感染性疾患の病原体およびそれらの薬剤感受性を診断する方法
本明細書は概して、病原体、例えば感染性疾患の病原体を検出、診断、および/または同定する方法、ならびにそれらの薬剤感受性および適切な治療を決定する方法に関する。本発明は概して、個々の被験体および被験体の大きな集団内における病原体感染をモニタリングする方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により完全に本明細書に組み込まれる、2010年2月24日に出願された米国仮特許出願第61/307,669号、および2010年4月12日に出願された米国仮特許出願第61/323,252号の特典を請求するものである。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられた認可番号3U54−A1057159−06S1および認可番号A108002の下で政府の支援によってなされたものである。政府は本発明において確固たる権利を有するものとする。
【0003】
技術分野
本発明は特に、病原体、例えば、感染性疾患の病原体を検出、診断、および/または同定する、ならびに既知の治療または潜在的な治療(known or potential treatment)に対するそれらの感受性を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
分子診断の発展は、感染疾患以外の大部分の医療用分野における対処(care)に革新をもたらしたが、感染疾患の分野では、広範かつ変革的な役割を果たせずにいる。緩徐な培養法への依存は現在の抗生物質耐性の危機においては特に欲求不満の種であるが、それは、刺激的病原体(inciting pathogen)およびその薬剤耐性プロファイルを迅速に診断するための分子ツールの発展が、細菌、真菌、ウイルス、および寄生虫感染の管理法を変え、死亡率を低下させるための尽力において迅速で情報に基づいた薬剤治療を誘導し、医療費を制御し、病原体間で増大する耐性に関する公衆衛生の監視を改善する可能性があるからである。米国内の病院だけでも、170万人の人が院内細菌感染し、99,000人が毎年亡くなり、これらの感染の70%は少なくとも1つの薬剤に対する細菌耐性が原因であり、推定年間コストは450億ドルである(Klevens et al、2002. Public Health Rep.2007;122(2):160-6;Klevens et al、Clin Infect Dis.2008;47(7):927-30;Scott、The Direct Medical Costs of Healthcare-Associated Infection in U.S. Hospitals and the Benefits of Prevention.In:Division of Healthcare Quality Promotion NCfP、Detection and Control of Infectious Diseases、editor.Atlanta:CDC、2009)。しかしながら、この問題は米国に限られず、微生物耐性は現在、世界中で大部分の一般的な細菌感染に影響を与えている。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)(MRSA)、多剤耐性結核菌(tuberculosis)(MDR−TB)、および一層薬剤耐性のグラム陰性生物の世界的な広がりは、監視、予防および防除、研究および製品開発に焦点を当てたアクションプランの形成を促した(US action plan to combat antimicrobial resistance.、Infect Control Hosp Epidemiol.2001;22(3):183-4)。しかしながら、任意のこれらの範囲に関して進展は最小限である。
【0005】
適切な抗生物質の迅速な投与は、腸球菌(E.faecium)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(A.baumanii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、およびエンテロバクター(Enterobacter)種などの院内病原体に関する病院設定内、または結核菌(tuberculosis)(TB)などの病原体に関する供給源不足(resource-poor setting)の設定内のいずれかで、重度の細菌感染がある患者の死亡率を最小にすることが繰り返し示されている(Harbarth et al、Am J Med.2003;115(7):529-35;Harries et al、Lancet.2001;357(9267):1519-23;Lawn et al、Int J Tuberc Lung Dis.1997;1(5):485-6)。しかしながら、生物の培養および二次培養(sub-culture)を含む現在の診断法は、生物とその薬剤感受性パターンの両方を正確に同定するのに数日以上要する可能性があるので、医師は経験によるより広いスペクトルの抗生物質の多数回の使用に依存しており、耐性の選択圧を加え、関連医療費は増大する。病原体およびそれらの耐性プロファイルを迅速に(例えば、1時間未満で)検出するためのポイントオブケア診断が早急に必要とされ、医療の実践を劇的に変える可能性がある。DNAベースまたはPCRベースの試験を設計するいくらかの尽力は、低い検出限界で病原体を迅速に同定することができるツールをもたらしている。しかしながら、これらのツールの世界的な使用は、研究室のインフラに関するコストおよび要求、および必要な酵素の影響を容易に受けない粗製サンプルの設定におけるPCRベースの方法の固有の非感受性が原因で、現在制限されている。薬剤耐性を決定するための分子学的手法はより一層限られており、既知の耐性を与える変異と比較した感染細菌の遺伝子型の定義に基づいて、非常に限られた方法でいくつかの生物(例えば、MRSA、TB)に利用可能である。しかしながら、この方法は、高感度を有する、試験用の全ての耐性を与える単一ヌクレオチド多型(SNP)の非常に広範囲の同定を必要とする(Carroll et al、Mol Diagn Ther.2008;12(1):15-24)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
要旨
本発明は、少なくとも部分的に、例えば粗製、非精製サンプル中のmRNAの検出に基づいて、疾患を診断する、病原体を同定する、および治療を最適化する、新しい方法の発見に基づく。本明細書に記載する方法は、薬剤感受性の決定に基づいて、サンプル、例えば臨床サンプル中の病原体の迅速で正確な同定をもたらし、最適な治療の選択を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、病原体、例えば細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫などの病原性生物(disease-causing organism)の薬剤感受性を決定する方法を特徴とする。方法は、病原体を含むサンプルを提供するステップと、サンプルと1つまたは複数の試験化合物を、例えば4時間未満接触させて、試験サンプルを提供するステップとを含む。試験サンプルは、試験サンプル中に病原体からmRNAを放出させる条件下で処理することができ、試験サンプルは複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに曝し、それぞれのサブセットは、耐性がある生物と比較して試験化合物に感受性がある生物中で差次的に発現される標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、曝露が、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で起こる。方法は、プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップと、試験化合物の存在下での標的mRNAのレベルと参照レベル、例えば試験化合物の不在下での標的mRNAのレベルとを比較するステップであって、標的mRNAの参照レベルと比較した標的mRNAのレベルの違いが、病原体が試験化合物に対して感受性であるか、または耐性があるかを示すステップとを含む。
【0008】
一実施形態では、病原体は既知の、例えば同定済みの病原体である。いくつかの実施形態では、方法は、未知の病原体、例えば未だに同定されていない病原体の薬剤感受性を決定する。
【0009】
いくつかの実施形態では、病原体を含むサンプルを、例えば同時にまたは同じサンプル内で2つ以上の試験化合物と接触させる、例えば既知の治療化合物または潜在的な治療化合物、例えば抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬、および駆虫薬(antiparasitis)と接触させる。これらの化合物のうちの多くのもの、例えば、イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール、ストレプトマイシン、アミカシン、カナマイシン、カプレオマイシン、ビオマイシン、エンビオマイシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、エチオナミド、プロチオナミド、シクロセリン、p−アミノサリチル酸、リファブチン、クラリスロマイシン、リネゾリド、チオアセタゾン、チオリダジン、アルギニン、ビタミンD、R207910、オフロキサシン、ノボビオシン、テトラサイクリン、メレペネム、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ゲルダナマイシン、ハービマイシン、ロラカルベフ、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファレキシン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフェピム、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、アジスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、スペクチノマイシン、アズトレオナム、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリン、ピペラシリン、チカルシリン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、エノキサシン、ガチフロキサシン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、マフェニド、プロントジル、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルファニリミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム、トリメトプリム−スルファメトキサゾール(コ−トリモキサゾール)、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、エタムブトール、フォスフォマイシン、フシジン酸、フラゾリドン、メトロニタゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン/ダルフォプリスチン、リファンピン、チアムフェニコール、チニダゾール、セファロスポリン、テイコプラチン(teicoplatin)、オーグメンチン、セファレキシン、リファマイシン、リファキシミン、セファマンドール、ケトコナゾール、ラタモキセフ、またはセフメノキシムは当技術分野で知られている。
【0010】
いくつかの実施形態では、サンプルを4時間未満、例えば3時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、20分未満、10分未満、5分未満、2分未満、1分未満、化合物と接触させる。
【0011】
別の態様では、本発明は、感染性疾患の病原体、例えば細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫、例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を同定する、例えば、サンプル、例えば臨床サンプル中の病原体の存在を検出する方法を特徴とする。これらの方法は、
病原体に感染している疑いがある被験体からの試験サンプルを提供するステップと、
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)を放出させる条件下で試験サンプルを処理するステップと、
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、曝露が、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で起こるステップと、
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップとを含む。参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大は、試験サンプル中の病原体のアイデンティティー(identity)を示す。
【0012】
いくつかの実施形態では、方法は、痰、血液、尿、大便、関節液(joint fluid)、脳脊髄液、および子宮頸部/膣スワブである、またはこれらを含む、サンプル中またはサンプル由来の感染性疾患の病原体を同定する。このようなサンプルは、複数の他の生物(例えば、1つまたは複数の非病原性細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫)または病原体を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、サンプルは、臨床サンプル、例えば医療提供者による医学的治療を施されるまたはその可能性がある患者または人からのサンプルである。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、1つまたは複数の核酸プローブは表2から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態では、mRNAは、プローブとの接触前に、粗製状態であり、例えば精製されておらず、および/または、mRNAを増殖して例えばcDNAを生成することを含まない。
【0015】
いくつかの実施形態では、方法は、酵素的、化学的、および/または機械的に細胞を溶解するステップを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法は、マイクロ流体デバイスの使用を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法を使用して、病原体の大発生、例えば、特定領域内の病原体数の急上昇の公衆衛生監視のため、病原体感染、例えば発生率、罹患率をモニタリングする。
【0018】
本明細書に記載する方法は、ヒト、および実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、もしくはサル、または飼育動物および家畜(domesticated and farm animals)、例えばネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、および鳥類、例えばニワトリなどの動物を含めた、被験体からのサンプル中に病原体が存在する場合に有効である。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、本明細書に記載するアッセイの結果に基づいて、被験体用の治療を決定および/または選択すること、および必要に応じて、被験体に治療を施すこと(administering the treatment)をさらに特徴とする。
【0020】
別の一般的な態様では、本発明は、被験体用の治療を選択する方法を特徴とする。これらの方法は、
例えば本明細書に記載する方法を使用して、感染性疾患の病原体を必要に応じては同定するステップ(例えば、サンプル中の特異的病原体の存在および/またはアイデンティティーを検出するステップ)と、
本明細書に記載する方法を使用して病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
被験体を治療する際に使用するための病原体が感受性のある薬剤を選択するステップとを含む。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、被験体中の病原体による感染をモニタリングするための方法を提供する。これらの方法は、
第一の時点に、病原体を含む第一のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
必要に応じて、病原体が感受性のある治療を選択し、選択した治療を被験体に施すステップと、
第二の時点に、病原体を含む第二のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性と第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を比較し、それによって被験体中の感染をモニタリングするステップとを含む。
【0022】
本明細書に記載する方法のいくつかの実施形態では、被験体は免疫無防備状態(immune compromised)である。
【0023】
本明細書に記載する方法のいくつかの実施形態では、方法は、病原体が感受性のある治療を選択し、選択した治療を被験体に施すステップを含み、病原体の薬剤感受性の変化は、病原体が治療に耐性があるか、または治療に耐性がある状態になりつつあるか(the pathogen is or is becoming resistant to the treatment)を示し、例えば、方法は、施される治療に対する病原体の薬剤感受性を決定するステップを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、病原体の薬剤感受性の変化は、病原体が治療に耐性があるか、または治療に耐性がある状態になりつつあることを示し、方法は、被験体に異なる治療を施するステップをさらに含む。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、被験体集団内における、病原体による感染をモニタリングするための方法を特徴とする。これらの方法は、
第一の時点に、集団内の被験体からの第一の複数のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第一の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定し、必要に応じて、本明細書に記載する方法を使用して第一の複数のサンプル中の感染性疾患の病原体を同定するステップと、
必要に応じて、被験体に治療を施するステップと、
第二の時点に、集団内の被験体からの第二の複数のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第二の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定し、必要に応じて、本明細書に記載する方法を使用して第一の複数のサンプルにおける感染性疾患の病原体を同定するステップと、
第一の複数のサンプルおよび第二の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性、および必要に応じて、病原体のアイデンティティーを比較し、それによって被験体集団内の感染をモニタリングするステップとを含む。
【0026】
さらに別の態様では、固形支持体と結合した複数のポリヌクレオチドを提供する。複数のポリヌクレオチドのそれぞれは、表2由来の1つまたは複数の遺伝子と選択的にハイブリダイズする。いくつかの実施形態では、複数のポリヌクレオチドは、配列番号1〜227、およびそれらの任意の組合せを含む。
【0027】
伝染病または伝染性疾患としても知られる「感染性疾患」は、被験体における病原性生物因子の感染、存在、および増殖に起因する臨床的に明らかな病状(すなわち、特徴的な医学的兆候および/または疾患の症状)を含む(Ryan and Ray(eds.)(2004).Sherris Medical Microbiology(4th ed.).McGraw Hill)。感染性疾患の診断は、例えば診断検査(例えば、血液検査)、カルテ審査、および臨床歴審査によって、医師により確認することができる。いくつかの場合、感染性疾患は、その過程の一部または全部で無症候性であり得る。感染性病原体は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、多細胞寄生虫、およびプリオンを含むことができる。当業者は、病原体の伝播は、物理的接触、汚染食品、体液、物体、空気媒介吸入、およびベクター生物介在を例外なく含めた、異なる経路を介して起こり得ることを理解する。特に感染性が強い感染性疾患は時折伝染性と呼ばれ、病人およびその分泌物との接触によって伝播する可能性がある。
【0028】
本明細書で使用する用語「遺伝子」は、産物(RNAまたはその翻訳産物、ポリペプチドのいずれか)をコードする染色体中のDNA配列を指す。遺伝子はコード領域を含有し、コード領域の前後に領域を含む(それぞれ「リーダー」および「トレイラー」と呼ばれる)。コード領域は、複数のコードセグメント(「エクソン」)および個々のコードセグメント間の介在配列(「イントロン」)で構成される。
【0029】
本明細書で使用する用語「プローブ」は、標的mRNAと特異的に結合するオリゴヌクレオチドを指す。プローブは、標的とのハイブリダイゼーション時に一本鎖であってよい。
【0030】
他に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明中で使用するための方法および材料を本明細書に記載し、当技術分野で知られている他の適切な方法および材料も使用することができる。材料、方法、および実施例は単なる例示的なものであり、限定的であることを意図するものではない。本明細書で言及する全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ、および他の参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、定義を含めた本明細書が優先される。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1A〜1Dは、NanoString(商標)(カラーコードプローブ対を用いた遺伝子発現の直接同時計測)技術を使用して、サンプル中のmRNA分子を定量化するための例示的な方法を示すフローチャートである。1A。対象のそれぞれのmRNAに対応する2つの分子プローブを粗製サンプル溶解物に加える。捕捉プローブは、ビオチンと結合した所与のmRNA分子と相補的な50bpオリゴマーからなる。レポータープローブは、蛍光タグと結合した同じmRNA分子の異なる部分と相補的な異なる50bpオリゴマーからなる。それぞれのタグは、所与のmRNA分子を独自に同定する。捕捉プローブとレポータープローブは、溶解物内のそれらの対応するmRNA分子とハイブリダイズする。1B。それぞれのオリゴマー上のハンドルとハイブリダイズするビーズ精製により過剰なレポーターを除去し、ハイブリダイズしたmRNA複合体のみ残す。1C。mRNA複合体を表面上に固定して並べる(aligned)。mRNA複合体は、ストレプトアビジンコーティング表面上でビオチン結合捕捉プローブによって捕捉する。電場を利用して、表面上で全て同じ方向に複合体を並べる。1D。表面を画像化しコードを数える。mRNA複合体は顕微鏡画像処理し、並べたレポータータグは数えることができ、これによってmRNA分子の定量測定値を与えることができる(nanostring.comから得た画像)。
【図2】図2A〜2Fは、薬剤耐性の遺伝子発現シグネチャーの診断を示す一連の図である。2A。患者由来のサンプル、例えば痰。2B。薬剤感受性と耐性菌を区別するための発現プログラムの誘導。サンプルは分割し、菌が薬剤に耐性であるか感受性であるかに応じて、異なる薬剤に曝して発現プログラムを誘導する。2C。mRNA分子とハイブリダイズするバーコードプローブ。細胞を溶解させ、プローブを粗製サンプルに加える。2D。mRNA複合体を捕捉して並べる。2E。複合体を画像化し計数する。2F。シグネチャーの分析。測定したmRNAレベルを標準化し、薬剤なしの対照および薬剤感受性および耐性の標準と比較して、全薬剤中の耐性プロファイルを定義する。
【図3】図3は、大腸菌(E.coli)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。6個の大腸菌(E.coli)遺伝子(ftsQ、murC、opgG、putP、secA、およびuup)用に設計したプローブを使用して、4個の臨床分離株を大腸菌(E.coli)として陽性同定した。それぞれの値は、4〜6反復の平均および標準偏差を表す。
【図4】図4は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。5個の緑膿菌(P.aeruginosa)遺伝子(proA、sltB1、nadD、dacC、およびlipB)用に設計したプローブを使用して、2個の臨床分離株を緑膿菌(P.aeruginosa)として陽性同定した。
【図5】図5は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。5個のクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)遺伝子(lrp、ycbK、clpS、ihfB、mraW)用に設計したプローブを使用して、臨床分離株を陽性同定した。
【図6】図6は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(proC、rpoB、およびfabD)用に設計したプローブを使用して、4個の臨床分離株を陽性同定した。
【図7】図7は、病原体特異的プローブを使用した病原体同定を示す、一連の3つの棒グラフである。
【図8】図8は、病原体同定感受性を示す一連の3つの棒グラフである。
【図9A】図9Aおよび9Bは、模擬臨床サンプル(simulated clinical sample)からの病原体同定を示す一連の3つの棒グラフである。
【図9B】図9Aおよび9Bは、模擬臨床サンプルからの病原体同定を示す一連の3つの棒グラフである。
【図10】図10は、緑膿菌(P.aeruginosa)の2個の臨床分離株の同定を示す一連の2つの棒グラフである。
【図11】図11は、大腸菌(E.coli)におけるフルオロキノロン耐性の確認(identification)を示す棒グラフである。
【図12】図12は、大腸菌(E.coli)におけるアミノグリコシド耐性の確認を示す棒グラフである。
【図13】図13は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)におけるメチシリン耐性の確認を示す棒グラフである。
【図14】図14は、エンテロコッカス(Enterococcus)におけるバンコマイシン耐性の確認を示す棒グラフである。
【図15】図15は、薬剤耐性結核菌(M.tuberculosis)における薬剤特異的遺伝子誘導を示す一連の4つの棒グラフである。
【図16】図16は、イソニアジド感受性と耐性TB菌株を比較する3個のスキャッタープロットの図である。それぞれのドットは、24遺伝子プローブの1つを表す。軸はデジタル遺伝子発現技術(NanoString(商標))によって測定した転写産物の数を表す。左−薬剤処理の不在下でのイソニアジド耐性菌株とイソニアジド感受性菌株における発現の比較。中央−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド感受性菌株(drug treated vs. drug untreated isoniazid sensitive strain)における発現の比較。右−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド耐性菌株における発現の比較。
【図17】図17は、NanoString(商標)を使用して薬剤感受性と薬剤耐性の結核菌(M.tuberculosis)の転写応答を比較する一連の4つの棒グラフである。(A)本明細書に記載するように菌株A50(INH−R)をINH(0.4μg/ml)で処理した。(B)SM−RクローンS10は2μg/mlのストレプトマイシンで処理した。
【図18】図18は、感受性と耐性のTB菌株における差次的遺伝子発現誘導を示す棒グラフである。INHで処理したINH感受性(野生型)細胞/未処理細胞における各遺伝子の発現の割合は、INHで処理したINH耐性細胞/未処理細胞における各遺伝子の発現で割る。
【図19】図19は、結核菌(M.tuberculosis)におけるINH誘導型遺伝子の誘導の経時変化を示す線グラフである。イソニアジド感受性H37Rvを0.4μg/mlのINH(5XMIC)に曝し、1時間、2時間、および5時間で10mlの培養物からRNAを調製した。次いでqRT−PCRを使用してkasA、kasB、およびsigAに対する転写産物の量を定量化し、レベルはsigAに標準化してt=0と比較する。
【図20】図20は、発現シグネチャーを検出するための例示的なワークフローである。痰中のバチルス(bacilli)の実際の生理的状態は知られていないので、プロセス開発中に複製細菌と非複製細菌の両方をモデル化する。無菌培養において増殖したH37Rv(リッチ7H9/OADC/SDS培地中または7H9/チロキサポール中で枯渇のいずれか)は、これらの実験において痰中のバチルス(bacilli)を表す。バチルス(bacilli)を富栄養培地(rich media)に曝しながら一定時間t1パルス処理し、休眠状態からの蘇生を刺激して転写を活性化する。最適なt1は実験によって決定する。次いでバチルス(bacilli)を薬剤に曝しながら一定時間t2パルス処理し、転写応答を誘発する。最適なt2は実験によって決定する。最後に、全てのサンプルを処理し、発現プロファイリングによって分析し、定量RT−PCRによって確認する。
【図21】図21は、遺伝子の発現の割合を比較して薬剤感受性と耐性のバチルス(bacilli)を区別する例示的な方法である。定量RT−PCRを使用して、発現シグネチャーに含める候補である遺伝子に関するmRNAレベルを測定する。薬剤の存在下(誘導−薬剤)および薬剤の不在下(非誘導−無薬剤)で、「実験用(exp)」で示すサンプル(すなわち、臨床分離株)中の対象の遺伝子のmRNAレベルを測定する。標準ハウスキーピング遺伝子のmRNAレベルも、薬剤の存在下(ハウスキーピング−薬剤)および薬剤の不在下(ハウスキーピング−無薬剤)で測定する。対象の遺伝子とハウスキーピング遺伝子のレベルの割合によって、薬剤の存在下(A)および薬剤の不在下(B)での発現を標準化することができる。いくつかの薬剤感受性菌株に関してA>B、および薬剤耐性菌株に関してA=Bが予想される。最後に、薬剤感受性および薬剤耐性であることが知られている対照菌株(CおよびD)に関して同じ対応率を作製する。これらの対照値は、未知の菌株から得た実験比の比較用の標準として働く。
【図22】図22は、培養または患者標本に直接由来する細菌種の陽性同定を示す一連の棒グラフおよびスキャッタープロットである。細菌サンプルは、種特異的転写産物の検出用に設計したNanoString(商標)プローブを用いて分析した。Y−軸:転写産物の加工していないカウント(raw count);X−軸:遺伝子の名称。大腸菌(E.coli)(黒色)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)(白色)、緑膿菌(P.aeruginosa)(グレー)に特異的なプローブ。エラーバーは2回の生物学的反復の標準偏差を表す。(A)グラム陰性細菌の培養物からの検出。(B)混合培養物(プロビデンシア・スチュアルティ(Providencia stuartii)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、シトロバクター・フレウンデー(Citrobacter freundii))内の検出。(C)培養物中のマイコバクテリウム(mycobacteria)の属および種特異的検出。結核菌(M.tuberculosis)(Mtb)、マイコバクテリウム・アビウム亜種イントラセルラーレ(M.avium subsp.intracellulare)(MAI)、ヨーネ菌(M.paratuberculosis)(Mpara)、およびマイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)(Mmar)。属範囲(genus-wide)のプローブ(グレー)、結核菌(M.tuberculosis)特異的プローブ(黒色)。(D)臨床尿試料に直接由来する大腸菌(E.coli)の検出。(E)非大腸菌(E.coli)サンプルと比較した大腸菌(E.coli)サンプルのアイデンティティーの統計的決定。それぞれのプローブに関するカウントを平均し、対数(log)変換して合計した。(F)ブドウ球菌(Staphylococci)においてメチシリン耐性を与えるmecA mRNA、および腸球菌(Enterococci)においてバンコマイシン耐性を与えるvanA mRNAの検出。それぞれのポイントは異なる臨床分離株を表す。
【図23】図23は、抗生物質への曝露によって感受性細菌と耐性細菌を区別するRNA発現シグネチャーを示す、一連の7つの棒グラフである。感受性または耐性の細菌株を対数期(log phase)まで増殖させ、抗生物質に軽く曝露し、溶解し、抗生物質への曝露に応じて変わる転写産物の定量化用に設計したNanoString(商標)プローブセットを使用して分析した。加工していないカウントはサンプル用の全プローブの平均に標準化し、薬剤曝露と非曝露サンプルを比較することによって誘導倍率を決定した。Y−軸:変化倍率;X−軸:遺伝子の名称。(A)大腸菌(E.coli):シプロフロキサシン(CIP)、アンピシリン(AMP)、またはゲンタマイシン(GM)、(B)緑膿菌(P.aeruginosa):シプロフロキサシン、および(C)結核菌(M.tuberculosis):イソニアジド(INH)、ストレプトマイシン(SM)、またはシプロフロキサシン(CIP)に曝露した、感受性菌株(黒色;上図)または耐性菌株(グレー;下図)に関するシグネチャー。それぞれの菌株は二連で試験し、エラーバーは、1個の代表的菌株の2回の生物学的反復の標準偏差を表す。試験した菌株の完全な一覧に関する表6を参照。
