説明

情報記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】情報記録媒体用ガラス基板の製造過程で生じる不良を低減することが可能な、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板の洗浄を行なう工程は、ロールスクラブ洗浄装置を用いてガラス基板に対してロールスクラブ洗浄を行なう工程と、ロールスクラブ洗浄の後に、カップスクラブ洗浄装置を用いてガラス基板に対してカップスクラブ洗浄を行なう工程とを含み、カップスクラブ洗浄は、ロールスクラブ洗浄後のガラス基板の主表面が乾かないうちに実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどに用いられる情報記録媒体(磁気ディスク記録媒体)には、従来からアルミニウム基板またはガラス基板が用いられている。これらの基板上に磁気薄膜層が形成され、磁気薄膜層を磁気ヘッドで磁化することにより、磁気薄膜層に情報が記録される。
【0003】
近年、ハードディスクドライブ装置においては、2.5インチの記録媒体1枚で、記録容量が500GB(片面250GB)、面記録密度が630Gb/平方インチ以上の記録密度を有するものが開発されており、磁気ヘッドと情報記録媒体との間の距離(フライングハイト)がさらに小さくなってきている。
【0004】
フライングハイトが小さくなるにつれて、情報記録媒体をハードディスクドライブ装置に用いた場合の不良(ヘッドクラッシュ)を抑えるために、情報記録媒体として許容される基板表面の欠陥の大きさもより小さくなってきている。また、情報記録媒体用ガラス基板の表面欠陥についても大きさおよび個数に対する要求が厳しくなってきている。
【0005】
これらの厳しい要求を満足するために、情報記録媒体用ガラス基板の研磨加工、洗浄方法を工夫して情報記録媒体用ガラス基板の欠陥を低減すべく工夫がなされている。しかし、磁気ヘッドに採用されるDFH(Dynamic Flying Hight)機構等により、ますます情報記録媒体への精度が厳しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−158030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、情報記録媒体用ガラス基板の製造過程における、情報記録媒体用ガラス基板の欠陥低減の要求が厳しくなってきている点にある。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、情報記録媒体用ガラス基板の製造過程で生じる不良を低減することが可能な、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に基づいた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法においては、磁気記録用ガラス基板の製造方法であって、化学強化処理により、ガラス基板の主表面に表面強化層を形成する工程と、上記主表面に上記表面強化層を形成した後、上記主表面の研磨を行なう工程と、上記主表面の研磨を行なった後に、上記ガラス基板の洗浄を行なう工程と、を備える。
【0010】
上記ガラス基板の洗浄を行なう工程は、ロールスクラブ洗浄装置を用いて上記ガラス基板に対してロールスクラブ洗浄を行なう工程と、上記ロールスクラブ洗浄の後に、カップスクラブ洗浄装置を用いて上記ガラス基板に対してカップスクラブ洗浄を行なう工程と、を含む。
【0011】
上記カップスクラブ洗浄は、上記ロールスクラブ洗浄後の上記ガラス基板の主表面が乾かないうちに実施する。
【0012】
他の形態においては、上記ロールスクラブ洗浄および上記カップスクラブ洗浄は、それぞれ流水槽の中で行なう。
【0013】
他の形態においては、上記ロールスクラブ洗浄および上記カップスクラブ洗浄は、それぞれ超音波を印加しながら上記ガラス基板の超音波洗浄を行なう。
【0014】
他の形態においては、上記ガラス基板の洗浄を行なう工程は、上記カップスクラブ洗浄の後に、430〜950kHzの高周波を印加しながらリンス槽内において高周波洗浄を行なう工程を有する。
【0015】
他の形態においては、上記リンス槽内において、0.5〜1ppmの水素水を用いる。
他の形態においては、上記リンス槽において、開口径が0.02μmのフィルターを用いる。
【発明の効果】
【0016】
