものを用いることが好ましく、50〜90℃のものを用いることがより好ましく、50〜80℃のものを用いることがさらに好ましい。なお、油性成分の融点は、示差走査熱量測定法(DSC:DifferentialScanning Calorimetry)により測定することができる。
【0023】
O/W型分散液のゲル形成剤含有液体は、水性成分水溶液の油性成分に対する質量比(水性成分水溶液/油性成分)が例えば99/1〜40/60である。O/W型分散液のゲル形成剤含有液体は、水性成分側及び油性成分側のうち少なくとも一方に、乳化剤及び/又は分散剤が含まれていてもよい。乳化剤及び/又は分散剤としては、特開2007−160277号公報の段落[0024]〜[0034]に記載のものを使用することができ、例えば、高分子乳化分散剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
−固体脂含有液体−
固体脂含有液体は、固体脂を含み、その融点以上の温度に調温した液体である。そして、かかる固体脂含有液体からは油性成分粒子が製造される。
【0025】
固体脂としては、例えば、固体のセラミド、固体のスフィンゴ脂質、固形パラフィン、固体の高級アルコール、ワセリン、固体のシリコーン、固体の香料、その他の固体脂が挙げられる。これらのうち、製造される油性成分粒子を化粧品等に適用した場合の皮膚保護性の観点から、固体のセラミド、固体の高級アルコール、ワセリン、固体のシリコーン、固体の香料が好ましい。
【0026】
固体のセラミドとしては、例えば、N−(2−ヒドロキシ−3−ヘキサデシロキシプロピル)−N−ヒドロキシエチルヘキサデカナミド等が挙げられる。
【0027】
固体のスフィンゴ脂質としては、例えば、フィトスフィンゴシン等が挙げられる。
【0028】
固形パラフィンとしては、例えば、JIS K 2235に記載されているパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス、セレシン等が挙げられる。
【0029】
固体の高級アルコールとしては、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキディルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
【0030】
固体のシリコーンとしては、例えば、アルキル変性シリコーン、高分子シリコーン・アルキル共変性アクリル樹脂等が挙げられる。
【0031】
その他の固体脂としては、例えば、硬化油や高級脂肪酸等が挙げられる。硬化油としては、例えば、原料油がヤシ油やパーム油や牛脂である硬化油等が挙げられる。高級脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
【0032】
固体の香料としては、例えば、メントールやセドロール等が挙げられる。
【0033】
固体脂は、製造される油性成分粒子の溶解を抑制する観点から、融点が40〜120℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましく、50〜80℃であることがさらに好ましい。
【0034】
固体脂含有液体には、固体脂が単一種含まれていてもよく、また、複数種含まれていてもよい。
【0035】
固体脂含有液体は、固体脂のみで構成されていてもよく、固体脂に加えて液体油を含んでいてもよい。つまり、固体脂含有液体は、固体脂と液体油との混合油であってもよい。
【0036】
液体油としては、例えば、液体の皮膚保護剤、液体の香料、及びその他の液体油が挙げられる。これらのうち、製造される油性成分粒子を化粧品等に適用した場合の皮膚保護性の観点から、液体の皮膚保護剤が好ましい。
【0037】
液体の皮膚保護剤は、皮膚を柔軟にしたり、或いは、平滑にすることにより、肌荒れを防止する成分である。液体の皮膚保護剤としては、例えば、液体のパラフィン、液体のエステル油、液体の高級アルコール、液体のスクワラン、液体のグリセライドなどの液体油脂類;セチロキシプロピルグリセリルメトキシプロピルミリスタミドなどの液体のセラミド;1−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−3−イソステアリルオキシ−2−プロパノールなどの液体のスフィンゴ脂質等が挙げられる。
【0038】
その他の液体油としては、例えば、液体の炭化水素油;液体の植物油;液体の脂肪酸;液体のエチレングリコールジ脂肪酸エステル(脂肪酸の炭素数は12〜36)、液体のジアルキルエーテル(炭素数は12〜36)などの液体の油脂類;液体のシリコーン類等が挙げられる。液体の油剤は、揮発性であってもよく、また、不揮発性であってもよい。
【0039】