【図24】図24は、発現シグネチャーの誘導レベルの平均二乗長を使用した抗生物質耐性と感受性の細菌株の統計的分離を示す、3個のスキャッタープロットの図である。平均二乗長(MSD)は、抗生物質に曝露した感受性菌株に関する平均シグナルからの試験した各菌株の偏差を示すZスコアとして表す。感受性菌株:白い菱形;耐性菌株:黒い菱形。破線:Z=3.09(p=0.001)(A)大腸菌(E.coli)臨床分離株。それぞれのポイントは、1菌株の2〜4回の生物学的反復を表す。(BおよびC)抗生物質への曝露に対する発現シグネチャー応答は耐性機構と無関係である。(B)染色体フルオロキノロン耐性を与えるgyrAの変異またはプラスミド媒介性キノロン耐性決定基(aac(6’)−Ib、qnrB、またはoqxAB)のいずれかを含有する大腸菌(E.coli)親菌株J53および誘導体はシプロフロキサシンに曝露し、次いで前述のように分析した。エラーバーは4回の生物学的反復の標準偏差を表す。(C)結核菌(M.tuberculosis)。イソニアジド感受性および高または低レベルの耐性菌株をイソニアジドに曝露した。1μg/mLで、低レベルのINH耐性inhAは感受性シグネチャーを示すが、0.2μg/mLでは、それは耐性シグネチャーを示す。
【図25】図25は、ウイルスおよび寄生虫の検出を示す一連の5つの棒グラフである。細胞を溶解し、プールしたプローブセットを加え、標準NanoString(商標)プロトコールに従いサンプルをハイブリダイズさせた。(A)無菌培養から検出したカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)。(B)HIV−1。HIV−1gagおよびrev用に設計したプローブを用いたPBMC溶解物からの検出。(C)インフルエンザA(Influenza A)。マトリックスタンパク質1および2用に設計したプローブを用いた、293T細胞溶解物におけるPR8インフルエンザウイルスの検出。(D)HSV−1およびHSV−2。HSV−2糖タンパク質G用に設計したプローブを用いた、HeLa細胞溶解物におけるHSV−2菌株186Syn+の検出。高いMOIでさえ、HSV−1とHSV−2特異的プローブのクロスハイブリダイゼーションはほとんどなかった。(E)熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)。示したレベルの寄生虫血症(parasitemia)で採取した赤血球からの熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)菌株3D7の検出。プローブは熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)に関して示した血液段階用に設計した。
【図26】図26は、臨床分離株の生物の同定を示す一連の3個のスキャッタープロットの図である。細菌培養物を溶解し、種特異的転写産物の検出用に設計したプローブを加え、ハイブリダイズさせ、標準NanoString(商標)プロトコールによって検出した。大腸菌(E.coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、または緑膿菌(P.aeruginosa)を同定するプローブを含有するプールしたプローブセットをAおよびBにおいて使用した。Cでは、結核菌(M.tuberculosis)用の種特異的プローブは微生物病原体に対する特に大きなプローブセットであった。左のY−軸はそれぞれの生物に関する1〜5の別個の転写産物からの対数変換のカウントの合計を示し、X−軸は試験した種を示す。破線は、所与サンプルのスコアが対照(「非生物」)サンプルの平均から逸脱した標準偏差数に基づく0.001のp値を示す。「非生物」サンプルは、他の細菌生物、ただし定義する生物が不在であることが知られている細菌生物を含有した、試験したサンプルを示す。(C)に関しては、非生物サンプルは、マイコバクテリウム・イントラセルラーレ(M.intracellulare)、ヨーネ菌(M.paratuberculosis)、マイコバクテリウム・アブセサス(M.abscessus)、マイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)、マイコバクテリウム・ゴルドナエ(M.gordonae)、およびマイコバクテリウム・ホルツイツム(M.fortuitum)を含めた、非結核菌マイコバクテリウム(tuberculous mycobacteria)であった。試験した菌株および臨床分離株の数は表4中に示し、(そのために50ntプローブを設計した)病原体同定に使用した遺伝子は表5中に列挙する。
【図27】図27は、ゲンタマイシン(左図)またはアンピシリン(左図)感受性と耐性の大腸菌(E.coli)菌株の平均二乗長(MSD)の比較を示す図である。Y軸は、既知の感受性菌株の応答の中心(centroid)と比較した、それぞれのサンプルのMSDのZスコアを示す。点線は、0.001のp値に相当するZ=3.09を示す。
【図28】図28は、シプロフロキサシン感受性と耐性の緑膿菌(P.aeruginosa)菌株の平均二乗長の比較を示すスキャッタープロットの図である。Y軸は、既知の感受性菌株の応答の中心と比較した、それぞれのサンプルのMSDのZスコアを示す。
【図29】図29は、ストレプトマイシン(SM)またはシプロフロキサシン(CIP)感受性と耐性の結核菌(M.tuberculosis)菌株の平均二乗長の比較を示す2個のスキャッタープロットの図である。Y軸は、既知の感受性菌株の応答の中心と比較した、それぞれのサンプルのMSDのZスコアを示す。
【図30】図30は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)分離株の陽性同定を示す棒グラフである。5個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(ileS、ppnK、pyrB、rocD、およびuvrC)用に設計したプローブを使用して、3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)分離株を陽性同定した。
【図31】図31は、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)分離株の陽性同定を示す棒グラフである。6個のステノトロホモナス・マルトフィリア(S.maltophilia)遺伝子(clpP、dnaK、purC、purF、sdhA、およびsecD)用に設計したプローブを使用して、3個の分離株をステノトロホモナス・マルトフィリア(S.maltophilia)として陽性同定した。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
本明細書に記載するのは、転写発現プロファイルシグネチャーに基づいて、病原体、例えば細菌、真菌、ウイルス、および寄生虫とその薬剤耐性パターンの両方を同定するための、迅速で、高感度の、表現型に基づく方法である。感受性および耐性の病原体は薬剤曝露に対して非常に異なる応答をし、初期の1つでは、最も迅速な応答はそのそれぞれの発現プロファイルの変化を反映した。分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現を使用して、薬剤曝露に対するこれらの初期転写応答を検出して、酵素学または分子生物学を必要としない迅速な形式で、薬剤感受性および耐性の病原体を区別することができる。本発明は様々な臨床サンプル中の広範囲の微生物病原体に適用可能であり、現在の診断ツールと共にまたは独立して使用することができる。主に結核菌(tuberculosis)(「TB」、結核菌(Mycobacterium tuberculosis))に関して使用する方法を記載するが、(例えば、表1中に列挙したような)他の病原体およびそれらの関連臨床症状に関する使用に、それらを適用することができることは当業者によって理解される。
【0034】
薬剤耐性の診断および同定は、より迅速な「顕微鏡観察による薬剤感受性(microscopic-observation drug-susceptibility)」(MODS)培養法、ファージ送達型レポーター、または比色定量指標さえも使用する培養試験に必要とされるTBの非常に遅い増殖のため、TBに関して非常に課題がある。薬剤耐性を決定するための別のアプローチは、知られている耐性を与える変異と比較して感染病原体の遺伝子型を定義することに基づくが、しかしながら、このアプローチは、高感度を有する試験のためには全ての耐性を与える単一ヌクレオチド多型(SNP)の非常に広範囲の同定を必要とする。
【0035】
本明細書に記載する方法は、病原体の発現プロファイルシグネチャーに基づいて、サンプル、例えば臨床サンプル中の病原体を例えば同定するため、および病原体の薬剤感受性を決定するために使用することができる。薬剤感受性と耐性の病原体を区別するために使用することができる最も初期の最も迅速な応答の1つは、対象の薬剤への曝露時のそのそれぞれの転写プロファイルである。病原体は、それらがその特定薬剤に対して感受性であるかまたは耐性であるかに応じて、薬剤曝露に対して非常に異なる応答をする。例えばいくつかの場合、薬剤感受性または薬剤耐性の細菌は、上方および下方の制御遺伝子によって薬剤曝露に対して数分〜数時間内に応答し、耐性細菌にそのような応答がない一方で、薬剤および付随するより非特異的なストレスを克服しようとおそらく試みる。この迅速な応答は、病原体を殺傷またはその増殖を阻害するための化合物に必要とされる長時間とは対照的である。有効な形式での臨床サンプルからの病原体の死または増殖阻害の検出は、さらに大きな課題となる。例えば分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現を使用して、薬剤曝露に対するこれらの初期転写応答を検出し、酵素学または分子生物学を必要としない迅速な形式で薬剤感受性と耐性の病原体を区別することができ、したがって患者から回収した粗製臨床サンプルで直接実施することができる。この読み出し値が表現型であり、したがって例えばTBの薬剤耐性を考慮したSNPの包括的定義を必要としない。本明細書に記載するのは、病原体、例えばTBバチルス(bacilli)に対する高い特異性を与え、感受性病原体と耐性病原体を区別するための遺伝子のセットである。感受性病原体と耐性病原体を区別する発現シグネチャーを構成する遺伝子の選択に基づいて、検出限界の感度を、多量に誘導され、したがって臨床サンプル内の病原体の数によってのみ制限されない転写産物を選択することによって最適化する。このセットの大きさを測定して、必要とされる遺伝子の数を最小にする。したがって本発明は、迅速(例えば、数時間)、高感度、および特異的である病原体およびその付随する耐性パターンを診断するための、高感度の表現型試験として使用することができる。この試験は病原体に感染した患者のケアを変える可能性があり、例えば世界のTB発生領域のための、コスト効率が良い、ポイントオブケア診断である。
【0036】
本発明の方法は、高度の感受性および特異性で、粗製細胞サンプルから直接の核酸シグネチャー、具体的にはRNAレベルの検出を可能にする。この技術を使用してTBを同定することができ、臨床サンプル、例えば痰、尿、血液、または大便から直接の迅速で簡潔な処理を用いた、高感度での異なる発現シグネチャーの測定によって薬剤感受性パターンを決定することができ、この技術はリンパ節などの他の組織にも適用可能である。高感度は、DNAではなくmRNAを検出することによって得ることができる。単細胞は(検出のために増幅を典型的に必要とする)1ゲノムDNAコピーと比較して細胞当たりより多くのmRNAのコピー(>103)を有する可能性がある、(<2000コピーmRNAを検出する)この技術の高い固有の感度のためである。迅速で簡潔なサンプル処理は、mRNA分子の検出に必要とされる酵素学および分子生物学的方法の欠如のため可能であり、その代わりいくつかの実施形態では、これらの方法は、粗製溶解物中でのバーコードプローブとmRNA分子のハイブリダイゼーション、次に(例えば、図1中に例示するような)直接的可視化を利用する。これらの実施形態ではハイブリダイゼーションを使用するので、mRNAは粗製細胞溶解物、固定組織サンプル、およびグアニジウムイソチオシアネート(guanidinium isothiocyanate)、ポリアクリルアミド、およびTrizol(登録商標)を含有するサンプルから、いかなる精製ステップもなく直接検出することができる。粗製mRNAサンプルは生物体液または固形物から得ることができ、例えば、痰、血液、尿、大便、関節液、脳脊髄液、子宮頸部/膣スワブ、胆汁液、胸膜液、腹膜液、または心膜液、または例えば骨生検、肝生検、肺生検、脳生検、リンパ節生検、食道生検、結腸生検、胃生検、小腸生検、心筋生検、皮膚生検、および洞生検由来の組織生検サンプルを使用することもできる。
【0037】
RNA抽出
酵素的、化学的、または機械的にサンプルを処理して、サンプル中の細胞を溶解し、mRNAを放出させることによって、サンプル、例えば病原体細胞または臨床サンプル中の細胞からRNAを抽出することができる。プロセス中に他の破壊法を使用することができることは、当業者によって理解される。
【0038】
細胞壁を除去するための酵素法の使用は、当技術分野で十分確立している。酵素は一般に市販されており、かつ大抵の場合、生物源から最初に単離されている。一般に使用される酵素としては、ライソザイム、リゾスタフィン、ジモラーゼ、ムタノリシン、グリカナーゼ、プロテアーゼ、およびマンノースが挙げられる。
【0039】
化学物質、例えば界面活性剤は、脂質−脂質、脂質−タンパク質およびタンパク質−タンパク質の相互作用を妨害することによって、細胞周辺の脂質バリアを破壊する。細胞溶解に理想的な界面活性剤は、細胞型および供給源に依存する。細菌と酵母は、それらの細胞壁の性質のため、最適な溶解に関して異なる要件を有する。一般に、非イオン性および両性イオン性の界面活性剤が穏やかである。Triton X系の非イオン性界面活性剤および3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、両性イオン性界面活性剤が一般にこれらの目的に使用される。対照的に、イオン性界面活性剤は強力な可溶化剤であり、タンパク質を変性させる傾向があり、それによってタンパク質の活性および機能を妨害する。タンパク質と結合し変性させるSDS、イオン性界面活性剤が、細胞を破壊するために当技術分野で広く使用されている。
【0040】
細胞の物理的破壊は超音波処理、フレンチプレス、エレクトロポレーションを必要とする可能性があり、または基本構造を含むマイクロ流体デバイスを使用して機械的に細胞を破壊することができる。これらの方法は当技術分野で知られている。
【0041】
分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現
遺伝子発現プロファイルに基づいて病原体を同定するための、例示的手順のフローチャートを図1中に示す。対象の各病原体を同定するためのオリゴヌクレオチドプローブは、BLASTソフトウエアにより対象の病原体由来のコード配列と他の生物中の全遺伝子配列を比較することによって選択する。対象の病原体と完全に一致するが、任意の他の生物とは50%を超えて一致しない、約50ヌクレオチド、例えば80ヌクレオチド、70ヌクレオチド、60ヌクレオチド、40ヌクレオチド、30ヌクレオチド、および20ヌクレオチドのプローブのみを選択した。対象の各mRNAに相当し互いに100塩基対内である2つのプローブを選択する。
【0042】
2つの分子プローブを、mRNA分子を含有する粗製サンプル溶解物に加える。捕捉プローブは所与のmRNA分子と相補的な50ヌクレオチドを含み、ビオチンと結合させることが可能である。レポータープローブは同じmRNA分子の異なる部分と相補的な異なる50ヌクレオチドを含み、レポーター分子、例えば蛍光タグまたは量子ドットと結合させることが可能である。それぞれのレポーター分子は所与のmRNA分子を独自に同定する。捕捉プローブとレポータープローブは、溶解物内のそれらの対応するmRNA分子とハイブリダイズする。それぞれのオリゴマー上のハンドルとハイブリダイズするビーズ精製により過剰なレポーターを除去し、ハイブリダイズしたmRNA複合体のみ残す。mRNA複合体は、表面上、例えばストレプトアビジンコーティング表面上で捕捉し固定することができる。表面を顕微鏡画像処理する前に、電場を利用して、表面上で全て同じ方向に複合体を並べることができる。
【0043】
レポーター分子を計数して、mRNA分子の定量測定値を与えることができる。市販のnCounter(商標)Analysis System(NanoString、Seattle、WA)をその手順中で使用することができる。しかしながら、他のシステムをそのプロセス中で使用することができることは当業者によって理解される。例えば、バーコードではなく、量子ドットでプローブを標識することができる。例えば、Sapsford et al、「Biosensing with luminescent semiconductor quantum dots.」Sensors 6(8): 925-953 (2006);Stavis et al、「Single molecule studies of quantum dot conjugates in a submicrometer fluidic channel.」Lab on a Chip 5(3):337-343 (2005);およびLiang et al、「An oligonucleotide microarray for microRNA expression analysis based on labeling RNA with quantum dot and nanogold probe.」Nucleic Acids Research 33(2):e17(2005)を参照。
【0044】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体(例えば「ラボオンチップ」)デバイスを、サンプル中のmRNAを検出および定量化するために本発明の方法において使用することができる。このようなデバイスは、マイクロ流体フローサイトメトリー、連続的な大きさに基づく分離(continuous size-based separation)、およびクロマトグラフィーによる分離用に首尾よく使用されている。特に、このようなデバイスは、本明細書に記載するように粗製サンプル中の特定標的mRNAを検出するために使用することができる。様々なアプローチを使用して、特定mRNAのレベルの変化を検出することができる。したがって、このようなマイクロ流体チップ技術は、本明細書に記載する方法中で使用するための診断および予後用デバイスにおいて使用することができる。例えば、Stavis et al、Lab on a Chip5(3):337-343(2005);Hong et al、Nat.Biotechnol. 22(4):435-439(2004);Wang et al、Biosensors and Bioelectronics 22(5):582-588(2006);Carlo et al、Lab on a Chip3(4):287-291 (2003);Lion et al、Electrophoresis24 21 3533-3562 (2003); Fortier et al、Anal.Chem.,77(6):1631-1640(2005)、米国特許公開No.2009/0082552;および米国特許第7,611,834号を例えば参照。本明細書中には、結合成分、例えば本明細書に記載する病原体と特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む、マイクロ流体デバイスも含まれる。
【0045】
これらのマイクロ流体デバイスは、標識量子ドットおよび他のレポーター分子のレーザー励起を組み込むことができる。これらのデバイスは、可視光線を含めた様々な検出機構、および電荷結合デバイスベースカメラを含めた様々なデジタルイメージングセンサー法による、生じる発光の検出も組み込むことができる。これらのデバイスは、生成した加工されていないシグナルおよびデータを診断情報に変換する(translate)画像処理および分析能力も組み込むことができる。
【0046】
発現シグネチャーを使用する、病原体アイデンティティーおよび病原体薬剤耐性の迅速な、表現型による診断
この技術を利用して、病原体のアイデンティティーまたは薬剤耐性の迅速な決定を達成することができる。
【0047】
特有遺伝子の検出に基づいて、サンプル中の病原体を同定することができる。したがって例えば、肺炎または気管支炎などの呼吸器疾患関連の症状を有する被験体から、痰サンプルを得ることができ、どの疾患が存在しどの病原体がその疾患の原因であるかを決定するアッセイを実施する(例えば、表1参照)。尿サンプルを得て膀胱炎、腎盂腎炎、または前立腺炎を診断することができる(例えば、表1参照)。当業者は、患者によって示される症状の性質およびその差次的診断に応じて、特定の型のサンプルを得て、アッセイすることができることを理解している。それぞれの生物を同定するための具体的な遺伝子は本明細書に記載する方法により同定することができ、特定病原体を同定するための例示的な遺伝子は表2中に含まれる。
【0048】
大きく加速する耐性の試験に関する原則は、対象の特定薬剤への曝露時に病原体の薬剤感受性と耐性の菌株の間で生じる転写応答の差異の検出に基づく。これらの転写プロファイルは測定可能な薬剤曝露に対する初期表現型応答であり、それらは薬剤曝露による桿菌死のかなり前に検出することができる。この転写ベースのアプローチには、それが代用SNPではなく薬剤曝露に対する病原体の直接的な応答を測定する点で、遺伝子型ベースのアプローチに勝る異なる利点もある。
【0049】
いくつかの実施形態では、図2中に記載したように試験を実施することができる。サンプル、例えばTBを有する患者由来の痰サンプルを、いくつかのより小さなサブサンプルに分割する。異なるサブサンプルを、所定の時間(例えば、4時間未満、3時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、20分未満、10分未満、5分未満、2分未満、1分未満)、薬剤なしまたは異なる、既知もしくは潜在的薬剤(例えば、TBサンプルの場合、イソニアジド、リファンピン、エタンブトール、モキシフロキサシン、ストレプトマイシン)のいずれかに曝露し、その間に薬剤感受性菌株において発現プロファイルが誘導され、それを薬剤耐性菌株と区別する。次いでサブサンプル中のTBバチルス(bacilli)を溶解し、バーコード分子プローブをハイブリダイゼーション用に加え、固定および画像化後にサブサンプルを分析する。次いで転写データセットを分析して、TBの薬剤感受性および薬剤耐性の菌株に関する発現応答に基づいて一群の薬剤に対する耐性を決定する。したがって、TBおよび個々の抗生物質に対するその応答を独自に同定するための発現シグネチャーを決定することができ、生じたデジタル遺伝子発現に利用するためのプローブセット、およびサンプル処理および回収法を最適化することができる。
【0050】
発現シグネチャーの定義および転写シグナルの最適化の際に、考慮しなければならない2つの問題は、1.細胞が複製状態または非複製状態のいずれかであり得るので、現在定義されていない痰中のバチルス(bacilli)の代謝状態、および2.回収した痰中のTBバチルス(bacilli)が抗生物質に事前に曝されている(すなわち、患者が抗生物質を用いて経験的に既に治療されている)可能性である。
【0051】
いくつかの実施形態では、病原体を同定する方法および薬剤感受性を決定する方法は、同じマイクロアレイもしくはマイクロ流体デバイスにおいて、同時に、例えば同じサンプルで、または例えば、病原体のアイデンティティーを決定した後に、続けて実施し、薬剤感受性に適したアッセイを選択し実施する。
【0052】
本明細書に記載する方法において有用な遺伝子およびプローブの例示的なセットは、ここに提示する表2中に提供される。
【0053】
治療の方法
本明細書に記載する方法は、障害、例えば表1中に列挙する障害を治療するための方法を含むが、これに限定されない。一般に、これらの方法は、本明細書に記載する方法を使用して被験体からのサンプル中の病原体を同定すること、または、被験体中の病原体が感受性である1つの薬剤(または複数の薬剤)を同定すること、およびこのような治療を必要とする、またはこのような治療を必要とすると決定された被験体に、病原体を中和する治療用化合物を、治療有効量投与することを含む。この文脈で使用する「治療する(treat)」は、表1中に列挙する障害の1つと関係がある障害の少なくとも1つの症状を改善することを意味する。例えばこれらの方法は、咳、胸の痛み、熱、疲労、予期せぬ体重減少、食欲不振、悪寒および寝汗をもたらすことが多いTBの治療を含み、したがって、治療はこれらの症状の低減をもたらすことができる。他の疾患の臨床症状は当技術分野でよく知られている。
【0054】
「有効量」は、有益または望ましい結果を得るのに十分な量である。例えば治療量は、望ましい治療効果を達成する量である。この量は、疾患または疾患症状の発生を予防するのに必要な量である、予防有効量と同じであっても異なっていてもよい。有効量は、1回または複数回の投与(administeration)、適用(application)または投薬(dosage)で施すことができる。組成物の治療有効量は、選択する組成物に依存する。組成物は、2日に1回を含めて、1日当たり1回または複数回から1週間当たり1回または複数回で投与することができる。組成物は、1ヶ月当たり1回または複数回から1年当たり1回または複数回で投与することもできる。当業者は、疾患または障害の重度、事前の治療、被験体の一般的な健康状態および/または年齢、および存在する他の疾患を非制限的に含めたいくつかの要因が、被験体を効率よく治療するのに必要な用量およびタイミングに影響を与える可能性があることを理解している。さらに、本明細書に記載する治療有効量の組成物を用いた被験体の治療は、1回の治療または一連の治療を含むことができる。
【0055】
診断の方法
病原体を同定するおよび/またはその薬剤感受性を決定するための方法は本明細書に含まれる。方法は、被験体からサンプルを得ること、およびサンプル中の病原体の存在および/または薬剤感受性を評価すること、および1つまたは複数の参照、例えば非感染被験体または野生型病原体におけるレベルと存在および/または薬剤感受性を比較することを含む。mRNAの存在および/またはレベルは本明細書に記載する方法を使用して評価することができ、これらは当技術分野で知られており、例えば定量イムノアッセイ法を使用する。いくつかの実施形態では、当技術分野で知られているハイスループット法、例えば遺伝子チップ(例えばCh.12、Genomics、in Griffiths et al、Eds.Modern Genetic Analysis、1999、W.H.Freeman and Company; Ekins and Chu、Trends in Biotechnology、1999、17:217-218; MacBeath and Schreiber、Science2000、289(5485):1760-1763; Simpson、Proteins and Proteomics: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press; 2002; Hardiman、Microarrays Methods and Applications: Nuts & Bolts、DNA Press、2003を参照)を使用してmRNAの存在および/またはレベルを検出することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、サンプルは、生物体液または固形物、例えば、痰、血液、尿、大便、関節液、脳脊髄液、子宮頸部/膣スワブ、胆汁液、胸膜液、腹膜液、または心膜液、または例えば骨生検、肝生検、肺生検、脳生検、リンパ節生検、食道生検、結腸生検、胃生検、小腸生検、心筋生検、皮膚生検、および洞生検(sinus biopsy)由来の組織生検サンプルを含む。いくつかの実施形態では、人が病原体、例えば表1中に列挙する病原体を有すること、または薬剤耐性病原体を有することを決定した後、次いで治療、例えば当技術分野で知られているまたは本明細書に記載する治療を施すことができる。
【0057】
キット
本明細書に記載する遺伝子の領域とハイブリダイズするプローブを含むキットも本発明の範囲内であり、キットを使用して本明細書に記載する病原体を検出することができる。キットは、使用説明書、および他の試薬、例えば標識、またはプローブと標識を結合させるのに有用な作用物質を含めた、1つまたは複数の他のエレメントを含むことができる。使用説明書は、本明細書に記載する方法において治療に対する応答を予想するためのプローブの診断用途に関する説明書を含むことができる。他の説明書は、プローブと標識を結合させるための説明書、プローブを用いて分析を実施するための説明書、および/または被験体から分析するサンプルを得るための説明書を含むことができる。前に論じたように、キットは標識、例えばフルオロフォア、ビオチン、ジゴキシゲニン、および32Pおよび3Hなどの放射性同位体を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載する遺伝子の領域とハイブリダイズする標識プローブ、例えば本明細書に記載する標識プローブを含む。
【0058】
キットは、病原体と関係がある同じ遺伝子または別の遺伝子またはその一部分とハイブリダイズする、1つまたは複数のさらなるプローブも含むことができる。さらなるプローブを含むキットは、標識、例えばプローブ用の1つまたは複数の同じまたは異なる標識をさらに含むことができる。他の実施形態では、キットと共に供給されるさらなる1つまたは複数のプローブは、標識された1つまたは複数のプローブであってよい。キットが1つまたは複数のさらなるプローブをさらに含むとき、キットはその1つまたは複数のさらなるプローブの使用説明書をさらに提供することができる。
【0059】
自己試験で使用するためのキットも提供することができる。例えば、このような試験キットは、医療供給者の協力なしで、例えば痰、口腔細胞、または血液のサンプルを得るために被験体が使用することができる、デバイスおよび説明書を含むことができる。例えば、口腔細胞は、口腔スワブまたはブラシを使用して、または口内洗浄液を使用して得ることができる。
【0060】
本明細書で提供するキットは、例えば研究室に、分析用サンプルを返却するために使用することができる、郵便物、例えば料金別納封筒または郵便小包も含むことができる。キットは1つまたは複数のサンプル用容器を含むことができ、またはサンプルは標準的な血液回収バイアル中に存在してよい。キットは、1つまたは複数の承諾書、試験依頼書、および本明細書に記載する方法中でのキットの使用法に関する説明書も含むことができる。このようなキットを使用するための方法も本明細書に含まれる。1つまたは複数の文書、例えば試験依頼書、およびサンプルを保持する容器は、サンプルを提供した被験体を同定するために、例えばバーコードでコードすることができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、キットはサンプルを処理するための1つまたは複数の試薬を含むことができる。例えばキットは、サンプルからmRNAを単離するための試薬を含むことができる。キットは、mRNAまたはmRNAアンプリコンを検出可能に標識するための1つまたは複数の試薬も必要に応じては含有することができ、これらの試薬は、例えば、DNAポリメラーゼのクレノウ断片、T4ポリヌクレオチドキナーゼなどの酵素、1つまたは複数の検出可能に標識したdNTP、または検出可能に標識したγホスフェートATP(例えば33P−ATP)を含むことができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、キットは、例えば、マイクロアレイ分析または発現プロファイルの結果を分析するためのソフトウエアパッケージを含むことができる。
【0063】
本発明は以下の実施例中にさらに記載するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1:病原体の同定
大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)。大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、およびエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)における特有コード配列を同定し(表2)、これらを使用してこれらの生物を陽性同定した(図3〜6)。臨床分離株は、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。次いで5マイクロリットルのそれぞれの培養液を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファー(RLTバッファー、Qiagen)に加え、5秒間攪拌した。次いで4マイクロリットルのそれぞれの溶解調製物を、溶解物に関する製造者の標準プロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で使用した。同定に関する基準は、平均バックグラウンド(他の2個の生物に関する全生物同定用プローブに関する平均カウント)の少なくとも2倍を超える、(緑膿菌(P.aeruginosa)またはクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)用の)全5個または(大腸菌(E.coli)用の)6個の生物同定用プローブに関するカウントであった。複製間で比較するため、カウントはproCのカウントに標準化した。表2中に記載する生物同定用プローブを使用して、4個の大腸菌(E.coli)臨床分離株を、6個の大腸菌(E.coli)遺伝子(ftsQ、murC、opgG、putP、secA、およびuup)用に設計したプローブを使用して正確に同定した(図3)。2個の臨床分離株を、図4中に示すように5個の緑膿菌(P.aeruginosa)遺伝子(proA、sltB1、nadD、dacC、およびlipB)用に設計したプローブを使用して、緑膿菌(P.aeruginosa)として正確に同定した。図5中に示すように、5個のクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)遺伝子(lrp、ycbK、clpS、ihfB、およびmraW)用に設計したプローブは、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)臨床分離株を陽性同定した。3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(proC、rpoB、およびfabD)用に設計したプローブを使用して、4個の臨床分離株を陽性同定した(図6)。同定に関する分離基準(cut-off)は、rpoBおよびfabDに関するカウントが、平均バックグラウンド(大腸菌(E.coli)、緑膿菌(P.aeruginosa)、およびクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)に関する全生物同定用プローブに関する平均カウント)の少なくとも2倍を超えるであることであった。
