説明

感光性組成物および2光子吸収光記録媒体

【課題】比較的低出力のレーザを用いて2光子吸収を惹起でき、2光子吸収の結果生じる高励起状態のエネルギーを重合などの化学反応の開始エネルギーに利用できる2光子吸収感光性組成物およびそれを用いた2光子吸収光記録媒体を提供する。
【解決手段】バインダーポリマー、重合性化合物、及び下記一般式(I)で表される化合物を含む感光性組成物。
一般式(I) D−L−A
(式中、Dは、400nmより長波の波長における2光子吸収断面積が100GM以上である2光子吸収化合物残基からなる光吸収部を表し、Aは、光励起された光吸収部Dと相互作用して遊離基を発生する活性部を表し、Lは、光吸収部Dと活性部Aとを連結する連結基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元的な光の検出あるいは画像形成に用いられる感光性組成物およびそれを用いた2光子吸収光記録媒体に関し、より詳しく言えば本発明は、強い光のみによって励起される大きな2光子吸収断面積を有する化合物を含有する2光子吸収感光性組成物およびそれを用いた2光子吸収光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、物質は励起エネルギーに相当するエネルギーの1光子を吸収して励起され、このエネルギーに満たないエネルギーの光子は吸収されない。しかし光の強度が非常に強い(光子密度が高い)場合には、2個の光子エネルギーの和が励起エネルギーに相当する2光子吸収が生起することがある。この性質を利用すると光をレンズで絞り込んだ焦点付近のみで光反応を起すことができ、空間の任意の位置を選択して励起状態を作って利用することができる。しかし2光子吸収は通常非常に起こりにくいので、2光子励起効率が高い物質が求められていた。2光子吸収の起こり易さを示す2光子吸収断面積は通常非常に小さく1GM(ただし1GM=1×10-50cm4 s molecule-1 photon-1)程度であるが、近年、数百ないし数千GM程度の比較的大きな2光子吸収断面積を示す物質も見出されている。2光子吸収断面積の比較的大きい化合物の例は、例えば非特許文献1〜11に記載または引用されている。
【0003】
しかし、その励起エネルギーを目的に応じて利用しやすくするためには、種々の機能性物質を組み合わせる工夫が必要であった。
例えば、光吸収により生じた励起状態のエネルギーをラジカル発生剤に供与して遊離基(フリーラジカル)を発生させ、それらを用いてビニルモノマーの重合を開始できることが知られている。あるいは、光吸収により生じた励起状態のエネルギーを発色性化合物や変色性化合物に移せば、発色反応や変色反応を惹起することができると考えられる。そのため、従来は、2光子励起化合物(例えば、可視域に吸収を有する増感色素)と重合開始剤とを併用して光重合反応を行っていた。増感色素と重合開始剤との間における活性種発生機構は、可視光照射により励起された増感色素と開始剤との電子移動反応により反応が進行して、開始剤からラジカル、もしくはカチオンなどの遊離基、即ち、活性種が発生し、その活性種により重合反応が生起、進行するものである。
【0004】
しかしながら、2光子吸収を利用しようとしても、そもそも2光子励起効率が低く、しかも遊離基発生剤、発色性化合物、および2光子吸収化合物の添加量には限度がある。そのため、励起状態にある2光子吸収化合物と遊離基発生剤等が互いに隣接して存在する確率はきわめて低く、必ずしも効率の良いエネルギー移動が起きるわけではなかった。特に、2光子記録用感光性組成物などの固体マトリックス中での電子移動反応は溶液中におけるそれとは異なり、増感色素と重合開始剤とが自由に拡散できないため、電子移動の効率は増感色素と重合開始剤との距離に大きく依存する。両者の距離が近い状態では電子移動は効率よく進行するが、距離が遠くなると効率は距離の指数関数的に低下する。固体マトリックス中での増感色素と重合開始剤との距離は重合開始剤の添加濃度により決定され、濃度が低い場合にはその距離は当然長くなり、電子移動の効率が極端に低下する。すなわち、2光子記録用感光性組成物として望ましい比較的低濃度の添加領域では高い感度が期待できないものであった。
【0005】
【非特許文献1】Reinhardtほか、「Chemistry of Materials誌」、1998年発行、10巻、1863頁.
【非特許文献2】M.Albotaほか、「Science誌」、1998年発行、281巻、1653頁.
【非特許文献3】M.Rumiほか、「Journal of the American Chemical Society誌」、2000年発行、122巻、9500頁.
【非特許文献4】J.D.Bhawalkarほか、「Optics Communications誌」、1996年発行、124巻、33頁.
【非特許文献5】S.G.Heほか、「Applied Physics Letters誌」、1995年発行、67巻、2433頁.
【非特許文献6】P.N.Prasadほか、「Nonlinear Optics誌」、1999年発行、21巻、39頁.
【非特許文献7】G.S.Heほか、「Journal of Applied Physics誌」、1997年発行、81巻、2529頁.
【非特許文献8】S.-J.Chungほか、「Journal of Physical Chemistry B誌」、1999年発行、103巻、10741頁.
【非特許文献9】S.G.Heほか、「Optics Letters誌」、1995年発行、20巻、435頁.
【非特許文献10】J.W.Perryほか、「Nonlinear Optics誌」、1999年、21巻、225頁.
【非特許文献11】稲垣由夫および秋葉雅温、「レーザー研究」、2003年発行、第31巻、392-396頁.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比較的低出力のレーザを用いて2光子吸収を惹起でき、2光子吸収の結果生じる高励起状態のエネルギーを重合などの化学反応の開始エネルギーに利用できる感光性組成物およびそれを用いた2光子吸収光記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(I)で表される化合物、すなわち2光子吸収可能な光吸収部Dと遊離基を発生する活性部Aとを連結基Lにより連結した構造の化合物を用いることにより、2光子吸収による高励起状態から効率よくエネルギーを移動させてラジカルを発生させることができることを見出した。本発明は、このような知見に基づきなされるに至ったものである。
一般式(I) D−L−A
(式中、Dは、400nmより長波の波長における2光子吸収断面積が100GM以上である2光子吸収化合物残基からなる光吸収部を表し、Aは、光励起された光吸収部Dと相互作用して遊離基を発生する活性部を表し、Lは、光吸収部Dと活性部Aとを連結する連結基を表す。)
【0008】
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
[1]バインダーポリマー、重合性化合物、及び下記一般式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする感光性組成物。
一般式(I) D−L−A
(式中、Dは、400nmより長波の波長における2光子吸収断面積が100GM以上である2光子吸収化合物残基からなる光吸収部を表し、Aは、光励起された光吸収部Dと相互作用して遊離基を発生する活性部を表し、Lは、光吸収部Dと活性部Aとを連結する連結基を表す。)
[2]前記一般式(I)で表される化合物を0.1〜3.0質量%含有することを特徴とする[1]項に記載の感光性組成物。
[3]前記一般式(I)において、前記連結基Lが、メチレン結合、エステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1つの結合を含む連結基であり、前記の光吸収部Dと活性部Aとが非共役結合により連結されていることを特徴とする[1]又は[2]項に記載の感光性組成物。
【0009】
[4]前記光吸収部Dが、下記一般式(II)又は(III)で表される化合物から導かれる残基であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の感光性組成物。
【化1】

