説明

微細挽割納豆の製造方法

【課題】 通常の粒納豆や挽割納豆を包丁で細かくたたいて造るきざみ納豆は、ほとんど噛む必要がなく、消化吸収にも優れ、歯の弱いお年寄りや離乳食に適しているが、たたく手間を省き初めから細かく造られた粒径の大豆を原料とし、該粒径に適した浸漬条件、蒸煮条件及び発酵条件が選択されて製造される微細挽割納豆の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の微細挽割納豆の製造方法は、粒納豆を包丁でたたいて造る代わりに、従来の挽割納豆より細かい2.0mm〜4.0mmの大きさに挽き割った大豆を原料として用いるもので、従来の挽割納豆の製法では満足すべき品質が得られないため、前記の原料に適合した浸漬条件が水温15℃で2時間、蒸煮条件が115℃で6分、発酵条件が品温47〜50℃で発酵時間5時間であり、得られた微細挽割納豆は、ほとんど噛む必要がなく、食べやすくて消化吸収にも優れ、さらに調理用としても最適な新規な納豆として提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は納豆の製造方法に関し、通常の挽割納豆よりさらに細かく食べやすく、消化性にも優れた納豆を、粒納豆をきざむ手間を省き量産化して消費者に安価に提供することができる、新規な納豆の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の納豆は丸大豆をそのまま納豆にした粒納豆が市場の大半を占めているが、粒納豆は歯ごたえや食感が重要であり、そのままでは歯の弱い方や離乳食、調理用などには適さないため必要な場合はやむを得ず包丁で刻んで使用せざるを得なかった。他に挽割納豆が、主に調理用納豆として出回っているが、大豆をあらかじめ割っているため粒納豆より食べやすさは改善されているものの、細かく割るほど納豆の製造技術が難しいため、大豆を1/4〜1/16分割(丸目ふるいの穴径で4.0〜5.0mm)にしたものが主流であり、噛まなくてもすむようなわけにはいかず、離乳食にはまだ不十分であった。
丸粒納豆を原料にして圧力をかけて格子を通過させてきざむことを特徴とするきざみ納豆の製造技術が特許第3162200号(特許文献1)に開示されている。この特許文献1における先行技術は、常法により丸大豆から製造された納豆を、いわゆる二次加工によりきざみ納豆にするという製法であるから、高い製造コストがかかること、二次加工時の雑菌汚染に係わる衛生的な問題、使用する粒納豆の熟成が不足すると苦味が出るといった点が懸念される。
【特許文献1】特許第3162200号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、あらかじめ大豆を噛まなくてもすむちょうど良い細かさに割り、これを原料にして従来の挽割納豆と異なる条件で造る微細挽割納豆の製造方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成する本発明の請求項1に記載した微細挽割納豆の製造方法は、所要粒径の大豆、該大豆に適合した浸漬条件、蒸煮条件及び発酵条件が選択されて製造される納豆の製造方法において、
前記所要粒径の大豆が、原料丸大豆を挽き割って丸穴ふるいに通して2.0mm〜4.0mm(のぞましくは2.5mm〜3.5mm)に粒径をそろえた微細挽割大豆から成る。
請求項2に記載した微細挽割納豆の製造方法は、請求項1に記載した微細挽割納豆の製造方法において、
前記微細挽割大豆が、水温15℃で浸漬時間2時間の浸漬条件で浸漬されて成る。
請求項3に記載した微細挽割納豆の製造方法は、請求項1又は2に記載した微細挽割納豆の製造方法において、
前記微細挽割大豆が、蒸煮温度115℃、蒸煮時間6分の蒸煮条件で蒸煮されて成る。
請求項4に記載した微細挽割納豆の製造方法は、請求項1、2又は3記載の微細挽割納豆の製造方法において、
前記微細挽割大豆が、適正品温47〜50℃で発酵時間を5時間とする発酵条件で発酵されて成る。
なお、上記微細挽割大豆の通常の挽割大豆と比較した浸漬条件、蒸煮条件及び発酵条件は、それぞれ通常の挽割大豆より浸漬時間で1〜4時間短くし、蒸煮時間で2〜7分短く、蒸煮温度で1〜5℃低く、さらに発酵時間も1〜4時間短縮して納豆を造ることがアンモニア臭を抑え、日持ちを低下させないために好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、大豆を挽き割って得られる通常の挽割納豆の原料よりさらに細かく割った微細挽割大豆を原料とし、当該大豆に適した通常挽割納豆とは全く異なる製造方法を導入することで、従来の挽割納豆と風味の点は変わらないが、ほとんど噛む必要がなく、それでいてペーストにした納豆とは異なり粒粒感のある新規性のある納豆を安価に提供しようとするもので、これからの高齢化社会に相応しい食品であり、さらに離乳食としてや、幅広い納豆料理への展開も期待できる利点があり、産業上きわめて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
