説明

悪臭中の窒素回収方法

【課題】牛舎や堆肥化装置などで発生する臭気中のアンモニア由来の窒素を回収することにある。
【解決手段】ヤシガラチップに微生物を担持させた脱臭材を所定の厚さhに堆積させた脱臭材層16に循環水を散水しつつ,アンモニアを含む臭気を脱臭材層16に通過させて臭気中のアンモニア由来の窒素を循環水中に回収する窒素回収方法であって,脱臭材層16中に実質的に嫌気領域を作らない速度vで臭気を通過させることを特徴とする。脱臭材層16中を実質的に好気環境に保つことにより,脱窒菌の作用で窒素酸化物が還元されることを抑制できる。このため,窒素酸化物を循環水中に溶解させることにより,臭気中のアンモニア由来の窒素を大気に放出させることなく回収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,牛糞の堆肥化装置などで発生した臭気を脱臭材層に通過させて臭気中のアンモニア由来の窒素を回収する窒素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平成15年に苦情が発生した畜産農家戸数は2633戸である。この苦情の6割程度を占めているのが「悪臭」であり,最近では牛糞の堆肥化装置等から発生する悪臭への対策も求められるようになってきている。これまで脱臭技術は,良好な脱臭性能,運転費の安さなどから,悪臭の主成分であるアンモニア等を微生物の働きによって分解する生物脱臭法(例えば土壌脱臭法,ロックウール脱臭法)による装置が導入されてきた。しかし,設備費等の問題から主に共同利用施設を中心に導入が進み,戸別農家へ普及が進まないという問題があった。
【0003】
堆肥化装置等から発生する悪臭防止のため,既往の生物脱臭装置として土壌脱臭装置やロックウール脱臭装置が導入されつつある。土壌脱臭法は,脱臭材料として火山灰土壌等の土壌を用い,この土壌中に悪臭ガスを通過させ,微生物の働きによって無臭成分に分解する方法である。ロックウール脱臭法は,脱臭材料の素材としてロックウールを用いているが,土壌と比較して通気抵抗が低いために3〜5倍程度高く堆積することが可能であり,その結果設置面積は1/3〜1/5程度まで縮小できる。
【0004】
堆肥化装置などで発生する臭気は,悪臭成分として,100体積ppm程度のアンモニアを含んでいるのが一般的である。従来,このような比較的濃度の高い臭気を脱臭するものとして,ロックウールに微生物を担持させた脱臭材を利用した脱臭装置が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−248316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,土壌脱臭装置は,火山灰土という特定の土壌を必要とし,広い設置面積を必要とするという問題がある。また,ロックウール脱臭装置は,これらの問題をある程度解決しているが,ロックウール脱臭材料は1m3当たり40,000円程度であり,処理風量1m3/min当たり70,000円程度の脱臭材料費を必要とし,装置全体では処理風量1m3/min当たり250,000円程度必要である。さらに,通気抵抗が2000Pa以上と大きいため送風機の運転費が高いという問題もある。
【0007】
ここで,アンモニアを含む臭気の脱臭は,先ず,臭気中のアンモニアを酸化させて窒素酸化物(NO)とした後,脱窒菌の作用でこの窒素酸化物を還元して,気体窒素(N)となって無臭空気と共に大気中に放出することを基本原理としている。しかしながら,窒素は肥料などに利用可能な有価な成分であり,大気中に放出することなく,臭気から窒素を回収できれば,有価資源として活用できる。
【0008】
したがって本発明の目的は,臭気中のアンモニア由来の窒素を回収できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明によれば,ヤシガラチップに微生物を担持させた脱臭材を所定の厚さに堆積させた脱臭材層に循環水を散水しつつ,アンモニアを含む臭気を前記脱臭材層に通過させて臭気中のアンモニア由来の窒素を循環水中に回収する窒素回収方法であって,前記脱臭材層中に実質的に嫌気領域を作らない速度で臭気を通過させることを特徴とする,悪臭中の窒素回収方法が提供される。
【0010】
