説明

微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置およびこれを備える微量酸素濃度計ならびに微量酸素濃度計の排気ガスの除害方法

【課題】黄燐発光式の微量酸素濃度計の排気ガスに含まれる未反応の黄燐蒸気を高いレベルで除去し、その濃度をTLV−TWAの許容濃度(0.02ppm)以下まで低減することのできる微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置を提供する。
【解決手段】黄燐と化学反応する水酸化第二銅または酸化銅からなる平均直径1mm程度の粒子状の除害剤13を充填する除害容器11と、試料ガス中の酸素と黄燐蒸気との反応により発光した光の強度によって試料ガス中の酸素量を測定する微量酸素濃度計20から排出される排気ガスを前記除害容器11に導入する導入口14と、前記除害剤13と接触した排気ガスを排出する排出口17と、を備える微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄燐発光式の微量酸素濃度計から排出される排気ガスに含まれる微量の黄燐蒸気を除害する除害装置およびこれを備える微量酸素濃度計、ならびに上記排気ガスを除害する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素、アルゴン、ヘリウム、水素などの工業ガスに含まれる微量の酸素の濃度を測定する装置として、いわゆる黄燐発光式の微量酸素濃度計が知られている。黄燐発光式の微量酸素濃度計では、試料ガスに含まれる微量酸素と黄燐蒸気とを反応容器の内部で化学反応させ、その際に発光する光の強度を、光電子増倍管を利用した光検出器によって測定し、その測定結果から前記微量酸素の濃度を換算して求めている(例えば下記特許文献1および2参照)。
【0003】
かかる装置によれば、数ppm以下の酸素を含む試料ガスについて、数ppbオーダーの測定精度にて酸素濃度を測定することができる。
【0004】
黄燐(P4:なお本発明においては白燐と黄燐とを区別することなく、「黄燐」と表記する。)は+1価、+3価、+4価、+5価のいずれかの原子価をとり、酸素に対する当量は一通りではない。例えば、下記反応式(1),(2);
(化1)
4+3O2→2P23 (1)
(化2)
4+5O2→2P25 (2)
などが代表的である。すなわち上記反応式(1)の場合は黄燐1モルに対して酸素3モルが化学当量となり、上記反応式(2)の場合は黄燐1モルに対して酸素5モルが化学当量となる。また上記の酸化反応の際に黄燐は青白く発光する
【0005】
一方、固体の黄燐の20℃における飽和蒸気圧は3.33Pa(=0.025mmHg)程度であるため、大気圧雰囲気下で飽和黄燐蒸気を含む常温ガスの黄燐濃度は33ppm程度となる。
【0006】
したがって、濃度分析を行う試料ガスの酸素濃度が約100(=33*3)ppm乃至約165(=33*5)ppmであれば、上記反応式(1)や(2)に従って黄燐の飽和蒸気と酸素とは過不足なく反応するが、上述のように試料ガス中の微量酸素の濃度は数ppbから数ppm程度であることから、仮に大気圧雰囲気下における飽和黄燐蒸気を反応容器に供給して黄燐発光式の微量酸素濃度測定を行った場合、供給された黄燐蒸気の大部分は未反応のまま排出されることとなる。
【0007】
これに対し、下記特許文献1に記載の微量酸素測定方法および装置の発明においては、黄燐蒸気源の温度を常温以下に冷却し、黄燐の飽和蒸気圧を低下させている。これは、供給する黄燐蒸気の濃度が、試料ガス中の微量酸素に対する化学当量以上である限りにおいては、黄燐蒸気の濃度が低いほど光検出器からの光電流が強く測定されるという原理を実現することを目的としたものであるが、結果として反応容器に供給する黄燐蒸気の濃度が低下することから、装置外に排出される未反応の黄燐蒸気の量も低減されるという効果がある。
【0008】
