説明

感熱記録材料

【課題】発色後の経時安定性が改良された感熱記録材料の提供。
【解決手段】ジアゾ化合物、カプラー、およびバインダーを含んでなる記録層を支持体上に具備してなり、前記ジアゾ化合物と前記カプラーとのいずれか一方がマイクロカプセルに内包されている感熱記録材料。前記バインダーはポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールのアセタール化物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアゾ化合物とカプラーとを熱エネルギーを加えることにより反応させ、発色させる感熱記録材料に関するものであり、その反応により生成した染料の経時安定性を改良したものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ジアゾ化合物とカプラーを利用した記録材料が知られている。このような記録材料は、その情報を記録したい部分に熱エネルギーを加えることにより、ジアゾ化合物とカプラーとを反応させて染料を生成させ、その染料の発色によって情報を記録するものである。生成した染料は、さらに光照射によって不可逆的に定着させることもある。このようなジアゾ化合物とカプラーを利用した記録材料は、例えば特許文献1〜4にも開示されている。
【0003】
ここで、このような記録材料中で生成した染料は、経時消色してしまい、記録した情報が失われてしまう場合があった。これは、一般的な記録材料は、ジアゾ化合物とカプラーとが分散されたバインダー層を具備しており、染料がそのバインダーの影響によって消色してしまう。
【0004】
このような記録材料に用いられる一般的なバインダーとしては、ポリビニルアルコールやポリビニルブチラールなどが知られており、例えば特許文献1または2に開示されている。しかし、そのバインダーの影響が、バインダーのどのような特性や物性に依存するものであるかについては、十分な検討がなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−2393号公報
【特許文献2】特開昭60−201985号公報
【特許文献3】特開平8−244342号公報
【特許文献4】特開平10−151857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発色の経時安定性が改善された、感熱記録材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による感熱記録材料は、ジアゾ化合物、前記ジアゾ化合物と反応して染料を生成するカプラー、およびバインダーを含んでなる記録層を支持体上に具備してなるものであって、前記ジアゾ化合物と前記カプラーとのいずれか一方がマイクロカプセルに内包されて前記バインダー中に分散されており、かつ前記バインダーがポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールのアセタール化物を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生成した染料の発色状態が長期間にわたって保持される、記録情報の経時安定性が良好な感熱記録材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
感熱記録材料
本発明における感熱記録材料は、支持体上に記録層を具備するものである。そして、記録層には、ジアゾ化合物と、そのジアゾ化合物と反応して染料を形成するカプラーと、バインダーとが含まれる。そして、前記ジアゾ化合物と前記カプラーとのいずれか一方がマイクロカプセルに内包されて前記バインダー中に分散されている。このようにマイクロカプセルによってジアゾ化合物とカプラーとが隔離されているのは、ジアゾ化合物とカプラーとが隔離されずに共存すると、過熱をする前に染料が生成して、材料全面が発色してしまうからである。すなわち、マイクロカプセルを利用することで、必要な発色をさせるまえのいわゆる生保存性が改良される。そして、このマイクロカプセルは加熱され、具体的にはガラス転移点以上に昇温されることによって、カプセル内外の物質透過が可能となり、ジアゾ化合物とカプラーとが接触して染料が形成される。
【0010】
以下、これらの各成分について説明すると以下の通りである。
(1)支持体
本発明による感熱記録材料は、支持体上に記録層を具備するものである。ここで、支持体には従来知られている任意のものを用いることができる。例えば、(a)中性紙、酸性紙、再生紙、合成紙、または上質紙などの紙材料、(b)ポリエステルフィルム(例えばポリエチレンテレフタレート)、セルロース誘導体フィルム(例えば三酢酸セルロースフィルム)、ポリスチレンフィルム、ポリオレフィンフィルム(例えばポリプロピレンフィルム、ポリエチレン)、などの樹脂材料、(c)紙材料に樹脂等を含浸させた、または紙材料を樹脂で被覆した複合材料、(d)ガラス、金属板などの無機材料、ならびに(e)不織布などの布材料等が挙げられる。これらは、さらに貼り合わせて用いることもできる。支持体の厚みは特に限定されないが、一般的には20〜200μmのものが用いられる。
【0011】
(2)ジアゾ化合物