【0065】
平均して、それぞれの生物に関する4〜5配列を大きなプールに含めて、望ましいレベルの特異性を得た。この技術を使用して、これら3生物のそれぞれを、粗製溶解物を直接プローブ処理することによって、検出し、同定し、無菌培養および8個のさらなるグラム陰性病原体を含む複合混合物において区別した(図22Aおよび22B)。
【0066】
TB。Rv1641.1およびRv3583c.1に対するプローブは結核菌(M.tuberculosis)において多量の転写産物を検出し(参照8)、マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)、およびマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)においてオルソロガスな転写産物を検出し、したがってこれら3種のいずれかの検出に使用することができる。さらに、3個のTB遺伝子(Rv1980c.1、Rv1398c.1、およびRv2031c.1)に対するプローブを使用して結核菌(M.tuberculosis)を差次的に同定することができる、すなわちそれらは、マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)またはマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)は検出しない。MAP_2121c.1、MAV_3252.1、MAV_3239.1、およびMAV_1600.1に対するプローブを使用してマイコバクテリウム・アビウム(M.avium)またはマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)を検出することはできるが、結核菌(M.tuberculosis)は検出しない。したがって、Rv1980cおよびRv3853プローブを用いて最大感受性が得られ、一方Rv1980c.1、Rv1398c.1、およびRv2031c.1、およびMAP_2121c.1、MAV_3252.1、MAV_3239.1、およびMAV_1600.1に対するプローブは、結核菌(M.tuberculosis)感染とマイコバクテリウム・アビウム(M.avium)またはマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)感染の間の区別を可能にする。
【0067】
マイコバクテリウム(mycobacterium)属全体で保存されている遺伝子および結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のみに特異的である遺伝子に対してプローブを設計した。pan−マイコバクテリウムプローブは多種を認識したが、一方で結核菌(M.tuberculosis)プローブは非常に特異的であった(図22C)。
【0068】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)
表2に記載する生物同定用プローブを使用して、3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)分離株を、5個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(ileS、ppnK、pyrB、rocD、およびuvrC)用に設計したプローブを使用して正確に同定した(図30)。同様に、3個のステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)分離株を、6個のステノトロホモナス・マルトフィリア(S.maltophilia)遺伝子(clpP、dnaK、purC、purF、sdhA、およびsecD)用に設計したプローブを使用して正確に同定した(表2および図31)。
【0069】
実施例2:方法の感度
図7〜10中に示すように、本発明の方法は対象のそれぞれの病原体に特異的であり、臨床サンプル、例えば血液および尿中の100個未満の細胞を検出する感度がある。
【0070】
3病原体のそれぞれから単離したRNA(1ng)を24遺伝子プローブセットでプローブ処理した(図7)。大腸菌(E.coli)遺伝子、左側、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)遺伝子、中央、および緑膿菌(P.aeruginosa)遺伝子、右側。大腸菌(E.coli)RNA、上部。クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)中央、および緑膿菌(P.aeruginosa)、底部。y軸は、デジタル遺伝子発現技術を使用することによって検出した、それぞれの遺伝子に関するカウントの数を示す。それぞれの生物由来のRNAは、それぞれの病原体の容易な同定を可能にする異なる発現シグネチャーを示す。
【0071】
この24遺伝子プローブセットを使用して、10,000細胞、1000細胞、および100細胞由来の粗製大腸菌(E.coli)溶解物をプローブ処理した(図8)。異なる大腸菌(E.coli)の発現シグネチャーは、100細胞まで区別可能であった。
【0072】
臨床サンプルはスパイクした尿および血液サンプル(spiked urine and blood sample)でシミュレートした。スパイクした尿サンプルでは、尿サンプルは尿1mL当たり105の大腸菌(E.coli)細菌でスパイクした。サンプルは4℃で一晩冷蔵し、次いで粗製細菌サンプルを溶解し、大腸菌(E.coli)を同定するためにグラム陰性細菌に使用した24遺伝子プローブセットでプローブ処理した(図9A、上図、および9B)。血液は1000cfu/mlでスパイクし、これも24遺伝子プローブセットで検出した(図9A、下図)。
【0073】
(Brigham and Women’s臨床微生物学研究室から得た)緑膿菌(P.aeruginosa)の2個の臨床分離株を、グラム陰性細菌に使用した24遺伝子プローブセットでプローブ処理して、その遺伝子セットが同じ細菌属の別の臨床菌株を同定することができることを実証した(図10)。
【0074】
尿サンプル中の大腸菌(Escherichia coli)の直接同定。大腸菌(E.coli)菌株K12を、培養後期の対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。次いで細菌は、100,000cfu/mlの最終濃度まで健常ドナー由来の尿試料に加えた(OD600により推定)。次いで尿サンプルを0時間、4時間、24時間、もしくは48時間室温で放置し、または24時間4℃に置いた。1mlのスパイクした尿を1分間13,000×gで遠心分離した。上清を除去し、ペレットは100マイクロリットルのLB培地に再懸濁した。細菌はBacteria RNase Protect(Qiagen)で処理し、次いでイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファー(RLTバッファー、Qiagen)中で溶解した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。
【0075】
患者尿試料のアリコートを直接アッセイして尿路感染症における大腸菌(E.coli)転写産物を検出した(図22D)。生物の有無を評価する1つの測定基準に多数の転写産物からのシグナルを集めるために、それぞれのプローブからの加工していないカウントを対数変換し合計した。17の大腸菌(E.coli)臨床分離株のセットに適用すると、それぞれの分離株は13の非大腸菌(E.coli)サンプルのセットと容易に区別することができた(非大腸菌(E.coli)対照と比較してZスコア>6.5、図22E)。
【0076】
実施例3:病原体の薬剤感受性
大腸菌(Escherichia coli)におけるフルオロキノロンおよびアミノグリコシド耐性の確認(identification)。フルオロキノロンおよびアミノグリコシドへの曝露時の大腸菌(E.coli)に関する公開済みの発現アレイデータ(Sangurdekar DP、Srienc F、Khodursky AB.A classification based framework for quantitative description of large-scale microarray data.Genome Biol 2006;7(4):R32)を使用して、フルオロキノロンおよびアミノグリコシドへの曝露時に有意に下方または上方制御されると予想される遺伝子のセットを選択した。pan感受性実験室菌株(K12)、フルオロキノロン耐性臨床分離株1および2、およびゲンタマイシン耐性臨床分離株(E2729181およびEB894940)を、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。それぞれの培養物の2mlアリコートを得て、抗生物質を8μg/mlのシプロフロキサシンまたは128μg/mlのゲンタマイシンの最終濃度までこれらのアリコートに加えた。培養物は37℃で10分間インキュベートした。5マイクロリットルのそれぞれの培養物を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファーに加え、5秒間攪拌した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。カウントはproCのカウントに標準化し、ここでもproCは実験間で最も比較可能であるようであった。それぞれの遺伝子に関する誘導倍率は、抗生物質曝露の有無の下でのカウントを比較することによって決定した。2個の耐性臨床分離株とそれを区別する薬剤感受性K12菌株における誘導または抑制を示す、9プローブ(carA、deoC、flgF、htrL、recA、uvrA、ybhK、uup、およびfabD)からの明らかなシグナルが存在した(図11)。第10のプローブ、wbbKは誘導も抑制もされず、遺伝子と発現変化に関する有用な比較をもたらした。同様に、8遺伝子に対するプローブは、これらの遺伝子は、薬剤感受性K12菌株において、抑制状態(flgF、cysD、glnA、またはopgG)誘導状態(ftsQ、b1649、recA、dinD)のいずれかであり、2個の耐性臨床分離株とそれを区別することを示す(図12)。
【0077】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)におけるメチシリン耐性の確認。6個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)臨床分離株を、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。次いでそれぞれの培養物の2mlアリコートを得て、クロキサシリンを25μg/mlの最終濃度まで加えた。培養物は37℃で30分間インキュベートした。5マイクロリットルのそれぞれの培養物を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファーに加え、5秒間攪拌した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。2個の別個のプローブを使用して(表2)、mecAの発現をメチシリン耐性であることが知られている4個の分離株において確認した。対照的に、メチシリン感受性であることが知られている2個の分離株において検出可能なmecA発現はなく、クロキサシリンの不在下では最小のmecA発現であった(図13)。
【0078】
エンテロコッカス(Enterococcus)におけるバンコマイシン耐性の確認。4個のエンテロコッカス(Enterococcus)臨床分離株を、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。2mlアリコートを得て、バンコマイシンを128μg/mlの最終濃度まで加えた。培養物は37℃で30分間インキュベートした。5マイクロリットルのそれぞれの培養物を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファーに加え、5秒間攪拌した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。2個の別個のプローブを使用して(表2)、vanAの発現をバンコマイシン耐性であることが知られている2個の分離株において確認した。対照的に、バンコマイシン感受性であることが知られている2個の分離株において検出可能なvanA発現はなく、バンコマイシンの不在下では最小のvanA発現であった(図14)。4個の分離株のいずれにおいても検出可能なvanB発現はなかった。
【0079】
生物同定のための転写産物の検出以外に、可動性遺伝因子(mobile genetic element)にコードされる遺伝子の検出は、特定分離株に関する多くのゲノム詳細をもたらすことができる。例えば、スタフィロコッカス(Staphylococci)においてメチシリン耐性を与えるmecAmRNA、およびエンテロコッカス(Enterococci)においてバンコマイシン耐性を与えるvanAmRNAに関して、細菌分離株をプローブ処理した。いずれの場合も、MRSAおよびバンコマイシン耐性エンテロコッカス(Enterococcus)(VRE)の迅速な同定を可能にする関連転写産物を検出した(図22F)。したがって、RNAの直接検出は、知られている耐性因子の検出を可能にし得る。さらに、このアプローチは、食物媒介病原体における水平的遺伝子間交流によって得られる病原性因子、すなわち、腸管出血性(Enterohemorrhagic)または志賀毒素産生性(Shigatoxigenic)大腸菌(E.coli)における志賀毒素などの、他の遺伝因子による分離株の区別を可能にする。
【0080】
TBにおける薬剤耐性の確認。24遺伝子プローブセットを公開済みの遺伝子発現データから確認して、イソニアジド、リファンピン、ストレプトマイシン、およびフルオロキノロンを含めた異なる抗生物質への曝露時の薬剤感受性TBの発現変化を確認することができる発現シグネチャーを確認した(図15〜18)。薬剤曝露後の誘導または抑制の程度は表3中に示す。
【0081】
A6000.3における対数期の結核菌(M.tuberculosis)細胞を、4個の異なる薬剤(イソニアジド、0.4μg/ml;ストレプトマイシン、2μg/ml;オフロキサシン、5μg/ml;リファンピシン0.5μg/ml)の1つの存在下でインクウェル容器(10ml体積、平行培養)中で増殖させた。薬剤処理開始後の示した時間で(図15)、遠心分離(3000×g、5分間)により培養物を採取し、1mlのTrizol中に再懸濁し、ビーズで刺激した(100nmガラスビーズ、最高速度、2回の1分間パルス)。クロロホルム(0.2ml)をサンプルに加え、6000×gで5分間の遠心分離後、水相を分析用に回収した。
【0082】
サンプルは1:10に希釈し、製造者のプロトコールに従い表2中に記載するNanoString(商標)プローブセットを使用して分析した。それぞれの転写産物の相対量を3個のハウスキーピング遺伝子(sigA、rpoB、およびmpt64)の平均カウントに標準化することによって最初に計算し、次いでデータは、未処理対照由来のサンプルに対する倍率変化としてプロットする。ボックスは、薬剤特異的誘導の以前の痕跡に基づいて選択したプローブを示す(Boshoff et al、J Biol Chem.2004、279(38):40174-84.)。
【0083】
薬剤耐性TB菌株は、イソニアジドへの曝露時に発現シグネチャーの誘導を明らかに示す薬剤感受性菌株とは対照的に、イソニアジドへの曝露時に発現シグネチャー誘導を示さない(図16)。イソニアジド感受性と耐性のTB菌株を比較する3個のスキャッタープロットを図16中に示し、それぞれのドットは24遺伝子プローブの1つを表す。軸はデジタル遺伝子発現技術(NanoString(商標))によって測定した転写産物の数を表す。左−薬剤処理の不在下でのイソニアジド耐性菌株とイソニアジド感受性菌株における発現の比較。中央−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド感受性菌株(drug treated vs. drug untreated isoniazid sensitive strain)における発現の比較。右−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド耐性菌株における発現の比較。
【0084】
異なる遺伝子のセットを、図17中に示すように薬剤に応じて、薬剤感受性結核菌(M.tuberculosis)において誘導する。薬剤感受性と薬剤耐性の結核菌(M.tuberculosis)の転写応答。(A)本明細書に記載するようにINH(0.4μg/ml)で処理した菌株A50(INH−R)。(B)SM−RクローンS10は2μg/mlのストレプトマイシンで処理した。差次的遺伝子誘導をTB24遺伝子プローブセットのデジタル遺伝子発現により測定して確かなシグネチャーを明らかにすることができ、薬剤感受性を確認することができる(図18)。
【0085】
3個のハウスキーピング遺伝子、mpt64、rpoB、およびsigAを標準化に使用した。それぞれの実験サンプル用に、実験遺伝子に関する加工していないカウントはこれら3個のハウスキーピング遺伝子の加工していないカウントの平均に標準化し、対照遺伝子に対する多量の試験遺伝子の指標を与えた。誘導または抑制は、非薬剤曝露サンプルと比較した、薬剤曝露サンプルにおけるこれらの標準化カウントの変化として定義する。この方法を使用して、以下の遺伝子は、イソニアジド、リファンピン、フルオロキノロン、およびストレプトマイシンへの曝露後に薬剤感受性TBにおいて誘導または抑制されることが分かった。
【0086】
イソニアジド:薬剤依存性誘導用:kasA、fadD32、accD6、efpA、およびRv3675.1。
リファンピン:薬剤依存性誘導用:bioD、hisI、era、およびRv2296。
フルオロキノロン:薬剤依存性誘導用:rpsR、alkA、recA、ltp1、およびlhr、薬剤依存性抑制用:kasAおよびaccD6。
ストレプトマイシン:薬剤依存性誘導用:CHP、bcpB、gcvB、およびgroEL。
【0087】
実施例4:デジタル遺伝子発現および分子バーコードを使用した、薬剤感受性および耐性のTBを同定するための表現型発現シグネチャーベースの試験
この実施例は、痰中のTBの診断および耐性プロファイルの迅速な決定のための、表現型発現シグネチャーベースの試験を記載する。この方法は、バーコード化対分子プローブ(barcoded, paired molecular probe)のプローブセットの作製によって、その発現プロファイルがTBを独自に検出して薬剤耐性と感受性の菌株を区別する遺伝子の検出に基づく。遺伝子の選択は、無菌培養(複製と非複製状態の両方)におけるTB、細胞培養マクロファージにおけるTB、および痰においてスパイクしたTBを含めた様々な増殖条件下でマイクロアレイを使用して得た発現プロファイルデータの、バイオインフォマティクスによる解析によって決定した。
【0088】
A.TBを同定するためのシグネチャーの定義
複製と非複製のTBの両方由来のmRNAと特異的にハイブリダイズする分子プローブセットを確認している。これらのプローブは、全増殖条件下に多量に存在し、全TB菌株中で保存されるmRNAに特異的である。16SrRNA(Amplicor、Roche)またはIS6110領域(Gen−probe)を認識するTBを確認するための特有DNA配列は以前に定義されているが、これらの定義された領域は、デジタル遺伝子発現におけるシグネチャーに必要とされる最適特性を有していない。16SrRNAは、その長さのため低レベルの遺伝的変異性に耐え得る50塩基オリゴマー遺伝子プローブを使用して、異なる種間で区別可能であったマイコバクテリア種間で十分分岐していない。ゲノムのIS6110領域は、全増殖条件下においてそれがTBを同定するための確かなシグナルとして使用することができるほど十分高いレベルでは発現されない。したがって、他のマイコバクテリア種由来のTBの同定を可能にする発現シグネチャーを記載する。
【0089】
i.保存型TB遺伝子に関するバイオインフォマティクスによる遺伝子解析。 他のマイコバクテリア種に優るTBの検出に特有の発現シグネチャーを定義している。一般に、シグネチャーに含めるのに最適な遺伝子は、1.感度を増大するために高い発現レベル(高いmRNAコピー数)を有すること、2.全TB菌株中で高度に保存されていること、および高度に保存された配列を有すること、ならびに3.全ての他のマイコバクテリア種よりTBゲノムに非常に特異的であることの基準を満たす。このような遺伝子は、全ての他の配列決定済みマイコバクテリア種(すなわち、マイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)、マイコバクテリウム・アビウム−イントラセルラーレ(M.avium-intracellulaire)、マイコバクテリウム・カンサシ(M.kansaii)、マイコバクテリウム・ホルツイツム(M.fortuitum)、マイコバクテリウム・アブセサス(M.abscessus))中に存在しない利用可能なTBゲノムにおける保存型遺伝子のバイオインフォマティクスによる解析を使用して同定した。Broad Instituteで配列決定された臨床分離株由来の40を超えるTBゲノムが分析のために利用可能である。
【0090】
ii.候補遺伝子のmRNAレベルの発現プロファイル分析。 痰中のTBバチルス(bacilli)を検出するための分子プローブの選択に関する第二の基準は、それらが非常に多量で安定状態のmRNAとハイブリダイズして最高感度をもたらすことである。このようなmRNAは、必須ハウスキーピング遺伝子に対応すると予想される。Broad InstituteおよびStanford University(tbdb.org)で作成されたデータベース中の既存の公に入手可能な発現データのバイオインフォマティクスによる解析と、複製許容可能(対数増殖)および炭素枯渇、静止期、および低酸素により誘導される非複製条件下での候補遺伝子の高レベルの発現を確認するための発現プロファイリングを使用したTB菌株H37Rvに関する実験発現プロファイルの組合せを使用して、遺伝子が選択されている。H37Rvに関する発現プロファイリング実験を、確立しているTBの炭素枯渇モデル(7H9/チロキサポール中で5週間枯渇)、静止期増殖、および嫌気的増殖に関するWayneモデル(密封チューブ中でゆっくり攪拌する培養)を使用して実施する。mRNAをcDNAに変換すること、および配列決定を使用してcDNA分子をカウントすることによって、Solexa/Illumina配列決定を使用して発現プロファイルを決定する。発現レベルを確認するためのこの定量法は、マイクロアレイデータよりデジタル遺伝子発現を使用して得られるレベルを反映する可能性が高く、Broad Institute Sequencing Platformで確立された方法である。レーン当たり75bpリードおよび1000万リードとして配列決定レーン当たり12サンプルを多重化することができる。
【0091】
iii.TBを同定するための発現シグネチャーのプローブ選択。 デジタル遺伝子発現技術は2個の50ヌクレオチドプローブと対象のmRNAのハイブリダイゼーションに基づくので、遺伝子中の2個の50塩基対領域は、非特異的ハイブリダイゼーションを最小にするためゲノム内に特異的であり、配列決定したTBゲノムから証明される最小多型を含有する(Ai)および(Aii)から同定する。プローブはバイオインフォマティクスにより選択して、5℃の融解温度範囲内、最小mRNA二次構造に適合させる。プローブは(多数の菌株、すなわちH37Rv、CDC1551、F11、Erdmanを含めた)複製および非複製TB、マイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)、マイコバクテリウム・アビウム−イントラセルラーレ(M.avium-intracellulaire)、マイコバクテリウム・カンサシ(M.kansaii)、およびマイコバクテリウム・ホルツイツム(M.fortuitum)から単離したmRNAに対して試験して、利用可能な技術を使用してプローブセット全体の特異性を確認した。プローブはこれら他のマイコバクテリア種用に選択することができ、これらによって痰由来のこれらの病原体の同定も可能にする。イントラセルラーレ・バチルス(intracellular bacilli)を同定する能力をマクロファージ感染モデルで試験して、宿主mRNAの存在下でTBmRNAを検出する能力を実証する。最後に、アッセイの感度を、試験サンプル中のTBバチルス(bacilli)(したがって細胞溶解物中に存在するmRNA)の数をタイトレーションする(titrating down)ことによって決定する。デジタル遺伝子発現を使用する全ての実験は、同じ遺伝子セットに対して定量RT−PCRを使用して確認する。セットの改良および精錬は反復式に行う。
【0092】
B.感受性TBと耐性TBを区別するためのシグネチャーの定義
薬剤感受性と耐性の菌株を区別するプロファイルを得ることができる、それぞれ個々のTB用薬剤への曝露時に特異的に誘導されるmRNAとハイブリダイズする分子プローブのセットが同定されている。イソニアジド、リファンピン、エタンブトール、ストレプトマイシン、およびモキシフロキサシンへの曝露に関するシグネチャーが決定されている。
【0093】
シグネチャーに含めるのに理想的な遺伝子に関する前述の特性(すなわち、TB菌株中で保存されていること、TBゲノムに特異的であること)に加えて、いくつか他の特性が薬剤耐性のシグネチャーに関する遺伝子選択において優先される。薬剤耐性は薬剤感受性と薬剤耐性の菌株における転写産物誘導間の差によって決定されるので、理想的な遺伝子候補は所与の薬剤への曝露時に薬剤感受性菌株において高度に誘導される。これらの遺伝子は、初期に早急に誘導されるのが理想的である。この時間期間は、かなりの程度で診断試験全体の迅速性を決定するからである。qRT−PCRを使用したデータに基づいて、わずか1〜2時間以内に薬剤曝露に対する転写応答を観察する(図19)。mRNA分子の半減期を考慮すると、遺伝子抑制ではなく遺伝子誘導の利用がより迅速で検出可能な応答をもたらす。
【0094】
イソニアジドおよびストレプトマイシンに関する記載した全ての実験に関して、野生型、完全薬剤感受性H37Rvと比較するために使用する単剤耐性菌株のセット(a set of singly resistant strain)を作製したBSL3設定で、TB菌株H37Rvを使用した。リファンピンが研究室における感染という予期せぬ事象における治療オプションであることを確実にするために、増殖にリシンおよびパントテン酸の添加を必要とするTBの栄養要求株(lysA、panC)においてリファンピン耐性変異体を作製する。
【0095】
最後に、任意または全ての抗生物質に対する一般的なストレス応答ではなく、それぞれの抗生物質に特有であるシグネチャーを同定している。この特異性の理論的根拠は、臨床設定で、多くの患者は異なる抗生物質で経験的に既に治療されており、したがっていくつかの一般的なストレス応答が、痰サンプル中のバチルス(bacilli)において既に活性化されている可能性があることである。しかしながら、試験および分析で薬剤特異的応答は保たれる。
【0096】
i.抗生物質に対する曝露に応答した発現プロファイリング。 薬剤感受性と耐性の菌株H37Rvにおける転写応答を区別する候補遺伝子を同定するための発現プロファイリングを実施する。痰中のバチルス(bacilli)の複製状態または転写活性は知られていないので、(5週間の炭素枯渇モデルによって誘導した)非複製状態のバチルス(bacilli)において追加的実験を実施する。薬剤曝露に次いで応答し得るいくらかの基底転写(basal transcription)を刺激するために、非複製状態のバチルス(bacilli)が富栄養培地(7H9/OADC)中での短時間(t1)の「増殖刺激」を必要とするかどうか決定する(図20)。薬剤感受性と耐性の菌株を区別するための確かなシグネチャーおよび最適薬剤濃度を得るための薬剤曝露に必要とされる最適時間期間(t2)も決定して、確かな、再現可能な応答を得る。これらの実験は、個々の抗生物質のそれぞれについて実施する。
【0097】
完全非複製状態は、痰中のバチルス(bacilli)が非複製状態、休眠状態である場合の、「最悪のシナリオ」(すなわち、必要とされ得る最長の時間)である。実際、患者の痰中のバチルス(bacilli)からの発現プロファイリングを調べた刊行物に基づくと、発現プロファイリングが痰中のバチルス(bacilli)から直接得られたとして、この時間は必要とされる場合は必ず非常に短い。(特に、この刊行物のデータを分析中にさらに取り込んで、痰中の細菌において考えられる遺伝子候補への最初の見通しをもたらす。)プロファイリング実験のマトリックス(a matrix of profiling experimants)を実施し、それぞれのt1に関して0、1、および2時間からリッチ7H9/OADC培地への曝露時間(t1)、およびそれぞれの抗生物質への曝露時間(t2)を変える。t1とt2のそれぞれのセットに関して、抗生物質濃度をそれぞれの抗生物質に関して、感受性と耐性のH37Rv菌株の両方に関して1×、3×、および5×最小阻害濃度(MIC)から変えて、最適パラメーターを決定する。発現プロファイリングを使用して、確かな、再現可能なプロファイルを生成するのに最適な条件を同定する。
【0098】
最適条件(t1およびt2)に基づいて、発現プロファイリングをこれらの条件下で薬剤感受性および耐性のH37Rv菌株において実施する。バイオインフォマティクスによる解析を実施して、誘導のレベルが薬剤耐性菌株と比較して薬剤感受性菌株において高い各薬剤に関して遺伝子を同定する(抑制のレベルが薬剤耐性菌株と比較して薬剤感受性菌株において高いリファンピン以外)。発現のレベルを薬剤感受性と薬剤耐性の菌株の間で比較し、定量RT−PCRによって確認する。
【0099】
ii.薬剤耐性を確認するための解析アルゴリズムの開発。 最適アルゴリズムを決定して、(標準MIC測定によって定義される)感受性と耐性の菌株を区別する遺伝子セットに関する発現率を分析する。この方法の長所の1つは大部分の例(すなわち、TB抗生物質に事前に曝露されていない例)に関するものであり、所与の抗生物質に曝露した菌株と曝露していない同じ菌株の間で遺伝子発現レベルの比較を行うことができる。定量RT−PCRを使用して、1.抗生物質への曝露なし、2.イソニアジドへの曝露、3.リファンピンへの曝露、4.エタンブトールへの曝露、5.ストレプトマイシンへの曝露、および6.モキシフロキサシンへの曝露を含む条件下でH37Rv由来のmRNAレベルを測定する。抗生物質への曝露後の所与の遺伝子からの発現のレベルは、定常状態のハウスキーピング遺伝子のセット(すなわち、ハウスキーピング遺伝子の転写を刺激する主なシグマ因子をコードするsigA、およびRNAポリメラーゼの合成サブユニットをコードするrpoB)からの発現のレベルに標準化し、抗生物質への曝露の不在下での同じ遺伝子の発現の同じ標準化レベルと比較する。標準感受性菌株と耐性対照菌株の比較も行う(図21)。理想としては、特定薬剤への曝露は、薬剤感受性菌株において高レベル、A>>B、一方で薬剤曝露に対して感受性がない薬剤耐性菌株に関して、A=Bの遺伝子発現を誘導する。(リファンピンの機構、すなわちA=C<<B=Dを考慮して、最も短い半減期を有するmRNAの遺伝子抑制を検出する、リファンピンに関しては例外である。)転写レベルの広いダイナミックレンジのため、C/Dの比が最大であり、したがって感受性と耐性の菌株の明白で確かな区別を可能にする遺伝子を選択する。さらに、他の抗生物質を用いて誘導される応答の重複がないように、それぞれ個々の抗生物質に関して、最適な、独自の遺伝子セットを選択している。
【0100】
iii.TBバチルス(bacilli)のシグネチャーに対する事前の抗生物質に対する曝露の影響の解析。 患者を抗生物質で事前に治療した場合においても耐性パターンを確認するための、これらのシグネチャーの有効性を測定するために、薬剤感受性および耐性のTBバチルス(bacilli)(複製、非複製、マクロファージ内)を、この試験の適用前にTB特有の設定で患者に施すことができる一般的な抗生物質である、アモキシシリン、セファロスポリン、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、およびエリスロマイシンに事前に曝す。現在のTB薬剤の異なる組合せへのTBバチルス(bacilli)の事前の曝露をさらに実施して、このような事前の曝露が、このような応答を検出する問題の転写応答能力にも干渉するかどうか決定する。独自のシグネチャーが保たれ、したがって耐性を決定する問題の能力は妨害されないはずである。対象の遺伝子のセットの遺伝子発現レベルは定量RT−PCRを使用して決定する。
【0101】
iv.耐性プロファイルを確認するための発現シグネチャーのプローブ選択。
Sub−aim Biにおいて得たデータに基づいて、抗生物質への曝露に対する転写応答に関するシグネチャーをもたらす候補遺伝子のセットを選択する。TBゲノム中で高度に保存された領域内の、それぞれの遺伝子に関する2個の50塩基対領域を選択する。プローブはバイオインフォマティクスにより選択して、5℃の融解温度範囲内、最小mRNA二次構造に適合させる。これらのプローブを使用して、最初に複製または非複製状態である無菌培養中のバチルス(bacilli)、本発明者らが現在研究室に有する細胞培養マクロファージ感染モデル中のイントラセルラーレ・バチルス(intracellular bacilli)、および異なる抗生物質の組合せに事前に曝した細菌を含む、前に記載した条件下で利用可能な技術を使用して、薬剤感受性と耐性の菌株を比較する。全ての結果は、定量RT−PCRによって得たデータと比較する。セットの改良および精錬は反復式に行う。
【0102】