この発明に基づいた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によれば、情報記録媒体用ガラス基板の製造過程で生じる不良を低減することが可能な、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態における情報記録媒体用ガラス基板の斜視図である。
【図2】実施の形態における情報記録媒体の斜視図である。
【図3】実施の形態における情報記録媒体の製造方法を示すフロー図である。
【図4】実施例1における各洗浄工程を示す模式図である。
【図5】実施例1におけるロールスクラブ洗浄に用いられるロールスクラブ洗浄装置の構成を示す模式図(斜視図)である。
【図6】実施例1におけるロールスクラブ洗浄に用いられるロールスクラブ洗浄装置の構成を示す概念図(平面図)である。
【図7】実施例1におけるロールスクラブ洗浄の洗浄状態を示す第1概念図である。
【図8】実施例1におけるロールスクラブ洗浄の洗浄状態を示す第2概念図である。
【図9】実施例1におけるカップスクラブ洗浄に用いられるカップスクラブ洗浄装置の構成を示す模式図(正面図)である。
【図10】実施例1におけるカップスクラブ洗浄に用いられるカップスクラブ洗浄装置の構成を示す模式図(側面図)である。
【図11】実施例1におけるカップスクラブ洗浄の洗浄状態を示す第1概念図である。
【図12】実施例1におけるカップスクラブ洗浄の洗浄状態を示す第2概念図である。
【図13】実施例2におけるロールスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図である。
【図14】実施例2におけるカップスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図である。
【図15】実施例3におけるロールスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図である。
【図16】実施例3におけるカップスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図である。
【図17】浮上テストにおける磁気ヘッドと付着物との位置関係を示す模式図である。
【図18】ガラス基板と付着物との位置関係を示す第1模式図である。
【図19】ガラス基板と付着物との位置関係を示す第2模式図である。
【図20】ガラス基板と付着物との位置関係を示す第3模式図である。
【図21】実施例1から6および比較例における、浮上テストおよび全面走査後のエラー発生率(n=100)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に基づいた実施の形態および実施例について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態および実施例の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態および実施例の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0019】
(情報記録媒体1の構成)
図1および図2を参照して、情報記録媒体用ガラス基板1Gおよび情報記録媒体1の構成について説明する。図1は、情報記録媒体用ガラス基板1Gの斜視図、図2は、情報記録媒体の斜視図である。
【0020】
図1に示すように、情報記録媒体1に用いられる情報記録媒体用ガラス基板1G(以下、「ガラス基板1G」と称する。)は、中心に孔11が形成された環状の円板形状を呈している。ガラス基板1Gは、外周端面12、内周端面13、表主表面14、および裏主表面15を有している。ガラス基板1Gとしては、アモルファスガラス等を用い、たとえば、外径約65mm、内径約20mm、厚さ約0.8mm、表面粗さは、約2.0Å以下である。
【0021】
ガラス基板1Gのインチサイズに特に限定はなく、0.8インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、3.5インチ各種ガラス基板1Gを、情報記録媒体用のディスクとして製造してもよい。
【0022】
落下衝撃によるガラス基板1Gの割れに対して有効であることから、ガラス基板1Gの厚みは0.30mm〜2.2mmが好ましい。ここでいうガラス基板1Gの厚みとは基板上の点対象となる任意の何点かで測定した値の平均値を意味する。
【0023】
図2に示すように、情報記録媒体1は、上記したガラス基板1Gの表主表面14上に磁気薄膜層23が形成されている。図示では、表主表面14上にのみ磁気薄膜層23が形成されているが、裏主表面15上に磁気薄膜層23を設けることも可能である。
【0024】
