説明

慢性心臓疾患を処置する方法

【課題】慢性心臓疾患の処置を含む、殺菌性/透過性増大(BPI)タンパク質産物についての新しい治療的用途を提供すること。
【解決手段】本発明は、慢性心臓疾患(慢性うっ血性心不全、心筋症、先天性心臓欠損症など)を処置するためにBPIタンパク質産物を投与する方法、BPIタンパク質と利尿剤、血管拡張剤、およびβ遮断剤からなる群より選択される第2の治療剤とを同時に投与する方法、ならびにそれを処置するための医薬の製造のためのBPIタンパク質産物の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1999年1月22日に出願された米国仮出願第60/116,736号(この開示は、本明細書中で参考として援用される)の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般的に慢性状態(例えば、うっ血性心不全および心筋症)を含むが、これに限定されない慢性心臓疾患の処置を含む、BPIタンパク質産物の新規の治療用途に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
慢性心臓疾患は、先進地域における死亡率および罹病率の主な原因である。慢性心臓疾患の1つの型は心筋症であり、これは、実際に、心臓疾患の通常の原因(例えば、冠状動脈アテローム性硬化症、弁機能不全および高血圧)に関連しない、心筋機能障害を特徴とする疾患の種々の群である。心筋症は、血流力学的に、拡張型心筋症、肥大性心筋症、拘束型心筋症および閉塞性心筋症に分類され、そして公知または特発性病因の心筋症であり得る。拡張型心筋症の病因としては、妊娠、薬物および毒物(例えば、アルコール、コカインおよび化学治療剤(ドキソルビジンおよびダウノルビシン、ダクチノマイシン、ダカルバジン、シクロホスファミド、マイトマイシンならびにアントラサイクリンを含む))、ならびに感染過程および自己免疫過程がある。肥大性心筋症は、原因の50%より多くが、遺伝性であり、そして心室中隔の非対称な肥厚化(非対称性中隔肥大とも言われる)のパターンとともに通常、心筋性肥大(筋肉の肥厚化)の独特のパターンを有する。拘束性心筋症は通常、心筋層の浸潤性疾患(例えば、アミロイドーシス、ヘモクロマトーシスまたはグリコーゲン蓄積症)の産物であり、そしてまた特定の糖尿病患者において見られ得る。閉塞性心筋症は、心内膜心筋線維症および好酸球増多症候群に起因し得る。全ての心筋症の共通の合併症は、進行性うっ血性心不全である。
【0004】
うっ血性心不全はしばしば、心臓が通常のフィリング圧(filling pressure)で末梢組織の代謝要求性を満たすのに十分な酸素付加された血液の供給を送達することが不能であることとして定義される。慢性うっ血性心不全は、冠状動脈疾患、心筋症、心筋炎、大動脈狭窄症、高血圧、特発性非対称性中隔肥大、大動脈の縮窄、大動脈弁逆流、僧帽弁逆流、左右短絡、筋肉肥大(hypertrophied muscle)、心膜タンポナーデ、梗塞性心外膜炎、僧帽弁狭窄症、左心房粘膜腫、左心房血栓、三房心および多くのその他の状態の結果として生じ得る。うっ血性心不全は、一般的に、不十分な酸素送達の他の原因(例えば、出血からの循環虚脱または重篤な容量損失の他の原因)から区別され、うっ血は、甲状腺中毒症、動静脈瘻、パジェット病および貧血のような状態において起る増加された末梢要求量に起因する流体過負荷および高心拍出量性心不全に起因する。うっ血性心不全のための治療は、代表的に、流体過負荷および心不全の根本の病因および症状を処置することに集中する。可逆的な原因の矯正後に持続する慢性うっ血性心不全は、利尿剤(チアジド(例えば、クロロチアジドおよびヒドロクロロチアジド)、ループ利尿剤(例えば、エタクリン酸、フロセミド、トルセミド(torsemide)およびブメタニド)、カリウム保持性剤(例えば、スピロノラクトン、トリアムテレンおよびアミロライド)および他の利尿剤(例えば、メトラゾンおよび他のキナゾリンスルホンアミド))、血管拡張剤(ニトログリセリン、イソソルビドジニトレート、ヒドララジン、ニトロプルシドナトリウム、プロスタサイクリン、カプトプリル、エナラプリル、リジノプリル、キナプリル(quinapril)およびロサルタンを含む)、陽性強心剤(例えば、ジギタリスまたはジゴキシン)、時々β遮断剤、またはこれらの処置の組み合わせを用いて処置される。
【0005】
最近の研究は、プロ炎症性サイトカインの増加が、種々の心臓疾患(うっ血性心不全、心筋症、および心筋炎を含む)において見られることを示す(Hegewisch Sら、Lancet 1990;2:294−295;Levine Bら、N.Engl.J.Med.1990;323(4):236−241;Mann DL、ら、Chest 1994;105:897−904;およびGivertz MM、ら、Lancet 1998;352:34−38)。例えば、サイトカイン腫瘍壊死因子α(TNF)は、ヒト心筋細胞により合成され、そしてTNF発現のレベルは、患者における心臓機能不全の程度に相関する(Torre−Amione Gら、J.Am.Coll.Cardiol.1996;27:1201−1206;Torre−Amione G,RD、ら、Circulation 1995;92:1487−1493;およびTorre−Amione Gら、Circulation 1996;93:704−711)。動物において、心臓によるTNFの合成は、心筋症および致死の心不全を引き起こすのにそれ自体で十分である(Bryant D、ら、Circ.1998;97:175−183およびKubota T、ら、J.Am.Coll.Cardiol.1997;346A(要約))。さらに、早期のヒト治験により、TNFの拮抗が、NYHAクラスIII心不全または特発性拡張型心筋症を有するヒトにおいて心不全を改善することが実証されている(Deswalら、Circulation 96:I−323(1997);およびSliwaら、Lancet 351:1091−1093(1998))。しかし、サイトカイン分泌のための主要な刺激は、未知のままである。
【0006】
