説明

悪性腫瘍の予防または処置のためのHER−2/NEUタンパク質の細胞内ドメイン

【課題】新規抗悪性腫瘍ポリペプチドの提供。
【解決手段】HER-2/neuタンパク質に対する免疫反応性を誘発または増強するための化合物および組成物が開示される。化合物は、ポリペプチド、およびこのようなペプチドをコードする核酸分子を包含する。化合物は、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍の予防または処置のために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を誘発または増強するためのポリペプチド、およびこのようなポリペプチドをコードする核酸分子に関し、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍の処置における使用を包含する。
【背景技術】
【0002】
莫大な財政および人資源の投資にも関わらず、ガンは依然として死の主要な原因の一つである。例えば、ガンは35歳〜74歳の間の女性における死の主要な原因である。乳ガンは女性の最も一般的な悪性腫瘍であり、そして進行する乳ガンの発生率は上昇している。9人の女性のうち1人が疾患を有すると診断される。乳ガンを治療するための標準的なアプローチは、手術、放射線、および化学療法の組み合わせに集中してきた。これらのアプローチは特定の悪性腫瘍においていくつかの劇的な成功をもたらした。しかし、これらのアプローチは、全ての悪性腫瘍について十分ではなく、そして特定の時期を過ぎて治療を試みる場合、乳ガンはたいてい治療不可能である。予防および治療の別のアプローチが必要である。
【0003】
悪性腫瘍の一般的な特徴は、制御されていない細胞増殖である。ガン細胞は、正常表現型から自律的に増殖し得る悪性表現型への形質転換プロセスを受けるようである。体細胞遺伝子の増幅および過剰発現は、正常細胞から悪性細胞への形質転換をもたらす一般的な初期事象であると考えられる。オンコジーンによりコードされる悪性表現型特徴は、形質転換細胞の後代への細胞分割の間に継代される。
【0004】
オンコジーンに関連する現在行われている研究は、悪性細胞において作動し、そして形質転換を担うかまたは形質転換と関連する少なくとも40のオンコジーンを同定した。オンコジーンは、それらの遺伝子産物(例えば、オンコジーンにより発現されるタンパク質)の推定機能または存在位置に基づいて異なるグループに分類された。
【0005】
オンコジーンは、正常細胞生理機能の特定の局面に必須であると考えられている。この点に関して、HER-2/neuオンコジーンは、オンコジーンのチロシンタンパク質キナーゼファミリーのメンバーであり、そして上皮成長因子レセプターと高度な相同性を共有する。HER-2/neuは、おそらく、細胞増殖および/または分化の役割を果たす。HER-2/neuは、本質的に正常な遺伝子産物の増大または脱調節化した発現からもたらされる量機構を介して悪性腫瘍を誘導するようである。
【0006】
HER-2/neu(p185)は、HER-2/neuオンコジーンのタンパク質産物である。HER-2/neu遺伝子は増幅され、そしてHER-2/neuタンパク質は、乳ガン、卵巣ガン、結腸ガン、肺ガン、および前立腺ガンを含む種々のガンにおいて過剰発現される。HER-2/neuは悪性形質転換に関連する。それは、脈管のインサイチュ癌腫の50〜60%および全ての乳ガンの20〜40%、ならびに卵巣、前立腺、結腸、および肺に生じる実質的な割合の線腫において見出される。HER-2/neuは、悪性表現型だけでなく、悪性腫瘍の攻撃(全ての侵襲性の乳ガンの1/4において見出される)にも密に関連する。HER-2/neu過剰発現は、乳ガンおよび卵巣ガンの両方の貧相な予後と相関する。HER-2/neuは、約1255アミノ酸(aa)長である185kdの相対分子量を有する膜貫通タンパク質である。それは、約645aaの細胞外結合ドメイン(ECD)(上皮成長因子レセプター(EGFR)と40%の相同性を有する)、高疎水性膜貫通固定ドメイン(TMD)、およびEGFRと80%の相同性を有する約580aaのカルボキシ末端の細胞質ドメイン(CD)を有する。
【0007】
HER-2/neuオンコジーンが関連するガンの治療のための現在のアプローチの困難性により、当該技術分野において、改良された化合物および組成物の必要性が存在する。本発明はこの必要性を満たし、そしてさらに他の関連する利点を提供する。
【発明の開示】
【0008】
発明の要旨
簡単に述べると、本発明は、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化に使用するための、または免疫化用の医薬の製造のためのポリペプチド、核酸分子(このようなポリペプチドの発現に関する)、およびウイルスベクター(このようなポリペプチドの発現に関する)を提供する。本発明のポリペプチドまたは核酸分子は、薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤を含む組成物中に存在し得る。このようなポリペプチド、核酸分子、ウイルスベクター、または薬学的組成物は、1回を基本とする免疫化(例えば、悪性腫瘍が疑われるとき)、または継続を基本とする免疫化(例えば、悪性腫瘍の罹患または再罹患の増大した危険性を有する個人について)のために使用され得る。免疫化のための医薬は、存在する腫瘍の処置において、または腫瘍の発生もしくは再発生を予防するために有用であり得る。
【0009】
1つの実施態様において、本発明は以下から選択されるDNA配列によりコードされるポリペプチドを提供する:(a)配列番号1のヌクレオチド2026〜3765;および(b)配列番号1のヌクレオチド2026〜3765に相補的なヌクレオチド配列と適度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列、ここでこのDNA配列はHER-2/neuタンパク質に対して免疫応答を生じるポリペプチドをコードする。好ましい実施態様において、ポリペプチドは、配列番号2のリジン(アミノ酸676)からバリン(アミノ酸1255)のアミノ酸配列、または少なくとも等価な免疫応答を生じるその変異体を有する。本発明のポリペプチドを薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤と組み合わせて含む組成物が提供される。
【0010】
別の実施態様において、本発明のポリペプチドまたは組成物が、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化のために提供される。別の実施態様において、このようなポリペプチドまたは組成物が、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化用の医薬の製造のために使用される。
【0011】
別の実施態様において、本発明のポリペプチドの発現に関する核酸分子は、核酸分子で温血動物の細胞をトランスフェクトすることによる免疫化のために提供される。別の実施態様において、このような核酸分子は、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化用の医薬の製造のために使用される。
【0012】
別の実施態様において、本発明のポリペプチドの発現に関するウイルスベクターが、ベクターで温血動物の細胞を感染させることによる免疫化のために提供される。別の実施態様において、このようなウイルスベクターが、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化用の医薬の製造のために使用される。
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することで明らかになる。
【0013】
発明の詳細な説明
本発明を説明する前に、本明細書中で使用される特定の用語の定義を説明することは、本発明の理解に有用であり得る。
HER-2/neuポリペプチド(本明細書中で使用される)は、配列番号2のリジン(アミノ酸676)からバリン(アミノ酸1255)のアミノ酸配列を有するHER-2/neuタンパク質(このタンパク質はまたp185またはc-erbB2として知られる)の一部をいい;そして、天然に由来するか、合成的に生成されるか、遺伝的に操作されるか、または機能的に等価であるその変異体(例えば、1つ以上のアミノ酸が他のアミノ酸(単数または複数)または非アミノ酸(単数または複数)で置換されている)であり得る。これは、HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答の誘発または増強に実質的に影響を及ぼさない(例えば、変異体は、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞による応答を刺激する)。
【0014】
T細胞の増殖(本明細書中で使用される)は、T細胞の増殖ならびに増殖を誘導するT細胞の刺激、すなわち、有糸分裂を誘導する事象および有糸分裂そのものの開始を包含する。T細胞の増殖を検出するための方法を以下に記載する。
【0015】
上記のように、本発明は、HER-2/neuオンコジーンにより発現されるタンパク質産物に対する免疫を誘発または増強するための化合物および組成物に関し、このタンパク質産物は、増幅したHER-2/neu遺伝子が悪性腫瘍に関連する温血動物の悪性腫瘍を包含する。増幅したHER-2/neu遺伝子と悪性腫瘍との関連は、遺伝子のタンパク質発現産物が腫瘍上に存在することを必要としない。例えば、タンパク質発現産物の過剰発現は腫瘍の開始に関連し得るが、タンパク質発現は後に消失され得る。本発明の使用は、HER-2/neu陽性腫瘍をHER-2/neu陰性に転換するために有効な自己発生免疫応答を誘発または増強することである。
【0016】
より詳細には、本発明の開示は、1つの局面において、HER-2/neu遺伝子のタンパク質発現産物の特定の部分(HER-2/neuポリペプチド)に基づくポリペプチドが胸腺依存性リンパ球(これ以降は「T細胞」)により認識され得、それゆえ自己発生免疫T細胞応答がこのようなタンパク質を過剰発現しているかまたは過剰発現した悪性腫瘍を予防するためにまたは処置するために利用され得ることを示す。本発明の開示はまた、別の局面において、このようなペプチドの発現に関する核酸分子が単独で、または免疫化用のウイルスベクター中で使用され得ることを示す。
【0017】
一般に、CD4+ T細胞集団は、特異的な抗原によって刺激された場合、リンホカインの放出により、ヘルパー/インデュサーとして機能すると考えられている;しかし、CD4+細胞のサブセットは細胞傷害性Tリンパ球(CTL)として作用し得る。同様に、CD8+ T細胞は抗原性標的を直接溶解することにより機能すると考えられている;しかし、種々の環境下で、それらはリンホカインを分泌してヘルパーまたはDTH機能を提供し得る。潜在的な重複機能にも関わらず、CD4およびCD8表現型マーカーは、MHC抗原のクラスIIまたはクラスIに結合したペプチドの認識に関連する。MHCクラスIIまたはクラスIに関連する抗原の認識は、CD4+およびCD8+ T細胞が異なる抗原または異なる環境下で存在する同じ抗原に応答することを要求する。免疫原性ペプチドのMHCクラスII抗原への結合が、抗原提示細胞により受け入れられた抗原について最も一般に生じる。それゆえ、CD4+ T細胞は、一般に、腫瘍細胞の外部に存在する抗原を認識する。対照的に、正常な環境下では、ペプチドのMHCクラスIへの結合は、細胞質ゾルに存在するタンパク質、および標的自身により合成されたタンパク質についてのみ生じ、外部環境に存在するタンパク質は排除される。この例外は、外因性ペプチドと高濃度で細胞外部に存在する正確なクラスI結合モチーフとの結合である。従って、CD4+およびCD8+ T細胞は広範に異なる機能を有し、そして抗原が正常に存在することの反映として異なる抗原を認識する傾向がある。
【0018】
