説明

感温材料

【目的】 配向性の優れた感温材料を提供する。
【構成】 MをGaまたはGeのうちの1種または2種とすると、Nd(Co1-X-Y-Z FeX AlY Z W ただし、0<X≦0.30、0≦Y≦0.30、0.001<Z<0.304.4≦W≦5.6で表される組成を有する感温材料。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、温度センサー、温度変化に感知するスイッチ、弁などに用いられる配向性の優れた感温材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】温度が変化することで結晶の磁化容易方向が変化する磁性体は、オルソフェライタやオルソクロマイトの酸化物のほか、RCo5 型(Rは希土類元素)、R2 Co17型、R2 Co14型、R(MT)12型(MTは遷移元素)などの合金があることが知られている。
【0003】これらのうち感温材料として用いられるものは、磁気特性にも優れているNdCo5 、DyCo5 などがあり、この両者はいずれも、低温で磁化容易軸が結晶のc面内にあり、温度上昇と共にある温度TSR1 で磁化容易軸が結晶のc軸方向に回転し始め、ある温度TSR2 で磁化容易軸の回転が終了し、磁化容易軸化方向は完全に結晶のc軸方向となる(かかる性質を有する磁性体を、スピン再配列磁性体と呼ばれている)。
【0004】また、この両者の全率固溶体(Nd、Dy)Co5 は、NdCo5 およびDyCo5 の中間的な性質を示すことも知られている。
【0005】さらに、NdCo5 のCoの一部をB、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Hf、Pd、Ag、Pt、Sn、Pbの1種以上で置換した感温材料があることは特公昭60−1940号公報に記載されている。上記公報記載のCoの一部をFeおよびAlで置換したNd(Fe,Al,Co)5 感温材料において、Alは、遷移温度を上昇させるため、またFeは飽和磁化を増大させるために置換されている。
【0006】上記感温材料は、一般に、感温材料の原料粉末を遷移温度以上で磁場中プレス成形して成形体を作製し、この成形体を水素雰囲気中、Ar雰囲気中、または真空雰囲気中で焼結することにより製造される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記NdCo5 は、飽和磁化が約1.2テラス(以下、Tと記す)と大きいが、遷移温度が室温以下にあるために常温で使用するには適当でなく、一方、DyCo5 は飽和磁化が約0.35Tと小さく、実用にならないという問題点があった。
【0008】さらに、この両者の全率固溶体(Nd、Dy)Co5 は、上記NdCo5 およびDyCo5 の欠点を補いあっていると言えるが、このことは、逆にこの両者の欠点を兼ね備えていると言える。すなわち、NdCo5 の一部をDyで置換すると、遷移温度は上昇するが、飽和磁化が極端に小さくなって実用に供することができないのである。
【0009】また、Nd(Fe,Al,Co)5 は、Coの一部をAlを添加することにより遷移温度を上昇させ、またFeを加えることにより飽和磁化を増大させているが、Al添加量が多くなるほど飽和磁化が小さくなるので実用的な感温材料としては十分満足のいくものではなかった。
【0010】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、遷移温度を上昇させると同時に従来よりも飽和磁化の大きい感温材料をを開発すべく研究を行った結果、Nd(Fe,Al,Co)5 におけるAlの全部または一部をGeまたはGaで置換すると、飽和磁化の減少を抑えるとともに、遷移温度域を上昇させ、かつ感温材料の配向性を向上せしめ、したがって、得られた感温材料の感温特性は向上する、という知見を得たのである。
【0011】この発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、MをGaまたはGeのうちの1種または2種とすると、Nd(Co1-X-Y-Z FeX AlY Z W ただし、0<X≦0.30、0≦Y≦0.30、0.001<Z<0.304.4≦W≦5.6で表される組成を有する感温材料に特徴を有するものである。
【0012】この発明において、W、X、YおよびZを上記のごとく限定した理由は次の通りである。すなわち、Xが0.30をこえるとNdCo5 型構造を維持することができず、飽和磁化が増大する効果が得られないので好ましくなく、Yが0.30をこえると遷移温度が向上するが、NdCo5 型構造を維持することができないので好ましくなく、さらに、Zが0.30以上になるとNdCo5 型構造を維持することができないので好ましくなく、0.001以下では配向性の改善はなされないので好ましくないからである。また、Wは、ほぼ5前後であるので4.4≦W≦5.6と定めた。