本発明において用いられるジアゾ化合物は、後述するカプラーと反応して染料を形成するものである。このような化合物は、従来知られている任意のものから選択することができる。このようなジアゾ化合物は、一般式ArN(1)で表すことができる。ここで、Arは芳香族基、X−は陰イオン基である。
【0012】
好ましいジアゾ化合物のジアゾニウムイオン(ArN)としては、下記のものが挙げられる。
4−モルホリノ−2,5−ジブトキシベンゼンジアゾニウム、4−(4′−メチルフェニルチオ)−2,5−ジエトキシベンゼンジアゾニウム、4−ピロリヂノ−3−メチルベンゼンジアゾニウム、4−モルホリノベンゼンジアゾニウム、4−モルホリノ−2,5−オクトキシベンゼンジアゾニウム、4−(N−(2−エチルヘキサノイル)ピペラジノ)−2,5−ジエトキシベンゼンジアゾニウム、4−N,N−ジエチルアミノベンゼンジアゾニウム、3−(−2−オクチルオキシエトキシ)−モルホリノベンゼンジアゾニウム、4−N−ヘキシル−N−トリルアミノ−2−ヘキシルオキシベンゼンジアゾニウム、
4−ジメチルアミノベンゼンジアゾニウム、4−ジエチルアミノベンゼンジアゾニウム、4−ジプロピルアミノベンゼンジアゾニウム、4−メチルベンジルアミノベンゼンジアゾニウム、4−ジベンジルアミノベンゼンジアゾニウム、4−エチルヒドロキシエチルアミノベンゼンジアゾニウム、4−ジエチルアミノ−2−メトキシベンゼンジアゾニウム、4−ジメチルアミノ−3−メチルベンゼンジアゾニウム、4−ベンゾイルアミノ−2,5−ジエトキシベンゼンジアゾニウム、4−モルホリノベンゼンジアゾニウム、2,5−ジエトキシ−4−モルホリノベンゼンジアゾニウム、2,5−ジブトキシ−4−モルホリノベンゼンジアゾニウム、4−アニリノベンゼンジアゾニウム、2,5−ジエトキシ−4−トルイルメルカプトベンゼンジアゾニウム、4−(N,N−ジオクチルカルバモイル)ベンゼンジアゾニウム、2−オクタデシルオキシベンゼンジアゾニウム、4−(4−tert−オクチルフェノキシ)ベンゼンジアゾニウム、2−(1−エチルプロピル)オキシ−4−ビス〔ジ(n−ブチル)アミノカルボニルメチル〕アミノベンゼンジアゾニウム、4−(2,4−ジ−tert−アミルフェノキシ)ベンゼンジアゾニウム、2−(4−tert−オクチルフェノキシ)ベンゼンジアゾニウム、5−クロロ−2−(4−tert−オクチルフェノキシ)ベンゼンジアゾニウム、2,5−ビス−オクタデシルオキシベンゼンジアゾニウム、2,4−ビス−オクタデシルオキシベンゼンジアゾニウム、4−(N−オクチルテウロイルアミノ)ベンゼンジアゾニウム。
【0013】
これらのうち、水に対する溶解度が1%以下で、かつ酢酸エチルに対する溶解度が5%以上のジアゾ化合物が好ましく、具体的には4−モルホリノ−2,5−ジブトキシベンゼンジアゾニウムなどが特に好ましいものとして挙げられる。
【0014】
また、陰イオン(X)は特に限定されないが、パ−フルオロアルキル基もしくはパ−フルオロアルケニル基を含むカルボン酸イオンやスルホン酸イオン、あるいはヘキサフルオロリン酸イオン、またはテトラフルオロホウ酸イオンが好ましい。
【0015】
(3)カプラー
本発明による感熱記録材料に用いられるカプラーは、前記したジアゾ化合物と反応して染料を形成するものである。そして、形成される染料の色相はカプラーの種類に大きく依存するので、記録材料に求められる発色に応じてカプラーが選択される。
このようなカプラーとしては、一般的には、活性メチレンを有する化合物、芳香族アミン系化合物、塩基性基を有する芳香族ヒドロキシ化合物、ピラゾロン誘導体、β−ジケトン誘導体、オキシジフェニル誘導体、ナフトール誘導体、フェノール誘導体などがあげられる。
【0016】
より具体的には、レゾルシン、フロログリシン、2,3−ジヒドロキシナフタレン−6−スルホン酸ナトリウム、2−ヒドロキシ−3−ナフタレンスルホン酸ナトリウム、2−ヒドロキシ−3−ナフタレンスルホン酸アニリド、2−ヒドロキシ−3−ナフタレンスルホン酸モルホリノアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフタレンスルホン酸モルホリノピロピルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフタレンスルホン酸−2−エチル−ヘキシルオキシプロピルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフタレンスルホン酸−2−エチル−ヘキシルアミド、1−ヒドロキシ−8−アセチルアミノナフタレン−3,6−ジスルホン酸ナトリウム、1−ヒドロキシ−8−アセチルアミノナフタレン−3,6−ジスルホン酸ジアニリド、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸モルホリノプロピルアミド、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシ−6−ナフタレンスルホン酸アミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸モルホリノプロピルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸アニリド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸−2’−メチルアニリド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸エタノールアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸オクチルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸オクチルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸モルホリノエチルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸ピペリジノエチルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸ピペリジノプロピルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸−N−ドデシルオキシ−プロピルアミド、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸テトラデシルアミド、2−ヒドロキシナフタレン−3−カルボキシエタノールアミド、6−メトキシ−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸アニリド、6−エトキシ−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸アニリド、6−メトキシ−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸モルホリノプロピルアミド、6−メトキシ−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸−2−ヒドロキシエチルアミド、アセトアニリド、アセトアセトアニリド、ベンゾイルアセトアニリド、2’,5’−ジ−n−ヘプチルオキシ−アセトアセトアニリド、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン、1−(2’,4’,6’−トリクロロフェニル)−3−ベンズアミド−5−ピラゾロン、1−(2’,4’,6’−トリクロロフェニル)−3−アニリノ−5−ピラゾロン、1−フェニル−3−フェニルアセトアミド−5−ピラゾロン、1−メチル−3−フェニル−2,4,6,−(1H,3H,5H)−ピリミジントリオン、1−オクタデシルオキシプロピル−3−フェニル−2,4,6,−(1H,3H,5H)−ピリミジントリオン、1−フェニル−3−(2,5−ジオクチルオキシフェニル)−2,4,6,−(1H,3H,5H)−ピリミジントリオン、1,3−ビス(2,5−ジオクチルオキシフェニル)−2,4,6,−(1H,3H,5H)−ピリミジントリオン、1,3−ビス(n−オクタデシルオキシカルボニルメチル)−2,4,6,−(1H,3H,5H)−ピリミジントリオン、5,5−ジメチル−シクロヘキサン−1,3−ジオン、5−(2−テトラデシルオキシフェニル)−シクロヘキサン−1,3−ジオン、N−(2−エチル−ヘキシルオキシプロピル)−3−シアノ−4−エチル−6−ヒドロキシ−2−ピリドン、N−(ドデシルオキシプロピル)−3−アセチル−4−メチル−6−ヒドロキシ−2−ピリドン、7−〔N−(n−オクタデシル)、N−(2−エチルヘキシル)〕アミノカルボニルメチルオキシ−4−ヒドロキシクマリン等を挙げることができる。
【0017】
これらのカプラーは、例えば染料の色相を調整するために、2種以上併用することもできる。
【0018】
(4)バインダー
本発明による感熱記録材料の記録層は、前記ジアゾ化合物と前記カプラーとのいずれか一方がマイクロカプセルに内包されてバインダー中に分散されている。そして、本発明においては、このバインダーは、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールのアセタール化物である。なお、本発明においては、「ポリビニルアセタール」とは、ポリビニルアルコールとアセトアルデヒドが縮合したものだけを表すものとし、ポリビニルアルコールとアルデヒド類とが縮合した「ポリビニルアルコールのアセタール化物」と区別する。
【0019】
本発明者らの検討によれば、感熱記録材料を加熱することにより生成した発色が経時によって消色するのは、生成したアゾ染料が結晶化して析出することによる。すなわち、記録層中に形成された染料の析出を防止することにより発色の経時安定性が改良される。そして、本発明者らにより、アゾ染料の析出は記録層に特定のバインダーを用いることで抑制することができることが見出された。
【0020】
本発明において、バインダーに求められる特性は、水溶性でありながら疎水性をも具備していることである。すなわち、記録層はマイクロカプセルを含むため、記録層を構成する材料は親水性の高い材料から構成される。このため、バインダーも親水性または水溶性のものが選択される。しかし、ジアゾ化合物とカプラーとの反応により生成するアゾ染料は疎水性材料である。したがって、生成したアゾ染料は親水性材料に取り囲まれていることになり、親和性が乏しく、その結果染料が析出するものと考えられる。
