説明

感温性ポリマー組成物および感温性遮光資材

【課題】特別な封入技術を必要とせず、封入材料として汎用フィルムを使用することが出来、繰り返し使用によって曇点が変化しない感温性ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】ポリエチレングリコール又はその誘導体(成分A)と、α,β−不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体のアルカリ金属水酸化物による部分中和物(成分B)と、水または水を含む極性溶媒(成分C)から成り且つ曇点が10〜100℃の範囲にある組成物であって、成分Aの重量平均分子量が300〜2000であり、成分Aと成分Bとの重量比(A/B)が0.05〜10であり、全成分(任意成分を含む場合は当該任意成分を含めた全成分)に対する成分Cの濃度が0.1〜20重量%である感温性ポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温性ポリマー組成物および感温性遮光資材に関し、詳しくは、曇点により高温時には不透明となり低温時には透明となる感温性ポリマー組成物および感温性遮光資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業用ハウスや透明窓を有する室内には、夏期の直射日光で必要以上に内部温度が上昇するのを防止するため、感温性遮光資材の利用が試みられている。
【0003】
曇点により高温時には不透明となり低温時には透明となる感温性材料としては、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液(特許文献1)、ポリビニルメチルエーテルの水溶液(非特許文献1)等が知られている。
【0004】
しかしながら、上記の感温性材料は、水溶液であるため、合わせガラス間に封じることが困難である。一方、合わせガラスの代わりに透明フイルムを使用せんとした場合は、長期間使用における水分透過による組成変化に伴う曇点の変化の問題がある。
【0005】
また、2種の高分子を含み実質的に溶媒を含まないポリマーブレンドにおいて、曇点を有する系が存在する。このうち、ポリアクリル酸部分中和物とポリエチレングリコール(重量平均分子量5,000)のポリマーブレンドの曇点は、中和度や組成によって変化し、約40〜130℃であることが知られている(非特許文献2)。
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記のポリマーブレンドの場合、ポリエチレングリコールの結晶が形成されるため、繰り返し使用において曇点が変化するという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平7−242447号公報
【非特許文献1】D. P. Gundlach and K. A. Burdett, Journal of Applied Polymer Science, 51, 731 (1994) .
【非特許文献2】X. Lu and R. A. Weiss, Macromolecules 28, 3022 (1995).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、特別な封入技術を必要とせず、封入材料として汎用フィルムを使用することが出来、繰り返し使用によって曇点が変化しない感温性ポリマー組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記の感温性ポリマー組成物を使用して成る感温性遮光資材を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、前述のポリマーブレンドにおける結晶形成の問題を解決して優れた感温性ポリマー組成物を見出すべく検討を重ねた結果、特定の分子量のポリエチレングリコール又はその誘導体を使用すると共に、追加成分として特定量の極性溶媒を使用することにより、上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得、本発明の完成に到った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の第1の要旨は、ポリエチレングリコール又はその誘導体(成分A)と、α,β−不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体のアルカリ金属水酸化物による部分中和物(成分B)と、水または水を含む極性溶媒(成分C)から成り、成分Aの重量平均分子量が300〜2000であり、成分Aと成分Bとの重量比(A/B)が0.05〜10であり、全成分(任意成分を含む場合は当該任意成分を含めた全成分)に対する成分Cの濃度が0.1〜20重量%であり、曇点が10〜100℃の範囲にあることを特徴とする感温性ポリマー組成物に存する。
【0011】
そして、本発明の第2の要旨は、2枚の透明基体の間に上記の感温性ポリマー組成物の薄膜を形成して成ることを特徴とする感温性遮光資材に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期間に亘って感温遮光性を保持できる感温性ポリマー組成物が提供される。透明基体に汎用フイルムを使用した本発明の感温性遮光資材の場合、夏期は充分な遮光資材、冬季は透明資材となり、また、透明基体にガラスを使用した場合は感温遮光ガラスとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
【0014】
先ず、本発明の感温性ポリマー組成物について説明する。本発明の感温性ポリマー組成物は、後述する成分A〜Cから成り、感温性遮光資材への応用を考慮し、曇点が10〜100℃の範囲にある様に設計されている。
【0015】
<成分A>
本発明においては、成分Aとして、ポリエチレングリコール又はその誘導体を使用する。ポリエチレングリコールの誘導体としては、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。成分Aの重量平均分子量は300〜2,000でなければならない。成分Aの重量平均分子量が2,000を超える場合は、本発明の感温性ポリマー組成物の白濁時(すなわち高温時)に結晶が形成されることがあり、斯かる結晶生成によって繰り返し性が失われる。成分Aの重量平均分子量は好ましくは400〜1,000である。