また下記特許文献2に記載の微量酸素測定方法および装置の発明においては、微量酸素を含む試料ガスに既知の一定量の酸素を添加することで、試料ガス中の酸素量を増大させ、発光する光の強度を高くしている。かかる測定方法および装置の場合も、微量酸素濃度の検出精度を高めるとともに、発光反応によって消費される黄燐蒸気の量が増加することから、未反応のまま装置外に排出される黄燐蒸気の量が低減されるという効果がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−302348号公報
【特許文献2】特開平3−84440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、周知のように黄燐は人体にとって有害であり、これを含むガスの排出にあたっては黄燐蒸気を十分に低濃度化する必要がある。例えばTLV−TWA(Threshold Limit Value − Time Weighted Average:時間加重平均濃度)によれば、週40時間の労働時間内における時間加重平均暴露許容濃度の勧告値として、黄燐は0.02ppm以下というきわめて低濃度のレベルが設定されている。
【0011】
一方、従来の黄燐発光式の微量酸素濃度計では、上記特許文献1または2に記載のように未反応の黄燐蒸気の排出量を低減しているほか、光検出器の測定感度を高めることによって供給すべき黄燐蒸気の量を大幅に抑制する試みがなされている。しかし、試料ガス中の微量酸素濃度の高い検出精度を維持するためにはその化学当量以上の黄燐蒸気を供給することは避けられず、排気ガス中の黄燐蒸気の濃度を上記TLV−TWAの許容濃度以下とすることは困難であった。このため従来の微量酸素濃度計では、排気ガスを十分に希釈したうえ、さらに屋外排気をすることが必要であった。
【0012】
ところが、黄燐蒸気を含む排気ガスを屋外排気する場合、黄燐が空気中の水蒸気および酸素と下記反応式(3);
(化3)
4+6H2O+5O2→4H3PO4 (3)
に従って化学反応をして燐酸が生じ、排気口の周囲の壁面を変色させるという問題が発生する虞もあった。
【0013】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、黄燐発光式の微量酸素濃度計の排気ガスに含まれる未反応の黄燐蒸気を高いレベルで除去し、その濃度をTLV−TWAの許容濃度以下まで低減することのできる微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置およびこれを備える微量酸素濃度計、ならびにかかる高いレベルの除害を可能とする微量酸素濃度計の排気ガスの除害方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置は、
(1)黄燐と化学反応する粒子状の除害剤を充填する除害容器と、試料ガス中の酸素と黄燐蒸気との反応により発光した光の強度によって試料ガス中の酸素量を測定する微量酸素濃度計から排出される排気ガスを前記除害容器に導入する導入口と、前記除害剤と接触した排気ガスを排出する排出口と、を備える微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置;
(2)除害剤が水酸化第二銅または酸化銅である上記(1)に記載の微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置;
(3)粒子状の除害剤の平均直径が0.5乃至2mmであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置;
を要旨とする。
【0015】
また本発明にかかる微量酸素濃度計は、
(4)黄燐蒸気と試料ガス中の酸素とを反応させる反応室と、該反応により発光した光の強度を測定する光検出器と、前記反応室に試料ガスを供給する試料ガス供給管と、前記反応室に黄燐蒸気を供給する黄燐蒸気供給管とを備える微量酸素濃度測定装置において、
黄燐と化学反応する粒子状の除害剤を充填する除害容器と、前記反応室から排出される排気ガスを前記除害容器に導入する排気ガス導入管と、前記除害容器に設けられ前記除害剤と接触した排気ガスを排出する排出口とを備えることを特徴とする微量酸素濃度計;
を要旨とする。
【0016】
