説明

心臓圧迫システム

【課題】移植した装置が合併症のない状態で長期的に適用でき、サポート終了時に取り外しやすい、心臓圧迫システムの提供。
【解決手段】本発明の直接心臓圧迫(DCC)システムである心臓再同期圧迫サックシステム(CRCSS)は、DCCと心臓再同期療法に関連する機械的および電力的特徴を組み合わせており、少なくとも1つの開口を備えた外殻と、少なくとも1つの膨張式バルーンと、ポンプシステムを含む。前記外殻はカスタマイズした作製で心臓の輪郭の一部に適合し、心臓の輪郭はイメージングシステムによって取得される。前記外殻上の開口は心膜液の受け渡しを行い、心筋収縮を妨げない。前記膨張式バルーンは外殻内表面の少なくとも1つの所定位置に取り付けられる。前記外殻は心膜空間に自然に位置決めされ、人工の力で心臓からの離脱を防止する必要がなく、且つ前記膨張式バルーンが膨張すると、心臓の少なくとも1つの心室自由壁が圧迫される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心臓圧迫システムに関し、具体的には、心臓再同期圧迫サックシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
(直接心臓圧迫法)
直接心臓圧迫(DCC)システムの循環サポートとしての形態の概念は心臓と肺の緊急蘇生からきている。その他現有の補助人工心臓(Ventricular Assist Device、VAD)と比べると、DCCの最も独特な利点は血液と接触しないという特徴にある。圧迫を失った心臓に直接力を加えて圧迫することで、外在的なDCC装置が心室の収縮状態を増大させて心拍出量を高めることができる。DCCは以下の方法で実現することができる(ただしこれに限定されない)。
【0003】
(a)骨格筋ポンプ:この動的心筋形成術は、左広背筋筋肉膜を使用して、代償不全の心臓を圧迫する。これは筋トレーニングと転換に時間がかかるため、患者の状况の緊急性が低く、且つ術後に筋肉膜を機能的に有効にさせるための十分な過渡時間があることが要求される。動的心筋形成術は筋肉の圧迫作用の時間が短いために使われなくなった。筋肉の抗疲労性と骨格筋を心筋様に転換させるという主要な問題が解決されていない。
【0004】
(b)機械的ポンプ装置:このタイプは、例えばAnstadt Cup、CardioSupport System、Heart Booster、心臓パッチ等の装置を含む。生体適合性材料を使用して、外部から圧迫力を加えるためのサック、またはカフ状の装置とする。装置をどのようにして心臓の表面上に取り付け、固定するかということが主な設計上の問題である。通常は持続的吸着力、接着剤での接着、または固定縫合が使用される。傷害性合併症は、心筋挫傷、冠動脈の圧搾が引き起こす虚血、非同期の機械的圧迫による頻繁な不整脈を含む。DCCの使用期間を延長すべく相当の取り組みが行われてきたにもかかわらず、これまでのところDCC装置は短期的な方式でのみ使用されている。一方で、心臓パッチDCCは心室自由壁上に配置した独立式の非包囲パッチを使用する。心臓に接触する膜として使用される多孔性シリコン材料の組織浸入に起因する心外膜癒着が認められる。このような固定方法は持続的吸着力の使用を回避でき、長期的な使用を意図することができる。あらゆるDCC装置は心拍出量の有効な増進を示している。それにもかかわらず、長期的な効力は示されておらず、また不適切な固定と心外膜作動のために生じる可能性がある合併症は更なる研究が必要である。
【0005】
(c)受動的機械的束縛:このタイプの装置は束縛力を提供して心臓の更なる拡張を防止するだけのものである。疾患のある心臓の病理的増大を回避することが設計の目標として設定されている。心臓収縮の増強はサックが拡張期の構造的変形において蓄える弾性エネルギーが少量のため大きな制限を受ける。Acron心臓補助装置(
Cardiac Support Device、CDS)は代表的な装置である。Acron CDSは房室溝の下方の2つの心室周囲に巻きつけた弾性繊維ネットである。長期の臨床試験においてAcronネットは心外膜と融合して心筋の繊維化を生じ、心臓の収縮性低下を招くことが示されている。
【0006】
(心臓再同期療法)
