説明

感熱記録体

【課題】 記録濃度が高く、地肌かぶりが少なく、且つ記録部の耐可塑剤性、耐油性に優れた感熱記録体を提供する。
【解決手段】 ロイコ染料、及び呈色剤としての芳香族カルボン酸の亜鉛塩を含有する感熱記録層を、支持体上に有する感熱記録体において、前記芳香族カルボン酸が、芳香族モノカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸である。前記芳香族モノカルボン酸に対する前記芳香族ジカルボン酸の含有モル比率が0.02〜0.80、芳香族ジカルボン酸及び芳香族モノカルボン酸の含有モル総量に対する前記亜鉛含有量のモル比率が0.4〜1.0であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録濃度、記録部の耐可塑剤性及び耐油性に優れた感熱記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
無色乃至は淡色のロイコ染料と該ロイコ染料の電子受容体として作用できる呈色剤とを、熱により反応させて発色させることにより記録像を得るようにした感熱記録体がよく知られている。
呈色剤としては、従来より、フェノール性化合物が、電子供与性の発色性化合物との反応による発色性に優れていることが知られており、利用されている。例えば、特公平1−30640(特許文献1)には、発色感度が優れているとして、p−ヒドロキシ安息香酸フェネチル、p−ヒドロキシ安息香酸3−フェニルプロピル等のp−ヒドロキシ安息香酸の芳香族エステルを呈色剤として用いることが提案されている。
【0003】
しかしながら、例えば、特開平7−68936(特許文献2)の従来技術の欄に記載されているように、p−ヒドロキシ安息香酸の芳香族エステルを呈色剤として使用した感熱記録材料は、油、可塑剤等の接触下、あるいは高温多湿の環境下において、未発色部が著しく汚染されたり、発色画像が退色する等の欠点が知られている。このため、近年のラベルやプリペイドカードのように過酷な環境で使用される感熱記録体の呈色剤としては不十分である。
【0004】
耐油性、記録保存性に優れる感熱記録体用呈色剤として、特公平4−17157(特許文献3)に、ハロゲン置換安息香酸亜鉛塩を含有させることが提案されている。この特許文献3によれば、4−クロル安息香酸や、4−ブロモ安息香酸等のハロゲン置換安息香酸では顕色能力が認められず、またサリチル酸亜鉛や5−(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛等のサリチル酸誘導体亜鉛塩は地色が悪く、ハロゲン置換がない安息香酸亜鉛、テレフタル酸亜鉛、パラオキシ安息香酸亜鉛、パラアミノ安息香酸亜鉛等の公知の芳香族カルボン酸多価金属塩は、発色濃度、耐油性、記録保存性などを総合的に満足できなかった(特許文献3の第4欄、表1)のに対し、4−フルオロ安息香酸亜鉛、3−クロル安息香酸亜鉛、3,4−ジクロル安息香酸亜鉛等のハロゲン置換安息香酸亜鉛塩では、発色濃度に優れ、耐油性、保存安定性に優れていると説明されている。一方、ハロゲン置換安息香酸は、感熱記録体の製造時、焼却時において、ハロゲンガス発生の原因となり得るとして、近年、ハロゲン原子を含まないで、同等以上の性能を有する代替え呈色剤の開発が要望されている。
【0005】
ハロゲン原子が結合していない芳香族カルボン酸金属塩を使用して、耐油性、耐可塑剤性に優れた印字を提供できる感熱記録体としては、特開平5−345742(特許文献4)に、芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩と硫酸亜鉛との塩交換により合成される芳香族カルボン酸の亜鉛塩を使用することが提案されている。ここでは、芳香族カルボン酸として、安息香酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、ナフトエ酸などが例示されており、具体的には、2−アセチルオキシ−3−ナフトエ酸と硫酸亜鉛との組合わせが、2−アセチルオキシ−3−ナフトエ酸と塩化亜鉛又は硝酸亜鉛との組合わせを用いて合成される亜鉛塩よりも、地肌部の耐油性、耐可塑剤性が優れていることが示されている。
【0006】
また、特開昭63−257680(特許文献5)には、特定の構造で示されるフタリド誘導体を含有する塩基性染料との組合わせで、耐光性に優れた感熱記録体を提供できる呈色剤として、安息香酸、サリチル酸、トルイル酸等の安息香酸誘導体の多価金属塩、ナフトエ酸誘導体の多価金属塩といった芳香族モノカルボン酸の金属塩の他に、フタル酸、クロロフタル酸等のモノエステル誘導体の多価金属塩、フタルアミド酸、ニトロフタルアミド酸等のフタルアミド酸誘導体の多価金属塩が挙げられている。
【0007】
【特許文献1】特公平1−30640号公報
【特許文献2】特開平7−68936号公報
【特許文献3】特公平4−17157号公報
【特許文献4】特開平5−345742号公報
【特許文献5】特開昭63−257680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、芳香族カルボン酸の金属塩が、記録保存性に優れた記録部を提供できるということは知られているものの、芳香族カルボン酸の種類、金属塩の製造方法などによって、耐油性、耐可塑剤性をはじめとする特性が異なる。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、記録濃度が高く、地肌かぶりが少なく、且つ記録部の耐可塑剤性、耐油性に優れた感熱記録体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の感熱記録体は、ロイコ染料、及び呈色剤としての芳香族カルボン酸の亜鉛塩を含有する感熱記録層を、支持体上に有する感熱記録体において、前記芳香族カルボン酸が、芳香族モノカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸であることを特徴とする。
【0010】
