説明

微細スケールが低減されたメタクリル系樹脂組成物

【課題】 微細スケールが低減されたメタクリル酸エステル系樹脂組成物および該樹脂組成物を成形してなるフィルムを提供する。
【解決手段】 (メタ)アクリル酸モノマーを含む単量体混合物を乳化重合する際に、炭素数が9以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合することにより、乳化重合により得られるメタクリル酸エステル系重合体ラテックス中の微細スケールを低減することができる。さらに、該メタクリル酸エステル系重合体からなるアクリル系樹脂組成物を成形することにより、得られるフィルム中のフィッシュアイを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細スケール(10μm以上100μm以下のサイズのもの)の生成が低減されたメタクリル系樹脂組成物および、得られるメタクリル系樹脂組成物を含む樹脂を成形してなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂フィルムの不具合であるフィッシュアイは、コンタミの他に重合時に生成する高重合度の重合体が原因の一つであることが知られている。乳化重合により樹脂を得る場合、高重合度の重合体はスケール中に含まれる。スケールは発生量が少ないに越した事は無いが、例え発生したとしても、比較的大きなスケールは、メッシュ等で濾すことにより前もって除去することができる。しかし、濾過により除去できない微細なスケールは、最終商品にまで残ることとなり、微細スケールに含有される高重合度の重合体がフィッシュアイとして現れる。乳化重合時のスケール発生を抑制する方法として、重合機の内壁にフェノール系化合物とアルデヒド化合物の縮合物などのスケール防止剤をコーティングする方法が提案されているが(特許文献1〜3)、スケール防止剤を塗布し、乾燥させる必要があるために非常に手間がかかるうえに、コーティングしたスケール防止剤が剥がれてくることにより防止効果が徐々に薄まってくるという欠点も有していた。さらに、決定的なこととして、該方法では発生するスケールの総量を低減することはできても、フィッシュアイの原因となる微細スケールを効果的に低減することはできなかった。
【特許文献1】特開昭62−273202
【特許文献2】特許第3633773号
【特許文献3】特開平11−217402
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述の課題を解決し、微細スケールの少ない樹脂ラテックスを得ることにより、フィッシュアイの低減されたフィルムを得るためのメタクリル酸エステル系重合体の製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが共重合されたアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子およびメタクリル酸エステル系重合体からなる樹脂組成物では、微細スケールの生成が抑制され、さらに、該樹脂組成物から得られるフィルムはフィッシュアイが低減されることを見出し、本発明に至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
メタクリル酸エステル系重合体(A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下において重合することにより得られるメタクリル系樹脂組成物(C)であって、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が、アルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物(b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られ、
メタクリル酸エステル系重合体(A)が、アルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物(a)を重合することにより得られ、
(1)アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の含有量が5〜45重量%であり、
(2)アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の平均粒子径が350〜3000Åであり、かつ、
(3)メタクリル酸エステル系重合体(A)およびアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の少なくとも1つの層において、炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが共重合されており、メタクリル系樹脂組成物(C)全体を100重量部とした場合、炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0.01〜10重量部が共重合されてなることを特徴とする
メタクリル系樹脂組成物(請求項1)、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数が、9以上18以下である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物(請求項2)、
請求項1または2に記載のメタクリル系樹脂組成物(C)を成形してなる、フィルム(請求項3)、
請求項3記載のフィルムを積層した、積層品(請求項4)、および
射出成形により製造される、請求項4記載の積層品(請求項5)
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、乳化重合により得られるメタクリル系樹脂組成物の樹脂ラテックス中の微細スケールを低減することができ、さらに該メタクリル系樹脂組成物から得られるフィルムは、フィッシュアイを低減化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明におけるメタクリル系樹脂組成物(C)は、メタクリル酸エステル系重合体(A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下において重合することにより得られるメタクリル系樹脂組成物である。
【0008】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(A)は、アルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物(a)を少なくとも1段以上で重合させてなるものである。より好ましくは、アルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステル0〜40重量%である。アルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステルが50重量%を超えると、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐熱性および硬度が低下する傾向がある。
【0009】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(A)を構成するメタクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜8であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。
【0010】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(A)を構成するアクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜8であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。
【0011】
また、本発明のメタクリル酸エステル系重合体(A)においては、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルに対し共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。これらの共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられ、これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
【0012】
本発明において用いられるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)は、アルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物(b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体からなる混合物を、少なくとも1段以上で共重合させてなるものである。単量体混合物(b)は、より好ましくは、アクリル酸アルキルエステル60〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル40〜0重量%である。単量体混合物(b)のメタクリル酸アルキルエステルが50重量%を超えると、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐折曲げ割れ性が低下する傾向がある。
【0013】
また、本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)においては、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルと共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。
【0014】
本発明におけるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)は、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体が共重合されているため、得られる重合体が架橋弾性を示す。また、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の重合時に反応せずに残った一方の反応性官能基(二重結合)がグラフト交叉点となって、一定割合のメタクリル酸エステル系共重合体(A)が、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)にグラフト化される。このことにより、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が、メタクリル酸エステル系共重合体(A)中に不連続かつ均一に分散する。
