説明

心電図計測装置

【課題】 電極を皮膚に直接貼り付けることなく心電図波形を計測することが出来る心電図計測装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る心電図計測装置は、人体に電気的絶縁状態で対向配備されるべき一対の計測用絶縁電極1、1を計測回路2に接続して構成され、該計測回路2は、一対の計測用絶縁電極1、1に接続されて各計測用絶縁電極1と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出する一対のボルテージフォロワ3、3と、両ボルテージフォロワ3、3の出力端が接続された差動増幅器4とを具えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に電極を貼り付けることなく心電図波形を計測することが可能な心電図計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康を維持、管理する上で心電図の計測は重要な手段であり、種々のヘルスケア分野において心電図を計測することが行なわれている。
一般に、心電図の計測においては、3つの電極を被覆に直接貼り付け、この中の2つの電極を信号計測用、1つの電極をグランド用として、これら3つの電極を計測回路に接続し、前記2つの電極の出力信号を差動増幅することによって同相ノイズを除去する。これによって、精度の高い心電図計測を行なうことが出来る。
【0003】
ところで、日常生活において心電図の計測を行なうためには、より簡便な方法による心電図の計測が必要とされる。そこで、従来、静電容量結合型の心電図計測装置が提案されている(非特許文献1参照)。
該心電図計測装置は、図8に示す如く、人体の皮膚に対向して配備すべき計測用絶縁電極(10)と、皮膚に直接貼り付けるべきグランド電極(11)とを具え、計測用絶縁電極(10)は計測回路(9)の入力端子に接続され、グランド電極(11)は、計測回路(9)のグランド端子に接続されている。
【0004】
計測回路(9)は、計測用絶縁電極(10)に接続されて計測用絶縁電極(10)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出するボルテージフォロワ(12)を具え、該ボルテージフォロワ(12)の出力信号がバンドパスフィルター(13)及びノッチフィルター(14)を経て、パーソナルコンピュータ(15)へ供給される。
該心電図計測装置によれば、3つの電極を用いた一般的な心電図計測に比べて簡易に心電図の計測を行なうことが出来る。
【0005】
尚、自動車内のシートベルトやシートに生体信号を計測するセンサを配備して、運転者の心拍数や呼吸数を計測する装置が提案されているが(特許文献1〜4参照)、これらの計測装置のセンサは、電磁波センサ、圧力センサ、或いは圧電センサであって、何れの計測装置も心鼓動に同期する心拍信号を計測するものに過ぎず、心臓の電気的な活動である心電図の計測を行なうものではない。
【非特許文献1】Ko Keun Kim、Yong Kyu Lim、KwangSuk Park “The Electrically Non-contacting ECG Measurement on the Toilet SeatUsing the Capacitively-coupled Insulated Electrodes” Proceedings of the 26thAnnual International Conference of the IEEE EMBS、San Francisco、CA、2004、PP.2375-2378
【特許文献1】特開平5−261071号公報
【特許文献2】特開2001−260698号公報
【特許文献3】特開2004−345617号公報
【特許文献4】特開2005−95408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図8に示す心電図計測装置においても、グランド電極(11)は皮膚に直接貼り付ける必要があるため、依然として、心電図の計測は面倒で、拘束感のあるものであった。
そこで本発明は、2つの計測用絶縁電極を皮膚に貼り付けることなく単に人体に対向させて配備するだけで心電図の計測が可能となる心電図計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、大地をグラウンドとして利用することによりグランド電極の省略が可能であることに想到し、本発明の完成に至った。