心臓再同期療法(CRT)は鬱血性心不全(congestive heart failure、CHF)に対する新規的で外傷性が少ない治療法として登場した。約30%のCHF患者が拡張性または虚血性心筋症を煩っており、そのうち心筋伝導遅延は左脚ブロックの形式で表れ、且つ伝導不均一性がよく観察される症状となっている。電気刺激によってCRTは左心室と右心室間、及び左心室(left ventricle、LV)内の筋肉セグメント間の収縮同期を再調整することができる。両心室と左心室ペーシングモードが短期的研究と長期的CRT試験において最も有効であることが分かっている。難治性の進行した心不全を除き、CRTを受けた伝導障害患者は一般に心不全機能的重症度分類、生活品質、心臓駆出率の改善を示す。
【0007】
短期間の心室ペーシング後、LV圧較差dp/dtの増大、大動脈脈圧上昇、平均収縮圧の増強など、短期的血行動態の改善が観察された。25名の患者に対してテストを行った6カ月の長期CRT試験はほとんどの進行した心不全患者において左心室の容積減少が表れることが示された。453名の中度から重度の心不全患者(対照群とCRT群に無作為に分類)を対象とした類似の大規模な無作為CRT試験でも血行動態と心不全機能的重症度分類の改善が示された。CRTが心臓逆リモデリングにつながることを確かめるには、より大きな患者群に対してより長期的な試験期間が必要とされるが、壁応力、心筋酸素消費量、僧帽弁閉鎖不全症の低減という治療結果がすでにCRTの全面的な効果を証明している。
【0008】
病理的に拡張した心室は、心筋の収縮性を低下させるだけでなく、不均一な心室間と心室内の伝導遅延を引き起こし、心収縮中の筋エネルギーの非効率な使用につながる。房室伝導遅延をコントロールしたペーシングはこのような不均一性を低減することができ、LVの酸化的代謝の増加を引き起こすこともない。重大な損傷を受けた心筋を除き、CRTは特定の患者において脈圧と脈強度を高め、全体的症状と駆出率の改善に加え、より高いdp/dtという面で示される。この伝導再調整を裏付ける治療原理は明白である。電気刺激の終点である心筋収縮は再同期され、より効率的な方式で機能し、異常な収縮負荷と心筋の代謝酸素要求を低減することができる。
【0009】
長期的に左補助人工心臓(left ventricular assist device、LVAD)循環サポートを受けている進行した心不全患者にはよく電気生理学的変質が観察される。報告によると、LVADサポートはEKG波形上でQRS幅の短縮につながっており、これは心筋応力状態の変化を示す。このほか、反映筋細胞の再分極化を反映するQT間隔は、初期に短期間の延長を示し、続いて長期の短縮を示している。QTの延長と分散、及びQRS持続時間の増加は共に慢性的心不全に関連付けられる異常活動電位特性である。過度の負荷状況により引き起こされた病理的心筋伸展を即時に軽減するLVAD補助循環は、イオンチャネルにわたって内向的電流の短期的変化を形成し、これが初期のQT間隔の延長につながっている可能性がある。しかしながら、持続する心臓補助循環において数週間または数ヶ月後に逆の心筋再分極が生じる。多くのLVAD補助循環患者において、筋細胞肥大、イオンホメオスタシス、細胞弛緩、アドレナリン反応性が逆にリモデリングされたことがすでに示されている。それら電気生理学傾向の逆転が心筋の短縮または伝導速度の増加のいずれに引き起こされるのかは明らかではないが、機械的補助循環は一貫してそのLVADで補助された心不全の逆リモデリングにおける重要な役割を示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前述のこれまでに開発されているDCC装置に関連する欠点を回避することができ、長期的に治療的心収縮補助と弛緩抑制を提供し、進行した心不全をサポートすると共に、移植した装置が合併症のない状態で長期的に適用でき、サポート終了時に取り外しやすい、心臓圧迫システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の心臓再同期圧迫サックシステム(Cardiac Resynchronization Compression Sac System、CRCSS)の設計は、前述のこれまでに開発されているDCC装置に関連する欠点を回避することを目的としている。本発明のCRCSSは長期的に治療的心収縮補助と弛緩抑制を提供し、進行した心不全をサポートすることを意図している。回復への橋渡し(bridge‐to−recovery)を設計目標とし、これは移植装置が合併症のない状態で長期的に適用でき、サポート終了時に取り外しやすいことを必要とする。このため、例えば持続的真空吸引、縫合、心外膜接着固定等のハードな固定方法は、長期的な適用と回復への橋渡しという本発明の設計目標に合致しないため、放棄した。代わりに以下で説明するように、新規的な「ソフト固定」(soft−fixation)という設計概念を提案する。