【0015】
本発明において用いられる多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼンエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびジプロピレングリコールジアクリレート等があげられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用されてもよい。
【0016】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)における多官能性単量体の添加量は、前記単量体混合物(b)100重量部に対して、0.05〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部未満では、メタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向があり、20重量部を超えても、耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向がある。
【0017】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)で用いられるアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよび、これらと共重合可能なエチレン系不飽和単量体の具体例は、前記メタクリル酸エステル系重合体(A)に使用したものがあげられる。
【0018】
本発明におけるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の含有量は、メタクリル系樹脂組成物(C)全体を100重量%とした場合に、5〜45重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、15〜35重量%がさらに好ましい。アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の含有量が5重量%未満では、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向にあり、45重量%を超えると、フィルムの硬度および成形性が低下する傾向にある。
【0019】
本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)は、炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合してなるメタクリル系樹脂組成物である。
【0020】
本発明において必須成分とする(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、9以上が好ましく、9〜22がより好ましく、9〜18がさらに好ましい。アルキル基の炭素数が8以下では、微細スケールの低減効果が十分に発揮されない傾向がある。また、炭素数が18を超えると(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合転化率が低下する傾向がある。
【0021】
炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体的な例としては、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート[ラウリル(メタ)アクリレート]、ウンデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート[ステアリル(メタ)アクリレート]、ノナデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。これらの単量体は、単体で使用しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
【0022】
本発明における炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合量は、メタクリル系樹脂組成物(C)全体を100重量部とした場合、0.01〜10重量部が好ましく、0.03〜8重量部がさらに好ましく、0.05〜5重量部が特に好ましい。炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合量が0.01重量部未満では、微細スケールの低減効果が発揮されにくい傾向があり、また、10重量部を超えると、乳化重合の系が不安定になる傾向がある。
【0023】
本発明における炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合は、メタクリル系樹脂組成物(C)のいずれの層において共重合されていても構わないが、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)ばかりではなく、メタクリル酸エステル系重合体(A)にも共重合されていることが好ましく、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル系グラフト共重合体(A)全体に均一に共重合されることがより好ましい。
【0024】
本発明におけるメタクリル系樹脂組成物(C)は、乳化重合法、乳化−懸濁重合法により製造される。
【0025】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体なとの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
【0026】
前記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
【0027】
また、前記有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ソ−ダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用するのが好ましい。
前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノ−ル類、脂肪族アルコ−ル類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0028】
本発明における得られたアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の平均粒子径は、
350〜3000Åが好ましく、400〜2000Åがより好ましく、400〜1200Åがさらに好ましい。架橋弾性体粒子(B)の平均粒子径が350Å未満では、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向があり、3000Å超ではフィルムの透明性が低下する傾向がある。
【0029】
得られたメタクリル系樹脂組成物(C)ラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレ−乾燥、凍結乾燥などによる処理により、樹脂組成物が分離、回収される。
【0030】
本発明で得られるメタクリル系樹脂組成物(C)は、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などの各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。
【0031】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(C)は、特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に加工される。また、必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、特にガラス転移温度以上の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や、二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。
【0032】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(C)には、必要に応じて、ポリグルタルイミド、無水グルタル酸ポリマー、ラクトン環化メタクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等を配合することも可能である。ブレンドの方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0033】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(C)には、着色のために無機系顔料または有機系染料を、熱や光に対する安定性を更に向上させるために抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを、あるいは、抗菌、脱臭剤、滑剤等を、単独または2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0034】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(C)から得られるフィルムの厚みは、10〜300μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。フィルムの厚みが10μm未満ではフィルムの加工性が低下する傾向があり、300μmを超えると、得られるフィルムの透明性が低下する傾向がある。
【0035】
また、本発明のメタクリル系樹脂組成物(C)より得られたフィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。例えば、メタクリル系樹脂組成物(C)に無機充填剤または架橋性高分子粒子を混練する方法等で実施することが可能である。また、得られるフィルムをエンボス加工により、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
【0036】
