説明

感熱記録体

【課題】記録濃度が高く、記録部の耐油性、耐可塑剤性が改善された感熱記録体を提供する。
【解決手段】支持体上に、ロイコ染料及び呈色剤を含有する感熱記録層を有する感熱記録体において、前記呈色剤として、前記感熱記録層固形分に対して、安息香酸亜鉛を5〜30質量%、特定の構造式で示される化合物を2〜15質量%含有することが好ましい。前記呈色剤は、特定の構造式で示される化合物及び安息香酸亜鉛を、平均粒子径0.1〜3μmに、同時湿式粉砕したものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高記録濃度で、記録部の耐可塑剤性、耐油性に優れた感熱記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
無色乃至は淡色のロイコ染料と該ロイコ染料の電子受容体として作用できる呈色剤とを、熱により反応させて発色させることにより記録像を得るようにした感熱記録体がよく知られている。
【0003】
このような感熱記録体に用いられる呈色剤としては、記録濃度が高い記録部が得られる一方、記録部以外の地肌部では、所謂、地肌カブリの少ない(地肌部の白色度が高い)ものが求められる。
更に、記録部については、種々の環境における長期間の保存性が求められることから、特に耐油性、耐可塑剤性に優れることが求められる。
【0004】
このような要件を充足すべく、呈色剤、呈色助剤について、種々の提案がなされている。例えば、特開昭62−169681号(特許文献1)では、電子受容性化合物として、アリールオキシアルキルオキシ基を有するサリチル酸誘導体またはその金属塩を含有する記録材料は、フリーのカルボキシル基を有しないフェノール系化合物やアリールオキシアルキルオキシ基を有しないサリチル酸亜鉛と比べて、耐油性に優れることが開示されている。
【0005】
更に、特開平5−345742号(特許文献2)では、特定の合成方法により合成された芳香族カルボン酸亜鉛塩では、耐油性だけでなく、耐可塑剤性にも優れることが示されている。
【0006】
一方、特開2005−104134号(特許文献3)には、記録部の耐油性、耐可塑剤性に優れた新たな電子受容体として、本願発明で使用される化合物が提案されている。
しかしながら、前記化合物単独では、サリチル酸の金属塩と同様に、記録部の耐可塑剤性、耐油性は改善されるものの、記録濃度が劣っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−169681号公報
【特許文献2】特開平5−345742号公報
【特許文献3】特開2005−104134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高記録濃度であり、記録部の耐油性、耐可塑剤性が改善された感熱記録体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題の解決手段を求めて、鋭意研究を重ねた結果、次の知見を得た。
(a)感熱記録層中に使用する呈色剤として、安息香酸亜鉛を使用することで記録感度が付与できるが、一方で、記録像の保存性が大幅に劣っていた。
(b)このため、呈色剤として安息香酸亜鉛を使用する場合に、記録像の保存性を改良するために併用する呈色剤等を選択してみたが、十分満足される品質の感熱記録体は得られなかった。
(c)しかし、引き続く研究において、感熱記録層中の呈色剤として、特定の化合物を特定量使用することにより、呈色剤として使用する安息香酸亜鉛の本来の記録感度を実質的に損なうことなく、記録像の保存性が改善されることを見出した。
本発明は上記知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであって、次の感熱記録体を提供するものである。
項1 支持体上に、ロイコ染料及び呈色剤を含有する感熱記録層を有する感熱記録体において、前記呈色剤として、前記感熱記録層固形分に対して、安息香酸亜鉛を5〜30質量%、下記一般式(I)で示される化合物を2〜15質量%含有することを特徴とする感熱記録体。
【0010】
【化1】

[但し、式(I)において、Rは無置換の芳香族基、或いはメチル基及び塩素原子から選ばれた少なくとも一員により置換された芳香族基を表し、Rは2価の有機基を表す。
項2 Rが、無置換のフェニル基又は無置換のナフチル基であるか、あるいは、メチル基及び塩素原子からなる群から選ばれた1個又は2個により置換されたフェニル基又はナフチル基を表し、
が、(a)炭素数1〜30の直鎖状アルキレン基、炭素数1〜30の分枝状アルキレン基、又は、炭素数6〜16のシクロアルキレン基又は該シクロアルキレン基をその構造内に含む炭素数1〜4のアルキレン基であるか、又は、(b)式−(CHCHX)−CHCH−で表される基(式中、Xは酸素原子または硫黄原子を示し、nは1〜20の整数を示す)、2,5−(1−オキサシクロヘキシレン)基又は1−オキサシクロヘキサン−2,5−ジメチレン基である項1に記載の感熱記録体。
項3 Rが、−(CH−基または−(CHCHO)−CHCH−基(但し、mは、1〜30の整数を表し、nは1〜20の整数を表す)である、項1または2に記載の感熱記録体。
項4 式(I)で示される化合物が、下記式(II)
【0011】
【化2】

