微量溶媒抽出法及び溶媒抽出装置
【課題】溶媒抽出法において、追加濃縮操作や追加装置を要することなく、使用する有機溶媒量を低減し、また、前処理時間を削減する。また、この溶媒抽出を簡便かつ安価に行う。
【解決手段】微量溶媒抽出法は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出法において、試料水に塩類を添加して溶解させる工程と、前記塩類を溶解させた試料水に微量有機溶媒を添加する工程と含むことによって、試料水からの有機溶媒易溶成分の高濃縮倍率での抽出を、追加濃縮を要することなく行い、また、使用する有機溶媒量、前処理時間を減らす。試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置において、テーパー付きバイアルビンで前処理した試料を、バイアルビンのままオートインジェクタから採取してクロマトグラフ分析を行うことで、試料の別のバイアルビンへの移し替えを不要とする。
【解決手段】微量溶媒抽出法は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出法において、試料水に塩類を添加して溶解させる工程と、前記塩類を溶解させた試料水に微量有機溶媒を添加する工程と含むことによって、試料水からの有機溶媒易溶成分の高濃縮倍率での抽出を、追加濃縮を要することなく行い、また、使用する有機溶媒量、前処理時間を減らす。試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置において、テーパー付きバイアルビンで前処理した試料を、バイアルビンのままオートインジェクタから採取してクロマトグラフ分析を行うことで、試料の別のバイアルビンへの移し替えを不要とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒によって抽出する溶媒抽出法、及び溶媒抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスや土壌や水に含まれる有害物質や環境ホルモン等の微量物質を測定するには、これらの物質を含む水溶液やこれらの物質を溶解させた水溶液から有機溶媒を用いて目的の物質を抽出し、この抽出液を濃縮し、濃縮サンプルをGC−MS分析器等により分析している。
【0003】
この種の分析では、上記したように、分析の前処理として試料水から溶媒抽出を行っている。この溶媒抽出では、環境水や排水試料から農薬などの有機溶媒易溶成分を有機溶媒によって液−液抽出する場合には、試料水の1/5〜1/10容の抽出溶媒を用いて振とう抽出し、その後、抽出溶媒をさらにロータリーエバポレータやN2パージ等で100〜1000倍の濃縮倍率に濃縮している。この液−液抽出では、試料水1Lに対して、溶媒は100〜300mL以上必要であり、また前処理時間は1時間程度必要である。
【0004】
この液−液抽出は一般的に知られた抽出法であり、例えば、特許文献1の従来技術の項にも示されている。
【0005】
また、上記の液−液抽出法の他に固相抽出法が知られている。この固相抽出法では、数百mLの試料水を固相抽出用ミニカラムに通液し、抽出成分を少量の有機溶媒で脱離し、脱離容媒をさらにロータリーエバポレータやN2パージ等で100〜1000倍の濃縮倍率に濃縮している。この固相抽出法では、使用する溶媒量は試料水1Lに対して20mL以下に減らせることができるが、比較的高価な固相抽出カートリッジを用いる必要があり、また、煩雑な操作が必要であると共に、前処理時間も1時間程度必要である。
【特許文献1】特開2001−159591号公報(段落0002〜0006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した液−液抽出では、多量の有機溶媒が必要であり、また、この多量の有機溶媒を濃縮するため、濃縮操作が必要であると共に濃縮に長時間を要する。そのため、例えば、前記した特許文献に示される溶媒抽出では、抽出後に高速回転させる円筒状の抽出槽を用いることで溶媒の濃縮を減らす構成が提案されている。
【0007】
上記のように、従来の溶媒抽出法では、有機溶媒を多量に要するという問題があり、また、試料水からの有機溶媒易溶成分を高濃縮倍率で抽出するために、ロータリーエバポレータやN2パージ等を用いた追加濃縮の操作が必要であるという問題がある。また、上記した特許文献の場合には、抽出後の濃縮を軽減するものの、そのために高速回転させる円筒状の抽出槽といった追加装置が必要となるという問題がある。
【0008】
また、上述した従来の溶媒抽出では多量の有機溶媒が必要であるため、濃縮操作を行った後であっても、抽出される溶媒の容量は例えば数百mL程度となる。これに対して、一般に、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ等のクロマトグラフ分析装置では、例えば1μL程度の微量容量の分析対象試料を吸引して分析を行っている。そのため、溶媒抽出で抽出した多量の有機溶媒を、クロマトグラフ分析装置による分析に適用した微量をバイアルビンに採取し、このバイアルビンからクロマトグラフ分析装置に取り込むことによって分析を行う必要がある。
【0009】
そのため、抽出作業の他に、抽出した溶媒をバイアルビンに移す作業が必要であり、分析に要する時間を長時間化する要因となり、また、手間を要するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決して、溶媒抽出法において、追加濃縮操作や追加装置を要することなく、使用する有機溶媒量を低減し、また、前処理時間を削減することを目的とする。また、この溶媒抽出を簡便かつ安価に行うことを目的とする。
【0011】
また、抽出した溶媒を別のバイアルビンに移す操作を不要とし、抽出操作から分析までの工程を簡便化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の微量溶媒抽出法は、試料水に塩類を溶解させることによって、試料水の有機溶媒の溶解度を低下させ、これによって少量の抽出溶媒量であっても有機溶媒の回収を可能とする。
【0013】
試料水に塩類を溶解させた状態において、試料水に有機溶媒を添加させると、試料水中に含まれる有機溶媒易溶成分は有機溶媒に溶け込む。このとき、この試料水への有機溶媒の溶解度は低くなっているので、有機溶媒易溶成分が溶け込んだ有機溶媒は試料水に溶けない状態となっている。これにより、試料水中の有機溶媒は濃縮を要することなく、試料水から容易に分離することができる。
【0014】
そこで、本発明の微量溶媒抽出法は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出法において、試料水に塩類を添加して溶解させる工程と、前記塩類を溶解させた試料水に微量有機溶媒を添加する工程とを含むことによって、試料水からの有機溶媒易溶成分の高濃縮倍率での抽出を、追加濃縮を要することなく行い、また、使用する有機溶媒量、前処理時間を減らす。
【0015】