前記芳香族モノカルボン酸に対する前記芳香族ジカルボン酸の含有モル比率(芳香族ジカルボン酸/芳香族モノカルボン酸)は0.02〜0.80であることが好ましい。そして、前記芳香族ジカルボン酸及び芳香族モノカルボン酸の含有モル総量に対する前記亜鉛含有量のモル比率(亜鉛/(芳香族ジカルボン酸+芳香族モノカルボン酸))は0.4〜1.0であること、あるいは前記呈色剤におけるカルボキシル基に対する前記亜鉛の当量比(亜鉛/カルボキシル基)は、0.80〜1.50であることが好ましい。
【0011】
前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸であることが好ましく、前記芳香族モノカルボン酸は、安息香酸であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の感熱記録体は、芳香族モノカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及び無水フタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を、前記芳香族モノカルボン酸1モルに対して0.02〜0.80モル;並びに亜鉛含有化合物を、前記芳香族モノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及び無水フタル酸の含有総量に対するモル比(亜鉛/(芳香族モノカルボン酸+フタル酸+イソフタル酸+テレフタル酸+無水フタル酸))0.4〜1.0で含有する水分散液を、支持体上に塗布及び乾燥してなる感熱記録層を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感熱記録体は、記録濃度が高く、地肌かぶりが少なく、記録部の耐可塑剤性、耐油性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の感熱記録体は、ロイコ染料、及び呈色剤としての芳香族カルボン酸の亜鉛塩を含有するする感熱記録層を、支持体上に有する感熱記録体において、前記芳香族カルボン酸が、芳香族モノカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸であることを特徴とする。
【0015】
前記感熱記録層に含有されている芳香族カルボン酸の亜鉛塩は、芳香族カルボン酸イオンと亜鉛イオンで形成され得る亜鉛塩であり、芳香族モノカルボン酸亜鉛塩、芳香族ジカルボン酸亜鉛塩の他に、例えば、下記(1)式に示すように、芳香族ジカルボン酸と亜鉛とが交互に複数個連結してなる塩、下記(2)式に示すように、芳香族モノカルボン酸と芳香族ジカルボン酸との組合わせで形成される複合亜鉛塩などが挙げられる。
【0016】
【化1】


【化2】

【0017】
上記(2)式で示すような芳香族モノカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを組合わせてなる複合亜鉛塩は、芳香族モノカルボン酸亜鉛塩、芳香族ジカルボン酸亜鉛塩と比べて安定性が高く、芳香環に結合したカルボキシル基の亜鉛に対する電子吸引効果が高くなり、亜鉛の電子受容体としての効果が増大すると考えられ、その結果、耐油性、耐可塑剤性に優れたロイコ染料との反応物を生成できるのではないかと考えられる。
【0018】
このような複数種類の芳香族カルボン酸亜鉛塩が混在し得る呈色剤は、芳香族モノカルボン酸イオン及び芳香族ジカルボン酸イオンを供給する化合物と、亜鉛含有化合物とを反応させて、合成した芳香族カルボン酸亜鉛塩を感熱記録層中に含有させてもよいし、芳香族モノカルボン酸イオン、芳香族ジカルボン酸イオン、亜鉛イオンを含有する感熱記録層形成用塗液を調製し、支持体上に塗布、乾燥することにより、感熱記録層中に呈色剤となる芳香族カルボン酸亜鉛塩が含有されるようにしてもよい。
【0019】
前記芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、アセチルサリチル酸、p−クロル安息香酸、p−ホルミル安息香酸など、安息香酸の芳香環の水素原子をアルキル、アセチル、ニトロ、ハロゲン、ヒドロキシル、アルデヒド置換又は未置換の安息香酸を用いることができる。また、公知の芳香族モノカルボン酸亜鉛塩の呈色剤、例えば、4−〔2−(p−メトキシフェノキシ)エチルオキシ〕サリチル酸亜鉛、4−〔3−(p−トリルスルホニル)プロピルオキシ〕サリチル酸亜鉛、5−〔p−(2−p−メトキシフェノキシエトキシ)クミル〕サリチル酸亜鉛等を、本発明の効果を阻害しない範囲で用いることもできる。これらの芳香族モノカルボン酸は、1種又は2種以上を混合して用いることができるが、好ましくは、芳香族ジカルボン酸との併存において、上記(2)式のような複合亜鉛塩を形成しやすい芳香族モノカルボン酸を使用することである。亜鉛塩の安定性の点からは芳香族にハロゲン原子等の電子吸引基が置換されていることが好ましいが、感熱記録体の製造、焼却処分時にハロゲンガス生成の問題がないという取扱い性の観点、及び価格の点から、安息香酸がもっとも好ましく用いられる。
【0020】
前記芳香族ジカルボン酸イオンとしては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸といった芳香族ジカルボン酸だけでなく、水に溶解して芳香族ジカルボン酸イオンを生成する化合物、例えば、無水フタル酸も用いることができる。これらの芳香族ジカルボン酸イオンは、1種又は2種以上混合して用いることができるが、テレフタル酸、イソフタル酸が、記録部の耐油性、耐可塑剤性が優れるという理由から、好ましく用いられる。無水フタル酸やフタル酸の場合、上記(2)式で示すような芳香族モノカルボン酸との組合わせによる複合塩よりも、亜鉛と芳香族ジカルボン酸のモル比が1:1の分子内塩を形成しやすく、亜鉛によるロイコ染料に対する電子吸引効果が十分に発揮できないためではないかと思われる。
【0021】