で表される化合物である項1記載の感熱記録体。
項5 式(I)で示される化合物が、下記式(III)
【0012】
【化3】

で表される化合物である項1記載の感熱記録体。
項6 式(I)で示される化合物が、下記式(IV)
【0013】
【化4】

で表される化合物である項1記載の感熱記録体。
項7 前記呈色剤は、安息香酸亜鉛及び前記一般式(I)で示される化合物を、平均粒子径0.1〜3μmに、同時湿式粉砕したものである項1から6のいずれかに記載の感熱記録体。
項8 前記感熱記録層は、安息香酸亜鉛を8〜25質量%、および前記一般式(I)で示される化合物を5〜15質量%含有している項1から7のいずれかに記載の感熱記録体。
項9 前記一般式(I)で示される化合物に対する安息香酸亜鉛の含有比率(安息香酸亜鉛/前記一般式(I)で示される化合物)は、0.8〜10である項1〜8のいずれかに記載の感熱記録体。
【発明の効果】
【0014】
発明の感熱記録体は、呈色剤として、安息香酸亜鉛及び前記一般式(I)で示される化合物を所定範囲で含有することにより、記録濃度が高く、記録部の耐油性、耐可塑剤性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の感熱記録体は、支持体上に、ロイコ染料及び呈色剤を含有する感熱記録層を有する感熱記録体において、前記呈色剤として、前記感熱記録層固形分に対して、安息香酸亜鉛及び上記一般式(I)で示される化合物を所定範囲量含有するものである。
【0016】
安息香酸亜鉛
安息香酸亜鉛は、ロイコ染料の呈色剤として含有されている。
一般に、芳香族カルボン酸亜鉛塩は、遷移金属である亜鉛原子のd軌道の電子受容能が、塩基性ロイコ染料に対し、顕色剤として機能できる。亜鉛原子のd軌道の電子吸引性は、芳香族のp位置換基の種類により異なる。電子吸引性基であるハロゲン、アルデヒド基、ニトロ基等を、p位置に有する芳香族カルボン酸は、結果として、発色性能、耐油性、耐可塑剤性といった記録部保存性に優れているが、安全性、特に廃棄物として処理される際に、塩素や窒素酸化物が排出されることから、使用しないことが求められるようになっている。ベンズアルデヒドは、このような廃棄物としての問題はないものの、高コストであり、大量に使用すると、感熱記録体の価格アップの原因となる。
【0017】
この点、置換基のない安息香酸では、廃棄物の問題もなく、感熱記録体のコストアップといった問題もない。また、記録部の耐油性、耐可塑剤性が、電子吸引性基置換芳香族カルボン酸よりも劣るという点については、前記一般式(I)で示される化合物との併用により、解決可能である。
【0018】
安息香酸亜鉛は、市販の安息香酸亜鉛を使用してもよいし、安息香酸と亜鉛供給化合物から合成してもよい。安息香酸と亜鉛供給化合物の組み合わせとして含有させる場合、安息香酸と亜鉛の含有モル比率(安息香酸/亜鉛)は、1.5/1〜3.4/1、好ましくは1.8/1〜3.0/1であり、更に好ましくは1.8/1〜2.6/1である。安息香酸と亜鉛のモル比率(安息香酸/亜鉛)を2/1付近とすることにより、芳香環に結合したカルボキシル基が亜鉛塩の状態で存在することができるので安定した状態となり、亜鉛の電子受容体効果が充分に発揮されるためではないかと考えられる。
【0019】
安息香酸から安息香酸亜鉛に置換する方法としては、安息香酸のアルカリ金属塩水溶液と亜鉛供給化合物水溶液との塩交換により析出させて合成することができる。亜鉛供給化合物としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、シュウ酸亜鉛などが挙げられる。得られた安息香酸亜鉛は、水媒体中に分散した懸濁液を粉砕処理により感熱記録層塗工液に使用される。また、亜鉛供給化合物として酸化亜鉛を使用する場合は、安息香酸亜鉛は、水媒体中に安息香酸及び酸化亜鉛を、調節しようとするモル比率で混合してなる懸濁液を同時湿式粉砕することによって得ることもできる。
【0020】
粉砕処理は、超音波、高速回転ミル、ローラミル、容器駆動媒体ミル、媒体攪拌ミル、ジェットミル、サンドグラインダー、メディアレス微粒化装置等を用いて、平均粒子径が0.1〜3μm、好ましくは0.3〜1.5μm程度に粉砕することが好ましい。ここでいう平均粒子径は、水分散液の状態で、レーザー回折式粒径測定器で測定される粉末の粒子径のメジアン径をいう。
【0021】
感熱記録層中の安息香酸亜鉛の含有量は、感熱記録層固形分に対して、5〜30質量%、好ましくは8〜25質量%である。
また、感熱記録層中のロイコ染料と安息香酸亜鉛の含有比率は、特に限定しないが、一般にロイコ染料1質量部に対して0.5〜50質量部、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部程度の安息香酸亜鉛を含有することが好ましい。
【0022】
一般式(I)で表される化合物
感熱記録層中に下記式(I)で示す化合物を所定量添加することにより、呈色剤として使用する安息香酸亜鉛の本来の記録感度を実質的に損なうこと無しに、記録部の保存性を付与することができる。
【0023】
【化5】

