説明

感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム

【課題】
低エネルギーでも穿孔性が良好で、しかも耐カール性や階調性に優れた感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】
グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールであるポリエステル(M)を主成分とする二軸配向ポリエステルフィルム(F)であって、下式(1)〜(3)を満足する感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
30(℃)≦Tcc(M)―Tg(M)≦100(℃) (1)
160(℃)≦Tm(M)≦220(℃) (2)
65(℃)≦Tg(F)≦100(℃) (3)
Tcc(M):ポリエステル(M)の昇温結晶化温度(℃)
Tg(M):ポリエステル(M)のガラス転移温度(℃)
Tm(M):ポリエステル(M)の融点(℃)
Tg(F):二軸配向ポリエステルフィルム(F)のガラス転移温度(℃)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドあるいはレーザー光線等のパルス的照射によって穿孔製版される感熱孔版印刷用原紙に関し、特に原紙の搬送性が良好であり、穿孔感度、画像鮮明性に優れた感熱孔版印刷用原紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来感熱孔版印刷用原紙(以下、単に原紙ということもある。)としては、ポリエチレンフィルム、塩化ビニリデン系フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムに、天然繊維、化学繊維または合成繊維あるいはこれらを混抄した薄葉紙、不織布、紗等によって構成された多孔性支持体を接着剤で貼り合わせた構造のものが知られている(例えば、特許文献1,2など)。これらの原紙において、熱可塑性樹脂フィルムが、サーマルヘッド、あるいわレーザー光線等のパルス的照射によって穿孔され、多孔性支持体はインキ通過機能を有する。サーマルヘッドを使用した製版方式は、原稿をイメージセンサーで読み取りこれをデジタル信号に変え、サーマルヘッドで原稿に応じた画像を原紙のフィルム部分にドット状に穿孔して製版を行う方式である。このようなサーマルヘッドによる製版方式においては、サーマルヘッドによるダメージを抑えて寿命を延長するために、ヘッドに供給するエネルギーをできるだけ小さくすることが望まれ、原紙に用いられるフィルムにはこのとき小さなエネルギーでも穿孔すること、すなわち、穿孔感度の向上が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献3には、イソフタル酸をテレフタル酸と共重合することにより融点を下げることにより穿孔感度を向上させた感熱孔版印刷用原紙が開示されている。しかしながら、この方法で感度を上げようとすると、
(1)感熱孔版印刷用原紙として保存する時に発生するカールによって印刷搬送性の低下や印刷斑が生じる。
(2)製版時に孔の均一性が下がり、諧調性が悪化する。
(3)ペレット乾燥時に融着が発生するため、予備結晶化を行う必要がある。
という問題がおきるため、穿孔感度の向上はわずかな範囲でしか達成することができなかった。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、特許文献4には、グリコール成分として、1,4−ブタンジオールを用いることで穿孔感度と結晶性を向上させることにより諧調性を向上させた感熱孔版印刷用原紙が開示されている。また、1,4−ブタンジオールを用いるとカールが悪化することから、特許文献5には、カルボン酸成分としてイソフタル酸ではなく2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いることでカールの悪化を防止した感熱孔版印刷用原紙が開示されている。
【0005】
また、共重合ペレットを融着せずに乾燥するために特許文献6には、溶融重縮合反応により得られるプレポリマチップ表面にミキサーにて剪断処理を施して粗面にし、表面を部分的に結晶化することによりペレットの接触面積を少なくすることによって、その後の乾燥工程において、ペレット同士の融着を防ぐ方法が開示されている。また、特許文献7、8には、結晶性の低い共重合ポリエステルを、あらかじめ結晶化させておいたポリエステルペレットやポリエステル粉と一緒に回分式乾燥機で乾燥することにより融着なく乾燥できる方法が示されている。
【特許文献1】特開昭51−2513号公報
【特許文献2】特開昭57−182495号公報
【特許文献3】特開昭62−282983号公報
【特許文献4】特開平6−135173号公報
【特許文献5】特開平11−170720号公報
【特許文献6】特開平4−239606号公報
【特許文献7】特開平9−164526号公報
【特許文献8】特開2007−23153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリブチレンテレフタレートを用いて結晶性を上げる方法では、結晶性の制御が難しく製膜安定性が悪化し、薄膜化が難しくなるために穿孔感度の向上が難しくなる問題がある。また、カール性の悪化を防止するために用いる2,6−ナフタレンジカルボン酸は高価であり、量産化としても問題があった。
【0007】
剪断処理によってチップの表面を粗面化する方法は、処理量を多くした場合、多量の剪断発熱が発生することと回転翼に接触しないチップが出てくることから、処理中に発生した剪断発熱によって、回転翼に接触しないチップから融着が始まり、そこが核となって大きな融着の固まり(おこし)が発生してしまうことになり、大量生産が出来ないという問題があった。また、結晶化したペレットやペレット粉を混ぜる方法では、あらかじめ結晶化済みのペレットを用意しておく必要があり、生産的とはいえなかった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる従来技術の問題点を解決し、低エネルギーでも穿孔性が良好で、かつ優れた階調性を出し、しかも生産性や耐カール性に優れた感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有する。すなわち、
グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールであるポリエステル(M)を主成分とする二軸配向ポリエステルフィルム(F)であって、下式(1)〜(3)を満足する感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
30(℃)≦Tcc(M)―Tg(M)≦100(℃) (1)
160(℃)≦Tm(M)≦220(℃) (2)
65(℃)≦Tg(F)≦100(℃) (3)
Tcc(M):ポリエステル(M)の昇温結晶化温度(℃)
Tg(M):ポリエステル(M)のガラス転移温度(℃)
Tm(M):ポリエステル(M)の融点(℃)
Tg(F):二軸配向ポリエステルフィルム(F)のガラス転移温度(℃)、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムは、感熱孔版印刷原紙として用いた場合、穿孔感度が良好で印刷鮮明性な感熱孔版印刷を搬送で失敗することなく効率よく印刷することができ、有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の方法を詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリエステルフィルム(F)は、グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールであるポリエステル(M)を主成分とすることが必要である。エチレングリコール量は、85モル%以上であることは好ましく、より好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは、100モル%である。グリコール成分量を上記範囲とすることにより、延伸性が高まり、厚み斑の抑制による穿孔時の径が均一化できることにより、印刷時の諧調性が向上する。また、製膜安定性が高まることにより生産性も向上できる。