本発明において開示されるように、HER-2/neuオンコジーンにより発現されるタンパク質産物のポリペプチド部分はT細胞により認識される。循環するHER-2/neuポリペプチドは、ペプチドフラグメントに分解される。ポリペプチドからのペプチドフラグメントは主要組織適合性複合体(MHC)抗原に結合する。細胞表面上のMHC抗原に結合したペプチドの提示および宿主T細胞によるペプチドおよび自己MHC抗原の組み合わせの認識により、HER-2/neuポリペプチド(悪性腫瘍細胞上で発現されたものを含む)はT細胞に対して免疫原性である。T細胞レセプターの正確な特異性は、個々のT細胞の1つのアミノ酸残基が異なるペプチド間の識別を可能にする。
【0019】
ポリペプチドからのペプチドフラグメントに対する免疫応答の間、ペプチド-MHC複合体の高親和性結合を有するT細胞レセプターを発現するT細胞は、ペプチド-MHC複合体に結合し、それにより活性化および誘導化されて増殖する。ペプチドとの最初の遭遇において、少数の免疫T細胞がリンホカインを分泌し、増殖し、そしてエフェクターおよび記憶T細胞に分化する。一次免疫応答はインビボで生じるが、インビトロで検出することは難しかった。記憶T細胞による同じ抗原とのその後の遭遇はより早くそしてより強い免疫応答を導く。二次応答はインビボまたはインビトロのいずれにおいても生じる。インビトロ応答は、増殖の程度、サイトカイン産生の程度、または抗原に再度曝したT細胞集団の細胞溶解性活性の発生の測定により、より容易に測定される。特定の抗原に応答するT細胞集団の実質的な増殖は、抗原への予めの曝露またはプライムの指標であると考えられる。
【0020】
本発明の化合物は、一般に、HER-2/neuポリペプチドまたはこのようなペプチドの発現に関するDNA分子を包含し、ここで、DNA分子はウイルスベクター中に存在し得る。上記のように、本発明のポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸676からアミノ酸1255のポリペプチドの変異体を含み、この変異体は免疫応答を刺激する能力を保持している。このような変異体は天然ポリペプチドの種々の構造形態を包含する。イオン化し得るアミノ基およびカルボキシル基の存在により、例えば、HER-2/neuポリペプチドは酸性または塩基性塩の形態で存在し得るか、または中性形態で存在し得る。個々のアミノ酸残基はまた、酸化または還元により改変され得る。
【0021】
本発明の範囲内の変異体はまた、天然HER-2/neuポリペプチドの一次アミノ酸構造が、他のペプチドまたはポリペプチド、あるいはグリコシル基、脂質、ホスフェート、アセチル基などのような化学部分との共有結合または凝集性の結合体の形成により改変されているポリペプチドを包含する。共有結合誘導体は、例えば、特定の官能基とアミノ酸側鎖との結合、または特定の官能基のNもしくはC末端での結合により調製され得る。
【0022】
本発明はまた、グリコシル化または非グリコシル化のHER-2/neuポリペプチドを包含する。酵母または哺乳動物発現系で発現したポリペプチドは、発現系に依存して、天然分子と類似し得るか、または分子量およびグリコシル化パターンにおいてわずかに異なり得る。例えば、ポリペプチドをコードするDNAのE.coliのような細菌における発現は、代表的には、非グリコシル化分子を提供する。真核生物タンパク質のN-グリコシル化部位は、アミノ酸トリプレット、Asn-A1-Zにより特徴づけられており、ここでA1は、Proを除く任意のアミノ酸であり、そしてZは、SerまたはThrである。不活性化N-グリコシル化部位を有するHER-2/neuポリペプチドの変異体が、オリゴヌクレオチド合成および連結または部位特異的変異誘発技術のような当業者に公知の技術により産生され得、そして本発明の範囲内である。あるいは、N-結合グリコシル化部位は、HER-2/neuポリペプチドに付加され得る。
【0023】
本発明のポリペプチドはまた、配列番号2ポリペプチドの変異体(すなわち、配列番号2のアミノ酸676からアミノ酸1255のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体)を包含する。この変異体は、1つ以上の欠失、挿入、置換、または他の改変により、この配列と異なるアミノ酸配列を有する。1つの実施態様において、このような変異体は、天然HER-2/neuポリペプチドと実質的に相同であり、そして免疫応答を刺激する能力を保持している。本明細書中で使用される「実質的に相同」は、本明細書中の配列番号2の特定されたポリペプチド部分をコードする天然に存在するDNA配列(すなわち、配列番号1のヌクレオチド2026〜3765)と相補的なヌクレオチド配列に適度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA配列によりコードされ得るアミノ酸配列をいう。適切な適度にストリンジェントな条件は、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTAの溶液(pH8.0)中での予備洗浄;50℃〜65℃、5×SSC、一晩のハイブリダイズ;続く65℃、20分間の、2×、0.5×、および0.2×SSC(0.1% SDSを含む)のそれぞれによる2回の洗浄を包含する。このようなハイブリダイズするDNA配列もまた、本発明の範囲内である。任意のこのような改変のHER-2/neuポリペプチドの免疫応答を生じる能力への影響は容易に決定され得る(例えば、変異HER-2/neuポリペプチドのT細胞応答を誘発する能力の、例えば、本明細書中に記載の方法を用いた分析による)。
【0024】
一般に、アミノ酸置換は種々の方法でなされて、本発明内の変異体の他の実施態様を提供し得る。第1に、例えば、アミノ酸置換は保存的になされ得る;すなわち、ペプチド化学の当業者が、ポリペプチドの二次構造およびヒドロパシー性質が実質的に変化されないことを予想するように、置換アミノ酸は類似の特性を有するアミノ酸と置換される。一般に、以下の群のアミノ酸が保存的な変化を示す:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、tyr、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。非保存的な変化の例は、1つの群のアミノ酸と別の群からのアミノ酸とを置換することである。
【0025】
本発明の変異体を生成するためのアミノ酸置換を作製する別の方法は、MHCクラスII分子(CD4+ T細胞応答のため)またはMHCクラスI分子(CD8+ T細胞応答のため)に結合する可能性を有するT細胞モチーフのアミノ酸を同定および置換することである。MHCクラスII分子に結合する理論的可能性を有するモチーフを有する(HER-2/neuポリペプチドの)ペプチドセグメントは、コンピューター解析により同定され得る。例えば、T細胞認識のための潜在的部位を区別するように設計されたいくつかのコンピューターアルゴリズムを組み込んだタンパク質配列解析パック、T Sitesが使用され得る(Fellerおよびde la Cruz、Nature 349:720-721、1991)。2つの調査アルゴリズムが使用される:(1)Margalitにより記載されたAMPHIアルゴリズム(Fellerおよびde la Cruz、Nature 349:720-721、1991;Margalitら、J.Immunol.138:2213-2229、1987)は、αヘリックスの周期および両親媒性に従ってエピトープモチーフを同定する;(2)RothbardおよびTaylorアルゴリズムは電荷および極性パターンに従ってエピトープモチーフを同定する(RothbardおよびTaylor、EMBO 7:93-100、1988)。両モチーフを有するセグメントはMHCクラスII分子への結合に最も適切である。CD8+ T細胞はMHCクラスI分子に結合したペプチドを認識する。Falkらは、特定のMHC分子に結合するペプチドが区別し得る配列モチーフを共有することを決定した(Falkら、Nature 351:290-296、1991)。HLA-A2.1の溝において結合するためのペプチドモチーフが、培養細胞株のHLA-A2.1分子から生じたペプチドのエドマン分解により規定された(表2、Falkら、前出)。この方法は、代表的なまたは平均的なHLA-A2.1結合ペプチドを2位(L)および9位(V)に存在する優勢アンカー残基(dominant anchor residue)を有する9アミノ酸長であると同定した。一般に存在する強く結合する残基が2位(M)、4位(E,K)、6位(V)、および8位(K)で同定された。同定されたモチーフは多くの結合ペプチドの平均を示す。

本願で規定される得られたペプチドモチーフは、特にストリンジェントではない。いくつかのHLA-A2.1結合ペプチドは両優勢アンカー残基を含まず、そして優勢アンカー残基に隣接するアミノ酸は、結合を可能にするかまたは不可能にする主要な役割を果たす。本願に記載の結合モチーフを有するすべてのペプチドが結合するわけではなく、そしてモチーフを有しないいくつかのペプチドが結合する。しかし、本願のモチーフは、結合し得るいくつかのペプチドを同定を可能にするに十分に有効である。注目すべきは、本願のHLA-A2.1モチーフは優勢アンカーアミノ酸の残基2と残基9との間に6つのアミノ酸を配することである。
【0026】
HER-2/neuポリペプチド内のペプチドモチーフの同定後、アミノ酸置換は保存的または非保存的になされ得る。後者のタイプの置換は、より強力および/またはより広範な交差反応性(MHC多形態)である改良したポリペプチドの生成が意図される。より強力なポリペプチドの例は、天然ポリペプチドと同じMHC分子により高い親和性で、天然ポリペプチドに特異的なT細胞による認識に影響を及ぼさずに結合するポリペプチドである。より広範な交差反応性を有するポリペプチドの例は、天然ポリペプチドよりも広範な交差反応性免疫応答を誘発する(すなわち、より広範なMHC分子に結合する)ポリペプチドである。同様に、ペプチドモチーフ間に存在し、そしてスペーサー機能を有する(例えば、MHC分子またはT細胞レセプターと相互作用しない)1つ以上のアミノ酸が、保存的または非保存的に置換され得る。1つ以上のアミノ酸置換を含むポリペプチドが、本明細書中に記載のT細胞認識を刺激する能力についてのアッセイを含む種々のアッセイにより、有益なまたは不都合な免疫学的相互作用について試験され得ることは、当業者に明らかである。
【0027】
あるいは、本発明の範囲内の変異体はまた、アミノ酸の欠失または付加を含む他の改変を包含し、この改変は、ポリペプチドの所望の免疫学的特性に最小の影響を有する。所望の免疫学的特性が全長の天然HER-2/neuポリペプチドの免疫学的特性と少なくともおおよそ等価である限り、HER-2/neuポリペプチドの短縮された形態または非天然の伸長された形態が使用され得ることは当業者に認識される。システイン残基は欠失されるか、または他のアミノ酸残基と置換されて、再生の際の不適切な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止し得る。変異誘発の他のアプローチは、KEX2プロテアーゼ活性が存在する酵母系での発現を増強するための隣接する二塩基性アミノ酸残基の改変を含む。
【0028】
HER-2/neuポリペプチドは、一般に、そのタンパク質をコードするゲノムクローンまたはcDNAクローンを用いて得ることができる。完全長HER-2/neuをコードするゲノム配列を配列番号1に示し、その推定アミノ酸配列を配列番号2に示す。このようなクローンは、HER-2/neuタンパク質を発現するクローンについて、適切な発現ライブラリーをスクリーニングすることによって単離され得る。ライブラリーの調製およびスクリーニングは、一般に、Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989(これは参考として本明細書中で援用される)に記載の方法などの当業者に公知の方法を用いて行なうことができる。簡単に述べると、バクテリオファージ発現ライブラリーを平板培養し、それをフィルターに転写し得る。次に、フィルターを検出試薬と共にインキュベートし得る。本発明に関して、「検出試薬」は、HER-2/neuタンパク質に結合し得る任意の化合物であり、そして、次いで、当業者に公知の様々な手段のいずれかで検出され得る。典型的な検出試薬は、リポーター基に結合したプロテインA、プロテインG、IgGまたはレクチンなどの「結合剤」を含む。好ましいリポーター基には、酵素、基質、コファクター、阻害剤、色素、放射性核種、発光基、蛍光基およびビオチンなどが挙げられる。より好ましくは、リポーター基は西洋ワサビペルオキシダーゼであり、これはテトラメチルベンジジンまたは2,2'-アジノ-ジ-3-エチルベンゾチアゾリンスルホン酸などの基質と共にインキュベートすることによって検出され得る。HER-2/neuタンパク質を発現するゲノム配列またはcDNA配列を含有するプラークは、当業者に公知の技術によって単離および精製される。適切な方法は、例えばSambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989に見出され得る。
