説明

性ホルモン障害治療薬のスクリーニング方法

【課題】 新規かつ簡便な性ホルモン障害治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】GPRg2遺伝子のノックアウトマウスを作製して表現型を解析し、同ノックアウトマウスでは、男性ホルモン障害の増悪因子であるテストステロンを分泌する組織である精巣が、野生型マウスに比べ顕著に萎縮していることを見出した。更に、同ノックアウトマウスでは、女性ホルモン障害の原因となるエストロゲンを分泌する組織である卵巣が、野生型マウスに比べ顕著に萎縮していることを見出した。これらの知見により、GPRg2ポリペプチド及び該ポリペプチドを発現している細胞を性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして提供した。更に、GPRg2ポリペプチドを使用する性ホルモン障害治療薬スクリーニング系を構築し、本発明を完成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロキネティシン受容体GPRg2を使用した性ホルモン障害治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
性腺は男女を問わず、上位の刺激ホルモンにより機能が維持されている(非特許文献1)。視床下部から放出される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が、下垂体門脈系を介して、下垂体前葉より卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌を促進し、これらFSHとLHにより、性ホルモンの合成・分泌、精子形成、卵胞発育、黄体維持が惹起される。
男性性腺である精巣の機能低下疾患としては、視床下部及び/又は下垂体系の障害によりLH及び/又はFSH分泌が低下する低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と、精巣原発性の異常からネガティブフィードバック機構を介してLH及び/又はFSH分泌が増加する高ゴナドトロピン性性腺機能低下症がある(非特許文献2)。女性性腺である卵巣の機能低下症としては無排卵症があり、その原因によって視床下部障害、下垂体障害、卵巣性障害に分類される(非特許文献3)。
一般的に性ホルモンは、男性ホルモン(アンドロゲン)として、テストステロン、ジヒドロテストステロン、アンドロスタンジオン等に、女性ホルモンとして、エストロゲン、プロゲステロン等に分類される(非特許文献4)。アンドロゲンやエストロゲンが関与する性ホルモン異常に起因する疾患としては、前立腺肥大、前立腺癌、男性化症、多毛症、禿頭症、脂漏、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、乳癌、更年期障害、オステオポローシス、高脂血症等が挙げられる(特許文献1、非特許文献5)。
前立腺癌や前立腺肥大において、テストステロン等のアンドロゲンが、病態の発生・進行に重要な役割を担っていることは良く知られている(非特許文献6、非特許文献7)。血清中のアンドロゲン量を低下させることが前立腺癌や前立腺肥大等の種々の症例に有用であることは十分に確立されており、臨床的実施においては、睾丸摘出、LH−RHアゴニスト又はアンドロゲンアンタゴニストが用いられている(特許文献1)。しかし睾丸摘出は心理的に受け入れ難いものであり、また、LH−RHアゴニストによる治療の場合にはアゴニスト作用による一過性のフレアー現象が認められる。加えて、アンドロゲンアンタゴニストによる治療の場合には、アンドロゲンレセプターの変異により効果が衰弱することが近年知られている(特許文献1)。
一方、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、乳癌の治療としては、血清中のエストロゲン量を低下させることが有効であることは十分に確立されており(非特許文献5)、エストロゲンの分泌を阻害するLH−RHアゴニスト等によるホルモン療法が用いられる。しかし、エストロゲンレベルの低下に伴うホット・フラッシュ、発汗などの卵巣欠落症状と低エストロゲン状態が持続することによる骨塩量減少の副作用が認められる(非特許文献8)。また一方、更年期障害、オステオポローシスや卵巣機能低下に伴う高脂血症では、女性ホルモンであるエストロゲンの減少が大きく関与している。そのため、血中エストロゲン量を増加させることを目的として、エストロゲン製剤やプロゲステロン製剤が治療に用いられている(非特許文献9)。
G蛋白質共役型受容体(G−protein coupled receptor、GPCR)であるGPRg2の遺伝子は、ヒトでは、20番染色体に局在している。ヒトでの組織発現分布を解析すると、GPRg2は中枢神経系で比較的発現が高く、特に胎児脳では成人脳よりも高い発現が観察される。その他、骨格筋、骨髄、精巣でも量は低いが発現が観察される(非特許文献10)。GPRg2のリガンドはプロキネティシン (Prokineticin, PK)であることが、幾つかのグループにより報告されており(非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)、リガンドであるPKと結合することにより、細胞内Ca2+量の増大を引き起こす。GPRg2は、その組織発現分布様式から、概日リズムの調節を担っていること(非特許文献13)、小腸の収縮や血管形成に関与すること(非特許文献11)が示唆されている。
PKは、ヒトでプロキネティシン1(PK1)とプロキネティシン2(PK2)の2種類のサブタイプが存在する生理活性ペプチドである(非特許文献14)。PK1はエンドクリングランドバスキュラーエンドセリアルグロースファクター(endocrine gland − vascular endothelial growth factor, EG−VEGF)、PK2は、Bv8という別称もあり(非特許文献15、非特許文献16)、マンバ(南アフリカ産のコブラ科の大型毒ヘビ)や、カエルにも該当分子が存在することが知られている(非特許文献17、非特許文献18)。
PKの生理機能に関しては、神経細胞死抑制活性(非特許文献19)、痛覚過敏惹起活性(非特許文献18)、消化器収縮作用(非特許文献21、非特許文献22)、精子形成作用(非特許文献23)、概日リズムの調節(非特許文献13)、内分泌腺特異的内皮細胞増殖(非特許文献15)や、精巣での血管新生活性(非特許文献16)、及び摂食・摂水行動への機能(非特許文献24)等が報告されている。
【0003】
【非特許文献1】イラスト内分泌内科、p.80−81 文光堂
【非特許文献2】内分泌・代謝病学、p.277 医学書院
【非特許文献3】内分泌・代謝病学、p.293 医学書院
【非特許文献4】血中ホルモン、測定法・意義・臨床 医学書院
【非特許文献5】産科と婦人科、2001年、68巻増刊
【非特許文献6】日本臨床、2002年、60巻、p.23−27
【非特許文献7】臨床と研究、2000年、77巻、p.448
【非特許文献8】産科と婦人科、2001年、68巻増刊、p.150−198
【非特許文献9】産科と婦人科、2001年、68巻増刊、p.200−219
【非特許文献10】「バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ」BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA (オランダ) 2002年、1579巻、p.173−179
【非特許文献11】「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、(米国) 2002年、277巻、p.19276−19280
【非特許文献12】「バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ」BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA (オランダ) 2002年、293巻、p.396−402
【非特許文献13】「ネイチャー」Nature (英国) 2002 417:405−10
【非特許文献14】「モレキュラー・ファーマコロジー」MOLECULAR PHARMACOLOGY (米国) 2001年、第59巻、p.692−698
【非特許文献15】「ネイチャー」Nature (英国) 2001年、412巻、p.877−884
【非特許文献16】「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ」PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA (米国) 2003年、100巻、p.2685−2690
【非特許文献17】「トキシコン」Toxicon (英国) 1990年、28巻、p.847−856
【非特許文献18】「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー」EUROPEAN JOURNAL OF PHARMACOLOGY (オランダ) 1999年、374巻、p.189−196
【非特許文献19】EUROPEAN JOURNAL OF NEUROSCIENCE (英国) 2001 13:1694−702
【非特許文献20】「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー」BRITISH JOURNAL OF PHARMACOLOGY (英国) 2002 137:1147−54
【非特許文献21】「モレキュラー・ファーマコロジー」MOLECULAR PHARMACOLOGY (米国) 2001 59:692−8
【非特許文献22】「フェブス・レターズ」FEBS LETTERS (オランダ) 1999 461:183−8
【非特許文献23】「フェブス・レターズ」FEBS LETTERS (オランダ) 1999 462:177−81
【非特許文献24】「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー」BRITISH JOURNAL OF PHARMACOLOGY (英国) 2004 142:181−191
【特許文献1】国際公開第00/17163号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規かつ簡便な性ホルモン障害治療薬のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、GPRg2遺伝子のノックアウトマウスの解析から、GPRg2(配列番号2記載のポリペプチド)のアゴニスト及び/又はアンタゴニストは性ホルモン障害治療薬となることを明らかにした。すなわち、本発明者らは、GPRg2遺伝子のノックアウトマウスを作製して表現型を解析し、同ノックアウトマウスでは、男性ホルモン障害(特には前立腺癌及び前立腺肥大症)の増悪因子であるテストステロンを分泌する組織である精巣が、野生型マウスに比べ顕著に萎縮しており、血中テストステロン量が減少していることを見出した。更に、同ノックアウトマウスでは、女性ホルモン障害の原因となるエストロゲンを分泌する組織である卵巣が、野生型マウスに比べ顕著に萎縮していることを見出した。これらの知見により、GPRg2ポリペプチド及び該ポリペプチドを発現している細胞を性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして提供した。更に、GPRg2ポリペプチドを使用する性ホルモン障害治療薬スクリーニング系を構築し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1] i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロキネティシン存在下で細胞内カルシウム濃度が上昇することにより活性が確認できるポリペプチド、あるいはiii)配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、プロキネティシン存在下で細胞内カルシウム濃度が上昇することにより活性が確認できるポリペプチド