ここで、添加する塩類として、例えば、Na2SO4、NaCl、MgSO4とを用いるこができ、また、有機溶媒として、例えば、ジクロロメタンあるいはクロロホルムを用いることができる。
【0016】
微量有機溶媒の有機溶媒量は試料水の1/40〜1/100溶とすることができ、従来要した試料水の1/5〜1/10容の容量の約1/10に低減することができる。
【0017】
試料水に塩類を溶解させ、有機溶媒を添加した試料水は、振とう抽出した後、遠心分離する。これによって試料水の上層又は下層に分離した有機溶媒層を採取する。採取した有機溶媒はGC等で分析し、目的とする有機溶媒易溶成分を検出する。
【0018】
また、本発明の溶媒抽出装置は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置であり、内底部にテーパーを有するテーパー付きバイアルビンを設置可能とするオートインジェクタと、オートインジェクタによりテーパー付きバイアルビンから採取した微量有機溶媒を分析するクロマトグラフ分析装置とを備え、テーパー付きバイアルビンは、バイアルビンの容器内において、試料水に塩類を添加して溶解させた後に微量有機溶媒を添加する前処理を行う。
【0019】
本発明の溶媒抽出装置によれば、試料水に塩類を添加して溶解させた後に微量有機溶媒を添加する前処理、この前処理の後に得られる有機溶媒のオートインジェクタによる採取を、同一のテーパー付きバイアルビン内で行うことができるため、抽出した溶媒を別のバイアルビンに移す操作を不要とし、抽出操作から分析までの工程を簡便化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶媒抽出法において、追加濃縮操作や追加装置を要することなく、使用する有機溶媒量を低減することができる。
【0021】
また、前処理時間を削減することができ、溶媒抽出を簡便かつ安価に行うことができる。
【0022】
また、本発明によれば、溶媒抽出のための前処理と分析装置への採取とを、同一のテーパー付きバイアルビンを用いて行うことができるため、抽出した溶媒を分析機器に移す操作を不要とし、抽出操作から分析までの工程を簡便化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の微量溶媒抽出法の工程を説明するためのフローチャートである。図1のフローチャートにおいて、試料水に塩類を添加して溶解させた後(S1)、この試料水に試料水の1/40〜1/100溶の容量の有機溶媒を添加し(S2)、振とうする(S3)。
【0025】
上記した従来の液−液抽出法では、試料水1Lに対して有機溶媒を1/5〜1/10溶の抽出溶媒を要するのに対して、本発明の微量溶媒抽出法では、塩類を溶解させることで、有機溶媒の水溶解度が低くなっているため、1/40〜1/100溶と従来と比較して1/10の微量で抽出することができる。
【0026】
有機溶媒を試料水から分離するには、濃縮の工程を要することなく、遠心分離で行うことができる(S4)。これによって、有機溶媒層は試料水の上層あるいは下層に分離する。この分離した有機溶媒層を採取し、ガスクロマトグラフ等で定量する(S5)。
【0027】
添加する塩類としては、例えば、Na2SO4、NaCl、MgSO4から選択することができる。また、有機溶媒は、ジクロロメタンあるいはクロロホルムを用いることができる。
【0028】
なお、上記した文献の従来の溶媒抽出法の説明には、試料水の有機溶媒を加えた後、その混合液を振とうさせて液−液振とう抽出し、その後、静止して溶媒層の抽出液と水層とに分離させ、抽出液に硫酸ナトリウム等の脱水剤を加えて水分を除去し、ロータリーエバポレータ等で数時間から1日かけて加熱濃縮し、この濃縮した抽出液を分取して分析するとあり、硫酸ナトリウムを用いることが記載されているが、この硫酸ナトリウムは、ここでは、試料水に有機溶媒を加えて取り出した溶媒層の抽出液から水分を除去する脱水剤として加えるものであり、本発明のように試料水に有機溶媒を加える前の段階で添加し、有機溶媒の水溶解度を低下させるものではない。
【0029】
本発明は、有機溶媒に塩類を添加することによって有機溶媒の水溶解度を低下させた状態で有機溶媒を加えることで、格別な装置を用いた前処理を行うことなく、短時間で試料水の水層と有機溶媒層とを分離させることができる。また、添加する有機溶媒の容量も従来の溶媒抽出法と比較した1/10の微量とすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の微量溶媒抽出法の一実施例について説明する。
【0031】
図2は本発明の微量溶媒抽出法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0032】
はじめに、試料水を採取しておく(S11)。この試料水にNa2SO4、NaCl、MgSO4などの塩を溶解させる。水にNa2SO4、NaCl、MgSO4などの塩を溶解させると、有機溶媒の水溶解度を低下させることができる。
【0033】
ここで、有機溶媒の水溶解度が低下する例を示す。以下に示す表1は、NaCl、Na2SO4を添加した場合のジクロロメタン、クロロホルムの水溶解度の変化(実測)を示している。
【0034】
【表1】
【0035】
上記の表1に示すように、例えば、試料水10mLに対してNa2SO4を3〜4g添加した場合には、ジクロロメタンの溶解濃度は0.2%以下に低下し、クロロホルムの溶解濃度は0.04%以下に低下した(S12)。
【0036】
塩類を添加した試料水を試験管ミキサーで振とうして溶解し(S13)、試料水の1/40〜1/100溶のジクロロメタン200μLあるいはクロロホルム100μLの有機溶媒を添加し(S14)、有機溶媒を添加した試料水を試験管ミキサーで1分振とうする(S15)。有機溶媒を添加した試料水を遠心分離する。この遠心分離では、遠心分離器を例えば2500rpmまで加速し、約30秒回転させた後停止する(S16)。
【0037】
遠心分離によって分離した有機溶媒層は、水溶液の上層あるいは下層に分離する。なお、通常、塩素性有機溶媒は水よりも比重が大きいため、有機溶媒は水に対して下層となるが、水よりも比重が小さい有機溶媒の場合には、分離した有機溶媒は水に対して上層となる。
【0038】
この下層あるいは上層の有機溶媒を採取して回収し(S17)、GC(ガスクロマトグラフ)で定量する(S18)。
【0039】
なお、上記S13,14において、添加回収実験の場合には、塩類を溶解する前に標準品を添加する。
【0040】
次に、添加回収試験の例について示す。以下では、Blank水の場合と河川水を用いた場合について示す。
【0041】
はじめに、Blank水の添加回収実験の例について示す。
【0042】
図3は、振とう抽出時間と面積値の関係を示している。ここでは、Blank水10mLに1ppmの混合標準液10μLを添加し、Na2SO4を3g添加し、さらに、クロロホルム100μLを添加してボルテックスミキサーで一定時間振とうした後、GC−FPD(flame photometric detector)で測定した場合を示している。なお、数値はn=2の平均値である。図3によれば、振とう時間が約1分以上で面積値はほぼ平衡に達する。
【0043】
このBlank水による添加回収試験の結果を以下の表2に示す。(n=5の試行結果)
【0044】
【表2】
【0045】
上記表2に示す添加回収試験の結果によれば、Blank水10mLに対し、ジクロロメタン200μL添加(50倍濃縮)の場合の回収率は78%〜151%であり、また、クロロホルム100μL添加(100倍濃縮)の場合の回収率92%〜123%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0046】
次に、河川水の添加回収試験の例について示す。
【0047】
表3は、上記したBlank水の1添加回収試験と同様の条件による、河川水の添加回収試験の結果を示している。(n=5の試行結果)
【0048】
【表3】
【0049】
上記表3に示す河川水の添加回収試験の結果によれば、河川水10mLに対し、ジクロロメタン200μL添加(50倍濃縮)の場合の回収率は105%〜152%であり、また、クロロホルム100μL添加(100倍濃縮)の場合の回収率75%〜113%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0050】
図4は、河川水に標準溶液を添加した混合溶液に対して、本発明による微量溶媒抽出法を適用して回収した有機溶媒をGCで分析して得たクロマトグラムを示し、図5は、0.1ppmの標準溶液(アセトン溶液)のクロマトグラムを示している。
【0051】
なお、図4のクロマトグラムにおいて、添加した標準品添加量は、河川水1Lに対して1μg(1ppb)に相当する量である。
【0052】
なお、GCの分析条件を以下の表4に示す。
【表4】
【0053】
この構成によれば、ロータリーエバポレータなどの追加濃縮操作なしに、50〜100倍の試料濃縮が簡便、安価に達成できる。また、前処理に使用する試薬は、試料水10mLに対し、Na2SO4などの塩類を3〜4g、有機溶媒量は200μL以下と極めて少量で、処理時間も15分程度と短時間とすることができる。
【0054】
次に、本発明の溶媒抽出装置について説明する。図6は、本発明の溶媒抽出装置の一構成例を説明するための概略図であり、図7はテーパー付きバイアルビンを説明するための図である。
【0055】
図6において、溶媒抽出装置1は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置であり、バイアルビンから試料を採取するオートインジェクタ3と、オートインジェクタ3に設置可能であって内底部にテーパーを有するテーパー付きバイアルビン2と、オートインジェクタ3によりテーパー付きバイアルビン2から採取した微量有機溶媒を分析するガスクロマトグラフ分析装置5とを備える。
【0056】
テーパー付きバイアルビン2は、例えば、1.5mL容積のターゲット微量インサートバイアルビンとすることができ、その内底部はテーパーを有している。図7は、このテーパー付きバイアルビンの一構成例を示している。図7において、テーパー付きバイアルビン2は、容器2aの底部2bは、内底部2cに例えば側壁面から底部中央に向かって傾斜するテーパー面2dを有する。また、容器2aの上端の開口部は、キャップ2eによって閉鎖される。オートインジェクタ3のニードル3aは、このキャップ2eを通して容器2a内の内底部2cに挿入され、容器2a内に収納する試料を吸引によって採取する。
【0057】
このオートインジェクタ3のニードル3aによる採取において、内底部2cが備えるテーパー面2dによって、容器2a内の微量試料を採取することができる。内底部2cが平面である場合には、微量試料の液面の底部からの高さは低くなるため、ニードル3aによる採取は困難となり、採取されずに試料が残ることになる。容器2aの許容容量が少ない場合には、試料の採取を良好に行うことが困難となる。
【0058】
本発明は、同一のテーパー付きバイアルビン2を用いて、前処理とオートインジェクタによる採取の2つの操作を行うため、バイアルビンの容量は少量となる。このように、収納し得る容量が少ないバイアルビンにおいて、オートインジェクタによる試料の採取が良好に行われることが望まれる。
【0059】
本発明の溶媒抽出装置が備えるテーパー付きバイアルビン2は、その内底部2cがテーパー面を有する構成であるため、微量試料の液面の底部からの高さは、その傾斜によって高くなり、ニードル3aによる採取が容易となる。
【0060】
オートインジェクタ3はターレット4を備え、このターレットには複数のテーパー付きバイアルビン2が載置される。オートインジェクタ3は、このターレット4あるいはニードル3aを移動自在とすることによって、ターレット4上に載置した複数のテーパー付きバイアルビン2から選択し、ニードル3aを選択したテーパー付きバイアルビン2に穿孔して、内部に収納する溶媒試料を採取する。このとき、上述したように、テーパー付きバイアルビン2が備える傾斜面によって、少ない溶媒試料であってもオートインジェクタによる採取を良好に行うことができる。
【0061】
オートインジェクタ3で採取された溶媒試料は、ガスクロマトグラフ分析装置5によって分析される。
【0062】
なお、ここでは、分析装置としてガスクロマトグラフ分析装置の例を示しているが、ガスクロマトグラフ分析装置と質量分析計とを組み合わせた分析装置、液体クロマトグラフ分析装置、あるいは、液体クロマトグラフ分析装置と質量分析計とを組み合わせた装置としてもよい。
【0063】
以下に、本発明の溶媒抽出装置による動作について、図8〜図11を用いて説明する。なお、この溶媒抽出装置による動作は、図2〜図5を用いて説明した動作とほぼ同様とすることができる。
【0064】
図8は本発明の溶媒抽出装置による動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0065】
はじめに、試料水を採取しておく(S21)。この試料水0.8mLを1.5mL容積のターゲット微量インサートバイアルビンに入れた。ターゲット微量インサートバイアルビンとして、上記したテーパー付きバイアルビンを用いる。次いで、試料水0.8mLに対してNa2SO4を0.24g〜0.32gの割合で添加し溶解させて、有機溶媒の水溶解度を低下させる。添加する塩類はNa2SO4の他、図2のフローチャートおよび表1で示したように、NaCl、MgSO4などを用いることができ、これらの塩類を溶解させることによって、有機溶媒の水溶解度を低下させる。(S22)。
【0066】
塩類を添加した試料水を試験管ミキサーで振とうして溶解し(S23)、試料水の1/40〜1/100溶のジクロロメタンやクロロホルム等の有機溶媒を例えば20μLを添加し(S24)、有機溶媒を添加した試料水を試験管ミキサーで1分振とうする(S25)。なお、上記S24において、添加する20μLの有機溶媒量は一例であり、例えば試料水0.8mLに対して40倍濃縮の場合には20μLとなり、100倍濃縮の場合には8μLとなる。以下の説明では、有機溶媒の添加量が20μLの場合を例として説明する。有機溶媒を添加した試料水を遠心分離する。この遠心分離では、遠心分離器を例えば2500rpmまで加速し、約30秒回転させた後停止する(S26)。
