感染防止クリーンブース
【課題】比較的単純な構成で、患者の浮遊ウイルスや浮遊菌による医師の感染リスクを低減し得る感染防止ブースを提供する。
【解決手段】横方向空気流下で該空気流の流れ方向へ間隔をおいて相互に向き合うように配置される患者用椅子および医師用椅子を備え、該医師用椅子が前記患者用椅子よりも前記横方向空気流の上流側に配置される感染防止クリーンブース。前記医師用椅子に着座する医師の正面方向がほぼ水平な面上で前記横方向空気流の流れ方向に関して所定の角度なすように案内するための方向案内手段がもうけられている。
【解決手段】横方向空気流下で該空気流の流れ方向へ間隔をおいて相互に向き合うように配置される患者用椅子および医師用椅子を備え、該医師用椅子が前記患者用椅子よりも前記横方向空気流の上流側に配置される感染防止クリーンブース。前記医師用椅子に着座する医師の正面方向がほぼ水平な面上で前記横方向空気流の流れ方向に関して所定の角度なすように案内するための方向案内手段がもうけられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、患者の咳やくしゃみに伴って放出される浮遊結核菌や浮遊ウイルスから医師を保護することを目的として、医療機関、介護福祉施設および歯科診療施設等に設置される感染防止クリーンブースに関する。
【背景技術】
【０００２】
保菌患者を収容する病室用空調システムが提案されている（例えば、特許文献１参照）。また、インフルエンザウイルスやＳＡＲＳウイルスを捕捉消滅する空気浄化方法や装置が提案されている（例えば、特許文献２参照）。さらに、化学物質過敏症の診察用ブースが提案されている（例えば、特許文献３参照）。
【０００３】
これらによれば、患者の咳やくしゃみに伴って排出される浮遊菌や浮遊ウイルスによる院内汚染を防止することができる。しかし、患者に直接向き合って診察、治療を施す医師を患者の浮遊菌や浮遊ウイルスから保護することはできない。
【０００４】
そこで、相互に正対して椅子に着座した医師と患者とを浄化空気流下に置くべく、医師の背後に配置され、ＨＥＰＡフィルタが組み込まれたクリーンパーティションから医師の背後に向けてほぼ水平方向へ無菌空気流を供給することが提案されている（例えば、非特許文献１参照）。この空気流により、着座した患者が正対する医師に向けて例えば激しく咳き込まない通常の咳をする限り、この咳が正対する医師の口元に直接届くことを防止することができる。
【０００５】
【特許文献１】特開２０００−２５７９０８号公報
【特許文献２】特開２００５−６４８号公報
【特許文献３】特開２００５−２３００３５号公報
【非特許文献１】「重症急性呼吸器症候群（ＳＡＲＳ）に関する参考資料」、第２頁、ｂ）図、[online] ２００６年１月７日、日本エアーテック株式会社、[平成20年9月1７日検索]、インターネット〈http://www.airtech.co.jp/frame_products03.htm〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
しかし、図１１（ａ）、（ｂ）に示されているように、椅子１に着座した患者２と正対する医師３が、椅子４に着座した姿勢でその背後からほぼ水平な横方向への浄化空気流５を受けると、医師３の上半身の正面の両側に、浄化空気流５によるカルマン渦６（図１１（ｂ）参照）が生じる。
【０００７】
このカルマン渦６は、医師３の正面、特に、喉元および腹部に、浄化空気流５の澱み７ａ、７ｂ（図１１（ａ）参照）を生じ易い。そのため、患者２の咳が、医師３の口元に向けられていなくとも、この澱み７ａ、７ｂに到達すると、医師３の呼吸に伴って医師３がこの咳に含まれるウイルスや菌を吸い込むおそれがあることが判明した。
【０００８】
この澱み７ａ、７ｂは、さらに、浄化空気流５を患者２の背後から吸込む手段を付加しても、効果的に無くすことはできなかった。そのため、前記した従来技術によれば、患者２から発せられる浮遊ウイルスや浮遊菌から医師３を確実に保護することはできなかった。
【０００９】
そこで、本発明の目的は、比較的単純な構成で、患者の浮遊ウイルスや浮遊菌による医師の感染リスクを低減し得る感染防止ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１０】
先ず、本発明の基本原理を説明する。本願発明者等は、椅子に着座した医師がその背面よりほぼ水平な横方向の空気流を受ける場合、該空気流の流れ方向と医師の正面方向とで構成される角度が所定の角度範囲内にあるとき、医師の正面でのカルマン渦の発生が抑制され、これにより前記した澱みが実質的に消失したと考えることができることを確認した。
【００１１】
より詳細には、本願発明者等は、先ず、図１（ａ）に示されるように、椅子として回転椅子１０を用い、該椅子に着座した医師に見立てたマネキン１２を用いてカルマン渦の発生の有無を判定するための実験を行った。この実験では、後述するクリーンブースの包囲体内に回転椅子１０が配置され、該椅子に着座したマネキン１２がその背後から横方向すなわちほぼ水平方向の空気流１４を受ける状況下で、マネキン１２の前記した澱みが生じやすい喉元１６ａおよび腹部１６ｂに発煙管（図示せず）が配置された。また、前記各発煙管から発生した煙をサンプリング管１８でマネキン１２の口１２ａからレーザパーティクルカウンタ２０に導き、該レーザバーティクルカウンタで、インフルエンザウイルス粒子に対応する約０．３μｍ以上の大きさの粒子個数をカウントした。
【００１２】
この際、回転椅子１０の回転操作により、図１（ｂ）に示すように、水平面と平行な紙面上で、マネキン１２の正面方向が空気流１４の方向となす角度θ、すなわちマネキン１２の左右対称面２２と、空気流１４との角度θを変化させながら、レーザパーティクルカウンタ２０で、喉元１６ａおよび腹部１６ｂのそれぞれについての煙粒子をカウントした。このとき、前記角度θが特定の角度範囲で、清浄と考えられる１０カウント／リットル未満となった。この角度θは、マネキン１２から見て正面左方への角度θが図１（ｂ）に実線で示され、正面右方への角度θが図１（ｂ）に仮想線で示されており、左右で対称的な結果が得られた。このときの空気流１４の流速は、クリーンブース内の平均風速（清浄空気流量／ブース断面積）にほぼ一致する値であり、０．１３ｍ／秒以上に設定された。
【００１３】
図２の表１には、この実験の測定に基づく判定結果が、医師に見立てたマネキン１２の左右の着座角度（±θ度）に応じた喉元１６ａおよび腹部１６ｂでの澱みの発生の有無として表示されている。表１によれば、医師に見立てたマネキン１２は、左右の側でそれぞれ３０度以上７０度以下の範囲を向いている限り、喉元１６ａおよび腹部１６ｂからの煙粒子が医師に見立てたマネキン１２の口元１２ａに向かわないことが判明した。
【００１４】
本願発明者等は、この実験および測定結果から、図１（ｂ）に示されるように、マネキン１２の上半身の両側で空気流１４に分流１４ａ、１４ａが生じるものの、カルマン渦とはならず、したがって、喉元１６ａおよび腹部１６ｂに澱みが生じることなく、喉元１６ａおよび腹部１６ｂで発生した煙が分流１４ａ、１４ａによって下流に流れることから、これが口元１２ａに向かうことはない、との認定に至った。
【００１５】
また、本願発明者等は、医師が水平あるいはほぼ水平な横方向の空気流を背後から受けるとき、該空気流の流れ方向と体の正面とでなす角度がほぼ水平な面上で左右のいずれかの側へ３０度以上７０度以下の角度範囲内にあるように体を横向けることにより、前記した喉元１６ａおよび腹部１６ｂでのカルマン渦による空気流の滞留を防止し、これら滞留域に浮遊するウイルスや菌を医者が自発呼吸によって吸引することを防止することができるとの知見に至った。
【００１６】
本発明は、前記した知見に基づき、比較的単純な構成で確実に医師を患者の浮遊ウイルスや浮遊菌の感染から確実に防止できる感染防止ブースを提供する。
【００１７】
すなわち、本発明に係る感染防止クリーンブースは、横方向空気流下で該空気流の流れ方向へ間隔をおいて相互に向き合うように配置される患者用椅子および医師用椅子を備え、該医師用椅子が前記患者用椅子よりも前記横方向空気流の上流側に配置される感染防止クリーンブースであって、さらに、前記医師用椅子に着座する医師の正面方向がほぼ水平な面上で前記横方向空気流の流れ方向に関して所定の角度なすように案内するための方向案内手段を備えることを特徴とする。
【００１８】
本発明によれば、医師は、少なくともその上半身の正面を前記方向案内手段で案内される方向へ向けて着座しあるいは立つことにより、前記空気流によるカルマン渦の発生が防止できる。そのため、患者が医師に向かって例えば咳をすることにより、この咳に含まれるウイルスや菌がたとえ着座した医師の喉元や腹部に到達しても、このウイルスや菌が喉元や腹部に滞留することなく、前記空気流によって円滑にその下流に流れ去る。この場合、医師は、診察や治療のために、その頭を患者の方へ向けておくことができる。したがって、前記方向案内手段の案内に従う限り、診察や治療を妨げることなく、従来のように医師が患者からのウイルスや菌を呼吸と共に吸い込むことはなく、従来に比較して医師の感染リスクを効果的に低減することができる。
