説明

感光性組成物及びその光架橋体

【課題】 光架橋により親水性で生体適合性の高い表面コーティングを容易に構築することが可能な感光性組成物及びその光架橋体を提供する。
【解決手段】 界面活性剤と、オキシエチレンからなる繰り返し単位及び少なくとも一つの光架橋可能な官能基を有する感光性化合物と、溶媒とを含有し、前記界面活性剤と前記感光性化合物とで形成された粒径2nm〜10μmの会合体が前記溶媒中に分散されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な会合体を含有する感光性組成物及びその光架橋体に関し、特に、基材表面の任意な場所を親水性に改質可能な高次構造を有する光架橋体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に機能性表面を構築するためのコーティング材料として、数多くの単分子吸着や、熱反応性組成物、光反応性組成物が提案されている。機能性表面のうち、特に表面の親水化、生体適合化は、医療デバイス構築や生体分子検出デバイス(DNAチップやプロテインチップなど)など生化学的試験用デバイス構築のために近年ますます重要になっている。現在医療デバイスなどで問題となっているのは、目的物以外の生理活性物質(DNA、タンパク質、抗体、細胞)や粒子などのデバイス界面への非特異的な吸着あるいは結合が起きることである。このような吸着等が引き金となり、望ましくない生体反応が惹起され、医療デバイスの能力が十分に発揮できないこと、あるいは生化学的試験用デバイスにおいては良好なシグナル/ノイズ強度比が得られなくなることなどの原因となるからである。
【0003】
このような問題点を解決する生体適合性に優れた表面コーティングとして、オキシエチレンからなる繰り返し単位を基材表面に固定化する方法が知られている。例えば、活性成分と架橋成分とマトリックス成分とを含む組成物により支持体上に機能性表面を形成する系において、活性成分やマトリックス成分にポリエチレングリコール誘導体を用い、熱あるいは光を用いて支持体上に固定化する方法が提案されている(特許文献1参照)。このマトリックスは、非特異的な分子の吸着を抑制しつつ、特定の分子のみを認識するための活性分子を包含してもよいことが記載されている。しかし開示されている方法は熱的にマトリックスを形成する方法のみであり、光でマトリックスを形成する具体的な記述はされていないため、特に熱的に不安定な活性分子を包含すると熱的に変性する可能性がある。さらにそのマトリックスは均一な網目状になっていることが記載されており、非特異吸着性を発現する要因となっているオキシエチレンからなる繰り返し単位以外の部位が表面に露出する可能性が存在していた。また、3成分を有している上に、組成物に3成分が必要で、支持体上に活性成分を固定化しその上に残りの成分を固定する、支持体上にマトリックスを固定した後に活性成分を固定する、など煩雑な構成をとる必要があった。
【0004】
【特許文献1】特表2004−531390号公報(請求項1、9及び18等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑み、光架橋により親水性で生体適合性の高い表面コーティングを容易に構築することが可能な感光性組成物及びその光架橋体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、界面活性剤と、オキシエチレンからなる繰り返し単位及び少なくとも一つの光架橋可能な官能基を有する感光性化合物と、溶媒とを含有し、前記界面活性剤と前記感光性化合物とで形成された粒径2nm〜10μmの会合体が前記溶媒中に分散されていることを特徴とする感光性組成物にある。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記オキシエチレンからなる繰り返し単位の少なくとも一方の末端に、スペーサーとなる分子鎖を介して又は直接化学結合により、前記光架橋可能な官能基が結合していることを特徴とする感光性組成物にある。
【0008】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記感光性化合物が下記式(1)で表されることを特徴とする感光性組成物にある。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、重合度nの平均は1以上であり、R,Rは、直鎖状又は分岐状のアルキレン基、アリーレン基、オキシアルキレン基、エチレンオキシド/プロピレンオキシドからなる2価の基、プロピレンオキシドからなる2価の基又は単結合であり、R,Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X,Yは、少なくとも一方は光架橋可能な官能基を含む構造であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。また、RとX、又は、RとYの間の結合は、炭素−炭素間の単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合又はエーテル結合であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【0011】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記感光性化合物の光架橋可能な官能基がアジド基であることを特徴とする感光性組成物にある。
【0012】
本発明の第5の態様は、第3の態様において、前記X、Yの構造のうち少なくとも一方は下記式(2)で表される構造であり、R及びRに少なくとも一つのアジド基を有することを特徴とする感光性組成物にある。
【0013】
【化2】

【0014】
(式(2)中、Rは下記式(3)から選択され、Rは下記式(4)から選択される。Rは、水素原子、アルキル基、アセタール基を有するアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は塩基性窒素を含有する置換基を表す。)
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記溶媒が水、水溶性の極性溶媒又はそれらの混合物であることを特徴とする感光性組成物。
【0018】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様の感光性組成物に光を照射して得られることを特徴とする光架橋体にある。
【0019】
本発明の第8の態様は、第1〜6の何れかの態様の感光性組成物を基材上に塗布した後光照射して得られる光架橋体であって、前記基材上に固定されていることを特徴とする光架橋体にある。
【0020】
本発明の第9の態様は、第7又は8の態様において、前記光架橋体の表面における水に対する静的接触角が50°以下であることを特徴とする光架橋体にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、会合体が形成された感光性組成物を提供できる。この感光性組成物を光架橋すると、その会合体もしくは会合体同士が凝集、再配列した構造を維持して架橋されるため、表面が常に親水的になるので、ゲル化材、表面改質材、例えば、医療デバイスの表面に生体適合性を付与する表面改質材料として、好適に用いることができ、医療デバイス構築に貢献できるという効果を奏する。さらに、当該感光性組成物には高価な感光材料のみでなく、比較的安価な界面活性剤を含有するため、安価な感光性組成物を提供できるという効果も併せて有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の感光性組成物は、界面活性剤と、オキシエチレンからなる繰り返し単位および少なくとも一つの光架橋可能な官能基を有する感光性化合物と、溶媒とを含有し、この溶媒中で、界面活性剤と感光性化合物は、分子単独あるいは複数の分子で自己集合して粒径2nm〜10μmの会合体からなる粒子を形成しており、この会合体は溶媒に分散している。後述するが、会合体としては、例えばミセル構造が挙げられる。ミセル構造は、周囲に存在する溶媒を良溶媒として溶媒和し伸展した構造をしている部位と、貧溶媒として収縮した構造をしている部位とを持つ分子が、自由エネルギーを最小にするためにこれらの分子のうち収縮した部位同士が凝集することを駆動力として、自己集合して形成されている。