【0067】
遠心分離によって分離した有機溶媒層は、水溶液の上層あるいは下層に分離する。なお、通常、塩素性有機溶媒は水よりも比重が大きいため、有機溶媒は水に対して下層となるが、水よりも比重が小さい有機溶媒の場合には、分離した有機溶媒は水に対して上層となる。
【0068】
テーパー付きバイアルビンをオートインジェクタに設置し、テーパー付きバイアルビンの傾斜した底部にまとまった有機溶媒をオートインジェクタで採取して回収し(S27)、GC(ガスクロマトグラフ)で定量する(S28)。
【0069】
なお、上記S23,S24において、添加回収実験の場合には、塩類を溶解する前に標準品を添加する。
【0070】
次に、添加回収試験の例について示す。以下では、Blank水の場合と河川水を用いた場合について示す。
【0071】
はじめに、Blank水の添加回収実験の例について示す。
【0072】
図9は、振とう抽出時間と面積値の関係を示している。ここでは、テーパー付きバイアルビンにBlank水0.8mLを入れ、一定濃度の標準品を添加し、Na2SO4を0.24g(試料1mLに対して0.3gの割合)添加溶解する。図9に示す例では、一定濃度の標準品として、1ppm有機リン系農薬10成分混合溶液1μLを用いている。さらに、クロロホルム20μLを添加してボルテックスミキサーで一定時間振とうした後、GC−FPD(flame photometric detector)で測定した場合を示している。なお、数値はn=2の平均値である。
【0073】
図9によれば、振とう時間が約1分以上で面積値はほぼ平衡に達する。
【0074】
このBlank水による添加回収試験の結果を以下の表5,6に示す。(n=5の試行結果)
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
上記表5,6に示す添加回収試験の結果によれば、Blank水0.8mLに対し、ジクロロメタン20μL添加(40倍濃縮)の場合の回収率は68%〜130%、相対標準偏差(CV)2.3〜8.2%であり、また、クロロホルム20μL添加(40倍濃縮)の場合の回収率78%〜134%、相対標準偏差(CV)5.1〜9.1%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0078】
次に、河川水の添加回収試験の例について示す。
【0079】
表7,8は、上記したBlank水の1添加回収試験と同様の条件による、河川水の添加回収試験の結果を示している。(n=5の試行結果)
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
【0082】
上記表7、表8に示す河川水の添加回収試験の結果によれば、河川水0.8mLに対し、クロロホルム20μL添加(40倍濃縮)の場合、回収率94%〜129%、相対標準偏差(CV)3.2〜11.1%であり、また、ジクロロメタン20μL添加(40倍濃縮)の場合、回収率85%〜128%、相対標準偏差(CV)2.3〜6.5%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0083】
図10は、河川水に1ppmの標準溶液を添加した混合溶液に対して、本発明の微量溶媒装置を適用して回収した有機溶媒をGCで分析して得たクロマトグラムを示し、図11は、1.25ppb相当の標準溶液を添加し20μLのクロロホルムで抽出して分析したクロマトグラムを示している。
【0084】
なお、GCの分析条件は、表4で示したものと同様である。
【0085】
なお、前処理に使用する試薬は、試料水0.8mLに対し、Na2SO4等の塩類0.24g、有機溶媒量20μLと極めて少量であり、処理時間は1検体当たり約5分程度であり、短時間とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の微量溶媒抽出法の工程を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の微量溶媒抽出法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】振とう抽出時間と面積値の関係を示すグラフである。
【図4】河川水に標準溶液を添加した混合溶液に対して本発明法の微量溶媒抽出法を適用して得たクロマトグラムである。
【図5】0. 1ppmの標準溶液(アセトン溶液)のクロマトグラムである。
【図6】本発明の溶媒抽出装置の一構成例を説明するための概略図である。
【図7】本発明の溶媒抽出装置に用いるテーパー付きバイアルビンを説明するための図である
【図8】本発明の溶媒抽出装置による動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の溶媒抽出装置による振とう抽出時間と面積値の関係を示す図である。
【図10】本発明の溶媒抽出装置による河川水のクロマトグラムである。
【図11】本発明の溶媒抽出装置による標準溶液のクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0087】
1…溶媒抽出装置、2…テーパー付きバイアルビン、2a…容器、2b…底部、2c…内底部、2d…テーパー面、2e…キャップ、3…オートインジェクタ、3a…ニードル、4…ターレット、5…ガスクロマトグラフ分析装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒によって抽出する溶媒抽出法、及び溶媒抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスや土壌や水に含まれる有害物質や環境ホルモン等の微量物質を測定するには、これらの物質を含む水溶液やこれらの物質を溶解させた水溶液から有機溶媒を用いて目的の物質を抽出し、この抽出液を濃縮し、濃縮サンプルをGC−MS分析器等により分析している。
【0003】
この種の分析では、上記したように、分析の前処理として試料水から溶媒抽出を行っている。この溶媒抽出では、環境水や排水試料から農薬などの有機溶媒易溶成分を有機溶媒によって液−液抽出する場合には、試料水の1/5〜1/10容の抽出溶媒を用いて振とう抽出し、その後、抽出溶媒をさらにロータリーエバポレータやN2パージ等で100〜1000倍の濃縮倍率に濃縮している。この液−液抽出では、試料水1Lに対して、溶媒は100〜300mL以上必要であり、また前処理時間は1時間程度必要である。
【0004】
この液−液抽出は一般的に知られた抽出法であり、例えば、特許文献1の従来技術の項にも示されている。
【0005】
また、上記の液−液抽出法の他に固相抽出法が知られている。この固相抽出法では、数百mLの試料水を固相抽出用ミニカラムに通液し、抽出成分を少量の有機溶媒で脱離し、脱離容媒をさらにロータリーエバポレータやN2パージ等で100〜1000倍の濃縮倍率に濃縮している。この固相抽出法では、使用する溶媒量は試料水1Lに対して20mL以下に減らせることができるが、比較的高価な固相抽出カートリッジを用いる必要があり、また、煩雑な操作が必要であると共に、前処理時間も1時間程度必要である。
