説明

微量化学物質を検出するための核酸および方法

【課題】AhRとARNTとの結合を導く物質、例えば、化合物を、抗体抗原反応や培養細胞を利用することなく簡便な構成で簡単に検出することができ、特異的かつ迅速簡単に検知する方法を提供する。
【解決手段】AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出する方法であって、
(1)被検物質と、AhRと、ARNTと、少なくとも配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む連続した25〜100塩基からなる検出用核酸とを溶液中で接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとARNTと検出用核酸との結合を検出することと、
を具備する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量化学物質を検出するための検出用核酸および前記検出用核酸を使用する微量化学物質を検出する方法に関する。特に、本発明は、例えば、微量化学物質が内分泌攪乱物質であり、そのような微量化学物質が基質依存型転写因子と結合した際に形成される蛋白質複合体に対して特異的に結合する検出用核酸と、当該検出用核酸を用いて微量化学物質を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生活や産業活動の発展に伴い、環境中に放出された化学物質による人体影響が重大な社会問題となっている。なかでも環境水や土壌など環境汚染に対する認識の高揚から、ダイオキシンやPCBといった、いわゆる内分泌攪乱物質による汚染状況を正確に把握する必要が強まっている。
【0003】
ダイオキシンやPCBの受容体として知られるアリルハイドロカーボン受容体(ここでは「AhR」とも記す)は、多環芳香族炭化水素(ここでは「PAH」とも記す)が結合する受容体であり、bHLHファミリーに属する転写因子である(非特許文献1)。これまでに、AhR結合性を持つ多くの化学物質が内分泌攪乱性を持ち、免疫毒性や生殖毒性を誘導することが報告されている(非特許文献2)。そのため、AhRリガンドの迅速で簡易的な検出が求められている。
【0004】
図1を参照されたい。ダイオキシンなどのAhRリガンド様物質1が細胞5内に一旦入ると、AhR2と可逆的に結合し、AhR2を活性化させる。活性化されたAhR2は当該AhRリガンド様物質1と結合したまま、細胞5の核6に運搬される。核6内では、活性化されたAhR2がAhR核内移行因子3(ここでは「ARNT」とも記す)とAhR-ARNT複合体を形成し、この複合体がDNAの特定配列を認識して結合する。このDNAの配列は、鋳物応答配列4(Xenobiotics Responsive Elements、以下「XRE」と記す)と呼ばれる。活性化された当該AhR-ARNT複合体がXRE4と結合すると、XRE4下流のAhR-ARNT複合体のコントロール下にある遺伝子が転写される。転写され、生成されたmRNAは、核6外に運搬され細胞質に入り細胞質の中で翻訳されて新しいタンパク質が合成される。このタンパク質がダイオキシン類の毒性発現と考えられている(非特許文献3)(図1)。
【0005】
この種のAhRリガンド様物質の検知方法には、被検知物質と競合的にAhRレセプターに結合する公知のリガンドを用いて、被検知物質と競合させ、AhRレセプターと結合していないで遊離状態をとっている公知のリガンド量を抗原抗体反応にて検知し、被検知物質の存在を検出する方法が知られている(特許文献1)。
【0006】
またこの種のAhRリガンド様物質の検知方法には生細胞を利用し、活性を示す被検知物質の存在をレポータージーンアッセイで検知しているものもある。例えばドーパミン生合成に関与するチロシンヒドロキシラーゼ(Tyrosine hydroxylase)の発現がAhR活性化により増加することを利用して(非特許文献4)、この転写制御能の活性を測定することにより、基質結合性を有する転写因子の制御領域に対する微量被検知物質の活性を測定する方法がある(特許文献2)。
【0007】
その測定法には、AhRの認識配列の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターを細胞内に導入し、この細胞に被検知物質を接触させて培養した際の前記レポーター遺伝子の発現量を測定することにより、リガンド結合性を有する転写因子の転写制御に対する被検知物質の活性を測定する方法がある。
【0008】
以上のような方法は、従来の微量化学物質を被検知物質として検知する方法である。このような方法においては、抗体の作製に熟練した技術が必要であり、かつその作製には長期間を要し、その作製コストも高価である。また、培養細胞を利用する方法においては、培養細胞を取り扱うための熟練した技術が必要であり、細胞培養用の高価な設備も必要とされる。
【特許文献1】特開2000-283984号公報
【特許文献2】特開2007-202555 号公報
【非特許文献1】Mark E. Hahn, Comparative Biochemistry and Physiology Part C 121 (1998):23-53.
【非特許文献2】Frank JG et al., Drug Metabolism and Disposition (1998) 26: 1194-1198.
【非特許文献3】Mimura J et al., Genes Dev (1999) 13; 20-25.