【0013】この発明において、GaまたはGeのうちの1種または2種をAlの一部または全部を置換することにより配向性の良い感温材料が得られるが、配向性の良い感温材料は、磁化容易方向では配向性が良いほど磁化曲線の低磁場での立上がりが鋭くなり、逆に、磁化困難方向では配向性が良いほど磁化曲線の低磁場での立上がりはなだらかになる。
【0014】したがって、遷移温度域の上端の温度(すなわち、磁化容易軸が完全にc軸方向となる温度)をTsr2 とし、このTsr2 より10℃高い温度をTaとすると、Ta=Tsr2 +10℃となり、さらに、遷移温度域の下端の温度(すなわち、磁化容易軸が完全にc面内となる温度)をTsr1 とし、このTsr1 より10℃低い温度をTbとすると、Tb=Tsr2 −10℃となるが、上記TaおよびTb温度における500エルステッドにおける磁化MH=500Oe と飽和磁化Ms との比S(=MH=500Oe /Ms )が配向性の目安となることが明かとなったのである。
【0015】すなわち、(1) 成形時印加磁場方向では、TaではSが高いほど、また、TbではSが低いほど配向性が優れている、(2) 逆に、成形時印加磁場方向に垂直な方向では、TaではSが低いほど、また、TbではSが高いほど配向性が優れている、ことが明かとなったのである。
【0016】本発明者らは、S1〜S4を、それぞれ、S1:Taにおける成形時印加磁場方向でのS、S2:Taにおける成形時印加磁場方向に垂直な方向でのS、S3:Tbにおける成形時印加磁場方向でのS、S4:Tbにおける成形時印加磁場方向に垂直な方向でのS、と定義し、上記S1〜S4を使って、前述したことを言い換えると、高配向ほどS1とS4は大きく、またS2とS3は小さくなると言える。
【0017】
【実施例】高周波溶解炉で表1〜表4に示される成分組成の合金を溶製し、これら合金溶湯を金型に鋳造してインゴットを作製し、これらインゴットを1120℃で20時間、Arガス中で均質化処理し、これら均質化処理したインゴットをそれぞれ湿式ボールミル法にて3時間粉砕し、平均粒径:3μmまで微粉砕した。
【0018】これら粉末を温度:150℃において12KOeの磁場を加えながら2ton/cm2 の圧力でプレス成形し、縦:12mm、横:10mm、高さ:6mmの寸法を有する成形体を作製した。その後、この成形体を真空度:1×10-5torr、温度:1250℃、2時間保持の条件で焼結し、本発明感温材料1〜24および比較感温材料1〜10を製造した。これら本発明感温材料1〜24および比較感温材料1〜10の相対密度を測定したところ、ほぼ99.6%であり、さらに試料振動型磁力計を用いて、飽和磁化、Tsr1 およびTsr2 、並びにS1〜S4を測定し、それらの結果を表1〜表4に示した。
【0019】なお、上記比較感温材料1〜10は、組成式:Nd(Co1-X-Y-Z FeX AlY Z W におけるX、Y、ZおよびWのいずれかがこの発明の条件から外れている感温材料である。
【0020】さらに、比較のために、高周波溶解炉でNd(Al0.11、Fe0.05、Co0.845 合金を溶製し、このインゴットを湿式ボールミル法にて3時間粉砕し、平均粒径:3μmまで微粉砕し、得られたNd(Al0.11、Fe0.05、Co0.845 粉末を温度:150℃において12KOeの磁場を加えながら2ton/cm2 の圧力でプレス成形し、縦:12mm、横:10mm、高さ:6mmの寸法を有する成形体を作製した。
【0021】その後、この成形体を真空度:1×10-5torr、温度:1250℃、2時間保持の条件で焼結し、従来感温材料1を製造した。この従来感温材料1の相対密度を測定し、さらに試料振動型磁力計を用いて、飽和磁化、Tsr1 およびTsr2 、並びにS1〜S4を測定し、それらの結果を表4に示した。
【0022】
【表1】


【0023】
【表2】


【0024】
【表3】


【0025】
【表4】


【0026】
【発明の効果】表1〜表4の結果から、本発明感温材料1〜24は、いずれも比較感温材料1〜10および従来感温材料1に比べて、相対密度、Tsr1 およびTsr2 はほぼ等しいが、飽和磁化は優れ、さらにS1とS4は大きく、またS2とS3は小さいところから、配向性が優れていることがわかる。したがって、この発明によると従来よりも優れた感温材料を提供することができ、産業上優れた効果を奏するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 MをGaまたはGeのうちの1種または2種とすると、Nd(Co1-X-Y-Z FeX AlY Z W ただし、0<X≦0.30、0≦Y≦0.30、0.001<Z<0.304.4≦W≦5.6で表される組成を有する感温材料。