説明

微粒子製造装置及びトナー

【課題】噴射造粒法において、液滴吐出手段により吐出された液滴の合一と、吐出孔からの染み出し・気泡混入とを抑制して、粒子径の均一な微粒子を製造する。
【解決手段】トナー組成液14を貯留するトナー液タンク13と、トナー液タンクから送液されたトナー組成液14を吐出孔19から吐出する液滴吐出装置2と、液滴噴射装置により液滴21が吐出されて液滴が乾燥される空間を囲む吐出室(乾燥室)3と、トナー液タンクと吐出室とを連通させる共通配管5と、共通配管を介してトナー液タンクと吐出室とを減圧する減圧ポンプ6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射造粒法によって微粒子を製造する微粒子製造装置、および、その微粒子製造装置によって製造されたトナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂微粒子の一例である、電子写真記録方法を用いた画像形成装置に使用されるトナーの製造方法としては、粉砕法が主流であった。しかし、粉砕法は均一な粒径を得難いという問題がある。粉砕法に較べて均一な粒径を得ることを目的として、トナーの原材料成分を有機溶媒に溶解または分散した液体(トナー組成液)を噴霧器などを用いて微小な液滴となるように放出し、これを乾燥させて微粒子状のトナーを得る、噴射造粒法と呼ばれる製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、噴射造粒法によるトナー製造装置が記載されている。このトナー製造装置では、液滴吐出手段により、トナーの原料となるトナー組成液を液滴として、複数の吐出孔から吐出孔下に広がる空間へ吐出する。吐出された液滴はこの空間内で下方向に進み、その後乾燥固化されトナー化される。この場合、既存のインクジェット記録方式の技術を利用することで、液滴吐出手段の吐出孔から吐出される液滴の大きさを高精度に制御することができるので、トナーの粒径を高精度に制御することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記噴射造粒法によるトナー製造装置では、吐出された液滴が乾燥固化される前に互いにくっついてしまう「合一」という問題が発生する。
上記トナー製造装置では、生産効率の向上のため複数のノズルから継続して液滴を吐出しており、吐出された空間内でトナー液滴の列を形成する。吐出された液滴は一定の初速度を持っているが、空気抵抗によって徐々に失速する。このため、列を形成する液滴のうち、失速した液滴に対して、直後に吐出された液滴が追いついてしまい、先に吐出された液滴に追突して合一するものがある。合一した液滴は体積が増加し、更に空気抵抗を受け減速し、後続の液滴が次々と合一し易くなる。このような合一を「縦合一」という。
また、複数の吐出孔のうち、端部の吐出孔から吐出した液滴が、空気抵抗によって中心部に集合する力が働き、隣接する吐出孔から吐出された液滴に接触して合一するものがある。このような合一を「横合一」という。
合一がおこると、上記空間内に合一した液滴と合一しなかった液滴とが混在することなる。このため、その後、液滴が乾燥固化され大きさの異なるトナーが製造されることになり、トナーの均一性が損なわれる。
【0005】
上記特許文献1では、吐出部の周囲に液滴吐出方向と同方向に乾燥気体を流すことにより気流を発生させ、気流により液滴を空間内で搬送すると共に、搬送中に液滴中の溶媒を除去することで、乾燥時間を短縮して生産効率の向上を図ることが記載されている。この構成では、気流によって液滴が合一する速度にならないように搬送することで、乾燥気体を流す吐出部近傍での「縦合一」を抑制することはできる。しかしながら、気流は空間内で均一でなく、液滴に対して差のある空気抵抗を有する状態となる。このため、横合一や、吐出部から離れたところでの縦合一を抑制できず、この差を有する空気抵抗により、反って悪化させてしまう場合もある。また、吐出部の周囲に流した乾燥気体によって、吐出孔が閉塞をおこして、吐出停止となってしまうという問題があった。
【0006】
また、従来の噴射造粒法によるトナー製造装置では、吐出孔の内側と外側における動作中の微小な圧力差により、吐出孔からのトナー組成液の染み出しや、吐出孔内のトナー組成液に気泡が入り込んでしまうという問題がある。トナー組成液が染み出すと異常吐出の原因となり、液滴の大きさの均一性が得られず、トナー粒径の均一性が損なわれる。一方、吐出孔内のトナー組成液への気泡混入により、吐出動作が正常に行われないおそれがある。
上記特許文献2には、トナー組成液の染み出しを抑制するために、吐出孔の形状を規定するものが記載されているが、構成が複雑でコスト高となり、実用化は難しい。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、噴射造粒法において、液滴吐出手段により吐出された液滴の合一と、吐出孔からの染み出し・気泡混入とを抑制して、粒子径の均一な微粒子を製造することのできる微粒子製造装置、および、その微粒子製造装置によって製造された粒子径の均一なトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、液滴が固化すると微粒子となる微粒子成分含有液を吐出孔から吐出する液滴吐出手段と、前記液滴吐出手段に連なり、前記液滴吐出手段に供給される微粒子成分含有液を貯留する貯留手段と、前記液滴吐出手段により液滴が吐出されて前記液滴が乾燥される空間を囲む吐出室と、前記貯留手段内の空間と前記吐出室の空間とを連通させる共通配管と、前記共通配管を介して前記貯留手段と前記吐出室とを減圧する減圧手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、液滴が合一を起こすのは、液滴が吐出される空間内の空気抵抗に起因することから、空気抵抗を減らすべく、液滴が吐出される空間を囲む吐出室を減圧する。しかしながら、吐出室だけを減圧すると、液滴吐出手段の吐出孔から微粒子成分含有液が染み出し易くなる。
そこで、液滴吐出手段に供給される微粒子成分含有液を貯留する貯留手段内も、同様に減圧することが考えられる。しかし、メンテナンス等で一旦大気圧になった状態から所定圧まで減圧することがあり、この減圧過程で、吐出室と貯留手段内に微小の圧力差が生じることは避けられない。この圧力差に起因して吐出孔からの微粒子成分含有液の染み出しが発生する。また、逆に、圧力差によっては、吐出孔から気泡を吸引して微粒子成分含有液への気泡混入を発生させるおそれがある。
本発明では、吐出室と貯留手段とを共通配管で連通させ、両者を全く同じ圧力に保ちながら減圧手段により減圧することで、染み出しや気泡混入を抑制しつつ、吐出室内の空気抵抗を減らすことができる。これにより、吐出室内における液滴の合一を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、噴射造粒法において、液滴吐出手段により吐出された液滴の合一と、吐出孔からの染み出し・気泡混入とを抑制して、粒子径の均一な微粒子を製造することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るトナー製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係るトナー製造装置の変形例を示す模式図である。