【0021】
本発明においては、記録層を構成するのに十分な親水性または水溶性を有しながら、疎水性基によって疎水性をも兼ね備えたバインダー、すなわちポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールのアセタール化物を用いる。ポリビニルアルコールのアセタール化物としては、適当な疎水性を有するポリビニルアセタールまたはポリビニルブチラールが好ましい。また、ポリビニルアルコールと、ポリビニルアルコールのアセタール化物とを比較すると、ポリビニルアルコールのアセタール化物のほうが親水性と疎水性のバランスがよいので好ましい。なお、ポリビニルアルコールのアセタール化物には、ポリビニルアルコールの水酸基がアルデヒド類によりアセタール化されたものであるが、アセタール化度が異なるものが存在する。本発明においては、水溶性の、ポリビニルアルコールのアセタール化物が好ましく、アセタール化度は5〜35mol%であることが好ましく、7〜33mol%であることがより好ましい。
【0022】
本発明による感熱記録材料は、必要に応じて、その他の高分子化合物をバインダーとして含むこともできる。このような高分子化合物は、本発明においてバインダーの主成分として用いると所望の効果が小さくなることがある。しかし、一定の割合で併用することで、基材への塗布組成物の塗工性、または密着性の向上、感熱記録材料としての耐熱性の向上などの好ましい効果を得られることもある。このような高分子化合物としては、非イオン性水溶性高分子化合物またはイオン性水溶性高分子化合物がある。非イオン性水溶性高分子化合物の具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル−ポリビニルピロリドン共重合体、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。また、イオン性水溶性高分子化合物の具体例としては、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびその誘導体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらのうち、カルボン酸変性ポリビニルアルコールやフタル化ゼラチンなどが特に好ましいものである。このようなその他の高分子化合物を併用する場合、バインダーの総重量を基準として、その他の高分子化合物の割合が60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
なお、本発明の感熱記録材料の製造に際して、種々の高分子化合物を用いることがある。例えば、マイクロカプセルや、カプラー等の分散安定剤として、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールのアセタール化物や、それ以外の高分子化合物を用いることがある。これらも、最終的に形成される記録層を構成するものであるので、本発明による感熱記録材料においてはすべてバインダーであるとみなす。
【0024】
感熱記録材料の製造方法
本発明による感熱記録材料は、前記した各成分を用いて製造される。ここで、記録層は単純な混合物ではなく、マイクロカプセルを含む組成物を用いて製造される。そのような構造を有する感熱記録材料は、例えば下記のような方法により製造することができる。なお、ここでは便宜的にジアゾ化合物がマイクロカプセルに内包されている場合について説明する。
【0025】
まず、記録層を形成させる塗布組成物を形成させる。この塗布組成物は、マイクロカプセルに内包されたジアゾ化合物、前記ジアゾ化合物と反応して染料を生成するカプラー、およびバインダーを含んでなる。通常、この組成物は溶媒として水を含んでおり、水溶性高分子化合物であるバインダーの水溶液に、ジアゾ化合物を内包するマイクロカプセルとカプラーとが分散されている。
【0026】
このような塗布組成物は、通常、マイクロカプセルを含む分散物と、カプラーを含む分散物とをそれぞれ調製し、それらを混合することにより調製する。
【0027】
ジアゾ化合物をマイクロカプセルに内包させる方法は以下の通りである。
ジアゾ化合物をマイクロカプセル中に内包させる方法は、従来知られている任意の方法を用いることができる。このような方法としては、界面重合法、in situ重合法、コアセルベーション法、液中乾燥法などが知られている。これらのうち、界面重合法が簡便であり好ましい。この方法以下のようにしてマイクロカプセルを形成させる。まず、ジアゾニウム塩を疎水性有機溶媒に溶解させて油相を形成させ、また水溶性ポリマーを水に溶解させて水相を形成させた後、これらを混合してホモジナイザー等を用いて乳化分散させる。このとき、マイクロカプセルの壁材となるモノマーあるいはプレポリマーを油相または水相の何れかあるいは両方に添加しておくことにより、油相と水相の界面で重合反応を生じさせ、あるいは、ポリマーを析出させることにより壁材を形成させ、マイクロカプセルとする。
【0028】
