説明

微細孔中空ポリアミド繊維

【課題】繊維部分に多数の微細孔を、繊維内部に中空部を有し、吸水性、保水性、放湿性に優れるとともに、濾過や透過性能有する中空繊維として中空糸膜としても使用することができる微細孔中空ポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】 ポリアミド成分からなり、繊維内部に繊維の長手方向に沿って形成された中空部を有する単糸で構成されたマルチフィラメントであって、各単糸の中空部以外の繊維部分には、繊維の長手方向に沿って多数の微細孔が形成されており、かつ、中空部の割合(中空率)が30〜50%であることを特徴とする微細孔中空ポリアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維内部に中空部を有し、かつ中空部以外の繊維部分に多数の微細孔を有するポリアミド繊維であって、水分を吸水し、保水し、放湿する性能に優れるとともに、濾過機能を持つ中空繊維として中空糸膜としても使用することができる微細孔中空ポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維内部に多数の微細孔と中空部を有する中空繊維については、多くの提案がなされている。例えば、特許文献1には、溶出除去可能な物質を配合した繊維形成性樹脂を中空繊維に紡糸し、その後溶剤処理することによって得られた微細孔中空繊維が開示されている。しかしながら、この繊維のポリマーの組み合わせでは、細繊度の繊維や高中空率を有する繊維とはならないという問題があった。
【0003】
特許文献2には、繊維形成性重合体成分Aと、成分Aと親和性を有し溶解性を同じくする合成重合体Bに、成分Aと親和性を有し、溶解性を異にする合成重合体Cを混合した成分とを放射状に配した中空複合繊維を紡糸した後、重合体Cのみを溶出して得られた微細孔中空繊維が開示されている。しかしながら、この繊維は高い中空率を有するものとはならず、また、得られる繊維は二成分の複合繊維であるため、界面剥離や染斑等の生じる繊維となるという問題があった。
【0004】
また、濾過、透過性能を有する中空糸膜として、繊維表面に多数の微細孔を有し、繊維内部に中空部を有するポリアミド繊維を使用することも種々提案されている。例えば、特許文献3には、結晶化熱30mJ/mg以下であるポリアミドからなる樹脂を原料とし、高分子膜の内面もしくは外面の少なくとも一方に活性層を有し、活性層から反対面にかけて連続開孔的な多孔質構造を有する中空糸膜が記載されている。
【0005】
しかしながら、この中空糸膜は構成が複雑であり、製造コストが高くなるという問題があった。
【特許文献1】特開昭55-76106号公報
【特許文献2】特開昭55-116811 号公報
【特許文献3】特開平 7−256068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決し、繊維内部に中空部を有し、中空部以外の繊維部分に多数の微細孔を有し、吸水性、保水性、放湿性に優れるとともに、濾過や透過性能有する中空繊維として中空糸膜としても使用することができる微細孔中空ポリアミド繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリアミド成分からなり、繊維内部に繊維の長手方向に沿って形成された中空部を有する単糸で構成されたマルチフィラメントであって、各単糸の中空部以外の繊維部分には、繊維の長手方向に沿って多数の微細孔が形成されており、かつ、中空部の割合(中空率)が30〜50%であることを特徴とする微細孔中空ポリアミド繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の微細孔中空ポリアミド繊維は、繊維内部に中空部を有し、かつ中空部以外の繊維部分に繊維の長手方向に沿って多数の微細孔を有することにより、水分を吸水し、保水し、放湿する性能に優れている。このため、製編織して得られる布帛は、汗を速やかに吸い取り、発散するために、さらっとした着心地が得られ、衣料用途として好適である。さらに、本発明の微細孔中空ポリアミド繊維は、濾過や透過性能有する中空繊維として中空糸膜としても使用することができ、浄水設備等の工業用途、人工臓器等の医療用途にも使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリアミド繊維は、ポリアミド成分からなる単糸で構成されるマルチフィラメントであって、各単糸は長手方向に沿って形成された中空部を有し、かつ中空部以外の繊維部分には、繊維の長手方向に沿って形成された多数の微細孔を有している。