【0029】
免疫応答を刺激する能力を保持するポリペプチドの変種は、一般に、上記の局面の1つ以上において配列を改変し、そして得られたポリペプチドを、免疫応答(例えば、T細胞応答)を刺激する能力についてアッセイすることによって同定され得る。例えば、そのようなアッセイは、一般に、T細胞を改変ポリペプチドと接触させ、そしてその応答をアッセイすることによって行われ得る。ポリペプチドの天然に存在する変種もまた、例えば、適切なcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーを、ポリペプチドまたはその変種をコードするDNA配列でスクリーニングすることによって単離され得る。
【0030】
上記の配列改変は、標準的な組換え技術を用いて、または改変ポリペプチドの自動合成によって導入され得る。例えば、変異は、天然配列のフラグメントに対する連結を可能にする制限部位が隣接する変異配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することによって、特定の座に導入され得る。連結後、得られた再構築配列は、所望のアミノ酸の挿入、置換または欠失を有するアナログをコードする。
【0031】
あるいは、オリゴヌクレオチド部位特異的変異誘発法を用いて、特定のコドンが、必要な置換、欠失または挿入に従って変化している遺伝子を得ることもできる。上記の変化を作成する代表的な方法は、以下に開示される:Walderら,Gene 42:133,1986;Bauerら,Gene 37:73,1985;Craik,BioTechniques,1985年1月,12-19;Smithら,Genetic Engineering: Principles and Methods,Plenum Press,1981;および米国特許第4,518,584号および同第4,737,462号。
【0032】
このようなHER-2/neuポリペプチドの発現のために構築されるヌクレオチド配列中の変異は、当然ながら、コード配列の読み枠を保たなければならず、そして、ハイブリダイズして、mRNAの翻訳に悪影響を与える二次的なmRNA構造(ループまたはヘアピンなど)を生じ得る相補領域を作出しないことが好ましい。変異部位は予め決定され得るが、変異の性質自体を予め決定しておく必要はない。例えば、ある部位における変異体の最適な特徴を選択するために、標的コドンにおいてランダム変異誘発を行ない得、そして発現したHER-2/neuポリペプチド変異体を、所望の活性についてスクリーニングし得る。
【0033】
HER-2/neuポリペプチドをコードするヌクレオチド配列中のすべての変異が、最終産物中に発現するわけではない。例えば、ヌクレオチド置換を行うことにより、発現を高め、主として転写されたmRNA中の二次的な構造ループを避け(例えば、欧州特許出願第75,444A号を参照のこと)、あるいは選択した宿主によってより容易に翻訳されるコドン(例えば、大腸菌発現には周知の大腸菌優先コドン)を提供し得る。
【0034】
本発明のポリペプチドは、天然型および改変型の両方とも、組換えDNA法によって生産されることが好ましい。そのような方法は、HER-2/neuポリペプチドをコードするDNA配列を組換え発現ベクターに挿入し、そしてそのDNA配列を組換え微生物、哺乳動物細胞または昆虫細胞の発現系内で、発現を促進する条件下で発現させることを含む。本発明によって提供されるポリペプチドをコードするDNA配列を、cDNAフラグメントおよび短いオリゴヌクレオチドリンカーから、あるいは一連のオリゴヌクレオチドから組み立てることにより、組換え発現ベクターに挿入され、そして組換え転写単位で発現され得る合成遺伝子を提供し得る。
【0035】
組換え発現ベクターは、哺乳動物、微生物、ウイルスまたは昆虫の遺伝子に由来する適切な転写または翻訳制御エレメントに作動可能に連結した、HER-2/neuポリペプチドをコードするDNA配列を含有する。そのような調節エレメントには、転写プロモーター、転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列が含まれる。さらに、複製起点、および形質転換体の認識を容易にする選択マーカーを組込んでもよい。
【0036】
DNA領域は、それらが互いに機能的に関係する場合、作動可能に連結している。例えば、シグナルペプチド(分泌リーダー)のDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与する前駆体として発現される場合、ポリペプチドのDNAに作動可能に連結している。プロモーターは、それがコード配列の転写を制御する場合、コード配列に作動可能に連結している。あるいは、リボソーム結合部位は、それが翻訳を可能にする位置にある場合、コード配列に作動可能に連結している。一般的に、作動可能に連結しているとは、隣接していることを意味し、そして分泌リーダーの場合、読み枠が合っていることを意味する。微生物中で発現させようとするHER-2/neuポリペプチドをコードするDNA配列は、DNAのmRNAへの転写を早く終結させ得るイントロンを含有しないことが好ましい。
【0037】
細菌使用のための発現ベクターは、周知のクローニングベクターpBR322(ATCC 37017)の遺伝子エレメントを含む市販のプラスミドに由来する細菌の複製起点および選択マーカーを含み得る。そのような市販ベクターには、例えば、pKK223-3(Pharmacia Fine Chemicals,Uppsala,Sweden)およびpGEM1(Promega Biotec,Madison,WI,USA)などがある。これらのpBR322「骨格」部分を、適切なプロモーターおよび発現させようとする構造配列と組み合わせる。大腸菌は、通例、大腸菌種由来のプラスミドpBR322(Bolivarら,Gene 2: 95,1977)の誘導体を用いて形質転換される。pBR322は、アンピシリン耐性およびテトラサイクリン耐性の遺伝子を含有するので、形質転換細胞を同定するための簡単な手段を提供する。
【0038】
組換え微生物発現ベクター中で一般に使用されるプロモーターには、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)およびラクトースプロモーター系(Changら,Nature 275 :615,1978;およびGoeddelら,Nature 281 :544,1979)、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddelら,Nucl.Acids Res.8 :4057,1980;および欧州特許出願第36,776号)およびtacプロモーター(Maniatis,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,412頁,1982)などがある。とりわけ有用な細菌発現系は、ファージλPLプロモーターおよびcI857ts熱不安定リプレッサーを使用する。このλPLプロモーターの誘導体を組込んだ、American Type Culture Collectionから入手できるプラスミドベクターには、大腸菌JMB9株(ATCC 37092)に内在するプラスミドpHUB2、および大腸菌RR1(ATCC 53082)に内在するpPLc28がある。
【0039】
酵母ベクター中の好適なプロモーター配列としては、メタロチオネイン、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzemanら,J.Biol.Chem.255:2073,1980)またはその他の解糖酵素(Hessら,J.Adv.Enzyme Reg.7:149,1968;およびHollandら,Biochem.17:4900,1978)(例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸脱炭酸酵素、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼおよびグルコキナーゼ)のプロモーターが挙げられる。酵母発現での使用に適したベクターおよびプロモーターは、さらに、R.Hitzemanら、欧州特許出願第73,657号に記載されている。
【0040】
好ましい酵母ベクターは、大腸菌における選択および複製のためのpBR322由来のDNA配列(Ampr遺伝子および複製起点)と、グルコース抑制性ADH2プロモーターおよびα因子分泌リーダーを含む酵母DNA配列とを用いて組み立てることができる。ADH2プロモーターは、Russelら(J.Blol.Chem.258:2674,1982)およびBeierら(Nature 300:724,1982)によって記述されている。異種タンパク質の分泌を指令する酵母α因子リーダーは、プロモーターと発現させようとする構造遺伝子との間に挿入されることができる(例えば、Kurjanら,Cell 30 :933,1982;およびBitterら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81 :5330,1984を参照のこと)。リーダー配列は、外来遺伝子に対するリーダー配列の融合を容易にするために、1つ以上の有用な制限部位をその3'末端付近に含有するように改変され得る。脊椎動物細胞の形質転換に使用される発現ベクター中の転写および翻訳制御配列は、ウイルス供給源から供給され得る。例えば、一般に使用されるプロモーターおよびエンハンサーは、ポリオーマ、アデノウイルス2、シミアンウイルス40(SV40)およびヒトサイトメガロウイルスに由来する。異種DNA配列の発現に必要な他の遺伝子エレメントを提供するために、SV40ウイルスゲノムに由来するDNA配列、例えば、SV40起点、初期および後期プロモーター、エンハンサー、スプライス部位、およびポリアデニル化部位を使用し得る。初期および後期プロモーターは、どちらも、SV40ウイルス複製起点をも含有するフラグメントとしてウイルスから容易に得られるので、特に有用である(Fiersら,Nature 273 :113,1978)。Hind III部位からウイルス複製起点内に位置するBgl II部位に向かって広がる約250bp配列を含む場合、より小さいSV40フラグメントまたはより大きいSV40フラグメントもまた使用され得る。さらに、ウイルスゲノムのプロモーター、制御および/またはシグナル配列は、それらの制御配列が選択された宿主細胞に適合する限り、使用され得る。代表的ベクターは、OkayamaおよびBerg,Mol.Cell.Biol.3 :280,1983に開示されるように構築され得る。
【0041】
C127マウス乳房上皮細胞における哺乳動物レセプターcDNAの安定な高レベル発現に有用な系は、実質上、Cosmanら(Mol.Immunol.23 :935,1986)によって記述されているように構築され得る。LbeIF4Aタンパク質DNAの発現に好ましい真核生物ベクターは、pDC406(McMahanら,EMBO J.10 :2821,1991)であり、そしてSV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびエプスタイン・バーウイルス(EBV)由来の調節配列を含む。その他の好ましいベクターとしては、pDC406から誘導されるpDC409およびpDC410が挙げられる。pDC410は、EBV複製起点をSV40ラージT抗原をコードする配列で置換することによってpDC406から誘導された。pDC409は、マルチクローニング部位の外側のBgl II制限部位が欠失されているため、マルチクローニング部位内のBgl IIが唯一となっている点でpDC406とは異なる。