細菌性内毒素、またはリポ多糖類(LPS)は、敗血症中のTNF産生の主要な誘導物質である。心臓疾患に関して、内毒素の役割は、心肺バイパスとの関連において主に試験され、内毒素が、体外回路中に存在し得るか、または非拍動性の低流量灌流の後に腸を越えて転移され得るという仮説によって導かれた(非特許文献1および非特許文献2)。これらの研究は、大部分の患者において心肺バイパス中の一過性の低レベルの内毒素血症は、心肺バイパスの完成後に迅速に消炎されることを実証した(Nilsson L,J Thorac Cardiovasc Surg 1990;100:777−780;Casey WF,Cirt.Care Med.1992;20(8):1090−1096;Khabar KSら、Clin
Immunol Immunopathol 1997;85:97−103;Jansen NJ,Ann Thorac Surg 1992;54:744−747)。Bennett−Guerrero Eら、JAMA 1997;277:646−650は、手術前の低いレベルの抗内毒素抗体が、手術後の合併症のリスクの増大に関係することを報告し、そしてこの違いが、内毒素に対する免疫が乏しいことに起因すると仮説した。
【0007】
研究者は、これまで、心臓疾患を有する大部分の患者における持続性の内毒素血症を実証できなかったか、または実証することを試みなかった(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。LBPまたは抗内毒素抗体(長期間の内毒素の曝露の指示物質)のレベルの上昇と関連しない水腫状性の慢性うっ血性心不全を有する成体における血漿内毒素レベルの上昇を報告した、Niebauer J,Eur.Heart J.1998;19:174もまた参照のこと。
【0008】
BPIは、侵襲性微生物に対する防御において必須な血球である哺乳動物多形核白血球(PMNまたは好中球)の顆粒から単離されたタンパク質である。ヒトBPIタンパク質は、イオン交換クロマトグラフィー[Elsbach,J.Biol.Chem.,254:11000(1979)]か、またはE.coliアフィニティークロマトグラフィー[Weiss、ら、Blood,69:652(1987)]のいずれかと組み合わせた酸抽出によりPMNから単離された。このような様式において得られたBPIは、本明細書中で天然BPIとわれ、そしてグラム陰性細菌の広域スペクトルに対して殺菌性の効力を有することが示されている。ヒトBPIの分子量は、約55,000ダルトン(55kD)である。このヒトBPIタンパク質全体のアミノ酸配列およびこのタンパク質をコードするDNAの核酸配列は、本明細書中で参考として援用されるGrayら、J.Biol.Chem.,264:9505(1989)の図1に報告されている。このGrayらのアミ酸配列は、本明細書中で配列番号1に記載される。米国特許第5,198,541号は、BPIタンパク質(BPIホロタンパク質およびBPIのフラグメントを含む)をコードする組換え遺伝子およびBPIタンパク質の発現のための方法を開示する。
【0009】
BPIは、強力なカチオンタンパク質である。BPIのN末端側半分は、高い正味の正電荷からなり;この分子のC末端側半分は、−3の正味の電荷を有する[ElsbachおよびWeiss(1981)、(前出)]。約25kDの分子量を有するBPIのタンパク質分解のN末端フラグメントは、天然由来の55kDヒトBPIホロタンパク質の本質的に全ての抗菌効果を有する[Ooiら、J.Bio.Chem.,262:14891−14894(1987)]。N末端部分とは対照的に、単離されたヒトBPIタンパク質のC末端領域は、グラム陰性生物に対してわずかに検出可能な抗菌活性のみを示す[Ooiら、J.Exp.Med.,174:649(1991)]。約23kDのN末端BPIフラグメント(「rBPI23」といわれる)は、組換え手段により産生され、そしてまた、グラム陰性生物に対して抗菌活性を保持する[Gazzano−Santoroら、Infect.Immun.60:4754−4761(1992)]。BPIのN末端アナログrBPI21は、Horwitzら、Protein Expression Purification,8:28−40(1996)において記載されるように産生された。
【0010】
BPIの殺菌性効果は、当初は、グラム陰性種に対して高度に特異的であると報告された(例えば、ElsbachおよびWeiss,Inflammation:Basic Principles and Clinical Correlates,Gallinら(編)、第30章、Raven Press,Ltd.(1992))。BPIがグラム陰性細菌を殺す正確な機構は、まだ完全に解明されていないが、BPIが、まずカチオンBPIタンパク質とLPSの負に荷電した部位との間の静電相互作用および疎水性相互作用を通して細菌の表面に結合するはずであると考えられる。感受性のグラム陰性細菌において、BPI結合が、LPS構造を崩壊し、リン脂質およびペプチドグリカンを分解する細菌の酵素の活性化を導き、細胞の外膜の透過性を変化し、そして最終的に細胞死を導く事象を開始すると考えられる[ElsbachおよびWeiss(1992)、(前出)]。LPSが刺激する強力な炎症性応答(すなわち、最終的に不可逆な内毒素ショックを生じ得る、宿主炎症性細胞による媒介物質の放出)に起因して、LPSは、「内毒素」といわれてきた。BPIは、LPSの最も毒性でかつ最も生物学的に活性な成分であると報告されるリピドAに結合する。
【0011】
BPIタンパク質産物は、広範な種々の有益な活性を有する。BPIタンパク質産物は、米国特許第5,198,541号および同第5,523,288号(この両方は、本明細書中で参考として援用される)において記載されるようにグラム陰性細菌に対して殺菌性である。国際公開番号WO94/20130(本明細書中で参考として援用される)は、グラム陰性細菌属Helicobacter由来の種による感染(例えば、胃腸の感染)に罹患している被験体をBPIタンパク質産物を用いて処置するための方法を提案する。BPIタンパク質産物はまた、米国特許第5,523,288号および国際公開番号WO95/08344(PCT/US94/11255)(本明細書中で参考として援用される)に記載されるように、グラム陰性細菌感染における抗体療法の有効性を強化する。BPIタンパク質産物はまた、グラム陽性細菌およびマイコプラズマに対して殺菌性であり、そして米国特許第5,578,572号および同第5,783,561号ならびに国際公開番号WO95/19180(PCT/US95/00656)(本明細書中で参考として援用される)において記載されたように、グラム陽性細菌の感染における抗生物質の有効性を強化する。