磁気薄膜層23の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を基板上にスピンコートして形成する方法、スパッタリングにより形成する方法、無電解めっきにより形成する方法が挙げられる。
【0025】
スピンコート法での膜厚は約0.3〜1.2μm程度、スパッタリング法での膜厚は0.04〜0.08μm程度、無電解めっき法での膜厚は0.05〜0.1μm程度であり、薄膜化および高密度化の観点からはスパッタリング法および無電解めっき法による膜形成がよい。
【0026】
磁気薄膜層23に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNi、Crを加えたCo系合金などが好適である。近年では、熱アシスト記録用に好適な磁性層材料として、FePt系の材料が用いられるようになってきている。
【0027】
磁気ヘッドの滑りをよくするために磁気薄膜層23の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0028】
必要により下地層、保護層を設けてもよい。情報記録媒体1における下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。
【0029】
下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造としても構わない。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0030】
磁気薄膜層23の摩耗、腐食を防止する保護層としては、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。保護層は、下地層、磁性膜など共にインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の層からなる多層構成としてもよい。
【0031】
上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO)層を形成してもよい。
【0032】
(ガラス基板1Gの製造工程)
次に、図3を参照して、本実施の形態に係るガラス基板1Gおよび情報記録媒体1の製造方法を説明する。図3は、ガラス基板1Gおよび情報記録媒体1の製造方法を示すフロー図である。
【0033】
まず、ステップ10(以下、「S10」と略す。ステップ11以降も同様。)の「ガラス溶融工程」において、ガラス基板を構成するガラス素材を溶融する。
【0034】
S11の「プレス成形工程」において、溶融させたガラス素材を上型および下型を用いたプレスによりガラス基板を作製した。使用したガラス組成は、一般的なアルミノシリケートガラスを用いた。ガラス基板の作製方法としては成形に限らず、公知の手法である板ガラスからの切り出し等でも構わず、ガラス組成もこれに限らない。
【0035】
S12の「第1ラップ工程」において、ガラス基板の両主表面をラッピング加工した。この第1ラップ工程は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置を用いて行なった。具体的には、ガラス基板の両面に上下からラップ定盤を押圧させ、研削液をガラス基板の主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行なった。このラッピング加工により、おおよそ平坦な主表面を有するガラス基板を得た。
【0036】
S13の「コアリング工程」において、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、ガラス基板の中心部に穴を形成し、円環状のガラス基板を作製した。ガラス基板の内周端面、および外周端面をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を実施した。
【0037】
S14の「第2ラップ工程」において、ガラス基板の両主表面について、上記第1ラップ工程(S12)と同様に、ラッピング加工を行なった。この第2ラップ工程を行なうことにより、前工程のコアリングや端面加工において主表面に形成された微細な凹凸形状を予め除去しておくことができる。その結果、後工程での主表面の研磨時間を短縮することができる。
【0038】
S15の「外周研磨工程」において、ガラス基板の外周端面について、ブラシ研磨による鏡面研磨を行なった。このとき研磨砥粒としては、一般的な酸化セリウム砥粒を含むスラリーを用いた。
【0039】
