説明

感熱応答性ポリリシン

【課題】生理条件下で感熱応答性を発現する生分解性と生体適合性を有する新規な刺激応答性高分子を提供すること。
【解決手段】1,2−エポキシアルカン(特に1,2−エポキシブタン)を導入した新規なポリリシン(特に、ポリ(ε−L−リシン))誘導体,該誘導体を含有する感熱応答性を有する水溶液組成物、および該ポリリシン誘導体を使用するアニオン性化合物の濃縮、分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
温度の外部刺激に応答してその物性を大きく変化させる刺激応答性高分子(ポリリシン)に関する。
【背景技術】
【0002】
温度、pH、光、電場などの外部刺激に応答してその物性を大きく変化させる刺激応答性高分子は、クロマトグラフィー担体やインテリジェント型のドラッグデリバリーシステム(DDS)担体などの生医学材料として数多く研究されている。
【0003】
近年では高機能ドラッグキャリアーとして生体内での使用を想定し、生分解性と生体適合性を有する刺激応答性高分子に関する研究が国内外で行われている。しかし、これまでに報告されている方法は、1)合成過程が多段階であり複雑である、2)分解生成物の安全性に疑問が残るなどの問題点を有している。
【0004】
例えば、納豆の粘りの主成分であるポリ(γ−グルタミン酸)(γ−PGA)側鎖のカルボキシル基にアルキル基を適量導入してγ−PGA分子鎖全体の親・疎水バランスを制御することより、温度刺激に応答可能なプロピル化γ−PGAの合成がなされている(非特許文献1)。しかしながらγ−PGAは生理条件下(生体内の環境と同じpH(7.4)、塩濃度(150mM)の環境)で感熱応答性を発現しないなどの問題点がある。
【0005】
また、ポリ(αL−リシン)をコレステロールで疎水化した例も報告されている(非特許文献2)。しかしこの例は、コレステロールをコアとして水中でナノサイズの粒子を作る技術であり、刺激応答性を有する高分子を提供するものではない。
【非特許文献1】Shimokuri, T.; Kaneko, T.; Akashi, M. J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2004, 42, 4492-4501.
【非特許文献2】Akiyoshi, K. et al., Macromolecules 2000, 33, 6752-6756
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、生理条件下で感熱応答性を発現する生分解性と生体適合性を有する新規な刺激応答性高分子を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らが鋭意研究した結果、上記目的は、ポリリシンを両親媒化することにより達成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は1,2−エポキシアルカンを導入したポリリシン誘導体に関する。
【0009】
本発明で使用するポリリシンの構成モノマーであるリシンは、L体、D体またはそれらの混合物いずれの構成単位でもよい。すなわちポリリシンとしてはポリ(ε−L−リシン)、ポリ(ε−D−リシン)、ポリ(ε−D、L−リシン)、ポリ(α−L−リシン)、ポリ(α−D−リシン)、ポリ(α−D、L−リシン)いずれであってもよい。L体が自然に存在する形態であり、従って、L−リシンで構成されるポリリシンが通常使用される。中でも、ポリ(ε−L−リシン)(ε−PL)はstreptomyces albulus 346により産生される微生物由来、即ち天然由来のポリアミノ酸であり、L−リシンのホモポリマーであり、側鎖に修飾可能な1級アミノ基を有している。このε−PLは食品添加物として使用されているなど生体への安全性が高い。
【0010】
生理条件下で感熱応答性を発現する生分解性と生体適合性を有する新規な刺激応答性高分子を提供することを目的としていることから、ポリリシンは、水に溶けるものを使用するようにする。生理条件下、生体適合性という条件に限定されず、感熱応答性という特性を目的とするのであれば、水に溶けるものだけに限定される必要はない。
【0011】
ポリリシンの分子量は、リシンの重合度を調整することにより調整可能であり、必要に応じて適宜選択すればよい。
【0012】