BPIタンパク質産物は、米国特許第5,627,153号および国際公開番号WO95/19179(PCT/US95/00498)において記載されるように、そしてさらに米国特許第5,858,974号(これは、1994年7月20日に出願された米国出願第08/504,841号、ならびに対応する国際公開番号WO96/08509(PCT/US95/09262)および同WO97/04008(PCT/US96/03845)の一部継続出願である)において抗真菌ペプチドについて記載されるように、抗真菌活性を示し、そして他の抗真菌剤の活性を強化する(これらは全て、本明細書中に参考として援用される)。BPIタンパク質産物は、米国特許第5,646,114号および国際公開番号WO96/01647(PCT/US95/08624)(本明細書中で参考として援用される)に記載されるように、抗原生生物活性を示す。BPIタンパク質産物は、1996年8月9日に出願された共有に係る同時係属中の米国出願第08/694,843号およびWO 98/06415(PCT/US97/13810)(本明細書中で参考として援用される)において記載されるように、抗クラミジア活性を示す。最後に、BPIタンパク質産物は、1996年4月1日に出願された共有に係る同時係属中の米国出願第08/626,646号(これは、1994年8月14日に出願された米国出願第08/285,803号の一部継続出願であり、これは、1993年3月12日に出願された米国出願第08/031,145号および対応の国際出願 WO94/20129(PCT/US94/02463)の一部継続出願である)(これら全ては、本明細書中で参考として援用される)に記載されるように抗マイコバクテリア活性を示す。
【0012】
TNF、IL−6および内毒素に対する効果を含む循環中の内毒素を有するヒトにおけるBPIタンパク質産物の効果は、米国特許第5,643,875号(これは、本明細書中で参考として援用される)に記載される。
【0013】
BPIタンパク質産物はまた、特定の疾患状態(例えば、ヒトにおける髄膜炎菌血症(1996年5月10日に出願された共有に係る同時係属中の米国出願第08/644,287号、ならびに1997年9月10日に出願された継続米国出願第08/927,437号および国際公開番号WO97/42966(PCT/US97/08016)(これらの全ては、本明細書中で参考として援用される)に記載されるように)、ヒトにおける出血性外傷(米国特許第5,756,464号、1997年5月23日に出願された米国出願第08/862,785号および対応する国際公開番号WO97/44056(PCT/US97/08941)(これらの全ては、本明細書中で参考として援用される)に記載されるように)、火傷(米国特許第5,494,896号(これは、本明細書中で参考として援用される)に記載されるように)、虚血/再灌流障害(米国特許第5,578,568号(本明細書中に参考として援用される)に記載されるように)および肝臓切除(1996年1月3日に出願された共有に係る同時係属中である米国出願第08/582,230号(これは、1994年10月5日に出願された米国出願第08/318,357号の継続出願であり、これは、1993年10月5日に出願された米国出願第08/132,510号および対応する国際公開番号WO95/10297(PCT/US94/11404)の一部係属出願である)(これらの全ては、本明細書中で参考として援用される)に記載されるように)の処置に対して有用である。
【0014】
BPIタンパク質産物はまた、米国特許第5,348,942号(本明細書中で参考として援用される)に記載されるように、外因性ヘパリンの抗凝固活性を中和して、そして米国特許第5,639,727号、同第5,807,818号および同第5,837,678号および国際公開番号WO94/20128(PCT/US94/02401)(これらの全ては、本明細書中で参考として援用される)に記載されるように、慢性炎症疾患(例えば、慢性関節リウマチおよび反応性関節炎)を処置するため、ならびに新脈管形成を阻害するため、ならびに新脈管形成関連障害(悪性腫瘍、眼網膜症および子宮内膜症を含む)を処置するために有用である。
【0015】
BPIタンパク質産物はまた、米国特許第5,741,779号ならびに1998年4月20日に出願された米国出願第09/063,465号および対応する国際公開番号WO97/42967(PCT/US7/08017)(これらの全ては、本明細書中で参考として援用される)に記載されるように、アンチトロンビン法において有用である。
【非特許文献1】Riddington DW、ら、JAMA 1996;275:1007−1012
【非特許文献2】Wan S、ら、Chest 1997;112:676−692
【非特許文献3】Nilsson L,J Thorac Cardiovasc Surg 1990;100:777−780
【非特許文献4】Casey WF,Crit.Care Med.1992;20(8):1090−1096
【非特許文献5】Khabar KS,ら、Clin Immunol Immunopathol 1997;85:97−103
【非特許文献6】Jansen NJ,Ann Thorac Surg 1992;54:744−747
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の要旨)
本発明は、例えば以下の手段を提供する。
(項目1) 慢性心臓疾患を有するヒトを処置する方法であって、治療的有効量の殺菌性/透過性増大(BPI)タンパク質産物をそのヒトに投与する工程を包含する、方法。
(項目2) 上記BPIタンパク質産物がrBPI21である、項目1に記載の方法。
(項目3) 上記慢性心臓疾患が慢性うっ血性心不全である、項目1に記載の方法。
(項目4) 上記慢性心臓疾患が心筋症である、項目1に記載の方法。
(項目5) 上記慢性心臓疾患が先天性心臓欠損症である、項目1に記載の方法。
(項目6) 上記ヒトが、循環中のLPSのレベルの上昇を示す、項目1に記載の方法。
(項目7) 上記ヒトが、循環中のLBPのレベルの上昇を示す、項目1に記載の方法。
(項目8) 上記ヒトが、循環中のLPSおよび循環中のLBPのレベルの上昇を示す、項目1に記載の方法。
(項目9) 上記慢性心臓疾患状態を処置するために第2の治療剤を、同時に投与する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目10) 上記慢性心臓疾患状態が、慢性うっ血性心不全であり、そして上記第2の治療剤が、利尿剤、陽性強心剤、血管拡張剤、およびβ遮断剤からなる群より選択される、項目9に記載の方法。