【0012】
このように、本発明のポリアミド繊維を構成する各単糸は、繊維長手方向に多数の微細孔を有しているため、隣接する微細孔同士が重なり合う部分は連通孔が形成されている。そして、このような連通孔及び微細孔間の薄膜を通じて繊維表面から吸水した水分を、繊維内部の中空部に保持することができる。また、中空部に保持した水分は、連通孔及び微細孔間の薄膜を通じて繊維表面から徐々に放湿することができる。このため、本発明のポリアミド繊維を製編織して得られた布帛は、吸汗速乾性に優れ、衣料用途に好適に使用することができる。さらには、繊維表面から吸水した水分が中空部に到達するまでの間に微細孔間の薄膜がろ膜として機能するため、微細孔間の薄膜によってろ過された水が中空部に保持される。そして、圧力をかけること等により、ろ過された水が中空部を通過して繊維端面より排出される。このため、各種のろ過に適したフィルター基材としても好適に使用することができる。
【0013】
中空部の割合(中空率)は、繊維の長手方向に対して垂直方向に切断した横断面の透過型電子顕微鏡写真を撮り、この写真から各単糸の全体の面積(100%)に占める中空部の面積の割合を求め、中空率とする。繊維(マルチフィラメント)を構成する全ての単糸において中空率を求め、その平均値とする。
【0014】
中空率が30%未満であると、中空部以外の繊維部分の割合が多くなり、肉厚の繊維となるため、繊維表面から中空部までの距離が長くなり、吸水性や放湿性が低下する。そして、中空部が小さいために水分を保水する能力も低下し、さらには、中空糸膜としての機能も有していないものとなる。
【0015】
一方、中空率が50%を超えると、繊維部分の割合が少なくなるため、中空部の潰れが生じやすくなり、中空部による水分の吸水能力が低下する。
【0016】
本発明のポリアミド繊維においては、中空部の数は1つであることが好ましいが、中空率が30〜50%であれば、複数の中空部(2〜4個が好ましい)を有するものであってもよい。
【0017】
そして、繊維の長手方向に沿って形成された微細孔の孔径は、10〜100nmであることが好ましい。微細孔の孔径が10nm未満であると、微細孔から吸水したり、一旦吸水した水分を放湿する能力が乏しくなり、吸水性や放湿性の低いものとなる。さらには水分を吸水する能力が乏しいため、中空糸膜としての機能も乏しいものとなる。
【0018】
一方、微細孔の孔径が100nmを超えると、繊維表面から中空部に到達した水分が再び繊維表面に流れ出やすくなり、水分の保水能力が乏しくなる。また繊維の強度も低いものとなる。さらには、中空糸膜として使用したときに、ろ過する粒子が微細孔を通過してしまうことがあり、中空糸膜としての機能にも劣るものとなる。
【0019】
なお、微細孔の孔径は、繊維の長手方向に対して垂直方向に切断した横断面の透過型電子顕微鏡写真を撮り、この写真から単糸の中空部以外の繊維部分に形成された微細孔の孔径(孔の直径)を測定し、n数10個の平均値とする。
【0020】
本発明のポリアミド繊維は、各単糸の形状を芯部と鞘部にアルカリ易溶性ポリエステルを含有する芯鞘型複合繊維とし、アルカリ減量処理等によってアルカリ易溶性ポリエステルを溶出させることにより、各単糸の繊維内部に中空部を、中空部以外の繊維部分に多数の微細孔を生じさせることが好ましい。
【0021】
中でも、単糸の芯鞘型複合繊維においては、芯部がアルカリ易溶性ポリエステル(A)のみからなり、鞘部がアルカリ易溶性ポリエステル(A) とポリアミド(B) の混合物からなる複合繊維とすることが好ましい。そして、混合物中の(A) と(B)の質量比(A:B)は、10:90〜20:80とすることが好ましい。
【0022】
また、芯部と鞘部の質量比(芯:鞘)は、30:70〜70:30とすることが好ましく、さらには40:60〜60:40とすることが好ましい。
【0023】
なお、アルカリ易溶性ポリエステル(A)を溶出させる処理は、繊維の状態で行うこともできるが、作業性等を考慮すると、織編物等の布帛にした後に行うことが好ましい。
【0024】
そして、本発明のポリアミド繊維を構成するポリアミドとしては、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド) 、ポリパラキシリレンデカナミド、ポリビスシクロヘキシルメタンドデカナミド等のホモポリマー及びこれらを主体とする共重合体もしくは混合物が好ましく用いられる。
【0025】