このような方法によりマイクロカプセルを形成させた場合、その壁材は用いるポリマー等によって任意のものとすることができる。例えば架橋ゼラチン、アルギン酸塩、セルロース類、ポリウレア、ポリウレタン、メラミン樹脂、ナイロン樹脂などなどを壁材としたマイクロカプセルを形成させることができる。
【0029】
これらのうち、ポリウレアやポリウレタンのように、ガラス転移温度が室温よりやや高い材料は、室温において物質を透過せず、ガラス転移温度以上では物質を透過する特性を有する。このため、このような壁材を有するマイクロカプセルは、熱応答性マイクロカプセルと呼ばれ、本発明による感熱記録材料に有用である。
【0030】
以下にポリウレアまたはポリウレタンを壁材として有するマイクロカプセルの製造方法を説明する。まず、ジアゾ化合物をカプセルの芯となる疎水性の有機溶媒に溶解させて油相を調製する。この場合の有機溶媒としては、沸点100〜300℃の有機溶媒が好ましく、具体的には、トリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフェートなどのリン酸エステル類、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルエタン、アルキルジフェニルメタン、アルキルビフェニル、塩素化パラフィン、フタル酸エステル類、トリメリット酸エステル類、マレイン酸エステル類、アジピン酸エステル類、硫酸エステル類、スルホン酸エステル類などが挙げられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。また、これらの比較的沸点が高い溶媒に対して用いられるジアゾ化合物の溶解性が低い場合には、溶解性の高い低沸点溶媒を併用することもできる。具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチレンクロライド、テトラヒドロフラン、アセトンなどが挙げられる。また油相の溶媒として低沸点溶媒のみを用いた場合には、カプセル化反応中に溶媒が蒸散して、壁材とジアゾ化合物が一体となって存在する、いわゆるコアレスカプセルが形成される。
【0031】
油相中には、更に、ポリイソシアネート化合物が壁材の材料として添加される。壁材の原料として用いられるポリイソシアネート化合物としては3官能以上のイソシアネート基を有する化合物が好ましいが、2官能のイソシアネート化合物を併用してもよい。具体的にはキシレンジイソシアネートおよびその水添物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートおよびその水添物、イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネートを主原料とし、これらの2量体あるいは3量体(ビューレットあるいはイソシヌレート)の他、トリメチロールプロパンなどのポリオールとのアダクト体として多官能としたもの、ベンゼンイソシアネートのホルマリン縮合物などが挙げられる。好ましいポリイソシアネート化合物の具体例として、タケネートD−110N(商品名、三井化学株式会社製)が挙げられる。
【0032】
一方、水相としては、水または、ポリオールまたはポリアミンを溶解させた水溶液を用意する。これらの材料がポリイソシアネート化合物と反応して、界面にポリウレア、ポリウレタンなどからなる壁材を形成する。用いられるポリオールまたはポリアミンは従来知られている任意のものから選択することができる。これらのうち、本発明による感熱記録材料に好ましいものとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、プロピレングリコール、2,3−ジヒドロキシブタン、1,2−ジヒドロキシブタン、1,3−ジヒドロキシブタン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシシクロヘキサン、ジエチレングリコール、1,2,6−トリヒドロキシヘキサン、フェニルエチレングリコール、1,1,1−トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリエタノールアミン、ソルビトール、ヘキサメチレンジアミン、カゼイン、およびそれらの誘導体が上げられる。
【0033】
これらのポリオールまたはポリアミンは、必要に応じて2種以上併用することもできる。
【0034】
次いで前記油相を前記の水相中に添加し、ホモジナイザー、マントンゴーリー、超音波分散機、ケディーミルなど、公知の乳化装置によって乳化分散を行う。このとき乳化分散を更に安定に行うために、油相あるいは水相の少なくとも一方に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤など、従来知られている任意のものから選択することができる。具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが好適に用いることができる。界面活性剤を添加する場合には、界面活性剤の添加量は、油相の重量に対して0.05%〜5%、特に0.2%〜2%であることが好ましい。
【0035】
また、分散安定性をさらに高めるために、水溶性高分子化合物を水相中に添加しておくこともできる。また、重合反応に寄与しない不活性な高分子化合物、例えばアラビアゴムや反応性基が変性されたゼラチンなどを用いることもできる。
