説明

悪性腫瘍の予想、診断のための方法および組成物

【課題】完全な染色体又は染色体断片のコピーの欠失又は増加、及びゲノムの特定領域の高レベル増幅が癌において共通に発生する。最近には、サザンブロットや比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)が行われている。そこで、病理切片を用いた染色体異常の検出方法を提供する。
【解決手段】病理切片を用いた、種々の疾病に関連する新規染色体異常性の同定のためのinsituハイブリダイゼーション法。種々の疾病に関連する新規染色体異常性の同定のためのinsituハイブリダイゼーション法。肺癌における染色体領域6p21.3、胃癌における染色体領域16p13.3の増幅の領域に対して特異的であるプローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞遺伝学の分野に関する。より詳しくは、本発明は、肺癌における染色体領域6p21.3、胃癌における染色体領域16p13.3での増幅の同定に関する。さらに、本発明は6p21.3,16p13.3アンプリコンに対して特異的なプローブを提供する。
【背景技術】
【0002】
染色体異常はしばしば、遺伝的障害、変性疾患及び癌に関連している。特に、完全な染色体又は染色体断片のコピーの欠失又は増加、及びゲノムの特定領域の高レベル増幅が癌において共通に発生する。増幅される領域及び欠失される領域の同定並びに関与する遺伝子のクローニングは、腫瘍形成の研究及び癌診断の開発の両者に対して重大である。
より最近には、クローン化されたプローブが、サザンブロットにより染色体における一定のDNA配列の量を評価するために使用されている。この方法は、たとえゲノムが核型情報を排除するように厳しく再配列されても、効果的ではある。しかしながら、サザンブロットのみではDNA配列のコピー数の大まかな評価をもたらし、そして染色体内の配列の位置についての何の情報ももたらさない。
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)(非特許文献1参照)は、全染色体を対象にしてゲノムDNAの過剰、欠失、増幅などのコピー数異常を検出するためのより最近のアプローチである。CGHはゲノム再配列に関係なく、増幅及び欠失を表す。さらにまた正常染色体における増幅された又は欠失された配列の位置の情報を提供する。
【非特許文献1】Science 258:818−821,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、以上の技術は病理切片を使用している一般の病理検査業務とは異なるので、病理切片を用いた染色体異常の検出方法の標準化が課題になっている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明は、病理切片を用いた、種々の疾病に関連する新規染色体異常性の同定のためのin situ ハイブリダイゼーション法に関するものである。特に、肺癌における染色体領域6p21.3、胃癌における染色体領域16p13.3の増幅の領域に対して特異的であるプローブを提供する。
【発明の効果】
【0005】
染色体6p21.3上の1Mbの同定
本発明は、肺癌において増幅される染色体6p21.3に位置する1Mbのアンプリコン内の狭い領域(600kb)の同定に関する。さらに、本発明は、コンティグ(contig)(このアンプリコンを隣接して含む一連のクローン)についての配列情報を提供する。コンティグまたはその成分は、アンプリコンに対して特異的なプローブを調製するために使用され得る。
従って、1つの態様においては、本発明は、ヒト染色体6上のおよその位置6p21.3での染色体異常(例えば、増幅又は欠失)の検出方法を提供する。この方法は、ヒト染色体6上のおよその位置6p21.3での標的ポリヌクレオチド配列に選択的に個々に結合する1又は複数のラベルされた核酸プローブから実質的になる組成物と、患者からの染色体サンプルとを、前記プローブが前記標的配列と安定したハイブリダイゼーション複合体を形成する条件下で接触せしめ;そして前記ハイブリダイゼーション複合体を検出することを包含する。前記ハイブリダイゼーション複合体を検出するための段階は、前記標的配列のコピー数を決定することを包含することができる。プローブは好ましくは、図1に列挙されるBACクローンから選択された核酸に特異的にハイブリダイズする核酸を含んで成る。さらにより好ましくは、プローブは、図1に列挙されるBACクローンから選択された1又は複数の核酸である。プローブは好ましくは、ジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinでラベルされる。1つの態様において、ハイブリダイゼーション複合体は、サンプルにおける間期の(interphase)核に検出される。検出は好ましくは、蛍光ラベル(たとえば、FITC、フルオレセイン又はローダミン)を検出することによって実施される。前期方法は、さらに、染色体6セントロメアに選択的に結合する参照プローブとサンプルとを接触せしめることを包含する。
【0006】