【化2】

(一般式(II)又は(III)中、Yは、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基または炭素原子数6〜18のアリール基で置換されていてもよいメチン基またはメチレン基を表す。iは1〜4の整数を表す。R101及びR102は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R103、R104及びR105は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。jは0〜3の整数を表す。R106及びR107は、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R108、R109、R110及びR111は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数1〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアシルアミノ基、炭素原子数1〜18のカルバモイル基、炭素原子数1〜18のスルホンアミド基、炭素原子数1〜18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜18のアリールアミノ基、またはヒドロキシル基を表す。これらの基は互いに連結して環を形成していてもよい。ここで、R101〜R111のいずれか1つは、活性部Aを含有する化合物と反応して連結基Lを形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。)
【0010】
[5]前記活性部Aが、下記一般式(IV)で表される化合物から導かれる残基であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の感光性組成物。
【化3】

(一般式(IV)中、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基または置換アルケニル基を表す。ここで、R4又はR5の一方は、光吸収部Dを含有する化合物と反応して連結基Lを形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。)
[6][1]〜[5]のいずれか1項に記載の感光性組成物を含有する感光層を有することを特徴とする2光子吸収光記録媒体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の感光性組成物は、比較的低出力のレーザを用いて2光子吸収を惹起でき、2光子吸収による高励起状態から効率よくエネルギーを移動させてラジカルを発生させ、光重合開始剤の含有量が少ない場合であっても十分な記録感度を達成することができる。また、本発明の感光性組成物は、2光子吸収により最大吸収波長より2倍長い波長の光を照射しても励起するため、光照射した表面部分からではなく光子密度の高い焦点付近から重合開始でき、三次元的に任意の部位から重合を行うことができる。
また、本発明の2光子吸収光記録媒体は、十分な記録感度が達成され、さらに、得られた感光層は、光重合開始剤の未反応物やその分解残留物による物性への影響が抑制され、光学的な透明度が高い。このため、屈折率変化の大きい記録層が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[感光性組成物]
本発明の感光性組成物(2光子吸収組成物)は、必須成分として、(A)バインダーポリマー、(B)重合性化合物、及び(C)下記一般式(I)で示される化合物(光重合開始剤)を含むことを特徴とするものである。
一般式(I) D−L−A
(式中、Dは、400nmより長波の波長における2光子吸収断面積が100GM以上である2光子吸収化合物残基からなる光吸収部を表し、Aは、光励起された光吸収部Dと相互作用して遊離基を発生する活性部を表し、Lは、光吸収部Dと活性部Aとを連結する連結基を表す。)
【0013】
従来の2光子励起化合物と重合開始剤とを別々に添加する系においては、重合開始剤を低濃度で添加した場合においては、均一分散が良好に行なわれた場合でも2光子吸収化合物と開始剤とが互いに隣接して存在する確率はきわめて低く、効率の良いエネルギー移動が起こりにくかった。これに対し、本発明の感光性組成物に用いられる前記一般式(I)で示される化合物は、増感色素部位(光吸収部D)とラジカル重合開始剤部位(活性部A)とが連結基Lにより連結した構造を有しており、この構造に起因して、2光子吸収による高励起状態から効率よくエネルギーを移動させてラジカルを発生させることができる。すなわち、露光による2光子励起部位(光吸収部D)と、そのエネルギーにより活性化しフリーラジカルを発生させる部位(活性部A)とが極めて近傍に位置し、それらの間の電子移動が迅速にかつ効率的に行なわれ、活性種(フリーラジカル)が従来の2光子励起化合物と重合開始剤とを別々に添加する系に比較して著しく多く発生する。そのため、本発明の感光性組成物は、重合開始剤の含有量が少なくても十分な感度を達成しうるものと考えられる。
【0014】
さらに、当該感光性組成物を用いて得られる2光子吸収光記録媒体は、光重合開始剤の含有量が公知のものに比較して少量で済むため、結果として、未反応の開始剤及び/又はその分解物の残留が少なく、これら所望されない残留物による記録膜の膜物性や光学的特性に対する悪影響を最小限に抑制することができるという利点を有するものである。
【0015】
以下、本発明の感光性組成物の必須成分について順次説明する。まず、本発明の重要な成分である(C)前記一般式(I)で示される化合物(光重合開始剤)について述べる。
【0016】
(C)一般式(I)で示される化合物(光重合開始剤)
本発明に用いられる光重合開始剤は、下記一般式(I)で示される化合物、すなわち一分子中に増感色素としての機能を有する光吸収部と、活性種の発生機能を有する活性部とを備え、これらが所定の連結基により連結された構造の化合物である。本発明の感光性組成物は、当該化合物を光ラジカル重合開始剤あるいは光カチオン重合開始剤として含有する。
一般式(I) D−L−A
(式中、Dは、400nmより長波の波長における2光子吸収断面積が100GM以上である2光子吸収化合物残基からなる光吸収部を表し、Aは、光励起された光吸収部Dと相互作用して遊離基を発生する活性部を表し、Lは、光吸収部Dと活性部Aとを連結する連結基を表す。)
【0017】
本発明に係るこの一般式(I)で表される化合物について具体的に述べれば、後述する例示化合物S1においては、光吸収部(増感色素)と活性部(開始剤)との距離はMM2分子計算から見積もると約12Åである。この化合物を感光性組成物中に濃度3mmol/dm3含有する場合(例示化合物S1の場合、組成物中での濃度が0.3質量%に相当する。)を例にとれば、増感色素と開始剤とをこの濃度で別々に含有する場合の両者の距離は51Åと見積もられ、その差は約40Åとなる。文献等によれば数Å、距離が隔たる毎に数百倍〜数千倍の電子移動速度の低下が生じることが報告されており、このことから、このような含有量では、本発明に係る特定の重合開始剤を用いなければ十分な感度が得られないことは明らかである。
【0018】
前記一般式(I)における光吸収部Dについて説明する。Dは、400nmより長波の波長における2光子吸収断面積が100GM以上である2光子吸収化合物残基からなる光吸収部を表す。
本発明の2光子吸収組成物に用いられる強い光(光子密度の高い光)のみに感応して機能を発揮する組成物の作動原理について説明する。物質に光が当たると通常1光子分に相当するエネルギーが吸収される。この1光子吸収が起こらない波長の光であっても、強度が非常に強い場合には光子エネルギーの和が励起エネルギーに相当する2光子が同時に吸収されることがある。2光子吸収の起こり易さを示す2光子吸収断面積は通常非常に小さく1GM(ただし1GM=1×10-50cm4 s molecule-1 photon-1)程度であるが、近年、数百ないし数千GM程度の比較的大きな2光子吸収断面積を示す物質も見出されている。このような物質を用いると、光吸収帯が無い波長域の光でも、高出力レーザのように非常に強度が強い光源を用いれば2光子分のエネルギーを吸収する。例えば400nmに1光子の吸収極大波長を示し、800nmには吸収帯が無い化合物に800nmの波長の高出力レーザを照射することにより、400nmの光を照射した場合に生じる励起状態に近い励起状態を作ることができる。