S16の「第1ポリッシュ工程」において、主表面研磨を行なった。この第1ポリッシュ工程は、上述の第1および第2ラップ工程(S12,S14)において主表面に残留したキズや反りを矯正することを主目的とするものである。この第1ポリッシュ工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により主表面の研磨を行なった。研磨剤としては、一般的な酸化セリウム砥粒を用いた。
【0040】
S17の「化学強化工程」において、ガラス基板1Gの主表面に対して表面強化層を形成した。具体的には、300℃に加熱された硝酸カリウム(70%)と硝酸ナトリウム(30%)の混合溶液中に、ガラス基板1Gを約30分間浸漬することによって化学強化を行なった。その結果、ガラス基板の内周端面および外周端面のリチウムイオンおよびナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換され、圧縮応力層が形成されることでガラス基板の主表面及び端面が強化された。
【0041】
S18の「第2ポリッシュ工程」において、主表面研磨工程を施した。この第2ポリッシュ工程は上述までの工程で発生、残存している主表面上の微小欠陥等を解消して鏡面状に仕上げること、反りを解消し所望の平坦度に仕上げることを目的とする。この第2ポリッシュ工程は、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により研磨を行なった。研磨剤としては、平滑面を得る為に平均粒径が約20nmのコロイダルシリカを用いた。
【0042】
S19の「最終洗浄工程(Final Cleaning)」において、ガラス基板の主表面、端面の最終洗浄を実施する。これによりガラス基板上に残存する付着物を除去する。
【0043】
S20の「磁気薄膜層成膜工程」において、上述の工程を経て得られたガラス基板の洗浄後に、ガラス基板の両主表面に、Cr合金からなる密着層、CoFeZr合金からなる軟磁性層、Ruからなる配向制御下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、C系の保護層、F系からなる潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録方式の情報記録媒体を製造した。この構成は垂直磁気記録方式の構成の一例であり、面内情報記録媒体として磁性層等を構成してもよい。その後、S21の「後熱処理工程」を実施することで、情報記録媒体が完成する。
【0044】
<実施例>
以下、上述した工程により得られた磁気記録媒体用ガラス基板および情報記録媒体について、最終洗浄工程(S19)の具体的な洗浄工程を、実施例および比較例として説明する。
【0045】
(実施例1)
上記「最終洗浄工程(S19)」において、図4に示す洗浄装置100を用いて、ガラス基板の洗浄を実施した。この洗浄装置100は、ガラス基板ロードステーションLD、第1洗浄ステーション101(酸またはアルカリを用いた洗浄)、第2洗浄ステーション102(ロールスクラブ洗浄)、第3洗浄ステーション103(リンスまたはアルカリを用いた洗浄)、第4洗浄ステーション104(カップスクラブ洗浄)、第5洗浄ステーション105(リンス洗浄)、第6洗浄ステーション106(リンス洗浄)、第7乾燥ステーション107(乾燥)、および、ガラス基板アンロードステーションULDを有し、各ステーション間をガラス基板が順次搬送される。
【0046】
第1洗浄ステーション101、第2洗浄ステーション102、第3洗浄ステーション103、および第4洗浄ステーション104には濃度約2%のアルカリ洗剤を使用した。第2洗浄ステーション102では、ロールスクラブ洗浄装置200を用いたロールスクラブ洗浄を行なった。第4洗浄ステーション104では、カップスクラブ洗浄装置300を用いたカップスクラブ洗浄を行なった。
【0047】
第5洗浄ステーション105および第6洗浄ステーション106ではリンス洗浄、第7乾燥ステーション107では乾燥工程を行なった。第7乾燥ステーション107での乾燥工程は、IPAベーパーを用いたがこれに限らず温純水乾燥、スピン乾燥等でもよい。
【0048】
上記第2洗浄ステーション102のロールスクラブ洗浄から第4洗浄ステーション104のカップスクラブ洗浄への移行においては、第2洗浄ステーション102から第3洗浄ステーション103への移行、および、第3洗浄ステーション103から第4洗浄ステーション104への移動において、ガラス基板の主表面を乾燥させないで移行させる。ガラス基板の主表面を乾燥させないで移行とは、各洗浄工程間でガラス基板表面の全面が濡れていることを意味する。ガラス基板の表面の一部でも乾燥すると、その箇所に存在する付着物は、次洗浄工程で除去困難になるからである。
【0049】
(ロールスクラブ洗浄)