【非特許文献4】Akahoshi E et al., Environ Health. (2006) 7; 5; 24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、AhRとARNTとの結合を導く物質、例えば、化合物を、抗体抗原反応や培養細胞を利用することなく簡便な構成で簡単に検出することができ、特異的かつ迅速簡単に検知する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、
AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出する方法であって、
(1)被検物質と、AhRと、ARNTと、少なくとも配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む連続した25〜100塩基からなる検出用核酸とを溶液中で接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとARNTと検出用核酸との結合を検出することと、
を具備する方法
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、AhRとARNTとの結合を導く化合物を、抗体抗原反応や培養細胞を利用することなく簡便な構成で簡単に検出することができ、特異的かつ迅速簡単に検知する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の1つの態様に従うと、
AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出する方法であって、
(1)被検物質と、AhRと、ARNTと、少なくとも配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む、連続した25〜100塩基からなる検出用核酸と、を接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとARNTと検出用核酸との結合を検出することと、
を具備する方法
が提供される。
【0013】
この方法は、図1に示した細胞内におけるAhRとARNTとAhRリガンドとXREとが結合する現象を利用した方法であり、AhRとARNTとの結合を導く化合物と、AhRと、ARNTと、検出用核酸との結合を非細胞系において検出することにより、AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出する方法である。
【0014】
本発明の更なる1つの態様に従うと、
被検物質が、AhRとARNTとの結合を導く化合物であるか否かを判定する方法であって、
(1)当該被検物質と、AhRと、ARNTと、配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む連続した25〜100塩基からなる検出用核酸と、を接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとARNTと当該検出用核酸との結合を検出することと、
(3)(2)の検出結果から、当該被検物質がAhRとARNTとの結合を導く化合物である否かを判定することと、
を具備する方法
が提供される。
【0015】
図2を参照されたい。本発明の原理を説明する。反応系11において被検物質12とAhR13とARNT14と検出用核酸15とを接触させる(図2(A))。その結果、被検物質12が、AhRとARNTとの結合を導く化合物であった場合には、図2(B)に示すように複合体が形成される。この複合体を検出することにより当該被検物質がAhRとARNTとの結合を導く化合物であると判定することが可能である。また、当該被検物質が、AhRとARNTとの結合を導かない化合物である場合、または当該反応系11にAhRとARNTとの結合を導く化合物が存在しない場合には、図2(C)に示すように、当該複合体は形成されないので、当該複合体は検出されない。
【0016】
このような原理を利用し、被検物質がAhRとARNTとの結合を導く化合物であるか否かを判定することが可能である。同様の原理を利用すれば、試料中にAhRとARNTとの結合を導く化合物が含まれるか否かを判定することも可能である。また同様に、所望の化合物がAhRとARNTとの結合を導く化合物であるか否かをスクリーニングすることも可能である。
【0017】
ここで「被検物質」とは、本発明に従う検出方法または判定方法に供される公知または未知の天然物若しくは化合物、またはそれらの少なくとも1を含む混合物などであればよい。
【0018】
ここで「被検知物質」とは、本発明の検出方法において検知しようとする対象であればよい。
【0019】
ここで「試料」とは、本発明の検出方法または判定方法に供される試料であり、例えば、食品、試薬、薬品、湖水、海水、河川水、汚水および廃棄物など、AhRとARNTとの結合を導く化合物が含まれ得る、またはAhRとARNTとの結合を導く化合物が含まれることが疑われる何れかの物質であればよい。
【0020】
ここで「AhRとARNTとの結合を導く化合物」とは、例えば、AhRリガンド様物質などであってよい。AhRリガンド様物質には、ダイオキシンなどの内分泌攪乱物質が含まれてよい。内分泌攪乱物質は一般的に「環境ホルモン」とも称される。
【0021】
このような本発明に従う方法は、鋭意研究の結果、本発明者らが、AhRとARNTとの結合を導く化合物とAhRとARNTとの複合体と結合し、その検出を可能にする検出用核酸を見出したことにより達成された。
【0022】
即ち、本発明者らは、マウスTH (Tyrosine Hydroxylase)遺伝子の転写開始点の上流域に存在する25塩基のDNA配列を有する核酸が、AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出するのに有用であることを見出し、これを検出用核酸として単離した。
【0023】
従って、本発明の検出用核酸は、マウスTH (Tyrosine Hydroxylase)遺伝子の転写開始点の上流域に存在する連続する25塩基のDNA配列により示される核酸を含めばよい。詳しくは、当該25塩基のDNA配列とは、マウスTH遺伝子上流−274〜−249塩基配列(数字は転写開始点を+1、直前の塩基を−1とした位置を表す)である。この25塩基のDNA配列は配列番号1として配列表に示した。また、本発明の検出用核酸は、この25塩基、即ち、少なくともマウスTH遺伝子上流−274〜−249塩基配列に対応する部位が2本鎖であることが必要である。
【0024】
ここで使用される「核酸」とは、合成または天然由来のDNA、オリゴヌクレオチドなどのヌクレオチドなどであればよい。またLNAやペプチド核酸、などの人工核酸を用いてもよい。
【0025】
以下、更に本発明を詳しく説明する。
【0026】
1.検出用核酸
本発明に従う検出用核酸は、少なくとも配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む核酸であればよい。
【表1】

【0027】
当該2本鎖に含まれる一方の核酸は、配列番号1で示される25塩基の核酸、配列番号1で示される核酸を含む25〜100塩基の核酸、配列番号2で示される61塩基の核酸、およびこれらの配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であればよい。当該2本鎖に含まれるもう一方の核酸は、配列番号1で示される25塩基の核酸の相補鎖、配列番号1で示される核酸を含む25〜100塩基の核酸の相補鎖、配列番号2で示される61塩基の核酸の相補鎖、およびこれらの配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の相補鎖であればよい。当該検出用核酸の重要な部位は、配列番号1で示される配列であり、少なくともこの部分は相補性を有するもう1つの一本鎖と共に2本鎖を形成している必要がある。それ以外の部分は、相補鎖により2本鎖を形成してもよく、それらの配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする1本鎖と共に2本鎖を形成してもよく、或いは1本鎖であってもよい。