【0042】
EBV複製起点を含有する発現ベクター(pDC406およびpDC409など)のエピソーム複製を可能にする有用な細胞株は、CV-1/EBNA(ATCC CRL 10478)である。CV-L/EBNA細胞株は、エプスタイン・バーウイルス核抗体-I(EBNA-1)をコードする遺伝子によるCV-1細胞株のトランスフェクションによって誘導され、そしてヒトCMV即時初期エンハンサー/プロモーターによって制御されるEBNA-1を構成的に発現する。
【0043】
形質転換宿主細胞は、組換えDNA技術を用いて構築された発現ベクターで形質転換またはトランスフェクションされ、そして本発明のHER-2/neuポリペプチドをコードする配列を含有する細胞である。形質転換宿主細胞は、所望のHER-2/neuポリペプチドを発現し得るが、HER-2/neu DNAをクローニングまたは増幅する目的のために形質転換された宿主細胞は、HER-2/neuポリペプチドを発現させる必要はない。発現したポリペプチドは、選択したDNAに依存して、好ましくは培養上清中に分泌されるが、細胞膜中に留めることもできる。
【0044】
組換えタンパク質の発現に適した宿主細胞は、適当なプロモーターの制御下にある原核生物、酵母または高等真核細胞を含む。原核生物は、グラム陰性生物またはグラム陽性生物、例えば大腸菌やバチルスなどが含まれる。高等真核細胞は、後述するような昆虫または哺乳動物起源の樹立された細胞株を含む。無細胞翻訳系もまた、DNA構築物から得られるRNAを用いてHER-2/neuポリペプチドを製造するために、使用され得る。細菌、カビ、酵母および哺乳動物細胞宿主と共に使用するのに適したクローニングおよび発現ベクターは、例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors: A Laboratory Manual(Elsevier,New York,1985)に記載される。
【0045】
原核生物発現宿主は、大規模なタンパク質加水分解およびジスルフィドプロセシングを必要としないHER-2/neuポリペプチドの発現に使用され得る。原核生物発現ベクターは、一般に1つ以上の表現型選択マーカー(例えば、抗生物質耐性を付与するタンパク質をコードするか、または独立栄養要求性を提供するタンパク質をコードする遺伝子)、および宿主内における増幅を確保するための、宿主によって認識される複製起点を含有する。形質転換に適した原核生物宿主として、大腸菌、Bacillus subtilis、Salmonella typhimurium、ならびにPseudomonas属、Streptomyces属およびStaphylococcus属に属する様々な種が挙げられる。ただし、その他の宿主もまた使用され得る。
【0046】
組換えHER-2/neuポリペプチドはまた、酵母宿主(好ましくはSaccharomyces cerevisiaeのようなSaccharomyces種)で発現され得る。PichiaまたはKluyveromycesのような他の属の酵母もまた使用され得る。酵母ベクターは、一般に、2μ酵母プラスミド由来の複製起点または自律複製配列(ARS)、プロモーター、HER-2/neuポリペプチドをコードするDNA、ポリアデニル化および転写終結のための配列ならびに選択遺伝子を含有する。酵母ベクターは、好ましくは、酵母と大腸菌との両方の形質転換を可能にする複製起点と選択マーカー(例えば、大腸菌のアンピシリン耐性遺伝子、およびトリプトファン中で成長する能力を欠く酵母変異株の選択マーカーを提供するS.cerevisiae trpl遺伝子)、および構造配列の下流の転写を誘導するための高発現酵母遺伝子由来のプロモーターを含む。酵母宿主細胞ゲノム内のtrpl損傷の存在は、トリプトファン非存在下での成長によって形質転換を検出するための効果的な環境を提供する。
【0047】
好適な酵母形質転換プロトコルは当業者に公知である。Hindら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75 :1929,1978)によって記述される代表的な技術は、0.67%酵母窒素ベース、0.5%カザミノ酸、2%グルコース、10mg/mlアデニンおよび20mg/mlウラシルからなる選択培地でTrp+形質転換体を選択することを含む。ADH2プロモーターを含むベクターで形質転換された宿主株は、80mg/mlアデニンおよび80mg/mlウラシルを補充した1%酵母エキス、2%ペプトンおよび1%グルコースからなる富(rich)培地中で、発現のために生育し得る。ADH2プロモーターの抑制解除は、培地グルコースが枯渇すると起こる。粗酵母上清を濾過によって収集し、さらなる精製まで4℃で保存する。
【0048】
種々の哺乳細胞培養系または昆虫(例えば、SpodopteraまたはTrichoplusia)細胞培養系はまた、組換えポリペプチドの発現に使用され得る。昆虫細胞における異種ポリペプチド生産用のバキュロウイルス系は、例えば、LuckowおよびSummers,Bio/Technology 6 :47,1988に概説されている。好適な哺乳動物宿主細胞株の例として、Gluzman(Cell 23 :175,1981)によって記載されたサル腎臓細胞のCOS-7株、および好適なベクターを発現し得る他の細胞株、例えば、CV-1/EBNA(ATCC CRL 10478)、L細胞、C127、3T3、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、NS-1、HeLaおよびBHK細胞株などが挙げられる。哺乳動物発現ベクターは、複製起点、発現させようとする遺伝子に連結した好適なプロモーターおよびエンハンサーならびに他の5'または3'隣接非転写配列の非転写エレメント、そして、必須のリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位および転写終結配列などの5'または3'非翻訳配列を含有し得る。
【0049】
精製HER-2/neuポリペプチドは、適当な宿主/ベクター系を培養し、本発明のDNAの組換え翻訳産物を発現させ、次いでそれを培養培地または細胞抽出物から精製することによって調製され得る。例えば、組換えポリペプチドを培養培地中に分泌する系由来の上清を、まず市販のタンパク質濃縮フィルター(AmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニットなど)を用いて濃縮し得る。濃縮工程の後、濃縮液を適当な精製マトリックスに適用し得る。例えば、好適なアフィニティーマトリックスは、適当な支持体に結合した、対抗構造タンパク質(すなわち、構造に基づく特異的相互作用でHER-2/neuポリペプチドが結合するタンパク質)またはレクチンあるいは抗体分子を含み得る。あるいは、陰イオン交換樹脂、例えばぶら下がったジエチルアミノエチル(DEAE)基を持つマトリックスまたは基盤が使用され得る。マトリックスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロース、もしくはタンパク質精製に一般に使用される他のタイプであり得る。あるいは、陽イオン交換工程が使用され得る。好適な陽イオン交換剤として、スルホプロピル基またはカルボキシメチル基を含む種々の不溶性マトリックスが挙げられる。スルホプロピル基が好ましい。ゲル濾過クロマトグラフィーもまた、HER-2/neuを精製する手段を提供する。
【0050】
アフィニティークロマトグラフィーは、HER-2/neuポリペプチドの好ましい精製法である。例えば、HER-2/neuポリペプチドに対するモノクローナル抗体もまた、当該分野で周知である方法を使用することにより、アフィニティークロマトグラフィー精製に有用であり得る。
【0051】
最後に、疎水性逆相高性能液体クロマトグラフィー媒体(例えば、ぶら下がったメチル基または他の脂肪族基を有するシリカゲル)を使用する1つ以上の逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)工程を使用して、HER-2/neuポリペプチド組成物をさらに精製し得る。上記の精製工程の一部または全部もまた、様々な組み合わせで使用して、均一な組換えポリペプチドを提供するために使用され得る。
【0052】
細菌培養中で生産された組換えHER-2/neuポリペプチドは、まず細胞ペレットからの抽出、それに続く1つ以上の濃縮工程、塩析工程、水性イオン交換またはサイズ排除クロマトグラフィー工程によって単離することが好ましい。最終精製工程には高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し得る。組換えLbeIF4Aタンパク質の発現に使用する微生物細胞は、凍結-融解サイクル、超音波処理、機械的破壊、または細胞溶解剤の使用を含む便利な方法のいずれでも破壊され得る。
【0053】
HER-2/neuポリペプチドを分泌タンパク質として発現させる酵母の醗酵は、精製を著しく簡単にする。大規模醗酵がもたらす分泌組換えタンパク質は、Urdalら(J.Chromatog.296 :171,1984)が開示した方法と類似の方法で精製され得る。この文献は、調製用HPLCカラムで組換えヒトGM-CSFを精製するための2つの連続的な逆相HPLC工程を記載している。
【0054】
組換え体培養で合成されたHER-2/neuポリペプチドの調製物は、培養物からHER-2/neuポリペプチドを回収するために採用した精製工程に依存する量および特徴で非HER-2/neu細胞成分(タンパク質を含む)を含み得る。これらの成分は、通常、酵母、原核生物または非ヒト真核生物起源である。そのような調製物は、典型的には、本質的にその起源の種内で見出されるHER-2/neuタンパク質と通常関係し得る他のタンパク質を含まない。
【0055】
自動化された合成は、本発明ポリペプチドを調製するためのもう1つの方法を提供する。例えば、成長するアミノ酸鎖に連続的にアミノ酸を付加するMerrifield固相合成法のような市販の固相技術のいずれかを使用し得る。(Merrifield,J.Am.Chem.Soc.85 :2149-2146,1963を参照のこと)。ポリペプチドの自動合成用の装置は、Applied Biosystems,Inc.(Foster City,CA)などの供給者から市販されており、そして一般的に、その製造者の指示に従って操作され得る。
【0056】
本発明の1つの局面において、HER-2/neuポリペプチド(またはそのようなポリペプチドの発現を指令するDNA分子)を使用して、HER-2/neuタンパク質(HER-2/neuオンコジーンが関係する悪性腫瘍上に発現したものを含む)に対する免疫応答を生じさせることが検出される。このような悪性腫瘍の代表例には、乳ガン、卵巣ガン、結腸ガン、肺ガンおよび前立腺ガンが挙げられる。HER-2/neuポリペプチドによってHER-2/neuタンパク質に対する免疫応答が一旦生じれば、それは永続し得、そしてそのタンパク質が試験の時点で体内に存在するか存在しないかにかかわらず、免疫後長く検出され得る。HER-2/neuポリペプチドに対する反応によって生じたHER-2/neuタンパク質に対する免疫応答は、CD4+またはCD8+ T細胞の特異的活性化の存在または不在あるいはその増強を調べることによって検出され得る。より詳細には、免疫化した個体から通常の技術(例えば末梢血リンパ球のFicoll/Hypaque密度勾配遠心分離など)によって単離されたT細胞を、HER-2/neuタンパク質と共にインキュベートする。例えば、T細胞を、インビトロでHER-2/neuタンパク質(典型的には5μg/mlの全タンパク質またはHER-2/neuタンパク質を合成する種々の細胞(graded numbers of cell))と共に37℃で2〜9日間(典型的には4日間)インキュベートし得る。望ましくは、対照とするために、T細胞試料の別のアリコートをHER-2/neuタンパク質の非存在下でインキュベートし得る。
【0057】