この窒素回収方法にあっては,臭気の通過方向に対する前記脱臭材層の厚さが300〜3000mmであり,前記脱臭材層中の臭気の平均通過速度が20mm/sec以上であることが望ましい。また,臭気のアンモニア濃度が20体積ppm以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,脱臭材層中を実質的に好気環境に保つことにより,脱窒菌の作用で窒素酸化物が還元されることを抑制できる。このため,窒素酸化物を循環水中に溶解させることにより,臭気中のアンモニア由来の窒素を大気に放出させることなく回収できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下,本発明の好ましい実施の形態を図面を参照にして説明する。図1は,本発明の実施の形態にかかる窒素回収方法を行うための,脱臭装置1の概略説明図である。なお,本発明における臭気とは,例えば牛糞の堆肥化装置などで発生する臭気であり,悪臭成分として100体積ppm程度のアンモニアを含んでいる。
【0013】
脱臭装置本体10の底部には,両側に分岐管11が設けられた排気管12が設置されている。排気管12には,配管13および送風機14を介して,牛舎や堆肥化装置などで発生した臭気が供給されている。
【0014】
脱臭装置本体10の内部には,底から所定の高さまで玉石15が隙間を持った状態で敷かれており,玉石15の上に,脱臭材層16が形成されている。前述の排気管12および分岐管11は,いずれも玉石15に埋められた状態で脱臭装置本体10の底部に設置されている。
【0015】
脱臭材層16は,ヤシガラチップに微生物を担持させた脱臭材を,玉石15の上において所定の厚さまで堆積させた構成である。ヤシガラチップは,ヤシガラを例えば10〜50mm程度の粒径に破砕したものである。ヤシガラチップに担持させる微生物は,例えば土壌微生物であり,硝化菌,脱窒菌,硫黄酸化菌などを含んでいる。
【0016】
脱臭装置本体10の天井は屋根20で塞がれているが,脱臭装置本体10のし工面上方には,外部に通じる通気孔21が適宜開口している。
【0017】
脱臭装置本体10の外部には,循環水を溜めた水槽25が設けてある。この水槽25内の循環水をポンプ26でくみ上げて送水管27により送水し,脱臭装置本体10の内部において,脱臭材層16の上面に循環水を散水している。こうして散水された循環水は,自重で脱臭材層16の内部を流下して,脱臭装置本体10の底部に到達するようになっている。脱臭装置本体10の底部には,こうして脱臭装置本体10の底部に到達した循環水を,水槽25に戻すためのドレン回路28が設けてある。
【0018】
次に,以上のように構成された脱臭装置1において行われる本発明の実施の形態にかかる窒素回収方法を説明する。なお,本発明は窒素回収方法として説明するが,臭気を無臭空気にして大気中に放出する点に着目すれば,本発明は脱臭方法としてもとらえることができる。
【0019】
この脱臭装置1において,水槽25内の循環水がポンプ26でくみ上げられ,脱臭材層16の上面に循環水が散水される。こうして,散水された循環水が脱臭材層16中を流下し,再び,水槽25内に戻ることにより,脱臭材層16は常に水分を含んだ状態に維持される。
【0020】
一方,牛糞の堆肥化装置などで発生した臭気が,送風機14の稼動により,分岐管11の先端から脱臭装置本体10の底部に吐出される。その後,臭気は脱臭装置本体10の内部を上に向かって流れ,脱臭材層16を通過した後,無臭空気となって通気孔21に放出される。
【0021】
以上のように臭気を脱臭処理するに際し,本発明にあっては,臭気の通過方向に対する脱臭材層16の厚さを300〜3000mmとし,また,脱臭材層16中の臭気の平均通過速度を20mm/sec以上とする。即ち,図1のように,脱臭装置本体10の内部において,高さhの脱臭材層16中を,臭気が上に向かって平均速度vで通過する場合であれば,高さhを300〜3000mmとし,臭気の平均速度vを20mm/sec以上とする。なお,臭気の平均速度vは,送風機14の稼動によって脱臭装置本体10内に供給される臭気の流量Q(mm/sec)を脱臭材層16の水平断面積S(mm)で割ることによりQ/S(mm/sec)として容易に求めることができる。
【0022】
牛糞の堆肥化装置などで発生したアンモニアを含む臭気は,脱臭材層16中を通過する際に脱臭材層16に含まれた水分中に溶解して補足される。そして,水分中に溶解したアンモニアは微生物によって,先ず,窒素酸化物(NO)とされる。こうして生成された窒素酸化物は,脱窒菌の作用で還元されると,気体窒素(N)となって無臭空気と共に大気中に放出されてしまう。
【0023】
しかるに本発明によれば,脱臭材層16の高さh(厚さ)と脱臭材層16中の臭気の平均通過速度vを上記のような範囲とすることにより,脱臭材層16中に実質的に嫌気領域を作らない環境を得ることができる。即ち,脱窒菌の作用は嫌気雰囲気で機能し,好気雰囲気では抑制される傾向にある。本発明によれば,脱臭材層16中を実質的に好気環境に保つことにより,脱窒菌の作用で窒素酸化物が還元されることを抑制できる。このため,窒素酸化物を循環水中に溶解させることにより,臭気中のアンモニア由来の窒素を大気に放出させることなく回収できるようになる。こうして,肥料などに利用可能な有価な成分である窒素を回収して資源活用が可能となる。なお,循環水中の無機態窒素濃度を10,000mg/L以上に濃縮するために,運転中に通気量を調整すると良い。