上記式(I)において、Rは無置換の芳香族基、あるいは、メチル基及び塩素原子からなる群から選ばれた少なくとも一員により置換された芳香族基を表し、Rは2価の有機基を表す。
上記の式(I)におけるR基としては、無置換の芳香族基(例えば、フェニル基又はナフチル基)、あるいは、メチル基及び塩素原子からなる群から選ばれた少なくとも一員(特に1個又は2個)により置換された芳香族基(例えば、フェニル基又はナフチル基)を表す。特に、R基は、無置換フェニル基又は無置換ナフチル基であるか、又は、メチル基若しくは塩素原子が1個置換したフェニル基であり、より具体的には、フェニル基、2−ナフチル基、p−トリル基、o−トリル基、m−トリル基、p−クロロフェニル基等を挙げることができる。
また、上記の式(I)におけるR基については、2価の有機基であれば特に制限はないが、以下のグループ(a)及び(b)から選ばれる一員が望ましい。
(a)鎖状または環状脂肪族炭化水素より2つの水素を取り去って形成される2価の基、特に−(CH−基(mは1〜30、特に1〜15、好ましくは1〜10の整数を示す)。
具体的には、炭素数1〜30、特に1〜15、好ましくは1〜10の直鎖状アルキレン基、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基であるか、あるいは、炭素数1〜30、特に1〜8の分枝状のアルキレン基、例えば、1−メチル−1,3−トリメチレン基、2,3−ジメチル−1,4−テトラメチレン基、或いは、炭素数6〜16、特に6〜10のシクロアルキレン基又は該シクロアルキレン基をその構造内に含む炭素数1〜4のアルキレン基、例えば、1,4−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキサンジメチレン基などを挙げることができる。
(b)鎖状または環状脂肪族炭化水素の一部がヘテロ原子(例えば、酸素原子、硫黄原子)により置換されてなる化合物より2つの水素を取り去って形成される2価の基、特に式−(CHCHX)−CHCH−で表される基(式中、Xは酸素原子または硫黄原子を示し、nは1〜20、特に1〜10、好ましくは1〜5の整数を示す)。
具体的には、1,5−(3−オキサペンタメチレン)基(−CHCH−O−CHCH−)、1,5−(3−チオペンタメチレン)基(−CHCH−S−CHCH−)、1,8−(3,6−ジオキサオクチレン)基(−CHCH−O−CHCH−O−CHCH−)、下記式(1)で表される2,5−(1−オキサシクロヘキシレン)基、下記式(2)で表される1−オキサシクロヘキサン−2,5−ジメチレン基などを挙げることができる。
【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

上記式(I)において、Rにより表される2価の有機基が、−(CH−基または−(CHCHO)−CHCH−基(但し、mは、1〜30、特に1〜15、好ましくは1〜10の整数を表し、nは1〜20、特に1〜10、好ましくは1〜5の整数を表す)であることが好ましい。
上記の式(I)で示される化合物の中で、記録感度と記録像の保存性に優れるという理由で、下記式(II)で表される化合物がより好ましい。
【0026】
【化8】

同様に記録感度と記録像の保存性に優れるという理由で、上記の式(I)で示される化合物の中で、下記式(III)で表される化合物がより好ましい。
【0027】
【化9】

同様に記録感度と記録像の保存性に優れるという理由で、上記の式(I)で示される化合物の中で、下記式(IV)で表される化合物がより好ましい。
【0028】
【化10】

