説明

感温遮光資材

【課題】 高温時には遮光し、低温時には透明となる感温変化が長期間維持できる感温遮光資材を提供する。
【解決手段】 LCST挙動を示すポリマー溶液を内包するカプセル(A)と、カプセル外に存する溶液(B)が共存した層を有することを特徴とする感温遮光資材。好ましくは(A)のポリマー溶液が、アクリルアミド系誘導体水溶液、又は多糖類誘導体水溶液であることを特徴とする請求項1記載の感温遮光資材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温時には光を遮り、低温時には光を透過するように形成された感温遮光資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業用ハウスや、透明窓を有する室内は、夏期の直射日光で必要以上に内部温度が上昇するため、高温時には透明から白色に可逆的に変化する感温遮光材の開発が試みられてきた。例えば特許文献1には、温度の変化により、低温で透明で高温で白濁化するアクリルアミド系水溶液等の感温材料を合わせガラスの間に密封した例が示されている。しかし20年以上前からこのような研究が行われていたにもかかわらず、現実には、合わせガラスの中間に感温材料を組み込んだ実用例が、近年一つ見られたのみであり、特に農業用フイルムなどの汎用樹脂フイルムを用いた系では全く実用化に適した資材は得られていない。その理由の一つとして、必要とする温度領域において感温変化を示す材料は、水を含有することが必要であったため、汎用フイルムでは、水分の透過が避けられず、経時で水分量が減少し、感温変化の耐久性に乏しいという問題点がある。また、合わせガラスに使用した場合でも、感温変化の繰り返しにより、徐々に相分離による沈殿物が堆積し、遮光程度が低下していくという問題点があった。
【0003】
【特許文献1】特公平5−35412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高温時には遮光し、低温時には透明となる感温変化が長期間維持できる感温遮光資材を提供することにある。本発明者等は種々検討した結果、LCST挙動を示すポリマー溶液を内包したカプセルと共に、そのカプセル外に存する溶液が共存した層を有すると、意外にも感温変化の耐久性に優れた感温遮光資材が得られることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の要旨は、1)LCST挙動を示すポリマー溶液を内包するカプセル(A)と、カプセル外に存する溶液(B)が共存した層を有する感温遮光資材に存する。好ましくは、2)(A)のポリマー溶液が、アクリルアミド系誘導体水溶液、又は多糖類誘導体水溶液であることを特徴とする感温遮光資材、更に好ましくは3)(B)が、(A)に含有されたポリマー溶液を含むことを特徴とする感温遮光資材に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の感温遮光資材を用いれば、感温遮光性が長期間保持できる。汎用フイルムに適用し農業用ハウスに使用した場合、夏期は充分な遮光被覆材、冬季は透明被覆材となり、また、ガラスに適用した場合でも、相分離を起こさず安定した感温遮光ガラスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる態様に限定されるわけではない。
本発明におけるLCST挙動を示すポリマー溶液(A)とは、低温で透明、高温で不透明となるポリマー溶液、すなわち下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)を境に相転移(例えば親水性−疎水性)を可逆的に示す温度感受性高分子の溶液を意味し、例えば(メタ)アクリルアミド系誘導体溶液や多糖類誘導体溶液、非イオン界面活性剤溶液、2種以上のポリマー混合溶液、その他公知のLCST挙動を示すポリマー溶液が挙げられる。特に、本発明の好適な用途である農業用フィルムや窓に使用するためには、LCST温度が20〜50℃の範囲のLCST挙動を示すポリマー溶液が好ましく、更に低温では親水性で水に溶解するため透明で、LCST温度以上では疎水性となって水に溶けなくなるため白濁化する性質のポリマーの水溶液が好ましく、例えば、下記の(メタ)アクリルアミド系誘導体溶液や多糖類誘導体溶液が挙げられる。
【0008】
(メタ)アクリルアミド系誘導体:
本発明では、アクリルアミド系誘導体は、アクリルアミド誘導体若しくはメタクリルアミド誘導体より選ばれた1種以上の単量体を重合、又は共重合して得られる。また、前記1種以上の単量体と他のアクリル系単量体との共重合体を使用しても良い。