【0028】
配列番号2で示される配列からなる核酸は、その第1位〜第25位に配列番号1で示される配列からなる核酸を含む核酸である。
【表2】

【0029】
更に、本発明に従う検出用核酸は、配列番号1または2で示される配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズすることが可能な配列からなる核酸であってもよい。また、配列番号1または2で示される配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズすることが可能な配列を含む25〜100塩基の核酸であってもよい。この場合であっても、当該検出用核酸は、使用される際には、配列番号1に対応する25塩基の部分がその相補鎖と2本鎖を形成している必要がある。
【0030】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸としては、例えば、そのハイブリダイズの対象となる1本鎖と一定以上の相同性を有する核酸であればよい。
【0031】
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが生じ、非特異的なハイブリダイゼーションは生じないような条件をいう。また、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることが可能な」配列とは、一定の以上の相同性を有している配列であればよい。「一定以上の相同性」とは、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であればよく、また、100%の相同性、即ち、相補性を有していてもよい。
【0032】
このような一定以上の相同性を有する核酸は、所望の配列の核酸の1または複数の塩基が置換、欠失、および/または挿入された塩基配列からなる核酸であればよい。
【0033】
また、本発明においては、当該検出用核酸として、配列番号1を含む25〜100塩基の核酸を複数回、例えば2〜10個連結したものを使用することも可能である。
【0034】
このような当該検出用核酸は、化学的に合成してもよく、また、天然に存在する核酸を単離してもよく、何れの場合も、それ自体公知の手法で容易に作製されてよい。
【0035】
2.AhRおよびARNT
ここにおいて使用される「AhR」の語は、他に断りのない限りAhR蛋白質を示す。同様に、ここにおいて使用される「ARNT」の語は、他に断りのない限りARNT蛋白質を示す。
【0036】
本発明において使用されるAhRおよびARNTは、DNA結合性因子である。AhRおよびARNTは、天然に存在する何れかの生物由来のAhRおよびARNTを単離してもよく、遺伝子工学を利用して合成されてもよい。
【0037】
AhRおよびARNTは、ラット由来であることが好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、マウスやヒトなど哺乳類由来のAhRおよびARNT、或いはアジサシなど鳥類由来のAhRおよびARNT、或いはチョウザメ、メダカなど魚類由来のAhRおよびARNTを使用してもよい。これらは、天然の蛋白質であってもよいし、その機能を消失させない限りにおいて、遺伝子操作によってアミノ酸配列を改変した改変型蛋白質、或いは蛋白質の末端にタグ配列や他の蛋白質を融合させた融合蛋白質であってもよい。
【0038】
例えば、本発明で使用することができる融合蛋白質の例としては、配列番号3に記載した塩基配列によりコードされる、C末端にヒスチジン・タグ/V5タグを付加した融合ラットAhR、および配列番号4に記載した塩基配列によりコードされる、C末端にヒスチジン・タグ/V5タグを付加した融合ラットARNTなどが例として挙げられる。
【表3−1】

【0039】
【表3−2】

【0040】
【表4−1】

【0041】
【表4−2】

本発明において使用されるAhRおよびARNTは、細胞抽出液として何れかの生物組織から調製されてもよい。また、大腸菌、酵母、昆虫または動物培養細胞を用いる蛋白質発現系を用いて調製されてもよい。或いは、無細胞発現系(即ち、インビトロトランスクリプション/トランスレーション)によって調製することも可能である。
【0042】
AhRおよびARNTを細胞抽出液として調製する場合には、AhRおよびARNTを発現する細胞から、自体公知の方法によって、全細胞、或いは核から蛋白質を抽出することによりAhRおよびARNTを調製してよい。本発明で使用可能である細胞の例は、寄託番号 FERM BP-10341、およびFERM BP-10342の細胞などが挙げられる。
【0043】
AhRおよびARNTを大腸菌、酵母、昆虫または動物培養細胞を用いる蛋白質発現系を用いて作製する場合は、AhR遺伝子またはARNT遺伝子を適当な発現ベクターに組み込んだ後に、宿主細胞に導入して強制的に発現させればよい。
【0044】
このような蛋白質発現系において、蛋白質の発現に適するベクターとしては、動物培養細胞の場合、ヒトサイトメガロウイルスのimmeadiate-early エンハンサー/プロモーター領域を組込み、その下流域にT7のプロモーター配列/マルチクローニング部位を有するpTargetTベクターやSV40エンハンサーとSV40のearlyプロモーターを有するpSIベクター(プロメガ社)、pBK−CMV、CMV−Script、pCMV−TagおよびpBK−RSV(ストラタジーン社)およびpcDNA4ベクター・シリーズ(インビトロジェン社)などであってよい。
【0045】
また、大腸菌、酵母などの微生物宿主における発現に適するベクターは、例えば大腸菌系のT7のプロモーターを有するpETシリーズベクター発現システム(例えばpET3a,pET27b(+)やpET28a(+);ノバジェン社)、および酵母系においてはアルコールオキシダーゼのプロモーターを有するピチア発現系ベクターpICシリーズベクター(例えばpPIC9KやPIC3.5K;インビトロゲン社)などであってよい。
【0046】
AhRおよびARNTを無細胞発現系(即ち、インビトロトランスクリプション−トランスレーション)で調製する場合には、RNAを鋳型として翻訳だけをインビトロでおこなう方法と、DNAを鋳型として転写/翻訳をインビトロで同時におこなう方法の2通りの方法がある。
【0047】
RNAを鋳型とする場合には、Total RNA, mRNA, in vitro転写産物などを使用することができる。DNAを鋳型とする場合には、転写プロモーターと翻訳開始点の下流に組み込まれた目的遺伝子を含むプラスミド・ベクター、或いはPCR/RT-PCRの産物を使用することができる。
【0048】
このような方法に適したベクターとしては、例えば、ヒトサイトメガロウイルスのimmeadiate-early エンハンサー/プロモーター領域を組込み、その下流域にT7のプロモーター配列/マルチクローニング部位を有するpTargetTベクターやSV40エンハンサーとSV40のearlyプロモーターを有するpSIベクター(プロメガ社)、pBK−CMV、CMV−Script、pCMV−TagおよびpBK−RSV(ストラタジーン社)およびpcDNA4ベクター・シリーズ(インビトロジェン社)などが挙げられる。
【0049】
無細胞発現系に最適なシステムの選択は、合成するタンパク質の遺伝子の由来(原核細胞/真核細胞)、鋳型の種類(DNA/RNA)、または合成後のタンパク質の使用目的などを考慮して行う必要がある。一般的に真核細胞由来の配列を真核細胞システムで、あるいは原核細胞由来の配列を原核細胞のシステムで翻訳するような場合に問題が起こることは稀有である。無細胞発現系による蛋白質の発現は市販の蛋白質発現システムを用いてもよく、例えばTnT(登録商標) Reticulocyte Lysate (プロメガ社)や、Wheat Germ Extract Plus (プロメガ社)などを用いることができる。