【0029】
呈色剤である安息香酸亜鉛と併用される本発明に関わる式(I)の化合物の典型例としては、好ましく用いられる前記の式(II)、(III)又は(IV)で表される化合物以外に、例えば、以下の化合物があげられる。
メチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、メチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、メチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,2−ジメチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,2−ジメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,2−ジメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,3−トリメチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,3−トリメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,3−トリメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,4−テトラメチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,4−テトラメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,4−テトラメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,5−ペンタメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,5−ペンタメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,6−ヘキサメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,6−ヘキサメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,7−ヘプタメチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,7−ヘプタメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,7−ヘプタメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,8−オクタメチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,8−オクタメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,8−オクタメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,9−ノナメチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,9−ノナメチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,9−ノナメチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1−メチルエチレン ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1−メチルエチレン ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1−メチルエチレン ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,5−(3−オキサペンタメチレン) ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,8−(3,6−ジオキサオクチレン) ビス(3−(3−(p−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,8−(3,6−ジオキサオクチレン) ビス(3−(3−(m−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)、1,8−(3,6−ジオキサオクチレン) ビス(3−(3−(o−トルエンスルホニル)ウレイド)ベンゾエート)。
上記式(I)で表される化合物、式(II)〜(IV)で表される化合物は、いずれも、公知の方法、例えば特願2004−242569号公報の実施例に記載されている方法で合成することができる(後述の製造例1及び2参照)。
【0030】
感熱記録層中の呈色剤として、感熱記録層固形分に対して安息香酸亜鉛を5〜30質量%、上記一般式(I)で示される化合物を2〜15質量%含有するものであり、安息香酸亜鉛を8〜25質量%、および前記一般式(I)で示される化合物を5〜15質量%含有していることがより好ましい。上記一般式(I)で示される化合物を15質量%を超えて含有する場合、目標とする記録濃度が得られない。一方、2質量%未満では、記録部の耐油性、耐可塑剤性改善効果が得られない。
【0031】
また、前記一般式(I)で示される化合物に対する安息香酸亜鉛の含有比率(安息香酸亜鉛/前記一般式(I)で示される化合物)は、0.8〜10であることが好ましい。前記一般式(I)で示される化合物の割合が多くなるに従って、記録濃度の低下が起き易くなるからである。一方、前記一般式(I)で示される化合物の割合が少なくなり過ぎると、記録部における耐油性、耐可塑剤性の十分な改善効果が得られないからである。
【0032】
安息香酸亜鉛、前記一般式(I)に示される化合物は、平均粒子径0.1〜3μmであることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5μm程度である。前記一般式(I)に示される化合物の粉砕処理は、安息香酸亜鉛の粉砕処理と別々に行ってもよいが、前記一般式(I)に示される化合物及び安息香酸亜鉛、好ましくは前記一般式(I)に示される化合物、安息香酸、及び酸化亜鉛の組み合わせを水媒体中に仕込み、同時湿式粉砕処理することが好ましい。同時粉砕により得られる分散液は、個別に粉砕処理して得られた分散液を混合した場合よりも、耐油性、耐可塑剤性の改善効果が高く、感熱記録体の保存性に優れている。
【0033】
次に、感熱記録層中に含まれる材料について、順に説明する。
【0034】
<ロイコ染料>
本発明で用いられるロイコ染料としては、各種公知のものが使用できる。ロイコ染料の具体例としては、例えば3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−3−(4−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメルアミノフタリド、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノ−ベンゾ[α]フルオラン等の青発色性染料;3−(N−エチル−N−p−トリル)アミノ−7−N−メチルアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン等の緑発色性染料;3−シクロヘキシルアミノ−6−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−6,8−ジメチルフルオラン等の赤発色性染料;3−(N−エチル−N−イソアミル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N−メチル−N−シクロヘキシル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ペンチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−7−(o−フルオロフェニルアミノ)フルオラン、3−(N−エチル−p−トルイジノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N−エチル−N−テトラヒドロフルフリルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−クロロ−7−アニリノフルオラン等の黒発色性染料;3,3−ビス[1−(4−メトキシフェニル)−1−(4−ジメチルアミノフェニル)エチレン−2−イル]−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−p−(p−ジメチルアミノアニリノ)アニリノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−p−(p−クロロアニリノ)アニリノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3、6−ビス(ジメチルアミノ)フルオレン−9−スピロ−3’−(6’−ジメチルアミノ)フタリド等の近赤外領域に吸収波長を有する染料等が挙げられる。勿論、これらに限定されるものではなく、また2種類以上を併用することも可能である。
