説明

情報記録媒体

【課題】青色レーザを使用し低速から高速に亘る情報の記録が可能で、情報の繰返し記録に対する耐久性に優れる情報記録媒体を提供する。
【解決手段】光透過性の基板11と、光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの第1誘電体層12、屈折率n且つ膜厚dの第1界面層13、相変化材料を含む記録層14、第2界面層15、第2誘電体層16及び反射層18を少なくとも備え、下記(1)式で表す関係を満たす情報記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体に関し、より詳しくは、情報の書換え可能な情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
DVD−RAM、DVD−RW等の書換え可能な記録型DVDでは、情報を記録する記録層に相変化材料を用いる相変化記録方式を採用している。相変化記録方式では、「0」及び「1」の情報を、それぞれ相変化材料の結晶状態及びアモルファス状態に対応させて記録する。
記録層の所定の位置をアモルファス状態にする(通常、この動作を「記録」と呼ぶ)には、比較的高パワーのレーザ光を照射し、記録層の温度が相変化材料の融点以上になるように加熱する。所定の位置を結晶状態にする(通常、この動作を「消去」と呼ぶ)には、比較的低パワーのレーザ光を照射し、記録層の温度が相変化材料の融点以下の結晶化温度付近になるように加熱する。
また、相変化材料を用いる記録型DVDの転送レートを向上させる方法としては、媒体の回転数を上げ、短時間で記録消去を行う方法が一般的である。このような高転送レートに対応する記録層の材料としては、例えば、Ge−Sn−Sb−Te系材料に、Ag、Al、Cr、Mn等の金属を添加した材料が報告されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−322357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、書換え型の情報記録媒体の大容量化を図るために青色レーザ(波長400nm〜410nm)が使用され、これに適合する様々な記録層用の材料が提案されている。また、高速化に対応するように、転送速度の増大が可能な記録膜が報告されている。
しかしながら、相変化材料を使用し、低速でも高速でも記録が可能な書換え型情報記録媒体について検討が進んでいないのが実情である。すなわち、高速記録に対応する結晶化速度が速い相変化材料を含む記録層に低速で記録する場合、記録層を形成する相変化材料の記録後の冷却速度が遅いために再結晶化するという問題がある。
また、結晶化速度が速い相変化材料を含む記録層に、低速の記録速度で繰り返し情報の記録を行うと、100回程度の書換え記録回数で、情報の再生特性が劣化するという問題がある。
さらに、記録したデータを再生専用のプレーヤで読み出す際、トラッキングサーボに必要なDPD(Difference Phase Detection)信号が十分に得られないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、青色レーザを使用して繰り返し情報を記録する情報記録媒体において、低速から高速に亘る情報の記録が可能で、情報の繰返し記録に対する耐久性に優れ、良好なDPD信号振幅を得る情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(5)が提供される。
(1) 光の照射により情報の記録又は書換えが可能な情報記録媒体であって、光透過性の基板と、基板上に、光の入射側から見て順に、光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの第1誘電体層と、光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの界面層と、相変化材料を含み、光の照射による原子配列の変化により情報を記録する記録層と、第2誘電体層及び反射層、とを少なくとも備え、第1誘電体層と界面層とが、下記(1)式で表す関係を満たすことを特徴とする情報記録媒体。
【0007】
【数1】

【0008】