通常は数平均分子量(Mn)が数千〜200000、好ましくは数千〜100000のものを使用するようにすればよい。分子量が低いものを使用すると、感熱応答性を発現するための駆動力である分子間相互作用が弱く、応答性が発現しにくい可能性が予想される。分子量が高すぎるものを使用すると、合成過程において高分子量体のポリリシン同士がコンプレックスを形成し、効率的に疎水基を導入できない可能性がある。
【0013】
ポリリシンの商品としては、微生物由来のポリ(ε−L−リシン)(数平均分子量4700:商品名ポリリジン塩酸塩:チッソ社製)等を入手可能である。
【0014】
ポリリシンに導入される1,2−エポキシアルカンは、アルカンの炭素数が4以上、好ましくは4又は5の1,2−エポキシブタン又は1,2−エポキシペンタン、より好ましくは1,2−エポキシブタンである。アルカンの炭素数が3以下では、感熱応答性を発現させることができない。また、炭素数が多すぎる1,2−エポキシアルカンは、水に溶けないので、それをポリリシンに導入する際には、合成的工夫が必要となる。
【0015】
ポリリシンへの1,2−エポキシアルカンへの導入は、ポリリシンを適当な溶媒に溶解させ、所定量の1,2−エポキシアルカンを添加溶解させて、ポリリシンの第1アミンのエポキシ基への求核開環反応させることにより行うことができる。結果的にポリリシンの第1アミンにヒドロキシアルキル基が導入される。
【0016】
例えば、ポリリシンとしてポリ(ε−L−リシン)、1,2−エポキシアルカンとして1,2−エポキシブタンを使用する場合は、水を溶媒とする水溶液中で一段階で合成可能である。1,2−エポキシアルカンとして1,2−エポキシペンタンを使用する場合は、1,2−エポキシペンタンが水に溶けないので、ポリ(ε−L−リシン)に一旦1,2−エポキシブタン導入して、1,2−エポキシペンタンが溶解可能な有機溶媒に溶解可能な程度まで疎水性を付与し、有機溶媒中で1,2−エポキシペンタンを反応導入させるようにすればよい。
【0017】
ポリリシンへの1,2−エポキシアルカンへの導入により、ポリリシンに疎水性を付与することができる。
【0018】
例えば、ポリ(ε−L−リシン)は、1.2−エポキシブタンの導入率(ポリリシンの第1アミンへの1,2−エポキシアルカンの導入の割合)が、14%を超えると、DMSO,エタノール等の有機溶媒溶解性が改善される。導入率は、合成の際の1.2−エポキシブタン等の1,2−エポキシアルカンの仕込量を変えることにより調整できる。
【0019】
さらに、ポリリシンの親疎水バランスを制御することにより、感熱応答性を付与することができる。本発明において「感熱応答性」とは、温度刺激により可逆的に引き起こされる相分離現象を意味している。相分離温度は疎水基の導入率59%以上)、ポリマー濃度(0.125〜2.0wt%)、pH(7以上、好ましくは7.4以上)を変化させることにより制御可能である。相分離温度は導入率の上昇に伴い低温側にシフトする。例えばポリ(ε−L−リシン)に1,2−エポキシブタンを59%程度以上導入すると、NaCl(1.0M)、pH12の緩衝液(塩濃度150mM)中で相分離温度が観測される。なお、本実施例で使用したpH12の緩衝液(塩濃度150mM)の組成は、リン酸水素二ナトリウム・水酸化ナトリウム水溶液を意味しており、塩濃度が、150mMであることは生理条件に近い。
【0020】
感熱応答性は、主鎖の構造によりそのメカニズムが異なる。例えばポリ(ε−L−リシン)に1,2−エポキシブタンを導入したポリリシン誘導体(ε−PL−B)は、コアセルベートにより感熱応答性を発現し、ポリ(α−L−リシン)に1.2−エポキシブタンを導入したポリリシン誘導体は、コイル・グロビュール転移により感熱応答性を発現する。
【0021】
ε−PL−Bは、相分離状態で形成するコアセルベート滴内に疎水性相互作用と静電相互作用を駆動力としてアニオン性化合物、例えばアニオン性色素、アニオン性のタンパク質、DNA、RNA等を分離、濃縮することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
1,2−エポキシアルカンを導入した新規なポリリシン誘導体を提供した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(実施例1)
ポリ[Nα−(2−ヒドロキシブチル)リシン](ε−PL−B)の合成
ポリ(ε−L−リシン)(ε−PL)(商品名:ポリリジン塩酸塩:チッソ株式会社製)820mg(5.0unit mmol)を25mlの超純水に溶解後、所定量(下記表1に記載)のブチレンオキサイドを加えて40℃で24時間反応させた。