【0012】
本発明の心臓圧迫システムは、イメージングシステムにより取得した心臓の輪郭の一部に実質上形状が合致するようカスタマイズして作製された外殻と、前記外殻上に設けられ、心膜液の受け渡しに用いられる少なくとも1つの開口と、前記外殻の内側表面の少なくとも1つのあらかじめ定められた位置に取り付けられた少なくとも1つの膨張式バルーンとを含み、そのうち前記外殻が心膜空間に自然に位置決めされ、人工の力を借りて心臓からの離脱を防止する必要がなく、且つ前記膨張式バルーンが膨張して前記心臓の少なくとも1つの心室自由壁を圧迫することを特徴とする。
【0013】
本発明のCRCSSにおけるDCCの実施位置の選択は、一定程度心臓再同期療法(CRT)中で得られた臨床結果に基づく。本発明のCRCSS装置において、心室自由壁区域が心外膜圧迫力を適用するための場所として選択されている。このため、加える圧迫力は血流に対して機械エネルギーを加えるだけでなく、心筋収縮再同期のための機械的刺激としても作用し、うまくいけば長期的に疾患のある心臓の電気生理学的逆リモデリングを誘発することも可能である。
【0014】
本発明のサックの設計は疾患のある心臓に逆リモデリングを行わせることを促進する際に複数の役割を果たす。心臓拡張期中に達成される受動的機械的抑制のほか、心外膜圧迫を介した心臓収縮サポートが血行動態及び電気生理学的傾向逆転を促進する
。伝導異常の治療においては、電気CRT治療において暗示されているように、右心室と左心室の自由壁上での両心室圧迫の作用が特に重要である。心臓の機械的及び電気的挙動は相互作用的である。難治性心不全をのぞき、疾患のある心臓の機械的補助循環によって、不適応の筋細胞に関連付けられる活動電位の機能不全を回復した、より健康な状態に向かって回帰させることができる。また、心室間または心室内の方式での心筋の同期刺激によって、電気伝導繰り込みがより均一な心臓収縮を促進し、より高い収縮効率につなげることができる。
【0015】
血管後負荷の低減によってではなく、外部からの全体的な心室収縮力の増加によるDCCの実施は、同様に、心筋補助循環の環境を作り出せる可能性がある。つまり、異なる施力の運用に関わらず、LVADサポート群において観察される血管後負荷の低減により生じる電気生理学的変化に反映される逆リモデリングはDCC補助を有する患者においても出現することが見込まれる。心外膜圧迫は接触する心外膜区域上の経壁張力を効果的に低下または打ち消すことができる。自由壁DCCの作動は最も伝導に敏感な区域の周囲の心筋応力状態を即時に軽減することができるため、中度の疾患のある心臓の細胞逆リモデリングにつなげられる治療性の電気生理学的刺激をするDCCの最良の施力法と仮定される。
【0016】
瘢痕組織のある梗塞心筋を持つ心室にとって、ペーシング型CRTは心室内伝導遅延と分散を矯正しない可能性がある。心筋伝導ネットワークが損傷を受け、外部ルートまたは伝導ブロック区域を無視する別の独立した刺激を開始することによってその損傷部をバイパスできない場合、ペーシング誘導的な同期収縮は原則上実現不可能である。しかし、機械型CRCSSにはこのような制限はない。適切なタイミングを設定してサック圧迫を作動させる限り、伝導ネットワークが健全であるか否かを問わず、補助を受ける心筋は全体としてEKGに基いたDCCの施力リズムに従う。心臓が本発明のCRCSS手段によってサポートされるとき、電気生理学的逆リモデリングが出現するはずであり、それは再同期された、応力を軽減した心筋収縮の原因因子ではなく、付加価値的結果であるとみなされる。
【0017】
本発明のCRCSSは心臓細胞の挙動に関連付けられるこれら電気機械的相互作用を大いに利用している。機械的観点または伝導的観点のどちらから見ても、心室自由壁がDCC適用の最良の候補区域である。CRCSSを常に正確な位置に保持し、二心室の自由壁を正確に圧迫するために、CRCSSは特殊な施力の位置合わせと構造的配置が必要であり、そこで固定設計が必須となる。本発明においてはソフト適合(
soft−fitness)戦略を採用しており、これはEKG参照フィードバック制御システムによって強化される。右心室と左心室に対し同期した同時の圧迫を提供するために、CRCSS駆動ラインと流体供給制御設計において特別な注意が払われている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明の代表的な実施例(心臓再同期圧迫サック、CRCS)と構成部材の概略図である。