上記芳香族モノカルボン酸と芳香族ジカルボン酸との含有割合は、芳香族ジカルボン酸/芳香族モノカルボン酸の含有モル比率として、0.02〜0.80であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.50である。芳香族モノカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸の含有モル比が0.02未満では、亜鉛によるロイコ染料に対する電子吸引効果を高めることができると考えられる芳香族ジカルボン酸と芳香族モノカルボン酸との組合わせによる複合亜鉛塩を形成しにくくなり、顕著な耐油性、耐可塑剤性増大効果が得られにくい傾向にある。一方、芳香族ジカルボン酸の含有モル比率が0.80を越えると、記録濃度が低下する傾向にあり、好ましくない。芳香族ジカルボン酸は、芳香族モノカルボン酸に比べて融点が高く、感熱記録時の染料との反応性が、芳香族モノカルボン酸よりも劣るためではないかと考えられる。
【0022】
感熱記録層における上記芳香族モノカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸(以下、モノカルボン酸とジカルボン酸を区別せずに、両者を包含するときは、単に「芳香族カルボン酸」ということがある)と、亜鉛との含有割合は、前記芳香族カルボン酸の含有量(芳香族ジカルボン酸と芳香族カルボン酸の含有総量)に対する前記亜鉛の含有量のモル比率(亜鉛/芳香族カルボン酸)が0.4〜1.0となるようにすることが好ましく、さらに好ましくは0.4〜0.9であり、特に好ましくは0.4〜0.7である。また、前記呈色剤における前記亜鉛のカルボキシル基当量比(亜鉛/芳香族カルボン酸由来のカルボキシル基)は、0.80〜1.50であることが好ましい。芳香族カルボン酸の含有総モル数に対する亜鉛の含有モル比率が0.4未満あるいは亜鉛のカルボキシル基当量比が0.8未満であると、塩を形成しないカルボキシルイオンの含有割合が多くなることを意味し、耐油性、耐可塑剤性が低下したり、地肌かぶりが多く発生する恐れがある。一方、芳香族カルボン酸の含有総モル数に対する亜鉛の含有モル比率が1.0を越えると、記録濃度が低下する傾向にある。また、カルボキシル基当量に対する亜鉛の当量比が1.50を越える場合も同様に、芳香族ジカルボン酸/芳香族モノカルボン酸の含有モル比率が0.02〜0.80の範囲内であっても、記録部の耐油性、耐可塑剤性が低下する傾向にあり、記録濃度が低下する傾向にある。
【0023】
芳香族カルボン酸の亜鉛塩を形成するために用いられる亜鉛イオン供給化合物としては、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛含有化合物を用いることができ、芳香族カルボン酸の亜鉛塩の製造方法に応じて適宜選択できる。
【0024】
芳香族カルボン酸の亜鉛塩の製造方法としては、例えば、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び酸化亜鉛を、所定のモル比率で混合した後、アンモニア水で溶解し、その後乾燥することによって合成してもよいし、芳香族モノカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のナトリウム塩水溶液に、硫酸亜鉛等の亜鉛と無機酸との塩の水溶液を加えて亜鉛塩を析出させる塩交換法によっても合成してもよい。あるいは、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および酸化亜鉛を、所定のモル比率で混合した懸濁液を湿式同時粉砕することによって合成してもよい。芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び亜鉛の含有モル比率の調節は、亜鉛塩の製造工程、あるいは感熱記録層用塗液における芳香族モノカルボン酸イオン及び芳香族ジカルボン酸イオンを供給できる化合物、亜鉛イオンを供給できる化合物の含有量を調整することにより行なえばよい。
【0025】
本発明で用いられるロイコ染料としては、各種公知のものを使用できる。ロイコ染料の具体例としては、例えば3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−3−(4−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノ−ベンゾ[α]フルオラン等の青発色性染料;3−(N−エチル−N−p−トリル)アミノ−7−N−メチルアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン等の緑発色性染料;3−シクロヘキシルアミノ−6−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−6,8−ジメチルフルオラン等の赤発色性染料;3−(N−エチル−N−イソアミル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N−メチル−N−シクロヘキシル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ペンチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−7−(o−フルオロフェニルアミノ)フルオラン、3−(N−エチル−p−トルイジノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N−エチル−N−テトラヒドロフルフリルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−クロロ−7−アニリノフルオラン等の黒発色性染料;3,3−ビス[1−(4−メトキシフェニル)−1−(4−ジメチルアミノフェニル)エチレン−2−イル]−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−p−(p−ジメチルアミノアニリノ)アニリノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−p−(p−クロロアニリノ)アニリノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3、6−ビス(ジメチルアミノ)フルオレン−9−スピロ−3’−(6’−ジメチルアミノ)フタリド等の近赤外領域に吸収波長を有する染料等が挙げられる。勿論、これらに限定されるものではなく、また2種類以上を併用することも可能である。