混合油の固体脂含有液体は、製造される油性成分粒子から液体油成分が漏出するのを抑制する観点、及び油性成分粒子を化粧品等に適用した場合の皮膚上での延ばしやすさの観点から、固体脂の液体油に対する質量比(固体脂/液体油)が10/90〜99/1であることが好ましく、20/80〜80/20であることがより好ましく、20/80〜70/30であることがさらに好ましく、20/80〜50/50であることが最も好ましい。
【0040】
混合油の固体脂含有液体の場合、製造される油性成分粒子から液体油成分が漏出するのを抑制する観点から、その混合油の融点は35℃以上であることが好ましく、40〜90℃であることがより好ましく、45〜90℃であることがさらに好ましく、50〜80℃であることが特に好ましい。
【0041】
固体脂含有液体には、酸化チタンや酸化亜鉛などの無機固体が、分散剤の添加や表面処理などによって、分散されて含まれていてもよく、有機顔料などの有機固体が分散されて含まれていてもよい。
【0042】
固体脂含有液体には水性成分が分散していてもよい。つまり、固体脂含有液体はW/O型分散液であってもよい。
【0043】
水性成分としては、例えば、カテキンなどの水溶性成分の水溶液、無機粉体や無機微粒子などの親水性固体の水分散液等が挙げられる。水性成分は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0044】
W/O型分散液の固体脂含有液体における油性成分の水性成分に対する質量比(油性成分/水性成分)は、W/O型分散液を保つ範囲であれば特に限定されないが、40/60〜99/1、好ましくは45/55〜92.5/7.5、さらに好ましくは50/50〜90/10である。W/O型分散液の固体脂含有液体は、油性成分側及び水性成分側のうち少なくとも一方に、乳化剤及び/又は分散剤が含まれていてもよい。
【0045】
<原料液体の噴霧>
本実施形態に係る微粒子の製造方法では、原料液体を噴霧槽内の気相に噴霧すると、その表面張力又は界面張力によって液滴が形成される。
【0046】
原料液体を噴霧する噴霧槽について、容積は未固化の噴霧液滴が噴霧槽の内壁表面に付着しなければ特に限定はされないが、例えば0.3〜10mであり、槽内の温調機能を有することが好ましい。さらに2〜10mであることが、凝集物低減の観点から好ましい。
【0047】
噴霧層の縦横比(L/D)は、未固化の液滴が凝集して粗大粒子を形成することを抑制する観点から、0.6〜4.0が好ましく、0.8〜3.0がさらに好ましい。
【0048】
原料液体を噴霧する噴霧槽内の気相としては、例えば、大気相や窒素ガス相等が挙げられる。気相の温度は、原料液体が冷却固化される温度、従って、原料液体がゲル形成剤含有液体の場合にはゲル化点以下とし、また、原料液体が固体脂含有液体の場合にはその凝固点以下とする。具体的には、例えば、外気温(10〜30℃)とする。
【0049】
原料液体を気相中に噴霧する噴霧手段は、特に限定されるものではなく、例えば、噴霧槽内の上部に下向き或いは斜め下向きに設けられた噴霧孔を有する噴霧ノズルの使用が挙げられる。
【0050】
噴霧ノズルとしては、例えば、原料液体単独を噴霧する一流体ノズルや原料液体を空気等と混合して噴霧する二流体ノズルが挙げられる。2本以上のノズルを使用したマルチノズル方式や2本以上のノズルから成るアトマイザーを使用してもよい。また、微粒子の合一を抑制する観点からは、噴霧角度が大きい扇形ノズルや空円錐ノズルを用いることが好ましい。
【0051】
原料液体の噴霧量は、ノズル1本当たり2〜400kg/hとすることが好ましく、4〜300kg/hとすることがより好ましく、5〜250kg/hとすることがさらに好ましい。原料液体単独を噴霧する場合、噴霧の際の原料液体の液圧力は、均一な液滴生成を促進すると共に液滴の合一を抑制する観点から、0.1〜10MPaとすることが好ましく、0.2〜5MPaとすることがより好ましく、0.3〜3MPaとすることがさらに好ましい。また、空気等を混合して噴霧する場合、均一な液滴生成を促進すると共に液滴の合一を抑制する観点から、その液圧力は0.01〜2MPaとすることが好ましく、0.03〜1MPaとすることがより好ましく、0.05〜0.5MPaとすることがさらに好ましい。また、空気の流量は10〜4000L/minとすることが好ましく、30〜2500L/minとすることがより好ましい。
【0052】
<微粒子の形成>
本実施形態に係る微粒子の製造方法では、原料液体の液滴を噴霧槽内の気相において冷却固化させることにより微粒子を得る。
【0053】
微粒子の体積平均粒子径は、外観及び生産性の観点から、10〜800μmであることが好ましく、15〜600μmであることがより好ましく、15〜500μmであることがさらに好ましく、20〜400μmであることが特に好ましい。なお、微粒子の体積基準平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いたレーザ回折散乱法によって測定することができる。