前述のように、噛む必要がないほどの細かい納豆を造るために、一度粒納豆を作りこれをさらに後工程で機械的にきざむことは知られているが、量産化には必ずしも適していない。さらに通常の挽割納豆では粒が大き過ぎてこのままではやはり離乳食としては不完全であった。
本発明者等は、噛む必要のない介護食用から離乳食用などへの提供と、調理用への提供など新しいニーズとして今後期待される微細挽割納豆の製造方法について鋭意研究を進めた結果、原料丸大豆は中粒丸大豆が都合よく、あらかじめ2.0mm〜4.0mm、望ましくは、2.5mm〜3.5mmに細かく割った大豆を原料にして、その原料に適した製造法で納豆を作ると、通常の挽割納豆と同じコストで大量にきざみ納豆と同等の納豆の生産が可能となることを見出し、かかる新しい知見に基づいて本発明に到達したものである。4.0mm以上だと通常の挽割になってしまい、逆に2.0mm以下の大きさでは、粒というよりは粉のレベルとなり、できた納豆もペーストに近くて刻みのイメージからかけ離れてしまう。
本発明の納豆の製造方法は、通常の挽割大豆より浸漬時間を1〜4時間短くし、蒸煮温度で1〜5℃低く、蒸煮時間で2〜7分短くする。通常の浸漬条件で微細大豆を浸漬すると大豆成分中の水溶性成分である糖質の浸漬水への溶出が多くなり、アンモニア臭が強く、糸引きの弱い納豆になる。さらに、通常の挽割大豆の蒸煮条件で微細大豆を蒸煮すると、煮豆が軟らか過ぎて潰れて団子状になり、好気性菌である納豆菌は団子の表面しか生育できず中心部は酵素が行きわたらず酸欠となって発酵不良になる。
また、本発明においては、通常の挽割の発酵時間より1〜4時間短くする。通常の挽割の発酵時間で発酵させると、豆が小さい分表面積が大きいため納豆菌酵素作用を受けやすく、蛋白質の過分解のためにアンモニア臭の強い納豆になりやすく、さらに遊離アミノ酸量も多くなるためにアミノ酸の一種チロシンが原因のシャリが速く発生しやすいものとなる。
【実施例1】
【0007】
本発明の微細挽割納豆の製造方法を実施例により順次に説明する。
中粒丸大豆を製粉機で粉砕し、5.0mmふるいで2つ割れを中心とする大きな形状の挽割大豆をカットした。得られた5.0mm以下の割れ大豆に風を当てて大豆表皮を吹き飛ばして除去し、ほとんど粉に近い大きさから4分の1分割の大きめの挽割大豆を含む粒度未選別の挽割大豆を得た。これを2.0mmの丸目篩にかけてパウダー状の大豆を分離した。この部分は納豆として使用不可能と判断した。2.0mm篩の上には粒度分布がばらばらな未選別挽割大豆を得た(大豆A)。この大豆Aの所要分を次に2.5mmの目の篩にかけ、2.0mm〜2.5mmの範囲に入る微細大豆Bを得た。2.5mm篩の上に残った挽割大豆を同様に3.0mm、3.5mm、4.0mmのふるいにかけ、2.5mm〜3.0mmの範囲に入る大豆C(本発明)、3.0mm〜3.5mmの範囲に入る大豆D(本発明)、3.5mm〜4.0mmの範囲に入る大豆E、4.0mm〜5.0mmの範囲に入る大豆Fを得た。
上記大豆A〜Fを通常の挽割納豆の製造方法に従って、常温の水に5時間浸漬して十分に膨潤させた。そして、通常の挽割納豆の標準蒸煮条件である115℃10分で蒸煮して蒸煮大豆を得、この蒸煮大豆500gに対して宮城野納豆製造所製の納豆菌液0.005mlを接種して、発泡ポリスチレン製の納豆容器(50g容)に40gずつ充填した。そして、これを38〜43℃で16時間発酵させ、さらに5±2℃で24時間熟成して大豆AからFまでを原料とした納豆を得た。
このようにして得た大豆AからFを原料とした納豆について、製造直後の性状検査、すなわち豆の大きさ、堅さ及び食感、臭い、味、糸引きの項目について評価したものを表1に示す。なお、原料大豆は中粒が望ましいが、小粒でも大粒でも割り機を調整すればどんな大きさでも構わない。割り機についても、必ずしも製粉機でなくても豆を割ることができればどのような原理の装置であっても構わない。
通常挽割納豆の製造法では、大豆E(3.5mm〜4.0mm)とF(4.0mm〜5.0m)を原料とした納豆の評価は良好であった。大豆B(2.0mm〜2.5mm)、C(2.5mm〜3.0mm)、D(3.0mm〜3.5mm)及びB〜Fまでが混合されたA(2.0mm〜5.0mm)のいずれも、通常の製造法では軟らかくなり過ぎで、かつ発酵も進み過ぎていた。このことから2.0mm〜3.5mmの細かい挽割大豆を使用する場合は、通常の挽割納豆の製造方法では、軟らかい、アンモニア臭が強い、シャリが速く出るなどの弊害が発生し良好な結果が得られないことがわかった。
【0008】
【表1】