【0016】
<成分B>
本発明においては、成分Bとして、α,β−不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体のアルカリ金属水酸化物による部分中和物を使用する。α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アコニット酸、フマル酸、クロトン酸などが挙げられる。また、共重合成分としては、例えば、アクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレート等が挙げられる。
【0017】
上記のアクリレートのアルキル基の側鎖は通常1〜5であり、斯かるアクリレートの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート等が挙げられる。上記のヒドロキシアルキルアクリレートの具体例としては、ヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシペンチルアクリレート、6−ヒドロキシヘキシルアクリレート等が挙げられる。共重合成分の割合は通常50モル%以下である。
【0018】
アルカリ金属とは、ナトリウム、リチウム、カリウム等である。アルカリ金属としては、ナトリウム又はリチウムが好ましい。成分Bの中和度は、通常10〜50モル%、好ましくは、ナトリウムの場合:25〜30モル%、リチウムの場合:35〜50モル%である。なお、中和度50モル%とは成分Bを構成するα,β−不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体に含まれるカルボン酸の理論量の50モル%に相当するアルカリ金属を含むことを意味する。
【0019】
<極性溶媒C>
本発明においては、成分Cとして水または水を含む極性溶媒を使用する。極性溶媒としては、水と親和性のあるアルコール類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。極性溶媒における水の含量の下限は、通常10重量、好ましくは20重量%である。
【0020】
<任意成分D>
本発明においては、任意成分(補助成分)Dとして、例えば、酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、顔料、染料、発泡剤、滑剤など配合することが出来る。また、水溶性高分子、金属塩、有機酸など、溶液に溶解する物質を含んでもよい。
【0021】
<各成分の割合>
本発明の感温性ポリマー組成物において、成分Aと成分Bとの重量比(A/B)は、0.05〜20、好ましくは0.1〜10、更に好ましくは0.2〜5であり、全成分(任意成分を含む場合は当該任意成分を含めた全成分)に対する成分Cの濃度は、0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%である。なお、任意成分Dを含む場合、その割合は、任意成分を含めた全成分に対する割合として、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
【0022】
本発明の感温性ポリマー組成物における成分C(水または水を含む極性溶媒)の上記の割合は、上記の各成分を混合する感温性ポリマー組成物の調製時に調整してもよいし、感温性ポリマー組成物を塗布乾燥させた後に調整してもよい。すなわち、残留溶剤量として調整してもよい。
【0023】
本発明の感温性ポリマー組成物は、水または水を含む極性溶媒を含有するが、液体ではなく、容器に収容し、容器の口部を横に位置させた状態から容器の口部が下向きになる様に30°傾斜させて1分間保持させ際に液ダレしない組成物である。
【0024】
本発明の組成物は下記の様に調製される。すなわち、α、β−不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体の水溶液に、所定の中和度に相当するアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、成分Bを含む溶液を調製する。この際、α、β−不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体の水溶液には、溶解性を損なわない範囲において、上記の極性溶媒を構成する有機溶媒が含まれていてもよい。成分Bを含む溶液中の固形分濃度は、通常1〜50重量%である。一方、成分Aについては、斯かる成分を含む溶液を調製する。溶媒としては、水、上記の極性溶媒を構成する有機溶媒または両者の混合溶媒を使用し、固形分濃度として1〜50重量%の溶液とする。以上の成分A及び成分Bを含む溶液を、上記の各成分の割合に準じ混合し、公知の方法に従い攪拌し、組成物を得るための溶液を調製する。なお、任意成分Dは、個々の成分を含む溶液に加えてもよいし、両者を混合した溶液に加えてもよい。かくして得られる溶液から、公知の濃縮方法、乾燥方法などにより、溶媒を必要量除去し、所定量の成分A,B,C,Dを含む本発明の組成部を得る。塗布・乾燥して本発明の組成物を得る場合、乾燥後の残留溶媒量として成分Cを調製してもよい。
【0025】
次に、本発明の感温性遮光資材について説明する。本発明の感温性遮光資材は、2枚の透明基体の間に前記の感温性ポリマー組成物の薄膜を形成して成る。
【0026】
透明基体としては、各種の樹脂フィルムやシートの他、ガラス等が挙げられる。樹脂の種類は熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。薄膜の形成には、スプレー処理の他、透明基体の形状に応じて公知の各種の塗布方法が適用される。例えば、ドクターブレードコート法、グラビアロールコート法、エヤナイフコート法、リバースロールコート法、デイプコート法、カーテンロールコート法、スプレイコート法、ロッドコート法などの塗布方法が使用される。
【0027】
