説明

微粒子を用いた測定対象物質の定量・検出方法及びその方法に用いる測定装置

【課題】抗原や核酸等の測定対象物質について、簡便な方法で、正確かつ高感度に測定を行うことができる測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る測定方法は、光電流変換素子の上に、光透過性を有し、かつ、表面に前記測定対象物質と選択的に結合可能な第1の結合手を保持することができる透光性機能膜を有する測定装置を用い、前記透光性機能膜に前記測定対象物質と特異的に結合可能な第1の結合手を付加し、前記第1の結合手と前記試料溶液に含まれる前記測定対象物質を結合させ、前記第1の結合手と結合した測定対象物質に第2の結合手を介して微粒子を結合させ、光を前記測定装置に照射し、微粒子の遮光効果による光量の減少分を前記光電流変換素子により測定することで、試料溶液中の測定対象物質の濃度を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学、医療及び食品分野において、微粒子を用いて測定対象物質を検出するバイオセンサに関する。特に、DNAや蛋白質、抗原抗体など生体物質の特異的相互作用を利用したセンサとして、フォトダイオード、フォトトランジスタ、CdS光導電セルなどの光電流変換素子を搭載したバイオセンサに用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種生体成分の被測定物質を検出するために、凝集反応及び抗原抗体反応が利用されており、この凝集反応及び抗原抗体反応を利用した測定方法として、免疫比濁法が知られている。
【0003】
また、免疫比濁法において、高感度化を図るために、標識として、微粒子、放射性物質、蛍光体、化学発光体、酵素などの検知可能な信号を発するものが用いられている。その中でも、蛍光体を標識物質とする酵素免疫測定法、放射性物質を標識物質とする放射免疫測定法、化学発光体を標識物質として用いる化学発光法が実用化されている。
【0004】
さらに、免疫比濁法の中でも、微粒子を標識物質とするラテックス凝集法が知られている。ラテックス凝集法は、被検査物質である抗原又は抗体に対応する抗体又は抗原を固定化した標識微粒子を用い、抗原抗体反応により生じた標識微粒子の凝集の度合を光学的に検出し、測定対象物質を定量する方法である。
【0005】
このラテックス凝集法において、抗体を標識微粒子であるラテックス粒子に結合させておくと、被検査物質である抗原と抗体が結合することによって、ラテックス粒子の凝集物が形成される。ラテックス粒子の凝集物は、抗原と抗体のみからなる抗原抗体反応物質の凝集物よりもはるかに光の散乱が大きい。したがって、ラテックス凝集法では、測定対象物質をより高感度で検出でき、吸光度法で定量的に測定することができる。ラテックス凝集法は、生化学検査用の自動検査装置において実用化され、病院の臨床検査部や検査センターにおいて広く使用されている。
【0006】
また、さらに高感度に微粒子を用いて被検査物質を測定する手法として、フローサイトメトリーを用いた方法がある。フローサイトメトリーは従来から細胞内に存在する粒子状の物質、たとえば赤血球や白血球といった形状をしらべるためのツールとして知られている。特許文献1では、半導体のナノ微粒子を蛍光物質として利用し、ポリスチレン製などのビーズの表面に該半導体ナノ粒子が存在するようにすることにより、ビーズの識別をフローサイトメータにより識別することを可能とする方法が提案されている。
【0007】
フローサイトメトリーは光源、流路及び検出装置を基本構成要素とし、粒子1つ1つを逐次的に流路に流すことができるように流量制御が緻密になされている。また、ノイズを抑えるために1つの粒子にのみレーザーを照射することができる光学系と、その光源からの散乱光又は蛍光を測定するための光学検出系が配置されている。レーザー光で励起された蛍光物質から蛍光が放射され、フィルターで蛍光波長を分離し、それぞれの蛍光波長に関してPMT(光電子増倍管)等でその蛍光強度を求める。さらに、前方散乱光及び側方散乱光をフォトダイオードによって検出する。微粒子の大きさに関する情報は、主に前方散乱光から得られる。このフローサイトメトリーで測定できるものは、細胞、赤血球等の粒子から、ポリスチレンビーズまで多岐に渡る。