【0023】
本発明の感光性組成物に含有される界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、親水性−疎水性のユニットなどを有するブロック共重合体からなる高分子ミセル材料などが挙げられる。これらのうち、ノニオン性界面活性剤であることが好ましく、特に、光架橋可能な感光基を有さずオキシエチレンからなる繰り返し単位を有するノニオン性界面活性剤であることが好ましい。これを用いて光架橋体を形成することで、会合体の凝集部を常にポリエチレングリコール鎖が覆っている構造となり、結果として表面が親水性、生体適合性となるからである。このような光架橋可能な感光基を有さずオキシエチレンからなる繰り返し単位を有するノニオン性界面活性剤の非限定的な例としては、2−エチル−ヘキシル、ラウリル、ステアリルなどの直鎖アルキル基を、片末端又は両末端に有するポリエチレングリコール(オリゴマーおよびポリマー)が挙げられる。
【0024】
また、界面活性剤に加えて、感光性組成物の性能を損なわない範囲で、他の会合体形成成分を含有させることができる。他の会合体としては、例えば収縮して凝集する部位同士が2分子で相互作用し、この2分子で膜を形成しているリポソーム、ベシクル構造などが挙げられ、他の会合体形成成分としては、反対電荷をそれぞれ有する分子同士が静電的に会合するポリイオンコンプレックス、エマルジョンを形成する乳化剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の感光性組成物が含有する感光性化合物は、少なくとも一つの光架橋可能な官能基を有し且つオキシエチレンからなる繰り返し単位を有することが必要である。オキシエチレンからなる繰り返し単位は、表面の親水性を構成する部位として働くのみならず、生体適合性に優れた分子であり、タンパク質などの非特異的吸着を抑制する部位としても重要となる。
【0026】
これらオキシエチレンからなる繰り返し単位と光架橋可能な官能基との結合部位は特に限定されないが、オキシエチレンからなる繰り返し単位の末端に光架橋可能な感光基が結合していることが好ましい。またオキシエチレンからなる繰り返し単位と光架橋可能な官能基との間にスペーサーとなる分子鎖があってもよく、また直接結合していてもよい。ここで光架橋可能な官能基とは、光照射することで化学結合を形成できる官能基を含有した一団の化学構造である。なお、実質的に感光する部位は、光架橋可能な官能基上にあってもよいし、感光性組成物に含有させた他の増感剤、光重合開始剤、光酸発生剤などの感光性成分にあってもよい。後者の場合、光架橋可能な官能基にはこれら他の感光性成分から光照射後に出てくる化学種に反応する部位が必要となる。これらの光架橋可能な官能基や感光性成分の中で感光する官能基としては、特にアジド基が好ましい。
【0027】
感光性化合物としては、上記一般式(1)で示される構造の化合物を好適に用いることができる。式(1)中、重合度nの平均は1以上であり、好ましくは20〜230である。重合度nが20以上であれば、感光性化合物が感光した際、異なる会合体間を橋架けするのに十分な鎖長であり、光架橋体の力学的強度がより向上するからである。R,Rは、直鎖状又は分岐状のアルキレン基、アリーレン基、オキシアルキレン基、エチレンオキシド/プロピレンオキシドからなる2価の基、プロピレンオキシドからなる2価の基又は単結合である。R,Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、特に炭素数1〜20のアルキレン基、アリーレン基、オキシアルキレン基又は単結合であることが好ましく、さらに好ましくは単結合又はメチレン基である。X及びYは、少なくとも一方は光架橋可能な官能基を含む構造であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。このX及びYは、少なくとも一方が上記式(2)で表される感光基ユニット、すなわち、X及びYがそれぞれ独立に上記式(2)で表される感光基ユニット、又は、何れか一方のみが式(2)で表される感光基ユニットであることが好ましい。なお、この場合、X及びYの何れか一方のみが式(2)で表される感光基ユニットの場合はもう一方はアミノ基である。式(2)において、Rは上記式(3)から選択される基で、Rは上記式(4)から選択される基であり、R及びRに少なくとも1個のアジド基を有する。Rは、水素原子、アルキル基、アセタール基を有するアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は塩基性窒素を含有する置換基であればよいが、特に好ましくは、水素、炭素数1〜6のアルキル基、アセタール基を有するアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は塩基性窒素を含有する置換基である。なお、式(2)は、特許文献1の一般式(1)で表される感光基ユニットから置換基Zが脱離しYが水素である1価の基と同じ構造をとることができる。式(2)の具体例としては、下記表1に示す構造(2)−1〜(2)−15を挙げることができる。これらの構造は、上記式(2)において置換基R及びRに表1に示される置換基を有する。例えば、構造(2)−1〜(2)−4はRとしてアジド基を有し、(2)−5はR及びR共にアジド基を有する。
【0028】
【表1】

【0029】
本発明の感光性組成物に含有される感光性化合物を得る方法は特に限定されないが、アミノ基を末端に有するポリエチレングリコールと、光架橋可能な官能基を有する化合物とを反応させればよい。アミノ基を末端に有するポリエチレングリコールとしては、例えば、アミノ基を末端に有する直鎖状のホモあるいはヘテロ二官能性のポリエチレングリコール(オリゴマーもしくはポリマー)、アミノ基を末端に有し分岐を有するホモあるいはヘテロ多官能性のポリエチレングリコール(オリゴマーもしくはポリマー)、及びこれらの誘導体を挙げることができる。これらの中で、アミノ基を末端に有する直鎖状のホモ二官能性ポリエチレングリコールオリゴマーもしくはポリマーならびにその誘導体が好適に用いることができる。スペーサーとなる分子鎖が無い場合は、ポリエチレングリコールジアミン等を原料にすればよく、アルキル基等のスペーサが存在する場合は、例えばポリエチレングリコールの末端に当該アルキル基を介してアミノ基が結合している化合物、具体的にはポリエチレングリコールジプロピルアミン等を用いることができる。分岐があるものを用いてもよい。
【0030】
X及びYのうち少なくとも一方が式(2)である式(1)で表される感光性化合物を得る場合は、例えば、上記アミノ基を末端に有するポリエチレングリコールと、このアミノ基と結合して当該アミノ基と共に上記式(2)の構造を形成する化合物とを反応させればよい。アミノ基を末端に有するポリエチレングリコールのアミノ基と結合して当該アミノ基と共に上記式(2)の構造を形成する化合物としては、例えば、4−((4−アジドフェニル)メチレン)−2−フェニル−1,3−オキサゾリン−5−オン(光官能性化合物1)、4−((4−アジドフェニル)メチレン−2−(3−ピリジル)−1,3−オキサゾリン−5−オン)(光官能性化合物2)、2−(4−アジドフェニル)−4−(3−ピリジルメチレン)−1,3−オキサゾリン−5−オン(光官能性化合物3)、2−(2−(4−アジドフェニル)ビニル)−4−(3−ピリジルメチレン)−1,3−オキサゾリン−5−オン(光官能性化合物4)、4−(4−アジド−β−メチル−シンナミリデン)−2−フェニル−2−オキサゾリン−5−オン(光官能性化合物5)、4−(4−アジド−β−メチル−シンナミリデン)−2−(3−ピリジル)−2−オキサゾリン−5−オン(光官能性化合物6)等、特許文献1に記載される感光基ユニットが挙げられる。なお、この光官能性化合物は、特許文献1に記載される方法で製造することができる。
【0031】
