説明

心臓の静脈系を用いた心臓の修復、リサイジング、およびリシェイピング

急性および慢性両方の様々な好ましくない心臓状態に起因する負の心臓リモデリングを防止する、緩和する、食い止めるまたは逆行させることを目的として、もしくは心臓の局所異常を治療することを目的として、またはこの両方を目的として、心筋を補強するための構造的な支えとなる物質が心臓静脈系の様々な部位に不連続な塊として心静脈に移植または注入される。この部位は、塊が協働して心腔壁におけるストレスを軽減するとともに心腔のサイズを減少させるように、心臓の1以上の心腔の周囲に或るパターンに配列することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年4月11日に出願された米国仮特許出願第60/922,930号(Hani N.Sabbah、「Cardiac Shaping and Remodeling Using the Venous System of the Heart」、代理人整理番号03220.0032−US−P1)、2007年6月11日に出願された米国仮特許出願60/934,042号(Frank A.Ahmannら、「Cardiac Remodeling Using a Viscous Scaffolding Agent Injectate for Controlled Dispersion in the Cardiac Venous System」、代理人整理番号3220−039−PRV)、2007年6月11日に出願された米国仮特許出願第60/934,109号(Frank A.Ahmannら、「Cardiac Remodeling Using a Particulate Scaffolding Agent Injectate for Controlled Dispersion in the Cardiac Venous System」、代理人整理番号3220−040−PRV)、2007年6月11日に出願された米国仮特許出願第60/934,111号(Raymond W.Cohenら、「Use of the Cardiac Venous System for Introducing Drug−Eluting Materials into the Heart」、代理人整理番号3220−045−PRV)の利益を請求する。これらは全て、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、生物における心臓状態の治療に関し、より詳細には、心臓の静脈系を用いた心臓の全体的リサイジング(resizing)およびリシェイピング(reshaping、再形成)に関する。
【背景技術】
【0003】
心疾患(「CVD:cardiovascular disease」)は、米国における主要な死亡原因である;例えば、C.Lenfant,Fixing the Failing Heart,Circulation,Vol.95,1997,771〜772ページ;米国心臓協会,Heart and Stroke Statistical Update,2001;C.Lenfant,Cardiovascular Research:An NIH Perspective,Cardiovasc.Surg.,Vol.5,1997;4〜5ページ;J.N.Cohn他,国立心肺血液研究所報告心不全研究に関する特別重点パネル,Circulation,Vol.95,1997,766〜770ページ参照。
【0004】
心不全(「HF:heart failure」)は、典型的な兆候または症状を伴う心臓の圧送機能の変化であると一般に定義される。この症状としては通常、息切れまたは疲労が挙げられる。心不全は、大抵の場合は両方の心室がある程度関与している心室機能障害症候群である。左心室不全が通常は息切れおよび疲労の原因であり、右心室不全が通常は末梢および腹部における液体貯留の原因である。心不全は、臨床的に明らかな有害事象がみられないにもかかわらず患者の血行力学的および症候的状態が時間と共に悪化する進行性疾患である。病状悪化は、進行性左心室(「LV:left ventricular」)腔リモデリングという、全体としてはLV心腔のサイズおよび形の変化によって、細胞レベルでは心筋細胞の経時的喪失、筋細胞肥大および間質線維化によって特徴づけられるプロセスを伴うことが多い。筋細胞損失、肥大および間質区画におけるコラーゲンの蓄積は進行性LV機能障害の重要な決定因子であり、一方、LV収縮機能障害および拡張に続発するLVサイズと心腔球形度の増加および環状拡張は、機能性僧帽弁逆流(「MR:mitral regurgitation」)の主要な決定因子である。MRは、収縮期に左心室(LV)から左心房への流れを生じさせる僧帽弁不全症であり、重症度によっては心不全で既に悪化しているLVの一回心拍出量の減少に大きな影響を与える可能性がある。進行性LV拡張は、LV壁ストレスおよび心筋伸展を招く可能性もある。LV壁ストレスの増加は心筋酸素消費量の増加を招き、心筋伸展は、不適応な心筋細胞肥大の発生に重要な役割を果たすかもしれない伸展応答タンパク質を活性化させる可能性がある。LV拡張およびLV球形度の増加は、不良な長期転帰の感受性指標でもある。
【0005】
こうした理由から、リモデリングを防止し逆行させることが心筋症の治療に望ましいものとして現れたのである。心筋症は、虚血性、高血圧性、拡張型、肥大型、浸潤性、拘束型、ウイルス性、分娩後、弁膜性、または突発性などの基礎病因にかかわらず心筋の疾患に対して用いられる一般的用語である。カードミオパチーは通常、心不全を引き起こす。心筋症の様々なタイプの例は、以下の通りである。肺性心は、肺動脈高血圧症を発症させる肺疾患に続発する右心室拡大である。右心室不全が続発することもある。拡張型鬱血性心筋症は、心室拡張および収縮機能障害が現れる、心不全を発症させる心筋機能障害である。肥大型心筋症は、拡張機能障害を伴うが後負荷増加を伴わない著しい心室肥大によって特徴づけられる先天性または後天性の疾患である。例としては、大動脈弁狭窄症、大動脈縮窄症、および全身性高血圧が挙げられる。拘束型心筋症は、拡張期充満に抵抗する伸展性が失われた心室壁によって特徴づけられる。左心室が通常は冒されるが、両方の心室が冒されることもある。
【0006】
現在、末期心不全の患者に対する最も効果的な治療は、心臓移植である。しかし、提供心臓の慢性的不足を考えると、心不全患者の生活改善には代替的な方策が必要とされる。更には、比較的軽症の患者に取って移植は最適な治療の選択肢ではない。
【0007】
その他の治療アプローチとしては、血流を介しての作用部位への薬物の送達、および心臓機能を向上させるために行う虚血心筋への細胞の注入が挙げられる。心筋内での足場形成を伴う心臓血管障害を治療するアプローチの一例がLee他の名前で2005年12月8日に公開されたタイトル「Material compositions and related systems and methods for treating cardiac conditions」の特許文献1に開示されている。
【0008】
細胞移植および生体材料足場を用いて失われたまたは損傷を受けた組織を修復することを主な目的とする心臓治療のための生体組織工学的アプローチも開示されている。このアプローチの一例は、LV機能を保持することを目的として胎児の心筋細胞を播種したアルギン酸ゲルの心外膜面への縫合を伴う。別の治療アプローチは、負の左心室リモデリングを制限する、食い止めるまたは逆行さえさせるために機械的外部拘束具の使用を伴う。過去に開示された一調査は、MI後のLV拡張およびLV機能の低下を防ぐために外部から支持することを本来の目的として心外膜面へポリマーメッシュを縫合していた。非特許文献1参照。過去に開示され調査が行われた別の器具は、心室形の変化と心腔直径の減少をもたらすために張力下での心室を横切る開胸手法において移植される複数の縫合糸を供給する。この経洞縫合ネットワークは、心室半径を減少させ、もって心室壁ストレスを低下させることを目的とする。過去に開示され臨床試験段階にある別の器具は、概して言えば開胸外科手術においてジャケットとして心臓の周囲に移植され密着するように調節されるメッシュ構造である。ジャケットに心臓の更なる拡大を抑制させるためのものである。例えば、非特許文献2;非特許文献3ページ参照。調査中である更に別のアプローチは、ニチノールメッシュを上記の拘束具に類似の外部拘束具として供給する;しかし、この超弾性システムは、収縮期の収縮を支援することを目的とし、胸腔鏡ガイド下での最小侵襲送達によって使用することを主に目的とするものである。調査中である更に別のシステムとしては、開胸外科手術において心室に移植される別の外部拘束具としての剛体リングが挙げられる。このリングは、心室の半径を減少させることおよび心室の形を変えることによって心室壁ストレスを低下させ、心臓の更なる拡大を防ぐためのものである。上で論じた器具および方法の一種以上に類似の器具および方法の例は、下記の企業を含む多くの企業によって開示されてきた:「Acorn」、「Myocor」、「Paracor」、「Cardioclasp」および「Hearten」。Cardioclaspの器具がAbul Kashem他による記事、CardioClasp:A New Passive Device to Re−Shape Cardiac Enlargement,ASAIO Journal,2002に開示されている。
【0009】
こうした技法は、ある程度成功を納めてきた。例えば、Acorn Cardiac Support Deviceを用いた長期治療が、進行性左心室拡張を阻止し、駆出率を改善したと報告されている。この全体的LV機能の改善は、少なくとも一部には、伸展応答タンパク質のダウンレギュレーション、心筋細胞肥大の減弱および筋小胞体カルシウム循環の改善によるものと報告されている。こうした心不全の治療における進歩にもかかわらず、治療の速度および治療技法と器具の複雑さと侵襲の減少に関して更なる改善が望まれている。
【0010】
心筋梗塞(「MI:myocardial infraction」)は、心臓の血液供給の一部が突然かつ大幅に減少または停止し、酸素供給を奪って心筋を死に至らしめる内科的救急疾患である。心筋梗塞は、進行して心不全になることもある。瘢痕組織形成および梗塞領域の動脈瘤の壁厚減少が心筋梗塞を乗り越えた患者に発生することが多い。心筋細胞の死が残っている生存心筋における壁ストレスの増加につながる負の左心室(LV)リモデリングを引き起こすと考えられている。このプロセスは、LV拡張につながる一連の分子的、細胞的、および生理的反応を引き起こす。負のLVリモデリングは、心不全の進行に対する独立寄与因子であると一般に考えられている。
【0011】
心筋症および動脈瘤の壁厚減少の治療における進歩にもかかわらず、とりわけ心不全の治療と併用する治療技法および器具における更なる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0271631号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kelley ST、Malekan R、Gorman JH 3rd他、Restraining infarct expansion preserves left ventricle geometry and function after acute anteroapical infarction,Circulation1999;99:135〜42
【非特許文献2】Hani N.Sabbah,reversal of Chronic Molecular and Cellular Abnormalities Due to Heart Failure by Passive Mechanical Ventricular Containment,Circ.Res.,Vol.93,2003,1095〜1101ページ