【特許文献1】特開2001−159591号公報(段落0002〜0006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した液−液抽出では、多量の有機溶媒が必要であり、また、この多量の有機溶媒を濃縮するため、濃縮操作が必要であると共に濃縮に長時間を要する。そのため、例えば、前記した特許文献に示される溶媒抽出では、抽出後に高速回転させる円筒状の抽出槽を用いることで溶媒の濃縮を減らす構成が提案されている。
【0007】
上記のように、従来の溶媒抽出法では、有機溶媒を多量に要するという問題があり、また、試料水からの有機溶媒易溶成分を高濃縮倍率で抽出するために、ロータリーエバポレータやN2パージ等を用いた追加濃縮の操作が必要であるという問題がある。また、上記した特許文献の場合には、抽出後の濃縮を軽減するものの、そのために高速回転させる円筒状の抽出槽といった追加装置が必要となるという問題がある。
【0008】
また、上述した従来の溶媒抽出では多量の有機溶媒が必要であるため、濃縮操作を行った後であっても、抽出される溶媒の容量は例えば数百mL程度となる。これに対して、一般に、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ等のクロマトグラフ分析装置では、例えば1μL程度の微量容量の分析対象試料を吸引して分析を行っている。そのため、溶媒抽出で抽出した多量の有機溶媒を、クロマトグラフ分析装置による分析に適用した微量をバイアルビンに採取し、このバイアルビンからクロマトグラフ分析装置に取り込むことによって分析を行う必要がある。
【0009】
そのため、抽出作業の他に、抽出した溶媒をバイアルビンに移す作業が必要であり、分析に要する時間を長時間化する要因となり、また、手間を要するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決して、溶媒抽出法において、追加濃縮操作や追加装置を要することなく、使用する有機溶媒量を低減し、また、前処理時間を削減することを目的とする。また、この溶媒抽出を簡便かつ安価に行うことを目的とする。
【0011】
また、抽出した溶媒を別のバイアルビンに移す操作を不要とし、抽出操作から分析までの工程を簡便化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の微量溶媒抽出法は、試料水に塩類を溶解させることによって、試料水の有機溶媒の溶解度を低下させ、これによって少量の抽出溶媒量であっても有機溶媒の回収を可能とする。
【0013】
試料水に塩類を溶解させた状態において、試料水に有機溶媒を添加させると、試料水中に含まれる有機溶媒易溶成分は有機溶媒に溶け込む。このとき、この試料水への有機溶媒の溶解度は低くなっているので、有機溶媒易溶成分が溶け込んだ有機溶媒は試料水に溶けない状態となっている。これにより、試料水中の有機溶媒は濃縮を要することなく、試料水から容易に分離することができる。
【0014】
そこで、本発明の微量溶媒抽出法は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出法において、試料水に塩類を添加して溶解させる工程と、前記塩類を溶解させた試料水に微量有機溶媒を添加する工程とを含むことによって、試料水からの有機溶媒易溶成分の高濃縮倍率での抽出を、追加濃縮を要することなく行い、また、使用する有機溶媒量、前処理時間を減らす。
【0015】
ここで、添加する塩類として、例えば、Na2SO4、NaCl、MgSO4とを用いるこができ、また、有機溶媒として、例えば、ジクロロメタンあるいはクロロホルムを用いることができる。
【0016】
微量有機溶媒の有機溶媒量は試料水の1/40〜1/100溶とすることができ、従来要した試料水の1/5〜1/10容の容量の約1/10に低減することができる。
【0017】
試料水に塩類を溶解させ、有機溶媒を添加した試料水は、振とう抽出した後、遠心分離する。これによって試料水の上層又は下層に分離した有機溶媒層を採取する。採取した有機溶媒はGC等で分析し、目的とする有機溶媒易溶成分を検出する。
【0018】
また、本発明の溶媒抽出装置は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置であり、内底部にテーパーを有するテーパー付きバイアルビンを設置可能とするオートインジェクタと、オートインジェクタによりテーパー付きバイアルビンから採取した微量有機溶媒を分析するクロマトグラフ分析装置とを備え、テーパー付きバイアルビンは、バイアルビンの容器内において、試料水に塩類を添加して溶解させた後に微量有機溶媒を添加する前処理を行う。
【0019】
本発明の溶媒抽出装置によれば、試料水に塩類を添加して溶解させた後に微量有機溶媒を添加する前処理、この前処理の後に得られる有機溶媒のオートインジェクタによる採取を、同一のテーパー付きバイアルビン内で行うことができるため、抽出した溶媒を別のバイアルビンに移す操作を不要とし、抽出操作から分析までの工程を簡便化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶媒抽出法において、追加濃縮操作や追加装置を要することなく、使用する有機溶媒量を低減することができる。
【0021】
また、前処理時間を削減することができ、溶媒抽出を簡便かつ安価に行うことができる。
【0022】
また、本発明によれば、溶媒抽出のための前処理と分析装置への採取とを、同一のテーパー付きバイアルビンを用いて行うことができるため、抽出した溶媒を分析機器に移す操作を不要とし、抽出操作から分析までの工程を簡便化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の微量溶媒抽出法の工程を説明するためのフローチャートである。図1のフローチャートにおいて、試料水に塩類を添加して溶解させた後(S1)、この試料水に試料水の1/40〜1/100溶の容量の有機溶媒を添加し(S2)、振とうする(S3)。
【0025】
上記した従来の液−液抽出法では、試料水1Lに対して有機溶媒を1/5〜1/10溶の抽出溶媒を要するのに対して、本発明の微量溶媒抽出法では、塩類を溶解させることで、有機溶媒の水溶解度が低くなっているため、1/40〜1/100溶と従来と比較して1/10の微量で抽出することができる。
【0026】
有機溶媒を試料水から分離するには、濃縮の工程を要することなく、遠心分離で行うことができる(S4)。これによって、有機溶媒層は試料水の上層あるいは下層に分離する。この分離した有機溶媒層を採取し、ガスクロマトグラフ等で定量する(S5)。
【0027】
添加する塩類としては、例えば、Na2SO4、NaCl、MgSO4から選択することができる。また、有機溶媒は、ジクロロメタンあるいはクロロホルムを用いることができる。
【0028】