【0050】
3.検出およびスクリーニング方法
本発明に従うと、
被検物質が、AhRとARNTとの結合を導く化合物であるか否かを判定する方法であって、
(1)当該被検物質と、AhRと、ARNTと、配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む連続した25〜100塩基からなる検出用核酸とを溶液中で接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとARNTと当該検出用核酸との結合を検出することと、
(3)(2)の検出結果から、当該被検物質がAhRとARNTとの結合を導く化合物である否かを判定することと、
を具備する方法が提供される。
【0051】
また、本発明の方法は、次のようにAhRとARNTとの結合を導く化合物を検出する方法、または当該AhRおよび当該ARNTとの結合を導く化合物をスクリーニングする方法として提供されてもよい。
【0052】
そのような方法は、例えば、
AhRおよびARNTとの結合を導く化合物を検出する方法であって、
(a)被検化合物を含む試料の存在下、本発明に従う検出用核酸とAhRとARNTとを溶液中で接触させることと、および
(b)当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合を検出することと、
を含む方法;
AhRとARNTとの結合を導く化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)被検化合物を含む試料の存在下、本発明に従う検出用核酸とAhRとARNTとを溶液中で接触させることと、
(b)当該検出用核酸と当該被検化合物とAhRとARNTとの結合を検出することと、
(c)当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合を導く化合物を選択することと、
を含む方法;
などである。
【0053】
本発明において、被検物質と当該検出用核酸とAhRとARNTとを接触させることは、次のような条件において行うことが可能である。例えば、結合緩衝液(組成;100 mM Hepes pH7.6、5 mM EDTA、50mM DTT、1%(w/v) Tween 20、150 mM KCl)などの溶媒中で、25℃〜30℃、好ましくは30℃で、60分間以上、最も好ましくは120分間以上、接触させればよい。
【0054】
当該接触は、AhRとARNTと被検物質(または、試料若しくは被検知物質)を先に接触させ、続いて検出用核酸を接触させてもよい。また、AhRと被検物質(または、試料若しくは被検知物質)とを接触させた後に、ARNTを接触させ、次に検出用核酸と接触させてもよい。
【0055】
当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合の検出は、電気泳動測定法、質量センサ素子を用いた測定法、電気化学的測定法、蛍光測定法、放射線測定法などを用いてよい。
【0056】
これらの方法は、適当業者の公知の方法(岡田博人編,「新細胞工学実験プロトコール」, 秀潤社, 1993年、田村隆明編,「バイオマニュアルシリーズ5転写因子研究法」, 羊土社, 1993年、Inouye, C. et al., DNA Cell Biol., 13, 731-742 (1994) 参照)、例えば、アフィニティーカラムを用いた方法、サウスウエスタン法、フットプリンティング法、EMSA(electrophoretic mobility shift assay) 法、one-hybrid法などを使用すればよい。或いは、DNA固定化ビーズ等を用いたプルダウンアッセイ、水晶振動子マイクロバランスを用いた測定、BIACORE等の表面プラズモン共鳴を利用した結合測定、あるいは蛍光偏光法測定によるDNA蛋白質間相互作用解析などにより実施することもできる。
【0057】
例えば、電気泳動的測定法の例としては、EMSA法(一般的には、ゲルシフト法とも呼ばれる)が挙げられる。当該測定法は、蛋白質を結合した核酸の方が、蛋白質を未結合の核酸に比べて、電気泳動時の移動度が小さくなることを利用した核酸と蛋白質の結合検出法である。通常数10塩基の2本鎖オリゴヌクレオチドからなる標識核酸と、AhRおよびARNTなどの核酸結合性因子を反応させてから、非変性ゲルで電気泳動をおこなって標識核酸の移動度を検出する。
【0058】
本発明におけるEMSAは、上述した何れかの方法で調製したAhRおよびARNTを標識した核酸と反応させて、AhRおよびARNTを標識核酸に結合させる。この反応液を非変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動する。その結果、当該蛋白質が結合した核酸の移動度の方が未結合の核酸の移動度よりも小さくなる。従って、当該移動度の違いで、AhRとARNTと検出用核酸との複合体が形成されたか否かを判定することが可能である。
【0059】
具体的には、例えば、お互いに完全に相補的なオリゴヌクレオチドを合成し、ヒートブロック中で、95℃、5分で一本鎖とし、その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまでそのままにする(即ち、一本鎖のDNAの2本鎖化を行う)。検出用核酸の標識は、特に限定するものではなく、例えば、32Pに代表される放射性物質のほか、フルオレセインやAlexa色素に代表される蛍光物質を用いることができる。
【0060】
反応は、例えばインビトロトランスクリプション−トランスレーションにより合成したAhRおよびARNTと被検化合物を混合して15分〜2時間、15〜37℃で行う。その後、10 mM Tris-Cl (pH 7.5)、1 mM DTT、1 mM EDTA、10% Glycerol、1 mM MgCl2、0.15 M KClの存在下で、標識した検出用核酸を加え、15〜37℃で15分間反応させた後に、4−10%の非変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動する。
【0061】
必要であれば、標識結合用核酸とAhRとARNTとを反応させる際、コンペティターとして非標識核酸(標識結合用核酸の10〜500倍量)を加えてもよい。これにより、結合用核酸とAhRとARNTとの結合の特異性を確認することができる。コンペティターとしては、標識結合用核酸と同一の配列を含む核酸を用いることが一般的である。
【0062】
電気泳動が終了した後に、使用した標識物質の特性に応じたそれ自身公知の何れかの手段によって当該標識検出用核酸を検出すればよい。
【0063】
例えば、標識核酸を蛍光物質で標識した場合には蛍光スキャナーなどの蛍光検出装置、放射線物質の場合にはX線フィルムやイメージアナライザーなどの放射線測定装置により、標識検出用核酸を検出してパターン解析を行う。これにより、移動度が小さくなった標識検出用核酸が検出されれば、反応液中で、当該検出用核酸とAhRとARNTとが結合したことを確認することができる。
【0064】
対照区として、被検化合物を未添加の反応溶液を用意すれば、この反応溶液における標識検出用核酸の移動度と被検化合物を添加した混合溶液における標識検出用核酸の移動度の比較により、当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合に及ぼす被検化合物の影響を評価することが可能である。また、非標識核酸をコンペティターとして加えた反応溶液において、移動度が小さくなった標識検出用核酸のシグナルが減少または消失すれば、検出用核酸とAhRとARNTとの結合が特異的であると確認することができる。
【0065】
標識検出用核酸に結合する蛋白質の種類は、例えば、スーパーシフトアッセイにより同定することが可能である。例えば、反応液に既知のDNA結合因子に対する抗体を添加し、スーパーシフトが見られれば、添加した抗体が結合するDNA結合因子蛋白質がプローブと共に複合体を形成することが分かる。この方法により、AhRとARNTが当該検出用核酸とで結合し複合体を形成したことが確認できる。