C.分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現用のサンプル処理の最適化。
発現シグネチャーを確認するためのプローブセットの定義に加えて、第二の大きな課題は、サンプルの処理を最適化して、サンプル内に存在するバチルス(bacilli)からのデジタル遺伝子発現を測定することである。TB症例の大部分は肺が発端であり、処理するサンプルの大部分は患者の痰であるので、感染TBバチルス(bacilli)からmRNA測定値を得るための痰サンプルの処理を最適化する。(抗生物質で治療されていない)健常な、非感染患者から回収した痰を、複製または非複製(炭素枯渇)状態のいずれかであるTBバチルス(bacilli)でスパイクした、スパイク痰モデルを使用する。対処すべき問題としては、様々な粘性の痰の処理、痰サンプル内のTBバチルス(bacilli)の効率よい溶解が挙げられる。デジタル遺伝子発現の主な利点の1つは、粗製細胞溶解物、固定組織サンプル、全血および尿中の細胞、ダニ(tick)の粗製溶解物由来の細胞、および400mMのイソチオシアン酸グアニジン(GITC)、ポリアクリルアミド、およびトリゾールを含有するサンプルを含めた非常に粗製状態のサンプルにおいて、mRNAがそのそれぞれのプローブとハイブリダイズする能力である。したがって一次適用は、痰内の細菌の溶解後に精製ステップが必要とされないことを示唆する。全血、尿、または固定組織サンプルからの精製は必要とされていないからである。唯一の要件は、プローブとmRNAの間の接触を可能にする十分な混合である。
【0103】
これらの実験用に、非感染状態の痰をBrigham and Women’s Hospital(BWH)の試料バンクから得る。試料バンクは、BWH病理部のLyn Bry、MD、PhDにより管理されるIRB制御機関である。廃棄用の痰は、研究室内で全ての処理が終了した後に得る(一般に回収の12〜24時間以内)。事前の48時間以内にいかなる抗生物質も与えていない被験体のみから、痰を回収する。全てのサンプルが確認されるわけではないので、保護された健康情報は得られない。試料研究室の現在の負担に基づいて、必要な量の痰(25〜50mL)を数週間以内に得る。
【0104】
i.痰の処理。 痰サンプルは細菌量、コンシステンシー、および粘性が様々である。いくつかのアプローチを試験して、細菌が培地条件で殺菌レベルの抗生物質と接触する迅速性、およびハイブリダイゼーション用のオリゴマープローブへの曝露を最大にする。無処理、注射針を介した痰の移動、リゾチームおよび/またはDNase、嚢胞性線維症患者由来の痰を処理するために標準的に使用されるSputalysin(Calbiochem;0.1%DTT)を用いた処理、またはある最小変性剤(すなわちGITC)へのサンプルの単純な希釈を含めた、痰を処理するいくつかの方法を使用する。痰はH37Rvでスパイクし、その粘性を変えるための様々な方法によって処理し、それらを実施して任意のこれらの方法がこの技術に干渉するかどうか決定する。
【0105】
ii.TBバチルス(bacilli)でスパイクした痰中の細菌溶解。 細菌細胞を効率よく溶解するため、転写および酵素ベースのmRNA分解を抑制するため、およびmRNAをプローブにアクセス可能にするための、いくつかのアプローチをアッセイ中で使用する。痰中の細菌の転写応答を調べた以前の試験は、サンプルにGTCまたは類似の試薬を最初に加えて転写応答を抑制した。次いで遠心分離を使用して、GTC処理後に痰サンプル由来の細菌を濃縮することができる。マイコバクテリア(mycobacteria)の溶解は一般に、物理的手段、すなわち0.1mlのガラスまたはジルコニウムビーズを用いた均質化によって実施する。このような物理的手段を利用して処理した痰内の細菌を破壊し、TBバチルス(bacilli)検出用に1Aから設計したプローブセットを使用して、非感染ヒト痰にスパイクしたバチルス(bacilli)を分析する。
【0106】
他の方法を、ファージ溶解を含めた、現場ベースの考慮事項により影響を受ける可能性がある溶解に使用する。ファージ、またはより最適には、精製ファージリシン(1つまたは複数)の添加によって、細菌溶解のための、低コストの、単純で、かつ非電気的な選択肢をもたらすことができる。Fischetti研究室(Rockefeller University)は、ペプチドグリカンを酵素的に加水分解し浸透圧溶解をもたらす精製バクテリオファージリシンを使用した、いくつかのグラム陽性種の迅速で完全な溶解を近年実証している。Hatfull研究室(University of Pittsburgh)は、数種の溶解性マイコバクテリオファージ由来のLysA酵素の活性を特徴付けるため、およびその性能を最適化するために現在作業している。精製リシンの不在下で、調査を実施して、高MOI感染のTBおよびD29などの溶解性バクテリオファージが痰中のTBを効率よく溶解することができるかどうかを決定する。どのようにしてこの手法が細菌の転写プロファイルに影響を与えるかは、現在明らかではない。それはおそらく、ファージの結合、進入、および二次溶解性を妨害し得る変性剤の不在下で起こる必要があるからである。マイコバクテリオファージTM4は、ペプチドグリカンヒドロラーゼ活性を有する構造タンパク質Tmpをさらに発現し、このためそれを高MOIでの細胞溶解の迅速な手段として使用することができる。溶解後、内因性RNAse活性を不活性化するGITC、RNAlater、または他の試薬でmRNAを安定状態にする。
【0107】
実施例5:
細菌および真菌培養: 大腸菌(E.coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、緑膿菌(P.aeruginosa)、プロビデンシア・スチュアリティ(Providencia stuartii)、プロテウス・ミラビリス(P.mirabilis)、霊菌(S.marcescens)、エンテロバクター・アエロゲネス(E.aerogenes)、エンテロバクター・クロアカエ(E.cloacae)、モルガネラ・モルガニー(M.morganii)、クレブシエラ・オキシトカ(K.oxytoca)、カンジダ・フロインディ(C.freundii)、またはカンジダ・アルビカンス(C.albicans)を、Luria−Bertani培地(LB)中で約1のOD600まで増殖させた。混合実験用に、OD600によって決定した等数の細菌をNanoString(商標)分析用に溶解前に組み合わせた。マイコバクテリウム(Mycobacterium)分離株は、以下に記載するように採取または抗生物質への曝露まで、Middlebrook7H9培地中で対数増殖中期まで増殖させた。
【0108】
耐性実験室細菌菌株の誘導: 大腸菌(E.coli)実験室菌株J53および定義済みgyrAフルオロキノロン耐性染色体変異体(gyrA1−G81D;gyrA2−S83L)を、Hooper lab、Massachusetts General Hospital、Boston、MAから得た。プラズマ媒介性キノロン耐性決定基(oqxAB、qnrB、aac6−Ib)は、これらのプラスミドを含有することが以前に決定された臨床分離株から精製した。大腸菌(E.coli)親菌株J53をこれらのプラスミドで形質転換し、それらの存在はPCRによって確認した。
【0109】
ウイルスおよびプラスモジウム(plasmodium)感染: HeLa細胞(1×106)、293T細胞(2×105)、およびヒト末梢血単球(5×105)を、示したMOIで、それぞれHSV−1菌株KOSおよびHSV−1菌株186Syn+、インフルエンザA PR8、またはHIV−1NL−ADAに感染させた。主要赤血球細胞(5×109)は、それらが示したレベルの寄生虫血症に達するまで、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)菌株3D7に感染させた。示した時間で、細胞はPBSで1回洗浄し採取した。
【0110】
抗生物質への曝露: 大腸菌(E.coli)または緑膿菌(P.aeruginosa)の培養物をLB中で約1のOD600まで増殖させた。次いで培養物を2つのサンプルに分け、その1つは抗生物質で処理した(大腸菌(E.coli)、10分間:シプロフロキサシン4〜8μg/mlまたは300ng/ml、ゲンタマイシン64または128μg/ml、またはアンピシリン500μg/ml;緑膿菌(P.aeruginosa)、30分間:シプロフロキサシン16μg/ml)。処理部分と未処理部分の両方を200rpmで攪拌しながら37℃に維持し、黄色ブドウ球菌(S.aureus)またはエンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)の培養物をLB中で約1のOD600まで増殖させた。次いで培養物は、30分間それぞれクロキサシリン(25μg/mL)またはバンコマイシン(128μg/mL)に曝した。
【0111】
結核菌(M.tuberculosis)の培養物を対数増殖中期まで増殖させ、次いで0.2のOD600に標準化した。2mlのそれぞれの培養物を、無抗生物質または以下の(最終濃度の):イソニアジド0.2〜1.0μg/ml;ストレプトマイシン5μg/ml、リファンピシン0.5μg/ml、またはシプロフロキサシン5μg/mlの1つのいずれかで処理した。プレートは密封し、攪拌せずに3または6時間インキュベートした。次いで溶解物を作製し、表6中に列挙するプローブを使用して、前に記載したように分析した。
【0112】
サンプル処理: グラム陰性分離株に関して、5〜10μlの培養物を100μlのRLTバッファーに直接加えて攪拌した。臨床試料に関して、大腸菌(E.coli)菌尿路感染症を有することが臨床研究室によって決定された患者由来の20μlの尿は、100μlのRLTバッファーに直接加えた。マイコバクテリア(mycobacteria)に関して、1.5mlの培養物を遠心分離し、次いでビーズ刺激による機械的破壊有りまたは無しでTrizol(Gibco)中に再懸濁し、初期水相を分析用に回収した。ウイルスおよび寄生虫のRNAを、Trizolおよびクロロホルムを使用して同様に調製した。全ての溶解物に関して、標準的なNanoString(商標)プロトコールに従い3〜5μlをハイブリダイゼーションにおいて直接使用した。加工していないカウントをサンプル用の全プローブの平均に標準化し、それぞれの遺伝子に関する誘導倍率は抗生物質処理サンプルと未処理サンプルを比較することにより決定した。
【0113】
生物同定用プローブの選択: 生物の差次的検出用のNanoString(商標)プローブを選択するため、関連生物の全ての公に入手可能な配列決定ゲノムを比較した。その種の全ての配列決定ゲノムに関するCDS長の少なくとも70%にわたり少なくとも50%の同一性を有するコード配列(CDS)を選択することによって、各種内で保存された遺伝子を同定した。CDSは重複50量体に破壊し、試験中に種内で完全に保存され任意の多種中のCDSと50%を超えない同一性を有する50量体のみを保持した。遺伝子発現オムニバスにおいて入手可能な公開済みの発現データを概観し、大部分の条件下で十分な発現がある遺伝子を選択した。特有の結核菌(M.tuberculosis)プローブを同定するために、公開済みのマイクロアレイデータを使用して、2クラス:結核菌(M.tuberculosis)複合体に特有な遺伝子(BLASTNを使用した非冗長データベースにおいて任意の他の遺伝子と70%を超える同一性、全ての入手可能な結核菌(M.tuberculosis)およびマイコバクテリウム・ボビス(M.bovis)ゲノム中で保存されている)、および結核菌(M.tuberculosis)、マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)、およびヨーネ菌(M.paratuberculosis)を含めた臨床上関連があるマイコバクテリア(mycobacteria)のセット中で85%を超える同一性を有する遺伝子の1つの範疇に入る高度に発現された遺伝子を同定した。カンジダ・アルビカンス(C.albicans)用プローブを、そのプローブセット中に含まれた10のさらなる病原体生物の完全ゲノムと比較して特有な、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)ゲノムの50量体セグメントに対して設計した。ウイルス用プローブは、同じファミリー内のウイルス間(すなわち、HSV−1とHSV−2の間)で低度に保存されたウイルス(すなわち、全てのHSV−2またはHIV−1分離株)内で高度に保存された遺伝子に対して設計した。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)用プローブは、寄生虫の生活環の血液段階(blood stage)のそれぞれで多量に発現された遺伝子に対して設計した。全てのプローブをスクリーニングしてヒトRNAとのクロスハイブリダイゼーションを回避した。
【0114】
プローブセット: グラム陰性生物の同定用に、大腸菌(E.coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、および緑膿菌(P.aeruginosa)用プローブを含有するプールしたプローブセットを使用した。マイコバクテリウム(mycobacterial)生物の同定用に、特に結核菌(M.tuberculosis)種特異的プローブおよびより広範囲のマイコバクテリウム(mycobacterial)属用プローブが、微生物病原体に対するより広範囲のプローブセットであった。
【0115】
応答の有無を測定するために、様々な抗菌剤への曝露時に差次的に制御される遺伝子用にプローブを設計した(Sangurdekar et al、Genome Biology 7、R32(2006); Anderson et al、Infect.Immun.76、1423-1433、(2008); Brazas and Hancock、Antimicrob.Agents Chemother.49、3222-3227、(2005))。シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、またはアンピシリンに野生型大腸菌(E.coli)K−12を10〜30分間曝した後、それぞれの抗生物質に関する薬剤感受性発現シグネチャーを同時に定義する転写レベルの予想された変化を観察した(図23Aおよび23B、表7)。これらのシグネチャーは対応する耐性菌株では誘導されなかった(図23Aおよび23B)。
【0116】
表現型試験の確立した方法は数週間〜数ヶ月を要するので、迅速な表現型による薬剤感受性試験は、結核において特に顕著な影響を与える可能性がある(Minion et al、Lancet Infect Dis 10、688-698、(2010))。抗結核薬イソニアジド、シプロフロキサシン、およびストレプトマイシンに応答した発現シグネチャーによって、3〜6時間の抗生物質への曝露後に感受性と耐性の分離株を区別することができた(図23C)。転写プロファイルにおけるいくつかの遺伝子は機構特異的である(すなわち、シプロフロキサシンに関してrecA、alkA、およびlhr、ストレプトマイシンに関してgroEL、およびイソニアジドに関してkasAおよびaccD6)。他の遺伝子、特にミコール酸合成または中間代謝と関係がある遺伝子は、多数の抗生物質に応答して下方制御され、増殖から損傷修復へのシフトを示す。
【0117】
これらの複合応答を、感受性と耐性の菌株を区別するための、1つの定量的測定基準にまとめるために、各実験サンプルから、対照抗生物質感受性サンプルの中心からの発現応答の平均二乗距離(MSD)の測定基準を利用した。抗生物質感受性菌株は密集し、したがって小さいMSDを有する。逆に抗生物質耐性菌株は、より大きな値、平均的感受性菌株と同様の形式で抗生物質に応答しなかった多数の遺伝子の結果を有する。MSDは、標準偏差、大腸菌(E.coli)(図24A、24B、27、および28)または結核菌(M.tuberculosis)(図24Cおよび29)の感受性分離株の平均範囲内のサンプルの数を示す、点の(dimensionless)Zスコアとして報告される。
【0118】
発現プロファイルは遺伝子型ではなく表現型を反映するので、様々な機構によって媒介される耐性は、1つの統合された発現シグネチャーを使用して測定することができる。シプロフロキサシン感受性大腸菌(E.coli)菌株J53の転写応答は、異なる耐性機構を有する一連の同質遺伝子変異体、フルオロキノロン標的遺伝子トポイソメラーゼgyrAに一種の変異(G81DまたはS83L)を有する2つ、およびaac(6’)−Ib(アセチル化、不活性酵素)、qnrB(gyrAの活性部位を遮断する)、およびoqxAB(排出ポンプ)を含むエピソームキノロン耐性遺伝子を有する3つと比較した。親菌株と比較して、全てのJ53誘導体は、耐性を示す大きなZスコアを有していた(図24B)。
【0119】
イソニアジドに対する応答を、一連の感受性臨床および実験室分離株、およびkatG(S315T)、プロドラッグ活性化に必要なカタラーゼに変異を有するH37Rv由来実験室菌株、およびinhA(C−15T)、イソニアジドの標的のプロモーターに変異を有する臨床分離株を含む、2個のイソニアジド耐性菌株において比較した。それらの異なる耐性機構のため、これら2個の菌株はイソニアジドに対して異なるレベルの耐性を有し、katG変異体は高レベルの耐性(6.4μg/mLを超えるまで最小阻害濃度(MIC)の100倍を超える増大)を有し、一方inhAプロモーター変異は0.4μg/mLまでわずか8倍のMICの増大をもたらす。低いイソニアジド濃度(0.2μg/mL)への曝露はいずれの耐性菌株においても転写応答を誘導することができなかったが、高いイソニアジド濃度(1μg/mL)では、katG変異体と対照的に、inhA変異体は感受性がある形式で応答する(図24C)。したがって、この方法は機構独立性であるだけでなく、高レベルと低レベルの耐性を区別するための比較測定値も与えることができる。
【0120】
最後に、細菌、ウイルス、真菌から寄生虫の範囲の病原体においてRNAはほぼユニバーサルなので、広範囲の感染因子にわたり適用可能である1つの診断プラットフォームにRNA検出を組み込むことができる。大きな混合型病原体用プローブのプールを使用して、本発明者らは、真菌病原体カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(図25A);用量依存式に細胞培養中にヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus)(HIV)、インフルエンザウイルス(influenza virus)および単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus-2)(HSV−2)(図25B〜D);および感染赤血球における熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)生活環の異なる段階(図25E)を同定するためのシグナルを直接かつ特異的に検出することができた。
【0121】
薬剤感受性に関する距離の測定基準である平均二乗距離のNanoString(商標)によるデータの分析および計算: 全ての薬剤処理サンプルに関して、それぞれのプローブに関する加工していないNanoString(商標)カウントを、それぞれのサンプル用の全ての関連(すなわち、種に適した)プローブの平均に最初に標準化した。転写レベルの変化倍率は、抗生物質処理サンプル中のそれぞれのプローブに関する標準化カウントと、それぞれの試験条件に関する未処理ベースラインサンプル中の対応するカウントを比較することによって決定した。
【0122】
定性発現シグネチャーを感受性または耐性のバイナリ形式の結果に変換するために、同じ薬剤に曝した感受性菌株のそれからのサンプルの転写プロファイルの平均二乗距離(MSD)を計算するためのアルゴリズムを開発した。薬剤感受性実験におけるMSD測定基準は以下のように計算した:
1.サンプル量の変動を、加工していない値(raw value)をサンプル中の全ての関連プローブについてのカウントの平均数に標準することによって補正する。
2.本発明者らがPjと示す一群のNanoString(商標)プローブを選択する。下付き文字jは1から、選択したプローブの合計数Nprobesの範囲である。この分析は薬剤感受性分離株と薬剤耐性分離株の間で差次的に変化したプローブに限られる。
3.薬剤感受性菌株の複製はNsampとして定義する。それぞれの複製に関して、薬剤処理前後のそれぞれのプローブPjに関する標準化カウントは
【数1】
または
【数2】
で示し、iはサンプルインデックスを表す。
4.「対数誘導比」を次に算定する:
【数3】
このように比を対数変換することによって、いずれか1つのプローブが計算したMSDを占めるのを妨げる。
5.薬剤感受性サンプルの平均誘導比、
【数4】
は、異なる生物学的複製を合計してサンプルの数を標準化することによって計算する:
【数5】
6.MSDを、(インデックスiの)薬剤感受性菌株の複製それぞれに関して次いで計算する、これは全ての薬剤感受性サンプルの平均挙動からサンプルがどの程度異なるかを反映する数である:
【数6】
7.耐性菌株に関する誘導比、
【数7−1】
は感受性菌株のそれと同様に計算する:
【数7−2】
8.薬剤耐性菌株に関するMSDを、薬剤感受性集団の中心と比較して計算する:
【数8】
【0123】
大部分の感受性菌株は平均的感受性菌株と同様に挙動するので、
【数9】
の典型的な値は、耐性菌株に関する典型的な値
【数10】
と比較して小さい。
【0124】
最後に、測定したMSD値の統計的有意性を割り当てた。
【数11】
の値は平均からの偶発偏差数(random deviation)の合計であるので、それらは正規分布、中心極限定理の結果と非常に似ている。したがって、薬剤感受性集団に対する所与のサンプルからの標準偏差数を反映するzスコアをそれぞれのサンプルに関して算定した:
【数12】
ここで、標準偏差および平均は以下のように定義する:
【数13】
【0125】
この測定基準を、異なる抗生物質に対して試験した多数の研究室および臨床分離株の分析に適用し、そのデータは図24、27、28および29中に示す。
【0126】
生物同定のための距離測定基準の計算: 多数のプローブからの情報をバイナリ形式の結果に変換するために、それぞれのプローブに関する加工していないカウントを対数変換した。このように比を対数変換することによって、いずれか1つのプローブが分析を占めるのを妨げる。次いでこれらの対数変換カウントを技術反復間で平均する。
【0127】
Pjと示される一群のNanoString(商標)プローブを記載したように選択する。下付き文字jは1から、選択したプローブの合計数Nprobesの範囲である。
【数14−1】
【0128】
生物同定は擬似または異なる生物と比較して転写産物を検出する能力に依存するので、対象の生物なしで調製したサンプル中のバックグラウンドレベルのNanoString(商標)カウントをしたがって使用して対照中心を定義した。これらの対照サンプルの中心
【数14−2】
は、異なる生物学的複製を合計してサンプルの数を標準化することによって計算する:
【数15】
【0129】
MSDを、(インデックスiの)実験サンプルの平均技術反復に関して次いで計算する、これは全ての対照サンプルの平均挙動からサンプルがどの程度異なるかを反映する数である:
【数16】
【0130】
最後に、測定したMSD値の統計的有意性を割り当てた。
【数17】
の値は平均からの偶発偏差数の合計であるので、それらは正規分布、中心極限定理の結果と非常に似ている。したがって本発明者らは、対照集団に対する所与のサンプルからの標準偏差数を反映するzスコアをそれぞれのサンプルに関して算定した:
【数18】
ここで、標準偏差および平均は以下のように定義する:
【数19】
【0131】
この測定基準を、図26および表4中に示す関連細菌種に関して試験した多数の研究室分離株および臨床分離株の分析に適用した。その生物に関してMSDが2を超えた場合に、特定生物として菌株を同定した。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
本明細書に記載するRNA発現シグネチャーの直接測定は、培養中および患者試料に直接由来する一定範囲の病原体の迅速な同定をもたらすことができる。特に、抗生物質への曝露に対する表現型による応答によって感受性菌株と耐性菌株を区別することができ、したがって共通応答に様々な耐性機構を組み込む非常に早期の迅速な感受性の決定をもたらすことができる。この原理は、病原体RNAが広範囲の臨床設定および感染性疾患に適用可能である一診断プラットフォームの基盤を形成するパラダイムシフトとなり、病原体の同定および迅速な表現型による抗微生物感受性試験を同時にもたらす。
【0137】
参考文献
【表5】
【0138】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と共に記載されているが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の範囲を制限するわけでなく、それを例示することを目的とすることは理解されよう。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲内にある。
【0139】
【表6】
【0140】
【表7】
【0141】
【表8】
【0142】
【表9−1】
【表9−2】
【表9−3】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により完全に本明細書に組み込まれる、2010年2月24日に出願された米国仮特許出願第61/307,669号、および2010年4月12日に出願された米国仮特許出願第61/323,252号の特典を請求するものである。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられた認可番号3U54−A1057159−06S1および認可番号A108002の下で政府の支援によってなされたものである。政府は本発明において確固たる権利を有するものとする。
【0003】
技術分野
本発明は特に、病原体、例えば、感染性疾患の病原体を検出、診断、および/または同定する、ならびに既知の治療または潜在的な治療(known or potential treatment)に対するそれらの感受性を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
分子診断の発展は、感染疾患以外の大部分の医療用分野における対処(care)に革新をもたらしたが、感染疾患の分野では、広範かつ変革的な役割を果たせずにいる。緩徐な培養法への依存は現在の抗生物質耐性の危機においては特に欲求不満の種であるが、それは、刺激的病原体(inciting pathogen)およびその薬剤耐性プロファイルを迅速に診断するための分子ツールの発展が、細菌、真菌、ウイルス、および寄生虫感染の管理法を変え、死亡率を低下させるための尽力において迅速で情報に基づいた薬剤治療を誘導し、医療費を制御し、病原体間で増大する耐性に関する公衆衛生の監視を改善する可能性があるからである。米国内の病院だけでも、170万人の人が院内細菌感染し、99,000人が毎年亡くなり、これらの感染の70%は少なくとも1つの薬剤に対する細菌耐性が原因であり、推定年間コストは450億ドルである(Klevens et al、2002. Public Health Rep.2007;122(2):160-6;Klevens et al、Clin Infect Dis.2008;47(7):927-30;Scott、The Direct Medical Costs of Healthcare-Associated Infection in U.S. Hospitals and the Benefits of Prevention.In:Division of Healthcare Quality Promotion NCfP、Detection and Control of Infectious Diseases、editor.Atlanta:CDC、2009)。しかしながら、この問題は米国に限られず、微生物耐性は現在、世界中で大部分の一般的な細菌感染に影響を与えている。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)(MRSA)、多剤耐性結核菌(tuberculosis)(MDR−TB)、および一層薬剤耐性のグラム陰性生物の世界的な広がりは、監視、予防および防除、研究および製品開発に焦点を当てたアクションプランの形成を促した(US action plan to combat antimicrobial resistance.、Infect Control Hosp Epidemiol.2001;22(3):183-4)。しかしながら、任意のこれらの範囲に関して進展は最小限である。
【0005】
適切な抗生物質の迅速な投与は、腸球菌(E.faecium)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(A.baumanii)、緑膿菌(P.aeruginosa)、およびエンテロバクター(Enterobacter)種などの院内病原体に関する病院設定内、または結核菌(tuberculosis)(TB)などの病原体に関する供給源不足(resource-poor setting)の設定内のいずれかで、重度の細菌感染がある患者の死亡率を最小にすることが繰り返し示されている(Harbarth et al、Am J Med.2003;115(7):529-35;Harries et al、Lancet.2001;357(9267):1519-23;Lawn et al、Int J Tuberc Lung Dis.1997;1(5):485-6)。しかしながら、生物の培養および二次培養(sub-culture)を含む現在の診断法は、生物とその薬剤感受性パターンの両方を正確に同定するのに数日以上要する可能性があるので、医師は経験によるより広いスペクトルの抗生物質の多数回の使用に依存しており、耐性の選択圧を加え、関連医療費は増大する。病原体およびそれらの耐性プロファイルを迅速に(例えば、1時間未満で)検出するためのポイントオブケア診断が早急に必要とされ、医療の実践を劇的に変える可能性がある。DNAベースまたはPCRベースの試験を設計するいくらかの尽力は、低い検出限界で病原体を迅速に同定することができるツールをもたらしている。しかしながら、これらのツールの世界的な使用は、研究室のインフラに関するコストおよび要求、および必要な酵素の影響を容易に受けない粗製サンプルの設定におけるPCRベースの方法の固有の非感受性が原因で、現在制限されている。薬剤耐性を決定するための分子学的手法はより一層限られており、既知の耐性を与える変異と比較した感染細菌の遺伝子型の定義に基づいて、非常に限られた方法でいくつかの生物(例えば、MRSA、TB)に利用可能である。しかしながら、この方法は、高感度を有する、試験用の全ての耐性を与える単一ヌクレオチド多型(SNP)の非常に広範囲の同定を必要とする(Carroll et al、Mol Diagn Ther.2008;12(1):15-24)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
要旨
本発明は、少なくとも部分的に、例えば粗製、非精製サンプル中のmRNAの検出に基づいて、疾患を診断する、病原体を同定する、および治療を最適化する、新しい方法の発見に基づく。本明細書に記載する方法は、薬剤感受性の決定に基づいて、サンプル、例えば臨床サンプル中の病原体の迅速で正確な同定をもたらし、最適な治療の選択を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、病原体、例えば細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫などの病原性生物(disease-causing organism)の薬剤感受性を決定する方法を特徴とする。方法は、病原体を含むサンプルを提供するステップと、サンプルと1つまたは複数の試験化合物を、例えば4時間未満接触させて、試験サンプルを提供するステップとを含む。試験サンプルは、試験サンプル中に病原体からmRNAを放出させる条件下で処理することができ、試験サンプルは複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに曝し、それぞれのサブセットは、耐性がある生物と比較して試験化合物に感受性がある生物中で差次的に発現される標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、曝露が、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で起こる。方法は、プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップと、試験化合物の存在下での標的mRNAのレベルと参照レベル、例えば試験化合物の不在下での標的mRNAのレベルとを比較するステップであって、標的mRNAの参照レベルと比較した標的mRNAのレベルの違いが、病原体が試験化合物に対して感受性であるか、または耐性があるかを示すステップとを含む。
【0008】
一実施形態では、病原体は既知の、例えば同定済みの病原体である。いくつかの実施形態では、方法は、未知の病原体、例えば未だに同定されていない病原体の薬剤感受性を決定する。
【0009】