図5から図8を参照して、第2洗浄ステーション102における、ロールスクラブ洗浄装置200を用いたロールスクラブ洗浄について説明する。図5は、ロールスクラブ洗浄工程に用いられるロールスクラブ洗浄装置200の構成を示す模式図(斜視図)、図6は、ロールスクラブ洗浄工程に用いられるロールスクラブ洗浄装置200の構成を示す概念図(平面図)、図7および図8は、ロールスクラブ洗浄工程の洗浄状態を示す第1および第2概念図である。
【0050】
図5および図6を参照して、ロールスクラブ洗浄装置200は、相互に平行に併置された第1ローラ216aおよび第2ローラ216bを有する。第1ローラ216aの表面には、スポンジブラシ211aが巻き付けられている。同様に、第2ローラ216bの表面には、スポンジブラシ211bが巻き付けられている。スポンジブラシ211aおよびスポンジブラシ211bの表面には、複数の突起211pが設けられている。
【0051】
第1ローラ216aおよび第2ローラ216bの間には、ガラス基板1Gが挟みこまれ、ガラス基板1Gの下端は、回転支持ローラ213により回転可能に支持されている。
【0052】
第1ローラ216aおよび第2ローラ216bは、制御装置215により、図示しない駆動装置により、図中の矢印R1および矢印R2の方向(カウンタ方向)に回転制御される。回転支持ローラ213は、制御装置215により、図示しない駆動装置により、図中の矢印R3の方向に回転制御される。これにより、ガラス基板1Gは、図中の矢印R4の方向に回転する。
【0053】
第1ローラ216aおよび第2ローラ216bの上方には、洗浄剤吐出ノズル214が設けられ、洗浄剤吐出ノズル214からガラス基板1Gに向けて洗浄剤が供給される。
【0054】
図7を参照して、ロールスクラブ洗浄装置200を用いた、ガラス基板1Gの洗浄においては、ガラス基板1Gが回転支持ローラ213により回転させられた状態で、スポンジブラシ211aおよびスポンジブラシ211bが、回転することでガラス基板1Gの表面が洗浄される。
【0055】
スポンジブラシ211aおよびスポンジブラシ211bには、複数の突起211pが設けられていることから、この突起211pの作用点に押圧力が集中する。これにより、物理的な洗浄効果を高めることができる。図8に示すように、ガラス基板1Gから見た突起211pの軌跡Tは、ガラス基板1Gの円周方向に形成され、ガラス基板1GのパーティクルPは、この軌跡に沿って除去される。
【0056】
(カップスクラブ洗浄)
次に、図9から図12を参照して、第4洗浄ステーション104における、カップスクラブ洗浄装置300を用いたカップスクラブ洗浄について説明する。図9は、カップスクラブ洗浄工程に用いられるカップスクラブ洗浄装置300の構成を示す模式図(正面図)、図10は、カップスクラブ洗浄工程に用いられるカップスクラブ洗浄装置300の構成を示す模式図(側面図)、図11および図12は、カップスクラブ洗浄工程の洗浄状態を示す第1および第2概念図である。
【0057】
図9および図10を参照して、カップスクラブ洗浄装置300は、回転軸321から放射状に配置された柱状の複数のスポンジブラシ323を有する。このスポンジブラシ323は、回転軸321の軸方向に沿って所定の間隙を隔てて複数配置されている。回転軸321の両端には、端部円盤322が設けられている。
【0058】
軸方向に隣接するスポンジブラシ323の間には、ガラス基板1Gが挟みこまれる。ガラス基板1Gの下端は、回転支持ローラ313により回転支持されている。
【0059】
回転軸321は、制御装置315により、図示しない駆動装置により、図中の矢印R11の方向に回転制御される。その動作につられて、ガラス基板はR14とは逆方向に回転されながら洗浄される。このとき、回転支持ローラ313は、支持ローラーのみの役割で、回転支持ローラ313はスポンジブラシ323の回転に追従して回転する。
【0060】
スポンジブラシ323の上方には、洗浄剤吐出ノズル314が設けられ、洗浄剤吐出ノズル314からガラス基板1Gに向けて洗浄剤が供給される。
【0061】
図11を参照して、ロールスクラブ洗浄装置300を用いた、ガラス基板1Gの洗浄においては、スポンジブラシ323が、回転することでガラス基板1Gの表面が洗浄される。
【0062】
図12に示すように、ガラス基板1Gから見た柱状のスポンジブラシ323の軌跡Tは、ガラス基板1Gの表面において扇型に形成され、ガラス基板1GのパーティクルPは、この軌跡に沿って除去される。これにより、スポンジブラシ323による仕事面積を大きく確保することができる。
【0063】
