説明

心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬

【課題】放射性金属標識化合物を有効成分とする放射性画像診断剤又は放射性治療薬において、該有効成分の心臓集積を高める注射剤組成を提供することを目的とする。
【解決手段】放射性金属標識化合物を有効成分とする放射性画像診断剤又は放射性治療薬において、生体認容性の高い有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤を、有効成分の腎排泄を抑制することによって心臓集積を増加させるために有効量配合してなる、心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性金属標識化合物を有効成分とする、心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬に関する。より詳しくは、生体認容性の高い有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤を配合することにより、放射性金属標識化合物の心筋集積が増加する、心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出断層撮影(以下、「PET」という)及び単一光子放射断層撮影(以下、「SPECT」という)に代表される核医学検査は、心筋血流をはじめとする種々の心臓疾患の診断に有効である。これらの検査方法は、特定の放射性同位元素で標識された薬剤(以下、「放射性医薬品」という)を投与し、該薬剤の投与により直接的または間接的に放出されたγ線を検出することによる診断方法である。心臓核医学検査は、虚血性疾患に対する特異度や感度が高いという優れた性質を有しているばかりでなく、病変部のバイアビリティ評価に関する情報を得ることができるという、他の検査方法にはない特徴を有している。
【0003】
心筋血流診断剤としては、従来から塩化タリウム(201TlCl)注射液がよく知られている。臨床応用されている心筋血流診断剤の一つである塩化タリウム(201TlCl)注射液は、水溶液中で解離して一価の陽イオン(201Tl+)となり、カリウムイオンと同様の挙動を示して、心筋細胞内にナトリウム−カリウムポンプにより能動的に摂取されると考えられている。そのため、心筋への取込が高く、心筋の血流分布を反映したSPECT画像を与えるといった特徴を有している。さらに、初回循環抽出率(First Pass Extraction Fraction、以下、「FPEF」とする)が高いため、血流直線性が高く、診断精度が高いという優れた特徴も有している。
しかし、塩化タリウム(201TlCl)注射液は、放出する放射線のエネルギーが約70 keVと低く、また、半減期が約73時間と長いために大量投与ができないという、放射性診断剤として用いるには好ましくない性質を有している。そのため、得られた画像が不鮮明となりやすいという欠点を有している。また、タリウム−201は、サイクロトロンによって生成される核種であり、利便性に劣るという欠点もある。
そこで、放射線のエネルギーが約140keVと高く、半減期が約6時間と比較的短いために放射性医薬品に用いる核種としてより好ましい性質を有し、より安価で、かつ利便性に優れた、テクネチウム−99mを用いた化合物が開発されている。
【0004】
心臓核医学検査に用いられる放射性医薬品の一つであるテトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液は、テクネチウム−99mを用いた化合物の代表的なものである。これは1価のカチオン性錯体で、心筋細胞膜を受動拡散により通過したのち、心筋細胞内のミトコンドリアの膜電位によってミトコンドリア内に蓄積する性質があるため、心筋の虚血部位を特異的に検出することができる。
99mTc-TF注射液はこのように有用な心筋画像診断剤であるが、99mTc-TF注射液の心筋集積を増加させることができれば、放射線被曝を抑えつつより鮮明な画像が得られるので、心臓核医学検査における99mTc-TF注射液の有用性が更に増すものと考えられた。
【0005】
99mTc-TF注射液を製造するためのリガンド合成法、99mTc-TF調製法、及び動物における体内分布データは特許第2690142号公報に開示されている(特許文献1)。また、99mTc-TF注射液の調製法と注射液の製剤組成、及び動物における体内分布データは特許第2764037号公報に開示されている(特許文献2)。
本発明者は先に、腎臓トランスポーター阻害剤を用いることにより、ある薬剤の腎臓排泄を制御する方法を提案している。腎臓トランスポーターのうち、有機酸輸送系(OAT)の阻害剤としては、プロベネシド(PBC)、N-ベンゾイル-β-アラニン(BBA)、セファゾリン(CFZ)などが挙げられている。例えば、放射性ヨウ素標識アミノ酸にPBC、BBA又はCFZを負荷すると、腎臓を介する排泄が抑制されることにより、アミノ酸が高く集積する脳や膵臓への放射能成分の集積が増加することが示されている(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特許第2690142号公報
【特許文献2】特許第2764037号公報
【特許文献3】特願2003-347116号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、種々の心筋用放射性医薬品の製造法、成分組成、及びそれらの体内動態については、特許第2690142号公報及び特許第2764037号公報(特許文献1及び2)に紹介されている。
しかしながら、心筋診断用放射性医薬品の体内動態を最適化することを目的として成分組成を改良し、これによって心筋集積を増加させた実例はまだない。また、特許第2690142号公報(特許文献1)には、99mTc-TF注射液の製剤組成例とともに、その体内分布試験結果が示されているが、それらの数値は塩化タリウム(201TlCl)注射液の心臓集積の結果を上回るものではない。
そこで、99mTc-TF注射液の心臓集積を増加させつつ、それ以外の成分の体内動態を大きく変えることのない成分組成を有するような製剤の改良が望まれた。さらに、改良に際し、新たな成分を添加する場合は、できるだけ単一の成分であって、生体認容性の高い安全な物質を添加することが好ましく、かつ、その添加量はできるだけ少なくする必要がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、放射性金属標識化合物を有効成分とする放射性画像診断剤又は放射性治療薬において、該有効成分の心臓集積を高める注射剤組成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は検討を重ねた結果、有機酸輸送系(OAT)阻害剤、又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤を、上記放射性医薬品とともに使用することにより、心臓集積を高め得ることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、放射性金属標識化合物を有効成分とする放射性画像診断剤又は放射性治療薬において、生体認容性の高い有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤を、有効成分の腎排泄を抑制することによって心臓集積を増加させるために有効量配合してなる、心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬を提供する。すなわち、有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤は、有効成分である放射性金属標識化合物の腎排泄を抑制することによって、有効成分の心臓集積を増加させる。
【0010】
本発明の心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬の有効成分である放射性金属標識化合物としては、94Tc、99mTc、186Re又は188Re等のPET又はSPECT等の放射性画像診断剤又は放射性治療薬に応用される種々の放射性金属核種とテトロホスミンとの化合物を用いることができる。
【0011】