もしこの化合物を400nmの光で励起した場合に例えば430nmの蛍光を発するなら、800nmの光を吸収した場合にも430nmの蛍光を発する。さらに430nmの光を吸収して460nmの蛍光を発する化合物が共存すれば、800nmの高出力レーザの照射により460nmの蛍光を発する。レーザビームをレンズで絞って照射すれば、光路全体が発光するのではなく、光子密度の高い焦点付近でのみ蛍光を発するという、三次元的な位置選択制を付与できるという特徴がある。蛍光を発する化合物の代わりに重合開始剤と重合性モノマーもしくは重合性オリゴマーを混合して用いれば、焦点付近でのみ重合を起こすことができるので、任意の形状の固形重合体を作ることができる。また絞ったレーザビームの強度はビームの中心から離れるにしたがって低下するので、2光子励起を起こすに足る光強度を有する部分はビーム径よりも小さく、およそ1/√2倍、すなわち約0.7倍になる。したがって光の波長で決まるビーム径の最小値よりも微細な領域のみを励起することができるという利点を有する。本発明の組成物はこのように機能を発揮する。
【0019】
本発明の目的に適合し得る程に、しかもバインダーや支持体などの共存物の2光子吸収よりも効率よく2光子吸収が起きるためには、2光子吸収断面積は、便宜上GM(Goeppert−Mayers単位すなわち、1×10-50cm4 s molecule-1 photon-1)を単位として表すと、100GM以上あることが好ましく、さらに好ましくは1,000GM以上、特に好ましくは100,000GMないし1,000,000,000GMである。2光子吸収断面積の測定は、下記の非特許文献に記載された蛍光法またはZ-scan法により行える。
[蛍光法]:C.Xu and W.W.Webb,Journal of The Optical Society of America,B,13,481(1996)
[Z-scan法]:K.Kamada,K.Matsumoto,A.Yoshino,K.Ohta,Journal of The Optical Society of America,B,20,529(2003);P.Audebert,K.Kamada,K.Matsunaga,K.Ohta,Chemical Physics Letters,367,62(2003)
また、2光子吸収波長領域は、400nmより長波が好ましく、500〜1100nmがより好ましい。
【0020】
400nmより長波における2光子吸収断面積が100GM以上の2光子吸収化合物残基からなる光吸収部Dを含む化合物としては、従来活性剤との組合せで用いられていた公知の光吸収剤が挙げられ、例えば、上記[背景技術]の項で列挙した文献に記載されたものなどが挙げられる。具体的には、例えば、カルコン系化合物、ジベンジルアセトン系化合物、メロシアニン色素、チオピリリウム色素、ピリリウム色素、シアルキルアミノスチルベン化合物、アクリジニウム色素、キサンテン色素、チアゼン色素等の他、シアニン色素、スクアリウム色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、およびチオキサントン等を挙げることができる。
また、その他の例として、アントラセン、フェナンスレン、ピレン等の多核芳香族化合物、アクリジン、カルバゾール、フェノチアジン等の多核ヘテロ芳香族化合物およびそれらの誘導体を挙げることができる。
【0021】
また、前記光吸収部Dは、下記一般式(II)又は(III)で表される化合物から導かれる残基であることが好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
一般式(II)又は(III)中、Yは、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基または炭素原子数6〜18のアリール基で置換されていてもよいメチン基またはメチレン基を表す。iは1〜4の整数を表す。R101及びR102は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R103、R104及びR105は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。jは0〜3の整数を表す。R106及びR107は、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R108、R109、R110及びR111は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数1〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアシルアミノ基、炭素原子数1〜18のカルバモイル基、炭素原子数1〜18のスルホンアミド基、炭素原子数1〜18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜18のアリールアミノ基、またはヒドロキシル基を表す。これらの基は、さらに置換基(カルボキシル基等)を有していてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。なお、R101〜R111のいずれか1つは、活性部Aを含有する化合物と反応して連結基Lを形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。
【0025】
Yとして好ましいものは、無置換メチレン基(−CH2−)、−NH−、又は−NR−(ここで、Rは炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数6〜18のアリール基、炭素原子数2〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜18のアリールスルホニル基)である。
101、R102として好ましいものは、水素原子、又は炭素原子数1〜6のアルキル基である。
103、R104及びR105として好ましいものは、水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。R103、R104及びR105のうち2つが互いに連結して環を形成していても良い。特に好ましいものは水素原子である。
106及びR107として好ましくは炭素原子数1〜6のアルキル基であり、置換基を有していても良い。この置換基として好ましいものはヒドロキシル基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基である。R106及びR107として特に好ましくは炭素原子数1〜4の、無置換アルキル基またはヒドロキシ基で置換されたアルキル基である。
108、R109、R110及びR111として好ましいものは、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基であり、これらは互いに、もしくはR106又はR107と連結して環を形成していても良い。特に好ましくは水素原子、またはR106又はR107の少なくとも一つと連結して5〜6員環を形成するアルキル基である。
【0026】
以下に一般式(II)又は(III)で表される2光子吸化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
次に、前記一般式(I)における活性部Aについて説明する。Aは、光励起された光吸収部Dと相互作用して遊離基を発生する活性部を表す。活性部Aは、活性部Aを有する化合物から連結基Lとの結合部分を除いた残基を意味する。
活性部Aを有する化合物としては、具体的には、例えば、ビスイミダゾール化合物、ジフェニルヨードニウム、トリフェニルスルホニウム塩等のオニウム化合物、トリクロロメチル置換−S−トリアジン化合物、N−フェニルグリシンの他トリエタノールアミン、ヒドラジン等のアミン類、トリフェニルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン等のリン化合物、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸類、p−トルエンスルホン酸メチルエステル等のスルホン酸エステル類、オキサゾール、イミダゾール等のヘテロ環化合物、ジメドン等のエノレート化合物、トリブチルベンジルスズ等のスズ化合物、アリルチオウレアまたオキシムエステル、トリフェニル−n−ブチルボレート等のボラン化合物、或いは、「リサーチ ディスクロジャー(Research Disclosure)」、Vol.200(1980年12月)Item20036に記載されている如き、1−メトキシ−4−カルボメトキシピリジニウムテトラフルオロボレート等のピリジニウム塩等を代表例として挙げることができる。
【0032】
これらのうち好ましいものは、活性部Aとしてトリクロロメチル基を含んだS−トリアジン化合物であり、下記一般式(IV)で表される化合物が特に好ましい。
【0033】
【化10】