【図3】従来のトナー製造装置の一例を示す模式図である。
【図4】実施形態で用いる液柱共鳴タイプの液滴吐出装置の液滴吐出部の一部を拡大して示した模式図である。
【図5】同液滴吐出装置である液柱共鳴液滴形成ユニットの一部を模式的に示した断面図である。
【図6】(a)〜(d)は、同液柱共鳴液滴形成ユニットの吐出孔の断面形状として採用できる各種断面形状を例示した断面図である。
【図7】(a)〜(d)は、N=1、2、3の場合において、同液柱共鳴液滴形成ユニットの液柱共鳴液室内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
【図8】(a)〜(c)は、N=4、5の場合において、同液柱共鳴液室内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
【図9】(a)〜(d)は、同液柱共鳴液室で生じる液柱共鳴現象の様子を模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る微粒子製造装置をトナーの製造に適用したトナー製造装置の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態のトナー製造装置は、液滴が固化するとトナー粒子(微粒子)となるトナー組成液(微粒子含有液)を貯留する貯留手段から液滴吐出装置へ補充しながら、液滴吐出装置の吐出孔からトナー組成液の液滴を吐出する吐出動作を継続して行い、吐出した液滴を乾燥固化させることによりトナー粒子を得るものである。
【0013】
図1は、本実施形態に係るトナー製造装置の一例を示す模式図である。
このトナー製造装置1は、樹脂及び着色剤を含有するトナー組成液14を貯留する貯留手段としてのトナー液タンク13と、トナー組成液14を液滴化して放出する液滴吐出装置2と、液滴が吐出されるとともに、吐出された液滴を乾燥固化してトナー粒子を形成する空間を形成する吐出室(乾燥室)3と、乾燥されたトナーを補足するトナー捕集手段としてのフィルター4とを備えている。
【0014】
トナー液タンク13は送液管8を介して液滴吐出装置2に接続されている。この送液管8には、トナー液タンク13と液滴吐出装置2とでトナー組成液14を循環させる液循環ポンプ15が接続されている。液循環ポンプ15の駆動により、トナー液タンク13内のトナー組成液14は送液管8を通じて液滴吐出装置2へと供給される。また、液滴吐出装置2へ供給されたトナー組成液14のうち、液滴吐出装置2内部に補充されなかったものは、液循環ポンプ15の駆動により送液管8を通じてトナー液タンク13へ戻される。
【0015】
次に図示しない制御装置で液滴吐出装置2を稼働させ、複数の吐出孔19からトナー組成液14の液滴21を吐出室(乾燥室)3内に継続的に吐出する。なお、液滴吐出装置2については、後で詳細に説明する。吐出された液滴21は列を形成して、下方に向けて進行し、その進行中に乾燥固化し、フィルター4により捕集される。フィルター4で捕集された粒子は、その後、必要に応じて二次乾燥処理を行う。具体的には、液滴吐出装置2の吐出を停止し、乾燥室3の扉をあけてフィルター4を取り出し、別工程の2次乾燥装置(不図示)にかけてトナーとする。
【0016】
このような構成のトナー製造装置1において、トナー組成液14を収容するトナー液タンク13と吐出室(乾燥室)3との間を共通配管5で締結することにより連通させ、減圧手段としての減圧ポンプ6を設けて、共通配管5を減圧ポンプ6で減圧できる構造とした。
【0017】
以下、実施例に基づきトナー製造装置1の動作を説明する。
<実施例>
まず、図1のトナー製造装置1で、電磁弁9を開いた状態で液循環ポンプ15を稼働してトナー液タンク13中のトナー組成液(吐出液)14を吸い上げ、送液管8内に気泡が見られなくなるまで、トナー液タンク13と液滴吐出装置2との間で液循環を継続する。気泡が無くなった時点で液循環ポンプ15を停止し、電磁弁9を閉じる。この時の液滴吐出装置2内の圧力はトナー液タンク13の喫水面で決まる水頭圧となるが、液滴吐出装置2の吐出孔面とトナー液タンク13の喫水面とを同じ高さにしてあるので、水頭圧差は生じない。このため、トナー組成液14(吐出液)の移動や吐出孔19における染み出し・気泡混入などは起こらない。
【0018】
次いで、図示しない制御装置で液滴吐出装置2を稼働させ、吐出孔19から液滴21を吐出させる。次に、減圧ポンプ6を稼働させ、共通配管5を介してトナー液タンク13と吐出室(乾燥室)3とを同時に減圧する。トナー液タンク13と吐出室(乾燥室)3の減圧は、−30[KPa]〜−60[KPa]の負圧とすることが好ましい。本実施例では、−50[KPa]を維持するように減圧ポンプ6を制御した。この減圧では、吐出孔19でのトナー組成液(吐出液)14の染み出しや気泡混入は起こらず、良好な吐出状態を続けることができた。また、吐出室(乾燥室)3を減圧しているので、吐出した液滴21に対する空気抵抗が少なく、液滴21は縦合一や横合一を起こすことなく真っ直ぐに落下する。さらに、吐出室(乾燥室)3内は減圧されているので、減圧されていない場合に較べて液滴21の乾燥時間は短くなる。このため、液滴21は落下中に、液滴21の溶媒成分が乾燥し、粒子となってフィルター4に補足された。そして、トナー組成液(吐出液)14が空になった時に吐出を停止し、吐出室(乾燥室)3の扉をあけてフィルター4を取り出して、補足された粒子を別工程の2次乾燥装置(不図示)にかけてトナーとした。得られたトナーの粒度分布を、粒径評価装置により計測したところ、合一の影響が少なく、体積平均粒径Dv/個数平均粒径Dnが1.07と良好な値を示した。
【0019】
また、本実施例で用いたトナー組成液(吐出液)14は溶媒として酢酸エチルを90%重量パーセント混入しており、空気中の酸素が多量に溶け込んでいる。このため、減圧ポンプ6により−60[KPa]よりも減圧を強めると、トナー組成液(吐出液)14に溶け込んだ酸素がブクブクとはじけだした。一方、−50KPaでは酸素が継続して出現することはなく、問題なく使用することができた。
【0020】
図2は、本実施形態に係るトナー製造装置の変形例を示す模式図である。図1のトナー製造装置では、トナー組成液(吐出液)14をトナー液タンク13に直接収容したが、図2のトナー製造装置1では、トナー組成液(吐出液)14を、一旦柔軟性のあるパック容器13aに収容し、パック容器13aをトナー液タンク13に収容する構成である。送液管8はパック容器13aに接続されている。なお、パック容器13aにトナー組成液(吐出液)14を入れる際は、パック容器13a内に空気が混入しないようにする。
【0021】
図2の構成では、液循環ポンプ15の吸引力を利用してパック容器13aからトナー組成液(吐出液)14が送液管8を満たすまで引き、その後に電磁弁9を閉じる。その他の動作は、図1のトナー製造装置と同じである。図2のトナー製造装置の場合、貯留されているトナー組成液(吐出液)14は空気に触れることがないので、周囲の酸素がトナー組成液(吐出液)14に溶け込んでしまう虞が無く、事前に脱気した効果を長時間持続させることができる。また、トナー液タンク13を減圧してもトナー組成液(吐出液)14から溶媒が揮発する虞がない。
【0022】
<比較例>