(項目11) 慢性心臓疾患状態の処置のための医薬の製造のための、BPIタンパク質産物の使用。
(項目12) 上記慢性心臓疾患が慢性うっ血性心不全である、項目11に記載の使用。
(項目13) 上記慢性心臓疾患が心筋症である、項目11に記載の使用。
(項目14) 上記慢性心臓疾患が先天性心臓欠損症である、項目11に記載の使用。
(項目15) ヒトが循環中のLPSおよび循環中のLBPのレベルの上昇を示す、項目11に記載の使用。
(項目16) 慢性心臓疾患状態に罹患するヒトを処置するための医薬の調製のためのBPIタンパク質産物の使用であって、そのヒトが循環中のLPSのレベルの上昇を示す、使用。
(項目17) 慢性心臓疾患状態に罹患するヒトを処置するために医薬の調製のためのBPIタンパク質産物の使用であって、そのヒトが循環中のLBPのレベルの上昇を示す、使用。
(項目18) 慢性心臓疾患状態に罹患するヒトを処置するために医薬の調製のためのBPIタンパク質産物の使用であって、そのヒトが循環中のLPSおよび循環中のLBPのレベルの上昇を示す、使用。
(項目19) 慢性心臓疾患状態を処置するために別の治療剤とともに同時に投与するための医薬の調製のための、BPIタンパク質産物の使用。
【0017】
本発明は、慢性心臓疾患を有する被験体の処置を含むBPIタンパク質産物についての新規の治療用途を提供する。本発明に従うBPIタンパク質産物の使用は、ヒトにおける慢性心臓疾患の状態または状況、特に(血漿または血清において)循環中のLPSおよび循環中のLBPのレベルの上昇を示す慢性心臓疾患を有するヒトの予防処置または治療処置のために特に考慮される。慢性心臓疾患の状態または状況としては、心筋症、慢性うっ血性心不全、および先天性心臓疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書中で使用される場合、慢性うっ血性心不全は、長期間のうっ血性心不全(すなわち、2週間より長く、または3週間より長く、または1ヶ月より長く、または2ヶ月より長く、または3ヶ月より長く持続するうっ血性心不全)、可逆性の原因の矯正後に持続するうっ血性心不全、および急性心筋梗塞または急性の感染プロセスに直接関連しないうっ血性心不全が挙げられる。
【0019】
うっ血性心不全またはチアノーゼ性心臓疾患を生じ得る先天性心臓疾患としては、肺動脈弁閉鎖症、総異常肺静脈還流(total anomalous pulmonary venous return)、心室中隔欠損症、左心室発育不全症候群、両大血管右室起始症、右肺動脈狭窄、断続性大動脈弓(interrupted aortic arch)、エブスタイン奇形、ファロー四徴症、房室管、大動脈および総動脈幹の転位症が挙げられる。
【0020】
BPIタンパク質産物の投与は、慢性心臓疾患状態を処置するための他の公知の治療剤の同時投与を伴ない得ることが考慮される。例えば、うっ血性心不全を処置するための当該分野において公知である薬剤としては、利尿剤(チアジド(例えば、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジドおよびメトラゾン)、ループ利尿剤(例えば、エタクリン酸、フロセミド、トルセミドおよびブメタニド)、ならびにそれらの同属種)、カリウム保持性剤(例えば、スピノロラクトン、カンレノン(canrenone)、トリアムテレンおよびアミロライド)ならびに他の利尿剤(例えば、メトラゾンおよび他のキナゾリンスルホンアミド)を含む)、血管拡張剤(ニトロ血管拡張剤(例えば、ニトログリセリン、イソソルビドジニトレート、およびニトロプルシドナトリウム)、ヒドララジン、プロスタサイクリン、ACEインヒビター(例えば、カプトプリル、エナラプリル、リジノプリル、キナプリルおよびラミプリル(ramipril))およびアンギオテンシンIIアンタゴニスト(例えば、ロオサルタン)を含む)、陽性強心剤(例えば、強心配糖体(ジギタリスまたはジゴキシンを含む)、ホスホジエステラーゼインヒビター(例えば、短期間の支持のために主に有用である、アムリノンおよびミルリノン)、時々βアドレナリン作用性レセプターアンタゴニスト(β遮断剤(例えば、プロパノロール、メトプロロール、アテノロール、ピンドロール、アセブトロール、ラベタロール、カルベディロールおよびセリプロロール))またはこれらの処置の組み合わせが挙げられる(例えば、本明細書中で参考として援用されるGoodmanおよびGilman,第34章、The Pharmacological Basis of Therapeutics,McGraw Hill,New York(1996)を参照のこと)。
【0021】
本発明はまた、慢性心臓疾患状態の予防処置または治療処置のための医薬の調製におけるBPIタンパク質産物の使用を考慮する。
【0022】
多くのさらなる局面および本発明の利点は、本発明の現在の好ましい実施形態を記載する、以下の本発明の詳細な説明の考慮して当業者に明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、慢性心臓疾患の処置を含むBPIタンパク質産物、特にBPI由来ペプチドに関する新規の治療用途を提供する。本明細書中で用いられる場合、「処置」は、予防処置および治療処置の両方を包含する。本発明は、慢性心臓疾患に罹患する被験体の処置のための方法を考慮し、この方法は、内毒素血症のネガティブな生理学的効果を緩和するために、これらの患者への治療的有効量の殺菌性/透過性増大(BPI)タンパク質のタンパク質産物の投与を包含する。
【0024】
本発明は、慢性心臓疾患に罹患する被験体の実質的な割合が、手術の前の慢性心臓疾患に関連する内毒素血症の証拠を示すという発見、およびこの内毒素血症が、これらの被験体に対するより思わしくない予後に相関があるという発見に基づく。従って、本発明の1つの基礎は、内毒素血症が、慢性心臓疾患の単なる副作用ではなく、慢性心臓疾患の病理に有意に寄与する因子であるという予測である。
【0025】
BPIタンパク質産物の治療的用途は、心筋梗塞、出血からの循環虚脱などのような急性心臓疾患状態とは区別されるような慢性心臓疾患に罹患するヒトを含む哺乳動物の処置を特に考慮する。
【0026】