なお、上記した文献の従来の溶媒抽出法の説明には、試料水の有機溶媒を加えた後、その混合液を振とうさせて液−液振とう抽出し、その後、静止して溶媒層の抽出液と水層とに分離させ、抽出液に硫酸ナトリウム等の脱水剤を加えて水分を除去し、ロータリーエバポレータ等で数時間から1日かけて加熱濃縮し、この濃縮した抽出液を分取して分析するとあり、硫酸ナトリウムを用いることが記載されているが、この硫酸ナトリウムは、ここでは、試料水に有機溶媒を加えて取り出した溶媒層の抽出液から水分を除去する脱水剤として加えるものであり、本発明のように試料水に有機溶媒を加える前の段階で添加し、有機溶媒の水溶解度を低下させるものではない。
【0029】
本発明は、有機溶媒に塩類を添加することによって有機溶媒の水溶解度を低下させた状態で有機溶媒を加えることで、格別な装置を用いた前処理を行うことなく、短時間で試料水の水層と有機溶媒層とを分離させることができる。また、添加する有機溶媒の容量も従来の溶媒抽出法と比較した1/10の微量とすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の微量溶媒抽出法の一実施例について説明する。
【0031】
図2は本発明の微量溶媒抽出法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0032】
はじめに、試料水を採取しておく(S11)。この試料水にNa2SO4、NaCl、MgSO4などの塩を溶解させる。水にNa2SO4、NaCl、MgSO4などの塩を溶解させると、有機溶媒の水溶解度を低下させることができる。
【0033】
ここで、有機溶媒の水溶解度が低下する例を示す。以下に示す表1は、NaCl、Na2SO4を添加した場合のジクロロメタン、クロロホルムの水溶解度の変化(実測)を示している。
【0034】
【表1】
【0035】
上記の表1に示すように、例えば、試料水10mLに対してNa2SO4を3〜4g添加した場合には、ジクロロメタンの溶解濃度は0.2%以下に低下し、クロロホルムの溶解濃度は0.04%以下に低下した(S12)。
【0036】
塩類を添加した試料水を試験管ミキサーで振とうして溶解し(S13)、試料水の1/40〜1/100溶のジクロロメタン200μLあるいはクロロホルム100μLの有機溶媒を添加し(S14)、有機溶媒を添加した試料水を試験管ミキサーで1分振とうする(S15)。有機溶媒を添加した試料水を遠心分離する。この遠心分離では、遠心分離器を例えば2500rpmまで加速し、約30秒回転させた後停止する(S16)。
【0037】
遠心分離によって分離した有機溶媒層は、水溶液の上層あるいは下層に分離する。なお、通常、塩素性有機溶媒は水よりも比重が大きいため、有機溶媒は水に対して下層となるが、水よりも比重が小さい有機溶媒の場合には、分離した有機溶媒は水に対して上層となる。
【0038】
この下層あるいは上層の有機溶媒を採取して回収し(S17)、GC(ガスクロマトグラフ)で定量する(S18)。
【0039】
なお、上記S13,14において、添加回収実験の場合には、塩類を溶解する前に標準品を添加する。
【0040】
次に、添加回収試験の例について示す。以下では、Blank水の場合と河川水を用いた場合について示す。
【0041】
はじめに、Blank水の添加回収実験の例について示す。
【0042】
図3は、振とう抽出時間と面積値の関係を示している。ここでは、Blank水10mLに1ppmの混合標準液10μLを添加し、Na2SO4を3g添加し、さらに、クロロホルム100μLを添加してボルテックスミキサーで一定時間振とうした後、GC−FPD(flame photometric detector)で測定した場合を示している。なお、数値はn=2の平均値である。図3によれば、振とう時間が約1分以上で面積値はほぼ平衡に達する。
【0043】
このBlank水による添加回収試験の結果を以下の表2に示す。(n=5の試行結果)
【0044】
【表2】
【0045】
上記表2に示す添加回収試験の結果によれば、Blank水10mLに対し、ジクロロメタン200μL添加(50倍濃縮)の場合の回収率は78%〜151%であり、また、クロロホルム100μL添加(100倍濃縮)の場合の回収率92%〜123%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0046】
次に、河川水の添加回収試験の例について示す。
【0047】
表3は、上記したBlank水の1添加回収試験と同様の条件による、河川水の添加回収試験の結果を示している。(n=5の試行結果)
【0048】
【表3】
【0049】
上記表3に示す河川水の添加回収試験の結果によれば、河川水10mLに対し、ジクロロメタン200μL添加(50倍濃縮)の場合の回収率は105%〜152%であり、また、クロロホルム100μL添加(100倍濃縮)の場合の回収率75%〜113%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0050】
図4は、河川水に標準溶液を添加した混合溶液に対して、本発明による微量溶媒抽出法を適用して回収した有機溶媒をGCで分析して得たクロマトグラムを示し、図5は、0.1ppmの標準溶液(アセトン溶液)のクロマトグラムを示している。
【0051】
なお、図4のクロマトグラムにおいて、添加した標準品添加量は、河川水1Lに対して1μg(1ppb)に相当する量である。
【0052】
なお、GCの分析条件を以下の表4に示す。
【表4】
【0053】
この構成によれば、ロータリーエバポレータなどの追加濃縮操作なしに、50〜100倍の試料濃縮が簡便、安価に達成できる。また、前処理に使用する試薬は、試料水10mLに対し、Na2SO4などの塩類を3〜4g、有機溶媒量は200μL以下と極めて少量で、処理時間も15分程度と短時間とすることができる。
【0054】
次に、本発明の溶媒抽出装置について説明する。図6は、本発明の溶媒抽出装置の一構成例を説明するための概略図であり、図7はテーパー付きバイアルビンを説明するための図である。
【0055】
図6において、溶媒抽出装置1は、試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置であり、バイアルビンから試料を採取するオートインジェクタ3と、オートインジェクタ3に設置可能であって内底部にテーパーを有するテーパー付きバイアルビン2と、オートインジェクタ3によりテーパー付きバイアルビン2から採取した微量有機溶媒を分析するガスクロマトグラフ分析装置5とを備える。
【0056】
テーパー付きバイアルビン2は、例えば、1.5mL容積のターゲット微量インサートバイアルビンとすることができ、その内底部はテーパーを有している。図7は、このテーパー付きバイアルビンの一構成例を示している。図7において、テーパー付きバイアルビン2は、容器2aの底部2bは、内底部2cに例えば側壁面から底部中央に向かって傾斜するテーパー面2dを有する。また、容器2aの上端の開口部は、キャップ2eによって閉鎖される。オートインジェクタ3のニードル3aは、このキャップ2eを通して容器2a内の内底部2cに挿入され、容器2a内に収納する試料を吸引によって採取する。