【特許文献1】特開2002−311027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の技術であるフローサイトメトリー法では、標識微粒子を正確に測定するために、粒子を1個ずつ流して整列させることが求められ、流量を高精度に制御する必要がある。また、整列させられた1個の粒子に、高精度に収束されたレーザ光を照射する必要がある。このため、加工難易度の高い精密なフローセル、光の方向、波長及び光強度を一定に保ち得るレーザー光源が必要となる。更に、その光源の微小面積への入射を可能とする収束レンズ系、微粒子からの散乱光や蛍光を検出するための集光レンズ系が必要である。更にまた、光源からの光を検出系へ入れないためのフィルタリング系、及び共焦点システム等が必要であり、フローサイトメータの装置構成が複雑となってしまう。
【0009】
したがって、本発明において、抗原や核酸等の測定対象物質について、簡便な方法で、正確かつ高感度に測定を行うことができる測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、抗原や核酸等の測定対象物質について、簡便な方法で、正確かつ高感度に測定を行うことができる測定装置及び方法を創作した。
【0011】
本発明に係る測定装置は、
測定対象物質に結合した微粒子の有無を光電流変換素子により光量の変化を測定することで、試料に含まれる測定対象物質を検出する装置であって、
前記測定対象物質に選択的に結合可能な結合手を保持させることができる透光性機能膜と、
該透光性機能膜を受光面に有し、受光面に照射される光量を光電流として検出することができる光電流変換素子と、
前記受光面へ光を照射するための光源とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る測定方法は、
前記装置を用いて試料中の測定対象物質を測定する方法であって、
前記透光性機能膜に前記測定対象物質と特異的に結合可能な第1の結合手を付加し、
前記第1の結合手と前記試料に含まれる前記測定対象物質を結合させ、
前記第1の結合手と結合した測定対象物質に第2の結合手を介して微粒子を結合させ、
光を前記測定装置に照射し、微粒子の遮光効果による光量の減少分を前記光電流変換素子により測定することで、試料中の測定対象物質の濃度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、抗原や核酸等の測定対象物質について、簡便な方法で、正確かつ高感度に測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明による最良の実施の形態を説明する。
【0015】
まず、本装置の構成とともに、測定対象物質を測定する原理を簡潔に説明する。
【0016】
本発明に係る測定装置は、
測定対象物質に結合した微粒子の有無を光電流変換素子により光量の変化を測定することで、試料に含まれる測定対象物質を検出する装置であって、
前記測定対象物質に選択的に結合可能な結合手を保持させることができる透光性機能膜と、
該透光性機能膜を受光面に有し、受光面に照射される光量を光電流として検出することができる光電流変換素子と、
前記受光面へ光を照射するための光源とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る測定方法は、
前記装置を用いて試料中の測定対象物質を測定する方法であって、
前記透光性機能膜に前記測定対象物質と特異的に結合可能な第1の結合手を付加し、
前記第1の結合手と前記試料に含まれる前記測定対象物質を結合させ、
前記第1の結合手と結合した測定対象物質に第2の結合手を介して微粒子を結合させ、
光を前記測定装置に照射し、微粒子の遮光効果による光量の減少分を前記光電流変換素子により測定することで、試料中の測定対象物質の濃度を測定することを特徴とする。
【0018】
以下、本発明に係る装置の構成及び測定方法について詳細に説明する。
【0019】
(測定対象物質)
本発明に係る測定対象物質は主に生体物質であり、生体物質としては、例えば核酸、タンパク質、糖鎖、脂質及びそれらの複合体から選択される物質等が含まれる。生体物質として、具体的には、DNA、RNA、アプタマー、遺伝子、染色体、細胞膜、ウイルス、抗原、抗体、レクチン、ハプテン、ホルモン、レセプタ、酵素、ペプチド、スフィンゴ糖又はスフィンゴ脂質等が挙げられる。また、これらの物質を産生する細菌や細胞そのものも生体物質に含まれる。
【0020】
前記測定対象物質は、試料中に含まれている。試料としては、例えば、医療診断、環境測定、及び食品管理を含む分野等における、分析が所望される測定対象物質を含む試料溶液である。医療診断用の試料溶液の例としては、血液、リンパ液、DNA抽出液又は組織液を包含する体液が挙げられる。環境測定用の試料溶液の例としては、土壌、河川、大気などから採取した材料が挙げられる。食品管理用の試料溶液の例としては、ひき肉からの抽出液、まな板表面からの抽出液が挙げられる。試料は、後述する本発明の検出装置に適用し得る限り、任意の液体試料であり得、代表的には、水を溶媒または分散媒として含む任意の水性試料であり得る。勿論、必ずしも試料溶液を用いる必要は無く、本発明に係る測定ができるのであれば、試料としては溶液のみならず、ゲル状のものなども適用できる。