【0054】
微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、曲面で構成された回転体の形状を有することが好ましい。ここで、「曲面で構成された回転体」とは、仮想軸及び連続的な曲線で構成された閉じた図を仮想軸で回転させたものをいい、三角錐や円柱等の平面を有する形状は含まない。微粒子の形状は、美観の観点から、球状体であることがより好ましい。
【0055】
<微粒子の排出・回収>
本実施形態に係る微粒子の製造方法では、得られた微粒子を、噴霧槽内に設置された攪拌手段を用いて攪拌した後、又は攪拌条件下で、噴霧槽内から排出して回収する。
【0056】
微粒子の攪拌は、連続式に、噴霧槽内への原料液体の噴霧及び微粒子の形成と並行して行ってもよく、また、回分式に、噴霧槽内への原料液体の噴霧及び微粒子の形成には攪拌を行わず、それが全て完了した後に行ってもよい。
【0057】
微粒子の排出・回収は、連続式に、微粒子の攪拌と並行して行ってもよく、また、回分式に、微粒子の攪拌を停止した後に行ってもよい。なお、噴霧槽内への原料液体の噴霧及び微粒子の形成、微粒子の攪拌、並びに微粒子の排出・回収を並行して行えば、連続式で微粒子を製造することができる。
【0058】
微粒子は、液体の分散媒体に分散したスラリー状分散体の形態で排出・回収させてもよい。かかるスラリー状分散体は、マスターバッチとして使用することができる。
【0059】
スラリー状分散体は、噴霧層内に貯留された微粒子に分散媒体を添加して攪拌手段で攪拌することにより得ることができる。分散媒体の添加は、噴霧槽内への原料液体の噴霧及び微粒子の形成と並行して行ってもよく、また、噴霧槽内への原料液体の噴霧及び微粒子の形成が全て終了した後に行ってもよい。また、スラリー状分散体は、噴霧槽内への原料液体の噴霧の前に、予め噴霧槽内に分散媒体を仕込んでおき、その上に原料液体を噴霧し、微粒子を直接的に液体の分散媒体に回収するようにしても得ることができる。
【0060】
液体の分散媒体としては、例えば、純水の他、防腐剤を含有した水等が挙げられる。
【0061】
防腐剤としては、例えば、パラベン類、2−フェノキシエタノール、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール類、防腐力を高める原料である多価アルコール類等が挙げられる。
【0062】
微粒子と液体の分散媒体との混合割合(質量比)は、特に限定されないが、マスターバッチとして有効な濃縮割合であることを考慮すると、微粒子/分散媒体=100/0〜20/80であり、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは90/10〜40/60である。
【0063】
<噴霧槽の攪拌手段>
本実施形態の微粒子の製造方法では、例えばスラリー状分散体等の貯留物Sを攪拌するための攪拌手段が設けられた噴霧槽を用いるが、その攪拌手段は、上方から垂下する部材を有さない。また、攪拌手段は、混合を均一に行う観点から、槽底の中央部に撹拌翼を有することが好ましい。
【0064】
ここで、攪拌手段における上方から垂下する部材とは、例えば、駆動モータから噴霧槽の底部に向かって垂下すると共に先端等に攪拌翼が取り付けられた攪拌軸、噴霧槽の内壁から内側に張り出して下方に垂下した邪魔板などの静止翼等、微粒子の製造過程において、上方から垂下して噴霧槽内に噴霧された液滴と接触する状態となって、噴霧空間に露出する部材である。
【0065】
一方、上方から垂下する部材を有さない攪拌手段としては、例えば、次の図1及び2に示すような、噴霧槽20の下部に駆動モータ12や駆動源16を有し、動力を伝えるための部材および攪拌翼15が、噴霧槽20頂部の噴霧ノズルNから噴霧された液滴が冷却固化される噴霧槽20内の気相空間部には配置されておらず、すべて噴霧槽20底部のみに配置されている構成が挙げられる。なお、図1及び2において、同一名称の部分は同一符号で示す。
【0066】
図1は、上方から垂下する部材を有さない攪拌機10(攪拌手段)が設けられた噴霧槽20の一例を示す。
【0067】
この攪拌機10は、噴霧槽20の底部中央に軸受部材11が設けられており、その軸受部材11に、一端が駆動モータ12に結合した攪拌軸13がシール部材14を介して他端が槽内に露出するように挿通されて軸支され、一方、槽内に露出した攪拌軸13の他端に噴霧槽20の底面に沿って延びるように形成された攪拌翼15が取り付けられている。そして、この攪拌機10は、駆動モータ12により攪拌軸13を介して攪拌翼15を回転駆動させ、その攪拌翼15で噴霧槽20に貯留された貯留物Sを攪拌するように構成されている。以上の通り、この攪拌機10は、攪拌軸13が噴霧槽20の底部から挿通され、全体構成が噴霧槽20の底部側に設けられており、従って、上方から垂下する部材を有さない。