本発明に係る心電図計測装置は、人体に電気的絶縁状態で対向配備されるべき一対の計測用絶縁電極(1)(1)と、各計測用絶縁電極(1)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出して、両計測用絶縁電極(1)(1)によって検出される2つの電圧変化を差動増幅し、心電図波形信号として出力する計測回路(2)とを具えている。
【0008】
具体的には、前記計測回路(2)は、前記一対の計測用絶縁電極(1)(1)に接続されて各計測用絶縁電極(1)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出する一対の増幅回路と、両増幅回路の出力端が接続された差動増幅器(4)とを具えている。
【0009】
上記本発明の心電図計測装置においては、電極として、一対の計測用絶縁電極(1)(1)を具えるに過ぎず、グランド電極は省略されている。
大地をグラウンドとする容量結合型の心電図計測の場合、信号計測用の電極は、本来は1極で十分であるが、実際には環境からの雑音が大きいため、本発明においては、信号計測用の電極を2極構成とし、各計測用絶縁電極(1)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を一対の増幅回路によって検出し、その2極の検出信号を差動増幅器(4)によって差動増幅する。これによって同相ノイズが除去され、精度の高い心電図波形信号が得られるのである。
【0010】
本発明の具体的構成において、前記一対の計測用絶縁電極(1)(1)は、シートに着座した人体に圧接されるべき部材、例えば自動車内のシートベルト(8)に組み込まれている。
この場合、一対の計測用絶縁電極(1)(1)をそれぞれシートベルト(8)の肩掛けベルト部に組み込むことにより、該一対の計測用絶縁電極(1)(1)は、シートベルト装着者の心臓を挟んで両側に配置されることとなり、これによってS/N比の増大を図ることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る心電図計測装置によれば、2つの計測用絶縁電極は皮膚に直接貼り付けることなく単に人体に対向させて配備すればよいので、従来よりも簡便に心電図の計測を行なうことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
本発明に係る心電図計測装置は、図1に示す如く、人体に電気的絶縁状態で対向配備されるべき一対の計測用絶縁電極(1)(1)と、各計測用絶縁電極(1)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出して、両計測用絶縁電極(1)(1)によって検出される2つの電圧変化を差動増幅し、心電図波形信号として出力する計測回路(2)とを具え、該計測回路(2)のグランド端子は接地されている。
人体に装着すべきグランド電極は省略されている。
【0013】
計測回路(2)は、一対の計測用絶縁電極(1)(1)に接続されて各計測用絶縁電極(1)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出する一対のボルテージフォロワ(3)(3)と、両ボルテージフォロワ(3)(3)の出力端が接続された差動増幅器(4)と具え、該差動増幅器(4)の出力信号は、バンドパスフィルター(5)及びノッチフィルター(6)を経て、パーソナルコンピュータ(7)に供給される。
ボルテージフォロワ(3)としては、高入力インピーダンスのオペアンプ(Texas Instruments社製「TL071」)を使用する。
【0014】
尚、バンドパスフィルター(5)は、心電図波形の周波数域に通過帯域を有するものである。又、ノッチフィルター(6)は、デジタルフィルターであって、FFT(高速フーリエ変換)によって蛍光灯や商用電源に起因する60Hzのノイズを除去するものである。又、ボルテージフォロワ(3)は、電圧変化を検出する増幅回路の一例である。
【0015】
ここで、上記本発明の心電図計測装置の計測原理を説明する。図1に示す様に、人体は、大地(地球)との間で容量結合しており、大地(地球)を介して計測回路(2)のグランド端子と接続されていると考えられる。従って、人体と計測用絶縁電極(1)間の静電容量をCE、人体とグラウンド(大地)間の静電容量をCG、計測回路(2)とグラウンド(大地)間の静電容量をCK、ボルテージフォロワを構成するオペアンプ入力段の抵抗値をRin、同静電容量値をCin、心臓の発生電位をVheart、出力電圧をVoutとすると、1つの計測用絶縁電極(1)と1つのボルテージフォロワ(3)からなる計測回路部は、図2に示す等価回路によって表わすことが出来る。
尚、ボルテージフォロワ(3)は、図2において抵抗値Rinと静電容量値Cinの並列回路で表わされている。
【0016】