(2) 第2誘電体層は、光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dであり、さらに、下記(2)式で表す関係を満たすことを特徴とする(1)に記載の情報記録媒体。
【0009】
【数2】

【0010】
(3) 光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの第2誘電体層と反射層との間に、さらに、光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの第2界面層と、光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの保護層と、を有し、第2誘電体層、第2界面層及び保護層とが、下記(3)式で表す関係を満たすことを特徴とする(1)に記載の情報記録媒体。
【0011】
【数3】

【0012】
(4) 記録層中の相変化材料が、少なくとも、Bi元素、Ge元素及びTe元素を含むことを特徴とする(1)に記載の情報記録媒体。
(5) 第1誘電体層及び第2誘電体層が、ZnS−SiO材料を含むことを特徴とする(1)に記載の情報記録媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、相変化材料を用いる書換え型の情報記録媒体に、低速から高速に亘る情報の記録が可能である。
また、書換え型の情報記録媒体に繰り返して情報を記録する場合、情報の繰返し記録に対する耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0015】
(情報記録媒体)
図1は、本実施の形態としての情報記録媒体の層構造の一例を示す図である。図1に示すように、情報記録媒体10は、光透過性材料からなる基板11と、この基板11上のレーザ光Lが入射する側と反対側に、第1誘電体層12、第1界面層13、相変化材料を含む記録層14、第2界面層15、第2誘電体層16、保護層17、反射層18、接着剤層19及びダミー基板20とを順次積層する構造を有する。
【0016】
第1誘電体層12は、レーザ光Lの波長λでの屈折率n且つ膜厚dを有する。第1界面層13は、レーザ光Lの波長λでの屈折率n且つ膜厚dを有する。記録層14は、相変化材料を含みレーザ光Lの照射による原子配列の変化により情報を記録する。第2界面層15は、レーザ光Lの波長λでの屈折率n且つ膜厚dを有する。第2誘電体層16は、レーザ光Lの波長λでの屈折率n且つ膜厚dを有する。
保護層17は、レーザ光Lの波長λでの屈折率n且つ膜厚dを有する。
尚、基板11の表面は、所定の規格に基づく物理フォーマットに基くトラッキング用のプリグルーブ11aを有する。
【0017】
また、情報記録媒体10に情報を記録又は再生するために、レーザ光Lとして、例えば、波長410nm以下の青色レーザ(波長400〜410nm)を使用する。レーザ光Lは、レーザビーム又は単に光と記すことがある。本実施の形態では、レーザ光Lは、情報記録媒体10上に熱を発生させることが可能な光ビームであり、複数の屈折率が異なる干渉層により、多重干渉効果を得る光ビームである。また、本実施の形態は、青色レーザ(波長400〜410nm)を使用するが、これに限定されず、例えば、赤色レーザ、紫外線レーザ等の比較的短波長のレーザを使用する高密度光情報記録媒体に対しても効果を発揮する。
【0018】
(基板11)
基板11は、光透過性材料を用いて形成する。本実施の形態では、ポリカーボネート樹脂を用いて、内径(センターホール)15mm、外径120mm、厚さ0.6mmのディスク状に形成する。基板11の表面には、所定の規格に基づく物理フォーマットで、螺旋状のプリグルーブ11aを形成する。プリグルーブ11aには、ディスク認識情報やアドレス情報等を予め記録する。これらの情報はプリピットによっても形成可能である。なお、情報記録用のトラックとしては溝又は溝間のどちらか一方を用いる。本実施の形態では、プリグルーブ11aは、トラックピッチ0.4μm、溝深さ28nmである。
【0019】