両末端に同一の上記式(2)の構造を導入する、すなわち、X及びYが同一の式(2)の構造である式(1)の感光性化合物を得る場合は、アミノ基と結合して当該アミノ基と共に上記式(2)の構造を形成する化合物を、アミノ基を末端に有するポリエチレングリコールのモル当量の2倍以上となる量で反応させればよい。また、片末端に水酸基又はメトキシ基を有し、もう片末端にアミノ基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、片末端のみに式(2)の構造を有する式(1)の感光性化合物を得ることができる。なお、両末端に式(2)の構造を有する感光性化合物及び片末端に式(2)の構造を有する感光性化合物の両者を、任意の割合で得たい場合には、必要とする割合に相当するモル当量を反応させればよい。
【0032】
本発明の感光性組成物に用いる溶媒は、界面活性剤、感光性化合物のいずれも沈殿や液−液相分離などを起こさず、均一になっているように分散できるものであれば特に限定されない。これらの溶媒のうち、水、水溶性の極性溶媒やそれらの混合物が特に好ましい。水、水溶性の極性溶媒又はそれらの混合物中においては、自己集合を駆動する相互作用、例えば疎水性相互作用、水素結合、静電相互作用などが、非極性溶媒中における場合よりも大きく、会合体が安定に形成できるためである。水溶性の極性溶媒としては、例えば、アセトンなどのケトン類、メタノールなどのアルコール類、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0033】
これらの各成分を用いて本発明の感光性組成物とすることで、界面活性剤と感光性化合物は溶媒内で共に不可分な状態で自己集合し、微小な会合体を形成する。例えば溶媒成分として水を用いた場合には、界面活性剤の疎水基と感光性化合物の疎水的な感光性の官能基を有する部位が共に疎水性相互作用を駆動力として会合し、両者が混合した会合体を形成する。そしてこの疎水的なコアの周囲を、感光性化合物のポリエチレングリコール鎖が覆うことで水に分散できるミセル構造になっている。
【0034】
本発明の感光性組成物の各成分の濃度には特に限定はないが、会合体の形成は感光性組成物中の各成分濃度に依存しているため、それらの各成分の総量が0.1〜50重量%の間の濃度が好ましい。例えば、界面活性剤は0.01〜30重量%、感光性化合物は0.01〜49.99重量%で、界面活性剤と感光性化合物の合計が0.1〜50重量%とすることが好ましい。なお、界面活性剤及び感光性化合物は、それぞれ一種用いても、複数種類用いてもよい。
【0035】
このような感光性組成物内では、会合体を形成している界面活性剤及び感光性化合物と、形成されていないフリーな状態のそれぞれの成分とが平衡状態になっていると推測される。平衡の偏りは、感光性化合物末端に導入されている疎水基の疎水性の強さなどに依存する。そのため溶液内に存在しているそれぞれの成分すべてが会合体を形成している場合もありうるし、一部のみが会合体を形成し残りがフリーの状態で存在していることもありうる。いずれにせよ本発明の感光性組成物では、感光性組成物内に含有される界面活性剤及び感光性化合物の少なくとも一部が会合体を形成していることが必須である。
【0036】
溶媒中での会合体は、例えば動的光散乱測定装置、粒度分布計などを用いることで検出することが可能である。例えば動的光散乱測定によって、1nm程度から5μm程度の直径を有する会合体の検出と、その存在比率を測定することができる。会合体の粒径の測定方法を例示すると、動的光散乱測定装置としてマルバーン社製、「HPPSゼータサイザー ナノ」を用い、25℃にて、溶媒が水の場合はポリメチルメタクリレート製の測定セルを、溶媒が有機溶媒の場合は石英製のセルを用いて、90秒間測定を行いその平均から求める方法を挙げることができる。
【0037】
ここで、例えば、界面活性剤として片末端ラウリル化ポリエチレングリコール及び両末端ステアリル化ポリエチレングリコールを、感光性化合物としてポリエチレングリコールの両末端に疎水的な感光性基を導入した化合物を用い、水を溶媒として感光性組成物とした場合を例として詳述する。この感光性組成物を動的光散乱測定装置で測定すると、少なくとも1つの会合体直径のピーク、多くの場合3つの会合体直径のピークが検出される。第一のピークは、2〜50nm程度の直径を有しており、ミセル構造と推測される。第二のピークは、50nm〜1μm程度の直径を有しており、ポリエチレングリコールの両末端が疎水化されている両末端ステアリル化ポリエチレングリコール、及び両末端に光架橋可能な官能基を有するポリエチレングリコールが、一部の一次構造ミセルのコア間を橋架けしてサイズが大きくなったと推測される。さらに第三のピークは、1μm以上の直径を有しており、疎水性コア同士が凝集しさらにサイズが大きくなった構造と推測される。なお、動的光散乱測定によりピークが1つしか検出されない感光性組成物の場合は、平均粒径が2〜50nm程度となる。本発明の感光性組成物は、少なくとも平均粒径2〜10μmの会合体を含有することが必要である。
【0038】
両末端に疎水性の感光基ユニットを導入した感光性化合物が組成物中に存在している場合、第一のピークは、コア部に両末端が疎水性相互作用あるいは水素結合で集合しており、この集合した両末端を繋いでいる親水性のポリエチレングリコール鎖はループをまいて溶媒和している、フラワーミセル構造(一次構造)をとっていると推測される。第二のピークは、第一のピークのフラワーミセル構造の間で、1本のポリエチレングリコール鎖の両疎水性末端が異なるミセル間を橋架けしている構造(二次構造)をとっていると推測される。第三のピークは、疎水性相互作用しているもの同士が凝集してマクロな相分離を起こしている凝集体構造(三次構造)をとっていると推測される。感光性組成物が希薄溶液の場合、一次構造の割合が多く、濃度が上昇するにしたがって、二次、三次の構造の割合が多くなっていると推測される。
【0039】
三次構造をとっていると推測される1μm以上の平均粒径を有する大きな会合体が溶液内に存在している場合、これを光照射することにより得られる光架橋体は、時には数十μmの大きさの相分離構造を形成する場合がある。このまま光架橋体を用いることも可能であるが、用途によっては大きな相分離構造の形成が除去された方が望ましい場合もある。例えば、光の波長より大きなサイズを有しており、なおかつ光の屈折率の異なる部位が光架橋体に存在すると、光の散乱や濁度を示す原因となり透明性が著しく低下するためである。そのため三次構造のような大きな会合体を感光性組成物から除去するために、当該感光性組成物をろ過してもよい。ろ過の方法は一般に知られている公知の方法で行うことができるが、加圧ろ過、減圧ろ過などがろ過の方法として挙げられる。ろ過膜については、三次構造をろ別できるものであれば特に限定されないが、例示としてセルロースアセテート製メンブレンろ過膜などが挙げられる。
【0040】
感光性組成物に含まれる各成分の自己集合を引き起こす基は、イオン性の解離基を有してもよい。そのような基を含有している水系の感光性組成物では、特に溶液のpHが重要となる。解離基が周囲のpH環境によって解離−非解離の二つの状態をとり得るので、局所での水溶性が大きく変化するためである。すなわち、解離基が解離状態をとっている場合、疎水性相互作用による会合体形成能力は低下し、逆に非解離状態をとっている場合、疎水性相互作用による会合体形成能力は亢進されると予想される。その結果、会合体の直径、感光性組成物の基材に対する濡れ性、光照射した際の感度、形成される光架橋体の力学的強度にpHは大きく影響する。本発明における感光性組成物のpHは、pH0〜10が好ましく、特に好ましくはpH1〜7である。
【0041】
本発明の感光性組成物は、光架橋体を形成することを阻害しない範囲で、添加物を含有していてもよい。添加物としては、例えば感光性組成物のpHを調整するための酸として、鉱酸、有機酸などを、塩基として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液などを挙げることができる。また、塩強度を調整するための塩化ナトリウムなどの塩や、pHを安定化させるためのリン酸緩衝液などの緩衝液、消泡剤なども添加することができる。形成される会合体のコア部は疎水性相互作用で形成されることがあるため、疎水性物質を添加することもできる。例えば疎水性の薬物、生理活性物質、染料、顔料などを非限定的に挙げることができる。
【0042】
上記感光性組成物に光を照射すると、本発明の光架橋体が得られる。感光性組成物を溶液のまま光照射すると、粒径2nm〜10μm(動的光散乱による測定)の粒子サイズの光架橋体が得られる。このような光架橋体は光照射前の会合体の大きさを反映してできており、濃度を変化させるなど外部の環境が変わっても、粒子サイズが変化しないという特徴を有している。
【0043】
また、本発明の光架橋体のもう一つの形態として、感光性組成物を基材上に塗布し、その後光照射することにより、基材表面に光架橋体(樹脂膜)を固定した状態で得ることができる。その際、本発明の光架橋体は、用いた光感光性組成物内の構造状態を保持したまま架橋されていると推測される。このような光架橋体は、通常の光反応による硬化、ゲル化のほぼ均一なネットワーク構造とは異なり、会合体を架橋点とする高次構造をとっているものと推測される。
【0044】
このような本発明の光架橋体の表面は、非常に親水性に富んでいる。これは、疎水性の感光基ユニットが常に会合しているコア部に存在し、その周囲を親水性のポリエチレングリコール鎖が取り巻いている構造となり、表面への疎水部の露出が無いためと推測される。それゆえ、本発明の光架橋体は、例えば基材上を親水化する用途などに用いることができる。
【0045】
基材上に固定された光架橋体は、その表面がポリエチレングリコール鎖のみが露出し、非常に親水的な表面を形成する。光架橋体の親水−疎水の度合いを評価する方法としては静的接触角測定などが挙げられる。親水性の指標となる静的接触角測定方法を例示すると、ファースト・テン・オングストロームズ(First Ten Ångstroms)社製の測定装置「FTÅ125」を用い、大気下、温度25℃、湿度50%の条件下で光架橋体表面に水の液滴を約2μl滴下し、8秒後の接触角を読み取る方法を挙げることができる。光架橋体表面の水に対する接触角は、好ましくは50°以下であり、さらに好ましくは35°以下、特に好ましくは20°以下である。
【0046】
なお、基材の形状及び材質は特に制限されない。基材の材質としては、例えば、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコン、ダイヤモンド、金属、セラミックが挙げられる。また基材の形状としては、例えば、板状、曲面を持った板状、繊維状、ミクロポーラスな表面構造を有する基材、キャピラリー形状、管状などが挙げられる。これらのうち、材質としてはガラス及び熱可塑性樹脂が好ましい。ガラス上では、主鎖であるポリエチレングリコール鎖がガラス表面に存在するアルカリ金属などと錯形成するなどして光架橋体と基材とを強固に接着できる。また、熱可塑性樹脂上では、感光性化合物が有する感光性の官能基が光照射されて形成されるラジカルが、基材樹脂中の水素などを引き抜くことにより共有結合を形成して、光架橋体と基材とを強固に接着できる。また、基材の形状は、板状が好ましい。マスクを介してパターン構造物を作成する場合に好適に用いることができるからである。さらに、表面が修飾されたものを基材として用いることができる。例えば、ガラス上にシランカップリング剤などでアルキル基、あるいはアミノ基などを導入したものを基材とすることができる。感光性化合物の感光基がアジド基の場合、光照射によるナイトレン基がラジカル的に反応するので、光架橋体と基材がより強固に接着するためである。
【0047】
また基材の表面に汚染がある場合、高次の会合体凝集が起きやすくなることがある。会合体凝集を防ぐために、基材表面の洗浄工程を任意に行うことができる。ガラス基材の洗浄方法は公知の方法でよいが、例えば、有機溶剤洗浄、アルカリ水溶液洗浄、フッ酸水溶液洗浄などの湿式の洗浄方法、圧縮空気洗浄、オゾン洗浄、プラズマ処理洗浄などの乾式の洗浄方法が挙げられる。
【0048】
なお、本発明の感光性組成物は、光のみならず加熱により架橋体を形成させることもできる。しかしながら、熱により架橋体を形成するためには100℃以上の加熱が必要となるので、本発明の感光性組成物の架橋体形成は、光照射によって行うことが好ましい。
【0049】
本発明の光架橋体は、基材上に感光性組成物を塗布して感光性組成物塗膜を形成する工程と、この感光性組成物塗膜に露光を施して光架橋体を形成する工程と、必要に応じて水又は水系現像液によって現像して光架橋体を形成する工程により基材に固定することができる。
【0050】
基材上に塗布された感光性組成物の厚みは塗布可能な限り特に限定されないが、好適な膜厚は5nm〜10μmである。膜厚が5nm未満では、均一に膜形成されているかを確認することが容易ではない。また、膜厚が10μmを超えるものを作成する場合は、感光性組成物の溶液の粘度を高くすることが必要となり、塗布工程上の問題が発生しやすくなるためである。勿論、この問題点を考慮に入れて上記範囲外の膜厚とすることは可能である。
【0051】
基材上に感光性組成物を塗布後、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。加熱処理条件に特に限定はないが、通常は30〜150℃で1分〜10時間程度、好ましくは35℃〜120℃で3分〜1時間程度である。
【0052】
また、基材上に塗布された感光性組成物の全面を露光しても、所望のパターンに露光してもよい。パターン露光をした場合は、露光後現像して未露光領域を除去することにより任意のパターン形状を有する光架橋体を得ることができる。
【0053】
パターン露光をする場合は、マスクを介して露光を行えばよい。任意のパターンを形成させるためのマスクとしては、所望のパターンが切り抜かれているマスク又は所望のパターンのみから構成されるマスクを使用することができる。
【0054】
露光する際の光源は、感光性化合物を感光可能な光源であれば特に限定されない。例えば、光源としてX線、電子線、エキシマレーザー(F、ArF、KrFレーザーなど)及び高圧水銀灯を用いることができる。露光エネルギーは感光性の官能基の構造、用いる光源のエネルギーに応じて適宜設定すればよく、通常0.1mJ/cm〜100J/cmであり、特に100mJ/cm〜10J/cm程度が好ましい。
【0055】
全面露光した場合、必要に応じて加熱後、水による洗浄を行ってもよい。加熱処理の条件は、通常は30〜150℃で1分〜10時間程度、好ましくは35〜120℃で3分〜1時間程度である。また、パターン露光により感光性組成物塗膜の物性が変化した後、必要に応じて加熱後、現像処理を行うことができる。この加熱処理の条件は、全面露光した場合と同様である。
【0056】
現像する際の現像液については、未露光領域と露光領域との溶解度差を十分に有しているものであれば特に限定されない。感光性組成物塗膜の未露光領域を溶解できる溶媒としては、水や、水と相溶性のある有機溶媒と水との混合溶液等を用いることができる。水と相溶性のある有機溶媒の非限定的な例として、アセトンなどのケトン類、メタノールなどのアルコール類、アセトニトリル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらを用いる場合には、特に現像残りの無い良好なパターンを好適に作製できる。また、現像液は上述したように混合溶液としてもよく、その濃度は未露光領域を溶解する限り特に限定的ではないが、例えば、現像液が水とメタノールとの混合溶液であれば、メタノールの濃度が0より大きく100%未満の任意の値を取ることができる。
【0057】
現像は、露光後の被処理物を現像液に浸漬する方法、被処理物に現像液を塗付・スプレーする方法などにより行うことができる。現像によるパターン形成後は、必要に応じてリンス、乾燥工程などを加えることもできる。
【0058】
本発明の光架橋体を基材上に固定したものは、乾燥状態、加湿状態、溶液中のいずれの環境下でも、好適に用いることができる。乾燥状態、加湿状態においても十分にその構造を維持することが可能であるのみならず、37℃程度の有機溶媒中、水中または水系溶媒中下においても、長期間、例えば1日以上、さらに10日以上安定にその構造を維持する。溶液下、特に水又は水系溶媒中下で安定に存在できることは重要であり、特に医療デバイスなどに用いる際には、そのデバイス表面は乾燥状態や水溶液、さらには有機溶媒溶液にさらされることが多く、そのどれにも耐性を有していることが求められるからである。
【0059】