【0036】
乳化分散後、壁材を十分形成させるために乳化物を加温することもできる。この場合の温度は一般に20〜80℃が選択される。反応が十分進行すれば目的とするマイクロカプセルを得ることができる。以下、このマイクロカプセルを含む分散液をカプセル液という。
【0037】
ここで、ジアゾ化合物をマイクロカプセルに内包する場合を説明したが、カプラーを同様の方法でマイクロカプセルに内包することもできる。ただし、ジアゾ化合物をマイクロカプセルに内包することが好ましい。これはジアゾ化合物がカプラーだけではなく、水や塩基性化合物などのジアゾ化合物を分解させる化合物からも隔離されるため、画像記録前のいわゆる生保存性も改良されるからである。
【0038】
なお、マイクロカプセルの大きさは特に限定されないが、過度に大きいと記録される画像の画質が劣化する傾向にあり、また過度に小さいと製造が困難になるとともに内包物の含有量が低くなる傾向にある。このため、マイクロカプセルの粒子径は、一般に0.1〜15μmであり、好ましくは0.2〜10μmである。ここで、粒子径は、走査型電子顕微鏡により観察される断面積から測定されるものである。
【0039】
次に、カプラーの分散液を調製する。カプラーは、常温で液体のものはそのまま、常温で固体のものは有機溶媒に溶解または微細に粉砕されて、分散媒に分散される。有機溶媒には、例えばトリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフェートなどのリン酸エステル類、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルエタン、アルキルジフェニルメタン、アルキルビフェニル、塩素化パラフィン、フタル酸エステル類、トリメリット酸エステル類、マレイン酸エステル類、アジピン酸エステル類、硫酸エステル類、スルホン酸エステル類、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのモノマーなどが用いられる。また、分散媒は、水または水溶液が用いられる。水溶液には、分散安定性を改良するために水溶性高分子化合物や界面活性剤を含むことができる。水溶性高分子化合物や界面活性剤は、前記のマイクロカプセルの乳化分散工程において用いたものと同じものから選択することができる。また、乳化分散する方法も同様である。このようにしてカプラーの分散液(以下、カプラー液という)を得ることができる。
【0040】
次に、得られたカプセル液とカプラー液を混合して、記録層を形成させるための塗布組成物を調製する。このとき、さらに追加の水溶性高分子を混合することもできる。また、必要に応じて、界面活性剤、染料、顔料、その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
この塗布組成物に含まれる各成分の組成比は、用いる材料の種類や目的とする感熱記録材料の用途などに応じて任意に選択することができる。例えば、カプラーはジアゾ化合物1重量部に対して、0.1〜15重量部の配合比で用いることが好ましく、0.5〜10重量部の配合比で用いることがより好ましい。また、バインダーはカプラー1重量部に対して、0.5〜20重量部の配合比で用いることが好ましく、1〜15重量部の配合比で用いることがより好ましい。さらに、塗布組成物のバインダー含有率は、塗布組成物の全重量を基準として1〜15質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。
【0042】
得られた塗布組成物は、支持体上に塗布される。塗布に先立って、塗布性を改良することなどを目的に支持体を前処理することができる。このような前処理として、プライマー層の塗布や、コロナ処理などがある。
【0043】
塗布組成物の塗布方法は特に限定されず、ワイヤーバー塗布、ブラシ塗布、ディップ塗布、カーテン塗布、スプレー塗布などの任意の方法を用いることができる。塗膜の厚さは特に限定されないが、一般的に1〜10μm、好ましくは2〜7μmとされる。塗布後、塗膜は乾燥されて、感熱記録材料を得ることができる。乾燥時には必要に応じて加熱することもできる。
【0044】
必要に応じて、記録層には従来知られている紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、耐熱剤などを添加することもできる。また、必要に応じて同一または異なった組成の記録層を積層したり、さらに表面保護層を設けたりすることも可能である。
【0045】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0046】
実施例1
<カプセル液の調製>
酢酸エチル33質量部に4−モルホリノ−2,5−ジブトキシベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロフォスフェート10質量部、トリクレジルフォスフェート10質量部、4−イソプロピルビフェニル20質量部を添加して均一に混合した。次いで壁剤としてイソシアネートプレポリマー(タケネートD−110N(商品名)、三井化学株式会社製)27質量部を加えて均一に混合しカプセル液油相を得た。次いで20質量%ポリビニルブチラール水溶液(エスレックKW−1(商品名)、アセタール化度9±2mol%、積水化学工業株式会社製)64質量部、イオン交換水216質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4質量部を混合溶解して、カプセル液水相を得た。カプセル液油相とカプセル液水相を混合し、ホモジナイザーで25℃、10,000rpmで10分間乳化分散した。得られた乳化液を40℃、5時間攪拌してカプセル液を得た。