いくつかの実施形態では、病原体を含むサンプルを、例えば同時にまたは同じサンプル内で2つ以上の試験化合物と接触させる、例えば既知の治療化合物または潜在的な治療化合物、例えば抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬、および駆虫薬(antiparasitis)と接触させる。これらの化合物のうちの多くのもの、例えば、イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール、ストレプトマイシン、アミカシン、カナマイシン、カプレオマイシン、ビオマイシン、エンビオマイシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、エチオナミド、プロチオナミド、シクロセリン、p−アミノサリチル酸、リファブチン、クラリスロマイシン、リネゾリド、チオアセタゾン、チオリダジン、アルギニン、ビタミンD、R207910、オフロキサシン、ノボビオシン、テトラサイクリン、メレペネム、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ゲルダナマイシン、ハービマイシン、ロラカルベフ、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファレキシン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフェピム、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、アジスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、スペクチノマイシン、アズトレオナム、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリン、ピペラシリン、チカルシリン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、エノキサシン、ガチフロキサシン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、マフェニド、プロントジル、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルファニリミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム、トリメトプリム−スルファメトキサゾール(コ−トリモキサゾール)、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、エタムブトール、フォスフォマイシン、フシジン酸、フラゾリドン、メトロニタゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン/ダルフォプリスチン、リファンピン、チアムフェニコール、チニダゾール、セファロスポリン、テイコプラチン(teicoplatin)、オーグメンチン、セファレキシン、リファマイシン、リファキシミン、セファマンドール、ケトコナゾール、ラタモキセフ、またはセフメノキシムは当技術分野で知られている。
【0010】
いくつかの実施形態では、サンプルを4時間未満、例えば3時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、20分未満、10分未満、5分未満、2分未満、1分未満、化合物と接触させる。
【0011】
別の態様では、本発明は、感染性疾患の病原体、例えば細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫、例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を同定する、例えば、サンプル、例えば臨床サンプル中の病原体の存在を検出する方法を特徴とする。これらの方法は、
病原体に感染している疑いがある被験体からの試験サンプルを提供するステップと、
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)を放出させる条件下で試験サンプルを処理するステップと、
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、曝露が、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で起こるステップと、
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップとを含む。参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大は、試験サンプル中の病原体のアイデンティティー(identity)を示す。
【0012】
いくつかの実施形態では、方法は、痰、血液、尿、大便、関節液(joint fluid)、脳脊髄液、および子宮頸部/膣スワブである、またはこれらを含む、サンプル中またはサンプル由来の感染性疾患の病原体を同定する。このようなサンプルは、複数の他の生物(例えば、1つまたは複数の非病原性細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫)または病原体を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、サンプルは、臨床サンプル、例えば医療提供者による医学的治療を施されるまたはその可能性がある患者または人からのサンプルである。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、1つまたは複数の核酸プローブは表2から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態では、mRNAは、プローブとの接触前に、粗製状態であり、例えば精製されておらず、および/または、mRNAを増殖して例えばcDNAを生成することを含まない。
【0015】
いくつかの実施形態では、方法は、酵素的、化学的、および/または機械的に細胞を溶解するステップを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法は、マイクロ流体デバイスの使用を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法を使用して、病原体の大発生、例えば、特定領域内の病原体数の急上昇の公衆衛生監視のため、病原体感染、例えば発生率、罹患率をモニタリングする。
【0018】
本明細書に記載する方法は、ヒト、および実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、もしくはサル、または飼育動物および家畜(domesticated and farm animals)、例えばネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、および鳥類、例えばニワトリなどの動物を含めた、被験体からのサンプル中に病原体が存在する場合に有効である。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、本明細書に記載するアッセイの結果に基づいて、被験体用の治療を決定および/または選択すること、および必要に応じて、被験体に治療を施すこと(administering the treatment)をさらに特徴とする。
【0020】
別の一般的な態様では、本発明は、被験体用の治療を選択する方法を特徴とする。これらの方法は、
例えば本明細書に記載する方法を使用して、感染性疾患の病原体を必要に応じては同定するステップ(例えば、サンプル中の特異的病原体の存在および/またはアイデンティティーを検出するステップ)と、
本明細書に記載する方法を使用して病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
被験体を治療する際に使用するための病原体が感受性のある薬剤を選択するステップとを含む。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、被験体中の病原体による感染をモニタリングするための方法を提供する。これらの方法は、
第一の時点に、病原体を含む第一のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
必要に応じて、病原体が感受性のある治療を選択し、選択した治療を被験体に施すステップと、
第二の時点に、病原体を含む第二のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性と第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を比較し、それによって被験体中の感染をモニタリングするステップとを含む。
【0022】
本明細書に記載する方法のいくつかの実施形態では、被験体は免疫無防備状態(immune compromised)である。
【0023】
本明細書に記載する方法のいくつかの実施形態では、方法は、病原体が感受性のある治療を選択し、選択した治療を被験体に施すステップを含み、病原体の薬剤感受性の変化は、病原体が治療に耐性があるか、または治療に耐性がある状態になりつつあるか(the pathogen is or is becoming resistant to the treatment)を示し、例えば、方法は、施される治療に対する病原体の薬剤感受性を決定するステップを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、病原体の薬剤感受性の変化は、病原体が治療に耐性があるか、または治療に耐性がある状態になりつつあることを示し、方法は、被験体に異なる治療を施するステップをさらに含む。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、被験体集団内における、病原体による感染をモニタリングするための方法を特徴とする。これらの方法は、
第一の時点に、集団内の被験体からの第一の複数のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第一の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定し、必要に応じて、本明細書に記載する方法を使用して第一の複数のサンプル中の感染性疾患の病原体を同定するステップと、
必要に応じて、被験体に治療を施するステップと、
第二の時点に、集団内の被験体からの第二の複数のサンプルを得るステップと、
本明細書に記載する方法を使用して第二の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定し、必要に応じて、本明細書に記載する方法を使用して第一の複数のサンプルにおける感染性疾患の病原体を同定するステップと、
第一の複数のサンプルおよび第二の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性、および必要に応じて、病原体のアイデンティティーを比較し、それによって被験体集団内の感染をモニタリングするステップとを含む。
【0026】
さらに別の態様では、固形支持体と結合した複数のポリヌクレオチドを提供する。複数のポリヌクレオチドのそれぞれは、表2由来の1つまたは複数の遺伝子と選択的にハイブリダイズする。いくつかの実施形態では、複数のポリヌクレオチドは、配列番号1〜227、およびそれらの任意の組合せを含む。
【0027】
伝染病または伝染性疾患としても知られる「感染性疾患」は、被験体における病原性生物因子の感染、存在、および増殖に起因する臨床的に明らかな病状(すなわち、特徴的な医学的兆候および/または疾患の症状)を含む(Ryan and Ray(eds.)(2004).Sherris Medical Microbiology(4th ed.).McGraw Hill)。感染性疾患の診断は、例えば診断検査(例えば、血液検査)、カルテ審査、および臨床歴審査によって、医師により確認することができる。いくつかの場合、感染性疾患は、その過程の一部または全部で無症候性であり得る。感染性病原体は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、多細胞寄生虫、およびプリオンを含むことができる。当業者は、病原体の伝播は、物理的接触、汚染食品、体液、物体、空気媒介吸入、およびベクター生物介在を例外なく含めた、異なる経路を介して起こり得ることを理解する。特に感染性が強い感染性疾患は時折伝染性と呼ばれ、病人およびその分泌物との接触によって伝播する可能性がある。
【0028】
本明細書で使用する用語「遺伝子」は、産物(RNAまたはその翻訳産物、ポリペプチドのいずれか)をコードする染色体中のDNA配列を指す。遺伝子はコード領域を含有し、コード領域の前後に領域を含む(それぞれ「リーダー」および「トレイラー」と呼ばれる)。コード領域は、複数のコードセグメント(「エクソン」)および個々のコードセグメント間の介在配列(「イントロン」)で構成される。
【0029】
本明細書で使用する用語「プローブ」は、標的mRNAと特異的に結合するオリゴヌクレオチドを指す。プローブは、標的とのハイブリダイゼーション時に一本鎖であってよい。
【0030】
他に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明中で使用するための方法および材料を本明細書に記載し、当技術分野で知られている他の適切な方法および材料も使用することができる。材料、方法、および実施例は単なる例示的なものであり、限定的であることを意図するものではない。本明細書で言及する全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ、および他の参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、定義を含めた本明細書が優先される。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1A〜1Dは、NanoString(商標)(カラーコードプローブ対を用いた遺伝子発現の直接同時計測)技術を使用して、サンプル中のmRNA分子を定量化するための例示的な方法を示すフローチャートである。1A。対象のそれぞれのmRNAに対応する2つの分子プローブを粗製サンプル溶解物に加える。捕捉プローブは、ビオチンと結合した所与のmRNA分子と相補的な50bpオリゴマーからなる。レポータープローブは、蛍光タグと結合した同じmRNA分子の異なる部分と相補的な異なる50bpオリゴマーからなる。それぞれのタグは、所与のmRNA分子を独自に同定する。捕捉プローブとレポータープローブは、溶解物内のそれらの対応するmRNA分子とハイブリダイズする。1B。それぞれのオリゴマー上のハンドルとハイブリダイズするビーズ精製により過剰なレポーターを除去し、ハイブリダイズしたmRNA複合体のみ残す。1C。mRNA複合体を表面上に固定して並べる(aligned)。mRNA複合体は、ストレプトアビジンコーティング表面上でビオチン結合捕捉プローブによって捕捉する。電場を利用して、表面上で全て同じ方向に複合体を並べる。1D。表面を画像化しコードを数える。mRNA複合体は顕微鏡画像処理し、並べたレポータータグは数えることができ、これによってmRNA分子の定量測定値を与えることができる(nanostring.comから得た画像)。
【図2】図2A〜2Fは、薬剤耐性の遺伝子発現シグネチャーの診断を示す一連の図である。2A。患者由来のサンプル、例えば痰。2B。薬剤感受性と耐性菌を区別するための発現プログラムの誘導。サンプルは分割し、菌が薬剤に耐性であるか感受性であるかに応じて、異なる薬剤に曝して発現プログラムを誘導する。2C。mRNA分子とハイブリダイズするバーコードプローブ。細胞を溶解させ、プローブを粗製サンプルに加える。2D。mRNA複合体を捕捉して並べる。2E。複合体を画像化し計数する。2F。シグネチャーの分析。測定したmRNAレベルを標準化し、薬剤なしの対照および薬剤感受性および耐性の標準と比較して、全薬剤中の耐性プロファイルを定義する。
【図3】図3は、大腸菌(E.coli)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。6個の大腸菌(E.coli)遺伝子(ftsQ、murC、opgG、putP、secA、およびuup)用に設計したプローブを使用して、4個の臨床分離株を大腸菌(E.coli)として陽性同定した。それぞれの値は、4〜6反復の平均および標準偏差を表す。
【図4】図4は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。5個の緑膿菌(P.aeruginosa)遺伝子(proA、sltB1、nadD、dacC、およびlipB)用に設計したプローブを使用して、2個の臨床分離株を緑膿菌(P.aeruginosa)として陽性同定した。
【図5】図5は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。5個のクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)遺伝子(lrp、ycbK、clpS、ihfB、mraW)用に設計したプローブを使用して、臨床分離株を陽性同定した。
【図6】図6は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)臨床分離株の陽性同定を示す棒グラフである。3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(proC、rpoB、およびfabD)用に設計したプローブを使用して、4個の臨床分離株を陽性同定した。
【図7】図7は、病原体特異的プローブを使用した病原体同定を示す、一連の3つの棒グラフである。
【図8】図8は、病原体同定感受性を示す一連の3つの棒グラフである。
【図9A】図9Aおよび9Bは、模擬臨床サンプル(simulated clinical sample)からの病原体同定を示す一連の3つの棒グラフである。
【図9B】図9Aおよび9Bは、模擬臨床サンプルからの病原体同定を示す一連の3つの棒グラフである。
【図10】図10は、緑膿菌(P.aeruginosa)の2個の臨床分離株の同定を示す一連の2つの棒グラフである。
【図11】図11は、大腸菌(E.coli)におけるフルオロキノロン耐性の確認(identification)を示す棒グラフである。
【図12】図12は、大腸菌(E.coli)におけるアミノグリコシド耐性の確認を示す棒グラフである。
【図13】図13は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)におけるメチシリン耐性の確認を示す棒グラフである。
【図14】図14は、エンテロコッカス(Enterococcus)におけるバンコマイシン耐性の確認を示す棒グラフである。
【図15】図15は、薬剤耐性結核菌(M.tuberculosis)における薬剤特異的遺伝子誘導を示す一連の4つの棒グラフである。
【図16】図16は、イソニアジド感受性と耐性TB菌株を比較する3個のスキャッタープロットの図である。それぞれのドットは、24遺伝子プローブの1つを表す。軸はデジタル遺伝子発現技術(NanoString(商標))によって測定した転写産物の数を表す。左−薬剤処理の不在下でのイソニアジド耐性菌株とイソニアジド感受性菌株における発現の比較。中央−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド感受性菌株(drug treated vs. drug untreated isoniazid sensitive strain)における発現の比較。右−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド耐性菌株における発現の比較。
【図17】図17は、NanoString(商標)を使用して薬剤感受性と薬剤耐性の結核菌(M.tuberculosis)の転写応答を比較する一連の4つの棒グラフである。(A)本明細書に記載するように菌株A50(INH−R)をINH(0.4μg/ml)で処理した。(B)SM−RクローンS10は2μg/mlのストレプトマイシンで処理した。
【図18】図18は、感受性と耐性のTB菌株における差次的遺伝子発現誘導を示す棒グラフである。INHで処理したINH感受性(野生型)細胞/未処理細胞における各遺伝子の発現の割合は、INHで処理したINH耐性細胞/未処理細胞における各遺伝子の発現で割る。
【図19】図19は、結核菌(M.tuberculosis)におけるINH誘導型遺伝子の誘導の経時変化を示す線グラフである。イソニアジド感受性H37Rvを0.4μg/mlのINH(5XMIC)に曝し、1時間、2時間、および5時間で10mlの培養物からRNAを調製した。次いでqRT−PCRを使用してkasA、kasB、およびsigAに対する転写産物の量を定量化し、レベルはsigAに標準化してt=0と比較する。
【図20】図20は、発現シグネチャーを検出するための例示的なワークフローである。痰中のバチルス(bacilli)の実際の生理的状態は知られていないので、プロセス開発中に複製細菌と非複製細菌の両方をモデル化する。無菌培養において増殖したH37Rv(リッチ7H9/OADC/SDS培地中または7H9/チロキサポール中で枯渇のいずれか)は、これらの実験において痰中のバチルス(bacilli)を表す。バチルス(bacilli)を富栄養培地(rich media)に曝しながら一定時間t1パルス処理し、休眠状態からの蘇生を刺激して転写を活性化する。最適なt1は実験によって決定する。次いでバチルス(bacilli)を薬剤に曝しながら一定時間t2パルス処理し、転写応答を誘発する。最適なt2は実験によって決定する。最後に、全てのサンプルを処理し、発現プロファイリングによって分析し、定量RT−PCRによって確認する。
【図21】図21は、遺伝子の発現の割合を比較して薬剤感受性と耐性のバチルス(bacilli)を区別する例示的な方法である。定量RT−PCRを使用して、発現シグネチャーに含める候補である遺伝子に関するmRNAレベルを測定する。薬剤の存在下(誘導−薬剤)および薬剤の不在下(非誘導−無薬剤)で、「実験用(exp)」で示すサンプル(すなわち、臨床分離株)中の対象の遺伝子のmRNAレベルを測定する。標準ハウスキーピング遺伝子のmRNAレベルも、薬剤の存在下(ハウスキーピング−薬剤)および薬剤の不在下(ハウスキーピング−無薬剤)で測定する。対象の遺伝子とハウスキーピング遺伝子のレベルの割合によって、薬剤の存在下(A)および薬剤の不在下(B)での発現を標準化することができる。いくつかの薬剤感受性菌株に関してA>B、および薬剤耐性菌株に関してA=Bが予想される。最後に、薬剤感受性および薬剤耐性であることが知られている対照菌株(CおよびD)に関して同じ対応率を作製する。これらの対照値は、未知の菌株から得た実験比の比較用の標準として働く。
【図22】図22は、培養または患者標本に直接由来する細菌種の陽性同定を示す一連の棒グラフおよびスキャッタープロットである。細菌サンプルは、種特異的転写産物の検出用に設計したNanoString(商標)プローブを用いて分析した。Y−軸:転写産物の加工していないカウント(raw count);X−軸:遺伝子の名称。大腸菌(E.coli)(黒色)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)(白色)、緑膿菌(P.aeruginosa)(グレー)に特異的なプローブ。エラーバーは2回の生物学的反復の標準偏差を表す。(A)グラム陰性細菌の培養物からの検出。(B)混合培養物(プロビデンシア・スチュアルティ(Providencia stuartii)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、シトロバクター・フレウンデー(Citrobacter freundii))内の検出。(C)培養物中のマイコバクテリウム(mycobacteria)の属および種特異的検出。結核菌(M.tuberculosis)(Mtb)、マイコバクテリウム・アビウム亜種イントラセルラーレ(M.avium subsp.intracellulare)(MAI)、ヨーネ菌(M.paratuberculosis)(Mpara)、およびマイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)(Mmar)。属範囲(genus-wide)のプローブ(グレー)、結核菌(M.tuberculosis)特異的プローブ(黒色)。(D)臨床尿試料に直接由来する大腸菌(E.coli)の検出。(E)非大腸菌(E.coli)サンプルと比較した大腸菌(E.coli)サンプルのアイデンティティーの統計的決定。それぞれのプローブに関するカウントを平均し、対数(log)変換して合計した。(F)ブドウ球菌(Staphylococci)においてメチシリン耐性を与えるmecA mRNA、および腸球菌(Enterococci)においてバンコマイシン耐性を与えるvanA mRNAの検出。それぞれのポイントは異なる臨床分離株を表す。
【図23】図23は、抗生物質への曝露によって感受性細菌と耐性細菌を区別するRNA発現シグネチャーを示す、一連の7つの棒グラフである。感受性または耐性の細菌株を対数期(log phase)まで増殖させ、抗生物質に軽く曝露し、溶解し、抗生物質への曝露に応じて変わる転写産物の定量化用に設計したNanoString(商標)プローブセットを使用して分析した。加工していないカウントはサンプル用の全プローブの平均に標準化し、薬剤曝露と非曝露サンプルを比較することによって誘導倍率を決定した。Y−軸:変化倍率;X−軸:遺伝子の名称。(A)大腸菌(E.coli):シプロフロキサシン(CIP)、アンピシリン(AMP)、またはゲンタマイシン(GM)、(B)緑膿菌(P.aeruginosa):シプロフロキサシン、および(C)結核菌(M.tuberculosis):イソニアジド(INH)、ストレプトマイシン(SM)、またはシプロフロキサシン(CIP)に曝露した、感受性菌株(黒色;上図)または耐性菌株(グレー;下図)に関するシグネチャー。それぞれの菌株は二連で試験し、エラーバーは、1個の代表的菌株の2回の生物学的反復の標準偏差を表す。試験した菌株の完全な一覧に関する表6を参照。
【図24】図24は、発現シグネチャーの誘導レベルの平均二乗長を使用した抗生物質耐性と感受性の細菌株の統計的分離を示す、3個のスキャッタープロットの図である。平均二乗長(MSD)は、抗生物質に曝露した感受性菌株に関する平均シグナルからの試験した各菌株の偏差を示すZスコアとして表す。感受性菌株:白い菱形;耐性菌株:黒い菱形。破線:Z=3.09(p=0.001)(A)大腸菌(E.coli)臨床分離株。それぞれのポイントは、1菌株の2〜4回の生物学的反復を表す。(BおよびC)抗生物質への曝露に対する発現シグネチャー応答は耐性機構と無関係である。(B)染色体フルオロキノロン耐性を与えるgyrAの変異またはプラスミド媒介性キノロン耐性決定基(aac(6’)−Ib、qnrB、またはoqxAB)のいずれかを含有する大腸菌(E.coli)親菌株J53および誘導体はシプロフロキサシンに曝露し、次いで前述のように分析した。エラーバーは4回の生物学的反復の標準偏差を表す。(C)結核菌(M.tuberculosis)。イソニアジド感受性および高または低レベルの耐性菌株をイソニアジドに曝露した。1μg/mLで、低レベルのINH耐性inhAは感受性シグネチャーを示すが、0.2μg/mLでは、それは耐性シグネチャーを示す。
【図25】図25は、ウイルスおよび寄生虫の検出を示す一連の5つの棒グラフである。細胞を溶解し、プールしたプローブセットを加え、標準NanoString(商標)プロトコールに従いサンプルをハイブリダイズさせた。(A)無菌培養から検出したカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)。(B)HIV−1。HIV−1gagおよびrev用に設計したプローブを用いたPBMC溶解物からの検出。(C)インフルエンザA(Influenza A)。マトリックスタンパク質1および2用に設計したプローブを用いた、293T細胞溶解物におけるPR8インフルエンザウイルスの検出。(D)HSV−1およびHSV−2。HSV−2糖タンパク質G用に設計したプローブを用いた、HeLa細胞溶解物におけるHSV−2菌株186Syn+の検出。高いMOIでさえ、HSV−1とHSV−2特異的プローブのクロスハイブリダイゼーションはほとんどなかった。(E)熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)。示したレベルの寄生虫血症(parasitemia)で採取した赤血球からの熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)菌株3D7の検出。プローブは熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)に関して示した血液段階用に設計した。
【図26】図26は、臨床分離株の生物の同定を示す一連の3個のスキャッタープロットの図である。細菌培養物を溶解し、種特異的転写産物の検出用に設計したプローブを加え、ハイブリダイズさせ、標準NanoString(商標)プロトコールによって検出した。大腸菌(E.coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、または緑膿菌(P.aeruginosa)を同定するプローブを含有するプールしたプローブセットをAおよびBにおいて使用した。Cでは、結核菌(M.tuberculosis)用の種特異的プローブは微生物病原体に対する特に大きなプローブセットであった。左のY−軸はそれぞれの生物に関する1〜5の別個の転写産物からの対数変換のカウントの合計を示し、X−軸は試験した種を示す。破線は、所与サンプルのスコアが対照(「非生物」)サンプルの平均から逸脱した標準偏差数に基づく0.001のp値を示す。「非生物」サンプルは、他の細菌生物、ただし定義する生物が不在であることが知られている細菌生物を含有した、試験したサンプルを示す。(C)に関しては、非生物サンプルは、マイコバクテリウム・イントラセルラーレ(M.intracellulare)、ヨーネ菌(M.paratuberculosis)、マイコバクテリウム・アブセサス(M.abscessus)、マイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)、マイコバクテリウム・ゴルドナエ(M.gordonae)、およびマイコバクテリウム・ホルツイツム(M.fortuitum)を含めた、非結核菌マイコバクテリウム(tuberculous mycobacteria)であった。試験した菌株および臨床分離株の数は表4中に示し、(そのために50ntプローブを設計した)病原体同定に使用した遺伝子は表5中に列挙する。
【図27】図27は、ゲンタマイシン(左図)またはアンピシリン(左図)感受性と耐性の大腸菌(E.coli)菌株の平均二乗長(MSD)の比較を示す図である。Y軸は、既知の感受性菌株の応答の中心(centroid)と比較した、それぞれのサンプルのMSDのZスコアを示す。点線は、0.001のp値に相当するZ=3.09を示す。
【図28】図28は、シプロフロキサシン感受性と耐性の緑膿菌(P.aeruginosa)菌株の平均二乗長の比較を示すスキャッタープロットの図である。Y軸は、既知の感受性菌株の応答の中心と比較した、それぞれのサンプルのMSDのZスコアを示す。
【図29】図29は、ストレプトマイシン(SM)またはシプロフロキサシン(CIP)感受性と耐性の結核菌(M.tuberculosis)菌株の平均二乗長の比較を示す2個のスキャッタープロットの図である。Y軸は、既知の感受性菌株の応答の中心と比較した、それぞれのサンプルのMSDのZスコアを示す。
【図30】図30は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)分離株の陽性同定を示す棒グラフである。5個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(ileS、ppnK、pyrB、rocD、およびuvrC)用に設計したプローブを使用して、3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)分離株を陽性同定した。
【図31】図31は、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)分離株の陽性同定を示す棒グラフである。6個のステノトロホモナス・マルトフィリア(S.maltophilia)遺伝子(clpP、dnaK、purC、purF、sdhA、およびsecD)用に設計したプローブを使用して、3個の分離株をステノトロホモナス・マルトフィリア(S.maltophilia)として陽性同定した。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
本明細書に記載するのは、転写発現プロファイルシグネチャーに基づいて、病原体、例えば細菌、真菌、ウイルス、および寄生虫とその薬剤耐性パターンの両方を同定するための、迅速で、高感度の、表現型に基づく方法である。感受性および耐性の病原体は薬剤曝露に対して非常に異なる応答をし、初期の1つでは、最も迅速な応答はそのそれぞれの発現プロファイルの変化を反映した。分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現を使用して、薬剤曝露に対するこれらの初期転写応答を検出して、酵素学または分子生物学を必要としない迅速な形式で、薬剤感受性および耐性の病原体を区別することができる。本発明は様々な臨床サンプル中の広範囲の微生物病原体に適用可能であり、現在の診断ツールと共にまたは独立して使用することができる。主に結核菌(tuberculosis)(「TB」、結核菌(Mycobacterium tuberculosis))に関して使用する方法を記載するが、(例えば、表1中に列挙したような)他の病原体およびそれらの関連臨床症状に関する使用に、それらを適用することができることは当業者によって理解される。
【0034】
薬剤耐性の診断および同定は、より迅速な「顕微鏡観察による薬剤感受性(microscopic-observation drug-susceptibility)」(MODS)培養法、ファージ送達型レポーター、または比色定量指標さえも使用する培養試験に必要とされるTBの非常に遅い増殖のため、TBに関して非常に課題がある。薬剤耐性を決定するための別のアプローチは、知られている耐性を与える変異と比較して感染病原体の遺伝子型を定義することに基づくが、しかしながら、このアプローチは、高感度を有する試験のためには全ての耐性を与える単一ヌクレオチド多型(SNP)の非常に広範囲の同定を必要とする。
【0035】