【0057】
このオートインジェクタ3のニードル3aによる採取において、内底部2cが備えるテーパー面2dによって、容器2a内の微量試料を採取することができる。内底部2cが平面である場合には、微量試料の液面の底部からの高さは低くなるため、ニードル3aによる採取は困難となり、採取されずに試料が残ることになる。容器2aの許容容量が少ない場合には、試料の採取を良好に行うことが困難となる。
【0058】
本発明は、同一のテーパー付きバイアルビン2を用いて、前処理とオートインジェクタによる採取の2つの操作を行うため、バイアルビンの容量は少量となる。このように、収納し得る容量が少ないバイアルビンにおいて、オートインジェクタによる試料の採取が良好に行われることが望まれる。
【0059】
本発明の溶媒抽出装置が備えるテーパー付きバイアルビン2は、その内底部2cがテーパー面を有する構成であるため、微量試料の液面の底部からの高さは、その傾斜によって高くなり、ニードル3aによる採取が容易となる。
【0060】
オートインジェクタ3はターレット4を備え、このターレットには複数のテーパー付きバイアルビン2が載置される。オートインジェクタ3は、このターレット4あるいはニードル3aを移動自在とすることによって、ターレット4上に載置した複数のテーパー付きバイアルビン2から選択し、ニードル3aを選択したテーパー付きバイアルビン2に穿孔して、内部に収納する溶媒試料を採取する。このとき、上述したように、テーパー付きバイアルビン2が備える傾斜面によって、少ない溶媒試料であってもオートインジェクタによる採取を良好に行うことができる。
【0061】
オートインジェクタ3で採取された溶媒試料は、ガスクロマトグラフ分析装置5によって分析される。
【0062】
なお、ここでは、分析装置としてガスクロマトグラフ分析装置の例を示しているが、ガスクロマトグラフ分析装置と質量分析計とを組み合わせた分析装置、液体クロマトグラフ分析装置、あるいは、液体クロマトグラフ分析装置と質量分析計とを組み合わせた装置としてもよい。
【0063】
以下に、本発明の溶媒抽出装置による動作について、図8〜図11を用いて説明する。なお、この溶媒抽出装置による動作は、図2〜図5を用いて説明した動作とほぼ同様とすることができる。
【0064】
図8は本発明の溶媒抽出装置による動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0065】
はじめに、試料水を採取しておく(S21)。この試料水0.8mLを1.5mL容積のターゲット微量インサートバイアルビンに入れた。ターゲット微量インサートバイアルビンとして、上記したテーパー付きバイアルビンを用いる。次いで、試料水0.8mLに対してNa2SO4を0.24g〜0.32gの割合で添加し溶解させて、有機溶媒の水溶解度を低下させる。添加する塩類はNa2SO4の他、図2のフローチャートおよび表1で示したように、NaCl、MgSO4などを用いることができ、これらの塩類を溶解させることによって、有機溶媒の水溶解度を低下させる。(S22)。
【0066】
塩類を添加した試料水を試験管ミキサーで振とうして溶解し(S23)、試料水の1/40〜1/100溶のジクロロメタンやクロロホルム等の有機溶媒を例えば20μLを添加し(S24)、有機溶媒を添加した試料水を試験管ミキサーで1分振とうする(S25)。なお、上記S24において、添加する20μLの有機溶媒量は一例であり、例えば試料水0.8mLに対して40倍濃縮の場合には20μLとなり、100倍濃縮の場合には8μLとなる。以下の説明では、有機溶媒の添加量が20μLの場合を例として説明する。有機溶媒を添加した試料水を遠心分離する。この遠心分離では、遠心分離器を例えば2500rpmまで加速し、約30秒回転させた後停止する(S26)。
【0067】
遠心分離によって分離した有機溶媒層は、水溶液の上層あるいは下層に分離する。なお、通常、塩素性有機溶媒は水よりも比重が大きいため、有機溶媒は水に対して下層となるが、水よりも比重が小さい有機溶媒の場合には、分離した有機溶媒は水に対して上層となる。
【0068】
テーパー付きバイアルビンをオートインジェクタに設置し、テーパー付きバイアルビンの傾斜した底部にまとまった有機溶媒をオートインジェクタで採取して回収し(S27)、GC(ガスクロマトグラフ)で定量する(S28)。
【0069】
なお、上記S23,S24において、添加回収実験の場合には、塩類を溶解する前に標準品を添加する。
【0070】
次に、添加回収試験の例について示す。以下では、Blank水の場合と河川水を用いた場合について示す。
【0071】
はじめに、Blank水の添加回収実験の例について示す。
【0072】
図9は、振とう抽出時間と面積値の関係を示している。ここでは、テーパー付きバイアルビンにBlank水0.8mLを入れ、一定濃度の標準品を添加し、Na2SO4を0.24g(試料1mLに対して0.3gの割合)添加溶解する。図9に示す例では、一定濃度の標準品として、1ppm有機リン系農薬10成分混合溶液1μLを用いている。さらに、クロロホルム20μLを添加してボルテックスミキサーで一定時間振とうした後、GC−FPD(flame photometric detector)で測定した場合を示している。なお、数値はn=2の平均値である。
【0073】
図9によれば、振とう時間が約1分以上で面積値はほぼ平衡に達する。
【0074】
このBlank水による添加回収試験の結果を以下の表5,6に示す。(n=5の試行結果)
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
上記表5,6に示す添加回収試験の結果によれば、Blank水0.8mLに対し、ジクロロメタン20μL添加(40倍濃縮)の場合の回収率は68%〜130%、相対標準偏差(CV)2.3〜8.2%であり、また、クロロホルム20μL添加(40倍濃縮)の場合の回収率78%〜134%、相対標準偏差(CV)5.1〜9.1%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0078】
次に、河川水の添加回収試験の例について示す。
【0079】
表7,8は、上記したBlank水の1添加回収試験と同様の条件による、河川水の添加回収試験の結果を示している。(n=5の試行結果)
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
【0082】
上記表7、表8に示す河川水の添加回収試験の結果によれば、河川水0.8mLに対し、クロロホルム20μL添加(40倍濃縮)の場合、回収率94%〜129%、相対標準偏差(CV)3.2〜11.1%であり、また、ジクロロメタン20μL添加(40倍濃縮)の場合、回収率85%〜128%、相対標準偏差(CV)2.3〜6.5%である。何れの有機溶媒の場合にも、良好な回収率が得られた。
【0083】