を発現している細胞又はその細胞膜と、試験化合物とを接触させる工程、および前記ポリペプチドの活性変化を分析する工程を含むことを特徴とする、性ホルモン障害治療薬をスクリーニングする方法、
[2] 性ホルモン障害が男性ホルモン障害である請求項1に記載のスクリーニングする方法、
[3] 性ホルモン障害が女性ホルモン障害である請求項1に記載のスクリーニングする方法、
[4] (1)請求項1に記載の細胞又はその細胞膜と、試験化合物とを接触させる工程、及び
(2)請求項1に記載のポリペプチドの活性変化を分析する工程、並びに
(3)試験化合物による性ホルモン量の変動を分析する工程
を含むことを特徴とする、試験化合物が請求項1に記載のポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストであるか否かを検出する方法、
[5] 性ホルモンがテストステロンである請求項4に記載の検出する方法、
[6] 性ホルモンがエストロゲンである請求項4に記載の検出する方法、
[7] 請求項1に記載のポリペプチドである、性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール、
[8] 請求項1に記載の細胞である、性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール、
[9](1)請求項1に記載のポリペプチド、又は(2)請求項1に記載の細胞の性ホルモン障害治療薬スクリーニングのための使用
に関する。
【発明の効果】
【0007】
GPRg2は性ホルモン障害に関与する分子であり、本明細書のポリペプチド及び細胞は、性ホルモン障害治療薬の同定及びスクリーニングに用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[1]性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール及びスクリーニングのための使用
本明細書において、「性ホルモン障害」とは男性ホルモン障害及び女性ホルモン障害をいう。「男性ホルモン障害」とは、男性ホルモンの異常により引き起こされる疾患(例えば、前立腺肥大、前立腺癌、男性化症、多毛症、禿頭症、脂漏、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を、「女性ホルモン障害」とは、女性ホルモンの異常により引き起こされる疾患(例えば、更年期障害、オステオポローシス、高脂血症、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、乳癌)をいう。本明細書において、「スクリーニングツール」とは、スクリーニングの為に用いる物(具体的には、スクリーニングの為に用いるポリペプチド又はポリペプチドを発現している細胞)をいう。「性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール」とは、性ホルモン障害(男性ホルモン障害及び/又は女性ホルモン障害)治療薬をスクリーニングするために、本発明の性ホルモン障害(男性ホルモン障害及び/又は女性ホルモン障害)治療薬をスクリーニングする方法において、試験化合物を接触させる対象となる細胞又はポリペプチドである。(1)〜(3)に記載のポリペプチド又は細胞の、性ホルモン障害(男性ホルモン障害及び/又は女性ホルモン障害)治療薬スクリーニングのための使用も本発明に含まれる。
本発明の性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールには、ポリペプチド型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールと細胞型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとが含まれる。また、性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとしては、テストステロン抑制剤スクリーニングツール、テストステロン亢進剤スクリーニングツール、エストロゲン抑制剤スクリーニングツール及びエストロゲン亢進剤スクリーニングツールが含まれる。
【0009】
1)ポリペプチド型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール
本発明のポリペプチド型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして用いることのできるポリペプチドとしては、例えば、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、プロキネティシン(好ましくはプロキネティシン2)存在下で細胞内カルシウム濃度が変動することにより活性が確認できるポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する);及び
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロキネティシン(好ましくはプロキネティシン2)存在下で細胞内カルシウム濃度が変動することにより活性が確認できるポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する);
が含まれる。以下、本発明のポリペプチド型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして用いることができるこれらの各種ポリペプチドを総称して、スクリーニング用ポリペプチドと称する。
【0010】
本発明の相同ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、プロキネティシン存在下で細胞内カルシウム濃度が変動することにより活性が確認できるポリペプチドである限り、特に限定されるものではないが、配列番号2で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなることができる。なお、本明細書における前記「同一性」とは、BLAST(Basic local alingment search tool;Altschul,S.F.ら,J.Mol.Biol.,215,403−410,1990)検索により得られた値を意味する。BLAST検索は、BLASTパッケージ[sgi32bit版,バージョン2.0.12;National Center for Biotechnology Information(NCBI)より入手]のbl2seqプログラム(Tatiana A.Tatusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,174,247−250,1999)を用いて行うことができる。なお、パラメーターでは、ペアワイズアラインメントパラメーターとして、「プログラム名」として「blastp」を、「Gap挿入Cost値」を「0」で、「Gap伸長Cost値」を「0」で、「Matrix」として「BLOSUM62」をそれぞれ使用する。
以上、スクリーニング用ポリペプチドについて説明したが、該ポリペプチドとしては、「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」、あるいは、「配列番号2で表されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、しかも、プロキネティシン存在下で細胞内カルシウム濃度が変動することにより活性が確認できるポリペプチド」が好ましく、「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」がより好ましい。スクリーニング用ポリペプチドは前記ポリペプチドである限り特に限定されるものではなく、その起源もヒトに限定されない。
【0011】
例えば、機能的等価改変体であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのヒトにおける変異体が含まれるだけでなく、ヒト以外の生物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)由来の変異体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ヒト由来の変異体、あるいは、ヒト以外の生物由来の変異体)、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのアミノ酸配列を、遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドなども含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の対応するポリペプチドにみられる差異を意味する。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能的等価改変体(ヒトにおける変異体、あるいは、ヒト以外の生物由来の変異体も含む)は、当業者であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列表の配列番号1で表される塩基配列)の情報を基にして取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Maniatis,T.ら,”Molecular Cloning−A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1982等)に従って実施することが可能である。
【0012】
本発明のポリペプチド型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして用いることのできるスクリーニングツール用ポリペプチドは、種々の公知の方法によって得ることができ、例えば、目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドを用いて公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。より具体的には、後述するスクリーニングツール用細胞の一つであるスクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換され、前記ポリペプチドを発現している形質転換細胞を、スクリーニングツール用ポリペプチドの発現が可能な条件下で培養し、受容体タンパク質の分離及び精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から目的タンパク質を分離及び精製することにより調製することができる。
スクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、機能的改変体をコードするポリヌクレオチド、及び相同ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
【0013】
スクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、(A)PCRを用いた方法、(B)常法の遺伝子工学的手法(すなわち、cDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から、所望のcDNAを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(C)化学合成法などを挙げることができる。以下、各製造方法について、順次、説明する。
【0014】
(A)PCRを用いた方法
本明細書のポリペプチドを産生する能力を有するヒト細胞あるいは組織からmRNAを抽出する。次いでこのmRNAを鋳型として該受容体mRNA又は一部のmRNA領域をはさんだ2種類のプライマーを作製する。逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(以下RT−PCRという)を行うことにより、該本明細書のポリペプチドcDNA又はその一部を得ることができる。さらに、得られたヒトの本明細書のポリペプチドcDNA又はその一部を適当な発現ベクターに組み込むことにより、宿主細胞で発現させ、該受容体の蛋白質を製造することができる。
まず、本明細書のポリペプチドの産生能力を有する細胞あるいは組織、例えばヒト脳から該蛋白質をコードするものを包含するmRNAを既知の方法により抽出する。抽出法としては、グアニジン・チオシアネート・ホット・フェノール法、グアニジン・チオシアネート−グアニジン・塩酸法等が挙げられるが、好ましくはグアニジン・チオシアネート塩化セシウム法が挙げられる。該蛋白質の産生能力を有する細胞あるいは組織は、該蛋白質をコードする塩基配列を有する遺伝子あるいはその一部を用いたノーザンブロッティング法、該蛋白質に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティング法などにより特定することができる。
mRNAの精製は常法に従えばよく、例えばmRNAをオリゴ(dT)セルロースカラムに吸着・溶出させ、精製することができる。さらに、ショ糖密度勾配遠心法等によりmRNAをさらに分画することもできる。また、mRNAを抽出せずとも、市販されている抽出済mRNAを用いても良い。
次に、精製されたmRNAをランダムプライマー又はオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い第1鎖cDNAを合成する。この合成は常法によって行うことができる。また、cDNAは合成せずとも、実施例1、実施例2で用いているように、市販されているcDNAを用いても良い。得られた第1鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(Saiki, R. K. et al. (1988) Science 239, 487−491;以下、PCRという)に供し、目的とする本明細書のポリペプチドのDNAを増幅する。得られたDNAをアガロースゲル電気泳動等により分画する。所望により、上記DNAを制限酸素等で切断し、接続することによって目的とするDNA断片を得ることもできる。
【0015】
(B)常法の遺伝子工学的手法
まず、前記のPCRを用いた方法で調製したmRNAを鋳型として、逆転写酵素を用いて1本鎖cDNAを合成した後、この1本鎖cDNAから2本鎖cDNAを合成する。その方法としては、例えば、S1ヌクレアーゼ法(Efstratiadis,A.ら,Cell,7,279−288,1976)、Land法(Land,H.ら,Nucleic Acids Res.,9,2251−2266,1981)、O.Joon Yoo法(Yoo,O.J.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79,1049−1053,1983)、又はOkayama−Berg法(Okayama,H.及びBerg,P.,Mol.Cell.Biol.,2,161−170,1982)などを挙げることができる。
次に、前記2本鎖cDNAを含む組換えプラスミドを作製した後、大腸菌(例えば、DH5α株)に導入して形質転換させ、例えば、テトラサイクリン又はアンピシリンに対する薬剤耐性を指標として、組換体を選択する。宿主細胞の形質転換は、例えば、宿主細胞が大腸菌の場合には、Hanahanの方法(Hanahan,D.J.,Mol.Biol.,166,557−580,1983)、すなわち、CaCl2、MgCl2、又はRbClを共存させて調製したコンピテント細胞に、前記組換えDNA体を加える方法により実施することができる。なお、ベクターとしては、プラスミド以外にもラムダ系などのファージベクターを用いることもできる。
【0016】
このようにして得られる形質転換株から、目的のcDNAを有する形質転換株を選択する方法としては、例えば、以下に示す(1)合成オリゴヌクレオチドプローブを用いるスクリーニング方法、(2)PCRにより作製したプローブを用いるスクリーニング方法、(3)他の動物細胞で目的ポリペプチドを産生させてスクリーニングする方法を採用することができる。
合成オリゴヌクレオチドプローブを用いるスクリーニング方法では、例えば、以下の手順により、目的のcDNAを有する形質転換株を選択することができる。
すなわち、本発明のポリペプチドの全部又は一部に対応するオリゴヌクレオチドを合成し、これをプローブ(32P又は33Pで標識する)として、形質転換株のDNAを変性固定したニトロセルロースフィルターとハイブリダイズさせ、得られた陽性株を検索して、これを選択する。なお、プローブ用のオリゴヌクレオチドを合成する場合には、コドン使用頻度を用いて導いたヌクレオチド配列とすることもできるし、あるいは、考えられるヌクレオチド配列を組合せた複数個のヌクレオチド配列とすることもできる。後者の場合には、イノシンを含ませてその種類を減らすことができる。
PCRにより作製したプローブを用いるスクリーニング方法では、例えば、以下の手順により、目的のcDNAを有する形質転換株を選択することができる。
すなわち、本発明のポリペプチドの一部に対応するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーの各オリゴヌクレオチドを合成し、これらを組合せてPCRを行ない、目的ポリペプチドの全部又は一部をコードするDNA断片を増幅する。ここで用いる鋳型DNAとしては、本発明のポリペプチドを産生する細胞のmRNAより逆転写反応にて合成したcDNA、又はゲノムDNAを用いることができる。このようにして調製したDNA断片を、例えば、32P又は33Pで標識し、これをプローブとして用いてコロニーハイブリダイゼーション又はプラークハイブリダイゼーションを行なうことにより、目的のcDNAを有する形質転換株を選択する。
【0017】
他の動物細胞で目的ポリペプチドを産生させてスクリーニングする方法では、例えば、以下の手順により、目的のcDNAを有する形質転換株を選択することができる。
すなわち、形質転換株を培養し、ポリヌクレオチドを増幅させ、そのポリヌクレオチドを動物細胞にトランスフェクトし、ポリヌクレオチドにコードされたポリペプチドを細胞表面に産生させる。なお、この場合、自己複製可能で転写プロモーター領域を含むプラスミド、あるいは、動物細胞の染色体に組み込まれ得るようなプラスミドのいずれを用いることもできる。本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて、本発明のポリペプチドを検出することにより、元の形質転換株の中から、目的のcDNAを有する形質転換株を選択する。
得られた目的の形質転換株より本発明のポリヌクレオチドを採取する方法は、公知の方法(例えば、Maniatis,T.ら,”Molecular Cloning−A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1982等)に従って実施することができる。例えば、細胞よりプラスミドDNAに相当する画分を分離し、得られたプラスミドDNAからcDNA領域を切り出すことにより行なうことができる。
【0018】
(C)化学合成法
化学合成法を用いた方法では、例えば、化学合成法によって製造したDNA断片を結合することによって、本明細書のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを製造することができる。各DNAは、DNA合成機[例えば、Oligo 1000M DNA Synthesizer(Beckman社製)、又は394 DNA/RNA Synthesizer(Applied Biosystems社製)など]を用いて合成することができる。
また、本明細書のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドの情報に基づいて、例えば、ホスファイト・トリエステル法(Hunkapiller,M.ら,Nature,10,105−111,1984)等の常法に従い、核酸の化学合成により製造することもできる。なお、所望アミノ酸に対するコドンは、それ自体公知であり、その選択も任意でよく、例えば、利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、常法に従って決定することができる(Crantham,R.ら,Nucleic Acids Res.,9,r43−r74,1981)。更に、これら塩基配列のコドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した部位特異的突然変異誘発法(site specific mutagenesis)(Mark,D.F.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5662−5666,1984)等により実施することができる。
これまで述べた種々の方法により得られるDNAの配列決定は、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法(Maxam,A.M.及びGilbert,W.,“Methods in Enzymology”,65,499−559,1980)やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Messing,J.及びVieira,J.,Gene,19,269−276,1982)等により行なうことができる。
【0019】
本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドは、下記の方法によって得ることができる。単離されたスクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、適当なベクターDNAに再び組込むことにより、宿主細胞(好ましくは真核生物、特に好ましくはCHO細胞又は293−EBNA細胞)を形質転換させることができる。