また、アルカリ易溶性ポリエステル成分としては、例えば、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸、ポリアルキレングリコール、スルホイソフタル酸アルカリ金属塩等を共重合させた共重合ポリエステルを挙げることができる。
【0026】
本発明のポリアミド繊維中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて艶消し剤、顔料、防炎剤、消臭剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0027】
そして、本発明のポリアミド繊維の単糸繊度は1〜10dtexとすることが好ましく、単糸数は10〜50とすることが好ましい。
【0028】
本発明のポリアミド繊維の製造方法について、一例を用いて説明する。
【0029】
アルカリ易溶性ポリエステル(A) とポリアミド(B)を用い、単糸の形状を芯鞘型複合繊維となるようにして芯部と鞘部のポリマーを通常用いられる複合紡糸装置に導入し、溶融紡糸を行う。このとき、芯部のポリマーはアルカリ易溶性ポリエステル(A)のみからなるものとし、鞘部のポリマーはアルカリ易溶性ポリエステル(A)とポリアミド(B)の混合物とする。
【0030】
溶融紡出した糸条を冷却し、油剤を付与した後、ローラ間で延伸を行い、必要に応じて熱処理を施した後、捲き取って繊維(アルカリ減量処理前の芯鞘型複合繊維)を得る。
【0031】
そして、繊維の状態又は織編物等の製品にした後にアルカリ減量処理を行い、アルカリ易溶性ポリエステルを溶出させることにより、繊維内部に中空部を、中空部以外の繊維部分に多数の微細孔を生じさせて、本発明の微細孔中空ポリアミド繊維又は本発明の微細孔中空ポリアミド繊維からなる織編物等を得る。
【実施例】
【0032】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中における測定、評価は次のとおりに行った。
(1)ナイロン6の相対粘度
96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。
(2)アルカリ減量率(%)
得られたアルカリ減量処理前の芯鞘型複合繊維をインターロック編物にした試料の質量(処理前質量)を測定し、アルカリ減量処理後の試料の質量(処理後質量)を測定し、処理前後の質量から次式にて算出した。
アルカリ減量率(%)=(処理後質量/処理前質量)×100
(3)中空率、微細孔の平均孔径
前記の方法で測定、算出した。なお、アルカリ減量処理後のインターロック編物から繊維を取り出し、測定を行った。
(4)吸保水性
アルカリ減量処理後のインターロック編物を、温度105 ℃で2時間乾燥して質量W0 を測定した。その後、この編物を温度20℃の水に30分浸漬した後、回転式脱水機で1分間(回転数3000rpm)脱水処理を行い、質量W1を測定し、下記式M0により吸保水性を算出した。
M0(%)=〔(W1−W0)/W0 〕×100
(5)放湿性
上記の吸保水性の評価に用いた編物を、温度17℃、湿度52%RHの環境下にて放置し、15分後に質量W2を測定し、下記式M2により放湿性を算出した。
M1(%)=〔(W2−W0)/W0 〕×100
M2(%)=(M0−M1)/15
(6)微細孔形成状態評価
中空率、微細孔の平均孔径を測定する際に撮影した、繊維の長手方向に対して垂直方向に切断した横断面の透過型電子顕微鏡写真を観察し、次の3段階で評価した。
○:微細孔が多数形成されている。
△:微細孔は形成されているが微細孔の数が少ない。
×:微細孔がほとんど形成されていない。
(7)中空糸膜分離性能評価
得られたアルカリ減量処理前の芯鞘型複合繊維を、外周1mの検尺機で20回転分捲き取り、綛の状態で、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH49g/l)を用い、浴比1:200、30分沸騰させてアルカリ減量処理を行った。その綛を2等分割して長さ50cmの繊維束を得た。その一端の断面を熱で溶融封止し、その溶融封止部から5cmともう一端の断面から10cmを残してエポキシ樹脂でコーティングし、評価サンプルを作成した。
図1に示すように、溶融封止した端面からコーティング部の2cmまでの部分をインク水溶液(濃度0.5g/リットル、粒子径0.5〜5μmの赤色顔料)に浸し、他方の端をコーティング部の2cmまでの部分を減圧容器に挿入して繋いだ後、減圧容器内を10リットル/分で減圧した。この減圧容器に透明な液体が溜まれば、インク水溶液中の水分子のみが微細孔間の薄膜と隣接する微細孔同士が重なり合う部分の連通孔を通過し、中空部分を通り抜けてきたということであり、水分子とインク粒子が分離できたと判断できる。結果を次の2段階で評価した。