【００１９】
前記所定角度は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右の少なくとも一方の側で３０度以上７０度以下の範囲内に設定される。医師がその頭を除く少なくともその上半身の正面をこの角度範囲に保持することにより、前記したカルマン渦の発生を防止し、前記空気流の澱みによる感染リスクの増大を防止して感染リスクの低減を図ることが可能となる。
【００２０】
前記方向案内手段は、前記クリーンブースの床に表示された表示手段で構成することができる。この他、前記方向案内手段として、例えば回転椅子の回転角が所定の回転角度範囲にあるように規制する手段を用いることができる。あるいは前記方向案内手段として、クリーンブースの側壁面等に医師の正面方向を表示することができる。しかしながら、前記したように、クリーンブースの床に表示された表示手段は、例えば前記床に案内方向に沿ってテープを貼り付け、あるいはペイントを施すこと等により、極めて容易かつ安価に実現することができる。
【００２１】
前記表示手段は、図１（ｂ）に示したように、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度（θ１）以上７０度（θ２）以下内の所定角度を指示することができる。この所定角度として、３０度と７０度との中間値である５０度（θ３）を設定し、医師をこの５０度（θ３）に案内する表示手段を用いることができる。この場合、それぞれの表示手段で表示される角度を中心に±２０度の許容範囲が見込めることから、医師は、所定角度を強く意識することなく、診察および治療を施すことが可能となる。
【００２２】
前記表示手段は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度以上７０度以下の角度領域を指示することができる。この場合、医師は、その頭を除く上半身の正面を前記表示手段で示された角度領域内に保持して、診察および治療を行えばよい。
【００２３】
本発明に係る前記クリーンブースは、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する包囲体を設けることができる。前記包囲体は、例えば六面体（その一面を部屋の床とすることができる）で形成することができ、開放端壁部および一対の側壁部および天井部を有し、前記端壁部に対向して前記開放口が開放する。この開放口に対向する前記端壁部には前記横方向空気流を形成するための空気吹出口が設けられる。このような包囲体に代えて、後述するように、建物の躯体壁を包囲体の前記端壁部や一対の側壁部に利用することができる。また、建物の室内に仕切り壁を配置してクリーンブース空間を形成することができる。さらに、前記従来技術の非特許文献１に示されたクリーンパーティションを用いることができる。この場合、前記室内壁と前記仕切り壁との間で形成される空間内へ向けて水平空気流を供給すべく前記仕切り壁の一端と、該一端に対向する前記室内壁との間を横切るように、前記クリーンパーティションが配置される。
【００２４】
前記包囲体の前記空気吹出口の下縁は、前記クリーンブースの床から所定の高さ間隔をおいて形成することができる。
【００２５】
また、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する前記した包囲体を用いた場合、該包囲体の前記天井部に縦方向空気流を形成するための空気吹出口を設けることができる。クリーンブース内で前記空気吹出口から床へ向けて吹き出された垂直あるいはほぼ垂直な縦方向空気流は、前記一対の側壁および端壁により気流方向を変換され、前記開放口へ向かうことにより、ほぼ水平な前記横方向空気流が形成される。
【００２６】
前記医師用椅子と患者用椅子との間には、患者の咳が直接医師に向かうことを阻止するための透明な遮蔽手段を設けることができる。
【００２７】
激しく咳き込まない通常の咳やくしゃみの飛散特性が図３に示されている。図３のグラフの横軸は咳またはくしゃみの発生からの経過時間（sec）を示し、右縦軸および左縦軸は、その到達距離（ｃｍ）および最大速度（ｃｍ／sec）をそれぞれ示す。咳またはくしゃみは、それぞれの到達距離の最先端で最大速度が達成される。図３のグラフで特性線ＡおよびＢは、咳に伴うミスト粒子の水平方向到達距離特性およびその最大速度の近似特性をそれぞれ示す。また特性線ＣおよびＤは、くしゃみに伴うミスト粒子の水平方向到達距特性およびその最大速度近似特性をそれぞれ示す。
【００２８】
特性線Ａで示されているように、通常の咳は、その最大到達距離が４０ｃｍ未満であることから、前記空気流の上流側に位置する医者と前記空気流の下流側に位置する患者との向き合う距離が４０ｃｍ以上を保持できれば、咳によって該咳に含まれるウイルスや菌が上流側の医師の口元に直接向かっても、医師に吸引されるおそれは減少する。しかしながら、激しく咳き込んだ場合やくしゃみが医師の口元に向かうと、その到達距離の増大によって、医師の感染リスクは増大する。
【００２９】
前記遮蔽手段は、このような激しい咳やくしゃみに伴って医師の口元にむかうウイルスや菌を医師から確実に遮断する。
【００３０】
前記遮蔽手段は、前記包囲体の天井部分から垂れ下がる可撓性合成樹脂膜からなるカーテンで構成することができる。
【００３１】
前記カーテンは、前記包囲体の前記一対の側壁部間を横切って配置され、その下縁は前記クリーンブースの床から所定の間隔をおくことができる。
【００３２】
前記カーテンは、第１のカーテン部分と、該第１のカーテン部分の一方の縁部に重なる縁部を有する第２のカーテン部分とで構成することができる。
【００３３】
この場合、前記第１のカーテン部分の下縁を前記第２のカーテン部分の下縁よりも上方に位置させることができ、この第１のカーテン部分の下縁を経て医師が治療を施すことにより、カーテンによって治療が妨げられることなく、前記した激しい咳やくしゃみに起因する医師の感染リスクをも低減することができる。
【００３４】
少なくとも前記第１のカーテン部分を巻き上げ可能とすることができる。この巻き上げ機構は、従来のブランドに採用されている巻き上げ機構を採用することができ、これにより前記第１のカーテン部分の下縁を所望の適正な高さ位置に保持することができる。
【発明の効果】
【００３５】
本発明によれば、医師は、少なくともその上半身の正面を前記方向案内手段で案内される方向へ向けて着座しあるいは立つことにより、患者の咳に含まれるウイルスや菌がたとえ着座した医師の喉元や腹部に到達しても、このウイルスや菌が滞留することはないので、医師がこれらを呼吸と共に吸い込むことはなく、従来に比較して医師の感染リスクを効果的に低減することができる。したがって、極めて単純な構成で患者の浮遊ウイルスや浮遊菌による医師の感染リスクを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００３６】
本発明に係るクリーンブース３０は、図４に示されているように、例えば病院の室内の床３２上に設置される。クリーンブース３０は、例えば奥行きＬ、幅Ｗ、高さＨを有する全体に矩形のフレーム３４と、この矩形フレーム３４を覆うビニルからなる包囲体３６とを備える。この包囲体３６には、帯電防止処理を施すことが望ましい。
【００３７】
包囲体３６は、図示の例では、矩形フレーム３４で構成される枠体の天井を覆う長方形の天井部３６ａと、該天井部の一対の長辺に沿って形成された一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂと、天井部３６ａの一方の短辺に沿って形成された端壁部３６ｃとを備える。前記クリーンブース３０の一端を構成する端壁部３６ｃに対向する部分は開放され、これにより、クリーンブース３０の他端は、開口部３６ｄで前記室内に開放されている。この例に代えて、一対の前記短辺に沿って一対の側壁部を形成し、一方の前記長辺に沿って端壁部を形成することができる。
【００３８】
クリーンブース３０の外部には、前記室内の空気を浄化してクリーンブース３０内に供給するための空気清浄機３８が端壁部３６ｃに沿って配置されている。また、包囲体３６の天井部３６ａには、空気清浄機３８から浄化空気の供給を受ける上面ダクト４０が形成されており、該上面ダクトには、空気清浄機３８からの浄化空気を床３２へ向けてほぼ垂直方向へ吹き出すためのメッシュ状あるいはスクリーン状の空気吹出口４０ａが設けられている。
【００３９】
空気吹出口４０ａから白抜き矢印４２ａで示されているように垂直方向へ吹き出された浄化空気は、床３２の近傍で包囲体３６の閉鎖端である端壁部３６ｃとは反対側にある開放口である開口部３６ｄへ向けて案内され、これにより、白抜き矢印４２ｂで示されるようなほぼ水平な浄化空気流として、開口部３６ｄを経て前記室内に放出される。
【００４０】