【0021】
(光電流変換素子)
光電流変換素子としては、光源から照射される光量を光電流として検出することができる素子を用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、光電流変換素子として、フォトダイオード、フォトトランジスタ又はCdS光導電セル等を用いることができる。例えば、フォトダイオードでは、PNジャンクションに光エネルギーが照射されることにより光電流が発生するため、その光電流を測定することで光量を求めることができる。これらの光電流変換素子は既に公知の製造方法により作製することができる。
【0022】
(透光性機能膜)
透光性機能膜としては、光電流変換素子の上に形成することができ、後述の第1の結合手をその表面に保持できるものであれば、特に制限されない。透光性機能膜としては、例えば、その表面にアミノ基(−NH2)、チオール基(−SH)、アルデヒド基(−CHO)などをもつものを挙げることができる。また、カルボキシル基(−COOH)、カルバモイル基(−CONH2)、アミジノ基(−CO(NH)(NH2))などを有するポリマー等も透光性機能膜として挙げることができる。好ましい官能基は、チオール基、カルボキシル基及びアミノ基であり、特に好ましいものはアミノ基である。これらは既存の技術により形成可能である。これらの材料を用いた透光性機能膜の厚さは、透光性を損なわない厚さであり、適当な強度を保持していれば、特に限定されるものではない。これらの材料を用いた透光性機能膜の厚さは、透光性を損なわない厚さであり、適当な強度を保持していれば、特に限定されるものではないが、例えば、1nmから1μmとすることができ、好ましくは5nmから500nmとすることができる。
【0023】
また、上記ポリマー以外にも、光電流変換素子の上に形成可能な自己集合単分子膜を透光性機能膜として利用することができる。自己集合単分子膜とは、基材表面に自発的にほぼ均一な単分子層の吸着又は結合膜を形成することが可能な自己集合性化合物からなる膜である。自己集合性化合物は、一般的に、基材の表面に吸着可能な官能基(以下、吸着官能基と略す)と、その吸着官能基に結合している脂肪族化合物残基とを有している。そして、自己集合性化合物は、基材表面に吸着(化学吸着)させたとき、その分子集合性(吸着官能基に結合している脂肪族化合物残基による分子間相互作用)のため、基材表面にほぼ規則正しく配列する。なお、自己集合単分子膜は、Self−Assembled Monolayersといい、通常、SAMと略称されている。自己集合性化合物は両側の末端に任意の官能基を取り付けることが可能であるため、自己集合単分子膜からなる透光性機能膜の表面に第1の結合手の固定化に適した官能基を修飾することができる。
【0024】
また、透光性機能膜として、上記の例以外にも、例えば、自己集合単分子膜とITO膜(酸化インジウムスズ膜)の組み合わせを挙げることができる。ここで、ITO膜は高い透光性を有すると同時に、シラン基を有する自己集合単分子膜をその表面に形成することができる。したがって、光電流変換素子の上に蒸着法等によりITO膜を形成し、このITO膜の上に自己集合単分子膜を形成することで、透光性機能膜として利用することができる。また、この場合、ITO以外にもアルミナ等を材料として形成することができる。
【0025】
(第1の結合手)
前記第1の結合手は、測定対象物質と選択的な結合対を形成できる物質をいい、例えば、測定対象物質が抗原である場合はその抗原に対する抗体とすることができ、測定対象物質が核酸である場合にはその核酸に相補的な配列を有するプローブとすることができる。また、測定対象物質が抗体である場合はその抗体に対する抗原とすることができる。
【0026】
透光性機能膜の表面に、前記第1の結合手を結合させる方法としては、特に制限されるものではない。たとえば、リンカー化学、ハイブリダイゼーション、ビオチン/アビジン親和性による親和性捕捉、コンビナトリアル化学、他の従来技術において周知のものを利用して調製することができる。
【0027】
なお、前記「結合対」という用語には、例えば、抗原/抗体、抗原/抗体断片またはハプテン/抗ハプテン系などの免疫タイプの結合対のクラスのいずれをも含む。またビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、葉酸/葉酸塩結合タンパク質、ホルモン/ホルモン受容体、レクチン/特定の炭水化物、酵素/酵素、酵素/基質、酵素/阻害剤またはビタミンB12/内因子等の非免疫タイプの結合対のクラスも含む。また、例えば、相補的核酸断片(DNA、RNA、ペプチド核酸を含む)ならびにプロテインA/抗体またはプロテインG/抗体、ポリヌクレオチド/ポリヌクレオチド結合タンパク質も「結合対」として挙げられる。