【図1B】本発明の別の実施例(心臓再同期圧迫サック、CRCS)と構成部材の概略図である。
【図2】CRCSを心臓上に取り付けたときのソフト固定を示す立体図である。
【図3】図1AのCRCSの心臓拡張期終了時のA−A線における断面図である。
【図4】図1AのCRCSの心臓収縮期のA−A線における断面図である。
【図5】図1BのCRCSの心臓拡張期終了時のA−A線における断面図である。
【図6】図1BのCRCSの心臓収縮期のA−A線における断面図である。
【図7】CRCS上に取り付けた駆動ライン圧力調節器の透視図、拡大図、B−B線での立体透視断面図である。
【図8】CRCSシステムの制御を示すブロック図である(実線が駆動ライン、点線が制御ライン)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書は本発明の特定の要素を説明するために図面を含んでおり、これらの図面は本明細書に付属し、本明細書の一部を構成している。図面の例示的な(したがって本発明を限定しない)実施例を参照することで、本発明の明確な概念及び本発明が提供するシステムの部材と操作の明確な概念がよりはっきりと示される。これら図面における同じ符号は(それらが2つ以上の図面に出現する場合)同一の部材を表す。本文の説明に組み合わせてこれら図面の1つまたは複数を参照すると、よりはっきりと本発明を理解することができる。
【0020】
(CRCS設計目標と実施例)
CRCSの実施に関連する主な問題は、固定と、心臓収縮と弛緩に応じた同期的なサックの作動である。電気生理学的逆リモデリングを刺激するため、心室自由壁区域上にポンプ補助を適用すべきである。本発明のCRCSの設計は心臓リズムと同期した二心室心外膜圧迫を提供することを意図しており、そのうち房室伝導遅延制御と左右心臓同時補助が実現のための設計目標である。以下、固定方法と心臓再同期ポンプ設計について説明する。
【0021】
(a)ソフト固定(soft−fixation):ここでは、真空吸引、接着剤での接着、縫合固定等のハード固定法は除外する。代わりに、非干渉性サック(non−interfering sac)を心臓周囲に寄り添わせて配置することができるソフト固定戦略を検討する。ソフト固定とは、低い接触圧力と最小の許容空隙で対象物体の周囲に装置を位置決め、または巻き付ける固定法を意味する。この定義に基づき、装置をその対象物体上に取り付けるとき、ソフト固定は本来の機能的目標に反せず、また取り付けにおいて生じる過度に緊密な接触による不良な副作用を誘発することもない。靴の着用がこの良い例である。靴は歩行の機能に干渉したり、妨げたりすることなく足に着用されることが意図されている。靴と足の間には適切な空間が保持され、これが傷害を生じる接触から足を保護し、かつ歩行を快適な経験にする。空隙が大きすぎると靴が脱げてしまい、小さすぎると圧迫や摩擦で外傷や斑状出血を引き起こすことがある。このため、形態の妥当性(appropriateness)と適合性(fitness)は良好なソフト固定を成功させる為の重要な要素となる。
【0022】
心臓の解剖的構造から見ると、心臓は心嚢と呼ばれる流体で満たされたポーチによって囲まれている。心臓と心嚢の間の自然な空間がCRCSを取り付ける場所である。
本発明のCRCSの設計において、心臓拡張期終了時の心臓の形態の正確な複製がソフト固定を成功させる鍵である。CRCSの形状と体積は右心室と左心室の拡張期の充満を妨げてはならない。手術前にイメージングシステム(例:X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)、超音波(preferred echocardiography、優先超音波心臓診断法))を使用して、心臓解剖構造に対する事前のイメージングを行うと疾患のある心臓のマッピングに役立てることができる。CRCSの外殻は対象となる心臓のイメージングされた輪郭から作成した幾何形状が類似しているが若干大きい比例形態を使用して形成される。自然の心臓とCRCS外殻の間に形成されたゆとり空間(通常5cc〜15cc)は、後述するとおり、適合性の調整用に保留される。事前の保形形状のカスタマイズは、CRCSをしっかりと患者の胸腔内に配置することを可能にする。このため、切開した心嚢を再度縫合するとき、心臓解剖構造にできる限り適合させてCRCSインプラントを包み込むと、最良のソフト固定が得られる。心臓の表面と心嚢の間にCRCSを挟みこむことで心膜空間を自然のクレードルとして用い、植え込まれたサックを収容することができる。治癒の過程で心膜液が生成され、この間質液がサックの作動中に心臓の表面を傷害性の接触から保護する潤滑剤として作用する。