○:減圧容器に透明な水が溜まる。
×:減圧容器に何も溜まらない。
【0033】
実施例1
アルカリ易溶性ポリエステル(A) として5-ナトリウムスルホイソフタル酸2.5 モル%、分子量6000のエチレングリコール12.0質量%を共重合したポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(B) として相対粘度2.6 のナイロン6を用いた。そして、単糸の形状を芯鞘型複合繊維となるようにして芯部と鞘部のポリマーを通常用いられる複合紡糸装置に導入し、溶融紡糸を行った。このとき、芯部のポリマーはアルカリ易溶性ポリエステル(A)のみからなるものとし、鞘部のポリマーはアルカリ易溶性ポリエステル(A)とポリアミド(B)の質量比((A):(B))が10:90の混合物とした。また芯鞘質量比率(芯:鞘)は40:60とした。
紡糸温度を265 ℃とし、36孔の紡糸孔が穿孔された紡糸口金を使用し、溶融紡出した糸条を15℃の空気を吹き付けて冷却し、油剤を付与した後、第1ローラ速度3305m/分、第2ローラ速度を3635m/分とし、ローラ間で延伸を施した後、捲取速度3600m/分で捲き取り、110dtex/36fの繊維(アルカリ減量処理前の芯鞘型複合繊維)を得た。
得られた繊維をウェール48本/2.54cm、コース44本/2.54cmの編組織のインターロック編物にし、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH49g/l)を用い、浴比1:200、30分沸騰させてアルカリ減量処理を行い、本発明のポリアミド繊維からなる編物を得た。
【0034】
実施例2〜3、比較例1〜3
鞘部のポリマーのアルカリ易溶性ポリエステル(A)とポリアミド(B)の質量比((A):(B))と、芯鞘質量比率(芯:鞘)を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0035】
実施例1〜3、比較例1〜3で得られたポリアミド繊維(アルカリ減量処理後)の特性値と評価を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より明らかなように、実施例1〜3で得られたポリアミド繊維は、中空率が適度であり、繊維の長手方向に沿って平均孔径が10〜100nmの微細孔が多数形成されており、吸保水性、放湿性ともに優れており、さらには中空糸膜分離性能にも優れていた。
【0038】
一方、比較例1のポリアミド繊維は、中空率が30%未満であったため、吸保水性、放湿性に劣るものであり、中空糸膜分離性能にも劣るものであった。比較例2のポリアミド繊維は、中空率が50%を超えるものであったため、中空部が潰れ、吸保水性能に劣るものであった。また、比較例3のポリアミド繊維は、鞘部のアルカリ易溶性ポリエステル成分が少な過ぎ、中空率も30%未満であったため、繊維部分に形成された微細孔の数も少なく、吸保水性、放湿性ともに劣るものであり、中空糸膜分離性能にも劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の微細孔中空ポリアミド繊維の中空糸膜分離性能評価における測定方法を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド成分からなり、繊維内部に繊維の長手方向に沿って形成された中空部を有する単糸で構成されたマルチフィラメントであって、各単糸の中空部以外の繊維部分には、繊維の長手方向に沿って多数の微細孔が形成されており、かつ、中空部の割合(中空率)が30〜50%であることを特徴とする微細孔中空ポリアミド繊維。
【請求項2】
各単糸の形状を芯部と鞘部にアルカリ易溶性ポリエステルを含有する芯鞘型複合繊維とし、アルカリ易溶性ポリエステルを溶出させることにより、各単糸に中空部と多数の微細孔を生じさせてなる請求項1記載の微細孔中空ポリアミド繊維。


【図1】
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【公開番号】特開2007−332486(P2007−332486A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164704(P2006−164704)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】