【0028】
(微粒子)
本発明に使用する微粒子は、後述の第2の結合手を担持させることができ、光の透過を妨げるものであれば特に限定されない。例えば、シリカ粒子、ポリスチレンラテックス粒子、ポリ乳酸粒子、アガロース粒子、キトサン粒子、デキストラン粒子、アルブミン粒子、デンプン粒子、多糖類粒子を挙げることができる。更に、磁性シリカ粒子、磁性ラテックス粒子、磁性ポリ乳酸粒子、磁性アガロース粒子、磁性デキストランナノ粒子、磁性キトサンナノ粒子、磁性アルブミン粒子又は酸化鉄粒子などを挙げることができる。
【0029】
その中でも、微粒子表面への第2の結合手の固定化が容易であるという観点から、ラテックス粒子や、微粒子表面に官能基を有するポリスチレン粒子、カルボン酸変性スチレン系粒子等のポリスチレン系粒子等が好ましい。このようなポリスチレン粒子は、市販品として入手可能なものを使用することもできる。例えば、粒子表面にアミノ基を有するものとしてDynospheres(登録商標)XP−5002(ダイノインダストリーズ社)が利用できる。カルボキシル基を有するものとしてIMMUTEX Gシリーズ(JSR社)蛾利用できる。カルバモイル基を有するものとしてestapor(登録商標)PSI 181(プロラボ社)、アミジノ基を有するものとして、estapor(登録商標)PSI 629(プロラボ社)等の製品が知られている。
【0030】
また、光遮蔽効果の観点から、例えば、コロイド状金属粒子、コロイド状金属酸化物粒子などの無機微粒子が好ましい。コロイド状金属粒子としては、金、銀、銅などの微粒子が挙げられ、コロイド状金属酸化物粒子としては、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0031】
微粒子の粒子径(D50)としては、特に限定されるものではない。好ましくは5nmから1mmであり、より好ましくは13nmμmから250μmである。また、定量の精度を向上させるには粒子径が揃っていることが好ましい。均一な粒子径を有する粒子は既に市販されており、例えば、Micromod社の、Micromer−M、Dynal社のDynabeads等を挙げることができる。また、微粒子の径は、波長よりも大きいものであることが好ましい。
【0032】
(第2の結合手)
第2の結合手としては、前記測定対象物質が前記第1の結合手と結合している場合において、さらに該測定対象物質に結合できるものであれば、特に制限されない。例えば、測定対象物質が抗原である場合は、第1の結合手(抗体)と結合している部分以外の部分に選択的に結合する抗体とすることができる。また、測定対象物質が核酸であり、その核酸をビオチン処理した場合には、そのビオチンに選択的に結合するアビジンとすることができる。
【0033】
(微粒子表面の調製)
微粒子の表面には、上述のように、前記第2の結合手が固定化される。この第2の結合手を微粒子表面に固定化させる方法としては特に制限されるものではない。たとえば、リンカー化学、ハイブリダイゼーション又はビオチン/アビジン親和性による親和性捕捉、コンビナトリアル化学、他の従来技術において周知のものを利用して調製することができる。
【0034】
(微粒子の遮光効果による光量の減少と光電流変換素子の電流の関係)
例えば、微粒子表面の官能基と特異的に結合する官能基を自己単分子膜のシラン基反対側の末端に付けることで、微粒子を光電流変換素子の受光面、つまり透光性機能膜に固定化させることが可能である。特異結合する官能基の組み合わせとして、例えば、アビジン、ビオチンの結合がある。図2に示すように、アビジンを微粒子表面に固定化し、ビオチンをITO膜上に形成した自己集合単分子膜のシラン基と反対側の末端に取り付けることで、微粒子を透光性機能膜上にアビジン−ビオチン結合で固定化させることができる。受光面に固定された微粒子は光を遮蔽する効果を有するため、微粒子の有無でフォトダイオードなどの光電流変換素子の光電流が変化する。もう少し詳しく説明すると、光電流変換素子の受光面上に微粒子を固定化し、光源から光を照射すると、固定化された微粒子の影部分が光源に対して光遮蔽領域となる。したがって、光源から入射する光は、透光性機能膜上に固定化された微粒子数に応じて、減少することになる。そのため、フォトダイオード内のPNジャンクションから発生する光電流も、減じた光量分だけ減少する。この減じた光電流を計測すれば、固定化された微粒子数を高精度で計数することができるため、測定対象物質の検出及び定量ができることとなる。