比較例として、従来のトナー製造装置について説明する。図3は、従来のトナー製造装置の一例の模式図である。
図3のトナーの製造装置1は、トナー組成液14を貯留する貯留手段としてのトナー液タンク13と、トナー組成液14を液滴化して放出する液滴吐出装置2と、液滴が吐出されるとともに、吐出された液滴を乾燥固化してトナー粒子を形成する空間を形成する吐出室3と、トナー粒子を捕集するトナー捕集部40と、捕集されたトナー粒子がチューブ43を介して移送され、貯留するトナー貯留部44を備えている。また、トナー液タンク13と液滴吐出装置2との間でトナー組成液14を送液する送液管8と、液循環するための液循環ポンプ15とを備えている。また、吐出室3には液滴吐出装置2近傍から下降気流35が送り込まれ、吐出された液滴21は、重力だけでなく、この下降気流35によっても、下方に向けて搬送される。
【0023】
図3のトナー製造装置により、直径が5[μm]のトナーを目標にして製造したところ、トナーの粒径は4〜10[μm]に分布していた。これは、乾燥前に液滴21同士が合一してしまったためと考えられる。液滴21が、2個合一した場合に直径は1.26倍になり、液滴21がまれではあるが8個合一した場合に直径は2倍になってしまった。
【0024】
次に、本実施形態のトナー製造装置1に用いる液滴吐出装置2について説明する。液滴吐出装置2としては、吐出する液滴の粒径分布が狭ければ、特に制限は無く、公知のものを用いることができる。液滴吐出装置の吐出手段としては、1流体ノズル、2流体ノズル、膜振動タイプ吐出手段、レイリー分裂タイプ吐出手段、液振動タイプ吐出手段、液柱共鳴タイプ吐出手段等が挙げられる。膜振動タイプの吐出手段としては、例えば例えば特開2008−292976号公報に開示されたものがある。また、レイリー分裂タイプの吐出手段としては、特許第4647506号公報に開示されたものがある。また、液振動タイプの吐出手段としては、特開2010−102195号公報に開示されたものがある。
【0025】
液滴の粒径分布が狭く、トナーの生産性を確保するためには、複数の吐出孔が形成された液柱共鳴液室内の液体に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、定在波の腹となる領域に形成された吐出孔から液体を吐出する液柱共鳴タイプの液滴吐出装置が好適である。本実施形態では、液柱共鳴タイプの液滴吐出装置を用いてトナーを製造する例について説明する。
【0026】
図4は、本実施形態で用いる液柱共鳴タイプの液滴吐出装置の液滴吐出部11の一部を拡大して示した模式図である。
本実施形態の液滴吐出部11は液柱共鳴液室18を備えており、この液柱共鳴液室18は、長手方向(図4中左右方向)両端の側壁部のうち一方の側壁部(開口側壁部)に設けられた連通路を介して液共通供給路17へと連通している。また、液柱共鳴液室18は、長手方向両端の側壁部間を連結する壁部のうち1つの壁部(図4中下側の底壁部)に液滴21を吐出する複数の吐出孔19を備えている。また、液柱共鳴液室18における吐出孔19と対向する上壁部側には、液柱共鳴定在波を形成するために高周波振動を発生させる振動発生手段20が設けられている。この振動発生手段20は、図示しない高周波電源に接続されている。
【0027】
図5は、本実施形態の液滴吐出装置である液柱共鳴液滴形成ユニット10の一部を模式的に示した断面図である。なお、図5は、図4中上方又は下方から見たものである。
本実施形態において、液滴吐出部11から吐出される液体は、製造対象である微粒子の成分が溶解又は分散された状態の微粒子含有液である。本実施形態は、トナーを製造する例であるため、この微粒子含有液をトナー組成液と記して説明する。トナー組成液14は、液循環ポンプ(図1の15)により送液管(図1の8)を通って、液柱共鳴液滴形成ユニット10の液共通供給路17内に流入し、各液滴吐出部11の液柱共鳴液室18へと補充される。
【0028】
液柱共鳴液室18内に充填されたトナー組成液14には、振動発生手段20によって発生する液柱共鳴定在波により圧力分布が形成される。そして、液柱共鳴定在波の腹となる領域(振幅が大きくて圧力変動が大きい領域)に配置されている吐出孔19から液滴21が吐出される。液柱共鳴による定在波の腹となる領域とは、定在波の節以外の領域を意味するものである。好ましくは、定在波の圧力変動が液を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域であり、より好ましくは定在波の振幅が極大となる位置から極小となる位置に向かって±1/4波長の範囲である。定在波の腹となる領域であれば、本実施形態のように1つの液柱共鳴液室18内に複数の吐出孔19が形成されている構成であっても、それぞれからほぼ均一な大きさの液滴が吐出でき、さらには効率的に液滴の吐出を行うことができ、吐出孔の詰まりも生じ難くなる。なお、液共通供給路17を通過したトナー組成液14は、送液管(図1の8)を流れてトナー液タンク13に戻される。液滴21の吐出によって液柱共鳴液室18内のトナー組成液14の量が減少すると、液柱共鳴液室18内の液柱共鳴定在波の作用による吸引力が作用し、液共通供給路17から供給されるトナー組成液14の流量が増加し、液柱共鳴液室18内にトナー組成液14が補充される。そして、液柱共鳴液室18内にトナー組成液14が補充されると、液共通供給路17を通過するトナー組成液14の流量が元に戻る。
【0029】
液滴吐出部11の液柱共鳴液室18は、駆動周波数において液体の共鳴周波数に影響を与えない程度の高い剛性を持つ金属、セラミックス、シリコンなどの材料によって形成されたフレームをそれぞれ接合して形成されている。また、図4に示すように、液柱共鳴液室18の長手方向両端の側壁部間の長さLは、後述するような液柱共鳴原理に基づいて決定される。また、図5に示すように、液柱共鳴液室18の短手方向両端の側壁間の長さ(幅)Wは、液柱共鳴に余分な周波数を与えないように、液柱共鳴液室18の長さLの2分の1より小さいことが望ましい。
【0030】
液柱共鳴液室18は、生産性を向上させるために、1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10に対して複数配置されている方が好ましいので、本実施形態では1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10に対して複数の液柱共鳴液室18が配置された構成を採用している。1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10に対して設ける液柱共鳴液室18の数には特に限定はないが、100〜2000個の液柱共鳴液室18が備えられた1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10であれば、操作性と生産性の両立が実現でき、好適である。本実施形態では、1つの液共通供給路17に対して複数の液柱共鳴液室18が連通した構成となっている。
【0031】