ここで水系溶媒とは、水を含有している溶液であれば特に限定されない。水系溶媒としては、例えば、アセトンなどのケトン類、メタノールなどのアルコール類、アセトニトリル、テトラヒドロフランなど水と相溶する有機溶媒と水との混合物、リン酸二水素カリウム・リン酸水素二ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム・炭酸ナトリウム水溶液などの緩衝液、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムなどの無機・有機塩水溶液、グルコース、ガラクトース、ブドウ糖、澱粉、ヘパリン、ヘパラン硫酸などの、単糖、多糖を含む糖類水溶液、タンパク質水溶液、DNA、RNA水溶液、液体培地、さらにはそれらの混合物を挙げることができる。また水中又は水系溶媒中に溶解せず分散するものを含んでいてもよく、非限定的に例示すると、クレイなどの鉱物類、金ナノ粒子などの金属微粒子、ポリスチレンビーズ、ラテックス粒子などの高分子微粒子、動物細胞、植物細胞、微生物、ウイルスなどや、これらの混合物を挙げることができる。
【0060】
また本発明に係る光架橋体を用いることができる温度は、光架橋体や、光架橋体及び基材からなる複合体が不安定にならない限り特に限定されないが、4℃〜80℃の間で好適に用いることができ、10〜60℃の間で特に好適に用いることができる。4℃未満では一部水が凍結して光架橋体又は複合体の安定性を損なう可能性があり、80℃を超えると感光性化合物の感光性基などが分解され複合体を保持し得なくなる可能性があるからである。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
(合成例1)感光性化合物Aの合成
ポリエチレングリコールジアミン(日本油脂(株)製、数平均分子量1000)7.9g、前述の光官能性化合物4を10.0g(ポリエチレングリコールジアミンのアミノ基に対して2.0倍モル当量)、テトラヒドロフラン(THF)70gを混合して、25℃で18時間反応させた。反応終了後、THFをエバポレートして除去し、その後水50g、酢酸エチル50gを添加して分液抽出操作を行った。有機層を捨て、新たに酢酸エチルを50g添加して再度分液抽出操作を行い、静置後三相に分かれた一番下相のオイル相を得た。このオイル相を凍結乾燥することにより、下記式(a)で表されn=23の感光性化合物A7.2gを得た。得られた感光性化合物AをH−NMR測定したところ、3.5ppmに見られるポリエチレンオキサイドのメチレン鎖のプロトンピークと、6.8ppmから8.7ppmに見られる光官能性化合物4に由来する芳香環のプロトンピークにより目的の化合物と確認した。またこれらのピークの積分比より光官能性化合物4の導入率は95%であった。
【0063】
【化5】

【0064】
(合成例2)感光性化合物Bの合成
ポリエチレングリコールジアミン(日本油脂(株)製、数平均分子量2000)7.9g、前述の光官能性化合物4を6.0g(ポリエチレングリコールジアミンのアミノ基に対して2.4倍モル当量)とした他は、合成例1と同様の操作を行い、分液抽出操作で水相を有機相で2回洗浄した後、水相を凍結乾燥することにより、上記式(a)で表されn=45の感光性化合物Bを7.0g得た。得られた感光性化合物BをH−NMR測定したところ、3.5ppmに見られるポリエチレンオキサイドのメチレン鎖のプロトンピークと、6.8ppmから8.7ppmに見られる光官能性化合物4に由来する芳香環のプロトンピークにより目的の化合物と確認した。またこれらのピークの積分比より光官能性化合物4の導入率は96%であった。
【0065】
(合成例3)感光性化合物Cの合成
ポリエチレングリコールジプロピルアミン(和光純薬工業(株)製、数平均分子量9,000〜10,000)23.7g、光官能性化合物4を4.0g(ポリエチレングリコールジアミンのアミノ基に対して2.4倍モル当量)、テトラヒドロフラン65g、アセトニトリル65gを混合した他は、合成例1と同様の操作を行い、下記式(b)で表されn=216の感光性化合物Cを23.2g得た。得られた感光性化合物CをH−NMR測定したところ、3.5ppmに見られるポリエチレンオキサイドのメチレン鎖のプロトンピークと、6.8ppmから8.7ppmに見られる光官能性化合物4に由来する芳香環のプロトンピークにより目的の化合物と確認した。またこれらのピークの積分比より光官能性化合物4の導入率は90%であった。
【0066】
【化6】

【0067】
(合成例4)感光性化合物Dの合成
ポリエチレングリコールジアミン(日本油脂(株)製、数平均分子量2000)17.2g、前述の光官能性化合物3を6.0g(ポリエチレングリコールジアミンのアミノ基に対して1.2倍モル当量)とした他は、合成例1と同様の操作を行い、下記式(c)で表されn=45の感光性化合物Dを19.7g得た。得られた感光性化合物DをH−NMR測定したところ、3.5ppmに見られるポリエチレンオキサイドのメチレン鎖のプロトンピークと、6.8ppmから8.7ppmに見られる光官能性化合物3に由来する芳香環のプロトンピークにより目的の化合物と確認した。またこれらのピークの積分比より光官能性化合物3の導入率は70%であった。
【0068】
【化7】

【0069】
(合成例5)感光性化合物Eの合成
ポリエチレングリコールジアミン(日本油脂(株)製、分子量2000)15.1g、前述の光官能性化合物6を6.0g(ポリエチレングリコールジアミンのアミノ基に対して1.2倍モル当量)とした他は、合成例1と同様の操作を行い、下記式(d)で表されn=45の感光性化合物Eを18.4g得た。得られた感光性化合物EをH−NMR測定したところ、3.5ppmに見られるポリエチレンオキサイドのメチレン鎖のプロトンピークと、6.8ppmから8.7ppmに見られる光官能性化合物6に由来する芳香環のプロトンピークにより目的の化合物と確認した。またこれらのピークの積分比より光官能性化合物6の導入率は71%であった。
【0070】
【化8】

【0071】
(実施例1)感光性組成物Iの調製
合成例1で得られた感光性化合物Aと、界面活性剤としての片末端ラウリル化ポリエチレングリコール(オキシエチレンユニット数=20、商品名:ペグノ−ルL−20S:東邦化学工業(株)製)及び両末端ステアリル化ポリエチレングリコール(分子量6000、商品名:ペグノールPDS−60A:東邦化学工業(株)製)を、塩酸でpH3に調製した水に対して固形分総重量が5重量%になるように表2に示す割合でそれぞれ混合した。得られたそれぞれの水溶液を0.2μmセルロースアセテートメンブレンフィルター(以下「フィルター」という)でろ過することにより、感光性組成物I−1〜I−5を得た。
【0072】
(実施例2)感光性組成物IIの調製
前記感光性化合物Aを合成例2で得られた感光性化合物Bとし、pH3に調製した水のかわりに純水を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、表2に示す割合でそれぞれ混合した。得られたそれぞれの水溶液を0.2μmフィルターでろ過することにより、感光性組成物II−1〜II−5を得た。
【0073】
(実施例3)感光性組成物IIIの調製
前記感光性化合物Bを合成例3で得られた感光性化合物Cに変えた以外は実施例2と同様の操作を行い、表2に示す割合でそれぞれ混合した。得られたそれぞれの水溶液を0.2μmフィルターでろ過することにより、感光性組成物III−1〜III−5を得た。
【0074】
(実施例4)感光性組成物IVの調製
前記感光性化合物Bを合成例4で得られた感光性化合物Dに変えた以外は実施例2と同様の操作を行い、表2に示す割合でそれぞれ混合した。得られたそれぞれの水溶液を0.2μmフィルターでろ過することにより、感光性組成物IV−1〜IV−5を得た。
【0075】
(実施例5)感光性組成物Vの調製
前記感光性化合物Bを合成例5で得られた感光性化合物Eに変えた以外は実施例2と同様の操作を行い、表2に示す割合でそれぞれ混合した。得られたそれぞれの水溶液を0.2μmフィルターでろ過することにより、感光性組成物V−1〜V−5を得た。
【0076】
(実施例6〜8)感光性組成物VI〜VIIIの調製
純水のかわりに、水:メタノール=80:20(感光性組成物VI調製用)、50:50(感光性組成物VII調製用)または20:80(感光性組成物VIII調製用)(それぞれ重量比)の混合溶液を用いた以外は、実施例2のII−3と同様の操作を行い、表3に示す割合で混合した。得られたそれぞれの水溶液を0.2μmフィルターでろ過することにより、感光性組成物VI〜VIIIを得た。
【0077】