CD4+またはCD8+ T細胞の特異的な活性化は、種々の方法で検出され得る。特異的なT細胞活性化を検出する方法には、T細胞の増殖、サイトカイン類(例えばリンホカイン)の産生または細胞溶解活性の生成(すなわちHER-2/neuタンパク質に特異的な細胞障害性T細胞の生成)の検出が含まれる。CD4+ T細胞の場合、特異的なT細胞活性化を検出するための好ましい方法は、T細胞の増殖を検出することである。CD8+ T細胞の場合、特異的なT細胞活性化を検出するための好ましい方法は、細胞溶解活性の生成を検出することである。
【0058】
T細胞の増殖の検出は、様々な公知の技術で達成され得る。例えば、T細胞増殖は、DNA合成の速度を測定することによって検出され得る。増殖するように刺激されたT細胞は、増大したDNA合成速度を示す。DNA合成の速度を測定する典型的な方法は、例えば、T細胞をトリチウム化チミジン(新規に合成されたDNAに組込まれるヌクレオシド前駆体)でパルス標識する培養による。取り込まれたトリチウム化チミジンの量は、液体シンチレーション分光光度計を用いて決定され得る。T細胞増殖を検出するための他の方法として、インターロイキン-2(IL-2)産生、Ca2+流量、または3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムのような色素の取り込みの増大を測定することが挙げられる。あるいは、リンホカイン(インターフェロン-γなど)の合成を測定し得るか、または、無傷のp185HER-2/neuタンパク質に応答し得るT細胞の相対数を定量し得る。
【0059】
HER-2/neuポリペプチドの使用または発現により、HER-2/neuタンパク質を認識するT細胞をインビボで増殖させ得る。例えば、HER-2/neuペプチドで免疫化するための(すなわちワクチンとしての)医薬は、HER-2/neu癌遺伝子が関係する腫瘍に対する治療的攻撃に必要なT細胞数の継続的拡大を誘導し得る。典型的には、約0.01μg/kg〜約100mg/kg体重を、皮内、皮下または静脈内経路で投与する。好ましい用量は、約1μg/kg〜約1mg/kgであり、約5μg/kg〜約200μg/kgがとりわけ好ましい。投与の回数および頻度が患者の応答に依存することは当業者には明らかである。望ましくは、HER-2/neuポリペプチドを反復して投与し得る。2種類以上のHER-2/neuポリペプチドを同時または連続のいずれかで投与し得ることは、当業者には明らかである。免疫化のための医薬に使用するための好ましいペプチドは、アミノ酸位置676のリジン残基付近に始まってアミノ酸位置1255のバリン残基付近まで伸びる配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドである。本発明が、無傷のHER-2/neuポリペプチドの使用、ならびにそのようなポリペプチドの多数のペプチドへの分割を包含することは、当業者には理解される。無傷のp185HER-2/neuタンパク質、またはその全細胞外ドメインのアミノ酸配列を持つペプチド(すなわち、最初の21アミノ酸位置を伴うかまたはこれを伴わない、アミノ酸位置1からアミノ酸位置650(±約1〜5位置)までの配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド)のいずれも、単独では免疫化に使用されない。
【0060】
HER-2/neuポリペプチド(または核酸)は、好ましくは、薬学的組成物(例えばワクチン)として上記の方法で使用するために処方される。薬学的組成物は、一般に、薬学的に許容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤と組み合わせて1つ以上のポリペプチドを含む。そのような担体は、使用する用量および濃度で受容者に対して非毒性である。HER-2/neuポリペプチドと化学療法剤との併用もまた包含される。
【0061】
(抗原として機能する)HER-2/neuポリペプチドに加えて、ワクチン中に他の成分、例えば、抗原送達用のビヒクルおよびタンパク質の免疫原性を高めるように設計された免疫刺激物質を含み得ることが望ましい。抗原送達用ビヒクルの例として、アルミニウム塩、油中水型エマルジョン、生物分解性油ビヒクル、水中油型エマルジョン、生物分解性マイクロカプセルおよびリポソームが挙げられる。免疫刺激物質(アジュバント)の例として、N-アセチルムラミル-L-アラニン-D-イソグルタミン(MDP)、リポポリル-サッカリド(LPS)、グルカン、IL-12、GM-CSF、γ-インターフェロンおよびIL-15が挙げられる。ワクチン用のHER-2/neuポリペプチドは、合成的に調製され得るか、または自然から得られ得ることは、当業者には明らかである。
【0062】
当業者に公知の好適なキャリアは、いずれも本発明の薬学的組成物に使用され得るが、キャリアの種類は投与方式および持続的放出を望むかどうかに依存して変化する。皮下注射のような非経口投与の場合、キャリアは、好ましくは、水、食塩水、アルコール、脂肪、ロウまたは緩衝液を含む。経口投与の場合、上記キャリアのいずれか、またはマンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖および炭酸マグネシウムなどの固形キャリアを使用し得る。生物分解性ミクロスフェア(例えば、ポリ乳酸ガラクチド)もまた、本発明の薬学的組成物のキャリアとして使用され得る。好適な生物分解性ミクロスフェアは、例えば、米国特許第4,897,268号および同第5,075,109号に開示される。HER-2/neuポリペプチドを生物分解性ミクロスフェアにカプセル化し得るか、またはミクロスフェアの表面に結合させ得る。例えば、好ましい実施態様において、アミノ酸676からアミノ酸1255までの配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドを、生物分解性ミクロスフェア内にカプセル化する。この点に関して、ミクロスフェアは約25ミクロンより大きいことが好ましい。
【0063】
薬学的組成物(ワクチンを含む)はまた、緩衝液のような希釈剤、アスコルビン酸のような抗酸化剤、低分子量(約10残基未満)のポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、グルコース、スクロース、またはデキストリンを含む炭水化物、EDTAのようなキレート剤、グルタチオン、ならびにその他の安定剤および賦形剤を含有し得る。中性緩衝化生理食塩水または非特異的血清アルブミンと混合された生理食塩水が、実例の適切な希釈剤である。好ましくは、生成物は、希釈剤として適切な賦形溶液(例えば、スクロース)を用いた凍結乾燥物として処方される。
【0064】
HER-2/neuポリペプチドの存在の代替として、本発明は、HER-2/neuポリペプチドをコードする核酸分子を送達し得る組成物を包含する。このような組成物は、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス(WO 90/07936、WO 91/02805、WO 93/25234、WO 93/25698、およびWO 94/03622を参照のこと)、アデノウイルス(Berkner,Biotechniques 6:616-627,1988; Liら、Hum.Gene Ther.4:403-409,1993; Vincentら、Nat.Genet.5:130-134,1993; および、Kollsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:215-219,1994を参照のこと)、ポックスウイルス(米国特許第4,769,330号;米国特許第5,017,487号;およびWO 89/01973を参照のこと)、ネイキッド(naked)DNA(WO 90/11092を参照のこと)、ポリカチオン分子と複合体化された核酸分子(WO 93/03709を参照のこと)、およびリポソームに結合された核酸(Wangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7851,1987を参照のこと)を包含する。特定の実施態様では、DNAは、死滅または不活性化アデノウイルス(Curielら、Hum.Gene Ther.3:147-154,1992; Cottonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6094,1992を参照のこと)に連結され得る。その他の適切な組成物は、DNA-リガンド(Wuら、J.Biol.Chem.264:16985-16987,1989を参照のこと)および脂質−DNAの組み合わせ(Felgnerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413-7417,1989)を包含する。さらに、細胞へのネイキッドDNAの取り込み効率が、生分解性ビーズ上へのDNAの被覆によって増大され得る。
【0065】
直接インビボ手順に加えて、エキソビボ手順が、細胞が動物から取り出され、修飾され、そして同じまたは別の動物に入れられる場合に使用され得る。任意の上記の組成物が、関連のエキソビボで、組織細胞にHER-2/neu核酸分子の導入に使用され得ることは明白である。ウイルスの物理学的および化学的な取り込み方法のプロトコルは、当該分野で公知である。
【0066】
従って、本発明は、患者または細胞培養物における細胞免疫応答の増強または誘発(例えば、抗原特異細胞障害性T細胞の発生)に有用である。本明細書に使用されているように、用語「患者」は、任意の温血動物、好ましくはヒトのことである。患者は、乳ガンのようなガンに侵され得るか、または正常(すなわち、検出可能な疾患または感染がない)であり得る。「細胞培養物」は、T細胞または単離成分細胞(マクロファージ、単球、B細胞、および樹状細胞を含むが、これらに限定されない)の任意の調製物である。このような細胞は、当業者に周知である種々の任意の方法(例えば、フィコール密度勾配遠心分離法)によって単離され得る。細胞は(必ずしも必要ではないが)、HER-2/neu関連悪性腫瘍に侵された患者から単離され、そして、治療後に患者に再導入され得る。
【0067】
本発明はまた、HER-2/neuポリペプチドがT細胞に対して免疫原性であることに加えて、B細胞を刺激して、HER-2/neuポリペプチドを認識し得る抗体を産生するようであることを、開示する。HER-2/neuタンパク質に特異的な抗体(すなわち、約107リッター/moleまたはそれより高い結合親和性を示す)が、血清および腹水を含む種々の体液中に見出され得た。要するに、体液試料が、HER-2/neuポリペプチドに特異的な抗体が存在するかどうかを決定することが所望される、ヒトのような温血動物から単離される。その体液は、ポリペプチドとタンパク質に特異的な抗体との間で、免疫複合体を形成し得るに十分な条件下および時間の間、HER-2/neuポリペプチドとともにインキュベートされる。例えば、体液およびHER-2/neuポリペプチドは、4℃で24〜48時間インキュベートされ得る。インキュベーション後に、反応混合物は、免疫複合体の存在についてテストされる。HER-2/neuポリペプチドと、HER-2/neuポリペプチドに対して特異的な抗体との間で形成された、1つ以上の免疫複合体の検出は、ラジオイムノアッセイ(RIA)および酵素免疫吸着測定法(ELISA)のような、種々の公知方法によって完了される。
【0068】
適切なイムノアッセイは、Davidら(米国特許第4,376,110号)の二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ技術;モノクローナル-ポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ(Wideら、KirkhamおよびHunter編、Radioimmunoassay Methods,E.およびS.Livingstone,Edinburgh,1970);Gordonらの「ウエスタンブロット」法(米国特許第4,452,901号);標識リガンドの免疫沈降(Brownら、J.Biol.Chem.255:4980-4983,1980);例えば、RainesおよびRossによって記載された酵素免疫吸着測定法(J.Biol.Chem.257:5154-5160,1982);フルオロクロムの使用を含む、免疫細胞化学技術(Brooksら、Clin.Exp.Immunol.39: 477,1980);および、活性中和化[Bowen-Popeら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:2396-2400(1984)]を包含し、これら全ては本明細書中に参考として援用される。上記のイムノアッセイに加えて、その他の多数のイムノアッセイが利用可能であり、これらは米国特許第3,817,827号;同第3,850,752号;同第3,901,654号;同第3,935,074号;同第3,984,533号;同第3,996,345号;同第4,034,074号;および同第4,098,876号に記載されているものを含み、これら全ては本明細書に参考として援用される。