(メタ)アクリルアミド誘導体とは例えば下記一般式(I)および(II)で表されるN−アルキルまたはN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミドであり、具体的には例えばN−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン,N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン等をあげることができる。
【0009】
【化1】

【0010】
(上式でR1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子、メチル基またはエチル基、 R3はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。)
【0011】
【化2】

【0012】
(上式でR1は水素原子またはメチル基、Aは(CH2)nでnは4〜6または(CH2)2O(CH2)2を表す。)
【0013】
上記の(メタ)アクリルアミド系単量体と共重合可能な単量体としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート等のアルキル基の側鎖が1〜5のアルキルアクリレート;エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキル基の側鎖が1〜5のアルキルメタクリレート;ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、2ーヒドロキシエチルアクリレート、2ーヒドロキシエチルメタクリレート、2ーヒドロキシプロピルアクリレート、2ーヒドロキシプロピルメタクリレート、3ーヒドロキシプロピルアクリレート、3ーヒドロキシプロピルメタクリレート、2ーヒドロキシブチルアクリレート、2ーヒドロキシブチルメタクリレート、4ーヒドロキシブチルアクリレート、4ーヒドロキシブチルメタクリレート、2ーヒドロキシペンチルアクリレート、2ーヒドロキシペンチルメタクリレート、6ーヒドロキシヘキシルアクリレート、6ーヒドロキシヘキシルメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;分子内に1個もしくは2個以上のカルボキシル基を含むα,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アコニット酸、フマル酸、クロトン酸等の分子内に1個もしくは2個以上のカルボキシル基を含むα,β−不飽和カルボン酸;エチレンスルホン酸のようなα,β−エチレン性不飽和ホスホン酸類;アクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシエチル等の水酸基含有ビニル単量体;アクリロニトリル類;アクリルアマイド類;(メタ)アクリル酸のグリシジルエステル類等がある。これら単量体は単独で用いても、又は2種以上の併用でもよい。
【0014】
多糖類誘導体:
本発明の多糖類誘導体は、特に限定されることなく、セルロース、プルラン、デキストラン等があり広く利用でき、その誘導体の具体例としては、プロピレンオキサイドを高付加して得られるヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルプルラン、ヒドロキシプロピルデキストラン等がある。なかでもセルロース誘導体は、安定性が高く好ましい。
【0015】
本発明における溶液とは、溶媒として水を含んだ溶液であり、水以外に水と親和性のあるアルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を含んでもよい。水は溶媒中50重量%以上含む方が好ましい。また、溶質としては、前述のアクリルアミド系誘導体、多糖類誘導体等のLCST挙動を示すポリマーの他、水溶性高分子、金属塩、有機酸等、溶液に溶解する物質を含んでもよい。また、ゲル化剤等の作用によりゲル化した溶液であってもよい。
【0016】
本発明におけるカプセル(A)とは、前述のLCST挙動を示すポリマー溶液を芯剤として内包する、マイクロカプセルなどのカプセルを意味する。カプセル壁の皮膜成分は、本感温遮光資材の低温時の透明性を損なわない材質であれば特に制限はないが、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム等の植物性多糖類、PVA、ポリスチレン、ポリエステル等の有機高分子があげられる。また、ポリマー溶液を内包するカプセルの生成方法は、公知のマイクロカプセルの生成方法、例えば、同芯多重ノズルからの液滴法、コアセルベーション法、界面重合法、in situ 重合法を使用することができる。