また本発明にかかる微量酸素濃度計の排気ガスの除害方法は、
(5)試料ガス中の酸素と黄燐蒸気との反応により発光した光の強度によって試料ガス中の酸素量を測定する微量酸素濃度計から排出される排気ガスを、粒子状の水酸化第二銅または酸化銅と接触させることにより、前記排気ガスに含まれる未反応の黄燐蒸気を該排気ガスから除去することを特徴とする微量酸素濃度計の排気ガスの除害方法;
を要旨とする。
【0017】
なお、
(6)黄燐蒸気と反応して変色した除害剤を観察するための検知窓を備える上記(2)に記載の微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置;
(7)除害容器に充填された除害剤の排出口側の端面が前記検知窓から視認可能であることを特徴とする上記(6)に記載の微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置;
(8)二式以上の除害容器と、排気ガス導入管を流通する排気ガスの流路を前記二式以上の除害容器のいずれかに切り換える切換弁とを備えることを特徴とする上記(4)に記載の微量酸素濃度計;
によっても本発明の目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、黄燐発光式の微量酸素濃度計の排気ガスに含まれる未反応の黄燐蒸気の濃度をTLV−TWAの許容濃度以下まで低減することができる。
これにより、試料ガスと黄燐蒸気とを反応させる反応室の設置された屋内にて排気可能となり、屋外まで排気ガスを導出する配管を不要とすることができるため、微量酸素濃度計の設置が容易となる。
また従来のように排気ガスを屋外に排気する場合も、除害された排気ガス(以下、「除害ガス」という。)に含まれる黄燐蒸気の濃度がきわめて低いレベルまで低減されていることから環境への負荷が軽減されるとともに、排出口の周囲の壁面が変色するという問題を解決することができる。
【0019】
また本発明においては、黄燐と化学反応する粒子状の除害剤と黄燐蒸気とを接触させることでこれを除去する方式を採っているため、例えば低温のオイルミストによって黄燐を包み込んで捕捉する方式と比した場合、黄燐蒸気の除去効率が高く、また装置を簡略化することができる。これは、オイルミストによって物理的に黄燐分子を捕捉する方式の場合、そもそもオイルミストと黄燐分子との接触効率が高くないうえ、一旦捕捉した黄燐分子が一定の確率でオイルミストから脱着し、そのまま排出されてしまうという問題があるためである。これに対し本発明のように黄燐分子を除害剤と接触させる方式の場合、黄燐は無害の酸化リン(五酸化リン)に不可逆的に化学変化するため、除害剤を通過する黄燐分子の数をきわめて少ないものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて具体的に説明する。ただし本発明にかかる微量酸素濃度計の除害装置およびこれを備える微量酸素濃度計は、とくに黄燐蒸気の具体的な供給方法や、その他の配管構成または弁の配置位置などにつき、以下の実施の形態に限られるものではない。
【0021】
図1は本実施の形態にかかる微量酸素濃度計20の系統図である。微量酸素濃度計20は、反応室21と、微量の酸素を含む試料ガスを反応室21に供給する試料ガス供給管41と、黄燐蒸気を反応室21に供給する黄燐蒸気供給管42とを備える。反応室21では、供給された試料ガス中の微量酸素と黄燐蒸気とを化学反応させ、この反応により発光した光の強度を光検出器22にて測定する。
また微量酸素濃度計20は、黄燐と化学反応する粒子状の除害剤を除害容器11に充填した除害装置10と、反応室から排出される排気ガスを除害容器11に導入する排気ガス導入管43と、除害剤と接触した排気ガスを排出する除害ガス排出管44とを備える。
【0022】