【非特許文献3】Sharad Rastogi他,Reversal of Maladaptive Gene Program in Left Ventricular Myocardium of Dogs with Heart Failure Following Long−Term Therapy with the Acorn Cardiac Support Devide,Heart Failure Reviews,Vol.10,2005,157〜163
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施形態は、心筋および心臓静脈系を有する心臓を治療するキットであって、心臓の心筋を厚くして強化するために治療に有益な構造部材を静脈内に確立する生体適合性閉塞剤の供給源;および生体適合性閉塞剤を心臓静脈系の或る区間に送達する静脈内カテーテルを備えるキットである。静脈内カテーテルは、供給源と連結する近位部;と静脈の区間に生体適合性閉塞剤を治療効果のある量導入する遠位部とを備える。
【0015】
本発明の別の実施形態は、心筋および心臓静脈系を有する心臓を治療する方法であって、心臓の心筋を厚くして強化するため、内部に治療に有益な構造部材を確立する心臓静脈系の或る区間を特定すること;および心臓静脈系の区間に生体適合性閉塞剤を治療効果のある量導入することを含む方法である。
【0016】
本発明の別の実施形態は、心筋および心臓静脈系を有する心臓を治療する方法であって、心臓の心筋にとって治療に有益な支持パターンであって、心臓静脈系の複数の区間に概ねまたがるパターンを特定すること;および心臓の心筋を厚くして強化することを目的に、心臓静脈系の区間内部にそれぞれ治療に有益な構造部材を確立するためにパターンに従って区間に生体適合性閉塞剤を治療効果のある量導入することを含む方法である。
【0017】
本発明の別の実施形態は、拡張した心腔および心臓静脈系を有する心臓を治療する方法であって、心筋を厚くし、心腔の収縮期容積を減少させ、心腔の機能を改善するために心臓静脈系の心腔の周囲の複数の区間に生体適合性閉塞剤を治療効果のある量導入することを含む方法である。
【0018】
本発明の別の実施形態は、治療効果のある量で生物学的に適合し、心臓の心筋を厚くして強化するために心臓静脈系の或る区間において治療に有益な構造部材を確立する効果のある閉塞剤の、心臓静脈系の区間に治療効果のある量投与することによって患者の心臓を治療するための薬剤の調製への使用である。
【0019】
本発明の別の実施形態は、治療効果のある量で生物学的に適合し、心臓の心筋を厚くして強化するために心臓静脈系の或る区間において構造部材を確立する効果のある閉塞剤の、治療に有益な支持パターンに沿って存在する心臓静脈系の複数の区間に治療効果のある量投与することによって患者の心臓を治療するための薬剤の調製への使用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】心臓の前面図である。
【図1B】心臓の後面図である。
【図2】心不全の心臓をリサイジングする作用機序の概略図であり、左心室の場合を例として示す。
【図3】左心室の長軸および短軸を示した心臓の断面図である。
【図4】所定位置に下流側閉塞物を有する静脈系の或る区間への静脈壁を通しての逆行性注入を示す断面図である。
【図5】所定位置に上流側閉塞物を有する静脈系の或る区間への静脈壁を通しての逆行性注入を示す断面図である。
【図6】所定位置の2つの閉塞物によって規定された静脈系の或る区間への静脈壁を通しての注入を示す断面図である。
【図7】所定位置に下流側閉塞物を有する静脈系の或る区間への静脈内部からの逆行性注入を示す断面図である。
【図8】所定位置に上流側閉塞物を有する静脈系の或る区間への静脈内部からの逆行性注入を示す断面図である。
【図9】所定位置の2つの閉塞物によって規定された静脈系の或る区間への静脈内部からの注入を示す断面図である。
【図10A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が1本の周方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図10B】図10Aの心臓の後面平面図である。
【図11A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が1本の周方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図11B】図11Aの心臓の後面平面図である。
【図12A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が2本の周方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図12B】図12Aの心臓の後面平面図である。
【図13A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が3本の周方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図13B】図13Aの心臓の後面平面図である。
【図14A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が4本の周方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図14B】図14Aの心臓の後面平面図である。
【図15A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が6本の縦方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図15B】図15Aの心臓の後面平面図である。
【図16A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が7本の縦方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図16B】図16Aの心臓の後面平面図である。
【図17A】心臓静脈系内の閉塞剤部位が1本の周方向ラインと1本の縦方向ラインのパターンに概ね沿って並んでいる心臓の前面平面図である。
【図17B】図17Aの心臓の後面平面図である。
【図18】心臓静脈系内の閉塞剤部位が動脈瘤に近接した位置にある心臓の前面平面図である。
【図19】心臓静脈系内の閉塞剤部位が別の動脈瘤に近接した位置にある心臓の前面平面図である。
【図20】トレント・グアスプの二重ループ概念に従う心臓の前面の概略図である。
【図21】心臓静脈系内の閉塞剤部位が動脈瘤に近接した位置にあり、トレント・グアスプの二重ループ概念に従う心臓の前面平面図である。
【図22A】心静脈内を前進させる状態のカテーテルの側平面図である。
【図22B】図22Aのカテーテルの展開した状態の平面図である。
【図23】心臓の左心室前壁の貫壁部位の顕微鏡写真である。
【図24】図23の心臓部位の第1の部分の4倍拡大図である。
【図25】図23の心臓部位の第2の部分の4倍拡大図である。
【図26】図23の心臓部位の第2の部分の10倍拡大図である。
【図27】図23の心臓部位の第2の部分の40倍拡大図である。
【図28】拡張末期における治療前の心臓の心室撮影画像である。
【図29】収縮末期における治療前の心臓の心室撮影画像である。
【図30】拡張末期における治療後の心臓の心室撮影画像である。
【図31】収縮末期における治療後の心臓の心室撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
急性および慢性両方の様々な好ましくない心臓状態に起因する負の心臓リモデリングを防止する、緩和する、食い止めるまたは逆行させることを目的として、もしくは心臓の局所異常を治療することを目的として、またはこの両方を目的として、心筋を補強するための構造的な支えとなる物質が心臓静脈系の様々な区間を塞ぐ不連続な塊として心静脈に移植または注入される。本明細書において記載した技法を用いて治療され得る心臓状態としては、心筋症、心筋梗塞、急性心筋梗塞、不整脈、弁閉鎖不全、鬱血性心不全、僧帽弁逆流および他の心臓弁異常、ならびに他の心合併症が挙げられる。更に、本明細書において記載した技法を用いた心臓状態を治療するキットが意図されている。
【0022】
心筋は、心臓の周囲をらせん状に取り巻く心筋線維の絡み合う束で構成されている。この心筋線維は、冠循環を介して血液を受け取っている。冠状動脈は大動脈弁をわずかに超えたところで大動脈から枝分かれしており、冠状静脈は右心房に注いでいる。心筋は、冠状動脈および静脈という高度に分散されたシステムから十分に供給を受けている。通常、各冠状動脈は、心臓の表面を走っているため、その脇を走る静脈を有する。これは一般に、心筋の厚さを貫通し心臓の筋肉の深層にかん流させる小血管枝を含む、主冠状動脈および静脈の小血管枝にも当てはまる。細静脈などの小静脈は血液をそれよりも太い心静脈へと返流させる。従って、心臓の静脈系のネットワークは、心筋の厚さ全体にわたって分布し、動脈が存在するあらゆる場所に存在する。
【0023】
図1Aは、心臓1の左心室の前壁および前外側壁上の動脈と静脈の一部を示し、図1Bは、心臓1の左心室の後壁および後外側壁上の動脈と静脈の一部を示す。両図では、大動脈弓2、左心室12、および心尖14が見えている。図1Aでは、更に左心房4および右心室10が見えている。図1は、概ね隣り合って走る左冠状動脈8および大冠状静脈6を更に示す。図1Bでは、更に右心房19が見えている。図1Bは、大冠状静脈6と冠状静脈洞18に概ね隣り合って走る左冠状動脈16の回旋枝を更に示す。
【0024】
心臓静脈系の様々な区間内に剛体または半剛体の構造または足場を形成するため、閉塞剤が心臓の静脈系の多数位置に配置される。結果として生じる構造は、多数の不連続な部分を有してもよく、急性および慢性両方の様々な好ましくない心臓状態に起因する負の心臓リモデリングを防止する、緩和する、食い止めるまたは逆行させることを目的として、もしくは心臓の局所性異常を治療することすることを目的として、またはこの両方を目的として、心筋の容積を増し、心筋を或るパターンに補強する。好適な物質は、好ましくは低粘度状態の注入可能物質として好ましくは最小侵襲技法によって静脈系の1以上の部位に導入し得る物質であり、必要な場合には静脈系内で剛体または半剛体の1以上の塊となって心臓の壁を支持する物質である。
【0025】
閉塞剤は移植可能としてもよいが、注入可能であって静脈系内に足場を形成する閉塞剤は特別な利点がある。こうした足場剤は、注入の圧力下で静脈系の選択した部位内に分散するように心臓静脈系に注入することができる。場合によっては、足場剤は静脈に入る際に血液と置き換わってもよい。足場剤が時間の関数としてin situで架橋するポリマーの場合は、硬化する前に静脈および細静脈内に、更に場合によっては毛細血管内に所望の程度分散するように足場剤の粘度および硬化時間が選択される。粘性の高い物質ほど十分に分散するように硬化時間を長くし注入圧力を高くする必要があり、粘性の低い物質ほど過度に分散しないように硬化時間が短かくなければならない。その他の種類の足場剤は、光活性化などの外部からの誘因を受けて架橋してもよく、体温への曝露、生理学的化学物質(例えば、Ca、Naなど)への化学的曝露後など、生理学的条件下で架橋するように選択されてもよい。足場剤がin situで架橋しない場合は、足場剤が静脈および細静脈内に、更に場合によっては毛細血管内に所望の程度だけ分散するようにその粘度が選択される。一例は、通常は間質に存在するコラーゲン基質よりもわずかに剛性が高い伸展性ゲルであろう。更に、粘度/弾性が圧力に影響される(粘弾性の)物質を選択してもよい。そうすると、物質は弛緩状態ではなく収縮状態で流れようになる。更には、心筋線維と整列する長尺構造を創出するために、または注入液の使用を減らして外傷を最小にするために膨張性ポリマーを用いてもよい。
【0026】