【0026】
感熱記録層中のロイコ染料と芳香族カルボン酸の亜鉛塩の含有比率は、特に限定しないが、一般にロイコ染料1質量部に対して0.5〜50質量部、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部程度の芳香族カルボン酸の亜鉛塩を含有することが好ましい。
【0027】
ロイコ染料及び呈色剤としての芳香族カルボン酸亜鉛(又は呈色剤を生成するための芳香族モノカルボン酸イオン、芳香族ジカルボン酸イオン、亜鉛イオンを供給できる化合物)を、水を媒体として分散してなる塗液(感熱記録層用塗工液)を、例えばエアナイフコーティング、バリバーブレードコーティング、ピュアブレードコーティング、ロッドブレードコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、スライドビードコーティング、オフセットグラビアコーティング、5本ロールコーティング等の適当な塗工方法により、支持体上に塗工し、乾燥することにより感熱記録層が形成される。このようにして形成される感熱記録層は、通常、ロイコ染料、芳香族カルボン酸の亜鉛塩が、それぞれ微粒子状で含有されている、
【0028】
感熱記録層用塗工液は、上記のようなロイコ染料及び呈色剤(又は呈色剤を生成するための芳香族モノカルボン酸イオン、芳香族ジカルボン酸イオン、亜鉛イオンを供給できる化合物)を、直接、水を媒体として混合することによりを調製してもよいが、好ましくは、ロイコ染料及び呈色剤(又は呈色剤を生成するための芳香族モノカルボン酸イオン、芳香族ジカルボン酸イオン、亜鉛イオンを供給できる化合物)それぞれを、予め、水を溶媒として湿式粉砕して、一定粒径に分散させた水分散液を調製した後、両分散液を混合して、感熱記録層用塗液とすること好ましい。
【0029】
分散液の調製に際しては、超音波、高速回転ミル、ローラミル、容器駆動媒体ミル、媒体攪拌ミル、ジェットミル、サンドグラインダー、メディアレス微粒化装置などにより、平均粒子径が0.1〜3μm、好ましくは0.3〜1.5μm程度に湿式粉砕しておくことが好ましい。ここでいう平均粒子径は、水分散液の状態で、レーザー回折式粒径測定器で測定される粉末の粒子径のメジアン径をいう。
【0030】
感熱記録層には、上記のようなロイコ染料、芳香族カルボン酸亜鉛、必要に応じて含有される脂肪酸アミド及び/または脂肪酸亜鉛のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種公知の呈色剤を1種または2種以上併用してもよい。併用できる呈色剤としては、以下のようなものが例示される。
【0031】
4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)、ハイドロキノン、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノール、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−4−メチル−ペンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルサルファイド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、p−ヒドロキシ−4’−メチルジフェニルスルホン、p−ヒドロキシ−4’−ベンジルオキシジフェニルスルフォン、2,4−ビス(フェニルスルホニル)フェノール、2,2’−〔4−(p−ヒドロキシフェニルスルホニル)フェノキシ〕ジエチルエーテル、1,3,3−トリメチル−1−(p−ヒドロキシフェニル)−6−ヒドロキシインダン、p−ヒドロキシ−4’−メトキシジフェニルスルホン、p−ヒドロキシ−4’−イソプロポキシジフェニルスルホン、p−ヒドロキシ−3’,4’−トリメチレンジフェニルスルホン、p−ヒドロキシ−3’,4’−テトラメチレンジフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシ−4’−メチルジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−p−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,3−ジ〔2−(p−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕ベンゼン、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、p−ヒドロキシ安息香酸フェニル、p−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、p−ヒドロキシ安息香酸トリル、p−ヒドロキシ−N−(2−フェノキシエチル)ベンゼンスルホンアミド、1,8−ビス(p−ヒドロキシフェニルチオ)−3,6−ジオキサ−オクタン、(p−ヒドロキシフェニルチオ)酢酸−2−(p−ヒドロキシフェニルチオ)エチルエステル、ノボラック型フェノール樹脂、フェノール重合体等のフェノール性化合物、N−(p−トリルスルホニル)カルバモイル酸−p−クミルフェニルエステル、4,4’−ビス(N−p−トリルスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、4,4’−ビス(N−p−トリルスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルスルホン、N−p−トリルスルホニル−N’−p−ブトキシカルボニルフェニルウレア、N−p−トリルスルホニル−N’−フェニルウレア、N−p−トリルスルホニル−N’−3−(p−トリルスルホニルオキシ)フェニルウレア等の分子内に−SONH−結合を有するもの等が挙げられる。
【0032】
他の呈色剤を併用する際の併用比率については特に限定されるものではないが、芳香族カルボン酸の亜鉛塩100質量部に対し、併用する呈色剤が10〜100質量部の範囲内となるように調節することが好ましい。
【0033】