図４に示す例では、一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂおよび端壁部３６ｃの各下縁と、床３２との間には、埃だまりを防止する上で、１０ｃｍ以下（例えば約５ｃｍ）の間隙ｔが設けられている。しかしながら、端壁部３６ｃと床３２との間隙ｔは、空気清浄機３８からの空気の漏れ出しを防止する上で、無くすことが望ましい。また、包囲体３６の端壁部３６ｃに代えて、空気清浄機３８の外壁面でクリーンブース３０の前記一端を閉鎖することができる。
【００４１】
クリーンブース３０は、図５（ａ）乃至図５（ｃ）に示されているように、例えば上面ダクト４０を除く高さ寸法Ｈが約２０００ｃｍ、幅寸法Ｗが約１００ｃｍ、奥行き寸法Ｌが１２０ｃｍに設定することができる。また、クリーンブース３０の天井部３６ａには、例えば透明なポリ塩化ビニル板から成る明かり採り窓４４を設けることができる。
【００４２】
空気清浄機３８は、図５（ｂ）に示されているように、無停電電源装置３８ａ、該無停電電源装置により作動される送風器３８ｂおよび該送風器によって取り込まれた前記室内の空気を浄化するＨＥＰＡフィルタ３８ｃを備える。ＨＥＰＡフィルタ３８ｃを経た浄化空気は、前記したように、上面ダクト４０から垂直空気流４２ａとしてクリーンブース３０内に連続的に吹き出され、水平空気流４２ｂとしてクリーンブース３０の開口部３６ｄに向けられる。水平空気流４２ｂの平均風速は、０．１３ｍ／秒以上、好ましくは０．３ｍ／以上に設定される。
【００４３】
この水平空気流４２ｂが向けられる開口部３６ｄを境にして、図示の例では、クリーンブース３０内に医師４６のための椅子４８が配置され、それよりも水平空気流４２ｂの下流となるクリーンブース３０と反対側、すなわちクリーンブース３０外に患者５０のための椅子５２が配置されている。
【００４４】
両椅子４８および５２として、それらの座面が回転可能ないわゆる回転椅子を用いることができるが、両椅子４８および５２は、全体的に前記した水平空気流４２ｂの方向へ整列して配置されており、両椅子４８および５２に着座した姿勢で医師４６および患者５０が相互に向き合えるように、正対可能である。
【００４５】
すなわち、図６に示すように、水平空気流４２ｂが椅子４８の背後から端壁部３６ｃと直角な方向で開口部３６ｄに案内される場合、基本的に、椅子４８および５２は、水平空気流４２ｂの流れ方向に沿って間隔を置いて配置される。両椅子４８および５２の間隔は、図３に沿って説明したとおり、椅子５２に着座した患者５０が椅子４８に着座した医師４６に向けて通常の咳をした場合に、該咳に伴うミストが直接医師４６に到達しない距離を保持するに十分な間隔である約４０ｃｍ以上に設定される。
【００４６】
医師４６の定位置を規定する医師用の椅子４８が配置される床３２上には、患者５０に向き合う医師４６の正面と、水平空気流４２ｂの流れ方向とが所定の角度θ１およびθ２の範囲内にあるように、医師４８の正面方向を案内するための方向案内手段５４（５４ａ、５４ｂ）が設けられている。
【００４７】
方向案内手段５４は、図示の例では、例えば色付きテープを椅子４８の回転中心から水平空気流４２ｂの流れ方向に関してほぼ３０度（θ１）の角度をなす直線に沿って貼り付けられた方向指示テープ５４ａと、同じくほぼ７０度（θ２）の角度をなす直線に沿って貼り付けられた方向指示テープ５４ｂとからなる表示手段である。
【００４８】
図６には、椅子４８に着座する医師４６から見て右方へ角度３０度および７０度を示す表示手段５４（５４ａ、５４ｂ）が実線で示されている。また、これと対称的に、椅子４８に着座する医師４６から見て左方へ角度３０度および７０度を示す表示手段５４（５４ａ、５４ｂ）が仮想線で示されている。左右のいずれか一方の表示手段５４を採用することができ、また左右の両表示手段５４および５４を併用することができる。
【００４９】
両椅子４８および５２は、固定する必要はなく、キャスタ付きを用いることができる。
【００５０】
医師４６が、例えば椅子４８に着座して、椅子５２に着座した患者５０を診察あるいは治療する場合、医師４６の上体を左右の各表示手段５４ａおよび５４ｂが示すいずれかの角度範囲内に置くことにより、図１（ｂ）に沿って説明したとおり、従来生じていたカルマン渦６の発生を阻止することができる。
【００５１】
したがって、医師４６が少なくともその上半身を表示手段５４ａおよび５４ｂが示す角度範囲内に置く限り、診察あるいは治療中に患者５０が医師４６に向けて通常の咳をしても、この咳のミストが医師４６の喉元（１６ａ）や腹部（１６ｂ）に澱むことなく水平空気流４２ｂに沿ってその下流に流れる。これにより、この咳のミストを医師４６が吸い込むことを防止することができ、その結果、このミストに例えウイルスや菌が含まれていても、これを吸い込むことによる医師４６の感染を防止することができる。
【００５２】
医師４６は椅子４８に着座することなく立った姿勢で椅子５２の患者５０を診察あるいは治療することができるが、この場合も、医師４６は、表示手段５４ａおよび５４ｂが示す角度範囲内に体の正面を向けることにより、前記したような患者５０からの医師４６の感染を防止することができる。
【００５３】
診察あるいは治療を受けている患者５０が風上に位置する医師４６に向けて強い咳やくしゃみを発した場合、この咳やくしゃみによるミストが医師４６の口元に直接向かうことがある。
【００５４】
このミストが直接的に医師４６に向けて飛散することを防止する遮断手段５６が、図５（ｂ）および（ｃ）に示すように、椅子４８および椅子５２間で、水平空気流４２ｂが向けられる開口部３６ｄに設けられている。ここで、図５（ｂ）はクリーンブース３０を一方の側壁部３６ｂ側から見た図であり、図５（ｃ）はクリーンブース３０を開口部３６ｄ側から見た図である。医師４６は、前記表示手段５４（５４ａ、５４ｂ）に従って患者５０の正面に対し、少なくとも上半身を斜めにした関係で着座している。遮断手段５６は、着座した両者４６および５０の少なくとも上半身の一部間に介在するように、クリーンブース３０の天井部３６ａから床３２へ向けて、例えば可撓性合成樹脂膜からなる透明なカーテン５６で構成されている。カーテン５６は、クリーンブース３０の一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂ間で、少なくとも開口部３６ｄの上半部を横切って配置されており、その下縁は床３２から間隔をおく。
【００５５】
図５（ｃ）に示す例では、該図で見て左方に配置された第１のカーテン部分５６ａと、該第１のカーテン部分の右方に配置され、第１のカーテン部分４６ａの縁部に重なる縁部を有する第２のカーテン部分５６ｂとを備える。第１のカーテン部分５６ａの下縁は、第２のカーテン部分５６ｂの下縁よりも上方に位置する。
【００５６】
第２のカーテン部分５６ｂの下縁と床３２との間は、９０ｃｍ以下とすることが望ましい。また、第１のカーテン部分５６ａは、該カーテン部分が前記した診察や治療の妨げになることを防止しかつ患者５０のくしゃみや強い咳から椅子４８に着座した医師４６を保護するために、その下縁が床３２から、例えば９０ｃｍを超え１ｍ未満内の所望の高さまで上方に巻取り可能とすることができる。これにより、患者５０の身長に応じて第１のカーテン部分５６ａの下縁の高さ位置を調整し、該第１のカーテン部分を経て患者５０を診ることができる。この巻取装置として、巻取カーテンで従来よく知られた巻取機構を採用することができる。
【００５７】
また、前記巻取機構が設けられていない場合、医師４６は、必要に応じて、第１のカーテン部分５６ａに加えて第２のカーテン部分５６ｂをたくし上げることができる。
【００５８】
図７は、図６に示した方向案内手段５４の他の例を示す。図７に示す方向案内手段５４は、左右のそれぞれで、水平空気流４２ｂとなす角度θ３が３０度（θ１）および７０度（θ２）の中間角度である５０度（θ３）を示す直線に沿ったテープで形成されている。この場合、各方向案内手段５４は、該手段の左右のそれぞれの角度域に２０度の許容範囲をもつ。したがって、医師４６は、方向案内手段５４の方向を限界的に意識することなく、すなわち方向案内手段５４による強い拘束を受けることなく、診察や治療することが可能となる。
【００５９】
また、図８に示すように、床３２と平行な水平面上で見て、水平空気流４２ｂに関して角度的な直線５６（水平空気流４２ｂとの角度が０度を超え９０度未満の関係にある直線）に沿って、椅子４８および５２を互いに対向させて配置することができる。この場合、直線５６と水平空気流４２ｂとが７０度（θ３）をなすように両椅子４８および５２を配置することにより、水平空気流４２ｂとなす角度θ３を指す前記テープのような方向案内手段５４は椅子４８の真正面に向けて形成することができる。そのため、椅子４８に着座した医師４６は、椅子５２に着座した患者５０から上体を捩ることなく、該患者を正面に捉えて診察および治療を施すことが可能となる。また、前記した角度的な配置により、図６および７に示した例に比較して、医師４６はその上体をより患者５０の正面に向けた状態で診察および治療が可能となる。