【0024】
なお,ヤシガラチップに微生物を担持させた脱臭材を用いることにより,畜舎の換気空気のように大風量の空気も脱臭処理でき,窒素を効率良く回収できる。また,この脱臭材を堆積させた脱臭剤層16は静圧は100Pa程度で送風が可能であり,低圧の送風機14の使用が可能となり,電気料金も大幅に軽減できる。また,窒素を含む循環水を資源として活用すれば,廃水処理も不要となる。
【0025】
なお,上記の脱臭装置1によれば,脱臭剤層16において脱臭と同時に除塵も可能であるが,脱臭材の通気性や寿命を考慮すると,脱臭装置1の上流に除塵装置を設けることが望ましい。
【0026】
なお,脱臭材としてもちいられるヤシガラチップは,保水性,微生物保存機能を有しながら,通気性に優れた素材である。ヤシガラチップは,水分を60〜90%に調整できる。通気抵抗は,ロックウール脱臭材料と比較して1/10以下となる。また,臭気の処理風量は,ロックウール脱臭材料と比較して2倍程度にできる。脱臭材に用いるヤシガラチップの粒径が10mm以下になると粉状になり脱臭材層16の通気性が悪くなる。ヤシガラチップの粒径が50mm以上になると水の吸収が悪くなり,臭気中のアンモニアを補足する効果が減少する。
【0027】
以上,本発明の好ましい実施の形態の一例を説明したが,本発明はここに例示した形態に限定されない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において,各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。本発明は,必ずしも臭気中のアンモニア由来の窒素の全部を循環水中に回収することは条件ではなく,臭気中のアンモニア由来の窒素の一部を循環水中に回収し,残りを大気中に放出する場合についても適用される。なお,微生物を担持させたロックウールからなる脱臭材層を用て,臭気中のアンモニア由来の窒素を循環水中に回収する窒素回収方法も考えられる。
【実施例】
【0028】
図1で説明した脱臭装置1において,100体積ppm程度のアンモニアを含む臭気を処理した。臭気と,処理後の無臭空気のアンモニア濃度を図2に示した。
【0029】
また,見掛風速(平均速度v)100mm/sec(ロックウール脱臭装置の4〜5倍)でアンモニアを含む臭気を送入して濃縮した循環水中の無機態窒素濃度を図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は,堆肥化施設,水処理施設,産業廃棄物処理施などで発生した臭気の処理に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態にかかる窒素回収方法を行うための,脱臭装置の概略説明図である。
【図2】図1で説明した脱臭装置において処理した臭気と処理後の無臭空気のアンモニア濃度を示すグラフである。
【図3】図1で説明した脱臭装置において臭気を処理して得た循環水中の無機態窒素濃度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 脱臭装置
10 脱臭装置本体
11 分岐管
12 排気管
13 配管
14 送風機
15 玉石
16 脱臭材層
20 屋根
21 通気孔
25 水槽
26 ポンプ
27 送水管
28 ドレン回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤシガラチップに微生物を担持させた脱臭材を所定の厚さに堆積させた脱臭材層に循環水を散水しつつ,アンモニアを含む臭気を前記脱臭材層に通過させて臭気中のアンモニア由来の窒素を循環水中に回収する窒素回収方法であって,
前記脱臭材層中に実質的に嫌気領域を作らない速度で臭気を通過させることを特徴とする,悪臭中の窒素回収方法。
【請求項2】
臭気の通過方向に対する前記脱臭材層の厚さが300〜3000mmであり,前記脱臭材層中の臭気の平均通過速度が20mm/sec以上であることを特徴とする,請求項1に記載の悪臭中の窒素回収方法。
【請求項3】
臭気のアンモニア濃度が20体積ppm以上であることを特徴とする,請求項1または2に記載の悪臭中の窒素回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−260651(P2007−260651A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93242(P2006−93242)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】