基板11の材料としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂(特に非晶質ポリオレフィン)、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂;ガラス、ガラス上に光硬化性樹脂等の樹脂層を設けたもの等が挙げられる。中でも、射出成型性の観点からポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂を用いる場合、基板11の青色レーザでの屈折率は1.6前後である。
【0020】
(第1誘電体層12)
第1誘電体層12は、記録層14中の相変化材料の相変化の際に、例えば、ポリカーボネート樹脂製の基板11への熱ダメージを低減する目的で設ける。第1誘電体層12の材料は、特に限定されないが、例えば、ZnS・SiOの混合物;SiO、Al、Cr、SnO、Ta等の酸化物;SiN、GeN、TaN、AlN等の窒化物等が挙げられる。中でも、ZnS−SiO材料を含むことが好ましい。
本実施の形態では、第1誘電体層12は、基板11上に、スパッタリングにより、(ZnS)80(SiO20(モル%)の混合物の膜を形成する。
【0021】
第1誘電体層12の膜厚dは、後述する(1)式の関係を満たすように調節し、この範囲内であれば特に限定されないが、通常、40nm〜150nmで、好ましくは、50nm〜70nmである。
第1誘電体層12の青色レーザでの屈折率nは、後述する(1)式の関係を満たす範囲内であれば特に限定されないが、通常、基板11の屈折率より大きいことが好ましく、さらに、屈折率が2.0以上であることが特に好ましい。これにより、基板11と第1誘電体層12の間において光の反射が起こり、この反射を利用する光学干渉効果により、記録層14の未記録部(結晶)と記録部(アモルファス)の反射率変化を大きくすることができる。
【0022】
(第1界面層13)
第1界面層13は、第1誘電体層12と記録層14との間で両層の構成元素が互いに侵入、拡散及び化学反応することを防止し、両層の剥離を抑制する。第1界面層13は、例えば、(Cr−Ta−O)をスパッタリングすることにより製膜する。本実施の形態では、第1界面層13は、(Ta40(Cr60のスパッタリングにより、膜を形成する。
【0023】
第1界面層13の膜厚dは、後述する(1)式の関係を満たすように調節し、この範囲内であれば特に限定されないが、通常、1nm〜6nmである。
第1界面層13の青色レーザでの屈折率nは、後述する(1)式の関係を満たす範囲内であれば特に限定されないが、通常、基板11の屈折率より大きいことが好ましく、さらに、屈折率が2.0以上であることが特に好ましい。
【0024】
(記録層14)
記録層14は、レーザ光Lの照射により原子配列が2つの異なる状態間(アモルファス相−結晶相)で可逆的に変化する相変化材料を含む。
相変化材料としては、例えば、SbTe合金、GeTe合金、GeSbTe合金、InSbTe合金、AgInSbTe合金、MAGeSbTe合金(MAはAu、Cu、Pd、Ta、W、Ir、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Ag、Tl、S、Se及びPtのうちの少なくとも1元素)、SnSbTe合金、InSeTl合金、InSeTlMB合金(MBはAu、Cu、Pd、Ta、W、Ir、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Ag、Tl、S、Se及びPtのうちの少なくとも1元素)、SnSbSe合金、SnGeSbTe合金、GeSbTe合金、BiGeTe合金等が挙げられる。なかでも、相変化材料が、少なくとも、Bi元素、Ge元素及びTe元素を含むことが好ましく、BiGeTe合金が、さらに好ましい。記録層14の厚さは、通常、15nm以下、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは、4nm〜8nmである。
【0025】
本実施の形態では、第1界面層13上に、BiGeTeターゲットをArガス雰囲気中でスパッタし、所定の膜厚のBiGeTe膜を形成する。この記録層14に波長410nm以下のレーザ光Lを照射することにより、相変化材料の原子配列がアモルファス相−結晶相間で可逆的に変化し、2つの異なる原子配列の状態により情報を記録する。
【0026】
(第2誘電体層16)