【0034】
一般式(IV)中、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基または置換アルケニル基を表す。ここで、R4又はR5の一方は、光吸収部Dを含有する化合物と反応して連結基Lを形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。
4及びR5が表すアルキル基としては、炭素数1〜18の直鎖、分岐または環状のアルキル基が好ましく、例えばメチル、エチル、プロピル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、例えばフェニル、1−ナフチル等が挙げられる。アルケニル基としては、炭素数2〜18のアルケニル基が好ましく、例えばビニル、シクロへキセニル等が挙げられる。
置換アルキル基、置換アリール基または置換アルケニル基における置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数1〜18のアシル基、炭素数1〜18のアシルアミノ基、炭素数1〜18のスルホンアミド基、炭素数1〜18のアシルオキシ基、炭素数2〜18のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜18のスルホニル基等が挙げられる。
4、R5で表される置換アルキル基の具体例としては、トリクロロメチル、トリフルオロメチルが挙げられ、置換アリール基の具体例としては、4−スチリルフェニル、4−(置換)スチリルフェニルが挙げられ、また、置換アルケニル基の具体例としてはスチリル、置換スチリルが挙げられ、アリール基の具体例としてはナフチル等の多環芳香族化合物残基、およびチオフラン等のヘテロ芳香族化合物残基などが挙げられる。
【0035】
また、活性部Aを有する化合物として、前記一般式(IV)で表される化合物の他に、下記一般式(V)又は(VI)で表されるスルホニウム化合物又はヨードニウム化合物も好適である。
【0036】
【化11】