図10は、河川水に1ppmの標準溶液を添加した混合溶液に対して、本発明の微量溶媒装置を適用して回収した有機溶媒をGCで分析して得たクロマトグラムを示し、図11は、1.25ppb相当の標準溶液を添加し20μLのクロロホルムで抽出して分析したクロマトグラムを示している。
【0084】
なお、GCの分析条件は、表4で示したものと同様である。
【0085】
なお、前処理に使用する試薬は、試料水0.8mLに対し、Na2SO4等の塩類0.24g、有機溶媒量20μLと極めて少量であり、処理時間は1検体当たり約5分程度であり、短時間とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の微量溶媒抽出法の工程を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の微量溶媒抽出法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】振とう抽出時間と面積値の関係を示すグラフである。
【図4】河川水に標準溶液を添加した混合溶液に対して本発明法の微量溶媒抽出法を適用して得たクロマトグラムである。
【図5】0. 1ppmの標準溶液(アセトン溶液)のクロマトグラムである。
【図6】本発明の溶媒抽出装置の一構成例を説明するための概略図である。
【図7】本発明の溶媒抽出装置に用いるテーパー付きバイアルビンを説明するための図である
【図8】本発明の溶媒抽出装置による動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の溶媒抽出装置による振とう抽出時間と面積値の関係を示す図である。
【図10】本発明の溶媒抽出装置による河川水のクロマトグラムである。
【図11】本発明の溶媒抽出装置による標準溶液のクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0087】
1…溶媒抽出装置、2…テーパー付きバイアルビン、2a…容器、2b…底部、2c…内底部、2d…テーパー面、2e…キャップ、3…オートインジェクタ、3a…ニードル、4…ターレット、5…ガスクロマトグラフ分析装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出法において、
試料水に塩類を添加して溶解させる工程と、
前記塩類を溶解させた試料水に微量有機溶媒を添加する工程と、
を含むことを特徴とする微量溶媒抽出法。
【請求項2】
前記塩類はNa2SO4、NaCl、MgSO4の何れか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の微量溶媒抽出法。
【請求項3】
前記微量有機溶媒の有機溶媒量は試料水の1/40〜1/100溶であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の微量溶媒抽出法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、ジクロロメタン又はクロロホルムであることを特徴とする、請求項3に記載の微量溶媒抽出法。
【請求項5】
前記微量有機溶媒を添加した試料水を振とうする工程と、
前記振とうした試料水を遠心分離する工程と、
前記遠心分離した試料水の上層又は下層の有機溶媒層を採取する工程とを含むことを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一つに記載の微量溶媒抽出法。
【請求項6】
試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置において、
内底部にテーパーを有するテーパー付きバイアルビンを設置可能とするオートインジェクタと、
前記オートインジェクタにより前記テーパー付きバイアルビンから採取した微量有機溶媒を分析するクロマトグラフ分析装置とを備え、
前記テーパー付きバイアルビンは、バイアルビンの容器内において、試料水に塩類を添加して溶解させた後に微量有機溶媒を添加する前処理を行うことを特徴とする溶媒抽出装置。
【請求項1】
試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出法において、
試料水に塩類を添加して溶解させる工程と、
前記塩類を溶解させた試料水に微量有機溶媒を添加する工程と、
を含むことを特徴とする微量溶媒抽出法。
【請求項2】
前記塩類はNa2SO4、NaCl、MgSO4の何れか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の微量溶媒抽出法。
【請求項3】
前記微量有機溶媒の有機溶媒量は試料水の1/40〜1/100溶であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の微量溶媒抽出法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、ジクロロメタン又はクロロホルムであることを特徴とする、請求項3に記載の微量溶媒抽出法。
【請求項5】
前記微量有機溶媒を添加した試料水を振とうする工程と、
前記振とうした試料水を遠心分離する工程と、
前記遠心分離した試料水の上層又は下層の有機溶媒層を採取する工程とを含むことを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一つに記載の微量溶媒抽出法。
【請求項6】
試料水から有機溶媒易溶成分を有機溶媒で抽出する溶媒抽出装置において、
内底部にテーパーを有するテーパー付きバイアルビンを設置可能とするオートインジェクタと、
前記オートインジェクタにより前記テーパー付きバイアルビンから採取した微量有機溶媒を分析するクロマトグラフ分析装置とを備え、
前記テーパー付きバイアルビンは、バイアルビンの容器内において、試料水に塩類を添加して溶解させた後に微量有機溶媒を添加する前処理を行うことを特徴とする溶媒抽出装置。
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【公開番号】特開2007−248442(P2007−248442A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132644(P2006−132644)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年8月31日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会第54年会講演要旨集」に発表
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年8月31日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会第54年会講演要旨集」に発表
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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