図8に示したように、ロールスクラブ洗浄では突起211pの部分に力が集中し、その軌跡T上に存在する比較的大きなサイズ(500nm〜数μm)の付着物除去には適しているが、小さいサイズ(500nm以下)の付着物を完全に除去するのは困難である。また、突起211pが当接した位置にスタンプマークがつき易い。
【0064】
一方、カップスクラブ洗浄は、柱状のスポンジブラシ323の軌跡Tはガラス基板の表面を万遍なく掃くように通過することから、小さいサイズの付着も外周付近の1箇所に寄せ集めて取り除く効果がある。また、スタンプマークは付きにくい。
【0065】
よって、カップスクラブ洗浄とロールスクラブ洗浄とを組み合わせることで、両者の利点により両者の欠点を補うことができ、洗浄効果をより高めることができる。以上より、ロールスクラブ洗浄のみの場合は、小さいサイズの付着物を除去しきれない。カップスクラブ洗浄のみの場合は、大きな付着物の存在により、スポンジブラシがガラス基板の表面を一様に掃く作用を阻害する為に、結果的に小さいサイズの付着物が残存してしまったり、大きな付着物を引きずって微小クラックを発生させてしまう可能性がある。大きな付着物を除去後に小さい付着物を除去するという、両方の組み合わせが必要である。
【0066】
なお、ロールスクラブ洗浄の第1ローラ216aおよび第2ローラ216bの回転数は約700rpm、カップスクラブ洗浄の柱状のスポンジブラシ323の回転数は約110rpmとした。
【0067】
回転数が小さすぎると仕事量が小さくなり、大きすぎると摩擦係数が小さくなる。その結果、ガラス基板へのスポンジブラシ面圧が小さくなり仕事量が小さくなる。そこで、ロールスクラブ洗浄では500rpm〜1000rpmが好ましく、カップスクラブ洗浄では100rpm〜120rpmが好ましい。
【0068】
本実施例1では、図4に示すように一体式の洗浄装置100を用いたが、ロールスクラブ洗浄装置、カップスクラブ洗浄装置、各洗浄ステーションを用いてガラス基板を乾かさずに移送するのであれば、図4に示すように一体式の洗浄装置100を用いなくてもよい。
【0069】
(実施例2)
次に、実施例2における、上記「最終洗浄工程(S19)」について、図13および図14を参照して説明する。図13は、ロールスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図、図14は、カップスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図である。
【0070】
上記実施例1における「最終洗浄工程」との相違は、第2洗浄ステーション102におけるロールスクラブ洗浄、および、第4洗浄ステーション104におけるロールスクラブ洗浄をいずれも、図13および図14に示すように、流れる水中(流水槽)で洗浄を行なった点にある。
【0071】
流れる水中(流水槽)で洗浄を行なうことで、各スポンジブラシによってガラス基板を洗浄する際に、ガラス基板から除去された付着物がスポンジブラシに再付着するのを回避することができる。
【0072】
(実施例3)
次に、実施例3における、上記「最終洗浄工程(S19)」について、図15および図16を参照して説明する。図15は、ロールスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図、図16は、カップスクラブ洗浄の洗浄状態を示す概念図である。
【0073】
上記実施例2における「最終洗浄工程」との相違は、ロールスクラブ洗浄およびカップスクラブ洗浄を流れる水中(流水槽)で行いながら、さらに、図15および図16に図示するように、流水槽の下部に超音波発振装置400を設置し、流水槽に超音波を印加して、ガラス基板の洗浄を行なった。
【0074】
本実施例では、超音波発振装置400を用いて、120kHzの超音波を印加した。これにより、ガラス基板の洗浄能力がさらに向上した。使用する超音波の周波数は、80kHz〜430kHzの範囲が好ましく、さらに120kHz〜170kHzの範囲が好ましい。
【0075】
(実施例4)
次に、実施例4における、上記「最終洗浄工程(S19)」について説明する。上記実施例3との相違は、第4洗浄ステーション104におけるカップスクラブ洗浄の後の第5洗浄ステーション105のリンス洗浄工程において、高周波洗浄を実施した点にある。
【0076】
第5洗浄ステーション105のリンス洗浄工程において印加した高周波の周波数は、950kHzである。ロールスクラブ洗浄およびカップスクラブ洗浄の順でガラス基板を洗浄することで、おおよその付着物が除去できる。
【0077】
しかし、使用している研磨材コロイダルシリカのような大きさを考えると、粒径20nm(平均粒径)〜100nm(若干凝集)の付着物をガラス基板の主表面から完全に除去するには、高周波洗浄によるマイクロストリーミング効果が最適であった。