本明細書に記載する方法は、病原体の発現プロファイルシグネチャーに基づいて、サンプル、例えば臨床サンプル中の病原体を例えば同定するため、および病原体の薬剤感受性を決定するために使用することができる。薬剤感受性と耐性の病原体を区別するために使用することができる最も初期の最も迅速な応答の1つは、対象の薬剤への曝露時のそのそれぞれの転写プロファイルである。病原体は、それらがその特定薬剤に対して感受性であるかまたは耐性であるかに応じて、薬剤曝露に対して非常に異なる応答をする。例えばいくつかの場合、薬剤感受性または薬剤耐性の細菌は、上方および下方の制御遺伝子によって薬剤曝露に対して数分〜数時間内に応答し、耐性細菌にそのような応答がない一方で、薬剤および付随するより非特異的なストレスを克服しようとおそらく試みる。この迅速な応答は、病原体を殺傷またはその増殖を阻害するための化合物に必要とされる長時間とは対照的である。有効な形式での臨床サンプルからの病原体の死または増殖阻害の検出は、さらに大きな課題となる。例えば分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現を使用して、薬剤曝露に対するこれらの初期転写応答を検出し、酵素学または分子生物学を必要としない迅速な形式で薬剤感受性と耐性の病原体を区別することができ、したがって患者から回収した粗製臨床サンプルで直接実施することができる。この読み出し値が表現型であり、したがって例えばTBの薬剤耐性を考慮したSNPの包括的定義を必要としない。本明細書に記載するのは、病原体、例えばTBバチルス(bacilli)に対する高い特異性を与え、感受性病原体と耐性病原体を区別するための遺伝子のセットである。感受性病原体と耐性病原体を区別する発現シグネチャーを構成する遺伝子の選択に基づいて、検出限界の感度を、多量に誘導され、したがって臨床サンプル内の病原体の数によってのみ制限されない転写産物を選択することによって最適化する。このセットの大きさを測定して、必要とされる遺伝子の数を最小にする。したがって本発明は、迅速(例えば、数時間)、高感度、および特異的である病原体およびその付随する耐性パターンを診断するための、高感度の表現型試験として使用することができる。この試験は病原体に感染した患者のケアを変える可能性があり、例えば世界のTB発生領域のための、コスト効率が良い、ポイントオブケア診断である。
【0036】
本発明の方法は、高度の感受性および特異性で、粗製細胞サンプルから直接の核酸シグネチャー、具体的にはRNAレベルの検出を可能にする。この技術を使用してTBを同定することができ、臨床サンプル、例えば痰、尿、血液、または大便から直接の迅速で簡潔な処理を用いた、高感度での異なる発現シグネチャーの測定によって薬剤感受性パターンを決定することができ、この技術はリンパ節などの他の組織にも適用可能である。高感度は、DNAではなくmRNAを検出することによって得ることができる。単細胞は(検出のために増幅を典型的に必要とする)1ゲノムDNAコピーと比較して細胞当たりより多くのmRNAのコピー(>103)を有する可能性がある、(<2000コピーmRNAを検出する)この技術の高い固有の感度のためである。迅速で簡潔なサンプル処理は、mRNA分子の検出に必要とされる酵素学および分子生物学的方法の欠如のため可能であり、その代わりいくつかの実施形態では、これらの方法は、粗製溶解物中でのバーコードプローブとmRNA分子のハイブリダイゼーション、次に(例えば、図1中に例示するような)直接的可視化を利用する。これらの実施形態ではハイブリダイゼーションを使用するので、mRNAは粗製細胞溶解物、固定組織サンプル、およびグアニジウムイソチオシアネート(guanidinium isothiocyanate)、ポリアクリルアミド、およびTrizol(登録商標)を含有するサンプルから、いかなる精製ステップもなく直接検出することができる。粗製mRNAサンプルは生物体液または固形物から得ることができ、例えば、痰、血液、尿、大便、関節液、脳脊髄液、子宮頸部/膣スワブ、胆汁液、胸膜液、腹膜液、または心膜液、または例えば骨生検、肝生検、肺生検、脳生検、リンパ節生検、食道生検、結腸生検、胃生検、小腸生検、心筋生検、皮膚生検、および洞生検由来の組織生検サンプルを使用することもできる。
【0037】
RNA抽出
酵素的、化学的、または機械的にサンプルを処理して、サンプル中の細胞を溶解し、mRNAを放出させることによって、サンプル、例えば病原体細胞または臨床サンプル中の細胞からRNAを抽出することができる。プロセス中に他の破壊法を使用することができることは、当業者によって理解される。
【0038】
細胞壁を除去するための酵素法の使用は、当技術分野で十分確立している。酵素は一般に市販されており、かつ大抵の場合、生物源から最初に単離されている。一般に使用される酵素としては、ライソザイム、リゾスタフィン、ジモラーゼ、ムタノリシン、グリカナーゼ、プロテアーゼ、およびマンノースが挙げられる。
【0039】
化学物質、例えば界面活性剤は、脂質−脂質、脂質−タンパク質およびタンパク質−タンパク質の相互作用を妨害することによって、細胞周辺の脂質バリアを破壊する。細胞溶解に理想的な界面活性剤は、細胞型および供給源に依存する。細菌と酵母は、それらの細胞壁の性質のため、最適な溶解に関して異なる要件を有する。一般に、非イオン性および両性イオン性の界面活性剤が穏やかである。Triton X系の非イオン性界面活性剤および3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、両性イオン性界面活性剤が一般にこれらの目的に使用される。対照的に、イオン性界面活性剤は強力な可溶化剤であり、タンパク質を変性させる傾向があり、それによってタンパク質の活性および機能を妨害する。タンパク質と結合し変性させるSDS、イオン性界面活性剤が、細胞を破壊するために当技術分野で広く使用されている。
【0040】
細胞の物理的破壊は超音波処理、フレンチプレス、エレクトロポレーションを必要とする可能性があり、または基本構造を含むマイクロ流体デバイスを使用して機械的に細胞を破壊することができる。これらの方法は当技術分野で知られている。
【0041】
分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現
遺伝子発現プロファイルに基づいて病原体を同定するための、例示的手順のフローチャートを図1中に示す。対象の各病原体を同定するためのオリゴヌクレオチドプローブは、BLASTソフトウエアにより対象の病原体由来のコード配列と他の生物中の全遺伝子配列を比較することによって選択する。対象の病原体と完全に一致するが、任意の他の生物とは50%を超えて一致しない、約50ヌクレオチド、例えば80ヌクレオチド、70ヌクレオチド、60ヌクレオチド、40ヌクレオチド、30ヌクレオチド、および20ヌクレオチドのプローブのみを選択した。対象の各mRNAに相当し互いに100塩基対内である2つのプローブを選択する。
【0042】
2つの分子プローブを、mRNA分子を含有する粗製サンプル溶解物に加える。捕捉プローブは所与のmRNA分子と相補的な50ヌクレオチドを含み、ビオチンと結合させることが可能である。レポータープローブは同じmRNA分子の異なる部分と相補的な異なる50ヌクレオチドを含み、レポーター分子、例えば蛍光タグまたは量子ドットと結合させることが可能である。それぞれのレポーター分子は所与のmRNA分子を独自に同定する。捕捉プローブとレポータープローブは、溶解物内のそれらの対応するmRNA分子とハイブリダイズする。それぞれのオリゴマー上のハンドルとハイブリダイズするビーズ精製により過剰なレポーターを除去し、ハイブリダイズしたmRNA複合体のみ残す。mRNA複合体は、表面上、例えばストレプトアビジンコーティング表面上で捕捉し固定することができる。表面を顕微鏡画像処理する前に、電場を利用して、表面上で全て同じ方向に複合体を並べることができる。
【0043】
レポーター分子を計数して、mRNA分子の定量測定値を与えることができる。市販のnCounter(商標)Analysis System(NanoString、Seattle、WA)をその手順中で使用することができる。しかしながら、他のシステムをそのプロセス中で使用することができることは当業者によって理解される。例えば、バーコードではなく、量子ドットでプローブを標識することができる。例えば、Sapsford et al、「Biosensing with luminescent semiconductor quantum dots.」Sensors 6(8): 925-953 (2006);Stavis et al、「Single molecule studies of quantum dot conjugates in a submicrometer fluidic channel.」Lab on a Chip 5(3):337-343 (2005);およびLiang et al、「An oligonucleotide microarray for microRNA expression analysis based on labeling RNA with quantum dot and nanogold probe.」Nucleic Acids Research 33(2):e17(2005)を参照。
【0044】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体(例えば「ラボオンチップ」)デバイスを、サンプル中のmRNAを検出および定量化するために本発明の方法において使用することができる。このようなデバイスは、マイクロ流体フローサイトメトリー、連続的な大きさに基づく分離(continuous size-based separation)、およびクロマトグラフィーによる分離用に首尾よく使用されている。特に、このようなデバイスは、本明細書に記載するように粗製サンプル中の特定標的mRNAを検出するために使用することができる。様々なアプローチを使用して、特定mRNAのレベルの変化を検出することができる。したがって、このようなマイクロ流体チップ技術は、本明細書に記載する方法中で使用するための診断および予後用デバイスにおいて使用することができる。例えば、Stavis et al、Lab on a Chip5(3):337-343(2005);Hong et al、Nat.Biotechnol. 22(4):435-439(2004);Wang et al、Biosensors and Bioelectronics 22(5):582-588(2006);Carlo et al、Lab on a Chip3(4):287-291 (2003);Lion et al、Electrophoresis24 21 3533-3562 (2003); Fortier et al、Anal.Chem.,77(6):1631-1640(2005)、米国特許公開No.2009/0082552;および米国特許第7,611,834号を例えば参照。本明細書中には、結合成分、例えば本明細書に記載する病原体と特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む、マイクロ流体デバイスも含まれる。
【0045】
これらのマイクロ流体デバイスは、標識量子ドットおよび他のレポーター分子のレーザー励起を組み込むことができる。これらのデバイスは、可視光線を含めた様々な検出機構、および電荷結合デバイスベースカメラを含めた様々なデジタルイメージングセンサー法による、生じる発光の検出も組み込むことができる。これらのデバイスは、生成した加工されていないシグナルおよびデータを診断情報に変換する(translate)画像処理および分析能力も組み込むことができる。
【0046】
発現シグネチャーを使用する、病原体アイデンティティーおよび病原体薬剤耐性の迅速な、表現型による診断
この技術を利用して、病原体のアイデンティティーまたは薬剤耐性の迅速な決定を達成することができる。
【0047】
特有遺伝子の検出に基づいて、サンプル中の病原体を同定することができる。したがって例えば、肺炎または気管支炎などの呼吸器疾患関連の症状を有する被験体から、痰サンプルを得ることができ、どの疾患が存在しどの病原体がその疾患の原因であるかを決定するアッセイを実施する(例えば、表1参照)。尿サンプルを得て膀胱炎、腎盂腎炎、または前立腺炎を診断することができる(例えば、表1参照)。当業者は、患者によって示される症状の性質およびその差次的診断に応じて、特定の型のサンプルを得て、アッセイすることができることを理解している。それぞれの生物を同定するための具体的な遺伝子は本明細書に記載する方法により同定することができ、特定病原体を同定するための例示的な遺伝子は表2中に含まれる。
【0048】
大きく加速する耐性の試験に関する原則は、対象の特定薬剤への曝露時に病原体の薬剤感受性と耐性の菌株の間で生じる転写応答の差異の検出に基づく。これらの転写プロファイルは測定可能な薬剤曝露に対する初期表現型応答であり、それらは薬剤曝露による桿菌死のかなり前に検出することができる。この転写ベースのアプローチには、それが代用SNPではなく薬剤曝露に対する病原体の直接的な応答を測定する点で、遺伝子型ベースのアプローチに勝る異なる利点もある。
【0049】
いくつかの実施形態では、図2中に記載したように試験を実施することができる。サンプル、例えばTBを有する患者由来の痰サンプルを、いくつかのより小さなサブサンプルに分割する。異なるサブサンプルを、所定の時間(例えば、4時間未満、3時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、20分未満、10分未満、5分未満、2分未満、1分未満)、薬剤なしまたは異なる、既知もしくは潜在的薬剤(例えば、TBサンプルの場合、イソニアジド、リファンピン、エタンブトール、モキシフロキサシン、ストレプトマイシン)のいずれかに曝露し、その間に薬剤感受性菌株において発現プロファイルが誘導され、それを薬剤耐性菌株と区別する。次いでサブサンプル中のTBバチルス(bacilli)を溶解し、バーコード分子プローブをハイブリダイゼーション用に加え、固定および画像化後にサブサンプルを分析する。次いで転写データセットを分析して、TBの薬剤感受性および薬剤耐性の菌株に関する発現応答に基づいて一群の薬剤に対する耐性を決定する。したがって、TBおよび個々の抗生物質に対するその応答を独自に同定するための発現シグネチャーを決定することができ、生じたデジタル遺伝子発現に利用するためのプローブセット、およびサンプル処理および回収法を最適化することができる。
【0050】
発現シグネチャーの定義および転写シグナルの最適化の際に、考慮しなければならない2つの問題は、1.細胞が複製状態または非複製状態のいずれかであり得るので、現在定義されていない痰中のバチルス(bacilli)の代謝状態、および2.回収した痰中のTBバチルス(bacilli)が抗生物質に事前に曝されている(すなわち、患者が抗生物質を用いて経験的に既に治療されている)可能性である。
【0051】
いくつかの実施形態では、病原体を同定する方法および薬剤感受性を決定する方法は、同じマイクロアレイもしくはマイクロ流体デバイスにおいて、同時に、例えば同じサンプルで、または例えば、病原体のアイデンティティーを決定した後に、続けて実施し、薬剤感受性に適したアッセイを選択し実施する。
【0052】
本明細書に記載する方法において有用な遺伝子およびプローブの例示的なセットは、ここに提示する表2中に提供される。
【0053】
治療の方法
本明細書に記載する方法は、障害、例えば表1中に列挙する障害を治療するための方法を含むが、これに限定されない。一般に、これらの方法は、本明細書に記載する方法を使用して被験体からのサンプル中の病原体を同定すること、または、被験体中の病原体が感受性である1つの薬剤(または複数の薬剤)を同定すること、およびこのような治療を必要とする、またはこのような治療を必要とすると決定された被験体に、病原体を中和する治療用化合物を、治療有効量投与することを含む。この文脈で使用する「治療する(treat)」は、表1中に列挙する障害の1つと関係がある障害の少なくとも1つの症状を改善することを意味する。例えばこれらの方法は、咳、胸の痛み、熱、疲労、予期せぬ体重減少、食欲不振、悪寒および寝汗をもたらすことが多いTBの治療を含み、したがって、治療はこれらの症状の低減をもたらすことができる。他の疾患の臨床症状は当技術分野でよく知られている。
【0054】
「有効量」は、有益または望ましい結果を得るのに十分な量である。例えば治療量は、望ましい治療効果を達成する量である。この量は、疾患または疾患症状の発生を予防するのに必要な量である、予防有効量と同じであっても異なっていてもよい。有効量は、1回または複数回の投与(administeration)、適用(application)または投薬(dosage)で施すことができる。組成物の治療有効量は、選択する組成物に依存する。組成物は、2日に1回を含めて、1日当たり1回または複数回から1週間当たり1回または複数回で投与することができる。組成物は、1ヶ月当たり1回または複数回から1年当たり1回または複数回で投与することもできる。当業者は、疾患または障害の重度、事前の治療、被験体の一般的な健康状態および/または年齢、および存在する他の疾患を非制限的に含めたいくつかの要因が、被験体を効率よく治療するのに必要な用量およびタイミングに影響を与える可能性があることを理解している。さらに、本明細書に記載する治療有効量の組成物を用いた被験体の治療は、1回の治療または一連の治療を含むことができる。
【0055】
診断の方法
病原体を同定するおよび/またはその薬剤感受性を決定するための方法は本明細書に含まれる。方法は、被験体からサンプルを得ること、およびサンプル中の病原体の存在および/または薬剤感受性を評価すること、および1つまたは複数の参照、例えば非感染被験体または野生型病原体におけるレベルと存在および/または薬剤感受性を比較することを含む。mRNAの存在および/またはレベルは本明細書に記載する方法を使用して評価することができ、これらは当技術分野で知られており、例えば定量イムノアッセイ法を使用する。いくつかの実施形態では、当技術分野で知られているハイスループット法、例えば遺伝子チップ(例えばCh.12、Genomics、in Griffiths et al、Eds.Modern Genetic Analysis、1999、W.H.Freeman and Company; Ekins and Chu、Trends in Biotechnology、1999、17:217-218; MacBeath and Schreiber、Science2000、289(5485):1760-1763; Simpson、Proteins and Proteomics: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press; 2002; Hardiman、Microarrays Methods and Applications: Nuts & Bolts、DNA Press、2003を参照)を使用してmRNAの存在および/またはレベルを検出することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、サンプルは、生物体液または固形物、例えば、痰、血液、尿、大便、関節液、脳脊髄液、子宮頸部/膣スワブ、胆汁液、胸膜液、腹膜液、または心膜液、または例えば骨生検、肝生検、肺生検、脳生検、リンパ節生検、食道生検、結腸生検、胃生検、小腸生検、心筋生検、皮膚生検、および洞生検(sinus biopsy)由来の組織生検サンプルを含む。いくつかの実施形態では、人が病原体、例えば表1中に列挙する病原体を有すること、または薬剤耐性病原体を有することを決定した後、次いで治療、例えば当技術分野で知られているまたは本明細書に記載する治療を施すことができる。
【0057】
キット
本明細書に記載する遺伝子の領域とハイブリダイズするプローブを含むキットも本発明の範囲内であり、キットを使用して本明細書に記載する病原体を検出することができる。キットは、使用説明書、および他の試薬、例えば標識、またはプローブと標識を結合させるのに有用な作用物質を含めた、1つまたは複数の他のエレメントを含むことができる。使用説明書は、本明細書に記載する方法において治療に対する応答を予想するためのプローブの診断用途に関する説明書を含むことができる。他の説明書は、プローブと標識を結合させるための説明書、プローブを用いて分析を実施するための説明書、および/または被験体から分析するサンプルを得るための説明書を含むことができる。前に論じたように、キットは標識、例えばフルオロフォア、ビオチン、ジゴキシゲニン、および32Pおよび3Hなどの放射性同位体を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載する遺伝子の領域とハイブリダイズする標識プローブ、例えば本明細書に記載する標識プローブを含む。
【0058】
キットは、病原体と関係がある同じ遺伝子または別の遺伝子またはその一部分とハイブリダイズする、1つまたは複数のさらなるプローブも含むことができる。さらなるプローブを含むキットは、標識、例えばプローブ用の1つまたは複数の同じまたは異なる標識をさらに含むことができる。他の実施形態では、キットと共に供給されるさらなる1つまたは複数のプローブは、標識された1つまたは複数のプローブであってよい。キットが1つまたは複数のさらなるプローブをさらに含むとき、キットはその1つまたは複数のさらなるプローブの使用説明書をさらに提供することができる。
【0059】
自己試験で使用するためのキットも提供することができる。例えば、このような試験キットは、医療供給者の協力なしで、例えば痰、口腔細胞、または血液のサンプルを得るために被験体が使用することができる、デバイスおよび説明書を含むことができる。例えば、口腔細胞は、口腔スワブまたはブラシを使用して、または口内洗浄液を使用して得ることができる。
【0060】
本明細書で提供するキットは、例えば研究室に、分析用サンプルを返却するために使用することができる、郵便物、例えば料金別納封筒または郵便小包も含むことができる。キットは1つまたは複数のサンプル用容器を含むことができ、またはサンプルは標準的な血液回収バイアル中に存在してよい。キットは、1つまたは複数の承諾書、試験依頼書、および本明細書に記載する方法中でのキットの使用法に関する説明書も含むことができる。このようなキットを使用するための方法も本明細書に含まれる。1つまたは複数の文書、例えば試験依頼書、およびサンプルを保持する容器は、サンプルを提供した被験体を同定するために、例えばバーコードでコードすることができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、キットはサンプルを処理するための1つまたは複数の試薬を含むことができる。例えばキットは、サンプルからmRNAを単離するための試薬を含むことができる。キットは、mRNAまたはmRNAアンプリコンを検出可能に標識するための1つまたは複数の試薬も必要に応じては含有することができ、これらの試薬は、例えば、DNAポリメラーゼのクレノウ断片、T4ポリヌクレオチドキナーゼなどの酵素、1つまたは複数の検出可能に標識したdNTP、または検出可能に標識したγホスフェートATP(例えば33P−ATP)を含むことができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、キットは、例えば、マイクロアレイ分析または発現プロファイルの結果を分析するためのソフトウエアパッケージを含むことができる。
【0063】
本発明は以下の実施例中にさらに記載するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1:病原体の同定
大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)。大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、およびエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)における特有コード配列を同定し(表2)、これらを使用してこれらの生物を陽性同定した(図3〜6)。臨床分離株は、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。次いで5マイクロリットルのそれぞれの培養液を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファー(RLTバッファー、Qiagen)に加え、5秒間攪拌した。次いで4マイクロリットルのそれぞれの溶解調製物を、溶解物に関する製造者の標準プロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で使用した。同定に関する基準は、平均バックグラウンド(他の2個の生物に関する全生物同定用プローブに関する平均カウント)の少なくとも2倍を超える、(緑膿菌(P.aeruginosa)またはクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)用の)全5個または(大腸菌(E.coli)用の)6個の生物同定用プローブに関するカウントであった。複製間で比較するため、カウントはproCのカウントに標準化した。表2中に記載する生物同定用プローブを使用して、4個の大腸菌(E.coli)臨床分離株を、6個の大腸菌(E.coli)遺伝子(ftsQ、murC、opgG、putP、secA、およびuup)用に設計したプローブを使用して正確に同定した(図3)。2個の臨床分離株を、図4中に示すように5個の緑膿菌(P.aeruginosa)遺伝子(proA、sltB1、nadD、dacC、およびlipB)用に設計したプローブを使用して、緑膿菌(P.aeruginosa)として正確に同定した。図5中に示すように、5個のクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)遺伝子(lrp、ycbK、clpS、ihfB、およびmraW)用に設計したプローブは、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)臨床分離株を陽性同定した。3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(proC、rpoB、およびfabD)用に設計したプローブを使用して、4個の臨床分離株を陽性同定した(図6)。同定に関する分離基準(cut-off)は、rpoBおよびfabDに関するカウントが、平均バックグラウンド(大腸菌(E.coli)、緑膿菌(P.aeruginosa)、およびクレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)に関する全生物同定用プローブに関する平均カウント)の少なくとも2倍を超えるであることであった。
【0065】
平均して、それぞれの生物に関する4〜5配列を大きなプールに含めて、望ましいレベルの特異性を得た。この技術を使用して、これら3生物のそれぞれを、粗製溶解物を直接プローブ処理することによって、検出し、同定し、無菌培養および8個のさらなるグラム陰性病原体を含む複合混合物において区別した(図22Aおよび22B)。
【0066】
TB。Rv1641.1およびRv3583c.1に対するプローブは結核菌(M.tuberculosis)において多量の転写産物を検出し(参照8)、マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)、およびマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)においてオルソロガスな転写産物を検出し、したがってこれら3種のいずれかの検出に使用することができる。さらに、3個のTB遺伝子(Rv1980c.1、Rv1398c.1、およびRv2031c.1)に対するプローブを使用して結核菌(M.tuberculosis)を差次的に同定することができる、すなわちそれらは、マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)またはマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)は検出しない。MAP_2121c.1、MAV_3252.1、MAV_3239.1、およびMAV_1600.1に対するプローブを使用してマイコバクテリウム・アビウム(M.avium)またはマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)を検出することはできるが、結核菌(M.tuberculosis)は検出しない。したがって、Rv1980cおよびRv3853プローブを用いて最大感受性が得られ、一方Rv1980c.1、Rv1398c.1、およびRv2031c.1、およびMAP_2121c.1、MAV_3252.1、MAV_3239.1、およびMAV_1600.1に対するプローブは、結核菌(M.tuberculosis)感染とマイコバクテリウム・アビウム(M.avium)またはマイコバクテリウム・アビウム亜種ヨーネ菌(M.avium subsp.paratuberculosis)感染の間の区別を可能にする。
【0067】
マイコバクテリウム(mycobacterium)属全体で保存されている遺伝子および結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のみに特異的である遺伝子に対してプローブを設計した。pan−マイコバクテリウムプローブは多種を認識したが、一方で結核菌(M.tuberculosis)プローブは非常に特異的であった(図22C)。
【0068】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)
表2に記載する生物同定用プローブを使用して、3個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)分離株を、5個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)遺伝子(ileS、ppnK、pyrB、rocD、およびuvrC)用に設計したプローブを使用して正確に同定した(図30)。同様に、3個のステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)分離株を、6個のステノトロホモナス・マルトフィリア(S.maltophilia)遺伝子(clpP、dnaK、purC、purF、sdhA、およびsecD)用に設計したプローブを使用して正確に同定した(表2および図31)。
【0069】
実施例2:方法の感度
図7〜10中に示すように、本発明の方法は対象のそれぞれの病原体に特異的であり、臨床サンプル、例えば血液および尿中の100個未満の細胞を検出する感度がある。
【0070】
3病原体のそれぞれから単離したRNA(1ng)を24遺伝子プローブセットでプローブ処理した(図7)。大腸菌(E.coli)遺伝子、左側、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)遺伝子、中央、および緑膿菌(P.aeruginosa)遺伝子、右側。大腸菌(E.coli)RNA、上部。クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)中央、および緑膿菌(P.aeruginosa)、底部。y軸は、デジタル遺伝子発現技術を使用することによって検出した、それぞれの遺伝子に関するカウントの数を示す。それぞれの生物由来のRNAは、それぞれの病原体の容易な同定を可能にする異なる発現シグネチャーを示す。
【0071】
この24遺伝子プローブセットを使用して、10,000細胞、1000細胞、および100細胞由来の粗製大腸菌(E.coli)溶解物をプローブ処理した(図8)。異なる大腸菌(E.coli)の発現シグネチャーは、100細胞まで区別可能であった。
【0072】
臨床サンプルはスパイクした尿および血液サンプル(spiked urine and blood sample)でシミュレートした。スパイクした尿サンプルでは、尿サンプルは尿1mL当たり105の大腸菌(E.coli)細菌でスパイクした。サンプルは4℃で一晩冷蔵し、次いで粗製細菌サンプルを溶解し、大腸菌(E.coli)を同定するためにグラム陰性細菌に使用した24遺伝子プローブセットでプローブ処理した(図9A、上図、および9B)。血液は1000cfu/mlでスパイクし、これも24遺伝子プローブセットで検出した(図9A、下図)。
【0073】
(Brigham and Women’s臨床微生物学研究室から得た)緑膿菌(P.aeruginosa)の2個の臨床分離株を、グラム陰性細菌に使用した24遺伝子プローブセットでプローブ処理して、その遺伝子セットが同じ細菌属の別の臨床菌株を同定することができることを実証した(図10)。
【0074】
尿サンプル中の大腸菌(Escherichia coli)の直接同定。大腸菌(E.coli)菌株K12を、培養後期の対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。次いで細菌は、100,000cfu/mlの最終濃度まで健常ドナー由来の尿試料に加えた(OD600により推定)。次いで尿サンプルを0時間、4時間、24時間、もしくは48時間室温で放置し、または24時間4℃に置いた。1mlのスパイクした尿を1分間13,000×gで遠心分離した。上清を除去し、ペレットは100マイクロリットルのLB培地に再懸濁した。細菌はBacteria RNase Protect(Qiagen)で処理し、次いでイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファー(RLTバッファー、Qiagen)中で溶解した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。
【0075】
患者尿試料のアリコートを直接アッセイして尿路感染症における大腸菌(E.coli)転写産物を検出した(図22D)。生物の有無を評価する1つの測定基準に多数の転写産物からのシグナルを集めるために、それぞれのプローブからの加工していないカウントを対数変換し合計した。17の大腸菌(E.coli)臨床分離株のセットに適用すると、それぞれの分離株は13の非大腸菌(E.coli)サンプルのセットと容易に区別することができた(非大腸菌(E.coli)対照と比較してZスコア>6.5、図22E)。
【0076】
実施例3:病原体の薬剤感受性