【0069】
検出目的のために、HER-2/neuポリペプチド(「抗原」)は、標識され得るか、あるいは標識され得ない。標識されない場合、その抗原は、凝集アッセイでの使用が認められる。さらに、非標識抗原は、免疫複合体と反応する標識分子との組み合わせ、または免疫グロブリンに特異的な抗体のような、HER-2/neuポリペプチドに指向する抗体と反応する、標識抗体(第二抗体)との組み合わせに使用され得る。あるいは、抗原は、直接標識され得る。標識されているときには、リポーター基は、ラジオアイソトープ、蛍光団、酵素、発光団、または染色粒子を包含し得る。これらおよびその他の標識は当該分野で周知であり、例えば、以下の米国特許に記載される:米国特許第3,766,162号;同第3,791,932号;同第3,817,837号;同第3,996,345号;および同第4,233,402号。
【0070】
典型的に、ELISAアッセイでは、抗原は、マイクロタイターウェル表面に吸着される。次いで、表面上の残りのタンパク質結合部位が、ウシ血清アルブミン(BSA)、熱不活性化正常ヤギ血清(NGS)、またはBLOTTO(防腐剤、塩、および泡止剤をさらに含有する、脱脂粉乳の緩衝化溶液)のような適切な試薬でブロックされる。次いで、そのウェルは、特異抗体を有することが予測される試料と、インキュベートされる。試料は、そのままで供給されるか、または、より頻繁には、通常は、BSA,NGS、またはBLOTTOのようなタンパク質の少量(0.1〜5.0重量%)を含有する緩衝化溶液に希釈され得る。特異結合が生じ得るのに十分な時間のインキュベーション後に、ウェルを洗浄して非結合タンパク質を除去し、次いで、リポーター基で標識された種特異的免疫グロブリン抗体とインキュベートする。リポーター基は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびグルコースオキシダーゼを含む、種々の酵素から選択され得る。十分な時間は、特異結合が生じることを可能にし、次いでウェルを再度洗浄して、非結合複合体を除去し、酵素に対する基質を加える。色が発色し、ウェル内容物の吸光度が、視覚または機器によって測定される。
【0071】
本発明のこの局面の1つの好ましい実施態様では、リポーター基はHER-2/neuタンパク質に結合される。免疫複合体の検出工程は、任意の未結合HER-2/neuタンパク質の実質的な除去、続くリポーター基の存在または非存在の検出を包含する。
【0072】
その他の好ましい実施態様では、リポーター基は、HER-2/neuタンパク質に特異的な抗体に結合し得る第二抗体に結合される。免疫複合体の検出工程は、(a)任意の非結合抗体の実質的な除去、(b)第二抗体の添加、(c)任意の未結合第二抗体の除去、続く(d)リポーター基の存在または非存在の検出を包含する。HER-2/neuタンパク質に特異的な抗体が、ヒト由来であるときには、第二抗体は抗ヒト抗体である。
【0073】
免疫複合体を検出する三番目の好ましい実施態様では、リポーター基は、免疫複合体に結合し得る分子に結合される。検出工程は、(a)分子の添加、(b)任意の非結合分子の実質的な除去、続く(c)リポーター基の存在または非存在の検出、を包含する。免疫複合体に結合し得る分子の例は、プロテインAである。
【0074】
免疫複合体を検出する種々の方法が、本発明の範囲内で実施され得ることは、当業者には明白である。任意の方法での使用に適したリポーター基は、ラジオアイソトープ、蛍光団、酵素、発光団、および染色粒子を包含する。
【0075】
本発明の関連局面では、HER-2/neuポリペプチドとHER-2/neuポリペプチドに特異的である体液中の抗体との間で形成される免疫複合体の検出は、HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍について、HER-2/neuポリペプチド含む、ガン治療の効果をモニターするために使用され得る。治療の開始前および開始後に、個体から採取された体液試料は、上記の方法論によって、免疫複合体について分析される。要するに、両方の試料中に検出される免疫複合体数が比較される。第一試料(治療前)に比較して、第二試料(治療開始後)中の免疫複合体数の実質的な変化が、良好な治療を反映する。
以下の実施例は、限定目的ではなく、例示目的で提示される。
【実施例】
【0076】
実施例1
組換えヒトHER-2/neuポリペプチドの発現および精製
ヒトHER-2/neuポリペプチドを、BssHII制限部位およびエントロキナーゼプロテアーゼ部位を5'末端にEcoRI部位を3'末端に付加的に導入したオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、Di Fioreら(Kingら、Science 229:974-976,1985; Di Fioreら、Science 237:178-182,1987)に従って調製されたプラスミドから、PCR法(例えば、米国特許第4,683,195号;同第4,683,202号;同第4,800,159号)によって回収した。5'末端に対するプライマーは、5'-TCTGGCGCGCTGGATGACGATGACAAGAAACGACGGCAGCAGAAGATC-3'(配列番号3)であり、一方、3'末端に対するプライマーは、5'-TGAATTCTCGAGTCATTACACTGGCACGTCCAGACCCAG-3'(配列番号4)であった。得られた1.8 kbのPCRフラグメントを、Novagen(Madison,WI,USA)のT-ベクターにサブクローン化し、そして選択されたクローンの配列を、ABI 373自動DNAシークエンサー(Applied Biosystems Inc.,Foster City,CA,USA)により、重複配列決定プライマーを使用して決定した。次いで、ヒトHER-2/neu cDNAに対する公表されたDNA配列に対応した配列を有するPCRフラグメント(配列番号1; Coussensら、Science 230:1132,1985; Yamamotoら、Nature 319:230,1986)を、適切な読み取り枠で、BssHII部位を介して改変されたE.coliチオレドキシンレダクターゼに接続した。発現融合タンパク質のNi-NTAアフィニティー精製で使用される、6×ヒスチジンアフィニティータグを、チオレドキシンレダクターゼ融合パートナーに取り入れた。trxA-ヒトHER-2/neuポリペプチド融合タンパク質に対するこのcDNAを、E.coliでの発現用に、改変pET発現ベクターへサブクローン化した。
【0077】
チオレドキシンレダクターゼは、E.coliで発現される他の異種タンパク質を安定化および可溶化すると報告されたが、E.coliでのヒトHER-2/neuポリペプチド発現には、いかなる有意な利点も提供しないようであった。trxA-HER-2/neuポリペプチド融合タンパク質のかなりの割合が可溶性であったが、大部分は封入体で発現された。融合タンパク質はまた、E.coliでの発現の間に分解された。しかし、チオレドキシンレダクターゼ融合パートナーの存在は、精製の間タンパク質を安定化し得る。チオレドキシンレダクターゼに対するモノクローナル抗体の入手可能性は、精製時に追跡するための良好なマーカーを提供する。
【0078】
6×Hisアフィニティータグを含むチオレドキシンレダクターゼ融合パートーナーを有するヒトHER-2/neuポリペプチドの精製のために、E.coliペレットを、プロテアーゼインヒビターおよびリゾチームとともに再懸濁し、音波処理した。封入体を遠心分離で単離し、そしてデオキシコール酸で3回洗浄し、最終洗浄で一晩置いてLPSを除去した。洗浄封入体を、Ni精製用にGuHCIに溶解する。Niカラムを、尿素中のイミダゾールで溶出して、10 mM Tris pH 8に対して透析した。このプロトコルによるHER-2/neuポリペプチドの回収は、80%-95%の純粋な全長タンパク質であり、主要な夾雑物は分解されたタンパク質であった。500mlの発酵から、20mgが回収された。それは、>98%のHER-2/neuポリペプチドであった。本明細書中で使用された技術(技法)は、当業者に周知であり、例えば、J.Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989,Cold Spring Harbor,New York,USAに記載されている。
【0079】
実施例2
樹状突起細胞はヒトHER-2/neuポリペプチドをプライムし得る
A.骨髄からのDC培養物の生成
DC培養物は、CD34+造血前駆細胞(HPC)から生成した。CD34+細胞を、正常ドナーの骨髄から、細胞分離システムCeprate LCキット(CellPro,Bothell,WA,USA)を使用して精製した。回収したCD34+細胞の純度を、フローサイトメリー分析によって測定し、80%から95%であった。CD34+細胞を、L-グルタミン(584μg/l)、ペニシリン(10 IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、100ng/mlヒトrGM-CSF、および50ng/mlヒトrIL-6(Immunex,Seattle,WA,USA)を補充した無血清培地(X-VIVO 10,Biowhittaker,Inc.,Walkersville.MD,USA)中で、培養した。0から17日の培養期間後に、細胞を回収し、そして表現型分析およびT細胞刺激アッセイ用に使用した。GM-CSFは、単独およびIL-4またはTNFαと組み合わせて、DCのインビトロ増殖を誘導すると記載されている。ナイーブT細胞をプライムするための抗原としてKLHおよびOVAを使用する実験において、GM-CSF+IL-6は、GM-CSF+IL-4またはTNFαと比較して、同等の総刺激を一貫して与えるが、より弱いバックグラウンドをともない、従って、より強い刺激指数を有する。
【0080】
B.T細胞プライムアッセイ
GM-CSFおよびIL-6を含有する無血清培地中で培養された骨髄由来のCD34+ HPCを、0〜17日の培養期間後に、APCとして使用した。DCのプライム能力を、タンパク質抗原組換えヒトHER-2/neuポリペプチド(hHNP)(10μg/ml)の存在または非存在において、DCを自己ナイーブTリンパ球とともに培養することによって、測定した。CD4+ Tリンパ球を、末梢血単核細胞から、イムノアフィニティーカラム(CellPro,Inc.,Bothell,WA USA)を使用したポジティブ選択によって、単離した。CD4+ CD45RA+(ナイーブ)Tリンパ球を、FITC(Immunotech,Westbrook,ME,USA)に直接結合された抗CD45RA mAbを使用したフローサイトメトリーソーティングによって、CD4+ Tリンパ球から選択した。得られたCD4+ CD45RA+ T細胞は、99%の純度であった。DC培養物を、種々の濃度で、96ウェル丸底プレート(Corning,Corning,NY,USA)にプレートし、最終濃度10μg/mlのhHNPとともに、16〜18時間インキュベートした。抗原をパルスしたDCを照射(10Gy)し、自己CD4+ CD45RA+ Tリンパ球を加えた(5×104/ウェル)。T細胞の増殖応答を、6日目に16〜18時間加えた(3H)チミジン(1μCi/ウェル)の取り込みによって測定した。増殖アッセイを、血清およびサイトカインを含まない培地で実施した。結果を図1に示す。図2は、正常ドナーからのCD4+ T細胞の、hHNP応答についてのテスト結果を示す。同様のデーターを、正常個人10人中9人からのT細胞について得た。
【0081】
実施例3
低頻度リンパ球前駆体検出のためのアッセイ