【0013】
また、本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル(M)からなることが好ましい。
【0014】
ポリエステル(M)は、単一のポリエステル樹脂から構成されていても良いし、複数のポリエステル樹脂の混合体から構成されていてもよい。また、ポリエステル樹脂は共重合ポリエステルであっても良い。
【0015】
本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂はジカルボン酸成分とグリコール成分から構成されたものであり、例えばジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とグリコールとのエステル化もしくはエステル交換反応ならびに引続く重縮合反応によって製造される。
【0016】
ポリエステル樹脂の種類についてはフィルムなどの成形品に成形しうるものであれば特に限定されない。フィルムなどの成形品に成形しうる好適なポリエステル樹脂としてはジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を使用したものがよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボキシレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられ、中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンカルボキシレートが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル(M)は、グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールである必要がある。これは、エチレングリコールが80モル%未満である場合、結晶化速度が小さくなるためである。フィルムの結晶化速度が小さくなりすぎると、フィルム製造時に押し出し後の溶融ポリマー冷却段階で結晶化が進行するために、延伸性が低下してフィルム製造時に破れが頻発し、生産性が低下する。またフィルム化できたとしても、結晶部分と非晶部分による延伸斑が発生するため、厚み斑を生じさせる結果、穿孔径に斑が生じ、目的とする階調性が得られなくなる。
【0018】
また、ポリエステル(M)のグリコール成分として20モル%以下の範囲で,エチレングリコールの他に、1,4−ブタンジオール,1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族グリコール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環族グリコール、および芳香族グリコールなどを含有することができるが、これらのグリコール成分の中では1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いることが穿孔感度、耐熱性等の点から好ましい。ポリエステル(M)のグリコール成分としてエチレングリコール以外のグリコール成分を含有させる方法として、重合時に共重合させる方法、ブレンドしてコンパウンドさせる方法、押し出し時にブレンドする方法が挙げられるが、印刷時の諧調性を精細にするために、重合時に共重合する方法が好ましい。
【0019】
また、ポリエステル(M)のジカルボン酸成分は特に限定されない。単一のジカルボン酸成分であっても良いし、複数のジカルボン酸成分を有していても良い。ジカルボン酸成分の例としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂環族ジカルボン酸等の酸成分挙げることができる。具体的には、酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。本発明では、耐熱性の点で、ポリエステル(M)の主たるジカルボン酸成分として、テレフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いることが好ましく、特に安価である点でテレフタル酸を用いることが好ましい。
【0020】
本発明では、ポリエステル(M)のガラス転移温度Tg(M)(℃)、昇温結晶化温度Tcc(M)(℃)および融点Tm(M)(℃)が存在し、かつ下式(1)および(2)を満たすことが必要である。なお、Tg(M)とTcc(M)とTm(M)の温度関係は、Tg(M)<Tcc(M)<Tm(M)である。
30(℃)≦Tcc(M)―Tg(M)≦100(℃) (1)
160(℃)≦Tm(M)≦220(℃) (2)
また、Tg(M)やTcc(M)、Tm(M)が存在しないようなポリエステル(M)は、製膜初期段階で結晶先駆体が生成しにくいため、結晶化が十分進行することができない。そのため、結晶部が少なく非晶部が多くなり、カール性や穿孔均一性が悪化する。また、製膜に際し、ポリエステル(M)をペレット化し、乾燥しようとしても、ペレットが工業的に乾燥される温度では結晶化が進行する前に融着が始まってしまうため、低温で長時間乾燥をするか、あらかじめ予備結晶化をしておく必要があるなどの不都合が生じる。
【0021】
Tg(M)やTcc(M)、Tm(M)を存在させるためには、ポリエステル(M)としてホモのポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル(M)として共重合ポリエステル樹脂を用いる場合は、共重合成分の共重合量を少なくしたり、後述する結晶核剤を含有しめることが好ましい。なお、結晶核剤の含有量を増やすほど、Tg(M)やTcc(M)、Tm(M)は現われやすくなる。
【0022】
また、Tcc(M)とTm(M)が存在したとしても、Tcc(M)−Tg(M)が小さすぎる場合はフィルム製造時のペレット押し出し後に溶融ポリマーが冷却される段階で、結晶化が進行し、延伸性が悪化して厚み斑が発生しやすくなるため、印刷時の諧調性が悪化してしまう。そのため、Tcc(M)−Tg(M)は30℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上とすることで厚み斑の少ない印刷時の諧調性に優れたフィルムとすることが出来る。また、Tcc(M)−Tg(M)の上限としては100℃以下であり、より好ましくは90℃以下であり、さらに好ましくは80℃以下である。Tcc(M)−Tg(M)が100℃を越えるとであると、結晶先駆体が生成する速度が遅くなるため、十分に結晶化を進行させることができず、穿孔均一性やカール性が悪化する。
【0023】
ポリエステル(M)のTcc(M)、Tg(M)を上記範囲内にする方法は特に限定されない。例えば、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオールといった直鎖の長いジオール成分を共重合したポリエステル樹脂を用いる方法、ポリエステル(M)に結晶核剤を含有せしめる方法などが挙げられるが、結晶核剤含有せしめる方法が好ましい。共重合したポリエステル樹脂を用いる方法では、ポリエステル(M)のTcc(M)−Tg(M)を好適な範囲に制御することが難しいことがあり、結果として、フィルム化出来なかったり、出来たとしても延伸時に破れが発生して生産性が悪化する場合がある。なお、ここでいう結晶核剤とは、ポリエステル樹脂に添加することで、結晶化速度を向上させる結晶性物質のことを指す。
【0024】
本発明において、ポリエステル(M)に結晶核剤を含有せしめることは、好ましい態様の一つである。また、その含有量は、フィルムに対して0.1重量%〜5重量%となるよう含有せしめることが好ましい。より好ましくは0.3重量%から4重量%であり、さらに好ましくは0.5重量%〜3重量%である。含有量が0.1重量%に満たない場合は結晶がほとんど成長しないため効果が薄く、含有量が5重量%を超える場合には結晶核剤の周辺において分解劣化が発生することにより欠点が多いフィルムとなる。
【0025】