もう1つの態様において、本発明は6p21.3アンプリコンに特異的に結合するプローブを提供する。従って、本発明は、ヒト染色体6上のおよそ6p21.3での標的ポリヌクレオチド配列に選択的に結合するラベルされた核酸プローブを含んで成る組成物を提供する。プローブは図1に列挙されるBACクローンから成る群から選択された1又は複数の核酸を含んで成る。好ましい態様においては、プローブはジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinでラベルされる。
本発明はまた、ヒト染色体6上のおよその位置6p21.3での染色体異常の検出のためのキットを提供する。キットは、ヒト染色体6上のおよそ6p21.3で標的ポリヌクレオチド配列に選択的に結合するラベルされた核酸プローブを含む。プローブは好ましくは、図1に列挙されるBACクローンから選択された核酸に特異的にハイブリダイズする少なくとも1つの核酸を包含する。さらに、より好ましくは、プローブは、図1に列挙されるBACクローンから選択された1又は複数の核酸を含んで成る。好ましい態様においては、プローブは、ジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinでラベルされる。キットはさらに、染色体6のセントロメアにおける配列に対して特異的な参照プローブを包含することができる。
【0007】
染色体領域6p21.3に位置する図1に記載したBACクローンとの蛍光現場ハイブリダイゼーション(FISH)によって、患者からの一次肺癌における染色体領域6p21.3増幅を評価した。プローブはBACクローンを蛍光標識ラベルして作製した。RP1−71I17の増幅は209例の一次肺癌の23(11%)、RP1−34F7の増幅は28(13.4%)、RP11−346J19の増幅は19(9.1%)に見出された。増幅レベル(6p対照プローブに対するシグナルの平均数)は1.5倍〜3倍であった。また、6p21.3増幅があった症例の臨床病理学的特徴を図2に記載した。
【0008】
染色体16p13.3上の1Mbの同定
本発明は、胃癌において増幅される染色体16p13.3に位置する1Mbのアンプリコン内の狭い領域(300kb)の同定に関する。さらに、本発明は、コンティグ(contig)(このアンプリコンを隣接して含む一連のクローン)についての配列情報を提供する。コンティグまたはその成分は、アンプリコンに対して特異的なプローブを調製するために使用され得る。
従って、1つの態様においては、本発明は、ヒト染色体16上のおよその位置16p13.3での染色体異常(例えば、増幅又は欠失)の検出方法を提供する。この方法は、ヒト染色体16上のおよその位置16p13.3での標的ポリヌクレオチド配列に選択的に個々に結合する1又は複数のラベルされた核酸プローブから実質的になる組成物と、患者からの染色体サンプルとを、前記プローブが前記標的配列と安定したハイブリダイゼーション複合体を形成する条件下で接触せしめ;そして前記ハイブリダイゼーション複合体を検出することを包含する。前記ハイブリダイゼーション複合体を検出するための段階は、前記標的配列のコピー数を決定することを包含することができる。プローブは好ましくは、図1に列挙されるBACクローンから選択された核酸に特異的にハイブリダイズする核酸を含んで成る。さらにより好ましくは、プローブは、図1に列挙されるBACクローンから選択された1又は複数の核酸である。プローブは好ましくは、ジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinでラベルされる。1つの態様において、ハイブリダイゼーション複合体は、サンプルにおける間期の(interphase)核に検出される。検出は好ましくは、蛍光ラベル(たとえば、FITC、フルオレセイン又はローダミン)を検出することによって実施される。前期方法は、さらに、染色体16セントロメアに選択的に結合する参照プローブとサンプルとを接触せしめることを包含する。
【0009】
もう1つの態様において、本発明は16p13.3アンプリコンに特異的に結合するプローブを提供する。従って、本発明は、ヒト染色体16上のおよそ16p13.3での標的ポリヌクレオチド配列に選択的に結合するラベルされた核酸プローブを含んで成る組成物を提供する。プローブは図1に列挙されるBACクローンから成る群から選択された1又は複数の核酸を含んで成る。好ましい態様においては、プローブはジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinでラベルされる。
本発明はまた、ヒト染色体16上のおよその位置16p13.3での染色体異常の検出のためのキットを提供する。キットは、ヒト染色体16上のおよそ16p13.3で標的ポリヌクレオチド配列に選択的に結合するラベルされた核酸プローブを含む。プローブは好ましくは、図1に列挙されるBACクローンから選択された核酸に特異的にハイブリダイズする少なくとも1つの核酸を包含する。さらに、より好ましくは、プローブは、図1に列挙されるBACクローンから選択された1又は複数の核酸を含んで成る。好ましい態様においては、プローブは、ジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinでラベルされる。キットはさらに、染色体16のセントロメアにおける配列に対して特異的な参照プローブを包含することができる。
【0010】