【0037】
一般式(V)又は(VI)中、G1〜G3、G11及びG12はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。Xは電荷を中和するための陰イオンを表す。ここで、G1〜G3のいずれか、並びにG11又はG12の一方は、光吸収部Dを含有する化合物と反応して連結基Lを形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。
前記一般式(V)又は(VI)におけるG1〜G3、G11及びG12が表すアルキル基としては、炭素数1〜18の直鎖、分岐または環状のアルキル基が好ましく、例えばメチル、エチル、2−メチルブチル、シクロヘキシル等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜18のアリール基が好ましく、例えばフェニル、1−ナフチル等が挙げられる。アラルキル基は、好ましくは炭素数7〜18であり、例えばベンジル基、3−フェニルプロピル基等が挙げられる。これらは上述した置換基により置換されていてもよい。
前記一般式(V)又は(VI)におけるXとしては、1価の陰イオンが好ましく、例えばSbF6、PF6、BF4等が挙げられる。
【0038】
次に、前記一般式(I)における連結基Lについて説明する。Lは、光吸収部Dと活性部Aとを連結する連結基を表す。
連結基Lは、メチレン結合、エステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1つの結合を含む連結基であることが好ましく、これらの結合を2以上組み合わせてなる連結基であってもよい。このとき、光吸収部Dと活性部Aとが非共役結合により連結されていることが好ましく、光吸収部Dの原子団と活性部Aの原子団とは直接共有結合(単結合)によって結合しておらず、また共役結合によっても結合しておらず、活性部Aの部分構造が、光吸収部Dの原子団の構成部分をなすものではなく、活性部Aの原子団が、光吸収部Dの原子団とは、連結基Lによって所定の距離をおいて、非共役となるよう連結されていることが更に好ましい。
【0039】
連結基Lの好ましい例としては、例えば、下記式(a)又は(b)で表されるエステル結合、下記式(c)〜(f)で表されるアミド結合、下記式(g)で表されるスルホンアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合などが挙げられる。
【0040】
【化12】

【0041】
【化13】

【0042】
式(c)〜(f)中、Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。
【0043】
【化14】

【0044】
式(g)中、Rは、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。
【0045】
前記一般式(I)で表される化合物のうち特に好ましいものとして、光吸収部Dがビスシンナミリデンシクロアルカノン骨格であり、活性部Aがトリクロロメチル基を含んだS−トリアジンもしくは1−アルコキシピリジニウム残基であり、且つ、連結基Lがエステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合のうちのいずれか一つであるような化合物が挙げられる。
【0046】
本発明に好適に用いられる前記一般式(I)で表される化合物の具体例(例示化合物S1〜例示化合物S23)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
【化15】