結晶化速度を向上させる結晶性物質としては、亜リン酸、ホスホン酸などのリン化合物、カーボンブラックやグラファイトなどの炭素系微粒子、酸化マグネシウム、二酸化チタン等の金属酸化物、タルク、シリカ、カオリン、石膏等の無機質微粒子、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミドなどの脂肪族カルボン酸アミド、酢酸ナトリウム、ステアリン酸バリウム、オレイン酸カルシウムなどの脂肪族カルボン酸塩、ペンタデシルアルコール、ステアリルアルコール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族アルコール、エチレングリコールジステアレート、ラウリン酸セチルエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステルなどの脂肪族カルボン酸エステル、ソルビトール系化合物が挙げられるが、本発明で用いられる少量の添加で結晶化速度を早めることができ、また、欠点が少ない結晶核剤としては、カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、ソルビトール系化合物を好適に用いることができる。
【0026】
すなわち、本発明では、結晶核剤として脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステルおよびソルビトール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の物質を用いることが好ましい。
【0027】
中でもカルボン酸アミドとして特に脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、脂肪族ビスカルボン酸アミド類と、脂肪族カルボン酸塩として特に、酢酸塩、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類、そしてソルビトール系化合物がより好ましく用いることができる。これらの中でさらに好ましく用いることができる化合物としては、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、1,3−ジ(P−メチルベンジリデン)ソルビトール、2,4−ジ(P−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−ジベンジリデンソルビトール、2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3−ジ(P−エチルジベンジリデン)ソルビトール、2,4−ジ(P−エチルジベンジリデン)ソルビトールなどを挙げることができる。これらの結晶核剤を用いることにより、少量の添加で効率的に結晶性を高めることができる。
【0028】
本発明では、ポリエステル(M)の融点Tm(M)(℃)が穿孔感度、耐熱性等の点から、160〜220℃である必要がある。
Tm(M)は、好ましくは170〜215℃であり、より好ましくは180〜210℃である。Tm(M)を上記範囲とすることにより、フィルム化した場合の穿孔感度および耐熱性を高めることができる。
【0029】
ポリエステル(M)の融点(Tm(M))が220℃を超えると、フィルム化した際に、穿孔に必要なエネルギーが多量となり、低エネルギーでの穿孔が困難になる。穿孔感度を改良するためにフィルムの厚みを更に薄くする方法が考えられるが、薄いフィルムは耐刷性が悪化し、穿孔感度と耐刷性の両立ができなくなる。ポリエステル(M)の融点を220℃以下、さらに210℃以下とすることで穿孔感度が良好となり、耐刷性もさらに良好となるので好ましい。また、ポリエステル(M)の融点(Tm(M))が160℃未満では穿孔性、耐熱性等の熱特性・機械特性が悪化する。
【0030】
ポリエステル(M)のTm(M)を上記範囲とするための手段としては、(I)2種類以上のグリコール成分を有する共重合ポリエステル樹脂をポリエステル(M)として用いる、(II)2種類以上のジカルボン酸成分を有する共重合ポリエステル樹脂をポリエステル(M)として用いる、(III)2種類以上グリコール成分を有し、かつ2種類以上のジカルボン酸成分を有する共重合ポリエステル樹脂をポリエステル(M)として用いることなどを挙げることができる。
【0031】
本発明では、特に(II)の態様が好ましく、中でも、ポリエステル(M)の結晶性と融点の点から、テレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸と、イソフタル酸およびまたは脂肪族カルボン酸を有する共重合ポリエステル樹脂をポリエステル(M)として用いることが好ましい。脂肪族カルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸を用いることが好ましい。また、最も好ましくは、テレフタル酸とイソフタル酸を有する共重合ポリエステル樹脂をポリエステル(M)として用いることが好ましい。
【0032】
なお、ジカルボン酸成分の共重合量は特に限定されるものではないが、得られるフィルムの熱穿孔性、耐熱性等の点から50モル%以下が好ましく、より好ましくは1〜40モル%、さらに好ましくは5〜30モル%、特に好ましくは10〜25モル%である。共重合成分量が50モル%を超えるとフィルムの耐熱性、熱穿孔性、耐衝撃性などに劣る場合がある。特にジカルボン酸成分としてテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸と、イソフタル酸とを有する場合は、ジカルボン酸成分の70モル%以上がテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸であり、15〜30モル%がイソフタル酸であることが好ましい
以上から、本発明におけるポリエステル(M)に用いられるポリエステル樹脂として、最も好適なポリエステル樹脂は、グリコール成分がエチレングリコールであり、ジカルボン酸成分の70モル%以上がテレフタル酸であり、15〜30モル%がイソフタル酸である共重合ポリエステル樹脂(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂)である。
【0033】
本発明における感熱孔版印刷原紙用二軸配向ポリエステルフィルムのガラス転移点Tg(F)(℃)は、下式(3)を満たす必要がある。
65(℃)≦Tg(F)≦100(℃) (3)
Tg(F)は、好ましくは70〜90℃であり、より好ましくは75〜85℃である。Tg(F)が65℃より低い場合には、感熱孔版印刷用原紙として保存する場合、保存時の温度、湿度によっては熱収縮が発生する場合があり、支持体との収縮差によってカールが発生し、搬送性、排版性の悪いフィルムとなる。また、Tg(F)が100℃より高い場合には、サーマルヘッドで穿孔した後に孔が収縮応力によって広がって行く段階において、収縮応力が十分に得られないため、穿孔感度に欠ける。また、Tg(F)が観測されない場合には、結晶化が大きく進行しすぎている、もしくは結晶化がほとんど進行していない場合であり、ともに穿孔感度に欠ける。Tg(F)を存在せしめ、上記範囲とするためには、フィルムの結晶性を制御する必要がある。
【0034】
フィルムの結晶性を制御する方法としては、上述した共重合ポリエステル樹脂を用いてなるポリエステル(M)をフィルム原料として用いることや、フィルム(ポリエステル(M))に結晶核剤をフィルム(ポリエステル(M))に対して0.1〜5重量%含有せしめることが挙げられる。また、製膜方法としては、延伸時に結晶化が進行するため、逐次延伸とすることが好ましく、長手方向、幅方向ともに3倍以上に延伸することが好ましい。
【0035】
本発明の感熱孔版印刷用ポリエステルフィルムの融点は単一の融点を示すことが好ましい。具体的には、フィルムの最大融解エネルギーΔHm(max)(J/g)とフィルムの全融解エネルギーΔHm(total)が下式(4)を満たすことが好ましい。
ΔHm(max)/ΔHm(total)>0.9 (4)