また、本発明では必要に応じて、公知の増感剤を併用することもできる。かかる増感剤の具体例としては、例えば、ステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、2−ナフチルベンジルエーテル、m−ターフェニル、p−ベンジルビフェニル、ジ(p−メトキシフェノキシエチル)エーテル、1,2−ジ(3−メチルフェノキシ)エタン、1,2−ジ(4−メチルフェノキシ)エタン、1,2−ジ(4−メトキシフェノキシ)エタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,4−ジ(フェニルチオ)ブタン、p−アセトトルイジド、p−アセトフェネチジド、N−アセトアセチル−p−トルイジン、ジ(β−ビフェニルエトキシ)ベンゼン、シュウ酸ジ−p−クロロベンジルエステル、シュウ酸ジ−p−メチルベンジルエステル、シュウ酸ジベンジルエステル等が挙げられる。
【0034】
さらに、感熱記録層中には、必要により助剤としてカオリン、炭酸カルシウム、無定形シリカ、酸化チタン、水酸化アルミニウム、焼成カオリン等の顔料、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の滑剤、蛍光染料、着色染料、紫外線吸収剤、界面活性剤、耐水化剤等が含有されていてもよい。
【0035】
感熱記録層は、以上のような成分の他、接着成分を含有する。接着成分としては、例えば酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、完全(または部分)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、スチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、カゼイン、ゼラチン、酢酸ビニル樹脂系ラテックス、ウレタン樹脂系ラテックス、スチレン・ブタジエン共重合体系ラテックス、アクリル樹脂系ラテックス等が挙げられる。
【0036】
これらの接着成分は1種又は2種以上組合わせて用いることができる。かかる接着成分は、感熱記録層の全固形分に対して10〜50質量%程度含有されることが好ましい。
【0037】
感熱記録層は、以上のようなロイコ染料、呈色剤としての芳香族カルボン酸の亜鉛塩、接着剤成分、必要に応じて添加される脂肪酸アミド、脂肪酸亜鉛、増感剤、その他の添加剤を、水を媒体として分散させた感熱記録層用塗工液を塗工、乾燥することにより形成される。
【0038】
感熱記録層用塗工液は、上記各成分を、直接、水媒体に添加、混合してもよいが、好ましくは、染料分散液、呈色剤分散液を別々に調製した後、両者を混合することが好ましい。接着成分、その他の助剤等の添加剤は、染料分散液及び/又は呈色分散液に添加混合してもよいし、別に水分散液を調製し、染料分散液及び呈色剤分散液と混合して、塗工液としてもよい。
【0039】
以上のようにして調製される感熱記録層用塗工液は、支持体の一方の面に、乾燥後の塗布量が3〜10g/m程度、好ましく4〜7g/m程度となるように塗工される。
【0040】
本発明の感熱記録体に用いられる支持体としては、特に限定しないが、例えば、中性または酸性の上質紙、合成紙、透明又は半透明のプラスチックフィルム、白色のプラスチックフィルム等が挙げられる。支持体の厚みは特に限定しないが、通常、20〜200μm程度である。
【0041】
上記のようにして調製される感熱記録層用塗工液を、支持体上に直接塗工することにより、支持体上に感熱記録層を積層してもよいし、支持体上にまず下塗り層を形成し、形成された下塗り層上に感熱記録層を形成してもよい。下塗り層の介在により、感度、画質の改良等することができる。下塗り層の組成は、下塗り層を介在させる目的により適宜選択すればよいが、一般に、接着成分、顔料などが含まれる。
【0042】
下塗り層に用いられる接着成分としては、感熱記録層で使用するような樹脂を用いることができる。すなわち、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、完全(または部分)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、スチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、カゼイン、ゼラチン、酢酸ビニル樹脂系ラテックス、ウレタン樹脂系ラテックス、スチレン・ブタジエン共重合体系ラテックス、アクリル樹脂系ラテックス等を用いることができる。
【0043】
下塗り層に含有される無機顔料としては、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、珪酸アルミニウム等の金属酸化物、金属水酸化物、硫酸塩、炭酸塩などの金属化合物;無定形シリカ、焼成カオリン、タルク等の無機白色顔料などが挙げられる。これらのうち、特に焼成カオリンは、発色感度と画質バランスに優れていることから、好ましく用いられる。尚、無機顔料の粒子径としては、平均粒子径で0.5〜3.0μm程度のものが好ましい。
【0044】
また、下塗り層に含有される有機顔料としては、球状樹脂粒子(所謂、密実型樹脂粒子)、中空樹脂粒子、貫通孔を有する樹脂粒子、中空樹脂粒子の一部を平面で裁断して得られるような開口部を有する樹脂粒子等が挙げられる。記録濃度を高めたい場合には、中空樹脂が好ましく用いられる。これらの樹脂粒子を構成する樹脂成分については、特に限定するものではなく、例えば、球状樹脂粒子としては、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリロニトリル等の単量体の単独重合体やこれらの単量体の共重合体等が挙げられる。中空樹脂粒子、貫通孔を有する樹脂粒子、中空樹脂粒子の一部を平面で裁断して得られるような開口部を有する樹脂粒子としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリロニトリル等の単量体の単独重合体や、これらの単量体の共重合体等が挙げられる。これらの有機顔料の平均粒子径については特に限定するものではないが、例えば、球状粒子では0.1〜2.0μm程度、中空樹脂粒子では0.5〜5.0μm程度、貫通孔を有する樹脂粒子では0.1〜2.0μm程度、開口部を有する樹脂粒子では0.3〜5.0μm程度のものが好ましく用いられる。