(実施例9〜13)感光性組成物IX〜XIIIの調製
純水のかわりに、メタノール(感光性組成物IX調製用)、アセトン(感光性組成物X調製用)、アセトニトリル(感光性組成物XI調製用)、テトラヒドロフラン(感光性組成物XII調製用)またはトルエン(感光性組成物XIII調製用)を用いた以外は、実施例2のII−3と同様の操作を行い、表3に示す割合で混合した。得られたそれぞれの水溶液を0.2μmフィルターでろ過することにより、感光性組成物IX〜XIIIを得た。
【0078】
(試験例1)粒径測定
実施例1〜13で得られた各感光性組成物について、動的光散乱測定装置(マルバーン社製の測定装置、「HPPSゼータサイザー ナノS」)を用いて、動的光散乱(DLS)測定を行った。測定は、25℃、大気雰囲気下、90秒間積算を行い、その平均から求めた。得られた結果を表2及び表3に示す。
【0079】
この結果、各実施例の感光性組成物は、粒径5nm〜2μm以上の広い範囲で会合体を含有していた。大部分の感光性組成物は、粒径5nm〜20nmの小さい会合体と、100nm〜2μm以上の大きな会合体を含有しており、非常に粒径分布の広いものとして得られた。また、単分散ミセルのみを形成する片末端ラウリル化ポリエチレングリコールの含有量が3.9重量%と多い感光性組成物I−1、II−1及びIII−1や、ミセル間の橋架けを生成する際に大きな影響を与えると考えられる感光性化合物のポリエチレングリコール鎖長が1000〜2000でその含有量が2.0重量%以下である感光性組成物I−3、II−3などは、非常に単分散状態であり、10nm前後の粒径のみを示していた。したがって、界面活性剤のアルキル基の鎖長やそのアルキル鎖が片末端あるいは両末端に導入されているかの差異、感光性化合物の感光基の持つ疎水性相互作用など相互作用の強さやポリエチレングリコール鎖の長さに起因する会合体の溶媒和の安定性等のバランスにより、会合体の粒径と多分散度の制御が可能であることが分かった。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
(実施例14)感光性組成物Iの露光による微小ゲル(光架橋体)の生成
実施例1で調整した感光性組成物I−5を、100mlビーカー(直径約54mm)に2ml滴下し、高圧水銀灯で全面露光を行った(露光量100〜750mJ/cm)。露光後の溶液をpH3の塩酸水10mlで希釈後凍結乾燥し、その後、固形分濃度が0.1重量%、1重量%、10重量%及び20重量%の溶液となるように、pH3の塩酸水で、それぞれ希釈した。得られた溶液のDLS測定を行ったところ、未露光の溶液(表2 I−5:固形分濃度5重量%)時の粒径を維持しており、微小ゲルの生成を確認した。
【0083】
(実施例15)感光性組成物IIの露光による微小ゲル(光架橋体)の生成
実施例2で調整した感光性組成物II−5を、100mlビーカー(直径約54mm)に2ml滴下し、高圧水銀灯で全面露光を行った(露光量100〜750mJ/cm)。露光後の溶液をを純水10mlで希釈後凍結乾燥し、その後、固形分濃度が0.1重量%、1重量%、10重量%及び20重量%の溶液となるように、純水でそれぞれ希釈した。得られた溶液のDLS測定を行ったところ、未露光の溶液(表2 II−5:固形分濃度5重量%)時の粒径を維持しており、微小ゲルの生成を確認した。
【0084】
(実施例16)感光性組成物Iを用いた基材上での光架橋体
基材としてソーダライム製スライドグラス(松浪硝子工業(株)製。以下「ノンコートガラス」と略す)を使用した。感光性組成物I−2を、ノンコートガラス上に滴下後、スピンコート法(1000rpm×30秒)により製膜し、60℃で10分間乾燥後、室温まで冷却した。その後高圧水銀灯によって全面露光(露光量:1000mJ/cm)を行った。25℃の水中で1分間洗浄を行った後、60℃で10分間乾燥を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0085】
(実施例17)
感光性組成物I−2のかわりに感光性組成物I−5を用いた以外は、実施例16と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0086】
(実施例18)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例16と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0087】
(実施例19)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例17と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0088】
(実施例20)
露光する際100μm/200μmのライン/スペースパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例17と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面に100μm/200μmのライン/スペースパターンが形成された光架橋体を得た。
【0089】
(実施例21)
ノンコートガラスを5重量%のフッ酸水溶液に1分間浸漬して洗浄し、純水でリンスした後窒素ガスで乾燥したものを基材として用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0090】
(実施例22)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例21と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0091】
(実施例23)
ノンコートガラスをアルカリ水溶液(純水:イソプロピルアルコール:水酸化ナトリウム=93:5:2(重量比))に2分間浸漬して洗浄し、純水でリンスした後窒素ガスで乾燥したものを基材として用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0092】
(実施例24)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例23と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0093】
(実施例25)
基材としてアミノ基により表面修飾されているガラス基材である、アミノシランコートスライドガラス(松浪硝子工業(株)製。以下「APSコートガラス」と略す)を使用した。感光性組成物I−5を、APSコートガラス上に滴下後、スピンコート法(1000rpm×30秒)により製膜し、60℃で10分間乾燥後、室温まで冷却した。その後高圧水銀灯によって全面露光(露光量:1000mJ/cm)を行った。25℃の水中で1分間洗浄を行った後、60℃で10分間乾燥を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0094】
(実施例26)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例25と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0095】
(実施例27)
基材としてパーマノックスプラスチック(Permanox Plastic)製のもの(ヌンク社製、セル・カルチャー・スライド 160005、以下「パーマノックススライド」と略す)を使用した。感光性組成物I−5を、パーマノックススライド上に滴下後、スピンコート法(1000rpm×30秒)により製膜し、60℃で10分間乾燥後、室温まで冷却した。その後高圧水銀灯によって全面露光(露光量:1000mJ/cm)を行った。25℃の水中で1分間洗浄を行った後、60℃で10分間乾燥を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0096】
(実施例28)