第2誘電体層16は、記録層14中の相変化材料の相変化による基板11への熱ダメージを低減する目的で設ける。第2誘電体層16の材料は、前述の第1誘電体層12の材料と同様なものが挙げられ、特に限定されない。本実施の形態では、第1誘電体層12は、基板11上に、スパッタリングにより、(ZnS)80(SiO20(モル%)の混合物の膜を形成する。
【0027】
第2誘電体層16の膜厚dは、後述する(2)式の関係を満たすように調節し、この範囲内であれば特に限定されないが、通常、5nm〜20nmで、好ましくは、6nm〜10nmである。
第1誘電体層12の青色レーザでの屈折率nは、後述する(2)式の関係を満たす範囲内であれば特に限定されないが、通常、2.0以上であることが特に好ましい。
【0028】
(第2界面層15)
第2界面層15は、記録層14と第2誘電体層16との間で両層の構成元素が互いに侵入、拡散及び化学反応することを防止するために、必要に応じて設ける。第2界面層15は、前述した第1界面層13と同様な材料のほか、Cr等をスパッタリングすることにより製膜する。
【0029】
第2界面層15の膜厚dは、後述する(3)式の関係を満たすように調節し、この範囲内であれば特に限定されないが、通常、1nm〜6nmである。
第2界面層13の青色レーザでの屈折率nは、後述する(3)式の関係を満たす範囲内であれば特に限定されないが、通常、2.0以上であることが好ましい。
【0030】
(保護層17)
保護層17は、第2誘電体層16と反射層18との化学反応を防止するために、必要に応じて設けられる。
保護層17の膜厚dは、後述する(3)式の関係を満たすように調節し、この範囲内であれば特に限定されないが、通常、0.5nm〜10nmである。
保護層17の青色レーザでの屈折率nは、後述する(3)式の関係を満たす範囲内であれば特に限定されないが、通常、1.7以上であることが好ましい。
本実施の形態では、保護層17は、第2誘電体層16上に、スパッタリングにより、膜厚5nm以下の(Ta80(Cr20の膜を形成する。
【0031】
(反射層18)
反射層18は、基板11側から入射し、記録層14を透過する波長410nm以下のレーザ光Lを反射するとともに、情報の記録・再生時に、相変化材料を含む記録層14から発生する熱を逃がすための層である。
反射層18は、金属または合金をスパッタリングにより、膜厚50〜200nmで形成する。具体的な材料としては、例えば、Au、Al、Ag、Cu、Ti、Cr、Ni、Pt、Ta、CrおよびPdの金属を単独又は合金が挙げられる。さらに、これらを主成分として、例えば、Mg、Se、Hf、V、Nb、Ru、W、Mn、Re、Fe、Co、Rh、Ir、Cu、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi等の金属および半金属を含むこともできる。これらの中でも、Agを90mol%以上含有するAg合金がさらに好ましい。
【0032】
(接着剤層19)
接着剤層19に使用する接着剤は、接着力が高く、硬化接着時の収縮率が小さく、環境保存安定性が高い材料が好ましい。また、反射層18にダメージを与えない材料が望ましい。接着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、感圧式両面テープ等が挙げられる。中でも、紫外線硬化性樹脂が好ましい。この場合、接着剤層19は、紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外光を照射して硬化することによって形成する。塗布方法としては、スピンコート法、スクリーン印刷、キャスト法等の塗布法等の方法が挙げられる。中でもスピンコート法が好ましい。
【0033】
(ダミー基板20)
ダミー基板20の材料は、機械的安定性が高く、剛性が大きく、射出成形等の成形性に優れるものであれば特に限定されない。また、吸湿性が小さいことが好ましい。このような材料としては、基板11に用いる材料の他、ABS樹脂、フィラー含有エポキシ樹脂、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等が挙げられる。ダミー基板20は、基板11のように光透過性や光学特性を備える必要はない。本実施の形態では、ダミー基板20として、厚さ0.6mmのポリカーボネート樹脂製基板を、接着剤層19により反射層18上に貼着する。
【0034】
(第1誘電体層12及び第1界面層13の光学特性)