CD4+応答の検出のために3つのアッセイを使用し得る:標準増殖アッセイ、低頻度事象に対するスクリーニング法、および限界希釈アッセイ(LDA)。従来の増殖アッセイは、プライム応答を容易に検出し得る。増殖応答刺激指数は、抗原反応T細胞の前駆体の頻度とのおおよその相関関係を提供する。PBLから検出された任意の特異増殖応答は、プライム応答であると考えられる。
【0082】
CD4+ T細胞応答のより定量的な説明を提供するために、低リンパ球前駆体頻度応答を検出するために開発されたアッセイシステム(下記に記載されている)を使用した。このアッセイは簡単で、費用効果がある。より精度が必要な条件下では、前駆体頻度を限界希釈アッセイによって確認する(BishopおよびOrosz,Transplantation 47:671-677,1989)。
【0083】
正常個人に検出されたものより大きな応答が、プライム応答として定義させ、既存免疫を含意する。LDA条件によってのみ検出される低応答は、非プライム応答と考えられる。LDAによる応答の非存在または正常集団分析によって規定されたものより低い応答は、トレランス/アネルギーと考えられる。
【0084】
一般に、プライムCD4+ T細胞応答は、従来の増殖アッセイで検出され得、一方、非プライム応答は同じアッセイでは検出されない。少数非プライムT細胞の検出は、自己MHC抗原に対する自己混合リンパ球応答(AMLR)に、処理された自己血清タンパク質および外因的に加えられた血清タンパク質に対する応答を加えたものを含む、バックグラウンドチミジン取り込みを混同することによって、制限される。
【0085】
非プライムT細胞を誘導および検出するために、Poissonサンプリング統計に基づく、低頻度応答に対するアッセイシステムを使用した(Pinnacles,Chiron Corporation,1:1-2,1991)。この型の分析は、前駆体頻度が1つの複製培養中の細胞数より少ない場合に、多くの複製が、統計的に有意なポジティブの数を検出するために要求される低頻度事象に特異的に適用される。理論的には、分析は、既知ポジティブコントロール(例えば、PHAまたは破傷風トキソイド)、および既知ネガティブコントロール(抗原なし)を設定し、それらが属する実験群に関係なく、最低から最高の全データーポイントを評価して、自己応答を調整する。カットオフ値は、方程式 カットオフ= M + (F + SD)に基づいて計算する。ここで、M = 相加平均であり、F = 3.29(正規分布バックグラウンドの0.1%以下の「真のネガティブ」がカットオフ値を超えるように選択された正規標準分布の表からの係数)であり、および、SD = 標準偏差である。このスクリーニングアッセイにおいて、カットオフを超えるウェルは、目的の抗原に対して特異的に増殖しているリンパ球を潜在的に含有する真のポジティブと考えられる。リンパ球前駆体頻度の評価は、この方法を使用して可能であるが、正確な測定は、正規のLDA分析を必要とする。
【0086】
実施例4
HER-2/neuポリペプチドに基づくワクチンはHER-2/neuタンパク質に対する免疫を誘導する
A.動物
この研究に使用したラットは、Fisher株344(CDF(F-344)/CrlBR)(Charles River Laboratories,Portage MI)であった。動物を、ワシントン大学動物施設において、特定の病原菌を有さない条件下で維持し、3および4月齢の間、実験研究用に規定通りに使用した。
【0087】
B.免疫
Fischerラットを、種々のアジュバント(MPL,Vaccel; Ribi,Bozeman,MT,USA)中の組換えラットHER-2/neuポリペプチド(rHNP)で、免疫した。動物に、アジュバントと混合された50μgのrHNPを、皮下で受けた。20日後に、その動物を、同様の様式で投与される、50μg rHNPの第二免疫で追加免疫した。追加免疫の20日後に、動物を、ラットHER-2/neuタンパク質(neu)に対する抗体の存在についてテストした。
【0088】
C.細胞株
2つの細胞株を、neuタンパク質の供給源として使用した。SKBR3、すなわちHER-2/neuの顕著な過剰発現体であるヒト乳ガン細胞株(アメリカンタプカルチャーコレクション、Rockvill,MD)を、10%胎児ウシ血清(FBS)(Gemini Bioproducts,Inc.,Calabasas,CA)およびRPMI中に培養維持した。DHFR-G8、すなわちcneu-pおよびpSV2-DHFRで同時トランスフェクトされたNIH/3T3細胞株(アメリカンタイプカルチャーコレクション、Rockvill,MD)を、非形質転換ラットneuタンパク質(Bernardsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:6854-6858,1987)の供給源として使用した。この細胞株を、10% FBSおよび4.5g/Lのグルコースを添加したダルベッコの改変イーグル培地中で維持した。DHFR-G8細胞を、第3継代毎に、0.3μMメトトレキセートを補充した同じ培地で継代して、neuトランスフェクタントを維持した。
【0089】
D.細胞溶解物の調製
SKBR3およびDHFR-G8の両溶解物を調製し、そしてneuタンパク質の供給源として使用した。要するに、Tris base、塩化ナトリウム、およびTriton-X(1%)(pH 7.5)からなる溶解緩衝液を調製した。プロテアーゼインヒビターを加えた;アプロチニン(1μg/ml)、ベンズアミジン(1mM)、およびPMSF(1mM)。溶解緩衝液1mlを使用して、107細胞を懸濁した。細胞を、崩壊するまでに1時間、10分毎に15秒間ボルテックスした。全手順を、4℃の低温室中で氷上にて実施した。崩壊後に、細胞を4℃で20分間マイクロ遠心分離した。上清を細胞破片から取り出し、そして使用するまで、少量のアリコートで-70℃で貯蔵した。溶解物中のヒトおよびラットのneuの存在を、ウエスタンブロット分析によって確認した。
【0090】
E.ラットneu抗体応答に対するELISA
96ウエルImmulon4プレート(Baxter SP,Redmond,WA: Dynatech Laboratories)を、ラットneu特異モノクローナル抗体(Oncogene Science)(7.16.4)とともに、炭酸塩緩衝液(等モル濃度のNa2CO3およびNaHCO3 pH 9.6)中で希釈された10μg/mlの濃度において、一晩4℃でインキュベーションを行った。インキュベーション後に、全ウェルを、PBS-1% BSA(Sigma Chemical,St.Louis,MO,USA)、100μl/ウェルによって、室温にて3時間、ブロックした。プレートをPBS-0.5% Tweenで洗浄し、DHFRG8、ラットneuタンパク質供給源である、ラットneu DNAでトランスフェクトされたマウス細胞株(アメリカンタイプカルチャーコレクション、Rockvill,MD,USA)の溶解物を交互の列に加えた。そのプレートを、4℃にて一晩インキュベートした。次いで、プレートをPBS-0.5% Tweenで洗浄し、以下の希釈で実験血清を加えた:1:25から1:200。血清を、PBS-1% BSA-1% FBS-25μg/mlマウスIgG-0.01% NaN3中で、そして次いで順次PBS-1% BSA中に希釈した。50μlの希釈血清をウェルに加え、室温にて1時間インキュベートした。各実験血清を、ラットneuが入ったウェルおよびラットneuが入っていないウェルに加えた。ヒツジ抗ラットIg F(ab')2西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を、PBS-1% BSA中1:5000希釈でウェルに加え、室温にて45分間インキュベートした(Amersham Co.,Arligton Heights,IL,USA)。最終洗浄後に、TMB(Kirkegaard and Perry Laboratories,Gaithersburg,MD)発色試薬を加えた。発色反応は、450nmの光学密度で読みとった。各血清希釈液のODを、ラットneu被覆ウエルのODから、PBS-1% BSA被覆ウエルのODを差し引いて計算した。アジュバントのみで免疫された動物からの血清、およびhHNP(外来タンパク質)で免疫された動物もまた、同様の様式で評価した。結果を図3に示す。
【0091】
F.T細胞増殖アッセイ
HER-2/neuポリペプチド特異応答の分析について:新鮮な脾細胞またはリンパ節細胞を、機械的崩壊および金網の通過により回収して、洗浄した。2×105脾細胞/ウェル、および1×105リンパ節細胞/ウェルを、実験群あたり6複製で、96ウェル丸底マイクロタイタープレート(Corning,Cornign,NY)にプレートした。培地は、L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、2-メルカプトエタノール、および5% FBSを含有するEHAA 120(Biofluids)からなる。細胞を、ポリペプチドとインキュベートする。4日後に、ウェルを、[3H]チミジン1μCiで、6〜8時間パルスして、計数した。データは、実験ウェルの平均値をコントロールウェル(抗原なし)の平均値で割ったものと定義した、刺激指数(SI)として表す。HER-2/neuタンパク質特異応答の分析について:脾細胞またはリンパ節細胞を、3つのインビトロ刺激物中で培養する。分析時に、1×105の培養脾T細胞またはリンパ節T細胞を、上記のように、96ウェルマイクロタイタープレートにプレートする。細胞を、イムノアフィニティーカラムで精製した1μg/mlのラットneu(ラットneu供給源としてのDHFR-G8細胞からの)とインキュベートする。4日後に、ウェルを、[3H]チミジン1μCiで、6〜8時間パルスして、計数した。データは、実験ウェルの平均値をコントロールウェル(抗原なし)の平均値で割ったものと定義した、刺激指数として表す。
【0092】
実施例5
ヒトHER-2/neuポリペプチドに対してプライムされた応答は乳ガン患者において検出され得る
ヘパリン処理血液を、HER-2/neu過剰発現第二期乳ガン患者から得た。末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll Hypaque密度遠心分離によって分離した。PBMCを、96ウェル丸底プレート(Corning,Corning,NY,USA)に、2×105/ウェルの濃度にプレートした。各実験群について、24ウェル複製を実施した。HER-2/neu由来のペプチド(列挙された配列中の最初のアミノ酸の番号を有する15〜20アミノ酸長)25μg/ml、ヒトHER-2/neuポリペプチド(hHNP)1μg/ml、p30すなわち破傷風由来のトキソイド1μg/ml、および破傷風由来のp30ペプチド25μg/mlを、各24ウェル複製に加えた。アッセイを、10%ヒト血清を含有する培地で行った。T細胞の増殖応答を、第4日に10時間添加された(3H)チミジン(1μCi/ウェル)の取り込みによって測定した。ポジティブウェル(抗原反応ウェル)を、cpmが、抗原のないウェルの平均値および3標準偏差より大きな場合に、ポジティブとして計数した。結果を、図4に示す。この第二期乳ガン患者は、組換えhHNPに有意な応答を有する。
前述から、本発明の特定の実施態様が、例示目的に本明細書に記載されてきたが、種々の改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得ることは、明白である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、樹状細胞によるHER-2/neuポリペプチドに対する天然Tリンパ球のプライミング(priming)の結果を示す。骨髄由来DCを、CD34+幹細胞からGM-CSFおよびIL6を用いて得た。HER-2/neuポリペプチドでパルスしたDCは、自己のCD4+/CD45RA+ Tリンパ球のタンパク質特異的増殖をDCとのT細胞培養の7日後に誘導した。GM-CSFおよびIL-6を含む無血清培地で1週間培養した骨髄由来CD34+幹細胞をAPCとして使用した。APCを96ウェル丸底プレート(Corning,Corning,NY,USA)に種々の濃度で入れ、そして16〜18時間、20〜25μg/mlの組換えHER-2/neuポリペプチドとともにインキュベートした。CD4+ Tリンパ球を、イムノアフィニティカラム(CellPro,Inc.,Bothell,WA,USA)を用いる陽性選択により自己末梢血単核細胞から単離した。抗原パルス化APCに放射線照射し(10Gy)、そしてCD4+ Tリンパ球を1ウェルあたり105で添加した。T細胞の増殖応答を、7日目に16〜18時間添加した(3H)チミジン(1μCi/ウェル)の取り込みにより測定した。増殖アッセイを、5ウェル反復で、血清およびサイトカインを含まない培地で行った。記号は以下を示す。:―●― DC + HER-2/neuポリペプチド + CD4+/CD45RA+ T細胞;―○― DC + CD4+/CD45RA+ T細胞;および―□― DC + HER-2/neuポリペプチド。