【0048】
【化16】

【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

【0051】
【化19】

【0052】
【化20】

【0053】
【化21】

【0054】
前記一般式(I)で表される化合物を得る方法としては、特に限定されないが、化学的反応活性部位を有する前記光吸収部Dを有する化合物と、それに対する化学的反応活性部位を有する前記活性部Aを有する化合物とを化学的に反応させることによって、連結基Lを形成させる方法等が例示できる。
【0055】
本発明感光性組成物における前記一般式(I)で表される化合物の好ましい含有量は、感光性組成物の全固形分中、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%がさらに好ましく、0.1〜3.0質量%が最も好ましい。また、他の成分との割合の観点からは、後述する(A)バインダーポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、更に好ましくは0.1〜5.0質量部の割合である。
【0056】
本発明の感光性組成物において光重合開始剤は、未反応の開始剤及び/又はその分解物の残留が少ないことが好ましい。また、本発明の感光性組成物が2光子吸収光記録媒体に用いられる場合、光重合開始剤は、記録された信号の安定化の観点から、記録後に分解処理されるのが好ましい。
なお、本発明の感光性組成物には、前記一般式(I)で表される光重合開始剤のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の重合開始剤を併用することも可能である。
【0057】
(A)バインダーポリマー
次に、(A)バインダーポリマーについて説明する。本発明における(A)バインダーポリマーとしては、2光子吸収光記録媒体に求められる一般的な性質、すなわち透明性、膜物性、露光時の強露光部に生成する光重合性化合物の重合体との屈折率差などの物性が満足できるものを選択して用いることができる。
バインダーポリマーとして具体的には、ポリメタアクリル酸エステル又はその部分加水分解物;ポリ酢酸ビニル又はその加水分解物;ポリビニルアルコール又はその部分アセタール化物;トリアセチルセルロース;ポリイソプレン;ポリブタジエン;ポリクロロプレン;シリコーンゴム;ポリスチレン;ポリビニルブチラール;ポリクロロプレン;ポリ塩化ビニル;塩素化ポリエチレン;塩素化ポリプロピレン;ポリ−N−ビニルカルバゾール又はその誘導体;ポリ−N−ビニルピロリドン又はその誘導体;スチレンと無水マレイン酸の共重合体またはその半エステル;アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリルニトリル、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等の共重合可能なモノマー群の少なくとも1つを重合成分とする共重合体などが挙げられ、これらは単独のみならず、二種以上を含有する混合物を用いることもできる。
なかでも、好ましくは、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの部分アセタール化物であるポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0058】
2光子記録用感光性組成物を用いた記録媒体を用いて光記録する際には、露光工程後、露光により生じた屈折率変化を促進し、或いは、記録された信号を安定化させる工程として、加熱により重合性化合物を移動させる工程が行なわれることが一般的であるが、形成された膜中において加熱による重合性化合物の移動が効率よく行なわれるためには、これらのマトリックスポリマーは、完全硬化する前において好ましくはガラス転移温度が比較的低く、モノマー移動を容易にするものであることが好ましく、その観点からは、具体的には、ガラス転移温度が180℃以下であるポリマーを用いることが好ましい。
【0059】
感光性組成物中のバインダーポリマーの好ましい添加量は、全固形分中、10〜99質量%の範囲であり、より好ましくは、30〜80質量%の範囲である。
【0060】
(B)重合性化合物
本発明の感光性組成物に用いられる(B)重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物や、カチオン重合性化合物が挙げられる。
【0061】
i)ラジカル重合性化合物
光ラジカル重合性化合物としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ化合物が挙げられ、例えば不飽和カルボン酸、及びその塩、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド結合物が挙げられる。
具体的には、脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーが挙げられるが、これらの例を以下に記載する。
アクリル酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー、2−フェノキシエチルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、フェノールエトキシレートモノアクリレート、2−(p−クロロフェノキシ)エチルアクリレート、p−クロロフェニルアクリレート、フェニルアクリレート、2−フェニルエチルアクリレート、ビスフェノールAの(2−アクリルオキシエチル)エーテル、エトキシ化されたビスフェノールAジアクリレート、2−(1−ナフチルオキシ)エチルアクリレート、o−ビフェニルメタクリレート、o−ビフェニルアクリレートなどが挙げられる。
【0062】
メタクリル酸エステルとしては、例えば、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス−〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(アクリルオキシエトキシフェニル〕ジメチルメタン、2,2−ビス−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、メタクリル酸−2−ナフチル等が挙げられる。
【0063】
ii)カチオン重合性化合物
光カチオン重合性化合物には、例えば、エポキシ環やオキセタン環に代表される環状エーテル類、チオエーテル類、ビニルエーテル類が挙げられる。
具体的な化合物としては、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド等のエポキシ環含有化合物、3−エチル−3−[(2−エチルヘキシロキシ)メチル]オキセタン、ビス{[1−エチル(3−オキセタニル)]メチル}エーテル等のオキセタン環含有化合物が挙げられる。
【0064】
また、本発明においては、(A)バインダーポリマーとの屈折率差を大きくするために、屈折率が低い光重合性化合物を使用することが好ましく、特に屈折率が1.49以下のモノマーとして、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の脂肪族系モノマー、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート(例えば、ビスコート17FM、商品名、大阪有機化学社製)、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート(ビスコート8FM、商品名、大阪有機化学社製)、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチルメタクリレート(M−3420、商品名、ダイキン社製)、2−(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート(M−2020、商品名、ダイキン社製)、3−(1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニロキシ)−1,2−エポキシプロパン(E−5844、商品名、ダイキン社製)、1,4−bis(2’,3’−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ブタン(E−7432、商品名、ダイキン社製)等の含フッ素系モノマー等が好ましく例示される。