前記形質転換細胞を培養することにより、前記細胞の細胞表面に生産されるスクリーニングツール用ポリペプチドは、前記ポリペプチドの物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離精製することができる。該方法としては、具体的には例えば受容体蛋白質を含む膜分画を可溶化した後、通常の蛋白沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せ等を例示できる。なお、膜分画は常法に従って得ることができる。例えば本発明のプロキネティシン受容体を表面に発現した細胞を培養し、これらをバッファーに懸濁後、ホモジナイズし遠心分離することにより得られる。また、できるだけ緩和な可溶化剤(CHAPS、 Triton X−100、ジキトニン等)でプロキネティシン受容体を可溶化することにより、可溶化後も受容体の特性を保持することができる。
本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドはマーカー配列とインフレームで融合して発現させることで、スクリーニングツール用ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、精製等が可能になる。マーカー配列としては、例えば、FLAG epitope、Hexa−Histidine tag、Hemagglutinin tag、myc epitopeなどがある。また、マーカー配列と本明細書のポリペプチドの間にエンテロキナーゼ、ファクターXa、トロンビンなどのプロテアーゼが認識する特異的な配列を挿入することにより、マーカー配列部分をこれらのプロテアーゼにより切断除去する事が可能である。例えば、ムスカリンアセチルコリン受容体とHexa−Histidine tagとをトロンビン認識配列で連結した報告がある(Hayashi, M.K. and Haga, T. (1996) J. Biochem., 120, 1232−1238)
【0020】
2)細胞型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール
本発明の細胞型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして用いることのできる細胞(以下、スクリーニングツール用細胞と称する)としては、例えば、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現している細胞;
(2)機能的等価改変体を発現している細胞;及び
(3)相同ポリペプチドを発現している細胞を挙げることができる。上記ポリペプチドを発現している細胞としては、i)前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換され、前記ポリペプチドを発現している形質転換細胞、及びii)天然に前記ポリペプチドを発現している細胞の両方が含まれる。本発明の細胞型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとしては、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換され、前記ポリペプチドを発現している形質転換細胞が好ましい。
スクリーニングツール用細胞は、例えば、先に述べた方法により単離されたスクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、適当なベクターDNAに再び組込むことにより、宿主細胞(好ましくは真核生物、特に好ましくはCHO細胞又は293−EBNA細胞)を形質転換させることにより取得することができる。また、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞においてポリヌクレオチドを発現させることが可能である。
【0021】
前記発現ベクターは、スクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。また、本発明の細胞型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして用いることのできるスクリーニングツール用細胞は、前記発現ベクターで形質転換され、スクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、細胞型性ホルモン障害治療薬スクリーニングツールとして用いる際に前記ポリペプチドを発現している限り、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた細胞であることもできるし、あるいは、スクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形で含有する細胞であることもできる。スクリーニングツール用細胞は、例えば、スクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
【0022】
例えば、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞(Gluzman, Y. (1981) Cell, 23, 175−182)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A.(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216−4220)、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞および同細胞にEpstein Barr VirusのEBNA−1遺伝子を導入した293−EBNA細胞(Invitrogen社製)等がよく用いられているが、これらに限定されるわけではない。
脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終結配列等を有するものを使用でき、これはさらに必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr (Subramani, S. et al. (1981) Mol. Cell. Biol., 1, 854−864)、ヒトのelongation factorプロモーターを有するpEF−BOS (Mizushima, S. and Nagata, S. (1990) Nucleic Acids Res., 18, 5322)、cytomegalovirusプロモーターを有するpCEP4(Invitrogen社製)等を例示できるが、これに限定されない。
【0023】
宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自律増殖が可能であり、さらに転写プロモーター、転写終結シグナルおよびRNAスプライス部位を備えたものを用いることができ、例えば、 pME18S、 (Maruyama, K. and Takebe,Y. (1990) Med. Immunol., 20, 27−32)、pEF−BOS (Mizushima, S. and Nagata, S. (1990) Nucleic Acids Res., 18, 5322)、 pCDM8(Seed, B. (1987) Nature, 329, 840−842) 等が挙げられる。該発現ベクターはDEAE−デキストラン法(Luthman, H. and Magnusson, G. (1983) Nucleic Acids Res., 11, 1295−1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham, F. L. and van der Ed, A. J. (1973) Virology, 52, 456−457)、 FuGENE6(Boeringer Mannheim社製)を用いた方法、および電気パルス穿孔法(Neumann, E. et al.(1982) EMBO J., 1, 841−845)等によりCOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。
また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo(Sambrook, J. et al. (1989): “ Molecular Cloning−A Laboratory Manual” Cold Spring Harbor Laboratory, NY)やpSV2−neo(Southern, P. J. and Berg,P. (1982) J. Mol. Appl. Genet., 1, 327−341)等をコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することによりスクリーニング用ポリペプチドを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞として293−EBNA細胞を用いる場合には、Epstein Barr Virusの複製起点を有し、293−EBNA細胞で自己増殖が可能なpCEP4(Invitrogen社)などの発現ベクターを用いて所望の形質転換細胞を得ることができる。
上記で得られる所望の形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内又は細胞表面に本発明のスクリーニング用ポリペプチドが生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば上記COS細胞であればRPMI−1640培地やダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地に必要に応じ牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したものを使用できる。また、上記293−EBNA細胞であれば牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えたものを使用できる。
【0024】
[2]性ホルモン障害治療薬スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法には、
スクリーニングツール用細胞と試験化合物とを接触させる工程、およびスクリーニングツール用ポリペプチドの活性変化を分析する工程を含むことを特徴とする、性ホルモン障害治療薬をスクリーニングする方法
が含まれる。更には、
性ホルモン障害が男性ホルモン障害である上記記載のスクリーニングする方法、性ホルモン障害が女性ホルモン障害である上記記載のスクリーニングする方法が包含される。
男性ホルモン障害としては、男性ホルモン(特にはテストステロン)が増悪因子となる疾患(特には、前立腺肥大、前立腺癌、男性化症、多毛症、禿頭症、脂漏)及び男性ホルモン(特にはテストステロン)の減少が原因となる疾患(特には低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)が挙げられる。女性ホルモン障害としては、女性ホルモン(特にはエストロゲン)の減少が原因となる疾患(特には、更年期障害、オステオポローシス、高脂血症)、及び女性ホルモン(特にはエストロゲン)が増悪因子となる疾患(特には、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、及び/又は乳癌)が挙げられる。