該等価回路において、心臓の発生電位Vheartと出力電圧Voutの関係を導くと、次の数1が得られる。
【0017】
【数1】

【0018】
上記数1において、ボルテージフォロワ(3)を構成するオペアンプの入力抵抗値Rinが十分に大きく、且つオペアンプの入力容量値Cinが他の容量値CE、CG、CKよりも十分大きい場合は、Vheart=Voutとなる。
即ち、ボルテージフォロワ(3)によれば、心臓の発生電位をその電圧値を変えることなく検出することが出来るのである。
【0019】
本実施例においては、ボルテージフォロワ(3)を構成するオペアンプの入力抵抗値Rinは1012Ω、入力容量値Cinは18pFである。一方、大地との間のコンデンサ容量CG、CKは7.12×10−3F程度であるので、Cin≪CEを満たすように電極を作製し配置すれば、人体に対して非接触に心電図を導出することが出来ることになる。
【0020】
但し、本発明の心電図計測装置においては、図1の如く計測用絶縁電極(1)とボルテージフォロワ(3)からなる計測回路部を並列に配備し、両計測回路部の出力を差動増幅器(4)によって差動増幅している。これによって同相ノイズを除去し、高精度の心電図計測を実現している。
【0021】
図3及び図4は、上記本発明の心電図計測装置を自動車内の心電図計測に応用した例を示している。
図4に示す如く、一対の計測用絶縁電極(1)(1)は、シートベルト(8)の肩掛けベルト部にそれぞれ組み込まれており、これによって一対の計測用絶縁電極(1)(1)は心臓を挟んで両側に配置され、人体に押圧保持されることになる。
【0022】
尚、各計測用絶縁電極(1)は、銅板を上質紙で包んで構成される。ここで、銅板は50mm×20mm×5mmの大きさを有し、銅板を覆う上質紙は0.1mmの厚さを有している。
【0023】
一対の計測用絶縁電極(1)(1)は、図3に示す計測回路(2)に接続されている。該計測回路(2)は、一対の計測用絶縁電極(1)(1)に接続された一対のボルテージフォロワ(3)(3)と、両ボルテージフォロワ(3)(3)の出力端が接続された差動増幅器(4)と具え、該差動増幅器(4)の出力信号は、バンドパスフィルター(5)を経て、パーソナルコンピュータ(7)に供給されており、ノッチフィルターは省略されている。
【0024】
図3に示す心電図計測装置を作製し、これを用いて、健常成人男性5人(年齢:23歳±1)を対象に安静座位で心電図を計測した。又、従来の一般的な3電極式の心電図計測装置(ティアック電子「AP1524」)を用いて、心電図を同時計測した。尚、こられ2つの心電図計測装置の電気的な干渉を避けるため、両装置の計測回路は電池による駆動とした。
【0025】
この結果、図5に示す結果が得られた。図5において、左側の縦軸は本発明の2電極静電容量型の心電図計測装置によって計測した心電図波形出力Vout[μV]を示し、右側の縦軸は従来の一般的な3電極式の心電図計測装置によって計測した心電図波形出力ECG[mV]を示している。
この図から明らかな様に、本発明の2電極静電容量型の心電図計測装置によれば、グランド電極やノッチフィルターが省略されているにも拘わらず、従来の3電極式の心電図計測装置と同等の高い精度で、心電図波形が計測されており、R波のみならずT波の検出も可能となっている。
【0026】
これに対し、図6は、計測用絶縁電極及びグランド電極を用いた従来の2電極静電容量型の心電図計測装置(図8)による心電図波形出力Vout[μV]と、従来の一般的な3電極式の心電図計測装置による心電図波形出力ECG[mV]を示している。
この図から明らかな様に、計測用絶縁電極及びグランド電極を用いた2電極静電容量型の心電図計測装置では、従来の3電極式の心電図計測装置よりも、心電図波形に含まれるノイズが増大しており、R波の検出は可能であるが、T波の検出は困難なものとなっている。
【0027】
又、図5に示す本発明の心電図計測装置による計測結果と、図6に示す従来の心電図計測装置の計測結果を比較すると、前者の計測結果の方が高い精度が得られていることから、2つの電極を用いた心電図計測において一方の電極をグランド用の電極として用いるよりも、信号計測用の電極として用いて差動増幅によってノイズ除去を図ることが、計測精度の向上にとって有利であることが分かる。
【0028】
尚、図7は、図3に示す一対の計測用絶縁電極(1)(1)の一方を省略して、単一の計測用絶縁電極(1)を用いた1電極静電容量型の心電図計測装置を構成して、心電図計測を行なった結果を表わしている。
この図から明らかな様に、ノイズ成分が大きいものの、該1電極静電容量型の心電図計測装置によっても、R波の検出は可能であることがわかった。
【0029】