本発明の別の局面は、心肺バイパス中および心肺バイパス後の内毒素血症の重篤性が、外科手術後のより思わしくない結果と相関することに基づく、心肺バイパスを受ける患者の処置である。従って、BPIタンパク質産物での処置は、外科手術後の結果を改善することが推測される。
【0027】
本明細書中で用いる場合「BPIタンパク質産物」としては、天然に、および組換え的に産生されたBPIタンパク質;BPIタンパク質の、天然の、合成の、および組換えの生物学的に活性であるポリペプチドフラグメント;ハイブリッド融合タンパク質およびダイマーを含む、BPIタンパク質またはそのフラグメントの生物学的に活性なポリペプチド改変体;システイン置換アナログを含む、BPIタンパク質またはそのフラグメントもしくは改変体の生物学的に活性なポリペプチドアナログ;ならびにBPI由来ペプチドが挙げられる。本発明に従う投与されるBPIタンパク質産物は、当該分野において公知の任意の手段により生成および/または単離され得る。米国特許第5,198,541号(その開示は、本明細書中で参考として援用される)は、組換えBPIホロタンパク質(rBPIといわれる)およびBPIの組換えフラグメントを含むBPIタンパク質をコードする組換え遺伝子およびそれらの発現方法を開示する。米国特許第5,439,807号および対応する国際公開番号WO93/23540(PCT/US93/04752)(全て本明細書中で参考として援用される)は、培養物中で遺伝的に形質転換された哺乳動物宿主細胞内で発現され、そしてこれらの細胞から分泌された組換えBPIタンパク質産物の精製のための新規の方法を開示し、そして安定で均一な薬学的調製物に組み込むために適切な大量の組換えBPI産物を産生し得る方法を開示する。
【0028】
BPIの生物学的に活性なフラグメント(BPIフラグメント)は、ホロタンパク質のアミノ末端アミノ酸、内部アミノ酸、および/またはカルボキシ末端アミノ酸を欠失するフラグメント分子を除いて、天然ヒトBPIホロタンパク質と同一かまたは同類のアミノ酸配列を有する生物学的に活性な分子を含む。このようなフラグメントの非限定的な例としては、Ooiら、J.Exp.Med.,174:649(1991)に記載される、約25kDの天然ヒトBPIのN末端フラグメントおよびGazzano−Santoroら、Infect.Immun.60:4754−4761(1992)に記載される天然ヒトBPIのN末端アミノ酸1〜ほぼ193から199をコードするDNAの組換え発現産物(rBPI23といわれる)が挙げられる。この刊行物において、発現ベクターは、151位のバリンがGTCではなくGTGにより特定され、そして残基185がリシン(AAGにより特定される)ではなくグルタミン酸(GAGにより特定される)であることを除いて、Grayら(前出)の図1に記載されたような、成熟ヒトBPIのN末端の31残基シグナル配列および最初の199アミノ酸を有する組換え発現産物(rBPI23)をコードするDNAの供給源として用いられた。rBPI23について記載された例外および残基417が、バリン(GTTにより特定される)ではなくアラニン(GCTにより特定される)であるという例外を有する、Grayら(前出)の図1に記載された配列(配列番号1および2)を有する、組換えホロタンパク質(rBPI)もまた産生された。BPIの残基10〜193からなるフラグメントは、1998年6月19日に出願された共有に係る同時係属中の米国出願第09/099,725号(本明細書中で参考として援用される)に記載されている。他の例としては、米国特許第5,447,913号および対応する国際公開番号WO95/24209(PCT/US95/03125)(これらの全ては、本明細書中で参考として援用される)に記載されるような、BPIフラグメントの二量体形態が挙げられる。
【0029】
BPIの生物学的に活性な改変体(BPI改変体)としては、組換えハイブリッド融合タンパク質(BPIホロタンパク質またはその生物学的に活性なフラグメント、および少なくとも1つの他のポリペプチドの少なくとも一部分を含有する)ならびにBPI改変体の二量体形態が挙げられるがこれらに限定されない。このようなハイブリッド融合タンパク質および二量体形態の例は、米国特許第5,643,570号および対応する国際公開番号WO93/23434(PCT/US93/04754)(これらは全て、本明細書中で参考として援用される)に記載され、そして、アミノ末端にBPIタンパク質またはその生物学的に活性なフラグメントを含有し、かつカルボキシ末端に免疫グロブリン重鎖またはその対立遺伝子改変体の少なくとも1つの定常ドメインを含有する、ハイブリッド融合タンパク質を含む。
【0030】
BPIの生物学的に活性なアナログ(BPIアナログ)としては、1つ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸で置換されたBPIタンパク質産物が挙げられるがこれに限定されない。例えば、米国特許第5,420,019号および対応する国際公開番号WO94/18323(PCT/US94/01235)(これらは全て、本明細書中で参考として援用される)は、システイン残基が異なるアミノ酸で置換された、BPIのポリペプチドアナログおよびBPIフラグメントを開示する。本出願によって記載される安定なBPIタンパク質産物は、BPIホロタンパク質のN末端アミノ酸のアミノ酸1からほぼ193または199までをコードするDNAの発現産物であるが、ここで残基番号132のシステインがアラニンで置換されており、そしてrBPI21ΔcysまたはrBPI21と称される。BPIのこのN末端アナログ(rBPI21)の産生は、Horwitzら、Protein Expression Purification,8:28〜40(1996)に記載された。同様に、132位のシステインがアラニンで置換された、BPIの残基10〜193からなるフラグメント(「rBPI(10〜193)C132A」または「rBPI(10〜193)ala132」と称される)が、1998年6月19日に出願された、共有に係る、同時係属中の米国出願第09/099,725号に記載された。他の例としては、BPIアナログの二量体形態;例えば、米国特許第5,447,913号および対応する国際出願番号WO95/24209(PCT/US95/03125)(これらの全ては、本明細書中で参考として援用される)が挙げられる。
【0031】