【0045】
以上のような無機顔料の少なくとも1種と有機顔料の少なくとも1種とを併用すると、記録画質により優れ、しかもヘッドマッチング性にも優れた感熱記録体が得られることからより好ましい。無機顔料と有機顔料の使用比率としては、質量比で90:10〜30:70程度が好ましく、70:30〜50:50程度がより好ましい。
【0046】
下塗り層は、一般に水を分散媒体とし、無機顔料及び有機顔料から選ばれる少なくとも1種と接着剤を混合攪拌して得られる下塗り層用塗液を、支持体上に乾燥後の塗布量が2〜20g/m、好ましくは5〜15g/m程度となるように塗布乾燥して形成される。前記接着剤及び顔料の使用量としては、下塗り層全固形分に対して接着剤が5〜40質量%程度、顔料が10〜95質量%程度が好ましい。更に、下塗り層用塗液には、必要に応じて、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パラフィンワックス等の滑剤、蛍光染料、着色染料、界面活性剤、架橋剤等の各種助剤を添加することもできる。
【0047】
さらに、感熱記録層上に、成膜性を有する接着剤を主成分とする保護層を設けてもよい。保護層用塗液は、例えば水を媒体とし、接着成分、顔料、及び必要により助剤とを混合攪拌して調製される。保護層に用いられる接着成分、顔料、助剤は、上記の感熱記録層で用いられるものを使用できる。
【0048】
更にまた、保護層上に光沢層を設けてもよい。光沢層は、電子線または紫外線硬化性化合物を主成分とする塗液を塗布後、電子線または紫外線を照射して硬化することにより形成できる。またさらに、支持体の裏面側に帯電防止層を設けてもよい。
【0049】
下塗り層、保護層、光沢層等を形成するための塗工液は、感熱記録層と同様に、ピュアブレードコーティング、ロッドブレードコーティング、カーテンコーティング等の適当な塗工方法により塗工することができ、乾燥により各層が形成される。
【0050】
各層を形成した後、または感熱記録体を構成する全ての層を形成した後に、スーパーキャレンダー処理する等の感熱記録体製造分野における各種の公知処理技術を適宜付加してもよい。
【実施例】
【0051】
なお、以下の実施例において、「部」は「質量部」を示す。
【0052】
〔感熱記録体No.1の作成〕
(1)下塗り層用塗液の調製
球状樹脂粒子分散液(商品名:グロスデール130S、組成:スチレン、平均粒子径:0.8μm、三井化学社製、固形分濃度53%)90部、焼成カオリン(商品名:アンシレックス、エンゲルハード社製)の50%水分散液(平均粒子径:0.6μm)120部、スチレン−ブタジエン系ラテックス(商品名:L−1571、旭化成ケミカルズ社製、固形分濃度48%)10部、酸化澱粉の10%水溶液50部、及び水20部からなる組成物を、混合攪拌して下塗り層用塗液を得た。
【0053】
(2)ロイコ染料分散液の調製(A液調製)
3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン20部、鹸化度60モル%、重合度200のポリビニルアルコールの20%水溶液10部、天然油脂系消泡剤の5%エマルション0.5部、及び水20部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径(商品名:SALD2200、島津製作所社製による50%値)が1.0μmとなる様に処理してA液を得た。
【0054】
(3)呈色剤分散液の調製(B液調製)
安息香酸122.1部、テレフタル酸16.6部、酸化亜鉛48.8部、鹸化度60モル%、重合度200のポリビニルアルコールの20%水溶液93.8部、天然油脂系消泡剤の5%エマルション40部、及び水199部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径が1.5μmとなる様に処理してB液を得た。B液における安息香酸とテレフタル酸のモル比は、安息香酸1モルに対し、テレフタル酸が0.1モルである。また、芳香族カルボン酸(安息香酸及びテレフタル酸の総量)に対する亜鉛の含有モル比率は、0.55/1であり、亜鉛のカルボキシル基に対する当量比は1/1である。
なお、このように、安息香酸、テレフタル酸及び酸化亜鉛を同時湿式粉砕することにより芳香族カルボン酸の亜鉛塩を形成する方法を「方法a」と称する。
【0055】
(4)感熱記録層用塗液の調製
A液20部、B液80部、微粒子無定形シリカ(商品名:ミズカシールP−603、水澤化学社製)10部、鹸化度88モル%、重合度300のポリビニルアルコールの25%水溶液40部、ステアリン酸亜鉛の水分散液(商品名:ハイドリンZ−8−36、固形分濃度36%、中京油脂社製)20部、及び水50部を混合攪拌して感熱記録層用塗液を得た。
【0056】
(5)感熱記録体の作成
64g/mの上質紙(中性紙)の一方の面に、下塗り層用塗液を乾燥後の重量が8g/mとなるように塗布乾燥して下塗り層を形成し、次いで、この下塗り層上に、上記で調製した感熱記録層用塗液を乾燥後の重量が5g/mとなるように塗布乾燥して感熱記録層を形成した後、スーパーキャレンダーを施し感熱記録体No.1を得た。
【0057】
〔感熱記録体No.2〜4の作成〕
感熱記録体No.1の下塗り層用塗液を、下記のように変更した以外は、感熱記録体No.1と同様にして作成した。
【0058】
(1)感熱記録体No.2
球状樹脂粒子分散液90部及び水20部の代わりに、中空樹脂粒子分散液(商品名:AE851、組成:スチレン−アクリル、平均粒子径:1μm、JSR社製、固形分濃度26%)180部を含有させた下塗り用塗液を用いた。
【0059】
(2)感熱記録体No.3
球状樹脂粒子分散液90部及び水20部の代わりに、開口部を有する樹脂粒子分散液(商品名:ニッポールV−2001、組成:スチレン−アクリル、平均粒子径:0.85μm、日本ゼオン社製、固形分濃度30%)160部を含有させた下塗り用塗液を用いた。
【0060】
(3)感熱記録体No.4
球状樹脂粒子分散液90部及び焼成カオリンの50%水分散液120部の代わりに、焼成カオリン(商品名:アンシレックス、前出)の50%水分散液210部を含有させた下塗り用塗液を用いた。