また、液滴吐出部11における振動発生手段20は、所定の周波数で駆動できるものであれば特に制限はないが、本実施形態のように圧電体20Aに弾性板20Bを貼り付けた構造のものが好ましい。弾性板20Bは、圧電体20Aが接液しないように液柱共鳴液室18から圧電体20Aを隔離するように設けられる。圧電体20Aは、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスが挙げられるが、一般に変位量が小さいため積層して使用されることが多い。この他にも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電高分子や、水晶、LiNbO、LiTaO、KNbO等の単結晶などが挙げられる。更に、振動発生手段20は、液柱共鳴液室18ごとに個別に制御できるように配置されていることが望ましい。例えば、液柱共鳴液室の配置にあわせて1つの圧電体材料を複数の圧電体に分断し、各圧電体でそれぞれの液柱共鳴液室を個別制御できるような構成が好ましい。
【0032】
吐出孔19の出口側直径は、1[μm]以上40[μm]以下の範囲であることが望ましい。
1[μm]より小さいと、形成される液滴が非常に小さくなるため、トナーを得ることができない場合がある。特に、トナーの構成成分として顔料などの固形微粒子が含有されている場合には、この固形微粒子が吐出孔19を閉塞させるおそれがあり、トナーの生産性を低下させるおそれがある。一方、40[μm]より大きい場合、液滴の直径が大きいため、これを乾燥固化させて、3[μm]以上6[μm]以下のトナー粒子径を得ようとすると、有機溶媒でトナー組成を非常に希薄な液に希釈する必要がある。この場合、一定量のトナーを得るために乾燥エネルギーが大量に必要となってしまい、不都合となる。
【0033】
また、本実施形態では、複数の吐出孔19が配列された吐出孔の列(図4参照)が、図5に示すように、液柱共鳴液室18内の幅方向(図5中左右方向)に複数並列配置されている。このような構成により、一度の吐出動作によって、より多くの液滴を吐出することができるので、生産効率が高まる。吐出孔19の配置によって液柱共鳴周波数が変動するため、液柱共鳴周波数は液滴の吐出を確認しながら適宜決定するのが望ましい。
【0034】
図6(a)〜(d)は、吐出孔19の断面形状として採用できる各種断面形状を例示した断面図である。
本実施形態においては、吐出孔19の断面形状が、図4に示すように、出口側に向けて径が小さくなるようなテーパー形状である場合を例示しているが、この断面形状は適宜選択することができる。
図6(a)に示す吐出孔19の断面形状は、吐出孔19の入口側から出口側に向かってラウンド形状(湾曲形状)を持ちながら径が狭くなる断面形状である。この断面形状は、吐出孔19が形成される液柱共鳴液室18の底壁部を構成する吐出孔用薄膜41が振動した際、吐出孔19の出口付近で液にかかる圧力が最大となるため、吐出の安定化に際して好ましい形状である。
図6(b)に示す吐出孔19の断面形状は、吐出孔19の入口側から出口側に向かって一定の角度を持って径が狭くなるようなテーパー形状をもった断面形状であり、本実施形態が採用しているものである。この断面形状においては、テーパー形状となっていることで、図6(a)に示した断面形状のものと同様、吐出孔用薄膜41が振動したときの吐出孔19の出口付近で液にかかる圧力を高めることができる。テーパー角24は適宜変更することができるが60°よりも大きく90°以下の範囲であるのが好ましい。ノズル角度24が60°以下の場合、液に圧力がかかりにくく、さらに薄膜41の加工も困難となるからである。一方、ノズル角度24が90°である場合、図6(c)に示したような断面形状となるが、吐出孔19の出口付近に圧力がかかりにくくなるので、テーパー角24の好適な角度範囲としては90°が最大値となる。テーパー角24が90°よりも大きいと、吐出孔19の出口付近に圧力がかからなくなるため、液滴吐出が非常に不安定化する。
図6(d)に示す吐出孔19の断面形状は、図6(a)に示した断面形状と図6(c)に示した断面形状とを組み合わせた形状である。このように段階的に断面形状を変更しても構わない。
【0035】
次に、液柱共鳴液滴形成ユニット10による液滴形成のメカニズムについて説明する。
まず、図4に示した液滴吐出部11内の液柱共鳴液室18において生じる液柱共鳴現象の原理について説明する。
液柱共鳴液室内のトナー組成液の音速を「c」とし、振動発生手段20から媒質であるトナー組成液に与えられた駆動周波数を「f」とすると、液体の共鳴が発生する波長λは、下記の式(1)より算出することができる。
λ = c/f ・・・(1)
【0036】
本実施形態では、液共通供給路17と連通するための連通路が形成された液柱共鳴液室18の側壁部(開口側壁部)が、連通路が形成されていない反対側の側壁部(閉口側壁部)と等価であると考えることができる。この場合、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが、波長λの4分の1の偶数倍に一致するときに、振動発生手段20の振動によって液柱共鳴液室18内の液体に共鳴振動が最も効率的に発生する。このような液柱共鳴が最も効率的に発生する液柱共鳴最適条件は、下記の式(2)によって表すことができる。なお、上記の式(2)に示す液柱共鳴最適条件は、液柱共鳴液室18の長手方向両側壁部が完全に開放された状態でも、同様に成り立つものである。
L = (N/4)×λ ・・・(2)
【0037】
一方、液柱共鳴液室18の長手方向両側壁部のうちの一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合には、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが波長λの4分の1の奇数倍に一致するときに液柱共鳴が最も効率的に形成される。つまり、この場合の液柱共鳴最適条件は、上記式(2)中の「N」を奇数で表現したものとなる。
【0038】
最も液柱共鳴効率の高い駆動周波数fは、上記式(1)と上記式(2)より、下記の式(3)のようになる。しかしながら、実際には、液体が共鳴を減衰させる粘性を有するので無限に振動が増幅されるわけではなく、Q値を持ち、後述する式(4)及び式(5)に示すように、上記式(3)に示した最も効率の高い駆動周波数fの近傍の周波数でも共鳴は発生する。
f = N×c/(4L) ・・・(3)
【0039】
図7(a)〜(d)は、N=1、2、3の場合において、液柱共鳴液室18内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
ただし、図7(a)は、N=1の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部の一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合の例であり、図7(b)は、N=2の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも閉じた状態である場合の例であり、図7(c)は、N=2の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも開放された状態である場合の例であり、図7(d)は、N=3の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部の一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合の例である。