ここで、ΔHm(max)とは後述するDSC測定において、結晶融解エネルギーが最も大きなピークのエネルギー量である。また、ΔHm(total)とは結晶融解ピークのエネルギー量の合計である。すなわち、2以上の結晶融解ピークが観測される場合は、結晶融解エネルギーが最も大きなピークのエネルギー量がΔHm(max)となり、全ての結晶融解エネルギーを合計したものがΔHm(total)となる。
【0036】
ΔHm(max)/ΔHm(total)はより好ましくは0.95以上であり、さらに好ましくは1である。ΔHm(max)/ΔHm(total)が大きいほど均一な穿孔径が得られるようになる。ΔHm(max)/ΔHm(total)をかかる範囲内とするためには、単一のポリエステル樹脂からなるポリエステル(M)を用いることが好ましい。すなわち、フィルムが単一のポリエステル樹脂から構成されていることが好ましい。
【0037】
本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムの熱収縮率は100℃、30分間処理した時のフィルムの長手方向の熱収縮率が10〜40%であることが好ましい。より好ましくは15〜35%、さらに好ましくは20〜30%である。10%以下であると穿孔が不十分となり、均一な穿孔が出来ず、文字がかすれたり、ベタ部分が薄くなったりし、階調性が不十分となる。また、40%以上になると隣接する孔と連結してしまう場合がある。
また、本発明のフィルムの熱収縮率は、65℃において小さいほうが好ましく、具体的には65℃で60分処理したときの熱収縮率がMD方向(フィルム長手方向)、TD方向(フィルム幅方向)ともに1.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。65℃における熱収縮率は、印刷原紙のカールと関係がある。特に本発明のフィルムに多孔性支持体を積層し、2層構造の印刷原紙とした場合、フィルム側が寸法変化すると印刷原紙は容易にカールしてしまう。カールが大きくなると、印刷原紙の取り扱い性が悪化し、孔版印刷機内での原紙の搬送性が不良となり、原紙詰まり等の原因となる。カールはフィルムと多孔性支持体をラミネートした時の歪みによって起こったり、常温での保存中や輸送中に発生する。また、印刷する版胴部分にマスターが均一にセットされないため、印刷斑がでやすい。原紙の搬送性を向上させるには、縦方向のカールが小さくする方がよいため、65℃の熱収縮率は特に縦方向が小さい方が好ましい。100℃・30分での熱収縮率を10〜40%としつつ、65℃・60分の熱収縮率を0.5%以下にするには、式(1)を満たすこと、式(3)を満たすこと、製膜時に80〜130℃で1〜60秒間熱処理することなどにより達成できる。
【0038】
本発明のフィルムの厚みは0.8〜2.9μmの範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜1.9μmの範囲であり、さらに好ましくは1.2〜1.7μmの範囲である。フィルムの厚みが薄くなれば熱伝達距離が短縮され、穿孔時に必要な熱エネルギーも減少するため穿孔感度が向上する。そのため、厚みが3.0μm以上だと、穿孔感度が悪化し、印刷むらとなるため好ましくない。また、厚みが1.0μm未満では印字が不鮮明で濃淡むらが生じやすく、フィルムの生産性、巻き上げ作業性が悪化するので好ましくない。フィルム厚みを上記範囲にする方法は特に限定されないが、100℃での熱収縮を大きくするためにも3,0倍以上の高倍率で延伸することが好ましい。また、本発明のフィルムは極めて薄くする必要があり、破れが発生しやすくなるため、延伸開始前に結晶化が大きく進行していると、生産性が著しく低下することになる。かかる問題を解決するためには、1.4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオールといった直鎖の長いジオール成分の含有量を少なくし、エチレングリコール含有量を多くすることが好ましい。
【0039】
また、本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムには、酸化防止剤、難燃剤、易滑剤、着色剤などの各種添加剤を、本発明のフィルムの物性を損なわない範囲で添加することができる。
【0040】
以下に、本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを得るための方法について、ポリエチレンテレフタレートにジカルボン成分としてイソフタル酸20モル%を共重合した共重合ポリエステル樹脂に、酢酸ナトリウムを含有せしめたポリエステル(M)を用いた例を説明するが、本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムの製造方法は以下の方法に限定されるものではない。なお、本例において、共重合ポリエステル樹脂/酢酸ナトリウムの重量比率は、99.5重量%/0.5重量%である。
【0041】
ジメチルテレフタル酸80重量部、ジメチルイソフタル酸20重量部、エチレングリコール60重量部、酢酸カルシウム0.12重量部、三酸化アンチモン0.08重量部及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシド20%のメタノール溶液0.1重量部の混合物を130℃から235℃まで3時間で昇温し、エステル交換反応終了後、トリメリト酸メチル0.0834重量部及びエチレングリコールを分散媒として酢酸ナトリウム0.5重量部を添加する。次に重縮合反応缶へ移し、真空下において240℃から285℃の温度で4時間反応し、水浴中に吐出、ダイシングマシンでチップ化(一粒当りの重量;43mg)し、ポリエステル(M)を得た。ポリエステル(M)は、ジカルボン成分としてイソフタル酸が20モル%を共重合された共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂99.5重量%と、酢酸ナトリウム0.5重量%から構成される。
【0042】
次に、真空攪拌乾燥機に該チップを投入し、100〜180℃で2〜4時間減圧乾燥を行う。溶融押出機に供給し、押出機に具備されたT型ダイ口金からシート状に溶融押出しし、キャスティングドラムを一定速度で回転させながら、キャスティングドラムの前方に着地させる。このとき溶融ポリマーとキャスティングドラムの角度は0°〜90°が好ましく、さらに好ましくは10°〜60°である。溶融ポリマーを静電印加法および/またはエアーナイフ法により密着固化し、未配向(未延伸)フィルムを得る。
【0043】
未配向フィルムを、複数のロール群を備えた延伸機で、ロール間の周速差を利用して長手方向に延伸する。延伸温度は80〜170℃が好ましい。より好ましくは85〜160℃、さらに好ましくは90〜150℃である。延伸倍率は2.5〜4.5倍が好ましく、より好ましくは3〜4倍である。こうして得られた、長手方向に一軸配向(一軸延伸)されたフィルムの両端をクリップで把持して、加熱したテンター内で幅方向に延伸を行う。延伸倍率は2.5〜4.5倍が好ましく、より好ましくは3〜4倍である。また、延伸温度は85〜180℃が好ましい。より好ましくは、90℃〜170℃、さらに好ましくは95℃〜160℃である。
【0044】
これにより、本発明の感熱孔版印刷原紙用二軸配向(二軸延伸)ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0045】
なお、幅方向に延伸した後、さらに長手方向および/または幅方向に110〜180℃の延伸温度範囲で1.1〜2.5倍に延伸してもよい。
【0046】
また、65℃における熱収縮を抑えるために、延伸後にフィルムの融点以下の温度で熱固定を加えることが好ましく、100℃での熱収縮を抑制しないために好ましい温度範囲は80〜130℃であり、90〜110℃であることがさらに好ましい。熱固定時間は、1〜60秒間であることが好ましい。
【0047】
また、熱固定工程の前後または同時に弛緩処理を行ってもよく、その後100〜160℃の温度で中間冷却を行ってもよい。より好ましくは、熱固定と弛緩処理を同時に行うことである。弛緩処理の倍率は、幅方向及び/または長手方向に1〜15%であることが好ましく、より好ましくは3〜10%である。なお、幅方向の弛緩処理は幅方向の延伸が完了した後の最大フィルム幅に対してテンター出口の幅を縮めることによって行うことが好ましく、幅方向の弛緩処理の倍率Rwは、弛緩開始直前におけるフィルムの幅方向のクリップ間隔をDw1、弛緩終了直後のクリップ間隔をDw2として、