粒子を含有する足場剤も好適である。粒子足場剤は、心臓静脈系の選択した区間に注入してもよく、その場合、足場剤は静脈、細静脈および場合によっては毛細血管の限られた部分を通じて拡散する。心臓静脈系の選択した区間への粒子足場剤の浸入の程度は、注入液の粘度、注入する体積と圧力、静脈、細静脈および毛細血管の直径、ならびに粒子足場剤の粒子径を含む各種の要因によって決まる。深部への浸入に適した粒子径は約5ミクロンから10ミクロン程度であり、浅部への浸入に適した粒子径は約15ミクロンから30ミクロン程度である。粒子足場剤の浸入の程度は、送達に用いる懸濁流体の特徴に基づいて更に制御してもよい。低粘度送達流体に粒子を懸濁させると、例えば、流体が静脈系内を流れる際に分散を増進するように作用する。反対に、高粘度送達流体は、分散を減速させる。このように、粒子径、物質特性、および懸濁流体によって分散エリアを制御することができる。更に、時間と共にまたは外部条件(光、温度、化学物質)への曝露後に固まる(硬化する)送達流体を選択してもよい。送達流体は、弛緩状態ではなく収縮状態で流れるように粘弾性としてもよく、または硬化する際に静脈および細静脈、更に場合によっては毛細血管内で膨張するものであってもよい。粒子足場剤が静脈および毛細血管に入る際には、毛細血管内の血液に置き換わり、心筋を硬直させてもよい。
【0027】
閉塞剤は、量と拡散範囲の両方に関して制御される放出物質に含まれて活物質が一定期間にわたって継続的に心臓静脈系の選択部分から拡散して心筋に浸入するように、薬物溶出性としてもよい。活物質を制御可能に放出させる一技法は、活物質をポリマー足場、またはアルギン酸塩もしくはキトサンビーズなどの担体に含有させることである。担体は時間と共に体によって自然に分解され、それに伴い活物質を放出する。
【0028】
閉塞剤は心臓静脈系の複数部分を閉塞するが、この閉塞は治療に有害ではない。静脈は動脈より平滑筋の少ない遥かに薄い壁を有し、加えて静脈の結合組織はエラスチン繊維に比べてかなり多量のコラーゲン繊維を含んでいるため、動脈と比較するとほとんど弾性がない。更に、静脈の平滑筋は本来ほとんど筋原性緊張を有していない。従って、静脈は伸長性が高くてほとんど弾性反跳を持たず、そのため、ブロックされた静脈近傍のブロックされていない静脈は、容易に拡張して静脈圧がわずかに増加するだけで閉塞された静脈からの余分な体積の血液を収容することができる。
【0029】
閉塞剤は、心臓静脈系の拡張部分全体にわたる1つの連続する塊として存在してもよいが、閉塞剤が心臓静脈系の様々な区間内に多数の不連続な塊として存在する場合には治療柔軟性および治療選択肢を広げ得る。全体的治療が望まれる場合、閉塞剤部位は壁ストレスを低下させ心腔サイズを安定化または縮小さえさせるのに適した心臓の1以上の心腔を囲むパターンに沿って並ぶ。パターンによっては更に、心腔の有益な全体的リシェイピングを生じさせる。こうした変化は迅速に起こって持続的であるとともに、心臓機能に対して迅速かつ持続的な治療効果を持つ。時間と共に壁ストレスの軽減が酸素消費を減少させ、治癒を促進する。更に、他の治療用物質との組合せを含む閉塞剤の特性によっては様々な長期治療効果が実現され得る。こうしたシステムおよび方法によって治療可能な具体的な心臓状態としては、例えば、拡張型心筋症(顕在的動脈瘤形成の有無にかかわらず)、鬱血性心不全、心筋梗塞、および心室性不整脈が挙げられる。
【0030】
図2は、この作用機序を最も簡略化した形で概略的に図示し、左心室の場合を例として示す。壁ストレス「S」は、血液を圧送するために心臓がどれほど懸命に働く必要があるかを示す指標である。壁ストレスはラプラスの法則に支配され、直径と壁厚に関し次式によって示される:
S=(D/T)P (1)
ただし、「D」は心腔直径、「T」は心腔壁の厚さ、「P」は心腔内の圧力である。正常な状態の心臓(参照番号22)は、圧送には効率的な形である概して長円錐形(図の平面には示さず)の左心室を有する。しかし、心不全患者においては、心臓は左心室の直径が大きくなり壁が薄くなる状態(参照番号24)へと一般に悪化する。同じ圧力Pを得るには、壁ストレス「S」が上昇し、心臓がより懸命に働くことになる。更には、左心室の形(図の平面には示さず)が円錐形から圧送には効率的ではない形である球形へと変化する。残念なことに、壁ストレスの増加は進行性リモデリングを引き起こすいくつもの事象をもたらす。壁ストレスの増加から生じるリモデリング刺激には、サイトカイン、神経ホルモン、および酸化ストレスが含まれる。こうしたリモデリング刺激は、筋細胞肥大および間質基質の変性に起因する心室拡大、ならびに遺伝子発現、カルシウム処理タンパク質の変性、および筋細胞死に起因する収縮・拡張機能障害を引き起こす。
【0031】
心臓の1以上の心腔、ここでは左心室を全体的に囲んで心臓の静脈系内に適切なパターンで構造材料を分布させると、左心室の壁が厚くなり心腔直径が減少する状態(参照番号26)へと心臓が全体的に改善する。厚さが増加し直径が減少すると、壁ストレス「S」が減少する。進行性リモデリングを招くいくつもの事象が妨げられ、進行性リモデリングは停止するか、場合によっては逆行することもある。
【0032】
パターンによっては更に、心腔の有益なリシェイピングを生じさせ、心不全の治療のためにLVリモデリングを効果的に逆行させる。左心室の形は、例えば、心臓30の左心室32の場合を示す図3に示すように、収縮末期に測定した空洞中間部直径「D」に対する長軸長さ「L」の比である「収縮末期球形度指標」を用いておおよそ数値化してもよい。通常の心臓球形度指標は、左心室の形が理想的な円錐形からはずれて球形に近づくにつれて小さくなる。より生理学的な楕円体形、特に円錐形にリシェイピングすることが望ましい。
【0033】
全体的リサイジングに適したパターンはそのまま使用してもよく、心筋梗塞および心室壁の顕在的動脈瘤(大規模な貫壁性心筋梗塞に反応して通常は生じる)などの局所状態を治療するために補足的パターンで補強してもよい。こうした技法は、まだ心筋症には進行していない局所状態を治療するために使用することができる。
【0034】
閉塞剤が注入可能である場合は、1以上の閉塞用バリアーの使用と組み合わせて閉塞剤が毛細血管系へと流出しないように、あるいは静脈還流に捕捉されて心臓に流入しないように、適切な注入技法を用いてもよい。説明を容易にするため単純化した形態の図4〜9に示すように、閉塞剤が心臓静脈系の所望の部位に流入して硬化するよう、注入部位近くの静脈においてバルーン、縫合糸、クランプ、急速硬化型外科用接着剤、または他の生体適合性ポリマー物質などの適当な閉塞物を用いて静脈流をブロックしてもよい。静脈への注入は逆行式でもよく、静脈の壁を貫通して行っても、静脈内部から閉塞物を貫通させて行っても、静脈内部の閉塞物の下流側から行っても、静脈内部から2つの閉塞物間の空間へ閉塞物を貫通させて行ってもよい。図4は、針44から閉塞物46の上流側の静脈40へ閉塞剤42を注入する様子を示す。図5は、針54から閉塞物56の上流側の静脈50へ閉塞剤52を注入する様子を示す。図6は、針64から閉塞物66と閉塞物68との間の静脈60へ閉塞剤62を注入する様子を示す。図7は、静脈70内の閉塞物76を貫通するカテーテル74を通じて閉塞剤72を注入する様子を示す。図8は、静脈80内部であって閉塞物86の下流側のカテーテル84から閉塞剤82を注入する様子を示す。図9は、閉塞物98を貫通するカテーテル94から静脈90内の2つの閉塞物96および98間の空間へ閉塞剤92を注入する様子を示す。
【0035】
図4〜9の単純化した略図には示していないが、心臓の静脈系ネットワークは心筋の厚さ全体にわたって分布しているため、閉塞剤は一部の局所領域内で心臓静脈系の血管枝を通じて心臓の壁内へと拡散する。この拡散によって、閉塞剤の壁厚増大および強化効果が有利に高められる。
【0036】
多くの場合は1以上の閉塞物の使用が望ましいが、閉塞物の使用は必要ない場合もある。静脈が既に閉塞している場合、または注入可能な閉塞剤が非常に急速に硬化する物質である場合には、閉塞物の使用は必要ない。
【0037】
1回の処置で治療される状態もある一方で、長期にわたる多数回の処置での治療が好ましい状態もあり得る。様々な局所領域を時間をかけて順次治療してもよい。一局所領域を治療し、他の局所領域に適用すべき治療を決める前に調査される効果。有益な結果を微調整するためにこれらの治療を適用してもよい。剛性、伸展性、および再吸収率などの閉塞剤の様々な物質特性を、特定の治療に適合するように調節してもよい。
【0038】
適切な閉塞剤を配置する心臓静脈系の部位の特定は、実験的に行ってもよい。あるいは、必要な場合は、コンピュータを利用して選択してもよい。好適な一技法においては、左心室などの心臓の一領域をモデル化するために有限要素モデルシミュレーションが用いられる。任意好適な画像化またはマッピング技法を使用し、損傷を受けた壁エリアの位置、程度および厚さを含む患者の左心室のパラメータが測定されモデルに加えられる。静脈系の選択した区間への物質の注入は、選択した区間に対応する境界域要素における心外膜および心内膜メッシュの結節点の貫壁座標を変えることと要素の収縮性を変えることによってシミュレーションしてもよい。注入を受けるのに最も適する一組の静脈系区間を特定するため、選択した区間を一連のシミュレーションを通じて変更してもよい。好適な有限要素モデルシミュレーションが、Circulation AHA106.657270におけるSamuel T.Wall他による2006年11月27日の記事、Theoretical Impact of the Injection of Material Into the Myocardium:A Finite Element Model Simulationに開示されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0039】
閉塞剤部位の分布パターン
心臓静脈系の様々な区間を心臓異常の局所治療のための、または心室または心房などの心臓の個々の心腔の全体的治療のための、あるいは心臓の多数の心腔または心臓全体の全体的治療のための治療効果のあるパターンを形成する閉塞剤部位として選択することができる。全体的治療が望ましい場合は、マッピングを実行する必要はない。全体的アプローチは、特に心室とりわけ左心室に適用可能であるが、心房細動および他の心房に関係する状態の防止を支援するために心房、特に拡大した左心房をリシェイピングおよび/またはリサイジングするために用いてもよい。局所治療が望ましい場合は、心筋違反または動脈瘤の壁厚減少などの心臓疾患の位置を特定し、局所性心臓疾患を治療するための治療効果のある閉塞剤部位のパターンに沿って並ぶ心臓静脈系の複数の区間を決定してもよい。壁厚減少領域または動脈瘤などの治療を要する様々な心臓疾患の特定に適する技法は、MRI、エコー、電気的および他の画像化およびマッピング手段によって特定してもよい。局所的心臓異常の治療のためのパターニングは、それだけで行っても全体的治療の一環として行ってもよい。局所的パターンが全体的治療と共に用いられる場合は、全体的パターンとは別に計画しても、全体的パターンに組み入れてもよい。
【0040】
治療のために閉塞剤が静脈系の様々な区間内に不連続な塊として配置されるが、その場合、区間の分布は、局所的心臓異常に近い位置で治療効果のある局所的パターンに概ね沿って並ぶ、または区間は、心臓の1以上の心腔を完全にまたは部分的に囲む治療効果のある全体的パターンに概ね沿って並ぶ。パターンは、閉塞剤部位の一定形状の分布として、またはもっと単純に閉塞剤部位の1以上のライン(帯、弧、整形および不整形曲線などを含む)として計画することができる。パターンは、心臓またはその様々な心腔の1以上の全体的リサイジングおよび/またはリシェイピングを達成するために、心臓全体に対して、心臓の1以上の心室に対して、心臓の1以上の心房に対して、または心筋組織の線条に対して計画することができる。パターンの好適な一種類においては、心房および心室など1以上の心腔の全体または一部を囲んで周方向に延びる1以上のラインを計画することができる。左心室の場合は、左心室の拡大の程度および望ましいリシェイピングの種類に応じて、例えば、1以上のこうした周方向ラインを用いてもよい。周方向ライン当たりの閉塞剤部位の数は心臓のサイズとラインの位置によって決まるが、例としては、注入に利用可能な静脈を使用する場合、典型的な哺乳類の心臓においては、3〜9カ所の閉塞剤部位、または好ましくは6〜7カ所の閉塞剤部位(前面および外側面に3または4カ所、後面に3カ所)を含んでもよい。別の好適なパターンにおいては、心尖近傍から心基部近傍までの距離の全体または一部にわたって縦方向に延びるラインを計画してもよい。左心室の場合は、左心室の拡大の程度および望ましいリシェイピングの種類に応じて、例えば、2本以上のこうした縦方向ラインを用いてもよい。縦方向ライン当たりの閉塞剤部位の数は心臓のサイズとラインの位置によって決まるが、例としては、3〜7カ所の閉塞剤部位、または好ましくは4〜6カ所の閉塞剤部位を含んでもよい。注入を用いて不連続な塊を形成する場合、注入は用量および閉塞剤の種類が同一でもよいが、必ずしもそうでなくてもよく、注入液が導入される静脈部位は、心筋の上にあっても内部にあってもよい。移植物を使用する場合は、移植物は同じサイズおよび種類の物質でもよいが、必ずしもそうでなくてもよく、移植物が導入される静脈部位は心筋の上にあっても内部にあってもよい。