【００６０】
前記したところでは、包囲体３６の天井部３６ａから吹き出された垂直空気流４２ａが水平空気流４２ｂに方向変換された例について説明した。これに代えて、図９（ａ）および（ｂ）に示すように、空気清浄機３８のＨＥＰＡフィルタ３８ｃを経ることにより浄化された空気を包囲体３６の端壁部３６ｃから水平空気流４２ｂとして包囲体３６内に供給することができる。図９（ａ）の例では、空気清浄機３８の空気吹出口３８ｄは端壁部３６ｃの上半部に形成されており、前記空気吹出口３８ｄの下縁は床３２から間隔をおく。これに代えて、端壁部３６ｃの下半部を含むその全面に空気吹出口３８ｄを形成し、端壁部３６ｃの全面から水平空気流４２ｂを供給することもできる。
【００６１】
また、この水平空気流４２ｂのために、図１０に示すように、クリーンブース３０内にその端壁部３６ｃと角度的にクリーンパーティション５８を配置し、該パーティションからの水平空気流４２ｂと例えば７０度をなす直線に沿って椅子４８および５２を配置することができる。この場合、医師４６のための椅子４８が患者５０のための椅子５２よりも水平空気流４２ｂの風上側すなわち上流側に位置するように、配置される。また図１０に示す例では、方向案内手段５４は、図８に示した例におけると同様に、水平空気流４２ｂに関して５０度（角度θ３）の直線に沿って形成されている。
【００６２】
さらに、患者５０用の椅子５２をクリーンブース３０外に配置することに代えて、両椅子４８および５２をクリーンブース３０内に配置することができる。しかしながら、クリーンブース３０の小型化のために、前記したように、患者５０用の椅子５２をクリーンブース３０外に配置することが望ましい。
【００６３】
さらに、方向案内手段５４は、一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂに形成することができる。また方向案内手段５４として、椅子４８の座面の回転領域を例えば所定の回転領域を超えるとき回転操作に節度感を与えるノッチ機構のような規制手段を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【００６４】
本発明は、上記実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない限り、種々に変更することができる。垂直空気流４２ａは、開口部３６ｄへ向けてわずかに傾斜角をなす縦方向空気流出であっても良く、また水平空気流４２ｂは、床３２へ向けてわずかに傾斜する横方向空気流であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【００６５】
【図１】医師が背面から空気流を受けるときの医師の正面方向および空気流の流れ方向で構成される角度と、澱み域の生成との関係を調べる実験装置の概略図であり、（ａ）は空気流の流れ方向を向いた状態で形成される喉元および下腹部近傍に発生する澱み域を示す図面であり、（ｂ）はカルマン渦の消滅と医師の正面方向との角度関係を示す図面である。
【図２】図１に示した実験の測定結果を整理して示す図表である。
【図３】咳およびくしゃみによる粒子の時間の経過と、最大速度および到達距離図との関係を示すグラフである。
【図４】本発明に係るクリーンブースを概略的に示す斜視図である。
【図５】図４に示したクリーンブースの図面であり、（ａ）は平面図、（ｂ）は正面図、（ｄ）は側面図をそれぞれ示す。
【図６】本発明に係るクリーンブースの椅子の配置例および方向案内手段の一例を示す説明図である。
【図７】本発明に係るクリーンブースの方向案内手段の他の一例を示す図６と同様な図面である。
【図８】本発明に係るクリーンブースの椅子の他の配置例および方向案内手段のさらに他の一例を示す図６と同様な図面である。
【図９】本発明に係るクリーンブースの他の実施例を示す図５と同様な図面であり、（ａ）は正面図、（ｂ）は側面図をそれぞれ示す。
【図１０】本発明に係るクリーンブースのさらに他の実施例を示す図６と同様な図面である。
【図１１】従来技術を説明する図面であり、（ａ）は空気流の流れ方向を向いた状態で形成される喉元および下腹部近傍に発生する澱み域を示す図面であり、（ｂ）はカルマン渦の発生を示す図面である。
【符号の説明】
【００６６】
３０ クリーンブース
３２ 床
３６ クリーンブースの包囲体
３６ａ 包囲体の天井部
３６ｂ 包囲体の側壁部
３６ｄ 包囲体の開放口（開口部）
３８ｄ 空気吹出口
４８ 医師用椅子
５４（５４ａ、５４ｂ） 方向案内手段（表示手段）
【技術分野】
【０００１】
本発明は、患者の咳やくしゃみに伴って放出される浮遊結核菌や浮遊ウイルスから医師を保護することを目的として、医療機関、介護福祉施設および歯科診療施設等に設置される感染防止クリーンブースに関する。
【背景技術】
【０００２】
保菌患者を収容する病室用空調システムが提案されている（例えば、特許文献１参照）。また、インフルエンザウイルスやＳＡＲＳウイルスを捕捉消滅する空気浄化方法や装置が提案されている（例えば、特許文献２参照）。さらに、化学物質過敏症の診察用ブースが提案されている（例えば、特許文献３参照）。
【０００３】
これらによれば、患者の咳やくしゃみに伴って排出される浮遊菌や浮遊ウイルスによる院内汚染を防止することができる。しかし、患者に直接向き合って診察、治療を施す医師を患者の浮遊菌や浮遊ウイルスから保護することはできない。
【０００４】
そこで、相互に正対して椅子に着座した医師と患者とを浄化空気流下に置くべく、医師の背後に配置され、ＨＥＰＡフィルタが組み込まれたクリーンパーティションから医師の背後に向けてほぼ水平方向へ無菌空気流を供給することが提案されている（例えば、非特許文献１参照）。この空気流により、着座した患者が正対する医師に向けて例えば激しく咳き込まない通常の咳をする限り、この咳が正対する医師の口元に直接届くことを防止することができる。
【０００５】
【特許文献１】特開２０００−２５７９０８号公報
【特許文献２】特開２００５−６４８号公報
【特許文献３】特開２００５−２３００３５号公報
【非特許文献１】「重症急性呼吸器症候群（ＳＡＲＳ）に関する参考資料」、第２頁、ｂ）図、[online] ２００６年１月７日、日本エアーテック株式会社、[平成20年9月1７日検索]、インターネット〈http://www.airtech.co.jp/frame_products03.htm〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
しかし、図１１（ａ）、（ｂ）に示されているように、椅子１に着座した患者２と正対する医師３が、椅子４に着座した姿勢でその背後からほぼ水平な横方向への浄化空気流５を受けると、医師３の上半身の正面の両側に、浄化空気流５によるカルマン渦６（図１１（ｂ）参照）が生じる。
【０００７】
このカルマン渦６は、医師３の正面、特に、喉元および腹部に、浄化空気流５の澱み７ａ、７ｂ（図１１（ａ）参照）を生じ易い。そのため、患者２の咳が、医師３の口元に向けられていなくとも、この澱み７ａ、７ｂに到達すると、医師３の呼吸に伴って医師３がこの咳に含まれるウイルスや菌を吸い込むおそれがあることが判明した。
【０００８】
この澱み７ａ、７ｂは、さらに、浄化空気流５を患者２の背後から吸込む手段を付加しても、効果的に無くすことはできなかった。そのため、前記した従来技術によれば、患者２から発せられる浮遊ウイルスや浮遊菌から医師３を確実に保護することはできなかった。
【０００９】
そこで、本発明の目的は、比較的単純な構成で、患者の浮遊ウイルスや浮遊菌による医師の感染リスクを低減し得る感染防止ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１０】
先ず、本発明の基本原理を説明する。本願発明者等は、椅子に着座した医師がその背面よりほぼ水平な横方向の空気流を受ける場合、該空気流の流れ方向と医師の正面方向とで構成される角度が所定の角度範囲内にあるとき、医師の正面でのカルマン渦の発生が抑制され、これにより前記した澱みが実質的に消失したと考えることができることを確認した。
【００１１】
より詳細には、本願発明者等は、先ず、図１（ａ）に示されるように、椅子として回転椅子１０を用い、該椅子に着座した医師に見立てたマネキン１２を用いてカルマン渦の発生の有無を判定するための実験を行った。この実験では、後述するクリーンブースの包囲体内に回転椅子１０が配置され、該椅子に着座したマネキン１２がその背後から横方向すなわちほぼ水平方向の空気流１４を受ける状況下で、マネキン１２の前記した澱みが生じやすい喉元１６ａおよび腹部１６ｂに発煙管（図示せず）が配置された。また、前記各発煙管から発生した煙をサンプリング管１８でマネキン１２の口１２ａからレーザパーティクルカウンタ２０に導き、該レーザバーティクルカウンタで、インフルエンザウイルス粒子に対応する約０．３μｍ以上の大きさの粒子個数をカウントした。
【００１２】