【0066】
また、本発明における検出では、電気泳動的測定法のほかに、質量変化測定法、電気化学的方法、蛍光測定法、放射線測定法を用いてよい。
【0067】
質量センサ素子を利用した質量変化測定法による検出は、例えば、水晶振動子マイクロバランス法やSPR法で行うことができる。
【0068】
水晶発振子とは、水晶の結晶を極薄い板状に切り出した切片の両側に金属薄膜を取り付けた構造のもので、それぞれの金属薄膜に交流電場を印加するとある一定の周波数(共鳴周波数)で振動する性質を示す。金属薄膜上にナノグラム程度の物質が吸着すると物質の質量に比例して共鳴周波数が減少するため微量天秤として利用することができる。このような方法論はQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶発振子マイクロバランス)と呼ばれる。
【0069】
不可逆的な結合を形成する物質、例えばアビジンを固定化したQCMセンサーチップ表面に通常数15〜30塩基のビオチン標識2本鎖オリゴヌクレオチドを検出用核酸として固定化する。トリス緩衝液が入った反応槽に検出用核酸が固定化されたQCMセンサーチップを浸漬し、当該反応槽にAhRおよびARNTを添加することで、当該蛋白質の検出用核酸への結合性をリアルタイムで振動数の減少として評価することができる。またSPR法では、金属薄層がコーティングされた透明基板の表面近傍の屈折率変化および/または層の厚み変化が反射光強度の変化として検出される。固定化した物質、即ち、当該検出用核酸と液中の物質、即ち、AhRおよびARNTが相互作用すれば、表面近傍の屈折率変化および/または層の厚み変化が生じるため、検出用核酸またはAhR若しくはARNTを標識することなく相互作用が解析できる。
【0070】
電気化学的測定法による検出においては、電気的に活性な化合物、或いは電気的に活性な化合物を生ずる化学反応を触媒する酵素を用いて、当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合を検出してもよい。当該測定法で、当該検出用核酸を標識する場合は、導電性を有する担体に担持されたAhRまたはARNTに対して標識検出用核酸を反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、電気化学的応答を測定すればよい。AhRまたはARNTを標識する場合は、導電性を有する担体に担持された当該検出用核酸に対して標識したAhRまたはARNTを反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、電気化学的応答を測定すればよい。当該検出用核酸またはAhR若しくはARNTへの標識は、標識化合物や標識用酵素を直接結合させてもよく、ビオチン−ストレプトアビジン結合や抗原−抗体結合を利用して標識化合物や標識用酵素を間接的に結合させてもよい。また、AhRおよびARNTの場合には、標識用酵素との融合蛋白質を形成することにより標識してもよい。
【0071】
蛍光測定を特徴とする検出においては、フルオロセインやAlexa色素に代表される蛍光物質、或いはGFPに代表される蛍光蛋白質、または蛍光物質を生ずる反応を触媒する酵素で、当該検出用核酸またはAhR若しくはARNTを標識してよい。当該標識は、当該検出用核酸またはAhR若しくはARNTに対して、所望の蛍光物質、蛍光蛋白質、または当該酵素を直接結合させてもよく、ビオチン−ストレプトアビジン結合や抗原−抗体結合を利用して間接的に標識させてもよい。AhRまたはARNTの場合、蛍光蛋白質との融合蛋白質とすることで標識してもよい。当該検出用核酸を標識する場合には、担体に担持したAhRまたはARNTに対して標識検出用核酸を反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、蛍光強度を測定すればよい。AhRまたはARNTを標識する場合には、担体に担持した当該検出用核酸に対して標識したAhRまたはARNTを反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、蛍光強度を測定すればよい。
【0072】
放射線測定を特徴とする検出方法では、32Pや35Sに代表される放射性物質で、当該検出用核酸またはAhR若しくはARNTを標識してよい。当該検出用核酸を標識する場合には、担体に担持されたAhRまたはARNTに対して標識検出用核酸を反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、放射線強度を測定すればよい。AhRまたはARNTを標識する場合には、担体に担持された当該検出用核酸に対して、標識されたAhRまたはARNTを反応させ、非特異的な結合物を洗浄して取り除いた後で、放射線強度を測定すればよい。
【0073】
4.検出用デバイス
本発明においては、当該検出用核酸またはAhR若しくはARNTを担体に対してアレイ状に固定化した多検体検出用デバイスを作製し、それを検出および評価に用いることも可能である。
【0074】
このようなデバイスは、質量センサ素子による測定、電気化学的測定、蛍光測定、放射線測定による検出および評価が都合よく実施可能なように作製される。このようなデバイスは、当該検出用核酸をプローブとして担体に固定化した検出プローブ固定化チップであってもよいし、AhRまたはARNTを担体に固定化したDNA結合因子蛋白質固定化チップであってもよい。
【0075】
当該デバイスのための担体は、例えば、ガラス基板およびシリコン基板等、従来用いられる何れの基板、ビーズおよび容器などの何れであってもよい。固定化手段は、スポッター等を使用する手段、一般的な半導体技術を使用した手段等、当業者にそれ自身公知の手段を用いて固定することが可能である。
【0076】
また、電気化学的方法により検出されるプローブ固定化チップまたはDNA結合因子蛋白質固定化チップの場合、当該検出用核酸またはAhR若しくはARNTを所望の基板、例えば、電極基板、に対して共有結合、イオン結合、物理吸着または化学吸着等によって固定化してもよい。
【0077】
本発明の更なる1側面に従うと、基板と前記基板に固定化された上述の本発明に従う検出用核酸とを具備するプローブ固定化チップ、基板と前記基板に固定化されたAhRとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップ、並びに基板と前記基板に固定化されたARNTとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップも本発明として提供される。また、これらのチップは、検出手段に応じて、上述の何れかの標識手段またはそれ自身公知の標識手段と組み合わされて提供されてもよい。
【0078】
また、本発明の更なる1側面に従うと、基板と前記基板に固定化された上述の本発明に従う検出用核酸とを具備するプローブ固定化チップ、AhRおよびARNTを具備する検出用キットも提供される。また、基板と前記基板に固定化されたAhRとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップ、上述の本発明に従う検出用核酸およびARNTを具備する検出用キットが提供されてもよい。更にまた、基板と前記基板に固定化されたARNTとを具備するDNA結合因子蛋白質固定化チップ、上述の本発明に従う検出用核酸およびAhRを具備する検出用キットが提供されてもよい。このような検出用キットも本発明の範囲内である。また、これらのキットは、検出手段に応じて、上述の何れかの標識手段またはそれ自身公知の標識手段と組み合わされて提供されてもよい。
【0079】
更なる本発明の1側面に従うと、上述の被検化合物を検出するための当該検出用核酸、またはAhR若しくはARNTは、それ自身が、被検化合物を検出するための当該DNA検出用プローブおよび/または被検化合物を検出するためのDNA結合因子蛋白質として提供されてもよい。そのような当該検出用核酸および/またはDNA結合因子蛋白質、および被検化合物を検出するためのその使用も本発明の範囲内である。