従って、本発明には、性ホルモン障害が前立腺肥大及び/又は前立腺癌である上記記載のスクリーニングする方法も包含される。
【0025】
スクリーニングツール用ポリペプチド又はスクリーニングツール用細胞を用いると、スクリーニングツール用ポリペプチドの活性を修飾可能な物質(化合物、ペプチド及び抗体)を検出及びスクリーニングすることができる。本明細書の「スクリーニング」とは、多数の試験化合物の中から目的の活性を有する化合物を篩い分けること、及び、ある試験化合物について、その化合物が目的の性質を有する化合物であるか否かを検出すること(即ち篩い分けること)の両方を含む。
【0026】
本発明のスクリーニング方法において、スクリーニング用ポリペプチドの活性の変化は、スクリーニングに用いる受容体蛋白質の生理学的な特性に応じた活性の指標を測定することにより分析することができる。指標とする活性とは、たとえばリガンドとの結合活性であり、あるいはリガンドの結合によってもたらされる刺激に対する応答である。具体的には、以下a)〜c)に述べるような検出方法を示すことができる。スクリーニング用ポリペプチドとしては、該ポリペプチドを発現させた細胞、該細胞の膜分画、又は該ポリペプチドからなる蛋白質の精製標品などを用いることもできる。また本発明によるスクリーニング方法のための試験化合物としては、市販の化合物、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物やペプチド、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett,N.K., et al. (1995) Tetrahedron, 51, 8135−8137)によって得られた化合物群やファージ・ディスプレイ法(Felici,F., et al. (1991) J.Mol.Biol., 222, 301−310)などを応用して作成されたランダムペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清や、植物、海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物などもスクリーニングの対象となる。あるいは本発明のスクリーニング方法により選択された化合物又はペプチドを化学的又は生物学的に修飾した化合物又はペプチドを用いうるが、それらに限らない。
【0027】
本発明のスクリーニング方法において、スクリーニング用ポリペプチドの活性変化を分析する工程は、スクリーニング用ポリペプチドの生理学的な特性に応じた活性の指標を測定(例えば、リガンドとの結合活性を測定、あるいはリガンドの結合によってもたらされる刺激に対する応答を測定(例えばGTPγS結合の測定又は細胞内Ca2+濃度の変動の測定))し、分析することにより実施できる。
a)リガンド結合アッセイ法を利用したスクリーニング方法
本発明のスクリーニング用ポリペプチドに結合する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)はリガンド結合アッセイ法によりスクリーニングする事ができる。該スクリーニング用ポリペプチドを発現させた細胞膜、あるいは該スクリーニング用ポリペプチドからなる蛋白質精製標品を調製する。緩衝液、イオン、pHのようなアッセイ条件を最適化し、最適化したバッファー中で同スクリーニング用ポリペプチドを発現させた細胞膜、あるいは該スクリーニング用ポリペプチドからなる蛋白質精製標品を、標識リガンド、例えば125I標識プロキネティシン(好ましくは125I標識プロキネティシン2)を試験化合物と共に一定時間インキュベーションする。反応後、ガラスフィルター等で濾過し適量のバッファーで洗浄した後、フィルターに残存する放射活性をγカウンター等で測定する。以上の工程(以下、リガンド結合アッセイ工程)により得られた放射活性リガンドの結合阻害を指標に該スクリーニング用ポリペプチドのアゴニスト活性又はアンタゴニスト活性を有する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)をスクリーニングすることができる。本発明のスクリーニング方法によって選択される、該スクリーニング用ポリペプチドのアゴニスト活性を有する物質は、男性ホルモン(特にはテストステロン)の減少が原因となる疾患(特には低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)、及び、女性ホルモン(特にはエストロゲン)の減少が原因となる疾患(特には、更年期障害、オステオポローシス、高脂血症)の治療や予防に有用である。また、本発明のスクリーニング方法によって選択される、該スクリーニング用ポリペプチドのアンタゴニスト活性を有する物質は、男性ホルモン(特にはテストステロン)が増悪因子となる疾患(特には、前立腺肥大、前立腺癌、男性化症、多毛症、禿頭症、脂漏)、及び女性ホルモン(特にはエストロゲン)が増悪因子となる疾患(特には、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、及び/又は乳癌)の治療や予防に有用である。
本発明のスクリーニング方法は、WO01/19986に記載のリガンド結合アッセイ法を利用したスクリーニング方法により実施できる。ただし、リガンドはLTC4をプロキネティシンに、受容体はLTC4受容体をスクリーニング用ポリペプチドに置き換える。より具体的には実施例6に記載の方法により実施できる。
【0028】
b)GTPγS結合法を利用したスクリーニング方法
スクリーニング用ポリペプチドの活性を修飾する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)はGTPγS結合法によりスクリーニングすることが可能である(Lazareno,S. and Birdsall,N.J.M. (1993) Br.J.Pharmacol. 109, 1120−1127)。スクリーニング用ポリペプチドを発現させた細胞膜を20mM HEPES (pH7.4), 100mM NaCl, 10mM MgCl2, 50mM GDP溶液中で、35Sで標識されたGTPγS 400pMと混合する。試験化合物存在下と非存在下でインキュベーション後、ガラスフィルター等で濾過し、結合したGTPγSの放射活性を液体シンチレーションカウンター等で測定する。以上の工程を、以下、GTPγS結合法アッセイ工程という。試験化合物存在下における、特異的なGTPγS結合の上昇を指標に該スクリーニング用ポリペプチドのアゴニスト活性を有する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)をスクリーニングすることができる。また、試験化合物存在下における、リガンド(好ましくはプロキネティシン、更に好ましくはプロキネティシン2)によるGTPγS結合上昇の抑制を指標に該スクリーニング用ポリペプチドのアンタゴニスト活性を有する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)をスクリーニングすることができる。
【0029】
c)細胞内Ca2+濃度の変動を利用したスクリーニング方法
スクリーニング用ポリペプチドの活性を抑制する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)は、スクリーニング用ポリペプチドを発現させた細胞の細胞内Ca2+濃度の変動を利用してスクリーニングすることが可能である。細胞内Ca2+濃度の変動を測定する工程を、細胞内Ca2+濃度の変動測定工程という。細胞内Ca2+濃度の変動測定工程は、fura2やfluo3等を用いて測定することにより実施できる。
あるいは、Ca2+濃度に依存して転写量が調節される遺伝子の転写活性を検出することにより、間接的にCa2+濃度を測定することにより実施可能である。具体的には以下の方法で、Ca2+濃度を測定することができる。まず、セラムレスポンシブエレメントをつないだレポーター遺伝子をスクリーニング用ポリペプチドを発現させた細胞に導入し、試験化合物及びリガンド(好ましくは最終濃度5−500nMのプロキネティシン(特に好ましくはプロキネティシン2))を該細胞の培養液中に加える。レポーター遺伝子には、検出可能なシグナルを生成することができる任意の遺伝子を用いることができ、定量的測定が容易な酵素遺伝子などが好ましい。例えば、バクテリアトランスポゾン由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(Luc)、クラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子(GFP)等があげられる。37℃で4時間インキュベート後、培地を除去し、細胞を溶解してルシフェラーゼ活性を測定する。そして試験薬添加時のルシフェラーゼ活性誘導を指標に、スクリーニング用ポリペプチドのアゴニスト活性を有する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)をスクリーニングすることができる。また、試験薬添加時のリガンド(好ましくはプロキネティシン、更に好ましくはプロキネティシン2)によるルシフェラーゼ活性誘導の阻害を指標に、スクリーニング用ポリペプチドのアンタゴニスト活性を有する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)をスクリーニングすることができる。
【0030】
本発明のスクリーニング方法においては、該蛋白質を発現させた細胞と発現させていない宿主細胞(コントロール細胞)に試験薬(化合物、ペプチド、及び抗体)及びリガンド(好ましくはプロキネティシン、更に好ましくはプロキネティシン2)を一定時間作用させ、Ca2+濃度を直接あるいは間接的に測定する。コントロール細胞と比較して、該蛋白質を発現させた細胞特異的なCa2+濃度の上昇又は低下を指標にアゴニスト活性を有する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)をスクリーニングすることができる。また、試験化合物存在下における、リガンド(好ましくはプロキネティシン、更に好ましくはプロキネティシン2)によるCa2+濃度の上昇又は低下の阻害作用を指標に該スクリーニング用ポリペプチドのアンタゴニスト活性を有する物質(化合物、ペプチド、及び抗体)をスクリーニングすることができる。
【0031】
本発明のスクリーニング方法は、実施例5記載の条件で行うことが好ましい。
例えば実施例5に記載のアッセイ条件で、EC50が100μM以下の物質を、好ましくはEC50が10μM以下の物質を、更に好ましくはEC50が1μM以下の物質をアゴニスト活性を有する物質として選択することができる。また、たとえば実施例5に記載のアッセイ条件に試験化合物を追加することにより、即ち、実施例5の条件でIC50が10μM以下の物質を、好ましくはIC50が1μM以下の物質を、更に好ましくはIC50が0.1μM以下の物質をアンタゴニスト活性を有する物質として選択することができる。
【0032】
[3]本発明の検出方法
本発明には、