【実施例2】
【0009】
上記の結果を踏まえ、2.0mm〜3.5mmの微細挽割大豆に適した製造方法の改善策として、先ず浸漬過剰による大豆成分の溶出がアンモニア臭の一因と考えられたため、適正な浸漬時間を求め試験を実施した。水温15℃において浸漬時間を1時間から5時間まで変えて、その吸水率を求めた。吸水率は、大豆100gを所定の時間浸漬した後、ザルに空けて水を切り、豆への付着水はペーパータオルで拭き取った。吸水後の重量を元の大豆重量で除して吸水率とした。その結果を表2に示した。
通常大豆は3時間で吸水率2倍を越え5時間でほぼ飽和に達したが、微細大豆は1時間で2倍を越え2時間でほぼ飽和に達した。微細大豆の方が3時間ほど吸水速度が速く、微細大豆ではそれ以上の過剰浸漬をすると、浸漬水への溶出成分が増加するだけ、無駄であると判断された。
【0010】
【表2】

【実施例3】
【0011】
表1の結果より、微細大豆では通常挽割大豆の蒸煮時間では軟らか過ぎることが判明したので、蒸煮温度を115℃と一定にし、時間を変えて適正条件を求めた。蒸煮硬度の結果を表3に示した。
表3の結果より蒸煮時間については、通常挽割大豆は、10分が適正であり、9〜12分の範囲で使用可能であった。一方微細挽割大豆では、6分が適正であり、5〜7分の範囲で使用可能であった。
【0012】
【表3】

【実施例4】
【0013】
実施例3では、蒸煮温度を一定にして時間を変えて煮豆の硬度を検討したが、ここでは蒸煮時間を一定(6分)にして温度を変えて煮豆硬度を調べた。その結果を表4に示す。
表4の結果より通常挽割大豆は、117〜118℃が適正であり、116〜119℃の範囲で使用可能であった。一方微細挽割大豆では、115℃が適正であり、114〜115℃の範囲で使用可能であった。
【0014】
【表4】