Rw=(Dw1−Dw2)/Dw1×100[%]
で表される。また、長手方向の弛緩処理は、テンタークリップのレール上の走行速度を徐々に減速することによって行うことが好ましく、長手方向の弛緩処理の倍率Rlは、弛緩開始直前のクリップと、そのクリップと同じレール上で隣接する進行方向手前のクリップとの間隔をDl1、弛緩終了直後のクリップと、そのクリップと同じレール上で隣接する進行方向奥のクリップとの間隔をDl2として、
Rl=(Dl1−Dl2)/Dl1×100[%]
で表される。かかる弛緩処理を行うことにより、フィルムの熱収縮率を低下せしめることができる。
【0048】
本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムは、版の耐久性の向上の点から多孔質部材からなる支持体など他部材と貼り合わせ、孔版印刷用原紙とすることが好ましい。また、本発明において、多孔質部材とは、成形体の片面から他面へ貫通した連続気孔を形成しているものであれば良く、孔版印刷用原紙として用いられる際に、インクが透過する部材のことである。中でも平滑性と成形加工性とに優れた不織布および多孔質樹脂シートが好適である。
【0049】
不織布としては天然繊維、化学繊維または合成繊維あるいはこれらを混抄したものがあげられる。不織布としては合成繊維不織布が好ましく、合成繊維不織布とは合成樹脂繊維を主体とする繊維をランダムに交絡させてなる薄葉体であり、代表的なものとしてはメルトブロー不織布、スパンボンド不織布などが挙げられる。ここで、合成樹脂繊維を主体とするとは、不織布を構成する繊維のうち合成樹脂繊維を70重量%以上含むことをいう。合成樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどが好ましく用いられる。
【0050】
多孔質樹脂シートは、樹脂パウダーを希望の形状の金型に充填し、加圧あるいは無加圧状態で加熱焼結することで連続的に得ることができる。あるいは、樹脂パウダーをベルトコンベア上に充填し、コンベアを加温室に通して樹脂パウダーを焼結させることによって、連続的に得ることもできる。
【0051】
また、多孔質樹脂シートは、発泡剤を含有した樹脂を押出機に供給して押出機中で発泡させ、溶融キャストしてシート状に形成することにより得ることもできる。なお、本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを製造する工程において、かかる発泡樹脂層とポリエステル層を共押出しして積層未延伸シートを得、ひきつづきそのまま延伸することにより、本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムに多孔質部材たる多孔質樹脂シートが積層された(貼り合わされた)孔版印刷用原紙を一気に得ることもできる。かかる方法は生産性の点で好ましい方法の一つである。
【0052】
本発明において、多孔質樹脂シートを構成する樹脂は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂に代表されるポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、エチレンとプロピレン、ブテン−1,ヘキセン−1,オクテン−1の様な1種類以上のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルなどの共重合体、プロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレン、ブテン−1の様な1種類以上のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。またそれらは、用いる印刷用インキが水性インキの場合は、スルフォン化、親水性モノマーのグラフト重合処理、特定の界面活性剤の添加、親水性の層を設ける等の公知の方法で親水化することもできる。
【0053】
上記した不織布あるいは多孔質樹脂シートと本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムとを貼り合せて孔版印刷用原紙を得る方法としては、特に限定されない。例えば、予め製造したポリエステルフィルムと不織布あるいは多孔質樹脂シートを熱あるいは接着剤によって貼り合わせる方法が挙げられる。
【0054】
また、本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムの製造過程でフィルムと不織布あるいは多孔質樹脂シートとを低温で熱圧着した後あるいは接着剤によって貼り合わせた後、共延伸する方法も、ポリエステルフィルムに多孔質部材からなる支持体を貼り合わせてなる孔版印刷用原紙を一気に得ることができる点で好ましい方法の一つである。該方法について、より具体的に説明すると、該方法はポリエステルフィルムの製造過程において、延伸工程前の未配向(未延伸)ポリエステルフィルムと不織布あるいは多孔質樹脂シートを熱あるいは接着剤によって貼り合わせた後、それらを延伸工程にて延伸することにより、不織布あるいは多孔質樹脂シートと二軸配向ポリエステルフィルムとを複合化させる方法である。
【0055】
一般に不織布を多孔質部材として用いる場合は、機械的強度を得るためにバインダー樹脂、またはバインダー繊維と呼ばれる繊維間接着剤が用いられることが多い。しかし、これらのバインダー成分は凝集体となってインキ不透過欠点となりやすいため、本発明においては、メルトブロー法やスパンボンド法など、繊維を空中でランダムに交絡させてコンベアネット等で捕集することによって薄葉体とする方法で製造される不織布が、均一なインキ透過性と機械的な強度のバランスの点で好ましく用いられる。
【0056】
さらに、本発明におけるポリエステルフィルムと合成繊維不織布あるいは多孔質樹脂シートを貼り合せる方法として、不織布あるいは多孔質樹脂シートとしてポリエステルからなるものを用いて、本発明のポリエステルフィルムの製造過程でフィルムと不織布等とを低温で熱圧着した後、共延伸する方法が最も好ましい。
【実施例】
【0057】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明において説明に使用した特性値の測定方法および効果の評価方法は、次のとおりである。
【0058】
(1)フィルムの厚み
フィルムの厚みは、(株)アンリッツ製デジタルマイクロメーターK402Bを用い、下記の方法で求めた。
(i)まず、フィルムの任意の位置からA4サイズのサンプルを切出し、サンプルの長辺方向を上下方向、短辺方向を左右方向とした。
(ii)上端から0.5cm、左端から0.5cmの位置を測定始点とする。
(iii)測定始点の厚みを測定し、その位置から右方向に測定位置を2cmずつ移動させながら、測定始点も含め、計10点の厚みを測定した。
(iv)次に、フィルムの上端から2.5cm、左端から0.5cmの位置を測定始点し、(iii)と同様の測定を行った(すなわち、測定位置を右方向に2cmずつ移動させながら計10点の厚みを測定した)。
(v)以下同様に、測定始点を下方向に2cmずつずらしながら(iii)と同様の測定を計10回行い、合計100点の測定値を得た。なお、測定位置の終点は上端から18.5cm、左端から18.5cmの地点となる。
(vi)100点の合計値を100で割ることによりフィルムの厚みを得た。
【0059】
(2)ポリエステル(M)のガラス転移温度Tg(M))、昇温結晶化温度Tcc(M)および融点Tm(M)、ならびにポリエステルフィルム(F)のガラス転移温度Tg(F)の測定
示差走査熱量計(DSC)として、セイコー電子工業株式会社製ロボットDSC「RDSC220」を用い、データ解析装置として、同社製ディスクステーション「SSC/5200」を用いて測定する。
【0060】
まず、アルミニウム製受皿に5mgのポリエステルフィルムサンプルを充填する。このサンプルを常温から300℃まで、20℃/分の昇温速度で昇温し、1st RunのDSC曲線を得た。