【0068】
図2は、上方から垂下する部材を有さない攪拌機10(攪拌手段)が設けられた噴霧槽20の他の一例を示す。なお、この攪拌機10の詳細構造については、特開2007−29870号公報に開示されている。
【0069】
この攪拌機10は、噴霧槽20の底部中央の槽内側に没入した凹部21に、駆動源16に接続された駆動側ロータ17が収容されている。凹部21の槽内側の上面には軸受部材11が設けられており、その軸受部材11には、攪拌翼15が取り付けられた攪拌軸13が回転自在に軸支されている。また、攪拌翼15には凹部21の外側に配設されるように垂下した従動側ロータ18が結合している。そして、この攪拌機10は、駆動側ロータ17内のマグネットMと従動側ロータ18内のマグネットMとの間を、噴霧槽20の凹部21の側壁21aを介して磁気カップリングにて非接触結合させる磁気カップリング駆動伝達機構が形成されており、この磁気カップリング駆動伝達機構を介して撹拌翼15を噴霧槽20外の駆動側ロータ17と非接触で回転駆動させ、噴霧槽20に貯留された貯留物Sを攪拌翼15で攪拌するように構成されている。以上の通り、この攪拌機10は、攪拌翼15が噴霧槽20の底部の凹部21に収容された駆動側ロータ17によって非接触で回転駆動され、これも全体構成が噴霧槽20の底部側に設けられており、従って、上方から垂下する部材を有さない。
【0070】
上方から垂下する部材を有さない攪拌機(攪拌手段)としては、その他に、マグネチックスターラ、貯留物Sへの気体の導入によるバブリング等が挙げられる。
【0071】
このように、本実施形態に係る微粒子の製造方法によれば、噴霧槽20に設けられた攪拌機10が上方から垂下する部材を有さないことにより、製造する微粒子への粗大粒子の混入を抑制することができる。本発明の構成により粗大粒子の形成が抑制される理由は必ずしも明らかではないが、攪拌軸等の上方から垂下する部材の有無が噴霧槽内の空気の流れを変えることが一因と推察される。即ち、上方から垂下する部材を有さないことにより、噴霧液が凝集するような空気の流れの発生を抑制し、未固化の液滴が集まって粗大粒子を形成することが回避されるためであると考えられる。更なる理由として、噴霧槽20内に噴霧されて形成された原料液体の液滴が、固化前に攪拌軸等の上方から垂下する部材に付着し、未固化の液滴が集まって粗大粒子を形成することが回避されることも一因と考えられる。
【0072】
本実施形態に係る微粒子の製造方法によれば、攪拌機10の攪拌軸13が噴霧槽20の軸位置に上方から垂下するように配置されないので、図1及び2に示すように、噴霧ノズルNを噴霧槽20の槽頂部中央に原料液体を下向きに噴霧するように設けることができ、結果として、噴霧した液滴が噴霧槽20内で同条件で飛翔することとなり、液滴の冷却固化履歴を均一化することができるという効果も奏する。さらに噴霧槽20の内壁表面への未固化の噴霧液滴の付着が低減され、噴霧槽20をコンパクトにすることができる。
従来技術においては図3に示すように、一端が駆動モータ12に結合し且つ他端に攪拌翼15が取り付けられた攪拌軸13が噴霧槽20の軸位置に配置されているため、原料液体を噴霧する噴霧ノズルNは偏心した位置に設けざるを得ず、そうすると、噴霧した液滴が飛翔方向によって飛翔距離が異なることとなり、従って、液滴の冷却固化履歴が不均一となる。
【実施例】
【0073】
(試験評価用微粒子の製造方法)
以下の実施例1及び比較例1のそれぞれの試験評価用微粒子の製造を行った。
【0074】
<実施例1>
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(花王社製 商品名:SPE−104NB)、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(日光ケミカルズ社製 商品名:PEMULEN TR−1)、パラオキシ安息香酸メチル、寒天(伊那食品工業社製 商品名:AX−200,ゼリー強度19.6kPa)、水酸化ナトリウム、及びイオン交換水を0.05:0.01:0.30:3.00:0.02:74.12の質量比で混合し、90℃に調温した水性成分水溶液を準備した。また、N−(2−ヒドロキシ−3−ヘキサデシロキシプロピル)−N−ヒドロキシエチルヘキサデカミド(花王社製 商品名:スフィンゴリピドE)、ジペンタエリトリット脂肪酸エステル(日清オイリオグループ社製 商品名:コスモール 168ARV)、ジイソステアリン酸ポリグリセリル(日清オイリオグループ社製 商品名:コスモール 42V)、及びメチルポリシロキサン(信越化学工業社製 商品名:シリコーンKF−96A(10cs))を10.00:2.50:5.00:5.00の質量比で混合し、80℃に調温した油性成分を準備した。なお、水性成分水溶液及び油性成分の組成は表1にも示す。