大腸菌(Escherichia coli)におけるフルオロキノロンおよびアミノグリコシド耐性の確認(identification)。フルオロキノロンおよびアミノグリコシドへの曝露時の大腸菌(E.coli)に関する公開済みの発現アレイデータ(Sangurdekar DP、Srienc F、Khodursky AB.A classification based framework for quantitative description of large-scale microarray data.Genome Biol 2006;7(4):R32)を使用して、フルオロキノロンおよびアミノグリコシドへの曝露時に有意に下方または上方制御されると予想される遺伝子のセットを選択した。pan感受性実験室菌株(K12)、フルオロキノロン耐性臨床分離株1および2、およびゲンタマイシン耐性臨床分離株(E2729181およびEB894940)を、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。それぞれの培養物の2mlアリコートを得て、抗生物質を8μg/mlのシプロフロキサシンまたは128μg/mlのゲンタマイシンの最終濃度までこれらのアリコートに加えた。培養物は37℃で10分間インキュベートした。5マイクロリットルのそれぞれの培養物を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファーに加え、5秒間攪拌した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。カウントはproCのカウントに標準化し、ここでもproCは実験間で最も比較可能であるようであった。それぞれの遺伝子に関する誘導倍率は、抗生物質曝露の有無の下でのカウントを比較することによって決定した。2個の耐性臨床分離株とそれを区別する薬剤感受性K12菌株における誘導または抑制を示す、9プローブ(carA、deoC、flgF、htrL、recA、uvrA、ybhK、uup、およびfabD)からの明らかなシグナルが存在した(図11)。第10のプローブ、wbbKは誘導も抑制もされず、遺伝子と発現変化に関する有用な比較をもたらした。同様に、8遺伝子に対するプローブは、これらの遺伝子は、薬剤感受性K12菌株において、抑制状態(flgF、cysD、glnA、またはopgG)誘導状態(ftsQ、b1649、recA、dinD)のいずれかであり、2個の耐性臨床分離株とそれを区別することを示す(図12)。
【0077】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)におけるメチシリン耐性の確認。6個の黄色ブドウ球菌(S.aureus)臨床分離株を、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。次いでそれぞれの培養物の2mlアリコートを得て、クロキサシリンを25μg/mlの最終濃度まで加えた。培養物は37℃で30分間インキュベートした。5マイクロリットルのそれぞれの培養物を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファーに加え、5秒間攪拌した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。2個の別個のプローブを使用して(表2)、mecAの発現をメチシリン耐性であることが知られている4個の分離株において確認した。対照的に、メチシリン感受性であることが知られている2個の分離株において検出可能なmecA発現はなく、クロキサシリンの不在下では最小のmecA発現であった(図13)。
【0078】
エンテロコッカス(Enterococcus)におけるバンコマイシン耐性の確認。4個のエンテロコッカス(Enterococcus)臨床分離株を、対数期まで37℃においてLB培地中で増殖させた。2mlアリコートを得て、バンコマイシンを128μg/mlの最終濃度まで加えた。培養物は37℃で30分間インキュベートした。5マイクロリットルのそれぞれの培養物を100マイクロリットルのイソチオシアン酸グアニジン溶解バッファーに加え、5秒間攪拌した。製造者のプロトコールに従いnCounter(商標)Systemアッセイ中で溶解物を使用した。2個の別個のプローブを使用して(表2)、vanAの発現をバンコマイシン耐性であることが知られている2個の分離株において確認した。対照的に、バンコマイシン感受性であることが知られている2個の分離株において検出可能なvanA発現はなく、バンコマイシンの不在下では最小のvanA発現であった(図14)。4個の分離株のいずれにおいても検出可能なvanB発現はなかった。
【0079】
生物同定のための転写産物の検出以外に、可動性遺伝因子(mobile genetic element)にコードされる遺伝子の検出は、特定分離株に関する多くのゲノム詳細をもたらすことができる。例えば、スタフィロコッカス(Staphylococci)においてメチシリン耐性を与えるmecAmRNA、およびエンテロコッカス(Enterococci)においてバンコマイシン耐性を与えるvanAmRNAに関して、細菌分離株をプローブ処理した。いずれの場合も、MRSAおよびバンコマイシン耐性エンテロコッカス(Enterococcus)(VRE)の迅速な同定を可能にする関連転写産物を検出した(図22F)。したがって、RNAの直接検出は、知られている耐性因子の検出を可能にし得る。さらに、このアプローチは、食物媒介病原体における水平的遺伝子間交流によって得られる病原性因子、すなわち、腸管出血性(Enterohemorrhagic)または志賀毒素産生性(Shigatoxigenic)大腸菌(E.coli)における志賀毒素などの、他の遺伝因子による分離株の区別を可能にする。
【0080】
TBにおける薬剤耐性の確認。24遺伝子プローブセットを公開済みの遺伝子発現データから確認して、イソニアジド、リファンピン、ストレプトマイシン、およびフルオロキノロンを含めた異なる抗生物質への曝露時の薬剤感受性TBの発現変化を確認することができる発現シグネチャーを確認した(図15〜18)。薬剤曝露後の誘導または抑制の程度は表3中に示す。
【0081】
A6000.3における対数期の結核菌(M.tuberculosis)細胞を、4個の異なる薬剤(イソニアジド、0.4μg/ml;ストレプトマイシン、2μg/ml;オフロキサシン、5μg/ml;リファンピシン0.5μg/ml)の1つの存在下でインクウェル容器(10ml体積、平行培養)中で増殖させた。薬剤処理開始後の示した時間で(図15)、遠心分離(3000×g、5分間)により培養物を採取し、1mlのTrizol中に再懸濁し、ビーズで刺激した(100nmガラスビーズ、最高速度、2回の1分間パルス)。クロロホルム(0.2ml)をサンプルに加え、6000×gで5分間の遠心分離後、水相を分析用に回収した。
【0082】
サンプルは1:10に希釈し、製造者のプロトコールに従い表2中に記載するNanoString(商標)プローブセットを使用して分析した。それぞれの転写産物の相対量を3個のハウスキーピング遺伝子(sigA、rpoB、およびmpt64)の平均カウントに標準化することによって最初に計算し、次いでデータは、未処理対照由来のサンプルに対する倍率変化としてプロットする。ボックスは、薬剤特異的誘導の以前の痕跡に基づいて選択したプローブを示す(Boshoff et al、J Biol Chem.2004、279(38):40174-84.)。
【0083】
薬剤耐性TB菌株は、イソニアジドへの曝露時に発現シグネチャーの誘導を明らかに示す薬剤感受性菌株とは対照的に、イソニアジドへの曝露時に発現シグネチャー誘導を示さない(図16)。イソニアジド感受性と耐性のTB菌株を比較する3個のスキャッタープロットを図16中に示し、それぞれのドットは24遺伝子プローブの1つを表す。軸はデジタル遺伝子発現技術(NanoString(商標))によって測定した転写産物の数を表す。左−薬剤処理の不在下でのイソニアジド耐性菌株とイソニアジド感受性菌株における発現の比較。中央−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド感受性菌株(drug treated vs. drug untreated isoniazid sensitive strain)における発現の比較。右−薬剤処理と薬剤未処理のイソニアジド耐性菌株における発現の比較。
【0084】
異なる遺伝子のセットを、図17中に示すように薬剤に応じて、薬剤感受性結核菌(M.tuberculosis)において誘導する。薬剤感受性と薬剤耐性の結核菌(M.tuberculosis)の転写応答。(A)本明細書に記載するようにINH(0.4μg/ml)で処理した菌株A50(INH−R)。(B)SM−RクローンS10は2μg/mlのストレプトマイシンで処理した。差次的遺伝子誘導をTB24遺伝子プローブセットのデジタル遺伝子発現により測定して確かなシグネチャーを明らかにすることができ、薬剤感受性を確認することができる(図18)。
【0085】
3個のハウスキーピング遺伝子、mpt64、rpoB、およびsigAを標準化に使用した。それぞれの実験サンプル用に、実験遺伝子に関する加工していないカウントはこれら3個のハウスキーピング遺伝子の加工していないカウントの平均に標準化し、対照遺伝子に対する多量の試験遺伝子の指標を与えた。誘導または抑制は、非薬剤曝露サンプルと比較した、薬剤曝露サンプルにおけるこれらの標準化カウントの変化として定義する。この方法を使用して、以下の遺伝子は、イソニアジド、リファンピン、フルオロキノロン、およびストレプトマイシンへの曝露後に薬剤感受性TBにおいて誘導または抑制されることが分かった。
【0086】
イソニアジド:薬剤依存性誘導用:kasA、fadD32、accD6、efpA、およびRv3675.1。
リファンピン:薬剤依存性誘導用:bioD、hisI、era、およびRv2296。
フルオロキノロン:薬剤依存性誘導用:rpsR、alkA、recA、ltp1、およびlhr、薬剤依存性抑制用:kasAおよびaccD6。
ストレプトマイシン:薬剤依存性誘導用:CHP、bcpB、gcvB、およびgroEL。
【0087】
実施例4:デジタル遺伝子発現および分子バーコードを使用した、薬剤感受性および耐性のTBを同定するための表現型発現シグネチャーベースの試験
この実施例は、痰中のTBの診断および耐性プロファイルの迅速な決定のための、表現型発現シグネチャーベースの試験を記載する。この方法は、バーコード化対分子プローブ(barcoded, paired molecular probe)のプローブセットの作製によって、その発現プロファイルがTBを独自に検出して薬剤耐性と感受性の菌株を区別する遺伝子の検出に基づく。遺伝子の選択は、無菌培養(複製と非複製状態の両方)におけるTB、細胞培養マクロファージにおけるTB、および痰においてスパイクしたTBを含めた様々な増殖条件下でマイクロアレイを使用して得た発現プロファイルデータの、バイオインフォマティクスによる解析によって決定した。
【0088】
A.TBを同定するためのシグネチャーの定義
複製と非複製のTBの両方由来のmRNAと特異的にハイブリダイズする分子プローブセットを確認している。これらのプローブは、全増殖条件下に多量に存在し、全TB菌株中で保存されるmRNAに特異的である。16SrRNA(Amplicor、Roche)またはIS6110領域(Gen−probe)を認識するTBを確認するための特有DNA配列は以前に定義されているが、これらの定義された領域は、デジタル遺伝子発現におけるシグネチャーに必要とされる最適特性を有していない。16SrRNAは、その長さのため低レベルの遺伝的変異性に耐え得る50塩基オリゴマー遺伝子プローブを使用して、異なる種間で区別可能であったマイコバクテリア種間で十分分岐していない。ゲノムのIS6110領域は、全増殖条件下においてそれがTBを同定するための確かなシグナルとして使用することができるほど十分高いレベルでは発現されない。したがって、他のマイコバクテリア種由来のTBの同定を可能にする発現シグネチャーを記載する。
【0089】
i.保存型TB遺伝子に関するバイオインフォマティクスによる遺伝子解析。 他のマイコバクテリア種に優るTBの検出に特有の発現シグネチャーを定義している。一般に、シグネチャーに含めるのに最適な遺伝子は、1.感度を増大するために高い発現レベル(高いmRNAコピー数)を有すること、2.全TB菌株中で高度に保存されていること、および高度に保存された配列を有すること、ならびに3.全ての他のマイコバクテリア種よりTBゲノムに非常に特異的であることの基準を満たす。このような遺伝子は、全ての他の配列決定済みマイコバクテリア種(すなわち、マイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)、マイコバクテリウム・アビウム−イントラセルラーレ(M.avium-intracellulaire)、マイコバクテリウム・カンサシ(M.kansaii)、マイコバクテリウム・ホルツイツム(M.fortuitum)、マイコバクテリウム・アブセサス(M.abscessus))中に存在しない利用可能なTBゲノムにおける保存型遺伝子のバイオインフォマティクスによる解析を使用して同定した。Broad Instituteで配列決定された臨床分離株由来の40を超えるTBゲノムが分析のために利用可能である。
【0090】
ii.候補遺伝子のmRNAレベルの発現プロファイル分析。 痰中のTBバチルス(bacilli)を検出するための分子プローブの選択に関する第二の基準は、それらが非常に多量で安定状態のmRNAとハイブリダイズして最高感度をもたらすことである。このようなmRNAは、必須ハウスキーピング遺伝子に対応すると予想される。Broad InstituteおよびStanford University(tbdb.org)で作成されたデータベース中の既存の公に入手可能な発現データのバイオインフォマティクスによる解析と、複製許容可能(対数増殖)および炭素枯渇、静止期、および低酸素により誘導される非複製条件下での候補遺伝子の高レベルの発現を確認するための発現プロファイリングを使用したTB菌株H37Rvに関する実験発現プロファイルの組合せを使用して、遺伝子が選択されている。H37Rvに関する発現プロファイリング実験を、確立しているTBの炭素枯渇モデル(7H9/チロキサポール中で5週間枯渇)、静止期増殖、および嫌気的増殖に関するWayneモデル(密封チューブ中でゆっくり攪拌する培養)を使用して実施する。mRNAをcDNAに変換すること、および配列決定を使用してcDNA分子をカウントすることによって、Solexa/Illumina配列決定を使用して発現プロファイルを決定する。発現レベルを確認するためのこの定量法は、マイクロアレイデータよりデジタル遺伝子発現を使用して得られるレベルを反映する可能性が高く、Broad Institute Sequencing Platformで確立された方法である。レーン当たり75bpリードおよび1000万リードとして配列決定レーン当たり12サンプルを多重化することができる。
【0091】
iii.TBを同定するための発現シグネチャーのプローブ選択。 デジタル遺伝子発現技術は2個の50ヌクレオチドプローブと対象のmRNAのハイブリダイゼーションに基づくので、遺伝子中の2個の50塩基対領域は、非特異的ハイブリダイゼーションを最小にするためゲノム内に特異的であり、配列決定したTBゲノムから証明される最小多型を含有する(Ai)および(Aii)から同定する。プローブはバイオインフォマティクスにより選択して、5℃の融解温度範囲内、最小mRNA二次構造に適合させる。プローブは(多数の菌株、すなわちH37Rv、CDC1551、F11、Erdmanを含めた)複製および非複製TB、マイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)、マイコバクテリウム・アビウム−イントラセルラーレ(M.avium-intracellulaire)、マイコバクテリウム・カンサシ(M.kansaii)、およびマイコバクテリウム・ホルツイツム(M.fortuitum)から単離したmRNAに対して試験して、利用可能な技術を使用してプローブセット全体の特異性を確認した。プローブはこれら他のマイコバクテリア種用に選択することができ、これらによって痰由来のこれらの病原体の同定も可能にする。イントラセルラーレ・バチルス(intracellular bacilli)を同定する能力をマクロファージ感染モデルで試験して、宿主mRNAの存在下でTBmRNAを検出する能力を実証する。最後に、アッセイの感度を、試験サンプル中のTBバチルス(bacilli)(したがって細胞溶解物中に存在するmRNA)の数をタイトレーションする(titrating down)ことによって決定する。デジタル遺伝子発現を使用する全ての実験は、同じ遺伝子セットに対して定量RT−PCRを使用して確認する。セットの改良および精錬は反復式に行う。
【0092】
B.感受性TBと耐性TBを区別するためのシグネチャーの定義
薬剤感受性と耐性の菌株を区別するプロファイルを得ることができる、それぞれ個々のTB用薬剤への曝露時に特異的に誘導されるmRNAとハイブリダイズする分子プローブのセットが同定されている。イソニアジド、リファンピン、エタンブトール、ストレプトマイシン、およびモキシフロキサシンへの曝露に関するシグネチャーが決定されている。
【0093】
シグネチャーに含めるのに理想的な遺伝子に関する前述の特性(すなわち、TB菌株中で保存されていること、TBゲノムに特異的であること)に加えて、いくつか他の特性が薬剤耐性のシグネチャーに関する遺伝子選択において優先される。薬剤耐性は薬剤感受性と薬剤耐性の菌株における転写産物誘導間の差によって決定されるので、理想的な遺伝子候補は所与の薬剤への曝露時に薬剤感受性菌株において高度に誘導される。これらの遺伝子は、初期に早急に誘導されるのが理想的である。この時間期間は、かなりの程度で診断試験全体の迅速性を決定するからである。qRT−PCRを使用したデータに基づいて、わずか1〜2時間以内に薬剤曝露に対する転写応答を観察する(図19)。mRNA分子の半減期を考慮すると、遺伝子抑制ではなく遺伝子誘導の利用がより迅速で検出可能な応答をもたらす。
【0094】
イソニアジドおよびストレプトマイシンに関する記載した全ての実験に関して、野生型、完全薬剤感受性H37Rvと比較するために使用する単剤耐性菌株のセット(a set of singly resistant strain)を作製したBSL3設定で、TB菌株H37Rvを使用した。リファンピンが研究室における感染という予期せぬ事象における治療オプションであることを確実にするために、増殖にリシンおよびパントテン酸の添加を必要とするTBの栄養要求株(lysA、panC)においてリファンピン耐性変異体を作製する。
【0095】
最後に、任意または全ての抗生物質に対する一般的なストレス応答ではなく、それぞれの抗生物質に特有であるシグネチャーを同定している。この特異性の理論的根拠は、臨床設定で、多くの患者は異なる抗生物質で経験的に既に治療されており、したがっていくつかの一般的なストレス応答が、痰サンプル中のバチルス(bacilli)において既に活性化されている可能性があることである。しかしながら、試験および分析で薬剤特異的応答は保たれる。
【0096】
i.抗生物質に対する曝露に応答した発現プロファイリング。 薬剤感受性と耐性の菌株H37Rvにおける転写応答を区別する候補遺伝子を同定するための発現プロファイリングを実施する。痰中のバチルス(bacilli)の複製状態または転写活性は知られていないので、(5週間の炭素枯渇モデルによって誘導した)非複製状態のバチルス(bacilli)において追加的実験を実施する。薬剤曝露に次いで応答し得るいくらかの基底転写(basal transcription)を刺激するために、非複製状態のバチルス(bacilli)が富栄養培地(7H9/OADC)中での短時間(t1)の「増殖刺激」を必要とするかどうか決定する(図20)。薬剤感受性と耐性の菌株を区別するための確かなシグネチャーおよび最適薬剤濃度を得るための薬剤曝露に必要とされる最適時間期間(t2)も決定して、確かな、再現可能な応答を得る。これらの実験は、個々の抗生物質のそれぞれについて実施する。
【0097】
完全非複製状態は、痰中のバチルス(bacilli)が非複製状態、休眠状態である場合の、「最悪のシナリオ」(すなわち、必要とされ得る最長の時間)である。実際、患者の痰中のバチルス(bacilli)からの発現プロファイリングを調べた刊行物に基づくと、発現プロファイリングが痰中のバチルス(bacilli)から直接得られたとして、この時間は必要とされる場合は必ず非常に短い。(特に、この刊行物のデータを分析中にさらに取り込んで、痰中の細菌において考えられる遺伝子候補への最初の見通しをもたらす。)プロファイリング実験のマトリックス(a matrix of profiling experimants)を実施し、それぞれのt1に関して0、1、および2時間からリッチ7H9/OADC培地への曝露時間(t1)、およびそれぞれの抗生物質への曝露時間(t2)を変える。t1とt2のそれぞれのセットに関して、抗生物質濃度をそれぞれの抗生物質に関して、感受性と耐性のH37Rv菌株の両方に関して1×、3×、および5×最小阻害濃度(MIC)から変えて、最適パラメーターを決定する。発現プロファイリングを使用して、確かな、再現可能なプロファイルを生成するのに最適な条件を同定する。
【0098】
最適条件(t1およびt2)に基づいて、発現プロファイリングをこれらの条件下で薬剤感受性および耐性のH37Rv菌株において実施する。バイオインフォマティクスによる解析を実施して、誘導のレベルが薬剤耐性菌株と比較して薬剤感受性菌株において高い各薬剤に関して遺伝子を同定する(抑制のレベルが薬剤耐性菌株と比較して薬剤感受性菌株において高いリファンピン以外)。発現のレベルを薬剤感受性と薬剤耐性の菌株の間で比較し、定量RT−PCRによって確認する。
【0099】
ii.薬剤耐性を確認するための解析アルゴリズムの開発。 最適アルゴリズムを決定して、(標準MIC測定によって定義される)感受性と耐性の菌株を区別する遺伝子セットに関する発現率を分析する。この方法の長所の1つは大部分の例(すなわち、TB抗生物質に事前に曝露されていない例)に関するものであり、所与の抗生物質に曝露した菌株と曝露していない同じ菌株の間で遺伝子発現レベルの比較を行うことができる。定量RT−PCRを使用して、1.抗生物質への曝露なし、2.イソニアジドへの曝露、3.リファンピンへの曝露、4.エタンブトールへの曝露、5.ストレプトマイシンへの曝露、および6.モキシフロキサシンへの曝露を含む条件下でH37Rv由来のmRNAレベルを測定する。抗生物質への曝露後の所与の遺伝子からの発現のレベルは、定常状態のハウスキーピング遺伝子のセット(すなわち、ハウスキーピング遺伝子の転写を刺激する主なシグマ因子をコードするsigA、およびRNAポリメラーゼの合成サブユニットをコードするrpoB)からの発現のレベルに標準化し、抗生物質への曝露の不在下での同じ遺伝子の発現の同じ標準化レベルと比較する。標準感受性菌株と耐性対照菌株の比較も行う(図21)。理想としては、特定薬剤への曝露は、薬剤感受性菌株において高レベル、A>>B、一方で薬剤曝露に対して感受性がない薬剤耐性菌株に関して、A=Bの遺伝子発現を誘導する。(リファンピンの機構、すなわちA=C<<B=Dを考慮して、最も短い半減期を有するmRNAの遺伝子抑制を検出する、リファンピンに関しては例外である。)転写レベルの広いダイナミックレンジのため、C/Dの比が最大であり、したがって感受性と耐性の菌株の明白で確かな区別を可能にする遺伝子を選択する。さらに、他の抗生物質を用いて誘導される応答の重複がないように、それぞれ個々の抗生物質に関して、最適な、独自の遺伝子セットを選択している。
【0100】
iii.TBバチルス(bacilli)のシグネチャーに対する事前の抗生物質に対する曝露の影響の解析。 患者を抗生物質で事前に治療した場合においても耐性パターンを確認するための、これらのシグネチャーの有効性を測定するために、薬剤感受性および耐性のTBバチルス(bacilli)(複製、非複製、マクロファージ内)を、この試験の適用前にTB特有の設定で患者に施すことができる一般的な抗生物質である、アモキシシリン、セファロスポリン、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、およびエリスロマイシンに事前に曝す。現在のTB薬剤の異なる組合せへのTBバチルス(bacilli)の事前の曝露をさらに実施して、このような事前の曝露が、このような応答を検出する問題の転写応答能力にも干渉するかどうか決定する。独自のシグネチャーが保たれ、したがって耐性を決定する問題の能力は妨害されないはずである。対象の遺伝子のセットの遺伝子発現レベルは定量RT−PCRを使用して決定する。
【0101】
iv.耐性プロファイルを確認するための発現シグネチャーのプローブ選択。
Sub−aim Biにおいて得たデータに基づいて、抗生物質への曝露に対する転写応答に関するシグネチャーをもたらす候補遺伝子のセットを選択する。TBゲノム中で高度に保存された領域内の、それぞれの遺伝子に関する2個の50塩基対領域を選択する。プローブはバイオインフォマティクスにより選択して、5℃の融解温度範囲内、最小mRNA二次構造に適合させる。これらのプローブを使用して、最初に複製または非複製状態である無菌培養中のバチルス(bacilli)、本発明者らが現在研究室に有する細胞培養マクロファージ感染モデル中のイントラセルラーレ・バチルス(intracellular bacilli)、および異なる抗生物質の組合せに事前に曝した細菌を含む、前に記載した条件下で利用可能な技術を使用して、薬剤感受性と耐性の菌株を比較する。全ての結果は、定量RT−PCRによって得たデータと比較する。セットの改良および精錬は反復式に行う。
【0102】
C.分子バーコードを用いたデジタル遺伝子発現用のサンプル処理の最適化。
発現シグネチャーを確認するためのプローブセットの定義に加えて、第二の大きな課題は、サンプルの処理を最適化して、サンプル内に存在するバチルス(bacilli)からのデジタル遺伝子発現を測定することである。TB症例の大部分は肺が発端であり、処理するサンプルの大部分は患者の痰であるので、感染TBバチルス(bacilli)からmRNA測定値を得るための痰サンプルの処理を最適化する。(抗生物質で治療されていない)健常な、非感染患者から回収した痰を、複製または非複製(炭素枯渇)状態のいずれかであるTBバチルス(bacilli)でスパイクした、スパイク痰モデルを使用する。対処すべき問題としては、様々な粘性の痰の処理、痰サンプル内のTBバチルス(bacilli)の効率よい溶解が挙げられる。デジタル遺伝子発現の主な利点の1つは、粗製細胞溶解物、固定組織サンプル、全血および尿中の細胞、ダニ(tick)の粗製溶解物由来の細胞、および400mMのイソチオシアン酸グアニジン(GITC)、ポリアクリルアミド、およびトリゾールを含有するサンプルを含めた非常に粗製状態のサンプルにおいて、mRNAがそのそれぞれのプローブとハイブリダイズする能力である。したがって一次適用は、痰内の細菌の溶解後に精製ステップが必要とされないことを示唆する。全血、尿、または固定組織サンプルからの精製は必要とされていないからである。唯一の要件は、プローブとmRNAの間の接触を可能にする十分な混合である。
【0103】
これらの実験用に、非感染状態の痰をBrigham and Women’s Hospital(BWH)の試料バンクから得る。試料バンクは、BWH病理部のLyn Bry、MD、PhDにより管理されるIRB制御機関である。廃棄用の痰は、研究室内で全ての処理が終了した後に得る(一般に回収の12〜24時間以内)。事前の48時間以内にいかなる抗生物質も与えていない被験体のみから、痰を回収する。全てのサンプルが確認されるわけではないので、保護された健康情報は得られない。試料研究室の現在の負担に基づいて、必要な量の痰(25〜50mL)を数週間以内に得る。
【0104】
i.痰の処理。 痰サンプルは細菌量、コンシステンシー、および粘性が様々である。いくつかのアプローチを試験して、細菌が培地条件で殺菌レベルの抗生物質と接触する迅速性、およびハイブリダイゼーション用のオリゴマープローブへの曝露を最大にする。無処理、注射針を介した痰の移動、リゾチームおよび/またはDNase、嚢胞性線維症患者由来の痰を処理するために標準的に使用されるSputalysin(Calbiochem;0.1%DTT)を用いた処理、またはある最小変性剤(すなわちGITC)へのサンプルの単純な希釈を含めた、痰を処理するいくつかの方法を使用する。痰はH37Rvでスパイクし、その粘性を変えるための様々な方法によって処理し、それらを実施して任意のこれらの方法がこの技術に干渉するかどうか決定する。
【0105】
ii.TBバチルス(bacilli)でスパイクした痰中の細菌溶解。 細菌細胞を効率よく溶解するため、転写および酵素ベースのmRNA分解を抑制するため、およびmRNAをプローブにアクセス可能にするための、いくつかのアプローチをアッセイ中で使用する。痰中の細菌の転写応答を調べた以前の試験は、サンプルにGTCまたは類似の試薬を最初に加えて転写応答を抑制した。次いで遠心分離を使用して、GTC処理後に痰サンプル由来の細菌を濃縮することができる。マイコバクテリア(mycobacteria)の溶解は一般に、物理的手段、すなわち0.1mlのガラスまたはジルコニウムビーズを用いた均質化によって実施する。このような物理的手段を利用して処理した痰内の細菌を破壊し、TBバチルス(bacilli)検出用に1Aから設計したプローブセットを使用して、非感染ヒト痰にスパイクしたバチルス(bacilli)を分析する。
【0106】
他の方法を、ファージ溶解を含めた、現場ベースの考慮事項により影響を受ける可能性がある溶解に使用する。ファージ、またはより最適には、精製ファージリシン(1つまたは複数)の添加によって、細菌溶解のための、低コストの、単純で、かつ非電気的な選択肢をもたらすことができる。Fischetti研究室(Rockefeller University)は、ペプチドグリカンを酵素的に加水分解し浸透圧溶解をもたらす精製バクテリオファージリシンを使用した、いくつかのグラム陽性種の迅速で完全な溶解を近年実証している。Hatfull研究室(University of Pittsburgh)は、数種の溶解性マイコバクテリオファージ由来のLysA酵素の活性を特徴付けるため、およびその性能を最適化するために現在作業している。精製リシンの不在下で、調査を実施して、高MOI感染のTBおよびD29などの溶解性バクテリオファージが痰中のTBを効率よく溶解することができるかどうかを決定する。どのようにしてこの手法が細菌の転写プロファイルに影響を与えるかは、現在明らかではない。それはおそらく、ファージの結合、進入、および二次溶解性を妨害し得る変性剤の不在下で起こる必要があるからである。マイコバクテリオファージTM4は、ペプチドグリカンヒドロラーゼ活性を有する構造タンパク質Tmpをさらに発現し、このためそれを高MOIでの細胞溶解の迅速な手段として使用することができる。溶解後、内因性RNAse活性を不活性化するGITC、RNAlater、または他の試薬でmRNAを安定状態にする。
【0107】
実施例5:
細菌および真菌培養: 大腸菌(E.coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、緑膿菌(P.aeruginosa)、プロビデンシア・スチュアリティ(Providencia stuartii)、プロテウス・ミラビリス(P.mirabilis)、霊菌(S.marcescens)、エンテロバクター・アエロゲネス(E.aerogenes)、エンテロバクター・クロアカエ(E.cloacae)、モルガネラ・モルガニー(M.morganii)、クレブシエラ・オキシトカ(K.oxytoca)、カンジダ・フロインディ(C.freundii)、またはカンジダ・アルビカンス(C.albicans)を、Luria−Bertani培地(LB)中で約1のOD600まで増殖させた。混合実験用に、OD600によって決定した等数の細菌をNanoString(商標)分析用に溶解前に組み合わせた。マイコバクテリウム(Mycobacterium)分離株は、以下に記載するように採取または抗生物質への曝露まで、Middlebrook7H9培地中で対数増殖中期まで増殖させた。
【0108】
耐性実験室細菌菌株の誘導: 大腸菌(E.coli)実験室菌株J53および定義済みgyrAフルオロキノロン耐性染色体変異体(gyrA1−G81D;gyrA2−S83L)を、Hooper lab、Massachusetts General Hospital、Boston、MAから得た。プラズマ媒介性キノロン耐性決定基(oqxAB、qnrB、aac6−Ib)は、これらのプラスミドを含有することが以前に決定された臨床分離株から精製した。大腸菌(E.coli)親菌株J53をこれらのプラスミドで形質転換し、それらの存在はPCRによって確認した。
【0109】
ウイルスおよびプラスモジウム(plasmodium)感染: HeLa細胞(1×106)、293T細胞(2×105)、およびヒト末梢血単球(5×105)を、示したMOIで、それぞれHSV−1菌株KOSおよびHSV−1菌株186Syn+、インフルエンザA PR8、またはHIV−1NL−ADAに感染させた。主要赤血球細胞(5×109)は、それらが示したレベルの寄生虫血症に達するまで、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)菌株3D7に感染させた。示した時間で、細胞はPBSで1回洗浄し採取した。
【0110】
抗生物質への曝露: 大腸菌(E.coli)または緑膿菌(P.aeruginosa)の培養物をLB中で約1のOD600まで増殖させた。次いで培養物を2つのサンプルに分け、その1つは抗生物質で処理した(大腸菌(E.coli)、10分間:シプロフロキサシン4〜8μg/mlまたは300ng/ml、ゲンタマイシン64または128μg/ml、またはアンピシリン500μg/ml;緑膿菌(P.aeruginosa)、30分間:シプロフロキサシン16μg/ml)。処理部分と未処理部分の両方を200rpmで攪拌しながら37℃に維持し、黄色ブドウ球菌(S.aureus)またはエンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)の培養物をLB中で約1のOD600まで増殖させた。次いで培養物は、30分間それぞれクロキサシリン(25μg/mL)またはバンコマイシン(128μg/mL)に曝した。
【0111】
結核菌(M.tuberculosis)の培養物を対数増殖中期まで増殖させ、次いで0.2のOD600に標準化した。2mlのそれぞれの培養物を、無抗生物質または以下の(最終濃度の):イソニアジド0.2〜1.0μg/ml;ストレプトマイシン5μg/ml、リファンピシン0.5μg/ml、またはシプロフロキサシン5μg/mlの1つのいずれかで処理した。プレートは密封し、攪拌せずに3または6時間インキュベートした。次いで溶解物を作製し、表6中に列挙するプローブを使用して、前に記載したように分析した。
【0112】
サンプル処理: グラム陰性分離株に関して、5〜10μlの培養物を100μlのRLTバッファーに直接加えて攪拌した。臨床試料に関して、大腸菌(E.coli)菌尿路感染症を有することが臨床研究室によって決定された患者由来の20μlの尿は、100μlのRLTバッファーに直接加えた。マイコバクテリア(mycobacteria)に関して、1.5mlの培養物を遠心分離し、次いでビーズ刺激による機械的破壊有りまたは無しでTrizol(Gibco)中に再懸濁し、初期水相を分析用に回収した。ウイルスおよび寄生虫のRNAを、Trizolおよびクロロホルムを使用して同様に調製した。全ての溶解物に関して、標準的なNanoString(商標)プロトコールに従い3〜5μlをハイブリダイゼーションにおいて直接使用した。加工していないカウントをサンプル用の全プローブの平均に標準化し、それぞれの遺伝子に関する誘導倍率は抗生物質処理サンプルと未処理サンプルを比較することにより決定した。