【0061】
続いて、サンプルを急冷した後に、常温から300℃まで、20℃/分の昇温速度で昇温して、2nd RunのDSC曲線を得た。
【0062】
得られた1st RunのDSC曲線から、ベースラインが吸熱側へ0.001mW/mg以上の段差が生じている場合にガラス転移温度Tg(F)(℃)が存在しているとして、フィルムのガラス転移温度Tg(F)をJISK−7121(1987)に従い、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線が交わる点の温度をTg(F)(℃)とした。なお、本発明のフィルムは、ベースラインの段差が複数現れる場合があるが、その場合、最も高温側に現われる段差を本発明のポリエステルフィルムのTg(F)(℃)とした。
【0063】
次に、得られた2nd RunのDSC曲線から、ベースラインが吸熱側へ0.001mW/mg以上の段差が生じている場合にガラス転移温度Tg(M)(℃)が存在しているとして、JISK7121(1987)に従い、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線が交わる点の温度をTg(M)(℃)とした。なお、本発明のフィルムは、ベースラインの段差が複数現れる場合があるが、その場合、最も高温側に現われる段差を本発明のポリエステルフィルムのTg(M)(℃)とした。
【0064】
また、ガラス転移温度Tg(M)以上の温度領域において、昇温することによりベースラインから発熱側にずれ、さらに昇温を続けるとベースラインの位置まで戻るまでの面積について、溶融開始温度位置から終了位置までを直線で結んだ面積が0.1J/g以上であるときに昇温結晶化温度Tcc(M)(℃)が存在するとして、JIS K7121(1987)に従い、結晶化ピークの頂点の温度をTcc(M)(℃)とした。なお、本発明のフィルムは、発熱ピークが複数現れる場合があるが、その場合、最も低温側に現われる発熱ピーク温度を本発明のポリエステルフィルムのTcc(M)(℃)とした。
【0065】
さらに、昇温結晶化温度Tcc(M)(℃)以上の温度領域で、昇温することによりベースラインから吸熱側にずれ、さらに昇温を続けるとベースラインの位置まで戻るまでの面積について、溶融開始温度位置から終了位置までを直線で結んだ面積が1J/g以上であるときに、融点Tm(M)(℃)が存在するとして、JIS K7121(1987)に従い、融解ピークの頂点の温度をTm(M)(℃)とした。なお、本発明のフィルムは、吸熱ピークが複数現れる場合があるが、その場合、最も吸熱面積の大きなピークの温度を本発明のポリエステルフィルムのTm(M)(℃)とした。
【0066】
なお、フィルムを構成するポリエステル(B)は上記の1st Run測定によって一旦溶融され、その後、急冷される。そのため、フィルムを構成するポリエステル(M)は、2nd Run測定前に一旦アモルファス状態となる。したがって、2nd RunのDSC曲線は、ポリエステル(M)の熱特性を反映する。
【0067】
(3)フィルムの結晶融解エネルギー(△Hm(max)、ΔHm(total))
結晶融解エネルギーは上記(2)の1st RunのDSC曲線のおける吸熱面積から求めた。
【0068】
吸熱面積とは、昇温することによりベースラインから吸熱側にずれ、さらに昇温を続けるとベースラインの位置まで戻るまでの面積であり、溶融開始温度位置から終了位置までを直線で結び、この面積(a)を求めた。ここで、溶融開始温度位置とはJIS K7121(1987)に記載の補外融解開始温度のことであり、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線の交点の温度のことである。終了位置とはJIS K7121(1987)に記載の補外融解終了温度のことであり、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、融解ピークの高温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線の交点の温度のことである。
【0069】
次いで、(2)に記載の条件と同じ条件で、In(インジウム)を測定し、1st RunのDSC曲線を得た。1st RunのDSC曲線からInの吸熱ピーク面積(b)を求め、この面積(b)を28.5J/gとして次式によりフィルムの結晶融解エネルギーを求めた。なお、フィルムの1st RunのDSC曲線において、複数の結晶融解ピークが観測される場合は、全ての結晶融解ピークについて、結晶融解エネルギーを求めるものとする。
△Hm=28.5×a/b(J/g)。
【0070】
結晶融解エネルギーの中で最もピーク面積が大きなものをΔHm(max)とし、全ての融解エネルギーを合計したものをΔHm(total)とする。吸熱ピークが1つの場合には、ΔHm(total)/ΔHm(max)=1となる。
【0071】
(4)熱収縮率
ポリエステルフィルムの任意の位置から長手方向に150mm、幅方向に50mmのサンプルを切り出し、それをさらに幅方向に10mm間隔で5枚に切り分けることで、寸法150mm×10mmである長手方向測定用のサンプル5枚を作成した。
同様に、任意の位置から長手方向に50mm、幅方向に150mmのサンプルを切り出し、それをさらに長手方向に10mm間隔で5枚に切り分けることで、寸法150mm×10mmである幅方向測定用のサンプル5枚を作成した。
【0072】
次いで、長手方向測定用のサンプルは長手方向の中心から、幅方向のサンプルは幅方向の中心から測定方向にそれぞれ50mmの位置にマーキングすることで、マーキング長100mmのサンプルをそれぞれ作成した。
そのマーキング長をニコン社製の万能投影機16−Aで正確に測長して試験前長として記録した。その後、ギアオーブン(TABAI社製GHPS−222)内に垂直に垂れ下げて65℃で60分および100℃で30分間の条件でそれぞれ熱処理をした。熱処理試験後30分以上常温で放置した後、再度万能投影機で正確にマーキング長を測長して試験後長とした。試験後長から試験前長を引いて、100で割ったものの5サンプルでの平均値を計算して、それぞれの熱収縮率とした。
【0073】
(5)穿孔感度
実施例にて作成した感熱孔版印刷用原紙を理想科学工業(株)製“RISOGRAPH”GR275に供給して、サーマルヘッド式製版方式(400dpi)により穿孔実験を行った。この際、サーマルヘッドに投入するエネルギーを60%とした。この状態で穿孔し、走査型顕微鏡で200倍の倍率でフィルムの穿孔部分200個を観察して穿孔径を測長して、穿孔径の平均値を算出した。平均値が大きければ大きいほど穿孔感度が良好であり、下記の基準に則り、◎〜×で判定した。
20μm以上 :◎
18μm以上20μm未満:○
15μm以上18μm未満:△
15μm未満 :×
(6)穿孔不発数
(5)で測定した穿孔径の平均値より50%未満のものを穿孔不発とし、不発率を数えた。不発数は少なければ少ないほど好ましく、下記の基準に則り、◎〜×で判定した。
0〜1個 :◎
2〜4個 :○
5〜10個:△
11個以上:×
(7)穿孔均一性
(5)で測定した穿孔径の平均値より50%以上の点について、その標準偏差を求め、下記の基準に則り◎〜×で判定した。
5未満 :◎
5以上10未満 :○
10以上15未満:△
15以上 :×
(7)カール性の評価
作成した感熱孔版印刷用原紙の任意の位置から長手方向に150mm、幅方向に50mmのサンプルを切り出し、直径1インチの円筒形の筒にポリエステルフィルム面を内側にして長手方向に巻き付け、50℃の熱風オーブンで24時間処理した後、筒から剥がして名が手方向の中心から左右5cmずつの位置でサンプリングし、フィルム面を上にして平らな台上に置き、サンプルの角の台からの高さを測定し、四つ角の平均値で原紙のカール性を評価した。
浮き上がり高さが1cm未満であるもの :◎
浮き上がり高さが1cm以上1.5cm未満であるもの:○
浮き上がり高さが1.5cm以上2cm未満であるもの:△
浮き上がり高さが2cm以上であるもの :×