【0040】
また、図8(a)〜(c)は、N=4、5の場合において、液柱共鳴液室18内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
ただし、図8(a)は、N=4の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも閉じた状態である場合の例であり、図8(b)は、N=4の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも開放された状態である場合の例であり、図8(c)は、N=5の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部の一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合の例である。
【0041】
図7及び図8において、実線が速度の定在波、点線が圧力の定在波である。また、液柱共鳴液室18内の液体に生じる波は実際には疎密波(縦波)であるが、図7及び図8では、これを正弦波(余弦波)の形で表記している。例えば、図7(a)の速度分布を見ると、閉じている閉口側壁部で速度分布の振幅がゼロとなり、開口している開口側壁部で振幅が最大となることが直感的に理解でき、わかりやすいので、ここでは正弦波表記とした。なお、長手方向両側壁部の開閉状態(開放端と固定端との組み合わせパターン)によって定在波パターンは異なるため、図7及び図8では、説明のため、本実施形態の液柱共鳴液室18とは整合しない開放端と固定端との組み合わせパターンも併記した。
【0042】
詳しくは後述するが、吐出孔19の開口や、液柱共鳴液室18と液共通供給路17とを連通させる連通路の開口の状態によって、端部条件が決まる。音響学においては、開放端(開口端)では、長手方向の媒質(液)の移動速度が極大となり、圧力はゼロとなる。一方、固定端(閉口端)においては、逆に媒質の移動速度がゼロとなり、圧力が極大となる。固定端(閉口端)は音響的に硬い壁として考え、波が完全に反射することを前提に、端部が理想的に完全に閉口もしくは開口している場合は、波の重ね合わせによって図7及び図8に示したような定在波が発生するものと考える。本実施形態の液柱共鳴液室18のように吐出孔19や連通路などの開口が存在していると、その吐出孔19の数や吐出孔19の位置、連通路の大きさや位置などによっても、定在波パターンが変動する。そのため、上記式(3)から求められる理想の共鳴周波数からズレた位置に実際の共鳴周波数が現れる。ただし、このようなズレがあっても、実際の吐出状況を確認しながら駆動周波数を適宜調整すればよいので、問題ない。
【0043】
液体の音速cとして1200[m/s]を用い、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが1.85[mm]であって、長手方向両端に壁部が存在し、両端が固定端であるモデルと等価のN=2の共鳴モードの場合、上記式(2)より、液柱共鳴液室18内の液体に最も効率に液柱共鳴を生じさせる理想の共鳴周波数は324[kHz]と導かれる。一方、液体の音速cとして1200[m/s]を用い、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが1.85[mm]であって、両端に壁部が存在し、両端が固定端であるモデルと等価のN=4の共鳴モードの場合、上記式(2)より、液柱共鳴液室18内の液体に最も効率に液柱共鳴を生じさせる理想の共鳴周波数は648[kHz]と導かれる。このように、同じ構成の液柱共鳴液室18においても、より高次の共鳴を利用することが可能である。
【0044】
本実施形態の液柱共鳴液室18では、長手方向両端が閉口端と等価になるような構成であるか、吐出孔19の開口の影響で音響的に軟らかい壁として説明できる構成であることが、共鳴周波数を高めるためには好ましいが、それに限らず、例えば長手方向両端が開放端と等価になるような構成を採用してもよい。ここでの吐出孔19の開口の影響とは、音響インピーダンスが小さくなり、特にコンプライアンス成分が大きくなることを意味する。本実施形態の液柱共鳴液室18に設けられる吐出孔19は、図4に示すように、その全体が長手方向一端側(液共通供給路17とは逆側)に寄せて配置されているので、当該一端側は、吐出孔19の開口の影響により開放端(開口端)とみなすこともできる。その結果、図7(b)や図8(a)のような液柱共鳴液室18の長手方向両端壁部を閉口端と等価な構成とする場合、両端が固定端である共鳴モードだけでなく、一端が開放端で他端が固定端である共鳴モードも利用することが可能である。
【0045】
また、吐出孔19の数、吐出孔19の配置、吐出孔19の断面形状も、駆動周波数を決定する因子となり、駆動周波数はこれに応じて適宜決定することができる。例えば、吐出孔19の配置を長手方向一端側へ寄せるほど、当該長手方向端部において液柱共鳴液室18の壁部による拘束が緩くなる。よって、吐出孔19の配置を長手方向一端側へ寄せるほど、当該長手方向端部がほぼ開口端に近い状態になり、駆動周波数が高くなるように変更される。また、例えば、吐出孔19の数を多くすると、吐出孔19の配置が寄せられた長手方向一端において液柱共鳴液室18の壁部による拘束が緩くなり、当該長手方向端部がほぼ開口端に近い状態になって駆動周波数が高くなるように変更される。そのほかにも、例えば、吐出孔19の断面形状を変更したり、吐出孔19の寸法を変更したりする場合にも、駆動周波数を変更する必要がある。
【0046】
このように決定される駆動周波数で振動発生手段20に交流電圧を与えたとき、その電圧変動に応じて振動発生手段20の圧電体20Aが変形し、これにより弾性板20Bが変位する。その結果、駆動周波数に対応した振動が液柱共鳴液室18内の液体に加えられ、液柱共鳴液室18内の液体には液柱共鳴定在波が発生する。ただし、液柱共鳴定在波が最も効率よく発生する駆動周波数の近い周波数であれば、液柱共鳴定在波は発生する。具体的には、液共通供給路17側の長手方向壁部と液共通供給路17に最も近くに配置された吐出孔との距離をLeとしたとき、このLeと液柱共鳴液室の長手方向両壁部間の長さLとを用いて、液柱共鳴定在波を発生させる駆動周波数fの範囲は、例えば、下記の式(4)及び(5)によって定義することができる。これらの式(4)及び(5)によって決定される範囲内の駆動周波数fを主成分とした駆動波形を用いて振動発生手段20を振動させることで、液柱共鳴を誘起して液滴を吐出孔19から適切に吐出することが可能である。ただし、LとLeとの比がLe/L>0.6であることが好ましい。
N×c/(4L) ≦ f ≦ N×c/(4Le) ・・・(4)
N×c/(4L) ≦ f ≦ (N+1)×c/(4Le) ・・・(5)
【0047】
以上説明した液柱共鳴現象の原理を用いて、本実施形態では、図4に示す液柱共鳴液室18において液柱共鳴圧力定在波を形成し、液柱共鳴液室18に配置された吐出孔19から連続的な液滴吐出を生じさせるのである。そのため、圧力の定在波が最も大きく変動する位置に吐出孔19を配置すると、吐出効率が高くなり、駆動電圧をより低く抑えることができる点で好ましい。
【0048】