試料ガスとしては、微量の酸素を含有する窒素、アルゴン、ヘリウム、水素などの工業ガスを例示することができるがこれに限られるものではない。試料ガス供給管41を通じて微量酸素濃度計20に導入された試料ガスは、そのまま反応室21に供給されるものと、バイパス管45に設けられた脱酸素器24にて含有酸素を除去され、搬送ガスとして固形黄燐収納容器23に導入されるものとに分配される。搬送ガスは図示しない流量計(MFC)にて所定流量に調整され、余剰分は背圧弁30bを通じて微量酸素濃度計20の系外に排出される。流量を調整された搬送ガスは、所定の温度にて飽和蒸気圧を維持された固形黄燐収納容器23内の固形黄燐から昇華する黄燐蒸気を、黄燐蒸気供給管42を通じて反応室21に供給する。
【0023】
反応室21に供給された黄燐蒸気は、試料ガス供給管41を通じて導入された試料ガス中の微量酸素と反応して発光する。この発光強度は、光電子増倍管を利用した光検出器22で測定されて光電流が出力され、図示しない酸素濃度出力装置によって酸素濃度の値に変換される。
【0024】
黄燐蒸気と微量酸素とが反応した試料ガスは、反応生成物である黄燐酸化物と、未反応の黄燐蒸気とを含んだ排気ガスとして反応室21から排出される。排気ガスは排気ガス導入管43を通じて除害装置10の除害容器11に導入される。除害装置10の具体的な構成は後述する。除害装置10で黄燐蒸気を除去された排気ガスは、除害ガスとなって除害ガス排出管44を通じて系外に排出される。
【0025】
このほか本実施の形態にかかる微量酸素濃度計20には、反応室21への試料ガスの供給を停止する弁30a、固形黄燐収納容器23への搬送ガスの導入および導出を停止する弁30cおよび30d、反応室21からの排気ガスの排出を停止する弁30e、ならびに除害装置10からの除害ガスの排出を停止する弁30fを備える。
【0026】
なお、本発明にかかる微量酸素濃度計20の配管構成は上記実施の形態に限られるものではなく、例えば試料ガスと搬送ガスの供給ラインをそれぞれ独立したガスラインとしてもよい。また黄燐蒸気の供給方法についても、固形黄燐収納容器23にて昇華した黄燐と搬送ガスとを接触させる上記方式に限らず、例えば五酸化燐(P25)をコークスなどの炭素で還元して黄燐ガスを生成し、これを搬送ガスに混入する方式などでもよい。また、反応室21に供給する黄燐蒸気の濃度をゼロから徐々に高濃度化することで試料ガス中の微量酸素との反応による発光強度が徐々に上昇してゆくことを利用して微量酸素に対する黄燐の化学当量を予測し、これを過剰に超える黄燐蒸気が反応室21に供給されることを抑制することも可能である。これにより、酸素と未反応のまま除害装置10に導入される黄燐蒸気の濃度を低減することができる。
【0027】
図2は本発明の実施の形態にかかる微量酸素濃度計の除害装置10の構成を表す模式図である。金属製の円筒などからなる除害容器11には、黄燐と化学反応する粒子状の除害剤13が充填されている。除害容器11の内部下方には、排気ガスが通過可能なステンレスメッシュ12が張架され、除害剤13の落下を防止しつつ排気ガス貯留部15を画成している。
弁30eを通じて排気ガス導入管43より除害容器11に供給される排気ガスは、導入口14から除害容器11の最下部の排気ガス貯留部15にまず導入される。排気ガス貯留部15に蓄えられた排気ガスは、ステンレスメッシュ12を通過した後、粒子状の除害剤13と接触することで、含有する黄燐蒸気を除去されて除害ガスとなる。除害ガスは除害剤13の隙間を同図上方へとさらに流通し、高いレベルで黄燐蒸気が除去された状態で、除害容器11の最上部に設けられた除害ガス貯留部16に到達する。除害ガスは、排出口17より除害ガス排出管44および弁30fを通じて除害ガス貯留部16から系外に排出される。
【0028】
除害剤13には、黄燐と化学反応してこれを無害化することのできる物質を用いることができるが、とくに水酸化第二銅または酸化銅を用いることが、黄燐との良好な反応性の観点から好適である。黄燐と水酸化第二銅とは、下記反応式(4);
(化4)
4+10Cu(OH)2→10Cu+P410+10H2O (4)
に従って化学反応する。また黄燐と酸化銅とは、下記反応式(5);
(化5)
4+10CuO→10Cu+P410 (5)
に従って化学反応する。
さらに上記反応式(4),(5)によって生じる五酸化リン(P410)は吸湿性が高いため、雰囲気中の水蒸気とさらに下記反応式(6);
(化6)
410+6H2O→4H3PO4 (6)