基材としてアミノ基を基材上に表面修飾してあるプラスチック製のもの(ヌンク社製、マイクロアレイスライド、ブラック、アミノシラン・コーティッド・ポリマー・スライド・フォー・マイクロアレイ、以下「アミノ化スライド」と略す)を使用した。感光性組成物I−5を、アミノ化スライド上に滴下後、スピンコート法(1000rpm×30秒)により製膜し、60℃で10分間乾燥後、室温まで冷却した。その後高圧水銀灯によって全面露光(露光量:1000mJ/cm)を行った。25℃の水中で1分間洗浄を行った後、60℃で10分間乾燥を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0097】
(実施例29)感光性組成物IIを用いた基材上での光架橋体
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物II−1を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0098】
(実施例30)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物II−2を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0099】
(実施例31)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物II−3を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0100】
(実施例32)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物II−4を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0101】
(実施例33)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物II−5を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0102】
(実施例34)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例33と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0103】
(実施例35)
露光する際100μm/200μmのライン/スペースパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例33と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面に100μm/200μmのライン/スペースパターンが形成された光架橋体を得た。
【0104】
(実施例36)
ノンコートガラスを5重量%のフッ酸水溶液に1分間浸漬して洗浄し、純水でリンスした後窒素ガスで乾燥したものを基材として用いた以外は、実施例33と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0105】
(実施例37)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例36と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0106】
(実施例38)感光性組成物IIIを用いた基材上での光架橋体
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物III−1を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0107】
(実施例39)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物III−2を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0108】
(実施例40)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物III−3を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0109】
(実施例41)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物III−4を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0110】
(実施例42)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物III−5を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0111】
(実施例43)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例41と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0112】
(実施例44)
露光する際100μm/200μmのライン/スペースパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例41と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面に100μm/200μmのライン/スペースパターンが形成された光架橋体を得た。
【0113】
(実施例45)
ノンコートガラスを5重量%のフッ酸水溶液に1分間浸漬して洗浄し、純水でリンスした後窒素ガスで乾燥したものを基材として用いた以外は、実施例41と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0114】
(実施例46)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例45と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0115】
(実施例47)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物III−4を用いた以外は、実施例25と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0116】
(実施例48)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物III−4を用いた以外は、実施例27と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0117】
(実施例49)感光性組成物IVを用いた基材上での光架橋体
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物IV−1を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0118】
(実施例50)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物IV−2を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0119】
(実施例51)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物IV−3を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0120】
(実施例52)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物IV−4を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0121】
(実施例53)
感光性組成物I−5のかわりに感光性組成物IV−5を用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0122】
(実施例54)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例52と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0123】
(実施例55)