本発明の方法に従って有用な他のBPIタンパク質産物は、以下に記載されるような合成手段または組換え手段によって産生された、BPI由来かまたはBPIに基づいたペプチド(BPI誘導ペプチド)である:1996年3月21日に出願された米国出願第08/621,259号に対応する国際公開番号WO97/04008(PCT/US96/03845)、および米国特許第5,858,974号に対応する国際公開番号WO96/08509(PCT/US95/09262)、および米国特許第5,652,332号に対応する国際公開番号WO95/19372(PCT/US94/10427)、および米国特許第5,733,872号(1994年1月14日に出願された米国出願第08/183,222号の一部継続出願であり、これはまた1993年7月15日に出願された米国出願第08/093,202号(国際公開番号WO94/20128(PCT/US94/02401)に対応する)の一部継続出願であり、これはまた米国特許第5,348,942号の一部継続出願である)の継続出願である、米国特許第5,763,567号に対応する国際公開番号WO94/20532(PCT/US94/02465)、ならびに米国特許第5,851,802号に対応する国際出願番号PCT/US97/05287(これら全ての開示は、本明細書中で参考として援用される)。
【0032】
現在、好ましいBPIタンパク質産物としては、組換えによって産生される、BPIのN末端アナログおよびフラグメント、特に約20から25kDの分子量を有するもの(例えば、rBPI21またはrBPI23、rBPI(10〜193)C132A(rBPI(10〜193)ala132))、これらN末端タンパク質の二量体形態(例えば、BPI42二量体)、およびBPI誘導タンパク質が挙げられる。
【0033】
BPIタンパク質産物の投与は、好ましくは、BPIタンパク質産物および薬学的に受容可能な、希釈剤、アジュバンド、またはキャリアを含有する薬学的組成物を用いて達成される。このBPIタンパク質産物は、公知の界面活性剤または他の治療剤を、伴わずにかまたはそれらと組み合わせて、投与され得る。BPIタンパク質産物(例えば、rBPI23)を含む安定な薬学的組成物は、そのBPIタンパク質産物を、0.1重量%のポロキサマー188(Pluronic
F−68、BASF Wyandotte、Parsippany、NJ)および0.002重量%のポリソルベート80(Tween80、ICI Americas Inc.、Wilmington、DE)を含有するクエン酸緩衝化生理食塩水(5mMまたは20mM クエン酸、150mM NaCl、pH5.0)中に、1mg/mlの濃度で含有する。BPIタンパク質産物(例えば、rBPI21)を含む別の安定な薬学的組成物は、そのBPIタンパク質産物を、5mM クエン酸塩、150mM NaCl、0.2% ポロキサマー188、および0.002%ポリソルベート80中に2mg/mlの濃度で含有する。このような好ましい組み合わせは、米国特許第5,488,034号および同第5,696,090号、ならびに対応する国際公開番号WO94/17819(PCT/US94/01239)に記載され、これら全ての開示は、本明細書中で参考として援用される。1996年1月12日に出願された米国出願第08/586,133号(1995年9月19日に出願された米国出願第08/530,599号の一部継続出願であり、これはまた、1995年1月13日に出願された米国出願第08/372,104号の一部継続出願である)、および対応する国際公開番号WO96/21436(PCT/US96/01095)に記載されるように(これらの全ては、本明細書中において参考として援用される)、増加した活性を有するBPIタンパク質産物の他のポロキサマー処方物が利用され得る。
【0034】
BPIタンパク質産物を含有する治療組成物は、全身にかまたは局所に投与され得る。全身の投与の経路としては、経口、静脈内、筋肉内、または皮下注射(長期放出のための蓄積注射を含む)、眼内および眼球後、鞘内、腹腔内(例えば、腹腔内洗浄による)、肺内(粉末薬剤、あるいはエーロゾル適用されたかまたは霧状にされた薬物溶液を用いて)あるいは経皮の経路が挙げられる。
【0035】
非経口で与えられる場合、BPIタンパク質産物組成物は、一般に1日当たり1μg/kg〜100mg/kgの範囲の用量で、好ましくは1日当たり0.1mg/kg〜20mg/kgの範囲の用量で、より好ましくは1mg/kg/日〜20mg/kg/日の範囲の用量で、そして最も好ましくは2〜10mg/kg/日の範囲の用量で注入される。この処置は、1日当たり同じかまたは増減された用量での、例えば1〜3日間、そして術者によって決定されるようにさらに、継続的な注入あるいは断続的な注射または注入によって、継続し得る。静脈内に投与される場合、BPIタンパク質産物は、好ましくは、最初の手短な注入に続く継続的な注入によって投与される。好ましい静脈内の処方計画は、1〜20mg/kgのBPIタンパク質産物の手短な静脈内注入に続く1〜20mg/kg/日の用量での継続的な静脈内注入(1週間までの間、継続する)である。特に好ましい静脈内の投薬上レジメンは、1〜4mg/kgの最初の手短な静脈内注入に続く1〜4mg/kg/日の用量での継続的な静脈内注入(72時間までの間、継続する)である。
【0036】
当業者は、優れた医療行為および個々の患者の臨床症状によって決定されるような、BPIタンパク質産物を含有する治療組成物についての有効な投薬量および投与レジメンを、容易に最適化し得る。
【0037】
「即時投与」または「同時投与」は、本明細書中で使用される場合、共にもしくは組み合わせて、一緒に、または互いに前後して、薬剤を投与することを含む。このBPIタンパク質産物および第2薬剤は、異なる経路により投与され得る。例えば、第2薬剤が、静脈内で、筋肉内で、皮下で、経口で、または腹腔内で投与される一方で、このBPIタンパク質産物は、静脈内で投与され得る。このBPIタンパク質産物および第2薬剤は、同じ静脈内ラインで連続的に与えられ得るし、または異なる静脈内ラインで与えられ得る。あるいは、第2薬剤が、例えば経口で投与される一方、このBPIタンパク質産物は、胃内送達のための特別な形態で投与され得る。処方されたBPIタンパク質産物および第2薬剤は、全ての薬剤が作用の部位で有効な濃度を達成することを可能にするために十分な様式でそれらが与えられる限り、同時にでもまたは連続的にでも投与され得る。
【0038】