また、吐出孔19は1つの液柱共鳴液室18に1つでも構わないが、上述したように1つの液柱共鳴液室18に対して複数個配置することが生産性の観点から好ましい。具体的には、2〜100個の間であることが好ましい。100個を超えると、それぞれの吐出孔19から液滴を適切に吐出させようとすると、振動発生手段20に与える駆動電圧を高く設定する必要が生じ、振動発生手段20の圧電体20Aの挙動が不安定となりやすい。
【0049】
また、1つの液柱共鳴液室18に対して複数の吐出孔19を形成する場合、吐出孔間のピッチは、20[μm]以上であるのが好ましい。吐出孔間のピッチが20[μm]より小さい場合、隣り合う吐出孔からそれぞれ吐出された液滴同士が接触して大きな液滴となってしまう確率が高くなり、トナーの粒径分布が悪化する可能性が高まるからである。
【0050】
次に、液柱共鳴液滴形成ユニット10における液滴吐出部11内の液柱共鳴液室18で生じる液柱共鳴現象の様子について説明する。
図9(a)〜(d)は、液柱共鳴液室18で生じる液柱共鳴現象の様子を模式的に表した説明図である。
図9における液柱共鳴液室18内に記した実線は、液柱共鳴液室18の長手方向の任意の測定位置における速度をプロットして得た速度分布を示すものであり、図中左側の閉口側壁部側から図中右側の開口側壁部へ向かう方向をプラスとし、その逆方向をマイナスとしている。また、図9における液柱共鳴液室18内に記した点線は、液柱共鳴液室18の長手方向の任意の測定位置における圧力値をプロットして得た圧力分布を示すものであり、大気圧に対して正圧をプラスとし、負圧をマイナスとしている。
【0051】
本実施形態において、図4に示したように、液滴吐出部11内の液柱共鳴液室18の底面から、液共通供給路17と連通する連通路の下端までの高さh1(=約80[μm])は、連通口の高さh2(=約40[μm])の約2倍に設定されている。そのため、本実施形態の液柱共鳴液室18は、長手方向両端がほぼ固定端であるのと近似的に考えることができる。図9(a)〜(d)は、このような考えの下で、速度分布及び圧力分布の時間的な変化を示している。
【0052】
図9(a)は、液滴吐出時における液柱共鳴液室18内の圧力波形と速度波形を示している。このとき、液柱共鳴液室18内における閉口側壁部側の液体部分、すなわち、吐出孔19が設けられている液室領域内の液体部分(吐出孔付近の液体)は、圧力が極大となる。これにより、メニスカス圧が増大して各吐出孔19から液体が迫り出す。その後、図9(b)に示すように、吐出孔19付近の液体の圧力は小さくなり、負圧の方向へと移行することで、吐出孔19から液滴21が吐出される。
【0053】
その後、図9(c)に示すように、吐出孔19付近の液体の圧力は極小になる。このときから、液共通供給路17から液柱共鳴液室18へのトナー組成液14の補充が始まる。そして、図9(d)に示すように、吐出孔19付近の液体の圧力は、今度は徐々に大きくなり、正圧の方向へと移行する。この時点で、トナー組成液14の補充が終了し、再び、液柱共鳴液室18の吐出孔19付近の液体の圧力は、図9(a)に示すように、その圧力が極大となる。
【0054】
このように、液柱共鳴液室18内における吐出孔19付近の液体には、振動発生手段20の高周波駆動によって液柱共鳴による定在波が発生し、また圧力が最も大きく変動する位置となる液柱共鳴による定在波の腹に相当する箇所に吐出孔19が配置されていることから、当該腹の周期に応じて液滴21が吐出孔19から連続的に吐出される。
【0055】
次に、本実施形態で製造するトナーについて説明する。
本実施形態で製造するトナーは、少なくとも樹脂、着色剤およびワックスを含有し、必要に応じて、帯電調整剤、添加剤およびその他の成分を含有する。
【0056】
まず、本実施形態で用いるトナー組成液について説明する。
トナー組成液は上述したトナー成分が溶媒に溶解又は分散させた液体状態であるか、または吐出させる条件下で液体であれば溶媒を含まなくてもよく、トナー成分の一部またはすべてが溶融した状態で混合され液体状態を呈しているものである。トナー材料としては、上記のトナー組成液を調整することができれば、公知の電子写真用トナーと同じ物が使用できる。このようなトナー組成液を上述のような液滴吐出装置2により微小液滴となるように吐出し、その微小液滴を乾燥固化することで、目的とするトナー粒子を作製する。
【0057】
上記樹脂としては、少なくとも結着樹脂が挙げられる。
上記結着樹脂としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができるが、例えば、スチレン系単量体、アクリル系単量体、メタクリル系単量体等のビニル重合体、これらの単量体又は2種類以上からなる共重合体、ポリエステル系重合体、ポリオール樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、石油系樹脂、などが挙げられる。
【0058】
結着樹脂の性状としては溶媒に溶解することが望ましく、この特徴を除けば従来公知の性能を持っていることが望ましい。
結着樹脂のGPC(ゲルパーメンテーションクロマトグラフィ)による分子量分布で、分子量3千〜5万の領域に少なくとも1つのピークが存在するのが、トナーの定着性、耐オフセット性の点で好ましく、また、THF可溶分としては、分子量10万以下の成分が60〜100[%]となるような結着樹脂も好ましく、分子量5千〜2万の領域に少なくとも1つのピークが存在する結着樹脂がより好ましい。結着樹脂の酸価が0.1〜50[mgKOH/g]を有する樹脂を60[質量%]以上有するものが好ましい。
本実施形態において、トナー組成物の結着樹脂成分の酸価は、JIS K−0070に準じて測定したものである。
【0059】
本実施形態で使用できる磁性体としては、電子写真トナーに用いられる公知のものを使用することができる。例えば、(1)マグネタイト、マグヘマイト、フェライトの如き磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む酸化鉄、(2)鉄、コバルト、ニッケル等の金属、又は、これらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、錫、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金、及び(3)これらの混合物、などが用いられる。上記磁性体は、着色剤としても使用することができる。上記磁性体の使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、磁性体10〜200質量部が好ましく、20〜150質量部がより好ましい。これらの磁性体の個数平均粒径としては、0.1〜2[μm]が好ましく、0.1〜0.5[μm]がより好ましい。上記個数平均径は、透過電子顕微鏡により拡大撮影した写真をデジタイザー等で測定することにより求めることができる。
【0060】
上記着色剤としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができる。