本実施の形態としての情報記録媒体10は、レーザ光Lの波長λでの屈折率n且つ膜厚dを有する第1誘電体層12と、レーザ光Lの波長λでの屈折率n且つ膜厚dを有する第1界面層13とが、下記(1)式で表す関係を満たす光学特性を有する。
【0035】
【数4】

【0036】
第1誘電体層12と第1界面層13とを、(1)式で表す関係を満たすように形成することにより、情報記録媒体10の低速から高速に亘る情報の記録が可能となる。また、情報の繰返し記録に対する耐久性が向上する。
(1)式で表す左辺の数値が0.48未満では、DPDが仕様値を満足することができない。また、(1)式で表す左辺の数値が0.57を超える場合は、反射率が仕様値を下回ってしまう。
従来、相変化材料を使用する書換え型の情報記録媒体では、相変化材料を含む記録層に対して光の入射側に設ける第1誘電体層(屈折率n,膜厚d)及び第1界面層(屈折率n,膜厚d)は、前述の(1)式の左辺({(n+n)/λ})が、(3/8)=0.375前後になるように設定されている。
しかし、この条件では、相変化材料を含む記録層に情報を低速で記録する場合の熱分布と、高速で記録する場合の熱分布との変化が大きくなり、記録層を構成する相変化材料の結晶化速度の設定が困難となる。
【0037】
本実施の形態としての情報記録媒体10の場合は、前述の(1)式の左辺({(n+n)/λ})の数値を、従来の場合と比べ大きくなるように、第1誘電体層12及び第1界面層13の屈折率及び膜厚を設定する。具体的には、第1誘電体層12または第1界面層13の膜厚を厚くし、好ましくは第1誘電体層12の膜厚を厚くし、基板11側から入射するレーザ光Lの記録層14までの光路長を長くすることにより、情報記録媒体10の低速から高速に亘る情報の記録が可能となり、記録パワー感度の劣化を抑制する。
【0038】
(第2誘電体層16の光学特性)
本実施の形態では、レーザ光Lの入射側から見て反射層18の手前に設ける第2誘電体層16(屈折率n,膜厚d)は、情報記録媒体10は、下記(2)式で表す関係を満たす光学特性を有することが好ましい。
【0039】
【数5】

【0040】
(2)式で表す左辺の数値が過度に小さい場合は、反射率が高く、変調度が悪く、DPDが低下する傾向がある。
【0041】
(第2誘電体層16、第2界面層15及び保護層17の光学特性)
さらに、本実施の形態では、レーザ光Lの入射側から見て第2誘電体層16(屈折率n,膜厚d)の手前に第2界面層15(屈折率n,膜厚d)を設け、第2誘電体層16の後ろ側に保護層17(屈折率n,膜厚d)を設ける場合は、情報記録媒体10は下記(3)式で表す関係を満たす光学特性を有することが好ましい。
【0042】
【数6】

【0043】
(3)式で表す左辺の数値が過度に小さい場合では、DPDが仕様値を満足することができない傾向がある。また、(3)式で表す左辺の数値が過度に大きい場合は、反射率が仕様値を下回る傾向がある。
具体的には、情報記録媒体10の記録層14と反射層18との間に設ける第2誘電体層16の膜厚を薄くすることにより、記録層14から反射層18への熱伝導が容易となる。その結果、記録層14に低速で記録する場合の熱分布と、高速で記録する場合の熱分布の変化を少なく抑えることができる。
また、第2誘電体層16の膜厚を薄くすることにより考えられる反射率の増加、記録パワー感度の劣化の問題は、前述のように、レーザ光Lの入射側から見て記録層14の手前に設ける第1誘電体層12及び第1界面層13の膜厚を、(1)式の関係を満たすように厚くすることにより抑制する。
【0044】
(スパッタ装置)
本実施の形態において、情報記録媒体10を調製する際に使用するスパッタ装置としては、例えば、複数のチャンバーを有し、各チャンバーに一つのスパッタターゲットを設け、情報記録媒体用の基板を、順次、各チャンバー間に搬送する枚葉式のスパッタ装置が好ましい。
本実施の形態では、合計12室のチャンバーを備えるスパッタ装置を使用する。12室のチャンバーの中、成膜プロセスに使用するプロセスチャンバーが9室、スパッタ中の基板加熱による基板変形を避けるためのクーリングチャンバーが2室有する。さらに、スパッタ装置に基板を搬送するとともに、成膜後の情報記録媒体をスパッタ装置から搬出するためのロードロックチャンバーを1室有する。
【0045】