【0041】
図10〜14は、左心室の周囲を周方向に延びる1以上のラインとして計画した好適なパターンの一種を示す。図15〜16は、左心室または左右両心室に沿って心尖近傍から心基部近傍までの距離全体にわたって縦方向に延びる多数のラインとして計画した別の種類の好適なパターンを示す。図17は、両方の種類のパターンを使用し得ることを示す。図18〜21は、心臓の局所異常を治療するのに使用し得る様々な局所的パターンを示す。
【0042】
心臓静脈系の特定の静脈区間内に斑点をつけた区間101〜109として表した閉塞剤部位が、左心室のほぼ最大幅部分の位置で左心室自由壁の大半を横切って周方向に延びるライン100に概ね沿って分布するように計画することができる心臓の、図10Aは前面平面図であり、図10Bは後面図である。この図において、自由壁は心臓の前および前外側面からこの図の裏側に回って心臓の後外側表面へと延びている。部位101〜109が心臓上において識別しやすいようにライン100は閉塞剤部位からわずかに間隔が開いているものとして示されている。
【0043】
パターンの位置は、閉塞剤部位の位置を移動させて調節してもよい。閉塞剤部位111〜119の分布が閉塞剤部位101〜109(図10Aおよび10B)の分布とはわずかに異なっている心臓の、図11Aは前面平面図であり、図11Bは後面図である。結果として、パターンは、左心室のほぼ最大幅部分の位置で左心室自由壁の大半を横切って周方向に延びるが、ライン100(図10Aおよび10B)とはわずかに位置が異なるライン110として計画することができる。図10および11のライン100と110の位置の違いは、それぞれのパターンによって達成されるリシェイピングに異なる影響を与え得る。部位111〜109が心臓上において識別しやすいようにライン110は閉塞剤部位からわずかに間隔が開いているものとして示されている。
【0044】
閉塞剤部位が左心室のほぼ最大幅の部分に近い位置で左心室自由壁の大半を横切って周方向に延びる2本のライン120および130のパターンに概ね沿って分布するように計画することができる心臓の、図12Aは前面平面図であり、図12Bは後面図である。閉塞剤部位121〜126は、ライン120に概ね沿って分布するように計画することができる一方で、閉塞剤部位131〜135は、ライン130に概ね沿って分布するように計画することができる。この図において、自由壁は心臓の前および前外側面からこの図の裏側に回って心臓の後外側表面へと延びている。閉塞剤部位121〜126および131〜135が心臓上において特定しやすいように、ライン120および130はこれらの部位からわずかに間隔が開いているものとして示されている。
【0045】
閉塞剤部位が左心室自由壁の大半を横切って周方向に延びる3本のライン140、150および160のパターンに概ね沿って分布するように計画することができる心臓の、図13Aは前面平面図であり、図13Bは後面図である。ライン140は、例として心室のほぼ最大幅の部分に近い位置に配置されているが、ライン150および160は心尖側に間隔を開けて配置されている。あるいは、両ライン140および150を心室のほぼ最大幅部分の近くに配置し、ライン160を心尖側に間隔を開けて配置してもよい。閉塞剤部位141〜146は、ライン140に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位151〜155はライン150に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位161〜162はライン160に概ね沿って分布するように計画することができる。閉塞剤部位144は、ライン140および150の両方に概ね沿うように計画してもよいことを示すために参照番号154も付されている。この図において、自由壁は心臓の前および前外側面からこの図の裏側に回って心臓の後外側表面へと延びている。閉塞剤部位141〜146、151〜155、および161〜162が心臓上において特定しやすいように、ライン140、150および160はこれら部位からわずかに間隔が開いているものとして示されている。
【0046】
閉塞剤部位が左心室自由壁の大半を横切って周方向に延びる4本のライン170、180、190および200のパターンを規定するものとして計画することができる心臓の、図14Aは前面平面図であり、図14Bは後面図である。ライン170および180は例として心室のほぼ最大幅の部分に近い位置に配置されているが、ライン190および200は心尖側に間隔を開けて配置されている。閉塞剤部位171〜173はライン170に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位181〜186はライン180に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位191〜195はライン190に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位201〜202はライン200に概ね沿って分布するように計画することができる。閉塞剤部位171は、ライン170および180の両方に概ね沿うように計画してもよいことを示すために参照番号181も付されている。同様に、閉塞剤部位182および184は、ライン180および190の両方に概ね沿うように計画してもよいことを示すために、それぞれ参照番号192および194も付されている。この図において、自由壁は心臓の前および前外側面からこの図の裏側に回って心臓の後外側表面へと延びている。閉塞剤部位171〜173、181〜186、191〜195および200〜201が心臓上において特定しやすいように、ライン170、180、190および200はこれら部位からわずかに間隔が開いているものとして示されている。
【0047】
閉塞剤部位が左心室自由壁の大半を横切って縦方向に延びる6本のライン210、220、230、240、250および260のパターンに概ね沿って分布するように計画することができる心臓の、図15Aは前面平面図であり、図15Bは後面図である。閉塞剤部位211〜213は心尖14と共にライン210に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位221〜223は心尖14と共にライン220に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位231〜233は心尖14と共にライン230に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位241は心尖14と共にライン240に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位251〜253は心尖14と共にライン250に概ね沿って分布するように計画することができ、閉塞剤部位261〜262は心尖14と共にライン260に概ね沿って分布するように計画することができる。この図において、自由壁は心臓の前および前外側面からこの図の裏側に回って心臓の後外側表面へと延びている。閉塞剤部位211〜213、221〜223、231〜233、241、251〜253および261〜262が心臓上において特定しやすいように、ライン210、220、230、240、250および260はこれら部位からわずかに間隔が開いているものとして示されている。
【0048】
図10〜15のパターンは左心室に特有であるが、本技法は心臓の他の心腔、または心臓全体に対しても用いることができる。本技法は、心房細動および他の心房に関係する状態の防止を支援するため、心房、特に拡大した左心房のリシェイピングおよび/またはリモデリングに用いることができる。
【0049】
左および右心室の治療に用いることができるパターンを図16Aおよび16Bに示す。ライン210、220、230、240、250および260は、図15Aおよび15Bに示す左心室を治療するためのラインと同じである。加えて、縦方向ライン270に概ね沿って並ぶ閉塞剤部位271、272および273が右心室を治療するために用いられている。
【0050】
方向の異なるラインが更にパターンに含まれてもよい。閉塞剤部位281〜286が左心室のほぼ最大幅の部分の位置で左心室の自由壁の大半を横切って周方向に延びるライン280に概ね沿って分布し、閉塞部位291〜293と共に心尖14が心尖近傍から心基部近傍までの距離全体にわたって縦方向に延びるライン290に概ね沿って分布する心臓の、図17Aは前面平面図であり、図17Bは後面図である。この図において、自由壁は心臓の前および前外側面からこの図の裏側に回って心臓の後外側表面へと延びている。閉塞剤部位281〜286および291〜293が心臓上において特定しやすいように、ライン280および290はこれら部位からわずかに間隔が開いているものとして示されている。
【0051】
心臓静脈系の外にある部位がパターンに含まれてもよい。心筋症を治療するための一技法においては、空間占拠剤が心臓の心腔または複数の心腔周囲の心臓壁の少なくとも一部に入り込んでそれを厚くするように心筋内の複数部位に導入される。閉塞剤部位と共にこの空間占拠剤部位が、全体的に壁ストレスを軽減し、心腔のサイズを安定させるまたは減少さえさせる治療効果のあるパターンを形成しして心腔の有益な全体的リシェイピングを引き起こす。この技法および他の技法が、2007年9月7日出願米国特許出願第11/900,005号(Sabbah他、Intramyocardial Patterning for Global Cardiac Resizing and Reshaping)に記載されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。更に様々な他の技法も心臓静脈系における閉塞剤部位を含むパターンを広げるまたは完成させるのに適しているかもしれない。
【0052】
局所的状態の治療
心筋梗塞および心室壁の顕在的動脈瘤などの局所的状態の治療に閉塞剤部位のパターンを使用してもよい。例えば、図18は、健常な心臓組織と心筋梗塞との間の移行エリアにおけるストレスを軽減するために動脈瘤300の外周の周りに配置された閉塞剤部位301〜304のパターンを示す。図19は、健常な心臓組織と心筋梗塞との間の移行エリアにおけるストレスを軽減するために別の動脈瘤310の外周の周りに配置された閉塞剤部位311〜312のパターンを示す。治療を要する壁厚減少領域または動脈瘤などの様々な心臓疾患を特定するのに適した技法は当業者には周知であり、MRI、エコー、および他の画像化手段が挙げられる。こうした技法は、心筋症を治療するための全体的パターンと共に使用しても、まだ心筋症に進行していない局所的状態を治療するために全体的パターンを使用せずに使用してもよい。
【0053】