本発明のメタクリル系樹脂組成物より得られたフィルムは、金属、プラスチックなどに積層して用いることができる。フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネ−トや、ドライラミネ−ト、押出ラミネ−ト、ホットメルトラミネ−トなどがあげられる。
【0037】
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。
【0038】
本発明のメタクリル系樹脂組成物から得られるフィルム積層品は、自動車内装材,自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材などの建材用部材、日用雑貨品、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリなどのOA機器のハウジング、電気または電子装置の部品などに使用することができる。また、成形品としては、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバー、光ディスク、液晶用導光板、液晶用フィルム、滅菌処理の必要な医療用品、電子レンジ調理容器、家電製品のハウジング、玩具またはレクリエーション品目などに使用することができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法はつぎのとおりである。
【0041】
(重合転化率の評価)
得られたメタクリル系樹脂組成物(C)ラテックスを、熱風乾燥機内にて120℃で1時間乾燥して固形成分量を求め、下記の式により重合添加率を算出した。
重合転化率(%)=100×固形成分量/仕込み単量体
【0042】
(アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の平均粒子径の評価)
得られたアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)ラテックスを固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて546nmの波長での光線透過率より、平均粒子径を求めた。
【0043】
(ラテックス中の微細スケール量の評価)
得られたラテックスの固形分濃度7wt%水溶液を調製してサンプルを作成し、2時間放置して脱泡した。その後、スパチュラで1回/1秒のペースで全体を10回ゆっくり攪拌して微細スケールを均一分散させた後、パーティクルカウンター(リオン社製、KL−11A)にて、サンプル20ml中の、10μm以上100μm以下の微細スケールの個数を測定した。
【0044】
(フィッシュアイの評価)
得られたフィルムをA4サイズに切り出し、「きょう雑物測定図表」(国立印刷局)を使用して、該フィルム中に存在するフィッシュアイサイズが0.01mm以上の個数を数え、1mあたりの個数に換算した。
【0045】
(透明性の評価)
得られたフィルムの透明性はとして、JIS K6714に準じて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%にて、ヘイズを測定した。
【0046】
(鉛筆硬度の評価)
得られたフィルムの鉛筆硬度を、JIS S−1005に準じて測定した。
【0047】
(耐折曲げ割れ性の評価)
得られたフィルムを1回180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視で評価した。
○:割れが認められない
×:割れが認められる。
【0048】
また、製造例、実施例および比較例中の「部」は重量部、「%」は重量%を表す。また、略号はそれぞれ下記の物質を表す。
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリドデシルメルカプタン
AlMA:メタクリル酸アリル
【0049】
(実施例1)
[メタクリル系樹脂組成物の製造]
攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム 0.25部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.15部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、表1の樹脂粉末(1)に示す単量体混合物(B)[BA90重量%およびMMA10重量%からなる単量体混合物100部に対してAlMA1.5部、トリデシルメタクリレート0.15部およびCHP0.2部からなる単量体混合物]30部を10部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)を得た。重合転化率は99.5%であった。
その後、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、内温を60℃にし、表1の樹脂粉末(1)に示す単量体混合物(A)[BA10重量%およびMMA90重量%からなる単量体混合物100部に対しtDM0.5部、トリデシルメタクリレート0.35部およびCHP0.5部からなる単量体混合物]70部を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、メタクリル系樹脂組成物(C)ラテックスを得た。重合転化率は98.7%であった。なお、炭素数が9以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、樹脂全体に均一になるように混合した。
得られたラテックスの固形分濃度を調整して微細スケール量を測定し、その結果を表1に示した。さらに得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥しての樹脂粉末を得た。
[樹脂ペレットの製造]
得られた樹脂粉末を、40ミリφベント付き単軸押出機(TABATA INDUSTRIAL MACHINERY CO.LTD.製、HV−40−28)を用いて、シリンダ温度を240℃に設定して溶融混練を行い、ペレット化した。
[フィルムの製造]
得られたペレットを、Tダイ付き40ミリφ押出機(ナカムラ産機(株)製、NEX040397)を用いて、ダイス温度240℃にて成形し、幅200mm×厚み100μmのフィルムを得た。
得られたフィルムを用いて、種々の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0050】
(実施例2〜7、比較例1〜9)
[メタクリル系樹脂組成物の製造]
単量体組成および炭素数9以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に重合を行い、凝固、水洗、乾燥して、実施例2〜7および比較例1〜9の樹脂粉末を得た。
[樹脂ペレットの製造]
得られた樹脂粉末を、実施例1と同様の操作により、ペレット化した。
[フィルムの製造]
得られた樹脂ペレットを、実施例1と同様の操作により、フィルムを得た。
得られたフィルムを用いた種々の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
乳化重合の際、炭素数が9以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合することにより、微細スケールが低減したメタクリル系樹脂組成物ラテックスを得ることができた。また、該ラテックスより得られる樹脂粉末を成形することにより、フィッシュアイの低減したフィルムを得ることができた。
さらに、メタクリル系樹脂組成物(C)の単量体組成比およびアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の含有量が、本発明の範囲を外れると、透明性、耐候性、硬度、耐衝撃性、耐折曲げ割れ性および成形性に優れたフィルムを得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸エステル系重合体(A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下において重合することにより得られるメタクリル系樹脂組成物(C)であって、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が、アルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物(b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られ、
メタクリル酸エステル系重合体(A)が、アルキル基の炭素数が1〜8であるメタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアルキル基の炭素数が1〜8であるアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物(a)を重合することにより得られ、
(1)アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の含有量が5〜45重量%であり、
(2)アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の平均粒子径が350〜3000Åであり、かつ、
(3)メタクリル酸エステル系重合体(A)およびアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の少なくとも1つの層において、炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが共重合されており、メタクリル系樹脂組成物(C)全体を100重量部とした場合、炭素数が9以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが0.01〜10重量部共重合されてなることを特徴とする
メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数が、9以上18以下である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメタクリル系樹脂組成物(C)を成形してなる、フィルム。
【請求項4】
請求項3記載のフィルムを積層した、積層品。
【請求項5】
射出成形により製造される、請求項4記載の積層品。

【公開番号】特開2009−84354(P2009−84354A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253918(P2007−253918)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】