この際、回転椅子１０の回転操作により、図１（ｂ）に示すように、水平面と平行な紙面上で、マネキン１２の正面方向が空気流１４の方向となす角度θ、すなわちマネキン１２の左右対称面２２と、空気流１４との角度θを変化させながら、レーザパーティクルカウンタ２０で、喉元１６ａおよび腹部１６ｂのそれぞれについての煙粒子をカウントした。このとき、前記角度θが特定の角度範囲で、清浄と考えられる１０カウント／リットル未満となった。この角度θは、マネキン１２から見て正面左方への角度θが図１（ｂ）に実線で示され、正面右方への角度θが図１（ｂ）に仮想線で示されており、左右で対称的な結果が得られた。このときの空気流１４の流速は、クリーンブース内の平均風速（清浄空気流量／ブース断面積）にほぼ一致する値であり、０．１３ｍ／秒以上に設定された。
【００１３】
図２の表１には、この実験の測定に基づく判定結果が、医師に見立てたマネキン１２の左右の着座角度（±θ度）に応じた喉元１６ａおよび腹部１６ｂでの澱みの発生の有無として表示されている。表１によれば、医師に見立てたマネキン１２は、左右の側でそれぞれ３０度以上７０度以下の範囲を向いている限り、喉元１６ａおよび腹部１６ｂからの煙粒子が医師に見立てたマネキン１２の口元１２ａに向かわないことが判明した。
【００１４】
本願発明者等は、この実験および測定結果から、図１（ｂ）に示されるように、マネキン１２の上半身の両側で空気流１４に分流１４ａ、１４ａが生じるものの、カルマン渦とはならず、したがって、喉元１６ａおよび腹部１６ｂに澱みが生じることなく、喉元１６ａおよび腹部１６ｂで発生した煙が分流１４ａ、１４ａによって下流に流れることから、これが口元１２ａに向かうことはない、との認定に至った。
【００１５】
また、本願発明者等は、医師が水平あるいはほぼ水平な横方向の空気流を背後から受けるとき、該空気流の流れ方向と体の正面とでなす角度がほぼ水平な面上で左右のいずれかの側へ３０度以上７０度以下の角度範囲内にあるように体を横向けることにより、前記した喉元１６ａおよび腹部１６ｂでのカルマン渦による空気流の滞留を防止し、これら滞留域に浮遊するウイルスや菌を医者が自発呼吸によって吸引することを防止することができるとの知見に至った。
【００１６】
本発明は、前記した知見に基づき、比較的単純な構成で確実に医師を患者の浮遊ウイルスや浮遊菌の感染から確実に防止できる感染防止ブースを提供する。
【００１７】
すなわち、本発明に係る感染防止クリーンブースは、横方向空気流下で該空気流の流れ方向へ間隔をおいて相互に向き合うように配置される患者用椅子および医師用椅子を備え、該医師用椅子が前記患者用椅子よりも前記横方向空気流の上流側に配置される感染防止クリーンブースであって、さらに、前記医師用椅子に着座する医師の正面方向がほぼ水平な面上で前記横方向空気流の流れ方向に関して所定の角度なすように案内するための方向案内手段を備えることを特徴とする。
【００１８】
本発明によれば、医師は、少なくともその上半身の正面を前記方向案内手段で案内される方向へ向けて着座しあるいは立つことにより、前記空気流によるカルマン渦の発生が防止できる。そのため、患者が医師に向かって例えば咳をすることにより、この咳に含まれるウイルスや菌がたとえ着座した医師の喉元や腹部に到達しても、このウイルスや菌が喉元や腹部に滞留することなく、前記空気流によって円滑にその下流に流れ去る。この場合、医師は、診察や治療のために、その頭を患者の方へ向けておくことができる。したがって、前記方向案内手段の案内に従う限り、診察や治療を妨げることなく、従来のように医師が患者からのウイルスや菌を呼吸と共に吸い込むことはなく、従来に比較して医師の感染リスクを効果的に低減することができる。
【００１９】
前記所定角度は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右の少なくとも一方の側で３０度以上７０度以下の範囲内に設定される。医師がその頭を除く少なくともその上半身の正面をこの角度範囲に保持することにより、前記したカルマン渦の発生を防止し、前記空気流の澱みによる感染リスクの増大を防止して感染リスクの低減を図ることが可能となる。
【００２０】
前記方向案内手段は、前記クリーンブースの床に表示された表示手段で構成することができる。この他、前記方向案内手段として、例えば回転椅子の回転角が所定の回転角度範囲にあるように規制する手段を用いることができる。あるいは前記方向案内手段として、クリーンブースの側壁面等に医師の正面方向を表示することができる。しかしながら、前記したように、クリーンブースの床に表示された表示手段は、例えば前記床に案内方向に沿ってテープを貼り付け、あるいはペイントを施すこと等により、極めて容易かつ安価に実現することができる。
【００２１】
前記表示手段は、図１（ｂ）に示したように、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度（θ１）以上７０度（θ２）以下内の所定角度を指示することができる。この所定角度として、３０度と７０度との中間値である５０度（θ３）を設定し、医師をこの５０度（θ３）に案内する表示手段を用いることができる。この場合、それぞれの表示手段で表示される角度を中心に±２０度の許容範囲が見込めることから、医師は、所定角度を強く意識することなく、診察および治療を施すことが可能となる。
【００２２】
前記表示手段は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度以上７０度以下の角度領域を指示することができる。この場合、医師は、その頭を除く上半身の正面を前記表示手段で示された角度領域内に保持して、診察および治療を行えばよい。
【００２３】
本発明に係る前記クリーンブースは、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する包囲体を設けることができる。前記包囲体は、例えば六面体（その一面を部屋の床とすることができる）で形成することができ、開放端壁部および一対の側壁部および天井部を有し、前記端壁部に対向して前記開放口が開放する。この開放口に対向する前記端壁部には前記横方向空気流を形成するための空気吹出口が設けられる。このような包囲体に代えて、後述するように、建物の躯体壁を包囲体の前記端壁部や一対の側壁部に利用することができる。また、建物の室内に仕切り壁を配置してクリーンブース空間を形成することができる。さらに、前記従来技術の非特許文献１に示されたクリーンパーティションを用いることができる。この場合、前記室内壁と前記仕切り壁との間で形成される空間内へ向けて水平空気流を供給すべく前記仕切り壁の一端と、該一端に対向する前記室内壁との間を横切るように、前記クリーンパーティションが配置される。
【００２４】
前記包囲体の前記空気吹出口の下縁は、前記クリーンブースの床から所定の高さ間隔をおいて形成することができる。
【００２５】
また、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する前記した包囲体を用いた場合、該包囲体の前記天井部に縦方向空気流を形成するための空気吹出口を設けることができる。クリーンブース内で前記空気吹出口から床へ向けて吹き出された垂直あるいはほぼ垂直な縦方向空気流は、前記一対の側壁および端壁により気流方向を変換され、前記開放口へ向かうことにより、ほぼ水平な前記横方向空気流が形成される。
【００２６】
前記医師用椅子と患者用椅子との間には、患者の咳が直接医師に向かうことを阻止するための透明な遮蔽手段を設けることができる。
【００２７】
激しく咳き込まない通常の咳やくしゃみの飛散特性が図３に示されている。図３のグラフの横軸は咳またはくしゃみの発生からの経過時間（sec）を示し、右縦軸および左縦軸は、その到達距離（ｃｍ）および最大速度（ｃｍ／sec）をそれぞれ示す。咳またはくしゃみは、それぞれの到達距離の最先端で最大速度が達成される。図３のグラフで特性線ＡおよびＢは、咳に伴うミスト粒子の水平方向到達距離特性およびその最大速度の近似特性をそれぞれ示す。また特性線ＣおよびＤは、くしゃみに伴うミスト粒子の水平方向到達距特性およびその最大速度近似特性をそれぞれ示す。
【００２８】
特性線Ａで示されているように、通常の咳は、その最大到達距離が４０ｃｍ未満であることから、前記空気流の上流側に位置する医者と前記空気流の下流側に位置する患者との向き合う距離が４０ｃｍ以上を保持できれば、咳によって該咳に含まれるウイルスや菌が上流側の医師の口元に直接向かっても、医師に吸引されるおそれは減少する。しかしながら、激しく咳き込んだ場合やくしゃみが医師の口元に向かうと、その到達距離の増大によって、医師の感染リスクは増大する。
【００２９】
前記遮蔽手段は、このような激しい咳やくしゃみに伴って医師の口元にむかうウイルスや菌を医師から確実に遮断する。
【００３０】
前記遮蔽手段は、前記包囲体の天井部分から垂れ下がる可撓性合成樹脂膜からなるカーテンで構成することができる。
【００３１】
前記カーテンは、前記包囲体の前記一対の側壁部間を横切って配置され、その下縁は前記クリーンブースの床から所定の間隔をおくことができる。