に従って反応し、無害の燐酸(H3PO4)となって除害剤13の表面に付着する。
【0029】
とくに除害剤13として水酸化第二銅を用いる場合、上記反応式(4)に示すように黄燐蒸気と反応して水(H2O)が生成されるため、上記反応式(6)の吸湿反応が促進され、黄燐がより速やかに燐酸となって無害化されるため好適である。
【0030】
除害剤13は、平均直径が1mm程度の粒子状にして除害容器11に充填することが好適である。より具体的には平均直径0.5mm乃至2mmとするとよい。平均直径が0.5mmを下回ると除害装置10を通過する際の圧力損失が高くなり、排気ガス貯留部15および排気ガス導入管43の内圧が上昇して微量酸素濃度の測定が困難となる虞がある。また粒子の平均直径が2mmを超える除害剤13を用いた場合、その比表面積が不十分となって黄燐蒸気の除去効率が低下し、TLV−TWAの許容濃度を満足する黄燐蒸気の除害を行うためには除害容器11の空塔長さ(高さ)をきわめて長くする必要があり、除害装置10が大規模となって実用性に欠ける。
【0031】
水酸化第二銅または酸化銅からなる除害剤13を直径0.5mm乃至2mmの粒子状とする方法はとくに限られるものではなく、上記サイズの粒子状に成形された市販のものを用いることができる。また粒子状に成形した樹脂等の担体表面に水酸化第二銅または酸化銅を被着させてもよい。なお、除害容器11に充填された除害剤13の平均直径は、全充填量のうちの所定割合をサンプリングし、市販の画像処理装置によって各粒子を球形近似してその直径の平均値を算出することで求めることができる。
【0032】
除害剤13として水酸化第二銅または酸化銅を用いることのもう一つの利点として、除害剤13の消耗の度合いおよびこれを新たなものに交換すべきタイミングの検知が容易であるという点が挙げられる。すなわち上記反応式(4)の反応により水酸化第二銅は水色から黒色に変色し、また上記反応式(5)により酸化銅は灰色から黒色に変色する。このため、除害容器11にガラスやアクリル樹脂などからなる透明の検知窓18を設け、充填された除害剤13の変色の有無を観察することで、除害剤13の交換のタイミングを容易に計ることができ、他の検知剤を用いる必要がない。
【0033】
すなわち、排気ガス導入管43から除害容器11に導入された排気ガスは、除害剤13と接触して黄燐蒸気が除去されるとともに、除害剤13を上記反応式(4)または(5)にしたがって還元し、その表面を変色させていく。かかる反応は除害容器11に充填された除害剤13のうち、導入口14側(同図下方)から排出口17側(同図上方)にむかって徐々に進行する。これは、導入口14に近い除害剤は排気ガスとの接触によりすぐに除害能力が失われ、以降の排気ガスはより排出口17に近い除害剤によって除害されるためである。したがって同図に例示する除害装置10の場合、黒色に変色した使用済みの除害剤と、未変色の除害剤との境界線(変色ライン19)が徐々に上昇していくことになる。充填された除害剤13を交換しこれをリフレッシュするタイミングとしては、少なくとも排気ガスが除害されずに除害ガス貯留部16に至ってしまうことのないよう、検知窓18から観察される変色ライン19が除害剤13の表面に至る手前であることが望ましい。
【0034】
したがって検知窓18を設ける位置としては除害容器11の排出口17端部側であることが好ましく、言い換えると検知窓18からは充填された除害剤13の排出口17側の表面が視認できることが好ましい。かかる位置に検知窓18を設けることにより、導入口14側から排出口17側にむかって除害剤13の変色が徐々に進行していく様子が観察できるとともに、充填された除害剤13の表面近傍まで変色ライン19が進んだ時点、すなわち除害剤13を使い切る直前の時点で弁30eを閉止して除害容器11への排気ガスの導入を停止し、除害剤13を十分に使用した状態で交換することができる。なお、変色ライン19は、充填された除害剤13の内部で三次元的に広がる曲面状であることから、除害剤13の表面にもっとも接近した変色ライン19の頭頂部を必ずしも検知窓18を通じて外部から観察できるとは限らない。また、変色ライン19の頭頂部が除害剤13の表面に至ってから弁30eを閉止したのでは、排気ガス貯留部15に既に蓄えられている排気ガス、および除害剤13の隙間を進行中で未だ黄燐蒸気を除去されていない排気ガスを好適に除害できない。このため、検知窓18から観察される変色ライン19が、予め定めた除害剤13の表面下所定のマージン位置まで到達した時点で弁30eを閉止するとよい。弁30eを閉止した後は、使用済みの除害剤13を内部に充填したまま除害容器11を微量酸素濃度計20から取り外し、除害剤13を新しいものと交換する。