(1)スクリーニングツール用細胞又はその細胞膜と、試験化合物とを接触させる工程、及び
(2)スクリーニングツール用ポリペプチドの活性変化を分析する工程、並びに
(3)試験化合物による性ホルモン量の変動を分析する工程
を含むことを特徴とする、試験化合物がスクリーニングツール用ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストであるか否かを検出する方法
が含まれる。また、本発明には、性ホルモンがテストステロンである上記検出方法及び性ホルモンがエストロゲンである上記検出方法が含まれる。

前記(1)及び(2)の工程は、例えば、前述の[2]性ホルモン障害治療薬スクリーニング方法のリガンド結合アッセイ工程、GTPγS結合法アッセイ工程又は細胞内Ca2+濃度の変動測定工程に記載の通りに実施することができる。試験化合物による性ホルモン量の変動を分析する工程は、定法に従って行うことができる。例えば、試験化合物によるテストステロン量の変動を分析する工程は、常法に従い、試験化合物又は陰性コントロール(例えば生理食塩水など)を試験動物(例えばマウス、ラットなど)に投与し、試験動物の血中テストステロン濃度を測定し分析することにより実施できる。血中テストステロン濃度は、トータルテストステロンキット(ヤトロン社)やDELFIAテストステロン測定キット(パーキンエルマー社)などの市販のキットを用いて測定することができる。好ましくは、実施例10に記載の方法により実施できる。試験化合物によるエストロゲン量の変動を分析する工程は、常法に従い、試験化合物又は陰性コントロール(例えば生理食塩水など)を試験動物(例えばマウス、ラットなど)に投与し、試験動物の血中エストロゲン濃度を測定し分析することにより実施できる。血中エストロゲン濃度は、DELFIAエストラジオール測定キット(パーキンエルマー社)などの市販のキットを用いて測定することができる。
スクリーニングツール用ポリペプチドのアンタゴニストとしては、スクリーニングツール用ポリペプチドの活性を阻害するものが好ましく、更には、テストステロン及び/又はエストロゲン量を低下させる物質が好ましい。スクリーニングツール用ポリペプチドのアゴニストとしては、スクリーニングツール用ポリペプチドの活性を亢進するものが好ましく、更には、エストロゲン量を増加させる物質が好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、特に断りのない限り、公知の方法、例えば、Sambrook, J. ら, “Molecular Cloning−A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1989、相沢慎一,「ジーンターゲティング・ES細胞を用いた変異マウスの作製」,羊土社,1995等の遺伝子操作実験マニュアルに従って実施した。

(実施例1) 動物細胞でのプロキネティシン発現系の構築
【0034】
ヒトプロキネティシン1、2をコードする遺伝子の増幅には、プロキネティシン1はヒト小腸、プロキネティシン2はヒト精巣由来のcDNA(Marathon Ready cDNA;クロンテック社)を鋳型cDNAに用いた。プロキネティシン1が、フォワードプライマーとして、配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用し、リバースプライマーとして、配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用した。プロキネティシン2がフォワードプライマーとして、配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用し、リバースプライマーとして、配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用した。配列番号4、配列番号6で表される塩基配列にはFLAG配列が含まれる。従って、プロキネティシンは、C末端側にマーカー配列FLAG エピトープをインフレームで融合して発現される。これにより、プロキネティシンの精製が簡便化できる。なお、前記の各プライマーの5’末端には、それぞれ、XbaI認識配列、NotI認識配列が付加してある。PCRはDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、94°C(2分)の後、96°C(5秒)/72°C(1.5分)のサイクルを5回、96°C(5秒)/70°C(1.5分)のサイクルを5回、96°C(5秒)/68°C(1.5分)のサイクルを20回繰り返した。その結果、プロキネティシン1、2共に約0.3kbpのDNA断片が増幅された。この断片をpCR2.1 plasmid(インビトロジェン社)を用いてクローニングした。得られたクローンの塩基配列はジデオキシターミネーター法によりABI3700 DNA Sequencer(アプライドバイオシステムズ社)で解析し、既知プロキネティシン1、2配列 (GenBank No. AF333024、AF333025)と合致したクローンをそれぞれ選択した。これらクローンをXbaI−NotIで消化し、動物細胞発現用pCEP4 plasmid(インビトロジェン社)に挿入した。
構築されたプロキネティシン発現プラスミドは、6ウェルプレート(Collagen−TypeI−Coated 6 well plate;アサヒテクノグラス社製)にHEK293細胞を1ウェルあたり1×105細胞で播種して24時間培養後、1ウェルあたり1μgのプロキネティシン1又はプロキネティシン2発現プラスミドをトランスフェクション試薬(FuGENE6;ベーリンガーマンハイム社)を用いて遺伝子導入した。遺伝子導入72時間後より、ハイグロマイシンB含有培地で遺伝子導入細胞の選択を行い、得られた薬剤耐性細胞をプロキネティシン発現細胞として用いた。プロキネティシン発現細胞は、10cmシャーレ(Collagen−TypeI−Coated;アサヒテクノグラス社)にコンフルエントになるまで培養後、培地を廃棄し、0.5%牛胎児血清入りDMEM培地にて4日間培養して、プロキネティシン含有培地を回収した。

(実施例2) GPRg2の遺伝子クローニングとGPRg2発現CHO細胞の取得
【0035】
ヒトGPRg2をコードする遺伝子の増幅には、ヒト脾臓由来のcDNA(Marathon Ready cDNA;クロンテック社)を鋳型cDNAに、フォワードプライマーとして配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用し、リバースプライマーとして、配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用した。なお、前記の各プライマーの5’末端には、それぞれ、XbaI認識配列が付加してある。PCRはDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、94°C(2分)の後、96°C(5秒)/72°C(1.5分)のサイクルを5回、96°C(5秒)/70°C(1.5分)のサイクルを5回、96°C(5秒)/68°C(1.5分)のサイクルを20回繰り返した。その結果、約1.2kbpのDNA断片が増幅された。この断片をXbaIで消化した後、pEF−BOS−dhfr plasmid(Biochim Biophys Acta. 1997 1354:159−70)に挿入した。得られたクローンの塩基配列はジデオキシターミネーター法によりABI3700 DNA Sequencer(アプライドバイオシステムズ社)を用いて解析した。明らかになった配列を配列番号1に示す。
同配列は1155塩基のオープンリーディングフレーム(配列番号:1)を持っている。オープンリーディングフレームから予測されるアミノ酸配列(384アミノ酸)を配列番号2に示す。
構築されたGPRg2発現プラスミドは、6ウェルプレートにCHO/dhfr-細胞を1ウェルあたり1×105細胞で播種して24時間培養後、1ウェルあたり1μgのGPRg2発現プラスミドをトランスフェクション試薬(FuGENE6;ベーリンガーマンハイム社)を用いて遺伝子導入した。遺伝子導入72時間後より、メトトレキセート含有培地で遺伝子導入細胞の選択を行い、得られた薬剤耐性細胞をGPRg2発現細胞として用いた。

(実施例3) GPRg2発現CHO細胞のプロキネティシンによる細胞内Ca2+濃度の変化
【0036】
96ウェルプレート(96well Black/clear bottom plate ;BECTON DICKINSON社)にGPRg2発現CHO細胞もしくは、pEF−BOS−dhfrを組み込んだCHO細胞(空ベクター処理細胞)を1×104細胞でプレーティングして24時間培養後、培地を廃棄し、4μM Fluo−3,AM(モレキュラープローブ社)、0.004% pluronic acidおよび1% FBSと20mM HEPESを含むHunk≡s Balanced Solt Solution (Hanks BSS;ギブコ社)を1ウェルあたり100μl添加し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を20mM HEPESを含むHanks BSSで4回洗浄して、1ウェルあたり100μlの20mM HEPESを含むHanks BSSを添加した。
細胞内Ca2+濃度の変化は細胞内Ca2+濃度測定装置(FLIPR;モレキュラーデバイス社)を用いて経時的に測定した。すなわち、測定開始10秒後に、プロキネティシンを含むHEK293細胞培養上清を添加し、添加後、50秒間は1秒毎に、さらに4分間は6秒毎に蛍光強度を測定した。得られた結果の蛍光値をY軸に、時間をX軸にプロットすると、GPRg2はプロキネティシンに反応して細胞内Ca2+濃度の変化が観察されたが、プロキネティシンを発現させないHEK293細胞培養上清では観察されなかった。さらに、同反応は、空ベクターを処理したCHO細胞では見られなかった。
以上により、本明細書のポリペプチドで形質転換した細胞の細胞内Ca2+濃度の変化を測定する事で本明細書のポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニスト、すなわち性ホルモン障害治療薬のスクリーニングが可能となった。
(実施例4) 動物細胞発現プロキネティシン1及び2の発現並びに精製
【0037】
動物細胞で発現させたプロキネティシンの精製サンプルを用いて、放射性同位元素標識を行い、バインディングアッセイ等に用いることを考え、まず、以下の実験により精製プロキネティシンを得た。その際、プロキネティシン1は、精製時に用いたFLAG配列を除去するために、インフレームでFactorXa配列を入れて、native formと同じものを作製した。また、プロキネティシン2は、分子内に放射性同位元素標識に用いるTyr残基を有していないため、C末端のFLAG配列を残して、同配列中のTyr残基に対して放射性同位元素標識することを考えた。具体的には以下の手順で精製プロキネティシンを取得した。