【００３２】
前記カーテンは、第１のカーテン部分と、該第１のカーテン部分の一方の縁部に重なる縁部を有する第２のカーテン部分とで構成することができる。
【００３３】
この場合、前記第１のカーテン部分の下縁を前記第２のカーテン部分の下縁よりも上方に位置させることができ、この第１のカーテン部分の下縁を経て医師が治療を施すことにより、カーテンによって治療が妨げられることなく、前記した激しい咳やくしゃみに起因する医師の感染リスクをも低減することができる。
【００３４】
少なくとも前記第１のカーテン部分を巻き上げ可能とすることができる。この巻き上げ機構は、従来のブランドに採用されている巻き上げ機構を採用することができ、これにより前記第１のカーテン部分の下縁を所望の適正な高さ位置に保持することができる。
【発明の効果】
【００３５】
本発明によれば、医師は、少なくともその上半身の正面を前記方向案内手段で案内される方向へ向けて着座しあるいは立つことにより、患者の咳に含まれるウイルスや菌がたとえ着座した医師の喉元や腹部に到達しても、このウイルスや菌が滞留することはないので、医師がこれらを呼吸と共に吸い込むことはなく、従来に比較して医師の感染リスクを効果的に低減することができる。したがって、極めて単純な構成で患者の浮遊ウイルスや浮遊菌による医師の感染リスクを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００３６】
本発明に係るクリーンブース３０は、図４に示されているように、例えば病院の室内の床３２上に設置される。クリーンブース３０は、例えば奥行きＬ、幅Ｗ、高さＨを有する全体に矩形のフレーム３４と、この矩形フレーム３４を覆うビニルからなる包囲体３６とを備える。この包囲体３６には、帯電防止処理を施すことが望ましい。
【００３７】
包囲体３６は、図示の例では、矩形フレーム３４で構成される枠体の天井を覆う長方形の天井部３６ａと、該天井部の一対の長辺に沿って形成された一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂと、天井部３６ａの一方の短辺に沿って形成された端壁部３６ｃとを備える。前記クリーンブース３０の一端を構成する端壁部３６ｃに対向する部分は開放され、これにより、クリーンブース３０の他端は、開口部３６ｄで前記室内に開放されている。この例に代えて、一対の前記短辺に沿って一対の側壁部を形成し、一方の前記長辺に沿って端壁部を形成することができる。
【００３８】
クリーンブース３０の外部には、前記室内の空気を浄化してクリーンブース３０内に供給するための空気清浄機３８が端壁部３６ｃに沿って配置されている。また、包囲体３６の天井部３６ａには、空気清浄機３８から浄化空気の供給を受ける上面ダクト４０が形成されており、該上面ダクトには、空気清浄機３８からの浄化空気を床３２へ向けてほぼ垂直方向へ吹き出すためのメッシュ状あるいはスクリーン状の空気吹出口４０ａが設けられている。
【００３９】
空気吹出口４０ａから白抜き矢印４２ａで示されているように垂直方向へ吹き出された浄化空気は、床３２の近傍で包囲体３６の閉鎖端である端壁部３６ｃとは反対側にある開放口である開口部３６ｄへ向けて案内され、これにより、白抜き矢印４２ｂで示されるようなほぼ水平な浄化空気流として、開口部３６ｄを経て前記室内に放出される。
【００４０】
図４に示す例では、一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂおよび端壁部３６ｃの各下縁と、床３２との間には、埃だまりを防止する上で、１０ｃｍ以下（例えば約５ｃｍ）の間隙ｔが設けられている。しかしながら、端壁部３６ｃと床３２との間隙ｔは、空気清浄機３８からの空気の漏れ出しを防止する上で、無くすことが望ましい。また、包囲体３６の端壁部３６ｃに代えて、空気清浄機３８の外壁面でクリーンブース３０の前記一端を閉鎖することができる。
【００４１】
クリーンブース３０は、図５（ａ）乃至図５（ｃ）に示されているように、例えば上面ダクト４０を除く高さ寸法Ｈが約２０００ｃｍ、幅寸法Ｗが約１００ｃｍ、奥行き寸法Ｌが１２０ｃｍに設定することができる。また、クリーンブース３０の天井部３６ａには、例えば透明なポリ塩化ビニル板から成る明かり採り窓４４を設けることができる。
【００４２】
空気清浄機３８は、図５（ｂ）に示されているように、無停電電源装置３８ａ、該無停電電源装置により作動される送風器３８ｂおよび該送風器によって取り込まれた前記室内の空気を浄化するＨＥＰＡフィルタ３８ｃを備える。ＨＥＰＡフィルタ３８ｃを経た浄化空気は、前記したように、上面ダクト４０から垂直空気流４２ａとしてクリーンブース３０内に連続的に吹き出され、水平空気流４２ｂとしてクリーンブース３０の開口部３６ｄに向けられる。水平空気流４２ｂの平均風速は、０．１３ｍ／秒以上、好ましくは０．３ｍ／以上に設定される。
【００４３】
この水平空気流４２ｂが向けられる開口部３６ｄを境にして、図示の例では、クリーンブース３０内に医師４６のための椅子４８が配置され、それよりも水平空気流４２ｂの下流となるクリーンブース３０と反対側、すなわちクリーンブース３０外に患者５０のための椅子５２が配置されている。
【００４４】
両椅子４８および５２として、それらの座面が回転可能ないわゆる回転椅子を用いることができるが、両椅子４８および５２は、全体的に前記した水平空気流４２ｂの方向へ整列して配置されており、両椅子４８および５２に着座した姿勢で医師４６および患者５０が相互に向き合えるように、正対可能である。
【００４５】
すなわち、図６に示すように、水平空気流４２ｂが椅子４８の背後から端壁部３６ｃと直角な方向で開口部３６ｄに案内される場合、基本的に、椅子４８および５２は、水平空気流４２ｂの流れ方向に沿って間隔を置いて配置される。両椅子４８および５２の間隔は、図３に沿って説明したとおり、椅子５２に着座した患者５０が椅子４８に着座した医師４６に向けて通常の咳をした場合に、該咳に伴うミストが直接医師４６に到達しない距離を保持するに十分な間隔である約４０ｃｍ以上に設定される。
【００４６】
医師４６の定位置を規定する医師用の椅子４８が配置される床３２上には、患者５０に向き合う医師４６の正面と、水平空気流４２ｂの流れ方向とが所定の角度θ１およびθ２の範囲内にあるように、医師４８の正面方向を案内するための方向案内手段５４（５４ａ、５４ｂ）が設けられている。
【００４７】
方向案内手段５４は、図示の例では、例えば色付きテープを椅子４８の回転中心から水平空気流４２ｂの流れ方向に関してほぼ３０度（θ１）の角度をなす直線に沿って貼り付けられた方向指示テープ５４ａと、同じくほぼ７０度（θ２）の角度をなす直線に沿って貼り付けられた方向指示テープ５４ｂとからなる表示手段である。
【００４８】
図６には、椅子４８に着座する医師４６から見て右方へ角度３０度および７０度を示す表示手段５４（５４ａ、５４ｂ）が実線で示されている。また、これと対称的に、椅子４８に着座する医師４６から見て左方へ角度３０度および７０度を示す表示手段５４（５４ａ、５４ｂ）が仮想線で示されている。左右のいずれか一方の表示手段５４を採用することができ、また左右の両表示手段５４および５４を併用することができる。
【００４９】
両椅子４８および５２は、固定する必要はなく、キャスタ付きを用いることができる。
【００５０】
医師４６が、例えば椅子４８に着座して、椅子５２に着座した患者５０を診察あるいは治療する場合、医師４６の上体を左右の各表示手段５４ａおよび５４ｂが示すいずれかの角度範囲内に置くことにより、図１（ｂ）に沿って説明したとおり、従来生じていたカルマン渦６の発生を阻止することができる。
【００５１】
したがって、医師４６が少なくともその上半身を表示手段５４ａおよび５４ｂが示す角度範囲内に置く限り、診察あるいは治療中に患者５０が医師４６に向けて通常の咳をしても、この咳のミストが医師４６の喉元（１６ａ）や腹部（１６ｂ）に澱むことなく水平空気流４２ｂに沿ってその下流に流れる。これにより、この咳のミストを医師４６が吸い込むことを防止することができ、その結果、このミストに例えウイルスや菌が含まれていても、これを吸い込むことによる医師４６の感染を防止することができる。
【００５２】
医師４６は椅子４８に着座することなく立った姿勢で椅子５２の患者５０を診察あるいは治療することができるが、この場合も、医師４６は、表示手段５４ａおよび５４ｂが示す角度範囲内に体の正面を向けることにより、前記したような患者５０からの医師４６の感染を防止することができる。
【００５３】
診察あるいは治療を受けている患者５０が風上に位置する医師４６に向けて強い咳やくしゃみを発した場合、この咳やくしゃみによるミストが医師４６の口元に直接向かうことがある。
【００５４】