【0035】
<増感剤>
本発明では必要に応じて、公知の増感剤を併用することもできる。かかる増感剤の具体例としては、例えば、ステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、2−ナフチルベンジルエーテル、m−ターフェニル、p−ベンジルビフェニル、ジ(p−メトキシフェノキシエチル)エーテル、1,2−ジ(3−メチルフェノキシ)エタン、1,2−ジ(4−メチルフェノキシ)エタン、1,2−ジ(4−メトキシフェノキシ)エタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,4−ジ(フェニルチオ)ブタン、p−アセトトルイジド、p−アセトフェネチジド、N−アセトアセチル−p−トルイジン、ジ(β−ビフェニルエトキシ)ベンゼン、シュウ酸ジ−p−クロロベンジルエステル、シュウ酸ジ−p−メチルベンジルエステル、シュウ酸ジベンジルエステル等が挙げられる。
【0036】
<接着成分>
感熱記録層は、以上のような成分の他、接着成分を含有する。接着成分としては、例えば酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、完全(または部分)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、スチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、カゼイン、ゼラチン、酢酸ビニル樹脂系ラテックス、ウレタン樹脂系ラテックス、スチレン・ブタジエン共重合体系ラテックス、アクリル樹脂系ラテックス等が挙げられる。
【0037】
これらの接着成分は1種または2種以上組合わせて用いることができる。かかる接着成分は、感熱記録層の全固形分に対して10〜50質量%程度含有されることが好ましい。
【0038】
<その他の成分>
更に、感熱記録層中には、必要により助剤としてカオリン、炭酸カルシウム、無定形シリカ、酸化チタン、水酸化アルミニウム、焼成カオリン等の顔料、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸カルシウム等の滑剤、蛍光染料、着色染料、紫外線吸収剤、界面活性剤、耐水化剤等が含有されていてもよい。
【0039】
<塗工液の調製>
以上のような成分、即ち、ロイコ染料、安息香酸亜鉛、前記一般式(1)で示される化合物、増感剤、接着成分、更に必要に応じて添加させる添加物を、水媒体に分散させてなる塗工液(感熱記録層用塗工液)を調製する。
【0040】
塗工液の調製にあたっては、上記のようなロイコ染料、安息香酸亜鉛、前記一般式(1)で示される化合物各々の粉体分散液をまず調製し、その後、所定割合となるように混合してもよい。安息香酸亜鉛及び前記一般式(1)で示される化合物については、個別に粉砕して分散液を調製するよりも、同時粉砕した分散液を調製することが好ましい。理由は明らかでないが、同時粉砕した分散液を用いる方が耐油性、耐可塑剤性、耐可塑剤性試験後の地肌カブリに優れる。
【0041】
接着剤、その他の成分は、ロイコ染料、安息香酸亜鉛、前記一般式(1)で示される化合物各分散液に、適宜含有させておくことが好ましい。
【0042】
<感熱記録層の作成方法>
以上のようにして調製される感熱記録層用塗工液を、支持体の一方の面に、乾燥後の塗布量が2〜10g/m程度、好ましく2.5〜5g/m程度となるように塗工し、乾燥することで、感熱記録層が形成される。
【0043】
塗工方法としては、特に限定しないが、例えばエアナイフコーティング、バリバーブレードコーティング、ピュアブレードコーティング、ロッドブレードコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、スライドビードコーティング、オフセットグラビアコーティング、5本ロールコーティング等が挙げられる。
【0044】
このようにして形成された感熱記録層は、ロイコ染料、安息香酸亜鉛、前記一般式(I)で示される化合物が、所定割合で含有されている。
【0045】
上記のようにして調製される感熱記録層用塗工液を、支持体上に直接塗工することにより、支持体上に感熱記録層を積層してもよいし、支持体上にまず下塗り層を形成し、形成された下塗り層上に感熱記録層を形成してもよい。下塗り層の介在により、感度、画質の改良等することができる。下塗り層の組成は、下塗り層を介在させる目的により適宜選択すればよいが、一般に、接着成分、顔料等が含まれる。
【0046】
〔下塗り層〕
下塗り層に用いられる接着成分としては、感熱記録層で使用するような樹脂を用いることができる。即ち、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、完全(または部分)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、スチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体及びそのアルカリ塩、カゼイン、ゼラチン、酢酸ビニル樹脂系ラテックス、ウレタン樹脂系ラテックス、スチレン・ブタジエン共重合体系ラテックス、アクリル樹脂系ラテックス等を用いることができる。
【0047】
下塗り層に含有される無機顔料としては、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、珪酸アルミニウム等の金属酸化物、金属水酸化物、硫酸塩、炭酸塩等の金属化合物;無定形シリカ、焼成カオリン、タルク等の無機白色顔料等が挙げられる。これらのうち、特に焼成カオリンは、発色感度と画質バランスに優れていることから、好ましく用いられる。なお、無機顔料の粒子径としては、平均粒子径で0.5〜3.0μm程度のものが好ましい。
また、下塗り層に含有される有機顔料としては、球状樹脂粒子(所謂、密実型樹脂粒子)、中空樹脂粒子、貫通孔を有する樹脂粒子、中空樹脂粒子の一部を平面で裁断して得られるような開口部を有する樹脂粒子等が挙げられる。記録濃度を高めたい場合には、中空樹脂が好ましく用いられる。これらの樹脂粒子を構成する樹脂成分については、特に限定するものではなく、例えば、球状樹脂粒子としては、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリロニトリル等の単量体の単独重合体やこれらの単量体の共重合体等が挙げられる。中空樹脂粒子、貫通孔を有する樹脂粒子、中空樹脂粒子の一部を平面で裁断して得られるような開口部を有する樹脂粒子としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリロニトリル等の単量体の単独重合体や、これらの単量体の共重合体等が挙げられる。これらの有機顔料の平均粒子径については特に限定するものではないが、例えば、球状粒子では0.1〜2.0μm程度、中空樹脂粒子では0.5〜5.0μm程度、貫通孔を有する樹脂粒子では0.1〜2.0μm程度、開口部を有する樹脂粒子では0.3〜5.0μm程度のものが好ましく用いられる。
【0048】