【0017】
本発明のカプセルの粒径は、特に制限ないが、1μm〜3mmが好ましく、特に50μm〜1mmが好ましい。芯剤/壁剤(カプセル皮膜成分)の重量比は、99/1〜10/90が好ましく、特に90/10〜30/70が好ましい。芯剤成分が所定よりも少ない場合は、遮光程度が充分でなくなり、また、壁剤が所定よりも少ない場合は、感温変化の耐久性が不足する。
【0018】
カプセル(A)は、同一の温度でLCST挙動を示してもよいし、異なる温度でLCST挙動を示すポリマー溶液を内包したカプセルを2種以上混在してもよい。2種以上のLCST温度の異なるカプセルを混在することにより、温度に応じて徐々に遮光率を変化させることが可能となる。
【0019】
本発明におけるカプセル外に存する溶液(B)とは、前述LCST挙動を示すポリマー溶液と親和性のある溶液であれば良いが、同じポリマー溶液そのもの、または、ポリマー溶液と等張溶液であることが好ましい。
【0020】
LCST挙動を示すポリマー溶液を内包するカプセル(A)と、カプセル外に存する溶液(B)の共存した層における、(A)と(B)の重量比は、99/1〜1/99が好ましく、特に95/5〜30/70が好ましい。所定範囲外の場合、感温変化の耐久性が不足する。本発明において(A)と(B)の共存層があることが、ポリマー溶液のみの場合、カプセル(A)のみの場合に比べて、飛躍的な持続性をもたらす効果は極めて意外であり、機構については十分に解明されていないが、おそらくカプセル壁剤を中心に内に存するポリマー溶液と外に存する溶液(B)の均衡作用が関係しているものと考えられる。
【0021】
本発明において、ポリマー溶液を内包するカプセル(A)とカプセル外に存する溶液(B)の「共存した層」とは、いわゆる「層」に限定した意味ではなく、「共存した領域があること」を意味するものである。従って、共存層は、感温遮光資材の一部に部分的に設けられていてもよい。
【0022】
本発明の感温遮光資材に(A)と(B)の共存した層を組み込むには、2枚以上の透明資材(フイルム又はガラス)の中間に挿入したり、1枚のフイルム又はガラスの片面又は両面に積層すればよい。
例えば2枚のフイルム、ガラスの中間に挿入するには、注入してもよいし、1枚の片面に公知の方法で塗布した後、塗布面にもう1枚を被覆してもよい。図1には、本発明におけるLCST挙動を示すポリマー溶液を内包するカプセル(A)とカプセル外の溶液(B)を、2枚の透明樹脂フイルム(1、1’)の間に挟み込み、フイルムの任意位置を密封シール(2)した、感温遮光資材の一例を示すための概念図(断面図)を示している。
、またエアーキャップのような凹凸を有するフイルムの凹部に(A)と(B)の共存層を入れる方法でもよい。共存層を2枚のフイルム、ガラスに保持させるには、共存層の周囲を熱、接着剤、硬化剤等公知の方法によりシールすればよい。
【0023】
また、1枚のフイルム又はガラスの片面に積層するには、(A)と(B)の共存層を公知の方法で塗布した後、更にアクリル系樹脂等、共存層との親和性がよく皮膜を形成する層を塗布するか、(B)にあらかじめ皮膜形成成分を添加してから共存層を塗布すればよい。(A)と(B)の共存層の厚みは、共存層の遮光能力と必要とする遮光程度により調整すればよいが、通常2μm〜5mmであり、5μm〜3mmが好ましい。
【0024】
本発明の感温遮光資材は、上記のように長期間感温遮光特性を維持できる特性があるので、温室に用いる農業用フイルム、農業用ガラス等の農業用途、天窓等に用いられる窓ガラス、窓ガラス貼付用フイルム等の建材用途等の幅広い用途に使用することができる。特に本発明の遮光資材は、水分透過性が高いために、通常のLCST挙動を示すポリマー水溶液を封入しただけでは実用性がなかった樹脂フイルム(シート)に適用することができるため好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例にもとづいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
I.LCST挙動を示すポリマー溶液(a−1)
ヒドロキシプロピルセルロース 25重量部
(ヒドロキシプロピル基:62.4%、重量平均分子量:約60,000)