このミストが直接的に医師４６に向けて飛散することを防止する遮断手段５６が、図５（ｂ）および（ｃ）に示すように、椅子４８および椅子５２間で、水平空気流４２ｂが向けられる開口部３６ｄに設けられている。ここで、図５（ｂ）はクリーンブース３０を一方の側壁部３６ｂ側から見た図であり、図５（ｃ）はクリーンブース３０を開口部３６ｄ側から見た図である。医師４６は、前記表示手段５４（５４ａ、５４ｂ）に従って患者５０の正面に対し、少なくとも上半身を斜めにした関係で着座している。遮断手段５６は、着座した両者４６および５０の少なくとも上半身の一部間に介在するように、クリーンブース３０の天井部３６ａから床３２へ向けて、例えば可撓性合成樹脂膜からなる透明なカーテン５６で構成されている。カーテン５６は、クリーンブース３０の一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂ間で、少なくとも開口部３６ｄの上半部を横切って配置されており、その下縁は床３２から間隔をおく。
【００５５】
図５（ｃ）に示す例では、該図で見て左方に配置された第１のカーテン部分５６ａと、該第１のカーテン部分の右方に配置され、第１のカーテン部分４６ａの縁部に重なる縁部を有する第２のカーテン部分５６ｂとを備える。第１のカーテン部分５６ａの下縁は、第２のカーテン部分５６ｂの下縁よりも上方に位置する。
【００５６】
第２のカーテン部分５６ｂの下縁と床３２との間は、９０ｃｍ以下とすることが望ましい。また、第１のカーテン部分５６ａは、該カーテン部分が前記した診察や治療の妨げになることを防止しかつ患者５０のくしゃみや強い咳から椅子４８に着座した医師４６を保護するために、その下縁が床３２から、例えば９０ｃｍを超え１ｍ未満内の所望の高さまで上方に巻取り可能とすることができる。これにより、患者５０の身長に応じて第１のカーテン部分５６ａの下縁の高さ位置を調整し、該第１のカーテン部分を経て患者５０を診ることができる。この巻取装置として、巻取カーテンで従来よく知られた巻取機構を採用することができる。
【００５７】
また、前記巻取機構が設けられていない場合、医師４６は、必要に応じて、第１のカーテン部分５６ａに加えて第２のカーテン部分５６ｂをたくし上げることができる。
【００５８】
図７は、図６に示した方向案内手段５４の他の例を示す。図７に示す方向案内手段５４は、左右のそれぞれで、水平空気流４２ｂとなす角度θ３が３０度（θ１）および７０度（θ２）の中間角度である５０度（θ３）を示す直線に沿ったテープで形成されている。この場合、各方向案内手段５４は、該手段の左右のそれぞれの角度域に２０度の許容範囲をもつ。したがって、医師４６は、方向案内手段５４の方向を限界的に意識することなく、すなわち方向案内手段５４による強い拘束を受けることなく、診察や治療することが可能となる。
【００５９】
また、図８に示すように、床３２と平行な水平面上で見て、水平空気流４２ｂに関して角度的な直線５６（水平空気流４２ｂとの角度が０度を超え９０度未満の関係にある直線）に沿って、椅子４８および５２を互いに対向させて配置することができる。この場合、直線５６と水平空気流４２ｂとが７０度（θ３）をなすように両椅子４８および５２を配置することにより、水平空気流４２ｂとなす角度θ３を指す前記テープのような方向案内手段５４は椅子４８の真正面に向けて形成することができる。そのため、椅子４８に着座した医師４６は、椅子５２に着座した患者５０から上体を捩ることなく、該患者を正面に捉えて診察および治療を施すことが可能となる。また、前記した角度的な配置により、図６および７に示した例に比較して、医師４６はその上体をより患者５０の正面に向けた状態で診察および治療が可能となる。
【００６０】
前記したところでは、包囲体３６の天井部３６ａから吹き出された垂直空気流４２ａが水平空気流４２ｂに方向変換された例について説明した。これに代えて、図９（ａ）および（ｂ）に示すように、空気清浄機３８のＨＥＰＡフィルタ３８ｃを経ることにより浄化された空気を包囲体３６の端壁部３６ｃから水平空気流４２ｂとして包囲体３６内に供給することができる。図９（ａ）の例では、空気清浄機３８の空気吹出口３８ｄは端壁部３６ｃの上半部に形成されており、前記空気吹出口３８ｄの下縁は床３２から間隔をおく。これに代えて、端壁部３６ｃの下半部を含むその全面に空気吹出口３８ｄを形成し、端壁部３６ｃの全面から水平空気流４２ｂを供給することもできる。
【００６１】
また、この水平空気流４２ｂのために、図１０に示すように、クリーンブース３０内にその端壁部３６ｃと角度的にクリーンパーティション５８を配置し、該パーティションからの水平空気流４２ｂと例えば７０度をなす直線に沿って椅子４８および５２を配置することができる。この場合、医師４６のための椅子４８が患者５０のための椅子５２よりも水平空気流４２ｂの風上側すなわち上流側に位置するように、配置される。また図１０に示す例では、方向案内手段５４は、図８に示した例におけると同様に、水平空気流４２ｂに関して５０度（角度θ３）の直線に沿って形成されている。
【００６２】
さらに、患者５０用の椅子５２をクリーンブース３０外に配置することに代えて、両椅子４８および５２をクリーンブース３０内に配置することができる。しかしながら、クリーンブース３０の小型化のために、前記したように、患者５０用の椅子５２をクリーンブース３０外に配置することが望ましい。
【００６３】
さらに、方向案内手段５４は、一対の側壁部３６ｂおよび３６ｂに形成することができる。また方向案内手段５４として、椅子４８の座面の回転領域を例えば所定の回転領域を超えるとき回転操作に節度感を与えるノッチ機構のような規制手段を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【００６４】
本発明は、上記実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない限り、種々に変更することができる。垂直空気流４２ａは、開口部３６ｄへ向けてわずかに傾斜角をなす縦方向空気流出であっても良く、また水平空気流４２ｂは、床３２へ向けてわずかに傾斜する横方向空気流であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【００６５】
【図１】医師が背面から空気流を受けるときの医師の正面方向および空気流の流れ方向で構成される角度と、澱み域の生成との関係を調べる実験装置の概略図であり、（ａ）は空気流の流れ方向を向いた状態で形成される喉元および下腹部近傍に発生する澱み域を示す図面であり、（ｂ）はカルマン渦の消滅と医師の正面方向との角度関係を示す図面である。
【図２】図１に示した実験の測定結果を整理して示す図表である。
【図３】咳およびくしゃみによる粒子の時間の経過と、最大速度および到達距離図との関係を示すグラフである。
【図４】本発明に係るクリーンブースを概略的に示す斜視図である。
【図５】図４に示したクリーンブースの図面であり、（ａ）は平面図、（ｂ）は正面図、（ｄ）は側面図をそれぞれ示す。
【図６】本発明に係るクリーンブースの椅子の配置例および方向案内手段の一例を示す説明図である。
【図７】本発明に係るクリーンブースの方向案内手段の他の一例を示す図６と同様な図面である。
【図８】本発明に係るクリーンブースの椅子の他の配置例および方向案内手段のさらに他の一例を示す図６と同様な図面である。
【図９】本発明に係るクリーンブースの他の実施例を示す図５と同様な図面であり、（ａ）は正面図、（ｂ）は側面図をそれぞれ示す。
【図１０】本発明に係るクリーンブースのさらに他の実施例を示す図６と同様な図面である。
【図１１】従来技術を説明する図面であり、（ａ）は空気流の流れ方向を向いた状態で形成される喉元および下腹部近傍に発生する澱み域を示す図面であり、（ｂ）はカルマン渦の発生を示す図面である。
【符号の説明】
【００６６】
３０ クリーンブース
３２ 床
３６ クリーンブースの包囲体
３６ａ 包囲体の天井部
３６ｂ 包囲体の側壁部
３６ｄ 包囲体の開放口（開口部）
３８ｄ 空気吹出口
４８ 医師用椅子
５４（５４ａ、５４ｂ） 方向案内手段（表示手段）
【特許請求の範囲】
【請求項１】
横方向空気流下で該空気流の流れ方向へ間隔をおいて相互に向き合うように配置される患者用椅子および医師用椅子を備え、該医師用椅子が前記患者用椅子よりも前記横方向空気流の上流側に配置される感染防止クリーンブースであって、さらに、前記医師用椅子に着座する医師の正面方向がほぼ水平な面上で前記横方向空気流の流れ方向に関して所定の角度なすように案内するための方向案内手段を備えることを特徴とする感染防止クリーンブース。
【請求項２】
前記所定角度は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右の少なくとも一方の側で３０度以上７０度以下の範囲内である、請求項１に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項３】
前記方向案内手段は、前記クリーンブースの床に表示された表示手段から成る、請求項２に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項４】