動物細胞で発現させたプロキネティシン1を取得するために、フォワードプライマーとして配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドを、リバースプライマーとして、配列番号10で表されるオリゴヌクレオチドを使用した。前記の各プライマーの5’末端には、それぞれ、SpeI認識配列が付加してある。なお、配列番号9で表される塩基配列には、インフルエンザAウイルス・ヘマグルチニンのシグナルシーケンス配列、FLAG配列、そしてFactor Xa認識配列が含まれる。従って、プロキネティシン1は、細胞外分泌後は、N末端側にマーカー配列FLAG エピトープとFactor Xa認識配列をインフレームで融合して発現される。これにより、プロキネティシン1の精製が簡便化できる。PCRはパイロベストDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、94°C(2分)の後、94°C(30秒)/55°C(30秒)/72°C(1.5分)のサイクルを20回繰り返した。その結果、約1.4kbpのDNA断片が増幅された。この断片をSpeIで消化した後、pCEP4 plasmidに挿入した。得られたクローンの塩基配列は、ABI3700 DNA Sequencerを用いて解析した。構築されたプロキネティシン1発現プラスミドは、(実施例1)で用いた方法と同様に、HEK293細胞に遺伝子導入し、プロキネティシン1安定発現細胞株を取得した。
動物細胞で発現させたプロキネティシン2の取得のためには、実施例1で作製した、C末端側にマーカー配列FLAGエピトープをインフレームで融合して発現されるプロキネティシン2をコードするcDNAをpEF−BOS−dhfr plasmidに挿入して用いた。従って、プロキネティシン2は、細胞外分泌後は、C末端側にマーカー配列FLAGエピトープをインフレームで融合して発現される。構築されたプロキネティシン2発現プラスミドは、実施例2で用いた方法と同様に、CHO/dhfr-細胞に遺伝子導入し、プロキネティシン2安定発現細胞株を取得した。
実施例1と同じ方法で回収したプロキネティシン1もしくは、プロキネティシン2を含有する培地を、それぞれM2−アガロースカラム(シグマ社)にかけ、0.5% NaCl含有PBSでカラムを洗浄後、プロキネティシン1は、Factor Xa(アマシャム社)含有PBSで一晩反応して、プロキネティシン2は、FLAG−peptide含有PBSにて、それぞれM2−アガロースカラムより溶出した。目的プロキネティシンを含む溶出産物は、最終的にSuperdex Peptide FPLCカラム(アマシャム社)でゲルろ過を行い精製を行った。精製産物をSDS電気泳動後、銀染色(第一化学社)を行ったところ、プロキネティシン2の方がプロキネティシン1よりわずかに高分子側に、共に約10 kDaの単一バンドとして確認された。プロキネティシン1と2の推定分子量は、それぞれ9666.88Da、10039.31Daである事から、予測分子量に合致しており、プロキネティシン1及び2が精製されていることが確認できた。

(実施例5)GPRg2発現HEK293細胞のプロキネティシンによるルシフェラーゼレポーターアッセイ系の構築
【0038】
コラーゲンタイプIをコーティングした24ウェルプレート(Collagen−TypeI−Coated 24 well plate;アサヒテクノグラス社)に、HEK293−EBNA細胞(インビトロジェン社)を1ウェル当たり7×104細胞となるように播種し、24時間培養した後、実施例1で構築したGPRg2動物細胞発現プラスミド、又はプラスミドpEF−BOS(コントロールとしての空ベクター)(1ウェル当たり100ng)と、プラスミドpSRE−luc(ストラタジーン社)(1ウェル当たり20ng)とを、遺伝子導入試薬(FuGENE6;ベーリンガーマンハイム社)を用いて、2者同時に遺伝子導入した。遺伝子導入から24時間経過した後、培地を廃棄し、10nMの精製プロキネティシン1もしくは精製プロキネティシン2を添加して、5時間37℃で反応させ、ルシフェラーゼアッセイシステム(和光純薬社)の方法に従い、細胞内ルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、GPRg2を遺伝子導入したHEK293細胞では、空ベクターを遺伝子導入したHEK293細胞に比べて、細胞内ルシフェラーゼ活性が特異的に上昇していた。
プロキネティシンの代わりに、又はプロキネティシンと同時に被験薬を添加してこの反応系を用いる事で、プロキネティシン1又は2と同様の活性を有するアゴニスト活性を有する物質、並びにGPRg2に対するプロキネティシン1又は2の反応を阻害するアンタゴニスト活性を有する物質、即ち性ホルモン障害治療薬のスクリーニングが可能になった。

(実施例6) 125I標識プロキネティシン2を用いたGPRg2受容体結合アッセイ系の構築
【0039】
150mm培養シャーレにCHO細胞及びGPRg2を安定発現するCHO細胞をコンフルエントになるまでそれぞれ培養後、50mM Tris・HCl(pH7.5)、10mM MgCl2にそれぞれ懸濁してホモジナイザー(ポリトロン;キネマティカ社)にてホモジェナイズした。超遠心後、各沈殿物を50mM Tris・HCl(pH7.5)、10mM MgCl2に懸濁し、これをCHO膜画分、GPRg2膜画分とした。125I標識したプロキネティシン2([125I]−PK2)は、実施例5で精製した5μgのプロキネティシン2をIodaine−125(パーキンエルマー社)を用いて、IODO−GEN Iodination Tube法(ピアス社)に従って作製した。
前記CHO膜画分、GPRg2膜画分各30μgに[125I]−PK2を最終濃度500 pMになるようにそれぞれ加え、50mM Tris・HCl(pH7.5)、10mMMgCl2、0.1%BSAからなる溶液50μl中で室温1時間インキュベーションし、セルハーベスターにてグラスフィルターに回収した。グラスフィルターにマイクロシンチレーターを加え、液体シンチレーションカウンターで膜画分への総結合量を測定した。さらに、前述の試験に最終濃度0.5μMの非標識プロキネティシン1もしくは2(すなわち実施例5で精製したプロキネティシン)を加えることで、膜画分への非特異的結合量を測定した。その結果、[125I]−PK2はGPRg2を安定発現するCHO細胞の膜画分に特異的に結合することが分かった。一方、空ベクターを遺伝子導入したCHO細胞の膜画分では、特異的結合は観察されなかった。
以上のように、本発明のGPRg2受容体は、プロキネティシン2に結合親和性を持つ受容体であることが確認された。本GPRg2受容体を発現する細胞を用いて被験薬存在下で結合実験を行うことで、GPRg2受容体に対して親和性を有する物質のスクリーニングが可能となった。こうした物質は、プロキネティシン1又は2の活性を増強する活性を有する物質、もしくはGPRg2に対するプロキネティシン1又は2の反応を阻害するアンタゴニスト活性を有する物質、即ち性ホルモン障害治療薬である。

《実施例7:GPRg2遺伝子ノックアウトマウスの作製》
【0040】
(1)ターゲッティングベクターの作製
マウスGPRg2遺伝子の蛋白質コード領域のうち、開始コドンを含むエキソンと隣接するイントロンのゲノム配列(3’ショートアーム(short arm))、PGK−1プロモーター、ネオマイシン耐性遺伝子、マウスGPRg2遺伝子の5’側のゲノム配列(5’ロングアーム(long arm))、及びPGK−1プロモーター、HSV−TK遺伝子を順にもつターゲッティングベクターを以下の方法で作製した。
約6.6kbpの5’long arm断片(mouse−pub−genome配列・ref|NT_039207.3|Mm2_39247_33の73079219〜73072668に該当)と、約2.0kbpの3’short arm断片(mouse−pub−genome配列・ref|NT_039207.3|Mm2_39247_33の73070851〜73068855に該当)は、以下のようなPCR反応で取得した。2種のプライマーセットとして、配列番号11(CCGGAATTCAGGTTAACCCAGAGCCTTATG、5’側にEcoRI制限酵素部位を含む)で表される塩基配列からなるオリゴDNAと配列番号12(CGCGGATCCGGAGCCTAGCATAACTGTCC、5’側にBamHI制限酵素部位を含む)で表される塩基配列からなるオリゴDNAとのセット、及び配列番号13(CCGCTCGAGTCTAGAGGGACTAGAGGAGACATTC、5’側にXhoIとXbaI制限酵素部位を含む)で表される塩基配列からなるオリゴDNAと配列番号14(CCGCTCGAGGATCCCTGCACAAGTCCGAG、5’側にXhoI制限酵素部位を含む)で表される塩基配列からなるオリゴDNAとのセットを使用した。PCR反応では、変性(94℃にて30秒間)、アニール(55℃にて30秒間)、及び伸長(72℃にて6分間)からなるサイクルを35サイクル実施した。得られたDNA産物は、それぞれ、プラスミドpPNT(Cell、1991年、65巻、p.1153−1163)のEcoRI−BamHIサイト、及びXhoIサイトへ挿入して、ターゲッティングベクターを完成させた。この際、マウスGPRg2遺伝子の5’上流側がpPNTベクターのEcoRI部位に挿入されるようデザインし、ベクター上ではネオマイシン遺伝子の転写方向と逆向きになるよう、GPRg2遺伝子由来のアーム断片を設置した(図1)。
【0041】
(2)相同組み換えES細胞の取得
得られたターゲッティングベクターを制限酵素NotIで切断し、エレクトロポレーションによりES(TT2)細胞(Analytical Biochemistry, 1993年、214巻、p.70−76)に導入し、G418による選別を行った。形成されたコロニーのピックアップを行い、それぞれのクローンについてゲノムDNAを抽出し、相同組み換えが起きているクローンをサザンブロット解析によって同定した。具体的には、ターゲッティングベクターの3’short arm下流のゲノム配列、配列番号15(CGAAAATACTGCACAGGAAGCCACGAGGACTCTGAAAACCAGAGAAAACCCTCAGACAAACAAACAAAGAGGCAGGTATCGTCATGCTAGAGTGCACACACATATGCTGATGCAGCAAAAGAGGAGTGGGGGAGTGTGTACCAAAGTGGTGAGAGCAGAGGGGAATGGGAGAGCATGTGCTGAAATGTAAAGGCAGAGGCCTATAGGGGAGAATATACTCAAGGATAAGAGAAAGGAGGCTGGAGGAGGTATGGCAGCATCTGCCACGACTGCCACAGGTTTGTGGCTATGCTGTCCCCAGGCTATGAAACGTAGAAATACAAGCTGTAGAAGATGTAATTTTTGAACTCAAAAGCTTTTTTTTTTCATGTAAAAACTAGGAATTATCAAACATTGGGAATAATAAACATATGGTGACTTGTAAATGCTAGTTTTTCAACマウス)で表される塩基配列からなるDNAをプローブとして、制限酵素XbaIで切断したDNAを用いてサザンブロット解析を行った。その結果、野生型クローンの3.9 kbpに対して相同組換えが起きているクローンでは2.7 kbpのDNA断片を検出することができた。
【0042】
(3)GPRg2遺伝子ホモノックアウトマウスの取得