【0078】
なお、高周波の周波数は、430〜950kHzの範囲が好ましい。これは、一般的に、超音波洗浄のキャビテーションと加速度の関係から、超音波の周波数が430kHzよりも低周波の場合はサイズの大きな付着除去に有効であり、超音波の周波数が950kHよりも高周波の場合は小さな付着除去に有効だからである。
【0079】
(実施例5)
次に、実施例5における、上記S19の「最終洗浄工程」について説明する。上記実施例4との相違は、第5洗浄ステーション105のリンス洗浄工程において、高周波洗浄とともに機能水として水素水を用いた。水素濃度が低すぎると効果が得られず、水素濃度が高すぎると槽内に水素によるバブリング現象が発生するため、水素濃度は、0.7ppmで実施した。
【0080】
なお、水素水の水素濃度は、0.5〜1ppmの範囲が好ましい。これは、濃度が0.5ppmよりも低くすぎると、ただの脱気水(水中の酸素、窒素を除去した状態)で微粒子除去効果が薄れるからであり。濃度が1ppmよりも濃すぎる場合、水素の飽和濃度が1.6ppm程度なので、水素の気泡が発生してしまい高周波洗浄の外乱因子になってしまうからである。
【0081】
本実施例では、機能水として水素水を用いたが、ガラス基板に残存する微小付着物を除去するには、高周波洗浄の効率の向上が図れる水素水が最適であった。ガラス基板の組成によっては、オゾン水との組み合わせがよい場合もある。
【0082】
(実施例6)
次に、実施例6における、上記S19の「最終洗浄工程」について説明する。この実施例においては、上記実施例5との相違は、第6洗浄ステーション106のリンス洗浄工程において、除去した微小付着物をフィルターで捕捉するため、開口径が0.02μmのフィルターを用いた。
【0083】
これは、槽内をポンプ循環し、最適な開口のフィルターで付着物を捕捉する必要があるからであり、ガラス基板の製造工程の中で、最終研磨工程で使用している研磨材のサイズは0.02μmであり、実際は凝集している為に、研磨材のサイズは、0.02μm〜0.1μmと想定されます。よって、開口径が0.02μmのフィルターを用いることが好ましい。
【0084】
(比較例1)
上記S19の「最終洗浄工程(Final Cleaning)」において、比較例1として、以下の洗浄工程を実施した。図7および図8に示すロールスクラブ洗浄装置を用いたロールスクラブ洗浄を行なった。上部よりシャワーで洗剤をかけながらスポンジブラシの回転数は700rpmとした。その後、ガラス基板を乾燥させない状態で別の洗浄機で最終洗浄を実施した。
【0085】
洗剤槽(1)、洗剤槽(2)、純水槽(1)、純水槽(2)、IPA(イソプロピルアルコール)の順で各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄を各5min実施した。洗剤槽(1)では80kHz、洗剤槽(2)では80kHz、純水槽(1)では80kHz、純水槽(2)では80kHzの超音波周波数とした。その後、IPAによる蒸気乾燥を行なった。
【0086】
(比較例2)
上記S19の「最終洗浄工程(Final Cleaning)」において、比較例2として、以下の洗浄工程を実施した。図9および図10に示すカップスクラブ洗浄装置を用いたカップスクラブ洗浄を行なった。上部よりシャワーで洗剤をかけながらスポンジブラシの回転数は110rpmとした。その後、ガラス基板を乾燥させない状態で別の洗浄機で最終洗浄を実施した。
【0087】
洗剤槽(1)、洗剤槽(2)、純水槽(1)、純水槽(2)、IPA(イソプロピルアルコール)の順で各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄を各5min実施した。洗剤槽(1)では80kHz、洗剤槽(2)では80kHz、純水槽(1)では80kHz、純水槽(2)では80kHzの超音波周波数とした。その後、IPAによる蒸気乾燥を行なった。
【0088】
実施例1から6、比較例で作製したガラス基板を用いて、図17に示す浮上テストを実施した。磁気ヘッド2Dがサスペンション2Cにより保持され、磁気ヘッド2Dのガラス基板1G表面からの浮上量(浮上高さ)をF1とする。
【0089】
通常はガラス基板1G上に磁気薄膜層を成膜して、情報記録媒体(磁気ディスク記録媒体)の状態で試験を行なうが、今回はガラス基板1G上に潤滑層のみを形成して浮上テストを実施した。その理由について、図18から図20を参照して説明する。
【0090】