【化1】

【0024】
反応終了後、分子量分画500の透析膜を使用して蒸留水で透析を行い、凍結乾燥によりポリマーを精製した。生成物の構造確認はH−NMR、FT−IRを使用して行った。
【0025】
図1にε−PL−BのH−NMRチャートを示した。すべてのピークはε−PLとε−PL−Bに由来する。
【0026】
2−ヒドロキシブチル基の導入率はε−PL−B主鎖のメチンに起因するピークと側鎖のメチル基に起因するピークの積算値の比から算出した。2−ヒドロキシブチル基の導入率は14から93%であった。
【0027】
溶解性試験
ポリマー濃度0.2重量%の濃度で、ε−PLとε−PL−Bの種々の溶媒に対する溶解性を試験した。結果を表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
ε−PLは超純水に対しては溶解性を示したが、有機溶媒に対しては不溶であった。一方、導入率14〜93%のε−PL−Bは、超純水に対して溶解性を示し、エタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)への溶解性が改善された。これらの結果からε−PL側鎖に2−ヒドロキシブチル基を導入することでε−PLの分子間相互作用を解消し、有機溶媒に対する溶解性を向上させることが可能となったことがわかる。
【0030】
ε−PL−Bの感熱応答性評価
ε−PL−Bの感熱応答性は、UV−visスペクトルを用いて温度変化に対する溶液の光透過率測定を行うことにより評価した。
【0031】
ε−PL−Bを超純水、NaCl水溶液(1.0M)、pH7.4,10,12の緩衝液(塩濃度150mM)に溶解(ポリマー濃度は超純水およびNaCl水溶液では1wt%とし、緩衝液中では0.25wt%とした)させ、スリット幅1mmの石英セルに入れて500nmの波長の吸光度を測定した。加熱・冷却速度は1℃/minとし、相分離温度は透過率90%の時の温度とした。
【0032】
2−ヒドロキシブチル基導入率14,37,59,73,80,93%のε−PL−B水溶液の透過率測定から得られた相分離温度を表2に示した。
NaCl水溶液(1.0M)(ポリマー濃度1wt%)のε−PL−B水溶液の光過率変化と93%ε−PL−B水溶液(pH7.4,10,12)(ポリマー濃度0.25wt%)の光透過率変化(相分離温度)をそれぞれ図2(a)−(c)と図3(a)−(c)に示した。図2(a)、図3(a)は、加熱過程での透過率変化、図2(b)、図3(b)は、冷却過程での透過率変化、図2(c)は、相分離温度の疎水基の導入率依存性を示す。図3(c)は、相分離温度の水素イオン濃度依存性を示している。
【0033】
【表2】

【0034】
超純水に溶解したε−PL−B(14〜93%)のすべてのサンプルは、超純水中で感熱応答性を示さなかった。NaCl水溶液(1.0M)、pH7.4,10,12の緩衝液(塩濃度150mM)中では2−ヒドロキシブチル基の導入率59%以上のε−PL−Bは感熱応答性を発現した。また、図2(c)によると相分離温度は導入率の上昇に伴い低温側にシフトしていることがわかる。
【0035】
NaCl水溶液(1.0M)中では導入率59,73,80,93%のε−PL−B水溶液において温度変化に対する透過率変化が観察された。また、pH7.4,10,12の緩衝液中でも導入率59,73,80,93%のε−PL−B水溶液は可逆的な透過率変化が観察された。図3(c)によると、pHを変化させることにより相分離温度をコントロールできることが分かる。データは示していないが相分離温度はポリマー濃度、pH、イオン強度、導入率により制御することが可能であった。
【0036】
また、相分離温度以上において示差走査型熱重量測定により相分離温度付近での水の明確な吸熱ピークが観察されず、顕微鏡写真から、濃厚相による液滴が観察されたことからコアセルベートにより感熱応答性が発現していることが示唆された。
【0037】
以上の結果から2−ヒドロキシブチル基を導入してε−PL分子鎖全体の親・疎水バランスを適度に調整し、無機塩の添加により水の極性を上げる、またはpHを上昇させることにより側鎖のアミノ基の静電反発を低下させることにより、2−ヒドロキシブチルの疎水性相互作用を強めれば、ε−PLに感熱応答性を付与できることが明らかとなった。
【0038】
ε−PL−B水溶液のイオン性色素との複合化挙動