本発明の他の局面および利点は、以下の例示的実施例を考慮して理解される。実施例1は、複雑な慢性心臓疾患を有する30人の小児が、心肺バイパス手術の前ならびに1、8、24、48および72時間後に、内毒血症の指標について試験された研究について述べる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
University of Texas Southwestern Medical CenterのInstitutional Review Boardによって認可された実験的なプロトコルは、無目的ではない見込みのある研究であって、ここで、重篤な先天性心臓疾患を有する30人の小児が、外科的な修復および/または緩和を待つ間、続けて登録された。左心室発育不全症候群の1人の患者は、手術中に死亡した。従って、この小児に関するデータは、手術前の分析でのデータのみ含まれる。術前感染の臨床徴候を有する患者は、本研究から除外した。
【0040】
登録された30人の小児は、年齢は4日〜402日(年齢の中央値:59日)の範囲であり、そして体重は2.0〜9.5kg(体重の中央値:4.0kg)の範囲であった。性別、年齢、心臓の診断、および外科的修復が以下の表1に列挙される。
【0041】
【表1】

セボフルラン、亜酸化窒素、および酸素を用いて、麻酔を誘導し;静脈内ロクロニウム(rocuronium)およびフェンタニールを用いて、挿管を容易にした。フェンタニール(30〜50mcg/kg)、イソフルラン、およびパンクロニウムを用いて、麻酔を維持した。9人の患者にトラネキサム酸(50〜100mg/kg)を投与し、そして3人にアプロチニンを投与した(全血量に対して350ユニット/mLを達成するように投与された)。
【0042】
心肺バイパスは、以下のように行った。体外回路は、ローラーポンプ、膜酸素付加器、および心臓切開フィルターから構成された。心肺バイパスの設定前に、患者の血液をヘパリン(300ユニット/kg)を用いて抗凝固化した。手術の完了のために、13人の患者に、身体深部の低体温循環停止(hypothermic circulatory arrest)(中心温度:16〜18℃)を行い、そして残りの患者は、25〜30℃の中心温度まで冷却した。心肺バイパスの完了前に、過剰な遊離水を除去し、そしてヘモグロビン>12gm/dLを達成する試みで、全ての患者に対して血液濾過を行った。
【0043】
LPS、LBP、およびIL−6の決定のための血液サンプルを、術前ならびに心肺バイパスの完了の1、8、24、48および72時間後に得た。麻酔誘導および気管内挿管の直後に、新しく配置された中心静脈カテーテルから術前サンプルを得た。内毒素レベルの決定のために、研究者は、血液サンプルを、低い内毒素含有量について選択した(BioWhitaker、Walkersville、MD)、ヘパリン化したVacutainerTM管(Becton−Dickson、Rutherford NJ)に集め、即座に氷の上に置き、そして実験室まで持ち運んだ。血小板の豊富な血漿を、遠心分離(180xg、10分、2〜8℃)によって得た。サンプルを、アッセイまで−70℃で保存した。
【0044】
LPSアッセイ、LBPアッセイ、およびIL−6アッセイを盲検様式で行った。血小板の豊富な血漿におけるLPSのレベルを、動的色素形式リムルス血球溶解産物アッセイ(Endochrome−KTM、Endosafe、Charleston、SC)を、その製造業者取扱説明書に従って使用して決定した。LPS濃度を、E.coli O55:B5コントロール標準内毒素に対する、1ml当たりの内毒素単位(EU)で表す。LBPレベルを、Meszaros
Sら、Infect.Immun.1995;63:363〜365に記載されるようにELISAによって決定した。IL−6を、サンドイッチELISA(R&D Systems、Minneapolis)を使用して測定した。
【0045】
重篤な(より重篤でない、に対する)術後の経過を、予測によって定めた。術後の心筋機能障害の重篤度を、Wernovskyら、Circulation
1995;92:2226〜2235によって使用される尺度の適応に従って評価した。特に、変力性支持スコアを以下のように計算した:各1.0mcg/kg/分のドパミンまたはドブタミンおよび各0.01mcg/kg/分のエピネフリンが、スコア1を与えた。最初の24時間での40cc/kgより大きい正の正味流体バランス、および12より大きい変力性支持スコアを有するか、または手術時の死を伴う小児は、重篤な臨床経過を有すると考えた。疾患の術後の重篤度を、LPS値、LBP値、またはIL−6値の認識の前に、スコア化した。
【0046】
全ての統計的分析を、Statistical Package for the Social Science(SPSS)で行った。術後、LPS、LBP、またはIL−6における有意な上昇が生じたか否か決定するために、非パラメトリックデータについてのウィルコクソン符号付き順位検定を行った。より重篤でない臨床経過を有した患者と比較して、より重篤な臨床経過を有した患者との間で、LPS濃度またはLBP濃度に有意な差があったか否かを決定するために、非パラメトリックデータについてのマン−ホイットニー検定を行った。
【0047】
30人の患者のうち29人(96%)が、上昇したLPSの検出によって直接にか、または上昇したLBP血漿レベル(健常な成人の平均値より、2標準偏差より上)の検出によってかのいずれかで、本研究期間中に内毒血症の徴候を有した。全ての患者に関するLPS、LBP、およびIL−6のレベルを図1A、図2、および図3に示す。図1Aは、本研究のプロトコルを完了した、全ての小児からのデータを示し、全ての時点で上昇したLPSを明示している。術前LPSレベルと術後LPSレベルとの間の差異は、統計的に有意ではない。内毒素動力学をより良く説明するために、本発明者らは、患者を2つのグループ:心肺バイパスの前に内毒血症であったグループ、および心肺バイパス(CPB)の前に内毒血症でなかったグループに分けた。これら2つのグループについてのレベルを、それぞれ図1Bおよび図1Cに示す。
【0048】
CPBの前に、12人の患者は血漿内毒素の有意な上昇を有した。これらの患者において、内毒素は、おそらく血液希釈/部分的な交換輸血に起因して、心肺バイパスの完成後に減少する傾向にあったが(図1B);内毒素レベルは、本研究期間を通して異常に上昇したままであった。術前の内毒血症を有さない小児においては、血漿内毒素のレベルがバイパス後に有意に上昇し、バイパスの1時間後で最大値を達成し、そしてその後、有意に上昇したままであった(p<0.0001)(図1C)。