(実施例1)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸80モル%とイソフタル酸20モル%、グリコール成分としてエチレングリコール100モル%からなる共重合ポリエステル樹脂99重量%に、結晶核剤として酢酸ナトリウムを1重量%含有させたポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機で120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。
【0074】
その後、スクリュー径45mmの押出機を用いて、Tダイ口金温度270℃で押し出し、直径300mmの冷却ドラム上にキャストして未延伸フィルムを作製した。ついで100℃の加熱ロール間で長手方向に3.5倍延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、105℃で幅方向に3.8倍延伸し、さらにテンター内で115℃で熱処理して、二軸配向(延伸)ポリエステルフィルムを作製した。フィルム特性を表に示す。
【0075】
次に、得られたフィルムに酢酸ビニルを接着剤としてマニラ麻を原料とする天然繊維100%の繊維目付量14g/m2 の和紙と貼り合わせ、フィルム面にシリコーン系離型剤を塗布して感熱孔版印刷用原紙を作製した。前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施した。結果は、表に示したとおり優れたものであった。
【0076】
(実施例2)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸72モル%とイソフタル酸28モル%、グリコール成分としてエチレングリコール100モル%からなる共重合ポリエステル95重量%に、結晶核剤としてステアリン酸アミド5重量%を含有した共重合ポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0077】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり優れたものであった。
【0078】
(実施例3)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸83モル%とイソフタル17モル%、グリコール成分としてエチレングリコール100モル%からなる共重合ポリエステル99.7重量%に、結晶核剤としてエチレンビスラウリン酸アミド0.3重量%を含有した共重合ポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機で120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0079】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表1に示したとおり優れたものであった。
【0080】
(実施例4)
実施例1で得られた未延伸フィルムを100℃の加熱ロール間で長手方向に4倍延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、105℃で幅方向に4.3倍延伸し、さらにテンター内で115℃で熱処理して、二軸配向ポリエステルフィルムを作製した。フィルム特性を表に示す。
【0081】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり優れたものであった。
【0082】
(実施例5)
実施例1で得られた未延伸フィルムを100℃の加熱ロール間で長手方向に2.9倍延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、105℃で幅方向に3.1倍延伸し、さらにテンター内で115℃で熱処理して、二軸配向ポリエステルフィルムを作製した。フィルム特性を表に示す。
【0083】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり優れたものであった。
【0084】
(実施例6)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸75モル%とイソフタル酸25モル%、グリコール成分としてエチレングリコール95モル%と1,4−ブタンジオール5モル%からなる共重合ポリエステル95重量%に、結晶核剤としてステアリン酸ナトリウム5重量%を含有した共重合ポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機で120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0085】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり優れたものであった。
【0086】
(実施例7)
ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸75モル%とイソフタル酸25モル%、グリコール成分としてエチレングリコール80モル%と1,4−ブタンジオール20モル%からなる共重合ポリエステル97重量%に、結晶核剤としてステアリン酸バリウム3重量%を含有した共重合ポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機で120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0087】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり優れたものであった。
【0088】
(実施例8)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸80モル%と2,6−ナフタレンジカルボン酸20モル%、グリコール成分としてエチレングリコール100モル%からなる共重合ポリエステル99.5重量%に、結晶核剤としてオレイン酸アミド0.5モル%を含有した共重合ポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機で120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0089】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり優れたものであった。
【0090】
(比較例1)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸88モル%とイソフタル酸12モル%、グリコール成分としてエチレングリコール100モル%からなる共重合ポリエステル99.5重量%に、結晶核剤としてステアリン酸ナトリウム0.5モル%を含有した共重合ポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機で120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0091】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0092】
(比較例2)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸100モル%からなり、グリコール成分としてエチレングリコール75モル%と1,4−ブタンジオール25モル%からなる共重合ポリエステル99.5重量%に、結晶核剤としてステアリン酸バリウム0.5モル%を含有した共重合ポリエステル(M)を回転式の120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成したが破れが発生して製膜安定性に劣るものであった。フィルム特性を表に示す。
【0093】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0094】