【0035】
微粒子を1個の分解能で検出する場合には、微粒子1個の光の遮蔽が、フォトダイオードの光電流変化として検出されるように設計する必要がある。すなわち、フォトダイオードの光分解能と、微粒子1個が受光素子表面を遮蔽したときの光変化量を同じ値とすれば、光電流の変化と微粒子の個数を対応させて検知することが可能になり、微粒子1個づつを検出できることになる。一般にフォトダイオードの光電流の分解能は、検出可能な光電流値各桁レンジでの2%以上である。ここで100nA〜100μAまでの光電流を出力するフォトダイオードを用い、2μm径のラテックス微粒子を用いて、微粒子の検出を行う。260μm2の面積のフォトダイオードを用いると、最密充填での最大数で100個の2μm径ラテックス微粒子を検出することが可能となる。実際には防水処理したビオチンが表面に修飾されたフォトダイオードを溶液中に浸すようにして、アビジン−ビオチン特異反応が生じるように液中で微粒子を固定化するため、微粒子はランダムにフォトダイオード表面に固定化されていく。そのため、最も高濃度な場合でも最密充填で固定化されることはないが、一個〜十数個程度の固定化された微粒子をこのフォトダイオード上に固定化し検出することは十分に可能である。
【0036】
本発明による光電流変換素子としてフォトダイオードを選択すると、各電流レンジで、2%程度以上の光量変化を検出することができる。そのため、(微粒子遮蔽面積/光電流変換素子の受光面積)<(0.02)となるような微粒子径と光電流変換素子の受光面積を選択すれば、1個の分解能で微粒子の測定が可能となる。こうして、本発明は特にバイオセンサとして用いると良い。本発明で用いた測定装置は、微粒子1個の分解能で測定対象物質を検出することができるように設計できる。
【0037】
つまり、フォトダイオードに最大光電流の2%程度以上の光電流が検出できる場合(ノイズ等の影響により、この値が一般的と考えられている)、2%未満の光電流は(ノイズに埋もれて)検知できないことになる。したがって、フォトダイオードに2%以上の光電流を生じさせ得る面積の遮蔽物をフォトダイオード上に配置する必要がある。そして、そのような面積(光遮蔽面積)に相当する微粒子をフォトダイオード上に置くことで、フォトダイオードで微粒子の存在を検知することができるようになる。さらに、そのフォトダイオードの面積を覆い尽くすまで、微粒子をフォトダイオード上に置くことができるため、上記のフォトダイオードの場合、1個から面積を覆い尽くす数までの個数をフォトダイオードの光電流変化で検出することができることになる。
【0038】
さらに本発明においては、1個の分解能で微粒子を測定する場合には、微粒子径、光電流変換素子の受光面積及び受光感度との関係は重要である。1微粒子毎の分解能で検出するためには、1個の微粒子による遮蔽面積が、光電流変換素子の光量の変化として検出されるように設計されなければならない。一般に、フォトダイオードでは検出される光電流の各桁レンジで、2%程度の光量は分解能として十分に検出できる量である。この2%の光量変化を生じさせるような微粒子径と光電流変換素子の受光面積を用いれば、微粒子1個の分解能で測定可能である。フォトダイオードの光分解能と、微粒子1個が光電流変換素子表面を遮蔽したときの光変化量を同じ値とすれば、光電流の変化を検知することで、微粒子1個づつを検出できることになる。
【0039】
(光源)
本発明に用いる光源は、光電流変換素子の受光面に光を照射する装置である。用いられる光の波長は特に制限されるものではない。しかし、光電流変換素子では受光する光の波長に依存して感度が変化するため、好ましくは、光源には、単波長の光源を用いることが好ましく、また光電流変換素子の感度の高い波長を用いることが好ましい。
【0040】
さらに微粒子に対する光の散乱の効果を低減させるために、好ましくは、微粒子の径よりも短い波長の光を発する光源を用いることが好ましい。
【0041】
(測定対象物質の測定方法)
以下、本発明に係る測定方法について、測定対象物質として試料溶液中の抗原とした場合の測定例を挙げ、図4を用いて詳細に説明する。
(a)フォトダイオードなどの光電流変換素子の上に、ITO膜と自己集合性単分子膜からなる透光性機能膜を形成し、本発明に係る測定装置を作製する。
(b)自己集合性単分子膜に、測定対象物質である抗原に特異的に結合する抗体(第1の結合手)を固定化する。
(c)抗原を含む試料溶液を、抗体を結合した測定装置表面に滴下する。このとき試料溶液中に抗原が存在するならば、抗体と抗原が特異的に結合する。
(d)測定装置表面の試料溶液を洗浄し、不要な物質を除去する。
(e)抗原に特異的に結合する抗体を固定した微粒子を含む溶液を測定装置表面に滴下する。さらに測定装置表面を洗浄し、抗原と結合しなかった微粒子を除去する。