上記に例示された化合物のオリゴマータイプやポリマータイプのものも使用することが可能である。
【0065】
(B)重合性化合物は、本発明の感光性組成物の全固形分中、1〜80質量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは、10〜60質量%の範囲である。また、他の成分との関連においては、併用される前記(A)バインダーポリマー100質量部に対して10〜1000質量部の割合であることが好ましく、10〜100質量部の割合で配合されることがさらに好ましい。
【0066】
(D)溶剤
前記の成分(A)〜(C)を含む感光性組成物は、好適な溶剤に溶解され、塗布される。本発明の感光性組成物に適する溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、ジクロルメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられ、またはそれらの混合溶剤も使用することができる。
感光性組成物塗布液を調製する場合の固形分量は、均一塗布の観点から10〜50質量%程度であることが好ましい。
【0067】
[2光子吸収光記録媒体]
次に、本発明の2光子吸収光記録媒体について説明する。本発明の2光子吸収光記録媒体は、前記感光性組成物を含有する感光層を有することを特徴とする。
【0068】
(支持体)
本発明の2光子吸収光記録媒体に用いられる支持体としては、透明性を有する基材フィルムが用いられ、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリフッ化エチレン系フィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、エチレン−ビニルアルコールフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリアミドフィルム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の樹脂製フィルムが代表的なものとして例示される。
支持体の膜厚は、目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、2〜200μm、好ましくは10〜50μmの範囲である。
【0069】
本発明の2光子吸収光記録媒体は、前記感光性組成物を含有する感光層を前記支持体上に設けてなるものであるが、感光性組成物を通常、支持体上に塗布することで感光層を形成する。
感光層塗布液は、前記感光性組成物を前述の如き適切な溶媒に溶解して調製され、それをスピンコーター、グラビアコーター、コンマコーター、バーコーター等の方法により、上記支持体基材上に塗布し、乾燥することで本発明の2光子吸収光記録媒体、好ましくは体積型ホログラム記録用2光子吸収光記録媒体を得る。
【0070】
記録用感光性組成物(感光層)の厚みは、ある体積にできるだけ高密度、大容量に記録するために厚みは厚いほうが好ましいが、その場合でも、感光層の光学濃度(OD)が高いと材料の屈折率変化の大きさを生かせないことになるので、記録光および読み取り光の波長における光学濃度は低いことが好ましい。
これらの観点から、感光層の厚みは50〜2000μmが好ましく、100〜1000μmがさらに好ましく、最も好ましくは、200〜500μmの範囲である。また、感光層を深部まで均一に重合硬化させるという観点から、この厚みにおける感光層の光学濃度(OD)は0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがさらに好ましく、0.2以下であることが最も好ましい。
【0071】
また、乾燥後の記録用感光性組成物に粘着性がある場合、保護フィルムを積層して表面を保護することができる。保護フィルムとしては、例えば、前記支持体基材フィルムで例示されている材料からなる、厚さ0.1〜5μm程度の薄層フィルムを用いることができ、これをラミネートして用いればよい。この場合、ラミネートフィルムの記録材料層との接触面は、後から剥がしやすいように離型処理されていても良い。
【0072】
このようにして得られた本発明の記録媒体を、露光による記録工程を実施することで、記録行われる。2光子吸収反応を起こすために、パルスレーザを用いることが好ましい。レーザの尖頭出力は1kW〜100GWが好ましく、パルス幅は1フェムト秒〜10ナノ秒が好ましい。
記録用の光源としては、アルゴンレーザ、クリプトンレーザ、YAGレーザ、チタンサファイアレーザ、ファイバレーザ等が好ましく用いられ、発振波長は400nm〜1600nmが好ましい。
【0073】
本発明の2光子吸収光記録媒体における記録メカニズムは、従来技術におけるメカニズムと同様であると考えられる。
フィルム状に形成された該感光性組成物(すなわち記録媒体上の感光層)を露光すると、光が強い部分において光重合が開始され、それに伴い光重合性化合物の濃度勾配ができ、光が弱い部分から強い部分に光重合性化合物の拡散移動が起こる。結果として記録光の強弱に応じて、光重合性化合物が密に存在する領域とバインダーポリマーが主成分として存在する領域とが形成され、それら領域の屈折率の差を生じる。
【0074】
露光部と非露光部との屈折率の差Δnは、どちらの屈折率が大きくても良いが、少なくとも0.01以上あることが好ましい。
【0075】
このようにして本発明の2光子吸収光記録媒体に係る感光層に記録が行われる。
本発明の感光性組成物は、光重合開始剤の添加量を少なくしても記録感度に優れるため、本発明の2光子吸収光記録媒体は、高感度で記録可能であり、さらに記録済みの記録媒体は、感光層中に残存する光重合開始剤の残存成分や分解物が少なく透明性に優れるため、屈折率差が大きく、優れた記録品質を与える。
また、本発明の記録媒体は、優れた特性を得ながら、光重合開始剤の添加量を抑制できるので、コスト的にも有利であり、さらに、取り扱いの際に皮膚に接触した場合でも、光重合開始剤が悪影響を及ぼすおそれが少なくなるという利点をも有する。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
実施例1
下記組成の成分を配合し、記録用感光性組成物を調製した。
・ポリメチルメタクリレート 100質量部
(Elvacite 2041、商品名、デュポン製)
・ポリエチレングリコールジメタクリレート 60質量部
(9G、商品名、新中村化学工業(株)製)
・光重合開始剤(例示化合物S7) 0.23質量部
・トルエン 30質量部
・メチルエチルケトン(MEK) 30質量部
・テトラヒドロフラン(THF) 40質量部
【0078】
上記感光性組成物溶液を厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製ルミラーT−60、商品名)上にバーコーターを使用して、乾燥膜厚200μmとなるように塗布し、記録用感光性媒体を作製した。このときの感光層の630nmにおける光学濃度は0.09であった。
支持体(PETフィルム)側から840nmチタンサファイアレーザ光(尖頭出力7kW、パルス幅100fs)を入射して記録した。
次いで、加熱、紫外線重合により記録を定着した。また、分光評価結果からΔn=0.046を得た。
【0079】
比較例1
光重合開始剤として例示化合物S7に代えて下記光重合開始系(増感色素R1を0.15質量部と、一般式(I)の構造を有しない重合開始剤R2を0.11質量部とを組み合わせて別々に添加したもの)に代えた以外は実施例1と同様にして感光性組成物を得て、同様に記録を行った。
【0080】
【化22】