各プロセスチャンバーは、それぞれの層を形成するのに適したスパッタ電源、複数のスパッタガス配管、スパッタガス流量を制御するためのマスフローコントローラー等を備える。各基板をそれぞれのチャンバーにセットし、各チャンバーにそれぞれ適したスパッタガスを導入し、その後、各チャンバーにおいてスパッタリングを行う。
クーリングチャンバーは、基板を冷却するための冷却板と、基板の熱を冷却板に放熱させるHeガスをクーリングチャンバーに導入するためのガス配管とを備える。
また、各基板を搬送するためのキャリアには、基板回転用の小型真空モーターを備え付ける。このモーターの電源には電源ケーブルが使用できないため、各キャリアが各チャンバーにセットされると同時に、各チャンバーとの接触部から電源を供給する。小型真空モーターにより基板回転を行うことにより、基板上に製膜する各層の組成均一性、膜厚均一性が大幅に向上する。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例に基づき本実施の形態をさらに詳細に説明する。なお、本実施の形態は以下の実施例に限定されない。
【0047】
(情報記録再生装置)
本実施例で調製する情報記録媒体に情報を記録及び再生するための情報記録再生装置について説明する。
図2は、本実施例において使用する情報記録再生装置の概略構成図である。図2に示すように、情報記録再生装置200は、モーター51と、光ヘッド52と、L/Gサーボ回路53と、再生信号処理系54と、記録信号処理系64とを備える。
再生信号処理系54は、増幅器55、アナログディジタル変換機56、等化器57、ヴィタビ復合器58、評価値算出器63を有する。
評価値算出器63は、遅延回路59、状態判定器61、参照テーブル62、評価値計算機60を有する。記録信号処理系64は、1−10変調器68、プリコーダ(NRZI)67、記録波形発生回路66、レーザ駆動回路65を有する。
【0048】
本実施例では、光ヘッド52は、波長405nmの半導体レーザ、開口数NA0.65の対物レンズを備える(不図示)。波長λのレーザ光のスポット径(およそ0.9×λ/NA)は、約0.6μmとなる。レーザ光の偏光を円偏光とする。
本実施例で使用する情報記録媒体のトラックピッチTPは0.4μmであり、トラックピッチTPと、波長λと、開口数NAとの間には、TP=0.64×(λ/NA)の関係が成立する。尚、情報記録再生装置200は、L/Gサーボ回路53により、ランドとグルーブに対するトラッキングを任意に選択する。
【0049】
次に、情報記録再生装置200の動作を説明する。記録再生を行う際のモーター制御方法は、記録再生を行うゾーン毎にディスクの回転数を変えるZCLV方式を採用する。また、情報記録の際に、マークエッジ方式を用い、ETM,RLL(1、10)変調方式で情報記録媒体上に情報を記録する。この変調方式により、情報を2T〜11Tのマーク長で記録する。ここで、Tは情報記録時のクロックの周期を表し、本実施例ではT=15.4nsである。この場合、最短2Tのマーク長はおよそ0.20μm、最長11Tのマーク長は約1.12μmとなる。すなわち、最短2Tのマーク長が、レーザ光のスポット径(約0.6μm)の約1/3になる。また、本実施例では、記録線速6.61m/secを1倍速とし、2倍速の記録速度は13.22m/secとする。
【0050】
先ず、1−10変調器68は記録装置外部から入力する情報を、上述の変調方式で変調し、2T〜11Tのデジタル信号として出力する。次いで、プリコーダ67はデジタル信号をNRZI符号に変換し、記録波形発生回路66に入力する。記録波形発生回路66は、2T〜11Tのデジタル信号に基づいて、情報記録時のレーザ光照射に必要なマルチパルス記録波形を生成する。本実施例では、マルチパルス記録波形の高パワーレベル領域を、幅約T/2の高パワーパルスと、高パワーパルス間に形成する幅約T/2の低パワーパルスとで構成する一連のパルス列で形成する。また、マルチパルス記録波形の一連のパルス列の間の領域は中間パワーレベルのパルスで構成する。この際、記録層に記録マークを形成(アモルファス化)するための高パワーレベルのパルス強度と、記録マークを結晶化させるための中間パワーレベルのパルス強度を、記録再生を行う情報記録媒体毎に最適な値に調整する。
【0051】