【0080】
本発明に従うと、AhRとARNTとの結合を導く化合物を、抗体抗原反応や培養細胞を利用することなく簡便な構成で簡単に検出することが可能である。また、本発明に従うと、AhRとARNTとの結合を導く化合物を、当該特異的かつ迅速簡単に検知することが可能である。従って、環境に微量に存在するAhRとARNTとの結合を導く化合物を、簡単に、安価に、高精度に検出することが可能である。また、AhRとARNTとの結合を導く化合物は、生体に取り込まれると内分泌攪乱様物質として働く可能性が高いことから、環境や摂取物などに存在する内分泌攪乱様物質を簡便且つ高感度に検出することも可能であり、且つ任意の被検物質が内分泌攪乱様物質であるか否かを簡便且つ高感度にスクリーニングすることも可能である。
【0081】
従来では、微量化学物質を検知するためには、抗体や培養細胞を利用する方法が利用されている。本発明によれば、微量化学物質を、安価に準備できる材料を用いた簡便な方法により簡単に検出することが可能である。
【0082】
[例]
以下、本発明に係る実施例を詳述するが、本発明をこれら実施例に限定するものではない。
【0083】
例1
配列番号1により示される検出用核酸による特異的結合活性の検出(ゲルシフト法:EMSA)
(1)AhRおよびARNTの調製
T7プロモーターをもつプラスミドDNA pcDNA4にAhR遺伝子(配列番号3)およびARNT遺伝子(配列番号4)をそれぞれ導入し、2つのプラスミド、即ち、pcDNA4-AhR(図3)およびpcDNA4-ARNT(図4)を作製した。その後、鋳型プラスミドDNAをもとにTNT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)を利用してインビトロ トランスクリプション−トランスレーション法にてAhRおよびARNT蛋白質を作製した。
【0084】
(2)AhRとARNTとTCDDとを含む複合体の形成
インビトロトランスレーション産物であるAhRおよびARNTをそれぞれ5 μl混合した溶液に1μMの2,3,7,8−テトラクロロベンゾ−p−ジオキシン(2,3,7,8-tetrachlorobenzo-p-dioxin;TCDD) (関東化学社)を0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させ、AhR、ARNTおよびTCDDの複合体形成を行った。AhRおよびARNTをそれぞれ5 μl混合した溶液に、DMSOを0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させたものを対照実験とした。
【0085】
(3)Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブの作製
配列番号1で示される配列からなるオリゴヌクレオチドとその相補鎖とを、それぞれの5’末端にAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルを含むように合成した。この合成産物をヒートブロック中で95 ℃、5分で処理することにより1本鎖とし、その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまで静置した。これにより当該1本鎖核酸を2本鎖にした。これにより標識検出用核酸をAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとして作製した。
【0086】
(4)AhRとARNTとTCDDとを含む複合体とAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとの反応
(2)で調製した混合溶液に結合緩衝液(組成;100 mM Hepes、pH 7.6、5 mM EDTA、50 mM (NH4)2SO4、5 mM DTT、1%(w/v) Tween 20、150 mM KCl)、100ng/ul Poly[(dI-C)]溶液、1.4M KCl溶液を加えた後で、15fmol Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブを添加し、室温で15分間反応させた。反応液を6%ポリアクリルアミドゲルで75Vで1時間30分の条件で電気泳動した。その後、当該ポリアクリルアミドゲルを、ゲルイメージング解析装置であるTyphoon(GE ヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用いて、800 V 励起光源を532 nm のレーザーによりバンドの検出を行った。これにより、当該プローブとAhRとARNTとTCDDとを含む複合体の形成を確認した(図5)。
【0087】
例2
配列番号2により示される核酸による特異的結合活性の検出(ゲルシフト法:EMSA)
(1)AhRおよびARNTの調製
T7プロモーターをもつプラスミドDNA pcDNA4にAhR遺伝子、およびARNT遺伝子を導入し、2つのプラスミド、即ち、pcDNA4-AhR (図3)およびpcDNA4-ARNT (図4)を作製した。鋳型プラスミドDNAをもとにTNT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)を利用してインビトロ トランスクリプション−トランスレーション法にてAhRおよびARNTタンパク質を作製した。
【0088】
(2)AhRとARNTとTCDDとを含む複合体の形成
インビトロトランスレーション産物であるAhRおよびARNTをそれぞれ5 μl混合した溶液に1 μMの2,3,7,8-tetrachlorobenzo-p-dioxin (TCDD) (関東化学社)を0.1 μl加え、30℃、90分間反応させ、AhR、ARNTおよびTCDDの複合体形成を行った。AhRおよびARNTをそれぞれ5 μl混合した溶液に、DMSOを0.1 μl加え、30℃、90分間反応させたものを対照実験とした。
【0089】
(3)Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブの作製
配列番号2で示される配列からなるオリゴヌクレオチドとその相補鎖とを、それぞれの5’末端にAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルを含むように合成した。この合成産物をヒートブロック中95 ℃、5分で処理することにより1本鎖とし、その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまで静置した。これにより当該1本鎖核酸を2本鎖にした。これにより標識検出用核酸をAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとして作製した。
【0090】
(4)AhRとARNTとTCDDとを含む複合体とAlexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブとの反応
上記の混合溶液に結合緩衝液(Binding buffer)(100 mM Hepes, pH 7.6, 5 mM EDTA, 50 mM (NH4 )2SO4, 5 mM DTT、Tween 20, 1%(w/v), 150 mM KCl)、100ng/ul Poly[(dI-C)]溶液、1.4 M KCl溶液を加えた後、15 fmol Alexa Fluor(登録商標) 532ラベルプローブを添加し、室温で15分間反応させた。反応液を6%ポリアクリルアミドゲルで75 V、1時間30分の条件で電気泳動した。その後ポリアクリルアミドゲルをゲルイメージング解析装置であるTyphoon 8600 (GE ヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、800 V 励起光源で532 nm のレーザーによりバンドの検出を行った。これにより、プローブとAhRとARNTとTCDDの複合体形成を確認した(図6)。
【0091】
例3