上記着色剤の含有量としては、トナーに対して1〜15[質量%]が好ましく、3〜10[質量%]がより好ましい。本実施形態に係るトナーで用いる着色剤は、樹脂と複合化されたマスターバッチとして用いることもできる。マスターバッチは顔料を予め分散させるためのものであり、顔料の充分な分散が得られていれば用いなくても良い。マスターバッチは一般的に顔料と樹脂とを高せん断をかけることで樹脂中に顔料を硬度に分散させたものである。マスターバッチの製造またはマスターバッチとともに混練されるバインダー樹脂としては、従来公知のものを使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0061】
上記マスターバッチの使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。マスターバッチ製造時に顔料の分散性を高めるために分散剤を用いてもよい。顔料分散性の点で、結着樹脂との相溶性が高いことが好ましく、公知のものを用いることができ、具体的な市販品としては、「アジスパーPB821」、「アジスパーPB822」(味の素ファインテクノ社製)、「Disperbyk−2001」(ビックケミー社製)、「EFKA−4010」(EFKA社製)、などが挙げられる。
【0062】
上記分散剤は、トナー中に、着色剤に対して0.1〜10[質量%]の割合で配合することが好ましい。配合割合が0.1[質量%]未満であると、顔料分散性が不十分となることがあり、10[質量%]より多いと、高湿下での帯電性が低下することがある。上記分散剤の添加量は、着色剤100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましい。1質量部未満であると分散能が低くなることがあり、200質量部を超えると帯電性が低下することがある。
【0063】
本実施形態で用いるトナー組成液は、結着樹脂、着色剤とともにワックスを含有する。
ワックスとしては、特に制限はなく、通常使用されるものを適宜選択して使用することができ、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合体、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう等の植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス、オゾケライト、セレシン、ペテロラタム等の鉱物系ワックス、モンタン酸エステルワックス、カスターワックスの等の脂肪酸エステルを主成分とするワックス類、脱酸カルナバワックスの等の脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したもの、などが挙げられる。
【0064】
上記ワックスの融点としては、定着性と耐オフセット性のバランスを取るために、70〜140[℃]であることが好ましく、70〜120[℃]であることがより好ましい。70[℃]未満では耐ブロッキング性が低下することがあり、140[℃]を超えると耐オフセット効果が発現しにくくなることがある。上記ワックスの総含有量としては、結着樹脂100質量部に対し、0.2〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。本実施形態では、DSC(ディファレンシャルスキャニングカロリメトリー)において測定されるワックスの吸熱ピークの最大ピークのピークトップの温度をもってワックスの融点とする。上記ワックス又はトナーのDSC測定機器としては、高精度の内熱式入力補償型の示差走査熱量計で測定することが好ましい。測定方法としては、ASTM D3418−82に準じて行う。本実施形態に用いられるDSC曲線は、1回昇温、降温させ前履歴を取った後、温度速度10[℃/min]で、昇温させた時に測定されるものを用いる。
【0065】
本実施形態に係るトナーには、他の添加剤として、潜像担持体やキャリアの保護、クリーニング性の向上、熱特性・電気特性・物理特性の調整、抵抗調整、軟化点調整、定着率向上等を目的として、各種金属石けん、フッ素系界面活性剤、フタル酸ジオクチルや、導電性付与剤として酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化アンチモン等や、酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナ等の無機微粉体などを必要に応じて添加することができる。これらの無機微粉体は、必要に応じて疎水化してもよい。また、ポリテトラフルオロエチレン、ステアリン酸亜鉛、ポリフッ化ビニリデン等の滑剤、酸化セシウム、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム等の研磨剤、ケーキング防止剤、更に、トナー粒子と逆極性の白色微粒子及び黒色微粒子とを、現像性向上剤として少量用いることもできる。
【0066】
これらの添加剤は、帯電量コントロール等の目的で、その表面をシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他の有機ケイ素化合物等の処理剤、又は種々の処理剤で処理することも好ましい。上記添加剤としては、無機微粒子を好ましく用いることができる。上記無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、等公知のものを使用できる。
【0067】
この他、高分子系微粒子たとえばソープフリー乳化重合や懸濁重合、分散重合によって得られるポリスチレン、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合体やシリコーン、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの重縮合系、熱硬化性樹脂による重合体粒子が挙げられる。
【0068】
このような外添剤は、表面処理剤により、疎水性を上げ、高湿度下においても外添剤自身の劣化を防止することができる。上記表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、などが好適に挙げられる。
【0069】
上記外添剤の一次粒子径としては、5[nm]〜2[μm]であることが好ましく、5[nm]〜500[nm]であることがより好ましい。また、BET法による比表面積としては、20〜500[m2/g]であることが好ましい。この無機微粒子の使用割合としては、トナーの0.01〜5[重量%]であることが好ましく、0.01〜2.0[重量%]であることがより好ましい。
【0070】
静電潜像担持体や一次転写媒体に残存する転写後の現像剤を除去するためのクリーニング性向上剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸等の脂肪酸金属塩、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子等のソープフリー乳化重合によって製造されたポリマー微粒子、などを挙げることかできる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、体積平均粒径が0.01から1[μm]のものが好ましい。
【0071】
次に、上記実施例に用いたトナー組成液の一例について説明する。
本実施例で使用したトナー組成液の処方を以下に示す。なお、液滴吐出条件は、上述した実施例で説明した通りである。