以上のような無機顔料の少なくとも1種と有機顔料の少なくとも1種を併用すると、記録画質により優れ、しかもヘッドマッチング性にも優れた感熱記録体が得られることからより好ましい。無機顔料と有機顔料の使用比率としては、質量比で90:10〜30:70程度が好ましく、70:30〜50:50程度がより好ましい。
【0049】
下塗り層は、一般に水を分散媒体とし、無機顔料及び有機顔料から選ばれる少なくとも1種と接着剤を混合攪拌して得られる下塗り層用塗液を、支持体上に乾燥後の塗布量が2〜20g/m、好ましくは5〜15g/m程度となるように塗布乾燥して形成される。前記接着剤及び顔料の使用量としては、下塗り層全固形分に対して接着剤が5〜40質量%程度、顔料が10〜95質量%程度が好ましい。更に、下塗り層用塗液には、必要に応じて、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パラフィンワックス等の滑剤、蛍光染料、着色染料、界面活性剤、架橋剤等の各種助剤を添加することもできる。
【0050】
〔その他の層〕
更に、感熱記録層上に、成膜性を有する接着剤を主成分とする保護層を設けてもよい。保護層用塗液は、例えば水を媒体とし、接着成分、顔料、及び必要により助剤とを混合攪拌して調製される。保護層に用いられる接着成分、顔料、助剤は、上記の感熱記録層で用いられ得るものを使用できる。
【0051】
更にまた、保護層上に光沢層を設けてもよい。光沢層は、電子線または紫外線硬化性化合物を主成分とする塗液を塗布後、電子線または紫外線を照射して硬化することにより形成できる。また更に、支持体の裏面側に帯電防止層を設けてもよい。
【0052】
下塗り層、保護層、光沢層等を形成するための塗工液は、感熱記録層と同様に、ピュアブレードコーティング、ロッドブレードコーティング、カーテンコーティング、オフセットグラビアコーティング等の適当な塗工方法により塗工することができ、乾燥により各層が形成される。
【0053】
各層を形成した後、または感熱記録体を構成する全ての層を形成した後に、スーパーキャレンダー処理する等の感熱記録体製造分野における各種の公知処理技術を適宜付加してもよい。
【実施例】
【0054】
なお、以下の実施例において、「部」は「質量部」を示す。
〔測定評価方法〕
(1)記録濃度
感熱記録評価機(商品名:TH−PMD、大倉電機社製)を用いて、印加エネルギー0.5mJ/ドットにて各感熱記録体を印字し、記録部及び未記録部(地肌部)の濃度をマクベス濃度計(商品名:RD−914型、マクベス社)のビジュアルモードで測定した。
数値が大きい程、印字の濃度が濃いことを示しており、記録部については、実用上、1.20以上であることが必要とされる一方、地肌部については数値が小さいほど好ましく、0.2を超えると、地肌カブリが問題となる。
【0055】
(2)記録部の耐油性
発色させた各感熱記録体をコーン油に浸し、24時間放置後に引き上げてガーゼで拭いた後の記録部の濃度(記録濃度)をマクベス濃度計で測定した。また、下記式により、記録部の保存率を求めた。油浸漬処理後の記録濃度0.6以上で、保存率50%以上であれば問題ない。
保存率(%)=測定値(記録濃度)÷処理前の記録濃度×100
【0056】
(3)耐可塑剤性
ポリカーボネイトパイプ(40mmΦ)上にラップフィルム(商品名:ハイラップKMA−W、三井化学社製)を三重に巻付け、その上に発色させた各感熱記録体を載せ、更にその上にラップフィルムを三重に巻き付けて40℃で24時間放置した後の記録部及び地肌部の濃度をマクベス濃度計で測定した。また、記録部の保存率を、耐油性の場合と同様に、上記式に基づいて、算出した。
処理後の記録濃度0.6以上で、保存率50%以上であれば問題ない。
【0057】
(4)固形分濃度
分散液を乾燥して、固形分重量を測定し、分散液に対する重量比率(質量%)を算出した。
【0058】
製造例1:式(II)で表される化合物の製造
上記式(II)の化合物については、例えば特願2004−242569号公報の実施例に記載されている方法で合成することができる。その一例は次の通りである。
(a)原料1,5−(3−オキサペンタメチレン) ビス(3−アミノベンゾエート)の合成
温度計、還流管及び滴下ロートを備えた三ツ口フラスコに、9.84gの3−アミノ安息香酸と120mlのN、N−ジメチルホルムアミド(脱水)を入れ、得られた溶液中に9.96gの炭酸カリウム(無水)を加えた。この混合物をマグネティックスターラーで攪拌しつつ、室温で5.16gのビス(2−クロロエチル)エーテルを加えた。得られた懸濁液を室温にて短時間(10分以内)撹拌後、130℃で4時間加熱還流した。その後、室温まで冷却し、水300mlに反応懸濁液を加え、激しく攪拌すると、反応懸濁液中に懸濁していた炭酸カリウムが水に溶解し、白色固体が析出した。析出した白色固体を濾取することにより、10.5gの1,5−(3−オキサペンタメチレン) ビス(3−アミノベンゾエート)の白色固体が得られた。得られた白色固体は、各種機器分析により目的物(標記化合物)であることを確認した。
【0059】
(b)式(II)で表される化合物の合成
滴下ロート、温度計および還流器を装備した三ツ口フラスコに、上記(1)で得られた10.5gの1,5−(3−オキサペンタメチレン) ビス(3−アミノベンゾエート)を入れ、これに200mlのアセトニトリルを加えて攪拌し、溶解した。この溶液をマグネティックスターラーで攪拌しつつ、滴下ロートより、13.8gのp−トルエンスルホニルイソシアナートを室温で滴下した。反応混合物の攪拌を継続すると、大量の白色固体が沈殿した。この反応混合物を80℃で4時間加熱し、冷却し、濾過することにより、19.5gの式(II)で表される化合物を白色結晶として得た。
この白色結晶の分析値は、以下の通り。
融点(DSCより):139.8℃
NMR測定(DMSO中)
δ(ppm)=2.36(s、6H)、3.77(t、4H)、4.36(t、4H)、7.32(t、2H)、7.41(d、4H)、7.52−7.54(m、4H)、7.83(d、4H)、7.98(t、2H)
その他、N−Hに起因すると思われるピークがδ=9.07、10.85ppm付近に現われた。
【0060】
製造例2:式(III)で表される化合物の製造
上記式(III)の化合物は、例えば特願2004−242569号公報の実施例に記載されている方法で合成することができる。その一例は次の通りである。
(a)原料1,5−ペンタメチレン ビス(3−アミノベンゾエート)の合成
温度計、還流管及び滴下ロートを備えた三ツ口フラスコに、8.20gの3−アミノ安息香酸と100mlのN、N−ジメチルホルムアミドを入れ、得られた溶液中に8.30gの炭酸カリウム(無水)を加えた。この混合物をマグネティックスターラーで攪拌しつつ、室温で6.85gの1,5−ジブロモペンタンを加えた。得られた懸濁液を室温にて攪拌後、130℃で4時間加熱還流後、室温まで冷却し、水300mlに反応懸濁液を加え、激しく攪拌した。得られた懸濁液(炭酸カリウムは水に溶解するが、目的物が一部分散又は沈降していた)を酢酸エチル150mlで抽出し、溶媒を留去することにより9.75gの1,5−ペンタメチレン ビス(3−アミノベンゾエート)がオイル状物で得られた。得られたオイル状物は、各種機器分析により目的物(標記化合物)であることを確認した。
【0061】
(b)式(III)で表される化合物の合成
滴下ロート、温度計および還流器を装備した三ツ口フラスコに、9.75gの1,5−ペンタメチレン ビス(3−アミノベンゾエート)を入れ、これに200mlのアセトニトリルを加えて攪拌し、溶解した。この溶液をマグネティックスターラーで攪拌しつつ、滴下ロートより、12.7gのp−トルエンスルホニルイソシアナートを室温で滴下した。反応混合物の攪拌を継続すると、大量の白色固体が沈殿した。この反応混合物を80℃で4時間加熱し、冷却し、濾過することにより、19.8gの式(III)で表される化合物を白色結晶として得た。
この白色結晶の分析値は、以下の通り。
融点:116−124℃
NMR測定(DMSO中)
δ(ppm)=1.50(d、2H)、1.74(t、4H)、2.36(s、6H)、4.26(t、4H)、7.36(t、4H)、7.40(d、2H)、7.56(t、4H)、7.84(d、4H)、7.99(d、2H)
その他、N−Hに起因すると思われるピークが、δ=9.08、10.74ppm付近に現れた。