配列番号1に記載の核酸による特異的結合活性の検出(QCM法:水晶振動子マイクロバランス法)
(1)QCMセンサーチップへのプローブの固定化
センサーチップ金表面を1% SDS溶液で洗浄後、ピランハ溶液(硫酸:過酸化水素=3:1)を金表面に滴下した後に、5分間静置し、蒸留水で洗浄を行なった。この操作を2回繰り返すことでセンサーチップ上の金表面を活性化した。5 mM DTDP(3,3’-Dithiodipropionicacid (Sigma Aldrich製))溶液を100 μl滴下した後に、30分間室温で静置し反応を行った。反応後は、センサーチップ表面を蒸留水で洗浄した。使用する5 mM DTDP溶液はエタノールを溶媒として100 mMのストック溶液を作製した後、ストック溶液を蒸留水で希釈することで5 mM DTDP溶液を用事調製して用いた。100 mg/ml NHS DW溶液(N-Hydroxysuccinimide (WAKO社製))、および100 mg/ml EDC DW溶液 (1-(3-Dimethylaminopropyl)-3ethylcarbodiimide, hydrochloride (Sigma社製))を調製し、各々の溶液を等量混合し得られたNHS/EDC混合溶液をセンサーチップ表面上に100 μl滴下後、30分間室温で静置し反応を行なった。反応後、センサーチップ表面を蒸留水により洗浄を行なった。
【0092】
10 μl/ ml のNeutravidin (PIERCE社製) 溶液を100 μl滴下し、2時間室温で静置して反応を行い、Neutravidinの固定化を行なった。Neutravidin固定化後蒸留水で洗浄した後、ブロッキング溶液(TBS buffer (20 mM Tris-HCl pH 7.5, 150 mM NaCl) 500 μl にBlock Ace原液 20 μlを添加した溶液)を100 μlセンサーチップ上にて滴下し、1時間静置することでセンサーチップのブロッキングを行なった。
【0093】
配列番号1で示される配列からなるオリゴヌクレオチドとその相補鎖とを、それぞれの5’末端にビオチンラベルを含むように合成した。この合成産物をヒートブロック中、95 ℃、5分で1本鎖とし、その後ヒートブロックの電源を切り、室温に戻るまで静置した。これにより当該1本鎖核酸を2本鎖にした。これにより標識検出用核酸をビオチンラベルプローブとして作製した。
【0094】
2本鎖化したビオチンラベルプローブのセンサーチップへの固定化は、QCMを用いて行なった。Affix-Q (株式会社イニシアム社製)の反応槽に反応溶液(TBS buffer)1.6 mlを添加した後、Neutravidin固定化センサーチップを装置に挿入後、反応溶液にセンサーチップをセットした。振動が安定化するまで反応液に浸漬した状態で静置した(約15分程度)。振動の安定化が確認できた後、2本鎖化ビオチンラベルプローブ(10 μM)を8 μl添加したのち、振動が安定化するまで測定を行なった。1 Hzを30 pgのDNAが固定化したとみなし、安定化後の振動数の変動値から核酸の固定化量を算出した。
【0095】
(2)AhRおよびARNTの調製
T7プロモーターをもつプラスミドDNA pcDNA4にAhR遺伝子、およびARNT遺伝子を導入したpcDNA4-AhR (図3)、およびpcDNA4-ARNT (図4)を作製した。鋳型プラスミドDNAをもとにTNT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)を利用してインビトロ トランスクリプション−トランスレーション法にてAhRおよび ARNTを作製した。
【0096】
(3)AhRとARNTとTCDDとを含む複合体の形成
インビトロトランスレーション産物であるAhRおよびARNTをそれぞれ5 μl混合した溶液に1 μMの2,3,7,8-tetrachlorobenzo-p-dioxin (TCDD) (関東化学社)を0.1 μl加え、30℃、90分間反応させ、AhR、ARNT、TCDDの複合体形成を行った。AhR、およびARNTをそれぞれ5 μl混合した溶液に、DMSOを0.1 μl加え、30 ℃、90分間反応させたものを対照実験とした。
【0097】
(4)QCMによるAhR-ARNT-TCDD複合体の検出
ビオチン化および2本鎖化した配列番号1で示される核酸とその相補鎖からなるビオチンラベルプローブを固定化したセンサーチップをQCM装置にセットし、AhRおよびARNTとDMSOを加えた混合溶液と、AhR-ARNTとTCDDとを加え複合体を形成させた溶液を各々同量QCM反応槽に滴下した際のセンサーチップへの結合性をセンサーチップの振動数の減少の変化を対照実験と比較することで、AhR-ARNT-TCDD複合体の有無を検出した。
【0098】
(5)デバイス
上述したビオチンラベルプローブを固定化したセンサーチップを図7に示す。当該センサーチップ71は、担体としての基板72の固定化領域73にビオチンラベルプローブ74が固定化されている。
【0099】
本発明に従うデバイスは、ビオチンラベルプローブの代わりに、AhRまたはARNTをプローブとして固定化領域73に固定化されたデバイスであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】細胞内でのAhRリガンドによる転写活性化メカニズムを示す模式図
【図2】本発明の一態様の概念を示す図。
【図3】本発明の一態様に係るベクターpcDNA4-AhRを示す模式図。
【図4】本発明の一態様に係るベクターpcDNA4-ARNTを示す模式図。
【図5】AhR、ARNT、およびTCDDとの複合体と配列番号1に記載の核酸配列を持つFluor(登録商標) 532ラベルプローブとの結合を確認したゲルシフトアッセイの結果を示す電気泳動図。
【図6】AhR、ARNT、およびTCDDとの複合体と配列番号2に記載の核酸配列を持つFluor(登録商標) 532ラベルプローブとの結合を確認したゲルシフトアッセイの結果を示す電気泳動図。
【図7】本発明の一態様の概念を示す図。
【符号の説明】
【0101】
1.AhRリガンド様物質 2.AhR 3.AhR核内移行因子 4.鋳物応答配列 5.細胞 6.核 11.反応系 12.被検物質 13.AhR 14.ARNT 15.検出用核酸 71.センサーチップ 72.基板 73.固定化領域 74.ビオチンラベルプローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出する方法であって、
(1)被検物質と、AhRと、ARNTと、少なくとも配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む連続した25〜100塩基からなる検出用核酸とを溶液中で接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとARNTと検出用核酸との結合を検出することと、
を具備する方法。
【請求項2】