【0049】
心肺バイパスおよび血液濾過の完了直後に、血漿LBPに、瞬間的ではあるが有意な減少があった。術前のレベルと比較して、心肺バイパス後1時間での血漿LBPの減少は、統計的に有意であり(p<0.0001)、そしてその後の全ての時点でのLBPの増加はまた、非常に一貫性で、かつ統計的に有意であった(p<0.0001)。このLBPの上昇は、術前に内毒血症であった患者および術前に内毒血症でなかった患者について類似していた。同様に、術前のレベルと比較して、CPB後の全ての時点で、IL−6に有意な上昇があった(p<0.05)(図3)。
【0050】
最後に、術前のLPSレベルおよびLBPレベルを比較した場合に、予測によって定められた、より重篤な臨床経過を経験した小児が、より重篤でない患者と異なり得るか否かを決定した。この比較において、より重篤に病気の小児は、より重篤でない術後経過を経験した患者と比較して、有意に高い術前の血漿LBP(p<0.02)を有し(図4A)、そして高い術前のLPS(p<0.05)を有する傾向があった(図4B)。さらに、手術の前に内毒血症であった12人の患者のうち3人が死亡し(25%)、一方、手術の前に内毒血症でなかった18人の患者に死亡者はなかった(p=0.054)。
【0051】
手術時の内毒血症の基礎となる生物学は、術前に内毒血症であったかまたは内毒血症でなかった患者を区別することによって明らかにされる。術前に内毒血症であった患者において、内毒素レベルは、心肺バイパス後、最初に低下するが、本研究期間を通して異常に上昇したままであった。この最初の減少は、乳児の小さな血量を考慮すると、心肺バイパスの希釈効果に不随したのかもしれないし、またはことによると、心肺バイパス完了前の血液濾過による内毒素の除去に起因したのかもしれない。Millar AB、Ann Thorac Surg 1993;56:1499〜1502。術前に内毒血症であったこれらの患者が、術前に内毒血症でなかった患者と比較して、内毒素の除去のための機構を誘導しそして高めたかもしれない、ということもまたあり得る。Dentener MAら、Journal of Infectious Diseases 1997;175:108〜117、Dentener MA、Journal of Infectious Diseases 1995;171:739〜743;およびGazzano−Santoroら、Infect.Immunol.1994;62、No4:1185〜1191。
【0052】
対照的に、術前に内毒血症でなかった患者は、心肺バイパスの1時間後および8時間後で血漿内毒素の有意な上昇を明示した。心肺バイパス中の内毒血症を説明するために、多くの要素が引き合いに出されてきた。まず、内毒素の多くの供給源があり、これには、対外回路、注入溶液、薬物、および外科材料が挙げられる。より重要なことに、成人の患者においては、心肺バイパス中に腸管の浸透性の増加が証明されており、このことは、細菌のトランスロケーションおよび内毒素の循環への放出を可能にする。バイパス前に腸管の細菌荷重を減少させるように、腸の灌流および積極的な抗生物質レジメンを改良するための、バイパス中の拍動性灌流またはより高い流量といった手段は、より低い血漿LPSレベルを生じた。Watarida Sら、J Thorac Cardiovasc Surg 1994;108:620〜625;およびQuigley RLら、Perfusion 1995;10:27〜31。
【0053】
慢性心臓疾患を有する小児の実質的な部分の、術前のLPSレベルおよびLBPレベルの上昇の発見は、内毒血症が慢性心臓疾患自体と関連があることを示す。結果の重篤度が、LPSレベルおよびLBPレベルの上昇によって測定されるような内毒血症と関連するという発見は、内毒血症の測定を用いて、予後を予測し得ることを示す。結果として、BPIタンパク質産物を用いる内毒血症の処置は、慢性心臓疾患の徴候および症状を改善し、そしてこれらの患者の予後を改良することが期待される。
【0054】
当業者にとって、上記した本発明に対して多くの改変および変更が生じることが予期される。従って、本発明には、添付された特許請求の範囲において現れるような制限のみが課されるべきである。

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】図1Aは、研究プロトコルを完了する全ての患者に対する血漿LPSレベルを示す(n=29)。
【図1B】図1Bは、手術前に内毒素血症を有する患者からのデータを示す(n=11)。
【図1C】図1Cは、手術前に内毒素血症を有さない患者からのデータを示す(n=18)。
【図2】図2は、研究プロトコルを完了する全ての患者からの血漿LBPレベルを示す(n=29)。
【図3】図3は、研究プロトコルを完了する全ての患者からの血漿IL−6レベルを示す(n=29)。
【図4A】図4Aは、重篤な手術後の臨床経過を有する患者中の手術前の血漿LBPレベル(n=15)対それほど重篤でない手術後の臨床経過を有する患者中の血漿LBPレベル(n=15)を示す。
【図4B】図4Bは、重篤な手術後の臨床経過を有する患者中の手術前の血漿LPSレベル(n=15)対それほど重篤でない手術後の臨床経過を有する患者中の血漿LPSレベル(n=15)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性心臓疾患を有するヒトを処置する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2007−126479(P2007−126479A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10878(P2007−10878)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【分割の表示】特願2000−594481(P2000−594481)の分割
【原出願日】平成12年1月21日(2000.1.21)
【出願人】(500570793)ゾーマ テクノロジー リミテッド (26)
【出願人】(591217403)ボード オブ リージェンツ, ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム (49)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【Fターム(参考)】