(比較例3)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸85モル%と2,6−ナフタレンジカルボン酸15モル%からなり、グリコール成分としてエチレングリコール60モル%と1,4−ブタンジオール40モル%からなる共重合ポリエステル99重量%に、結晶核剤として酢酸ナトリウム1重量%含有させたポリエステル(M)を回転式の120℃で3時間減圧下で乾燥したところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向延伸ポリエステルフィルムを作成したが破れが発生して製膜安定性に劣るものであった。フィルム特性を表に示す。
【0095】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0096】
(比較例4)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸20モル%と2,6−ナフタレンジカルボン酸80モル%、グリコール成分としてエチレングリコール90モル%と1,4−ブタンジオール10モル%からなる共重合ポリエステル99.9重量%に、結晶核剤として酢酸ナトリウム0.05重量%含有させたポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機120℃で乾燥を始めたところ、ブロッキングも起さずチップハンドリング性も全く問題がなかった。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0097】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0098】
(比較例5)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸80モル%とイソフタル酸20モル%、グリコール成分としてエチレングリコール100モル%からなる共重合ポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機120℃で乾燥を始めたところ、融着が発生したため乾燥ができなかった。そこで煮沸水中で10時間処理して表面を結晶化させた後、回転式の真空乾燥機150℃で3時間乾燥を行った。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0099】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0100】
(比較例6)
実施例1で得られた未延伸フィルムを100℃の加熱ロール間で長手方向に4.8倍延伸した一軸配向ポリエステルフィルムを作製した。フィルム特性を表に示す。つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0101】
(比較例7)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸70モル%と2,6−ナフタレンジカルボン酸30モル%、グリコール成分としてエチレングリコール60モル%と1,4−ブタンジオール40モル%からなる共重合ポリエステル98重量%に、結晶核剤としてオレイン酸アミド2重量%含有させたポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機120℃で乾燥を始めたところ、融着が発生したため乾燥ができなかった。そこで煮沸水中で10時間処理して表面を結晶化させた後、回転式の真空乾燥機150℃で3時間乾燥を行った。その後、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0102】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0103】
(比較例8)
カルボン酸成分としてテレフタル酸70モル%とイソフタル酸30モル%、グリコール成分としてエチレングリコール100モル%からなる共重合ポリエステル60重量%に、カルボン酸成分としてテレフタル酸100モル%と、グリコール成分として1,4−ブタンジオール100モル%からなるポリエステル40重量%をブレンドしたポリエステル(M)を回転式の真空乾燥機120℃で乾燥を始めたところ、融着が発生したため乾燥ができなかった。そこで煮沸水中で10時間処理して表面を結晶化させた後、回転式の真空乾燥機150℃で3時間乾燥を行った。その後、実施例1と同様の方法で二軸延伸ポリエステルフィルムを作成した。フィルム特性を表に示す。
【0104】
つづいて、実施例1と同様な方法で感熱孔版印刷用原紙を作製し、前記した方法に基づき原紙の特性および製版、印刷特性について評価を実施したところ、結果は、表に示したとおり穿孔特性に劣るものであった。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムは、感熱孔版印刷原紙として用いた場合、穿孔感度が良好で印刷鮮明性な感熱孔版印刷を搬送失敗することなく効率よく印刷することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールであるポリエステル(M)を主成分とする二軸配向ポリエステルフィルム(F)であって、下式(1)〜(3)を満足する感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
30(℃)≦Tcc(M)―Tg(M)≦100(℃) (1)
160(℃)≦Tm(M)≦220(℃) (2)
65(℃)≦Tg(F)≦100(℃) (3)
Tcc(M):ポリエステル(M)の昇温結晶化温度(℃)
Tg(M):ポリエステル(M)のガラス転移温度(℃)
Tm(M):ポリエステル(M)の融点(℃)
Tg(F):二軸配向ポリエステルフィルム(F)のガラス転移温度(℃)
【請求項2】
前記ポリエステル(M)のジカルボン酸成分の70モル%以上がテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸であり、かつ15〜30モル%がイソフタル酸である請求項1に記載の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記ポリエステル(M)が結晶核剤を含有し、かつ該結晶核剤がフィルムに対して0.1〜5重量%含有されている請求項1または2に記載の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記結晶核剤が脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステルおよびソルビトール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の物質である請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステル(M)の融解エネルギーが、下式(4)を満足する請求項1〜4のいずれかに記載の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
ΔHm(max)/ΔHm(total)>0.9 (4)
ΔHm(max):フィルム(F)の最大融解エネルギー(J/g)
ΔHm(total):フィルム(F)の全融解エネルギー(J/g)
【請求項6】
65℃・60分での熱収縮率が0.5%以下であって、100℃・30分での熱収縮率が10〜40%である請求項1〜5のいずれかに記載の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1に記載の感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムの製造方法であって、結晶核剤を含有した共重合ポリエステルペレットを100℃〜180℃で原料乾燥した後に、押し出し成形を行う感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルムを得る製造方法。

【公開番号】特開2010−82908(P2010−82908A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252813(P2008−252813)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】