(f)光を測定装置に照射し、測定装置表面に結合した微粒子による光量の減少を測定することによって、間接的に抗原を検出する。
【0042】
また、本発明に係る測定方法により、試料溶液中の測定対象物質の定量測定も行えることができる。光電流変換素子から出力される電気信号は、光電流変換素子上の光感知部で検出する光量に応じて変化し、信号処理部へ出力される。光量は固定された微粒子の量に応じて変化し、また、微粒子の量は、検出すべき測定対象物質の量に応じることとなる。このため、信号処理部へ出力される信号は、抗体と結合を形成した測定対象物質の量を示すこととなり、反応した測定対象物質の量が試料溶液中に含まれる測定対象物質の量と相関性を持つことになる。したがって、本発明に係る測定方法により、検出信号に基づいて試料溶液に含まれる測定対象物質を定量することが可能となる。
【0043】
以上は抗原の検出方法について述べたが、その他にも例えば核酸の検出を行うことも可能である。例えば、受光面上部に一本鎖の状態のDNAプローブを固定しておく。その後、標的物質である検体DNAで修飾された微粒子を含む溶液を検出部上部に滴下し、DNAプローブと検体DNAが相補的に結合したときのみ微粒子が受光面上部に固定される。固定されない微粒子を洗浄などによって検出部から除去した後、微粒子の測定を行う。このとき微粒子の存在が確認されれば、検体DNAは所望のDNA配列を持つものであると確認される。
【0044】
検体DNAは、試料溶液内の濃度に依存して、受光面に形成されると考えられる。つまり、試料溶液内の検体DNA濃度と、DNAプローブと相補結合する検体DNA濃度とが対応することから、検体DNA濃度と受光面に形成される微粒子とが対応するため、検体DNAの有無及び濃度の情報を得ることができることになる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
図3は本発明の光センサの実施例1の構成を示す図である。本実施例においては、光電流変換素子として、16.2μm×16.2μmのフォトダイオードを用い、電流電圧変換回路として、オペアンプの両端子間にフォトダイオードを取り付け、負荷抵抗を取り付ける。斯かる構成とすることで、光電流の変化を電圧信号として検出することができる。光源としては、ヘリウム/ネオンレーザー(波長=543nm)を用いている。
【0047】
図3において、フォトダイオードの構成は、基板下側より、シリコン基板、クロム(Cr)下部電極層、n型半導体層、p型半導体層、ITO上部電極層で構成されている。これらの層の製造方法は、まず、シリコン基板上に蒸着装置によりCr下部電極層を形成し、フォトダイオードの電極となるような形状にフォトリソグラフィー法によりパターニングした。次に、CVD装置に基板を取付け、原料ガスとしてシランガスSiH4、水素ガスH2、及びフォスフィンガスPH3を用いてn型半導体層3を形成した。引き続いて、原料ガスとしてシランガスSiH4、水素ガスH2及び、ジボランガスB26を用いてp型半導体層5を形成した。さらに、基板を蒸着装置に設置しITOを成膜し、フォトリソグラフィー法により所定の形状にパターニングした後、その上に自己集合単分子膜を形成して透光性機能膜を形成している。
【0048】
このフォトダイオードの光電流は、光量に応じて1nAから100nAの範囲で変化する。このフォトダイオードから得られる光出力電圧信号Voutは、
out=Ipd・Rf
で表される。なお、Ipdはフォトダイオードに流れる光電流を表し、RfはOPアンプの負荷抵抗を表す。
【0049】
取り扱う測定装置は、必要に応じ、負荷抵抗を変更することにより、所望の電圧で信号を取得することができる。
【0050】
本実施例で検出する粒子は、2μmφのラテックス微粒子を用いている。この微粒子表面には公知の方法によりアビジンが修飾してある。また、フォトダイオード表面に形成された透過性機能膜であるITOには、シラン基とビオチンが両端に修飾された自己単分子膜が固定化されている。ITOとシラン基が結合するため、フォトダイオード表面にはビオチンが形成されていることになる。
【0051】
したがって、このラテックス微粒子を含む溶液を検出部表面に滴下すると、アビジンとビオチンが反応し、図3左図のようにラテックス微粒子が、フォトダイオード上に固定化される。本実施例では、ラテックス粒子とフォトダイオードは最密充填で固定化された場合で最大45個の微粒子が固定化されるように設計されている。
【0052】
図3では、1個の微粒子のみがフォトダイオード上に固定化された例が示されている。光源からの光は、ラテックス粒子がフォトダイオード上に1個固定化されている場合には、1個のラテックス微粒子に受光面の一部が遮蔽されるため、約0.22nAの光電流が生じる。これは、最大光電流の約2.2%に相当し、光電流変化として検出される。