【0023】
CRCS外殻の構築時は、非伸展性の要求で外殻の厚さが決定される。例えば、生体適合性ポリウレタンをサック材料とするとき、0.2〜1.5mmの厚さで通常は十分である。この解剖構造上適合する非伸展性の外殻は外力を加えるとき、圧迫力が直接内部に向かって心臓に加えられるのに役立つ。構築したCRCSは一般に変形可能であり、かつ形状の保形性を備えていることに注意すべきである。挿入中、数回のポンプストローク後、サックはその最も適合する位置に安定される。適したCRCSインプラントは拡張期充満に影響せず、これは静脈還流圧に反映される。このような心臓機能に関連する自動的なサック配置と非干渉性のサポートは、本発明の発明者の実験室で行われた動物実験で確認されている。左心と右心に関する手術前後の静脈圧または房圧を観察することによって導かれる緩衝液(cushion fluid)の体積を調整することで最適な適合性に微調整することができる。
【0024】
図1Aと図1Bに本発明のCRCS設計100Aと100Bの2つの実施例を示す。
円錐形の形状はCRCSの最高点周囲の構造を強化する。このような硬さが強化された最高点部分はCRCSを切開された心膜空間内に容易に挿入するのに役立ち、かつ駆動ライン105の出口とするのに理想的な位置である。サックと駆動ラインとの接続点周囲にテフロン(登録商標)のカフを取り付けることができる。心嚢を閉じるとき、このカフを心嚢上に縫合すると、ソフト固定に追加の保証を提供することができる。
【0025】
類似の画像レンダリングおよび製造方法を利用してCRCS隔膜102を作製することができる。CRCS隔膜102は薄く、厚さは通常約10〜100ミクロンである。この形状保形性の柔軟なCRCS隔膜102は、特に不活性ポリマー材料を隔膜材料に使用したとき、容易に心臓の表面上に付着させることができる。従来のDCC装置とは対照的に、外殻101とCRCS隔膜102で定義された空間内に含まれる流体(液体または気体)は直接力を伝達する媒体として使用されない。この流体は手術前または手術後のいずれかで最適な解剖構造適合性を達成するために調節できる緩衝剤または緩衝液として作用する。排出管107とスキンボタンアッセンブリをCRCS外殻に連結することができ(図1Aの実施例を参照)、それにより必要時に体外の緩衝液調整を行うことができる。図3と図4は、心臓収縮期と心臓拡張期の心嚢、心室、CRCS隔膜102、バルーン103、104と外殻101の間の関係をそれぞれ説明している。図1Bは緩衝液調整を必要としない別の実施例である。外殻に開けられた開口101a(例えば穿通孔)は心膜液が自由にサック壁面を通過できるようにする。この設計は1拍動単位での緩衝液の自動調整を可能にする。
【0026】
DCCの適用では、心外膜圧迫が収縮補助中に冠動脈血管床を圧迫する可能性があるため、虚血合併症が報告されている。本発明のサックの設計はこの合併症を軽減することができる。自由壁区域を除き、非加圧隔膜による被覆によって提供されるソフトな接触は圧迫力が加えられたときも大部分の冠動脈に影響を与えることがない。
【0027】
(b)心臓再同期DCCサポート:一対のバルーン103、104が本発明のCRCS設計のDCCの実施に用いられる。図2に補助を受ける心臓の形態に対するバルーンの配置位置を示す。これら左側と右側のバルーンは外殻の内面上に取り付けられ、バルーンの重心をそれぞれ左右心室の自由壁の中心に合わせて配置される。異なる移植段階の各患者の特定の心臓状態に基づいて、バルーンの拍出量(balloon stroke volume)(20〜80cc)を選択することができる。初期の補助期には、例えば必要な心拍出量に増加するために、全キャパシティを提供することができる。ただし、心室容積と筋肉質量の低下と共に心臓が回復するとき、それに従ってバルーンの拍出量を減少することができ、これによりサックのサポートを断絶するまで心臓に対する段階的な補助の減少が可能である。バルーンの拍出量の調整は心室の収縮作用を特に考慮する必要がある。例えば、回復期において心臓が収縮する状況においては、CRCS外殻101と心外膜の間の間隙が増大するため、一定の拍出量のポンピングは徐々にそのDCCポンピングの効力を失う。CRCS移植後にポンピングの拍出量を変更するべきか否かは、実際の患者の状態と医師による治療計画によって決定される。