【0075】
【表1】

【0076】
水性成分水溶液を80℃に冷却した後、質量比が油性成分/水性成分水溶液=22.5/77.5となり且つ合計が20kgとなるように、油性成分及び水性成分水溶液を80℃に調温したアンカー式攪拌機に入れて攪拌し、油性成分と水性成分水溶液との混合液を作製した。
【0077】
次いで、この混合液を80℃に調温した乳化機(特殊機化社製 商品名:T.K.ホモミクサーMARK II 40型)に移し、回転数5500r/minで15分間稼働させてO/W型分散液を調製した。なお、O/W型分散液の粘度は60mPa・sであった。
【0078】
そして、このO/W型分散液を80℃に調温したまま、噴霧ノズル(スプレーイングシステムスジャパン社製 商品名:SUE28B)を用い、液流量30.0kg/h及びAir圧力0.5MPaとして、室温下の槽内で槽頂部より気相中に鉛直下向きに10kg噴霧した。
【0079】
このとき用いた噴霧槽は、図1に示すのと同様の構成であって、高さ1.9m及び直径1.8mで、噴霧槽の底部中央に軸受部材が設けられており、その軸受部材に、一端が駆動モータに結合した攪拌軸がシール部材を介して他端が槽内に露出するように挿通されて軸支され、一方、槽内に露出した攪拌軸の他端に噴霧槽の底面に沿って延びるように形成された攪拌翼が取り付けられたものである。
【0080】
噴霧終了後に300kgのイオン交換水を槽内にかけ流し、撹拌翼で均一に混合した後、微粒子スラリーとして回収した。この微粒子(ハイドロゲル粒子)の製造を実施例1とした。
【0081】
<比較例1>
噴霧槽として、図3に示すのと同様の構成であって、高さ1.9m及び直径1.8mで、一端が駆動モータに結合し且つ他端に攪拌翼が取り付けられた攪拌軸が軸位置に配置されたものを使用したこと、および噴霧ノズルの設置位置を図3に示すのと同様に噴霧槽頂部中央より偏心した位置に変えたこと以外は実施例1と同じ方法で微粒子を製造し、これを比較例1とした。
【0082】
(試験評価方法)
実施例1及び比較例1のそれぞれの微粒子スラリーについて光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名:デジタルマイクロスコープ VHX−100F)を用いて微粒子形状を観察した。
【0083】
(試験評価結果)
図4は実施例1で製造した微粒子を示す。図5は比較例1で製造した微粒子を示す。
【0084】
光学顕微鏡による粒子形状観察では、噴霧空間に撹拌軸を有さない噴霧槽を用いた実施例1では、均一な微粒子を得ることができたが、噴霧空間に撹拌軸を有する噴霧槽を用いた比較例1では、複数の微粒子が凝集した粗大粒子が混在しており、均一な微粒子を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は微粒子の製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0086】
10 攪拌機(攪拌手段)
11 軸受部材
12 駆動モータ
13 攪拌軸
14 シール部材
15 攪拌翼
16 駆動源
17 駆動側ロータ
18 従動側ロータ
20 噴霧槽
21 凹部
21a 隔壁
M マグネット
N 噴霧ノズル(噴霧手段)
S 貯留物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液体を噴霧槽内の気相に噴霧することにより液滴を形成すると共に、それを冷却固化させて微粒子を得る工程と、
上記得られた微粒子を、噴霧槽内に設置された攪拌手段を用いて攪拌した後、又は攪拌条件下で、噴霧槽内から排出する工程と、
を有する微粒子の製造方法であって、
上記攪拌手段は、上方から垂下する部材を有さない、微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記原料液体を噴霧槽内の気相に噴霧する噴霧手段が、該噴霧槽の槽頂部中央に、原料液体を下向きに噴霧するように設けられている、請求項1に記載された微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記原料液体が、ゲル形成剤を含むゲル形成剤含有液体である、請求項1又は2に記載された微粒子の製造方法。
【請求項4】
上記噴霧槽内から、微粒子を、微粒子が分散媒体に分散したスラリー状分散体の形態で排出する、請求項1乃至3のいずれかに記載された微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−254431(P2012−254431A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130187(P2011−130187)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】