【0047】
<カプラー液の調製>
トリメチロールプロパントリアクリレート23質量部、4−ヒドロキシ安息香酸ブチル23質量部、トリフェニルグアニジン1.7質量部、p−トルエンスルホアミド6.3質量部、2−2ヒドロキシナフタレン−3−カルボキシエタノールアミド1.7質量部を均一に溶解し、カプラー液油相を得た。次いで20質量%ポリビニルブチラール水溶液(エスレックKW−1(商品名)、アセタール化度9±2mol%、積水化学工業株式会社製)32質量部、イオン交換水32質量部、2質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.4部を混合溶解してカプラー液水相を得た。カプラー液油相とカプラー液水相を混合し、25℃、10,000rpmで10分間乳化分散してカプラー液を得た。
【0048】
<塗布組成物の調製>
カプセル液10質量部、およびカプラー液15質量部を混合し、さらに追加のバインダーとして20質量%ポリビニルブチラール水溶液(エスレックKW−1(商品名)、アセタール化度9±2mol%、積水化学工業株式会社製)7.5質量部、イオン交換水7.5質量部を均一に混合して塗布組成物を得た。
【0049】
<塗布>
ポリエチレンをラミネートした印画紙原紙にワイヤーバーで塗布組成物を塗布し、50℃で乾燥を行い、実施例1の感熱記録材料を得た。
【0050】
実施例2〜19および比較例1〜2
カプセル液水相、カプラー液水相、および追加バインダーの種類または配合量を表1Aおよび表1Bに示すとおりに変更したほかは、実施例1と同様にして実施例2〜19および比較例1〜2の関越記録材料を得た。このとき、ポリビニルアセタールとしてはエスレックKW−3(商品名、20質量%ポリビニルアセタール水溶液、アセタール化度30±3mol%、積水化学工業株式会社製)、ポリビニルアルコールとしては、JP−05(商品名、日本酢ビ・ポバール株式会社製)、カルボン酸変性ポリビニルアルコールとしてはKL506(商品名、株式会社クラレ製)、フタル化ゼラチンとしては99%アミノ基変性ゼラチンを用いた。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
評価
各感熱記録材料をホットプレート上120℃で1分間加熱して発色させた後、発光波長420nmの紫外線ランプを用いて2秒間照射した。この記録材料を室温にて保存し、1日後、3日後、7日後の発色を目視観察して経時安定性を評価した。評価基準は以下の通りである。
A:非常に優れている
B:経時安定性に優れており、実用上十分である
C:経時安定性が若干劣るが、実用可能なレベルである
D:経時安定性が劣り、実用不可である
【0054】
得られた結果は表2Aおよび表2Bに示したとおりであった。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアゾ化合物、前記ジアゾ化合物と反応して染料を生成するカプラー、およびバインダーを含んでなる記録層を支持体上に具備してなる感熱記録材料であって、前記ジアゾ化合物と前記カプラーとのいずれか一方がマイクロカプセルに内包されて前記バインダー中に分散されており、かつ前記バインダーがポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコールのアセタール化物を含むことを特徴とする、感熱記録材料。
【請求項2】
前記バインダーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、およびポリビニルブチラールからなる群から選択される、請求項1に記載の感熱記録材料。
【請求項3】
前記バインダーが、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル−ポリビニルピロリドン共重合体、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリルアミド、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびその誘導体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、およびポリアクリル酸からなる群から選択される、請求項1または2に記載の感熱記録材料。
【請求項4】
前記マイクロカプセルの壁材が、ポリウレタンまたはポリウレアからなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項5】
前記マイクロカプセルが、界面重合法により形成されたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の感熱記録材料。