前記(2)における結合の検出が、当該被検物質とAhRとARNTと検出用核酸との接触により得られた結果と、当該被検物質の非存在下における当該検出用核酸とAhRとARNTとの接触により得られた結果とを比較することにより行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記検出用核酸が配列番号1で示される配列からなる1本鎖核酸とその相補鎖からなる2本鎖核酸であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記検出用核酸が配列番号2で示される配列からなる1本鎖核酸とその相補鎖からなる2本鎖核酸であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記検出用核酸が配列番号1で示される配列からなる1本鎖核酸と、当該1本鎖核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸からなる2本鎖核酸であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記検出用核酸が配列番号2で示される配列からなる1本鎖核酸と、当該1本鎖核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸からなる2本鎖核酸であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の方法であって、当該被検物質と当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合を検出する工程が電気泳動的測定法によることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、当該電気泳動的測定法がEMSA法であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から6の何れか1項に記載の検出方法であって、当該被検物質と当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合を検出する工程が質量センサ素子を利用した質量変化測定法により行われることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の検出方法であって、前記質量変化検出法が水晶振動子マイクロバランス法であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の検出方法であって、前記質量変化検出法が表面プラズモン共鳴(SPR)法であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1から6の何れか1項に記載の方法であって、当該被検物質と当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合を検出する工程が電気化学的測定法により行われることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、当該検出用核酸とAhRとARNTと当該被検物質との接触が、導電体からなる担体または導電体を具備する担体によって担持された当該検出用核酸と、電気化学的に活性な化合物または電気化学的に活性な化合物を生ずる化学反応を触媒する酵素タンパク質で標識されたAhRまたはARNTと、非標識のARNTまたはAhRと、当該被検物質とを接触させることにより行われることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法であって、当該検出用核酸とAhRとARNTと当該被検物質との接触が、導電体からなる担体または導電体を具備する担体によって担持されたAhRまたはARNTと、電気化学的に活性な化合物あるいは電気化学的に活性な化合物を生ずる化学反応を触媒する酵素タンパク質で標識された当該検出用核酸と、遊離したARNTまたはAhRと、当該被検物質とを接触させることにより行われることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1から6の何れか1項に記載の方法であって、当該被検物質と当該検出用核酸とAhRとARNTとの結合を検出する工程が、蛍光測定法により行われることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、当該検出用核酸とAhRとARNTと当該被検物質との接触が、担体によって担持された当該検出用核酸と、蛍光物質で標識されたAhRまたはARNTと、非標識のARNTまたはAhRとを接触させることにより行われることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15に記載の検出方法であって、当該検出用核酸とAhRとARNTと当該被検物質との接触が、担体によって担持されたAhRまたはARNTと、非担持のARNTまたはAhRと、蛍光物質で標識された当該検出用核酸と、当該被検物質とを接触させることにより行われることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1から6の何れか1項に記載の方法であって、当該検出用核酸とAhRとARNTと当該被検物質との結合を検出する工程が、放射線測定法により行われることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、当該検出用核酸とAhRとARNTと当該被検物質との接触が、担体によって担持された当該検出用核酸と、放射線同位体で標識されたAhRまたはARNTと、非標識のARNTまたはAhRと、当該被検物質とを接触させることにより行われることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18に記載の検出方法であって、当該検出用核酸とAhRとARNTと当該被検物質との接触が、担体によって担持されたAhRまたはARNTと、非担持のARNTまたはAhRと、放射線同位体で標識された当該検出用核酸と、当該被検物質とを接触させることにより行われることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1から20の何れか1項に記載の方法であって、前記検出用核酸がDNAまたはオリゴヌクレオチドである方法。
【請求項22】
試料に含まれる被検知物質を検出する方法であって、
(1)当該試料と、AhRと、ARNTと、少なくとも配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む、連続した25〜100塩基からなる検出用核酸とを接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検知物質とAhRとARNTと当該検出用核酸との結合を検出することと、
(3)(2)の検出結果から、当該被検化合物が当該試料に含まれるか否かを判定することと、
を具備する方法。
【請求項23】
被検物質が、AhRとARNTとの結合を導く化合物であるか否かを判定する方法であって、
(1)当該被検物質と、AhRと、ARNTと、配列番号1で示される配列の部分を2本鎖で含む、連続した25〜100塩基からなる検出用核酸と、を接触させることと、
(2)前記接触により得られた当該被検物質とAhRとARNTと当該検出用核酸との結合を検出することと、
(3)(2)の検出結果から、当該被検物質がAhRとARNTとの結合を導く化合物である否かを判定することと、
を具備する方法。
【請求項24】
前記被検知物質または前記被検物質が、AhRリガンド様物質であることを特徴とする請求項22または23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記被検知物質または前記被検物質が、内分泌攪乱物質であることを特徴とする請求項22または23の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項7から20の何れか1項に記載の方法に使用するための多検体検出用デバイスであって、担体と、前記担体に対してアレイ状に固定化された検出用核酸、AhRまたはARNTを具備するデバイス。
【請求項27】
請求項7から20の何れか1項に記載の方法に使用するための検出用キットであって、前記検出用核酸と、AhRと、ARNTと、を具備し、前記検出用核酸、AhRまたはARNTの何れか1が担体に固定化されたことを特徴とする検出用キット。
【請求項28】
AhRとARNTとの結合を導く化合物を検出するために使用される配列番号1で示される配列からなる1本鎖核酸とその相補鎖からなる2本鎖核酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−75064(P2010−75064A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244391(P2008−244391)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】