塗布方式を採用した場合の溶媒の乾燥方法としては、例えば、自然乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、遠赤外線乾燥法などがあるが、乾燥速度や安全性を勘案すれば熱風乾燥法が有利である。この場合、温度条件は30℃〜100℃の範囲とし、乾燥時間は10秒から15分の間で選ぶのがよい。薄膜の厚さは、遮光能力と必要とする遮光程度により調整すればよいが、通常0.5μm〜100μm、好ましくは1μm〜50μmである。
【0028】
なお、上記の薄膜の形成の先立ち、予め、透明基体の表面に必要な前処理を施してもよく、斯かる前処理としては、アルコール又は水による洗浄、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、他の塗料の下塗り等が挙げられる。
【0029】
また、2枚の透明基体の間に前記の感温性ポリマー組成物の薄膜を形成してサンドイッチ構造にする方法としては、1枚の透明基体片面に公知の方法で塗布した後、塗布面にもう1枚の透明基体を被覆する方法が簡便である。得られた積層体の周縁部は、必要に応じ、接着剤、硬化剤などの公知の手段でシールしてもよい。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1及び2:
<透明基体:ポリオレフィン系ハウス用積層フィルムの調製>
直径100mmの三層ダイ((株)プラ技研製)と、直径30mmの内外層用の2台の押出機((株)プラ技研製)と、直径40mmの中間層用の押出機((株)プラ技研製)とから成る三層インフレーション成形装置を使用し、表1に示す層構成のポリオレフィン系ハウス用積層フィルムを製造した。成形温度は190℃、ブロー比は3.0、引取速度は4m/分とした。
【0032】
【表1】

【0033】
<感温性ポリマー組成物の調製>
先ず、表2に記載の所定量の蒸留水で溶解させたアクリル酸の水溶液を水酸化ナトリウム又は水酸化リチウムで所定の中和度になる様に予め中和し、その水溶液に、所定量のポリエチレングリコール、所定量のメタノールを添加して組成物を得た。次いで、前述のハウス用積層フィルムの外層の表面に、アプリケーターを使用し、上記の組成物を塗布した後、40℃のオーブン中に3分間保持して溶媒の一部を除去し、薄膜状の本発明の感温性ポリマー組成物を調製した。薄膜の厚さは20g/・であり、薄膜中の水分量は10重量%であった。本発明の感温性ポリマー組成物は、サンドイッチ構造とせず、水分の吸湿・放出が可能な条件下では低温側にシフトした感温性を示すため、上記の非サンドイッチ構造の薄膜をそのまま次の冷温サイクル試験に供した。
【0034】
<感温性ポリマー組成物の評価>
10℃で1時間保持した後に30℃/30分の速度で昇温して40℃で1時間保持するサイクルを繰り返す冷温サイクル試験を行なった。そして、1ヶ月毎に、10℃、40℃での外観を観察した。結果を表2に示す。同表から明らかな様に、本発明の感温性ポリマー組成物は感温耐久性に優れている。
【0035】
比較例1:
先ず、表2に記載の所定量の蒸留水に、所定量のポリエチレングリコール、所定量のメタノールを添加して組成物を得た。次いで、前述のハウス用積層フィルムの外層の表面に、アプリケーターを使用し、上記の組成物を塗布した後、40℃のオーブン中に3分間保持して溶媒の一部を除去し、薄膜状のポリマー組成物を調製した。薄膜の厚さは20g/・であり、薄膜中の水分量は10重量%であった。評価結果を表2に示す。同表から明らかな様に、比較例1のポリマー組成物は感温性を示さなかった。
【0036】
比較例2:
先ず、表2に記載の所定量の蒸留水で溶解させたアクリル酸の水溶液を水酸化ナトリウム水溶液で所定の中和度になる様に予め中和し、その水溶液に、所定量のメタノールを添加して組成物を得た。次いで、前述のハウス用積層フィルムの外層の表面に、アプリケーターを使用し、上記の組成物を塗布した後、40℃のオーブン中に3分間保持して溶媒の一部を除去し、薄膜状のポリマー組成物を調製した。薄膜の厚さは20g/・であり、薄膜中の水分量は10重量%であった。評価結果を表2に示す。同表から明らかな様に、比較例2のポリマー組成物は感温性を示さなかった。
【0037】
比較例3:
先ず、表2に記載の所定量の蒸留水で溶解させたアクリル酸の水溶液に、所定量のポリエチレングリコール、所定量のメタノールを添加して組成物を得た。次いで、前述のハウス用積層フィルムの外層の表面に、アプリケーターを使用し、上記の組成物を塗布した後、40℃のオーブン中に3分間保持して溶媒の一部を除去し、薄膜状のポリマー組成物を調製した。薄膜の厚さは20g/・であり、薄膜中の水分量は10重量%であった。評価結果を表2に示す。同表から明らかな様に、比較例3のポリマー組成物は感温性を示さなかった。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール又はその誘導体(成分A)と、α,β−不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体のアルカリ金属水酸化物による部分中和物(成分B)と、水または水を含む極性溶媒(成分C)から成り、成分Aの重量平均分子量が300〜2000であり、成分Aと成分Bとの重量比(A/B)が0.05〜10であり、全成分(任意成分を含む場合は当該任意成分を含めた全成分)に対する成分Cの濃度が0.1〜20重量%であり、曇点が10〜100℃の範囲にあることを特徴とする感温性ポリマー組成物。
【請求項2】
成分Bのアルカリ金属がナトリウム又はリチウムである請求項1に記載の感温性ポリマー組成物。
【請求項3】
成分Bの中和度が10〜50モル%である請求項1又は2に記載の感温性ポリマー組成物。
【請求項4】
2枚の透明基体の間に請求項1〜3の何れかに記載の感温性ポリマー組成物の薄膜を形成して成ることを特徴とする感温性遮光資材。

【公開番号】特開2007−70497(P2007−70497A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260038(P2005−260038)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(504137956)MKVプラテック株式会社 (59)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】