一部の治療においては、閉塞剤部位を心臓の線条と整列させることが望ましい。図20は、トレント・グアスプの二重ループ概念に従う心臓の前面の概略図である。図20の図は、心基部ループの右区間321、心基部ループの左区間322、心尖部ループの下降区間323、および心尖部ループの上昇区間324を示す。なお、各種区間321、322、323および324における線条は、心筋の筋肉繊維束を表している。トレント・グアスプの二重ループ概念は、F.Torrent−Guasp他、Towards new understanding of the heart structure and function,European Journal of Cardio−thoracic Surgery,Vol.27,2005,191〜201ページに開示されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。線条は、治療を改善するために以下の要領で利用することができる。
【0054】
パターンは、心臓またはその様々な心腔の1以上の全体的リサイジングおよび/またはリシェイピングを達成するために心筋組織の線条に対して計画することができる。例としては、全体的リサイジングおよび/またはリシェイピングを達成するために線条に平行して走るラインパターンを用いることができる。
【0055】
閉塞剤部位のパターンは局所的状態の治療に有用であるが、心臓の局所異常に近接して確定された1カ所の閉塞剤部位、または孤立しパターン化されていない2、3カ所の閉塞剤部位でも治療的価値を有し得る。図21は、動脈瘤330を有する心臓を示す。本例においては、閉塞剤部位331を形成するために注入された閉塞剤は動脈瘤330の縁辺部および本体へと拡散してもよい。分散が線条に沿っている場合は、閉塞剤部位は線条に平行して、従って最大収縮および弛緩のベクトルに沿って広がり、心筋の健常組織と動脈瘤330との最大連結を実現する。閉塞剤部位331のみが示されているが、必要であれば本明細書の教示に従い多数の閉塞剤部位を用いることができる。
【0056】
心臓静脈系に用いる閉塞剤送達系
心臓静脈系の特定の部位へのアクセスは、アクセスされている特定の部位に適した方法で達成される。本技術分野で周知の多くの異なる種類の注入システムを外科手術の種類(侵襲的または最小侵襲的)、使用が望ましい閉塞剤の種類、および注入によって達成すべき望ましいパターンに応じた方法で採用してもよい。注入は、開胸処置において心外膜の心静脈内に直接配置した標準的カニューレを介して行ってもよい。循環のごく一部に適用可能な別の技法は、心外膜の静脈の一部位に冠状静脈洞内に浮かべたカテーテルを介してアクセスすることである。更に一般的な技法は、大腿静脈または頸静脈を通して配置され透視下で冠状静脈洞へそして冠状静脈洞内部へ、従って、心臓の静脈系へと前進させたカテーテルを使用する。この目的に適合するカテーテルシステムは、心臓病学において心臓再同期療法のためのペーシングリードの送達に使用されるカテーテルシステムである。カテーテルは、注入のために心臓内の特定部位を可視化するために使用して、注入を望ましい程度に選択的かつ限局的にすることができる。注入システムの特性は、閉塞剤注入すべき静脈のサイズに応じて調節することができる。
【0057】
閉塞剤を心臓静脈系に注入するのに適したカテーテル340を様々な作動状態で図22Aおよび22Bに示す。図22Aは、心静脈内を前進させるのに適した状態のカテーテル340を示し、図22Bは、閉塞剤を導入することができる心静脈の区間を規定するために展開した状態のカテーテル340を示す。この図示したカテーテル340の実施態様は、外チューブ342と内チューブ350を備える。外チューブ342は流体を静脈に連通させるおよび/または内チューブ350を静脈に連通させる管腔346を規定する。外チューブ342と内チューブ350は、例えば、ステンレス鋼またはニチノールなどの金属、およびポリエチレン、ナイロン、およびポリイミドなどのポリマー類を含む各種材料単独で、またはこれら材料を組み合わせて製造することができる。
【0058】
カテーテル340は、図22Aでは縮小した状態が示され、図22Bでは拡張した状態が示されている拡張型バリアー344を備える。バリアー344は、静脈を通る血流をブロックするために概して外チューブ342の遠位側端近傍でその周囲を周方向に伸びている。バリアー344は、例えば、ナイロン、PEEK、およびPebaxなどを含む種々様々な材料で構成することができる。外チューブ342は、バリアー344を膨らませる/しぼませるために流体をバリアー344へ/から移送するための管腔(図示せず)を備える。バリアー344を縮小した態勢にすれば、カテーテル340を必要に応じて心臓静脈系内で移動させて位置決めすることができる。カテーテル340を適切に位置決めしたら、バリアー344を拡張して静脈の壁と係合させることで、カテーテル340の遠位側端を安定化させ、静脈を通る血流をブロックして閉塞剤を導入すべき区間の一端を確定する。
【0059】
内チューブ350は、閉塞物360をバリアー344と間隔が固定または可変となる関係に静脈内に配置するため管腔346内に摺動可能に受容されている。閉塞物360は内チューブ350の遠位側端に移動可能に配設されており、外チューブ342の管腔を縮小した状態で通過して静脈内を外チューブ342の遠位側端から所望距離だけ前進し、閉塞剤を導入すべき区間の他端を確定するために拡張して静脈の壁と係合する。図22Bには展開すると概して球状になるように示されているが、閉塞物360は任意所望の形でよい。閉塞物360は、例えば、ナイロン、ポリアミン類、エチレン−酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、オレフィン共重合体または単独重合体、ポリエチレン類、ポリウレタン類、ならびにポリマーおよび共重合体の様々な混合物などの任意適当な材料でできた、膨らますことのできるバルーンとしてもよい。バルーン閉塞物に充填してそれを拡張させるのに適している物質としては、例えば、ヒドロゲル、シリコーン類およびエポキシ、ならびにヒアルロン酸注入フィラー、ヒトコラーゲン類およびヒトフィブリンシーラントなどの様々な生体吸収性物質を含む多種多様な物質が挙げられる。あるいは、閉塞物360は、静脈内に放出されると自動的に拡張するコラーゲンなどの適当なスポンジ材で製造してもよく、こうした物質は当業者には周知である。
【0060】
内チューブ350は、2つの管腔(図示せず)を備える。これら管腔の一方は、閉塞物360が膨らますことができかつ放出可能である、または膨らますことができかつしぼませることができるように作られている場合は流体を閉塞物360へ/から移送するためのものであり、閉塞物がスポンジなどのように放出と同時に拡張するように作られている場合は、機械的に閉塞物360を放出するワイヤーを収容するためのものである。閉塞物が放出と同時に拡張するように設計されている場合、放出機構が他方の管腔内の閉塞剤注入液の圧力によって作動するのであれば、放出ワイヤーおよびそれに関連する管腔は除外してもよい。他方の管腔は、流体を内チューブ350の孔352、354および356(例として3つの孔を示す)に連通させるためのものである。孔352、354および356は、閉塞剤を閉塞物360とバリアー344の間に導入するためのものであり、必要な場合には、この容積から血液を吸引するのに用いてもよい。
【0061】
閉塞剤を心臓静脈系の所望の区間に配置するには、図22Aに示すようなカテーテル340を心臓静脈系内の所望位置まで前進させる。バリアー344を拡張させてカテーテル340の遠位側端を安定化し、区間の一端を規定して、区間から心臓への血液の流れをブロックする。内チューブ350を外チューブ342の遠位側端から静脈内へと所望距離だけ前進させ、閉塞物360を拡張させて区間の他端を規定する。閉塞剤を孔352、354および356から区間に導入する。閉塞剤を硬化させ、内チューブ350を後退させてカテーテル340から取り除く。閉塞物360は後退させるために縮小させてもよく、閉塞剤の導入の前に取り外してもよく、内チューブ350の後退が始まるときに自動的に外れてもよい。バリアー344を縮小させ、カテーテル340をこの部位から取り除く。必要に応じてカテーテル340を取り除く前に閉塞物360に類似の第2の閉塞物を区間の他端に配置してもよい。
【0062】
心臓静脈系の所望の区間内でのカテーテル340の遠位側端の適切な配置を容易にするまたは確認するため、X線不透過性物質を外チューブ342の遠位側端および/または内チューブ350の遠位側端の近傍に配設してもよい。
【0063】
外チューブ342と内チューブ350の近位側端(図示せず)は、カテーテル340によって実行される様々な機能を医師が制御できるようにカテーテル340の近位側端から延びている。
【0064】
閉塞物およびバリアーは、急速固化または急速硬化閉塞剤で形成してもよい。急速固化閉塞剤の使用が望ましい場合は、内チューブが延出した状態でカテーテル340に類似のカテーテルを位置決めしてもよい。ただし、バリアー344および閉塞物360を、流体状態から固体状態に急速に固化するように作られた閉塞剤を送り込む孔に代えてもよい。急速固化閉塞剤を2箇所の相隔たる末端閉塞物を形成するために静脈区間にこれらの孔から送り込み、第2の閉塞剤を主要閉塞物を形成するために相隔たる閉塞物の間の静脈区間に送達してもよい。第2の閉塞剤は急速に固化する必要はなく、末端閉塞物に用いられる急速固化閉塞剤とは異なる特徴となるよう最適化してもよい。更には、2つの末端閉塞物は、必要であれば異なる閉塞剤で形成してもよい。カテーテルに用いられる材料は、硬化した閉塞剤とカテーテルとの固着を最小にし、カテーテルの引き抜きを可能にするように選択される必要がある。好適な急速固化閉塞剤は、Vancouver,British Columbia,CanadaのAngiotech PharmaceuticalsおよびFremont,CaliforniaのBaxter Healthcare Corporationが販売するCoSeal(登録商標)外科用シーラントである。
【0065】
図22に示すカテーテル340、急速固化閉塞剤を送り込むための孔を用いた変形例、および他の好適なカテーテルの例が、代理人整理番号3220−050−PRV、発明者Hani N.Sabbahの名前で2008年4月10日に出願された米国特許仮出願「Method, Apparatus and Kits for Forming Structural Members Within the Cardiac Venous System」に詳細に記載されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0066】
心臓静脈系での使用に適した物質
全体的リサイジング、全体的リシェイピング、全体的リサイジングおよびリシェイピングの両方、または局所的治療のための心臓静脈系での使用に適した物質としては、注入可能物質、移植可能器具、およびその組合せが挙げられる。注入するまたは移植するパターン用の物質、および用量(注入可能物質の場合)、サイズおよび構成(移植可能な器具の場合)、ならびに例えば、剛性、展性、弾性、水分吸収などその他の物質特性は、目的とする治療効果に基づいて選択される。注入可能物質を使用する場合は、用量は一定でもよく、必要な場合はパターン内での位置、求められている支持の程度、および使用部位での静脈のサイズなどの要因に応じて変えてもよい。移植可能な器具を使用する場合は、有効断面が静脈のサイズおよびパターンの位置に基づいて変えられるように断面の異なる器具を用いてもよい。治療効果が主としてリサイジングおよびリシェイピングの場合は、好ましくは迅速に構造的支持を実現し、時間と共に消散してもよい物質が適している。アルギン酸塩、キトサン、フィブリン糊、コラーゲン、グリコアミノグリカン類、合成ポリマーを含むその他の生分解性ポリマー、およびヒドロゲル物質がこの目的に適した物質の実例である。長期の構造的支持が望まれる場合は、物質は体による吸収または分解に耐性があるものが好ましい。金属、ポリマー、シリコーン、および形状記憶物質がこの目的のための実例である。リサイジング、リシェイピングおよび逆行リモデリングが望まれる場合は、物質は一定期間の支持を実現した後に再吸収され、所望の逆行リモデリングを実現するために筋肉細胞、血管などによって置き換えられるように作られてもよい。線維芽細胞、線維細胞、幹細胞、筋肉細胞、成長因子、間質細胞由来因子などの細胞、または細胞を引き寄せる他の物質および/またはサイトカイン、あるいはこの両者と組合せた注入可能なバイオポリマーもこの目的に適している。
【0067】
好適な物質の例としては、天然および合成の生物学的に適合したポリマー(ヒトへの移植用としてFDAに認可された任意のポリマー)、フィブリンシーラント、アルギン酸塩類、コラーゲン類、糖類、ヒドロゲル、自己組織化ペプチド類、PLGA、PEG、凝固タンパク質ベースのシーラント、ヒアルロン酸、アルギン酸塩およびキトサンのヒドロゲルおよびビーズ、共有結合しているペプチドを有するアルギン酸塩物質、キトサン物質でコーティングしたアルギン酸塩ビーズ、自己組織化ペプチド足場ヒドロゲルなどの単独または2種以上の組合せが挙げられる。好適なバイオポリマー物質は、NovaMatrix Unit of FMC Biopolymer Corporation,1735 Market Street,Philadelphia,PA19103およびOmrix Biopharmaceuticals,630 5th Avenue,22nd Floor,New York,NY10111を含む様々な商業的供給源から市販されている。好適な物質としては更に、金属、ポリマー(プラスチックおよびシリコーンを含む)、ニトノールなどの形状記憶物質、複数の物質の組合せなどでできた機械的器具が挙げられる。様々な物質が更にLee他の名前で2005年12月8日公開の米国特許出願公開第2005/0271631号に記載されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。その他の好適な物質としては、単糖類、二糖類、および三糖類などの糖類が挙げられる。この物質の一覧は例示的であり、選択した静脈の区間への注入または移植と同時に支持構造を形成するのに適した程度の純度、調製時間、圧搾の容易さ(粘度)、反応速度(硬化時間)、強度(崩壊までのエネルギー)、伸展性、水分取り込み性、破裂強度、組織粘着性、耐久性、分解速度などを有する場合は原則的にFDAが承認した任意の物質を使用してもよい。
【0068】
注入可能物質を用いる場合は、原則的に個々の注入箇所が互いに連結せず、望ましいパターンのラインに沿った心筋壁の全体的な壁厚増大によって治療効果が達成されるように、間隔を開けてもよい。あるいは、治療効果を実現するために閉塞剤部位間に機械的結合、化学的結合、または機械的結合および化学的結合の両方が得られるように、個々の注入量を注入箇所間の間隔と関連させてもっと接近させて注入してもよい。
【0069】
構造物質は、生細胞(例えば、筋肉細胞、線維芽細胞、線維細胞または繊維化誘導血液前駆細胞、幹細胞、および筋肉細胞を含む)、成長因子(例えば、VEGF、FGF、およびHGFなどの血管新生因子;化学誘因物質;幹細胞由来因子;およびTGF−bを含む)、ストロマ細胞由来因子、幹細胞生成物、ペプチド、タンパク質、遺伝子、軟骨細胞、不溶性分子、その他の生物製剤などの単独または2種以上の組合せを含む、他の治療用物質の送達用のプラットホームとして機能してもよい。
【0070】
一般に、閉塞剤として心静脈に注入可能な生体適合性ポリマーは、迅速に心臓壁を厚くする物理的構造または充填材となり、もってリモデリングの進行を阻止し、場合によっては、リシェイピングおよびリモデリングの逆行を実現するため、有用性が高い;投与はカテーテルを用いた最小侵襲技法から開胸処置まで非常に柔軟に行うことができる。加えて、一部のポリマーの場合は機能性組織の再生のための細胞内方成長を促進するin−situの組織増殖に要する治療用物質の送達を可能にする基質を形成することがある。
【0071】
第1の理由については、バイオポリマーの構造的特性によって損傷を受けた心臓心腔における複数点で壁ストレスが減少し、これが心腔寸法の減少に加えて有益な心臓力学を生みだす。心臓壁ストレスの所望の減少は、投与されるバイオポリマーの体積と物質それ自体の剛性の影響を受ける。体積に関しては、よくみられる量、例としては約4.5%以上を超えて全壁体積を増加させると、体積/圧力に重要で有益な変化を生みだす。剛性に関しては、剛性が心筋と等しいまたは心筋よりわずかに高い非収縮性物質は、壁ストレス(点繊維ストレス)を減少させる効果がある。
【0072】
心臓リサイジングおよびリシェイピングにとって望ましいポリマー特性は、以下の通りである。
【0073】
素材/純度。好適なバイオポリマーは、合成の、十分に定義された安定したものであればよい。フィブリンシーラント、牛コラーゲンなどのヒトまたは動物由来のポリマーも好適である。
【0074】
無菌性。好適なバイオポリマーは無菌であり、注射器(開式手術用)およびカテーテル(低侵襲処置)に入れて手術室へ持ち込むのに適する。
【0075】
血栓形成。好適な物質は非血栓形成性である。
【0076】
免疫原性。単純な機械的効果を実現するには、不活性、非免疫原生物質が好ましい。ただし、組織の内方成長を誘発する成長因子などの生物反応性ペプチドまたはタンパク質を含有する物質は、非常に有益である可能性がある。
【0077】
調製。解凍および予混合などの最低の処理が望ましい。生成物は好ましくは注射器(開式外科手術)およびカテーテルシステム(低侵襲処置)に予め充填または装填される。
【0078】
投与/ゲル時間:バイオポリマーの重合またはゲル化の特徴は、ラインの数とライン当たりの注入箇所の数に依存する。20程度の注入(投与)箇所を伴うパターンの場合は、その期間は20分前後にすることができる。わずか2、3の注入箇所、好ましくは7または8を超えない注入箇所を伴う単一の周方向ラインなどのパターンの場合は、その期間はかなり短くなる。ポリマーは、単一の塊または複数のミクロスフェアとして送達してもよい。
【0079】
硬さ/密度。ポリマーは好ましくは通常の心筋よりも幾分硬くなる特性(応力歪み関係)を有する必要があると考える。通常の心筋は、1〜10kPaの繊維ストレスを示す。
【0080】
効果持続期間:バイオポリマーの支持効果が存続する期間はまだ決定されていないが、少なくとも6カ月、場合によっては1年以上とすることもできる。
【0081】
可塑性/多孔性。多孔性は、剛性、濃度、または分解速度の次に重要である。ただし、心臓組織への適用では、300〜420μmの多孔性が適しているかもしれない。
【0082】
生分解。理想的には、壁ストレスの軽減、心室容積増加、リシェイピング、駆出率の改善、および、長期的には天然組織再増殖によって支えられるリモデリングの逆行を持続させるために、物質はゆっくり分解する必要がある。例としては、バイオポリマーの実質的存在および機能は、少なくとも6カ月、好ましくはそれ以上持続する必要がある。
【0083】
保存性および安定性。バイオポリマーは室温で保存し得るもので、1または2年間安定しているのもが好ましい。
【0084】
その他多くの生体適合性ポリマーが好適である。好適なフィブリンシーラントは、Sommerville,New JerseyのEthicon Inc,New York,New YorkのOmrix Pharmaceuticalsが販売するCrosseal(登録商標)およびQuixil(登録商標)Fibrin Sealant、ならびにDeerfield,IllinoisのBaxter Healthcare Corp.が販売するTisseel Fibrin Sealantなど、様々な製造業者から入手可能である。好適なフィブリン糊は、被験者自身のプラスマから調製される自己由来フィブリノゲンの元となるクリオプレシピテートからも製造し得る。その他の好適なポリマーとしては、再吸収可能な合成自己硬化ヒドロゲル物質が挙げられる。こうした物質の一例がDuraSeal(登録商標)シーラントであり、Waltham,MassachusettsのConfluent Surgicalが販売している。DuraSealシーラントは、ポリエチレングリコールベースのシーラントである。もう一つのこうした物質は、Vancouver,British Columbia,CanadaのAngiotech PharmaceuticalsおよびFremont,CaliforniaのBaxter Healthcare Corporationが販売するCoSeal(登録商標)外科用シーラントである。CoSeal外科用シーラントは、2種類の合成ポリエチレングリコールまたはPEG、希塩化水素溶液、およびリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム溶液から作られる。投与時には、混合したPEGと溶液が、組織に付着するヒドロゲルを形成する。DuraSealおよびCoSealの両シーラントは数秒以内に重合し、体内で加水分解により数週間以内に分解する。その他の好適なポリマーとしては、シアノアクリレート糊が挙げられる。その他の好適なポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(「PEO:polyethylene oxide」)類、PEO−ポリ−l−乳酸(「PLLA(PEO−poly−l−lactic acid)−PEOブロック共重合体」)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリル酸)(「ポリ(NIPAAm−co−Aac):poly(N−isopropylacrylamide−co−acrylic acid」)、プルロニック剤、およびポリ−(N−ビニル−2−ピロリドン)(「PVP:poly−(N−vinyl−2−pyrrolidone」)が挙げられる。その他の好適なポリマーとしては、セルロースなどの多糖類が挙げられる。一般にアルギン酸塩類として知られる一類の物質も好適なポリマーである。その他の好適なポリマーとしては、機械的に神経シグナリングを中断するために単独で、または機械的中断に加えて治療薬を投与するために他の物質と共に注入することができる様々なビーズおよびヒドロゲルが挙げられる。ポリマーベースのビーズおよびヒドロゲルは、ポリマー物質のみを含有してもよく、あるいは幹細胞、線維芽細胞、もしくは骨細胞などの細胞;タンパク質、プラスミド、または遺伝子;タンパク質またはプラスミドの形態の成長因子;化学誘引物質;フィブリン因子(またはフラグメント)E;RDG結合部位;各種医薬組成物;新組織;もしくは他の治療に有益な物質;または上記の任意の組合せを含んでもよい。ビーズおよびヒドロゲル用の好適なポリマーとしては、フィブリン糊、コラーゲン、アルギン酸塩類、およびキトサンが挙げられる。他の好適なポリマーとしては、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、およびその他の調合物、ScandinaviaのQ−MedまたはMedicis Aesthetics Holdings Incが販売するRestylane Injectable Gel、ならびにGensymeが販売するSynviscヒアルロン酸が挙げられる。本明細書において記載したポリマー物質は、広い範囲の物質類を概して例示するものであり、これらの類は当業者には明らかなように更なる選択肢を提供し得るものである。本明細書において記載した1以上の実施形態に関連して本明細書において化合物を示す場合、その前駆体または類似体または誘導体も考えられる。例えば、代謝されるなどして体内で変化してこうした化合物を形成する物質構造が考えられる。あるいは、反応してこうした化合物を形成する物質の組合せも考えられる。更に考えられるその他の物質は、このような例として挙げた化合物の分子構造とほとんど変わらない分子構造を有するもの、あるいは本明細書において意図した使用目的に関して実質的に類似した生物活性を有する(例えば、そうした生物活性機能に関わる非官能基を除去または変化させる)ものである。こうした化合物の群、およびその前駆体または類似体または誘導体は、本明細書においては「化合物剤」としている。同様に、例えば「ポリマー剤」または「フィブリン糊剤」などの本明細書における他の形式の「剤」についての言及は、実際の最終生成物、例えば、それぞれポリマーもしくはフィブリン糊、または結果として生じる物質を形成するために共にまたは協調的に送達される1以上のそれぞれの前駆体物質を更に含むことができる。
【0085】
自己ゲル化ヒドロゲルは、好適なバイオポリマーである。こうした自己ゲル化ヒドロゲルは、Ca2+、Ba2+、Mg2+、またはSr2+などの二価陽イオンの存在下でアルギン酸塩物質から形成することができる。ゲル化は二価陽イオンがポリマー鎖におけるブロック同士のイオン結合に関わったときに起こり、三次元ネットワークを形成する。一アプローチにおいては、アルギン酸塩混合物の混合成分を注入してin−vivoでゲル化させるために単管注入針に合流する二室注射器を使用してもよい。一方の成分は、HOなどの水溶液中で十分にソルブライズさせたアルギン酸ナトリウムとしてよい。他方の成分は、溶液に分散させた(好ましくは溶解させない)上記の二価陽イオンの一種としてよい。これら化合物は、任意好適な方法で混合することができる。注入の前に、例えば、注射器に取り付けたT型アダプターによって両成分を混合してゲル化作用を開始させ、ゲル化しつつあるアルギン酸塩混合物が管腔に入り対象の心臓組織へと注入されるようにする。アルギン酸塩混合物はすぐに注入してもよく、注入の前にヒドロゲルの粘度を高めるために注射器内で予め部分的に硬化させてもよい。場合によっては、予め硬化させた調合物は、粘性の低いヒドロゲルが注入後に対象の組織エリアから分散または移動する可能性を低くする。注入部位からの分散/移動を制限または最小化するには、分子量が300,000を超えるアルギン酸塩物質の利用が有益かもしれない。別のアプローチにおいては、アルギン酸ナトリウム溶液および分散させた陽イオンを外部混合室で予め混合し、対象の心臓組織に注入する単管注射器に吸引してもよい。別のアプローチにおいては、アルギン酸ナトリウム溶液は、二価陽イオンとの混合の前に適当なペプチド(例えば、RGDまたはGREDVY)と予め混合してペプチドをアルギン酸塩に共有結合させてもよい。
【0086】
好都合なことに、イオンで架橋されたアルギン酸塩ヒドロゲルの物質特性は、様々な方法で制御することができる。ゲル化前溶液の粘度を制御してゲル化後の剛性と切り離すために分子量分布を変える技法はH.Kong他、Controlling material properties of ionically cross−linked alginate hydrogels by varying molecular weight distribution,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.711,2002,GG5.7.1〜GG5.7.4ページに開示されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。その他の技法が、一部はポリエチレングリコールまたはPEG物質に適用可能であり、2003年5月20日Pathak他に交付された米国特許第6,566,406号、2005年5月3日Pathakに交付された米国特許第6,887,974号、およびPathak他の名前で2004年2月5日公開の米国特許出願公開第2004/0023842号に開示されており、これらは全てその全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0087】
注入可能な架橋重合調製物の例が、Cohen他の名前で公開の2006年4月20日米国特許出願公開第2006/0083721号、および2005年1月6日Cohen他の名前で公開の米国特許出願公開第2005/0003010号に開示されており、これらは両者ともその全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0088】
2000年5月16日wallace他に交付された米国特許第6,063,061号は、標的部位のオリフィスを通じてゲルを押し出すことによる患者の体内の標的部位への分子性ゲルの適用を開示しており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。Wallace他は、ポリマーの架橋の程度が押し出し性、周囲の生体液の吸収性、凝集性、空間を充たす能力、膨張する能力および組織部位に付着する能力を含むヒドロゲルの機能特性のいくつかに与える影響を考えていた。高分子ゲル組成物の架橋の程度は、架橋剤の濃度を調整すること、架橋放射線への曝露を制御すること、モノおよびポリ不飽和単量体の相対量を変化させること、反応条件を変えること、などによって制御することができる。更には、ヒドロゲルが送達されている空間に充満する能力を高めるサイズを有するヒドロゲルの多数のサブユニットを創出するために機械的にヒドロゲルを崩壊させることによって、特性を変化させてもよい。
【0089】
Bell他の名前で2003年11月13日公開の米国特許出願公開第2003/0211793号は、軸が繊維の軸と実質的に平行なバイオポリマー原繊維で構成されるバイオポリマー繊維をむ注入可能な生体適合性物質を開示しており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0090】
閉塞剤の別の例は、多糖スポンジであり、その例が2002年1月1日Shapiro他に交付の米国特許第6,334,968号、および2002年7月30日Shapiro他に交付の米国特許第6,425,918号に開示されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0091】
別の好適な治療薬は、キトサン物質でコーティングされたアルギン酸塩ビーズであり、これはアルギン酸塩ビーズを注入箇所の隣接エリアに固定することが望ましい場合に特に適している。この場合、アルギン酸塩ビーズを被覆するコーティングは、コーティングの内側がアルギン酸塩の表面に化学的に付着すると同時に外側が心筋組織に結合するものが望ましいかもしれない。アルギン酸塩表面と心筋組織の両方が利用可能な負の結合部位を有しているならば、正電荷密度を有する被覆層が適当かもしれない。キトサンはそのような物質である。キトサンは線状多糖であり、その正電荷密度が粘膜などの負に帯電した表面に容易に結合する生体接着剤であることは周知である。キトサン被覆層は、浸漬被覆または他の周知の処理によって施してもよく、その場合キトサンは、アルギン酸塩表面上の利用可能な負電荷部位にイオン結合することができる。その意味で、キトサンは負に帯電した心筋組織にビーズを固定化する固定剤として作用し、注入部位に一時的な機械的一体性を与えることができる。一時的とは、キトサン被覆層は最終的には酵素によって溶解するという意味である。「固定時間」は、キトサン被覆層の厚さを増加させることによって延長し得る。ビーズおよびヒドロゲルは、Lee他の名前で2007年6月13日出願の米国特許出願第11/818,220号、およびLee他の名前で2006年6月13日出願の米国特許出願第60/813,184号に記載されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0092】
注入可能物質の特性は、壁厚増大を増進する、または閉塞剤部位同士の連結を強化するように空間を満たすよう、静脈系の特徴(直径および伸張性)を鑑みて調節してもよい。
【0093】
粒子、ロッド、球体、膨張性小型バルーン、および支柱などの移植可能な機械的器具を閉塞剤として使用することもできる。Santamore他の名前で2005年4月14日公開の米国特許出願公開第2005/0080402号は、心筋を硬直させるための様々な移植可能器具を開示しており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。機械的支柱は、ステンレス鋼、チタン、もしくは他の周知の生体適合性金属または他の剛体物質製としてよく、長さは長くても短くてもよく、心臓外科の分野では周知の技法によって移植してよい。支柱を導入し得る通路を創出する用途に適した一種の道具を使用して患者の心臓の壁に通路を形成する。この通路は、上で論じた種類の機械的支柱を移植するためのアクセスを提供するために使用してもよい。好適な道具が2000年10月17日にPayne他に交付された米国特許第6,132,451号に開示されており、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。移植可能な機械的器具は、さらなる治療を施せるように薬物溶出性としてもよい。
【0094】
静脈系内に配置された後に膨張する注入液および移植物は、投与を複雑にせずに壁厚増大を増進する効果がある。特に、注入または移植による外傷を最小化することができる。膨張性ポリマーを使用してもよい。更には、心筋への移植または注入後に拡張する膨張性ポリマー製のミクロスフェアおよびロッドなどの堅固な物体を特定の拡張サイズを得るために考案してもよく、これは静脈の閉塞および心臓壁の壁厚増大の程度の微調整を可能にする。途絶を管理するために拡張の速度を制御してもよい。
【0095】
天然であれ遺伝子操作されたものであれ、急速に増殖する細胞および急速増殖を促進する生物製剤を閉塞剤として使用してもよい。
【0096】
動物実験
心臓の静脈系へのアルギン酸塩の直接注入の効果を理解するため、2匹の正常な犬に対して調査を実施した。2匹の雑種犬のそれぞれは心静脈へのアルギン酸塩の注入を受けた;具体的には、犬07−105は約3ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩の注入を左心室の表在前心静脈に受け、犬07−106は約3ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩の注入を左心室の表在後心静脈に受けた。使用したアルギン酸塩調合物は、NovaMatrix Unit of FMC Biopolymer Corporation,1735 Market Street,Philadelphia,PA19103が販売するCaアルギン酸塩/Naアルギン酸塩調合物であった。静脈は縫合によってブロックし、アルギン酸塩は静脈の壁を通して注入した。
【0097】
左心室壁厚さ、左心室の拡張末期容積(「EDV:end diastolic volume」)および収縮末期容積(「ESV:end systolic volume」)、ならびに左心室駆出率(「EF:ejection fraction」)を治療前および治療後に測定した。ただし、治療後は注入後2週間であった。測定値を以下の表1、2、3および4それぞれに示す。前心静脈にアルギン酸塩注入を受けた犬07−105の場合、前壁厚さは7.4%増加したが、隔壁および後壁の厚さはそれぞれ−1.0%および−0.8%と本質的に変化しなかった。後心静脈にアルギン酸塩注入を受けた犬07−106の場合は、後壁厚さは7.0%増加したが、隔壁および前壁の厚さはそれぞれ0.0%および−0.9%と本質的に変化しなかった。期待したように、治療を受けている心臓壁は厚くなったが他の心臓壁は厚くならなかった。しかし、壁厚増大は健常な心臓の性能には影響せず、拡張末期容積、収縮末期容積、および駆出率が本質的に変化しなかった。本調査によると、アルギン酸塩は、表在静脈に注入されると、静脈近傍の心筋を著しく傷つけることなく、あるいは心筋の正常な収縮を悪化させることなく心筋を走る静脈のネットワークに入る。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

アルギン酸塩を前心静脈に注入された犬07−105の心臓の画像を図23〜27に示す。図23は、マッソントリクローム染色を用いて組織学的検査用に準備した心臓の左心室前壁の貫壁部位370の通常の顕微鏡写真を示す。外見は正常であった。冠状動脈372がその軸に垂直な平面内に見えており、近接静脈374がその軸に沿った平面内に見えている。図24は、冠状動脈372、およびアルギン酸塩の入った近接静脈374の一部を含む図23の心臓部位の拡大図(対物倍率4倍)を示す。図25は、拡大した心静脈374の別の部分を含む心臓部位の隣接部分の拡大図(対物倍率4倍)を示し、静脈374を充たすアルギン酸塩の塊がはっきりと見えている。図26は図25の一部の拡大図(対物倍率10倍)であり、正常な組織がアルギン酸塩で充たされ拡大した心静脈の一部を取り囲んでいることを示す。図27は、拡大した心静脈374を含む心臓の一部の更なる拡大図(対物倍率40倍)であり、H&E染色を用いて組織学的検査用に準備したものである。アルギン酸塩が正常に見える組織に取り囲まれている。
【0102】
心臓の静脈系へのアルギン酸塩の直接注入が心不全の犬における左心室機能障害の進行およびリモデリングにどのような効果があるかを理解するため、別の調査を実施した。2匹の雑種犬が35パーセント以下のLV駆出率を達成するため直径が77〜102μmのポリスチレンラテックスミクロスフェアを用いた多数回の一連の冠動脈内塞栓術を受けた。最後の塞栓術の2週間後、犬は表在前心静脈および表在後心静脈の両方に直接アルギン酸塩注入を受けた。各注入は3ミリリットルであり、静脈を膨張させるには十分であった。使用したアルギン酸塩調合物は、NovaMatrix Unit of FMC Biopolymer Corporation,1735 Market Street,Philadelphia,PA19103が販売する自己ゲル化Caアルギン酸塩/Naアルギン酸塩調合物であった。静脈は縫合によってブロックし、アルギン酸塩は静脈の壁を通して注入した。
【0103】
治療前および注入後30分に前壁、隔壁、および後壁の厚さを測定した。測定値を以下の表5に示す。アルギン酸塩注入による壁厚増大の程度は、両犬とも著しいものであった。犬07−104の場合、前壁および後壁がそれぞれ9.7%および9.1%厚くなり、犬07−114の場合は前壁および後壁がそれぞれ6.2%および10.9%厚くなった。
【0104】
【表5】

図28〜31に示す犬07−104の心室撮影画像において改善が見られる。図28および29は、それぞれ治療前の拡張末期および収縮末期を示し、図30および31は、それぞれ治療後2週間の拡張末期および収縮末期を示す。2週間後、アルギン酸塩の表在静脈への注入によって治療された動物、すなわち犬07−104および07−114は、ESVの改善を示した。すなわち、EDVが変化せずにESVが減少するとともに、EFの著しい改善または増加を示した。改善は静脈注入を行った部位における心室壁の厚さの増加によって生じたものと考えられる。結果を以下の表7〜9に示す。
【0105】
【表7】

【0106】
【表8】

【0107】
【表9】

本調査によると、アルギン酸塩は心静脈に注入することができて筋肉でできた心臓壁を厚くする効果があり、適切なパターンで注入した場合には局所異常を治療する、または心臓をリサイジングおよびリシェイピングし、そうすることで心臓の圧送機能を改善する効果がある。
【0108】
本明細書において記載した用途および利点を含む発明の説明は例示的なものであり、請求の範囲に記載する発明の範囲を制限することを目的とするものではない。本明細書において開示した実施形態の変形および変更が可能であり、本特許書類を精査すれば実施形態の様々な要素の実用的な代替物および均等物は、当業者であれば理解するであろう。実施形態の様々な要素の代替物および均等物を含む本明細書において開示した実施形態のこれらおよび他の変形および変更は、発明の範囲および精神から逸脱することなくなされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋および心臓静脈系を有する心臓を治療するキットであって、
前記心臓の心筋を厚くして強化するために治療に有益な構造部材を静脈内に確立する生体適合性閉塞剤の供給源;および
前記生体適合性閉塞剤を前記心臓静脈系の或る区間に送達する静脈内カテーテルであって、
前記供給源と連結する近位部;と
前記静脈の区間に前記生体適合性閉塞剤を治療効果のある量導入する遠位部とを備える前記静脈内カテーテル
を備えるキット。
【請求項2】
前記閉塞剤が注入可能である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記閉塞剤が非生体物質を含む、請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記非生体物質がポリマーである、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
前記閉塞剤が生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはそれらの任意の組合せを更に含む、請求項2に記載のキット。
【請求項6】
前記閉塞剤が粒子状物質を含む、請求項2に記載のキット。
【請求項7】
前記閉塞剤が移植可能である、請求項2に記載のキット。
【請求項8】
前記閉塞剤が薬剤溶出物質を含む、請求項2に記載のキット。
【請求項9】
心筋および心臓静脈系を有する心臓を治療する方法であって、
前記心臓の前記心筋を厚くして強化するため、内部に治療に有益な構造部材を確立する前記心臓静脈系の或る区間を特定すること;および
前記心臓静脈系の前記区間に生体適合性閉塞剤を治療効果のある量導入すること
を含む方法。
【請求項10】
心筋および心臓静脈系を有する心臓を治療する方法であって、
前記心臓の前記心筋にとって治療に有益な支持パターンであって、前記心臓静脈系の複数の区間に概ねまたがる前記パターンを特定すること;および
前記心臓の前記心筋を厚くして強化するために、前記パターンに従って前記区間に生体適合性閉塞剤を治療効果のある量導入し、前記心臓静脈系の前記区間内部にそれぞれ治療に有益な構造部材を確立すること
を含む方法。
【請求項11】
前記パターンが、前記心臓の心腔の収縮期容積を減少させることによって前記心腔を治療するための全体的パターンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記パターンが、前記心臓の心腔をリシェイピングすることと前記心腔の収縮期容積を減少させることによって前記心腔を治療するための全体的パターンである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記パターンが、左心室を治療するための全体的パターンである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記パターンが、前記左心室の自由壁の最大幅部分近傍で前記自由壁の少なくとも大半を横切って周方向に延びるラインで基本的に構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記パターンにおける複数の不連続部位が3〜9カ所である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記パターンにおける複数の不連続部位が6〜7カ所である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記パターンが、前記左心室の自由壁の少なくとも大半を横切って周方向に延びる複数のラインで基本的に構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記パターンが、前記左心室の自由壁の少なくとも大半を横切って縦方向に延びるラインを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記パターンにおける複数の不連続部位が3〜7カ所である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記パターンにおける複数の不連続部位が4〜6カ所である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記パターンが、前記左心室の自由壁の少なくとも大半を横切って縦方向に延びる複数のラインで基本的に構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記パターンが、
前記左心室の自由壁の少なくとも大半を横切って周方向に延びるラインと;
前記左心室の自由壁の少なくとも大半を横切って縦方向に延びるラインと;
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記パターンが、前記心臓の局所異常を治療するための局所的パターンである、請求項10に記載の方法。
【請求項24】
前記局所異常が前記心筋の動脈瘤である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記パターンが、前記心筋の健常組織において前記動脈瘤の外周部に近接し概ね沿うラインで基本的に構成される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記生体適合性閉塞剤が注入可能であり;
前記導入するステップが前記生体適合性閉塞剤を前記心臓静脈系の前記区間に導入することを含む
請求項10に記載の方法。
【請求項27】
前記生体適合性閉塞剤が非生体物質を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記非生体物質がポリマーである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記生体適合性閉塞剤が生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはそれらの任意の組合せを更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記生体適合性閉塞剤が粒子状物質を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記閉塞剤が移植可能である、請求項10に記載の方法。
【請求項32】
前記閉塞剤が薬剤溶出物質を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項33】
拡張した心腔および心臓静脈系を有する心臓を治療する方法であって、前記心筋を厚くし、前記心腔の収縮期容積を減少させ、前記心腔の機能を改善するために前記心臓静脈系の前記心腔の周囲の複数の区間に治療効果のある量、生体適合性閉塞剤を導入することを含む方法。
【請求項34】
治療効果のある量で生物学的に適合し、前記心臓の前記心筋を厚くして強化するために前記心臓静脈系の或る区間において治療に有益な構造部材を確立する効果のある閉塞剤の、前記心臓静脈系の前記区間に治療効果のある量投与することによって患者の心臓を治療するための薬剤の調製のための使用。
【請求項35】
前記薬剤が針−注射器送達系を用いた適用に適する、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記薬剤が静脈内カテーテルを用いた適用に適する、請求項34に記載の使用。
【請求項37】
治療効果のある量で生物学的に適合し、前記心臓の前記心筋を厚くして強化するために前記心臓静脈系の或る区間において構造部材を確立する効果のある閉塞剤の、治療に有益な支持パターンに沿って存在する前記心臓静脈系の複数の区間に治療効果のある量投与することによって患者の心臓を治療するための薬剤の調製のための使用。
【請求項38】
前記薬剤が針−注射器送達系を用いた適用に適する、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
前記薬剤が静脈内カテーテルを用いた適用に適する、請求項37に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公表番号】特表2010−523264(P2010−523264A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503052(P2010−503052)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/004613
【国際公開番号】WO2008/127607
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(501092667)ヘンリー フォード ヘルス システム (8)
【Fターム(参考)】