コアセルベートによる感熱応答性を発現したε−PL−Bは側鎖にアミノ基が残存している。そこでイオン性色素であるトリパンブルー(TB:アニオン性)とメチレンブルー(MB:カチオン性)を使用してε−PL−B水溶液の相分離温度前後での複合化挙動について観察した。
【0039】
導入率93%のε−PL−B(ε−PL−B93)水溶液(pH7.4,LCST(相分離温度)45℃)中にTBとMBをそれぞれ10μMとなるように添加して相分離温度前後でのイオンコンプレックス形成について観察した。
【0040】
相分離温度以下である20℃ではε−PL−B93水溶液ではTBとMBはともに均一に溶解していることが確認された。これに対して相分離温度以上である50℃ではアニオン性色素であるTBがコアセルベート滴に濃縮されて沈殿する様子が確認された。これは相分離温度以上では疎水性相互作用を駆動力としてε−PL−B93が会合してコアセルベートによる濃厚相を形成し、静電相互作用によりアニオン性色素であるTBのみを液滴内に濃縮したために起こったと考えられる。
【0041】
TBの吸収波長である570nmの吸光度を測定したところ50℃のε−PL−B93水溶液の上澄み液からはTBの吸収は観察されなかった。
【0042】
以上の結果よりε−PL−B93は感熱応答により形成するコアセルベート滴内に静電相互作用を介してアニオン性化合物、例えばアニオン性のタンパク質、DNAを捕捉できることも予想され、温度刺激を利用した分離材料としての利用が期待される。
【0043】
ε−PL−B水溶液のCDスペクトル測定
ε−PL−B(導入率93%)のCDスペクトルを、pH7.4,10,12、ポリマー濃度0.005wt%、バッファー濃度150mMの条件下で測定した。結果を図4に示した。
【0044】
pH7.4,12の条件下でε−PLとε−PL−Bはβ−シート構造をとることが明らかとなった。さらに加熱により、ε−PL−Bのβ構造は安定化することが分かる。
【0045】
ε−PL−B水溶液のDLS測定
ε−PL−B(導入率93%)、pH7.4、相分離温度44℃、ポリマー濃度0.5wt%、バッファー濃度150mMの溶液を使用しε−PL−B(導入率93%)のDLSを、20、40、60℃条件下で測定した。結果を図5に示した。
【0046】
ε−PL−B水溶液は相分離温度以上で2−ヒドロキシブチル基の疎水性相互作用を駆動力として粒径400nm程度の会合体を形成した。
【0047】
ポリ[Nε−(2−ヒドロキシブチル)リシン](α−PL−B)の合成
ポリ[Nα−(2−ヒドロキシブチル)リシン](ε−PL−B)と同様の方法でポリ[Nε−(2−ヒドロキシブチル)リシン](α−PL−B)を合成した。表3に合成結果と水に対する溶解性を示した。
【0048】
【表3】

【0049】
2−ヒドロキシブチル基の導入率は50,72,83,95%であった。導入率が50%,72%のα−PL−Bは超純水に溶解したが、導入率83%のα−PL−Bは超純水中で分散し、95%のα−PL−Bは、超純水に対して不溶であった。
【0050】
また導入率50,72%のα−PL−BはpH7.4の緩衝液に対する溶解性を示したが、導入率83%のα−PL−BはpH7.4の緩衝液中で沈殿した。α−PL−Bは導入率の増加に伴い、水に対する溶解性が低下した。合成したα−PL−Bはε−PL−Bと比較して、同程度の導入率の場合では水に対する溶解性が低下することが明らかとなった。これはα−PL−Bは側鎖の疎水基の鎖長が長いためε−PL−Bと比較して強い疎水性相互作用が働くことに起因すると考えられる。
【0051】
pH7.4の緩衝液に対する溶解性を示した導入率50,72%のα−PL−Bの感熱応答性について検討し、水に分散した導入率83%の動的光散乱(DLS)測定を行った。
【0052】
図6に導入率50%(ポリマー濃度:1wt%),導入率72%(ポリマー濃度:1wt%,0.2wt%)のα−PL−B水溶液(pH7.4)の温度変化に対する光透過率測定の結果を示した。
【0053】
導入率72%のサンプルのみ官能応答性を示すことが確認されたが、透過率変化の乱れが観察された。相分離温度以上でのα−PL−B水溶液を観察するとポリマーの析出および沈殿が観察された。
【0054】
DSC測定
ε−PL−B(導入率93%)、α−PL−B(導入率72%)について、pH7.4、ポリマー濃度0.5wt%、バッファー濃度150mM、加熱・冷却速度2℃/分の条件下で、DSC測定を行った。結果を図7に示す。
【0055】