続いて、アグリゲーション法(Nagy A., 1993, Oxford University Press, Oxford, pp147−179)にて相同組換された(GPRg2遺伝子が破壊された)ES細胞クローンとICR系8細胞期胚を凝集させ、翌日桑実胚〜胚盤胞に発生したキメラ胚を偽妊娠誘起したICR系雌マウス(偽妊娠誘起から3日目)の子宮へ移植した(相沢慎一,「ジーンターゲティング・ES細胞を用いた変異マウスの作製」,羊土社,1995)。移植後、17.5日に帝王切開を行い、キメラマウスを得た。キメラマウスは4週まで、里親に保育させた(相沢慎一,「ジーンターゲティング・ES細胞を用いた変異マウスの作製」,羊土社,1995)。キメラ雄マウスとC57BL/6J雌マウス2匹を自然交配させ、GPRg2の開始コドンを含むエキソンを欠失した変異アレルを持つGPRg2遺伝子のF1ヘテロノックアウトマウスを得た。
このF1へテロノックアウト雄マウスと、妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG)及びヒト絨毛性腺刺激ホルモン(hCG)の投与により過排卵処置を施したC57BL/6J雌マウスとの体外受精(IVF)により得られた受精卵を、精管結搾雄マウスとの交配により偽妊娠誘起処置を施したICR系雌マウス(レシピエント)に移植することにより、F2へテロノックアウトマウスを大量に作出した。そこで得られたF2ヘテロノックアウトマウスを用いてIVFを行い、受精卵を作製後、それらの胚をレシピエントに移植することにより得た産仔の尻尾よりゲノムDNAを抽出し、前述の配列番号15を用いたサザンブロット解析により、変異アレルの2.7kbpのバンドのみが出現するF3ホモノックアウトマウスを同定した。この際、野生型では、3.9kbpのバンドのみが出現し、ヘテロノックアウトマウスでは、3.9kbpと2.7kbpのバンドが両方出現した。

《実施例8:ホモノックアウトマウスでのGPRg2遺伝子発現消失の確認》
【0043】
得られたGPRg2ホモノックアウトマウス、ヘテロノックアウトマウス、野生型マウスの脳を、各2匹ずつ計6匹採取し、RNA抽出試薬ISOGEN(ニッポンジーン)を用いてtotal RNAを抽出後、逆転写酵素SUPERSCRIPTII(インビトロジェン)を用いてcDNA化し、PRISM 7700 シーケンスディテクションシステム(アプライドバイオシステムズ)によりGPRg2遺伝子の転写発現量を測定した。具体的には、リアルタイムPCR試薬SYBR Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ)を用いて、目的遺伝子であるGPRg2が配列番号16及び配列番号17(5’−ACCAACCTCCTCATTGCTAACC−3’と5’−GATCGCCACCAGGAAGTCAG−3’)、内部標準遺伝子としてG3PDHが配列番号18及び配列番号19(5’−AAAGTGGAGATTGTTGCCAT−3’と5’−TTGACTGTGCCGTTGAATT−3’)の各特異的プライマーで増幅されるcDNA量を定量測定した。PCR反応では、変性(95℃にて15秒間)、アニール及び伸長(59℃にて1分間)からなるサイクルを45サイクル実施した。GPRg2の測定結果は、G3PDHの測定結果で補正してグラフ作成した。その結果、ヘテロノックアウトマウスと野生型マウスの脳ではGPRg2のmRNAが検出されたが、ホモノックアウトマウスでは検出されない事を確認した。

《実施例9:GPRg2ホモノックアウトマウスの表現型解析》
【0044】
F2ヘテロノックアウトマウス同士の交配により得られたGPRg2ホモノックアウトマウス(雄5匹、雌6匹)と野生型マウス(雄6匹、雌6匹)の各個体について20週齢の時点で、生殖器を観察した。その結果、ホモノックアウトマウスでは、精巣と卵巣が野生型マウスに比べ、有意に萎縮していることが判明した。具体的には雄では、左右の精巣重量が野生型では平均113.1±7.6mgと114.9±11.8mg、ホモノックアウトマウスでは平均2.7±0.4mgと2.8±0.5mgであり、精巣が顕著に萎縮していることがわかった。その他、前立腺、ペニス、精嚢、包皮腺、精巣上体等の雄の泌尿生殖組織も萎縮していた。また雌では、左右の卵巣重量が野生型では平均3.0±0.6mgと3.4±0.7mgであったのに比べ、ホモノックアウトマウスでは左右共に測定限界値(0.1mg)以下の重量であり、卵巣が顕著に萎縮していることがわかった。

《実施例10:GPRg2ホモノックアウトマウスの血中テストステロン濃度測定》
【0045】
20週齢のGPRg2ホモノックアウトマウス(雄5匹、雌6匹)と野生型マウス(雄6匹、雌6匹)の各個体より血漿サンプルを調製し、テストステロン測定キットであるDPC・トータルテストステロンキット(三菱化学ヤトロン)を用いて血中のテストステロン濃度を測定した。その結果、野生型マウスでは、54.1±19.8ng/dLであったのに対して、ホモノックアウトマウスでは16.1±13.0ng/dLであった。
精巣小葉に存在する精細管は、周囲を規定膜で囲まれており、その外側結合組織中にライディッヒ細胞と呼ばれるテストステロンを産生する間質細胞が存在する(カラー人体解剖学 構造と機能:ミクロからマクロへ FHマティーニ、MJティモンズ、MPマッキンリ 西村書店)。精巣切除去勢動物モデルでは、ライディッヒ細胞消失により血中テストステロン濃度が減少する事が知られており(癌と化学療法 1993年、20巻、p2300−2305)、今回の雄GPRg2ホモノックアウトマウスでは、生殖器の顕著な萎縮が観察され、去勢動物モデルと同様に、血中テストステロン量が減少していることが確かめられた。また同様に、卵巣はエストロゲンの主合成組織であることから(イラスト内分泌内科、p.80−81 文光堂)、雌のGPRg2ホモノックアウトマウスでは、血中エストロゲン量が減少していることも明らかである。テストステロンやエストロゲンは、前立腺肥大、前立腺癌、男性化症、多毛症、禿頭症、脂漏、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、乳癌、更年期障害、オステオポローシス、高脂血症等の性ホルモン異常に起因する疾患の病態発生・進行に重要な役割を担っていることは良く知られていることから、我々は、GPRg2を介した細胞内情報伝達機構の阻害又は活性化により、これらの性ホルモン異常に起因する疾患の治療が可能になることを初めて見出した。即ち、GPRg2アンタゴニスト及び/又はアゴニストが性ホルモン異常に起因する疾患の治療薬等になることを見出した。(より具体的には、GPRg2アンタゴニストのスクリーニングにより前立腺肥大、前立腺癌、男性化症、多毛症、禿頭症、脂漏、子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、及び/又は乳癌の治療薬、並びにGPRg2アゴニストのスクリーニングにより低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、更年期障害、オステオポローシス、高脂血症の治療薬がスクリーニングできることを可能とした。)

《実施例11:GPRg2活性を阻害する物質のスクリーニング》
【0046】
実施例3と同様の方法で、GPRg2活性変化を指標とするスクリーニング系を用いて試験物質のスクリーニングを行った。
GPRg2を発現するCHO細胞(実施例2)を実施例3と同様にプレーティングし、そこに、プロキネティシンを含むCHO含有培地(実施例1)と、試験化合物のジメチルスルホキシド溶液を最終濃度が100μM、30μM、10μM、3μM、1μM、0.3μM、0.1μM、0.03μM、0.01μM又は0.003μMとなるように添加又は等量のジメチルスルホキシドのみを添加し、その後細胞内Ca2+濃度を測定した。試験化合物による50%活性抑制濃度(IC50)を決定した。化合物処理に対するコントロールとして、等量のジメチルスルホキシドのみを加えた場合のレポーター活性を100%とした。他の条件及びレポーター活性の測定は実施例3に従った。GPRg2を発現させた細胞においてGPRg2活性を阻害する物質(IC50が10μM以下の物質)をアンタゴニストとして選択したところ、IC50値が4.86μMを示す化合物2-[{[(4-クロロフェニル)アミノ]カルボニル}(2-メトキシエチル)アミノ]-N-(3,4-ジメトキシベンジル)-N-[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アセトアミド(2-[{[(4-Chlorophenyl)amino]carbonyl}(2-methoxyethyl)amino]-N-(3,4-dimethoxybenzyl)-N-[2-(1H-indol-3-yl)ethyl]acetamide)を取得することができた。
【配列表フリーテキスト】
【0047】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号3〜14及び15〜19の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ターゲティングベクターの構造を模式的に示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1〜10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ、プロキネティシン存在下で細胞内カルシウム濃度が上昇することにより活性が確認できるポリペプチド、あるいはiii)配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、プロキネティシン存在下で細胞内カルシウム濃度が上昇することにより活性が確認できるポリペプチド
を発現している細胞又はその細胞膜と、試験化合物とを接触させる工程、および前記ポリペプチドの活性変化を分析する工程を含むことを特徴とする、性ホルモン障害治療薬をスクリーニングする方法。
【請求項2】
性ホルモン障害が男性ホルモン障害である請求項1に記載のスクリーニングする方法。
【請求項3】
性ホルモン障害が女性ホルモン障害である請求項1に記載のスクリーニングする方法。
【請求項4】
(1)請求項1に記載の細胞又はその細胞膜と、試験化合物とを接触させる工程、及び
(2)請求項1に記載のポリペプチドの活性変化を分析する工程、並びに
(3)試験化合物による性ホルモン量の変動を分析する工程
を含むことを特徴とする、試験化合物が請求項1に記載のポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストであるか否かを検出する方法。
【請求項5】
性ホルモンがテストステロンである請求項4に記載の検出する方法。
【請求項6】
性ホルモンがエストロゲンである請求項4に記載の検出する方法。
【請求項7】
請求項1に記載のポリペプチドである、性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール。
【請求項8】
請求項1に記載の細胞である、性ホルモン障害治療薬スクリーニングツール。
【請求項9】
(1)請求項1に記載のポリペプチド、又は(2)請求項1に記載の細胞の性ホルモン障害治療薬スクリーニングのための使用。

【図1】
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【公開番号】特開2006−166823(P2006−166823A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365181(P2004−365181)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】