【実施例5】
【0015】
よって、微細挽割大豆の適正蒸煮条件を、115℃・6分とし、次に適正発酵条件の検討を実施した。
発酵は室温37℃でスタートし、菌の増殖に伴う発酵熱による品温の上昇を認める8時間後に室温を上げ、適正品温である47〜50℃に3〜9時間維持させた後強制冷却をかけて発酵を終了させた。5±2℃の冷蔵室で24時間熟成後の納豆の評価を表5に示した。
表5の結果より、通常挽割納豆では、発酵熱が出始めて6〜8時間がほぼ適正で、望ましくは7時間前後であった。一方微細挽割納豆では4〜6時間がほぼ適正範囲であり、望ましくは5時間前後であった。
実施例1〜5の結果より微細挽割大豆と通常挽割大豆を用いた納豆製造の最適条件を表6にまとめた。条件は著しく異なっていることがわかる。
【0016】
【表5】

【0017】
【表6】

【実施例6】
【0018】
上の適正製造方法で微細挽割納豆と通常挽割納豆を造り両者の品質を改めて比較検討した。その結果は表7の通りである。
挽割大豆の粒径に合わせて納豆の製造方法を改善することにより、納豆の風味や糸引きに関してはほぼ同等の品質が得られた。一方食感に関しては、通常挽割では確かな歯ごたえ感が残るのに対し、微細挽割はほとんど噛む必要がない。この点では納豆をすりつぶしたペースト状納豆とやや似ているが、ペースト状納豆は滑らかな口当たりだが食感的に納豆を食べている感じが希薄である。その点微細挽割納豆は、粒粒感が残っているので明らかに納豆を食べている満足感がえられた。
微細挽割納豆は、歯の弱いお年寄りや、介護食用、または離乳食用として、納豆を包丁で刻む手間が省けるという便利性以外にも次のような調理用として便利である。
(1)味噌汁に入れて納豆汁、ラーメンに入れて納豆ラーメン、蕎麦の漬け汁に入れて納豆蕎麦のようにスープ、汁との相性が抜群である。納豆風味やこくやとろみが生まれておいしいだけでなく、麺との絡みが良いので食べやすい。粒納豆や通常の挽割納豆では、納豆が汁やスープの底に沈んで食べづらい。ペースト状納豆では、液体にすんなり溶けないでダマになってしまうため扱いにくい。
(2)カット野菜と微細挽割納豆を混ぜてドレッシングで調味することで、納豆サラダができる。他の納豆では、野菜と納豆との絡みが良くないので野菜と納豆が分離してしまうが、微細挽割納豆は野菜との絡みが良いので適している。
(3)納豆スパゲッティにも微細挽割納豆を使用したほうが、スパゲッティとの絡みが良いため適している。他の納豆では、スパゲッティと納豆が分離して食べにくい。
(4)その他にも、イかと和えたイカ納豆、マーボー豆腐のひき肉の代替、カレー納豆にも微細挽割納豆は、他の納豆より適している。
【0019】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の微細挽割納豆の製造方法は、これからの高齢化社会に相応しい介護食用や離乳食用に、さらには調理用として幅広い納豆料理への展開も期待できる微細挽割納豆を提供できるから、産業上きわめて有益であり、その需要は大いに期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要粒径の大豆、該大豆に適合した浸漬条件、蒸煮条件及び発酵条件が選択されて製造される納豆の製造方法において、
前記所要粒径の大豆が、原料丸大豆を挽き割って丸穴ふるいに通して2.0mm〜4.0mmにそろえた微細挽割大豆である微細挽割納豆の製造方法。
【請求項2】
前記微細挽割大豆が、水温15℃で浸漬時間2時間の浸漬条件で浸漬されて成る請求項1記載の微細挽割納豆の製造方法。
【請求項3】
前記微細挽割大豆が、蒸煮温度115℃、蒸煮時間6分の蒸煮条件で蒸煮されて成る請求項1又は2記載の微細挽割納豆の製造方法。
【請求項4】
前記微細挽割大豆が、適正品温47〜50℃で発酵時間を5時間とする発酵条件で発酵されて成る請求項1、2又は3記載の微細挽割納豆の製造方法。