ポリプロピレングリコール(平均分子量600) 6重量部
純水 67重量部
塩化ナトリウム 2重量部
を室温で攪拌し、ポリマ−溶液(a−1)を調整した。
(a−1)は35℃でLCST挙動を示す。
【0027】
II.LCST挙動を示すポリマー溶液を含有するカプセル(A−1)
同芯三重ノズル(内ノズル径0.3mm、中ノズル径0.5mm、外ノズル径2.0mm)の内ノズルから上記ポリマー溶液(a−1)、中ノズルから流動パラフィン、外ノズルからゼラチン4%、アルギン酸ナトリウムを1%含んだ水溶液を30℃に保持しながら、5℃に保たれた3%乳酸カルシウム水溶液中に滴下し、5分間滞留させ、硬化反応をおこなわせることにより、Φ0.5mmのカプセルが得られる。
断面を観察すると、壁剤厚みは50μmであった。
【0028】
III.感温耐久性評価
<耐相分離試験>
50cc試薬瓶にカプセル(A−1)/ポリマー溶液(a−1)を重量比8/2で
計30g入れ、冷温サイクル試験(*)をおこなった。
【0029】
(*)10℃×1時間保持
↓↑ 昇降温速度 30℃/30分
40℃×1時間保持
1ヶ月毎に10℃での沈殿物の堆積有無を評価した。
【0030】
<評価基準>
○・・沈殿物なし
△・・わずかに沈殿物有り
×・・沈殿物の堆積有り
結果を第1表に示す。
<感温性試験>
厚み0.1mmのLDPEフイルム上の10cm四方に上記(A−1)/(a−1)=8/2共存層を計0.5g塗布し、その上に同一のLDPEフイルムを密着させ、周囲をヒートシールした。
上記冷温サイクル試験をおこない、1ヶ月毎に10℃、40℃での外観を観察した。
結果を第1表に示す。
【0031】
(実施例2)
I.LCST挙動を示すポリマー溶液(a−2)
ポリN−イソプロピルアクリルアミド 15重量部
(20℃水溶媒固有粘度[η]3.58)
純水 85重量部
を室温で攪拌し、ポリマ−溶液(a−2)を調整した。
(a−2)は32℃でLCST挙動を示す。
【0032】
II.LCST挙動を示すポリマー溶液を含有するカプセル(A−2)
同芯三重ノズル(内ノズル径0.3mm、中ノズル径1.0mm、外ノズル径3.0mm)の内ノズルから上記ポリマー溶液(a−2)、中ノズルから3%乳酸カルシウム水溶液、外ノズルからゼラチン20%、グリセリン5%、アルギン酸ナトリウムを3%含んだ水溶液を20℃に保持しながら、10℃に保たれた植物油中に滴下し、5分間滞留させ、硬化反応をおこなわせることにより、Φ0.4mmのカプセルが得られる。
断面を観察すると、壁剤厚みは40μmであった。
III.感温耐久性試験
実施例1と同様の試験をおこなった。
【0033】
(比較例1)
実施例1のポリマー溶液(a−1)のみを用い、同様の感温耐久試験をおこなった。
(比較例2)
実施例2のポリマー溶液(a−2)のみを用い、同様の感温耐久試験をおこなった。
(比較例3)
実施例1のカプセル(A−1)のみを用い、同様の感温耐久試験をおこなった。
【0034】
【表1】

【0035】
以上の実施例から明らかなように本発明の感温遮光資材は、感温耐久性の優れた感温遮光資材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の感温遮光資材の一態様の一つを示す断面図
【符号の説明】
【0037】
A・・カプセル、B・・カプセル外に存する溶液、1、1’・・樹脂フイルム、2・・シール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
LCST挙動を示すポリマー溶液を内包するカプセル(A)と、カプセル外に存する溶液(B)が共存した層を有することを特徴とする感温遮光資材。
【請求項2】
(A)のポリマー溶液が、アクリルアミド系誘導体水溶液、又は多糖類誘導体水溶液であることを特徴とする請求項1記載の感温遮光資材。
【請求項3】
(B)が、(A)に含有されたポリマー溶液を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の感温遮光資材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−171354(P2006−171354A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363687(P2004−363687)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(504137956)MKVプラテック株式会社 (59)
【Fターム(参考)】