【0062】
〔下塗り層用塗液の調製〕
球状樹脂粒子分散液(商品名:グロスデール130S、組成:スチレン、平均粒子径:0.8μm、三井化学社製、固形分濃度53質量%)90部、焼成カオリン(商品名:アンシレックス、エンゲルハード社製)の50%水分散液(平均粒子径:0.6μm)120部、スチレン−ブタジエン系ラテックス(商品名:L−1571、旭化成ケミカルズ社製、固形分濃度48質量%)10部、酸化澱粉の10%水溶液50部、及び水20部からなる組成物を、混合攪拌して下塗り層用塗液を得た。
【0063】
〔感熱記録層用塗液の調製〕
(1)ロイコ染料分散液の調製(A液調製)
3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン100部、鹸化度60モル%、重合度200のポリビニルアルコールの20%水溶液50部、天然油脂系消泡剤の5%エマルジョン20部、及び水52部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径(商品名:SALD2200、島津製作所社製による50%値)が1.0μmとなる様に処理してA液を得た。
【0064】
(2)呈色剤分散液の調製(B液)
(2−1)安息香酸亜鉛の分散液(b1液)
安息香酸244.2部、酸化亜鉛81.4部、鹸化度88モル%、重合度300のポリビニルアルコールの20%水溶液162.8部、天然油脂系消泡剤の5%エマルジョン65.1部、及び水169.3部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径が1.5μmとなる様に処理してb1液を得た。b1液における安息香酸に対する亜鉛のモル比率(Zn/安息香酸)は、1/2である。
【0065】
なお、調製した分散液についてIR測定したところ、標準試薬(2安息香酸亜鉛)と同様のチャートが得られ、安息香酸亜鉛が生成されていることが確認できた。
【0066】
(2−2)前記一般式(II)で示された化合物の分散液(b2液)
一般式(II)で示された化合物100.0部、鹸化度88モル%、重合度300のポリビニルアルコールの20%水溶液50部、天然油脂系消泡剤の5%エマルジョン20部、及び水50部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径が1.5μmとなる様に処理してb2液を得た。
【0067】
(2−3)前記一般式(III)で示された化合物の分散液(b3液)
前記b2液の調製において、一般式(II)で示された化合物の代わりに、一般式(III)で示された化合物を用いた以外は、b2液と同様にしてb3液を得た。
【0068】
(2−4)前記一般式(IV)で示された化合物の分散液(b4液)
前記b2液の調製において、一般式(II)で示された化合物の代わりに、一般式(IV)で示された化合物を用いた以外は、b2液と同様にしてb4液を得た。
【0069】
(2−5)安息香酸亜鉛及び前記一般式(II)で示された化合物の同時粉砕処理液(b5液)
安息香酸244.2部、酸化亜鉛81.4部、一般式(II)で示された化合物81.4部、鹸化度88モル%、重合度300のポリビニルアルコールの20%水溶液203.5部、天然油脂系消泡剤の5%エマルジョン81.4部、及び水211.7部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径が1.5μmとなる様に処理してb5液を得た。
【0070】
(3)増感剤分散液(C液)
シュウ酸ジ−p−メチルベンジルエステル100部、ケン化度88モル%、重合度300のポリビニルアルコールの20%水溶液50部、天然油脂系消泡剤の5%エマルジョン20部、および水52部からなる組成物(懸濁液)を、サンドミルによりレーザー回折式粒径測定器によるメジアン径(商品名:SALD2200、島津製作所社製による50%値)が1.5μmとなるように処理して50%分散液を調製した。
【0071】
(4)感熱記録層用塗液の調製
ロイコ染料液(A液)25部、増感剤分散液(C液)80部、微粒子無定形シリカ(商品名:ミズカシールP−603、水澤化学社製)10部、鹸化度98モル%、重合度1000のポリビニルアルコールの25%水溶液40部、ステアリン酸アミドの分散液(商品名:G−270、固形分濃度21.5%、中京油脂社製)50部、及び水50部、及び呈色剤液としてb1〜b5液を、感熱記録層固形分に対する安息香酸亜鉛及び/または一般式(II)(III)(IV)で示された化合物の含有率が所期の値となるように選択して、含有量を調節した。
粉砕処理として個別処理を選択する場合には、呈色剤分散液としてb1、b2、b3、及びb4液を使用し、これらをロイコ染料液、増感剤分散液と混合した。粉砕処理として同時粉砕処理を選択する場合には、b5液を使用して、ロイコ染料液、増感剤分散液と混合して、感熱記録層用塗液を調製した。
【0072】
〔感熱記録体No.1〜11の作製〕
64g/mの上質紙(中性紙)の一方の面に、下塗り層用塗液を乾燥後の重量が8g/mとなるように塗布乾燥して下塗り層を形成し、次いで、この下塗り層上に、表1に示すような呈色剤含有率(感熱記録層固形分に対する質量%)となるように調製した感熱記録層用塗液を、乾燥後の重量が4g/mとなるように塗布乾燥して感熱記録層を形成した後、スーパーキャレンダーを施し感熱記録体No.1〜11を作製した。No.1〜7が本発明実施例に該当する。
作製した感熱記録体No.1〜11について、上記測定評価方法に従って、記録濃度、記録部保存率を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1からわかるように、安息香酸亜鉛単独では、25質量%含有させた場合であっても、記録部の耐油性、耐可塑剤性を確保することができなかった(No.8)。
また、前記一般式(II)で示される化合物を単独で使用した場合、感熱記録層中、10質量%では記録濃度が低く、保存性試験後の記録部濃度を確保することができず(No.9)、15質量%以上含有させることによって耐油性、耐可塑剤性を確保することができても、なお、記録濃度を満足するものが得られなかった(No.10)。
【0075】
一方、安息香酸亜鉛と前記一般式(II)(III)(IV)で示される化合物を組み合わせて用いることにより、記録濃度を低下させることなく、記録部の耐油性、耐可塑剤性を改善できることがわかる(No.1〜6)。
【0076】
但し、安息香酸亜鉛/前記一般式(II)で示される化合物の比率が10を超えると、記録部耐油性、耐可塑剤性を十分に改善できず(No.2)、反対に上記比率が0.8未満では、記録濃度が低下する傾向にある(No.6)。
更に、安息香酸亜鉛と前記一般式(II)で示される化合物を組み合わせて用いる場合であっても、前記一般式(II)で示される化合物の含有量が22質量%の場合には、記録濃度が問題となるレベルにまで低下した(No.11)。
【0077】
安息香酸亜鉛及び前記一般式(II)(III)(IV)で示される化合物を所定範囲内(安息香酸亜鉛5〜30質量%、前記一般式(II)(III)(IV)で示される化合物2〜15質量%、好ましくは安息香酸亜鉛8〜25質量%、前記一般式(II)(III)(IV)で示される化合物5〜15質量%)で配合すると共に、両化合物の配合量比率(安息香酸亜鉛/前記一般式(II)(III)(IV)で示される化合物を0.8〜10の範囲内とすることが好ましいとわかる。
【0078】
No.1とNo.7との比較から、前記一般式(II)で示される化合物と安息香酸亜鉛の粉砕を個別に行うよりも同時湿式粉砕する方が、両化合物の含有量が同じであっても、記録部の保存性が向上できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の感熱記録体は、記録濃度や記録部の耐油性、耐可塑剤性に優れ、しかも廃棄焼却時には環境汚染物質を排出しないので、環境に優しい感熱記録体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、ロイコ染料及び呈色剤を含有する感熱記録層を有する感熱記録体において、前記呈色剤として、前記感熱記録層固形分に対して、安息香酸亜鉛を5〜30質量%、下記一般式(I)で示される化合物を2〜15質量%含有することを特徴とする感熱記録体。
【化1】