【0113】
生物同定用プローブの選択: 生物の差次的検出用のNanoString(商標)プローブを選択するため、関連生物の全ての公に入手可能な配列決定ゲノムを比較した。その種の全ての配列決定ゲノムに関するCDS長の少なくとも70%にわたり少なくとも50%の同一性を有するコード配列(CDS)を選択することによって、各種内で保存された遺伝子を同定した。CDSは重複50量体に破壊し、試験中に種内で完全に保存され任意の多種中のCDSと50%を超えない同一性を有する50量体のみを保持した。遺伝子発現オムニバスにおいて入手可能な公開済みの発現データを概観し、大部分の条件下で十分な発現がある遺伝子を選択した。特有の結核菌(M.tuberculosis)プローブを同定するために、公開済みのマイクロアレイデータを使用して、2クラス:結核菌(M.tuberculosis)複合体に特有な遺伝子(BLASTNを使用した非冗長データベースにおいて任意の他の遺伝子と70%を超える同一性、全ての入手可能な結核菌(M.tuberculosis)およびマイコバクテリウム・ボビス(M.bovis)ゲノム中で保存されている)、および結核菌(M.tuberculosis)、マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)、およびヨーネ菌(M.paratuberculosis)を含めた臨床上関連があるマイコバクテリア(mycobacteria)のセット中で85%を超える同一性を有する遺伝子の1つの範疇に入る高度に発現された遺伝子を同定した。カンジダ・アルビカンス(C.albicans)用プローブを、そのプローブセット中に含まれた10のさらなる病原体生物の完全ゲノムと比較して特有な、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)ゲノムの50量体セグメントに対して設計した。ウイルス用プローブは、同じファミリー内のウイルス間(すなわち、HSV−1とHSV−2の間)で低度に保存されたウイルス(すなわち、全てのHSV−2またはHIV−1分離株)内で高度に保存された遺伝子に対して設計した。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)用プローブは、寄生虫の生活環の血液段階(blood stage)のそれぞれで多量に発現された遺伝子に対して設計した。全てのプローブをスクリーニングしてヒトRNAとのクロスハイブリダイゼーションを回避した。
【0114】
プローブセット: グラム陰性生物の同定用に、大腸菌(E.coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(K.pneumoniae)、および緑膿菌(P.aeruginosa)用プローブを含有するプールしたプローブセットを使用した。マイコバクテリウム(mycobacterial)生物の同定用に、特に結核菌(M.tuberculosis)種特異的プローブおよびより広範囲のマイコバクテリウム(mycobacterial)属用プローブが、微生物病原体に対するより広範囲のプローブセットであった。
【0115】
応答の有無を測定するために、様々な抗菌剤への曝露時に差次的に制御される遺伝子用にプローブを設計した(Sangurdekar et al、Genome Biology 7、R32(2006); Anderson et al、Infect.Immun.76、1423-1433、(2008); Brazas and Hancock、Antimicrob.Agents Chemother.49、3222-3227、(2005))。シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、またはアンピシリンに野生型大腸菌(E.coli)K−12を10〜30分間曝した後、それぞれの抗生物質に関する薬剤感受性発現シグネチャーを同時に定義する転写レベルの予想された変化を観察した(図23Aおよび23B、表7)。これらのシグネチャーは対応する耐性菌株では誘導されなかった(図23Aおよび23B)。
【0116】
表現型試験の確立した方法は数週間〜数ヶ月を要するので、迅速な表現型による薬剤感受性試験は、結核において特に顕著な影響を与える可能性がある(Minion et al、Lancet Infect Dis 10、688-698、(2010))。抗結核薬イソニアジド、シプロフロキサシン、およびストレプトマイシンに応答した発現シグネチャーによって、3〜6時間の抗生物質への曝露後に感受性と耐性の分離株を区別することができた(図23C)。転写プロファイルにおけるいくつかの遺伝子は機構特異的である(すなわち、シプロフロキサシンに関してrecA、alkA、およびlhr、ストレプトマイシンに関してgroEL、およびイソニアジドに関してkasAおよびaccD6)。他の遺伝子、特にミコール酸合成または中間代謝と関係がある遺伝子は、多数の抗生物質に応答して下方制御され、増殖から損傷修復へのシフトを示す。
【0117】
これらの複合応答を、感受性と耐性の菌株を区別するための、1つの定量的測定基準にまとめるために、各実験サンプルから、対照抗生物質感受性サンプルの中心からの発現応答の平均二乗距離(MSD)の測定基準を利用した。抗生物質感受性菌株は密集し、したがって小さいMSDを有する。逆に抗生物質耐性菌株は、より大きな値、平均的感受性菌株と同様の形式で抗生物質に応答しなかった多数の遺伝子の結果を有する。MSDは、標準偏差、大腸菌(E.coli)(図24A、24B、27、および28)または結核菌(M.tuberculosis)(図24Cおよび29)の感受性分離株の平均範囲内のサンプルの数を示す、点の(dimensionless)Zスコアとして報告される。
【0118】
発現プロファイルは遺伝子型ではなく表現型を反映するので、様々な機構によって媒介される耐性は、1つの統合された発現シグネチャーを使用して測定することができる。シプロフロキサシン感受性大腸菌(E.coli)菌株J53の転写応答は、異なる耐性機構を有する一連の同質遺伝子変異体、フルオロキノロン標的遺伝子トポイソメラーゼgyrAに一種の変異(G81DまたはS83L)を有する2つ、およびaac(6’)−Ib(アセチル化、不活性酵素)、qnrB(gyrAの活性部位を遮断する)、およびoqxAB(排出ポンプ)を含むエピソームキノロン耐性遺伝子を有する3つと比較した。親菌株と比較して、全てのJ53誘導体は、耐性を示す大きなZスコアを有していた(図24B)。
【0119】
イソニアジドに対する応答を、一連の感受性臨床および実験室分離株、およびkatG(S315T)、プロドラッグ活性化に必要なカタラーゼに変異を有するH37Rv由来実験室菌株、およびinhA(C−15T)、イソニアジドの標的のプロモーターに変異を有する臨床分離株を含む、2個のイソニアジド耐性菌株において比較した。それらの異なる耐性機構のため、これら2個の菌株はイソニアジドに対して異なるレベルの耐性を有し、katG変異体は高レベルの耐性(6.4μg/mLを超えるまで最小阻害濃度(MIC)の100倍を超える増大)を有し、一方inhAプロモーター変異は0.4μg/mLまでわずか8倍のMICの増大をもたらす。低いイソニアジド濃度(0.2μg/mL)への曝露はいずれの耐性菌株においても転写応答を誘導することができなかったが、高いイソニアジド濃度(1μg/mL)では、katG変異体と対照的に、inhA変異体は感受性がある形式で応答する(図24C)。したがって、この方法は機構独立性であるだけでなく、高レベルと低レベルの耐性を区別するための比較測定値も与えることができる。
【0120】
最後に、細菌、ウイルス、真菌から寄生虫の範囲の病原体においてRNAはほぼユニバーサルなので、広範囲の感染因子にわたり適用可能である1つの診断プラットフォームにRNA検出を組み込むことができる。大きな混合型病原体用プローブのプールを使用して、本発明者らは、真菌病原体カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(図25A);用量依存式に細胞培養中にヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus)(HIV)、インフルエンザウイルス(influenza virus)および単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus-2)(HSV−2)(図25B〜D);および感染赤血球における熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)生活環の異なる段階(図25E)を同定するためのシグナルを直接かつ特異的に検出することができた。
【0121】
薬剤感受性に関する距離の測定基準である平均二乗距離のNanoString(商標)によるデータの分析および計算: 全ての薬剤処理サンプルに関して、それぞれのプローブに関する加工していないNanoString(商標)カウントを、それぞれのサンプル用の全ての関連(すなわち、種に適した)プローブの平均に最初に標準化した。転写レベルの変化倍率は、抗生物質処理サンプル中のそれぞれのプローブに関する標準化カウントと、それぞれの試験条件に関する未処理ベースラインサンプル中の対応するカウントを比較することによって決定した。
【0122】
定性発現シグネチャーを感受性または耐性のバイナリ形式の結果に変換するために、同じ薬剤に曝した感受性菌株のそれからのサンプルの転写プロファイルの平均二乗距離(MSD)を計算するためのアルゴリズムを開発した。薬剤感受性実験におけるMSD測定基準は以下のように計算した:
1.サンプル量の変動を、加工していない値(raw value)をサンプル中の全ての関連プローブについてのカウントの平均数に標準することによって補正する。
2.本発明者らがPjと示す一群のNanoString(商標)プローブを選択する。下付き文字jは1から、選択したプローブの合計数Nprobesの範囲である。この分析は薬剤感受性分離株と薬剤耐性分離株の間で差次的に変化したプローブに限られる。
3.薬剤感受性菌株の複製はNsampとして定義する。それぞれの複製に関して、薬剤処理前後のそれぞれのプローブPjに関する標準化カウントは
【数1】
または
【数2】
で示し、iはサンプルインデックスを表す。
4.「対数誘導比」を次に算定する:
【数3】
このように比を対数変換することによって、いずれか1つのプローブが計算したMSDを占めるのを妨げる。
5.薬剤感受性サンプルの平均誘導比、
【数4】
は、異なる生物学的複製を合計してサンプルの数を標準化することによって計算する:
【数5】
6.MSDを、(インデックスiの)薬剤感受性菌株の複製それぞれに関して次いで計算する、これは全ての薬剤感受性サンプルの平均挙動からサンプルがどの程度異なるかを反映する数である:
【数6】
7.耐性菌株に関する誘導比、
【数7−1】
は感受性菌株のそれと同様に計算する:
【数7−2】
8.薬剤耐性菌株に関するMSDを、薬剤感受性集団の中心と比較して計算する:
【数8】
【0123】
大部分の感受性菌株は平均的感受性菌株と同様に挙動するので、
【数9】
の典型的な値は、耐性菌株に関する典型的な値
【数10】
と比較して小さい。
【0124】
最後に、測定したMSD値の統計的有意性を割り当てた。
【数11】
の値は平均からの偶発偏差数(random deviation)の合計であるので、それらは正規分布、中心極限定理の結果と非常に似ている。したがって、薬剤感受性集団に対する所与のサンプルからの標準偏差数を反映するzスコアをそれぞれのサンプルに関して算定した:
【数12】
ここで、標準偏差および平均は以下のように定義する:
【数13】
【0125】
この測定基準を、異なる抗生物質に対して試験した多数の研究室および臨床分離株の分析に適用し、そのデータは図24、27、28および29中に示す。
【0126】
生物同定のための距離測定基準の計算: 多数のプローブからの情報をバイナリ形式の結果に変換するために、それぞれのプローブに関する加工していないカウントを対数変換した。このように比を対数変換することによって、いずれか1つのプローブが分析を占めるのを妨げる。次いでこれらの対数変換カウントを技術反復間で平均する。
【0127】
Pjと示される一群のNanoString(商標)プローブを記載したように選択する。下付き文字jは1から、選択したプローブの合計数Nprobesの範囲である。
【数14−1】
【0128】
生物同定は擬似または異なる生物と比較して転写産物を検出する能力に依存するので、対象の生物なしで調製したサンプル中のバックグラウンドレベルのNanoString(商標)カウントをしたがって使用して対照中心を定義した。これらの対照サンプルの中心
【数14−2】
は、異なる生物学的複製を合計してサンプルの数を標準化することによって計算する:
【数15】
【0129】
MSDを、(インデックスiの)実験サンプルの平均技術反復に関して次いで計算する、これは全ての対照サンプルの平均挙動からサンプルがどの程度異なるかを反映する数である:
【数16】
【0130】
最後に、測定したMSD値の統計的有意性を割り当てた。
【数17】
の値は平均からの偶発偏差数の合計であるので、それらは正規分布、中心極限定理の結果と非常に似ている。したがって本発明者らは、対照集団に対する所与のサンプルからの標準偏差数を反映するzスコアをそれぞれのサンプルに関して算定した:
【数18】
ここで、標準偏差および平均は以下のように定義する:
【数19】
【0131】
この測定基準を、図26および表4中に示す関連細菌種に関して試験した多数の研究室分離株および臨床分離株の分析に適用した。その生物に関してMSDが2を超えた場合に、特定生物として菌株を同定した。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
本明細書に記載するRNA発現シグネチャーの直接測定は、培養中および患者試料に直接由来する一定範囲の病原体の迅速な同定をもたらすことができる。特に、抗生物質への曝露に対する表現型による応答によって感受性菌株と耐性菌株を区別することができ、したがって共通応答に様々な耐性機構を組み込む非常に早期の迅速な感受性の決定をもたらすことができる。この原理は、病原体RNAが広範囲の臨床設定および感染性疾患に適用可能である一診断プラットフォームの基盤を形成するパラダイムシフトとなり、病原体の同定および迅速な表現型による抗微生物感受性試験を同時にもたらす。
【0137】
参考文献
【表5】
【0138】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と共に記載されているが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の範囲を制限するわけでなく、それを例示することを目的とすることは理解されよう。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲内にある。
【0139】
【表6】
【0140】
【表7】
【0141】
【表8】
【0142】
【表9−1】
【表9−2】
【表9−3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原体の薬剤感受性を決定する方法であって、
病原体を含むサンプルを提供するステップ;
サンプルと1つまたは複数の試験化合物を接触させて試験サンプルを提供するステップ;
病原体から試験サンプル中にメッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが、耐性がある生物と比較して試験化合物に感受性がある生物中で差次的に発現される標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こる、ステップ;
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ;および
試験化合物の存在下で標的mRNAのレベルと参照レベルを比較するステップであって、標的mRNAの参照レベルと比較した標的mRNAのレベルの違いが、病原体が試験化合物に対して感受性であるか、または耐性であるかを示すステップ
を含む、方法。
【請求項2】
試験化合物が病原体に対する既知の治療または潜在的な治療である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
方法が、サンプルを2つ以上の試験化合物と接触させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サンプルを4時間未満1つまたは複数の試験化合物と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
感染性疾患の病原体を同定する方法であって、
病原体に感染している疑いがある被験体から試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、
参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す、方法。
【請求項6】
試験サンプルが、痰、血液、尿、大便、関節液、脳脊髄液、および子宮頸部/膣スワブからなる群から選択される、請求項1または5に記載の方法。
【請求項7】
試験サンプルが複数の異なる感染性疾患の病原体または非病原性生物を含む、請求項1または5に記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の核酸プローブが表2から選択される、請求項1または5に記載の方法。
【請求項9】
病原体が細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項10】
病原体が結核菌(Mycobacterium tuberculosis)である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項11】
プローブとの接触前にmRNAが粗製状態である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項12】
方法が、mRNAを増殖するステップを含まない、請求項1または5に記載の方法。
【請求項13】
方法が、酵素的、化学的、または機械的に細胞を溶解するステップを含む、請求項1または5に記載の方法。
【請求項14】
方法が、マイクロ流体デバイスの使用を含む、請求項1または5に記載の方法。
【請求項15】
方法が、病原体感染をモニタリングするために使用される、請求項1または5に記載の方法。
【請求項16】
病原体が被験体からのサンプル中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
被験体がヒトである、請求項5または16に記載の方法。
【請求項18】
被験体用の治療を決定または選択するステップ、および、必要に応じて、被験体に治療を施すステップをさらに含む、請求項5または16に記載の方法。
【請求項19】
被験体用の治療を選択する方法であって、
病原体に感染している疑いがある被験体から試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNA間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す方法において、必要に応じて、被験体からのサンプル中の病原体を同定するステップと、
請求項1に記載の方法を使用して病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
病原体が感受性のある薬剤を、被験体を治療する際に使用するために選択するステップと
を含む、方法。
【請求項20】
被験体における病原体による感染をモニタリングするための方法であって、
第一の時点に、病原体を含む第一のサンプルを得るステップ;
請求項1に記載の方法を使用して第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップ;
必要に応じて、病原体が感受性のある治療を選択するステップ、および、選択した治療を被験体に施すステップ;
第二の時点に、病原体を含む第二のサンプルを得るステップ;
請求項1に記載の方法を使用して第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップ;および
第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性と第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を比較し、それによって被験体における感染をモニタリングするステップ
を含む、方法。
【請求項21】
被験体が免疫無防備状態である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
方法が、病原体が感受性のある治療を選択するステップ、および、選択した治療を被験体に施すステップ、ならびに、請求項1に記載の方法を使用して選択した治療に対する、第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップを含み、病原体の薬剤感受性の変化が、病原体が治療に耐性があるか、または治療に耐性がある状態になりつつあるかを示す、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
病原体の薬剤感受性の変化が、病原体が治療に耐性があるまたは治療に耐性がある状態になりつつあることを示し、前記方法が、被験体に異なる治療を施すステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
被験体の集団内における病原体による感染をモニタリングする方法であって、
第一の時点に、集団内の被験体から第一の複数のサンプルを得るステップと、
病原体に感染している疑いがある被験体から試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、ここで、参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す方法において、請求項1に記載の方法を使用して第一の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定するステップ、および、必要に応じて、第一の複数のサンプルにおける感染性疾患の病原体を同定するステップと、
必要に応じて、被験体に治療を施すステップと、
第二の時点に、集団内の被験体から第二の複数のサンプルを得るステップと、
病原体に感染している疑いがある被験体からの試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、ここで、参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す方法において、請求項1に記載の方法を使用して第二の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定するステップ、および、必要に応じて、第一の複数のサンプル中の感染性疾患の病原体を同定するステップと、
第一の複数のサンプルおよび第二の複数のサンプルにおける、病原体の薬剤感受性および必要に応じて病原体のアイデンティティーを比較し、それによって被験体の集団内の感染をモニタリングするステップと
を含む方法。
【請求項25】
固形支持体と結合した複数のポリヌクレオチドであって、少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み、それぞれのポリヌクレオチドが表2から選択される1つまたは複数の遺伝子と選択的にハイブリダイズする、複数のポリヌクレオチド。
【請求項26】
配列番号1〜227またはそれらの任意の組合せを含む、請求項25に記載の複数のポリヌクレオチド。
【請求項1】
病原体の薬剤感受性を決定する方法であって、
病原体を含むサンプルを提供するステップ;
サンプルと1つまたは複数の試験化合物を接触させて試験サンプルを提供するステップ;
病原体から試験サンプル中にメッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが、耐性がある生物と比較して試験化合物に感受性がある生物中で差次的に発現される標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こる、ステップ;
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ;および
試験化合物の存在下で標的mRNAのレベルと参照レベルを比較するステップであって、標的mRNAの参照レベルと比較した標的mRNAのレベルの違いが、病原体が試験化合物に対して感受性であるか、または耐性であるかを示すステップ
を含む、方法。
【請求項2】
試験化合物が病原体に対する既知の治療または潜在的な治療である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
方法が、サンプルを2つ以上の試験化合物と接触させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サンプルを4時間未満1つまたは複数の試験化合物と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
感染性疾患の病原体を同定する方法であって、
病原体に感染している疑いがある被験体から試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、
参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す、方法。
【請求項6】
試験サンプルが、痰、血液、尿、大便、関節液、脳脊髄液、および子宮頸部/膣スワブからなる群から選択される、請求項1または5に記載の方法。
【請求項7】
試験サンプルが複数の異なる感染性疾患の病原体または非病原性生物を含む、請求項1または5に記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の核酸プローブが表2から選択される、請求項1または5に記載の方法。
【請求項9】
病原体が細菌、真菌、ウイルス、または寄生虫である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項10】
病原体が結核菌(Mycobacterium tuberculosis)である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項11】
プローブとの接触前にmRNAが粗製状態である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項12】
方法が、mRNAを増殖するステップを含まない、請求項1または5に記載の方法。
【請求項13】
方法が、酵素的、化学的、または機械的に細胞を溶解するステップを含む、請求項1または5に記載の方法。
【請求項14】
方法が、マイクロ流体デバイスの使用を含む、請求項1または5に記載の方法。
【請求項15】
方法が、病原体感染をモニタリングするために使用される、請求項1または5に記載の方法。
【請求項16】
病原体が被験体からのサンプル中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
被験体がヒトである、請求項5または16に記載の方法。
【請求項18】
被験体用の治療を決定または選択するステップ、および、必要に応じて、被験体に治療を施すステップをさらに含む、請求項5または16に記載の方法。
【請求項19】
被験体用の治療を選択する方法であって、
病原体に感染している疑いがある被験体から試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNA間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す方法において、必要に応じて、被験体からのサンプル中の病原体を同定するステップと、
請求項1に記載の方法を使用して病原体の薬剤感受性を決定するステップと、
病原体が感受性のある薬剤を、被験体を治療する際に使用するために選択するステップと
を含む、方法。
【請求項20】
被験体における病原体による感染をモニタリングするための方法であって、
第一の時点に、病原体を含む第一のサンプルを得るステップ;
請求項1に記載の方法を使用して第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップ;
必要に応じて、病原体が感受性のある治療を選択するステップ、および、選択した治療を被験体に施すステップ;
第二の時点に、病原体を含む第二のサンプルを得るステップ;
請求項1に記載の方法を使用して第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップ;および
第一のサンプル中の病原体の薬剤感受性と第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を比較し、それによって被験体における感染をモニタリングするステップ
を含む、方法。
【請求項21】
被験体が免疫無防備状態である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
方法が、病原体が感受性のある治療を選択するステップ、および、選択した治療を被験体に施すステップ、ならびに、請求項1に記載の方法を使用して選択した治療に対する、第二のサンプル中の病原体の薬剤感受性を決定するステップを含み、病原体の薬剤感受性の変化が、病原体が治療に耐性があるか、または治療に耐性がある状態になりつつあるかを示す、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
病原体の薬剤感受性の変化が、病原体が治療に耐性があるまたは治療に耐性がある状態になりつつあることを示し、前記方法が、被験体に異なる治療を施すステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
被験体の集団内における病原体による感染をモニタリングする方法であって、
第一の時点に、集団内の被験体から第一の複数のサンプルを得るステップと、
病原体に感染している疑いがある被験体から試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、ここで、参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す方法において、請求項1に記載の方法を使用して第一の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定するステップ、および、必要に応じて、第一の複数のサンプルにおける感染性疾患の病原体を同定するステップと、
必要に応じて、被験体に治療を施すステップと、
第二の時点に、集団内の被験体から第二の複数のサンプルを得るステップと、
病原体に感染している疑いがある被験体からの試験サンプルを提供するステップ;
メッセンジャーリボ核酸(mRNA)が放出される条件下で試験サンプルを処理するステップ;
複数のプローブのサブセットを含む複数の核酸プローブに試験サンプルを曝すステップであって、それぞれのサブセットが病原体を独自に同定する標的mRNAと特異的に結合する1つまたは複数のプローブを含み、プローブと標的mRNAの間の結合が起こり得る時間および条件下で曝露が起こるステップ;および
プローブと標的mRNAの間の結合のレベルを決定し、それによって標的mRNAのレベルを決定するステップ
を含み、ここで、参照サンプルと比較した試験サンプルの標的mRNAの増大が試験サンプル中の病原体のアイデンティティーを示す方法において、請求項1に記載の方法を使用して第二の複数のサンプルにおける病原体の薬剤感受性を決定するステップ、および、必要に応じて、第一の複数のサンプル中の感染性疾患の病原体を同定するステップと、
第一の複数のサンプルおよび第二の複数のサンプルにおける、病原体の薬剤感受性および必要に応じて病原体のアイデンティティーを比較し、それによって被験体の集団内の感染をモニタリングするステップと
を含む方法。
【請求項25】
固形支持体と結合した複数のポリヌクレオチドであって、少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み、それぞれのポリヌクレオチドが表2から選択される1つまたは複数の遺伝子と選択的にハイブリダイズする、複数のポリヌクレオチド。
【請求項26】
配列番号1〜227またはそれらの任意の組合せを含む、請求項25に記載の複数のポリヌクレオチド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2013−520206(P2013−520206A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555149(P2012−555149)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2011/026092
【国際公開番号】WO2011/106536
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(511096639)ザ ブロード インスティテュート, インコーポレイテッド (1)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【出願人】(511230635)ザ ブリガム アンド ウーメンズ ホスピタル,インク (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2011/026092
【国際公開番号】WO2011/106536
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(511096639)ザ ブロード インスティテュート, インコーポレイテッド (1)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【出願人】(511230635)ザ ブリガム アンド ウーメンズ ホスピタル,インク (2)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]