【0061】
〔感熱記録体No.5〜12の作成〕
感熱記録体No.1のB液の調製において、テレフタル酸、酸化亜鉛、ポリビニルアルコールの20%水溶液(PVAaq)、水の含有量を、表1のように変更することにより、安息香酸と芳香族ジカルボン酸の含有モル比率(表1中、「モノカルボン酸:ジカルボン酸(モル比)」で示す)又は芳香族カルボン酸に対する亜鉛化合物の含有モル比率(表1中、「Zn/カルボン酸(モル比)」及び「Zn/カルボキシル基(当量比)」で示す)を変更した以外は、感熱記録体No.1と同様にして、感熱記録体を作成した。
【0062】
【表1】

【0063】
〔感熱記録体No.13の作成〕
感熱記録体No.1のB液の調製において、安息香酸の代りに、p−クロル安息香酸156.6部を用いた以外は、感熱記録体No.1と同様にして、感熱記録体を作成した。
【0064】
〔感熱記録体No.14〜16の作成〕
感熱記録体No.1のB液の調製において、テレフタル酸の代りに、イソフタル酸(No.14)、フタル酸(No.15)、無水フタル酸(No.16)を用いた以外は、感熱記録体No.1と同様にして、感熱記録体を作成した。尚、No.16については、モル数を同一にするために、無水フタル酸の含有量を14.8部に変更した。
【0065】
〔感熱記録体No.17の作成〕
安息香酸122.1部、テレフタル酸16.6部、酸化亜鉛48.8部(亜鉛/(安息香酸+テレフタル酸))のモル比率は0.55/1.0である)を、28%アンモニア水600部に溶解し、その後、水分及びアンモニアを蒸発させ、安息香酸及びテレフタル酸の亜鉛塩を得た。得られた芳香族カルボン酸の亜鉛塩、鹸化度88モル%、重合度300のポリビニルアルコールの20%水溶液93.8部、天然油脂系消泡剤の5%エマルジョン40部、及び水199部を混合攪拌し、サンドミルによりB液と同様にメジアン径1.5μmとなるように処理して、呈色剤分散液を調製した。なお、このように、酸化亜鉛をアンモニアで加水分解した後、芳香族カルボン酸の亜鉛塩を合成する亜鉛塩の製法を「方法b」と称する。
感熱記録体用塗液に使用する呈色剤分散液を、上記方法bで調製した呈色剤分散液に変更した以外は、感熱記録体No.1と同様にして、感熱記録体を作成した。
【0066】
〔感熱記録体No.18の作成〕
感熱記録体No.1のB液の調製において、p−ヒドロキシ−4’−イソプロポキシジフェニルスルホン100部、鹸化度88モル%、重合度300のポリビニルアルコールの20%水溶液50部、天然油脂系消泡剤の5%エマルション40部、及び水199部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径が1.5μmとなる様に処理した呈色剤を用いた以外は、感熱記録体No.1と同様にして、感熱記録体を作成した。
【0067】
〔感熱記録体No.19〜23の作成〕
感熱記録体No.1のB液の調製において、芳香族カルボン酸の種類及び含有量、並びに酸化亜鉛、ポリビニルアルコールの20%水溶液、水の含有量を、表2のように変更し、芳香族カルボン酸としてモノカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸の一方しか含有しないB液を調製し、感熱記録体No.1と同様にして、感熱記録体を作成した。
【0068】
【表2】

【0069】
〔感熱記録体の測定評価〕
上記で作成した感熱記録体No.1〜23を、下記測定評価方法に従って、記録濃度、記録部の耐油性、耐可塑剤性を測定評価した。結果を表3に示す。また、感熱記録体No.1、5〜10のモノカルボン酸/ジカルボン酸のモル比と耐油性の保存率(実線)及び耐可塑剤性の保存率(破線)との関係を図1に、感熱記録体No.1、5〜12の亜鉛/芳香族カルボン酸(モル比)と記録濃度の関係を図2に、感熱記録体No.1、11,12の亜鉛/カルボキシル基(当量比)と耐油性の保存率(実線)及び耐可塑剤性の保存率(破線)との関係を図3に示す。
【0070】
(1)記録濃度
感熱記録評価機(商品名:TH−PMD、大倉電気社製)を用いて、印加エネルギー0.5mJ/ドットにて各感熱記録体を印字し、記録部及び未記録部(地肌部)の濃度をマクベス濃度計(商品名:RD−914型、マクベス社)のビジュアルモードで測定した。
数値が大きい程、印字の濃度が濃いことを示しており、実用上、1以上であることが必要とされる。
【0071】
(2)記録部の耐油性
発色させた各感熱記録体に、コーン油に浸し24時間放置後、引き上げガーゼで拭いた後の記録部の濃度(記録濃度)をマクベス濃度計で測定した。また、下記式により、記録部の保存率を求めた。保存率が高いほど、耐油性に優れている。
保存率(%)=測定値(記録濃度)÷処理前の記録濃度×100
【0072】
(3)記録部の耐可塑剤性
ポリカーボネイトパイプ(40mmΦ)上にラップフィルム(商品名:ハイラップKMA−W、三井化学社製)を3重に巻付け、その上に発色させた各感熱記録体を載せ、更にその上にラップフィルムを3重に巻き付けて40℃で24時間放置した後の記録部の濃度(記録濃度)をマクベス濃度計で測定した。また、下記式により、記録部の保存率を求めた。保存率が高いほど、耐可塑剤性に優れている。
保存率(%)=測定値(記録濃度)÷処理前の記録濃度×100
【0073】
(4)固形分濃度
分散液を乾燥して、固形分重量を測定し、分散液に対する重量比率(質量%)を算出した。
【0074】
【表3】

【0075】
No.19、20は、呈色剤の亜鉛塩を形成するための芳香族カルボン酸として芳香族モノカルボン酸のみを用いた場合である。芳香族モノカルボン酸としてハロゲン置換安息香酸を用いることで耐可塑剤性を保持することができても、耐油性を保持することはできなかった。No.1とNo.19、No.13とNo.20の各比較結果から、芳香族モノカルボン酸としてハロゲン置換安息香酸、未置換安息香酸のいずれを用いる場合であっても、記録部の耐油性及び耐可塑剤性双方を保持するためには、芳香族ジカルボン酸の併用が効果的であることがわかる。
【0076】
一方、No.21〜23は、芳香族カルボン酸として芳香族ジカルボン酸しか含まれていない場合である。記録部の耐油性、耐可塑剤性が確保できないだけでなく、記録部の記録濃度自体が低く、呈色剤として、芳香族ジカルボン酸を単独で使用できないことがわかる。