[但し、式(I)において、Rは無置換の芳香族基、或いはメチル基及び塩素原子から選ばれた少なくとも一員により置換された芳香族基を表し、Rは2価の有機基を表す。
【請求項2】
が、無置換のフェニル基又は無置換のナフチル基であるか、あるいは、メチル基及び塩素原子からなる群から選ばれた1個又は2個により置換されたフェニル基又はナフチル基を表し、
が、(a)炭素数1〜30の直鎖状アルキレン基、炭素数1〜30の分枝状アルキレン基、又は、炭素数6〜16のシクロアルキレン基又は該シクロアルキレン基をその構造内に含む炭素数1〜4のアルキレン基であるか、又は、(b)式−(CHCHX)−CHCH−で表される基(式中、Xは酸素原子または硫黄原子を示し、nは1〜20の整数を示す)、2,5−(1−オキサシクロヘキシレン)基又は1−オキサシクロヘキサン−2,5−ジメチレン基である請求項1に記載の感熱記録体。
【請求項3】
が、−(CH−基または−(CHCHO)−CHCH−基(但し、mは、1〜30の整数を表し、nは1〜20の整数を表す)である、請求項1に記載の感熱記録体。
【請求項4】
式(I)で示される化合物が、下記式(II)
【化2】

で表される化合物である請求項1記載の感熱記録体。
【請求項5】
式(I)で示される化合物が、下記式(III)
【化3】

で表される化合物である請求項1記載の感熱記録体。
【請求項6】
式(I)で示される化合物が、下記式(IV)
【化4】

で表される化合物である請求項1記載の感熱記録体。
【請求項7】
前記呈色剤は、安息香酸亜鉛及び前記一般式(I)で示される化合物を、平均粒子径0.1〜3μmに、同時湿式粉砕したものである請求項1から6のいずれかに記載の感熱記録体。
【請求項8】
前記感熱記録層は、安息香酸亜鉛を8〜25質量%、および前記一般式(I)で示される化合物を5〜15質量%含有している請求項1から7のいずれかに記載の感熱記録体。
【請求項9】
前記一般式(I)で示される化合物に対する安息香酸亜鉛の含有比率(安息香酸亜鉛/前記一般式(I)で示される化合物)は、0.8〜10である請求項1〜8のいずれかに記載の感熱記録体。

【公開番号】特開2010−240957(P2010−240957A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91317(P2009−91317)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】