【図2】図2は、HER-2/neuポリペプチドに対するCD4+細胞の応答を示す。図1に記載のプライムアッセイを用いて、正常ドナー由来のCD4+ T細胞を組換えヒトHER-2/neuポリペプチドに対する応答について試験した。記号は以下を示す。:―黒四角― SC +CD4;および…◆… SC +CD4 + HER-2/neuポリペプチド。「SC」は幹細胞である。
【図3】図3は、ラットHER-2/neuポリペプチドで免疫化したラットがラットneu特異的抗体を生じることを示す。ラットを、MPLまたはワクセル(vaccel)アジュバント中の組換えラットHER-2/neuポリペプチド25μgで免疫化した。3つの免疫化を行った。これらは、各々について20日間隔である。最後の免疫化の20日後に、ラットをラットneuに対する抗体応答について評価した。ラットHER-2/neuポリペプチドおよびワクセルアジュバントで免疫化した動物は、高力価のラットneu特異的応答を示した。コントロールは、ヒトHER-2/neuポリペプチド(外来タンパク質)で免疫化した動物であった。別の実験において、100μgおよび300μgの精製した全ラットneuで免疫化したラットは、検出可能なneu特異的抗体を生じなかった(データは示さない)。データは、3匹の動物の平均および標準偏差を示す。記号は以下を示す。:―黒四角― ラットHER-2/neuポリペプチド/MPL;…●…ラットHER-2/neuポリペプチド/ワクセル;…□… MPL単独;…○… ワクセル単独;および‥白十字‥ コントロール。「MPL」および「ワクセル」はアジュバントである(Ribi,Bozeman,MT,USA)。「Neu」は、HER-2/neuタンパク質である。
【図4】図4は、乳ガン患者がHER-2/neuポリペプチドに対する先在する免疫を有することを示す。患者のPBMCを、24ウェル反復で、トリチウム化したチミジンの取り込みにより評価した。応答ウェルを、コントロールウェルの平均および3標準偏差(372cpm)を超える場合に計数する。このHER-2/neu陽性のII期乳ガン患者は、組換えヒトHER-2/neuポリペプチドに対して有意な応答を有する。記号「p」はHER-2/neuタンパク質のペプチドを示し、「tt」は破傷風トキソイドを示し、そして「hHNP」は組換えヒトHER-2/neuポリペプチドを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、以下から選択されるDNA配列によりコードされるポリペプチドと共に含む組成物:
(a)配列番号1のヌクレオチド2026〜3765;および
(b)適度にストリンジェントな条件下で、配列番号1のヌクレオチド2026〜3765に相補的なヌクレオチド配列にハイブリダイズするDNA配列であって、HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を生じるポリペプチドをコードするDNA配列。
【請求項2】
ポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸676のリジンからアミノ酸1255のバリンのアミノ酸配列を有し、または少なくとも等価な免疫応答を生じるその変異であって、1若しくは複数のアミノ酸の欠失、挿入および/若しくは置換を含むものである、請求項1記載に記載の組成物。
【請求項3】
ポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸676からアミノ酸1255のアミノ酸配列を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化に使用するための、請求項1、2、または3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を誘発するまたは増強するための請求項1、2もしくは3記載の組成物。
【請求項6】
HER-2/neuオンコジーンが関連する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化用の医薬の製造のための、請求項1、2、または3のいずれかに記載の組成物の使用法。
【請求項7】
HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を誘発するまたは増強するための薬物の製造のための、請求項1、2もしくは3記載の組成物の使用法。
【請求項8】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項1〜5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項6〜7のいずれか一項記載の使用法。
【請求項10】
ポリペプチドが短縮されている、請求項1〜5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
ポリペプチドが短縮されている、請求項6〜7のいずれか一項記載の使用法。
【請求項13】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項12記載の使用法。
【請求項14】
組成物がアジュバントをさらに含む、請求項1〜5、8および10〜11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項15】
組成物がアジュバントをさらに含む、請求項6〜7、9および12〜13のいずれか一項記載の使用法。
【請求項16】
薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、請求項1、2または3記載のポリペプチドの発現を指示する、温血動物の細胞を核酸分子でトランスフェクションすることによる免疫化のための核酸分子と共に含む組成物。
【請求項17】
細胞がエキソビボでトランスフェクションされ、引き続いて動物へ送達される、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を誘発するまたは増強するための、請求項1、2または3記載の組成物のポリペプチドの発現を指示する核酸分子と共に含む組成物。
【請求項19】
HER-2/neu発癌遺伝子が関係する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化のための薬物の製造のための、薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、請求項1、2または3記載のポリペプチドの発現を指示する核酸分子と共に含む組成物の使用法。
【請求項20】
HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を誘発するまたは増強するための薬物の製造のための、薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、請求項1、2または3記載のポリペプチドの発現を指示する核酸分子と共に含む組成物の使用法。
【請求項21】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項16〜18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項22】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項19〜20のいずれか一項記載の使用法。
【請求項23】
ポリペプチドが短縮されている、請求項16〜18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項24】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
ポリペプチドが短縮されている、請求項19〜20のいずれか一項記載の使用法。
【請求項26】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項25記載の使用法。
【請求項27】
組成物がさらにアジュバントを含む、請求項16〜18、21、および23〜24のいずれか一項記載の組成物。
【請求項28】
組成物がさらにアジュバントを含む、請求項19〜20、22、および25〜26のいずれか一項記載の使用法。
【請求項29】
薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、請求項1、2または3記載の組成物のポリペプチドの発現を指示する、温血動物の細胞にベクターを感染させることによる免疫化のためのウイルスベクターと共に含む組成物。
【請求項30】
細胞がエキソビボで感染させられ、引き続いて動物へ送達される、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を誘発するまたは増強するための、請求項1、2または3記載の組成物のポリペプチドの発現を指示するウイルスベクターと共に含む組成物。
【請求項32】
薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、請求項1、2または3記載の組成物のポリペプチドの発現を指示する、HER-2/neu発癌遺伝子が関係する悪性腫瘍に対する温血動物の免疫化のための薬物の製造のためのウイルスベクターと共に含む組成物の使用法。
【請求項33】
薬学的に許容される、キャリアまたは希釈剤を、HER-2/neuタンパク質に対する免疫応答を誘発するまたは増強するための薬物の製造のための、請求項1、2または3記載の組成物のポリペプチドの発現を指示するウイルスベクターと共に含む組成物の使用法。
【請求項34】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項29〜31のいずれか一項記載の組成物。
【請求項35】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項32〜33のいずれか一項記載の使用法。
【請求項36】
ポリペプチドが短縮されている、請求項29〜31のいずれか一項記載の組成物。
【請求項37】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項36記載の組成物。
【請求項38】
ポリペプチドが短縮されている、請求項32〜33のいずれか一項記載の使用法。
【請求項39】
ポリペプチドがペプチドまたはポリペプチドに連結されている、請求項38記載の使用法。
【請求項40】
組成物がさらにアジュバントを含む、請求項29〜31、34および36〜37のいずれか一項記載の組成物。
【請求項41】
組成物がさらにアジュバントを含む、請求項32〜33、35および38〜39のいずれか一項記載の使用法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−56679(P2008−56679A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237635(P2007−237635)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【分割の表示】特願平8−529348の分割
【原出願日】平成8年3月28日(1996.3.28)
【出願人】(507280321)ユニバーシティ オブ ワシントン (1)
【Fターム(参考)】