DSC測定の結果より、ε−PL−Bは、液−液相分離であるコアセルベートにより感熱応答性を発現し、α−PL−Bは、液−固相分離であるコイル・グロビュール移転により感熱応答性を発現することが確認された。また、図7よりα−PL−B水溶液(pH7.4)の相分離温度は約65℃であることがわかる。
【0056】
ε−PL−Bの相分離状態では液一液相分離であったのでポリマーの沈殿は確認されなかったが、α−PL−Bは、側鎖の疎水基の鎖長が長いため、ε−PL−Bと比較して強い疎水性相互作用が働き、α−PL−B72水溶液は温度刺激に応答して疎水性相互作用を駆動力としたポリマーの会合が起こり析出したと考えられる。
【0057】
図8に、水分散性を示したα−PL−B83のDLS測定の結果を示した。20℃と50℃で測定したα−PL−B83の平均粒径はそれぞれ177nmと183nmであった。α−PL−B83は2−ヒドロキシブチル基の疎水性相互作用を駆動力として水中で比較的単分散な会合体を形成することが確認された。また、分散状態でのα−PL−B83のゼータ電位測定を行ったところ表面電位は35mVであり、表面にアミノ基が集積された会合体を形成していることが明らかとなった。
【0058】
本実施例においては、ポリリシンとして、ポリ(ε−L−リシン)およびポリ(α−L−リシン)を使用した実施例を示しているが、ポリ(ε−D−リシン)、ポリ(ε−D、L−リシン)(リシンモノマー単位がD体とL体の混合物)、ポリ(α−D−リシン)、ポリ(α−D、L−リシン)も同様に使用できると考えている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリリシン誘導体は、新規な生分解性分離材料、アニオン性ドラッグのキャリアへの応用が可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ε−PL−BのH−NMRチャート。
【図2a】ε−PL−B水溶液の透過率の温度依存性(加熱過程)を示す図。
【図2b】ε−PL−B水溶液の透過率の温度依存性(冷却過程)を示す図。
【図2c】ε−PL−B水溶液の相分離温度の導入率依存性を示す図。
【図3a】ε−PL−B93水溶液の透過率の温度依存性(加熱過程)を示す図。
【図3b】ε−PL−B93水溶液の透過率の温度依存性(冷却過程)を示す図。
【図3c】ε−PL−B93水溶液の相分離温度の水素イオン濃度依存性を示す図。
【図4】ε−PL−B93のCDスペクトルを示す図。
【図5】ε−PL−B93のDLS測定の結果を示す図。
【図6】α−PL−B水溶液の温度変化に対する光透過率を示す図。
【図7】ε−PL−B93%、α−PL−B72%のDSC測定結果を示す図。
【図8】α−PL−B83のDLS測定の結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2−エポキシアルカンを導入したポリリシン誘導体。
【請求項2】
ポリリシンがポリ(ε−L−リシン)またはポリ(α−L−リシン)である、請求項1に記載のポリリシン誘導体。
【請求項3】
ポリリシンがポリ(ε−L−リシン)である、請求項1に記載のポリリシン誘導体。
【請求項4】
1,2−エポキシアルカンが、1,2−エポキシブタンである、請求項1または2に記載のポリリシン誘導体。
【請求項5】
1,2−エポキシアルカンが、ポリリシン誘導体の有する第1アミンに対して14%以上導入された、請求項1〜4いずれかに記載のポリリシン誘導体。
【請求項6】
1,2−エポキシアルカンが、ポリリシン誘導体の有する第1アミンに対して14%以上導入された、請求項1〜4いずれかに記載のポリリシン誘導体。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載のポリリシン誘導体を含有し、pHが7以上に維持された感熱応答性を有する水溶液組成物。
【請求項8】
請求項1〜6いずれかに記載のポリリシン誘導体を使用することを特徴とする、アニオン性化合物の濃縮、分離方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−56878(P2008−56878A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238944(P2006−238944)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】