【0028】
本発明のバルーンポンピングは圧迫力を最も重要な心室自由壁区域上に配置することを目的として設計されている。バルーン作動を受けて、外殻101とCRCS隔膜102の間にある緩衝液が再分布され、バルーンの膨張によって置き換えられた空間を打ち消す。心臓の拍出量は通常バルーンの拍出量より大きいため、外殻101の内側への動作は流体体積の調整に一部作用するものの、CRCSストローク限度を超える更なる心室収縮は心膜液が空いた空間に流入して、これを充填する必要がある。この緩衝液及び心膜液の運動と外殻の変形の共同作用が隔膜を心外膜に相隣して取り付けられた内張りとし、これによりその他の形式の不良な「隔膜吸引」(diaphragm suction)現象を回避することができる。この現象は心臓の収縮期駆出期間の心筋性短縮または心室収縮を妨げる可能性がある。図1Bの実施例はCRCS外殻の複数の開口101aを通して心外膜液を迅速に流通させることができる、より好ましい設計である。注意すべきは、図1Aの実施例において、バルーンは心臓の表面と直接接触するのではなく、サックのCRCS隔膜102に対して運動し、このためDCCの作動と心外膜運動で生じる相対的な運動を最小にすることができる。この独特の特徴は心外膜に相対して移動するサックの長期的な傷害性の接触に起因する摩擦挫傷と心筋の繊維化を改善することができる。
【0029】
注意すべきは、本発明のCRCSはキックオフ(kick−off)型のDCCサポートを形成して心臓収縮期の収縮を補助することを意図している点である。通常バルーンの拍出量は心室よりも小さく設定され、一般には自然の拍出量の20%〜50%である。QRS間隔を組み合わせて時間を設定したバルーンの作動は、等容収縮の開始から多くともピーク駆出までの収縮運動を強化するのみである。このため、心外膜圧迫補助は最大収縮に達する前に最低程度まで低下し、心臓拡張期間中に心臓弛緩が影響を受けることがない。電気生理学的に、これは活動電位の再分極が外部から加えられる圧迫によって受ける干渉を最少にすることができる。このほか、キックオフ型DCCサポートは初期の心筋性短縮段階においてのみ心臓に補助循環を提供し、キックオフ強化期間を過ぎると心臓そのものに収縮が任せられる。この部分的サポートの特徴は心臓が完全に機械的補助循環に依頼することを防止する自然のリハビリメカニズムを形成する。心臓の完全な機械的補助循環は後続の心筋回復とデバイスからの脱却を妨げる可能性がある。
【0030】
(c)CRCSポンピング制御:CRCSポンピングには外部からのエネルギー供給が必要である。体外または体内エネルギー供給システムを考慮することができる。違いは採用する作用流体と駆動ライン105の特性にある。利便性のため、経皮駆動ライン105を備えた体外空気圧システムを用いて操作原理を説明する。
【0031】
作動されたバルーンに対する加圧流体の往復輸送に経皮駆動ライン105を備えた体外駆動システムを使用するとする。左側と右側のバルーン103、104は個別にまたは集合的に作動させることができる。個別のバルーン駆動においては(図示しない)、2本の経皮ラインが必要であり、それぞれがそれ自身の圧力源と付属のコントローラを有する。駆動圧力レベルおよび同期ポンピング制御は左心室または右心室の特徴に合わせて個別に扶助することができる。ただし、集合的なバルーン駆動は、図1Aと図1Bに示すように、1セットの駆動ラインとコントローラシステムのみを装備している。経皮駆動ライン105は胸腔または心嚢に進入した後、左分岐ライン105aと右分岐ライン105bに分かれ、それぞれが必要な目的地へ駆動流体を運ぶ。バルーンの増圧は駆動ライン105に関連する慣性と抵抗、及び補助を受ける心室壁によって加えられる反応体圧力によって決定されることに注意する。二心室の同時ポンピングを達成するため、右分岐ライン105bと左分岐ライン105aの長さと内腔直径を適切に調節する必要がある。この示差慣性/抵抗の設計は集合的な左右の心臓補助をより良い心臓収縮と弛緩の同期性で実行できる可能性がある。
【0032】
単一の駆動ライン105の設計に関連する利点は、経皮貫通が一箇所だけであるため、手術後の感染合併症のリスクを最低に抑えることができることである。しかしながら、欠点は制御面にあり、二心室に対する補助において、原則的に1つの圧力供給とタイミング制御だけを使用して、左右2つの心室の最適なポンピングレベルとピーク圧力タイミング制御を達成することはできないためである。最良のCRCS実施例は図1Aと図1Bに示すような単一の駆動ライン105設計を採用する。追求する制御目標として最適以下の制御が設定される。圧力レベルとピーク圧力タイミングは主に左心室のDCC要求に基づいて決定される。ただし、右の心臓制御パラメータを駆動ライン105の長さと内腔直径を調節することで決定し、適切なポンピング圧力レベルを獲得すると共に、左右の心臓サポートにそれぞれ関連付けられた収縮ピーク圧力間の不一致を最小にすることができる。
【0033】
ポンピング同期性の微調整は、図7に示すように、駆動ライン105の分岐接合点上に取り付けられた一対の圧力調節器ネジ108aを含む圧力調節器108を使用して達成することができる。駆動ライン内腔を押しつぶしたり解放したりすることによって、送達される流速と圧力を変化させることができる。一般に、左右ポンピングの同期性は異なる右−左慣性/抵抗パラメータの最良の割り当てに関する事前分析であらかじめ決定される。サックの植え込み時に微調整を行うことができ、外科医に手術前後の調整における自由を提供し、最適な心臓収縮同期性を見つけることができる。
【0034】
図8に同期ポンピング制御の設計を示す。左右2つのCRCSバルーン803、804は共に圧力センサを備えている。外科手術中、圧力波形を取得して、モニタ上に表示することができる。例えば皮膚陰極(skin cathodes)を使用しても、EKG信号801を取得することができ、これによりCRCSコントローラ805に送信することができる。R波とバルーン圧力ピーク値を検出するアルゴリズムが左右のDCC補助をR波に対する時間遅延に変換する。CRCSコントローラ805に電気的に結合された定期房室伝導遅延時間802がCRCSポンピングコンソール806に指示し、加圧流体を作動バルーンに送達させる。左右ポンピングの同期性は、圧力調節器808を調節することによって手動で制御することができる。目的は収縮ピークで左右バルーンの圧力波形に関連して出現するギャップを最小にすることにある。本発明のCRCS制御設計において、特定の問題が生じた場合を除き、バルーンの拍出量はあらかじめ決定され、且つ固定値として設定され、通常は約20〜80ccの範囲内で選択される。このため、コンソール駆動圧力の大きさは主にバルーンの膨張速度を制御する。したがって、心室の過度圧迫に関しての問題はない。
【0035】
キックオフ型DCCと心臓のリズムへの順応を組み合わせた実施は、本発明の提示するソフト固定の概念の実現に有用である。キックオフ型サポートは補助を受ける心臓に対する固定による干渉を最小にすることができ、且つ心臓の筋肉をその自然の心臓動態に従って最大程度まで収縮させることができる。本発明のCRCSの設計により提供されるキックオフ型DCC補助は、疾患のある心臓の機械的機能と電気生理学的機能の回復促進において重要な貢献ができる独特な利点を提供する。
【符号の説明】
【0036】
100A、100B CRCS
101 外殻
101a 開口
102 CRCS隔膜
103、104 バルーン
105 駆動ライン
105a 左分岐ライン
105b 右分岐ライン
107 排出管
108 圧力調節器
108a 圧力調節器ネジ
801 EKG信号
802 房室伝導遅延時間
803、804 CRCSバルーン
805 CRCSコントローラ
806 CRCSポンピングコンソール
808 圧力調節器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓圧迫システム(cardiac compression system)であって、イメージングシステムにより取得した心臓の輪郭の一部に実質上形状が合致するようカスタマイズして作製された外殻と、
前記外殻上に設けられ、心膜液の受け渡しに用いられる少なくとも1つの開口と、
前記外殻の内側表面の少なくとも1つのあらかじめ定められた位置に取り付けられた少なくとも1つの膨張式バルーンと、を含み、そのうち
前記外殻が心膜空間に自然に位置決めされ、人工の力を借りて心臓からの離脱を防止する必要がなく、且つ前記膨張式バルーンが膨張して前記心臓の少なくとも1つの心室自由壁を圧迫することを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項2】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記外殻の輪郭が実質上保持可能であることを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項3】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記外殻が円錐形の形状を備え、
前記心臓の最高点の周囲を包み込むことを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項4】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記少なくとも1つの膨張式バルーンの膨張体積が制御可能であることを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項5】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記少なくとも1つの膨張式バルーンの膨張が等容収縮の開始時に開始し、且つ
前記心臓のピーク駆出の前に終了することを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項6】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記少なくとも1つの膨張式バルーンが第1膨張式バルーンと第2膨張式バルーンを含み、左心室自由壁と右心室自由壁をそれぞれ圧迫することを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項7】
請求項6に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記第1膨張式バルーンと前記第2膨張式バルーンの膨張体積とタイミングが個別に制御可能であることを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項8】
請求項6に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記第1膨張式バルーンと前記第2膨張式バルーンの膨張体積とタイミングが集合的に制御可能であることを特徴とする、請求項6に記載の心臓圧迫システム。
【請求項9】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記少なくとも1つの膨張式バルーンが、液体と気体から構成される群から選択された媒体を通して膨張されることを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項10】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、さらに
前記外殻と類似した輪郭を持つ弾性隔膜を含み、
前記弾性隔膜と
前記外殻の内側表面の辺縁が連結され、且つ
前記膨張式バルーンを被覆し、そのうち、
前記心臓圧迫システムを埋め込むとき、
前記弾性隔膜と心臓表面のみが実質的な接触を有することを特徴とする、心臓圧迫システム。
【請求項11】
請求項1に記載の心臓圧迫システムにおいて、
前記イメージングシステムが、X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)、超音波から構成される群から選択されることを特徴とする、心臓圧迫システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−500295(P2011−500295A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531344(P2010−531344)
【出願日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/088620
【国際公開番号】WO2009/088916
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510116358)台湾国立成功大学 (1)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL CHENG KUNG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.1,University Road,Tainan City, TIWAN
【Fターム(参考)】