【0077】
No.1〜17は、いずれも芳香族カルボン酸として芳香族モノカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを併用した場合であり、芳香族モノカルボン酸亜鉛塩単独で使用する場合(No.19、20)と比べて、記録部の耐油性、耐可塑剤性が優れていた。図1からわかるように、記録部の耐油性、耐可塑剤性の保存率は、芳香族モノカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の含有モル比率に依存しており、ジカルボン酸/モノカルボン酸(モル比)が0.2までは、芳香族ジカルボン酸の含有比率が高いほど、耐油性、耐可塑剤性の保存率が高いことがわかる。一方、0.2を越えると、ベンゼンジカルボン酸の併用効果は飽和し、ほとんど変化しないことがわかる。但し、No.1、5〜10の比較及び図2から、Zn/カルボキシル基(当量比)が同じであっても、Zn/カルボン酸(モル比)が大きくなるに従って、芳香族カルボン酸のテレフタル酸の含有割合が増大することになり、記録濃度が低くなる傾向にある。
【0078】
また、No.1とNo.13との比較から、芳香族モノカルボン酸としてハロゲン置換安息香酸を用いた方(No.13)が、無置換モノカルボン酸を用いた場合(No.1)よりも記録濃度が若干濃かったが、耐油性、耐可塑性剤については、ハロゲン置換安息香酸を用いたことによる優位性は特に認められなかった。
【0079】
No.1、11,12の比較及び図3から、Zn/カルボキシル基(当量比)は0.80〜1.50とすることが好ましいことがわかる。すなわち、耐油性、耐可塑剤性に優れた記録部を得るためには、亜鉛塩を形成しないフリーの亜鉛イオンやカルボキシイオンが存在しないように、芳香族カルボン酸及び亜鉛を含有させることが好ましいことがわかる。また、カルボン酸に対する亜鉛のモル含有比が0.36(カルボキシル基当量比が0.67)のとき(No.11)では、記録部の耐油性、耐可塑剤性が劣るだけでなく、地肌かぶりが認められた。一方、芳香族カルボン酸に対する亜鉛のモル含有比が0.73のとき(No.12)では、記録濃度が低くなる傾向にある。
【0080】
さらに、No.1、14〜16の比較から、ベンゼンジカルボン酸としては、p体(テレフタル酸)、m体(イソフタル酸)が、o体(フタル酸、無水フタル酸)と比べて、記録部の耐油性、耐可塑剤性の保存率が若干高かった。o体では、立体障害のために亜鉛塩を形成しにくく、芳香族ジカルボン酸併用効果が現われにくいためではないかと考えられる。
また、感熱記録体No.1〜3とNo.4の比較から、無機顔料と有機顔料を併用した下塗り層を介在させる方が記録濃度が高くなり、さらに感熱記録体No.1〜3の比較から、有機顔料として中空樹脂を使用することで若干記録濃度が高くなる傾向にあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の感熱記録体は、記録濃度に優れ、耐油性、耐可塑剤性といった記録部の保存性の優れた感熱記録体であるから、ラベルやプリペイドカードのような過酷な環境で使用される感熱記録体として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】感熱記録体No.1、5〜10のジカルボン酸/モノカルボン酸の含有モル比と耐油性の保存率及び耐可塑剤性の保存率との関係を示すグラフである。
【図2】感熱記録体No.1、5〜12の亜鉛/芳香族カルボン酸の含有モル比と記録濃度の関係を示すグラフである。
【図3】感熱記録体No.1、11,12の亜鉛/カルボキシル基の当量比と耐油性の保存率及び耐可塑剤性の保存率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコ染料、及び呈色剤としての芳香族カルボン酸の亜鉛塩を含有する感熱記録層を、支持体上に有する感熱記録体において、
前記芳香族カルボン酸が、芳香族モノカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸であることを特徴とする感熱記録体。
【請求項2】
前記芳香族モノカルボン酸に対する前記芳香族ジカルボン酸の含有モル比率(芳香族ジカルボン酸/芳香族モノカルボン酸)が0.02〜0.80である請求項1に記載の感熱記録体。
【請求項3】
前記芳香族ジカルボン酸及び芳香族モノカルボン酸の含有モル総量に対する前記亜鉛含有量のモル比率(亜鉛/(芳香族ジカルボン酸+芳香族モノカルボン酸))は、0.4〜1.0である請求項1又は2に記載の感熱記録体。
【請求項4】
前記呈色剤におけるカルボキシル基に対する前記亜鉛の当量比(亜鉛/カルボキシル基)は、0.80〜1.50である請求項1又は2に記載の感熱記録体。
【請求項5】
前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸である請求項1〜4のいずれかに記載の感熱記録体。
【請求項6】
前記芳香族モノカルボン酸は、安息香酸である請求項1〜5のいずれかに記載の感熱記録体。
【請求項7】
芳香族モノカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及び無水フタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を、前記芳香族モノカルボン酸1モルに対して0.02〜0.80モル;並びに亜鉛含有化合物を、前記芳香族モノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及び無水フタル酸の含有総量に対するモル比(亜鉛/(芳香族モノカルボン酸+フタル酸+イソフタル酸+テレフタル酸+無水フタル酸))0.4〜1.0で含有する水分散液を、
支持体上に塗布及び乾燥してなる感熱記録層を有する感熱記録体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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