記録波形発生回路66は、2T〜11Tのデジタル信号波形を時系列的に交互に「0」と「1」に対応させる。「0」の場合は、中間パワーレベルのレーザパルスを照射し、「1」の場合は、高パワーパルスと低パワーパルスで構成する一連のパルス列を照射する。この際、情報記録媒体上の、中間パワーレベルのレーザパルスを照射する部分は結晶となり、高パワーパルスと低パワーパルスで構成する一連のパルス列を照射する部分はアモルファス(マーク部)に変化する。さらに、記録波形発生回路66は、高パワーパルスと低パワーパルスで構成する一連のパルス列を形成する際、マーク部の前後のスペース長に応じてマルチパルス波形の先頭パルス幅と最後尾のパルス幅が変化する方式(適応型記録波形制御)に対応するマルチパルス波形テーブルを有する。これによりマーク間に発生するマーク間熱干渉の影響を極力排除するマルチパルス記録波形を発生し、レーザ駆動回路65に転送する。
レーザ駆動回路65は、マルチパルス記録波形に基づき、光ヘッド52内の半導体レーザの発光を制御する。そして、半導体レーザから出射するレーザ光を光ヘッド52内の対物レンズにより情報記録媒体の記録層上に絞り込み、マルチパルス記録波形に対応したタイミングでレーザ光を照射し、情報を記録する。
【0052】
次に、情報記録媒体に記録した情報の再生動作を説明する。情報記録再生装置200は、本実施例で使用する情報記録媒体のグルーブ記録方式に対応する。
光ヘッド52からレーザ光を情報記録媒体の記録マーク上に照射し、記録マークと記録マーク以外の部分(未記録部分)からの反射光を光ヘッド52で検出して再生信号を得る。増幅器55は、再生信号の振幅を所定のゲインで増幅し、次いで、AD変換器56は、増幅した再生信号をデジタル再生信号に変換する。次に、等化器57はデジタル再生信号を使用するPR特性に応じた波形(再生信号系列)へと等化し、ヴィタビ復合器58及び評価値算出器63へ送る。
ヴィタビ復合器58は、再生信号系列を二値の識別データに復合する。識別データは、必要に応じて復調、誤り訂正等の処置を施された後、記録情報の再生が完了する。また、ヴィタビ復合器58は、出力する識別データも、評価値算出器63へ送る。一方、等化器57から評価値算出器63へ送るPR特性に応じた波形は、遅延回路59を介し評価値計算機60に入力する。
評価値算出器63は、等化器57から入力するPR特性に応じた波形と、ヴィタビ復合器58から入力する識別データとを用いてビットエラーレートを計算する。
尚、以下の実施例、参考例においては、図1に示す層構造を有する書換え型の情報記録媒体を使用する。
【0053】
(実施例1〜実施例11、参考例1〜参考例6)
トラックピッチ0.4μm、溝深さ28nm、厚さ0.6mmのグルーブ記録用ポリカーボネート製の基板上に、スパッタ装置を用いて各層を製膜し、表1に示すように、第1誘電体層、第1界面層及び第2誘電体層の膜厚が異なる17種類の情報記録媒体(A〜Q)を調製する。尚、各層を構成する材料及び厚さは以下の通りである。
第1誘電体層:(ZnS)80(SiO20(厚さd60nm〜105nm)
第1界面層:(Ta40(Cr60(厚さd5.5nm)
記録層:BiGe46Te50(厚さ13nm)
第2界面層:Cr(厚さd3nm)
第2誘電体層:(ZnS)80(SiO20(厚さd6nm〜14nm)
保護層:(Ta80(Cr20(厚さd3nm)
熱拡散層:Ag95RuCu(厚さ100nm)
【0054】
次に、エリプソメータを使用し、各情報記録媒体における第1誘電体層、第1界面層、第2界面層、第2誘電体層及び保護層の、記録再生レーザ光の波長405nmでの屈折率(n,n,n,n,n)を測定する。
各情報記録媒体(A〜Q)の屈折率の測定結果は以下の通りである。
第1誘電体層(ZnS)80(SiO):屈折率(n)2.3
第1界面層(Ta40(Cr60:屈折率(n)2.05
第2界面層:Cr:屈折率(n)2.45
第2誘電体層:(ZnS)80(SiO20:屈折率(n)2.3
保護層:(Ta80(Cr20:屈折率(n)2.3
【0055】
これら17種類の情報記録媒体について、表1に示す項目について再生信号特性を測定した。結果を表1に示す。尚、表1における測定項目は以下の通りである。
・情報記録媒体の(1)式の左辺の値
・情報記録媒体の(3)式の左辺の値
・反射率(規格値0.09〜0.18)