露光する際100μm/200μmのライン/スペースパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例52と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面に100μm/200μmのライン/スペースパターンが形成された光架橋体を得た。
【0124】
(実施例56)
ノンコートガラスを5重量%のフッ酸水溶液に1分間浸漬して洗浄し、純水でリンスした後窒素ガスで乾燥したものを基板として用いた以外は、実施例52と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0125】
(実施例57)
露光する際直径100μmのホールが多数配設されたパターンが得られるようにマスクを介して露光する以外は実施例56と同様にして、基材上に光架橋により固定されかつ表面にホールパターンが形成された光架橋体を得た。
【0126】
(実施例58〜66)感光性組成物V−5及びVI〜XIIIを用いた基材上での光架橋体
感光性組成物I−5のかわりにそれぞれ感光性組成物V−5及びVI〜XIIIを用いた以外は、実施例17と同様の操作を行い、基材上に光架橋により固定された光架橋体を得た。
【0127】
(試験例2)光架橋体表面の水に対する静的接触角測定
実施例16〜66のうち全面露光を行った実施例について、得られた光架橋体表面の水に対する静的接触角測定を行った。用いた装置は、ファースト・テン・オングストロームズ(First Ten Ångstroms)社製の静的接触角計「FTÅ125」であり、測定環境は、大気下、25℃、相対湿度50%である。測定は、基材上に固定された光架橋体の表面に、水の液滴を約2μl滴下し、8秒後の接触角を読み取ることで行った。結果を表2及び表3に示す。各実施例の感光性組成物は10°〜50°程度の接触角を示し、いずれも非常に親水的な表面を示した。
【0128】
(試験例3)光架橋体の溶媒暴露試験
実施例16〜66で得られた光架橋体を、25℃あるいは37℃で、水中、各種水系溶媒中、または有機溶媒中に浸漬し、3日後および10日後の光架橋体と基材とからなる構造体を観察して、水中、各種水系溶媒中、または有機溶媒中での光架橋体の形状、基材からの剥離安定性を評価した。なお、使用した溶媒は、純水、リン酸二水素カリウム・リン酸水素二ナトリウム水溶液(リン酸緩衝液、pH7.4)、10%アセトン水溶液、5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液、10%牛胎児血清含有ダルベッコ変法イーグル培地(日水製薬(株)製:Doulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、アセトンである。また、水及びリン酸緩衝液については60℃での浸漬試験も行い、3日後および10日後の光架橋体と基材とからなる構造体を観察した。なお、一例として、37℃でリン酸緩衝液及び25℃でアセトンに浸漬した実施例17および実施例33の光架橋体について、浸漬前後の光架橋体の状態を、図1に示す。
【0129】
実施例16〜66のうち、感光性組成物XIIIを用いたものを除いたすべての光架橋体は、種々の溶媒中に浸漬した試験において、浸漬前後で表面形状は変化が無く、膨潤による光架橋体の基板からの剥離、あるいは崩壊が見られない安定な状態であった。一方、感光性組成物XIIIを用いて作成した光架橋体は、3日後は膨潤による光架橋体の基板からの剥離、あるいは崩壊が見られない安定な状態であったが、10日後には、膜の形状は保ったものの基材との接着が若干弱く、一部は基材から浮き上がっている状態になった。感光性組成物XIIIは、非極性溶媒(トルエン)を溶媒として用いているため、溶液中で大きな会合体を形成しているものの、水中や極性溶媒、あるいはその混合物中で形成される会合体とは異なり、基材との接着が弱くなっていると推測される。したがって、溶媒に暴露される状態で基材に固定された光架橋体を用いる際には、水、極性溶媒、あるいはその混合溶液で調製された感光性組成物を用いた光架橋体がより好適に使用できることを確認した。
【0130】
また、実施例16〜66の光架橋体の表面には色調の異なる部位が見られ、樹脂膜中の高次な凝集あるいは相分離が樹脂膜のマクロな形態に影響を及ぼしており、均一なネットワークを形成している従来の光架橋膜とは異なり、本発明の光架橋体が会合体を架橋した構造になっていることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】溶媒暴露試験後の光架橋体の状態の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤と、オキシエチレンからなる繰り返し単位及び少なくとも一つの光架橋可能な官能基を有する感光性化合物と、溶媒とを含有し、前記界面活性剤と前記感光性化合物とで形成された粒径2nm〜10μmの会合体が前記溶媒中に分散されていることを特徴とする感光性組成物。
【請求項2】
請求項1において、前記オキシエチレンからなる繰り返し単位の少なくとも一方の末端に、スペーサーとなる分子鎖を介して又は直接化学結合により、前記光架橋可能な官能基が結合していることを特徴とする感光性組成物。
【請求項3】
請求項2において、前記感光性化合物が下記式(1)で表されることを特徴とする感光性組成物。
【化1】

(式(1)中、重合度nの平均は1以上であり、R,Rは、直鎖状又は分岐状のアルキレン基、アリーレン基、オキシアルキレン基、エチレンオキシド/プロピレンオキシドからなる2価の基、プロピレンオキシドからなる2価の基又は単結合であり、R,Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X,Yは、少なくとも一方は光架橋可能な官能基を含む構造であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。また、RとX、又は、RとYの間の結合は、炭素−炭素間の単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合又はエーテル結合であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記感光性化合物の光架橋可能な官能基がアジド基であることを特徴とする感光性組成物。
【請求項5】
請求項3において、前記X、Yの構造のうち少なくとも一方は下記式(2)で表される構造であり、R及びRに少なくとも一つのアジド基を有することを特徴とする感光性組成物。
【化2】

(式(2)中、Rは下記式(3)から選択され、Rは下記式(4)から選択される。Rは、水素原子、アルキル基、アセタール基を有するアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は塩基性窒素を含有する置換基を表す。)
【化3】

【化4】

【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、前記溶媒が水、水溶性の極性溶媒又はそれらの混合物であることを特徴とする感光性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの感光性組成物に光を照射して得られることを特徴とする光架橋体。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかの感光性組成物を基材上に塗布した後光照射して得られる光架橋体であって、前記基材上に固定されていることを特徴とする光架橋体。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記光架橋体の表面における水に対する静的接触角が50°以下であることを特徴とする光架橋体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−282857(P2006−282857A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104769(P2005−104769)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000222691)東洋合成工業株式会社 (34)
【Fターム(参考)】