上述の如く、本発明の2電極静電容量型の心電図計測装置によれば、一対の計測用絶縁電極(1)(1)を皮膚に直接貼り付けることなく衣類の上から皮膚に対向させて配備すればよいので、従来よりも簡便に心電図の計測を行なうことが出来る。
特に図3に示す様に自動車内での心電図計測では、蛍光灯や商用電源に起因する60Hzのノイズの影響を受けないためノッチフィルターを装備することなく、高い精度で心電図を計測することが出来る。
【0030】
蛍光灯や商用電源に起因する60Hzのノイズの影響を受ける室内での計測では、図1の如くノッチフィルター(6)を装備することが有効であるが、これに替えて、計測用絶縁電極(1)をシールドで覆い、或いは信号線をシールドする等の対策も有効である。
【0031】
又、前記数1を成立させるための条件の1つであるCin≪CEの関係を満たすべく、本実施例においては、銅板を上質紙で包んで計測用絶縁電極(1)が構成され、これによって銅板と心臓の間の誘電率を大きなものとしているが、その他、銅板と心臓の間の距離の短縮や銅板の大形化を図ることが有効である。
【0032】
本発明に係る電図計測装置を自動車内での心電図計測に応用すれば、例えば心拍ゆらぎを常時計測することによって、運転者の自律神経活動を連続して評価し、その結果に基づいて、神経の高まりによる異常な運転を防止し、或いは突然の心臓活動の異常を検知して安全に車を停止させる等、種々の安全対策を講じることが可能である。
【0033】
尚、計測用絶縁電極(1)は、金属板に限らず、導電性繊維を用いて構成することも可能である。例えば、下着に導電性繊維による絶縁電極を編み込むことによって、着用するだけで心電図計測が可能となる心電図計測装置の実現も可能である。
【0034】
又、上記実施例では、計測回路(2)における増幅にボルテージフォロワ(3)を用いているが、これに限らず、反転増幅器、非反転増幅器などの各種増幅回路を使用することも出来る。
更に又、計測用絶縁電極(1)は銅板を上質紙で包んで構成しているが、これに限らず、電極は他の導体で構成してもよく、上質紙についても他の絶縁材料を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る心電図計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】該心電図計測装置の主要構成の等価回路図である。
【図3】本発明に係る心電図計測装置の応用例を示すブロック図である。
【図4】シートベルトに計測用絶縁電極を組み込んだ構成を示す図である。
【図5】本発明の2電極静電容量型の心電図計測装置による計測結果を示すグラフである。
【図6】従来の2電極静電容量型の心電図計測装置による計測結果を示すグラフである。
【図7】1電極静電容量型の心電図計測装置による計測結果を示すグラフである。
【図8】従来の2電極静電容量型の心電図計測装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
(1) 計測用絶縁電極
(2) 計測回路
(3) ボルテージフォロワ
(4) 差動増幅器
(5) バンドパスフィルター
(6) ノッチフィルター
(7) パーソナルコンピュータ
(8) シートベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に電気的絶縁状態で対向配備されるべき一対の計測用絶縁電極(1)(1)と、各計測用絶縁電極(1)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出して、両計測用絶縁電極(1)(1)により検出される2つの電圧の差を増幅し、心電図波形信号として出力する計測回路(2)とを具えた心電図計測装置。
【請求項2】
前記計測回路(2)は、前記一対の計測用絶縁電極(1)(1)に接続されて各計測用絶縁電極(1)と人体の間の静電容量結合による電圧変化を検出する一対の増幅回路と、両増幅回路の出力端が接続された差動増幅器(4)とを具えている請求項1に記載の心電図計測装置。
【請求項3】
前記一対の計測用絶縁電極(1)(1)は、シートに着座した人体に圧接されるべき部材に組み込まれている請求項1又は請求項2に記載の心電図計測装置。
【請求項4】
前記部材は自動車内のシートベルト(8)である請求項3に記載の心電図計測装置。
【請求項5】
前記一対の計測用絶縁電極(1)(1)はそれぞれシートベルト(8)の肩掛けベルト部に組み込まれている請求項4に記載の心電図計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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