前記表示手段は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度以上７０度以下内の所定角度を指示する、請求項３に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項５】
前記表示手段は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度以上７０度以下の角度領域を指示する、請求項３に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項６】
さらに、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する包囲体を備え、該包囲体は、端壁部および一対の側壁部および天井部を有し、前記端壁部に対向して前記開放口が開放し、前記端壁部には前記横方向空気流を形成するための空気吹出口が設けられている、請求項２に記載のクリーンブース。
【請求項７】
前記空気吹出口の下縁は、前記クリーンブースの床から所定の高さ間隔をおいて形成されている、請求項６に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項８】
さらに、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する包囲体を備え、該包囲体は、端壁部および一対の側壁部および天井部を有し、前記端壁部に対向して前記開放口が開放し、前記天井部に縦方向空気流を形成するための空気吹出口が設けられており、該空気吹出口から前記床へ向けての空気流が前記包囲体の前記開放口へ向かうことにより、前記横方向空気流が形成される、請求項２に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項９】
前記医師用椅子と患者用椅子との間には、患者の咳が直接医師に向かうことを阻止するための透明な遮蔽手段が設けられている、請求項６または７に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１０】
前記遮蔽手段は、前記包囲体の天井部分から垂れ下がる可撓性合成樹脂膜からなるカーテンである、請求項９に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１１】
前記カーテンは、前記包囲体の前記一対の側壁部間を横切って配置され、その下縁は前記クリーンブースの床から所定の間隔をおく、請求項１０に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１２】
前記カーテンは、第１のカーテン部分と、該第１のカーテン部分の一方の縁部に重なる縁部を有する第２のカーテン部分とを備える、請求項１１に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１３】
前記第１のカーテン部分の下縁は、前記第２のカーテン部分の下縁よりも上方に位置する、請求項１２に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１４】
少なくとも前記第１のカーテン部分は、巻き上げ可能である、請求項１３に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１】
横方向空気流下で該空気流の流れ方向へ間隔をおいて相互に向き合うように配置される患者用椅子および医師用椅子を備え、該医師用椅子が前記患者用椅子よりも前記横方向空気流の上流側に配置される感染防止クリーンブースであって、さらに、前記医師用椅子に着座する医師の正面方向がほぼ水平な面上で前記横方向空気流の流れ方向に関して所定の角度なすように案内するための方向案内手段を備えることを特徴とする感染防止クリーンブース。
【請求項２】
前記所定角度は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右の少なくとも一方の側で３０度以上７０度以下の範囲内である、請求項１に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項３】
前記方向案内手段は、前記クリーンブースの床に表示された表示手段から成る、請求項２に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項４】
前記表示手段は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度以上７０度以下内の所定角度を指示する、請求項３に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項５】
前記表示手段は、前記医師用椅子の位置から前記横方向空気流の流れ方向へ向けて該方向となす角度θが左右のそれぞれの側で３０度以上７０度以下の角度領域を指示する、請求項３に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項６】
さらに、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する包囲体を備え、該包囲体は、端壁部および一対の側壁部および天井部を有し、前記端壁部に対向して前記開放口が開放し、前記端壁部には前記横方向空気流を形成するための空気吹出口が設けられている、請求項２に記載のクリーンブース。
【請求項７】
前記空気吹出口の下縁は、前記クリーンブースの床から所定の高さ間隔をおいて形成されている、請求項６に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項８】
さらに、少なくとも前記医師用椅子を取り巻く空間を形成する包囲体であって開放口を有する包囲体を備え、該包囲体は、端壁部および一対の側壁部および天井部を有し、前記端壁部に対向して前記開放口が開放し、前記天井部に縦方向空気流を形成するための空気吹出口が設けられており、該空気吹出口から前記床へ向けての空気流が前記包囲体の前記開放口へ向かうことにより、前記横方向空気流が形成される、請求項２に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項９】
前記医師用椅子と患者用椅子との間には、患者の咳が直接医師に向かうことを阻止するための透明な遮蔽手段が設けられている、請求項６または７に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１０】
前記遮蔽手段は、前記包囲体の天井部分から垂れ下がる可撓性合成樹脂膜からなるカーテンである、請求項９に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１１】
前記カーテンは、前記包囲体の前記一対の側壁部間を横切って配置され、その下縁は前記クリーンブースの床から所定の間隔をおく、請求項１０に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１２】
前記カーテンは、第１のカーテン部分と、該第１のカーテン部分の一方の縁部に重なる縁部を有する第２のカーテン部分とを備える、請求項１１に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１３】
前記第１のカーテン部分の下縁は、前記第２のカーテン部分の下縁よりも上方に位置する、請求項１２に記載の感染防止クリーンブース。
【請求項１４】
少なくとも前記第１のカーテン部分は、巻き上げ可能である、請求項１３に記載の感染防止クリーンブース。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【公開番号】特開２０１０−１０１５４５（Ｐ２０１０−１０１５４５Ａ）
【公開日】平成２２年５月６日（２０１０．５．６）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−２７２７００（Ｐ２００８−２７２７００）
【出願日】平成２０年１０月２３日（２００８．１０．２３）
【出願人】（０００１６９４９９）高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】（５０４１３６９９３）独立行政法人国立病院機構 (37)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２２年５月６日（２０１０．５．６）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年１０月２３日（２００８．１０．２３）
【出願人】（０００１６９４９９）高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】（５０４１３６９９３）独立行政法人国立病院機構 (37)
【Ｆターム（参考）】
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