【0035】
なお、検知窓18の形状は図2に示す円形に限られるものではなく矩形等でもよい。また、検知窓18を除害容器11の周方向に複数箇所に設けてもよく、また除害容器11の側面全周にわたる帯状の窓形状としてもよい。かかる検知窓18を設けることにより検知窓18からの視認面積が拡大するため、仮に除害剤13の粒子間を排気ガスが偏って流通した場合も、除害剤13の変色ライン19の進行状況をより確実に検知することができる。
【0036】
なお同図に示すように、排気ガス導入管43を導入口14から排気ガス貯留部15の中央付近まで引き込むことによって、導入された排気ガスが排気ガス貯留部15の内部で十分に拡散してからステンレスメッシュ12および除害剤13の間を上昇していくことになるため、除害容器11内の排気ガスの流通の偏りが少なく、変色ライン19がよりフラットとなり、除害剤13を無駄なく使用することができる。
【0037】
本発明にかかる微量酸素濃度計20においては、二式以上の除害装置10を並列に設け、排気ガス導入管43を流通する排気ガスの流路を切換弁によって切り換える方式とすることも好適である。具体的には、例えば弁30eを三方弁とし、その二つの二次側にそれぞれ第一および第二の除害装置の導入口を連結し、排気ガスの流路を三方弁によって適宜切り換える。
これにより、例えば第一の除害装置にて黄燐蒸気の除害を所定時間行い、その除害剤を交換またはリフレッシュするにあたっては、まず排気ガスの流路を第一の除害装置から第二の除害装置へと切り換えることで、第二の除害装置によって黄燐蒸気の除害作業を継続することができる。第一の除害装置に充填された除害剤をリフレッシュするには、第二の除害装置による除害作業の際中に、その除害容器を微量酸素濃度計から取り外し、除害剤を新たなものに交換すればよい。
以上のように本発明にかかる微量酸素濃度計、およびその排気ガスの除害方法においては、二式以上の除害装置を並列に設けて排気ガスの流路を切り換える方式とすることにより、微量酸素濃度計20による微量酸素の濃度測定作業を長時間にわたって連続的に行うことができる。
【0038】
以下、本発明にかかる微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置およびこれを備える微量酸素濃度計ならびに微量酸素濃度計の排気ガスの除害方法について、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
(実施例)
内径110mmのステンレス製の化粧パイプからなる除害容器を用意し、底面から20mm上方位置に直径0.2mmの通孔を多数設けたパンチングメタルを架設してその下部を排気ガス貯留部とした。排気ガス貯留部には除害容器の下部側方からφ9.5mmの排気ガス導入管を連通し、一方、除害容器の上面にはφ6.5mmの排出口を設けた。
【0039】
次に、除害容器に平均粒径1mmの水酸化第二銅からなる粒子状の除害剤を2kg充填した。このとき、パンチングメタルを底として約150mmの充填高さとなった。
【0040】
この状態で、下表1に示す常温の排気ガスを、微量酸素濃度計より排気ガス導入管を通じて除害容器に連続的に導入し、排出口から排出される除害ガスの黄燐蒸気濃度を測定した。除害ガス中の黄燐蒸気濃度の測定は、除害ガスを硝酸水溶液に通すことでこれに含まれる微量の黄燐を所定時間トラップして濃縮し、該水溶液を市販のICP(Inductively Coupled Plasma:高周波誘導結合プラズマ)発光分析計を用いて定量分析することにより行った。なお、下表1に示す排気ガス中の黄燐蒸気濃度は、微量酸素濃度計の排気ガスとして一般的な値である。また本実施例においては、黄燐をトラップした硝酸水溶液に対するICP発光分析計の測定結果から換算される除害ガス中の黄燐蒸気濃度の検出可能下限値を、TLV−TWAの許容濃度と等しく0.02ppmとした。