・変調度(規格値≧0.4)
・S1PW:1X記録の最適記録パワー(規格値≦10)
・SbER1−10:1X記録の10回書換え後の再生信号エラーレート(規格値≦5×10−5
・SbER1−10000:1X記録の10000回書換え後の再生信号エラーレート(規格値≦5×10−5
・S2PW:2X記録の最適記録パワー(規格値≦13)
・SbER2−10:2X記録の10回書換え後の再生信号エラーレート(規格値≦5×10−5
・SbER2−10000:2X記録の10000回書換え後の再生信号エラーレート(規格値≦5×10−5
・DPD:Difference Phase Detection信号(規格値≧0.2)
【0056】
【表1】

【0057】
表1の結果から、相変化材料を含む記録層に対して光の入射側に設ける第1誘電体層(屈折率n,膜厚d)及び第1界面層(屈折率n,膜厚d)を、前述の(1)式の左辺({(n+n)/λ})が0.48〜0.57の範囲になる情報記録媒体(実施例1〜実施例11)は、(1)式の左辺がこの範囲以外の設定で調製する情報記録媒体(参考例1〜参考例6)と比べて、変調度、記録パワー、SbER1−10、SbER2−10、SbER2−10000、DPDが良好である。これより、低速から高速に亘る情報の記録が可能であり、且つ、情報の繰返し記録に対する耐久性に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施の形態としての情報記録媒体の層構造の一例を示す図である。
【図2】実施例で使用する情報記録再生装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0059】
10…情報記録媒体、11…基板、12…第1誘電体層、13…第1界面層、14…記録層、15…第2界面層、16…第2誘電体層、18…反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射により情報の記録又は書換えが可能な情報記録媒体であって、
光透過性の基板と、
前記基板上に、光の入射側から見て順に、
前記光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの第1誘電体層と、
前記光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの界面層と、
相変化材料を含み、前記光の照射による原子配列の変化により情報を記録する記録層と、
第2誘電体層及び反射層、とを少なくとも備え、
前記第1誘電体層と前記界面層とが、下記(1)式で表す関係を満たす
ことを特徴とする情報記録媒体。
【数1】

【請求項2】
前記第2誘電体層は、前記光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dであり、さらに、下記(2)式で表す関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の情報記録媒体。
【数2】

【請求項3】
前記光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの前記第2誘電体層と前記記録層との間に、さらに、当該光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの第2界面層と、
前記第2誘電体層と前記反射層との間に前記光の波長λでの屈折率n且つ膜厚dの保護層と、を有し、
前記第2誘電体層、前記第2界面層及び前記保護層とが、下記(3)式で表す関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の情報記録媒体。
【数3】

【請求項4】
前記記録層中の前記相変化材料が、少なくとも、Bi元素、Ge元素及びTe元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の情報記録媒体。
【請求項5】
前記第1誘電体層及び前記第2誘電体層が、ZnS−SiO材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の情報記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate