説明

心筋梗塞のリスク検査方法

【課題】高精度で予知確率の高い心筋梗塞のリスクを診断する手段を提供する。
【解決手段】 以下の工程を含んでなる方法により心筋梗塞のリスク診断を行う。
(i)心筋梗塞との関連が認められた10個の遺伝子多型、又は5個の遺伝子多型から二つ以上の多型を解析する工程、
(ii)前記工程によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び
(iii)決定された遺伝子型から心筋梗塞の遺伝的リスクを求める工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心筋梗塞に関連する遺伝子を利用した検出方法に関する。詳しくは、心筋梗塞に関連する複数の遺伝子の多型を利用した検出方法及び該方法に用いられるキットに関する。本発明は、例えば心筋梗塞のリスク診断に利用できる。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞は多因子疾患であり、個人個人の遺伝的背景とさまざまな環境因子の相互作用により発症が規定される(Marenberg ME, Risch N, Berkman LF, Floderus B, de Faire U. Genetic susceptibility to death from coronary heart disease in a study of twins. N Engl J Med 1994;330:1041-1046.、Nora JJ, Lortscher RH, Spangler RD, Nora AH, Kimberling WJ. Genetic-epidemiologic study of early-onset ischemic heart disease. Circulation 1980;61:503-508.)。一般的に心筋梗塞の発症率は高血圧・糖尿病・高脂血症などの従来の危険因子の数に比例して高くなる(Nora JJ, Lortscher RH, Spangler RD, Nora AH, Kimberling WJ. Genetic-epidemiologic study of early-onset ischemic heart disease. Circulation 1980;61:503-508.)。これらの危険因子自体も一部は遺伝的要因により制御されているが、家族歴が独立した心筋梗塞の予知因子であることから、従来の危険因子以外にも心筋梗塞感受性因子が存在することが示唆されている(Marenberg ME, Risch N, Berkman LF, Floderus B, de Faire U. Genetic susceptibility to death from coronary heart disease in a study of twins. N Engl J Med 1994;330:1041-1046.)。さらに、従来の危険因子を全く持たなくても心筋梗塞を発症する例があることも、遺伝因子との関連を示唆する。
【0003】
心筋梗塞は欧米諸国において最も死亡率の高い疾患であり、たとえ致死的ではないにしても、心不全や狭心症・難治性不整脈を合併し患者の生活の質を著しく低下させるため、これを予防することが重要であることは言うまでもない。心筋梗塞を予防するための一つの方法は心筋梗塞感受性遺伝子を同定することである。連鎖解析(Broeckel U, Hengstenberg C, Mayer B, et al. A comprehensive linkage analysis for myocardial infarction and its related risk factors. Nature genet 2002;30:210-214.)および候補遺伝子による関連解析(Cambien F, Poirier O, Lecerf L, et al. Deletion polymorphism in the gene for angiotensin-converting enzyme is a potent risk factor for myocardial infarction. Nature 1992;359:641-644.、Weiss EJ, Bray PF, Tayback M, et al. A polymorphism of a platelet glycoprotein receptor as an inherited risk factor for coronary thrombosis. N Engl J Med 1996;334:1090-1094.、Iacoviello L, Di Castelnuovo A, De Knijff P, et al. Polymorphisms in the coagulation factor VII gene and the risk of myocardial infarction. N Engl J Med 1998;338:79-85.、Kuivenhoven JA, Jukema JW, Zwinderman AH, et al. The role of a common variant of the cholesterol ester transfer protein gene in the progression of coronary atherosclerosis. N Engl J Med 1998;338:86-93.)により、心筋梗塞と関連する染色体上の遺伝子座およびいくつかの候補遺伝子群が同定された。今までにゲノム疫学的研究によりアンギオテンシン変換酵素(Cambien F, Poirier O, Lecerf L, et al. Deletion polymorphism in the gene for angiotensin-converting enzyme is a potent risk factor for myocardial infarction. Nature 1992;359:641-644.)、血小板糖タンパクIIIa(Weiss EJ, Bray PF, Tayback M, et al. A polymorphism of a platelet glycoprotein receptor as an inherited risk factor for coronary thrombosis. N Engl J Med 1996;334:1090-1094.)、第7血液凝固因子、コレステロールエステル移送タンパク(Kuivenhoven JA, Jukema JW, Zwinderman AH, et al. The role of a common variant of the cholesterol ester transfer protein gene in the progression of coronary atherosclerosis. N Engl J Med 1998;338:86-93.)などの遺伝子多型と心筋梗塞との関連が報告されているが、相反する報告もあり、未だ一定の結論を得るに至っていない。さらに、異なる人種では異なるゲノム多型を有するため、それぞれの人種で多型と心筋梗塞との関連についてのデータベースを構築することが重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、今までに数多くの遺伝子多型と冠動脈疾患あるいは心筋梗塞との関連解析が行われてきた。しかし多くの研究についてはその意義について一定の見解は得られていない。その主な理由は多くの研究における対象集団の大きさが十分でないことと、遺伝子多型のみならず環境因子が人種間で異なっていることに起因する。さらに、たとえ心筋梗塞との関連が認められたとしても、大規模集団における解析では相対危険度(オッズ比)が低いのが一般的である。
本発明は以上の背景に鑑みなされたものであって、その目的は高精度で予知確率の高い心筋梗塞の遺伝的リスクを診断する手段を提供し、心筋梗塞の一次予防に貢献することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以上の目的を達成するために数種類の公的データベースを用いて、冠動脈硬化、冠動脈攣縮、高血圧、糖尿病、高脂血症などとの関連が推定される71遺伝子を抜粋し、遺伝子の機能変化との関連が予想されるものなどを中心に112多型を選択した。続いて、この71遺伝子112多型に関して5000例を越える大規模関連解析を行った。その結果、心筋梗塞と関連するSNP(single nucleotide polymorphism)を男性で10個、女性で5個同定することに成功した。更に、これらの多型を組み合わせて用いることにより、多因子ロジスティック回帰分析のstepwise forward selectionにより男性では最大オッズ比11.26、女性では最大オッズ比88.51を呈することが認められた。この結果から、これらのSNPの中から複数のSNPを選択し、各SNPを解析した結果を組み合わせて用いれば、信頼性が高く、予知確率の高い心筋梗塞のリスク診断が行えるとの知見が得られた。一方で、女性において心筋梗塞との関連が認められた5個のSNPの中の一つについては、その多型を単独で解析することによっても極めて高いオッズ比が得られるものであった。本発明は以上の知見に基づくものであって、次の構成を提供する。
[1] 以下の工程(a)を含んでなる、核酸試料の遺伝子型を検出する方法、
(a)核酸試料における、以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析する工程、
(1)コネキシン37遺伝子の塩基番号1019位の多型、
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子の塩基番号-863位の多型、
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の塩基番号242位の多型、
(4)アンギオテンシノーゲン遺伝子の塩基番号-6位の多型、
(5)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号-219位の多型、
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の塩基番号994位の多型、
(7)アポリポプロテインC-III遺伝子の塩基番号-482位の多型、
(8)トロンボスポンジン4遺伝子の塩基番号1186位の多型、
(9)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-819位の多型、及び
(10)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-592位の多型。
[2] 以下の工程(b)を含んでなる、核酸試料の遺伝子型を検出する方法、
(b)核酸試料における、以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析する工程、
(11)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位の多型、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位の多型、
(13)グリコプロテインIbα遺伝子の塩基番号1018位の多型、
(14)パラオキソナーゼ遺伝子の塩基番号584位の多型、及び
(15)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型。
[3] 以下の工程(c)を含んでなる、核酸試料の遺伝子型を検出する方法、
(c)核酸試料における、アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型を解析する工程。
[4] 以下の工程(i)〜(iii)を含んでなる、心筋梗塞のリスク診断方法、
(i)核酸試料における、以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析する工程、
(1)コネキシン37遺伝子の塩基番号1019位の多型、
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子の塩基番号-863位の多型、
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の塩基番号242位の多型、
(4)アンギオテンシノーゲン遺伝子の塩基番号-6位の多型、
(5)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号-219位の多型、
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の塩基番号994位の多型、
(7)アポリポプロテインC-III遺伝子の塩基番号-482位の多型、
(8)トロンボスポンジン4遺伝子の塩基番号1186位の多型、
(9)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-819位の多型、及び
(10)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-592位の多型、
(ii)前記工程によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び
(iii)決定された遺伝子型から心筋梗塞の遺伝的リスクを求める工程。
[5] 以下の工程(iv)〜(vi)を含んでなる、心筋梗塞のリスク診断方法、
(iv)核酸試料における、以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析する工程、
(11)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位の多型、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位の多型、
(13)グリコプロテインIbα遺伝子の塩基番号1018位の多型、
(14)パラオキソナーゼ遺伝子の塩基番号584位の多型、及び
(15)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型、
(v)前記工程によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び
(vi)決定された遺伝子型から心筋梗塞の遺伝的リスクを求める工程。
[6] 以下の工程(vii)〜(ix)を含んでなる、心筋梗塞のリスク診断方法、
(vii)核酸試料における、アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型を解析する工程、
(viii)前記工程によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び
(ix)決定された遺伝子型から心筋梗塞の遺伝的リスクを求める工程。
[7] 以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の核酸を含んでなる遺伝子型検出用キット、
(1)コネキシン37遺伝子の塩基番号1019位の多型を解析するための核酸、
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子の塩基番号-863位の多型を解析するための核酸、
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の塩基番号242位の多型を解析するための核酸、
(4)アンギオテンシノーゲン遺伝子の塩基番号-6位の多型を解析するための核酸、
(5)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号-219位の多型を解析するための核酸、
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の塩基番号994位の多型を解析するための核酸、
(7)アポリポプロテインC-III遺伝子の塩基番号-482位の多型を解析するための核酸、
(8)トロンボスポンジン4遺伝子の塩基番号1186位の多型を解析するための核酸、
(9)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-819位の多型を解析するための核酸、及び
(10)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-592位の多型を解析するための核酸。
[8] 以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の核酸を含んでなる遺伝子型検出用キット、
(11)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位の多型を解析するための核酸、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位の多型を解析するための核酸、
(13)グリコプロテインIbα遺伝子の塩基番号1018位の多型を解析するための核酸、
(14)パラオキソナーゼ遺伝子の塩基番号584位の多型を解析するための核酸、及び
(15)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型を解析するための核酸。
[9] アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型を解析するための核酸、を含んでなる遺伝子型検出用キット。
[10] 以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の核酸が不溶性支持体に固定されてなる固定化核酸、
(1)コネキシン37遺伝子の塩基番号1019位の多型を解析するための核酸、
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子の塩基番号-863位の多型を解析するための核酸、
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の塩基番号242位の多型を解析するための核酸、
(4)アンギオテンシノーゲン遺伝子の塩基番号-6位の多型を解析するための核酸、
(5)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号-219位の多型を解析するための核酸、
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の塩基番号994位の多型を解析するための核酸、
(7)アポリポプロテインC-III遺伝子の塩基番号-482位の多型を解析するための核酸、
(8)トロンボスポンジン4遺伝子の塩基番号1186位の多型を解析するための核酸、
(9)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-819位の多型を解析するための核酸、及び
(10)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-592位の多型を解析するための核酸。
[11] 以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の核酸が不溶性支持体に固定されてなる固定化核酸、
(11)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位の多型を解析するための核酸、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位の多型を解析するための核酸、
(13)グリコプロテインIbα遺伝子の塩基番号1018位の多型を解析するための核酸、
(14)パラオキソナーゼ遺伝子の塩基番号584位の多型を解析するための核酸、及び
(15)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型を解析するための核酸。
[12] アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型を解析するための核酸が不溶性支持体に固定されてなる固定化核酸。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の第1の局面は核酸試料の遺伝子型を検出する方法に関し、その一態様は以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析する工程を含むことを特徴とする。また他の態様としては、以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析する工程を含むことを特徴とする。さらに他の態様としては、以下の(15)の多型を解析する工程を少なくとも含むことを特徴とする。尚、以上の工程の結果得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定することにより心筋梗塞の遺伝的リスクを求めることができる。
(1)コネキシン37(Connexin 37)遺伝子の塩基番号1019位の多型:1019C→T(以下、「コネキシン37(1019C→T)多型」ともいう)
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子(Tumor necrosis factor-α)の塩基番号-863位の多型:-863C→A(以下、「TNFα(-863C→A)多型」ともいう)
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス(NADH/NADPH oxidase p22 phox)遺伝子の塩基番号242位の多型:242C→T(以下、「NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス(242C→T)多型」ともいう)、
(4)アンギオテンシノーゲン(Angiotensinogen)遺伝子の塩基番号-6位の多型:-6G→A(以下、「アンギオテンシノーゲン(-6G→A)多型」ともいう)
(5)アポリポプロテインE(Apolipoprotein E)遺伝子の塩基番号-219位の多型:-219G→T(以下、「アポE-219(-219G→T)多型」ともいう)
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(Platelet-activating factor acetylhydrolase)遺伝子の塩基番号994位の多型:994G→T(以下、「PAFアセチルヒドロラーゼ(994G→T)多型」ともいう)
(7)アポリポプロテインC-III(Apolipoprotein C-III)遺伝子の塩基番号-482位の多型:-482C→T(以下、「アポC-III(-482C→T)多型」ともいう)
(8)トロンボスポンジン4(Thrombospondin 4)遺伝子の塩基番号1186位の多型:1186G→C(以下、「TSP4(1186G→C)多型」ともいう)
(9)インターロイキン10(Interleukin-10)遺伝子の塩基番号-819位の多型:-819T→C(以下、「IL-10(-819T→C)多型」ともいう)
(10)インターロイキン10(Interleukin-10)遺伝子の塩基番号-592位の多型:-592A→C(以下、「IL-10(-592A→C)多型」ともいう)
(11)ストロメライシン1(Stromelysin-1)遺伝子の塩基番号-1171位の多型:-1171/5A→6A(以下、「ストロメライシン1(-1171/5A→6A)多型」ともいう)
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1(Plasminogen activator inhibitor-1)遺伝子の塩基番号-668位の多型:-668/4G→5G(以下、「PAI1(-668/4G→5G)多型」ともいう)
(13)グリコプロテインIbα(Glycoprotein Ibα)遺伝子の塩基番号1018位の多型:1018C→T(以下、「グリコプロテインIbα(1018C→T)多型」ともいう)
(14)パラオキソナーゼ(Paraoxonase)遺伝子の塩基番号584位の多型:584G→A(以下、「パラオキソナーゼ(584G→A)多型」ともいう)
(15)アポリポプロテインE(Apolipoprotein E)遺伝子の塩基番号4070位の多型:4070C→T(以下、「アポE(4070C→T)多型」ともいう)
【0007】
以上において1019C→Tのような表記は、当該塩基番号位置の多型が矢印の前又は後の塩基である二つの遺伝子型からなることを意味する。但し、-1171/5A→6Aは塩基番号-1171位から3'方向にA(アデニン)が連続して5個存在する遺伝子型と6個存在する遺伝子型からなる多型を意味する。同様に、-668/4G→5Gは塩基番号-668位から3'方向にG(グアニン)が連続して4個存在する遺伝子型と5個存在する遺伝子型からなる多型を意味する。
【0008】
各遺伝子における塩基番号は公共のデータベースであるGenBank(NCBI)に登録されている公知の配列を基準として表される。尚、配列番号1の塩基配列(Accession No. M96789:Homo sapiens connexin 37 (GJA4) mRNA, complete cds)において1019番目の塩基がコネキシン37遺伝子の1019位塩基に相当する。同様に配列番号2の塩基配列(Accession No. L11698:Homo sapiens tumor necrosis factor alpha gene,promoter region)において197番目の塩基が腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基に相当し、配列番号3の塩基配列(Accession No. M61107:Homo sapiens cytochrome b light chain (CYBA) gene, exons 3 and 4)において684番目の塩基がNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基に相当し、配列番号4の塩基配列(Accession No. X15323:H.sapiens angiotensinogen gene 5'region and exon 1)において463番目の塩基がアンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基に相当し、配列番号5の塩基配列(Accession No. AF055343:Homo sapiens apolipoprotein E (APOE) gene, 5' regulatory region,partial sequence)において801番目の塩基がアポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基に相当し、配列番号6の塩基配列(Accession No. U20157:Human platelet-activating factor acetylhydrolase mRNA, complete cds)において996番目の塩基が血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基に相当し、配列番号7の塩基配列(Accession No. X13367:Human DNA for apolipoprotein C-III 5'-flank)において936番目の塩基がアポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基に相当し、配列番号8の塩基配列(Accession No. Z19585:H.sapiens mRNA for thrombospondin-4)において1186番目の塩基がトロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基に相当し、配列番号9の塩基配列(Accession No. Z30175:H.sapiens IL-10 gene for interleukin 10 (promoter))において455番目の塩基がインターロイキン10遺伝子の-819位塩基に、682番目の塩基が-592位塩基にそれぞれ相当し、配列番号10の塩基配列(Accession No. U43511:Homo sapiens stromelysin-1 gene, promoter region)において698番目の塩基がストロメライシン1遺伝子の-1171位塩基に相当し、配列番号11の塩基配列(Accession No. X13323:Human gene for plasminogen activator inhibitor 1 (PAI-1) 5'-flank and exon 1)において131番目の塩基がプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の-668位塩基に相当し、配列番号12の塩基配列(Accession No. J02940:Human platelet glycoprotein Ib alpha chain mRNA, complete cds)において524番目の塩基がグリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基に相当し、配列番号13の塩基配列(Accession No. M63012:H.sapiens serum paraoxonase (PON) mRNA, complete cds)において584番目の塩基がパラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基に相当し、配列番号14の塩基配列(Accession No. M10065:Human apolipoprotein E (epsilon-4 allele) gene, complete cds)において4070番目の塩基がアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基に相当する。
【0009】
本発明において「多型を解析する」とは、解析対象の遺伝子多型について核酸試料がどのような遺伝子型を有するかを調べることを意味し、多型が存在する位置の塩基(塩基配列)を調べることと同義である。典型的には、コネキシン37(1019C→T)多型の解析を例に採れば、核酸試料におけるコネキシン37の遺伝子型がTT(1019位塩基が両アレル共にTのホモ接合体)、CT(1019位塩基がCのアレルとTのアレルとのヘテロ接合体)、及びCC(1019位塩基が両アレル共にCのホモ接合体)の中のいずれであるかを調べることを意味する。
【0010】
上記の(1)〜(10)の多型は、後述の実施例で示されるように、日本人男性を対象とした解析において心筋梗塞の遺伝的リスクの判定に利用することが特に有効と認められた多型である。従って、これらの多型を解析対象とすることは、男性、特に日本人男性を被験者とするときにより高精度で予知確率の高い診断を可能とする。
【0011】
同様に(11)〜(15)の多型は、後述の実施例で示されるように、日本人女性を対象とした解析において心筋梗塞の遺伝的リスクの判定に利用することが有効と認められた多型である。従って、これらの多型を解析対象とすることは、女性、特に日本人女性を被験者とするときにより高精度で予知確率の高い診断を可能とする。これらの多型の中でも(15)の多型については、後述の実施例で示されるように、それを解析することにより極めて高いオッズ比で心筋梗塞の遺伝的リスクを判別できることが確認された。従って、この多型を単独で解析することによっても高精度かつ予知確率の高い心筋梗塞の遺伝的リスクを判定することが可能である。勿論、この(15)の多型の解析に加えて、(11)〜(14)から選択されるいずれか又は複数の多型の解析を組み合わせて実施し、遺伝子型の検出或は心筋梗塞の遺伝的リスクの診断を行うこともできる。
【0012】
ここで、原則的には解析する多型の数の増加に比例して核酸試料の遺伝子型がより細かく分類され、これによって一層予知確率の高い心筋梗塞の遺伝的リスクの診断を行うことができる。かかる見地から、上記の(1)〜(10)の多型の中でより多くの多型を解析して遺伝子型を検出することが好ましい。従って、(1)〜(10)のすべての多型を解析することが最も好ましい。九つ以下の多型を組み合わせて遺伝子型の検出を行う場合には、後述の実施例で示されるオッズ比の高い多型を優先的に選択して用いることが好ましい。例えば八つの多型を組み合わせて用いるのであれば、オッズ比の高い順から九つ、即ち(1)、(3)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)及び(10)を選択することが好ましい。同様に、例えば七つの多型を組み合わせて用いるのであれば(1)、(3)、(5)、(6)、(8)、(9)及び(10)を選択することが好ましい。同様に、例えば六つの多型を組み合わせて用いるのであれば(1)、(5)、(6)、(8)、(9)及び(10)を選択することが好ましい。同様に、例えば五つの多型を組み合わせて用いるのであれば(1)、(5)、(6)、(8) 及び(9)を選択することが好ましい。
【0013】
(11)〜(15)の多型から選択される二つ以上の多型を解析する場合も同様に、これらすべての多型、即ち五つの多型を解析することが最も好ましい。四つ以下の多型を組み合わせて遺伝子型の検出を行う場合には、後述の実施例で示されるオッズ比の高い多型を優先的に選択して用いることが好ましい。例えば四つの多型を組み合わせて用いるのであれば、オッズ比の高い順から四つ、即ち(11)、(12)、(14)、及び(15)を選択することが好ましい。同様に、例えば三つの多型を組み合わせて用いるのであれば(11)、(12)、及び(15)を選択することが好ましい。同様に、例えば二つの多型を組み合わせて用いるのであれば(11)及び(15)を選択することが好ましい。
【0014】
各遺伝子多型を解析する方法は特に限定されるものではなく、例えばアリル特異的プライマー(及びプローブ)を用い、PCR法による増幅、及び増幅産物の多型を蛍光又は発光によって解析する方法や、PCR(polymerase chain reaction)法を利用したPCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2766-2770(1989)等)、PCR-SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、PCR-SSO法とドットハイブリダイゼーション法を組み合わせたASO(allele specific oligonucleotide:アレル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki, Nature, 324, 163-166(1986)等)、又はTaqMan-PCR法(Livak, KJ, Genet Anal,14,143(1999),Morris, T. et al., J. Clin. Microbiol.,34,2933(1996))、Invader法(Lyamichev V et al., Nat Biotechnol,17,292(1999))、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法(Haff LA, Smirnov IP, Genome Res 7,378(1997))、RCA(rolling cycle amplification)法(Lizardi PM et al., Nat Genet 19,225(1998))、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al., Science 280,1077(1998)等)、プライマー伸長法、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E., J. Mol. Biol. 98, 503-517(1975))等、公知の方法を採用できる。さらに、解析対象の多型部分を直接シークエンスすることにより解析してもよい。尚、これらの方法を任意に組み合わせて多型解析を行ってもよい。
【0015】
核酸試料が少量の場合には、検出感度ないし精度の面からPCR法を利用した方法(例えば、PCR-RFLP法)により解析することが好ましい。また、PCR法又はPCR法を応用した方法などの遺伝子増幅法により核酸試料を予め増幅(核酸試料の一部領域の増幅を含む)した後、上記いずれかの解析方法を適用することもできる。
一方、多数の核酸試料を解析する場合には、特に、アリル特異的PCR法、アリル特異的ハイブリダイゼーション法、TaqMan-PCR法、Invader法、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法、RCA(rolling cycle amplification)法、又はDNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法等、多数の検体を比較的短時間で解析することが可能な解析方法を用いることが好ましい。
【0016】
以上の方法では、各方法に応じたプライマーやプローブ等の核酸(本発明において、「多型解析用核酸」ともいう)が使用される。多型解析用核酸の例としては、解析対象の多型を含む遺伝子において、当該多型部位を含む一定領域(部分DNA領域)に相補的な配列を有する核酸を挙げることができる。また、解析対象の多型を含む遺伝子において、当該多型部位を含む一定領域(部分DNA領域)に相補的な配列を有し、当該多型部分を含むDNAフラグメントを特異的に増幅できるように設計された核酸(プライマー)を挙げることができる。このような核酸としては、例えばコネキシン37遺伝子の1019位の多型が解析対象の場合には、1019位の塩基がC(シトシン)であるコネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は1019位の塩基がT(チミン)であるコネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸が該当する。
【0017】
多型解析用核酸の他の具体例としては、解析対象の多型部位がいずれかの遺伝子型である場合にのみ、当該多型部位を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットを挙げることができる。より具体的には、解析対象の多型部位を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、多型部位がいずれかの遺伝子型であるアンチセンス鎖の当該多型部位を含む部分DNA領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーとセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーからなる核酸セットを例示することができる。このような核酸セットとしては、コネキシン37遺伝子の1019位の多型が解析対象の場合には、コネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、1019位塩基がC(シトシン)であるコネキシン37遺伝子のアンチセンス鎖において1019位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーとセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーからなる核酸セット、又は1019位塩基がT(チミン)であるコネキシン37遺伝子のアンチセンス鎖において1019位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー、及びセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーからなる核酸セットが該当する。ここで、増幅される部分DNA領域の長さはその検出に適した範囲で適宜設定され、例えば50 bp〜200 bp、好ましくは80 bp〜150 bpである。より具体的には、例えばコネキシン37(1019C→T)多型解析用の核酸セットとして次の配列を有するものを例示できる。尚、以下の配列の下線部は多型に対応する部分を表す。また、配列中のNはA、T、C、及びGのいずれかであることを意味する。
【0018】
センスプライマー
CTCAGAATGGCCAAAANCC:配列番号15、又は
CCTCAGAATGGCCAAAANTC:配列番号16
アンチセンスプライマー
GCAGAGCTGCTGGGACGA:配列番号17
【0019】
同様に、TNFα(-863C→A)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
アンチセンスプライマー
GGCCCTGTCTTCGTTAANGG:配列番号18、又は
ATGGCCCTGTCTTCGTTAANTG:配列番号19
センスプライマー
CCAGGGCTATGGAAGTCGAGTATC:配列番号20
【0020】
同様に、NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス(242C→T)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
アンチセンスプライマー
ACCACGGCGGTCATGNGC:配列番号21、又は
ACCACGGCGGTCATGNAC:配列番号22
センスプライマー
GCAGCAAAGGAGTCCCGAGT:配列番号23
【0021】
同様に、アンギオテンシノーゲン(-6G→A)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
アンチセンスプライマー
CGGCAGCTTCTTCCCNCG:配列番号24、又は
CGGCAGCTTCTTCCCNTG:配列番号25
センスプライマー
CCACCCCTCAGCTATAAATAGG:配列番号26
【0022】
同様に、アポE(-219G→T)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
GAATGGAGGAGGGTGTCTNGA:配列番号27、又は
AGAATGGAGGAGGGTGTCTNTA:配列番号28
アンチセンスプライマー
CCAGGAAGGGAGGACACCTC:配列番号29
【0023】
同様に、PAFアセチルヒドロラーゼ(994G→T)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
TTCTTTTGGTGGAGCAACNGT:配列番号30、又は
ATTCTTTTGGTGGAGCAACNTT:配列番号31
アンチセンスプライマー
TCTTACCTGAATCTCTGATCTTCA:配列番号32
【0024】
同様に、アポC-III(-482C→T)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
CGGAGCCACTGATGCNCG:配列番号33、又は
CGGAGCCACTGATGCNTG:配列番号34
アンチセンスプライマー
TGTTTGGAGTAAAGGCACAGAA:配列番号35
【0025】
同様に、TSP4(1186G→C)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
CGAGTTGGGAACGCACNCT:配列番号36、又は
CGAGTTGGGAACGCACNGT:配列番号37
アンチセンスプライマー
GGTCTGCACTGACATTGATGAG:配列番号38
【0026】
同様に、IL-10(-819T→C)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
TACCCTTGTACAGGTGATGTANTA:配列番号39、又は
TACCCTTGTACAGGTGATGTANCA:配列番号40
アンチセンスプライマー
ATAGTGAGCAAACTGAGGCACA:配列番号41
【0027】
同様に、IL-10(-592A→C)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
アンチセンスプライマー
CAGAGACTGGCTTCCTACANGA:配列番号42、又は
CCAGAGACTGGCTTCCTACANTA:配列番号43
センスプライマー
GCCTGGAACACATCCTGTGA:配列番号44
【0028】
同様に、ストロメライシン1(-1171/5A→6A)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
TTTGATGGGGGGAAAANAC:配列番号45、又は
TTGATGGGGGGAAAANCC:配列番号46
アンチセンスプライマー
CCTCATATCAATGTGGCCAA:配列番号47
【0029】
同様に、PAI1(-668/4G→5G)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
GGCACAGAGAGAGTCTGGACACG:配列番号48
アンチセンスプライマー
GGCCGCCTCCGATGATACA:配列番号49
【0030】
同様に、グリコプロテインIbα(1018C→T)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
CCCAGGGCTCCTGNCG:配列番号50、又は
CCCCAGGGCTCCTGNTG:配列番号51
アンチセンスプライマー
TGAGCTTCTCCAGCTTGGGTG:配列番号52
【0031】
同様に、パラオキソナーゼ(584G→A)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
ACCCAAATACATCTCCCAGGANCG:配列番号53、又は
AACCCAAATACATCTCCCAGGNCT:配列番号54
アンチセンスプライマー
GAATGATATTGTTGCTGTGGGAC:配列番号55
【0032】
同様に、アポE(4070C→T)多型解析用の核酸プライマーとして次の配列を有するものを例示できる。
センスプライマー
CCGATGACCTGCAGAANCG:配列番号56、又は
GCCGATGACCTGCAGAANTG:配列番号57
アンチセンスプライマー
CGGCCTGGTACACTGCCAG:配列番号58
【0033】
一方、プローブの具体例として以下のものを挙げることができる。
アポC-III(-482C→T)多型解析用プローブとして
AGCCACTGATGCNCGGTCT:配列番号59、又は
AGCCACTGATGCNTGGTCT:配列番号60。
【0034】
IL-10(-819T→C)多型解析用プローブとして
GTACAGGTGATGTANTATCTCTGTG:配列番号61、又は
GTACAGGTGATGTANCATCTCTGTG:配列番号62。
【0035】
PAI1(-668/4G→5G)多型解析用プローブとして
TGGACACGTGGGGGAGTCAG:配列番号63、又は
TGGACACGTGGGGAGTCAGC:配列番号64。
【0036】
以上の核酸プライマー、核酸プローブは単なる一例であって、核酸プライマーであれば目的の増幅反応を支障なく行える限度において、他方核酸プローブであれば目的のハイブリダイゼーション反応を支障なく行える限度において一部の塩基配列に改変が施されたものであってもよい。ここでの「一部の改変」とは、塩基の一部が欠失、置換、挿入及び/又は付加されていることを意味する。改変にかかる塩基数は、例えば1〜7個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは、1〜3個である。尚、このような改変は、原則として多型部位に対応する塩基以外の部分において行われる。ただし、解析対象の多型がストロメライシン1(-1171/5A→6A)多型又はPAI1(-668/4G→5G)多型の場合には、多型部位に対応する塩基の一部を改変して得られる核酸をプライマー又はプローブとして用いることも可能である。
【0037】
多型解析用核酸(プローブ、プライマー)には、解析方法に応じて適宜DNA断片又はRNA断片が用いられる。多型解析用核酸の塩基長はそれぞれの機能が発揮される長さであればよく、プライマーとして用いられる場合の塩基長の例としては10〜50bp程度、好ましくは15〜40bp程度、更に好ましくは15〜30bp程度である。
尚、プライマーとして用いられる場合には増幅対象に特異的にハイブリダイズし、目的のDNAフラグメントを増幅することができる限り鋳型となる配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。プローブの場合も同様に、検出対象の配列と特異的なハイブリダイズが行える限り、検出対象の配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1〜数個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個である。
多型解析用核酸(プライマー、プローブ)はホスホジエステル法など公知の方法によって合成することができる。尚、多型解析用核酸の設計、合成等に関しては成書(例えば、Molecular Cloning,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参考にすることができる。
【0038】
本発明における多型解析用核酸を予め標識物質で標識しておくことができる。このような標識化核酸を用いることにより、例えば増幅産物の標識量を指標として多型の解析を行うことができる。また、多型を構成する各遺伝子型の遺伝子における部分DNA領域をそれぞれ特異的に増幅するように設計された2種類のプライマーを互いに異なる標識物質で標識しておけば、増幅産物から検出される標識物質及び標識量によって核酸試料の遺伝子型を判別できる。このような標識化プライマーを用いた検出方法の具体例としては、多型を構成する各遺伝子型のセンス鎖にそれぞれ特異的にハイブリダイズする2種類の核酸プライマー(アリル特異的センスプライマー)をフルオレセインイソチオシアネートとテキサスレッドでそれぞれ標識し、これら標識化プライマーとアンチセンス鎖に特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとを用いて多型部位を含む部分DNA領域を増幅し、得られた増幅産物における各蛍光物質の標識量を測定して多型を検出する方法を挙げることができる。尚、ここでのアンチセンスプライマーを例えばビオチンで標識しておけば、ビオチンとアビジンとの特異的な結合を利用して増幅産物の分離を行うことができる。
【0039】
多型解析用核酸の標識に用いられる標識物質としては32Pなどの放射性同位元素、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、テキサスレッドなどの蛍光物質を例示でき、標識方法としてはアルカリフォスファターゼ及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた5'末端標識法、T4 DNAポリメラーゼやKlenow断片を用いた3'末端標識法、ニックトランスレーション法、ランダムプライマー法(Molecular Cloning,Third Edition,Chapter 9,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)などを例示できる。
【0040】
以上の多型解析用核酸を不溶性支持体に固定化した状態で用いることもできる。固定化に使用する不溶性支持体をチップ状、ビーズ状などに加工しておけば、これら固定化核酸を用いて多型の解析をより簡便に行うことができる。
【0041】
核酸試料は、被験者の血液、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪等から公知の抽出方法、精製方法を用いて調製することができる。多型解析対象の遺伝子を含むものであれば、任意の長さのゲノムDNAを核酸試料として用いることができる。また、必ずしも解析対象の遺伝子のすべてが一の核酸上に存在する核酸試料を用いる必要はない。即ち、本発明の核酸試料としては、解析対象の遺伝子のすべてが一の核酸上に存在しているもの、解析対象の遺伝子が二以上の核酸上に分かれて存在しているもののいずれをも用いることができる。尚、核酸試料において解析対象の遺伝子が完全な状態(即ち、遺伝子の全長が存在する状態)でなくても、少なくとも解析される多型部位が存在している限りにおいて断片的、部分的な状態であってもよい。
【0042】
各遺伝子多型の解析は遺伝子多型ごとに、又は複数若しくは全部を同時に行う。前者の場合としては、例えば被験者から得た核酸試料を解析対象の多型の数に合わせて分注し、各多型の解析を個別に行う。後者の場合としては、例えばDNAチップまたはマイクロアレイによって行うことができる。尚、ここでいう同時とは解析過程のすべての操作が同時に行われることのみを意味するのではなく、一部の操作(例えば、核酸増幅操作、プローブのハイブリダイズ、又は検出)が同時に行われる場合も含む。
【0043】
解析対象の遺伝子の転写産物であるmRNAを利用して各遺伝子の多型を解析することもできる。例えば、被験者の血液、尿等から解析対象である遺伝子のmRNAを抽出、精製した後、ノーザンブロット法(Molecular Cloning, Third Edition,7.42,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、ドットブロット法(Molecular Cloning, Third Edition,7.46,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、RT-PCR法(Molecular Cloning, Third Edition,8.46,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、DNAチップ(DNAアレイ)を用いた方法などを実行することにより、mRNAを出発材料として多型解析を行うことができる。
【0044】
さらに、上記の多型の中でアミノ酸の変化を伴うものについては、解析対象の遺伝子の発現産物を用いて多型解析を行うこともできる。この場合、多型部位に対応するアミノ酸を含んでいる限り、部分タンパク質、部分ペプチドであっても解析用試料として用いることができる。
【0045】
このような遺伝子の発現産物を用いて解析する方法としては、多型部位のアミノ酸を直接分析する方法、又は立体構造の変化を利用して免疫学的に分析する方法などが挙げられる。前者としては、周知のアミノ酸配列分析法(エドマン法を利用した方法)を用いることができる。後者としては、多型を構成するいずれかの遺伝子型を有する遺伝子の発現産物に特異的な結合活性を有するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いた、ELISA法(酵素結合免疫吸着定量法)、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、免疫拡散法等などを用いることができる。
【0046】
以上説明した本発明の検出方法を実行することにより得られる多型情報は、心筋梗塞の遺伝的リスクの診断に利用することができる。即ち、本発明は以上の検出方法によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び決定された核酸試料の遺伝子型から遺伝的リスクを求める工程を含んでなる、心筋梗塞のリスク診断方法も提供する。ここでの遺伝子型の決定は、典型的には、検出対象の多型に関して核酸試料の両アレルがいずれの遺伝子型をそれぞれ有するかを決定することである。コネキシン37(1019C→T)多型が検出対象である場合を例に採れば、典型的には核酸試料におけるコネキシン37の遺伝子型がTT(1019位塩基が両アレル共にTのホモ接合体)、CT(1019位塩基がCのアレルとTのアレルとのヘテロ接合体)、及びCC(1019位塩基が両アレル共にCのホモ接合体)の中のいずれであるかを決定することである。
【0047】
後述の実施例で得られた結果を考慮すれば、高精度かつ予知確率の高い心筋梗塞の遺伝的リスクの診断を可能とするために、例えばコネキシン37(1019C→T)多型であれば核酸試料の遺伝子型がTT又はCTのいずれかであるか、それともCCであるかが決定される。同様に、TNFα(-863C→A)多型であればAA又はCAのいずれかであるか、それともCCであるか、NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス(242C→T)多型であればTT又はCTのいずれかであるか、それともCCであるか、アンギオテンシノーゲン(-6G→A)多型であればAAであるか、それともGA又はGGのいずれかであるか、アポE-219(-219G→T)多型であればTTであるか、それともGT又はGGのいずれかであるか、PAFアセチルヒドロラーゼ(994G→T)多型であればTT又はGTのいずれかであるか、それともGGであるか、アポC-III(-482C→T)多型であればTTであるか、それともCT又はCCのいずれかであるか、TSP4(1186G→C)多型であればCC又はGCのいずれかであるか、それともGGであるか、IL-10(-819T→C)多型であればCCであるか、それともCT又はTTのいずれかであるか、IL-10(-592A→C)多型であればCCであるか、それともCA又はAAのいずれかであるか、ストロメライシン1(-1171/5A→6A)多型であれば6A/6A又は5A/6Aのいずれかであるか、それとも5A/5Aであるか、PAI1(-668/4G→5G)多型であれば5G/5G又は4G/5Gのいずれかであるか、それとも4G/4Gであるか、グリコプロテインIbα(1018C→T)多型であればTTであるか、それともCT又はCCのいずれかであるか、パラオキソナーゼ(584G→A)多型であればAAであるか、それともGA又はGGのいずれかであるか、アポE(4070C→T)多型であればTTであるか、それともCT又はCCのいずれかであるかが決定される。
【0048】
心筋梗塞の遺伝的リスクを診断することにより、将来的に心筋梗塞を罹患するおそれの程度(発症し易さ)、即ち発症リスク(発症脆弱性)が予測され、また遺伝子型という客観的指標に基づいて心筋梗塞の認定や病状の把握を行うことが可能となる。換言すれば、本発明の診断方法によって心筋梗塞の発症リスクの評価、心筋梗塞に罹患していることの認定、又は症状の把握を行うことができる。中でも発症リスクの評価を行えることは臨床上極めて有意義である。発症リスクを事前に知ることは心筋梗塞の一次予防に貢献し、適切な予防措置を講じることを可能とするからである。
本発明の診断方法によって得られる情報は、適切な治療法の選択や、予後の改善、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)の向上、又は発症リスクの低減などに利用することができる。
【0049】
本発明の診断方法を定期的に実行することにより、心筋梗塞の発症リスク等をモニターすることができる。このようなモニターの結果、ある外的因子(環境因子、薬剤の投与など)と発症リスク等の増加との間に相関関係が認められれば、当該外的因子を危険因子と認定し、この情報を基に発症リスク等の低減を図ることが可能と考えられる。
【0050】
本発明で得られる心筋梗塞の発症に関連する遺伝情報を利用して、心筋梗塞の治療(予防的処置を含む)を行うことができる。例えば、本発明の診断方法を実施した結果、解析対象の多型が心筋梗塞の発症リスクを高める遺伝子型であった場合に、発症リスクの低い遺伝子型を有する遺伝子を生体内に導入して発現させれば、当該遺伝子が発現することによって症状の軽減、発症の抑制、発症リスクの軽減などを期待できる。発症リスクの高い遺伝子型を有する遺伝子のmRNAに対するアンチセンス鎖を導入し、当該mRNAの発現を抑制する方法によっても、同様の治療効果が期待される。
【0051】
遺伝子又はアンチセンス鎖の導入は、例えば、遺伝子導入用プラスミド又はウイルスベクターを用いた方法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、超音波マイクロバブル(Lawrie, A., et al. Gene Therapy 7, 2023-2027 (2000))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann,M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))等の方法により行うことができる。これらの方法を利用して、所望の遺伝子などを生体に対して直接的に導入(in vivo法)又は間接的に導入(ex vivo法)することができる。
【0052】
本発明の第2の局面は、上述した本発明の検出方法又は診断方法に使用されるキット(遺伝子型検出用キット、又は心筋梗塞診断用キット)を提供する。かかるキットには、上記の(1)〜(10)の多型からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析するための核酸(多型解析用核酸)が含まれる。又は上記の(11)〜(15)の多型からなるグループより選択される二つ以上の多型を解析するための核酸(多型解析用核酸)が含まれる。更に他の態様としては、上記の(15)の多型を解析するための核酸が含まれてキットが構成される。
多型解析用核酸は、それが適用される解析方法(上述したアリル特異的核酸等を用いたPCR法を利用する方法、PCR-RFLP法、PCR-SSCP、TaqMan-PCR法、Invader法等)において、解析対象の多型部分を含むDNA領域又はそれに対応するmRNAを特異的に増幅できるもの(プライマー)又は特異的に検出できるもの(プローブ)として設計される。以下に、本発明において提供されるキットの具体例を示す。
【0053】
以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の核酸を含んでなる遺伝子型検出用キット、
(1)1019位塩基がCであるコネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は1019位塩基がTであるコネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(2)-863位塩基がCである腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-863位塩基がAである腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(3)242位塩基がCであるNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は242位塩基がTである腫瘍壊死因子α遺伝子の242位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(4)-6位塩基がGであるアンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-6位塩基がAであるアンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(5)-219位塩基がGであるアポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-219位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(6)994位塩基がGである血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は994位塩基がTである血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(7)-482位塩基がCであるアポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-482位塩基がTであるアポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(8)1186位塩基がGであるトロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は1186位塩基がCであるトロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(9)-819位塩基がTであるインターロイキン10遺伝子の-819位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-819位塩基がCであるインターロイキン10遺伝子の-819位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、及び
(10)-592位塩基がAであるインターロイキン10遺伝子の-592位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-592位塩基がCであるインターロイキン10遺伝子の-592位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸。
以上では、(1)〜(10)からなるグループから二つ以上の核酸を選択してキットを構成しているが、(1)〜(10)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸を選択してキットを構成してもよい。例えば、(1)、(5)(6)、(8)、(9)及び(10)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸)より二つ以上の核酸を選択してキットを構成したり、(1)、(5)、(6)、(8)及び(9)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位5位までの多型を解析するための核酸)より二つ以上の核酸を選択してキットを構成することができる。
【0054】
以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の核酸を含んでなる遺伝子型検出用キット、
(11)-1171位から3'方向にAが5個連続して存在するストロメライシン1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-1171位から3'方向にAが6個連続して存在するストロメライシン1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(12)-668位から3'方向に連続して4個のGが存在するプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は-668位から3'方向に連続して5個のGが存在するプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(13)1018位塩基がCであるグリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は1018位塩基がTであるグリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、
(14)584位塩基がGであるパラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は584位塩基がAであるパラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、及び
(15)4070位塩基がCであるアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は4070位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸。
以上では、(11)〜(15)からなるグループから二つ以上の核酸を選択してキットを構成しているが、(11)〜(15)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸を選択してキットを構成してもよい。例えば、(11)、(12)、(14)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成したり、(11)、(12)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位3位までの多型を解析するための核酸)より二つ以上の核酸を選択してキットを構成することができる。
【0055】
以下の核酸を含んでなる遺伝子型検出用キット、
4070位塩基がCであるアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸、又は4070位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域に相補的な配列を有する核酸。
【0056】
以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
(1)核酸試料中のコネキシン37遺伝子の1019位塩基がCである場合にのみ、該コネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のコネキシン37遺伝子の1019位塩基がTである場合にのみ、該コネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(2)核酸試料中の腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基がCである場合にのみ、該腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中の腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基がAである場合にのみ、該腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(3)核酸試料中のNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基がCである場合にのみ、該NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基がTである場合にのみ、該NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(4)核酸試料中のアンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基がGである場合にのみ、該アンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のアンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基がAである場合にのみ、該アンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(5)核酸試料中のアポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基がGである場合にのみ、該アポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のアポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基がTである場合にのみ、該アポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(6)核酸試料中の血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基がGである場合にのみ、該血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中の血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基がTである場合にのみ、該血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(7)核酸試料中のアポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基がCである場合にのみ、該アポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のアポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基がTである場合にのみ、該アポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(8)核酸試料中のトロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基がGである場合にのみ、該トロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のトロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基がCである場合にのみ、該トロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(9)核酸試料中のインターロイキン10遺伝子の-819位塩基がTである場合にのみ、該インターロイキン10遺伝子の-819位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のインターロイキン10遺伝子の-819位塩基がCである場合にのみ、該インターロイキン10遺伝子の-819位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、及び
(10)核酸試料中のインターロイキン10遺伝子の-592位塩基がAである場合にのみ、該インターロイキン10遺伝子の-592位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のインターロイキン10遺伝子の-592位塩基がCである場合にのみ、該インターロイキン10遺伝子の-592位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット。
以上では、(1)〜(10)からなるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成しているが、(1)〜(10)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成してもよい。例えば、(1)、(5)、(6)、(8)、(9)及び(10)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成したり、(1)、(5)、(6)、(8)及び(9)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位5位までの多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成することができる。
【0057】
以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
(11)核酸試料中のストロメライシン1遺伝子において-1171位から3'方向にAが5個連続して存在する場合にのみ、該ストロメライシン1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のストロメライシン1遺伝子において-1171位から3'方向にAが6個連続して存在する場合にのみ、該ストロメライシン1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(12)核酸試料中のプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子において-668位から3'方向にGが4個連続して存在する場合にのみ、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子において-668位から3'方向にGが5個連続して存在する場合にのみ、該プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の該配列部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(13)核酸試料中のグリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基がCである場合にのみ、該グリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のグリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基がTである場合にのみ、該グリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、
(14)核酸試料中のパラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基がGである場合にのみ、該パラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のパラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基がAである場合にのみ、該パラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、及び
(15)核酸試料中のアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基がCである場合にのみ、該アポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基がTである場合にのみ、該アポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット。
以上では、(11)〜(15)からなるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成しているが、(11)〜(15)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成してもよい。例えば、(11)、(12)、(14)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成したり、(11)、(12)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位3位までの多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成することができる。
【0058】
以下の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
核酸試料中のアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基がCである場合にのみ、該アポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット、又は核酸試料中のアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基がTである場合にのみ、該アポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セット。
【0059】
以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
(1)コネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、1019位塩基がCであるコネキシン37遺伝子において1019位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は1019位塩基がTであるコネキシン37遺伝子において1019位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、コネキシン37遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-863位塩基がCである腫瘍壊死因子α遺伝子において-863位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマー及び/又は-863位塩基がAである腫瘍壊死因子α遺伝子において-863位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、腫瘍壊死因子α遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、242位塩基がCであるNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子において-863位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマー及び/又は242位塩基がTであるNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子において242位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(4)アンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-6位塩基がGであるアンギオテンシノーゲン遺伝子において-6位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマー及び/又は-6位塩基がAであるアンギオテンシノーゲン遺伝子において-6位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、アンギオテンシノーゲン遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(5)アポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-219位塩基がGであるアポリポプロテインE遺伝子において-219位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は-219位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子において-219位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、アポリポプロテインE遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、994位塩基がGである血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子において994位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は994位塩基がTである血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子において994位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(7)アポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-482位塩基がCであるアポリポプロテインC-III遺伝子において-482位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は-482位塩基がTであるアポリポプロテインC-III遺伝子において-482位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、アポリポプロテインC-III遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(8)トロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、1186位塩基がGであるトロンボスポンジン4遺伝子において1186位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は1186位塩基がCであるトロンボスポンジン4遺伝子において1186位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、トロンボスポンジン4遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(9)インターロイキン10遺伝子の-819位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-819位塩基がTであるインターロイキン10遺伝子において-819位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は1186位塩基がCであるインターロイキン10遺伝子において-819位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、インターロイキン10遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、及び
(10)インターロイキン10遺伝子の-592位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-592位塩基がAであるインターロイキン10遺伝子において-592位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマー及び/又は-592位塩基がCであるインターロイキン10遺伝子において-592位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、インターロイキン10遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、からなる核酸セット。
以上では、(1)〜(10)からなるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成しているが、(1)〜(10)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成してもよい。例えば、(1)、(5)、(6)、(8)、(9)及び(10)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成したり、(1)、(5)、(6)、(8)及び(9)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位5位までの多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成することができる。
【0060】
以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
(11)ストロメライシン1遺伝子の-1171位における多型部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、-1171位から3'方向にAが5個連続して存在するストロメライシン1遺伝子において当該配列部分を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は-1171位から3'方向にAが6個連続して存在するストロメライシン1遺伝子において当該配列部分を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、ストロメライシン1遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の-668位における多型部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された一組のプライマーと、並びに-668位から3'方向にGが4個連続して存在するプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子において該配列部分を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするプローブ及び/又は-668位から3'方向にGが5個連続して存在するプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子において該配列部分を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするプローブと、からなる核酸セット、
(13)グリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、1018位塩基がCであるグリコプロテインIbα遺伝子において1018位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は1018位塩基がTであるグリコプロテインIbα遺伝子において1018位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、グリコプロテインIbα遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、
(14)パラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、584位塩基がGであるパラオキソナーゼ遺伝子において584位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は584位塩基がAであるパラオキソナーゼ遺伝子において584位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、パラオキソナーゼ遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット、及び
(15)アポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、4070位塩基がCであるアポリポプロテインE遺伝子において4070位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は4070位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子において4070位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、アポリポプロテインE遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット。
以上では、(11)〜(15)からなるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成しているが、(11)〜(15)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成してもよい。例えば、(11)、(12)、(14)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成したり、(11)、(12)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位3位までの多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成することができる。
【0061】
以下の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
アポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、4070位塩基がCであるアポリポプロテインE遺伝子において4070位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー及び/又は4070位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子において4070位塩基を含む部分DNA領域、に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、アポリポプロテインE遺伝子の一部領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット。
【0062】
以下の(1)〜(10)からなるグループより選択される二つ以上の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
(1)1019位塩基がCであるコネキシン37遺伝子のアンチセンス鎖において1019位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、1019位塩基がTであるコネキシン37遺伝子のアンチセンス鎖において1019位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びコネキシン37遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてコネキシン37遺伝子の1019位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(2)-863位塩基がCである腫瘍壊死因子α遺伝子のセンス鎖において-863位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、-863位塩基がAである腫瘍壊死因子α遺伝子のセンス鎖において-863位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及び腫瘍壊死因子α遺伝子のアンチセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されて腫瘍壊死因子α遺伝子の-863位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(3)242位塩基がCであるNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子のセンス鎖において242位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、242位塩基がTであるNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子のセンス鎖において242位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子のアンチセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてNADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の242位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(4)-6位塩基がGであるアンギオテンシノーゲン遺伝子のセンス鎖において-6位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、-6位塩基がAであるアンギオテンシノーゲン遺伝子のセンス鎖において-6位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びアンギオテンシノーゲン遺伝子のアンチセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてアンギオテンシノーゲン遺伝子の-6位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(5)-219位塩基がGであるアポリポプロテインE遺伝子のアンチセンス鎖において-219位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、-219位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子のアンチセンス鎖において-219位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びアポリポプロテインE遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてアポリポプロテインE遺伝子の-219位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(6)994位塩基がGである血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子のアンチセンス鎖において994位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、994位塩基がTである血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子のアンチセンス鎖において994位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及び血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されて血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の994位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(7)-482位塩基がCであるアポリポプロテインC-III遺伝子のアンチセンス鎖において-482位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズする第1核酸と、-482位塩基がTであるアポリポプロテインC-III遺伝子のアンチセンス鎖において-482位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズする第2核酸と、アポリポプロテインC-III遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてアポリポプロテインC-III遺伝子の-482位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、前記第1核酸及び前記第3核酸を用いて増幅された核酸に対して特異的にハイブリダイズする第4核酸と、並びに前記第2核酸及び前記第3核酸を用いて増幅された核酸に対して特異的にハイブリダイズする第5核酸と、からなる核酸セット、
(8)1186位塩基がGであるトロンボスポンジン4遺伝子のアンチセンス鎖において1186位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、1186位塩基がCであるトロンボスポンジン4遺伝子のアンチセンス鎖において1186位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びトロンボスポンジン4遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてトロンボスポンジン4遺伝子の1186位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(9)-819位塩基がTであるインターロイキン10遺伝子のアンチセンス鎖において-819位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズする第1核酸と、-819位塩基がCであるインターロイキン10遺伝子のアンチセンス鎖において-819位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズする第2核酸と、及びインターロイキン10遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてインターロイキン10遺伝子の-819位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、前記第1核酸及び前記第3核酸を用いて増幅された核酸に対して特異的にハイブリダイズする第4核酸と、並びに前記第2核酸及び前記第3核酸を用いて増幅された核酸に対して特異的にハイブリダイズする第5核酸と、からなる核酸セット、及び
(10)-592位塩基がAであるインターロイキン10遺伝子のセンス鎖において-592位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、-592位塩基がCであるインターロイキン10遺伝子のセンス鎖において-592位塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びインターロイキン10遺伝子のアンチセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてインターロイキン10遺伝子の-592位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット。
以上では、(1)〜(10)からなるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成しているが、(1)〜(10)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成してもよい。例えば、(1)、(5)、(6)、(8)、(9)及び(10)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成したり、(1)、(5)、(6)、(8)及び(9)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位5位までの多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成することができる。
【0063】
以下の(11)〜(15)からなるグループより選択される二つ以上の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
(11)-1171位から3'方向にAが5個連続して存在するストロメライシン1遺伝子のアンチセンス鎖において該配列部分に対応する配列を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、-1171位から3'方向にAが6個連続して存在するストロメライシン1遺伝子のアンチセンス鎖において該配列部分に対応する配列を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びストロメライシン1遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてストロメライシン1遺伝子の-1171位における多型部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の-668位における多型部分を含む部分DNA領域を特異的に増幅するように設計された一組の核酸(第1核酸及び第2核酸)と、-668位から3'方向にGが4個連続して存在するプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子を鋳型とし且つ前記一組の核酸を用いて増幅される核酸に対して特異的にハイブリダイズする第3核酸と、及び-668位から3'方向にGが5個連続して存在するプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子を鋳型とし且つ前記一組の核酸を用いて増幅される核酸に対して特異的にハイブリダイズする第4核酸と、からなる核酸セット、
(13)1018位塩基がCであるグリコプロテインIbα遺伝子のアンチセンス鎖において1018位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、1018位塩基がTであるグリコプロテインIbα遺伝子のアンチセンス鎖において1018位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びグリコプロテインIbα遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてグリコプロテインIbα遺伝子の1018位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、
(14)584位塩基がGであるパラオキソナーゼ遺伝子のアンチセンス鎖において584位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、584位塩基がAであるパラオキソナーゼ遺伝子のアンチセンス鎖において584位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びパラオキソナーゼ遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてパラオキソナーゼ遺伝子の584位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット、及び
(15)4070位塩基がCであるアポリポプロテインE遺伝子のアンチセンス鎖において4070位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、4070位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子のアンチセンス鎖において4070位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びアポリポプロテインE遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット。
以上では、(11)〜(15)からなるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成しているが、(11)〜(15)の二つ以上を任意に選択してグループとし、かかるグループから二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成してもよい。例えば、(11)、(12)、(14)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が1以上の多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成したり、(11)、(12)及び(15)からなるグループ(後述の実施例においてオッズ比が上位3位までの多型を解析するための核酸セット)より二つ以上の核酸セットを選択してキットを構成することができる。
【0064】
以下の核酸セットを含んでなる遺伝子型検出用キット、
4070位塩基がCであるアポリポプロテインE遺伝子のアンチセンス鎖において4070位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第1の標識物質で標識された第1核酸と、4070位塩基がTであるアポリポプロテインE遺伝子のアンチセンス鎖において4070位塩基に対応する塩基を含む部分領域、に対して特異的にハイブリダイズし且つ第2の標識物質で標識された第2核酸と、及びアポリポプロテインE遺伝子のセンス鎖の一部領域に対して特異的にハイブリダイズし且つ前記第1核酸/又は前記第2核酸とともに使用されてアポリポプロテインE遺伝子の4070位塩基を含む部分DNA領域を特異的に増幅することが可能な第3核酸と、からなる核酸セット。
【0065】
以上のキットにおいては、キットの使用方法に応じた一又は二以上の試薬(バッファー、反応用試薬、検出用試薬など)などを組み合わせてもよい。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0066】
<実施例1> 遺伝子多型の選択
PubMed[National Center for Biological Information (NCBI)], Online Mendelian inheritance in Men (NCBI), Single Nucleotide Polymorphism (NCBI)などの数種類の公的データベースを用いて、今までに報告された遺伝子の中から血管生物学、血小板・白血球生物学、凝固線溶系、脂質・糖・その他の代謝因子などの総合的側面から冠動脈硬化、冠動脈攣縮、高血圧、糖尿病、高脂血症などとの関連が推定される71遺伝子を抜粋した。さらにこれらの遺伝子に存在する多型の中でプロモーター領域やエクソンに存在するもの、あるいはスプライスドナー部位やアクセプター部位に位置し、遺伝子産物の機能変化との関連が予想されるものを中心に112多型を選択した(図1及び図2)。
【0067】
<実施例2> 遺伝子多型の決定
対象は日本人男女5061例(男性3309例、女性1752例)で、1994年7月から2001年12月の間に15参加施設に外来受診または入院した症例である。心筋梗塞は2819例(男性2003例、女性816例)で、全例に冠動脈造影および左室造影を行った。心筋梗塞の診断は典型的な心電図変化および血清CK、GOT、LDHの上昇により行った。さらに左室造影による壁運動異常およびそれに対応する左主幹動脈あるいは主要な冠動脈の狭窄により心筋梗塞の確定診断を行った。
【0068】
対照は2242例(男性1306例、女性936例)で、参加施設を受診し冠動脈疾患の従来の危険因子、即ち喫煙(1日10本以上)、肥満(body mass index≧26 kg/m2)、高血圧(収縮期血圧≧140 mmHgまたは拡張期血圧≧90 mmHgあるいはその両方)、糖尿病(空腹時血糖≧126 mg/dLまたはヘモグロビンA1c≧ 6.5%あるいはその両方)、高脂血症(血清総コレステロール≧220 mg/dL)、高尿酸血症(男性では血清尿酸≧7.7 mg/dL、女性では血清尿酸≧5.5 mg/dL)の少なくとも一つを有するが冠動脈疾患を有しない症例である。これらの対照は安静時心電図が正常であり、運動負荷試験でも心筋虚血性変化は認められなかった。
【0069】
それぞれの対象から静脈血7 mLを50 mmol/L EDTA-2Naを含むチューブに採血し、ゲノムDNAをDNA抽出キット(Qiagen, Chatsworth, CA)を用いて抽出した。71候補遺伝子112多型の決定は蛍光・発光法によるアリル特異的プライマー・プローブ測定システム(東洋紡ジーンアナリシス、敦賀、日本)により行った(図3及び図4)。多型部位を含むDNA断片は5'末端にフルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate:FITC)またはテキサスレッド(Texas red:TxR)で標識した2種類のアリル特異的センスプライマー(またはアンチセンスプライマー)と5'末端をビオチンで標識したアンチセンスプライマー(またはセンスプライマー)を用いてpolymerase chain reaction (PCR)により増幅した。また別法として、多型部位を含むDNA断片は2種類のアリル特異的センスプライマーと5'末端をビオチンで標識したアンチセンスプライマーを用いて、またはセンスプライマーと5'末端をビオチンで標識したアンチセンスプライマーを用いてPCRにより増幅した。反応溶液 (25μL) には20 ngのDNA, 5 pmolの各プライマー, 0.2 mmol/Lの各デオキシヌクレオシド三リン酸(dATP, dGTP, dCTP, dTTP), 1-4 mmol/LのMgCl2, 1 UのDNAポリメラーゼ(rTaq or KODplus; 東洋紡、大阪、日本) を含み、それぞれのDNAポリメラーゼ緩衝液を用いた。 増幅プロトコールは初期変性が95℃、5分;35-45 cyclesで変性が95℃、30分、アニーリングが55-67.5℃で30秒、伸展が72℃で30秒、そして最終伸展を72℃で2分とした。
【0070】
蛍光法による遺伝子型の決定では、増幅したDNA を96穴プレートの各ウェルでストレプトアビジン結合磁気ビーズを含む溶液中で室温でインキュベートした。このプレートを磁気スタンド上に置き、各ウェルから上清を採取し、0.01 M NaOHを含む96穴プレートの各ウェルに移した後、マイクロプレートリーダーによりFITCは励起・蛍光波長が485と538 nm、TxRは励起・蛍光波長が584 と612 nmで蛍光を測定した。また発光法による遺伝子型の決定では、増幅したDNA を0.3 M NaOH で変性させ、96穴プレートの各ウェルの底面に固定したいずれかのアリル特異的補足プローブと35-40%ホルムアミドを含むハイブリダイゼーション緩衝液で37℃、30分間ハイブリダイゼーションを行った。ウェルを十分に洗浄した後、アルカリフォスファターゼ結合ストレプトアビジンを各ウェルに加え、プレートを37℃で15分間振騰した。ウェルを再度洗浄し、0.8 mM 2-(4-iodophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium (monosodium salt)と0.4 mM 5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate p-toluidine saltを含む溶液を加えた後、吸光度 450 nmを測定した。
【0071】
以上の方法による遺伝子型決定の精度を確認するために、50人のDNAサンプルを無作為に選びPCR-制限酵素断片長多型(PCR-RFLP)法またはPCR産物の直接塩基配列決定法を行った。いずれのサンプルにおいてもアリル特異的プライマー・プローブ測定システムにより決定された遺伝子型はPCR-制限酵素断片長多型法またはDNA塩基配列決定法によって決定されたものと同一であった。
【0072】
尚、以下の関連解析における統計解析は次のように行った。まず、データは平均±標準偏差で表示した。臨床データは心筋梗塞患者と対照との間でunpaired Student's t test または Mann-Whitney U testを用いて比較した。3群間のデータはone-way analysis of variance またはKruskal-Wallis testならびにScheffe's post-hoc testにより比較した。定性的データは chi-square testで検定した。アリル頻度は gene counting methodにより推定し、Hardy-Weinberg equilibriumから逸脱しているかどうかはchi-square test によって検定した。また、危険因子を補正した多因子ロジスティック回帰分析を行った。心筋梗塞は従属因子とし、年齢、body mass index (BMI)、喫煙状況(0=非喫煙,1=喫煙)、代謝因子 (0=高血圧・糖尿病・高コレステロール血症・高尿酸血症の経歴なし、1 = 経歴あり)、それぞれの多型の遺伝子型を独立因子とした。それぞれの遺伝子型はdominant(優性), recessive(劣性), additive (付加)遺伝モデルで解析し、P値、オッズ比、95%信頼区間(CI)を算出した。組み合わせ遺伝子型解析では、ロジスティック回帰分析のstepwise forward selection method によりそれぞれの遺伝子型についてのオッズ比を算出した。
【0073】
<実施例3> 心筋梗塞関連多型の選択、及び心筋梗塞診断方法の開発
最初に71遺伝子112多型に関するスクリーニング関連解析を男性451例(心筋梗塞219例、対照232例)、女性458例(心筋梗塞226例、対照232例)について行った。これらの症例は全体の5061例から無作為に選んだ。
以上の方法でスクリーニング関連解析を行った909例(男性451例、女性458例)の背景データを図5に示す。男性においては、年齢、BMI、および従来の冠動脈疾患の危険因子である喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高尿酸血症などの頻度には心筋梗塞群と対照群との間に有意差を認めなかった。 女性では、年齢、BMI、および高血圧、高コレステロール血症、高尿酸血症などの頻度には心筋梗塞群と対照群との間に有意差を認めなかったが、喫煙および糖尿病の頻度は心筋梗塞群では対照群に比べ有意に高値であった。112多型と心筋梗塞とのスクリーニング関連解析において、年齢、BMI、および喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高尿酸血症の頻度を補正した多因子ロジスティック回帰分析により男性で19個、女性で18個の一塩基多型 (SNP) が心筋梗塞との関連を示した(図6)。尚、スクリーニング関連解析においてはロジスティック回帰分析においてP値<0.1 の場合関連ありとするカテゴリーを用いた。これらのSNPの中で、4個のSNPが男女両方の心筋梗塞と関連し、他のSNPは男女いずれか一方の心筋梗塞と関連した。
【0074】
次に、これらの多型の遺伝子型を残りの4152例(男性心筋梗塞1784例、男性対照1074例、女性心筋梗塞590例、女性対照704 例)について決定した。次に、これらの多型と心筋梗塞との関連についての大規模関連解析を合計5061例(男性心筋梗塞2003例、男性対照1306例、女性心筋梗塞816例、女性対照936例)において遂行した。
【0075】
大規模関連解析における全5061例(男性3309、女性1752例)の背景データを図7に示す。男性では、年齢、BMIおよび喫煙の頻度には心筋梗塞群と対照群との間に有意差を認めなかったが、高血圧、高尿酸血症は心筋梗塞群が対照群に比べて有意に低く、糖尿病と高コレステロール血症の頻度は心筋梗塞群が対照群に比べ有意に高かった。女性では、年齢および高血圧の頻度には心筋梗塞群と対照群との間に有意差を認めなかったが、BMIおよび喫煙、糖尿病、高コレステロール血症、高尿酸血症の頻度は心筋梗塞群が対照群に比べ有意に高かった。男性19 SNP、女性18 SNPと心筋梗塞との大規模関連解析において、年齢、BMI、および喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高尿酸血症の頻度を補正した多因子ロジスティック回帰分析により男性で10個、女性で5個のSNPが心筋梗塞と有意な関連を示した(dominant または recessive 遺伝モデルのいずれかがP<0.05)(図8)。これらのSNPについての遺伝子型の分布およびロジスティック回帰分析の結果を図8と図9にそれぞれ示す。
【0076】
本実施例では多因子ロジスティック回帰分析のstepwise forward selection method を行った(図10)。この方法では、図9に示したそれぞれのSNPの心筋梗塞との関連におけるP値に基づいてdominant又はrecessive遺伝モデルを採用した。これらの遺伝子の染色体上の遺伝子座を図10に示す。インターロイキン10(Interleukin-10)遺伝子の-819T→C多型と-592A→C多型は連鎖不平衡にあった [pairwise linkage disequilibrium coefficient, D'(D/Dmax), of 0.406; standardized linkage disequilibrium coefficient, r, of 0.396; P < 0.0001, chi-square test]。腫瘍壊死因子α(Tumor necrosis factor-α)遺伝子と血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(platelet-activating factor acetylhydrolase)遺伝子の遺伝子座は近接しているが、両者の多型における遺伝子型の分布には関連を認めなかった。同様に、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1 )遺伝子とparaoxonase 遺伝子の遺伝子座は近接しているが、両者の多型における遺伝子型の分布には関連を認めなかった。
【0077】
Stepwise forward selection methodにより算出した組み合わせ遺伝子型による心筋梗塞罹患のオッズ比を、男性は図11 と図13(A)に、女性は図12と図13(B)に示す。男性では、5個のSNP(TSP4(1186G→C)多型、コネキシン37(1019C→T)多型、PAFアセチルヒドロラーゼ(994G→T)多型、アンギオテンシノーゲン(-6G→A)多型、腫瘍壊死因子α(-863C→A)多型) の組み合わせ遺伝子型により、最大のオッズ比が4.50となった(図11、図13(A)参照)。さらに5個のSNP(NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス(242C→T)多型、アポE(-219G→T)多型、アポC-III(-482C→T)多型、IL-10(-819T→C)多型、IL-10(-592A→C)多型)を加え全部で10個のSNPとした場合には最大のオッズ比が11.26となった(図10と図13(A)参照)。女性では、5個のSNP(アポE(4070C→T)多型、グリコプロテインIbα(1018C→T)多型、ストロメライシン1(-1171/5A→6A)多型、PAI1(-668/4G→5G)多型、パラオキソナーゼ(584G→A)多型)の組み合わせ遺伝子型により、最大のオッズ比が88.51となった(図12と図13(B)参照)。
【0078】
以上のように、本発明者らは71候補遺伝子から選択した112多型と心筋梗塞との関連について検討し、5061例の大規模関連解析により心筋梗塞と関連するSNPを男性で10個、女性で5個同定した。さらに、多因子ロジスティック回帰分析のstepwise forward selection methodにより男性では最大オッズ比11.26、女性では最大オッズ比88.51を呈する心筋梗塞リスク診断方法(心筋梗塞の遺伝的リスク診断システム)を開発した。
【0079】
心筋梗塞の主な原因は動脈硬化性冠動脈疾患であり、これにより動脈内径の血行力学的な有意狭窄を生じ、血管の収縮拡張調節の異常を来し、動脈硬化巣の破裂や血栓形成を起こしやすくする。本発明者らは血管生物学、血小板・白血球生物学、凝固・線溶系、脂質・糖・その他の代謝因子などの包括的視点に基づいて71個の候補遺伝子を選択した。実際、心筋梗塞と関連した遺伝子群はその発症病態において多彩な役割を有していた。すなわち、血管生物学(connexin 37, NADH/NADPH oxidase p22 phox, and thrombospondin 4)、血管の炎症(tumor necrosis factor-α, platelet-activating factor acetylhydrolase, and interleukin-10)、高血圧(angiotensinogen)、脂質代謝(apolipoprotein E and C-III and paraoxonase)、血小板機能(glycoprotein Ibα)、基質代謝(stromelysin-1)、線溶系(PAI-1)などである(Boerma M, Forsberg L, van Zeijl L, et al. A genetic polymorphism in connexin 37 as a prognostic marker for atherosclerotic plaque development. J Intern Med 1999;246:211-218.、Inoue N, Kawashima S, Kanazawa K, Yamada S, Akita H, Yokoyama M. Polymorphism of the NADH/NADPH oxidase p22 phox gene in patients with coronary artery disease. Circulation 1998;97:135-137.、Topol EJ, McCarthy J, Gabriel S, et al. Single nucleotide polymorphisms in multiple novel thrombospondin genes may be associated with familial premature myocardial infarction. Circulation 2001;104:2641-2644.、Skoog T, van't Hooft FM, Kallin B, et al. A common functional polymorphism (C→A substitution at position -863) in the promoter region of the tumor necrosis factor-α (TNF-α) gene associated with reduced circulating level of TNF-α. Hum Mol Genet 1999;8:1443-1449.、Yamada Y, Ichihara S, Fujimura T, Yokota M. Identification of the G994→T missense mutation in exon 9 of the plasma platelet-activating factor acetylhydrolase gene as an independent risk factor for coronary artery disease in Japanese men. Metabolism 1998;47:177-181.、Koch W, Kastrati A, Bottiger C, Mehilli J, von Beckerath N, Schomig A. Interleukin-10 and tumor necrosis factor gene polymorphisms and risk of coronary artery disease and myocardial infarction. Atherosclerosis 2001;159:137-144.、Inoue I, Nakajima T, Williams CS, et al. A nucleotide substitution in the promoter of human angiotensinogen is associated with essential hypertension and affects basal transcription in vitro. J Clin Invest 1997;99:1786-1797.、Lambert J-C, Brousseau T, Defosse V, et al. Independent association of an APOE gene promoter polymorphism with increased risk of myocardial infarction and decreased APOE plasma concentreations−the ECTIM study. Hum Mol Genet 2000;9:57-61.、Eto M, Watanabe K, Makino I. Increased frequency of apolipoprotein epsilon 2 and epsilon 4 alleles in patients with ischemic heart disease. Clin Genet 1989;36:183-188.、Ruiz J, Blanche H, James RW, et al. Gln-Arg192 polymorphism of paraoxonase and coronary heart disease in type 2 diabetes. Lancet 1995;346:869-72.、Murata M, Matsubara Y, Kawano K, et al. Coronary artery disease and polymorphisms in a receptor mediating shear stress-dependent platelet activation. Circulation 1997;96:3281-3286.、Eriksson P, Kallin B, van't Hooft FM, Bavenholm P, Hamsten A. Allele-specific increase in basal transcription of the plasminogen-activator inhibitor 1 gene is associated with myocardial infarction. Proc Natl Acad Sci USA 1995;92:1851-1855.、Ye S, Watts GF, Mandalia S, Humphries SE, Henney AM. Preliminary report: genetic variation in the human stromelysin promoter is associated with progression of coronary atyherosclerosis. Br Heart J 1995;73:209-215.)。本発明者らは112遺伝子多型を909 例において検討し、さらに19個のSNPを男性2858例で、18個のSNPを女性1294例で検討した結果、合計で179,402個の遺伝子型を決定した。この遺伝子型決定数は今まで報告された遺伝子多型の関連解析の中で最大のものである。以上の実施例で示された心筋梗塞リスク診断方法は最大オッズ比が男性で11.26、女性で88.51を呈し、これも今までに報告された大規模関連解析の中で最大のオッズ比である。
【0080】
心筋梗塞と関連した15個のSNPの中で、アポリポプロテインE(apolipoprotein E) 遺伝子の4070T→C (Arg158Cys)多型が女性の心筋梗塞リスクとして最大のオッズ比を示した。アポリポプロテインEはカイロミクロンと超低密度リポプロテイン(very low density lipoprotein:VLDL)レムナントの主要構成成分であり、肝臓での受容体によるこれらのリポタンパクの取り込みに際し、リガンドとして働く(Mahley RW. Apolipoprotein E: cholesterol transport protein with expanding role in cell biology. Science 1998;240:622-630.)。アポリポプロテインE遺伝子の158Cys (ε2)アリルはレムナントリポタンパクの肝臓の受容体への結合異常を来し(Schneider WJ, Kovanen PT, Brown MS, et al. Familial dysbetalipoproteinemia. Abnormal binding of mutant apolipoprotein E to low density lipoprotein receptors of human fibroblasts and membranes from liver and adrenal of rats, rabbits, and cows. J Clin Invest 1981;68:1075-1085.)、血漿からの除去の遅延を生ずる(Gregg RE, Zech LA, Schaefer EJ, Brewer HB Jr. Type III hyperlipoproteinemia: defective metabolism of an abnormal apolipoprotein E. Science 1981;211:584-586.)。家族性dysbetalipoproteinemia (FD, またはIII型高リポタンパク血症)患者の多くは、Arg158Cys多型のホモ接合体である(Breslow JL, Zannis VI, SanGiacomo TR, Third JL, Tracy T, Glueck CJ. Studies of familial type III hyperlipoproteinemia using as a genetic marker the apo E phenotype E2/2. J Lipid Res 1982;23:1224-1235.)。しかし、158Cys/Cysホモ接合体のうち わずか1〜4%しか家族性dysbetalipoproteinemiaを発症しないことから、他の遺伝因子あるいは環境因子が本疾患の発症に必要であると思われる。家族性dysbetalipoproteinemia患者における動脈硬化性レムナントリポタンパク(β-VLDL)の血漿中への蓄積(Mahley RW. Apolipoprotein E: cholesterol transport protein with expanding role in cell biology. Science 1998;240:622-630.)あるいはヒト158Cys/Cysを過剰発現したマウス(Sullivan PM, Mezdour H, Quarfordt SH, Maeda N. Type III hyperlipoproteinemia and spontaneous atherosclerosis in mice resulting from gene replacement of mouse Apoe with human APOE*2. J Clin Invest 1998;102:130-135.) は、動脈硬化の進展促進が認められる。Etoらはε2 (158Cys)アリルが日本人の男性(オッズ比 2.44, ε2 allele 対ε3/ε3型) および女性 (オッズ比 3.03)で冠動脈疾患と関連することを報告した(Eto M, Watanabe K, Makino I. Increased frequency of apolipoprotein epsilon 2 and epsilon 4 alleles in patients with ischemic heart disease. Clin Genet 1989;36:183-188.)。TT 型 (158Cys/Cys) が心筋梗塞罹患の危険因子となるという本発明者らの結果は、Etoらの結果と一致する。
【0081】
以上の実施例で検討したSNPのいくつかは、その近傍に存在する心筋梗塞発症と真に関連する遺伝子のSNPと連鎖不平衡にある可能性がある。しかしながら、男性で9個、女性で5個の遺伝子が日本人の心筋梗塞感受性遺伝子座であることが示された。さらに、組み合わせ遺伝子型により信頼性および予知確率の高いリスク診断が可能になった。このことから、本発明の診断方法は心筋梗塞の一次予防および中高年者の生活の質の改善ならびに医療費の削減に貢献できることが期待される。
【0082】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば心筋梗塞に関連する遺伝子多型が解析され、核酸試料の遺伝子型が検出される。この遺伝子型の検出によって得られる多型情報を用いることにより、高精度で予知確率の高い心筋梗塞のリスク診断を行うことができる。したがって、本発明は心筋梗塞の発症リスクを事前に知る有効な手段となる。また、本発明によればこれらの疾患の診断に有用な補助的情報が得られ、より適切な治療を可能とし予後の改善などを図ることができる。更に本発明は、心筋梗塞の発症メカニズムを解明する上での有効な情報を提供し、心筋梗塞の予防、治療へ貢献することが期待される。
【0084】
以下、次の事項を開示する。
11.以下の工程(a1)を含んでなる、核酸試料の遺伝子型を検出する方法、
(a1)核酸試料における、以下の(1)〜(10)の多型を解析する工程、
(1)コネキシン37遺伝子の塩基番号1019位の多型、
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子の塩基番号-863位の多型、
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の塩基番号242位の多型、
(4)アンギオテンシノーゲン遺伝子の塩基番号-6位の多型、
(5)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号-219位の多型、
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の塩基番号994位の多型、
(7)アポリポプロテインC-III遺伝子の塩基番号-482位の多型、
(8)トロンボスポンジン4遺伝子の塩基番号1186位の多型、
(9)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-819位の多型、及び
(10)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-592位の多型。
12.以下の工程(b1)を含んでなる、核酸試料の遺伝子型を検出する方法、
(b1)核酸試料における、以下の(11)〜(15)の多型を解析する工程、
(11)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位の多型、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位の多型、
(13)グリコプロテインIbα遺伝子の塩基番号1018位の多型、
(14)パラオキソナーゼ遺伝子の塩基番号584位の多型、及び
(15)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型。
13.以下の工程(I)〜(III)を含んでなる、心筋梗塞のリスク診断方法、
(I)核酸試料における、以下の(1)〜(10)の多型を解析する工程、
(1)コネキシン37遺伝子の塩基番号1019位の多型、
(2)腫瘍壊死因子α遺伝子の塩基番号-863位の多型、
(3)NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子の塩基番号242位の多型、
(4)アンギオテンシノーゲン遺伝子の塩基番号-6位の多型、
(5)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号-219位の多型、
(6)血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ遺伝子の塩基番号994位の多型、
(7)アポリポプロテインC-III遺伝子の塩基番号-482位の多型、
(8)トロンボスポンジン4遺伝子の塩基番号1186位の多型、
(9)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-819位の多型、及び
(10)インターロイキン10遺伝子の塩基番号-592位の多型、
(II)前記工程によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び
(III)決定された遺伝子型から心筋梗塞の遺伝的リスクを求める工程。
14.以下の工程(IV)〜(VI)を含んでなる、心筋梗塞のリスク診断方法、
(IV)核酸試料における、以下の(11)〜(15)の多型を解析する工程、
(11)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位の多型、
(12)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位の多型、
(13)グリコプロテインIbα遺伝子の塩基番号1018位の多型、
(14)パラオキソナーゼ遺伝子の塩基番号584位の多型、及び
(15)アポリポプロテインE遺伝子の塩基番号4070位の多型、
(V)前記工程によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び
(VI)決定された遺伝子型から心筋梗塞の遺伝的リスクを求める工程。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、実施例におけるスクリーニング関連解析において検討した112遺伝子多型をまとめた表である。
【図2】図2は、同じく実施例におけるスクリーニング関連解析において検討した112遺伝子多型をまとめた表である。
【図3】図3は、実施例において遺伝子型を決定するために使用されるプライマー(上から順に配列番号30、31、32、21、22、23、15、16、17、24、25、26、18、19、20、33、34、35、42、43、44)、プローブ(上から順に配列番号59、60)及びその他の条件をまとめた表である。図中、FITCはフルオレセインイソチオシアネートを、TxRはテキサスレッドをそれぞれ表す。
【図4】図4は、同じく実施例において遺伝子型を決定するために使用されるプライマー(上から順に配列番号27、28、29、39、40、41、36、37、38、53、54、55、56、57、58、48、49、45、46、47、50、51、52)、プローブ(上から順に配列番号61、62、63、64)及びその他の条件をまとめた表である。図中、FITCはフルオレセインイソチオシアネートを、TxRはテキサスレッドをそれぞれ表す。
【図5】図5は、実施例のスクリーニング関連解析における対象909例の背景をまとめた表である。年齢とBody mass indexのデータは平均±標準偏差で表される。表中、*1はP=0.0278を、*2はP<0.0001 versus controlsをそれぞれ表す。
【図6】図6は、実施例のスクリーニング関連解析において心筋梗塞との関連が認められた遺伝子多型をまとめた表である。
【図7】図7は、実施例における関連解析の全対象5061例の背景をまとめた表である。年齢とBody mass indexのデータは平均±標準偏差で表される。表中、*1はP=0.022を、*2はP<0.001を、*3はP=0.017をそれぞれ表す。
【図8】図8は、実施例における関連解析の全対象5061例において心筋梗塞との関連が認められた遺伝子多型の遺伝子型分布をまとめた表である。
【図9】図9は、実施例における関連解析の全対象5061例における遺伝子多型と心筋梗塞の多因子ロジスティック回帰分析の結果を示す表である。表中、ORはオッズ比を、CIは信頼区間をそれぞれ表す。
【図10】図10は、心筋梗塞と関連のある遺伝子多型における多因子ロジスティック回帰分析のstepwise forward selection methodの結果を示す表である。表中、CIは信頼区間を表す。
【図11】図11は、男性における5個の組合せ遺伝子多型を用いた心筋梗塞の遺伝的リスク(発症リスク)診断の結果を示す表である。
【図12】図12は、女性における5個の組合せ遺伝子多型を用いた心筋梗塞の遺伝的リスク(発症リスク)診断の結果を示す表である。
【図13】図13は、組み合わせる遺伝子多型の数と心筋梗塞罹患のオッズ比の関係を表すグラフである。尚、(A)が男性を対象とした場合、(B)が女性を対象とした場合である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)を含んでなる、心筋梗塞のリスク検査方法、
(a)核酸試料における、以下の(1)〜(2)の多型を解析する工程、
(1)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位(配列番号10の塩基配列において698番目の塩基)の多型、
(2)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位(配列番号11の塩基配列において131番目の塩基)の多型、
【請求項2】
以下の工程(i)〜(iii)を含んでなる、心筋梗塞のリスク検査方法、
(i)核酸試料における、以下の(1)〜(2)の多型を解析する工程、
(1)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位(配列番号10の塩基配列において698番目の塩基)の多型、
(2)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位(配列番号11の塩基配列において131番目の塩基)の多型、
(ii)前記工程によって得られる多型情報から核酸試料の遺伝子型を決定する工程、及び
(iii)決定された遺伝子型から心筋梗塞の遺伝的リスクを求める工程。
【請求項3】
以下の(1)〜(2)の核酸を含んでなる、心筋梗塞のリスク検査用キット、
(1)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位(配列番号10の塩基配列において698番目の塩基)の多型を解析するための核酸であって、多型部位を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸、
(2)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位(配列番号11の塩基配列において131番目の塩基)の多型を解析するための核酸であって、多型部位を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸。
【請求項4】
以下の(1)〜(2)の核酸が不溶性支持体に固定されてなる、心筋梗塞のリスク検査用固定化核酸、
(1)ストロメライシン1遺伝子の塩基番号-1171位(配列番号10の塩基配列において698番目の塩基)の多型を解析するための核酸であって、多型部位を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸、
(2)プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子の塩基番号-668位(配列番号11の塩基配列において131番目の塩基)の多型を解析するための核酸であって、多型部位を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−188016(P2008−188016A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53196(P2008−53196)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【分割の表示】特願2002−181580(P2002−181580)の分割
【原出願日】平成14年6月21日(2002.6.21)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【出願人】(597112472)財団法人岐阜県研究開発財団 (25)
【Fターム(参考)】