なお、微量酸素濃度計は6ヶ月間連続運転した。3ヶ月経過時と6ヶ月経過時における除害ガス中の黄燐蒸気の濃度測定結果を下表2に示す。
【0041】
(表1)

【0042】
(表2)

【0043】
以上の実施例1および2では、いずれも除害ガスから黄燐蒸気は検出されなかった。すなわち、本発明にかかる微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置は、100〜200mmスケールというコンパクトさでありながらも、6ヶ月を超える長期間にわたり一般的な微量酸素濃度計の排気ガスに含まれる黄燐蒸気をTLV−TWAの許容濃度(0.02ppm)以下に低減できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態にかかる微量酸素濃度計の系統図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる微量酸素濃度計の除害装置の模式図である。
【符号の説明】
【0045】
10 除害装置
11 除害容器
12 ステンレスメッシュ
13 除害剤
14 導入口
15 排気ガス貯留部
16 除害ガス貯留部
17 排出口
18 検知窓
19 変色ライン
20 微量酸素濃度計
21 反応室
22 光検出器
23 固形黄燐収納容器
24 脱酸素器
41 試料ガス供給管
42 黄燐蒸気供給管
43 排気ガス導入管
44 除害ガス排出管
45 バイパス管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄燐と化学反応する粒子状の除害剤を充填する除害容器と、試料ガス中の酸素と黄燐蒸気との反応により発光した光の強度によって試料ガス中の酸素量を測定する微量酸素濃度計から排出される排気ガスを前記除害容器に導入する導入口と、前記除害剤と接触した排気ガスを排出する排出口と、を備える微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置。
【請求項2】
除害剤が水酸化第二銅または酸化銅である請求項1に記載の微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置。
【請求項3】
粒子状の除害剤の平均直径が0.5乃至2mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の微量酸素濃度計の排気ガスの除害装置。
【請求項4】
黄燐蒸気と試料ガス中の酸素とを反応させる反応室と、該反応により発光した光の強度を測定する光検出器と、前記反応室に試料ガスを供給する試料ガス供給管と、前記反応室に黄燐蒸気を供給する黄燐蒸気供給管とを備える微量酸素濃度測定装置において、
黄燐と化学反応する粒子状の除害剤を充填する除害容器と、前記反応室から排出される排気ガスを前記除害容器に導入する排気ガス導入管と、前記除害容器に設けられ前記除害剤と接触した排気ガスを排出する排出口とを備えることを特徴とする微量酸素濃度計。
【請求項5】
試料ガス中の酸素と黄燐蒸気との反応により発光した光の強度によって試料ガス中の酸素量を測定する微量酸素濃度計から排出される排気ガスを、粒子状の水酸化第二銅または酸化銅と接触させることにより、前記排気ガスに含まれる未反応の黄燐蒸気を該排気ガスから除去することを特徴とする微量酸素濃度計の排気ガスの除害方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−232611(P2007−232611A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55907(P2006−55907)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】