【0053】
このように、予め1個の微粒子により遮蔽された場合の光電流値の低下量を把握しておけば、フォトダイオードの光電流の値を測定することで微粒子を計数することができる。また、光電流値の低下量は、微粒子の数(正確には遮蔽面積)に比例するものと考えられるため、本実施例において微粒子1個の分解能で微粒子数検出を可能とすることができることになる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る測定装置は、簡易な構成で広いレンジで微粒子の検出を可能とするため微粒子数計数に適用可能であり、その測定対象物質の標識に微粒子を用いることで、測定対象物質の検出及び定量が可能なセンサとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る測定装置の一態様の断面図である。
【図2】アビジン−ビオチン結合を介して、微粒子を図1に示す測定装置上に固定化させた場合の概念図である。
【図3】本発明を用いて、微粒子1個の検出を行う装置の説明図である。
【図4】本発明に係る測定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1:透光性機能膜
2:光電流変換素子
3:抗体1
4:抗原(測定対象物質)
5:抗体2
6:微粒子
7:光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質に結合した微粒子の有無を光電流変換素子により光量の変化を測定することで、試料に含まれる測定対象物質を検出する装置であって、
前記測定対象物質に選択的に結合可能な結合手を保持させることができる透光性機能膜と、
該透光性機能膜を受光面に有し、受光面に照射される光量を光電流として検出することができる光電流変換素子と、
前記受光面へ光を照射するための光源とを有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記光電流変換素子がフォトダイオード、フォトトランジスタ、CdS光導電セルのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記透光性機能膜が、酸化インジウムスズ膜の上に自己集合単分子膜を形成した膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の装置を用いて試料中の測定対象物質を測定する方法であって、
前記透光性機能膜に前記測定対象物質と特異的に結合可能な第1の結合手を付加し、
該第1の結合手と前記試料に含まれる測定対象物質を結合させ、
該第1の結合手と結合した測定対象物質に第2の結合手を介して微粒子を結合させ、
前記光源から光を前記受光面に照射し、微粒子の遮光効果による光量の減少分を前記光電流変換素子により測定することで、試料中の測定対象物質の濃度を測定する方法。
【請求項5】
前記微粒子が、シリカ粒子、ポリスチレンラテックス粒子、ポリ乳酸粒子、アガロース粒子、キトサン粒子、デキストラン粒子、アルブミン粒子、デンプン粒子、多糖類粒子、磁性シリカ粒子、磁性ラテックス粒子、磁性ポリ乳酸粒子、磁性アガロース粒子、磁性デキストランナノ粒子、磁性キトサンナノ粒子、磁性アルブミン粒子又は酸化鉄粒子であることを特徴とする請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
前記測定対象物質が、抗原若しくは抗体又は核酸であることを特徴とする請求項4又は5に記載の測定方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の測定装置を用いて試料中の測定対象物質を検出する方法であって、
前記透光性機能膜に前記測定対象物質と特異的に結合可能な第1の結合手を付加し、
前記第1の結合手と前記試料に含まれる前記測定対象物質を結合させ、
前記第1の結合手と結合した測定対象物質に第2の結合手を介して微粒子を結合させ、
光を前記測定装置に照射し、微粒子の遮光効果による光量の減少分を前記光電流変換素子により測定することで、測定対象物質を検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−31097(P2009−31097A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194587(P2007−194587)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】