染色体領域16p13.3に位置する図1に記載したBACクローンとの蛍光現場ハイブリダイゼーション(FISH)によって、患者からの一次胃癌における染色体領域16p13.3増幅を評価した。プローブはBACクローンを蛍光標識ラベルして作製した。RP11−715J22の増幅は99例の一次胃癌の4(4.0%)、RP11―20I23の増幅は8(8.1%)に見出された。増幅レベル(16p対照プローブに対するシグナルの平均数)は1.5倍〜3倍であった。また、16p13.3増幅があった症例の臨床病理学的特徴を図3に記載した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記による本発明は、肺癌における染色体領域6p21.3、胃癌における染色体領域16p13.3での増幅の同定を可能としている。
【実施例】
【0012】
FISH(蛍光in situ ハイブリダイゼーション)法による増幅領域の検出

その手順は▲1▼プローブの作製▲2▼染色体へのプローブの付与▲3▼プローブの検出である。
【0013】
プローブは、図1に列挙されるBACクローンから選択された核酸から選択され、ニックトランスレーション等により蛍光ラベルされる。患者から患部組織を採取し常法に従いホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を作製する。以下の方法で組織切片の前処理、ハイブリダイゼーション、洗浄を行い蛍光顕微鏡で観察する。
(1)脱パラフィン
(2)熱処理(0.01Mクエン酸緩衝液,pH6.0)
95℃20分間→室温冷却20分間
(3)DW洗浄
(4)酵素処理(0.03gプロテアーゼ/50mL pH2.0緩衝液) 37℃10分間
(5)DW洗浄→脱水、乾燥
(6)プローブ溶液の染色体サンプルへの添加
(7)プローブ溶液と染色体サンプルとの同時変性、ハイブリダイゼーション 85℃5分間
(8)37℃一晩インキュベート
(9)2×SSC/0.3%NP40 72℃2分間

(10)2×SSC 室温5分間

(11)対比染色→蛍光顕微鏡観察
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】患者からの一次肺癌においてFISHにより検出される染色体領域6p21.3に位置するBACクローン表。患者からの一次胃癌においてFISHにより検出される染色体領域16p13.3に位置するBACクローン表。
【図2】患者からの一次肺癌においてFISHにより検出される染色体領域6p21.3増幅があった症例の臨床病理学的特徴。
【図3】患者からの一次胃癌においてFISHにより検出される染色体領域16p13.3増幅があった症例の臨床病理学的特徴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト染色体6,16上のおよその位置6p21.3,16p13.3での染色体異常を検出するための方法であって、ヒト染色体6,16上のおよその位置6p21.3,16p13.3で標的ポリヌクレオチド配列に選択的に結合するそれぞれ1又は複数のラベルされた核酸プローブから実質的になる組成物と、患者からの染色体サンプルとを、前記プローブが前記標的配列と安定したハイブリダイゼーション複合体を形成する条件下で接触せしめ;そして前記ハイブリダイゼーション複合体を検出することを含んで成る方法。
【請求項2】
前記プローブが、図1に列挙されるBACクローンから成る群から選択された核酸に特異的にハイブリダイズする核酸を含んで成る請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項3】
前記プローブが、図1に列挙されるBACクローンから成る群から選択される請求の範囲第2項記載の方法。
【請求項4】
前記ハイブリダイゼーション複合体を検出する段階が、標的配列のコピー数を決定することを含んで成る請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項5】
前記プローブがジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinによりラベルされる請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項6】
前記ハイブリダイゼーション複合体が、サンプルにおける間期の核において検出される請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項7】
前記染色体異常が増幅である請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項8】
前記ハイブリダイゼーション複合体を検出する段階が、蛍光ラベルを検出することによって実施される請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項9】
前記蛍光ラベルがローダミン又はfluoresceinである請求の範囲第8項記載の方法。
【請求項10】
染色体6,16セントロメアに選択的に結合する対照プローブとサンプルとを接触せしめることをさらに含んで成る請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項11】
ヒト染色体6,16上のおよその位置6p21.3,16p13.3で標的ポリヌクレオチド配列に選択的に結合するラベルされた核酸プローブを含んで成る組成物。
【請求項12】
前記プローブがジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinによりラベルされる請求の範囲第11項記載の組成物。
【請求項13】
前記プローブが、図1に列挙されるBACクローンから成る群から選択された1又は複数の核酸に特異的にハイブリダイズする核酸を含んで成る請求の範囲第1項記載の組成物。
【請求項14】
前記プローブが、図1に列挙されるBACクローンから成る群から選択される請求の範囲第13項記載の組成物。
【請求項15】
ヒト染色体6,16上のおよその位置6p21.3,16p13.3での染色体異常性の検出のためのキットであって、ヒト染色体6,16上のおよその位置6p21.3,16p13.3で標的ポリヌクレオチド配列に選択的に結合するラベルされた核酸プローブを含む区画を含んで成るキット。
【請求項16】
前記ラベルがジゴキシゲニン又はビオチン又はローダミン又はfluoresceinからなる群から選択される請求の範囲第15項記載のキット。
【請求項17】
前記プローブが、図1に列挙されるBACクローンから成る群から選択された1又は複数のプローブである請求の範囲第1項記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−219462(P2009−219462A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69765(P2008−69765)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000146445)株式会社常光 (35)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】