まず、着色剤としての、カーボンブラックの分散液を調製した。カーボンブラック(RegaL400:Cabot社製)17質量部、顔料分散剤3質量部を、酢酸エチル80質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用して一次分散させた。この顔料分散剤としては、アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製)を使用した。得られた一次分散液を、ビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3[mm])を用いて強力なせん断力により細かく分散し、5[μm]以上の凝集体を完全に除去した二次分散液を調製した。
【0072】
次にワックス分散液を調整した。カルナバワックス18質量部、ワックス分散剤2質量部を、酢酸エチル80質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用して一次分散させた。この一次分散液を攪拌しながら80[℃]まで昇温し、カルナバワックスを溶解した後、室温まで液温を下げ、最大径が3[μm]以下となるようワックス粒子を析出させた。ワックス分散剤としては、ポリエチレンワックスにスチレン−アクリル酸ブチル共重合体をグラフト化したものを使用した。得られた分散液を、更にビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3[mm])を用いて強力なせん断力により細かく分散し、最大径が1[μm]以下なるよう調整した。
【0073】
次に、結着樹脂としての樹脂、上記着色剤分散液及び上記ワックス分散液を添加した下記組成からなるトナー組成液を調製した。結着樹脂としてのポリエステル樹脂100質量部、上記着色剤分散液30質量部、ワックス分散液30質量部を、酢酸エチル840質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用して10分間攪拌を行い、均一に分散させた。溶媒希釈によるショックで顔料やワックス粒子が凝集することはなかった。
【0074】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
液滴が固化すると微粒子となるトナー組成液14等の微粒子成分含有液を、吐出孔19から吐出する液滴吐出装置2等の液滴吐出手段と、液滴吐出手段に連なり、液滴吐出手段に供給される微粒子成分含有液を貯留するトナー液タンク13等の貯留手段と、液滴吐出手段により液滴が吐出されて液滴が乾燥される空間を囲む吐出室(乾燥室)3と、貯留手段内の空間と吐出室の空間とを連通させる共通配管5と、共通配管を介して貯留手段と吐出室とを減圧する減圧ポンプ6等の減圧手段を備える。これによれば、上記実施形態について説明したように、吐出室と貯留手段とを全く同じ圧力に保ちながら減圧手段により減圧することできる。よって、染み出しや気泡混入を抑制しつつ、吐出室内の空気抵抗を減らすことができ、吐出室内における液滴の合一を抑制することができ、粒子径の均一な微粒子を製造することができる。
(態様B)
(態様A)において、貯留手段内に貯留される微粒子成分含有液は、周囲空気と触れないよう柔軟性を有するパック容器13a等の容器に収容された状態である。これによれば、上記実施形態について説明したように、周囲の酸素が微粒子成分含有液に溶け込んでしまう虞が無く、事前に脱気した効果を長時間持続させることができる。また、貯留手段を減圧しても微粒子成分含有液から溶媒が揮発する虞がない。
(態様C)
(態様A)または(態様B)において、減圧手段により貯留手段と吐出室とを−30[KPa]〜−60[KPa]の負圧とする。これによれば、上記実施形態について説明したように、染み出しや気泡混入を抑制しつつ、吐出室内における液滴の合一を良好に抑制することができる。
(態様D)
(態様A)、(態様B)または(態様C)において、液滴吐出手段は、微粒子成分含有液が供給される液柱共鳴液室18内に、振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、定在波の腹となる領域に形成された吐出孔19から、微粒子成分含有液の液滴を吐出するものである。これによれば、上記実施形態に説明したように、粒子径の均一な微粒子を製造することができる。
(態様E)
(態様A)、(態様B)、(態様C)または(態様D)の微粒子製造装置によって製造されるトナーである。これによれば、上記実施形態に説明したように、得られたトナーの粒子径を均一とすることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 トナー製造装置
2 液滴吐出装置
3 吐出室(乾燥室)
4 フィルター
5 共通配管
6 減圧ポンプ
8 送液管
9 電磁弁
10 液柱共鳴液滴形成ユニット
11 液滴吐出部
13 トナー液タンク
13a パック容器
14 トナー組成液
15 液循環ポンプ
17 液共通供給路
18 液柱共鳴液室
19 吐出孔
20 振動発生手段
20A 圧電体
20B 弾性板
21 液滴
35 下降気流
40 トナー捕集部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0076】
【特許文献1】特許4607029号公報
【特許文献2】特開2011−059567号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴が固化すると微粒子となる微粒子成分含有液を、吐出孔から吐出する液滴吐出手段と、前記液滴吐出手段に連なり、前記液滴吐出手段に供給される微粒子成分含有液を貯留する貯留手段と、前記液滴吐出手段により液滴が吐出されて前記液滴が乾燥される空間を囲む吐出室と、前記貯留手段内の空間と前記吐出室の空間とを連通させる共通配管と、前記共通配管を介して前記貯留手段と前記吐出室とを減圧する減圧手段とを備えたことを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項2】
請求項1の微粒子製造装置において、前記貯留手段内に貯留される微粒子成分含有液は、周囲空気と触れないよう柔軟性を有する容器に収容された状態であることを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項3】
請求項1または2の微粒子製造装置において、前記減圧手段により前記貯留手段と前記吐出室とを−30[KPa]〜−60[KPa]の負圧とすることを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれかの微粒子製造装置において、前記液滴吐出手段は、前記微粒子成分含有液が供給される液柱共鳴液室内に、振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、前記定在波の腹となる領域に形成された前記吐出孔から、微粒子成分含有液の液滴を吐出するものであることを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかの微粒子製造装置によって製造されることを特徴とするトナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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