【0081】
その結果、ほとんど重合は進行せず、分光評価結果から計算した結果、Δn=0.011となり、前記実施例1に比べ記録性能が低いことがわかった。
【0082】
実施例2
光重合開始剤として例示化合物S7に代えて例示化合物S10を0.38質量部用いたほかは、実施例1と同じ方法にて感光性組成物を調製した。
この感光性組成物溶液を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製ルミラーT−60、商品名)上にバーコーターを使用して、乾燥膜厚200μmとなるように塗布し、記録用感光性媒体を作製した。このときの感光層の630nmにおける光学濃度は0.08であった。
PET側から840nmのチタンサファイアレーザ光(尖頭出力7kW、パルス幅100fs)を入射して記録した。
次いで、加熱、紫外線重合により定着した。分光評価結果から計算した結果、Δn=0.035を得た。
【0083】
比較例2
光重合開始剤として例示化合物S10に代えて下記光重合開始系(増感色素R3を0.17質量部と、一般式(I)の構造を有しない重合開始剤R2を0.22質量部とを組み合わせて別々に添加したもの)に代えた以外は実施例2と同様にして感光性組成物を得て、同様に記録した。
【0084】
【化23】

【0085】
その結果、ほとんど重合は進行せず、分光評価結果から計算した結果、Δn=0.006となり、前記実施例2に比べ記録性能が低下していることが確認された。
【0086】
実施例1及び2並びに比較例1及び2の結果から明らかなように、活性部Aを有する化合物と光吸収部Dを有する化合物とを併用した比較例1及び2では、ほとんど重合が起こらず、記録性能が低かった。これに対し、活性部Aと光吸収部Dとが連結基Lを介して共有結合により近い部分に配置されている光重合開始剤を用いた実施例1及び2では、重合が起こり十分な記録感度を達成することができた。
このことから、本発明に用いられる光重合開始剤は、活性部Aと光吸収部Dとが共有結合により近い部分に配置されているため、光電子移動が効率的に起こり2光子吸収による高励起状態から効率よくエネルギーを移動させることができ、それゆえ、活性部Aと光吸収部Dとが非連結の場合と比較して高いラジカル発生効率を示し、低濃度でも十分な記録感度を達成することがわかった。
さらに、当該感光性組成物を用いて得られる2光子吸収光記録媒体は、光重合開始剤の含有量が少量で済むため、結果として、未反応の開始剤及び/又はその分解物の残留が少なく、これら所望されない残留物による記録膜の膜物性や光学的特性に対する悪影響を最小限に抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーポリマー、重合性化合物、及び下記一般式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする感光性組成物。
一般式(I) D−L−A
(式中、Dは、400nmより長波の波長における2光子吸収断面積が100GM以上である2光子吸収化合物残基からなる光吸収部を表し、Aは、光励起された光吸収部Dと相互作用して遊離基を発生する活性部を表し、Lは、光吸収部Dと活性部Aとを連結する連結基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表される化合物を0.1〜3.0質量%含有することを特徴とする請求項1記載の感光性組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)において、前記連結基Lが、メチレン結合、エステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1つの結合を含む連結基であり、前記の光吸収部Dと活性部Aとが非共役結合により連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記光吸収部Dが、下記一般式(II)又は(III)で表される化合物から導かれる残基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の感光性組成物。
【化1】

【化2】

(一般式(II)又は(III)中、Yは、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基または炭素原子数6〜18のアリール基で置換されていてもよいメチン基またはメチレン基を表す。iは1〜4の整数を表す。R101及びR102は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R103、R104及びR105は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。jは0〜3の整数を表す。R106及びR107は、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基を表す。R108、R109、R110及びR111は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数1〜18のアシル基、炭素原子数1〜18のアシルアミノ基、炭素原子数1〜18のカルバモイル基、炭素原子数1〜18のスルホンアミド基、炭素原子数1〜18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜18のアリールアミノ基、またはヒドロキシル基を表す。これらの基は互いに連結して環を形成していてもよい。ここで、R101〜R111のいずれか1つは、活性部Aを含有する化合物と反応して連結基Lを形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。)
【請求項5】
前記活性部Aが、下記一般式(IV)で表される化合物から導かれる残基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の感光性組成物。
【化3】

(一般式(IV)中、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基または置換アルケニル基を表す。ここで、R4又はR5の一方は、光吸収部Dを含有する化合物と反応して連結基Lを形成するのに必要な官能基を少なくとも一つ有する。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の感光性組成物を含有する感光層を有することを特徴とする2光子吸収光記録媒体。

【公開番号】特開2008−203573(P2008−203573A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40067(P2007−40067)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】