本発明の心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬に配合される、有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤の量は、有効成分の腎排泄を抑制しかつ心臓集積を高め得る有効量以上である限り、特に限定されない。一般的には、人体投与量に換算する時、1回の投与あたり0.1mg/kg〜100mg/kg体重の範囲であることが好ましく、1回の投与あたり0.1mg/kg〜10mg/kg体重の範囲であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬を注射剤として調製する場合は、有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤の量は、注射剤における添加剤として、許容される範囲内とする必要がある。この範囲は、注射剤の浸透圧や、各添加剤の一日許容投与量等を考慮して決定される。有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤を配合するにあたっては、安全性や薬理作用の観点から許容投与量を勘案し、各種の有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤毎に決定される許容量を超えない量とする必要がある。
【0013】
本発明で用いられる有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤の種類は特に限定されない。例えば、有機酸輸送系(OAT)阻害剤としては、プロベネシド(probenecid, PBC);N-ベンゾイル-β-アラニン(N-benzoyl-β-alanine, BBA);フロセミド;エタクリン酸;セファゾリン(cefazolin, CFZ)、セファレキシン、セフチゾキシム、セフトリアキソンに代表される抗生剤;スルファメチゾール、スルフイソキサゾールに代表されるサルファ剤が例示される。これらの有機酸輸送系(OAT)阻害剤は、許容投与量が高く、それ自身が有機酸輸送系(OAT)により腎尿細管より速やかに排泄されるために、本発明による高い効果が期待される安全性の高い化合物群である。加えて、これらは血清蛋白(主にHSAのsite I)に対する高い蛋白結合置換効果も有していることから、国際公開第00/78352号パンフレット(WO 00/78352)に記載されているような、血漿蛋白質に対する薬剤の結合を制御するという相乗的効果も期待できる。
また、中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤としては、L-チロシン(L-Tyrosine, Tyr)又はL-フェニルアラニン(L-phenylalanine, Phe)を例示できる。これらも安全性や薬理作用の観点から許容投与量が比較的高いので有用である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬は、有効成分である放射性金属標識化合物の腎臓を介する排泄を抑制し、血液中の濃度を一定に保持したまま、診断目的臓器である心臓への有効成分の集積を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬について説明する。
本発明に係る心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬の製造においては、まず、有効成分となる放射性金属標識用のリガンド化合物の合成を行う。放射性金属標識用のリガンド化合物の合成は、化合物毎に開示された公知の方法を用いることができる。
【0016】
例えば、放射性金属標識用のリガンド化合物がテトロホスミンである場合は、特許第2690142号公報(特許文献1)に記載の方法により合成することができる。そして、放射性金属標識化合物がテトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)である場合は、前記の通り合成したリガンド化合物であるテトロホスミンを使って、例えば特許第2690142号公報又は特許第2764037号公報(特許文献1又は2)に記載の方法により、99mTc-TFを合成することができる。あるいは市販のテトロホスミン凍結乾燥キット(GEヘルスケア社製)のように、前記リガンド化合物にスルホサリチル酸二ナトリウム、塩化第一スズ、グルコン酸ナトリウムを配合した凍結乾燥品を予め調製し、これに日本薬局方医薬品である過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液を加えて溶解し、テトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液を調製することができる。
【0017】
本発明に係る心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬は、上記のようにして得られた放射性金属標識化合物に、必要量の有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤を混合することにより得られる。混合するタイミングは、最終剤に必要量の有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤が配合される限りにおいて特に限定する必要はない。
【0018】
例えば、予めリガンド化合物溶液に有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤の溶液を加えて、最終製剤中の阻害剤の濃度が目的とする濃度となるように、適宜割合を調製して混合する方法が考えられる。このとき、リガンド化合物に有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤及びその他の配合剤の適量を加えて凍結乾燥品を調製することもできる。具体的には、テトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液にL-チロシン(Tyr)を配合させる場合には、ヒトへの投与量に換算するとき、370〜740MBqのテトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液に、L-チロシン濃度が0.1mg/kg〜100mg/kg体重になるように混合すればよい。
【0019】
本発明の放射性画像診断剤又は放射性治療薬は、種々の剤型が考えられる。例えば、最終製剤の状態でプレフィルドシリンジに封入して供給することもできるし、リガンドと阻害剤を1の瓶にいれて凍結乾燥したキットとし、使用時に過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液などの放射性溶液に溶解して投与することもできる。また、放射性金属で標識した診断剤と阻害剤とを別々の注射器に入れセットで供給することもできる。剤型により、阻害剤と診断剤を別々に投与する場合には、阻害剤は診断剤より前に投与することが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例等になんら制限されるものではない。
【0021】
(実施例1)
市販のテトロホスミン凍結乾燥キット(テトロホスミン0.23mg、スルホサリチル酸二ナトリウム0.32mg、塩化第一スズ0.03mg、及びグルコン酸ナトリウム1.0mgを含有する、GEヘルスケア社製)に過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液2mL(37〜111MBq)を加えて常温で15分間放置し、テトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液を調製した。別にL-チロシン(Tyr)50mgを生理食塩液10mLに溶解し、Tyr生理食塩液(5mg/mL)を調製した。このTyr生理食塩液50μLにテトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液50μL(185〜370kBq)を添加してよく混ぜた後、この溶液約100μLをマウス(ddY、雄、6週齢)の尾静脈から投与した。
マウスは、投与後5、10、15、30、及び60分後にエーテル麻酔下、心臓採血により脱血して屠殺した。その後、解剖により心臓、脳、肝臓、肺及び腎臓等の臓器を摘出し、湿重量を秤量するとともに放射能量を測定した(表1)。なお、数値はマウス4匹の平均値±標準偏差(SD)で示し、単位は臓器g湿重量あたりの集積放射能の投与量に対する割合(%ID/g)である。
【0022】
【表1】

【0023】
(実施例2)
市販のテトロホスミン凍結乾燥キット(テトロホスミン0.23mg、スルホサリチル酸二ナトリウム0.32mg、塩化第一スズ0.03mg、及びグルコン酸ナトリウム1.0mgを含有する、GEヘルスケア社製)に過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)注射液2mL(370MBq)を加えて常温で15分間放置し、テトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液を調製した。別にN-ベンゾイル-β-アラニン(N-benzoyl-β-alanine, BBA) 50mgを生理食塩液10mLに溶解し、BBA生理食塩液(5mg/mL)を調製した。このBBA生理食塩液50μLにテトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液(185〜370kBq)を添加してよく混ぜた後、この溶液約100μLをマウスの尾静脈から投与した。
マウスは、投与後5、10、15、30、及び60分後にエーテル麻酔下、心臓採血により脱血して屠殺した。その後、解剖により心臓、脳、肝臓、肺及び腎臓等の臓器を摘出し、湿重量を秤量するとともに放射能量を測定した(表2)。なお、数値はマウス4匹の平均値±標準偏差(SD)で示し、単位は臓器g湿重量あたりの集積放射能の投与量に対する割合(%ID/g)である。
【0024】
【表2】

【0025】
(比較例1)
比較例として生理食塩液50μLにテトロホスミンテクネチウム(99mTc-TF)注射液50μL(185〜370kBq)を添加した溶液について、実施例と同様にマウスに投与し、各臓器の湿重量及び放射能を測定した(表3)。
【0026】
【表3】

【0027】
(比較例2)
比較例としてTyr生理食塩液50μLに塩化タリウム(201TlCl)注射液50μL(18.5〜37kBq)を添加した溶液について、実施例と同様にマウスに投与し、各臓器の湿重量及び放射能を測定した(表4)。
【0028】
【表4】

【0029】
(比較例3)
比較例としてBBA生理食塩液50μLに塩化タリウム(201TlCl)注射液50μL(18.5〜37kBq)を添加した溶液について、実施例と同様にマウスに投与し、各臓器の湿重量及び放射能を測定した(表5)。
【0030】
【表5】

【0031】
(比較例4)
比較例として生理食塩液50μLに塩化タリウム(201TlCl)注射液50μL(18.5〜37kBq)を添加した溶液について同様にマウスに投与し、各臓器の湿重量及び放射能を測定した(表6)。
【0032】
【表6】

【0033】
Tyr添加99mTc-TF注射液は(実施例1、表1)、対照の99mTc-TF注射液(比較例1、表3)に比べて、心臓への放射能集積が投与後5分から15分にかけて約2倍に向上した。また、BBA添加99mTc-TF注射液も(実施例2、表2)、対照の99mTc-TF注射液(比較例1、表3)に比べて、心臓への放射能集積が、投与後10分から15分にかけて約2倍に増加した。これらの2倍を越える集積向上は画期的なことであり、心臓の血流診断におけるTyr添加あるいはBBA添加の有用性を示している。
【0034】
比較例2〜4(表4〜6)に示すごとく、201TlClのマウス心臓集積は、Tyr添加時(比較例2、表4)あるいはBBA添加時(比較例3、表5)に、心臓への放射能集積が血流分布を反映している投与後早期において、対照(比較例4、表6)に対して最大で1.9倍を示したが(Tyr添加時15分点)、それ以外の時間点では同等かまたは1.2倍程度の増加に過ぎず、実施例1及び2のような99mTc-TF注射液にTyr添加あるいはBBA添加したときほどの顕著な増加を認めなかった。従って、実施例で示された99mTc-TFの心臓への放射能集積増加は、これらの阻害剤負荷による血流分布の変化によるものではないことが明らかになった。
【0035】
一方、阻害剤無添加時の99mTc-TF(比較例1、表3)の投与後5分、10分点の心臓集積は、阻害剤無添加時の201TlCl(比較例4、表6)に比較して、ともに0.58倍と低かったのに対し、Tyr添加99mTc-TF(実施例1、表1)の投与後5分、10分点の心臓集積は、阻害剤無添加時の201TlCl(比較例4、表6)に対して1.17-1.37倍とむしろ上回っていた。
同様に、Tyr添加99mTc-TF(実施例1、表1)対阻害剤無添加時の201TlCl(比較例4、表6)の心臓集積比は、その後も60分点まで2.60、3.33、5.70倍と増加した。
加えて、心臓の画像診断において重要な因子である、集積放射能の心臓対血液比は、阻害剤無添加時の201TlCl(比較例4、表6)が5分点の10.7(6.4/0.6)から60分点の2.0(1.0/0.5)と減少するのに対して、Tyr添加99mTc-TF(実施例1、表1)では有機酸輸送系(OAT)阻害剤の消失による99mTc-TFの血液濃度低下にともない、5分点の9.4(7.5/0.8)から60分点の28.5(5.7/0.2)まで顕著に増加した。すなわち、Tyr添加99mTc-TFは、201TlClと同等か又はそれ以上の心筋診断性能を有することが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性金属標識化合物を有効成分とする放射性画像診断剤又は放射性治療薬において、生体認容性の高い有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤を有効量配合してなる心筋用放射性画像診断剤又は放射性治療薬。
【請求項2】
放射性金属標識化合物が、94Tc、99mTc、186Re、及び188Reからなる群より選ばれた金属とテトロホスミンの化合物である請求項1記載の放射性画像診断剤又は放射性治療薬。
【請求項3】
有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤が、1回分の体重あたり投与量に換算して、0.1mg/kg〜100mg/kg含まれていることを特徴とする、請求項1又は2記載の放射性画像診断剤又は放射性治療薬。
【請求項4】
有機酸輸送系(OAT)阻害剤又は中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤が、1回分の体重あたり投与量に換算して、0.1mg/kg〜10mg/kg含まれていることを特徴とする、請求項1又は2記載の放射性画像診断剤又は放射性治療薬。
【請求項5】
有機酸輸送系(OAT)阻害剤が、プロベネシド(probenecid, PBC);N-ベンゾイル-β-アラニン(N-benzoyl-β-alanine, BBA);フロセミド;エタクリン酸;セファゾリン(cefazolin, CFZ)、セファレキシン、セフチゾキシム、若しくはセフトリアキソンに代表される抗生剤;又はスルファメチゾール、若しくはスルフイソキサゾールに代表されるサルファ剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の放射性画像診断剤又は放射性治療薬。
【請求項6】
中性アミノ酸輸送系(LAT)阻害剤が、L-チロシン(L-tyrosine, Tyr)又はL-フェニルアラニン(L-phenylalanine)である、請求項1〜4のいずれかに記載の放射性画像診断剤又は放射性治療薬。

【公開番号】特開2006−257041(P2006−257041A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78927(P2005−78927)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】