図18に示すように、ガラス基板1G上に付着物1pが存在し、図19に示すように、付着物1pの上に磁気薄膜層401,402,403(約100nm)が形成されると、付着物1p付着物の実際の突起高さよりも情報記録媒体での付着物による突起高さは小さくなる(h4)。これは、付着物1pが成膜の過程により徐々に埋没していくためである。
【0091】
よって、図20に示すように、ガラス基板1G上に潤滑層401(約数nm)のみを形成して浮上テストを行なうほうが、より過酷な試験となる。
【0092】
図21に、実施例1から6および比較例1、2の浮上テストおよび全面走査後のエラー発生率(n=100)の結果を示す。各実施例および比較例においては、100枚のガラス基板に対して、浮上テストを行ない、エラー発生率を調査した。
【0093】
いずれの実施例1から6においても、比較例よりも良好な結果となった。なお、浮上テストにおいて、「◎◎」は、実用途で申し分のないレベルであり、「◎」は、十分使用可能なレベルであり、「○」は、使用可能なレベルあり、「×」は、不良多発で実用途には適さないレベルである。
【0094】
また、実施例1から6においては、ガラス基板の製造過程で生じる不良を低減することが可能となり、各実施例で製造した情報記録媒体(磁気ディスク)は、ガラス基板での浮上テストの結果を反映しており、ヘッドクラッシュ等の発生がなく高密度容量の磁気ディスクとして申し分なく使用できる品質であった。
【0095】
以上、磁気ヘッドの浮上量が5nm以下のDFH機構を採用した情報記録装置において、面記録密度が630Gb/平方インチ以上の高密度の情報記録媒体であっても、磁気ヘッドによる安定した情報の書込みおよび読出しを実行することが可能となる。
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
1 情報記録媒体、1G 情報記録媒体用ガラス基板、2 情報記録装置、11 孔、12 外周端面、13 内周端面、14 表主表面、15 裏主表面、23 磁気薄膜層、200 ロールスクラブ洗浄装置、216a 第1ローラ、216b 第2ローラ、211a,211b,323 スポンジブラシ、211p 突起、213 回転支持ローラ、215,315 制御装置、300 カップスクラブ洗浄装置、321 回転軸、322 端部円盤、214,314 洗浄剤吐出ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、
化学強化処理により、ガラス基板の主表面に表面強化層を形成する工程と、
前記主表面に前記表面強化層を形成した後、前記主表面の研磨を行なう工程と、
前記主表面の研磨を行なった後に、前記ガラス基板の洗浄を行なう工程と、を備え、
前記ガラス基板の洗浄を行なう工程は、
ロールスクラブ洗浄装置を用いて前記ガラス基板に対してロールスクラブ洗浄を行なう工程と、
前記ロールスクラブ洗浄の後に、カップスクラブ洗浄装置を用いて前記ガラス基板に対してカップスクラブ洗浄を行なう工程と、を含み、
前記カップスクラブ洗浄は、前記ロールスクラブ洗浄後の前記ガラス基板の主表面が乾かないうちに実施する、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記ロールスクラブ洗浄および前記カップスクラブ洗浄は、それぞれ流水槽の中で行なう、請求項1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記ロールスクラブ洗浄および前記カップスクラブ洗浄は、それぞれ超音波を印加しながら前記ガラス基板の超音波洗浄を行なう、請求項2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板の洗浄を行なう工程は、前記カップスクラブ洗浄の後に、430〜950kHzの高周波を印加しながらリンス槽内において高周波洗浄を行なう工程を有する、請求項3に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記リンス槽内において、0.5〜1ppmの水素水を用いる、請求項4に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記リンス槽において、開口径が0.02μmのフィルターを用いる、請求項5に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−77351(P2013−77351A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216835(P2011−216835)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】